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外国人留学生労働者のエスノグラフィー:Z居酒屋の参与観察を通じて

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外国人留学生労働者のエスノグラフィー:

Z 居酒屋の参与観察を通じて

The Ethnography of International Student Labor: Through the Participant

Observation at Z Izakaya

朴 知遠

Jiwon PAK

This study is a result of an analysis of data collected by participatory observation of international student labor at a Japanese pub (izakaya Z) located in downtown Tokyo between October 1 and November 31, 2017. The purpose of this study is to figure out why working places with poor condi-tions in the downtown area hire international students as their part-time workers, how they work under harsh working environment. The observation showed that international student part-time workers, especially those who receive almost no money from their home countries, need a certain level of fixed income every month to live in Japan, and izakaya Z satisfied their desired income by offering working hour assurance system. In other words, the stability of income and relatively bad working conditions are exchanged. International student part-time workers deliberately slow down their working speed to resist discrimination in the workplace, pretending not to be able to understand Japanese. While emphasizing the spirit of hospitality, the Japanese manager at izakaya Z forced international student part-time workers to aware of the process of work by themselves without a detailed explanation, complaining that the workers would ignore his instruction if they are too fluent in speaking Japanese. Behind this situation, there was a structural labor shortage problem which makes service industry companies hire international student labor.

1.はじめに

 近年、サービス職での人手不足を埋めるために留学生労働者(1)がパートタイマーとして雇われる ことが増えるようになった。それにあわせて様々な社会問題が生じている。文部科学省は平成 20 年 度から 「グローバル戦略」を展開する一環として 2020 年まで外国人留学生の数を 30 万人まで増やす 計画を発表した。しかし、留学生達の多くは出稼ぎ目的で来日していると報道されている(出井  2016)。留学生は学生でありながら資格外活動許可によって日本でのパートタイム就労活動、すなわ ち非正規パートタイマーとして働くことを容認されている。つまり潜在的に安価な労働力として労働 市場に参入する可能性が高い。  独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の『平成 29 年度私費外国人留学生生活実態調査概要」 によると、調査対象のうち約 7 割以上(75.8%)の学生がパートタイム仕事(いわゆるアルバイト) に従事し、そのうち 4 割以上(41.9%)が飲食店で働いている。しかし、このような留学生の在学中 就労活動について詳細に分析している研究は他の外国人労働者対象の研究、たとえば技能実習生に関

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する研究などに比べてまだ十分でない。  外国人労働者全般に関しての最近の研究では津崎(2018)が外食とコンビニ業界で働いている外国 人留学生の問題を扱っている。しかし統計中心の概括的なまとめであり、留学生の現場での具体的な 働き方に関しては確認できない。西日本新聞社(2017)も同様に留学生の労働を扱っているが、同書 の主な焦点は技能実習生などであり、留学生に関する記述はわずかである。  既に数多くの留学生が低賃金、単純労働力としてサービス産業内の様々なセクターで活用されてい るにも関わらず、彼らに関する研究は主に彼らの卒業以後の就労状況、すなわち在留資格「就労」を 取得し、日本に定住する過程に着目している。例えば 大宮(2015)は既に日本の高等教育機関を卒 業した留学生のうち、日本で就職し、外国人ホワイトカラー労働者として働いている者を中心に分析 している。Klicka(2013)は大宮(2015)と同様に既に日本の高等教育機関を卒業した留学生のうち、 日本で就職し、ホワイトカラー労働者になった者を分析の対象としている。最近鈴木(2013)、志甫 (2015)などが留学生の在学中労働の問題について扱い始めているが、主に統計的な分析や政策提言 のレベルに留まっている。  留学生や技能実習生の労働に関するルポルタージュや実証研究については、それぞれ芹澤(2018)、 出井(2019)、巣内(2019)などがある。これらの研究は主にインタビューと現場取材という形で外 国人低賃金労働者をめぐる社会問題、すなわち過酷な労働条件や劣悪な処遇を告発している。これら の研究は厳密に言って学術研究よりもルポルタージュに近い。技能実習生や留学生も相対的に悪い環 境で耐えながら働く理由は主に経済的な利益の追求にあると説明している。しかし、それだけでは、 なぜある者は技能実習生になり、ある者は留学生として働くのか、明確にされない。  単なる出稼ぎ目的で来日すると想定するならば、なぜ留学よりコストの安い技能実習生制度を選ば ないのか、説明できない。来日までかかる費用という面で考えてみると、身元保証金はあるものの、 帰国時返金される技能実習生制度に比べ、留学する場合、学費はたとえ中退しても返金されないので、 より高額な費用となるリスクを有する。それにもかかわらず留学生として来日し、出稼ぎに近い形で 労働するには経済的理由以外にどのような理由があるのだろうか。留学生の労働を一面的な搾取の観 点で解釈するのでなく、本人たちの立場に立って、なぜ過酷な労働条件を我慢しながら働いているの か、その内在的な理由を多角的に明らかにしなくてはならない。  なぜ留学生の労働に関して現場をみる必要があるのか。答えは研究対象として彼らがもつ特殊性で ある。通常であれば労働の研究アンケート調査、インタビュー調査などで労働者が置かれている環境 や意味などを間接的に確認することが可能である。しかし、留学生労働者の場合、言語能力が不十分 であり、インタビューやアンケートだけでは確認しきれない「言語化できない振る舞い」があると考 えられる。  すなわち彼らは普通の日本人労働者に比べて自分の意見を言語で表現するのに限界をもつ。彼らの 言語で表現されたことと実際の労働の間に乖離を持つ可能性がある。特に筆者自身が留学生であるの で、留学生の目で留学生の取り巻く労働環境を観察することで、従来の先行研究ではあまり扱われて いなかった「当事者」として留学生の労働の在り方をより深く、より内在的に記述できる。  現場の労働状況を確認するため使われる社会学的研究方法は参与観察である。最近の研究だと、伊 原(2016)のトヨタと日産の参与観察、近間(2019)のアパレルチェーンストアの参与観察などがあ る。これらの研究の主な特徴は①研究者本人により、②特定の労働現場に参加し、2 ヶ月から 3 ヶ月 の間観察を実施してから③その結果を社会学的な分析を加えてまとめたことである。本稿はこのよう な先行研究を参照し、参与観察を通じて留学生が働いている労働現場で実際に起こっている問題は何

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なのか、彼らは自分の労働にどのような意味を与えているのか、なぜ過酷な労働条件に耐えながら働 くのか、といった問いに答えたい。

2.観察に入るまで

 本稿で用いる参与観察は次のような方法で行われた。①日本人労働者と留学生が共に働いている繁 華街のサービス業の店、特に留学生の採用が活発に行われている飲食店や居酒屋を参与観察のター ゲットに設定した。②筆者本人が 2 ヶ月間参与観察した後、筆者と共に働いていた労働者に参与観察 の事実を知らせた(2)。③参与観察を終了した後、個別の労働者にインタビューを行った。観察の期 間については、観察対象集団の属性や研究の特徴を考える際、多少異論があるものの、最近の参与観 察では、多くの研究が 3 ヶ月以下を目安として行われる傾向であり、それに従う形でおこなった。  参与観察の行われた期間は 2017 年 10 月 1 日から 11 月 31 日までの 2 ヶ月間であった。観察対象を 決めるにあたっては 2017 年 9 月 1 日から 21 日までインターネット求職サイトを通じて「地域:東京」 「職種:サービス業:居酒屋・飲食店」、「条件:留学生歓迎」で検索し、候補を 5 つほど選定した。 それから個別の企業に履歴書を出して面接を受け、2 社(B 社と E 社)から合格の通知があった。最 終的に E 社で働くことにしたが、合格した中から E 社を選んだ理由は、①即日採用であったこと、 ② B 社の合格通知遅れ、の 2 点のためであった。表―1 は調査対象を決めるまでの面接とその結果の 記録である。 表 ‒ 1 面接結果一覧

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  E 社 Y 支店での 3 日間の研修後、同社の Z 支店に配属されることが決定し、筆者は 10 月 1 日か ら正式出勤することになった。労働条件は以下のようになる。  面接を受けた際、履歴書に日本で働いた経験を有している点、年齢の高い点、高学歴の点を指摘さ れ、不採用になったのは予想外のことであった。当初参与観察の計画をする際、すぐ働けると予想し ていた。しかし、A 社や D 社の面接では、会社は即戦力を期待する一方で、実際に働いた経験を持 つ者は指示に従わないのでないか、と判断しそれを根拠に筆者を不採用にしたのでないか、という印 象を受けた。また、採用された後でも E 社の運営する他のチェーン店に派遣する可能性が高いとい うことを言われ、労働契約書を作成する際そのような人事配置に不満を言わないよう忠告された。加 えて無断欠勤や労働組合活動を禁じるという旨も労働契約書上に書いてあった。

3.観察内容

(1)研修期間(9 月 28 日~ 30 日)

 研修は E 社の Y 支店で 2017 年 9 月 28 日から 9 月 30 日までの 3 日間行われた。Y 支店は都心から 少し離れた郊外にある居酒屋であった。研修は OJT 形式で行われ、専任の研修担当者はいなかった。 教育内容は、①メニューの暗記、②接客用語教育、③客が来店してから退店するまでの流れに関して の学習であった。しかしながら営業時間中の研修であったため、研修途中に来客があり、実際きちん と教育をする暇はなく、形式的に店舗のおもてなし精神を説明したり、敬語を覚えさせたりする程度 であった。  基本的に研修方式は先輩のそばについて行動をみて、覚える形で行われる。接客をしながら仕事に 関して新人にいちいち説明をする時間はなかなか取れない。自ら観察し、覚えることが大事なようで あった。これは過去日本で行われた徒弟式教育(親方の振る舞いを見て見習い職工が仕事を学ぶ)と も似ていると言えるだろう。  この店舗の労働力構成として、日本人男性労働者を正社員や店長とし、日本人女性労働者を基幹パー トタイマー(実質的に店長のような役割を果たす者)とし、多数の外国人留学生労働者をパートタイ マーとしていた。数は少ないながらも日本人労働者もパートタイマーとして働いていた。この店舗は 研修中の者に普通のパートタイマーと同じ動きぶりを求めていた。どうすればいいか分からない研修 中のパートタイマーに客からオーダーをとらせたり食べ物を運ばせたりしていた。筆者の教育を担当 した Y 店の社員は、採用された者の半数ぐらいはこの段階で仕事を辞めるから困ると言っていた。 表 ‒ 2 E 社の勤務条件

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(2)正式出勤(10 月 1 日~ 11 月 31 日)

 研修が終わった後、Y 支店の店長に呼ばれ、研修を受けた Y 支店ではなく、Z 支店に配属された と知らされた。翌日の 10 月 1 日から正式に出勤することとなった。筆者が配属された Z 支店の主な 顧客層は 30 ~ 40 代の日本人男女であるが、外国人観光客も来るようであった。この店は東京の繁華 街の駅近くに位置し、建物の 1 - 2 階を店舗として使っている。1 日あたり平均売上高は平日(月~木) 15 万円ほど、週末(金・土・日)25 万円弱で平均 1 人当たり 2 千円前後の客単価である。テーブル 数は約 40 卓で、1 階は最大 32 人まで、2 階は最大 38 人まで収容できる規模の店である。営業時間は 毎日の 17 時から 24 時までで、土、日、祝日には閉店時間が延長される場合がある。  Z 支店の従業員配置をみると、ドリンクバー業務(飲み物の用意)、ホール業務を主に留学生のア ルバイトに任せている。調理するだけで日本語を話す必要が相対的にないキッチン業務は社員や日本 人だけが担当している。1 階はキッチン担当(2 名)、ホール担当 1 名(忙しい時には 2 名)で回して いる。つまり、1 名の留学生がレジ、ホール、ドリンク、皿洗いの 4 つの仕事を担当することとなり、 過重な業務量負荷がかかってしまう。  実際従業員から聞いたところ、ホール担当として日本人を雇っても耐えられずに、すぐ辞めてしま うため、やむを得ず留学生を雇っているとのことであった。客が来ると、1 階の窓側に近いところか ら席を案内し、1 階が満席になると 2 階を使う。2 階はエレベーターを通じて 1 階と繋がっているため、 エレベーターを経由しないと入れない。また、2 階にはキッチンがなく、全ての食べ物は 1 階で作っ てエレベーターを通じて運んでいる。2 階は宴会用、または個室のように静かなところを求める客の ために使われる場合もある。そのため声が 1 階まで響くことを避けるため、エレベーターのすぐ近く にあるテーブルではなく、奥のテーブルから優先的に着席させている。  1 階は 3 名から 4 名の従業員で回しているものの、2 階は基本的に 1 名だけを常に配置し、土、日、 祝日など確実に来客の多そうな日だけもう 1 名追加し、合わせて合計 2 名を 2 階に配置している。基 本的に 2 階を留学生は担当しない。インカムで 1 階と連絡し合い、混み状況を確認しながら客の出入 りを管理しているため、日本語がきちんと聞きとれない外国人に 2 階の仕事を任せてしまうと、伝達 ミスによるトラブル発生の可能性があるからだという。表―3 は今までの内容を職務に合わせてまと めたものである(4) 表 ‒ 3 Z 支店の空間構成と勤務人数

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 これまでの記述から分かるように、筆者が参与観察を実施した Z 支店は 1 日平均 4 名の勤務者が いて、予約が入っている時、または土、日、祝日には 5 名で店を回している。また、シフトに関して は社員・基幹パートタイマー(16 時~ 1 時)(5)、中番(17 時~ 23 時)、遅番(18 時~ 24 時)があって、 主に遅番がメインとなっている。また、筆者が働いた時点(2017 月 10 月 1 日から 11 月 31 日まで) において、同じ店で勤務していたメンバーは以下のようになる。  まず、Z 支店で働いている日本人労働者に関して表―4 に記載していない情報を簡略に述べたい。 太郎さんはエリアマネージャーで名義上の店長である。しかしながら実際の出勤は週 1 ~ 2 回に過ぎ ず、Z 支店があるエリア内の複数店舗を管理している。愛子さんは準正社員でキッチンを担当してい るが、全般的に Z 支店運営、例えばシフト作成、発注、開店、閉店などを店長の太郎さんの代わり に行っている。太郎さんが名義上の店長とすれば、彼女は実質上の店長である。  洋子さんは基幹パートタイマーで、長年 Z 支店に勤務するベテランである。彼女は愛子さんと一 緒に Z 支店の運営まで手伝っている。洋子さんにシフト作成などの権限はないが、新人教育や在庫 確認、発注などを補助する。次郎さんはパートタイマーで 4 年制大学に在学している。彼は仕込みや 簡単な料理補助をしながら主に 2 階で働いている。花子さんと幸子さんは E 社内の他店所属のパー トタイマーで、Z 支店に宴会の予約などがあり、忙しい日や Z 支店に欠員の発生する場合に出勤して いる。要するに Z 支店に所属し、週 5 回以上の勤務をしている日本人労働者は愛子さん、花子さん、 次郎さんの 3 名である。  次いで、Z 支店の留学生労働者に関して述べたい。サリナさんは日本語学校の学生で専門学校進学 を目指して勉強している。彼女はホールと飲み物作りを担当していて、日本語の能力は簡単な会話、 表 ‒ 4 Z 支店勤務者一覧

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例えば客からのオーダーを取るのができるぐらいである。サリナさんは、他のアルバイトを掛け持ち している。メイリンさんは 4 年制大学進学を目指して勉強している日本語学校の学生である。アルバ イトはこの仕事一つしかしていないという。彼女は筆者が仕事に慣れるまで一緒に働いていたが、10 月末に Z 支店の仕事を辞めた。筆者は彼女の後任として採用された。  ドンさんは日本語の能力が低く、客との会話が上手くできない。よって飲み物の作りと皿洗いだけ を担当している。彼女は来日したばかりで、日本語学校に通いながら複数のアルバイトを掛け持ちを しているという。タムさんはホール担当の人で、専門学校の学生である。Z 支店には週 3 回しか出勤 していないものの、ほかの 2 つの仕事を含めて 3 つもアルバイトをしているという。最後に筆者は大 学院生のパートタイマーで、前述したようにメイリンさんの仕事を引き受けて働くようになったが、 以前週 5 回働いたメイリンさんに比べて、平均週 3 ~ 4 回しか働いてなかったため、彼女の仕事を完 全に代替したとは言いにくい。  筆者の勤務は主に太郎さん、愛子さん、洋子さんの管理のもとでメイリンさんの仕事を引き継ぎし ながら、接客の全般的な流れを学んでいく形で行われた。主な出勤日は火曜日、木曜日、土曜日、日 曜日であって、宴会の予約が入ったり、人手不足であったりする場合スケジュールが変わったが、出 勤する店は Z 支店に固定され、他の店舗に派遣されることはなかった。おそらく E 社のチェーン店 の中で Z 支店が一番忙しい店舗であったためであろう。

4.業務量、仕事の規範、空間の序列化

(1)業務量

 10 月から仕事を始めて一日の勤務中の歩数を計測し、どの程度忙しかったのか、間接的に確認す ることにした。以下はその計測結果である。  筆者は Z 支店で計 34 回勤務した。勤務中の歩数は、1 日の勤務あたり平均 10361.8 歩だった。距 離に換算すると、1 日の勤務で平均 6 km ほど歩いたこととなる。筆者が主に働いた場所は 1 階のホー ルで、レジ、ホール、ドリンク、皿洗いの 4 つの仕事を担当したため、比較的活動量が多かった。店 図 ‒ 1 勤務中の歩数推移

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舗は平日でも混んでおり、トイレにいく暇もないほどであった。後で洋子さんから聞いた情報による と、もともとこの店には賄いがあったが、食べる暇がなく廃止することになったという。つまり、賄 いを食べる暇がないほど忙しいのに勤務者を増やしていない。より正確にいうと、増やしても労働強 度に耐えられず、すぐ辞めてしまうため、賄いの出ない、休憩もとれない過酷な労働条件でも耐えて 働いてくれる外国人留学生をこの店舗は恒常的に必要としている。

(2)仕事の規範化

 仕事の流れを見てみると、席に客を案内→ドリンクオーダーを取る→お通し、ドリンクを出す→料 理の注文を受ける→料理を出して説明をする→お会計→外まで客を見送り→バッシング(清掃)(6) いう順番で店舗運営を行っている。主にミスの発生は、オーダーを取る時と料理を出して説明する時 である。その際には、料理に使われた材料の名称や産地を正確に説明しないといけないため、言語能 力の不十分な留学生にとって、トラブルが発生しやすい。また、テーブル番号を間違えて料理を誤っ たテーブルに出してしまうとキッチンから強く叱責された。  しばしば来店する外国人の観光客、特に日本語が分からない客に対して、英語で説明することを要 求されるが、日本人パートタイマーは英語で説明できず、留学生に外国人観光客の対応を任せていた。  店舗側は、料理の材料や原産地などを十分説明できるほど日本語に上達していない留学生を、でき ないことを前提にしながら雇用し続けていた。この背景には、日本人労働者では、過重労働に耐えら れず早期に離職するので、店舗運営をするために、日本語能力に問題を持つ留学生であっても、採用 し、労働力として活用しないと店舗運営に支障をきたすという現実があった。この点について、マネー ジャーの太郎さんは、「このあたりはもはや外国人アルバイトがいないと回らないようになっている」 といっていた。  店舗は毎日営業を開始する直前にその日出勤する従業員(遅番の人を除く)達に、売り上げ目標額 を発表し、接客する際に使う挨拶の練習をさせる。これを「朝礼」という。朝礼の時に、いつもおも てなし精神や親切さを強調しているが、そのために何をすればいいのか、具体的な説明はない。ミス すると怒るだけで、労働強度の問題や外国人がもつ言語的限界に関しては、具体的な改善案について 話し合われることはなかった。  新人が入ると一番先に教育することは、文句を言わず、指示に従うことである。「お客様を第 1 に して考えて」、「生ジョッキの取手をいくら忙しい時でもお客様に向けて置いて」などの指示が相次ぐ。 さらに大きな問題は、人によって業務指示内容の相違や、業務優先順位の相違することである。例え ば太郎さんが先に料理を出してと指示したのに、愛子さんが料理を出すより先にテーブルを片づけろ と指示する場合である。また客がレジに立って会計をお願いしているのに、同時に他の客から頼まれ ずっと待たせた料理が出てくる。こういう時、どちらを優先すればいいか、日本人の上司たちは明確 に教えてくれない。「空気を読んで、場合に応じて優先順位を決めて、とりあえずお客様のことを優 先しろ」と、繰り返して話すだけである。  客を優先するとしても、待たせた料理の配膳が先か、会計が先かは、その時によって違う。料理が 冷めやすく、熱いもの(例えば牛筋煮込みなど)であれば、レジに立って待っている客に了解を得て、 先に料理を運ぶほうが正しい判断である。しかし同じ状況でもキッチンから完成されて出ている料理 が冷めることと関係ないもの(例えば冷ややっこなど)であれば、先に会計を済ませて運ぶほうがい いかも知れない。  このような判断基準はあくまでも「労働者自らが悟らないといけない」ものとなっている。店は常

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に忙しいため、細かい説明をする余裕はない。こうやって 1 回叱られた外国人パートタイマーが、次 回指示された通りに行動したら、また叱られる場合がある。例えば先の例のように、料理を運ぶのを 優先して会計は後にして、と教えてもらい次回そのように対応したら、今度は冷めることと関係ない 料理が出て、料理より会計を優先すべきだといわれる状況を考えてみよう。当然パートタイマーは混 乱を感じる。特に外国人の場合、コミュニケーションの間違いやすれ違いが生じやすく、「以前会計 のほうを優先して、と言われましたが」と言い返すことがある。  そうすると、指示した側は「私に文句をいう」と受けとってさらにきつい調子で外国人留学生を叱 責する。すると、叱責された外国人留学生は、訳も分からないまま、叱責される経験を繰り返すよう になる。「客からいわれる前にする」というサービス精神は何か仕事をする際、いちいち聞かず、空 気を読んで自ら判断して、という形として現場で「理解」されている。このことを十分に「理解」し ていない外国人留学生は、そもそも「正しい判断」は何なのか混乱に直面する。それに正解などはな く、「結果」(主に客からの評価や管理者からの習慣的な評価)だけが存在するからである。  注意すべき点として、そうして自ら判断した結果が間違ってしまい、客に迷惑をかけてしまった場 合の責任は、全て労働者本人がとることになっている。ホール業務を担当する労働者が使うハン ディー(7)や会計時のレジスターには必ず勤務者の番号を入力するようになっており、差額やオーダー ミスが発生すると原則的に労働者の給料から引かれるようになっている。  金銭的なトラブルでない場合、留学生労働者は顧客や他のパートタイマーの前で大きな声で叱責さ れる。勤務時間が終わっても家に帰られず店に残され、反省を求められる場合もある。はっきりと教 えてくれなくても自ら悟って行動しなければならない。この姿勢が留学生労働者に求められる。サリ ナさん、メイリンさん、ドンさんなど、店で働いている留学生労働者達によると、この点が日本のサー ビス労働について一番理解し難いところである。  彼らによると、ミスして叱られるのが嫌なのではなく、同じ事態に対して人によって、状況によっ て対応が異なるのに、どのようにして対応するのかが「謎」なのである。なぜ、叱責されるのかすら 理解していない場合も多い。何に対して叱責されているのか、その理由を強く求めないかぎり、説明 すらしてもらえない。多くの留学生労働者は、その理由を説明されたとしても、理解しがたい。なぜ ならば、その理由そのものが絶対的に正しいものでなく、状況に応じて変化する「曖昧な基準」だか らである。すなわち判断基準の「曖昧さ」自体が問題になっているのである。また、なぜそのような ミスを皆の前で、しかも勤務時間が終わっても残され指摘されないといけないのか、多くの留学生労 働者は理解できないようであった。  もう一つ留学生労働者達が納得していない点は店舗で行われるパートタイマー同士のコミュニケー ション言語の制限であった。基本的に彼らの日本語の能力は低く、業務に必要な内容を従業員同士に 速やかに伝えるため、日本語以外にベトナム語や英語で伝えようとする場合がある。たとえばドンさ んの場合、日本語の聞き取りはできるものの、時々会話で自分の意思を伝えることができず、同じベ トナム人のタムさんにはベトナム語で、筆者には英語でコミュニケーションを取ろうとした。  しかし店舗の管理側から「従業員同士のコミュニケーションは必ず日本語を使え」と言われた。店 側としては「客からのクレームを防ぐため」だと説明しているが、留学生側はそう思ってないようで あった。留学生労働者達は勤務中の母国語禁止措置を彼らに対する差別、ないしは「自分ら(= 管理 者側)が聞きとれない言語で話されることが怖くて」留学生労働者の口を防ごうとする態度として受 け止めているようであった。タムさんは、この点に対して問題提起してみたが、帰ってきた答えは、「こ こは日本だから、文句をいうな」だったと言っていた。

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 今まで観察した内容から Z 居酒屋に存在する労働規範、より具体的には店側が強調する仕事の規 範の特徴をまとめてみると以下のようになる。  店舗が忙しいときに、他の支店からヘルプとしてくるパートタイム労働者がいる。しかし、同じ同 じ E 社の系列店だとしても、支店ごとでメニューが異なったり、システムが異なったりしている。 そのため、業務に不慣れな他店舗からの派遣労働者に、ミスが多発する。会社側もこの問題を知って いるが、具体的な対策を講じることはなく、放置している。そのため、ミスの責任は、店舗運営のシ ステムにあるのでなく、結局労働者個人に帰すこととなる。  E 社の経営方式は多くの不合理な点を有している。本来であれば、日本語能力の低い留学生労働者 が、レシピに基づき日本語能力をそれほど必要としないキッチンでの調理業務を担当するべきである。 そして、日本語コミュニケーション能力を必要とするホールでの接客業務を、日本人労働者が担当す るべきである。これが最も合理的な労働力配置であろう。  また、労働者は最初の 50 時間研修期間として、時給 950 円で働いている。E 社はこの制度を悪用し、 研修期間中に安価な労働者を、特に忙しく、労働強度の高い店舗に派遣する。このように E 社は、 安価で、業務に不慣れな労働者を、労働強度の高い店舗に派遣することで、留学生労働者を搾取して いる可能性を有している。今まで観察した内容から Z 居酒屋に存在する労働規範、より具体的には 店側が強調する仕事の規範の特徴をまとめてみると以下のようになる。 表 ‒ 5 Z 支店の仕事の規範

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(3)序列に対応した空間の構成

 参与観察を行った店舗で働いている人々の間の関係図を描いてみると、以下のようになる。  図- 2 から分かるように、居酒屋 Z 支店は国籍、空間別に徹底的に序列化している。名義上店長 に該当する太郎さんは Z 支店全体を、日本人の管理者に該当する愛子・洋子さんは 2 階全体とキッ チンを、日本人のパートタイマーの場合、主に 2 階のホールと仕込み台で仕事を担当する。1 階のホー ルは主に留学生のアルバイトが担当する。日本語の実力が不足する場合、ドリンクバーで飲み物を作 ることと皿を洗うことのみに業務を限定する場合もある。矢印はコミュニケーションの方向を示す。 例えば太郎さんはただ指示をするだけでなく、実質的に店舗運営を担っている愛子さんと洋子さんか ら意見を聞いて、店舗運営に反映する双方的な関係を築いている。  しかし、同じ日本人パートタイマーであっても次郎・花子・幸子さんは、愛子・洋子さんから指示 を受けるだけで、彼女らに対して、意見を述べたり、苦情を言ったりすることを許されていない。ま た、次郎さん、花子さん、幸子さんは、愛子さん、洋子さんの多忙の時や不在時に、留学生たちに指 示するが、留学生労働者達が、彼らに指示することはない。  2 階の人員配置に関して、インカムをつけて 1 階と通信しながら仕事をしないといけない。そのため、 基本的な日本語コミュニケーションに問題ない者を配置することは合理性を持つ。しかし、なぜ外国 人留学生は、キッチンに配置されないのか。このことを合理的に説明できる理由を見いだすことはで きない。  この問題に対してサリナさんとメイリンさんは、「愛子さんと洋子さんが、キッチンに外国人を入 れると食材に何をするか分からないし、いつも清潔にしないといけない所を適当に掃除するかも知れ ないから、信用できないと言っていた」と筆者に対して話した。サリナさんとメイリンさんによると、 店舗管理者の太郎さんはキッチンにも留学生を入れたがるものの、愛子さんと洋子さんの強い反対に よって実現できなかったという。 図 ‒ 2 Z 支店の空間的配置と人物の関係図

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 彼らの話をそのまま信じてもいいのかは別にして、Z 支店でキッチンに入りことができるのは確か に「日本人のみ」となっている。客からクレームがきたり、料理を間違えて出てしまったりして、ホー ルを担当する留学生が直接キッチンに入ろうとすると制止され、キッチンとドリンクバーが繋がると ころにある棚のあたりで、待機するよう命じられている。キッチンは「神聖なところ」となり、日本 人の管理者や日本人の基幹パートタイマーだけが入って、調理をしながらホールの留学生労働者の動 きを監視する所となっている。  キッチンは 1 階のカウンターの後ろにあって、客が調理過程のすべてをみることができる上に、ホー ル全体を眺める所に位置している。また、この店で 2 年以上働いた基幹パートタイマーの愛子さんと 洋子さんが入っているため、非常に忙しくない限り、料理の味を一定レベルに維持できる。しかし、ホー ルの労働事情は異なっている。パートタイマーを雇っても 1 階に配置するとすぐに辞めてしまうため、 経験を積んだ日本人労働者が育たず、結局日本語コミュニケーション能力に問題のある外国人留学生 が 1 階のホール運営を担わざるを得ない。  この店舗は、新人日本人のパートタイマーに対して、辞めないように相対的に低い労働負担で、土、 日、祝日のみ混む 2 階に優先的に配置する方針をとっている。留学生ならいくらでも来るから辞めれ ばまた雇えばいいし、お金がなくてきつい仕事をさせてもなかなか辞めないと判断しているようで あった。これは空間的な分離という効果をもたらして、職場内で日本人パートタイマーの持つ権威を 一層強化する手段として働く。  店内で働いている人々の関係をみても、日本人パートタイマーは日本人同士のみ、留学生パートタ イマーは留学生同士のみで、コミュニケーションを取ったり友好関係を形成したりする場合が多い。 その原因としては、次の 2 点を指摘できる。第 1 に、空間的に分離され、各パート別に働くため(1 階ホール、キッチン、2 階ホール)。第 2 に、言語能力の差や文化的な差があるためである。前述し たようにこの店舗の従業員同士のコミュニケーションは基本的に日本語のみに限定されている。その ため、留学生労働者は勤務時間中、日本語でのコミュニケーションに困難を感じている。日本人パー トタイマーは、ミスをした場合、話し合いで解決することを原則としている。しかし、留学生は、多 くの場合、前述したように皆の前で叱責される。こうやって空間的分離は処遇の差やコミュニケーショ ンの差として繋がり、Z 居酒屋の職務・国籍別分離を一層強固にしている。

5.留学生サービス労働の意味分析

(1)なぜ留学生は過酷な労働環境を我慢しながら働くのか

 このような問題点があるにもかかわらず、なぜ留学生は E 社で働くのか。そのヒントは E 社の労 働時間保障システムにある。E 社は他の支店に派遣するまで労働者の希望する勤務時間を必ず満たし、 一定金額以上のアルバイト収入を留学生労働者に確実に保障する。したがって一定額以上の所得を絶 対必要とする外国人留学生は E 社での仕事がきついというのを分かっていながら、働くことになる。 つまり「収入の安定性」と「(相対的に悪い)労働条件」が交換されているのである。サリナさん、 ドンさんなどによると、悪い労働環境を理解し、この店で働くことを選んだ理由は、安定的に収入が 保障されるからだという。他の企業の場合、週 4-5 回のシフトを希望しても店舗の事情により、収入 の変化が頻繁に発生する。しかし、E 社は、他の店に派遣するなどして、目標収入を必ず満たしてく れる。  例えば月 10 万円が必要な場合、時給 1,000 円だとすると、月 100 時間(週 25 時間)働かなければ

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ならない。このような状況で、労働者が店 1 と店 2、どちらで働くか悩んでいると仮定してみよう。 店 1 は 80%の確率で週 25 時間働くことが出来て、20%の確率で週 10 時間しか働けないとしたら、 店 1 からの期待収入「E(店 1)」は E(店 1)=(0.8 × 100,000)+(0.2 × 40,000)= 88,000 円になる。 もし店 2 は 100%の確率で週 25 時間働くことが可能だとしたら、店 2 の期待収入「E(店 2)」は E(店 2)= 1.0 × 100,000 = 100,000 円となる。必ず月何万円以上の収入を求める場合、たとえ悪い勤務条 件だとしても、店 2 を選ぶ合理的理由が生じる。  実際外国人留学生パートタイマー、サリナさんとメイリンさんは、この店で働くことを決める重要 な理由として、この「一定金額以上必ず稼げる」点を指摘している。つまり、E 社の Z 支店で働い ている留学生は、何も知らず搾取されているのでない。彼らは、様々な理由で毎月一定以上の金額を 必要とし、かつ低い日本語能力であっても雇ってくれそうなところを探して、悪い労働条件を「我慢」 しながら Z 支店で働いている。  筆者の場合、スケジュールに多少変動はあるものの、店舗側は筆者の労働条件として「最低月 16 回(週 3 ~ 4 日)出勤」「月 96 時間以上の労働」を必ず実現してくれた。よって研修時時給 950 円で あっても、22 時以後割増賃金を含み、月給約 10 万円の給料(店が非常に忙しく、23 時を超えて勤務 した日の給料を含めると月給 11 万円程度)を筆者は得たのである。  この金額は東京都で 1 ヶ月生活するには足りないように見られるが、比較的安い家賃の寮などに居 住するか、もうひとつのパートタイム職を探し掛け持ちすると、十分生活のできるレベルの収入にな る。Z 支店で働いている留学生の多数は、もう一つの仕事をしていた。入管法が定めている留学生の 1 週あたり最大労働時間は 28 時間であるが、掛け持ちをする場合、本人が申告しない限り、もう一 つの仕事でどれだけ働いているのか確認出来る手段がない。そのため留学生達は二つ以上の仕事をし ながら必要な収入を得ている。  このように、留学生にとってアルバイトで生活費や学費を稼ぐことは重要である。しかし、彼らが 金銭的なことだけを考えてアルバイト先を決めているわけでない。ドンさんとタムさんによると、ホ テルの清掃など、日本語を使わなくてもできる他の仕事があるににも関わらず、居酒屋 Z 支店やコ ンビニで働くことを決めた理由は、「働きながら言葉が学べる点」であった。  彼らは、日本語学校で学ぶより、仕事を通じて覚える日本語のほうがより実用的であり、将来日本 で就職を希望する時にも役立つと思い、常に客や労働者同士で日本語でコミュニケーションを取らな いといけない職場をあえて選んだのであった。それにもかかわらず、彼らの日本語能力は勤務期間や 日本滞在期間に比べて高くない。その背後には、労働強度の強い仕事をするため疲れて学校の授業に 集中できない点、そもそも接客業務で必要とされる日本語が非常に限定された範囲である点、等を指 摘できる。

(2)留学生パートタイマーの個別インタビュー

1)ドンさんの事例  より詳しい情報を得るため、筆者は、共に働いているドンさんとタムさんに店舗外でインタビュー した。サリナさんとメイリンさんにもインタビューの依頼をしたが、断られたため、ここではドンさ んとタムさんのインタビューだけを分析する。  ドンさんはベトナム出身の 27 歳の女性である。インタビューを実施した 2017 年 12 月 4 日の時点 で日本滞在 8 ヶ月(2017 年 4 月に来日)になり、日本語学校を通いながら二つの仕事をしている。 彼女は筆者とおよそ 2 ヶ月間一緒に働いていて、仕事の終わった後、二人で何回も話す機会をもった。

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 インタビュー内容に関して彼女は、①自分がしている労働に関する情報、②なぜ日本に来たのか、 その経緯と感想、③職場で感じた仕事の意味、④彼女にとって学校、日本社会が持つ意味に対して論 文に用いることを許可した。しかし、彼女は、話した内容を直接引用することを拒否したため、イン タビューの内容をまとめて述べることにする。インタビューは日本語で行われたが、時々意味が通じ ない所では英語で質問をする形にした。  ドンさんはベトナムの貧しい農村の 2 男 2 女の末子として生まれ、家族の稼いだお金で現地の大学 に進学した。大学を卒業した後、女性としては珍しく現地でのホワイトカラー職につくことが出来た が、その仕事は長く続けられなかった。事業所が経営悪化により閉鎖され、突然彼女は仕事を失って しまった。再就職のため頑張ったが、結局彼女が望んだ仕事(ホワイトカラー職)にはつけず、この ままでは家族に迷惑をかけてしまう、と思って留学コンサルタントの斡旋により、日本に来ることに なった。  彼女は日本に来るために 160 万円ほどの借金を背負ったという。彼女は留学コンサルタントから日 本に入国してからすぐ働ける仕事を紹介してもらった。それが清掃の仕事で、日本語が少し喋れるよ うになった入国 3 ヶ月後から居酒屋 Z の仕事を追加ですることになったという。Z 居酒屋の仕事をす る前には週 6 - 7 回ほど清掃をしていたが、今は週 4 回に減らして Z 居酒屋での出勤を増やした。  彼女は、その理由として仕事はきついが、清掃より日本語を使う機会が多く、勉強になることを強 調する。また、Z 支店は非常に忙しい所であるが、10 時以後割増賃金を支給する。そのため、彼女 はこちらの仕事を増やすほうがより稼げると判断したと筆者に語った。ドンさんによると、清掃の仕 事は主に深夜(夜 12 時以後)に行われるにもかかわらず割増賃金を支給していなかったという。  彼女は Z 支店の日本人パートタイマーからいじめられるようになった。その原因としてドンさん は自分の日本語の実力不足とコミュニケーションの困難をあげた。彼女は苦しくて Z 支店の仕事を やめたいと思った。しかし、既に減らしてしまった清掃の仕事のシフトを再び増やすことができなかっ たので、職場でのいじめを我慢しながら Z 支店の仕事を続けるようにしたと筆者に述べた。  日本に来たばかりで、日本語の実力も高くないドンさんを雇ってくれるところは限られていたため、 彼女に他の選択肢などほぼなかった。勿論、E 社もドンさんの日本語の実力がホールを担当するに無 理であるということを知ったうえで彼女を雇った。それにもかかわらず彼女は主に日本語を使って接 客する仕事を任され、顧客や他のスタッフとコミュニケーションが取れず非常に困っていたという。  その時助けになったのが同じ職場で働くベトナム人パートタイマーのタムさんだったが、仕事中ベ トナム語で話すことを禁じられるうえに、二人の勤務日が重ならないような措置がとられた。その後 表-6 ドンさんの基礎情報まとめ

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ドンさんは、タムさんとともに働ける日を減らされていった。タムさんと一緒に勤務できなくなって から、ドンさんは仕事でミスすることが更に増え、管理者や他の日本人のパートタイマーから嫌われ る対象になったと筆者に述べた。  最初は怒ったり足りない日本語でも抗議しようとしたりしたが、話が通じないということを経験し、 今は半分諦めて指示をわざと無視しているという。インタビュー時点で日本語である程度話せるほど になっていたため、管理者(太郎さん)に今の状況を率直に打ち明けたらどうかと聞いてみたら、で きないという答えが返ってきた。  日本人パートタイマー達は、ドンさんの手際の悪さから叱責を受けているのだと判断している、と ドンさんは考えていた。しかし、ドンさんは、手際の問題でなく、日本語の指示を十分理解していな かったために、多くのミスなどをしたと日本人達に理解してもらいたかった。しかし、日本人パート タイマー達は、そのようなドンさんの状況自体を理解しようともしなかった。  彼女は Z 支店で、夜 6 時から深夜 12 時(清掃の仕事がある日のみ 11 時まで)まで働き、清掃の 仕事は夜 12 時から朝 5 時まであるため、ほぼ寝られずに疲れたまま日本語学校に通っているようで あった。彼女は、眠くて学校でほぼ勉強に集中できず、出席すると同じ国出身の友達に会えるから行っ ていると筆者のインタビューに語った。  彼女は Z 居酒屋での仕事の苦しみについて学校で知り合った友達何人かに悩みの相談をしてみた ようだが、日本での仕事は「もともとそんなもの」という答えが返ってきたという。ドンさんによる と、同じ日本語学校に通っている他の留学生達も客から無礼なことを言われたり(例えば酔っぱらっ た客から自分の国に帰れ、といわれるなど)、職場の他のパートタイマー、特に日本人のパートタイマー から無視されたりいじめられたりした経験を持っていた。ドンさんが経験していることも「他の人(ベ トナム人留学生)も経験する、仕方ないこと」として受け入れているようであった。  彼女にとって日本という国はどのような場所なのか。彼女の留学先として日本にしたことは、特別 な理由をもたない。留学コンサルタントの紹介、そして日本語を学んでおくと将来役立つという期待、 また、家族に迷惑をかけないため、今まで自分をサポートしてくれた家族に恩返しをするため、選ん だ手段の一つに過ぎない。  実際、日本社会に関して彼女の意見を訪ねた際、彼女は「飲食は普通、家や町は綺麗、化粧品がと てもいい、天気が(ベトナムに比べて)寒すぎて辛い、話が通じなく、差別する人がいるから残念」 という趣旨の話を筆者にした。この感想はいいところも悪いところもあるというもので、日本に対し て何か特別な感情をもっているわけではない。ドンさんは自分を日本に送ってくれた家族に感謝する 一方で、今後日本に来るための借金返済や日本での留学経験を活かすためにはどうすればいいか、今 後キャリア設計など大丈夫なのか、日本語習得に困難となり、ベトナムに帰るような事態になったら どうするのか、といった点に悩んでいた。  今の過酷な労働条件を我慢している理由は次の 2 点であった。第 1 に、留学資金返済のためであり、 第 2 に、日本語能力を向上させ、Z 支店よりもより良好な労働条件の仕事を得るためであった。ドン さんが最も頼りにするのは、タムさんや語学学校を中心として集まるベトナム出身の友達であった。  インタビュー内容を通じて、ドンさんにとって Z 支店での労働とは「やむを得ずしないといけな いこと」であり、彼女にとって労働は「自分に与えられた課題」に近い。うまく乗り越えると良いが、 そうでないのであれば、それは「課題としての労働」が悪いわけではなく、「もともとそういうもの」 または「それを乗り越えられなかった自分の責任(例えば日本語能力の不足など)」として認識され るのである。

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 彼女にとっては仕事自体が「避けられない日常」として扱われているようであった。本来ドンさん にとって主たる目的であるはずの日本語学校が、労働という日常から避けられるための「休憩空間」 として挙げられる点も興味深い。彼女は日本語学校の持つ本来の目的である「日本語の習得」のため 学校に通うのでなく、仕事で疲れた体と精神を同じベトナム出身の友達に会って癒すために行くよう であった。この過程で勿論学習という学校の本来の技能が完全に放棄されるわけではないが、「癒し」 という主観的意味が学習の技能を超えて彼女に学校に通う動機を与えている。労働は彼女の意思と関 係なく毎日のように続くものとなり、学校よりも強く彼女の生活に影響を与えている「圧力」として 機能していることが分かる。 2)タムさんの事例  タムさんは筆者とドンさんと一緒に Z 居酒屋で働いている留学生パートタイマーで、ベトナムか ら来た 29 歳男性である。インタビューを実施した 2017 年 12 月 3 日時点で彼は日本滞在 3 年目になり、 2 年間日本語学校を通った後、専門学校に進学し、IT 関係の技術を学びながら 3 つのアルバイトを しているという。彼の日本語能力は会話には問題がないレベルで、就職のために JLPT(外国人向け の日本語能力試験)N1(専門的な内容を理解することができるレベル)を取得するつもりだと語った。  これから就職活動に集中するために、今できるだけ資金を稼いておくことが彼の目標であった。彼 は千葉県にあるベトナム人専用寮に住んでいて、東京の都心まで移動するのに電車で 40 分ほどかか るという。賃料は電気・水道代込み 2 万円程度で、20 名ほどが居住しているようであった(具体的 な間取りは聞いていないが、1 つの部屋に 6 名ほど住んでいるという)。  彼は月曜日から金曜日まで、毎日 9 時から 15 時まで専門学校で IT 関係の授業をとって、そのあ と週 3 回 17 時(または 18 時)から 23 時まで Z 居酒屋で働いている。また、週 5 回夜 12 時から朝 5 時まで家の近くにある物流センターで仕分け作業のアルバイトをし、さらに週 5 回コンビニのアルバ イトをしている。コンビニの場合、他の 2 つの仕事と出勤する時間が異なるが、1 回4~ 5 時間働い ているという。例えば Z 居酒屋の仕事がある日にはコンビニで 0 時から 5 時まで品出しや清掃など 深夜の仕事をし、そうでない日には午後 17 時から 22 時まで仕事をする。以下はタムさんが見せてく れた 1 週間のアルバイトスケジュールである。  毎日仕事が午前 5 時に終わるため、彼は深刻な寝不足を訴えていた。幸いにタムさんが働いている アルバイト先は、全て最低賃金を支払うのみならず、深夜の加算賃金までアルバイトに対して正当に 支払っていた。そのため、彼の平均労働時間は週 60 時間から 72 時間で、交通費を除いて月 30 万~ 32 万円ほどのアルバイト収入を得ていた。 表-7 タムさんのアルバイトスケジュール

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 その中から学費や借金返済に月 10 万円程度支出し、ベトナムの家族への仕送りが 10 万円、翌年に 予定されている就職活動への貯蓄として月 5 万円を充て、残りの 5 ~ 7 万円を生活費として使ってい る。まず 2 万円を家賃として払い、食事は主にコンビニでもらった廃棄直前のお弁当や、寮の同じ部 屋に住んでいる人達の料理した食事で賄っているという。タムさんによると、毎月 1 万円を払うと買 物当番が 6 名分のお金を集めて共同で買い出しをし、生活必需品を配分する形で生活しているという。 そして 3 万円程度で生活費を賄い、残りの 2 万円程度で携帯の料金を払ったり、服を買ったりしてい るという。  タムさんはできるだけ授業時間には寝ないように頑張っているが、いつも仕事に疲れて寝てしまう。 それでも学校には必ず行くことにしているという。病気の日以外には基本的に出席していると彼は 語った。また、日曜日は一番楽しい日で、朝 6 時から午後 5 時まで睡眠をとり、その後遊んで、深夜 だけ物流の仕事をしているという。仕事を増やしたのは今年からの話で、日本語学校に通っていたと きには、仕事を二つしかしていなかったため、学校に行っても寝ずに、しっかりと勉強していたとい う。彼に対しての周りからの評判も「まじめな人」ということで、仕事を増やした結果、それなりの 貯蓄ができたと、彼は喜んでいた。インタビューで寝る時間を奪うことになるのではないかと尋ねた ら、彼は笑いながら「呼んでくれてありがとう」と答えた。今まで一人で悩んでいたことを、同じベ トナム人の友達以外には話す機会がなかったという。  以下の記述はタムさんの同意を得て録音したインタビュー内容の一部である。タムさんが話した内 容をできるだけそのまま記録することを優先し、日本語の間違いや文法の合わない部分も修正せずそ のまま記載している。 表-8 タムさんのインタビュー記録 ( 抜粋 ):2017 年 12 月 10 日午後 8 時 44 分より

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 表―8 から、タムさんは最初仕事が下手で辛い経験をしたにもかかわらず、なんとか乗り切って今 仕事をしている Z 居酒屋からそれなりに認めてもらっていることがわかる(①)。過酷な労働環境の 中でもあきらめず、Z 居酒屋での仕事を 2 年も続けたため、今は大丈夫になったと語っている。しか も、他の人(自分と同じ職場でいじめられているドンさんのこと)を心配してくれるほど、優しい態 度を見せている(②)。また、日本でしている仕事の意味に関して、「夢がある」と語った(③)。日 本では日本語が下手でも仕事する機会を与えてくれるし、料理が美味しくてお金も稼げるため、家の 近くにあるベトナム料理屋のような店をいつか自分も持てると、タムさんは信じている。また、まわ りのベトナム人もみんな一所懸命に働いていて、辛いと思って母国に帰ってしまうと負けることだと 思っていると、述べている箇所に目が引かれる(④)。  寝る時間が足りないほど過酷な環境に置かれているにも関わらず、彼が日本に対して肯定的に考え ている背景には、恐らくベトナムにいた時、仕事がなくて困った経験があるようだ(⑤)。彼に仕事 がなく、お金が足りない自分のことを無能だと思い、そのせいで当時付き合っていた女性とも別れた と考えている(⑥)。お金がないと何もできないと、タムさんは感じている(⑦)。その後続いた会話 から、お金は力であり、力がなければ、自分が好きなもの、大切に考えているものを守れないという 主旨の話をタムさんは続けた。  今彼が一番望んでいるのは日本で正規職として就職することである。だが今の日本語の実力では、 出来ないという危機意識をタムさんは持っている。だからできるだけ学校に出席し、授業に集中しよ うとしていた。しかし、仕事を三つもしているため、どうしても授業中に寝てしまうのである。  彼によると、借金の返済をしないといけないからずっと仕事をして、眠くなるからまた授業に集中 できなくなる。しかし仕事を減らしてしまうと、借金返済に支障をきたすか、ベトナムにいる家族に 送る金額が減ってしまう。だからこの 1 年間辛くても仕事を増やし、来年には貯蓄した資金を使いな

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がらより勉強に集中し、就職活動をすると彼は考えていた。日本はいくら技術を持っていても日本語 の問題を有していると就職できない国であるとタムさんは考えている。そのため専門学校で学んでい る IT 技術の習得よりも、日本語能力を今より向上させないといけないと判断している。そのため最 も効率的な日本語習得手段の一つが、仕事をしながら言葉を学ぶことだと、彼はそう判断しているよ うであった。タムさんの夢の実現条件は、学校とか人脈でなく、「お金」なのであった。お金さえあ れば、勉強は後でしても良いと彼は考えていた。  そうであるならば、彼にとって Z 居酒屋での労働とは何なのか。それは「お金を稼ぐ過程」であり、 彼にとってお金は「力」として認識しているため、金銭を獲得するため厳しいトレーニングが行われ る場がすなわち Z 居酒屋になる。タムさんによると力(お金)を獲得するため与えられる苦しさは「も ともと仕方がないもの」であり、それを乗り越える者こそ真なる「力」を獲得するのである。  彼の仕事に対する認識は、ドンさんのそれ(拒否できない圧力)とある程度似ていると考えられる。 生きていくためには仕事をするしかないが、その仕事の場所は力を獲得する「試練の場」でもあり、 辛くても耐えると報酬と認定をもらえる空間となっている。たとえ最初は日本人から嫌われたとして も、不当な指示や労働環境に耐えると、やがて認めてもらうことになる。彼にとって不当な労働環境 は積極的に抵抗しないといけない対象ではなく、どうぜ避けられないものとして扱われている。彼は 単なる諦めに留まらず職場の理不尽を我慢することによってまわりの日本人からの認定をもとめ、未 来に日本社会の成員として生きていきながら自分の店を持つという夢をみているのである。その夢こ そが彼が現実に耐える理由となっている。  以上のドンさんとタムさんのインタビューから、少なくとも居酒屋 Z で働いているベトナム人従 業員達は ①仕事で彼らが経験する理不尽なことや難しさを「仕方ないこと」として受け入れている 点、②日本で生きていくためには耐えないといけないし、そもそも自分の日本語能力の未熟さから生 じる問題として認識している点、③それにもかかわらずあえて仕事からそれなりの意味を見出そうと 努力している点(ドンさんの場合実践で使える日本語が学べると述べ、タムさんは金銭という力を獲 得する場として認識している)、が強く認められる。

(3)カウンターアクション:抵抗としての怠業、仕事外のネットワーキング

 Z 支店で働いている留学生サービス労働者の労働への意味付けは、単なる肯定や主観的な解釈に留 まらない。時により具体的な抵抗や反発という形で彼らの労働に反映される場合がある。主に店舗で 働いている外国人労働者たちは、わざと作業スピードを落としたり、日本語が聞きとれても分からな いふりをしたりして指示を無視するなど、それなりの抵抗を試みている。  サリナさんは、この店舗で生き残る戦略として「わざと知らないふりをすればいい」ということを 筆者にアドバイスしてくれた。先述したドンさんも、職場でのいじめが原因だとはいえ、指示の一部 を無視して知らないふりをする形で実際不満を示しているのである。確かに彼らは「おもてなし精神」 「いわれる前にサービスすること」など、日本的サービス文化の影響をうけながら仕事をしている。  しかし同時に「外国人」としてのアイデンティティーを持ち、納得のいかない指示や規範に対して 抵抗しているのである。特に怠業や指示無視は、外国人だからこそ出来る特殊な形での抵抗である。 同じ仕事をしていても、外的権威に対してどのように行動するのかは、主体としてのアクターの性質 によって違いをもち、抵抗のあり方にも影響を与える。外国人だから不当な指示を受けた時、日本語 で抗議しても自分に不利になるということを理解するがゆえに、あえて「知らないふり」「理解でき ないふり」をし、言語を経由しない抵抗のあり方を認められる。

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 管理者としては、これらの抵抗が本当に日本語を理解していないから生じたものか、それともわざ としているものか、区別し難い。外国人留学生労働者はこの点をよく理解している。そのうで、抗議 の手段として適切に用いている。  また、彼ら留学生労働者は店内で従業員同士の外国語使用禁止に対抗するため個人的に電話番号や メールアドレスなどを交換し、店外で会ったり仕事が終わった後、管理者への不満や店に対する不満 をシェアしたりする形で連帯感を高めている。こうして共有された不満などは、Z 支店の留学生労働 者たちにとって今後どう対抗していくかという「集団的知識の形成」を促した。その結果が「怠業・ 指示無視」として現れたのである。筆者も店外でのランチ会に招かれ、一緒に食事しながら苦情を聞 く会に 2 回参加した。参与観察が終わり、留学生労働者たちに観察目的と今までの経緯を説明した後 でも一緒に働いた「仲間」として扱われ、研究内容の一部の掲載許可は勿論、持続的に店の事情を聞 く機会があった。  それ以外にも例えば、「花子さんと幸子さんはヘルプで来るいい人だからできるだけ協力して仕事 をするようにしよう」とか、「愛子さんは機嫌が悪いと髪の毛をずっと触るくせがあるから気をつけ よう」など、役立ちそうな情報が留学生労働者の店外での個人的連絡やランチ会などを通じて筆者ま でに共有された。つまり、留学生労働者はただの受け身として搾取されるのだけではなく、ささやか であるが抵抗や対策も考えながら職場と相互作用しているのである。

6.おわりに

 本稿では、留学生のパートタイム労働、その中でもサービス業、居酒屋で行われる労働実態を参与 観察によって検討した。留学生労働者がサービス業で経験している困難はどのようなものなのか、な ぜ劣悪な労働条件であるにも関わらず、彼らは働いているか、を分析してきた。Z 支店の事例では、 外国人留学生労働者たちが劣悪な労働条件を受け入れる条件として、店側から必ず一定以上の収入を 確保してくれるという条件が、交換されていた。  この交換の発見は、留学生の日本滞在に必要な生活費を調達しているあり方によって、彼らの選択 する労働環境を大きく左右している可能性を示唆する。しかし一定以上の収入保障と劣悪な労働条件 が交換されているとしても、これらが留学生労働者に押しつけている搾取を正当化できない。また、 彼らは単なる収入の獲得でなく、少なくとも人と接するサービス職を選ぶことによって、実践に使え そうな日本語習得を目的ともしていた。この点において、日本語教育機関により、留学生達のニーズ にあった日本語教育を提供することが望ましいといえよう。  Z 支店の留学生労働者たちの主な不満は、「母語での会話禁止や指示の曖昧さ」であった。この不 満を解決することで日本人労働者との摩擦を多少減らすことができるかも知れない。例えば現場でよ く発生する問題をまとめて分かりやすくイラストなどを通じて説明するマニュアルを作ったり、顧客 の見ない所で母語によるコミュニケーションを許可したりする方法が検討されるべきである。  最後に、Z 支店の外国人留学生労働者が持つ特殊な「抵抗」のあり方が明らかになった。つまり日 本語の能力不足によって職場内の日本人パートタイマーとの摩擦が生じると、同時に「指示が聞き取 れても聞かないふりをして怠業する」手段として機能していることが確認された。これは労働者が不 当だと思う指示に対して抗議する際に、その主体がどのような特性を持っているかによって、異なる 抵抗戦略の採られる可能性を示唆する。ただし、このような戦略は外国人留学生労働者だけのものな のか、それとも外国人労働者全般に適用できるものなのか、追加検討が必要であると考えられる。

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 本稿で扱っている Z 支店の事例はサービス業全般に一般化して考えるには無理である。しかし日 本人パートタイマーと外国人留学生パートタイマーが混在して働いている空間に生じている問題を分 析し、改善するための参考になるだろう。勿論上述したようなコミュニケーション方式や労働条件の 改善も重要であるが、それより最も大事なのは留学生パートタイマーと日本人パートタイマー、互い の理解を深めることではないだろうか。空間的な分離はコミュニケーションを妨げるのは無論、相互 理解の余地を狭めてしまう。今後留学生サービス労働者の数が増えると予想されるだけに、現場で行 われる空間的分離や「おもてなし精神」の解釈をめぐって生じる葛藤、日本人労働者との摩擦は解決 しなければならない課題だと思われる。 (1)  本稿では、日本におけるの外国人留学生のうちのかなりの割合の人々が就労することを主目的に来日して いるという事実に注目し、それらの人々とを留学生労働者と呼んでいる。 (2)  事前に参与観察をしていることを観察の対象に知らせてしまうと、ホーソン効果(Hawthorn effect)が生 じてしまう。つまり生じ、観察対象者が研究者により見られていることを認識し過ぎて、普段と異なる行 動を見せる可能性が発生する。そのため、あるため、やむを得ず最初は観察参与観察を実施していること 目的を隠したて参加することにした。 (3)  通常週末とは土曜日、日曜日を意味するが、E 社の Z 支店では金・土・日曜日を週末としてあつかっていた。 (4) 店が特定される恐れがあるため、研究倫理を配慮して、店舗の見取り図を示すのは断念した。 (5) Z 支店は便宜上これを早番として扱っている。 (6) テーブルの片づけや掃除などを示すサービス業の用語。 (7) 主に客からの食べ物や飲み物のオーダーを入力する小さなサイズの端末装置。 参考文献 出井康博(2016)『ルポ ニッポン絶望工場』講談社+α親書 出井康博(2019)『移民クライシス:偽装留学生,奴隷労働の最前線』角川新書 伊原亮司(2016)『トヨタと日産にみる<場>に生きる力:労働現場の比較分析 : 製造業での参与観察』桜井書店 大宮俊亮(2015)『外国人ホワイトカラーのキャリアの限界──なぜ外国人は昇進できないのか』一橋大学修士 学位論文 Klicka Petr(2013)『日本企業における外国人ホワイトカラーの雇用管理──「雇用形態」に着目して』一橋大 学修士学位論文 岸政彦、石岡丈昇、丸山里美 (2016)『質的社会調査の方法──他者の合理性の理解社会学 』有斐閣ストゥディ ア店 駒井洋(監修),津崎克彦(編著)(2018)『産業構造の変化と外国人労働者:労働現場の実態と歴史的視点』明 石書店 JASSO(2019)『平成 29 年度私費外国人留学生生活実態調査概要』日本学生支援機構 https://www.jasso.go.jp/about/statistics/ryuj_chosa/__icsFiles/afieldfile/2019/04/04/ryujchosa29 p00_4.pdf より取得 志浦啓(2015)『外国人留学生の受入れとアルバイトに関する近年の傾向について』日本労働研究雑誌 No.662 巣内尚子(2019)『奴隷労働:ベトナム人技能実習生の実態』花伝社 鈴木江理子(2013)「留学生と日本社会 : 誰のための受入れなのか ?」『特集 留学生をとりまく環境と課題:移住 労働者と連帯する全国ネットワーク情報誌』移住労働者と連帯する全国ネットワーク 芹澤健介(2018)『コンビニ外国人』新潮新書

(22)

近間由幸(20197)「衣料品チェーンストア A 社における非接客労働の重要性──アルバイト店舗販売員の参与 観察を通した事例研究──『労働社会学研究』第 20 巻

参照

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