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中学校家庭科「家族と家庭生活」の学習指導案における教育目標の傾向と課題 改訂版ブルーム・タキソノミーを用いた分析を通じて

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中学校家庭科「家族と家庭生活」の学習指導案における

教育目標の傾向と課題

― 改訂版ブルーム・タキソノミーを用いた分析を通じて ― 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科 院生 村 田 晋太朗 兵 庫 教 育 大 学 大 学 院 学 校 教 育 学 研 究 科 永 田 智 子  本研究の目的は,中学校家庭科「家族と家庭生活」の学習指導案における教育目標の傾向や 課題を,Anderson et al(2001)の「改訂版ブルーム・タキソノミー」を用いて分析することで 明らかにすることである。学習指導案に記述されている本時の目標や学習活動・内容,評価規 準を知識と認知過程に分け,知識次元の主要タイプや認知過程次元の6つのカテゴリーに分類 した。学習指導案の記述を整理・分析した結果,次の4点を指摘できた。(1)本時の目標は, 学習指導要領の指導事項の記述と同じ文言を使用しており,抽象度の高い記述であった,(2) 本時の目標の記述と解釈後の目標の間において整合性が取れていない学習指導案がいくつか存 在した,(3)「家族と家庭生活」の指導事項は,概ね「概念的知識を理解する」ことを目標にし ており,「理解する」は学習したことをノートやプリントに「まとめる」,調べたことや班で話 し合ったことを「発表する」ことを求めている傾向であった,(4)学習指導案からは知識の質 を明らかにはできなかった。 キーワード: 教育目標,改訂版ブルーム・タキソノミー, 中学校家庭科「家族と家庭生活」,教師用指導書,学習指導案 1.研究の背景  平成元年中学校学習指導要領改訂を機に,中学 校家庭科では家族や地域を扱う内容が新設され た。以降,この内容の実践を対象とした研究はい くつか行われ,成果や課題が明らかにされてきた。 鶴田 (1996) は, 「家族」 学習に関する著作物など から,中学校の題材注1) を分析し,扱う内容の種 類や学習過程に対する課題を明らかにした。伊深 (2016)は,平成元年学習指導要領改訂後に出版 された家庭科教育に関する専門書に掲載されてい る「家族」の実践を対象に,内容や教材・方法の 視点から分析し,多様な教材や方法で学習が設計 されていることを示唆した。これらの研究より, 題材や教材,方法など,いわゆる「指導」の側面 から現状や課題が明らかとなっている。村田ら (2017)は,全日本中学校技術・家庭科研究会機 関誌『理論と実践』にある実践論文を分析し,家 族や地域を扱う題材目標の記述が一部欠如してい る論文や教育評価の記述が希薄な論文が多いこと を指摘しており,「教育目標」や「教育評価」に 課題が含まれていることを示唆した。特に「教育 目標」は,「指導」や「教育評価」の指針となり, 実践の改善に際して最も重要な要素の一つと言え る。一方で,村田ら(2017)が分析の対象とした 『理論と実践』にある実践論文は,4ページとい う限定的な紙幅の中に,実践研究の目的や方法, 成果などの概要で構成されている。そのため,題 材全体の傾向を分析する資料に適している。しか し,1時間単位の授業における教育目標に関する 課題を明らかにするには情報量が少なく具体的な 改善の視点を得るには適していない。  そこで,本研究では学習指導案に着目する。学 習指導案は,1時間単位で本時の目標や学習活 動・内容,指導上の留意点や評価規準の計画が記 述されており,資料全体を通じてどのような目標 が設定されているか解釈可能であると考える。だ が,これまで学習指導案を資料として,教育目標 を分析した研究は確認できていない。 〈原著論文〉 日本教科教育学会誌 2019.12 第42巻 第 3 号 pp.69-81 DOI: 10.18993/jcrdajp.42.3_69 3

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2.本研究の目的と方法  本研究の目的は,学習指導案の記述から,教育 目標の内容を具体的に読み取ることを通じて,中 学校家庭科「家族と家庭生活」の学習指導案にお ける傾向と課題を明らかにすることである。  そのための方法として,教育目標を分析する理 論やこれまでの先行研究を整理し,本研究におけ る分析理論を選定し,分析手続きを考案する。そ の上で,学習指導案に記述されている教育目標を 分析・考察する。 3.教育目標の分析方法 3.1.ブルーム・タキソノミーと先行研究  教育目標の明確化を目指す先駆け的な理論と して,B. S. Bloom et al (1956)による「Bloom’s Taxonomy(ブルーム・タキソノミー,以下 BT)」 がある。大学のテスト作成に関して,作成者の共 通言語として開発された。「認知領域」は,「知識」 「理解」「応用」「分析」「総合」「評価」の主要な 6カテゴリーがあり,「知識」から「評価」につ れて,単純な認知から複雑な認知という順序に なっている。  日本の家庭科教育において教育目標を分析した 研究は岩見ら(1974)の研究が起源である。岩見 らは,学習指導要領(昭和44年改訂)の目標が「〜 の能力を養う」「〜について知る」と不明瞭であり, 目標の明確化が課題であると指摘している。そこ で,BT の中でも「認知領域」の「知識」「理解」「応 用」の3カテゴリーに着目し,中学校1年食物領 域の内容の一部における明確な目標を試案した。 「〜について知る」は「〜について述べることが できる」や「関連づけて書くことができる」のよ うに教育目標の具体例を示した。木村ら(1976)は, 日本の学習指導要領の「目標の抽象的な文章表現」 「目標と内容の対応の不明確さ」を背景に,日本 とアメリカミネソタ州の目標(どちらも食習慣に 関する学習)の表現法をBT のカテゴリーに基づ き比較し,抽象的な日本の学習指導要領の記述を 解釈するための資料を提示した。また,日本の記 述にある「知る」「考える」「できる」の各目標用 語は,さまざまな解釈を許すあいまいな言葉であ り,目標を示す言葉としてあまり適切ではないと 結論づけている。刀祢館(1983)は,BT の認知 領域のカテゴリーを用いて,小学校被服実習の「三 つ折り縫い」の完全習得を目指した目標記述を開 発した。これら3つの研究は,教育目標の明確化 を目指した先駆的な理論であるBT を用いた研究 であった。BT を用いることで,日本の学習指導 要領の不明瞭な記述を明確にするための参考とな る記述例がいくつか試案された。 3.2.改訂版ブルーム・タキソノミーと先行研究  L. W. Anderson et al (2001)は,初等・中等教 育段階の現場向けに,「Revised Bloom’s Taxonomy (改訂版ブルーム・タキソノミー,以下RBT)」 を発表した。RBT の基本的な方針として,(1) 目標・授業活動・評価の全過程を対象としている こと,(2)目標の記述方法では,動詞(例えば, BT では 「理解」 だったものが RBT では 「理解す る」)で表現されるようになったことが挙げられ ている(石井,2002)。また,BT の「知識」カ テゴリーの中に混在していた名詞の側面と動詞の 側面を分離させ,名詞の側面は「知識次元」に, 動詞の側面は「記憶する」カテゴリーとなり, BT の構造を継承した「認知過程次元」として位 置付けた(図1)。知識次元は,「具体→抽象」と いう原理で「事実的知識」「概念的知識」「手続き 的知識」「メタ認知的知識」の順に配列された。「認 知過程次元」は,先ほどの「記憶する」,「理解す る」「応用する」「分析する」「評価する」「創造す る」の6カテゴリーが複雑性の原理によって配列 され(石井,2002),表1のような二次元の表(以 下RBT テーブル)が開発された。知識次元の4 図1 BT の枠組みから RBT への構造的変化の概要 (出典:L. W. Anderson et al(2001)p.268より,筆者訳) 評価する 創造する 知識 解 応 分析 総合 評価 認知過程 次元 別の次元 記憶する 解する 応 する 分析する 知識 次元 動詞の側面 名詞の側面

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つの主要タイプとサブタイプ,認知過程次元の6 つのカテゴリーとその具体的な認知過程について は,巻末資料1,2に提示した。  家庭科教育において,河村(2013)は,小学校 家庭科の調理実習を通じた調理技能(技能や調理 に関する知識)の習得状況を把握する研究を行っ ている。状況把握のためのテスト項目作成時に学 習内容をRBT の4つの知識次元に分類している。 岡ら(2018)は,メタ認知に着目した資質・能力 型ポートフォリオの開発のため,小学校学習指導 要領衣生活領域「(5)生活を豊かにするための布 を用いた製作」の解説にある記述をRBT の認知 過程次元を中心に分類し,製作の活動を想定して RBT テーブルを試案している。以上は, テスト項 目やポートフォリオを開発するために, RBT の知 識次元の主要タイプや認知過程次元の6つのカテ ゴリーを用いて目標の記述の生成を行っている。  BT 及び RBT の理論及び家庭科教育における 先行研究を概観した結果,本研究の分析理論とし てRBT を用いることが適していると考えられる。 その理由は3つある。1つ目として,BT は,大 学のテスト作成において作成者のために開発され たが,RBT は初等・中等教育段階の現場向けに 開発されている点である。2つ目は,RBT は知 識次元と認知過程次元の二次元で目標を分類する ことができ,BT に比べてより明確に目標を解釈 できる点である。そして3つ目は,RBT の理論 によって学習指導案に記述のある学習活動や教育 評価を分析することで,目標・授業・評価の「整 合性」が検討でき(石井,2015),授業改善の視 点が得られるためである。  家庭科教育におけるRBT を用いたこれまでの 研究では,教育目標の記述全体を明確に把握し, 授業改善を図ろうとしたものではない。そのため, RBT を用いて教育目標の傾向や課題を明らかに することには意義がある。加えて,これまでの研 究では,RBT を用いた学習指導案の分析方法に ついても言及されていないため,分析手続きにつ いて考案する必要がある。 3.3.学習指導案の教育目標の分析方法 3.3.1.対象となる学習指導案  新学習指導要領は平成29年に告示され,現在移 行期間であると同時に教科書の編集が行われてい る段階である。そこで本研究は,平成20年告示の 学習指導要領を踏まえた教師用指導書に着眼す る。教科書に付随している教師用指導書には,教 科書に盛り込まれている学習内容の解説書や年間 指導計画案,教科書に準拠した学習指導案などが セットになって販売されており,各学校に概ね所 蔵されている。そのため,多くの教員の授業づく りの参考資料となっている。  平成20年告示の学習指導要領に準拠し,現在使 用されている中学校家庭分野の教科書及び教師用 指 導 書 は 全 3 社( 東 京 書 籍,2016, 開 隆 堂, 2016,教育図書,2016)が出版をしている。この 2016年版の教師用指導書に記載の学習指導案13編 を分析対象とした。分析に当たって,平成20年改 訂学習指導要領「A 家族・家庭と子どもの成長」 における「家族と家庭生活」の指導事項を次の3 つに分割する。「アの前半部分(家庭や家族の基 本的な機能について理解すること)」「アの後半部 分(家庭生活と地域とのかかわりについて理解す ること)」「イ(これからの自分と家族とのかかわ りに関心をもち,家族関係をよりよくする方法を 考えること)」の3つである。その上で,それぞ れの指導事項に関連した学習指導案を選定し,番 号を付し(表2),分析を行う。 表1 RBT テーブル (出典:L. W. Anderson et al(2001) p.28より,筆者訳) 知識次元 認知過程次元 1.記憶する 2.理解する 3.応用する 4.分析する 5.評価する 6.創造する A.事実的知識 B.概念的知識 C.手続き的知識 D.メタ認知的知識

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3.3.2.分析手続き  学習指導案の分析手続きを考案した。次の①〜 ④の通りである(図2)。 ① 本時の目標を抽出し,その記述を知識及び認知 過程に分ける。ただし,認知過程ではない述部 (例えば,「関心をもつ」や「気づく」など)を 持つ文章は,【関心・意欲・態度】の記述と見 なす。 ② 本時の目標達成を目的とした学習活動・内容及 び評価規準の記述を抜き出す。その際,1時間 の中で設定されているいくつかの学習活動・内 容のうち,評価規準の観点が合わせて設定して あるものを抜き出す。抜き出した記述を,それ ぞれ知識及び認知過程に分ける。また,RBT は知識次元及び認知過程次元に分類する理論で あることから,本研究ではこれらの次元に相当 する【知識・理解(家庭科では「生活や技術に ついての知識・理解」とされるため以下,知識・ 理解)】及び【思考力・判断力・表現力(家庭 科では「生活を工夫し創造する能力」とされる ため以下,工夫創造)】の2観点のみを扱う。 ③ ②で分けられた知識及び認知過程から,最も具 体的な記述を選択し,その授業では具体的にど んな知識を扱い,どんな認知過程が求められて いるか目標を解釈する。解釈に際して,①本時 の目標と②学習活動・内容及び評価規準の関連 を確認する必要がある。①と②を比較し,内容 の質を探る。ただし,②の情報は記載されてい るものの,対応した①の記述が確認できないも のがある。また,①の記述はあるが,対応した ②が設定されていないものも考えられる。それ らの箇所は,学習指導案上に「(①もしくは②が) 設定されていない」ものと解釈する。 ④ ③の知識及び認知過程を RBT の「知識次元」 の主要タイプや「認知過程次元」の6つのカテ ゴリー(巻末資料1,2)を用いて分類する。 3.3.3.分析手続きの適用  分析手続き①から④の適用として,学習指導案 X1を例に説明する。  まず,手続き①より,教育目標「家庭や家族の 基本的な機能を知り,家庭や家族の大切さについ て考えることができる」を抽出する。この学習指 導案は,「家庭や家族の基本的な機能を知り」と「家 庭や家族の大切さについて考えることができる」 の2つの目標で構成されている。前半は,「家庭 や家族の基本的な機能(知識)」と「知る(認知 過程)」に,後半部分は,「家庭や家族の大切さ(知 識)」と「考える(認知過程)」に分けられる。  手続き②で「学習活動・内容」及び「評価規準」 を抽出するために,X1の学習活動・内容の展開 を表3に示す。X1の学習指導案は5つの学習活 動・内容から構成されている。その中でも「家族 がいなくなったら困ることを挙げる」の学習活 動・内容に評価規準「家庭や家族の基本的な機能 について理解している」と評価の観点【知識・理 解】が示されている。そこで,本時の目標との関 連があるこの学習活動・内容及び評価規準を抽出 する。抽出した学習活動・内容は,「家族がいな くなったら困ること(知識)」と「挙げる(認知 過程)」に分けられる。また,評価規準は,「家庭 表2 学習指導要領と学習指導案の関連 ※Z1,Z2は同じ題材名だが,2時間構成で学習指導案が分かれているため異なる番号を付した 指導事項 X 社の章名 番号 Y 社の章名 番号 Z 社の章名 番号 ア 前半「家庭や家族の基本的な機 能について理解すること」に対応し た内容 家庭や家族の機能に ついて考えよう X1 家庭の働き Y1 家庭の生活を考えよう (1時間目) Z1 家庭の生活を考えよう (2時間目) Z2 ア 後半「家庭生活と地域とのかか わりについて理解すること」に対応 した内容 家庭生活と地域との 関わりを考えよう X2 家庭の仕事を支える 社会 Y2 家庭と地域のつながり Z3 イ 「これからの自分と家族とのかか わりに関心をもち,家族関係をより よくする方法を考えること」に対応 した内容 中学生にとっての家族 について考えよう X3 中学生と家族との かかわり Y3 家族とのかかわり Z4 家族のかかわりと コミュニケーション Z5 これからのわたしと 家族との関係 Y4 将来の自分の家族や家庭 Z6

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や家族の基本的な機能(知識)」と「理解する(認 知過程)」に分けられる。  手続き③として,手続き②で分けた知識と認知 過程それぞれの記述を見比べたところ,最も具体 的な記述は「家族がいなくなったら困ること(知 識)」と「挙げる(認知過程)」であり,これを「③ 解釈後の目標」とする。ここで,手続き①②で抽 出した記述の関連を確認する。①の1つ目「家庭 や家族の基本的な機能を知り」と②評価規準「家 庭や家族の基本的な機能について理解している」 の記述はほぼ同じ用語が使用されており,関連性 があると言える。だが,本時の目標の2つ目「家 庭や家族の大切さについて考えることができる」 と手続き②で抽出した記述の質は異なっている。 また表3の学習展開にも,手続き②で抽出した記 述以外に,学習活動・内容及び評価規準が合わせ て設定されているものはなく,本時の目標の2つ 目に関連する学習活動・内容及び評価規準は設定 されていないと判断できる。  手続き④より,「挙げる」という認知過程は,「例 示する」に分類できる。根拠として,巻末資料2 にある「2. 理解する」「2.2 例示する」に具体例と して「挙げる」と示されているためである。「家 族がいなくなったら困ることを挙げる」という学 習活動・内容は,【知識・理解】の観点で評価規 準が設定されており,「家庭や家族の基本的な機 能について理解している」ことを評価する学習活 動・内容である。そのため,「A. 事実的知識」と して家庭や家族の基本的な機能の一つ(例えば, 子どもを産み育てる機能など)が挙げられるかを 評価するのではなく,機能全体を理解した上で, 困ったことをあげることができるかを評価すると 考えられることから,「B. 概念的知識」に分類す る。ただし,学習指導案にある情報からは巻末資 料1にあるB.A. から B.C. のサブタイプに分類す る根拠は確認できなかった。  学習指導案X1を整理・分析した結果を表4に 示す。なお,本時の目標2つ目の「家庭や家族の 大切さを考える」という記述に対応した「学習活 動・内容」及び「評価規準」が確認できなかった ため,括弧付きにしている。このように表2の X1から Z6までの学習指導案を整理し,分析した 結果を一覧にし,考察を行っていく。 4.教育目標の分析結果及び考察  X1から Z6の学習指導案を分析し,「①本時の目 標」「③解釈後の目標」「④主要タイプ・カテゴリー」 を指導事項ごとに一覧にした。加えて,一覧にあ る「④主要タイプ・カテゴリー」を元に,表1の RBT テーブルを用いて分類したものを作成した。 表3 学習指導案 X1の学習活動・内容の展開 ・学習の目標を知る。 ・ 教科書 p.176の「やってみよう」で家庭や家族という言 葉からイメージできることを付箋にできるだけ書く。 ・グループごとに似た意味のものに分ける。 ・ 家族がいなくなったら困ることを挙げる。   (〔知識・理解〕家庭や家族の基本的な機能について理解 している。) ・ 教科書 p.177の「まとめよう」でこれからの生活の中で 特に大切にしたいと思う家庭や家族の機能とその理由 についてワークシートに記入する。 図2 学習指導案分析の手続き 対応 本時の目標 ① 知識 認知過程 知識 認知過程 ② 学習活動・内容 知識 認知過程 具体的な知識 具体的な認知過程 知識次元 のタイプ 認知過程次元 のカテゴリー 評価規準 (知識・ 解,工夫創造) 解釈後の目標 ④ ③ 表4 学習指導案 X1「家庭や家族の機能について」の 分析結果 手続き 抽出項目 知識の記述 認知過程の記述 ① 本時の目標 家庭や家族の基本的な 機能 知る (家庭や家族の大切さ)(考える) ② 学習活動 ・内容 家族がいなくなったら 困ること 挙げる 評価規準 家庭や家族の基本的な機能【知識・理解】 理解する ③ 解釈後の目標 家族がいなくなったら困ること 挙げる ④ 主要タイプカテゴリー 概念的知識 (例示する)理解する

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 作成した一覧表やRBT テーブルを次の3つの 視点で考察する(図3)。まず視点a は,「学習指 導要領の指導事項の記述」と「①本時の目標」の 記述を比較し,指導事項の文言が本時の目標の表 記にどの程度使用されているかを明らかにする視 点である。視点b は,「①本時の目標」の記述と「③ 解釈後の目標」の記述を比較し,本時の目標を達 するための学習活動・内容や評価規準が設定され ているか,つまり「目標」と「指導と評価」の整 合性を明らかにする視点である。最後に視点c は, 「学習指導要領の指導事項の記述」と「③解釈後 の目標」の記述を比較し,指導事項に対して具体 的にどのような学習活動・内容や目標を設定して いるかを明らかにする視点である。以上の3視点 で分析,考察することで,中学校家庭科「家族と 家庭生活」における教育目標から見た学習指導案 の傾向と課題を明らかにしていく。 4.1.「家庭や家族の基本的な機能」に対応した学 習指導案の分析と考察 4.1.1.視点 a:指導事項と本時の目標の比較  表5の 「①本時の目標」 から, X1, Y1, Z1, Z2で 「家庭の機能(はたらき)を理解する(知る)」と いう目標が設定されており,学習指導要領の指導 事項の記述と同じ質の文言で記述されていること がわかる。また,Y1, Z1, Z2では,「家族の一員 として自分にできる家庭の仕事・活動」について 考えることや実践することも本時の目標とした授 業が設計されていた。「家族の一員として自分に できる家庭の仕事・活動」という記述は学習指導 要領及び解説には記載されていない。出版社が独 自に設定した目標であり,「家庭の機能(はたら き)」を踏まえた上で,自分が家庭を支えるため にできることを考える発展的な学習も設定してい ると言える。 4.1.2.視点 b:本時の目標と解釈後の目標の比較  「①本時の目標」と「③解釈後の目標」を比較 するとX1,Y1,Z1,Z2の一部では評価規準や学 習活動・内容が設定されていないことがわかる。  さらにY1は「①本時の目標(中学生が家族の 一員として行える家庭の活動について考える)」 と対応した「②学習活動・内容(現在の自分が家 庭を支えるために行える活動について考える)」 及び「②評価規準(現在の自分が家族の一員とし て行える家庭の活動を考えている)」が概ね同じ 記述内容となっており,具体的な解釈が行えな かった。特に認知過程は①から②のすべての記述 で「考える」となっていた。どのように「考える」 のかを具体的に記述しなければ,目標の明確化は 図れない。 4.1.3.視点 c:指導事項と解釈後の目標の比較  表6のRBT テーブルを見ると,「B. 概念的知 識を2. 理解する」ことを目標に置いている授業が 多いことがわかる(X1, Z1, Z2)。指導事項「家 庭や家族の基本的な機能」は「B. 概念的知識」,「理 解すること」は「2. 理解する」に分類できるため, 指導事項と学習指導案全体は整合性がとれている と言える。またX1, Z1, Z2の「③解釈後の目標」 を見ると,知識次元については,3.3.3で示した分 析例と同じく「概念的知識」ではあるものの,サ ブタイプには分類することはできなかった。つま り,どのような質の知識を扱っているかは明らか にできなかった。「理解する」の具体的な記述を 見ると, 「例示する (X1, Z2)」 「要約する (Z1, Z2)」 といくつかの認知過程を課しているため,「理解 する」を多様に使用していることが推察できる。 4.2.「家庭生活と地域との関わり」に対応した学 習指導案の分析結果と考察 4.2.1.視点 a:指導事項と本時の目標の比較  表7より,X2,Y2,Z3いずれも「①本時の目標」 において,「家庭生活と地域との関わり」が知識 に設定されており,認知過程はX2, Y2は「理解 する」と学習指導要領の指導事項と同じ文言で記 述されていることがわかる。Z3では「関心を持つ」 となっており,【関心・意欲・態度】の観点から 目標を設定していると読み取れたため,認知過程 には当てはまらなかった。 図3 結果の考察視点 「①本時の目標」 の記述 学習指導要領の 指導事項の記述 「③解釈後の目標」 の記述 視点a 視点c 視点b

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4.2.2.視点 b:本時の目標と解釈後の目標の比較  表7から,「①本時の目標」と「③解釈後の目標」 の間に整合性が低い学習指導案があった。具体的 には,X2の「③解釈後の目標」である「地域の 関係をよりよくするために中学生の自分としてで きることを発表する」に対応する本時の目標は設 定されていなかった。Y2の「①本時の目標」で ある「家庭生活と地域とのかかわりについて理解 している」に対応した評価規準や学習活動・内容 は設定されていなかった。Z3は,先述したよう に目標の記述が【関心・意欲・態度】の観点から 目標設定されており,知識や認知過程に分けるこ とはできなかったが,【知識・理解】【工夫創造】 の観点の学習活動・内容が設定されていた。 4.2.3.視点 c:指導事項と解釈後の目標の比較  表8から,「B. 概念的知識を2. 理解する」に目 標を置いている授業が多いことがわかる。「概念 的知識」のサブタイプは,3.3.3での結果と同様に, 分類するための根拠は学習指導案から読み取れな かった。「理解する」の具体的な記述は「発表す る(X2, Z3)」「推論する(X2)」とあるため,考 えたことを他者に発表することを目標に設定する 傾向にあった。なお,表7「発表する (X2, Z3)」 は「理解する(説明する)」と解釈しているが, 表5「発表する(Z2)」は「理解する(例示する)」 としており,同じ認知過程であっても,異なるサ ブカテゴリーになっている。表7は,「地域の関 係をよりよくするために中学生の自分としてでき ること」や「家族と地域とのつながり」について, 表5 指導事項ア前半「家庭や家族の基本的な機能について理解する」の目標分類一覧 1)括弧内はサブカテゴリーを示す 2)解釈できなかった認知過程次元 表6 ア前半の RBT テーブル 番号 ①本時の目標 ③解釈後の目標 知識の記述 認知過程の記述 観点 知識の記述 ④主要タイプ 認知過程の記述 ④カテゴリー1) X1 家庭や家族の基本的な機能 について知り 知 家族がいなくなったら困 ること 概念 挙げる 理解する (例示する) 家庭や家族の大切さ について考えることができる ※ 設定されていない Y1 家庭での活動 を考え ※ 設定されていない 家庭には様々なはたらきがあること を理解する 中学生が家族の一員として行える家 庭の活動 について考える 工 現在の自分が家庭を支えるために行える活動 概念 (考える) *2) Z1 家庭や家族のはたらきと,家庭生活 を支えるもの を理解する 知 家族みんなで家事を協力すること 概念 メリットを考え,まとめる 評価する (批判する) 理解する (要約する) 家族の一員として,自分にできる家 庭の仕事 を見つけ ※ 設定されていない    実践できる Z2 家庭や家族のはたらきと,家庭生活 を支えるもの を理解する 知 家庭生活を支える施設や サービス 概念 発表する 理解する (例示する) ※ 設定されていない 工 家庭生活を支えるもの 概念 振り返る 思い出す (記憶する) 家族の一員として,自分にできる家 庭の仕事 を見つけ 家族の一員として,家庭 生活をよりよくするため に,これから取り組んで いこうと思うこと 概念 まとめる 理解する (要約する)    実践できる ※ 設定されていない 知識次元 認知過程次元 1.記憶する 2.理解する 3.応用する 4.分析する 5.評価する 6.創造する A.事実的知識 B.概念的知識 Z2 X1 Z1 Z2 Z2 Z1 C.手続き的知識 D.メタ認知的知識

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自らの考えを他者に向けて説明することができる かを課している。一方,表5の「発表する」は,「家 庭生活を支える施設やサービス」について身近な 具体例を発表することを課しており,表7の「説 明する」とは異なり「例示する」と解釈した。 4.3.「家族関係をよりよくする方法」に対応した 学習指導案の結果 4.3.1.視点 a:指導事項と本時の目標の比較  表9より, X3, X4, Y3, Z5の 「①本時の目標」 は,指導事項「家族関係をよりよくする方法を考 えること」と同様の文言が用いられていることが わかる。  Z4, Z5の「①本時の目標」の知識は,学習指導 要領や解説では触れられていないものであった。 記述から,「家庭内にはいろいろな関係があるこ と」「家庭内での立場や役割によって,ものの見 方や考え方が違うこと」「コミュニケーションの 大切さ」がそれに当たる。これらの知識は「家族 関係をよりよくする方法」が具体的に設定された ものと考えられる。 4.3.2.視点 b:本時の目標と解釈後の目標の比較  表9より,学習指導案ごとに課題は異なってい た。Y4や Z4のように「③解釈後の目標」は読み 取れたものの,「①本時の目標」が設定されてお らず,整合性の取れていない学習指導案を確認で きた。一方,「①本時の目標」と「③解釈後の目標」 との整合性が取れている学習指導案も確認できた (X3, X4, Z5)。他の指導事項の学習指導案に比べ て,整合性の取れている学習指導案は多かった。 4.3.3.視点 c:指導事項と解釈後の目標の比較  表10から,イの指導事項は,「B. 概念的知識を 2. 理解する」目標を設定していることが多いこと がわかる。「2. 理解する」の具体的な認知過程を みると,「まとめる(X4, Z4, Z5, Z6)」があり, 認知過程は「まとめる」ことが目標に多く設定さ れていた。つまり,「家族関係をよりよくする方 法を考える」という指導事項は,学習したことを 表7 指導事項ア後半「家庭生活と地域とのかかわりについて理解すること」の目標分類一覧 1)括弧内はサブカテゴリーを示す        2)一つの目標に対して,【知】【工】の2観点が設定されている 表8 ア後半の RBT テーブル 番号 ①本時の目標 ③解釈後の目標 知識の記述 認知過程の記述 観点 知識の記述 ④主要タイプ 認知過程の記述 ④カテゴリー1) X2 家庭生活と地域との関わり について理解できる 知2) もしも家庭生活と地域との関わりが全くなくなってしまったらどう なるか 概念 推論する 理解する (推論する) 工2) 地域で様々な活動を行っている意 義 概念 確認する 記憶する (思い出す) ※ 設定されていない 工 地域の関係をよりよくするために中学生の自分としてできること 概念 発表する (説明する)理解する Y2 家庭生活と地域とのかかわり について理解している ※ 【知識・理解】【工夫創造】の観点における学習活動・内容は設定されていない 【関心・意欲・態度】として設定されている Z3 家庭生活と地域の人々とのかかわりに関心を持つ ※ 設定されていない 地域の一員であることを自覚し積極的にかかわりを持 つことができる ※ 設定されていない 知 家族と地域とのつながり 概念 発表する 理解する ( 説明する) 工 生活しやすい地域をつくるためにどうしたらよいか 手続き まとめる (要約する)理解する 知識次元 認知過程次元 1.記憶する 2.理解する 3.応用する 4.分析する 5.評価する 6.創造する A.事実的知識 B.概念的知識 X2 X2X2 Z3 C.手続き的知識 Z3 D.メタ認知的知識

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ノートやプリントにまとめることを志向している と言える。 5.総合考察  以上の結果を踏まえて,学習指導案における教 育目標の視点から見た「家族と家庭生活」の傾向 や課題を考察する。  まず,視点a(指導事項と本時の目標の比較) の結果を整理する。多くの学習指導案は「本時の 目標」の記述は学習指導要領の指導事項の記述と 同様の文言を使用していた。木村ら(1976)や岡 ら(2018)が学習指導要領の記述が抽象的である と指摘したように,「本時の目標」においても抽 象的な記述で設定していると考えられる。そのた め,「本時の目標」の記述だけでは,現段階では 明確な目標を解釈することは難しい。  次に視点b(本時の目標と解釈後の目標の比較) についてまとめる。「①本時の目標」の記述と「③ 解釈後の目標」の記述を比較した結果,整合性の 取れていない学習指導案がいくつか見られた。各 表9 指導事項イ「これからの自分と家族とのかかわりに関心を持ち,家庭関係をよりよくする方法を考える こと」の目標分類一覧 1)括弧内はサブカテゴリーを示す 2)解釈できなかった認知過程次元 表10 イの RBT テーブル 番号 ①本時の目標 ③解釈後の目標 知識の記述 認知過程の記述 観点 知識の記述 ④主要タイプ 認知過程の記述 ④カテゴリー1) X3 家族との関わりや,これからの自 分の家庭生活 について考えることができる 工 今の自分と家族との関わり方 手続き 振り返る 記憶する (思い出す) 家族関係をよりよくする方法 を考えることができる 家族関係をよりよくする方法 手続き (考え,工夫している) *2) X4 家族との関わりや,これからの自 分の家庭生活 について考えることがで きる 知 地域の活動 概念 まとめる 理解する (要約する) 家族関係をよりよくする方法 を考えることができる 工 家族関係をよりよくするために大切なこと 概念 まとめる 理解する (要約する) Y3 家族とのかかわりに関心をもつ ※学習指導案内に【関心・意欲・態度】の観点が設定され,評価は行われいている 家族関係をよりよくする方法 を考える 工 家族が気持ちよく生活出来る方法 手続き 話し合う 理解する (議論する) Y4 これからの自分と家族とのかかわりや自分の生活に関心をも つ ※学習指導案内に【関心・意欲・態度】の観点が設定され,評価は行われいている ※ 設定されていない 知 祖父母と一緒に生活をした場合の衣・食・住の変化 概念 (考える) *2) Z4 家庭内にはいろいろな関係があることに気づく ※学習指導案内に【関心・意欲・態度】の観点が設定され,評価は行われいている 家庭内での立場や役割によって, ものの見方や考え方がちがうこと を理解する 知 家族が困ったときに相談する人 事実 確認する 記憶する (思い出す) ※ 設定されていない 工 よりよい家族関係 概念 まとめる 理解する (要約する) Z5 コミュニケーションの大切さ を理解する 知 家族とのコミュニケーション 概念 まとめる 理解する (要約する) 家族関係をよりよくする方法 について考え,工夫することができる 工 家族に気持ちを伝えられた場 合と,伝えられなかった場合 で,家族の関係や気持ちがど う変わるか 概念 比較する(考える) 理解する (比較する) Z6 これからの家庭生活や家族とのかかわりを思い描くことがで きる ※ 設定されていない 将来のよりよい家庭生活のために できること を考え,工夫できる 工 これからの家族関係をよりよ くするために家族の一員とし てできること 概念 まとめる 理解する (要約する) 知識次元 認知過程次元 1.記憶する 2.理解する 3.応用する 4.分析する 5.評価する 6.創造する A.事実的知識 Z4 B.概念的知識 X4, X4Z4, Z5 Z5, Z6 C.手続き的知識 X3 Y3 D.メタ認知的知識

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表にある「※設定されていない」がそれに当たる。 このように整合性が低くなっている要因として, 学習指導案の開発者が目標や学習活動・内容,評 価規準との間に整合性を見出すために,教育目標 を基軸に省察する視点を持っていないことが推察 できる。RBT の理論により分析することで学習 指導案を包括的に点検することができ,修正点を 見出すことでより質の高い実践につながると考え られる。  視点c(指導事項と解釈後の目標の比較)につ いてまとめる。「家族と家庭生活」の指導事項は「④ 主要タイプ・カテゴリー」から,おおよそ「B. 概 念的知識を2. 理解する」に分類されていることが 分かった。これは「家族と家庭生活」の領域固有 の課題であると言える。例えば調理実習や被服実 習を含む食生活や衣生活の領域では,学習したこ とを実際に実習場面で実行する(「3. 応用する」 のカテゴリーに分類される)課題を授業の中で生 徒へ求めることができる。一方,「家族と家庭生活」 の指導事項は家族との関係や地域の人々とのかか わりを扱うため,実行できる場面は教室や実習室 ではなく,個々の家庭生活の中にある。しかしな がら,現代社会の家族形態や家庭環境の多様さに より,学習したことを各家庭で実行する課題はプ ライバシーに配慮する必要もあり設定しにくく, 評価することも同時に困難である。そのため,学 習したことをノートやプリントに「まとめる」こ とや調べたことや班で話し合ったことを「発表す る」,つまりは「2. 理解する」カテゴリーの学習 で完結せざるを得ないと推察される。  分析全体を通じた課題として,「知識」のサブ タイプが不明確であることが指摘できる。今回の 分析では,ほとんどの「知識」は,「B. 概念的知識」 に分類した。だが,巻末資料1の「B. 概念的知識」 のサブタイプにある「B.A. 分類やカテゴリーの 知 識 」「B.B. 原理や一般化の知識」「B.C. 理論, モデル,構造の知識」に分類するための根拠は学 習指導案からは得られなかった。これは,「C. 手 続き的知識」に分類できた「知識」についても同 様であった。  以上の考察を踏まえると,知識がサブタイプに 分類できなかった課題は包含するものの, RBT に 当てはめ,学習指導案から読み取ることで,教育 目標を整理することができた。また,「①本時の 目標」と「③解釈後の目標」との間に整合性が取 れていない学習指導案がいくつかあるという課題 を明らかにすることができたことで,学習指導案 に記述された本時の目標や学習活動・内容,評価 規準などを包括的に見直すための視座を得られた。 6.まとめと今後の課題  本研究の目的は, RBT を用いて教師用指導書に ある学習指導案の記述から教育目標の内容を具体 的に読み取ることを通じて,中学校家庭科「家族 と家庭生活」の学習指導案の傾向と課題を明らか にすることである。学習指導案を分析した結果, 次の4点を明らかにした。(1) 「①本時の目標」 の 記述は,学習指導要領の指導事項の記述と同様で あったため,抽象的な記述であり,明確な目標の 把握には至ることができなかった,(2)「①本時 の目標」の記述と「③解釈後の目標」の記述の間 に整合性が取れていない学習指導案がいくつか存 在した,(3)「家族と家庭生活」の指導事項は, 概ね「概念的知識を理解する」ことを目標にして おり,「理解する」は学習したことをノートやプ リントに「まとめる」,調べたことや班で話し合っ たことを「発表する」ことを求めている傾向にあ り,限定的な学習活動・内容を設置していた,(4) 学習指導案からは習得させたい知識の質を明らか にはできなかった。  今後の課題としては,次の3点を挙げる。まず 1点目は,本研究は教師用指導書における13編の 学習指導案という限定的な資料を用いたため,特 に「③解釈後の目標」の記述に多様さを確認でき なかった。石井(2002)は, RBT の学習観の一つ に「領域固有性(文脈依存性を重視し,領域固有 の知識構造や知的操作の探求に力点を置く)」を 挙げている。つまり,その学習領域固有の「知識」 や「認知過程」があるはずだが,本研究の分析資 料だけでは「知識」タイプや「認知過程」のカテ ゴリーを多様に表現する語彙は不十分である。 よって,他の資料についても選定を行い,分析す る必要がある。  2点目は,「知識」の質について検討すること である。学習指導案からは,「B. 概念的知識」に 分類したものが多かったが,巻末資料1にあるよ

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うな,知識のサブタイプには分類することができ なかった。その知識がどのような性質を持ってい るか,例えば教科書に記載のある具体的な内容な どを手掛かりに分析することで,どのような知識 を扱う学習かがより明確になると考える。  3点目は,新学習指導要領改訂の基本方針の中 に,小・中・高等学校の内容の系統性を明確にし, 各内容の接続が見えるよう三つの内容を共通で設 定している。本研究は中学校を対象としているた め,小学校や高等学校の同様の指導事項を分析す ることで,系統的な指導に向けた課題を把握する 必要がある。 注 1)平成20年学習指導要領解説技術・家庭編の第 3章指導計画の作成と内容の取り扱いにおい て,「技術・家庭科における題材とは,教科の 目標及び各分野の目標の実現を目指して,各項 目に示される指導内容を指導単位にまとめて組 織したものである」となっており,他教科での 単元を表している。本研究では「題材」を「単 元」と同義で扱う。 引用文献

B. S. Bloom, M. D. Engelhart, E. J. Furst, W. H. Hill, D. R. Krathwohl (1956) Taxonomy of Educational Objectives, Handbook1: Cognitive Domain, New York and London, LONGMAN

伊深祥子(2016)家庭科における家族の授業分析, 日本家庭科教育学会誌,58(4),pp.232-239 石井英真(2002)「改訂版タキソノミー」による ブルーム・タキソノミーの再構築-知識と認知 過程の二次元構成の検討を中心に-,教育方法 学研究,28,pp.47-58 石井英真(2015)現代アメリカにおける学力形成 論の展開-スタンダードに基づくカリキュラム の設計-(増補版),東信堂,pp.94-98 岩見真美子,瀧沢澄江(1974)教育目標の分類に 関 す る 一 考 察, 日 本 家 庭 科 教 育 学 会 誌,15, pp.1-6 開隆堂(2016)中学校技術・家庭(家庭分野)家 庭分野学習指導書,内容編 A,pp.22-35,74-77 河村美穂(2013)家庭科における調理技能の教育 -その位置づけと教育的意義-,勁草書房, pp.207-221 木村温美,田辺幸子(1976)家庭科教育目標の明 確化について(第1報)表現法の日米比較,家 政学会誌,27(8),pp.37-43 教育図書(2016)新技術・家庭家庭分野教師用指 導書,指導計画集,pp.58-65

L. W. Anderson, D. R. Krathwohl, P. W. Airasian, K. A. Cruikshank, R. E. Mayer, P. R. Pintrich, J. Raths, M. C. Wittrock (2001) A Taxonomy for Learning, Teaching, and Assessing. A Revision of Bloom’s Taxonomy of Educational Objectives, New York, LONGMAN 文部科学省(2008)中学校学習指導要領解説技術・ 家庭編 文部科学省(2017)中学校学習指導要領解説技術・ 家庭編 文部省(1989)中学校学習指導要領「技術・家庭」 村田晋太朗,山本亜美,永田夏来(2017)実践論 文に見る中学校家庭分野「家族」教育の現状と 課題-全日本中学校技術・家庭科研究会機関誌 「理論と実践」を対象として-,日本家庭科教 育学会誌,60(1),pp.24-30 岡陽子,三好智恵(2018)メタ認知に着目した資 質・能力型ポートフォリオの開発と有効性の検 証-改訂版タキソノミーを活用した家庭科学習 者の記述分析から-,佐賀大学大学院学校教育 学研究科紀要,2,pp.1-12 東京書籍(2016)新編新しい技術・家庭(家庭分 野)教師用指導書,指導計画・評価編, pp.84-86,100-101 刀祢館尚子(1983)形成的評価のための目標分類 の試み-被服製作に関する技能の習得を中心と して-, 日本家庭科教育学会誌, 26(1), pp.62-66 鶴田敦子(1996)諸実践の特徴とこれからの課題, 鶴田敦子,朴木佳緒留編著,現代家族学習論, 朝倉書店,pp.138-144

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《巻末資料》 資料1 知識次元の主要タイプとサブタイプ (出典:L. W. Anderson et al.(2001)p.29を筆者が訳) 資料2 認知過程次元の6つのカテゴリーと認知過程の関係性 (出典:L. W. Anderson et al.(2001)p.31を筆者が訳) 過程のカテゴリー 認知過程とその例 1.  記憶する -長期記憶から関連のある知識を検索する 1. 1 認識する (例:アメリカの歴史における大切な出来事の日付を認識する) 1. 2 思い出す (例:アメリカの歴史における大切な出来事の日付を思い出す) 2.  理解する -口頭,書面,図形におけるコミュニケーションを含む指導的な意図から意味を構成する 2. 1 意味を理解する (例:重要なスピーチと文書を言い換える) 2. 2 例示する (例:多様な芸術的絵画スタイルの例を挙げる) 2. 3 分類する (例:精神疾患の観察事例や説明された事例を分類する) 2. 4 要約する (例:ビデオテープに録画されている出来事についての短い要約を書く) 2. 5 推論する (例:外国語を学ぶ中で,例から文法的な原理を推論する) 2. 6 比較する (例:歴史的出来事と現代的な状況を比較する) 2. 7 説明する (例:18世紀フランスでの重要な出来事の原因を説明する) 3.  応用する -あたえられた状況において実行もしくは手続きを使用する 3. 1 実行する (例:2桁以上の桁の整数を異なる2桁以上の整数で割る) 3. 2 実施する (例:ニュートンの第二法則がどのような状況で使うことが適切か判断する) 4.  分析する -物質を構成部分に分解し,一つずつの構成部分の交互関連と全体の構造や意図への関連を見極める 4. 1 識別する (例:数学の文章問題におけて関連のある数と無関係な数を識別する) 4. 2 組織する (例:歴史的な記述の根拠を,特定の歴史解釈を根拠づけたり反論するための証拠として構成する) 4. 3 解釈する (例:エッセイの著者の視点をその政治的観点から判断する) 5.  評価する -評価基準に基づいて判断を下す 5. 1 点検する (例:科学者の結論が観察されたデータに従っているか判断する) 5. 2 批判する (例:与えられた問題を解決するために二つの方法から最もよい方法を判断する) 6.  創造する -論理的,機能的な全体像を構成するために構成要素を作り出す,構成要素を新しいパターンや構造に再構成する 6. 1 生み出す (例:観察された現象を説明するために仮説を生み出す) 6. 2 計画する (例:与えられた歴史的な話題に関する研究論文を計画する) 6. 3 つくる (例:特定の目的のために特定種の生息地を建設する) 主要タイプとサブタイプ 例 A. 事実的知識-学習者が専門分野に精通するためやその問題を解くために知っておかなければいけない基礎的要素 A A. 専門用語の知識 専門的な用語,音楽記号 A B. 具体的な項目や要素の知識 主要な天然資源,信頼できる情報源 B. 概念的知識-基礎的な要素を共に機能させることができるより大きな構造内の相互関係 B A. 分類やカテゴリーの知識 地質学的な時代,企業所有権の形態 B B. 原理や一般化の知識 ピタゴラスの定理,需要と供給の法則 B C. 理論,モデル,構造の知識 進化論,議会の構造 C. 手続き的知識-なにかをする方法,調査の方法,技能・アルゴリズム・技術・方法を使用する基準 C A. 科目における特定のスキルとアルゴリズムの知識 水彩画で使用するスキル,整数の割り算 C B. 科目における特定の技術と方法の知識 インタビューの技術,科学的方法 C C. 適切な手続きを使用する時の判断基準の知識 ニュートンの第二法則を含む手続きをとるときを判断する 基準,ビジネスコストを見積もるための特別な方法を使う ことにおける実現性を判断するための基準 D. メタ認知的知識-自覚と自身の認知の知識を含む認知の知識 D A. 方略についての知識 教科書の題材単位における構造を捉える意味としての概要 についての知識,体験学習の使用についての知識 D B. 文脈上かつ条件付きの,適切な知識を含む認知的課 題についての知識 特定の教師や管理者の試験の種類に関する知識,異なる課 題の認知的指令に関する知識 D C. 自己認識 エッセーを批評することは個人的な強みであるが,一方, エッセーを書くことは個人的な弱みである;自身の認識レ ベルを自覚すること

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Trends and Issues of Educational Objectives in Lesson Plans of Home Economics “Family and Family Life” field in Junior High School: Through Analysis with “Revised Bloom’s Taxonomy”

by Shintaro MURATA

Doctoral Student, The Joint Graduate School (P.hD.Program) in Science of School Education, Hyogo University of Teacher Education

Tomoko NAGATA

Hyogo University of Teacher Education

   The purpose of this study is to clarify trends and issues of educational objectives in lesson plans of home economics “Family and Family Life” field in junior high school through analysis with “Revised Bloom’s Taxonomy” theory. In this study, description of today’s educational objectives, learning activities and contents and evaluation criteria in lesson plans were classified into adopted knowledge and requested cognitive, and were categorized major types into the knowledge dimension and the cognitive process dimension(L. W. Anderson et al, 2001).

   The four results are as follows:

(1) Today’s educational objectives were used the same words as the description of instruction in the course of study, and was high in abstraction level.

(2) There were some lesson plans which had some contradictions between today’s educational objectives and interpretation clarification of educational objectives.

(3) Instruction of “Family and Family Life” field mostly has set “understand conceptual knowledge” as its objective. Description of “understanding” was to summarize learning contents on notebooks or worksheets, to present examination or ideas from discussion.

(4) This study couldn’t find the quality of the knowledge in lesson plan.

Key words: Educational Objectives, Revised Bloom’s Taxonomy, Home Economics “Family and Family Life”

参照

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