院内トリアージに関する現状調査
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(2) 日本救急看護学会雑誌:23. 施し、緊急度Ⅰ〜Ⅴの 5 段階にトリアージできずを加. め、医師による迅速な治療介入が必要な状態、緊急. えた計 6 段階に分類し対応している。トリアージの本. 度Ⅲ(準緊急)は重篤化し救急処置が必要になる潜. 質は危険な徴候を見逃さずに適切な医療が速やかに行. 在的な可能性がある状態、緊急度Ⅳ(低緊急)は患. われるよう安全を担保することにある。そのためトリ. 者の年齢に関連した症状、苦痛と感じる、潜在的に. アージナースには病態予測・問診・フィジカルアセス. 悪化を生じる可能性のある症状で、1 〜 2 時間以内. メント・臨床推論などが高いレベルで求められる。ま. の治療開始や再評価が望ましい状態、緊急度Ⅴ(非. た、トリアージの質を担保するためにトリアージ症例. 緊急)は急性期の症状だが緊急性がないもの、およ. は全例事後検証を行い、妥当性を評価している。. び増悪の有無にかかわらず慢性期症状の一部である 場合をそれぞれ意味している。. 五十嵐、武藤(2018)が行った A 病院での先行研 究では、トリアージナースが判断した緊急度が実際よ. • トリアージできず:トリアージナースが walk-in 患. りも低く判定されるアンダートリアージ症例が全体の. 者に接触できなかった場合、もしくは接触したがト. 29%、トリアージそのものが行えなかったトリアージ. リアージ用紙に緊急度判定結果を記入できなかった. できず症例が全体の 21%であったと報告している。. 場合をいう。. そこで JTAS のタブレット端末を操作せずに緊急度判. • アンダートリアージ:トリアージナースが判定した. 定が可能な「JTAS レベル早見表」の作成やトリアー. 緊急度よりも、事後検証者が判定した緊急度のほう. ジ用紙に不備が認められる場合はトリアージナースへ. が高い症例をいう。 • オーバートリアージ:トリアージナースが判定した. 用紙を返却するよう救急外来受付と協同した。 しかし、 先行研究期間が終了した 2018 年 1 月以降の walk-in 患. 緊急度よりも、事後検証者が判定した緊急度のほう. 者の緊急度判定や事後検証結果を調査する研究は行わ. が低い症例をいう。. れていなかった。今回、アンダートリアージやオー. • 事後検証:救急外来にて診療が終了し帰宅もしくは. バートリアージ・緊急度判定がされずにトリアージで. 入院した患者のトリアージ用紙を、トリアージナー. きずと判定される症例を減らすため、それぞれの背景. スが記載内容の不備や不足がないか、緊急度は適切. 要因について明らかにすることを目的に調査を行っ. かを検証すること。その際にアンダートリアージや. た。. オーバートリアージを判別する。事後検証者は A 病院でトリアージナースとして登録されている救急 外来看護師とする。検証はトリアージ用紙が救急外. Ⅱ.用語の定義. 来受付より返却され次第、勤務時間内に行う。. • walk-in 患者:A 病院救急外来へ平日時間外または 土日祝日に救急車・ドクターヘリ以外の方法で来院. Ⅲ.倫理的配慮. した患者をいう。平日時間内(8 〜 17 時)に来院し、 時間外まで診療が継続した患者や、救急外来で診察. 本調査で作成したデータベースに含まれる情報は匿. を始めた予約患者は含めない。. 名化しており、公表にあたっては数値化し個人が特定. • トリアージナース:A 病院高度救命救急センターに. されないよう配慮した。本調査の実施については、A. 所属し、walk-in 患者へ初期対応と緊急度判定を行. 病院の倫理審査委員会で承認された(No. 一般 2019-. う看護師のこと。時間外の救急外来には概ね 2 〜 3. 189)。. 名の看護師が勤務しており、うち 1 名がトリアージ ナースの役割を担う。. Ⅳ.調査方法. • 緊急度:A 病院は日本救急医学会、日本救急看護学 1.調査期間. 会、日本小児救急医学会ら(2017)による緊急度に 準じて判定している。5 段階に分類しており、緊急. 2019 年 5 〜 6 月までの 2 カ月間. 度Ⅰ(蘇生)は生命または四肢を失うおそれがあり、 2.対象. 積極的な治療が直ちに必要な状態、緊急度Ⅱ (緊急) は潜在的に生命や四肢の機能を失うおそれがあるた. 調査期間内に救急外来を受診した walk-in 患者のト. 49.
(3) 院内トリアージに関する現状調査. 表 1 来院総数における事後検証後の緊急度分布および、緊急度別入院件数と割合. Ⅰ 蘇生. 緊急度. 来院数、 (%). 入院件数. 緊急度別 入院割合. 8(1). 4. 50%. Ⅱ 緊急. 127(15) . 57. 45%. Ⅲ 準緊急. 292(35). 87. 30%. Ⅳ 低緊急. 265(32). 25. 9%. Ⅴ 非緊急. 62(7). 0. 0%. トリアージできず. 73(9). 30. 41%. 827(100). 203. 25%. 合計. 定の精度については、患者転帰をゴールドスタンダー. リアージ情報を対象とした。. ドとして感度と特異度を算出した。また、アンダート. トリアージ用紙から以下の項目を抽出し、Excel を. リアージ率やトリアージできず率は先行研究期間に得. 用いてデータベースを作成した。. られたデータと比較した。統計ソフトは IBM SPSS. 患者来院時間、年齢、来院時主訴は JTAS に準じ. Statistics ver.26 を使用した。. て、薬物乱用・メンタルヘルスおよび心理社会的問題 (以下、メンタル) ・神経系・眼科系・鼻・耳・耳鼻科 系口腔咽頭頸部(以下、その他耳鼻咽喉科) ・呼吸器・. Ⅴ.結果. 心血管・消化器・産科、婦人科・泌尿器・整形・外. 1.来院患者総数・年齢区分・緊急度別来院. 傷・環境因子・皮膚・一般の計 17 カテゴリーに分類、 トリアージナースが判定した緊急度(検証前) 、事後. 調査期間内に来院した患者総数は 827 名であり、来. 検証者が判定した緊急度(検証後)とその理由、患者. 院患者の年齢は中央値 50 歳(最小 0、最大 95)であり、. 転帰。. 0 〜 15 歳 166 名(20 %)、16 〜 39 歳 165 名(20 %) 、 40 〜 64 歳 194 名(23%)、65 歳以上 302 名(37%)であっ. 3. 病院概要. た。入院件数は計 203 件(25%)であった(表 1)。. A 病院は特定機能病院や高度救命救急センターの役. 事後検証後の緊急度Ⅰは 8 名(1%)、緊急度Ⅱは. 割を担っており、小児集中治療室(PICU)や総合周. 127 名(15%)、緊急度Ⅲは 292 名(35%)、緊急度Ⅳ. 産期母子医療センターを有している。救急外来を受診. は 265 名(32%)、緊急度Ⅴは 62 名(7%) 、トリアー. する患者は基本的に高度救命救急センター内で診察・. ジできずは 73 名(9%)であった(表 2) 。緊急度Ⅰと. 検査を行う。しかし、眼科および産科、婦人科の 2 科. 判定され転帰が帰宅となった患者は 4 名おり、常時. に関しては高度救命救急センターから離れた専門病棟. SpO2 値が 80%台の慢性疾患患者や先天性疾患のため. で診察・検査を行っているため、救急外来看護師はト. 出生時より SpO2 値が低い乳児であった。診察にて普. リアージのみ行い診療の補助には入らない。トリアー. 段の呼吸状態と比較して明らかな悪化がないと判断さ. ジにおける時間目標は、患者来院から 15 分以内にト. れ帰宅となっている。. リアージナースが接触し、5 分以内にトリアージを終 2.事後検証前後の緊急度比較. 了するとしている。. 事後検証の結果、アンダートリアージは 43 件、オー 4.分析方法. バートリアージは 13 件あることがわかった(表 3)。. 作成したデータベースの記述分析を行った。来院時. 事後検証前後で緊急度が 3 段階変化した症例は 2 件あ. 間・来院時主訴別の症例数とアンダートリアージ・. り、検証前に緊急度Ⅴと判定したが事後検証にて緊急. オーバートリアージ・トリアージできず症例数の相関. 度Ⅱと再判定されたケースであった。どちらも眼科系. については Spearman の順位相関係数を算出し、p 値. 主訴で来院し、急性の視力障害を生じていたが非緊急. < 0.05 を有意差ありとした。来院時と事後検証後の判. と判定されていた。. 50.
(4) 日本救急看護学会雑誌:23. 表 2 事後検証前後の緊急度 トリアージナースによる緊急度判定結果(検証前) Ⅰ 蘇生 Ⅰ 蘇生. Ⅲ 準緊急. Ⅳ 低緊急. Ⅴ 非緊急. 110. 13. 2. 2. トリアージ できず. 総計. 8. 8. Ⅱ 緊急. 事後検証に よる緊急度 判定結果 (検証後). Ⅱ 緊急. 127. Ⅲ 準緊急. 2. 271. 19. Ⅳ 低緊急. 1. 7. 250. 7. 265. 3. 59. 62. 274. 68. Ⅴ 非緊急. 292. トリアージできず 総計. 8. 113. 291. 73. 73. 73. 827. 表 3 来院時主訴別のトリアージできず・アンダー / オーバートリアージ・入院数(割合%) 患者数. トリアージ できず. アンダー トリアージ. オーバー トリアージ. 入院数 (入院率). 薬物乱用. 12. 4(33). 3(25). 0(0). 9(75). 産科、婦人科. 54. 17(31). 2(4). 0(0). 31(57). メンタル. 7. 1(14). 0(0). 0(0). 2(29). その他耳鼻咽喉科. 42. 4(10). 2(5). 2(5). 14(33). 整形. 58. 6(10). 3(5). 0(0). 10(17). 皮膚. 70. 6(9). 1(1). 0(0). 5(7). 一般. 119. 11(9) . 5(4). 1(1). 38(32). 眼科系. 60. 4(7). 7(12). 0(0). 6(10). 消化器. 179. 12(7). 9(5). 3(2). 41(23). 泌尿器. 46. 3(7). 4(9). 2(4). 10(22). 神経系. 48. 3(6). 3(6). 0(0). 9(19). 耳. 18. 1(6). 1(6). 2(11). 2(11). 心血管. 48. 1(2). 2(4). 3(6). 12(25). 鼻. 20. 0(0). 1(5). 0(0). 1(5). 呼吸器. 46. 0(0). 0(0). 0(0). 13(28). 外傷. 0. 0(0). 0(0). 0(0). 0(0). 環境因子. 0. 0(0). 0(0). 0(0). 0(0). 合計. 827. 73(9). 43(5) . 13(2) . 203(25). *トリアージできず割合が高い順に記載. 背景にある可能性が高いが、この 2 ケースはトリアー. 検証前後で緊急度が 2 段階変化した症例は 3 件あり、 検証前が緊急度Ⅳで検証後に緊急度Ⅱと再判定された. ジ用紙に呼吸数の記載がなかった。検証前が緊急度Ⅱ. 症例は 2 件であった。どちらも全身性炎症反応症候群. で検証後に緊急度Ⅳと判定された症例は 1 件で、非心. (systemic inflammatory response syndrome 以 下、. 原性の胸痛を心原性ととらえていたケースであった。. SIRS)判定基準(①体温<36℃または> 38℃、②脈拍. 心原性胸痛を疑う場合は、JTAS に準ずれば緊急度は. 数> 90 回 / 分、③呼吸数> 20 回 / 分、あるいは PaCO2. 少なくともⅡ(緊急)以上となる。しかしこのケース. 3. ではトリアージ記録用紙に疼痛の記載はなく、事後検. < 32Torr、 ④ 白 血 球 数 > 12,000/mm 、 あ る い は < 3. 4,000/mm 、または 10%を超える幼若球出現のうち 2. 証段階の医師診療録で「左側胸部打撲」「疼痛軽度」. 項目以上該当する場合を陽性と判断)が見逃されてい. との記載からオーバートリアージと判定された。. た。トリアージナース接触時点で患者が発熱・頻脈・. 患者来院時にトリアージナースが判定した緊急度の. 頻呼吸を呈していれば敗血症など重症度の高い疾患が. 精度について、患者転帰をゴールドスタンダードとす. 51.
(5) 院内トリアージに関する現状調査. 単位︵人︶. 90 80 70 来院患者数. 60 50 40 30 20 10 5時. 4時. 3時. 2時. 1時. 0時. 時. 時. 時. 時. 時. 時. 時. 時. 時. 時. 時. 時. 時. 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 時. 9時. 8時. 7時. 6時. 0. 図 1 時間別来院患者数. トリアージできず. 10 8. 単位︵件︶. 12. 20時 21時 13時. 6 5時. 2 4時. 6時. 0. 19時. 12時. 4. 0. 18時. 10. 2時. 23時. 1時 3時. 0時. 7時 8時. 20. 11時. 9時. 22時 14時. 30. 17時. 10時. 15時. 単位(人) 40. 50. 60. 70. 80. 90. 時間別来院患者数 図 2 時間別来院患者数とトリアージできず件数の関係 r = 0.61 p < 0.01. 4.来院時主訴別のトリアージできず・アンダー /. ると感度 0.82、特異度 0.53、事後検証後の緊急度につ. オーバートリアージの発生件数. いては感度 0.86、特異度 0.53 であった。. walk-in 患者の来院時の主訴を JTAS に準じて 17 カ 3.患者来院時間別のトリアージできず・アンダー /. テゴリー化し、それぞれ来院患者数、トリアージでき. オーバートリアージの発生件数. ず、アンダートリアージ、オーバートリアージの件数. 調査期間内で患者来院のもっとも多い時間は 19 時. および割合をまとめた(表 3)。トリアージできず割. 台であった(図 1) 。各時間帯の来院患者数とトリアー. 合が高い主訴として、薬物乱用(33%)、産科、婦人. ジできず件数の間には、有意な正の相関が認められた. 科(31%)、メンタル(14%)、アンダートリアージが. (r = 0.61、p < 0.01) (図 2) 。同様に来院患者数総数と. 多い主訴は薬物乱用(25%)、眼科系(12%)であった。. アンダートリアージ件数の間にも有意な正の相関が認. 入院率が高い主訴は、薬物乱用(75%)、産科、婦人. められた(r =0.66、p < 0.001) (図 3) 。来院患者総数. 科(57%)であった。 トリアージできずの記録用紙 73 枚の内訳として、. とオーバートリアージの間には有意差は認められな. 白紙 30 枚(41%) 、何らかの記載はあるが緊急度未判. かった(r = 0.355、p = 0.09) 。. 52.
(6) 日本救急看護学会雑誌:23. アンダートリアージ. 10 8. 単位︵件︶. 12. 19時. 20時. 6 14時. 4. 21時. 17時. 18時. 23時. 2. 6時. 0 4時. 0. 10時 15時. 3時. 8時. 5時. 10. 20. 7時. 13時. 22時. 単位(人). 12時 9時 16時 11時. 30. 40. 50. 60. 70. 80. 90. 時間別来院患者数 図 3 時間別来院患者数とアンダートリアージ件数の関係 r = 0.66 p < 0.001. 定 43 枚(59%)であった。このトリアージできずと. 範囲であること、とのただし書きがあるが、とくに、. 判定されたうちの 1 症例を以下に示す。患者は処方薬. 来院患者が多く繁雑とした時間帯のトリアージでは、. を大量に服用して家族と共に自家用車で夜間帯に A. 普段の状況を問診しきれず結果としてバイタルサイン. 病院の救急外来に来院した。トリアージナースは第一. のみで緊急度判定を行ってしまった場合は、必要以上. 印象で患者に高度意識障害があることを確認し、蘇生. に緊急度を上げてしまいかねない。A 病院高度救命救. 室へ直ちに搬送すると同時に看護スタッフや救命救急. 急センターの全来院患者のうち、約 20%は 15 歳未満. 科医師へ応援要請した。蘇生室で気道呼吸管理・循環. の小児であり、総合周産期母子医療センターや PICU. 動態や神経学的所見の観察・体温管理や家族対応を行. を有している関係上、基礎疾患を抱えて先天的に酸素. い、患者は急性薬物中毒の診断で高度救命救急セン. 化不良を起こしやすい乳児や小児が来院しやすい環境. ターへ入院となった。この患者のトリアージ用紙は白. にある。実際に緊急度Ⅰ(蘇生)のうち 1 名は先天的. 紙であり、事後検証にてトリアージできずと判定され. に SpO2 値の低い乳児であった。普段の状況や基礎疾. ている。. 患を考慮せず、接触時のバイタルサインのみで緊急度 を判定すると適切な判定は困難となる。SpO2 値を判 断材料の一つとしてとらえ、呼吸様式や本人の自覚症. Ⅵ.考察. 状、トリアージナースによるフィジカルアセスメント. 1.緊急度別患者来院数・転帰・年齢別来院患者数. で得られた情報と患者背景を総合的に判断する能力や 問診力の強化で、より高い精度の緊急度判定が可能に. A 病院救急外来の walk-in 患者割合は緊急度Ⅲ(準. なると推察できる。. 緊急) ・Ⅳ(低緊急) ・Ⅴ(非緊急)が全体の 7 割を占 めており、2 割弱は緊急度Ⅰ(蘇生) ・Ⅱ(緊急)の. 2.事後検証前後の緊急度比較. 患者が占め、救急外来はそれらの患者が混在している 環境にあることがわかった。緊急度Ⅰ(蘇生)および. 実際のトリアージ段階で緊急度Ⅴ(非緊急)と判定. 緊急度Ⅱ(緊急)はどちらも生命や四肢を失うおそれ. されたが、事後検証にて緊急度Ⅱ(緊急)でアンダー. がある非常に危険な状態にある。とくに緊急度Ⅰ(蘇. トリアージと判定された2件の眼科系主訴のケースは、. 生)は心肺停止やそれに近い状態、ショック状態、高. ともに急性の視力障害が見逃されていた。眼科系主訴. 度な意識や呼吸障害が該当する。しかし A 施設では. の来院患者は救急外来とは別の場所で診察を行う特徴. 緊急度Ⅰ(蘇生)とⅡ(緊急)の入院率は大きく差が. があることから、救急外来看護師が患者と接する時間. なかった。緊急度Ⅰ(蘇生)と判定する根拠の一つに. は患者来院から診察場所まで移動を開始するまでの数. SpO2 値< 90%がある。これは健常時の SpO2 値が正常. 分に限られている。眼科系主訴のトリアージを行う場. 53.
(7) 院内トリアージに関する現状調査. 3.患者来院時間とトリアージできず・アンダー /. 合は、視力障害の有無や疼痛強度が重要な情報となる. オーバートリアージの発生件数. が、患者自身は歩行可能であることが多く、疼痛のた め頻脈となっていることはあっても循環動態は安定し. 救急外来には緊急度や重症度を問わず、複数の患者. ていることが多い。眼以外の症状が軽微であると判断. が同時に来院することは決して少なくない。A 病院で. した場合は、フィジカルアセスメントよりも搬送を優. は 17 時ごろから患者来院数が増加し始め 21 時ごろま. 先してしまうのではないかと推察する。短時間での問. で続き、19 時前後がもっとも患者来院の多い時間帯. 診や自他各症状の観察、緊急度判定を確実に行うため. であった。一般的な医療機関は 17 時前後に業務終了. に、主訴ごとの把握すべき症状を記載したチェックリ. することが多いため、17 時以降に A 病院の救急外来. ストの導入などを行うことでトリアージの精度が向上. 受診患者数が増加してくると考える。救急外来を受診. する可能性がある。. する患者の特徴の一つに、突然の予期していない発. 発熱を主訴に来院し、実際のトリアージの段階で緊. 症、慢性疾患では急激な状態の悪化のことが多く、患. 急度Ⅳ(低緊急)と判定されたが、事後検証にて緊急. 者は死の恐怖やこれからどうなるのか、何をされるの. 度Ⅱ(緊急)でアンダートリアージと判定されたケー. かなどの思いをもつ(日本救急看護学会トリアージ委. スは 2 件でともに呼吸回数の記載がなく、SIRS の徴候. 員会,2019a)といわれており、就寝中に症状が悪化. を見逃している。国島、松尾、竹田ら(2016)は、院. したらどうすべきか、朝まで様子を見ていて大丈夫. 内トリアージの呼吸数の記載率が他のバイタルサイン. か、といった患者心理もこの時間帯の患者数増加に影. と比べ低いと述べており、武藤、宮崎(2018)の行っ. 響していると推察できる。. た A 病院で勤務している看護師への調査でも、呼吸. そして来院患者数が多い時間帯と、アンダートリ. 数や意識レベルの記録頻度が少なかったと述べてい. アージ発生率との間には正の相関関係があることもわ. る。救急外来と一般病棟との違いはあるが、具合の悪. かった。とくに混雑時は、実際に緊急度の高い患者が. い患者へのバイタルサイン測定において呼吸数の把握. 低く判定されるだけでなく、緊急度の低い患者が高く. は重要であり A 病院看護師の教育課題といえる。. 判定されるといったドリフト現象を生じやすい(日本. 胸痛を主訴に来院したケースでオーバートリアージ. 救急看護学会トリアージ委員会,2019b) 。混雑して. と判定された症例は、疼痛に関する記載がなかった。. いる救急外来において問診やフィジカルアセスメント. 胸痛を主訴とする致死的疾患の一つに急性心筋梗塞が. をするための十分な時間確保ができず、結果として正. あげられ、治療の遅れは死に直結するため迅速な介入. 確な緊急度判定ができなかった症例が増えたと推察す. が求められる。American Heart Association (2014)は、. る。 A病院ではJTASに準じて緊急度を判定しているが、. 治療が遅れる要因の一つに、救急車ではなく自家用車 で来院することによる遅れがあり、根本的治療までの. 独自にトリアージできずのカテゴリーを追加した計 6. 遅れの 60 〜 70%を占めると述べている。胸痛に限ら. 段階で救急患者をカテゴリー分けしている。これは多. ず、急性発症の強い疼痛や深在性の疼痛であれば緊急. 忙のため患者接触できなかった症例や、問診やバイタ. 度が高い疾患が隠れている可能性がある。アンダート. ルサイン測定は記録したが緊急度判定が未実施だった. リアージは患者に不利益が生じるためオーバートリ. 症例が該当する。この場合、患者は主訴やバイタルサ. アージを許容しながらも、問診やフィジカルアセスメ. インといった情報は一切不明のまま救急外来待合室で. ントを慎重に行うことが、正確な緊急度判定を行うう. 待機し、医師が診察可能となるまで順番を待つことと. えで重要である。ただしトリアージに長時間かけるこ. なる。このトリアージできず件数も来院患者数が多い. とは、 それだけ診療開始時間が遅れることにつながり、. 時間と正の相関関係にあることがわかった。このトリ. それもまた患者の不利益につながってしまう。A 病院. アージ自体がされなかった症例について前田(2014). のトリアージ目標時間は 5 分以内と設定されているた. は患者への介入が遅れ、重篤化を招く危険があり、身. め、限られた時間に緊急度判定を行えるよう訓練する. 体的問題だけでなく、倫理的な問題も発生すると述べ. ことや、主訴ごとに聴取すべき項目をチェックリスト. ている。救急外来以外の看護師に応援を要請するサ. 化しスムーズな問診ができるよう工夫を行うことで、. ポート体制を充実させる、救急外来受付にも応援を求. トリアージの質向上につながると考える。. めることができるシステムの構築、または呼吸・循. 54.
(8) 日本救急看護学会雑誌:23. 環・意識といった第一印象と来院時主訴のみから短時. 系主訴と急性薬物中毒などの薬物乱用は入院管理とな. 間で判断可能な緊急度判定システムを独自に作成する. る可能性の高い状態である。A 病院のトリアージでき. といった工夫も対策の一つとして検討することが必要. ず症例の入院率が 41%と高確率であることもこれら. である。. の要因があるためと考えられる。. 4.来院時主訴別のトリアージできず・アンダー /. Ⅶ.結語. オーバートリアージの発生件数 トリアージの最大の目的は緊急度の高い患者を見つ. • A 病院で調査期間の 2 カ月間の間に来院した患者は. け出し、速やかに初期対応を開始することにある。結. 827 名であり、緊急度レベルはⅠ蘇生 1%、Ⅱ緊急. 果 4 に示した急性薬物中毒にて高度救命救急センター. 15%、Ⅲ準緊急35%、Ⅳ低緊急32%、Ⅴ非緊急7%、. に入院した患者の対応をした看護師は、トリアージの. トリアージできず 9%であった。. 目的を十分に達成している。調査期間内のトリアージ. • アンダートリアージとトリアージできず症例は、来. できず症例は計 73 件あったが、うち 6 割弱は何かしら. 院患者数が多い時間帯に多く発生していた。. の情報がトリアージ用紙に書いてあるが緊急度判定が. • トリアージできず症例の中には、患者に接触できて. 実施されていない症例であった。 これは患者に接触し、. いない症例と、接触したがトリアージ記録用紙に記. 主訴や既往、バイタルサインなどの情報を収集した後. 載できなかった症例が混在していた。. に記録用紙へ記入したが、他患者の対応など何らかの. • トリアージできず症例は薬物中毒・産科、婦人科系. 事情で記録が完遂できずに診察が終了してしまった. 主訴・メンタル系主訴に多かった。アンダートリ. ケースが想定される。記録には残っていないがトリ. アージは全体の 5%で発生し、とくに薬物乱用・眼. アージ看護師の思考のなかでは患者の優先順位が決. 科系主訴に多かった。. まっていたのかもしれない。これらのトリアージでき. • 呼吸状態、とくに呼吸回数の観察が不十分な場合、. ず症例件数はトリアージ記録用紙の記載時間確保で減. SIRS の徴候を見逃すことがある。. らせる可能性がある。. • 慎重にトリアージを行うことは重要だが、時間をか. 主訴別のトリアージできず症例とアンダートリアー. けすぎてしまうと診療開始時間が遅れ患者の不利益. ジ症例の上位には薬物乱用とメンタル系主訴といった. につながってしまうため、フィジカルアセスメント. 精神的問題が影響する病態が含まれていた。救急外来. や病歴聴取などを短時間で行い記録する訓練や、主. には希死念慮を抱き自殺目的に薬物を乱用・過量内服. 訴ごとに聴取すべき情報をチェックリスト化するこ. し来院する患者もいる。五十嵐、船山(2017)は希死. とによって、適切な緊急度判定の割合が向上する可. 念慮患者とかかわる看護師の心理として、ケアへの困. 能性がある。. 難さを感じて回避的な思考が働いていると報告してい る。また、 トリアージを難しくする阻害要因の一つに、. Ⅷ.研究の限界. 桐本、高見沢、石田(2017)は救急外来が忙しいと話 を引き出すことができないことをあげている。来院時. 本調査は A 病院のみで行っているため地域特性の. 正常なバイタルサインを示す患者でも希死念慮を抱く. 影響を受けていることや、5 〜 6 月の 2 カ月間を対象. 患者には、具体的な計画性の有無や、安全が確保でき. に行っており、季節や気候による来院患者の傾向に偏. るかどうかの評価も必要となる。その時間の確保が難. りが生じている可能性がある。また対応した救急外来. しい状況がトリアージできず症例やアンダートリアー. 看護師の経験年数やトリアージに関連した研修受講の. ジ症例の増加につながっていると考えられる。また産. 有無についても考慮していない。今後は調査期間を延. 科系のトリアージできず症例も、産科の専門病棟で診. ばし、対応した救急外来看護師の背景にも注目して研. 察をする A 病院のシステム上、患者自身が救急外来. 究を行っていきたい。. に滞在する時間は短く、記録時間確保が難しいがゆえ 利益相反. にトリアージできずとなっている可能性が考えられ た。これらのなかで、とくに破水や陣痛といった産科. 本調査における筆頭著者および共著者の開示すべき. 55.
(9) 院内トリアージに関する現状調査. 利益相反はありません。. 国島正義,松尾直樹,竹田明希子,…今井秀樹(2016) .救急 外来における院内トリアージの実態;院内トリアージ用紙の 運用と看護師判断についての調査から.日本臨床救急医学会 雑誌,19(5),657-663.. 文 献. 前田晃史(2014) .院内トリアージ導入後の現状と課題;トリ アージの質向上にむけた検証.ヒューマンケア研究学会誌, 6(1),25-32.. American Heart Association(著),日本 ACLS 協会,日本循環 器学会(監),バイオメディスインターナショナル(編・訳) (2014).ACLS EP マニュアル・リソーステキスト(p.185). シナジー.. 武藤博子,宮崎博之(2018).RRS 活動報告;RRS 起動症例に おける NEWS の変化と要請のタイミングについての検討.日 本救急看護学会雑誌,20(3),292.. 五十嵐勇人,船山晃(2017).希死念慮患者とかかわる看護師 の心理状態.日本精神科看護学術集会誌,60(1),236-237.. 日本救急医学会,日本救急看護学会,日本小児救急医学会,日 本臨床救急医学会(監)(2017).緊急度判定支援システム JTAS2017 ガイドブック.へるす出版.. 五十嵐佑也,武藤博子(2018).院内トリアージの現状と課題; トリアージできず事例を振り返って.日本救急看護学会雑 誌,20(3),306.. 日本救急看護学会トリアージ委員会(編)(2019a) .トリアー ジナースガイドブック 2020(p.2).へるす出版.. 桐本ますみ,高見沢恵美子,石田宜子(2017).二次救急外来 の成人患者の電話トリアージで看護師が感じる困難と対処お よび影響要因.日本救急看護学会雑誌,19(2),1-8.. 日本救急看護学会トリアージ委員会(編)(2019b).トリアー ジナースガイドブック 2020(p.50).へるす出版.. 56.
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