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戦略プランニングにおけるクリエイティブブリーフの国際比較
戦略プランニング研究所村 尾 俊 一
多摩美術大学佐 藤 達 郎
本研究は、戦略プランニングの発想の元となり、またクリエイティブや他部門と の橋渡し役をするクリエイティブブリーフを取り上げ、戦略プランニングとクリエ イティブブリーフの関係を明らかにするとともに、関係者へのインタビューを通じ て日本と欧米を比較し、その実態・理由・変化を明らかにすることを目的とする。 欧米系広告代理店と国内大手広告代理店における、クリエイティブブリーフを中心 とした戦略プランニングのフォーマットの有無や使われ方について、その相違が明 らかとなり、相違を生み出す背景についても分析した。 【キーワード】 戦略プランニング アカウントプランニング クリエイティブブ リーフ 共有フォーマット デジタルシフトⅠ.はじめに
広告ビジネスの世界では、クリエイティブの発想の元となる戦略を策定する際に、ブラン ドのビジネス上の課題と消費者が真に欲するものを的確に結びつける作業を「戦略プランニ ング(Strategic Planning)」と呼ぶ。その作業を担当する戦略プランナー(Strategic Planner or Planner)は、大手広告代理店では一般的な職種となっている1)。 筆者らは、戦略プランニングの現状と変化を捉えるために、具体的なプランニング手法に 注目した調査を実施することとした。そのプランニング手法は、クリエイティブブリーフあ るいはそれに相当する「戦略プランニングを発想し、共有するためのツールとしてのフォー マット」(以下、「クリエイティブブリーフ」と呼ぶ)の使用である。戦略プランナーの具体 的な仕事は、「クリエイティブブリーフを書く」ことが中心となる。クリエイティブブリーフ は、クリエイティブチームが、それを基にクリエイティブジャンプ(戦略に基づきクリエイ ティブアイディアを開発すること)を試みるための、クリエイティブ戦略を要約した書類で ある。 筆者らの広告ビジネスにおける実務経験を通じて得られた知見2)によれば、欧米では広告 代理店ごとに統一されたクリエイティブブリーフがあり、その使用が標準的で、会社によっ ては使用が義務付けられている。一方、日本の広告代理店では、そもそも存在しないか、存 研究プロジェクト報告(指定課題)― 18 ― 在しても使う人は一部に限られ、全社的なツールとしては定着していないケースが多い。 これらの知見は、本当にそうなのか。このようなクリエイティブブリーフ使用の傾向が見ら れるとしたら、何故そうなるのか、筆者らは確認したいと考える。また現在では、デジタル 化やソーシャルシフトが進行し、顧客接点マネジメントが重要視されているが、クリエイティ ブブリーフの使用法に変化があるのではないか。これらを調査することにより、戦略プラン ニングの現状と将来を認識できるのではないかと筆者らは考える。 本研究は、戦略プランニングの発想の元となり、またクリエイティブや他部門との橋渡し 役をするクリエイティブブリーフを取り上げ、戦略プランニングとクリエイティブブリーフ の関係を明らかにするとともに、関係者へのインタビューを通じて日本と欧米を比較し、そ の実態・理由・変化を明らかにすることを目的とする。
Ⅱ
. 先行研究と本論文の問題意識
1.戦略プランニングとクリエイティブブリーフ 戦略プランニングに使用されるクリエイティブブリーフは、企業の秘密情報とされ、外部 には公開しないのが原則である。そこには会社独自の、戦略プランニングに関する思想、考 え方、方法論が含まれているからである。また、共有フォーマットの数も、ある外資系企業 のようにクリエイティブブリーフを含めて30 以上あるところもあれば、別の日本企業のよう にフォームは3 つだけというところもあり、千差万別である。広告の実務経験のない人々には、 その実態が非常に分かりにくいものである。 戦略プランニング全体のプロセスを図1 に示す(King,2007)。「今どこにいるか」「何故そ こにいるか」「どこにいけるか」「どうやってそこにいくか」「そこに行きつつあるか」の5 つ の質問で構成した非常にシンプルなものである。これを、戦略プランニングの用語に置き変 えると、①現状分析、②要因分析、③コミュニケーション目的、④実施案、⑤結果の分析と なる。図1 King(2007, Figure5.1, 75)による戦略プランニングの全体像(King を基に筆者作成)
- 2 - れるとしたら、何故そうなるのか、筆者らは確認したいと考える。また現在では、デジタル化 やソーシャルシフトが進行し、顧客接点マネジメントが重要視されているが、クリエイティブ ブリーフの使用法に変化があるのではないか。これらを調査することにより、戦略プランニン グの現状と将来を認識できるのではないかと筆者らは考える。 本研究は、戦略プランニングの発想の元となり、またクリエイティブや他部門との橋渡し役 をするクリエイティブブリーフを取り上げ、戦略プランニングとクリエイティブブリーフの関 係を明らかにするとともに、関係者へのインタビューを通じて日本と欧米を比較し、その実態・ 理由・変化を明らかにすることを目的とする。
Ⅱ.先行研究と本論文の問題意識
1.戦略プランニングとクリエイティブブリーフ 戦略プランニングに使用されるクリエイティブブリーフは、企業の秘密情報とされ、外部に は公開しないのが原則である。そこには会社独自の、戦略プランニングに関する思想、考え方、 方法論が含まれているからである。また、共有フォーマットの数も、ある外資系企業のように クリエイティブブリーフを含めて30 以上あるところもあれば、別の日本企業のようにフォーム は3 つだけというところもあり、千差万別である。広告の実務経験のない人々には、その実態 が非常に分かりにくいものである。 戦略プランニング全体のプロセスを図 1 に示す(King,2007)。「今どこにいるか」「何故そこ にいるか」「どこにいけるか」「どうやってそこにいくか」「そこに行きつつあるか」の5 つの質 問で構成した非常にシンプルなものである。これを、戦略プランニングの用語に置き変えると、 ①現状分析、②要因分析、③コミュニケーション目的、④実施案、⑤結果の分析となる。図1 King(2007, Figure5.1, 75)による戦略プランニングの全体像(King を基に筆者作成)
図2 は、戦略プランニングの 5 つの段階に、それぞれの段階で使われる共有フォーマットを あてはめたものである。クリエイティブブリーフは、現状分析、要因分析、コミュニケーショ どうやって そこへいくか そこにいきつつ あるか どこにいけるか 今どこにいるか なぜそこに いるか (コミュニケーション目的) (実施案) (要因分析) (現状分析) (結果の分析)
― 19 ― 図2 は、戦略プランニングの 5 つの段階に、それぞれの段階で使われる共有フォーマット をあてはめたものである。クリエイティブブリーフは、現状分析、要因分析、コミュニケーショ ン目的が明確になった後に作成される最も重要な共有フォーマットである。共有フォーマッ トには、要因分析で使用されるSWOT 分析、他にポジショニング分析、インサイト分析など がある。 大手外資系広告代理店のCEO を務めた Roman(2003)は、①我々の目的は何か、②誰に 語りかけるか、③消費者へのキーベネフィットまたはコアアイディアは何か、④消費者が我々 が言っていることを信じる理由はなにか、⑤トーンアンドマナーで注意する点、をクリエイ ティブブリーフに書かれる要素として紹介している。 これらの共有フォーマットは、マス広告を中心とする1980 年頃のものである。デジタル化 が進展した後の戦略プランニングの現状と課題については解明されていない。 図2 1980 年頃の戦略プランニングと共有フォーマットの関係(King(2007)を基に筆者作成) 2.先行研究のまとめと本研究の問題意識 戦略プランニングの分野の主要な先行研究は、その始祖と言えるアカウントプランニング3) や広告計画ついての論文や著作である。それらの先行研究から明らかになった戦略プランニ ングの発展の歴史と問題点をまとめると以下のようになる。 ①1960 年代まで、広告計画の中の広告表現として、受け手の認知の構造に変化を与え人 の心を動かす目的の広告クリエイティブ戦略は、多くの論者に直接にはほとんど触れら れていなかった。(水野、2004) ②1968 年、米国流の数字やデータを重視する量的調査依存の広告計画への批判から、英 国のKing(2007)と Pollitt(2007)により、質的調査を重視し消費者をプランニングの - 3 - ン目的が明確になった後に作成される最も重要な共有フォーマットである。共有フォーマット には、要因分析で使用されるSWOT 分析、他にポジショニング分析、インサイト分析などがあ る。 大手外資系広告代理店のCEO を務めた Roman(2003)は、①我々の目的は何か、②誰に語りか けるか、③消費者へのキーベネフィットまたはコアアイディアは何か、④消費者が我々が言っ ていることを信じる理由はなにか、⑤トーンアンドマナーで注意する点、をクリエイティブブ リーフに書かれる要素として紹介している。 これらの共有フォーマットは、マス広告を中心とする1980 年頃のものである。デジタル化が 進展した後の戦略プランニングの現状と課題については解明されていない。 図2 1980 年頃の戦略プランニングと共有フォーマットの関係(King(2007)を基に筆者作成) 2.先行研究のまとめと本研究の問題意識 戦略プランニングの分野の主要な先行研究は、その始祖と言えるアカウントプランニング3) や広告計画ついての論文や著作である。それらの先行研究から明らかになった戦略プランニン グの発展の歴史と問題点をまとめると以下のようになる。 ①1960 年代まで、広告計画の中の広告表現として、受け手の認知の構造に変化を与え人の心 を動かす目的の広告クリエイティブ戦略は、多くの論者に直接にはほとんど触れられてい なかった。(水野、2004) ②1968 年、米国流の数字やデータを重視する量的調査依存の広告計画への批判から、英国の King(2007)と Pollit(2007)により、質的調査を重視し消費者をプランニングの中心におくア カウントプランニングが発案された。 ③アカウントプランニングは、広告会社の組織の名前であり、原理や信条をふくみ、プラン 実施案 結果の分析 コミュニケー ション目的 現状分析 要因分析 ビジネスゴール/ポジショニング分析 ブランドの目的 クリエイティブブリーフ ブランド戦略/クリエイティブアイディア メディアプラン/BTL プラン SWOT 分析/消費者インサイト 一番重要な点 市場/業界/消費者/競合他 定量・定性調査
― 20 ― 中心におくアカウントプランニングが発案された。 ③アカウントプランニングは、広告会社の組織の名前であり、原理や信条をふくみ、プラ ンニングの方法論でもあったため誤解されやすかった。(Feldwick, 2007) ④アカウントプランニングという言葉は、英国では9 割近くの人が使い定着している (Morrison, Haley, 2006)。米国ではストラテジックプランニングまたはプランニングが一 般的である。一方日本では、アカウントプランニング活動は、調査した8 割の会社があ ると答えているが、6 割の会社で専門組織がなく営業が代行し、6 割の会社でクリエイティ ブブリーフも使われていない(小林・中尾、2008)。またアカウントプランニングとい う呼称は日本ではほとんど使われていない。 ⑤1960 年代まで広告計画と広告表現と呼ばれていたものは、1968 年以降アカウントプラ ンニングへと名称を変えていった。現在では、それは戦略プランニングとクリエイティ ブ戦略という言い方が一般的となっている。 ⑥戦略プランニングとクリエイティブブリーフの関係についての先行研究によると、1980 年頃のマス広告中心の時代のクリエイティブブリーフは、いくつかの著作で紹介されて いるが、デジタル化の進んだ現代のものはまだ解明されていない。 これらのことを踏まえ、本研究では以下の問題意識に基づき研究を進める。 ①日本と欧米におけるクリエイティブブリーフの活用の実態はどのようなものなのか。 ②活用の実態に差があるとすれば、その理由は何か。背景となるものは何か。 ③デジタルシフト/ソーシャルシフトが進行した時代における活用の実態はどのように なっているのか。
Ⅲ.研究方法
1.インタビュー対象者 本研究では、国内大手広告代理店と欧米系広告代理店(日本支社と本国の双方)の戦略プ ランニング部門の責任者に相当する戦略プランナーをインタビュー対象者とした。彼らは、 戦略プランニングに関する豊富な業務経験と見識を持っている。またそれぞれの所属会社の 戦略プランニング部門のトップやマネジャーを務め、プランニングとマネジメント両方の観 点を踏まえた知見や意見を有しているからである。 欧米系広告代理店日本支社が7 社 8 名(1 社については合弁会社で国内クライアントを多 く担当し仕事のやり方に日本的側面も強く感じられたので、欧米人と日本人の2 名にインタ ビュー)、日本国内大手が5 社 8 名、欧米系広告代理店本国(米国)5 社 5 名の合計 21 人である。 国内大手の上位3 社については、いずれも 1,800 名以上の大組織であることからより多様な 情報を得るため1 社につき 2 名を対象とした。また、国内において中堅より下位の広告代理 店においては活発な戦略プランニングがあまり行われていないことを経験的知見として持っ ていたので、今回は大手に絞った。なお欧米系広告代理店本国(米国)に関しては、2015 年― 21 ― 10 月 4 ~ 6 日に行われた米国広告業協会のストラテジー・フェスティバルでインタビューを 行った。 2.インタビュー・記録方法 本調査では、「研究者が研究協力者から生活や自身の経験について話を聞く」半構造化イン タビュー(佐藤他、2015,56)を主としたケーススタディ・メソッドを用いて、調査対象に接 近し、有効な発見をするべく試みた。半構造化インタビューを採用したのは、インタビュー 対象者が広告会社の戦略の責任者であり、対象者の負担を少なくし、調査への協力を得やす くするためと、インタビュー対象者のものの見方がより明らかになるとの期待からである。 またインタビューによって得られたデータに対する分析の幅が広い事もこの方法を選んだ理 由である。 インタビュー対象者の選定に当たっては、定量調査で用いられる「ランダムサンプリング」 ではなく、定性調査で用いられる「理論的サンプリング」と呼ばれる手続きを取った。理論 的サンプリングの手続きは、『理論的飽和』と呼ばれる時点まで繰り返される。理論的飽和と は、 「あるカテゴリーに関連する異なった集団のサンプリングをいつ停止するかを決定する 基準は、理論的飽和とよばれる。飽和とはあるカテゴリーの特性を新たに展開できるデータ が見つからない状態を指す」(Uwe Flick, 2011, [邦訳]144)である。 理論的サンプリングの具体として、大きく3 つのステップをとった。第 1 ステップではまず、 欧米系広告代理店日本支社を対象に選んだ。関心領域に対する活動がより明確に生き生きと 表れることが想定され、また日本語でインタビューが可能なことからも、最初のインタビュー 対象として最適だと考えたからである。その内容の解釈がある程度進んだところで、第2 ス テップとして、今度は欧米系広告代理店日本支社との比較を基本としながら、国内大手広告 代理店の調査を行った。続いて、第1 ステップと第 2 ステップの解釈を進めつつ、第 3 ステッ プとして、欧米系広告代理店本国(米国)でのインタビューを行った。同じ欧米系広告代理 店でも、日本支社では日本の広告ビジネス界の慣習や日本人の文化的影響が時に大きく(日 本企業との合弁会社では特に顕著)、本国(米国)での状況を調査する必要を感じたためである。 第3 ステップまでのインタビューを終え解釈を試みたところで、Flick(2007)のいう新し いサンプルを検討しても何も新しいものが浮かび上がらなくなった「理論的飽和」4)の状態 だと判断し、分析を終えることとした5)。その条件とは、第 1 に、分析が収集したデータの 内容を漏れなく含んでおり、それらの関係にもとづき研究課題が論理的に説明できること、 第2 に分析が筆者の実務経験から来る知見に照らし合わせて納得の行くものであったこと、 第3 に導出された仮説が理論的・実践的な意味を持つこと、である。 インタビューに当たっては、特に冒頭の部分において、調査者も実務の経験があり戦略プ ランニングについて実感として理解していることを示し、また研究目的以外の使用意図がな いことも伝え、ラポール(信頼関係)の形成に務めた。今回採用した半構造化インタビュー では、「インタビューを行う側と受け手の間のラポール(信頼関係)によるところが大きい」(佐
― 22 ― 藤他、2015, 58)とされるからである。またインフォーマント(情報提供者)自身の所属する 組織のことなので部外者に対して明かすことへの抵抗も少なくない中、ホームページに載っ ているような公式的な見解だけではなく、実態に迫る必要性を強く感じていたためである。 インタビューでは、クリエイティブブリーフに焦点をあてた。半構造化インタビューとし て、「事前の仮説にもとづいて質問事項をあらかじめ決めて」おき、「その後、会話の流れに 応じて質問の変更や追加を行い、回答者の自由な反応を引き出す」ことに務め、データ収集 に当たった(佐藤他、2015, 56)。 あらかじめ設定しておいた質問事項を表1 に示す。 表1 質問事項 外国人プランナーのインタビューでは使用言語を英語とした。全てのインタビューは二人 で行い、一人は主に会話担当、一人は主に記録担当とした。上記の質問項目をもとに、海外 では約1 時間を予定し、国内では 1 時間から 1 時間半のインタビューを実施した。 全インタビューを許可を得て録音し、終了後すぐに、会話係りと記録係りがミーティングを 持ち、インタビュー内容の情報確認と、入手した資料がある場合はその確認をしたうえで、 インタビュー記録を作成した。 - 6 - 「事前の仮説にもとづいて質問事項をあらかじめ決めて」おき、「その後、会話の流れに応じて 質問の変更や追加を行い、回答者の自由な反応を引き出す」ことに務め、データ収集に当たっ た(佐藤他、2015, 56)。 あらかじめ設定しておいた質問事項を表1 に示す。 表1 質問事項 外国人プランナーのインタビューでは使用言語を英語とした。全てのインタビューは二人で 行い、一人は主に会話担当、一人は主に記録担当とした。上記の質問項目をもとに、海外では 約1 時間を予定し、国内では 1 時間から 1 時間半のインタビューを実施した。 全インタビューを許可を得て録音し、終了後すぐに、会話係りと記録係りがミーティングを 持ち、インタビュー内容の情報確認と、入手した資料がある場合はその確認をしたうえで、イ ンタビュー記録を作成した。
Ⅳ.インタビュー結果の概要
表 2~4 に、インタビュー結果の概要を示す。 表2 欧米系広告代理店日本支社のインタビュー結果の概要 フォーマットがあると答えた人 Q1.貴社には戦略プランニングのフォーマットがありますか。 Q2.実際に活用されていますか。どんなふうに活用していますか。 Q3.現場での評判はいかがですか。 Q4.フォーマットは何故必要ですか。どんな役割で、メリットがありますか。 Q5.10~20年前と比べて変化していますか。どんな変化ですか。 フォーマットが無いと答えた人 Q1.貴社には戦略プランニングのフォーマットがありますか。 Q2.フォーマット無しで戦略と他部門とのブリッジをどうしていますか。 Q3.現場の声はどうですか。フォーマットが必要ではという声はありませんか。 Q4.フォーマットを持つメリットは感じませんか。デメリットや困難は何ですか。 Q5.10~20年前と比べて変化していますか。どんな変化ですか。― 23 ―
Ⅳ.インタビュー結果の概要
表2 ~ 4 に、インタビュー結果の概要を示す。 表2 欧米系広告代理店日本支社のインタビュー結果の概要 - 7 - 名前・国・肩書 フォーマットの 有無 フォーマットの 活用法 現場での評判 役割・メリット 10年前、20年前 との変化 I氏 日本 欧米系 グループプランニング ディレクター ある。 6-7割は使っている。 現在は若干使用が減ってい る。 的がしぼれていい。ブリー フがあったほうがいい人が 7-8割。自由にやりたい人が 2-3割である。 チーㇺが同じ理解を持ち タスクを立てられる。共通 の理解の上にクリエイティ ブジャンプができる。 かつては広告で伝えてい た。今はいかにシェアーし てもらえるかが重要であ る。 矢井 日本 欧米系 シニアプランニング ディレクター ある。 フォーマット数50-100。 ものにより30-40年使用。 クリエイティブブリーフは 100%が使用。 全フォーマット使用は 2割くらいである。 Creative/SP/Digitalは フォームがありよりどころ ができる。ツールは使って もツールにしばられるな。 外資でいろんな人種と仕 事をするので、共通理解 のため必要性は高い。 World Made(世界中で共通 するインサイト) Digital Planning(デジタ ルをプランニングに) Data Analytics(ビック データ―の分析かつ活用) 板川 日本 欧米系 プランニング ディレクター ある INCITE Work(インサイト ワーク) Moment Work(モーメント ワーク) フォーマット通りの使用は 数%。国内のクライアント は7-8割でCreative Briefの フォーマットは不必要。 社内的にあまり使われて いない。プランナーのみ が使う。 考え方の共有、チェック項 目、クライアントのための メソッドである。 この10年変わらない。定性 調査でのインサイトが軽視 の傾向である。 内山 日本 欧米系 ヘッドオブ プランニング ある。 Disruption(ディスラプ ション) Clientとのワークショップ や提案時に使用。Global One Strategyの会社や日本 企業にも使用。 プランニングとクリエイ ティブは濃く使っている。 新規には濃く使い、既存は やや薄い。 世界で戦略を共有するツー ルである。クレデンシャル ツール。実務でのプランニ ングツールである。 戦略のへそDisruption(破 壊)を規定する事は今も重要 である。昔より一層現状を 打破し新しい可能性を求め る事が必要である。 伊藤 日本 欧米系 プランニング ディレクター ある。 フュージョン ドウブリーフ フォームの社内活用は50% くらい。クリエイティブ ブリーフは100%使用する。 No brief, no work!(ブ リーフなしの仕事はない) ブリーフがないと誰も 動かない。ブリーフの 品質管理をしている。 ブリーフへの議論に参加 する事が非常に重要。フィ ー制度なので無駄な時間 を使わせられない。 戦略にチャネルまで書く ようになった。広告開発 からコンテンツ開発に 変わった。リアルタイム化 である。 福島 日本 欧米系 コミュニケーション デザイン局長 ある。 目的、チャレンジ、真実、 答え、証明、実施。 世界のイントラネットで 何十もの事例が共有。社内 の活用は6割くらいである。 フォーマットで社員の 世代が分かるほど定着。 英語が苦手でも、フォー マットで仕事ができる。 共通語。思考法が確立し 仕事がやりやすくなる。 枠組み。クリエイティブ の判断材料である。 時代に合わせて常に見直し ている。メディアニュート ラルでデジタル特化のブ リーフはない。 名古 日本 欧米系 ストラテジックプラン ニングディレクター ある。チャレンジ、ター ゲット、パーセプションシ フト、インサイト、アイ ディア、トーナリティ。 フォーマットは、正直使 っていない。エッセンス を使う。ブリーフをス トーリー仕立てにする。 クライアントのフォーマ ットを使うことも。リミ ットは嫌だが、フォーカス は欲しい。(外人クリエイ ティブディレクター) フォーマットはクライアン トとの合意形成に使う。戦 略立案には考え方を使うの である。 Formatに消費者ジャーニー の話が入った。カテゴリー 自体を創る、ポップカル チャーを創る考え方であ る。 S氏 カナダ 欧米系 上席執行役員 ある。 INCITE Work(インサイト ワーク) スタッフ教育に使用。 クライアントにより フォーマットの使い方 は違うのである。 テンプレートが強すぎると クリエイティブを殺す。 天才にはフォーマットは 不要である。普通の人に必 要である。 出発点。指針。クオリティ スタンダード。チェック リスト。教育。 西洋人は一神教で、統一 フォーマットである。日本 人は多神教で一つのフォー ムにこだわらないのであ る。― 24 ― 表3 国内大手広告代理店のインタビュー結果の概要 - 8 - 表3 国内大手広告代理店のインタビュー結果の概要 名前・国・肩書 フォーマットの 有無 フォーマットの 活用法 現場での評判 役割・メリット 10年前、20年前 との変化 岩崎 日本 国内大手 マーケティング戦略 企画室長 あるが、標準化されていな い。 フォーマットは、それぞれ のクライアントにより多様 化してきている。方法論に いくつかのやりかたがあ る。 プロポジションについて、 マス型はメッセージ中心で いいが、ウェブ型は言葉で 縛ると仕組みのじゃまにな る。 底上げ。クライアント対応 のレベルの質を保つ。 外資のお客にはフォームが 必要である。 広告会社の領域が、コミュ ニケーションだけから、 マーケティングへひろが る。一つのフォームの限界 である。 末松 日本 国内大手 プランニング ディレクター ある。戦略の分析判断、 キャンペーンストラクャー とアイディア開発。 フォーマットは社内用営業 の底上げに使う。クリエイ ティブでの使用はこれから である。 じゃまという人もいる。助 かるという人もいる。これ で勝てるかなという人も中 にはいる。 底上げ(競争力を持つ) 共通言語、共通認識をもて る。 ブリーフよりも置かれてい る環境の変化である。アウ トプットで違いがでないの でどんな体験をさせられる かである。 A氏 日本 国内大手 ストラテジックプラン ニング局長 ある。基本を理解して、仕 事をしていくため。 7割ぐらいは活用、しかし クライアントや製品によ。 る。営業にはフォーマット に否定的な人もいる。 プランナーではフォーマッ トに肯定的である。何でも かんでもツールでなく、自 分の頭で考える事が大事で ある。 勝った負けたの理由がきち んとわかる。スタッフ間の 情報共有ができる。 昔は広告代理店はクライア ントができないことを提供 した。ネット調査の普及な どでその範囲が狭くなっ た。 高木 日本 国内大手 マーケティング局 局長 ある。V-Ways(ビクトリー ウェイ)の3つのフォー ム、ブランド、戦略、施 策。 2-3割がフォームをフルに使 う。全てのスタッフが考え 方のフレームワークとして 使用しているのである。 がちがちに厳格な運用をす ると、クリエイティブが反 発する。共通言語でいいと 思っている。 本当に優秀な人にはフォー ムは必要ない。考え方の抜 けや漏れをふせぐ。一枚岩 チームになれる。 ブリーフィングの中身が変 わってきた。アウトプット の数がTVNPから増加し情報 発信の組合せになった。 武田 日本 国内大手 ストラテジックプラン ニング局長 一応ある。グループのもの と、自社のもの。自社のも のはテーマの課題と、何を 変えていくか。 レギュラー案件ではあまり 使わない。 若い人は、重宝している。 自分の好きな形にアレンジ する人も多い。営業クリエ イティブはあまり使わない 一本筋を通す役割(アウト プット手段増加と、チーム の複雑化)。大きな方針を どこで立てるかの基本であ る。 フルファネル化した。購買 の先のロイヤルユーザー化 までマネジメントする考え 方。 喜早 日本 国内大手 局次長 あると言えばある、無いと 言えばない。新人研修用の プランニングフォーマット はある。 外資のフォーマット有型に 対して、国内大手はフルカ スタマイズのビヘイビア がある。 クリエイターもプランナー もクリエイティブブリーフ は必要としていない。競合 用には必要かもしれない。 ナレッジの横展開をする時 コストを下げたい時には フォームがあるといい。あ とは教育の意味がある。 外資は、一業種一社で フォーマット化しグローバ ル展開。国内大手はフルカ スタマイズ。デジタル化。 鷲尾 日本 国内大手 クリエイティブ ディレクター 結構いろいろある。しか し、個人商店主義なので、 クライアント別、プラン ナー別にやり方がある。 各部により、使われ方はそ れぞれ。人のものをありが たがって使わない傾向があ る。 時間がない、人がいない、 何かを出さなくてはいけな い時、ノウハウがあると助 かる。ネット上に事例有で ある。 五合目まで早く登るための ツール。その先のアイディ ア発想クリエイティブな思 考に多くの時間を使える。 ビックデータ周りのシステ ムが増えた。インサイトの 探り方に、ネット上の話題 語、TV報道、編集者など。 I氏 日本 国内大手 ストラテジックプラン ニング部長 会社として公式なものはな い。チーム別には個々に開 発、活用している。 People's Expert(人々のエ キスパート)という思想は あるが、具体的なフォー マットはない。 フォーマットでなく、プラ ンニングのメソドロジーは あるといいね、という話は 時々ある。 ツールがあることで、一定 のレベルが確保できる。ま た仕事の方向性がはっきり する。 PromotionだけからCMOに対 し4P全体、事業戦略を考え るMarketing計画が必要であ る。
― 25 ― 表4 欧米系広告代理店本国<米国>のインタビュー結果の概要
Ⅴ
. インタビューの分析と考察
欧米系広告代理店本国(米国)での調査を通して多様な視点を加え、可能な限りの「分厚 い 記述(Thick description)」(Merriam 1998, [邦訳] 43)を試みた。分厚い記述とは、人類 学の用語で、調査している出来事や実体の全体にわたる正確な記述を意味する。 1.欧米系広告代理店日本支社の特徴 (1)クリエイティブブリーフの活用実態 クリエイティブブリーフについて、欧米系日本支社では「ある」と回答したのが100%、「通常使われている(60~100%、7 社中 5 社)」状態であった。’No Brief, No Work.’というフレー ズを示し、どんなに小規模な仕事でも戦略プランナーがブリーフを書かない限り誰も仕事を 始めない、という会社もあった。通常使われている会社では、必要なものとして認識されて いる、との回答が一般的であった。 (2)活用の理由 他部門スタッフ作業の効率化、グローバル対応、スタッフ多様化対応、社内契約書的側面、 自社アイデンティティ明確化の必要性などの理由があげられた。 - 9 - 表4 欧米系広告代理店本国<米国>のインタビュー結果の概要
Ⅴ.インタビューの分析と考察
欧米系広告代理店本国(米国)での調査を通して多様な視点を加え、可能な限りの「分厚い 記述(Thick description)」(Merriam 1998, [邦訳] 43)を試みた。分厚い記述とは、人類学の用語で、 調査している出来事や実体の全体にわたる正確な記述を意味する。 1.欧米系広告代理店日本支社の特徴 (1)クリエイティブブリーフの活用実態 クリエイティブブリーフについて、欧米系日本支社では「ある」と回答したのが100%、「通 常使われている(60~100%、7 社中 5 社)」状態であった。’No Brief, No Work.’というフレーズ を示し、どんなに小規模な仕事でも戦略プランナーがブリーフを書かない限り誰も仕事を始め ない、という会社もあった。通常使われている会社では、必要なものとして認識されている、 との回答が一般的であった。 (2)活用の理由 他部門スタッフ作業の効率化、グローバル対応、スタッフ多様化対応、社内契約書的側面、 自社アイデンティティ明確化の必要性などの理由があげられた。 (3)デジタルシフトなどの変化 プランニングのトップが変わるとフォーマットも変わる傾向がある。デジタルやソーシャル 名前・国・肩書 フォーマットの 有無 フォーマットの 活用法 現場での評判 役割・メリット 10年前、20年前 との変化 マカビー アメリカ 大手広告代理店 チーフストラテジー オフィサー ある。 人間の本質に基づいた4つ のPを基本にしている。 100%使っている。クライア ントに見せる見せないは ケースバイケース。自社の フォームを持つクライアン トもいる。 クリエイティブの人々は フォームが好きだ。プラン ナーはフォームによってク リエイティブプロセスにか かわれる。 正しいフォーマットは、共 通の言葉、共通の合意、共 通の理解を確立するのに重 要である。 人は変わらないが、メディ アやチャネルがかわった。 ブランドが全てのメディア でする会話が大切になっ た。 チュク アメリカ 独立系代理店 ヘッドオブ ストラテジー サービス フォーマットはある。ブ リーフと戦略に関して5つ の項目がある。 はい100%使っている。シン プルで使いやすいと言われ ている。項目の順番を変え ても構わない。 みんな好んで使っている。 チャレンジはブリーフのク オリティである。 チームで仕事をしていて、 フリーの人もいる。全員に 何をするかを理解してもら う役目だ。 フォームの大筋は変わらな い。変化はどのメディアへ のアイディアかを入れるよ うになったことだ。 コットン アメリカ 独立系代理店 戦略とイノベーション ディレクター ある。 8つの質問で構成されてい る。 社内は100%使っている。ク ライアントと一緒に使うの は50%ぐらい。 プランナーもクリエイター もフォームが好きだ。 クリエイティブの機会を広 げることが重要だ。ディシ プリンとしての役割であ る。 デジタルのライフスタイル になり、エンゲージさせ る、シェアさせるをブリー フにいれるようになった。 チャフェー アメリカ 独立系代理店 プランニング ディレクター 決まったフォーマットはな い。クライアントごとにフ ルカスタマイズで作る。だ が必ず1枚にまとめる。 クリエイティブブリーフ は、クリエイティブディレ クターとプランニングが共 同で作成する。 クリエイターには好ま れてい る。クリエイターはブリーフに決 ま っ たフォ ーマットはいらない と言う 。 新しい優れたストーリー は、同じ枠組みからはでき ないと信じている。ストラ テジーはフレキシブルであ るべきである。 昔はシン プルさが戦略には重 要だっ た。今はデジタル化で 複雑なブリーフを 書く ことが 増えた。 クライン アメリカ メディア大手 マネージング ディレクター フォーマットはある。 4つのパートから構成されて いる。 30%から50%は活用されてい る。メディア代理店には新しい 試みであ る。クライアン トには 見せていない。 いい内容のブリーフは歓迎 される。フォームを埋める 作業が大変で仕事が増える という人もいる。 いい点は、協力すること、 同意すること、 仕事の割り当てに役立つこ と。ターゲットやビジネス 課題の共有にいい。 メディア代理店の戦略部門 は、アメリカでも新しい 事。またブリーフのフォー ムを持つことも新しい。― 26 ― (3)デジタルシフトなどの変化 プランニングのトップが変わるとフォーマットも変わる傾向がある。デジタルやソーシャ ルなどメディア状況が変化し複雑化したことへの対応、態度変容から行動変容への流れによ り変化している。例えば、クリエイティブブリーフからDO BRIEF への変更や、INSIGHT な らぬINCITE(行動を煽る)と名付けられたフォーマットの登場などである。 2.国内大手広告代理店の特徴 (1)クリエイティブブリーフの活用実態 クリエイティブ・ブリーフについて国内大手では、「あるといえばある、無いと言えばない」 や「会社として公式のものは無い」という回答が見られた。「使うのが当然」という使われ方 はしておらず、「使いたい人が使うという」使われ方である。中には「実際のプランニングで はフォーマットは使っていない」という回答もあった。 (2)活用の理由 国内大手では、使用を強制しないように気をつけていたり、複数用意して使いたい人が使 うという活用の仕方である。活用の理由については、「底上げ」というキーワードが多く聞か れた。底上げとは、質の低いあるいは的外れなプランニングをなくすためという意味である。 「五合目まで早く登れるようにする」という言い方もあった。 (3)デジタルシフトなどの変化 マス広告を想定した「クリエイティブ」のためだけのブリーフではなくなっている、という 指摘があった。また欧米系日本支社でも指摘のあった、より人を動かすことにフォーカスが 移ってきていることも挙げられた。 3. 欧米系広告代理店日本支社と国内大手広告代理店の相違についての考察 (1)クリエイティブブリーフの活用実態 欧米系はビジネススタイルが1 業種 1 社制であり、フォーマットを使うことが通常でフォー マット自体が自社アイデンティティの明確化であり、競争力の源泉になっている。 国内大手は、1 業種複数社を扱い、そこではフルカスタマイズビヘイビア、個人商店主義 になる。また戦略に自分色をつけないといけない組織風土である、一方外資は一神教だが我々 は多神教であるといった考え方になる。 (2)活用の理由 欧米企業は、組織風土が驚くほどトップダウンである。旗を立ててその旗に賛同する人の みが集まる。「極端に言えば、このフォーマットに賛成できない人はわが社にいてもらわなく ていい」という組織風土である。日本企業は現場重視であり、広告主ごとにフルカスタマイ ズする仕事が多いので、フォーマットを100% 使うのは状況にそぐわない。 (3)デジタルシフトなどの変化 欧米系、日系共に、デジタルやソーシャルなどメディア状況が変化し複雑化したことへの
― 27 ― 対応と、態度変容から行動変容への流れの二点が、変化として挙げられる。 4. 欧米系広告代理店本国(米国)の特徴 (1)クリエイティブブリーフの活用実態 クリエイティブブリーフなどのフォーマットがあるかについては、ほとんどの回答社が きっぱりあると回答した。地方都市の最近多くの受賞で目立っている会社が「あえて持たな い」というニュアンスでないと答えた。あると答えた会社4 社中 3 社は 100% 使っている。 メディアエイジェンシーのみ使用は30~50% ぐらいと回答した。 (2)活用の理由 米国でも、活用の理由としては、チームでの共通の理解のため、クリエイティブを鼓舞す るため、標準化・教育的側面の三点が中心であった。 (3)デジタルシフトなどの変化 デジタル先進国の米国らしく、第一点はチャネル増などのメディアの変化への対応として、 ソーシャルリスニングの重要性、シェアやエンゲージメントについての記述の必要など、ブ リーフに盛り込む要素が増加した点が挙げられる。第二点は、参加(Participation)という考 え方の登場である。消費者のとらえ方が伝達の時代から変化してきた点が挙げられる。第三 点がクライアント側の変化である。クライアントがフォーマットをもっているケースがでて きたり、分野ごとに複数の代理店を使っているクライアントでどうフォーマットを使うか試 行錯誤中という意見もあった。 5. 欧米系広告代理店本国の特徴と他の2つのグループとの比較 (1)クリエイティブブリーフの活用実態 欧米系広告代理店本国では、クリエイティブブリーフなどの共有ツールを持ち、100% 使 用しているのが普通である。必ずしも100% 使用していない欧米系広告代理店日本支社や、 共有フォーマット自体持たない会社もある国内大手との相違が明らかになった。またあえて 持たないことで特徴を出そうとする新興広告代理店の存在は、逆に共有ツールの日常的な使 用がいかに米国では普通であるかの証拠ともいえる。 (2)活用の理由 米国では欧米系日本支社で聞かれた、自社アイデンティティ明確化の必要からという発言 は聞かれなかった。それは1 業種 1 社が当然のビジネス環境では、自明のことだからだろう と推察できる。逆に欧米系広告代理店日本支社の回答は、一つの広告代理店が複数社のクラ イアントを扱う日本のビジネス環境の中で、このことを強く意識せざるを得ない状況と言える。 米国ではプランナーの仕事は「クリエイティブを鼓舞する」ことだと発言する回答者が多 くそのことに非常に意識的であることが特徴的であった。また「原理として一枚に纏めるべ き」といった発言も複数聞かれクリエイティブブリーフ文化の浸透が伺えた。
― 28 ― (3)デジタルシフトなどの変化 他の2 グループと比較して、米国ではソーシャルリスニングやシェアやエンゲージメント についての記述など、ブリーフに盛り込む内容が増加している事と、参加(Participation)と いう考え方の登場、クライアント側の変化が挙げられる。
Ⅵ.まとめと今後の課題
1.まとめ 分析と考察を踏まえ、設定した問題意識に対応して以下に示す知見が得られた。 (1)日本と欧米におけるクリエイティブブリーフの活用の実態 ①日本の国内大手広告代理店では、用途の異なる複数のフォーマットを用意し、使いたい 人が使うという「便利ツール」としての使われ方であり、100% の使用が標準的である 欧米系の共有フォーマットとは意味合いが異なる(100% の使用を前提とする欧米系の 文脈での「統一ツール」は存在しない、と考えられる)。 ②「底上げツール」「教育ツール」としての役割が、もう一つの意味合いだと一般的に考 えられている。 ③戦略プランナーの「自分の仕事はクリエイティブを鼓舞することだ」という自覚が、日 本では弱い。同じ欧米系広告代理店でも、比較すると日本支社では本国よりも弱い。 (2)活用の理由と背景 ①欧米の「1 業種1社制」6)に対して、日本の大手広告代理店では 1 つの代理店が「1 業種 複数の会社を扱う」のが商習慣で、「フルカスタマイズ」でサービス提供を行う。その 状況下では、全社員が使う統一のフォーマットは、メリットよりもデメリットが大きい。 ②欧米系広告代理店がクリエイティブ、メディア、PR などの専門分野ごとに細かく分か れているのに対して、日本の大手広告代理店はいわゆる「総合」広告代理店であり、社 員が対応する業務の中味が多種多様である(ブランディングやコンサルティングからダ イレクト対応やデータ分析のみの発注まで)。そういった状況下では、単一のフォーマッ トではなく用途の異なる複数のフォーマットを用意して「便利ツール」として使うのは、 合理的な選択だと考えられる。 ③さらに、「使用の強制を嫌う」「俺のやり方でやりたい」といった、広告代理店で働く日 本人の文化的側面、カルチャーの影響も見て取れる。 (3)デジタルシフト/ソーシャルシフトが進行した時代における活用の実態 ①欧米系広告代理店本社(米国)では共有フォーマットの100% の使用が標準的であり、 欧米系広告代理店日本支社では使用を基本としながらもある程度柔軟な運用がなされ、 国内大手広告代理店では強制はされず使いたい人が使うという位置づけである。 ②デジタルやソーシャルへの対応が必要となった。それに伴って「行動変容」や「参加 (Participation)」が重要なキーワードとなり、またブリーフを受けるスタッフの多様化が― 29 ― 共有フォーマットの必要性を増加させている側面もある。 欧米系広告代理店と国内大手広告代理店における戦略プランニングに関するクリエイティ ブブリーフの有無や使われ方について、その相違が明らかとなり、相違を生み出す背景につ いても分析することができた。戦略プランニングについて、一定の「未知の知見」が得られ たと考える。 2.今後の課題 最終的にはインタビュー調査としては人数の多いサンプル(21 人)の調査を実施でき、あ る一般性を導き出せた。だが、今回導出した仮説を、より「確からしさ」を増加させた命題 にしていく(佐藤他、2015,38)ためには、今後より多くの調査が必要になるだろう。 今後の調査としては、戦略プランニングの関係者として、クリエイターや営業、広告主の側が、 戦略プランニングや関連ツール(フォーマット)について、どういう見解を持っているのか についての調査や、あるいは戦略プランナーに対する定量調査も視野に入れつつ、研究を進 めて行きたい。また今回収集した各社のプランニングフォーマットの、比較、分析、歴史的 変化などの研究も新しい分野である。 <謝辞> 本研究のインタビュー調査にあたっては、日本広告学会2014 年指定課題研究「戦略プランニングの歴史的 変化と現在の課題―外資系広告代理店 、 外資系広告主を中心とした戦略プランニング調査―」の研究助成を受 けました。心よりお礼申し上げます。調査にご協力いただいた方々に深謝いたします。 <注> 1 )今回インフォーマント(情報提供者)となった 21 名が所属する 17 社については、本稿で戦略プランニン グと呼ぶプロセスが行われ戦略プランナーが存在していて、そのことをもってしても、結果的に、戦略プ ランニングプロセスとそのための職種が一般的であることが観察された。 2)本稿の 2 名の執筆者は、それぞれ大手外資系広告代理店と国内大手広告代理店の現場を、20 年以上経験し ている。またこの個人的な経験をリサーチクエスチョンの元に据えることに関しては、「多くの場合、そ れは研究者の個人的な人生経験や社会的背景、あるいは関心領域などが関係してくる」というFlick(2007, [邦訳] 117)の示唆に従った。
3)Admap Magazine(February 2010)に掲載された“A History of Planning”においても、60 年代では Planning の始祖としてアカウントプランニングという用語が使われているが、現在に近づくにつれて、まったく同 じものとして基本的にPlanning と表記されるようになる。また、米国広告業協会(4A)のこの分野の年次 大会の現在の名称は、“STRATEGY FESTIVAL”であり副題は Planninng3.0 であるが、この年次大会で表彰 される戦略プランニングに対する賞は、2003 年まで“4A's Awards for Account Planning”であったがその後 アカウントプランニングの名称を無くし、2004 年からは“Jay Chiat Awards for Strategic Excellence”に変更 された。
4)Flick (2007, [邦訳] 145-146)は、グレイザーとストラウスの論を引きつつ、理論的飽和について「さらなる データのサンプリングや取り入れは、カテゴリーや事例集団が“理論的飽和”にいたったとき、すなわち 新しいサンプルを検討しても何も新しいものが浮かび上がらなくなったときに終了する」と説明している。 5)佐藤他(2015,142)は、「確信をもって“理論的飽和”の判断を下すのは難しい。(中略)続けようと思え
― 30 ― ばいつまでも続けられる、終わりないプロセスになり得る」と述べた後に、実例として「株式会社生活の 木とハーブ・アロマテラピー市場」の研究における「理論的飽和と判断した要件」を記述しており、参考 にした。 6)他の部分でも触れた「1 業種 1 社制」とは、広告代理店側から見た場合、例えばビール会社が 4 社あったら、 A 社を担当している広告代理店は B 社、C 社、D 社を担当できないという制度。欧米においては広告ビジ ネスの基本だが、日本の大手広告代理店は、A 社・B 社・C 社・D 社のすべてを少しずつでも担当しているケー スが多い。そしてここで言及されていることはそれとは異なり、1 つのクライアントが、例えばクリエイティ ブエージェンシー、PR エージェンシー、デジタルエージェンシー、メディアエージェンシーなど分野ご とに異なる複数の代理店を使っていることを指している。 <参考文献> 小林保彦・中尾麻衣子(2008)「調査から見る日本のアカウントプランニングの実態」(上中下) 『日経広告研究所報』238 号、2-14、239 号、34-39、240 号、32-38。 佐藤善信監修、高橋広行・徳山美津恵・吉田満梨著 (2015) 『ケースで学ぶケーススタディ』同文館出版。 水野由多加(2004)『統合広告論』ミネルヴァ書房。
Feldwick, Paul (2007) ”Account Planning: Its History, and Its Significance for Ad Agencies”,Sage Handbook of Advertising, London Sage.
Flick,Uwe (2007) Qualitative Sozialforschung, Reinbek bei Hamburg. 小田博志監訳、山本則子・春日常・宮地尚子 訳(2011)『新版 質的研究入門:<人間の科学>のための方法論』春秋社。
King Stephen (2007) A Master Class in Brand Planning, John Wiley&Sons Ltd., England.
Merriam,Sharan B. (1998) Qualitative Research and Case Study Application in Education, John Wiley & Sons Inc. 堀薫夫・ 久保真人・成島美弥訳(2004)『質的調査法入門:教育における調査法とケース・スタディ』ミネルヴァ書房。 Morrison, Margaret, and Haley Eric (2006)”The Role of Account Planning in U.S.Agencies”,Journal of Advertising
Research, March, 124-131.
Pollitt Stanley (2007)”How I Started Account Planning in Agencies”,A Master Class in Brand Planning, John Wiley&Sons Ltd, England.
Roman, Kenneth, Maas, Jane (2003), How to Advertise, Thomas Dunne Books, St. Martin’s Griffin, NY.
<問合せ先> 村尾 俊一 戦略プランニング研究所 代表 佐藤 達郎 多摩美術大学美術学部 教授 〒245-0017 神奈川県横浜市泉区下飯田町 928-16 村尾 俊一 E mail: [email protected]