日本福祉大学社会福祉論集 第 110 号 2004 年 2 月
はじめに
「児童相談所はなくなるのか」 という標題はいささか穏やかでない感じがする. しかし, 政府 の規制緩和・地方分権改革路線あるいは児童虐待対応施策の中で, 児童相談所に関してもその基 目 次 はじめに 1 児童相談所の規制緩和問題 1) 児童相談所の必置規制緩和の動き 2) 心身障害児の措置事務の市町村委譲問題を振り返る 2 児童虐待防止法改正問題と児童相談所問題 3 2004 年児童福祉法改正の動きと児童相談所 1) 官庁速報 の報道をめぐって 2) 中核市・政令指定都市と児童相談所 3) 児童福祉法改正に関する最近の報道 4 児童相談所・児童福祉施設をめぐる議論 1) 全養協の動きから 2) 児童福祉研究者の主張から 3) 市町村合併と児童相談所設置の問題 5 児童相談所の意義についての私見 1) 児童相談所の相談援助活動の現状 2) 児童相談所の相談援助活動の仕組みとその意義 3) 児童相談所のあるべきモデルの一試案 6 結語 児童相談所をめぐる総合的議論の必要性 文献 注 (新しい動きの補足) 社会保障審議会児童部会 「報告書」 の検討再考・児童相談所はなくなるのか
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−転換点における論点整理−
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本的あり方に関わる議論が浮上してきた. 民間諸団体・研究者の議論の中にもこのような方向を めざすものが見られる. このまま行けば遠くない将来, 「現在のような児童相談所」 つまり 「現 行児童福祉法 (第 15 条の 2 など) で規定された児童相談所」 はなくなる可能性も浮上してきた. これは 「児童相談所」 という名称が存続するか否かというようなことではなく, 「現在の児童相 談所の基本的性格」 (詳しくは本稿5−2) 3) 参照) が大幅に変貌する可能性が見えてきたとい う問題である. そのような意味では, 「児童相談所はなくなるのか」 という標題もあながち現実 離れしたものとは言えないであろう. しかし, 筆者は, 一方では, 児童虐待対応における児童相談所機能の弱体が指摘され, かつ児 童相談所の抜本的強化が必要であることが強調されているにもかかわらず, 他方では, 児童相談 所の足下を洗い流すような議論が進んでいる構図に対しては, いささか矛盾を感じかつ懸念を抱 いている. ともあれ, 今から 10 年後, 現在の児童相談所の若手職員は, 果たして 「現在のような児童相 談所」 で働き続けているであろうか. それとも市町村の相談機関に出向しているであろうか. あ るいは権利擁護センターの職員になっているのであろうか. 現実に 2003 年 9 月には, 「(厚生労働省が) 児童相談所を 児童虐待と非行問題を中心に対応 する機関 と明確に位置づけ, 育児や保健などについての親からの相談業務を市町村に移譲する 方針を決め」, 「次期通常国会に児童福祉法の改正法案を提出する」 という一部の報道もあった (下線筆者, 詳しくは本稿3−3) 参照). この様な動きを踏まえ, 筆者は, 現在は, 児童相談所 の基本的あり方の転換点にあると認識している. 本稿は, このような 「認識」 に基づいて, 今後 の児童相談所問題の動き (とりわけ児童福祉法改正の動き) に対する筆者自身の 「判断基準」 を 形成する意図を持って執筆されるものである. なお本稿は, 日本福祉大学社会福祉学会 福祉研究 (92 号, 2003 年) 掲載論文に, 2003 年 10 月末日までに筆者が知り得た動き (注 5 を含む) を加筆し, 再考したものである. とりわけ本稿 5 では, 筆者が考える (仮説としての) 「児童相談所のあるべき基本モデル」 を提唱した. 筆者 は児童相談所現場にいないため, 現実認識の甘さや誤りを懸念している. 刻々と動いている状況 に対応していない部分もあろうと思う. その点は是非ご教示をお願いしたい. 本稿が児童福祉関 係者・児童相談所関係者の議論を喚起する一素材になることを期待している. なお, 本稿脱稿後 の社会保障審議会の動きを (新しい動きの補足) に示した.
1 児童相談所の規制緩和問題
1) 児童相談所の必置規制緩和の動き 児童相談所をめぐる最近の政策動向の一つとして, 地方分権改革推進会議最終報告書 「事務・ 事業の在り方に関する意見」 (2002 年 10 月 30 日) から関連の深い部分を抜粋する. (その 1) 「【地域における保健・医療・福祉の一層の総合化の推進の観点からの具体的措置】−○総合化等が可能な範囲の周知徹底【平成 14 年度中に実施】保健所, 福祉事務所, 児童相談所, 身体障害者更生相談所など地方公共団体に置かれている保健・福祉に関する事務所に関しては, 各地方公共団体の判断によって統合が可能となっている. (中略) これらの事務所の統合等が可 能である旨の通知を平成 14 年度中に発出し, 周知徹底を図る.」 (その 2) 「【同上】−○児童虐待等についての市町村の役割の強化【平成 17 年度までを目途に 検討・結論】 (児童虐待等については) 都道府県, 政令指定都市に置かれる児童相談所を中心と して対応がなされているが, 児童虐待の防止に関する法律の見直しの結果 (平成 16 年秋を目途) も踏まえ, 児童虐待の早期発見, 発生予防等を進める観点から, 市町村の役割の強化について検 討を行い, 平成 17 年度までを目途に結論を得る.」 (その 3) 「【必置規制的なものの全般的, 経常的な検証と見直しの観点からの具体的措置】− 行政組織に関する必置規制の見直し −〇児童相談所・児童福祉司を含めた児童福祉サービスの 在り方についての検討−【平成 16 年を目途に検討・結論】児童福祉サービスの提供体制につい て, 都道府県や政令指定都市に置かれている児童相談所や児童福祉司の在り方を含め, 平成 13 年 12 月から社会保障審議会児童部会で行われている議論を踏まえながら子どもを取り巻く環境 の変化に対応するよう見直しを進め, 平成 16 年を目途に結論を得る.」 (その 4) 「【知恵とアイディアの地域間競争を視野に入れた, 国の関与の見直しによる地方の 自主性・自立性の強化の観点からの具体的措置】− 住民により身近な行政主体への権限の移譲 −○障害児の施設入所決定事務の市町村への移譲【平成 18 年度までを目途に検討・結論】障害 児・障害者に係る事務について, 市町村で一元的な実施を進める観点から, 平成 15 年度から施 行される支援費制度の実施状況を勘案しつつ, 障害児の施設入所決定の事務に係る権限を都道府 県から市町村へ移譲する方向で検討を行い, 平成 18 年度までを目途に結論を得る.」 ところで, 2002 年 12 月 24 日の閣議決定 「国と地方に係る経済財政運営と構造改革に関する 基本方針」 では, 別紙 1 「 改革と展望 の期間中における対処方針」 の 「1. 社会保障」 におい て 「児童虐待等についての市町村の役割の強化」, 「児童相談所・児童福祉司を含めた児童福祉サー ビスの在り方についての検討」 の項目が立てられている. この項目の内容は, 上記の地方分権改 革推進会議最終報告書 「事務・事業の在り方に関する意見」 と結論を得る時期も含めて同趣旨の 方針である. ちなみに前者は, 「平成 17 年 (2005 年) 度までを目途」 に, 後者は 「平成 16 年 (2004 年) を目途」 に結論を得るとされている. このような方針が閣議決定されたことが注目さ れる. 以上の内容に対する反応はさまざまであると思う. 以下に想定される反応を例示する. ① 「児童相談所は, 他の事務所と一層統合され, その独自の姿が見えにくくなる. 業務の独 自性・主体性も薄まってくるのではないか. 既にその方向は着々と進んでいる」 ② 「市町村の役割強化の呼び声と合わせて, 児童相談所の主要機能は市町村に分散してしま うのか. 非行・虐待相談は, 児童相談所で, その他の相談は市町村でという意見もある. 結 局児童相談所は, 非行・児童虐待対応中心の権利擁護センター化するのだろうか」
③ 「都道府県や政令指定都市に置かれている児童相談所や児童福祉司の在り方を含め, 見直 しを進めるということは, 児童相談所を市町村に委譲してしまうということなのか. ついで に必置規制も取り払われるのか. 児童福祉司はどうなるのだろうか」 ④ 「障害児施設については, 前から議論があったが, まず障害児福祉から措置事務が市町村 に移譲されるのかも知れない. 障害児福祉を系統的に追求することは難しくなるだろう」 いずれにしても規制緩和・地方分権の動きとも呼応して, このような政策議論が本格化しつつ あり, 近い将来児童相談所のあり方が大幅に見直されることも予想しなければならない. 今後の 動向が注目される (なお, 地方分権論の性格については注 1 参照). 2) 心身障害児の措置事務の市町村委譲問題を振り返る なお, 上記のような議論は, 今に始まったことではなく, 過去にも繰り返し行われてきた. 心 身障害児の措置事務の市町村委譲を中心に具体例を 2, 3 紹介する (詳しくは, 竹中哲夫:2000 年参照). 1997 年 12 月 9 日に発表された身体障害者福祉審議会等三審議会合同企画分科会 「今後の障害 保健福祉施策の在り方について (中間報告)」 (以下 「中間報告」) の児童福祉に関係の深い部分 は次のようである. 「障害児通園施設については (中略) 相互利用 の制度化を図るべきである.」 「将来的には障害児通園施設 (仮称) として一本化することを検討すべきである.」 「障害児, 精 神薄弱者についても同様に (福祉サービス決定権限を−筆者注) 市町村に移譲すべきである.」 「市町村への支援をより強化するため, 身体障害者更生相談所, 精神薄弱者更生相談所, 児童相 談所 (障害児部門) 等の統合, 再編, 連携等の検討を行う (後略).」 これらの内容が, 制度化されていくならば, 児童相談所をはじめ, 各種別の障害児施設への影 響は大きいと考えられる. 問題点については後にまとめて指摘するが, ここでは次の 1 点を指摘 しておく. それは通常, 児童相談所では独立の障害児部門を置くということではなく, 総合的な 相談・判定・措置などの仕事の中で障害児相談に対応しているため, 障害児部門を切り離して他 の機関と統合することが適切とはいいがたいことである. その後 1998 年 12 月 1 日の全国知事会に厚生省大臣官房障害保健福祉部の 「知的障害者・障害 児に係る施設入所決定権等の市町村への委譲について (案)」 (以下 「委譲案」) が提出された. 「案」 の冒頭の 「趣旨」 は, 「障害児・者に最も身近な市町村が福祉サービスの決定権限を有する ことが望ましい」 と明言している. 「委譲案」 は, 障害児関係 (児童福祉法) については, 「障害 児の施設への入所措置, 短期入所事業, 育成医療の給付等, 補装具の交付, 日常生活用具の給付 等」 の 「事務を都道府県から市町村へ委譲する」 としている. そして児童相談所のあり方につい ては次のように提案している. 「委譲後の都道府県の児童相談所が新たに担うことになる役割は, 以下のようになる. ・児童に関する各般の問題に係る家庭等からの相談 ・養護, 育成などに係る業務との(ママ)一元的処理
・医学的, 心理学的, 教育学的, 社会学的及び精神保健上の判定 ・広域的な障害児の実情把握, 施設入所等に関する市町村間の連絡調整 ・市町村職員の研修等 (注) 判定については, 従前どおり」 このような見直しの 「理由」 としては次の諸点が掲げられている. 「 在宅・施設施策の一元的な実施−(中略) 住民に最も身近な行政主体である市町村が, 在 宅サービスと施設サービスを一元的に提供できる体制を確立する必要がある. 児・者施策の一貫した実施−(中略) 障害児・者に対し生涯を通じて一貫したサービスを 提供するためには, 市町村が児・者施策を一元的に実施できる体制を確立する必要がある. 障害者施策の総合的実施−(略) 母子保健施策等との一貫性の確保−(以下, 要約すると) 母子保健施策 (市町村)−就学 前の障害児の施設入所 (都道府県−児童相談所)−障害児の小中学校就学 (市町村教育委員 会就学指導委員会)−学校卒業後の施設福祉施策 (都道府県−福祉事務所), がそれぞれ対 応している.」 「福祉施策と母子保健施策等が一元的に市町村において実施できる体制を確 立する必要がある.」 市町村委譲の実施時期等については, 「法律公布後 3 年の準備期間を設け, 平成 14 年度から施 行する」 「市町村における (中略) 財政負担増については, 地方交付税上の措置を講じることが 必要」 としている. このように, この 「委譲案」 の強調する視点・論理は, 要するに 「利用者に 身近な市町村」 「都道府県の広域調整・技術援助」 「サービスの一貫性・一元性」 「施策の一貫性・ 一元性」 である. さて, 当時注目されていた 「障害関係三審議会の意見具申」 は, 1999 年 1 月 25 日に, 各審議 会の意見具申と共に公表された. この内, 中央児童福祉審議会 「今後の知的障害者・障害児施策 の在り方について」 (以下中児審 「意見具申」) の児童福祉関係部分を紹介する. 「知的障害者・ 障害児の福祉サービスの充実について」 の 「地域での療育機能等の充実」 には, 障害児 (者) 地 域療育等支援事業の充実, 障害児通園施設の相互利用制度の普及促進, 重症心身障害児 (者) 通 園事業の普及促進, などが盛られている. 問題の 「知的障害者・障害児に関する事務の市町村へ の委譲」 の 「障害児に関する事務の委譲」 では, 「障害児福祉サービスについても, 住民に最も 身近な行政主体である市町村が権限を持つことが望ましいことは言うまでもない」 と強調してい るが, 特に施設サービスについては, 「市町村に権限を委譲することについては, さらに検討す る必要がある」 とし, いくつかの検討事項を示すなど慎重な姿勢を示してる. この中には, 「市 町村へ入所決定権限を委譲する場合」, 障害児施設の事務費の支弁方式が, 現行の 「定員払い方 式」 から 「現員払い方式」 に移行する必要があることが指摘され, このことが施設運営に支障を もたらすことについても言及されている. なお児童相談所のあり方については, 「被虐待等の要 保護性を有する障害児に対し (中略) 引き続き都道府県 (児童相談所) が (障害児施設入所の− 筆者注) 決定権限を持つことが考えられる」 等のあいまいな指摘にとどまっている.
以上 3 つの政策文書 (「中間報告」, 「委譲案」, 中児審 「意見具申」) が, 直接的に社会福祉事 業法等の 「改正」 に結びついたわけではない. しかし, 特に 「委譲案」, 中児審 「意見具申」 は, 現在の社会福祉政策の基本路線である社会福祉基礎構造改革と深く関わりながらまとめられてい るのでやがて具体的な影響が現れることが予想される. そこで, 3 つの文書を通じて筆者が 現 代児童相談所論 (2000 年) において指摘した問題点を再録する (一部加筆). ① 保健・福祉・教育をすべて市町村で担う方式は, 本当に可能なのであろうか. 市町村は財 政的に, また職員配置や専門性 (総合的判断) の上で対応可能なのか. 大きな地域差が生じ ることが懸念される. ② 保健・福祉・教育の総合的保障の必要性と, それをすべて市町村が一元的に担うというこ とは, 必ずしも同じ問題ではない (一例をあげれば, 児童相談所の増設や市町村分室を設け るなどの対応も可能である). 市町村化によって, 国や都道府県の公的責任はあいまいにな るのではなかろうか. ③ これまで, 障害児の福祉 (特に障害児施設福祉) は, 児童相談所を核にしながら, 不十分 ながら総合的に取り組まれてきた. 「委譲案」 では, 判定は従前どおり児童相談所とされて いるが, その他の相談・措置事務は市町村に委譲される. これでは児童相談の総合性は著し く損なわれ, 障害児への対応は, サービス毎に分解する心配がある. ④ いわゆる健常児と障害児の区分, 同一家族における障害児 (とそうでない児童の) 問題, 障害の疑われる児童の経過観察, 養護問題・非行問題などをもつ障害児への対応, などが弱 体化するのではないか (これらのことは 「意見具申 (中児審)」 では検討事項として一部指 摘されている. この指摘をさらに詳細に展開する必要がある). ⑤ 「中間報告」 では, 児童相談所をはじめ各相談機関の 「統合, 再編, 連携等の検討を行う」 とされ, 政府の 「地方分権推進計画」 (1998 年 10 月) には, 「平成 11 年の通常国会に法律 案を提出するもの」 として 「児童相談所については, 他の行政機関等との統合も可能となる よう, 地方公共団体における弾力的な名称の使用や設置形態が可能である趣旨を明確にする」 とされた. これらにより児童相談所の相談援助活動の一体性・総合性の弱体化への道が開か れた.
2 児童虐待防止法改正問題と児童相談所
社会保障審議会児童部会は, 2003 年 6 月に 「 児童虐待の防止等に関する専門委員会 報告書」 を発表した. この報告書は, 「今般, 当面緊急に取り組むべき課題を中心に, その取り組みの具 体的な方向性について取りまとめたものである」 と位置づけられている. 特に児童相談所については 「Ⅱ 早期発見・早期対応における取り組み」 において【取り組み の方向性】として次の指摘が見られる. 「① 虐待相談件数や緊急事例の急増等により, 児童相談所においては, 現行制度上, 担うこととされている幅広い相談業務の全てに必ずしも対応しきれていない状況があることを踏まえ, 例えば, 一部業務を他の機関に委譲し, 児童相談所の業務の重点化を図るなど児童相談所のあり 方等について見直しを検討することが必要である. 「② また, 児童相談所の機能強化を図るため, 必要な職員の確保と専門性の向上, 医師, 保 健師・助産師・看護師や弁護士等の幅広い専門職種との連携強化を図るとともに, 一時保護のあ り方についても検討することが必要である. 「③ さらに, 早期発見・早期対応における地域の機関, 住民の果たす役割は大きいことから, 福祉事務所に設置されている家庭児童相談室や児童委員, とりわけ主任児童委員等を地域の福祉 の核として, 積極的に活用を図ることが必要である.」 (①②③および下線は筆者が付加した) また【具体的な取り組みに関する意見・提案】では, 「児童相談所における相談業務の内, 障 害相談, 健全育成相談などは市町村や関係機関での役割分担が考えうる.」, 「地方分権の観点か ら指摘されている 児童相談所, 児童福祉司の必置規制の撤廃 については, 虐待対応等におけ る児童相談所の有する権限発動の役割や職員の質の確保等の観点から, 慎重に検討することが必 要である.」 「(児童相談所について) 中核市においても設置可能とすることについては, 数が増 え, 住民の身近になるというメリットと, 職員の専門性の確保が可能か, 保護児童の入所措置に かかる広域調整が可能かといった課題も踏まえ, 検討することが必要である」 と指摘されている. 上記の①には, この間の児童相談所議論の方向が再確認されている. この方向には, 後に繰り 返し指摘するように, 筆者は基本的な異論を持っている. ②は, 多くの関係者が一致する方向で あろう. ③では, 家庭児童相談室の役割が強調されており, それはそれとして必要なことであり, 筆者も機会あるごとに主張してきたことである. もっともここで疑問に思うのは, 厚生労働省の 近年の方針では, 児童家庭支援センターの役割の重視に対し, 家庭児童相談室は極めて軽視され てきたことである. この機会に, 家庭児童相談室の役割を系統的に見直し, 法定化も含め拡充す る方針を明確にすべきであろう. その時々に一貫性のない方針を提起されたのでは現場はとまど うばかりであろう. なお, 【具体的な取り組みに関する意見・提案】にある中核市に関する慎重 な指摘についても共感できる. いずれにしても児童相談所の基本的あり方は, 児童虐待対応だけを視野に入れて構想すべきで はなく, 児童相談所の現在の到達点と課題, 児童相談所が直面する児童家庭問題と相談援助活動 全体を見ながら構想すべきことがらである.
3 2004 年児童福祉法改正の動きと児童相談所
1) 官庁速報 の報道をめぐって 2002 年 7 月 30 日の 官庁速報 は, 次のように報道した. 「厚生労働省は, 児童虐待の早期発見や発生予防などを目的に, 児童相談所などによる相談体 制や, 児童養護施設などをはじめとする施設の在り方を見直すことを決めた. 2004 年に予定される児童虐待防止法の見直し作業と平行して検討を進め, 相談業務や施設体系などを規定した児 童福祉法改正も視野に, 施設での治療や, 地方自治体の業務内容などを改める方針だ. (中略) 同省は 虐待の早期発見や発生予防のためにも, 実状に合わせ, 体制を整える必要がある (家 庭福祉課) と指摘. 要保護児童の定義や施設の分類のほか, 虐待を受けた入所児童のアフターケ アの問題なども検討する必要があるとしている. 相談体制については, 地方公共団体の業務の在 り方などの課題が挙げられる. 都道府県と政令都市だけに設置している児童相談所を中核都市に も置くことなども含め, 都道府県と市町村の役割分担などについて見直しを行う方針だ. 今後は 虐待への対応の実態などを調査し, 調査結果を踏まえた上で, 検討を進める予定. その結果によっ ては, 児童虐待防止法とともに, 04 年の通常国会に児童福祉法改正案を提出する.」 これは, 児童虐待対応を基本に (児童虐待防止法の見直し作業と平行して), ①児童相談所な どによる相談体制の見直し, ②児童養護施設などをはじめとする施設の在り方の見直し, ③要保 護児童の定義や施設の分類の検討, ④虐待を受けた入所児童のアフターケアの問題の検討, ⑤児 童相談所を中核都市にも置くことなども含め, 都道府県と市町村の役割分担などについての見直 し, などを行い, ⑥2004 年の通常国会に児童福祉法改正案を提出する方針であるというもので ある. この短い報道の意味を正確に読みとることはやさしくないが, 官庁速報 は, 世上, 各 省庁の政策意図のアドバルーン的役割を果たしていると言われているので, 予想を含めて, 一定 の検討をしておく. 1) 「①児童相談所などによる相談体制の見直しと, ⑤児童相談所を中核都市にも置くことなど も含め, 都道府県と市町村の役割分担などについての見直し」 は, どのような意味を持つもので あろうか. 児童相談所を中核市にも設置することは後に触れるようにいくつかの条件が満たされ ることを前提に積極的意義を持ち得ると思うが, 「都道府県と市町村の役割分担の見直し」 は, 「児童相談所の権利擁護センター化」 と 「従来の相談援助活動の大きな部分の市町村委譲」 につ ながる可能性もある. 2) 「②児童養護施設などをはじめとする施設の在り方の見直し, ③要保護児童の定義や施設の 分類の検討」 が含みうる意味は多様である. 「施設のあり方」 については, 1990 年代にも施設体 系の見直しが議論された. その発端の一つに弓掛正倫論文 「養護施設の将来展望」 (1991 年 10 月) に提示されたいわゆる 「養護ホーム構想」 があり, さらに, 全国児童養護施設協議会 (全養 協) のいわゆる 「養護施設の近未来像」 の検討などがあった. 全養協の 「児童養護施設近未来像 Ⅱ」 (4 でも部分的にふれる) に加え, 1990 年代の議論を改めて振り返ってみる必要があろう. 「③要保護児童の定義」 の検討は何を意味するのであろうか. 要保護児童の定義は, 児童福祉 サービスの供給体制 (措置制度, 利用制度など) あるいは児童相談所のあり方にも跳ね返ってい くものであるから影響はかなり大きなものになるであろう. 「定義」 がどのように見直されよう としているのか, 慎重に見極めていく必要がある. 以上に述べてきた 2004 年児童福祉法改正問題は, 2005 年 3 月末日を 「期限」 として進められ ている市町村合併問題 (「市町村の合併の特例に関する法律」 による諸特例は, 2005 年 3 月末日
が期限である) とも関わらせて十分検討する必要があろう (市町村合併問題についてはさらに4 3でその一端にふれる. また児童相談所に関する児童福祉法改正に関する最近の動きについて は3) でふれる). 2) 中核市・政令指定都市と児童相談所問題 上記 官庁速報 は, 「都道府県と政令都市だけに設置している児童相談所を中核都市にも置 くこと」 に言及している. この問題について検討しておきたい. まず, 政令指定都市および中核市内の児童相談所設置状況は表 1 , 表 2 の通りである. 「中核市内」 と表現したのは, 現在は中核市自体は児童相談所を開設していないが, 道府県の 児童相談所が中核市に設置されていることが多いという意味である. 中核市は, 人口 30 万以上 で政令で指定された都市 (人口が 50 万人未満の市では面積が 100 平方キロメートル以上必要) であり 2003 年 4 月 1 日現在 35 市である. 八王子市 (東京都) と東大阪市 (大阪府) は中核市と なる要件を備えているが, 2003 年 4 月 1 日現在指定を受けていないため, 表 2 の中に ( ) を 付けて示した. 児童相談所は 2003 年 5 月現在 182 か所開設されている. 表 2 に示すように, 中核市は現在 (2003 年 4 月 1 日現在) 35 市である. 仮にこの 35 市に児童相談所が 1 か所ずつ設置された場合, 児童相談所は, 217 か所となり, 一挙に 200 か所を越えることになる. また, 人口 30 万人を単 位にした児童相談所設置問題も検討の遡上に上ることになる. ただし, 中核市の児童相談所設置 は, 次のような多様な課題を一つ一つ検討しながら慎重に進めなければならない問題である. ①中核市に児童相談所を開設するようにするためには, 児童福祉法, 地方自治法など関係法制 度を整備する必要がある. その際, どのような法体系が描かれるのかについて十分注意する必要 がある. ②中核市においても専門職を恒常的に配置する条件整備が必要である. ③既に中核市に 開設されている道府県の児童相談所 (2003 年 4 月 1 日現在 35 中核市のうち 32 市内に道府県児 童相談所が設置されている) との有機的連携を確保するなど, 両者の関係を発展的に整理する必 要がある. ④都道府県と中核市の間で, あるいは中核市間で, 児童相談所運営水準の格差が大き くならないよう格段の対策が必要である. ⑤中核市単位に見た場合各種別児童福祉施設などが必 ずしも管内に整備されていないという現状もある. 管内児童福祉施設等の整備という課題も浮上 する. ⑥なお, 仮定の問題であるが, 今後各地で都道府県児童相談所を中核市に移管 (委譲) す るようなことがあれば児童相談所はあまり増えないということになりかねない. 状況次第では, このようなことも問題点として浮上するかも知れない. 3) 児童福祉法改正に関する最近の報道 児童福祉法改正問題は刻々と動いているが, 2003 年 9 月 11 日 読売新聞 (ホームページ・ Yomiuri On Line) は 「児童相談所,“虐待ストップ”の専門機関へ転換」 という見出しの報道 をした. 以下その要点を示す.
「児童相談所の役割の見直し作業を進めている厚生労働省は 11 日までに, 児童相談所を 児 童虐待と非行問題を中心に対応する機関 と明確に位置づけ, 育児や保健などについての親か 表 1 政令指定都市 (13 市, 2003 年 4 月 1 日現在) の人口概数と政令指定都市が設置 する児童相談所 (人口は, 2003 年 3 月 31 日現在) (単位 1000 人) 横 浜 3,467 中央児童相談所, 南部児童相談所, 北部児童相談所 大 阪 2,490 中央児童相談所 名古屋 2,117 名古屋市児童相談所 札 幌 1,838 児童福祉総合センター 神 戸 1,484 こども家庭センター 京 都 1,386 京都市児童相談所 福 岡 1,315 こども総合相談センター 川 崎 1,259 中央児童相談所, 南部児童相談所 広 島 1,119 広島市児童相談所 さいたま 1,038 さいたま市児童相談所 北九州 997 子ども総合センター 仙 台 991 仙台市児童相談所 千 葉 889 千葉市児童相談所 表 2 中核市 (35 市, 2003 年 4 月 1 日現在) の人口概数と中核市内に設置されている 道府県児童相談所 (人口は, 2003 年 3 月 31 日現在) (単位 1000 人) 堺 787 中央子ども家庭センター 静 岡 703 中央児童相談所 熊 本 656 中央児童相談所 岡 山 625 中央児童相談所 相模原 605 相模原児童相談所 浜 松 576 西部児童相談所 船 橋 557 −−− 鹿児島 546 児童総合相談センター 新 潟 515 −−− 姫 路 477 姫路こどもセンター 松 山 475 中央児童相談所 宇都宮 446 中央児童相談所 金 沢 441 中央児童相談所 大 分 439 中央児童相談所 横須賀 435 横須賀児童相談所 倉 敷 434 倉敷児童相談所 長 崎 419 中央児童相談所 福 山 407 福山児童相談所 岐 阜 402 中央子ども相談センター 和歌山 390 子ども・障害者相談センター 奈 良 364 中央こども家庭相談センター いわき 363 浜児童相談所 旭 川 361 旭川児童相談所 長 野 359 中央児童相談所 豊 橋 358 東三河児童・障害者相談センター 高 槻 352 −−− 豊 田 345 豊田加茂児童相談センター 岡 崎 339 西三河児童・障害者相談センター 高 松 334 子ども女性相談センター 郡 山 332 郡山相談センター 高 知 327 中央児童相談所 川 越 326 川越児童相談所 富 山 321 富山児童相談所 秋 田 313 中央児童相談所 宮 崎 306 中央児童相談所 (八王子 524 八王子児童相談所* ) (東大阪 496 東大阪こども家庭センター* ) (表 1 , 表 2 とも, 市町村自治研究会 平成 15 年版・全国市町村要覧 第一法規, 2003 年, および, 厚生労働省 全国児童 相談所一覧 2003 年 4 月 1 日現在, より作成. *八王子市および東大阪市は, 2003 年 4 月 1 日現在中核市未指定)
らの相談業務を市町村に移譲する方針を決めた. 機能を専門化させることで, 増え続ける児童虐待に重点的に対応するのが目的. 次期通常国 会に児童福祉法の改正法案を提出する.」 (下線筆者) 「同省の社会保障審議会児童部会が今年 5 月から, 児童相談所業務の抜本見直しを進めてお り, 同部会はこのほど, 親から求められる子供のしつけ, 発達の遅れ, 進路などの悩みなどを 受け付ける相談業務は, 原則として市町村に移すことを決めた. 親の離婚などに伴って起きる 養育に関する相談業務も, 一義的に市町村が対応する. 一方, 児童相談所は今後, 児童虐待や非行のように, 親子間に強制介入したり専門知識が必 要となる児童問題に重点的に取り組む. また, 虐待を受けた子供の心理的なケアなど, 重要性 は認識されながらも, これまでなかなか手の回らなかった点にも力を入れていくという. ただ, 障害者手帳の発行に必要な障害判定業務は当面, 継続して扱う方針だ.」 この報道にいう決定は, 厚生労働省のどのレベルの決定であるかは不明である. しかし報道の 通りの事態が進行するとすれば, 2004 年の通常国会に児童相談所の抜本的見直し法案が上程さ れることになる. 近年, 児童虐待相談が増加し, その内容も深刻化し, 児童相談所実務が限界と いわれる状態になったことを受けて, 児童相談所の機能が充実・強化される方向がようやく見え 始めている. 児童相談所のあり方に関する議論もようやく本格化しつつある. この時期に, 児童 相談所の基本的あり方に重大な変更を加える動きが浮上し, 時期通常国会に児童福祉法改正法案 を提出するというのはあまりに急な動きであり, 児童相談所の将来に深い懸念を禁じ得ない. こ の様な結論を出す前に広汎な関係者の本格的議論の場を作るべきである. 同じ問題を 2003 年 9 月 22 日の 福祉新聞 は 「社保審児童部会 児相必置規制緩和は慎重・ 児福法改正案にたたき台・高度な専門性も・ 11 月とりまとめへ」 という見出しで報じている. 全体の趣旨は, 「厚生労働省は 9 日, 社会保障審議会児童部会での議論を踏まえ, 次期国会に提 出する児童福祉法改正案の策定に向け, 議論の大まかなたたき台を示した. 多くは児童相談所に 関連する内容だ」 というものである. 具体的内容は, 「児相は (中略) 一部の中核市以外は設置が難しく, それぞれの役割分担が必 要である」, 「児童相談のあり方としては, 身近な市町村での相談を主体とし, 都道府県が市町村 を支援する体制の強化が必要とした」, 「市町村と役割分担すれば, 児相の役割は介入機能にある として, 児相に一定の司法関与の仕組みを導入する必要があるとした」, 「11 月に児童福祉法改 正案をまとめる」 などである. 福祉新聞 の報道内容には, 読売新聞 のように, 「児童相談所を 児童虐待と非行問題を 中心に対応する機関 と明確に位置づけ」, 「育児や保健などについての親からの相談業務を市町 村に移譲する」 というような断定的な内容はない. そのため, どちらの記事を読むかによって問 題の理解は異なるものになる. しかし, いずれも児童相談所問題にとって重要な意味を持つ報道 であることは共通している. この時点では, これ以上正確な状況分析ができない. このような重 要な問題について厚生労働省がそれぞれの時点での到達点について正確な情報を発表し, 関係者
の議論に供する (国民に対する情報公開と説明責任を果たすこと) ことが望まれる.
4 児童相談所・児童福祉施設をめぐる議論
以上にふれてきたことは主として政府側の動きであったが, ここでは, 民間団体や研究者の意 見にふれる. 1) 全養協の動きから 全養協の制度検討特別委員会小委員会 (小委員長 古川孝順) は, 2001 年 10 月の 「児童養護 施設近未来像Ⅱの論点」 に続いて, 2002 年 10 月 15 日に 「児童養護施設近未来像Ⅱ (中間まと め)」, 2003 年 4 月には 「子どもを未来とするために−児童養護施設近未来像Ⅱ」 (以下 「報告書」) を発表した. 「報告書」 には, 児童養護施設などの児童福祉施設体系の改革, 措置制度の見直し など重要な論点が含まれているが, ここでは児童相談所のあり方を中心に 「報告書」 の 「Ⅷ 基 盤の整備」 の主張を紹介する. 「2 児童相談所機能の再検討 広域的機関である児童相談所が自ら単独で地域に密着し, 日常的かつ継続的に支援を行うこと の困難性はすでに指摘されているところである. 虐待の発生予防から相談, 施設入所措置等サー ビスの提供, アフターケアといった一連の支援体制の確立が求められるなかで, 基礎的自治体で ある市町村への期待はきわめて大きいといえる. 現在, 在宅福祉の実施主体は市町村, 児童養護施設入所措置は都道府県が実施主体となってお り, それぞれがばらばらに運用されている. このため, 市町村 (福祉事務所) と都道府県 (児童 相談所) との連携が課題となるが、将来的には市町村による一元的な運営管理が望ましい. 児童相談所は, 公的機関として要保護児童に係る措置, 相談, 援助, アセスメント, さらに里 親対応その他すべての権限や役割を集中させてきたために機能麻痺を起こしている感がある. ま た, 急増する児童虐待ケースへの対応に多くの児相が混乱状態にあるといってもよい. このため, 市町村における体制整備を前提として, 児童相談所の権限を委譲し, 児相の役割を 権利擁護機関および専門的判定機関として再編することも考えられる. ただ, 特に町村部におい て必要な専門職を抱えられないことも十分想定され, そうした場合には, 児童相談所による技術 指導が今後とも極めて大きな役割を果たすといえる.」 (下線筆者) 「報告書」 を多少割り切って要約すれば次の通りである. 「児童虐待対応について, 基礎的自治体である市町村への期待が大きい. 現状では児童相談 所は機能麻痺を起こし混乱状態にある. この際, 児童相談所の権限を市町村委譲する必要があ る. 児童相談所の役割を権利擁護機関および専門的判定機関として再編する. 今後も町村部へ の技術指導が児童相談所の大きな役割となる.」 このような構想は, 本当に実現可能なのであろうか. 市町村がこのような機能を担い得るのであろうか. また, 仮に児童相談所機能を市町村に委譲したとして, 「市町村が担う児童相談所代 替機能の具体像」 はどのようなものなのであろうか. 「報告書」 にはその具体像は提示されてい ない. 町村部への技術指導がどの程度実効性を持つかということも心許ない. 「報告書」 には, 次のように 「児童家庭支援センターの増設と市町村化」 は論じられているが, これをもって児童相談所の代替機能ということはできないであろう. 「4 児童家庭支援センターの増設と市町村化 児童養護施設は、今後その子育てのノウハウを地域の子育て支援に役立てるため, 一層の多機 能化が望まれる. ただ, 従来のように, 生活施設である児童養護施設そのものを多機能化するの ではなく, 児童家庭支援センターに機能を付加する方向を模索すべきである. 今後, 児童家庭支 援センターの設置促進ならびに制度の充実を図り, 地域の子育て支援の拠点として, 児童家庭支 援センターを核に児童養護施設がその役割を発揮することが期待される. その際, 市町村単位の 子育て支援システムの構築のため, 児童家庭支援センターの実施主体を都道府県から市町村へ速 やかに移行することが必要である. 児童家庭支援センターは, 地域の子育て支援としての相談や援助活動, 子育ての補完としての ショートステイ・トワイライトステイ, 施設から家庭復帰した子どもや社会に出ていった子ども のフォローやアフターケア, 養育里親や地域小規模児童養護施設の支援, 虐待を受けた子どもの 緊急一時保護などその機能を見直し, 要保護児童問題に関わる相談および援助に総合的に対応す る必要がある. 市町村への権限委譲がされる場合, 児童家庭支援センターを地域 (市町村) における子育て・ 家庭支援のための 相談援助の専門機関 として位置づけ, その業務をそこに委託することも一 つの方法であろう. ただ, 児童養護施設については現在所在地域が偏在しており, これを解決す る方法として, 短期入所施設あるいは地域小規模施設の併設, あるいは緊急時における入所施設 との緊密な連携を前提として単独型の児童家庭支援センターの設置が検討されるべきである.」 (下線筆者) ここには児童家庭支援センター (2002 年 10 月現在:設置数 35 施設, 2003 年 6 月現在 42 か所, 2002 年度予算:50 か所分, 2003 年度予算:70 か所分) への広汎かつ過大とも言える期待が盛り 込まれている (2003 年 6 月現在の設置数は児童家庭養育支援研究会:2003 によった). また児童 養護施設と児童家庭支援センターの関係も曖昧である. 児童家庭支援センターは, 運営主体を市 町村に移行し, 要保護児童問題に関わる相談および援助に総合的に対応することが構想されてい る. しかし, 市町村に移行された児童家庭支援センターの配置は, いかにもつぎはぎ的であり, 全国を一定の水準で対応する相談援助 (措置) 機関となることを安易に期待することはできない. 児童家庭支援センターは, 児童養護施設に附置されるものであったり, 単独型であったりすると いう形態も分かりにくい. 「報告書」 のような児童家庭支援センターを構想するのであれば, そ のような機能はむしろ福祉事務所に設置されている家庭児童相談室 (2000 年 4 月現在 956 か所) を法制的に整備することの方が合理的であろう. 法制的に整備した家庭児童相談室の方が, 児童
相談所と連携し全国くまなく児童相談ネットワークを形成する上で有利であろう. なお, 本稿2 でふれた社会保障審議会児童部会の 「 児童虐待の防止等に関する専門委員会 報告書」 が曖昧 さを残しながらも, 「(児童虐待の) 早期発見・早期対応における地域の機関, 住民の果たす役割 は大きいことから, 福祉事務所に設置されている家庭児童相談室や児童委員, とりわけ主任児童 委員等を地域の福祉の核として, 積極的に活用を図ることが必要である」 (下線筆者) と指摘し た点は, 今後に期待できる芽を持っているように思う. また, 「市町村への権限委譲がされる場合, 児童家庭支援センターを地域 (市町村) における 子育て・家庭支援のための 相談援助の専門機関 として位置づけ, その業務をそこに委託する ことも一つの方法であろう」 という一文においては, 「市町村への権限委譲」 の委譲される権限 の内容は何か, 「その業務をそこに委託する」 のその業務とは何か, 真意が一義的に読み取れな いのは残念である. ところで市町村は大小さまざまで, その特徴も多種多様である. それではいっそのこと市町村 合併によって規模の小さい町村をなくし, 市町村格差を縮小すればよいという議論も聞こえてき そうである. しかし, 市町村合併そのものが多くの課題・問題点を抱えており, 議論百出の状況 で, 今日の地方自治制度問題の熱い争点になっている. 当分, 児童相談所をどうするという以前 の地方自治制度をめぐる根本的な議論が展開されると思われる (市町村合併問題についてはさら に3) でふれる). 2) 児童福祉研究者の主張から 児童福祉研究者については, 才村純, 柏女霊峰, 京極高宣の見解および才村純等の調査論文の 見解を紹介する. 才村純は, 論文 「子ども虐待とソーシャルワーク」 (1999 年) で, 次のように主張している. 「少なくとも保護者の側に相談の動機づけがあるケースは, 今後市町村で対応すべきものと考 えられる.」 「虐待や非行ケースのように (中略) 保護者に相談の動機づけのないケース (つまり 25 条の要保護児童ケース) は, (中略) 児童相談所が重点的に対応することが考えられる. つま り, 今後児童相談所は自ら権利主張をなし得ない子どもの 権利擁護センター として位置づけ るべきと考える.」 「行政サービスとしての児童相談を市町村事務とすることにより, 児童相談所 の業務のスリム化が図られ, より迅速かつ的確な権利擁護活動の展開を期待したい.」 このような考え方によるならば, 従来の 「住民に浸透した機関」 ( 児童相談所運営指針 (改訂 版) 参照) としての児童相談所の性格が後退するのではなかろうか. 従来の児童相談種別の大 半を背負うことになる市町村が果たしてその任に堪えうるかという点についても懸念がある. ま たこのような考え方では, 「保護者の側に相談の動機づけがあるケース」 と 「保護者に相談の動 機づけのないケース」 が分割されることが重要な前提となっているが, 実際に相談援助の場面で はこのような 2 分割は可能であろうか. 虐待や非行であっても 「保護者の側に相談の動機づけ (仮にその動機が援助者の側からみて適切であるとは思われない場合があるとしても) が十分に
あるケース」 も多いであろう. 逆に虐待や非行以外でも 「保護者に相談の動機づけのないケース」 といえる場合も少なくないであろう. このように, 才村提言には多くの検討課題がある. 立ち入っ た議論が必要であろう. 柏女霊峰は, その編著書 児童虐待とソーシャルワーク実践 (2001 年) の第Ⅱ部第 7 章 「新たな児童家庭相談体制の構築に向けて」 で次のように主張している. 「児童家庭相談体制再構築の視点」 の 「①サービス利用のあり方に関する事項」 では, 「児童 家庭福祉サービス利用方式を, 保育の実施方式 (場合によっては支援費支給方式も考慮), 職権 保護方式, 司法決定方式の三類型に整理する. 直接契約を行政が支援するシステムないしは行政 との契約方式を原則とし, サービス利用を申請しない場合や親がいない場合などの行政の勧奨責 任や職権保護を明確化し, さらに, 職権保護や勧奨に従わない場合には司法決定方式で対応する こととする. このようにすることで, 児童本人や保護者がサービスを選択でき, また, 施設サー ビスの社会化が進むのであれば, 児童の権利擁護や利用者主権という視点からみてもメリットの 方が大きいのではないかと考えられる」 と述べている. 「②児童家庭福祉サービスの供給体制の分権化に関する事項」 では, 「障害児福祉サービスに関 して市町村を実施主体とし, 都道府県が専門的支援を行う体制を確保する. (中略) さらに, 都 道府県の障害児関係専門業務を児童相談所から切り離して知的障害者更生相談所, 身体障害者更 生相談所を統合した障害者更生相談所に吸収し, 児者一元化を図る. (中略) 児童相談所をたと えば児童家庭権利擁護センターとし, 子どもと女性の権利擁護センターとして機能させるべく再 編成する. (中略) 市町村に児童家庭福祉サービスの行政拠点を整備するため, 都道府県家庭児 童相談室を廃止し, 市町村に家庭児童相談室を整備する. あわせて, 小規模町村に配慮し, 地域 子育て支援センターに, その業務の一部を委託できることとする」 と述べている. また 「児童家庭相談体制の今後の方向」 では, 「児童相談所は, 保護者が相談や介入を希望 していないにもかかわらず児童の福祉を図るため介入を必要とされる事例, たとえば児童虐待や 非行事例などに中心的に対応する権利養護サービスとしての機能を中心的に果たす機関として, その役割を限定していく方向が提示される」 と述べている. 柏女が 「①サービス利用のあり方に関する事項」 で言うように 「児童家庭福祉サービス利用方 式」 を, 保育の実施方式 (場合によっては支援費支給方式も考慮), 職権保護方式, 司法決定方 式の三類型に分化することで, 「児童本人や保護者がサービスを選択」 できるようになるのであ ろうか. その保証は明示的ではない. 保育の実施方式や支援費支給方式の場合も選択を可能とす るためには, 社会資源が十分整備されていることと利用者・市民が適切な社会資源に結びつくた めの専門的判断・援助機能が前提となるであろう. また, 職権保護方式と司法決定方式について も, それぞれの方式が必要となる具体的な場合 (サービスの内容・範囲) が明示されておらず, 有効性の判断が難しいように思う. いずれにしても, この三類型は, サービス利用方式の類型 (サービスの供給方式の類型) とい うよりはむしろ, サービス (相談援助方法あるいはソーシャルワーク) の三段階 (つまり任意相
談段階, 職権保護段階, 司法決定段階と各移行段階) と理解する方が自然であろう. このように 理解すると, 児童相談所のあり方として, 「保護者が相談や介入を希望していないにもかかわら ず児童の福祉を図るため介入を必要とされる事例」 に 「その役割を限定していく」 ことが可能 (あるいは適切) なのか, という疑問がわいてくる. また, 上記の三段階 (あるいは三類型) 論 が有効に機能するためには, 個別の事例に対して, 総合的視点から継続して関わり, 必要な援助 段階を判断し, 各段階の橋渡しを含めた相談援助活動を進める機関が必要になるであろう. 誰 (どの機関) がそれを担うのであろうか. 結局, 児童相談所のような包括的な相談援助機関が必 要になるのではなかろうかと思う. その他柏女の提起には詳しい検討が必要な論点が少なくない と思う. 京極高宣は, その著書 児童福祉の課題 (2002 年) の第 3 部第 3 章 「児童福祉施設の体 系について」 で, 児童相談所に関わって次のような見解を提示している. 「さて児童相談所がどうあるべきか. 私は既にみた第 1 章の経過をふまえると当然ながら児童 相談所の機能を全面的に否定するのは間違っている. 児童の総合的な専門的判定だとかを相談す る機能というのは従来通りであって当然だし, いくつかの県で行われているように必要に応じて 更生相談所等と連携してより機能強化をすべきである. (中略) そうすると市町村の中にも, 児 童相談所だけを頼りにしないですむような児童家庭相談室的機能をもう少し強くしなくてはいけ ない. 児童相談所はある面では, 措置の権限はいたずらに死守するのではなく, バックアップの専門 的機能は強化するというふうに, 割り切っる(ママ)べきではないか. 特に障害児の問題に関しては 児童相談所専門的な支援機能に期待するところは大なので, そうしないと最終責任を市町村に置 くのは難しいのは当然である. 児童相談所の専門的機能を重視し, 措置利用としての役割をあえ てはずせば, 当然ながら同様の県や政令都市の更生相談所との統合も必然的になってくる.」 京極の所説は, 筆者の理解では, 児童相談所を専門的判定相談機関とし, 更生相談所との統合 を図り, 措置権限・措置事務は市町村に委譲し, 児童相談所そのものは専門的判定相談機能によっ て市町村をバックアップする機関となる, というものである. このままの構想が実現するならば, 児童相談所はすっかり変貌し, 措置機能は市町村に分散委 譲されることになる. 京極は, 同じ著書の第 3 部第 2 章 「児童養護施設の課題と方向」 で, 「児 童養護施設を利用する時の 1 つのパターンとして, 第 1 に契約で入る場合や親が親権を外されて 子どもが選んで入る場合があり, 第 2 に行政が緊急事態で措置とする場合がある. 後者はいわゆ る措置の典型例であって, 部分的には措置は有効に機能する. しかし施設全体を措置制度として やるのが子どものために良いということは決して言えないというのが私の持論である」 と述べ, さらに 「今やサービス供給体制の地方分権化に関しては, 障害福祉行政に続いて児童福祉行政に おいても市町村を実施主体とし, 都道府県が専門的な後方支援を行う体制を確立していく時代状 況に来ている」 とも述べている. 京極は, 別の論文 (「児童養護改革の方向」 2002 年) では次のように述べている.
「将来的には, 市町村 (これは町村合併も含みに入れて) が児童福祉行政の責任ある対応をす る方向性を確認することが重要である. /もちろん, そうすると児童相談所がなくなって, やる ことがないのじゃないかという心配もあって, 抵抗勢力の反対も強いものがあろう.」 このように京極は, 町村合併をも視野に入れて, 児童相談所の市町村委譲を提唱している. こ れに反対するのは 「抵抗勢力」 であるという表現も見える. しかし市町村合併問題は, 今渦中の 争点であり, 議論が十分熟しているとは言えないと思う. 筆者は, 市町村合併問題の到達点が見 えていない中での児童相談所市町村委譲論には危惧を覚える. 京極は, 「行政が緊急事態で措置とする場合」 を 「いわゆる措置の典型例」 としているが, こ れは児童福祉の措置制度を狭く理解し, 措置制度の積極面を軽視しているように思われる. しか し, 実際には措置制度は, 長年に渡り改善が積み重ねられ, 児童福祉法を前提とし, 保護者や子 どもの意向も尊重して運用されてきた. 筆者は, 児童福祉の 「措置」 は京極が言うよりは, 広範 で豊富な機能を有していると理解している (詳しくは5 参照). また京極は, 現行の児童相談所 の役割を低く評価しているようである. しかし, 児童相談所は, 地域対応をする上で不十分な 182 か所 (2003 年 5 月) という設置状況であるにもかかわらず, 地域の児童福祉の第 1 線機関と して, それぞれの時代の要請に応えて, 現在では児童虐待対応に, 過去には (もちろん現在にも 引き継がれているが) , 障害児問題, 非行問題, 不登校問題に, 大きな役割を果たしてきたと言 うべきであろう. 京極の主張のように児童相談所の措置権限・措置事務を市町村に委譲するなら ば, その先に, 措置制度そのものが限定的制度に縮小される道が見えてくると言えよう. 児童相 談所機能を市町村に委譲しても市町村がそれを担いきれず, 結局児童相談機能の縮小が待ってい ることも懸念される. 才村純 (主任研究者) 他は, 「児童相談の実施体制に関する市町村調査」 ( 平成 15 年度全 国児童相談所長会議資料 2003 年 6 月所収) において, 児童相談所のあり方についても具体的 な提言をしている. この論文は, 全国の中核市, 特別区, その他の市 (政令市を除く) を対象 (計 687 ヶ所) に, 「相談支援の現状およびこれからの相談支援体制のあり方等に関する質問紙を郵送し, 平成 15 年 2 月 28 日を期限として回答を求めた」 調査結果を踏まえ, 現状分析と 「より効果的な児童相談 体制のあり方について提言」 したものである. 回収数は 496 で, 内訳は, 「中核市」 31, 「特別区」 12, 「その他の市」 453 (つまり, この調査の回答の大部分 91.3%は 「その他の市」 からのもの であり, 中核市は 6.25%, 特別区は 2.42%にすぎない−筆者注①) であり, 全てが有効票で, 有効回収率は 72.2%であったという. 以下児童相談所の基本的なあり方に関する部分を引用す る. まず 「Ⅱ 調査の結果」 から重要と思われる部分を紹介する. 「10− 児童相談体制改善の必要性の有無 児童相談所を中心とした現行児童相談体制のあり方について尋ねたところ, 現状のままでよ い 357 (72.0%), 改善した方がよい 116 (23.4%), 分からない 19 (3.8%) という結果で
あり, 現状維持でよいという認識を持っている自治体が多かった. ただし, 自治体種別ごとにみ ると, 現状のままでよい と回答したのは, その他の市 339 (74.8%) であったの対し, 中核 市 16 (51.6%), 特別区 2 (16.7%) となっており, 改善した方がよい と回答したのは, その 他の市では 20.5%にとどまっているのに対し, 中核市 15 (48.4%), 特別区 8 (66.7%) と, 人 口規模の大きい自治体では改善に肯定的な意見も多くなっている. (しかし中核市・特別区合わ せても 「改善した方がよい」 の回答数は, 23 件であり, 全回答数 496 の 4.6%にすぎない−筆者 注②)」 (下線筆者) 「10− 委譲の範囲 改善した方がよい (23.4%−筆者注③) と回答した自治体に対して, どのように改善すべき かについて尋ねたところ, 児童相談所の全機能を市町村に委譲し, 市町村が全ての相談に対応 する と答えた自治体が 7 (6.0%) に止まっているのに対し, 児童相談所の一部機能を市町村 に委譲し, 児童相談所が行っている相談の一部を市町村が対応する 76 (65.5%) (これは, 全 回答数 496 の 15.3%である−筆者注④), その他 25 (21.6%) となっており, 児童相談所の全 ての機能や相談ではなく, あくまで一部を市町村で対応するべきとする自治体が多くなっている.」 以上の才村他の調査結果を明示的にし, 筆者の見解と照合するために才村他の論文に示されて いる表の中から 「表 13 現行の児童相談体制のあり方について」 の趣旨を紹介する (本稿では, この内容を 「表 13 (才村)」 と略す). さてこの論文の 「Ⅲ 考察」 の 「3 今後の児童相談体制のあり方と課題」 では 「今後の児童相 以上の統計 「表 13 (才村)」 では, 各調査対象自治体等の区分 (例えば中核市) ごとに百分比 が算出されている (分母は, 合計欄に示される各自治体等の数). 全 体 (数値は実数および%) 現状のままでよい 改善した方がよい わからない 無回答 合 計 357 (72.0) 116 (23.4) 19 (3.8) 4 (0.8) 496 (100.0) 中核市 (数値は実数および%) 現状のままでよい 改善した方がよい わからない 無回答 合 計 16 (51.6) 15 (48.4) 0 (0.0) 0 (0.0) 31 (100.0) 特別区 (数値は実数および%) 現状のままでよい 改善した方がよい わからない 無回答 合 計 2 (16.7) 8 (66.7) 2 (16.7) 0 (0.0) 12 (100.0) その他の市 (数値は実数および%) 現状のままでよい 改善した方がよい わからない 無回答 合 計 339 (74.8) 93 (20.5) 17 (3.8) 4 (0.9) 453 (100.0)
談体制について提言を試みる」 として次のような点に言及している. 「3− 相談・支援業務は基本的に市町村事務として位置づける」 では, 「基本的に相談・支 援事業は市町村事務として位置づける」 として, 具体的な相談内容として, ①障害相談, ②子育 て不安等の相談, ③養護相談, ④育成相談, ⑤保健相談, などが列挙されている. その際の都道 府県 (児童相談所) の役割については, 次のようにまとめられている. 「都道府県 (児童相談所) は, より高度な専門性, 法的対応, 効率性が求められる相談種別に 対応することとする. 具体的には, 児童福祉法第 25 条の通告対象となる虐待相談や非行相談に 対応する.」 「3− 都道府県等との機能分担」 では, 「心理・医学的判定機能の確保や一時保護所の設置 を各市町村で行うのは, 効率性の観点から現実的でないといえる. したがって, これらを都道府 県 (児童相談所) 又は児童家庭支援センター等の児童福祉施設等に委託することも検討されるべ きであろう. (以下略)」 やや長い引用になったが, この提言は今後重要な意味を持つであろうと思い, あえて引用した. 以下, 筆者の視点からこの論文の問題点について簡潔かつ部分的にふれる. この論文の調査では, 回答は大部分 (9 割強) が 「その他の市」 からのものである (筆者注① 参照). また, 児童相談所を中心とした現行児童相談体制のあり方については, 「現状のままでよ い」 との回答が大多数の市区 (7 割強) から得られている. 「改善した方がよい」 (116 件, 全回 答数 496 件の 23.4%) については, 「人口規模の大きい自治体では改善に肯定的な意見も多くなっ ている」 と指摘されているが, 116 件の回答の内 93 件 (80.2%) は, 「その他の市」 からのもの であり, 中核市・特別区の肯定的回答は合算しても 23 件であり, 116 件の回答数の 19.8%であ る. これは全回答数 496 のわずか 4.6%にすぎない (筆者注②参照). 統計的にそれほど強い数 値ではなかろう. また, 「改善した方がよい」 の回答の内 「児童相談所の一部機能を市町村に委譲し, 児童相談 所が行っている相談の一部を市町村が対応する」 との回答は, 全回答数 496 の 2 割に満たない割 合 (76 件, 15.3%) であり, 76 件のうち 60 件 (78.9%) は 「その他の市」 からの回答である (筆者注④参照). 「一部機能の市町村委譲」 を肯定する回答の 8 割は 「その他の市」 からのもの である. これらがこの調査の全体像からみた児童相談体制 (特に児童相談所のあり方) に関係する基本 的結果である. 以上の内容を視覚的にも分かりやすくするために簡単な表 (表 3) を示す. 統計 の取り方を回答全数 (496 件) を基準にしている. 統計量の大半が 「その他の市」 (453 か所, 回 答全数の 91.3%) の回答によることが鮮明に分かるであろう. 読者において, 表 13 (才村) と 表 3 を比較検討していただきたい. 以上の検討を踏まえ, 筆者は, 少なくともこの調査結果の全体像から, 「Ⅲ−3 今後の児童相 談体制のあり方と課題」 に示される 「基本的に相談・支援事業は市町村事務として位置づける」, 「都道府県 (児童相談所) は, (中略) 具体的には, 児童福祉法第 25 条の通告対象となる虐待相
談や非行相談に対応する」 等の結論を導き出すのは不自然であると考える. 調査に回答した市の 大半はそのようには考えていないからである. 筆者の理解では, この論文の結論とは異なり, 上記調査の全体像から第一義的に引き出される 結論は, 現行児童相談体制の基本形態を維持することを前提とし, 都道府県 (児童相談所) と市 町村の連携の強化を含む児童相談体制の充実・強化を行うことである. この調査では, 「人口規模の大きい自治体では改善に肯定的な意見も多くなっている」 という 結果は出ているものの, この調査の回答者の 9 割強が 「その他の市」 であり, 中核市・特別区を 中心にした調査ではない. 中核市・特別区は全回答数からすれば少数部分である. このような 「調査設計」 からしても, 調査回答者の 9 割強を占める 「その他の市」 の回答 (見解) を重視す るということが 「調査結果の自然な解釈の仕方」 ではなかろうか. そうでなければ, 読者に, 調 査結果の全体像とはいささか異なる結論 (提言) が導き出されているとの印象を与えかねないで あろう. なおこの種の調査の多くに共通する問題でもあるが, 上記調査でも, 調査に 「誰がどのように 答えたのか」 という問題が明示的でない. 例えば, 「ある市の回答 (見解)」 とされるものは, 市 の統一見解か, 一部部局の見解か, 一部担当者の見解かが判然としない. 今後この種の調査にお いては (個人に対する意識調査などと異なり), 「回答者あるいは回答方式 (例えば機関としての 決済を経たもの)」 を指定するのかどうかという課題が浮上するであろう. この様な限定を付す ならばこの種の調査は格段に困難度を増すであろう (回収率も相当低下するであろう) が, 回答 表 3 「市町村調査」 の児童相談体制に関する回答の全体像を理解するための略表 全 体 中核市 特別区 その他の市 実数 % 実数 % 実数 % 実数 % ①現状のままでよい 357 72.0 16 3.2 2 0.4 339 68.8 ②改善した方がよい* 116 23.4 15 3.0 8 1.6 93 18.8 ③ (②の内訳) 一部児相機能の市町村委譲** (76) (15.3) (11) (2.2) (5) (1.0) (60) (12.1) ④ (②の内訳) 全機能を市町村に委譲*** (7) (1.4) (4) (0.8) (0) (0.0) (3) (0.6) ⑤わからない 19 3.8 0 0.0 2 0.4 17 3.4 ⑥無回答 4 0.8 0 0.0 0 0.0 4 0.8 ⑦合計 496 100.0 31 6.3 12 2.4 453 91.3 注) 才村純他 「児童相談の実施体制に関する市町村調査」 より筆者作成. 百分比の分母を全て全回答数 496 件にしている. *, **, *** ③ 「一部児相機能の市町村委譲」 は, 「児童相談所の一部機能を市町村に委譲し, 児童相談所が行っている相 談の一部を市町村が対応する」 の省略表現である. この表からは, 中核市・特別区を合わせた 「改善した方がよい」 とい う回答は, 全回答数 496 件の 4.6%にすぎないことが分かる. 同じく, 「一部児相機能の市町村委譲」 という回答は, 全回 答の 3.2%にすぎないことが分かる. なお, ④ 「児童相談所の全機能を市町村に委譲し, 市町村が全ての相談に対応す る (「全機能を市町村に委譲」 と略した)」 という回答は 7 件だけであり, 全回答数 496 件の 1.4%と少数である. なお② の内訳−下位項目−の 「その他」 「無回答」 は割愛した.
者の政策判断 (決定) および調査者の政策提言に関わる (ひいていは国民生活に影響する可能性 がある) ような調査には, そのような厳しさがあってもよいのではなかろうか. 一般論でもある があえてこの問題を付記する. 3) 市町村合併と児童相談所設置の問題 なおここで児童相談所論においてしばしば登場する市町村合併問題についてその論点を提示す る. 関連する課題として中核市における児童相談所設置問題については3−2) を参照されたい. 「市町村合併で何が問われているのか」 という問に対して, 渡名喜庸安と白藤博行は次のよう に答えている (室井力編:2002 年). 「①今なぜ市町村合併なのか, その背景やねらいは何か, ②今日の市町村合併論において地方 自治体はどのように位置づけられ, どのような方向へと発展させられようとしているのか, それ は果たして住民自治を中核的要素とする地方自治の充実・強化に資するものであるのか, ③市町 村合併を 推進 するための法構造や手法は現行法下で適正で妥当なものであるのか, ④市町村 合併は政府が述べるように地域の自立や活性化に資するものであるのか, などである.」 また, 現在進められている市町村合併の 「自治体・住民にとっての問題点は何か」 という問に 対して, 保母武彦 (2002 年) は次のように答えている (ここでは保母が指摘する項目だけ列挙 する). 「合併推進方法が極めて集権的, 強権的/合併で住民の声が届きにくくなる地方自治/新しい 自治体内部に施設・サービスの地域格差/きめ細かなサービスが困難に/合併の財政措置が終わ れば, 地方財政は地獄」 上記の指摘を保母の書の本文に当たって通読すれば, 市町村合併が明るい未来のみをもたらす ものではないことが痛感される. この問題に関しては, 「 市町村合併をしない矢祭町宣言 の決議」 (2001 年 10 月 31 日−保母 の書に収録されている) に, 「国は 市町村合併特例法 を盾に, 平成 17 年 3 月 31 日までに現 在ある全国 3,239 市町村を 1,000 から 800 に, さらには 300 にする 平成の大合併 を進めよう としております. 国の目的は, 小規模自治体をなくし, 国家財政で大きな比重を占める交付金・ 補助金を削減し, 国の財政再建に役立てようとする意図が明確であります」 との指摘がある. また, 全国町村会・全国町村議会議長会共催 「町村自治確立総決起大会」 (2003 年 2 月 25 日, 東京) で採択された決議には, 国への要請事項として次の 2 項目が掲げられている. 「一, 合併の強制や, 人口が一定規模に満たない町村の権限を制限・縮小したり, 他の自治体 へ編入することは, 絶対に行わないこと. /一, 税源移譲等により, 町村税財源の充実確保をは かるとともに, 地方交付税の持つ財政調整機能, 財源保障機能を絶対堅持し, 必要な総額を確保 すること.」 このようなごく部分的な紹介からも市町村合併が持つ問題の大きさ・深さが明らかになる. 市 町村合併は既成事実あるいは決着済みの問題ではなく, 大きな争点であり続けていることが分か