を対象とした研修を実施して
著者
内山 明子, 吉川 三枝子, 松下 由美子
雑誌名
佐久大学看護研究雑誌
巻
12
号
2
ページ
167-173
発行年
2020-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1050/00000264/
「SAKU 看護管理研究会」活動報告:
新任看護師長を対象とした研修を実施して
“SAKU Nursing Management Research Society” Activity Report:
Conducted a Seminar for Newly Appointed Nursing Managers
内山 明子 吉川 三枝子 松下 由美子
Akiko Uchiyama, Mieko Yoshikawa, Yumiko Matsushita
キーワード: 新任看護師長,看護管理,研修,活動報告Key words : Newly appointed nursing managers,Nursing management,Seminar, Activity report
要旨
SAKU 看護管理研究会は 2018 年度のテーマを、昇任 1 年目、2 年目の新任看護師長を対象に 「看護管理の基本を学ぶ」とし研究会を実施した。毎月 1 回 6 か月間実施し、最終回終了時に運 営および効果について評価アンケートを行った。企画・進行については、90%以上が「よい」と 評価していた。内容については、『看護管理者に必要な能力と役割』および『組織における問題 解決と変革』に対して、参加者の 83%が「とても役に立つ」と評価していた。研究会に参加する ことによる自身の変化では、『経営や人材育成の知識・スキルが増えてきた』『医療環境の変化 に敏感になってきた』について「とても思う」「まあまあ思う」の合計が 90%以上となった。『東 信地区の仲間と情報交換するようになった』は「とても思う」「まあまあ思う」の合計が 33%と 一番低い結果となった。研究会の参加によって、特に自身が変化したことの自由記述では、 「ビジョンを明確にもつ」「自身の行動変容」「前向きな気持ちへの変化」といった内容が挙げら れた。研修に参加したことで知識が増えるだけでなく、管理者としての行動変容が見られたと いう評価が得られた。 受付日 2019 年 9 月 30 日 受理日 2020 年 1 月 21 日Ⅰ.諸言
わが国の看護を取り巻く状況としては、少 子高齢化、生活・療養の場の多様化、医療の 高度化とそれに伴うニーズの多様化、チーム 医療・役割分担の推進、看護の役割の変化な どが挙げられる。看護管理者には、時代の流 れを読み取り、自組織の役割と特殊性を踏ま え、質の高い看護サービスの提供、医療事故 の防止、患者満足度の向上、看護職員の確保、 労務管理等さまざまなマネジメントが求めら れる。新任看護師長は、それまで主任や副師 長といった立場でロウアーマネジャーとして の経験はあるが、昇進と同時に看護師長とい うミドルマネジャーとしての役割遂行を求め られる。吉川, 関根, 高橋, 坪井, 松田(2012) は、「新任管理者は不安と戸惑いの中で昇進 を受け入れ、役割を遂行していく上で 1 年経 過しても管理の全体像が把握しきれず不透明 な役割範囲の中で担うべき役割を模索してい る」と述べている。 一般に看護管理者の継続教育には、日本看 護協会の認定看護管理者教育課程がある。日 本看護協会の認定看護管理者教育課程には、 ファーストレベル、セカンドレベル、サード レベルと 3 課程ある。カリキュラムは、「ヘ ルスケアシステム論」「組織管理論」「人材管 理論」「資源管理論」「質管理論」「統合演習」 の科目で構成され、内容は段階的にレベルア ップしていく。新任看護師長は、ファースト レベル以上の受講をしている場合が多いが、 中小規模の組織では、参加できていない現状 もある。荻野ら(2019)は、「1 年目の看護師 長は、管理研修での学びを初めて経験する業 務に繋げることが難しく、さらに学びを深め たいニードがある」と述べている。また吉川 ら(2012)は、「管理者育成システムの確立に より、豊富な承認と支持を与えるシステムと なり、新任管理者の困難が緩和され、判断と 行為に確信が持てるようになる」と述べてい るが、各施設で管理者教育システムを確立し 実施することが難しい現状もある。 SAKU 看護管理研究会は 2014 年に発足し、 長野県東信地区において自ら応募する看護管 理者を対象に、毎年テーマを決めて研究会を 行っている。参加施設より、経験が浅い看護 管理者の能力開発について相談があり、2018 年度は昇進 1 年目と 2 年目の看護師長を対象 とし「看護管理の基本を学ぶ」というテーマで 6 回シリーズの研究会を実施したので、内容 及び終了後アンケート結果を基に報告する。Ⅱ.2018年度 研究会の目的
昇進 1 年目と 2 年目の看護師長を対象とし、 管理の基本的な知識を学習しあい、現場に適 応しながら理論と実践を統合する学習の場と する。Ⅲ.2018年度 研究会の実際
1.研究会の開催 年間の実施回数は 6 回。6 月∼11 月の第 2 木曜日の 18 時 30 分から 90 分とした。 2.参加者数 東信地区 12 病院の看護部責任者を通じて、 2018 年 4 月現在で昇進 1 年目と 2 年目の看護 師長を募集し、9 施設 20 名の応募があった。 3.研究会内容 1) 第 1 回「看護管理者に必要な能力と役割」、 第 2 回「組織と経営」、第 3 回「マネジメン トに必要なスキル」、第 4 回「人材育成と 継続教育」、第 5 回「医療安全と看護の質 保証」、第 6 回「組織における問題解決と 変革」とした。第 2 回、第 3 回、第 5 回、 第 6 回は、それぞれ東信地区の病院看護 部長および医療安全管理者による講義も 取り入れ、より実践的な内容とした。Ⅳ.アンケートの実施
第 6 回終了時に、アンケートの趣旨および 個人情報保護について説明し、協力依頼を行 った。 アンケートの内容は、①企画進行について ②新任看護師長として内容はどうであったか ③研究会を通しての自身の変化について ④ 研究会参加によって特に変化したこと ⑤研 究会に対しての要望の 5 つの項目からなり、 ①∼③はそれぞれ小項目を挙げ、評価は【5: とてもよい or とても役に立つ or とても思う】 【4:まあまあよい or まあまあ or まあまあ思 う】【3:どちらともいえない】【2:あまりよ くない or あまり役に立たない or あまり思わ ない】【1:とてもよくない or 全く役に立たな 写真1 研究会の様子 表1 2018 年度 研究会内容 回 開催日 テーマ 内容 講師 1 6 月 14 日 看護管理者に必要な能力と 役割 ・ 何をすることがマネジャーの 役割なのか ・ マネジャーにはどのような能 力が求められるのか 吉川 三枝子 (佐久大学) 2 7 月 12 日 組織と経営 目標管理 ・ 組織使命を理解し、自らの戦 力を立てる ・ 目標管理を理解し、スタッフ の活動を支援する 吉川 三枝子 (佐久大学) 齋藤 順子 (鹿教湯三才山リハビ リテーションセンター 看護部長) 3 8 月 2 日 マネジメントに必要なスキル ・ リーダーシップを発揮し、モ チベーションを向上する ・ メンタリングを理解し、積極 的に活用する 吉川 三枝子 (佐久大学) 谷川 幸弘 (東御市民病院 看護部長) 4 9 月 13 日 人材育成と継続教育 ・ 人材育成の今 ・ 効果的な継続教育の考え方 吉川 三枝子 (佐久大学) 5 10 月 11 日 医療安全と看護の質保証 ・ 医療の質と安全・新任師長の ための基本知識 ・ 医療安全の実際 吉川 三枝子 (佐久大学) 矢嶋 ちか江 (浅間総合病院 医療安全管理者) 6 11 月 8 日 組織における問題解決と変革 ・ 問題解決技法 ・ 組織の変革 吉川 三枝子 (佐久大学) 伏見 礼子 (松代総合病院 看護師長)い or 全く思わない】とした。②については、 勤務の都合等で欠席した場合は未記入とした。 ④⑤は自由記述とした。
Ⅴ.結果
アンケートは、6 回目参加者 14 名に配布し、 12 名から回答が得られた。回収率は 85.7%で あった。 1.企画・進行(図 1) 1 年間に 6 回の開催回数、1 回 90 分の講義、 18 時 30 分の開始時間、会場の学習環境、資 料の使いやすさ、担当者の準備や進行につい ては、「とてもよい」と「まあまあよい」が 90 %以上であった。終了時間については、3 人 (25%)がどちらともいえない、1 人(8.3%)が あまりよくないと評価していた。 2.研究会内容(図 2) 内容については、『看護管理者に必要な能 力と役割』と『組織における問題解決と変革』 は「とても役に立つ」が 10 人(83.3%)であった。 次いで『医療安全と看護の質保証』が 9 人(75.0 %)であった。どの内容も「とても役に立つ」 以外は、すべて「まあまあ役に立つ」であった。 3.研究会に参加することによる自身の変化 (図 3) 自身の変化として、 『経営や人材育成の知 識・スキルが増えてきた』は「とても思う」が 8 人(66.7%)、『医療環境の変化に敏感になっ てきた』と『以前より自発的に学習するように なった』は、「とても思う」が 5 人(41.7%)であ った。「思わない」という回答はなかった。 「あまり思わない」「全く思わない」という回 答があったのは、『院外のネットワークが増 えてきた』と『東信地区の仲間と情報交換する ようになった』であり、「あまり思わない」 2 人(16.7%)、「全く思わない」 1 人(8.3%)であ った。 図1 企画・進行について 図2 企画内容について4.研究会の参加によって、特に自身が変化 したこと(自由記述) 10 名からの回答があった。「ぶれないビジ ョンの大切さを実感した。ビジョンにむかう ための今自分ができることを考えるようにな ってきた」「ビジョンを明確にすること。や るべきことを決定する思考が整理できた」 「ビジョンはぶれないように気持ちを強くも つ」の【ビジョンを明確にもつ】、「問題がない か意識して考えるようになった」「リフレク ションを日々することが習慣化した」「スタ ッフ 1 人ひとりに毎日声かけをする努力をし た」「質の評価として、患者をラウンドする ようになった」の【自身の行動変容】、「自分が 悩んだ時に、講義の内容に勇気づけられた。 信念をもって突き進んでいきたい」「覚悟が できた」の【前向きな気持ちへの変化】などの 記述があった。
Ⅵ.考察
1.企画・進行について 開催回数、講義時間、開始時間、学習環境、 資料、担当者の準備や進行については適切で あったといえる。終了時間については、日勤 終業後 18 時では間に合わないという意見が 多く 18 時 30 分開始にしたため、20 時の終了 時間となった。90 分の講義時間は満足度が 高いという結果から、講義時間を確保し且つ 時間帯に配慮する必要があると考える。企 画・進行については、満足度は高かったと評 価できる。 2.研究会内容について 今回の研究会の特徴は、看護管理の実践者 をゲストスピーカーとして招き、理論だけで はなく、今現場で起こっている問題や看護管 理の実際を具体的に講義したことである。 『看護管理者に必要な能力と役割』および 『組織における問題解決と変革』は「とても役 に立つ」が 10 人(83.3%)と一番多かった。『看 護管理者に必要な能力と役割』では、マネジ メントとは何か、看護師長に必要な機能・役 割・能力について理解し、自身の現状の姿を 分 析 で き る よ う な 内 容 で あ っ た。 荻 野 ら (2019)による学習ニードアセスメントツール (看護師長用)」を用いた調査では、1 年目の 看護師長で、最も点数が高かった項目は、 「看護管理・マネジメントの基本的知識・技 術」と「看護師長としての役割遂行に必要な自 己管理」であったと述べており、この結果と 一致する。『組織における問題解決と変革』は、 日常の課題の発見方法や具体的な変革の方法 を学び、現場で応用してもらうための展開で あった。今回のアンケート結果で参加者自身 の変化として挙げられた「問題を解決するよ 図3 研修会に参加を通して自身の変化うになった」「学びを現場の実践に応用する ようになった」に影響を与えたのではないか 考えられる。『医療安全と看護の質保証』は 「とても役に立つ」と答えた者が 9 人(75%)で あった。医療安全管理者による医療安全の基 礎と、部門横断的な連携および地域の医療連 携について、実際の事例を組み入れながらの 講義であった。看護管理者に必要な能力の 1 つである危機管理能力を養う知識として有用 であったと考えられる。他の内容についても、 すべて役に立つという評価であったことから、 今回の内容は新任看護師長にとって有用であ ったと考える。 3.研究会の参加を通しての自身の変化 『経営や人材育成の知識・スキルが増えて きた』『医療環境の変化に敏感になってきた』 は、「とても思う」と「まあまあ思う」の合計が 11 人で 90%以上となった。これは、講義に よる知識・スキルの習得により、管理を取り 巻く現象の意味が分かり、医療環境の変化に 敏感になったと考えられる。 『以前より自発的に学習するようになった』 『学びを現場の実践に応用するようになった』 は、「とても思う」「まあまあ思う」が 9 人(75 %)であった。知識が増え視野が広がること で、更に知識獲得の意欲向上につながったの ではないだろうか。古川(2018)は、「看護管 理者教育の学習内容が定着・活用されること が少ない原因のひとつは、教育プログラムが 院外において短期集中型で行われており、学 習内容を現場でのマネジメントと結びつけ学 びを深めるチャンスが少ないところにある」 と述べている。本研究会では、理論やスキル などの知識を基盤とした実践例が多く組み込 まれた講義内容であり、知識と実践が結びつ いた状況をイメージし易かったと考える。ま た同じような状況になった場合に、学びが想 起され実践に活かされ応用することに繋がっ ているのではないかと推測される。さらに 『現場の実践が成果につながるようになった』 および『現場を分析し問題を解決するように なった』では、「とても思う」「まあまあ思う」 が 8 人(66.7%)ということからも、研修の学 びを実践に活かし成果に繋がっていることが うかがえる。 『スタッフとの間に良い変化が生まれてい る』は、「とても思う」「まあまあ思う」が 5 人 (41%)、「どちらともいえない」が 7 人(58.3 %)であった。和田, 森岡(2018)は、新任看護 管理者が昇任直後に直面した問題として「ス タッフの看護観の把握や看護実践力の評価、 指導が難しい」「スタッフへのアプローチの 難しさ」を挙げている。内部昇任だけでなく、 昇任と同時に部署異動があればその困難さは さらに増すことは容易に推測できる。しかし、 今回のアンケートでは約 40%が「よい変化が 生まれている」と評価しているということか ら、何らかのアクションを起こし、変化した ということが読み取れる。しかし、どのよう な困難があり研修内容が有効であったかは考 察できない。 『院外のネットワークが増えてきた』は、 「そう思う」が 6 人(50%)であり、これは参加 者同士でのネットワークが出来たと考えられ る。『東信地区の仲間と情報交換するように なった』は「思う」が 4 人(33.3%)、「あまり思 わない」が 2 人(16.7%)、「全く思わない」が 1 人(8.3%)であった。2015 年の同研究会のア ンケートで同じ質問をしたときは、「あまり 思わない」は 34.3%、「全く思わない」は 11.4 %であり、ネットワークを構築することが課 題であった(内山, 吉川, 清水, 松下, 2017)。 今回の参加者は、2018 年 4 月現在で昇進 1 年 目と 2 年目の看護師長としているため、看護 管理者としての経験が同じくらいの新任者同 士であったということで、情報交換や交流が しやすかった結果と考える。
4.研究会の参加によって、特に自身が変化 したこと 自由記述の結果は、大きくは【ビジョンを 明確にもつ】【自身の行動変容】【前向きな気 持ちへの変化】であった。【ビジョンを明確に もつ】については、後藤, 川島(2010)による と、問題発生時、部下にしかるべき態度を示 せなかった新任師長が自己をふり返り、対処 のロールモデルとして想起したのは、病棟運 営の方向性について自分の意見を明言できる 「ビジョンを公言できる師長」であったと述べ ている。ビジョンを持ち、スタッフにそれを 説明できるということは、看護師長が大切に する看護と管理をその部署に浸透させながら、 マネジメントすることに繋がる。この変化は、 第 1 回目の研究会の内容を反映していると考 えられる。【自身の行動変容】については、講 義内容から具体的な行動がイメージでき、 【前向きな気持ちへの変化】は、知識を得るこ とで前進するきっかけになったのではないか と推測される。研究会参加の結果、意識が変 わり、行動が変化したと考えられる。