山内 卓也(大阪府立大学) 0.序文
本稿の目的はKhare とWintenberger によるセール予想の証明[26], [27]を解説すること である. 証明で使われる重要な結果はmod pガロア表現のstrictly compatible system への minimal lifting theorem (以下, LTと略記する) とmodular lifting theorem (主に4タイプ, Taylor-Wiles, Skinner-Wiles, Kisin, Khare-Wintenberger)の二つである. 証明は[27]で与えら れているが,ページ数が多くなるためここでは解説しないことにする. これらの結果は認めて しまえば,セール予想の証明をフォローすることは難しくはない.
証明の方法はレベルとガロア表現(の表現空間)の漂数p(又は,重さ)による二重帰納法で証明 される. 詳しい説明は後にして,どのように証明されるかをラフに述べる. ρ: GQ −→GL2(Fp) をSerre type のガロア表現とする. ρに適当なminimal lifting theorem(=LT)を適用しガロア 表現の族(ρp)pを構成する. ρとはρp modp=ρという関係で結ばれている. 適当な素数p1 に 対して, ρ1 :=ρp1 modp1 を考える. 再び,ρ1にLT を適用し,族(ρ1p)pを構成する. 以下,これ を繰り返して(途中でTate twist などをとる必要があるが)n回目で族(ρnp)pのある素数P に 対して, ρn+1 :=ρnP mod P がmodular form fに付随するmod P ガロア表現でρf あったと する:
(ρp)p ∋ρp1
$$I
II II II II
I (ρ1p)p
!!B
BB BB BB
B (ρnp)p
%%J
JJ JJ JJ JJ
ρ
LTvvvvvvv;;
vv vv
ρ1
LT|||||||>>
|
ρ2 ... ρn
LT|||||||==
| ρn+1 =ρf
ρn+1 が modularであることがわかったなら, 今度は矢印を逆向きにたどって,ρに帰りたくな
る. そこで用いるのがModular lifting theorem (=MLT)である:
(ρp)p ∋ρp1
{{vvvvvvvvvvv
(ρ1p)p
~~||||||||
(ρnp)p
}}||||||||
ρ ρ1
dd MLT
IIIIIIIIII
ρ2
aa MLT
BBBBBBBB
... ρn ρn+1 =ρf
ee MLT
JJJJJJJJJ
右端のmodularity が次々と伝播し, 最後はρがmodularity を得るのである.
ではどのようにして, ρn+1のmodularity を示すかであるがそれは次のように行う. 上記の 操作を巧みに用いることで, ρn+1のSerre weight およびlevel はρのそれらよりも小さくなる ことが分かる. よって, Serre weight およびlevel が小さいガロア表現のmodularity に帰着さ
れる(帰納法の第一段階). この部分は田口氏[47]によって解説されており,この結果は認める
ことにする. また, 萩原氏の論説ではlevel 1の場合[25]が解説されており, 帰納法に関する基 本的アイデアはそこで初めて登場する. こちらも合わせて参照されたい.
以下ではmodular lifting theorem のことをMLT と略記する.
1
1. 主結果 まず, セール予想について復習しておく.
定義. pを素数. FをFpの有限次拡大とする. このとき,連続, 絶対既約かつ, 奇である1二次元 modpガロア表現ρ: GQ := Gal(Q/Q)−→GL2(F) のことをSerre type または, S-type と呼 ぶ. 以下, 便宜上 pのことをρの漂数と呼び, char(ρ) =pと表すことにする.
セール予想. ([42]) S-type ガロア表現ρ: GQ −→GL2(F)はモジュラー. つまり, ある elliptic newformf が存在して, ρ∼ρfとなる.
S-typeガロア表現ρが与えられると, Serre weight k(ρ), Serre levelN(ρ)が定まるのであっ た(cf. [42], [17]). 一般に, 2≤ k(ρ) ≤p2−1 であり, ある整数jがあって, 2≤ k(χpj ⊗ρ) ≤ p+ 1, (p > 2)とできる(cf. [39]). p = 2の場合は定義からk(ρ)∈ {2,4}である. また, N(ρ) は定義からchar(ρ) = pと素な正の整数である.
Serre はさらにρが どのような modular form からくるかも予想した.
セール予想の精密版.([42])S-type ガロア表現ρ: GQ −→GL2(F)はSk(ρ)(Γ1(N(ρ)))からくる.
注意. char(ρ) = pが奇数のとき, セール予想の精密版とセール予想は同値であることが知ら
れている[11]. p= 2のときは, Buzzard, Wiese によって, ある条件の下で同値性が示されて
いる[6],[53].
Khareは論文[25]において, level 1 (N(ρ) = 1)の場合にセール予想の精密版を証明した.
定理1.1. S-type ρ がN(ρ) = 1を満たすとき, ρはSk(ρ)(SL2(Z))からくる.
その後, locally good dihedral という概念を導入し, 定理1.1を拡張した[26].
定理1.2. S-type ρ の漂数をpとする.
(i)p と N(ρ)は共に奇数とする. このとき, ρ はSk(ρ)(Γ1(N(ρ)))からくる.
(ii) p= 2かつ k(ρ) = 2とする(定義からレベルは奇数になる). このとき, ρ はS2(Γ1(N(ρ))) からくる.
この結果とKisin の2-adic modular lifting theorem を使うことで, セール予想の精密版が 従う(p= 2の場合にもセール予想の精密版が証明されていることに注意.):
定理1.3. 任意の S-type ρ ガロア表現はSk(ρ)(Γ1(N(ρ)))からくる.
この結果の系として, 次の重要な結果が得られる:
系1.4. 任意のArtin type ガロア表現ρ: GQ −→GL2(C)はS1(Γ1(N(ρ)))からくる.
定理1.2 の証明のアイデアは(i) ”locally good dihedral” という概念の導入, (ii) 重さ2への 帰着(weight cycles), (iii) Killing ramification (KisinのMLTへ帰着と帰納法) の三つである.
1detρ(c) =−1,cは複素共役. p >2 のとき, ρがodd であるとき, 既約であることと絶対既約であることは 同値であることを注意しておく.
(i)の概念はS-type ガロア表現ρの中である良いクラスを定め, ρの像が大きい(非可解)な ど,いくつかの良い性質をもつ. 特に,「ρの勝手なstrictly compatible system へのlift をとっ たとき, 別の素点でreduction をとったものも同様の性質を満たす.」という事実は証明に頻繁 に使われる. 一般にガロア表現の像が小さい場合のMLTには強い仮定がガロア表現に課され るため定理の適用に制限がかかる. しかし, (i)の導入によって,このような(ρの像が小さい場 合のMLTを適用しなければならないという)状況をできるだけ回避することができる.
これらの結果の証明は8,9,10節で与える.
2. Locally good dihedral
次の関数を考える: Q:N−→N, Q(1) = 1, Q(n) = max{p素数| p|n}.
定義2.1. pを素数,ρ: GQ −→GL2(Fp)を連続表現とする. 素数q ̸=pが次の条件を満たすと き, qはρに対するgood dihedral prime と呼ぶ:
(i) ρ|Iqは Ã
ψ 0 0 ψq
!
の形(これより, q2|N(ρ)がわかる). ただし, ψは惰性群Iqの非自明 な指標で,その位数は次の性質を満たす奇素数tの冪: t|q+ 1, t >max{Q(N(ρ)
q2 ),5, p}. (ii) q≡1 mod 8 かつmax{Q(N(ρ)
q2 ), p}以下のすべての素数rに対して, q≡1 mod r.
ρに対して, この条件を満たす素数q ̸=pが存在するとき, ρはlocally good dihedral, 又 は, q-dihedralであるという. 定義から, ρ|Dqは既約であり, ρ(Dq)のprojective image は位 数2ta, (ord(φ) = ta)のdihedral group である.
3. 補助定理たち 整数r≥1に対して, 次の二つのhypothesis を考える.
(Lr)次の条件を満たすS-typeρはモジュラー:
(a) locally good dihedral
(b) もしp= 2ならばk(ρ) = 2を満たす (c) N(ρ)は奇数で, その素因子の数はr以下
(Wr)次の条件を満たすS-typeρはモジュラー:
(a) locally good dihedral (b) k(ρ) = 2
(c) N(ρ)は奇数で, その素因子の数はr以下 (Lr)と(Wr)の違いは重さk(ρ)の条件にのみ現れる.
定理1.2 を証明するために, 次の主張を証明する. この部分が論文の大半を占めることに なる.
定理3.1. (1) (W1)は成立する.
(2) (Lr)は (Wr+1)を導く.
(3) (Wr)は (Lr)を導く.
系3.2.すべてのr ≥1に対して, (Wr), (Lr)が成立.
次に, この系3.2を用いて, “locally good dihedral” case からgeneral caseへ移行する.
定理3.4すべての非負整数r≥0に対して,次のhypothesis を仮定する.
(Dr) 次の条件を満たすS-type ρ はモジュラー:
(a) locally good dihedral (b) char(ρ) =p は奇数 (c) N(ρ)は2r+1で割れない このとき,次の条件を満たすS-type ρ はモジュラー:
(i) char(ρ) = 2かつ r= 0ならば, k(ρ) = 2 (ii) N(ρ)は2r+1で割れない 注意. 系3.2はhypothesis (D0)を導き,さらに,定理3.4から,定理1.2が従う. また, hypothesis (D1)から, char(ρ) = 2のS-type ρはモジュラーであること(char(ρ) = 2かつr̸= 0より,仮定 から重さの制限がなくなっている)と, char(ρ) = pが奇数のS-type ρで, N(ρ)が4で割れな いものはモジュラーであることが導かれる.
Kisin の2-adic modular lifting theorem を用いて, hypothesis (Dr) をすべてのr ≥ 0に対 して証明し, 定理1.2 を完結させる.
この節の定理たちの証明は8節で与える.
4. Modular lifting results
この節では, 3節で説明した定理の証明に必要な結果を紹介する. ここで紹介する結果はセー ル予想の証明において大変重要な役割を果たすのだが, ここでは結果を紹介するに留める.
ρ: GQ −→GL2(F)をS-type とし, 次の仮定を設ける:
(i) 2≤k(ρ)≤p+ 1, (p >2)
(ii) p= 2のとき, Im(ρ)はnon-solvable group,
ρをρのp-adic liftとする. つまり,剰余体がFであるようなO =OK(KはQpの有限次拡 大)を係数にもつ連続表現ρ: GQ −→GL2(O)であって, 次の可換図式を満たすもの:
GQ
ρGGGGG##
GG GG
ρ// GL2(O)
²² mod
GL2(F)
以下, ρがHodge-Tate 表現であり, Hodge-Tate weight (k−1,0), k ≥2を持つとき,「ρは 重さkである」という.
定理4.1ρを上記の仮定を満たすものとし, さらに, modularであると仮定する. このとき, 次 が成立:
(1) (p= 2の場合)ρの2-adic odd lift ρ は有限個の素点以外で不分岐であって, 次のどちらか 一方を満たせばρはmodular:
(i)ρはp= 2において重さ2のcrystalline表現(Barsotti-Tate 表現であることと同値) (ii) ρはp= 2において重さ2のsemi-stable 表現(k(ρ) = 4のときに限る)
(2) (p >2の場合)ρのp-adic odd liftρ は有限個の素点以外で不分岐であって, 次のどちらか 一方を満たせばρはmodular:
(i)ρはpにおいて重さk(2≤k ≤p+ 1)のcrystalline 表現 (ii) ρはpにおいて重さ2のsemi-stable 表現
5. Lifting results
この節では幾何学的ガロア表現やガロア表現の(strictly) compatible system について簡単 に解説した後で, 「ρはその局所的な条件によって, 様々な性質をもつ(strictly) compatible
systemに持ち上がることができる」という定理を紹介する. その前に, 記号の準備をする.
pを素数とし,埋め込みιp :Q,→Qpを固定. χp : GQ −→Z×p をp進円分指標,ωp : GQ −→Z×p
をmodp 円分指標χpのTeichm¨uller liftとする. 以下では, ιℓι−p1(ωp) : GQ −→Z×ℓ のことも同 じ記号ωpで表すことにする.
同様に, level 2の fundamental characterωp,2 :Ip −→Z×p とιℓι−p1(ωp,2)とを同じ記号で表す ことにする.
Kを代数体, pを素数とする. (連続な)ガロア表現ρ : GK −→GLn(Zp)が幾何的であると は次の性質を満たすときをいう:
(i)ρが分岐するようなKの素点は有限個
(ii) Kのすべての素点でρはpotentially semi-stable (cf. [20])
注意.(i) pを割らないF の素点に対して, ρは常に(ii)の仮定を満たす(Grothendieck のモノ ドロミー定理).
(ii) K =Q, n= 2のとき,無限個の素点で分岐するようなsemi-stable 表現が存在する[36].
定義. E を代数体とする. このとき, 各埋め込みιℓ : E ,→ Qℓによって, 添え字付けされ た組(ρι) = (ριℓ)ι
ℓ:E,→Qℓ で, 次の性質を満たすデータが与えられているとき, (ρι)のことを E-rational, 2次元幾何的表現のstrictly compatible system という:
(i) 各ℓと埋め込みιℓに対して, 2次元半単純幾何的表現ριℓ : GQ −→ GL2(Qℓ) が与えられて いる.
(ii) F の素点qとフロベニウス半単純表現rq : WDq −→ GL2(E)が与えられていて, 次を満 たす:
a)有限個のF の素点を除くすべてのF の素点qに対して, rqは不分岐
b)各ℓ とF の素点qに対して, ριℓ|Dqに付随するWeil-Deligne 群はrq⊗ιℓQℓと共役.
(iii) ある整数a, b(a≥b)が存在して, 任意のℓに対して, ριℓのHodge-Tate weight は(a, b).
定義.(1) E を代数体, ρ : GQ −→ GL2(F)をmod pのガロア表現とする. このとき, ρが E-rational 2次元strictly compatible system (ρι) に持ち上がるとは, ρ ≅ ριp となるときを いう.
(2) 各ιに対して,ριがodd (resp.既約)な表現のとき, (ρι)はodd (resp.既約)であるという.
(3) ρp =ριpがminimal であることの定義は[12](p >2), [27](p= 2)を参照. ρのminimal lift がρpであるとき,それぞれのArtin conductor は一致する(一般にはN(ρ)|N(ρp)).
定理5.1. S-type ρの漂数をpとし, 次を仮定:
(i) 2≤k(ρ)≤p+ 1, (p >2)
(ii) p= 2のとき, Im(ρ)はnon-solvable group.
このとき,次が成立する.
(1). もしp= 2ならば, k(ρ) = 2と仮定. このとき, ρはE-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρι)でρp :=ριpはpを割らない素点ではminimally ramified かつpで重さ k(ρ)のcrystalline表現となるようなものにリフトする.
(2). ρはE-rational 2次元既約oddな strictly compatible system (ρι)でρp :=ριpはpを割ら ない素点ではminimally ramified かつpで重さ2. ρpのpでのinertia Weil-Deligne parameter はk(ρ) ̸=p+ 1 (p >2),または, k(ρ) ̸= 4 (p= 2)のとき, (ωk(ρ)p −2 ⊕1,0), それ以外のときは (id2, N),(Nは非自明な冪零行列).
(3). 奇素数qでq||N(ρ)かつp|q−1を満たすものが存在すると仮定. このとき, qの満たす条 件から, ρ|Iqは
à χ ∗
0 1
!
の形になる(cf. [12]). ただし, χはIqの指標で(Z/qZ)∗を経由する もの.
いま, 指標χ′ :=ωiq:Iq −→Z∗pで,χ′のreduction がχとなるものとする. ただし, p= 2の ときはiは偶数と仮定する.
このとき, ρはE-rational 2次元既約oddな strictly compatible system (ρι)でρp :=ριpは p, qを割らない素点ではminimally ramified かつpで重さ2. ρpのpにおいて, 次のいずれか の条件を満たす:
(i) semi-stable of weight 2 (ii) Barsotti-Tate overQp(µp)
(iii) もしk(ρ) = 2ならば, Barsotti-Tate さらに, ρp|Iqは
à χ′ ∗ 0 1
!
の形で, ρqはχqの適当な冪による捻りでρqのSerre weight は i+2 またはq+ 1−i のどちらかをとることができる.
(4). q ̸=pをp|q+ 1を満たす素数. ρ|Dqは(必要なら)不分岐指標の捻りにより, Ã
χp ∗ 0 1
!
の形をしていると仮定. {χ′, χ′q}をIqのZ∗pに値を持つ, レベル2の基本指標でp冪位数をも つものとする. 順番を入れ替えることでχ′ =ωq,2i ωqjq,2, (0≤j < i ≤q−1)としてよい. さら に, p= 2のときはi+jは偶数であると仮定.
このとき, ρはE-rational 2次元既約oddな strictly compatible system (ρι)でρp :=ριpは p, qを割らない素点ではminimally ramified かつpで重さ2. ρpのpにおいて, 次のいずれか の条件を満たす:
(i) semi-stable of weight 2 (ii) Barsotti-Tate overQp(µp)
(iii) もしk(ρ) = 2ならば, Barsotti-Tate さらに,ρp|Iqは
Ã
χ′ ∗ 0 χ′q
!
の形で, もし, qが奇素数ならば, ρqはχqの適当な冪による捻 りでρqのSerre weightは
(
q+ 1−(j−i) または(j−i) j > i+ 1のとき
q j =i+ 1のとき ととることが できる.
注意.(i) 定理5.1 の(1)は重さは変わらないが, crystalline リフトで分岐する素点の個数が変 わらないというところが利点であり,定理5.1(2)は分岐する素点の個数が高々1つ増える可能 性があるものの重さが2のliftが構成されるところが利点である. 証明を読めばわかるが, (1) と(2)は多用するが, (3)と(4)は余り使わない.
(ii) 定理5.1(3), (4)のSerre weightの計算はSavittよる[41]. また,p= 2のparity条件はlift がoddであることを保証している.
(iii)定理5.1-(2)について,重さが2(つまり, Hodge-Tate weight (0,1))なので,N = 0のときは, ρ はpotetially crystalline (この場合, potetially semi-stableと同値)表現となり,逆に,N ̸= 0 のときはそうならない(cf. [20],[23]).
6. 有益な補題
この節ではいくつかの補題を紹介する. 内容は群論に関するものとガロア表現の簡単にわ
かる(が重要な)性質に関するものである. 群論に関する部分の結果はDickson によるものだ
が, p= 2の場合はより精密な結果が得られる.
F⊕p2に既約に作用するGL2(Fp)の有限部分群のprojective image (i.e. 自然な射影GL2(Fp)−→
PGL2(Fp) := GL2(Fp)/F∗pによる像)は
dihedral group, A4, S4, A5, PSL2(F′), PGL2(F′), (F′はFpの有限次拡大)
のどれかとなる. ここで, PSL2(F′)が単純群となるためには|F′| ≥4という条件が必要十分で あることを注意しておく. また, PSL2(F2)≅S3, PSL2(F3)≅A4である.
次の補題は上記の分類をp= 2の場合にrefineしている.
補題6.1. F⊕22に既約に作用するGL2(F2)の有限かつ可解な部分群のprojective image H は dihedral group である.
(証明) Dickson の分類より, Hは
dihedral group, A4, S4 のどれかなので,後ろの2つの場合を締め出せばよい.
A ∈ GL2(F2)が2冪位数であるとき, Aの位数は1か2であることが簡単な計算でわかる (A2m = 12 ⇐⇒(A−1)2m = 0⇐⇒(A−1)2 = 0). よって,Hに位数4の元は存在しない. 従っ て, H =S4となることはない.
H =A4のとき,A4の正規部分群をK4(クラインの4元群)とする. 上で見たように, GL2(F2) の2冪位数の元は位数1か2なので,漂数が2であることからunipotent matrix であることが わかる. よって, Lie-Kolchinの定理(cf. [46])より, 2冪位数の元の成す群は上三角行列の成す 群のある部分群と共役である. PGL2(F2)でも同様で, 特に, K4は
à 1 ∗ 0 1
!
の形をしている.
K4はA4の正規部分群なので, H =A4は
à ∗ ∗ 0 1
!
の形をしていなければならないことが直
接計算からわかる. HのGL2(F2)への引き戻しにGは含まれるのだから, Gは
à ∗ ∗ 0 ∗
! の 形をしており, GはF⊕22に既約に作用するという仮定に矛盾. (証明終わり)
次の補題は有用で特に, (ii)はSerre weightが2のガロア表現を円分体の絶対ガロア群に制 限したときに, 既約であることを保証するために使われる.
補題6.2.(1) S-type ガロア表現ρ : GQ −→ GL2(F) でそのprojective image がdihedral のと き, ρはモジュラー. さらに, ρはSk(ρ)(Γ1(N(ρ)))からくる.
(2) ρ : GQ −→ GL2(F)をS-type ガロア表現, char(ρ) = pは奇素数, 2 ≤ k(ρ) ≤ p+ 1 とし, ρ|GQ(µp)は可約であると仮定する. このとき,k(ρ) = p+ 1
2 かまたはp+ 3
2 である.
(証明) (i)p > 2のときはmodular (かつセール予想の精密版との同値性も知られている)であ
ることはwell-known でセール予想の精密版との同値性も知られているので(cf. [35]). p = 2
のときは補題6.1 よりprojective image がdihedral だからmodular であることはwell-known (cf. [42]の5節). 精密版は[53]の結果から従う.
(ii) (実際の証明では飛躍した議論をしているので注意.) 仮定より, ρ|GQ(µp)は可約なので, Ã ∗ ∗′
0 ∗
!
の形をしている. ρ|GQ(µp)の半単純化へのwild 作用はないので, もし, ρ|GQ(µp) が wild action を持てば, ∗′ ̸= 0. 特に,
à 1 1 0 1
!
の形の元を含む. これより, GQ(µp)は GQ は正 規部分群なので, ρは
à ∗ ∗ 0 ∗
!
の形をしてなければならないので, ρの既約性に反する. よっ て, ρ|GQ(µp)はpでtame. 特に,Q(µp)/Qはpでtame なので,ρもpでtame.
ρ|GQ(µp)は可約なので, 像は可解群. 特に, ρの像も可解群である. Dickson の分類から, Imρprojは
dihedral group, A4, S4
のどれか. ρ(Ip)はtame なので,アーベル群である. これらの条件から, S4の正規部分群が非 アーベルなのでこれはない. A4のときは正規部分群はクラインの4元群K4で補題6.1 と同 様の議論から, ρが可約となり矛盾. よって, dihedral group の場合しかない(実はA4, S4にあ たる場合はρが絶対既約になること知られているのでdihedral group になることはすぐにわ かる). この群のinvolutionにはQ(µp)に含まれるQの2次体(p̸= 2より必ず存在) が対応し ているので, ♯ρproj(Ip) = 2.
あとはSerre weight の定義からk(ρ)が容易に計算できる. (証明終わり)
補題6.3. 連続ガロア表現ρ: GQ −→GL2(F)はある素数qに関して locally good dihedral で あるとする. このとき,次が成立:
(i) Imρ=ρ(GQ)は可解ではない.
(ii) (ρι)をρの勝手なstrictly compatible system lift で分岐する素数はすべてN(ρ)pを割り, ρp|Dqはρ|Dq のminimal lift であるとする. このとき, max(Q(Nq(ρ)2 ), p)以下のすべての素数r に対して,ρrはqにおいてlocally good dihedral. とくに, Imρrは可解ではない.
(証明) (i) 定義より,ρ(Iq)は
à ψ 0 0 ψq
!
の形. ただし, ψは惰性群Iqの非自明な指標で,その 位数は次の性質を満たす奇素数tの冪: t|q+ 1, t >max{Q(N(ρ)
q2 ),5, p}. ここで, もし,ρ|Dqが可約なら,
à ϕ ∗ 0 ϕ′
!
の形で, ϕ|Iq =ψをみたす. ϕ:Dq −→F∗p を考 えると, その導手は, qであり, 像は(Z/pZ)∗×(Z/qZ)∗ を経由する. ψの位数は奇素数tの冪 より, t|p−1または, t|q−1だが, tのとり方からt|q+ 1かつt > pなので矛盾. よって,ρ|Dq は既約. 特に,ρも既約.
ここで, Imρが可解であるとして矛盾を導く. もしそうなら, Dickson の定理より, ρの projective image は
dihedral group, A4, S4
のどれか. t >5はprojective imageの位数を割るのだから,A4, S4ではない. よって, dihedral groupであるとすると,ある2次体K/Qと1次元表現τ :GK −→F∗p が存在して,ρ≅IndGGK
Qτ となる. Kの分岐する素数sはN(ρ)を割り, locally good dihedral の定義から, s̸=qならば, q≡1 mod s(s ̸= 2), q≡1 mod 8 (s = 2) である.
これより, qはKで分岐するか,分解するかのどちらかである. qがKで分岐する場合は, ψ
のorder taは2で割れなければならないが, tは奇数なので矛盾. qが分解するときは, ρは可
約になるので既約性に反する.
(ii) dihedral groupD2ta ⊂PGL2(Q)を固定しておく. まず,ρp|Dqはρ|Dqのminimal lift な ので,ρ|Iqは
à ψe 0 0 ψeq
!
の形をしている. ただし,ψeはψのTeichm¨uller lift. したがって,ρ(Dq) のprojective imageはD2ta⊗ιpZpと同型. ここで,(strictly compatible systemを添え字付けし ている埋め込み)ιp :E −→QpはQにまで一旦延長しZに制限したものとして考える. このと き, strictly compatible systemの定義から,rq⊗Qのprojective imageはD2ta と同型なので,素 数rに対して,ρr(Dq)のprojective imageはD2ta⊗ιrZrと同型となる. ここで, max(Q(N(ρ)q2 ), p) 以下の素数rに対して, 定義からt ̸=rだから, reduction map PGL2(Zr) −→PGL2(Fr)によ り, D2ta⊗ιr Zr はD2ta ⊗ιr Frへ同型に写る. よって, ρrはqに関してlocall good dihedral で あることがわかる.
7. ある素数の評価
この節では帰納法のstep をうまく機能させるある素数の系列の存在を示す. 証明は萩原氏 の原稿を参照されたい.
定理7.1. 素数p≥5に対して, ある素数P > pが存在して次のどちらかを満たす:
(i)奇素数ℓと整数r≥1でℓr||(P −1)となるものが存在して,
(1) P
p ≤ 2m+ 1
m+ 1 − m m+ 1
1
p, (m= ℓr−1 2 ) (ii) 整数r ≥4で2r||(P −1)となるものが存在して,
(2) P
p ≤ 2r
2r−1+ 2 − 2r−1−2 2r−1+ 2 1
p, (m= ℓr−1 2 ) (i)の場合, (1)の評価から,
(3) p+ 1≥ m+ 1
2m+ 1(P −1) + 2 = (P + 1)− m
2m+ 1(P −1) を得る.
(ii)の場合, (2)の評価から,
(4) p+ 1≥ 2r−1+ 2
2r (P −1) + 2 = (P + 1)− 1
2(P −1) を得る.
8. 定理3.1-3.4の証明 定理3.1(Killing Ramification: (Lr) =⇒(Wr+1)) の証明.
整数r ≥1に対して, hypothesis (Lr)を仮定する. (Wr+1)の条件を満たすS-type ガロア表 現ρをとる. ρはある素数qに関して, locally good dihedral であり, k(ρ) = 2かつN(ρ)は奇 数でその素因子はr+ 1個以下である. N(ρ)の素因子sでqと異なるものをとる(取れない場 合は(Lr)の条件が満たされるので示すことはない). char(ρ) = 2のときは, 補題6.1 と補題
6.2-(1)より, Imρが可解ならばmodular なので, Imρは可解ではないと仮定してよい. この
とき, 定理5.1 (1)より, ρはE-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρι) で ρp :=ριpはpを割らない素点ではminimally ramifiedかつpで重さk(ρ)のcrystalline表現と なるようなものにリフトする. 前に選んでおいた素数sに対して, ρsを考える. 補題6.3 (ii) よ り, そのreduction ρsはq-dihedral で特に, 非可解な像をもち, 特に, ρsは既約である. lift が oddなのでρsもそうなので,ρsはS-type ガロア表現. さらに, minimal lift の定義から, N(ρs) の素因子はN(ρ)pの素因子でもあるので,
♯{N(ρs)の素因子} ≤♯{N(ρ)pの素因子でsではないもの} ≤r+ 1−1 = r
がなりたつので, (Lr)からρsはmodular. 定理 4.1 より, (ρι)もmodular よって, ρ = ρp も modular. (証明終わり)
定理3.2(weight 2への帰着: (Wr) =⇒(Lr))の証明.
ρを(Lr)の条件を満たすS-type ガロア表現とし, その漂数をpとする. ρはlocally good dihedral であり, p= 2ならばk(ρ) = 2. また,N(ρ)は奇数でその素因子はr個以下である.
p= 2のときには証明することはない. 以下, p = 3, p= 5, p > 5の3つの場合に分けて証 明する. 前の二つの場合の証明は一般の場合のそれとやや異なる.
p= 3の場合.
定理5.1-(2)を用いると, ρはE-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρι) でρp :=ριpはpを割らない素点ではminimally ramified かつpで重さ2となるようなものに リフトする. 今, ρ2を考える. 補題6.3より, ρ2は非可解な像をもつ. また, N(ρ)は奇数なの で, ρ2は2でcrystalline で重さ2 (strictly compatible system の性質から従う) なので, ρ2は
Barsotti-Tate 表現となる. これより, ρ2はfinite flat group scheme からくるので, k(ρ2) = 2.
minimal lift の定義から, N(ρ2)の素因子はN(ρ)3を割るので, その個数はr+ 1以下である.
いま, ρ2が3で不分岐ならば, (Wr)よりρ2はmodular. 定理4.1 より, (ρι)もmodularなの で,ρもモジュラー. ρ2が3で分岐するならば, ρ3のinertia Weil-Deligne parameterの形から, (χ3がorder 2であることに注意すると) ρ2|I3は
à 1 ∗ 0 1
!
の形をしている. これより, ρ2|D3 は
à χ2 ∗
0 1
!
の形をしていることがわかる. よって, p= 2, q = 3, χ′ =ω3,22 ,(i= 2, j = 0) として, ρ2に定理5.1 (4)を適用すると, ρ2はE-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρ′ι) にlift される. ρ′3について考える. 定理5.1 (4)の結果より, ρ′3 のχ3の冪による twistρ′′3 のweight は2 となる(j = 2>1 =i+ 1だから). N(ρ′′3)の素因子はN(ρ3)のそれと 同じなので, その個数はr以下. よって, (Wr)よりρ′′3はmodularなので,ρ′3もmodular. 後は 定理4.1から(ρ′ι)はmodular. (ρι)と(ρ′ι)はρ3で繋がっているので, (再び定理4.1 より) (ρι) もmodular. よって, ρもmodular.
p= 5の場合(やや複雑).
この場合,N(ρ)は奇数で素因子の個数はr以下, k(ρ)≤5 + 1 = 6である. 定理5.1(2)より, ρはE-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρι) にlift される. ρ2を考える.
p= 3の場合と同様にして,ρ2はlocally good dihedralなので,像は非可解. また,k(ρ2) = 2で N(ρ2)の素因子はN(ρ)5を割るので, それらの個数はr+ 1以下. ρ2が5で不分岐なら(Wr)よ りρ2はmodular. 定理4.1 より, (ρι)もmodular なので, ρもモジュラー. ρ2が5で分岐する ならば, ρ5は5でsemi-stable なので, ρ2も5でsemi-stable (strictly compatible system の性 質). これより, 5||N(ρ2)が従う. よって, p= 2, q = 5, χ′ =ω25,(i= 2)として, ρ2に定理5.1 (3)を適用すると,ρ2はE-rational 2次元既約oddなstrictly compatible system (ρ′ι)にlift さ れる. ρ′5を考える. ρ′5は補題6.3 よりlocally good dihedral であり,その像は非可解. 定理5.1 (3)を用いたので, (ρ′5をχ5の適当な冪によるtwist により) k(ρ′′5) =i+ 2 =q+ 1−i = 4 と なる. また, N(ρ′5)は奇数でその素因子の個数はr以下であることがわかる(minimal liftの定 義より).
次の二つ場合に分ける:
(i) 3|N(ρ′5).
この場合, 定理5.1-(2) より, E-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρ′′ι) にlift される. ρ′′3を考える. ρ′′3は補題6.3 より locally good dihedral であり, その像は非可解.
N(ρ′′3)は奇数で,
♯{N(ρ′′3)の素因子} ≤♯{N(ρ′′3)5の素因子で3ではないもの} ≤r+ 1−1 =r
が成り立つので, (Wr)よりρ′′3はmodular. 定理4.1より, (ρ′′ι)はmodular,よって, (ρι)である ことがわかるので, ρもmodular.
(ii) 3̸ |N(ρ′5).
この場合, 定理5.1-(1) より, E-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρ′′ι) にlift される. ρ5は5でcrystalline of weight 4 であるので, ρ′′3は5で不分岐. 特に, N(ρ′′3)は 5で割れない. また, ρ′′3は補題6.3 より locally good dihedral であり, その像は非可解. 一方,
N(ρ′′3)の素因子はN(ρ′5)を割り, さらに, これは仮定から3で割りきれないのだから, N(ρ′′3) の素因子の個数はN(ρ′5)と一致するのでその個数はr以下よって, 先に扱ったp = 3の場合 の証明からρ′′3はmodular (k(ρ′′3) = 4≤3 + 1より重さに関する条件をクリアしていることに 注意). 定理4.1より, (ρ′′ι)はmodular, よって, (ρι)もmodularであることがわかるので, ρも modular.
p >5の場合.
pに対して, 定理7.1を適用することで得られる素数P(> p)をとる. このとき, (Wr)の下で 次の主張を示す:
「S-typeρ が
(a) locally good dihedral (b) char(ρ)≤P
(c) N(ρ)は奇数でその素因子の個数はr以下
を満たすなら,ρはmodular」
今まで見たとおり, P = 5のときにはこの主張は正しいので, p= 5からスタートして,この 操作を繰り返すことで, 一般の場合の主張を得る.
ρを上の主張の条件を満たすchar(ρ) = P なるS-type ガロア表現とし, char(ρ)< P なる同 様のS-type ガロア表現はモジュラーと仮定する. 定理7.1 によって得られた素数ℓでℓr||P−1 と評価式(1),(2) を満たすものをとる. ℓ >2のときはm= ℓr−1
2 とおく.
定理5.1-(2)より, E-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρι) にlift され る. ρℓを考えると,ρℓは補題6.3 より locally good dihedral であり, その像は非可解, N(ρℓ)は 奇数でその素因子はN(ρ)P を割るのでそれらの個数はr+ 1以下.
N(ρℓ)がPと素であるとき,N(ρℓ)の素因子の個数はr. ℓの取り方から, 2ℓr ≤P−1<2P−1 より, ℓ < P が成り立つ. よって, 帰納法の仮定より, ρℓ はmodular. 定理4.1 より, (ρι)は modular,よって, ρもmodular.
N(ρℓ)がP と素でないとき, ρℓはP でsemi-stable だから, P||N(ρℓ). よって, p = ℓ, q = P, χ′ =ωPi , i ∈
h m
2m+ 1(P −1), m+ 1
2m+ 1(P −1) i
(ℓ >2のとき) h1
2(P −1),2r−1+ 2
2r (P −1) i
(ℓ = 2のとき)
として, ρℓに定理5.1 (3)を適用すると,ρℓはE-rational 2次元既約oddなstrictly compatible system (ρ′ι)にlift さ れる. ρ′P を考える. ρ′P は補題6.3 より locally good dihedral であり, その像は非可解. 定理 5.1 (3)を用いたので, (ρ′P をχP の適当な冪によるtwist により) ℓ >2のとき, 定理7.1(3)の 評価式を用いると,
k(ρ′P) =
i+ 2 ≤ m+ 1
2m+ 1(P −1) + 2≤p+ 1, または, P + 1−i≤P + 1−2m+1m (P −1)≤p+ 1
ℓ= 2のとき, 定理7.1(4)の評価式を用いると,
k(ρ′P) =
i+ 2≤ 2r−1 + 2
2r (P −1) + 2≤p+ 1, または, P + 1−i≤P + 1−12(P −1)≤p+ 1
となる. また, N(ρ′P)は奇数でその素因子はN(ρℓ)P を割るのでそれらの個数はr以下である ことがわかる(minimal liftの定義より). よって,もしρ′P がmodular であれば, 定理4.1 より, (ρ′ι)はmodular. (ρι)もmodularであることがわかるので, ρもmodular.
よって, ρ′P がmodular であることを示す. 次の二つ場合に分ける:
(i)p|N(ρ′P).
この場合, 定理5.1-(2) より, E-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρ′′ι) にlift される. ρ′′pを考える. ρ′′pは補題6.3 より locally good dihedral であり, その像は非可解.
N(ρ′′p)は奇数で,
♯{N(ρ′′p)の素因子} ≤♯{N(ρ′′p)P の素因子でpではないもの} ≤r+ 1−1 = r
が成り立つので, (Wr)よりρ′′pはmodular. 定理4.1より, (ρ′′ι)はmodular,よって, (ρι)である ことがわかるので, ρもmodular.
(ii) p̸ |N(ρ′P).
この場合, 定理5.1-(1) より, E-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρ′′ι) にlift される. ρ′′pはpでcrystalline of weight k(ρ′P)≤p+ 1 である. ρ′′pはP で不分岐. 特に, N(ρ′′p)はP で割れない. また,ρ′′p は補題6.3 より locally good dihedral であり, その像は非可 解. 一方, N(ρ′′p)の素因子はN(ρ′P)を割り, さらに, これは仮定からpで割りきれないのだか ら, N(ρ′′p)の素因子の個数はN(ρ′P)と一致するのでその個数はr以下よって,帰納法の仮定よ りρ′′pはmodular. k(ρ′P)≤p+ 1より, 定理4.1の仮定が満たされてることに注意して, (ρ′′ι)は modularがわかる. よって, (ρι)もmodularであることがわかるので, ρもmodular. (証明終 わり)
定理3.3((W1) の証明).
定理3.3 は次の系8.1 から従う:
系8.1(i)ρは既約, odd な連続mod pガロア表現で,k(ρ) = 2, N(ρ) =qは奇素数とする. こ のとき,ρはS2(Γ1(q))からくる.
(ii) ρは既約, odd な連続mod p ガロア表現で, k(ρ) = 2, ρは奇素数q ̸=pとp以外では不分 岐でqではtamely ramified とし さらに, ρ(Iq)の位数はある奇素数t >5の冪と仮定する. こ のとき,ρは(必ずしもnewformとはかぎらない)S2(Γ1(q2))からくる.
(証明) (i)p > 2のときは[25]の系1.2. p= 2のとき, Imρが可解ならば, 補題6.2 から主張は 従うので, Imρが非可解としてよい. 定理5.1-(1)より(p= 2かつk(ρ) = 2なので),E-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρι) にlift される. 奇素数p ̸=qをひとつとり, ρpを考える. N(ρp) =qなので, 系8.1-(1)のp > 2 の場合に帰着. よって, ρpはmodular. よ り強く, S2(Γ1(q))のnewformからくるstrictly compatible systemのreduction として得られ るので, (ρι)もモジュラー. 従って, ρもmodular.
(ii) (i)に帰着する. t = pのとき, ρはqでtame なので, ρ|Iqは
à 1 ∗ 0 1
!
の形をしている ので, ρの表現空間のIqによる固定部分の次元は1かつtameであることから, N(ρ) = qより, (i)から従う.
t =pのときは, ρはqでtame (ρ(Iq)の位数とqは素)なので, q ̸=tである. Imρが可解な ら, 補題6.2 よりmodularなので, そうではないと仮定してよい. すると,定理5.1 (1)が適用 できるので, ρはE-rational 2次元既約odd なstrictly compatible system (ρι) にlift される.
ρtを考える. (ρι)は{p, q}の外で不分岐かつρt のweight は2なので, ρtはtでordinary. ρtが 可約ならば, Skinner-Wiles のMLT, [44],[1] より, ρtはmodular. とくに, (ρι)もmodularなの で,ρもmodular. ρtがqで不分岐のときは, k(ρt) = 2,N(ρt) = 1となり, この場合は可約とな ることが知られている(cf. [47])ので, 先ほどの場合と同様にしてρはmodular.
ρtが既約のときはqでtame なので,N(ρ) = qだから(i)よりρtはmodular.
ρt|GQ(√t∗), (t∗ := (−1)t−12 t) が可約ならば, ρt|GQ(µt)も可約. しかし, 補題6.2-(2)と ρtの weightは2 (Fontaine-Laffailleより)であることから矛盾. よって, ρt|GQ(√t∗) は既約. また,ρt はtでcrystalline of weight 2 なのでBarsotti-Tate (p-divisible group からくる)であることと 同値[3],[31]) よって, [54]の定理0.2 より,ρtはmodular. とくに, (ρι)もmodularなので,ρも modular. (証明終わり) 2
定理3.4(Rasing levels)の証明.
ρをS-type ガロア表現とし, 2r+1 ̸ |N(ρ)かつp = 2ならk(ρ) = 2を満たすものとする.
char(ρ) =p, S ={ℓ̸=p: 素数| ρはℓで不分岐} とおく. ρの像が可解ならmodular (cf. [35]
の定理4)なので,非可解としてよい. すると,定理5.1 (2) (Skinne-Wiles, WilesのMLT使うた めにweight 2という条件が必要)が適用できるので,ρはE-rational 2次元既約oddなstrictly compatible system (ρι) にlift される. p′ ̸∈S∪ {p}, p′ >5を満たす素数p′をとり, ρp′を考え る. ρp′ が可解ならmodular ある.
ρp′ が可約ならば, ρp′ はp′でcrystalline of weight 2 なので, p′でordinaryだから, Skinner- Wilesの結果[44]より, ρp′はmodular. (ρι)はmodular より,ρもmodular.
ρp′ が既約ならば, ρp′|GQ(√
p′∗), (p′∗ := (−1)p′−12 p′) が可約ならば, ρp′|GQ(µp′)も可約. しか し, 補題6.2-(2)と ρp′ のweight は2 (Fontaine-Laffailleより) であることから矛盾. よって, ρp′|GQ(√
p′∗) は既約. また, ρp′はp′でcrystalline of weight 2 なのでBarsotti-Tate (p-divisible group からくる)であることと同値[3]) よって, [54]の定理0.2 より, ρp′ はmodular. とくに, (ρι)もmodular なので,ρもmodular.
以上の議論から, p′ >5, p′ ≡1 mod 4 かつp′ ̸∈ S∪ {p}でρp′ が非可解な像をもつものに
対して,ρp′がmodular であることが示せればよい. これを証明するために次の補題を使う:
補題8.2. ρをS-type ガロア表現とし, char(ρ) =p, p≡1 mod 4, かつ, Im ρは非可解と仮定 する. ρprojをρの射影化とする. このとき, 次の性質を満たす素数qでρが不分岐となるもの の集合は正の自然密度をもつ:
(i)ρproj(Frobq)∼ρproj(c), (cは複素共役)
(ii) すべての素数r≤p−1に対して,q ≡1 mod r かつ, q ≡1 mod 8
2この証明中に[44]と[54]を用いたのは,ρtの像が非可解であるということが保証されないためである. もし 非可解であれば定理4.1が使える. locally good dihedralという性質は勝手なliftのメンバーのreduction の像 が非可解になるという非常に優れた性質を備えているため, MLTが使えるかどうかということに頭を悩ませな くてもよいという利点がある. また,定理5.1-(1)と(3)を組み合わせれば, (W1)を示すだけなら, [44]と[54]は 用いる必要はない.