日本重症心身障害学会誌第 43 巻 3 号 551 〜 556(2018)
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国立病院機構 四国こどもとおとなの医療センター 薬剤師 連絡先 〒 765 − 8507 香川県善通寺市仙遊町 2 丁目 1 − 1 国立病院機構 四国こどもとおとなの医療センター (杉 理江) (受付日:2018.3.26,受理日:2018.8.27) 要約 四国こどもとおとなの医療センターにおいて2014年4月1日~2016年10月31日の間に、血清マグネ シウム値を測定した重症心身障害病棟に入院中の患者92名を対象とし、重症心身障害児(者)(以下、重症児 (者))の血清マグネシウム値と酸化マグネシウムが与える影響について後ろ向きに検討を行った。調査期間 中において、生活の自由度が低い重症児(者)は血清マグネシウム値が低い傾向があり、酸化マグネシウムの 投与により血清マグネシウム値が補正された可能性があった。また、酸化マグネシウム投与患者の血清マグ ネシウム値の変動は投与量に相関はなく、長期投与で上昇する傾向があった。 キーワード:重症心身障害、酸化マグネシウム ム血症に十分注意が必要である1, 2)。 重症心身障害は慢性便秘症の内科的疾患とされ る3)。原因は、寝たきりで腸への機械的な刺激が少 ない、筋緊張の異常を伴う運動障害のために腹圧が かけられないなどがある。下剤の投与は長期に及ぶ ことが多く、高マグネシウム血症に十分注意が必要 とされる長期投与、便秘症のリスク条件をもってい る。しかしながら、海外では酸化マグネシウムはあ まり使用されず、国内においても報告が少ない3)た め、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の血清 マグネシウム値に酸化マグネシウムが与える影響 は不明な部分が多い。 今回、四国こどもとおとなの医療センター(以下、 当院)において重症心身障害病棟に入院中の重症児 (者)の血清マグネシウム値と酸化マグネシウムが 与える影響について後ろ向きに検討を行ったので 報告する。 Ⅱ.方法 1.対象患者 2014年4月1日~2016年10月31日の間に、当 院において血清マグネシウム値を測定した重症心 身障害病棟に入院中の患児(者)92名を対象とした。 2.調査項目短報
重症心身障害児(者)の血清マグネシウム値と
酸化マグネシウムが与える影響
杉 理 江 林 武 文 Ⅰ.はじめに 酸化マグネシウムは1950年から便秘症や制酸 剤などとして広く使用されており、関連企業による 2013年の推定使用患者数は約1000万人である1)。 低薬価で習慣性がないため長期投与しやすい薬剤 であるといえる。しかし、酸化マグネシウムによる 高マグネシウム血症について、高齢者(65歳以上) や便秘症の患者が多く、腎機能が正常な場合や通 常用量以下であっても重篤な転帰をたどる例が認 められたため、平成27年10月20日にさらなる注 意喚起が図られた1)。高マグネシウム血症は、呼吸 抑制、意識障害、不整脈、心停止に至ることがある ため、初期症状に注意し、定期的に血清マグネシウ ム濃度を測定するなど高マグネシウム血症の発症 に注意しなければならない。特に、長期投与、高齢 者、便秘症の患者へ投与する場合には高マグネシウ性別、年齢、血清マグネシウム値測定日の看護度 別患者分類の生活の自由度Ⅰ(常に寝たきり)とⅡ (自力でベッド上で身体を起こせる)(以下、生活の 自由度ⅠとⅡ)、酸化マグネシウム処方日、処方日 数、処方量、血清マグネシウム値、血清クレアチニ ン値、血清アルブミン値を電子カルテより後ろ向き に調査した。調査期間中に複数回血液検査を行っ た患児(者)の各検査値は中央値を用いた。年齢は調 査開始時、処方量は定期処方となり変更がなくなっ た量を用いた。生活の自由度は調査期間中に変更が あった患児(者)はいなかった。 3.統計解析 生活の自由度ⅠとⅡ酸化マグネシウムの投与あ り、なしの血清マグネシウム値については4群間の 差をKruskal-Wallis検定によって分析し、 Games-Howell検定により多重比較を行った。酸化マグネ シウム投与量と血清マグネシウムの関係性はスピ アマンの順位相関係数を用いて評価した。統計解析 ソフトウェアSPSS version17を用い、p <0.05を 有意差ありとした。本研究は、四国こどもとおとな の医療センター倫理審査委員会の承認を得て行っ た(承認番号:H29-32)。 Ⅲ.結果 1.患者背景 当院において血清マグネシウム値を測定した重 症心身障害病棟に入院中の患児(者)92名の患者背 景を表1に示す。年齢の中央値は47(4~70)歳、 性別は男、女がそれぞれ44、48名であった。血清 クレアチニン値の中央値は0.44(0.05~1.71) mg/ dL、血清アルブミン値の中央値は3.7(1.9~4.5) mg/dLであった。 2.重症児(者)の血清マグネシウム値 重症児(者)の血清マグネシウム値を図1に示す。 血清マグネシウム値は1.6 mg/dLから3.75 mg/dL の間に分布し、高マグネシウム血症の症状が出てく るとされる4.8 mg/dL1)以上の患児(者)はいなかっ た。中央値は2.1(1.6~3.8) mg/dLであった。ま た、血清マグネシウム値は、生活の自由度Ⅰ投与な し群1.9(1.6~2.2) mg/dL(n=13)、生活の自由 度Ⅰ投与あり群2.2(2.0~2.4) mg/dL(n=28)、 生活の自由度Ⅱ投与なし群2.2(1.8~3.8) mg/dL (n=15)、生活の自由度Ⅱ投与あり群2.2(1.8~ 2.5) mg/dL(n=36)であった。4群間で中央値に 有意差を認め(Kruskal-Wallis検定p <0.05)、生活 の自由度Ⅰ酸化マグネシウム投与なし群の血清マ グネシウム値は他の群に比べて低い傾向があった (Games-Howell検定p <0.05)(図2)。 3.酸化マグネシウム投与量と血清マグネシウムの 関係性 酸化マグネシウム投与量と血清マグネシウムの 関係性を図3に示す。酸化マグネシウム投与量と血 全体 (n=92) 生活の自由度Ⅰ 酸化マグネシウム 投与なし (n=13) 生活の自由度Ⅰ 酸化マグネシウム 投与量1g 未満 (n=8) 生活の自由度Ⅰ 酸化マグネシウム 投与量1g 以上 (n=7) 生活の自由度Ⅱ 酸化マグネシウム 投与なし (n=28) 生活の自由度Ⅱ 酸化マグネシウム 投与量1g 未満 (n=20) 生活の自由度Ⅱ 酸化マグネシウム 投与量1g 以上 (n=16) 年齢 中央値(範囲) 47(4-70) 56(34-68) 37(18-44) 43(36-60) 53(4-70) 42(9-64) 46(9-64) 性別 男/ 女 44/48 4/9 1/7 3/4 15/13 11/9 10/6 生活の自由度 Ⅰ/ Ⅱ 28/64 マグネシウム製剤 投与量(mg) 中央値(範囲) - - 660(500-990)1500(1000-1980) - 660(660-990)1410(1000-3000) 血清クレアチニン値 (mg/dl) 中央値(範囲)0.44(0.05-1.71)0.50(0.26-0.69)0.51(0.25-0.74)0.51(0.24-0.64)0.5(0.05-2.24) 0.3(0.1-1.1) 0.5(0.3-1.0) 血 清 ア ル ブ ミ ン 値 (mg/dl) 中央値(範囲) 3.7(1.9-4.5) 3.7(3.0-4.7) 3.8(3.7-4.3) 3.7(3.3-4.3) 3.7(2.4-4.8) 3.6(3.0-4.3) 3.7(2.0-4.1) 表1 患者背景
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血清Mg値(mg/dl) 3.75 3.10 2.95 2.80 2.50 2.40 2.35 2.30 2.25 2.20 2.15 2.10 2.05 2.00 1.95 1.90 1.85 1.80 1.60 (人) 20 15 10 5 0 図1 血清マグネシウム値の分布 生活の自由度Ⅱ 投与あり (n=36) 生活の自由度Ⅱ 投与なし (n=15) 生活の自由度Ⅰ 投与あり (n=28) 生活の自由度Ⅰ 投与なし (n=13) 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 73 33 58 51 56 29 27 血 清 マ グ ネ シ ウ ム 値 ︵ m g/ dl ︶ p=0.04 p=0.03 p=0.01 図2 生活の自由度Ⅰ群とⅡ群の血清マグネシウム値 清マグネシウム値はほぼ相関がなかった(スピアマ ンの順位相関係数p =0.132)。 4.酸化マグネシウムの投与期間と血清マグネシウ ム値の関係性 酸化マグネシウムの投与期間が1年未満と1年以 上群の血清マグネシウム値を図4に示す。血清マグ ネシウム値は酸化マグネシウムの投与期間が1年未 満群2.0(2.0~2.1) mg/dL(n=4)、1年以上群 2.2(1.8~2.5) mg/dL(n=47)であった。 Ⅳ.考察 酸化マグネシウム服用と因果関係が否定できな い高マグネシウム血症が平成24年4月から平成27 年6月までに19例報告され1)注意喚起が図られた。長期投与、高齢者、便秘症の患者に特に注意が必要 とされている。重症児(者)は便秘傾向であり長期に 酸化マグネシウムが投与されることがある。マグネ シウム製剤は腎機能に応じた投与量を設定するこ とで安全に使用できる4)という報告があるが、重症 児(者)は筋肉量が少なく血清クレアチニン値での 腎機能の評価が難しいため排泄障害に気付きにく い可能性が考えられる。また、酸化マグネシウムは 投与量(mg) 3000 2000 1000 0 3.0 2.8 2.6 2.4 2.2 2.0 1.8 1.6 血 清 マ グ ネ シ ウ ム 値 ︵ m g/ dl ︶ 投与期間 1年以上 (n=47) 1年未満 (n=4) 3.0 2.8 2.6 2.4 2.2 2.0 1.8 1.6 22 21 血 清 マ グ ネ シ ウ ム 値 ︵ m g/ dl ︶ 図3 酸化マグネシウム投与量と血清マグネシウムの関係性 図4 酸化マグネシウムの投与期間が1年未満群と1年以上群の血清マグネシウム値
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腸管からほとんど吸収されない2)が、腸管からのマ グネシウム吸収の亢進は便秘症の持続による腸管 拡張症、腸管運動機能低下、腸閉塞、腸管壊死、腸管 穿孔などでみられる5)との報告があり、排便コント ロールがうまくいかなければ腸管に停留したマグ ネシウムが過吸収となる可能性がある。さらに、高 マグネシウム血症の初期症状の嘔吐、徐脈、筋力低 下、傾眠1)は重症児(者)で気づきにくい症状のため 発見が遅れる可能性がある。このため重症児(者)は 高マグネシウム血症のリスクがあるが、重症児(者) の血清マグネシウム値に酸化マグネシウムが与え る影響に関する報告は少ない。 今回の検討では、生活の自由度Ⅰ酸化マグネシウ ム投与なし群の血清マグネシウム値は低い傾向が あった(図2)。重症児(者)は摂食・嚥下障害を高率 で発症しており6)、マグネシウム摂取不足による低 マグネシウム血症のリスクが考えられる。慢性的な マグネシウムの欠乏は心臓血管の障害をもたらす ことが多くの疫学的、実験的および臨床的研究で認 められている7)。生活の自由度が低い重症児(者)は 摂取不足による慢性的なマグネシウムの欠乏のリ スクがあり、酸化マグネシウム製剤投与により慢性 便秘治療に加えて不足しているマグネシウムが補 正された可能性が考えられる。 一方、血清マグネシウム値は投与量とほぼ相関が なかった(図3)が、投与期間が1年以上群の血清マ グネシウム値は1年未満群より高い傾向があり、重 症児(者)の血清マグネシウム値は長期投与で高く なる可能性が示唆された(図4)。重症児(者)は下剤 の長期投与が必要となることが多く、定期的な血清 マグネシウム値の測定が重要であると考える。 今回の検討では、患児(者)の便の様子による酸化 マグネシウム投与量の調節が電子カルテから確認 できず、実際の投与量ではなく処方量での検討であ るが、血清マグネシウム値は投与量とほぼ相関がな く投与量から血清マグネシウム値の上昇を予測す ることはできなかった。また、今回の検討では、当 院の電子カルテの更新時期の関係で1年以上群の正 確な投与期間が確認できず、1年以上の詳細な投与 期間の解析が不十分であるが、マグネシウム製剤の 長期投与は血清マグネシウム値上昇のリスク因子 となることが示唆された。一方、重症児(者)は摂取 不足による慢性的なマグネシウムの欠乏のリスク があり、それぞれのリスクを考慮した副作用のモニ タリングを行うことで患児(者)に有益な薬剤の選 択肢を増やすことができると考える。今後は、高マ グネシウム血症のリスク因子のさらなる検討が必 要であると考える。 Ⅴ.利益相反 本論文の著者は、開示すべき利益相反はない。 文献 1)厚生労働省医薬・生活衛生局.酸化マグネシウムによる高マ グネシウム血症について.医薬品・医療機器等安全性情報 328:3-6.2015. 2)協和化学工業株式会社.マグミット®錠200mg/マグミット® 錠250mg/マグミット®錠330mg/マグミット®錠500mg.イン タビューフォーム改訂第6版.2015年10月改訂:16-20. 3)中山佳子ら.診断.日本小児栄養消化器肝臓学会ら編.小児 慢性機能性便秘症診療ガイドライン.東京:診断と治療社, 2013:28-30. 4)中村忠博ら.酸化マグネシウム製剤の腎機能低下患者におけ る血清マグネシウム値への影響.日本腎臓病薬物療法学会誌 2:3-9.2013. 5)斎藤 昇.高齢入院患者の血清マグネシウム値への腎機能障 害と酸化マグネシウム投与の影響.日本老年医学会雑誌48: 263-70.2011. 6)小原 仁ら.重症心身障害児(者)の摂食・嚥下障害と栄養 管理.医療68:260-5.2014. 7)糸川嘉則.カルシウム、マグネシウムの生体中での挙動.無 機マテリアル1:420-6.1994.Effects of serum magnesium level and magnesium oxide in children (adults) with severe motor and intellectual disabilities.
Rie Sugi,Takehumi Hayashi
Department of Pharmacy, Shikoku Medical Center for Children and Adults, Zentsuji City Kagawa prefecture, Zentsuji, Kagawa Effects of serum magnesium level and magnesium oxide in children (adults) with severe motor and intellectual disabilities (SMID) were investigated retrospectively. Subjects were 92 hospitalized patients with SMID ward at Shikoku Medical Center for Children and Adults whose serum magnesium levels were measured between April 1, 2014 and October 31, 2016. During the investigation period, serum magnesium levels tended to be low in the patients with SMID who had limited life freedom, and serum magnesium levels were probably corrected with magnesium oxide administration. Furthermore, there was no correlation between dose and serum magnesium level fluctuation in magnesium oxide-administered patients, and levels tended to increase with long-term administration.