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プロジェクト・ファイナンスにおける銀行取締役の注意義務

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Academic year: 2021

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(1)プロジェクト・ファイナンスにおける銀行取締役の注意義務 ファム ヴィエト デュク. を紹介・分析する.最後に,三から五までの検. 一 はじめに. 討に基づきプロジェクト・ファイナンスにおけ. 融資 は,銀行 の 固有業務 で あ る(銀行法 10. る銀行取締役の注意義務を論じ,これに対する. 条 1 項 2 号) .経済活動を多角化するとともに,. 私見を提言したい.. 融資手法も多様化させ,新融資手法が幅広く適 用されている.こうした場合には,新融資手法. 二 問題の所在. の特徴に鑑み,銀行取締役の注意義務の変化に. 株式会社とその取締役との間の関係は,委任. 1). 注目した研究の傾向がある .. に関する規定に従う(会社法 330 条).取締役. 近時,日本でも新融資手法であるプロジェク. は,その職務を遂行するにつき,善良な管理者. ト・ファイナンスを用いた取引が活発化してき. としての注意義務を負う(民法 644 条).通説は,. 2). ており ,プロジェクト・ファイナンスの特徴. 株式会社の取締役が業務執行に際して用いるべ. についての法的問題がよく研究されている3).. き注意義務の内容や程度は,会社の規模や業種. プロジェクト・ファイナンスには,融資源とし. の違いによって異なるのは当然であるとしてい. て銀行の重要な役割が不可欠である.したがっ. る.会社の規模の大小,会社の業務の種類によっ. て,プロジェクト・ファイナンスの特徴は,プ. て,その内容に差異が存在することはいうまで. ロジェクト・ファイナンスを行う際に,必然に. もない4).. 銀行取締役の注意義務の判断基準に影響を与え る.. ここで,銀行は,株式会社の組織を採用する (銀行法 5 条 1 項).したがって,銀行とその銀. 以下,次の順次で,プロジェクト・ファイナ. 行取締役との間の関係は,一般株式会社と同様. ンスにおける銀行取締役の注意義務の判断基準. に委任に関する規定に従い,善良な管理者とし. について考察を進める.まず,二では,問題の. ての注意義務や会社法 355 条に基づく忠実義務. 所在を明らかにする.そこで,既に発表された. を負う5).そうすると,銀行の業務内容の相違. 研究文献に基づき,三では一般融資に対照する. に応じる銀行取締役の注意義務判断の内容が変. プロジェクト・ファイナンスの特徴,かつ,四. 化すると考える.. で は,一般融資 に お け る 銀行取締役 の 注意義. 企業が何らかのプロジェクトを企画して,必. 務(以下「一般融資の注意義務」 )を判断する. 要な資金を借入れにより調達しようとする場. 基準をまとめる.さらに,五では,プロジェク. 合,一般融資では,被融資者は当該企業自身で. ト・ファイナンスにおける銀行取締役の注意義. あり,銀行は当該プロジェクト自体のみならず,. 務(以下「プロジェクト・ファイナンスの注意. 他の事業も含めて当該企業の財務状況や収益力. 義務」 )を判断する基準についての学説・判例. 等を総合的に分析し,将来にわたり当該企業に.

(2) 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). 124 (304). 十分な返済能力があるかどうかを検討する.ま. 民事上 の 損害賠償請求 は,118 件(旧銀行役員. た,必要に応じて当該企業外で第三者が保有し. の 約 490 名)で あった9).銀行取締役 の 注意義. ている資産も担保・保障とされる. これに対し,. 務を追及した裁判例は,一般的な融資だけでな. プロジェクトを企画した企業自体ではなくスポ. く,プロジェクト・ファイナンスも含んでいる.. ンサーが当該特定のプロジェクトのために設立. したがって,プロジェクト・ファイナンスの特. した特別目的会社(special purpose company). 徴と銀行取締役の注意義務との研究は,最も有. を被融資者とした上で,もっぱら当該プロジェ. 益であろう.. クト か ら 得 ら れ る将来の収益(キャッシュフ ロー)のみを返済の原資とし,当該プロジェク トにおける資産のみを担保として徴求して行わ. 三 プロジェクト・ファイナンスの概要と法的 特徴. れる融資手法がある6).したがって,プロジェ. 1.プロジェクト・ファイナンスの概要. クト・ファイナンスは,新融資手法であり,一. プロジェクト・ファイナンスは,沿革的には. 般融資と異なる特徴を持つ.. 1930 年代の米国における埋蔵原油・ガスの開. 具体的にプロジェクト・ファイナンスと一般. 発に対する金融の方式として始まったようであ. 融資の主な相違は,一般融資の回収が,主に融. る.その後,1950 年代から 1960 年代に発展し,. 資の返済財源遡及非限定原則(プロジェクトを. 1972 年の北海油田の開発への金融を契機に国. 企画した企業がすべて弁済責任を負う)に依拠. 際分野においても使用されるようになり,ま. しているが,プロジェクト・ファイナンスの回. た,使用される領域もパイプライン敷設,交通. 収が融資の返済財源限定遡及(プロジェクトを. インフラ整備,発電所建設,化学プラント建設,. 企画した企業が限定的にしか責任を負わない). コンドミニアム,不動産及び土地開発のコンプ. あるいは返済財源非遡及(プロジェクトを企画. レックス,大型遊園地と次々に拡大していった.. した企業が全く責任を負わない)ことである.. その後,国際金融市場の環境の変化の影響を受. そこで,上記の業務内容の相違に応じる銀行. け,1980 年代には一時下火になっていたよう. 取締役の注意義務判断の内容が変化する通説に. であるが,1990 年代に入って,再び復活を遂. 鑑み,一般融資とプロジェクト・ファイナンス. げているようである10).. の差異は,銀行取締役の注意義務の判断基準に. 日本においては,プロジェクト・ファイナン. 対して如何なる解釈・判断が適正であるかとい. スと歩調を合わせるかのように国内に導入され. う問題を, 法理的に必ず生じさせることとなる.. た の が,Private Finance Initiative( PFI)で. 言い換えれば,銀行取締役の注意義務基準は,. ある11).この点において,PFI は資金調達方法. プロジェクト・ファイナンスの特徴をどこまで. としてプロジェクト・ファイナンスとの親和性. 反映するかを考えなければならないであろう.. が高く,プロジェクト・ファイナンスの普及の. プロジェクト・ファイナンスの特徴の意識に基. 一つの大きな原動力となり得るものである12).. づいて,民法上の観点から,担保制度の変化を. 日本におけるプロジェクト・ファイナンス. 7). 検討する研究がある が,上記問題に取り組む. が生まれる背景としては,次の二つがあげら. 包括的研究は今まで殆ど存在しない.. れ る13).第一 に,一般融資 の 限界 で あ る.す. さらに,不良債権問題の深刻化を反映して,. な わ ち,資金調達者 で あ る 企業等 が 一般融資. 銀行の経営が 1991 年から 2002 年にかけて,合. を選択した場合,保有する全ての資産や事業. 8). 計 180 にのぼる銀行の破綻を経験し ,これと. 成績が回収原資となるため,企業等の債務や. 共に,裁判での銀行における銀行取締役の注意. 保証等 が 財務諸表 に 開示 さ れ る.こ の た め,. 義務の訴訟が増えている.2005 年 3 月末まで,. 債務額や保証額が拡大すると,企業の信用力,.

(3) プロジェクト・ファイナンスにおける銀行取締役の注意義務(ファム ヴィエト デュク) (305) 125. 格付けが悪化する.これに対して,プロジェ. 合,これをノンリコースと区別してリミテッド・. ク ト の キャッシュ・フ ローに 限定的 な 回収原. リコースといっている.. 資を求めるプロジェクト・ファイナンスの場. ノンリコースあるいはリミテッド・リコース. 合,資金調達者である企業等に切り分けられ,. を採用することの意義14)は,事業・プロジェ. 企業等の財務諸表の対象とはならない.この. クトにおける責任体制を明確にし,責任を負担. ため,信用力等に影響を与えない.. すべき当事者を予め明らかにしておくこと,ま. 第二に,リスク分散の要望が高まっているこ. たは,当事者同士で責任を補完しあうことに. とである.戦後 50 年間にわたる右肩上がりの. よって事業収益から確実に返済可能な枠組みを. 経済のなかでは,日本の金融形態においては担. 組成し,維持させるところにあり,この点も見. 保限度融資が基本となり,リスクを分散するプ. 落すことはできない.. ロジェクト・ファイナンスは殆ど利用されてこ. 第二に,上のノンリコースあるいはリミテッ. なかった.しかし,経済が成熟化し,担保限度. ド・リコースの特徴から起源して,プロジェク. 融資に限界が生じた現在は,リスク分散への要. ト・ファイナンスにおける融資返済とする担保. 望が高まり,プロジェクト・ファイナンスの選. は,基本的に,特別目的会社が保有する土地・. 択が求められる段階となっている.. 建物などの不動産に限定している. この特徴は,第三者によるプロジェクト関連. 2.プロジェクト・ファイナンスの特徴. の資産・権利に対する権利行使を排除すること. 以下,プロジェクト・ファイナンスについて. にも役立ち得るというメリットがある.つま. 法的研究の文献に基づき,新融資手法としてプ. り,プロジェクト・ファイナンスの担保は,限. ロジェクト・ファイナンスの法的特徴の 4 つを. 定的かつ徹底的な担保の取得を求めることであ. 整理し上げておこう.また,このような特徴に. る15).. 鑑み,裁判例を検討する時に,ある融資が一般. 第三に,再び上のノンリコースあるいはリミ. 融資かあるいはプロジェクト・ファイナンスか. テッド・リ コース の 特徴 か ら 起源 し て,プ ロ. を区別することができる.. ジェクト・ファイナンスにおける融資の返済. 第一に,プロジェクト・ファイナンスでは,. が,もっぱら当該計画したプロジェクトから生. 「ノ ン リ コース」 (non recourse:返済財源非遡. ずる収益だけに依存している.すなわち,プロ. 及)あるいは 「リミテッド・リコース」 (limited. ジェクト・ファイナンスの回収見込みは,特別. recourse:返済財源限定遡及)が原則とされる.. 目的会社 が 生 み 出 す キャッシュフ ロー(以下. 一般融資では,銀行は,資金の使途及び使途. 「計画事業収益」という)を圧倒的に拠り所と. の妥当性を確認のうえ,貸出の諸原則に則り被. して行われる.. 融資者の全体財務内容や信用力などの調査及び. あらゆる融資において,銀行が最終的な融資. 検討を行い,担保や保証人を徴求してきた.. 決裁とするのは,当然ながら貸付金に対する回. これに対し,プロジェクト・ファイナンスに. 収原資の能力である.一般融資では,被融資者. おいては,事業を計画した企業は,借入債務の. の従来財務状態・将来事業収益と共に担保・保. 返済に責任をもたず,プロジェクトを実施する. 証に求める例もないわけではない16).. ために計画企業が新たに設立する特別目的会社. しかしプロジェクト・ファイナンスは,あく. を被融資者とする.そして,この特別目的会社. ま で 回収原資 を プ ロ ジェク ト の キャッシュフ. が,返済の責任を負うノンリコースのプロジェ. ローのみに依存する.プロジェクトが有する計. クト・ファイナンスとなる.また,事業を計画. 画事業収益は,収益の可否及び不安定のリスク. し た 企業 が 特別目的会社 の 一部 を 負担 す る 場. がいつも生じるから,銀行はプロジェクトの計.

(4) 126 (306). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). 画事業収益の分析を徹底的に行わなければなら. 3.小 括. ない.すなわち,銀行にとって計画事業収益分. 要約すれば,プロジェクト・ファイナンスは,. 析の目的は,プロジェクトの設計建設完了まで. 当該プロジェクトから生み出されるキャッシュ. の使用金,プロジェクトに影響を与える将来の. フローを返済原資とし,その融資の担保を当該. 需給ギャップ,及び市況変動などの諸変数を,. プロジェクト関連の資産に依拠して行う新金融. それぞれのリスクを勘案・衡量・量化して妥当. 手法である.それゆえ,当該プロジェクトに関. な範囲で動かす.したがって,将来にプロジェ. 連する全ての資産を担保に取り,かつ,計画事. クトが展開する際に,プロジェクトの開始から. 業収益が確実に融資の返済に充てられるような. 解散までの間に,プロジェクトの各々の事業シ. 仕組みを構築することが求められる18).. ナリオを予想でき,当該各シナリオに応じた融. あらゆる融資に回収不可能性という融資リ. 資の確実性・安全性を確認し,さらに各シナリ. スクがあるが,一般融資と異なるプロジェク. オに適切な融資監督・管理等対抗策を銀行が計. ト・ファイ ナ ン ス の 特徴 に 鑑 み,プ ロ ジェク. 画できる17).このような予測に鑑み,融資が確. ト・ファイナンスは一般融資よりリスク分散の. 実に回収できるか否かを全体的に判断すること. 度合いが著しく高いであろう.すなわち,プロ. ができる.結局,計画事業収益を適切に分析す. ジェクト・ファイナンスにおける銀行は,融資. る能力にとって,計画事業収益を計算するため. の多くのリスク分を引き受ける.このようなプ. の変数の確定,確定される変数について情報の. ロジェクト・ファイナンスの高度リスク性質は,. 収集過程,さらに収集される情報の内容の正確. 銀行に対する注意義務を負う銀行取締役の認識. 性がとても大切な要素であろう.. がどこまで影響するかが大きな関心といえる.. 第四 に,前記第一, 二及 び 三 の 特徴 に 鑑 み, プロジェクト・ファイナンスでは,プロジェク トを計画したスポンサーが必ず特別目的会社を. 四 一般融資における銀行取締役の注意義務の 判断基準. 設立する.この特別目的会社は,被融資者とし. 1990 年代以降,二に述べているように,銀. て,プ ロ ジェク トを実施し,融資の担保とす. 行取締役の注意義務追及の訴訟がよく行われる. るプロジェクトの財産・土地を設定するととも. のは,一般融資にかかる事案が大半である19).. に,融資の返済を負担する.特別目的会社の業. これとともに,融資における銀行取締役の注. 務はスポンサーの事業と切り離して,プロジェ. 意義務についての学説論文20),かつ,判例評釈. クトの事業展開計画のみに従う.. の論文がよく発表されて来た21).本稿では,判. また,プロジェクト・ファイナンスは,返済. 例・学説について一般融資の銀行取締役の注意. 原資および担保を融資対象のプロジェクトのみ. 義務の判断基準を明確するために,それぞれの. に依存する融資手法であるから, 銀行としては,. 判例及び学説論文までの検討を繰り返すことは. 対象プロジェクトの収益性,リスク分析を厳密. せず,従来の研究成果を概観するにとどめる.. に行い,十分な確信のもとに特別目的会社に対 する融資を決定する.したがって,銀行として. 1.学 説. は,特別目的会社が他の事業を追加することを. 一般融資の判断基準について検討した文献を. 制限し,対象プロジェクトに専念させることが. 整理すると,以下のようになる.. 必要となってくる.特別目的会社の発起人・所. ア 銀行取締役の注意義務の程度. 有者は,スポンサー,融資銀行,プロジェクト. これまでの日本の学説では,銀行取締役が一. の請負者等も含んでいる.. 般株式会社の取締役よりも注意義務の程度が高 いか否かについては見解が分かれていた.銀行.

(5) プロジェクト・ファイナンスにおける銀行取締役の注意義務(ファム ヴィエト デュク) (307) 127. 取締役が高度注意義務を負わないという学説の. 合理的なものであるか否かを判断し,判断の内. 根拠としては,①銀行取締役は株主の利益だけ. 容についてはそれが「明確に不合理なものであ. を重視するのではなくて,預金者の利益も同じ. るか」を判断する.これによって,取締役にとっ. ように重視しなくてはならないという考え方を. ても経営上の判断について,裁判所の後知恵で. 認めないこと,かつ②銀行の破綻は社会的な影. その判断の当否を審査されて責任を負わされる. 響力が非常に強いが,金融監督規制上の罰則の. という不都合を回避することが可能となる.ま. 問題というような形で考えるほかないことであ. た,裁判所にとっても,判断の過程についての. 22). る .. 審査は,形式的な事柄についての審査であるか. これに対して,預金の運用を業とする銀行取. ら判断の内容についての審査に比べれば客観的. 締役の業務が与信業務の遂行であり,金融監督. に判断しやすいのであって,より公正な結論を. 法の目的を実現するとして,また,銀行の融資. 導くことができると考えられる30).. においては預金者の保護と信用秩序の維持との. さらに,銀行取締役の高度注意義務に鑑み,. 要求から,健全性・安全性が強く求められると. 銀行取締役の場合は,一般会社の経営者に比べ,. いう根拠に基づき,銀行取締役が一般株式会社. 経営判断にいたる手続きにおいても,決定内容. と比べてより高度注意義務を負うべきであると. においても,求められる合理性のレベルが高く,. 23). いう主張がある .さらに,民法の専門家の領. その分,経営者の裁量の幅が狭いと考えられる. 域の観点24)から,銀行業務を行う取締役が専. べきであることが考慮される31).. 門家として,高度注意義務を負うという考え方. ウ 銀行融資に対する回収見込み. もある.また,銀行取締役の高度注意義務は,. 銀行融資が回収見込みを確定するためには,. 近年,多数説と考えられている25).. 審査を通じて融資の適否が的確に判断されると. イ 経営判断の原則. ともに,要すれば適切な担保の徴求など融資に. 取締役の業務執行に係る決定については,会. かかる債権確保のための措置が講ぜられること. 社の業務執行の在り方に鑑み,その決定が慎重. が必要である.したがって,銀行の取締役は,. に行われ,かつ,決定内容が特に不相当と認め. 銀行の融資義務に関しては,合理的な審査を通. られるものでないときは,それを行った取締役. じて融資の適否が的確に判断されるようにする. はその責任を問わないものとすることが妥当で. とともに,融資が行われる場合には,要すれば. ある.このようなことを一般的に経営判断の原. 担保の徴求など融資にかかる債権確保のための. 則という26).. 措置が講じられるようにすべきである32).ただ. 学説上,最近では,取締役の注意義務違反が. し,銀行は,担保価値の範囲内で資金を融資し,. あったかどうかを決する際に,経営判断原則の. 担保の原価処分によって資金の回収をはかる. 考え方を取り入れるとするものが多いといわれ. 担保金融会社ではないし,担保からの回収は. 27). る .この立場の中でも,判断を尊重すれば足. 原則として融資の失敗を意味する考え方があ. りるとする考え方や判断の過程と内容を区別し. る33).銀行 の 融資 は 融資先 の 事業収益 で 弁済. ない立場,区別して考えるアメリカ法律協会の. されることが原則である.健全な事業を営む. 立場を取り入れる立場などに分かれている28).. 従来収益力 あ る 企業 に 融資 す る の が,銀行融. 銀行融資において銀行取締役の注意義務違反. 資のあるべき姿である34).. の存否を判断する際には,経営判断原則が適用. 学説は,さらに,一般融資の注意義務の判断. される学説は日本の学者によってほぼ賛成され. 基準についてはその他の要素も考えられてい. ている29).具体的には,銀行取締役の経営判断. る.例えば,銀行取締役は,個々の事件によっ. をその過程と内容とで分けて,過程に関しては. ては,融資実行後の状況の変化に合わせ,債権.

(6) 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). 128 (308). の回収可能性について貸付ごと継続的に監視す. ものであったか否か,これらを前提とする判断. る.また,取締役は,貸付についても,被融資. の推論過程及び内容が明らかに不合理なもので. 者の財務状況や担保価値の変化などを把握する. 42) あったか否かが問われなければならない」 .. のにそれを怠った場合には,取締役は注意義務. 最後に,債務者が無資力であるとか,赤字会. 35). 違反が問われると解する .また,赤字企業や. 社であるとか,返済原資(能力)に欠けるとか,. 成績悪化企業についての融資あるいは投資的融. 担保不足や保証能力の不足であるとか,資金繰. 資を決裁した際に,銀行取締役の注意義務違反. りであるとかを考慮し,銀行取締役の注意義務. 36). 違反か否かを判断する.このような典型的判旨. が問われることになる .. は,次の通りである.「銀行の取締役が,融資 2.判 例. を行うに当たり,その資金使途,返済原資,担. 一般融資についての判例評釈の文献を整理す. 保状況等の諸事情を踏まえ,回収できないこと. ると,注意義務判断の基準は,総括的に以下の. が具体的に予見できる場合には,特段の事情. とおりである.. のない限り,当該融資を控えるべき善管注意義. まず,一般融資の注意義務の程度を判断して. 務・忠実義務を負うものといわなければならな. いる.すなわち,高度注意義務の基準を採用し. い」43).また,経営判断原則の適用を認めた裁. た判例があるが,これに反対する判例もある37).. 判例には,融資の返済原資・担保状況の検討に. 高度注意義務を肯定した典型的な判旨は, 「銀行. 基づいて経営判断原則の内容と過程の合理性を. の取締役は,銀行の業務執行に関し,銀行法が. 判断している.. 宣言的に定める信用の維持,預金者等の保護, 銀行業務の健全かつ適切な運営,国民経済の健. 3.小 括. 全な発展に資することといった銀行の負う責務. 上記の学説・裁判例をまとめた結果に鑑み,. を果たすことが求められているのであるから,. 細かい点までの差異にもかかわらず,一般融資. その職務を行うに当たっては,このような銀行. の注意義務を判断する際に,判例・学説は,次. の責務に反することのないように務めることが. の三つの共通基準が採用されている.. その職責上要請されており…,こうした観点に. 第一は,注意義務の程度基準である.高度注. 立つ限り,他の一般の株式会社における取締役. 意義務を維持するのは,最近学説の傾向である. の負う注意義務よりも厳格な注意義務を負い,. が,判例には高度注意義務を否定するものもあ. …」と判示している38).. る.ただし,殆どの裁判例は,高度注意義務を. 次は,経営判断原則を適用している判例と,. 採用するか否かにかかわらず,判旨におけるど. それを適用しない判例. 39). も同時に存在してい. んな注意義務の程度を選択するかを述べてい. る.さらに,経営判断原則を適用している判例. る.すなわち,銀行取締役の注意義務の存否の. は,経営判断原則の内容と過程を取入れている. 判断に際しては,注意義務の程度は重要な点で. 判例40)と,経営判断原則 の 過程 の み を 取入 れ. あろう.さらに,高度注意義務を要求する学説・. 41). る判例もある .経営判断原則が適用している. 判例の共通的理由は,信用秩序及び預金者保護. 判例における典型的な判旨は,次のように,述. 等という銀行の公益性を重視すべきである.. べている. 「融資の回収不能の責任を取締役に. 第二は,経営判断原則の基準である.学説は,. 問うためには,その判断についての裁量の範囲. 経営判断原則を取り入れることを統一的に強調. を超えた善管注意義務違反の有無,すなわち,. しているが,裁判例は,上記注意義務の程度と. 当該判断をするためになされた情報収集・分. 同様に,経営判断原則を適用しない判例もある.. 析,検討が当時の状況に照らして合理性を欠く. さらに,経営判断原則の適用を認める場合には,.

(7) プロジェクト・ファイナンスにおける銀行取締役の注意義務(ファム ヴィエト デュク) (309) 129. 学説が経営判断の内容と過程についての合理性. となるべき資産を持たない企業であること,ひ. 判断を要求しているが,過程の合理性しか求め. いては,融資金の返済財源は当該プロジェクト. ていない判例もある.. から生み出されるキャッシュフローに依存せざ. 第三 は,融資 の回収見込みを確実として担. るをえないことを肯定している.これに基づき,. 保・保証状況及び被融資者の事業収益を判断す. 吉川教授は,プロジェクト・ファイナンスの決. る基準である.学説及び判例は,注意義務高度. 定内容について,計画事業収益の判断基準のみ. 可否及び経営判断原則適用可否に基づいて,一. を要求している.. 般融資の注意義務違反の存否を具体的に判断す. 学説を要約すれば,プロジェクト・ファイナ. るために, 被融資者が提供・補充する担保価値,. ンスが一般融資と異なる特徴を考慮し,プロ. 第三者の保証能力あるいは被融資者の事業収益. ジェクト・ファイナンスの注意義務の基準が変. の各要素を強調している.. 化すると認識すべきであることを統一的に強調. 五 プロジェクト・ファイナンスにおける銀行 取締役の注意義務. している. 2.判 例. 1.学 説. ア 判例紹介. 近時,銀行取締役の注意義務の範囲内にプロ. 大阪地判平成 14 年 3 月 13 日・判例時報 1792. ジェクト・ファイナンスでどのような問題が有. 号 137 頁(以下「判例①」という. ). るか,その特徴の意義・役割について研究され. 【事 実 概 要】B(社)は,昭 和 63 年,磐 梯 大. ることが注目されている.. 型リゾート・プロジェクト(スキー場,ゴルフ. まず,長谷川教授は,プロジェクト・ファイ. 場,コンドミニアム等の総合リゾート施設・以. ナンスの特徴からハイリスクである融資を考え. 下「プロジェクト」という)の開発・運営を目. る上,プロジェクト・ファイナンスが銀行取締. 的としてC(社)を設立した.その後,Cは,. 役の注意義務に影響することをしっかり肯定し. 昭和 63 年まで増資を進め,A(銀行)等 28 社. ている.すなわち,プロジェクト・ファイナン. からの出資を得て株主は 29 社となったが,平. スの事業は,一般的にハイリスクである.その. 成 4 年 3 月末時点においても,BがCの過半数. ため,融資銀行は調査・立案段階からプロジェ. の株式を保有していた.. クトに参加し,収益性や負債返済能力などを長. Cは,本件事業計画において,平成 4 年度か. 期にわたり確実に評価し,収益力の不確実要素. らスキー場事業の,平成 5 年度からはゴルフ場. となるリスクを可能な限り回避する努力が求め. 事業及びコンドミニアム事業の運営収入を見込. られる.そのためには,個々のプロジェクトの. んだ上,平成 5 年度から償却前利益を,平成 9. 経済的・技術的・法的側面にまで踏み込んだ分. 年度から償却前経常利益を,平成 21 年度から. 析を行う必要があり,いろいろな分野での知識. は当期利益をそれぞれ計上できると予測し,ま. と専門性が要求される44).. た,平成 4 年度を最後に設備資金の借入れが不. 45). ま た,吉川教授. は,東京地判平成 14 年 3. 要となり,平成 8 年度からは返済を始めること. 月 13 日の判例を評釈した中に,融資の実行に. ができ,借入金残高合計も,平成 5 年度をピー. 際して,プロジェクト・ファイナンスの特徴に. クに以後は減少すると予測していった.しかし,. 鑑み,どのような経営判断過程と決定内容が審. Cは,次第に販売不振となり,平成 3 年秋ころ. 査されるべきであるかが問題となることを示し. からは販売実績がない状況にあった.. ている.吉川教授は,融資先がプロジェクトの. 平成 4 年 5 月末の時点におけるAは,Cの借. ために設立された過去に何らの営業実績・担保. 入残高の内の約 27 億円を,同社の運転資金の.

(8) 130 (310). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). 借入残高の内の 12 億円を融資した. 他に, Aは,. は,その措置を執った時点において,判断の前. 同時点で,Cに対する約 17 億円の支払承諾を. 提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤り. していた.. があったか,あるいは,意思決定の過程,内容. B は,Cに対して 60 億円を融資することを. が企業経営者一般としてではなく,銀行の取締. 約束しており,平成 2 年度そのうち 14 億円の. 役として特に不合理,不適切なものであったこ. 融資を実行した.しかし,B は,その経営状況. とを要するものと解するのが相当である.」. が悪化し,上記の融資に応じなくなった.その. 上記の経営判断原則に基づいて,融資回収の. ため,A は,Bの遂行能力に対する懸念が強. 見込みが有することを認めている判例①は次の. まり,Bをプロジェクトから排除すること必要. ように述べている.「ゴルフ会員権が平成 3 年. で あ る と の 判断 に 至った.ま た,A は,B の. 秋ころからは販売実績のない状況にあったもの. 役割の代わりとして,リゾート開発のノウハウ. の,…,本件事業計画におけるゴルフ会員権の. を有する D(社)がプロジェクトへ参画する. 販売計画は,「現今の市場環境から苦戦は必至. ことを計画している.その後,Bは,清算補償. の状況である」ものの,実現可能であり,市況. 金約 56 億円の支払いを受けて撤退することと. の回復が遅れ,販売時期が遅れることにより生. なった.A は,平成 4 年 6 月,B の 撤退 に 関. じるであろう金利負担の増加についてはスキー. する協定書に基づいて, Cに同金額を融資した.. 場の営業による収益で補うことができるものと. A の株主Xは,A の元取締役Yらに対して,. 判断したものと認められる.以上のような本件. 上記回収見込みのない約 56 億円の融資を実行. 融資を回収できる見込みがあるとの判断には,. して A に損失を被らせたと主張し,Yらの注. それが平成 4 年 6 月の時点における判断である. 意義務を理由に損害賠償責任を追及した.. ことを考慮すれば,一応の合理性が認められる.. 【判旨】Xの請求を棄却する.まず,銀行取締. そして,前記認定の事実関係によれば,少なく. 役の注意義務を判断する一般的基準を次のよう. とも,本件融資金が回収不能となる危険が,本. に述べている. 「銀行は,決済機能を担ってい. 件融資の時点において,具体的に予見できる状. ること等,その営む事業が公共性を有すること. 況にあったとはいえないものというべきであ. から,自由競争原理に基づく市場への参入と退. る.Xは,平成 4 年当時,ゴルフ事業とコンド. 出が活発に行われることは元来予定されていな. ミニアム事業という本件リゾート開発事業の 2. いのであり,銀行の取締役は,銀行の業務の健. 本柱がともに見通しが全く立たない状況にあっ. 全かつ適切な運営を行うことにより,預金者等. たから,本件リゾート開発事業の破綻は十分予. の保護を確保するとともに信用秩序の維持を図. 見できた,本件融資について担保からの回収可. る こ と が 期待 さ れ て い る(銀行法 1 条参照) .. 能性が皆無であったなどと主張する.…しかし. したがって,銀行の取締役は,一般の事業会社. ながら,リゾート開発事業が一般に多額の初期. の取締役と同様,経営の専門家として広い裁量. 投資を要すること,平成 4 年 6 月の時点におけ. が与えられているけれども,貸出業務等の与信. る景気判断では,近い将来景気が上向くことが. 業務を行うに当たっては,信用リスクを適切に. 期待されていたことなどを考え併せると,Yら. 管理し,安全な資金運用を行うことが求められ. がAの取締役であることを考慮してもなお,平. ているなど,銀行の取締役であるがゆえの違い. 成 4 年 6 月の時点で本件リゾート開発事業の破. があることに留意しなければならない.. 綻が十分予見できたとまではいえず,現時点か. したがって,銀行の取締役に対し,過去の与. ら見て適切な経営判断でなかったという指摘. 信業務における措置が善管注意義務及び忠実義. は,結果論に止まるものというべきである.な. 務に違背するとしてその責任を追及するために. お,本件融資は,前判示のとおり,B社を磐梯.

(9) プロジェクト・ファイナンスにおける銀行取締役の注意義務(ファム ヴィエト デュク) (311) 131. リゾート開発の経営から排除するために必要な. 出を実行した.. 資金を磐梯リゾート開発に融資するものであ. プロジェクトは,平成 6 年 7 月に開業・営業. り,磐梯リゾート開発は,本件リゾート開発事. が開始された.しかし,会員権の販売は,依然. 業の開発運営を目的として設立された会社であ. 不振であり,最終的には約 60 億円程度しか販. るから,本件融資のために設定された別紙「担. 売できなかった.他方で,一般宿泊客の数も伸. 保物件明細」記載の担保は,Yらが主張するよ. び悩み,収支は,大幅な赤字となった.A は,. うに, 「資産の散逸的処分や一部の利害関係人. 平成 11 年 7 月 5 日,更生手続 の 開始決定 を し. による蚕食的な権利行使を防ぎ,施設の完成並. た.更生手続において,X は A に対して更生. びに事業の開始及び継続を安定的に確保」する. 担保権約 10 億円及 び 一般更生債権約 234 億円. ことを目的とするものと認められるのであり,. をそれぞれ届けたが更生担保権約 10 億円及び. 担保の評価額が本件融資の金額に満たないとの. 一般更生債権約 3 億円 の 弁済 を 受 け た に と ど. 原告の指摘は当を得ないものというべきであ. まった.. る. 」. X は,プロジェクトに対して行った追加融資. 東京地判平成 14 年 4 月 25 日・判例時報 1793. が,プロジェクト破綻により回収不能となった. 号 140 頁(以下「判例②」という. ). ことから,Xの元取締役である Y らに対して,. 【事実概要】昭和 60 年,有名な倶楽部の創設者. 取締役の善管注意義務違反があったとして,損. であるC(個人)は,初島における大型リゾー. 害賠償を求めて訴えを提起したものである.X. ト施設のプロジェクト(ホテル, マリーナ, プー. は,その後,上記債権を株式会社整理回収機構. ル等の施設・以下「プロジェクト」という)の. に譲渡し,整理回収機構が訴訟引受を行ってい. 開発・運営を目的としてA(社)を設立された.. る.. プロジェクトの工事を請け負うのはB(社)で. 【判旨】Xの訴訟引受人の請求を認める.まず,. あった.X(銀行)は,平成元年,プ ロ ジェク. 本事例について一般注意義務基準は次のように. トの資金を与えるためにAに融資を決定した.. 述べている.「プロジェクトに対する追加融資. プ ロ ジェク ト に 関 す る X の 基本融資方針 は,. は,…既存融資の回収可能性と新規融資分につ. ①他の銀行との協調融資団を組成し,X の融資. いての貸倒リスクの大きさは,結局のところプ. 額は 30 億円を上限とすることと②担保として,. ロジェクトの採算性に依存するものである.…. プロジェクトの土地賃借権,建物及びAの株式. 判断は,時間と情報の制約の中で,経済情勢,. 並びに会員権預かり保管金等を確保すること等. 当該プロジェクトの属する市場の動向,プロ. を設けた.これに基づき,2 億円の融資を実行. ジェクト運営主体の経営能力,取引先との関係. した.その後に,X は,平成 3 年 8 月,同方針. や銀行を取り巻く社会情勢など複雑かつ多様な. の融資限度の 50 億円を訂正し,これに基づき,. 諸事情を勘案した総合的判断であることから,. 同年 30 億円の融資が実行された.. 情勢分析とその衡量判断の当否は,意思決定の. 他方,平成 4 年,A の 会員権販売 は 不振 で. 時点において一義的に定まるものではなく,取. あり,資金計画上は同時点までの会員権の販売. 締役の経営判断に属する事項としてその裁量が. 入金見込みが達成できなかった.このため,A. 認められるべきである.判断の過程・内容が取. は,同年 5 月 1 日工事代金 の 中間金約 36 億円. 締役として著しく不合理なものであったか否. をBに支払うことができなかった.この状態に. か,すなわち,当該判断をするために当時の状. 応 じ て,X は,同年 9 月,A に 追加融資 を 決. 況に照らして合理的と考えられる情報収集・分. 裁し,同年 2 回で約 44 億円と 17 億円,そして. 析,検討がなされたか否か,これらを前提とす. 平成 5 年 1 月に 13 億円(合計約 74 億円)の貸. る判断の推論過程及び内容が明らかに不合理な.

(10) 132 (312). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). ものであったか否かが問われなければならな. 必要であるとされていた.しかるに,平成元年. い. 」. から始まった会員権の募集は,…極めて低調で. 上記の判断原則に基づいて,融資回収の見込. あった.…そして,現実にもプロジェクトの会. みを認めない判例②は,次のように述べてい. 員権の販売は最終的には 125 口,約 60 億円に. る. 「追加融資を行った場合の資金回収の見込. とどまっているのであって,Yらの想定するよ. については,建物完成により, 〔1〕会員権販売. うな形で会員権の販売により資金の回収を図る. を促進 す る 効果 が生じること, 〔2〕運営方法. ことは到底困難な状況であったものと認められ. をホテル営業を主体とするものに変更するなど. る.」さらに,「プロジェクトは法人向けの会員. の多様化させることができること, 〔3〕事業主. 制マンションを中核としたマリーンリゾートプ. 体の見直しも可能となることから,資金回収方. ロジェクトとして企画され,総事業費を会員権. 法がかなり広がるとした上で,会員権の販売に. 販売により得た資金で弁済し,その余剰金を運. ついては現環境下での会員権販売は不振である. 転資金に当てることがプロジェクト全体の採算. が最終的には会員権募集による資金回収は可能. 性の前提とされていたところ,プロジェクト全. と思われ,また会員権の販売が現時点でストッ. 体を一般利用客を対象としたリゾートホテルと. プし建物をホテルとして運営した場合にもホテ. してみる場合には,立地条件,部屋の企画及び. ルとして採算が可能であるとするものであっ. 付属施設の評価,さらには料金設定や融資の返. た.…追加融資を実施する方が全体として利益. 済条件などが根本的に変わってくるのであるか. を合理的に期待しうるというためには,既存融. ら,従来のプロジェクトとは別個のプロジェク. 資分も含めて融資全体について相当程度の回収. トとして,…ホテル事業としての収益可能性を. 可能性が見込まれることが必要であった.そし. 本格的に調査分析することが必要であったとい. て,融資の回収可能性の判断にあたっては,X. うべきである.」最後に,「本件のような巨額の. のこれまでの本件プロジェクトに対する関わり. 追加融資を行うかどうかの判断において,…ホ. は,プロジェクトの総事業費 480 億円(会員権. テル事業を前提とした採算性についての本格的. 販売により 700 億円を回収)のうち 50 億円を. な調査を欠き,内容的にも不十分なものであっ. 融資限度とし,会員権の販売により建物完成後. て,これによってホテルとして収益可能との. 短期間に融資の回収が行われることを想定する. 見込みを持つことは,調査・検討不足 と の そ. ものであったのに対して,今回の追加融資は,. しりを免れないものであったというべきであ. 本件プロジェクトの建物完成までの工事費の半. る.」. 分を融資し,状況によっては建物完成後の必要. イ 紹介判例がプロジェクト・ファイナンスに. 資金も融資することを見込んだものであり,建. 該当するかどうかの確認. 物完成後の会員権の売れ残りのリスクあるいは. 紹介判例 に お け る 各融資 が プ ロ ジェク ト・. 本件事業の運営のリスクの大部分を原告が引受. ファイナンスに該当するかどうかの確認を行う. けることになるものであることから,会員権の. ためには,各々紹介判例の事実概要は,二に述. 販売の見込みあるいは本件プロジェクトの事業. べているプロジェクト・ファイナンスの全ての. としての採算可能性について,これまで以上に. 4 つ特徴(ノンリコース,計画事業収益の依拠,. 十分な検討を行うことが求められていたという. 担保限定及び特別目的会社設定)に当たる要素. べきである.…プロジェクトについては…,い. を確認することが必要である.. ずれも会員権の販売により回収した資金から事. 判例①においては,Xが「本件融資はいわゆ. 業費を賄い,開業当初からその余剰金を運転資. る プ ロ ジェク ト・ファイ ナ ン ス(特定 の プ ロ. 金に当てることがプロジェクトの成功のために. ジェクトに対するファイナンスであり,その.

(11) プロジェクト・ファイナンスにおける銀行取締役の注意義務(ファム ヴィエト デュク) (313) 133. ファイナンスの元利金の返済原資として当該プ. にも拘らず,プロジェクト・ファイナンスにお. ロジェクトから生み出されるキャッシュフロー. いて銀行取締役の注意義務違反の存否を判断す. に限定し,また,そのファイナンスの担保を当. るときは,以下の共通判断基準が採用されてい. 該プロジェクトの関連資産及び権利に依存して. る.. 行う金融手法)である」と主張した.さらに,. まず,判例①と判例②は,一致して経営判断. 当裁判の判断においては, 「以上によれば,現. 原則を採用することを明確にしている.銀行取. 時点における貸出業務等の与信業務の水準,特. 締役の注意義務違反を検証する際に,判例①は,. に,いわゆるプロジェクト・ファイナンスにお. 「判断の前提となった事実の認識に重要かつ不. けるリスク管理の観点から判断して…」と判示. 注意な誤りがあったか,あるいは,意思決定,. された.すなわち,判例①は,プロジェクト・. 内容」が合理的であったかどうかの判断を要求. ファイナンスに該当するのは当然であり,付加. し,判例②は,「情勢分析とその衡量判断の当. 検証は必要がないと言える.. 否は,意思決定の時点において一義的に定まる. 判例①と異なる判例②は, 「プロジェクト・. ものではなく,取締役の経営判断に属する事項. ファイナンス」という文字が全く使われていな. としてその裁量が認められるべきである」と判. かった.しかし,判例②の認定事実を分析する. 示している.さらに,2 つの判例は,経営判断. と,判例②の融資がプロジェクト・ファイナン. 原則が要求する情報収集・分析についての過程. スの 4 つ特徴に該当すると拘束できる.. 及び内容の合理性の判断を明確にする.たとえ. 具体的に, 判例②事実概要によると, プロジェ. ば,判例②は,「判断の過程・内容が取締役と. クトを施行・展開するために C の全額出資に. して著しく不合理なものであったか否か,…こ. よって A のみが設立され,C でなく A が被融. れらを前提とする判断の推論過程及び内容が明. 資者になったことは,プロジェクト・ファイナ. らかに不合理なものであったか否かが問われな. ンスの特別目的会社設立の特徴に該当すると確. ければならない」とする.同様に,判例①は,「判. 認できる.さらに,判例②の事実概要に述べて. 断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意. いたXの融資方針には,Xの融資回収がいつも. な誤りがあったか,意思決定の過程,内容が」. A の会員権の販売入金見込みに依存していた.. 不合理あるいは不適切なものかどうかを要する. このような融資方針は,融資限度の変更を除い. と述べている.. て,判例②の融資終了までずっと変更しなかっ. しかし,銀行取締役の注意義務の程度につい. た.したがって,判例②に述べた融資は,プロ. ては,判例①と判例②の判断が異なっている.. ジェクト・ファイナンスの計画事業収益の特徴. 確かに,判例①は,銀行取締役の注意義務と一. に該当すると言える.また,Xの融資の担保は,. 般企業取締役の注意義務の共通点を示していた. 被融資者として A の財産のみに限定したので,. が,「貸出業務等の与信業務を行うに当たって. 判例②の融資は,プロジェクト・ファイナンス. は,信用リスクを適切に管理し,安全な資金運. の担保特徴に該当すると推定できる.最後に,. 用を行うことが求められているなど,銀行の取. XはCの保証あるいはその他の第三者の保証を. 締役であるがゆえの違いがあることに留意しな. 全く要求しなかった.この点と上記確認される. ければならない」と判示している.このような. 特別目的会社設立・担保・計画収益の特徴とあ. 前提に基づき,判例①は,銀行取締役の注意義. わせて,判例②の融資は,ノンリコースの特徴. 務判断 は,「企業経営者一般 と し て で は な く,. に該当すると推定出来る.. 銀行の取締役として特に不合理,不適切なもの. ウ 判例分析. であったことを要するものと解するのが相当で. 上記判例①及び判例②は,各事例の相違事情. ある」とし,銀行取締役の高度注意義務の判断.

(12) 134 (314). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). 基準を要求している.これに対する,判例②が,. 「建物完成により,〔1〕会員権販売を促進する効. 高度注意義務を設けているか否かについてまっ. 果が生じること,〔2〕運営方法をホテル営業を. たく言及されず,銀行取締役の注意義務と一般. 主体とするものに変更するなどの多様化させる. 企業の取締役の注意義務は同一と採用すると推. ことができること,〔3〕事業主体の見直しも可. 定できよう.. 能となることから,資金回収方法がかなり広が. そこで,判例①と判例②は,融資回収の見込. るとした上で,会員権の販売については現環境. みを判断する基準に言及している.注意義務違. 下での会員権販売は不振であるが最終的には会. 反を否認している判例①は, 「本件融資のため. 員権募集による資金回収は可能と思われ,また. に設定された別紙「担保物件明細」記載の担保. 会員権の販売が現時点でストップし建物をホテ. は,Y が主張するように, 「資産の散逸的処分. ルとして運営した場合にもホテルとして採算が. や一部の利害関係人による蚕食的な権利行使を. 可能であるとするものであった」と判示してい. 除き,施設の完成並びに事業の開始及び継続を. る.すなわち,判例②が融資回収の見込みを判. 安定に確保」することを目的とするものと認め. 断するに際して,担保徴求の基準を採用せず,. られるのであり,担保の評価額が本件融資の金. 事業計画の回収基準のみに依拠していることは. 額に満たないとの原告の指摘は当を得ないもの. 明らかであろう.. というべきである」と述べているから,融資の 担保が十分であることを認めていると思う.さ. 六 研 究. らに,判例①には, 「口数にして計画の 3 分の. 最後に,三におけるプロジェクト・ファイナ. 1 強,金額にして計画の 3 分の 1 弱の販売実績. ンスの特徴の紹介,四における一般融資学説・. があった」という計画事業収益の実績が低調で. 判例の状況,五におけるプロジェクト・ファイ. あるにも拘らず,市場の回復性が予測され,か. ナンス学説・判例の紹介・分析を踏まえて,プ. つ,リゾート開発のノウハウを有する D がプ. ロジェクト・ファイナンスにおける銀行取締役. ロジェクトへ参画する見込みであることを考慮. の注意義務の基準につき研究・提言したい.. し,本件計画事業収益におけるゴルフ会員権の. ⑴ プロジェクト・ファイナンスは,独自の. 販売計画は,実現可能であると認め,計画事業. 特徴を持つことを否認できない.ただし,プロ. の収益が確実であると判断している.従って,. ジェクト・ファイナンスは,銀行の一般融資か. 十分担保基準及び計画事業の確実収益の基準に. ら生じている一つの融資手法として,一般融資. 基づいて,判例①は, 「本件融資を回収できる. と同一の銀行融資の基礎を持つと思う.した. 見込みがあると判断して」いる.しかし,計画. がって,プロジェクト・ファイナンスの注意義. 事業の確実回収を検証しているときに,市場回. 務の判断基準を研究するには,まず,確定され. 復の予測と D 社の参画がどこまで計画事業回. た一般融資の注意義務基準に依拠して行わなけ. 収に影響するかということを調査・分析してい. ればならず,次に,これらが依拠されている基. ないため,計画事業の収益確実の認定は十分で. 準は,二に述べているプロジェクト・ファイナ. あったとはいえない.結局,融資回収の見込み. ンスの特徴を反映して適応すべきであろう.言. の存否を判断する判例①は,一般融資の判例と. い換えれば,プロジェクト・ファイナンスの注. 同様に,計画事業回収と担保との 2 つ基準の中. 意義務の基準は,一般融資の注意義務の基準に. に担保基準のみを重視していると思う.. 追加したり減じたりすることを要求せず,プロ. これに対して,銀行取締役の注意義務違反を. ジェクト・ファイナンスの特徴に鑑み,一般融. 肯定している判例②は,資金回収の見込存否を. 資の注意義務の基準の適用順番を整理すること. 判断する際に, 担保徴求にまったく言及せずに,. のみであろう..

(13) プロジェクト・ファイナンスにおける銀行取締役の注意義務(ファム ヴィエト デュク) (315) 135. 上記の起点から出発すると,以下の⑵,⑶及. 形式でなく,リミテッド・リコースの形式もあ. び⑷は,順にプロジェクト・ファイナンスの注. る.リミテッド・リコースをすれば,プロジェ. 意義務の基準を具体的に論じる.. クトを計画する企業(スポンサー)が銀行の融. ⑵一般融資の注意義務の学説・判例は,四に. 資の一部分返済の責任を負う保証を要求され. 述べているように,注意義務程度の見解・判断. る.したがって,プロジェクト・ファイナンス. が分かれている.また,このような点は,五に. について上記の 2 つ見解・判断は,プロジェク. 述べているように,プロジェクト・ファイナン. ト・ファイナンスの特徴を十分に満たさないと. スに対する学説が高度注意義務を要求している. 思う.プロジェクト・ファイナンスの注意義務. が,裁判例では分かれている.. を判断する場合には,六 (1) が述べているよう. 私見としては,銀行取締役が高度注意義務を. に,プロジェクト・ファイナンスの特徴が一般. 持つことを支持するための根拠と,それを否認. 融資の注意義務基準の適用順番を整理すること. する根拠とともに,どちらでも合理性が認めら. と考える.すなわち,プロジェクト・ファイナ. れている.しかし,プロジェクト・ファイナン. ンスの注意義務を判断する際に,同時にプロ. スに対する注意義務の程度が必然的に高くなる. ジェクトの計画事業計画の収益とプロジェクト. 考え方46)を支持したい.なぜならば,銀行の. 財産の担保及びプロジェクトに関連する第三者. 公共性を害する融資回収の可能性のおそれを理. の保証を検証しなければならないし,そのうち,. 由として高度注意義務を支える見解は,現在の. 一般融資と異なって計画キャシュフローの基準. 学説・判断主流である.また,三に述べている. をより重視すべきであろう.. プロジェクト・ファイナンスのノンリコースあ. ⑷学説は,一般融資の注意義務違反の存否を. るいはリミテッド・リコースの特徴に鑑み,プ. 判断するに際して,銀行取締役に適用する経営. ロジェクト・ファイナンスの回収リスクが一般. 判断原則を一致して支持しているが,裁判例は. 融資のそれよりもっと高いからである.. 分かれている.しかし,裁判例は,なぜ経営判. ⑶融資回収の見込みを判断するのは,四に述. 断原則を適用するとか,適用しないとかの理由. べているように,一般融資において被融資者の. を言い渡さなかった.. 事業収益の基準及び担保・保証の基準を同時に. 一方,プロジェクト・ファイナンスにおいて. 検証することを必要とする.. は,五に検討している判例①及び判例②は,注. 一方,学説は,プロジェクト・ファイナンス. 意義務違反を肯定あるいは否定するにもかかわ. の融資回収の可能性と判断するには,担保・保. らず,一致して経営判断原則を採用している.. 証の基準に触れずに, 「計画キャシュフローで. そして,学説もこのような裁判例を支持してい. 47). ある事業収益」のみを用いるという見解. が. る48).. ある.このような見解は,判例②の判断と同様. 私見としては,経営判断原則の過程及び内容. である.逆に,判例①は,一般融資の学説・判. が明らかに不合理なものでなければ注意義務違. 例と同様に,担保基準を重視しており,事業計. 反はないが,上記六⑴に述べているように,銀. 画収益と担保との検証を要求していた.. 行取締役の注意義務が一般株式会社の取締役の. 私見としては,三に述べているプロジェク. 注意義務より高いから,経営判断原則の求めら. ト・ファイ ナ ン スの特徴に鑑み,プロジェク. れる合理性のレベルが高くなるという岩原紳作. ト・ファイナンスは,原則的に計画事業収益し. 教授の見解 49)を支持したい.したがって,プ. か依存しないが,プロジェクトを施行する特別. ロジェクト・ファイナンスにおいて経営判断原. 目的会社の資産の担保も徴求する.さらに,プ. 則を適用すれば,銀行が同プロジェクト・ファ. ロジェクト・ファイナンスは,ノンリコースの. イナンスについての情報を収集・分析する内容.

(14) 136 (316). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 2 号(2007年 8 月). と過程の合理性の検証がより厳格になることを. らない.したがって,プロジェクト・ファイナ. 要求すべきであろう.. ン ス が 失敗 し た 経営判断原則 の 合理性 を 判断. そこで,経営判断原則が要求する高度合理性. するに際して,全ての計画事業収益とプロジェ. がどのようにプロジェクト・ファイナンスの特. クトが行った実績と対照して判断すべきであろ. 徴を反映するのかを論じたい.まず,一般融資. う.言い換えれば,計画収益がプロジェクト実. の回収見込みは,担保・保証の徴求と事業収益. 績と異なる場合,あるいはプロジェクトの実情. に依拠している.したがって,融資決定の合理. がシナリオの事情以外に生じる場合等には,銀. 性が有するか否かについての検討は,担保・保. 行取締役が,経営判断原則の内容・過程の下に. 証徴求と事業収益の情報収集・分析を相互に考. 要求されるプロジェクトの計画収益についての. 慮して行われる.すなわち,事業収益について. 情報収集・分析を十分にしなかったと推定でき. は残っている欠点があるが,融資のための担. る.そのため,この場合には,注意義務違反が. 保・保証を十分に徴求できれば,融資決定の合. 有ったと認定すべきであろう.. 理性を認める可能性が高いであろう.そしてそ の逆もそうである. これに対し,プロジェクト・ファイナンスの 回収見込みは,三に述べているように,担保・. *本稿は,平成 16 年に横浜国立大学大学院国際経 済法学研究科に修士論文として提出したものを一 部要約し,新たな見解を加えたものである.. 保証徴求と計画事業収益も考慮するが,担保・ 保証の徴求が回収見込みについて補助的意味を 持っているので,計画事業収益に積極的に依拠 する.そうすると,プロジェクト・ファイナン スの決定の合理性を有するか否かについての検 討は,計画事業収益についての情報収集・分析 を主に考慮して行われることであろう.言い換 えれば,担保・保証としてプロジェクトの全て の財産を積極的に徴求しても,それは計画事業 収益の欠点を捕捉することができないと思う. 結局,プロジェクト・ファイナンスの決定の合 理性を検討する場合には,取締役の裁量は一般 融資の場合より狭くなるから,注意義務違反を 問われやすいと言うべきであろう. 具体的には,確かに,プロジェクト・ファイ ナンスが,三に述べているように,プロジェク トの融資返済可能性は,その計画事業収益の高 度確実性に依拠する.計画事業収益の高度確実 性の可否を考慮するために,銀行が,プロジェ クト・ファイナンスを決定する前に,プロジェ クトが終了する時点まで全ての経済情勢変化, それに応じるプロジェクト事業変動の各シナリ オの計画事業収益を予想し,各々に応じる計画 収益の充実性の対抗策を予め行われなければな. 注 1)例えば,銀行が経営危機に瀕した融資先の企 業に対して,倒産を回避するために行う支援融 資である.このような融資手法は,救済融資と 言う.救済融資を注目する代表的研究は,近藤 光男「金融支援と取締役の責任」金融法務事情 1424 号(1995)6 頁以下,神吉正三「金融機の 救済融資における取締役の行為規制」企業法学 Vol. 5(1996)231 頁以下である. 2)プロジェクト・ファイナンスに関する有益文 献 は,横井士郎編『プ ロ ジェク ト・ファイ ナ ン ス 』有斐閣(1985 年) ,小原克馬著『プ ロ ジェク ト・ファイ ナ ン ス 』金融財政事情研究 会(1997 年) ,第一勧業銀行国際金融部編『 PFI とプロジェクト・ファイナンス』東洋経済新報 社(1999 年) ,西川永幹=大内勝樹森『プロジェ クト・ファイナンス入門:現場経験者が説き明 かす金融手法』近代セールス社(1999 年) ,下 哲朗「付随業務・証券業務・新規業務/プロジェ クト・ファイナンス」西尾信一編『金融取引法 〔第 2 版〕 』法律文化社(2004 年)など. 3)池原季雄編『プロジェクト・ファイナンスを め ぐ る 法的諸問題』日本 エ ネ ル ギー法研究所 (1999 年) ,江口直明他編「日本 に お け る プ ロ ジェクト・ファイナンスの法律的側面(上) (中) (下) 」旬刊金融法務事情 1565 号(1999)36 頁, 1566 号(1999 年)42 頁,1567 号(2000 年) 74 頁,豊原信治「日本におけるプロジェクト・ ファイナンスの展開と展望」銀行法務 21(2001.

(15) プロジェクト・ファイナンスにおける銀行取締役の注意義務(ファム ヴィエト デュク) (317) 137. 年)593 号 54 頁. 4)本間輝雄「会社に対する責任」大森忠夫他編『注 釈会社法⑷〔初版〕』有斐閣(昭和 43 年)443 頁. 5)本稿には,善管注意義務および忠実義務を含 む「注意義務」という言葉が用いられている. 6)下哲・前掲(注 2)224 頁. 7)道垣内弘人他編「資産調達手法 の 多様化 と 新 し い 担保制度(座談会)」ジュリ ス ト 1238 号 (2003 年)6 頁,長谷川貞之「プ ロ ジェク ト・ ファイナンスにみる新しい資産担保手段と法律 上の問題点」独協法学(2003 年)61 号 59 頁以 下. 8)平成金融危機 へ の 研究会「金融機関破綻 に 関 す る 定量分析」111 頁,『平成金融危 へ の 対 応』 預 金 保 険 研 究(特 集) 第 4 号,2005 年, http://www.dic.go.jp/kenkyu/kenkyu.html アクセス 2005 年 12 月 12 日. 9)平成金融危機 へ の 研究会・前掲(注 8),「破 綻金融機関等の関与者に対する責任追及概観」 111 頁. 10)プ ロ ジェク ト・ファイ ナ ン ス の 発展 は,次 に 掲 げ る も の が 有益 で あ る.池原・前掲(注 3), 横 井・ 前 掲(注 2), 小 原・ 前 掲(注 2).Scott L. Hoffman, The Law and Business of International Project Finance, Kluwer Law International, (2001) pp. 4─5; Philip R. Wood, Project Finance, Subordinated Debt and State Loan, Sweet & Maxwell, (1995) pp. 3─5, Carl S. Bjerre, International Project Finance Transactions: Selected Issues under Revised Article 9, American Bankruptcy Law Journal, National Conference Bankruptcy Judges (1999), 73 Am. Bankr. L. J. 261, 263─264 (LexisNexis); Nagla Nassar, Project Finance, Public Utilities, and Public Concerns: A Practioner’s Perspective, Fordham International Law Journal, Fordham University School of Law (2000), 23 Fordham Int ’ l L. J. 60, 61─62 (LexisNexix). Michael P. Malloy, International Project Finance: Risk Analysis and Regulatory Concerns, The Transnational Lawyer, University of the Pacific, McGeorge School of Law (2004), 18 Transnat’l Law. 89, 90─101 (LexisNexix) 11)PFI とは,1993 年に英国で生まれた新しい 公共事業の手法で,民間の資金や経営能力ない し技術的能力を活用した公共施設などの建設ま たはその維持管理・運営を意味する.従来,国 や地方公共団体が行ってきた事業を民間事業者 に委ねることによって,事業コストの削減やよ り質の高い公共サービスの提供を図り,国民の 社会生活基盤を豊かにするという点に PFI の 狙いがある.PFI の源流および世界の動向は, 西野文雄 = 有岡正樹編『完全網羅・日本PF. I : 基礎からプロジェクト実現まで』朝倉書房 (2002 年)15 頁以下,第一勧業銀行国際金融部 編・前掲(注 2)18 頁以下,小原・前掲(注 2) 230 頁以下に詳しい. 12)長谷川・前掲(注 7)61 頁. 13)PHP 総合研究所「プ ロ ジェク ト・ ファイ ナ ン ス と 信用力 の 確保─PFI と プ ロ ジェク ト・ファイ ナ ン ス,担保設定 と リ ス ク 管理─」 PHP 政策研究 レ ポート, (1999)Vol. 2 No. 28 http://research.php.co.jp/ アクセス:2006 年 8 月 10 日. 14)長谷川・前掲(注 7)64 頁. 15)長谷川・前掲(注 7)65 頁. 16)横井・前掲(注 7)145 頁. 17)横井・前掲(注 2)148~154 頁は,計画事業 収益の分析方法について,以下の通り詳しく説 明している.計画事業収益の分析は「次の各段 階に行われる.まず,ベース・ケースの設定で ある.銀行は,通常独自のキャッシュフロー・ モデルをパソコンでプログラム化しており,プ ロジェクトに影響を与える市場変動変数は数多 くあるが,パソコンに入力する場合は,それら をグループにわけて,ある程度単純化する必要 がある.次に各変数に対し貸手がもっとも妥当 と考える数値を入力してやる.実務的にはこ の場合,スポンサーが用意した情報あるいは フィージビリティー・スタディーの数字を参考 とする.ベース・ケースについての分析がひと とおり終わったら,つぎに感度分析に入る.こ れにより各変数を妥当な範囲で動かして各指標 の動きを分析し,返済の確実性,安全性を確認 する.パソコン・モデルの利用により短時間に 何十種類ものシミュレーションが可能である. ベース・ケースは銀行がもっとも確立が高いと 考えている変数の値を入力して作られているわ けであるから,各変数をしかるべききざみで上 下に動かすような方法が有効である.とりあえ ずは,他の変数は不変に維持して個々の変数の 与える影響の大きさをみる.また動かす変数も リスクの軽重を判断して選択的に決定する.シ ミュレーション結果は,各変数を何パーセント 動かしたことにより各指標が何パーセント動く かを表やグラフにまとめる.また可能性のある 複合リスク(二つ以上の変数が所期より悪化) を勘案して,最悲観ケースを設定することもし ばしば行われる.ベース・ケースの諸指標の値 が信頼できるとして,シミュレーションの結果 悲観ケースでも元利金返済が可能になっていれ ば, 」計画事業収益分析は終了である. 18)長谷川・前掲(注 7)68 頁. 19)雑誌に載せている典型的な裁判例は,次の通 り で あ る.名古屋地判平成 9・1・20 判例時報 1600 号 144 頁,松山地判平成 11・4・28 判例タ.

参照

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