児童期における漢字書字正確性に関する神経心理学
的検討 −学力や視覚情報処理能力との関係性の観
点から−
著者
荻布 優子
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第18992号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00128193
博 士 論 文
児 童 期 に お け る 漢 字 書 字 正 確 性 に 関 す る 神 経 心 理 学 的 検 討
― 学 力 や 視 覚 情 報 処 理 能 力 と の 関 係 性 の 観 点 か ら ―
目 次 第 Ⅰ 部 問 題 の 所 在 と 本 研 究 の 目 的 第 1 章 読 み 書 き 能 力 と 学 力 の 関 連 ... 1 第 1 節 読 み 書 き 能 力 の 獲 得 と 発 達 経 過 ... 1 第 2 節 読 み 書 き の 特 異 的 な 障 害 ... 2 第 3 節 読 み 書 き と 学 力 の 関 係 ... 6 第 4 節 読 み 書 き 能 力 の 評 価 法 ... 10 第 2 章 読 み 書 き 能 力 と 認 知 機 能 と の 関 連 ... 16 第 1 節 読 み 書 き の 獲 得 に 必 要 と な る 機 能 ... 16 第 2 節 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 背 景 要 因 ① 音 韻 処 理 能 力 ... 17 第 3 節 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 背 景 要 因 ② 視 覚 情 報 処 理 能 力 .. 18 第 3 章 本 研 究 で 明 ら か に す る こ と ... 22 第 1 節 漢 字 書 字 正 確 性 と 学 習 の 関 係 に つ い て ... 22 第 2 節 読 み 書 き 能 力 と 視 覚 情 報 処 理 能 力 の 関 係 に つ い て ... 24 第 3 節 漢 字 読 み 書 き 正 確 性 の 評 価 方 法 に つ い て ... 25 第 4 節 目 的 と 意 義 ... 26 第 Ⅱ 部 漢 字 書 字 正 確 性 ・ 学 力 ・ 視 覚 情 報 処 理 能 力 の 評 価 方 法 と そ の 関 係 に 関 す る 調 査 研 究 第 4 章 読 み 書 き 能 力 が 学 力 に 及 ぼ す 影 響 ... 30 第 1 節 目 的 ... 30 第 2 節 方 法 ... 31 第 3 節 結 果 ... 32 第 4 節 考 察 ... 40 第 5 節 ま と め と 課 題 ... 42 第 5 章 児 童 に お け る 視 覚 情 報 処 理 能 力 の 評 価 方 法 の 検 討 ―Ray-Osterrieth Complex Figure Test の 再 構 築 ― ... 43
第 1 節 目 的 ... 43
第 3 節 結 果 ... 47
第 4 節 考 察 ... 54
第 5 節 ま と め ... 56
第 6 章 児 童 に お け る 視 覚 情 報 処 理 能 力 と 書 字 正 確 性 の 関 係 ―Ray-Osterrieth Complex Figure Test を 用 い て ― ... 57
第 1 節 目 的 ... 57 第 2 節 方 法 ... 58 第 3 節 結 果 ... 59 第 4 節 考 察 ... 66 第 5 節 ま と め と 課 題 ... 70 第 7 章 学 力 を 予 測 す る 漢 字 読 み 書 き 正 確 性 指 標 の 作 成 ... 71 第 1 節 目 的 ... 71 第 2 節 方 法 ... 71 第 3 節 結 果 ... 73 第 4 節 考 察 ... 83 第 Ⅲ 部 総 括 第 8 章 総 合 考 察 ... 87 第 1 節 本 研 究 で 明 ら か に な っ た こ と ... 87 第 2 節 本 研 究 の 成 果 が 研 究 及 び 臨 床 応 用 に 与 え る 影 響 ... 90 第 3 節 本 研 究 の 限 界 点 と 今 後 の 展 望 ... 94 引 用 文 献 論 文 初 出 一 覧 付 記 謝 辞
第 Ⅰ 部
1 第 1 章 読 み 書 き 能 力 と 学 力 の 関 連 本 研 究 で は 児 童 の 読 み 書 き 能 力 を 中 心 に 据 え 、 読 み 書 き 能 力 の 基 盤 と な る 認 知 機 能 、 読 み 書 き を 活 用 し た 結 果 で あ る 学 習 と の 接 点 に つ い て 、 読 み 書 き の 特 異 的 な 障 害 で あ る 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア で 蓄 積 さ れ た 知 見 を 手 掛 か り に 論 じ る 。 ま た 特 に 日 本 語 に 特 徴 的 で あ る 漢 字 に 着 目 す る 。 ま ず 本 章 で は 、 本 研 究 で 扱 わ れ る 読 み 書 き 能 力 お よ び 学 力 に つ い て 概 観 す る 。 第 1 節 読 み 書 き 能 力 の 獲 得 と 発 達 経 過 1. 読 み 書 き の 発 達 過 程 読 み や 書 き の 行 為 の 芽 生 え は 2-3 歳 ご ろ か ら 観 察 さ れ る 。 絵 本 の ペ ー ジ を め く り な が ら ス ト ー リ ー を 話 し あ た か も 音 読 し て い る か の よ う に ふ る ま っ た り 、 自 分 の 名 前 や 年 齢 を 言 い な が ら 線 を 組 み 合 わ せ て 文 字 の よ う な 形 態 の も の を 描 き 大 人 に 見 せ る な ど か ら 始 ま る 。 次 第 に 、 自 分 の 名 前 の 文 字 列 は 判 別 で き る 、 と い う よ う に 文 字 を ひ と か た ま り の 記 号 と し て 理 解 し て い く 。 こ の 時 期 の 文 字 は 、 単 語 一 つ 一 つ が シ ン ボ ル と し て 機 能 し て い る 。 ま た 大 人 に 絵 本 を 読 ん で も ら う 、 な ど 「 楽 し み を 与 え ら れ る 」 時 に 存 在 し て い る 。 年 長 ご ろ に な る と 、 一 文 字 ず つ の 音 読 が 可 能 に な る 児 が 増 え て く る 。 「 ひ ら が な を 一 文 字 ず つ 音 に 変 換 す る 」 こ と 自 体 が こ の 時 期 の 文 字 に 触 れ る 目 的 で あ り 、 遊 び に な る 。 こ の 時 期 の 音 読 に 内 容 の 理 解 ま で は あ ま り 求 め ら れ て は い な い 。 読 み 書 き は 初 期 に は 発 達 の 中 で 自 然 と 興 味 関 心 が 向 き 獲 得 さ れ て い く 側 面 も あ る が 、 就 学 以 降 は 学 習 指 導 要 領 に お い て 学 年 配 当 漢 字 が 定 め ら れ て い る よ う に 、 年 齢 に 応 じ 計 画 的 に 教 授 さ れ 、 ま た 習 得 す る こ と が 求 め ら れ て い る 水 準 が 存 在 し て い る 。 2. 日 本 語 読 み 書 き の 習 得 戦 後 、 現 行 の 9 年 制 の 義 務 教 育 と な っ て 以 降 の 児 童 を 対 象 と し た 読 み 書 き の 調 査 は 、 筆 者 の 知 り う る 限 り で は 国 立 国 語 研 究 所 が 1953 年 4 月 に 着 手 し た 「 言 語 能 力 の 発 達 に 関 す る 調 査 研 究 」 で あ る 。 こ の 第 一 次 中 間 報 告 に よ る と 、小 学 校 入 学 当 初 の ひ ら が な 清 音 は 東 京 で 平 均 30.0 文 字 、
2 農 村 部 で は 平 均 28.8 文 字 、た だ し 相 当 数 音 読 が 可 能 な 児 童 と ほ ぼ 音 読 不 可 能 な 児 童 が 二 極 化 し て 存 在 し た と さ れ て い る( 国 立 国 語 研 究 所 ,1954)。 そ の 後 、 絵 本 や テ レ ビ の 普 及 な ど 幼 児 の 生 活 環 境 が 大 き く 変 化 し た こ と に と も な い 幼 児 の 言 語 活 動 も 変 形 し た こ と に 応 じ 、1967 年 よ り 再 度 国 立 国 語 研 究 所 に よ り 幼 児 を 対 象 に 読 み 書 き 能 力 の 調 査 が 実 施 さ れ た (1972 )。 こ の 報 告 で は 、 年 長 児 の う ち ま っ た く 音 読 が で き な い の は 1.1% に と ど ま り 、清 音 、撥 音 、濁 音 、半 濁 音 71 文 字 に お け る 読 字 は 53 文 字(74.6% )、書 字 は 26 文 字( 36.6% )で あ っ た 。そ の 後 1988 に は 島 村 が 追 試 を 行 い 、も っ と も 新 し い 追 試 は 2018 年 の 太 田 ら の 報 告 で あ る 。 太 田 ら の 調 査 で は 、 読 字 は 平 均 64.9 文 字 ( 91.4% )、 書 字 は 43.0 文 字 (60.6% ) で あ り 、 村 石 ら ( 1972) の 報 告 か ら は 伸 び を 認 め て い る 。 特 に 清 音 、 撥 音 に 限 定 す る と 読 字 は 43.3 文 字 ( 94.3% )、 書 字 30.5 文 字 (66.3% ) で あ り 、 就 学 前 に は ほ ぼ ひ ら が な 清 音 の 読 み が ほ ぼ 完 成 し 、 書 字 も 6 割 程 度 可 能 と な っ て い る 。 カ タ カ ナ に つ い て は 2009 年 の 野 口 の 報 告 が あ る 。こ の 報 告 で は 小 学 3 年 生 で カ タ カ ナ 清 音 の 書 字 が 43〜 45 文 字 可 能 と な り ほ ぼ 完 成 し て い る 児 童 が 94.2% で あ っ た 。 漢 字 の 読 み 書 き は 、日 本 教 科 書 文 化 研 究 財 団(2000)、国 立 教 育 政 策 研 究 所 教 育 課 程 研 究 セ ン タ ー(2006)、総 合 初 等 教 育 研 究 所( 2014)等 が 学 年 配 当 漢 字 の 読 み 書 き の 習 得 状 況 に つ い て 調 査 を 行 っ て い る 。 日 本 教 科 書 文 化 研 究 財 団(2000)で は 小 学 1〜 6 年 生 を 対 象 に 小 学 校・学 年 別 配 当 漢 字 1006 文 字 の す べ て の 音 訓 読 み に つ い て 、 読 み 書 き 双 方 の 習 得 度 を 調 査 し て い る 。 そ の 結 果 、 読 み の 平 均 習 得 率 は 各 学 年 と も 80% を 超 え 、 ど の 学 年 で も 学 年 配 当 漢 字 の 大 部 分 を 読 む こ と が で き る が 、 書 き の 平 均 習 得 率 は 読 み よ り も 低 く 、2 年 生 で 80% 、 3 年 生 で は 70% 、 4 年 生 を 境 に し て そ れ 以 降 は 60 % 台 と な り 、 学 年 が 上 が る に つ れ て 漢 字 を 書 く 習 得 率 は 低 下 し て い っ た 。 つ ま り 学 年 が 上 が る に つ れ て 読 み と 書 き の 習 得 度 の 乖 離 が 広 が っ て い た 。 上 記 の よ う に 、 読 み 書 き の 発 達 は ひ ら が な ・ カ タ カ ナ ・ 漢 字 の 文 字 種 ご と に 、 特 定 の あ る 時 点 で の 習 得 率 を 調 査 さ れ る こ と が 一 般 的 で あ る 。 第 2 節 読 み 書 き の 特 異 的 な 障 害 1 . 特 異 的 な 読 み 書 き の 障 害 の 定 義 と そ の 変 遷 古 典 的 な 「 発 達 障 害 」 と は 知 的 障 害 と ほ ぼ 同 義 で あ り 、 現 在 の い わ ゆ
3 る 「 発 達 障 害 」 の 概 念 は 、1960 年 代 に 微 細 脳 機 能 障 害 ( Minimal Brain Dysfunction: MBD) の 概 念 が 小 児 神 経 学 に 導 入 さ れ た こ と に 始 ま る 。 MBD と は 、知 的 水 準 は 正 常 域 に あ る が 軽 微 な 脳 損 傷 や 脳 機 能 の 不 具 合 に よ っ て 学 習 障 害(Learning Disability:LD)や 行 動 異 常 が 生 じ て い る 状 態 象 を さ す 。MBD に 包 括 さ れ る 行 動 特 徴 を 持 つ 児 は 、精 神 障 害 の 診 断 と 統 計 マ ニ ュ ア ル ( Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, DSM)に お い て 医 学 的 診 断 が 整 理 さ れ 、そ の 基 準 は 何 度 も 見 直 さ れ て き た 。 次 第 に MBD の 中 核 症 状 の 一 つ か ら 独 立 し た 病 態 と し て 扱 わ れ る よ う に な っ た 学 習 障 害 は 、DSM-Ⅲ -R( 1988)に お い て 学 習 能 力 障 害(Academic Skill Disorders)と し て 定 義 さ れ た 。DSM-Ⅳ -TR( 2004) で は 学 習 障 害 (Learning Disability) と 名 称 を 変 え 、 算 数 障 害 、 読 字 障 害 、書 字 表 出 障 害 、特 定 不 能 の 学 習 障 害 に 細 分 さ れ た 。DSM-Ⅴ( 2014) で は DSM-Ⅳ の 下 位 分 類 は 廃 止 さ れ 、 限 局 性 学 習 症 ( Specific Learning Disorder:SLD)に 統 一 さ れ た 。診 断 基 準 は 読 字・読 解・綴 り 字・書 字 表 出 ・ 数 概 念 や 計 算 ・ 数 学 的 推 論 の 少 な く と も 一 つ の 困 難 さ が 存 在 し 、 少 な く と も 6 か 月 以 上 持 続 し て い る こ と で あ る 。 ま た 読 字 に 特 化 し た 困 難 さ と し て 「 デ ィ ス レ ク シ ア 」 の 文 言 が 初 め て 明 記 さ れ た 。 2. 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア と は 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア (Develpmental Dyslexia) と は 、「 神 経 生 物 学 的 原 因 に 起 因 す る 特 異 的 学 習 障 害 で あ る 。 そ の 特 徴 は 、 正 確 か つ ( ま た は ) 流 暢 な 単 語 認 識 の 困 難 さ で あ り 、 綴 り や 文 字 記 号 音 声 化 の 拙 劣 さ で あ る 。 こ う し た 困 難 さ は 、 典 型 的 に は 、 言 語 の 音 韻 的 要 素 の 障 害 に よ る も の で あ り 、 し ば し ば 他 の 認 知 能 力 か ら は 予 測 で き な い も の で あ り 、 ま た 、 通 常 の 授 業 も 効 果 的 で は な い 。」( 国 際 デ ィ ス レ ク シ ア 協 会 ,2003) と さ れ て い る 。 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 報 告 が 最 初 に な さ れ た の は 1896 年 の 英 国 に 遡 る 。 こ れ は MBD の 概 念 が 提 唱 さ れ る よ り も 早 く 、 古 く か ら 特 異 的 な 読 み 書 き の 障 害 は 医 学 的 な 疾 患 の 一 群 と し て 扱 わ れ て き て い る こ と を 示 し て い る 。 元 来 デ ィ ス レ ク シ ア と い う 用 語 は 後 天 的 な 脳 損 傷 に 起 因 す る 読 み 障 害 ( 失 読 症 ) を 指 す が 、 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア は 後 天 的 な 障 害 が な く し て 生 じ る 読 み 障 害 で あ る 。「 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア は 読 み 単 独 の 障 害 で あ り 別 途 書 き 障 害 を 伴 う こ と が 多 い 」 と す る 考 え 方 も か つ て は 存 在 し て い た が 、 発 達 期 に お い て は 発 達 の 順 序 性 を 鑑 み る と 読 字 に 問 題 が あ れ ば 書 字 に も 問 題 を 抱 え る こ と は 明 ら か で あ る た め 、 本 邦 で は 発 達 性 読
4 み 書 き 障 害 と も 称 さ れ て い る 。 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 定 義 は 万 国 共 通 で あ る が 、 出 現 頻 度 は 各 言 語 で 使 用 さ れ る 文 字 の 構 造 の 違 い に よ っ て 異 な る こ と が 知 ら れ て い る 。 英 語 圏 で は 出 現 率 は 5.3~ 11.8% や 5~ 8.3% と い っ た 報 告 が あ り( Katusic, 2001) 出 現 頻 度 は 比 較 的 高 く , イ タ リ ア 語 で 1.34% ( Faglioni,1969)、 ア ラ ビ ア 語 2.9%( Farrag,1988)、中 国 語 で は 3.9%( Zhao Sun,2013)、 と い っ た 報 告 が あ る 。 本 邦 で の 出 現 頻 度 は 、 ひ ら が な の 読 み 流 暢 性 に 注 目 す る と 稲 垣 ら (2010) の 1.8%、 小 枝 ら ( 2011) の 1.4% 、 関 ( 2015) の 2.1%と い っ た 報 告 が 存 在 す る 。読 み 書 き の 正 確 性 に 注 目 す る と 、Uno et al.( 2009) の 報 告 で は 、 読 み で ひ ら が な 0.2% 、 カ タ カ ナ 1.2% 、 漢 字 6.7% 、 書 き は ひ ら が な 1.2% 、 カ タ カ ナ 2.1% 、 漢 字 6.0% で あ る 。 読 み 書 き の ど の 側 面 に 注 目 す る か 、 ど の 指 標 を 用 い る か 、 対 象 児 の 年 齢 や 知 的 発 達 水 準 を ど う 設 定 す る か に よ っ て 、 出 現 頻 度 は 報 告 に よ っ て ば ら つ き が で る 。 出 現 率 も 異 な る よ う に 日 本 語 の 特 徴 と し て 文 字 種 が ひ ら が な 、カ タ カ ナ 、 漢 字 、 と 複 数 存 在 す る こ と か ら 、 そ れ ぞ れ に つ い て 分 け て 評 価 す る こ と は 必 要 と 考 え ら れ る 。同 じ 漢 字 を 用 い る 中 国 語 と も 出 現 頻 度 が 異 な る が 、 中 国 語 は 漢 字 一 文 字 に 対 し て 読 み 方 の 対 応 が 一 通 り で あ る が 、 日 本 語 は 音 読 み と 訓 読 み 、 特 殊 読 み な ど 複 数 の 読 み 方 の バ リ エ ー シ ョ ン が あ る 、 と い う 違 い が あ る ( 林 ら ,2015) こ と か ら 、 日 本 語 と 中 国 語 の 間 に も 出 現 頻 度 の 違 い が 生 じ て い る と 考 え ら れ る 。 3. 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 病 理 的 背 景 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 脳 病 変 に 関 わ る 報 告 は 少 な く な い 。 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア は Hier( 1978)の CT 所 見 の 報 告 に お い て 頭 頂 後 頭 葉 の 左 右 差 が 少 な く 、ま た Galaburda et al( 1985)の 剖 検 例 お い て も 側 頭 平 面 に 左 右 差 が 認 め ら れ ず 対 照 的 で あ る と 報 告 さ れ て い る 。 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア は シ ル ビ ウ ス 裂 周 辺 領 域 に ectopias が 多 発 す る 。通 常 左 半 球 が 大 き い 側 頭 平 面 は 言 語 音 に 関 与 し 、 シ ル ビ ウ ス 裂 周 辺 領 域 は 音 韻 情 報 処 理 に 関 与 し て い る と さ れ て い る 。 ま た 近 年 で は 、 左 下 頭 頂 小 葉 、 左 中 側 頭 回 、 左 下 前 頭 回 な ど の 皮 質 容 量 に 異 常 を 認 め る こ と も 報 告 さ れ て い る 。 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 大 脳 機 能 の 低 下 部 位 を 測 定 す る 研 究 も 盛 ん に 行 わ れ て お り 、PET( Positron Emission Tomography)や fMRI( Functional Magnetic Resonance Imaging)と い っ た 被 検 者 が 何 ら か の 課 題 を 遂 行 し て い る 際 の 脳 活 動 を と ら え た 機 能 画 像 を 用 い た 報 告 が 多 い 。 発 達 性 デ ィ
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ス レ ク シ ア は 読 み に 関 わ る 課 題 遂 行 時 に つ い て は 概 ね 共 通 し て 、 音 韻 情 報 処 理 に 関 わ る 左 頭 頂 側 頭 部( 縁 上 回・下 頭 頂 小 葉 )、単 語 の 形 態 認 識 に 関 わ る 左 下 後 頭 側 頭 回 ( 紡 錘 状 回 な ど ) の 活 動 の 低 下 が 示 さ れ て い る 。 ま た 安 静 時 に お け る 脳 局 所 血 流 量 を 測 定 す る SPECT( Single Photon Emission Computed Tomography) に お い て も 類 似 の 結 果 が 得 ら れ て い る 。 し か し ア ル フ ァ ベ ッ ト 圏 で は 上 述 の 通 り 結 果 が 類 似 し て い る も の が 多 い が 、 中 国 語 話 者 を 対 象 と し た 報 告 で の 活 動 低 下 部 位 は 意 味 処 理 に 関 わ る 中 前 頭 回 で あ り(Siok et al,2004)、異 な る 見 解 を 呈 し て い る 。こ の こ と は 使 用 さ れ て い る 文 字 言 語 の 種 類 に よ っ て 、 障 害 メ カ ニ ズ ム も 異 な る 可 能 性 を 示 し て い る 。 脳 の 可 塑 性 に 言 及 し た 報 告 も 存 在 し 、Shaywitz et al( 2004) は 訓 練 ( 音 と 文 字 と の 対 応 関 係 の 正 確 さ と 流 暢 さ に 対 す る 早 期 集 中 的 な 介 入 ) に よ り 行 動 的 な 改 善 だ け で は な く 脳 機 能 の 水 準 で も 変 化 に つ な が る と し て い る 。 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 背 景 要 因 を 遺 伝 要 因 の 視 点 か ら み る と 、 家 族 性 に 出 現 す る こ と は 早 く か ら 指 摘 さ れ て お り 、 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 家 族 に は 80% の 学 習 困 難 が 生 じ て い る の と 報 告 も あ る 。ま た 双 生 児 を 対 象 と し た 研 究 に お い て も 、お よ そ 70% 程 度 の 確 率 で 双 方 に 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 症 状 を 認 め て い る 。 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア に 関 連 す る 遺 伝 子 と し て 、 海 外 で は DYX1C1、 ROBO1、 DCDC2、 KIAA0319 が 同 定 さ れ て い る 。そ れ ぞ れ の 変 異 部 位 に つ い て は 共 通 の 知 見 は 得 ら れ て い な い が 、 音 韻 認 識 や デ コ ー デ ィ ン グ な ど 読 み に 関 わ る 領 域 で の 異 常 が 遺 伝 し や す い こ と が 知 ら れ て い る 。 上 坂 ら (2013) は 本 邦 に お い て 、 最 も 代 表 的 な 原 因 遺 伝 子 で あ る DYX1C1 遺 伝 子 変 異 ス ク リ ー ニ ン グ を 実 施 し た が 、正 常 群 ・ 患 者 群 ・ 患 者 家 族 間 で 変 異 遺 伝 子 保 有 率 に 有 意 差 は 検 出 さ れ な か っ た 。 我 々 の 知 り う る 範 囲 で は 、 本 邦 に お い て 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 関 連 遺 伝 子 に 関 す る 大 規 模 調 査 や 家 系 研 究 は 行 わ れ て は い な い 。 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 関 連 遺 伝 子 は 、 言 語 形 態 や 民 族 性 に よ っ て 関 連 す る 遺 伝 子 や そ の 変 異 領 域 が 異 な る 可 能 性 が 示 さ れ て い る 。 し か し 単 一 遺 伝 子 の 変 異 な の か 、 複 数 の 遺 伝 子 変 異 が 相 互 的 に 作 用 し た 結 果 と し て デ ィ ス レ ク シ ア 症 候 が 発 現 し て い る の か 、 に つ い て は 不 明 で あ る 。 こ れ ら の 知 見 を 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の バ イ オ マ ー カ ー と し て 使 用 し 早 期 発 見 に 応 用 す る に は 、 今 後 広 域 で の 検 討 が 必 要 で あ る 。 ま た 日 本 語 に 特 有 の 遺 伝 要 因 の 有 無 に つ い て も 今 後 の 展 開 が 期 待 さ れ る 。
6 4. 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア に 起 因 す る 二 次 的 な 問 題 国 際 デ ィ ス レ ク シ ア 協 会 (2003) の 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 定 義 の 中 で は 、 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア は 結 果 的 に 読 解 や 読 む 機 会 が 少 な く な る と い う 問 題 が 生 じ 、 語 彙 の 発 達 や 背 景 と な る 知 識 の 増 大 を 妨 げ る も の と な り 得 る と さ れ て い る 。DSM-Ⅴ の 限 局 性 学 習 症 の 項 に お い て も 読 解 力 へ の 言 及 が 見 ら れ る 。 ま た 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア を 含 む 概 念 で あ る 、 教 育 界 に お け る 学 習 障 害 の 判 断 基 準 ( 文 部 科 学 省 ,2001) に お い て は 、 学 力 検 査 の 結 果 を 用 い て 学 習 の 遅 れ を 確 認 す る と さ れ て お り 、 二 次 的 な 学 習 の 低 下 が 生 じ る こ と を 前 提 と し て い る 。 ま た 学 習 上 の 困 難 の 結 果 、 二 次 的 に 情 緒 ・ 感 情 面 の 課 題 が 生 じ る こ と も 指 摘 さ れ て い る 。 宮 ら (2014) は 不 登 校 の 背 景 と し て の 学 習 不 振 の 重 要 性 を 指 摘 、 花 熊 (2014) も 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 症 状 が 不 登 校 と い う 形 で 出 現 す る 場 合 が あ る こ と を 示 し て い る 。 ま た 小 野 (2015) は 、 通 常 学 級 の 中 で 学 習 困 難 は 気 づ か れ や す い が 特 別 な 支 援 を 要 す る 学 習 障 害 は 気 づ か れ に く い こ と 、 ま た あ る 程 度 学 習 に 遅 れ が 生 じ て か ら で な い と 発 見 さ れ に く い 側 面 を 指 摘 し 、 子 ど も が 学 習 に 困 り 感 を 持 つ 前 に 支 援 を 開 始 す る 必 要 性 を 述 べ て い る 。 読 み 書 き の 心 理 面 問 題 の 関 係 を 初 め て 定 量 的 に 示 し た の は 、 片 桐 ら (2016) の 報 告 で あ る 。 片 桐 ら は 、 小 学 2 年 生 886 名 を 対 象 に 書 字 課 題 を 、 抑 う つ 傾 向 と 攻 撃 性 に 関 す る 質 問 紙 を 児 童 、 保 護 者 、 担 任 教 師 に 実 施 し た 。 そ の 結 果 、 小 学 2 年 生 と い う 学 習 の 初 期 の 段 階 で も 書 字 能 力 が 弱 い 児 童 は 抑 う つ や 攻 撃 性 が 高 ま る こ と を 示 し 、 書 字 能 力 の 弱 い 子 供 は メ ン タ ル ヘ ル ス の リ ス ク 要 因 を 抱 え て い る 可 能 性 を 示 唆 し て い る 。 こ の よ う に 、 読 み 書 き 能 力 の 低 下 の 二 次 的 な 影 響 と し て の 心 理 的 問 題 に つ い て は 、 重 要 性 が 示 さ れ か つ そ の 検 証 も な さ れ つ つ あ る 。 第 3 節 読 み 書 き と 学 力 の 関 係 1. 学 力 学 力 と は 、 態 度 ・ 技 能 ・ 知 識 と い っ た 複 数 の 要 素 を 含 む 概 念 で あ り 、 時 代 の 変 容 と と も に 様 々 な 学 力 観 が 存 在 し て お り 、 統 一 的 な 学 力 の 定 義 は 確 立 さ れ て は い な い 。歴 史 的 に み れ ば 、戦 前 戦 後 に は「 読 み・書 き・算 盤( 計 算 )」が 学 力 と 考 え ら れ る こ と が 一 般 的 で あ っ た 時 代 も 存 在 し て い る 。 戦 後 、 統 一 的 な 教 育 課 程 を 定 め た 学 習 指 導 要 領 が 作 成 さ れ る と 、 今 日 ま で そ れ に 準 じ て 義 務 教 育 が 行 わ れ て い る 。 現 行 の 学 習 指 導 要 領
7 (2008) の 中 で は 、 学 力 は 「 関 心 ・ 意 欲 ・ 態 度 」「 思 考 ・ 判 断 」「 技 能 ・ 表 現 」「 知 識・理 解 」の 観 点 に 分 け て 捉 え ら れ て い る 。10 年 に 一 度 実 施 さ れ る 学 習 指 導 要 領 の 改 定 は 、 そ の 時 代 背 景 に 対 応 し て 行 わ れ る 。 平 成 元 年 改 定 の 学 習 指 導 要 領 で は 、 旧 来 の 学 力 観 が 知 識 や 技 能 を 中 心 と し て い た と し て 、「 自 ら 学 ぶ 意 欲 や 思 考 力 、判 断 力 、表 現 力 な ど の 資 質 や 能 力 を 重 視 す る 学 力 観 」 に 立 つ こ と が 強 調 さ れ て い る 。 か つ て の 読 み 書 き 計 算 と い っ た 技 能 中 心 の 学 力 観 は 、 新 し い 学 力 観 へ と 変 容 し 、 読 み 書 き 計 算 と い っ た 基 礎 の 充 実 を 前 提 と し た 思 考 の 重 要 性 が 謳 わ れ て い る と い え る 。 本 研 究 で は 、 今 日 の 学 力 観 に 基 づ い て 育 ま れ た 能 力 に つ い て 学 力 テ ス ト を 用 い て 評 価 し た 学 業 成 績 を 狭 義 の 学 力 と 定 義 す る 。 学 力 の 測 定 に も ち い ら れ る テ ス ト は 多 岐 に わ た る 。 教 科 書 の 単 元 に 準 拠 し た 市 販 の 単 元 テ ス ト は 、 学 校 教 育 場 面 に お い て 日 常 的 に 採 用 さ れ て い る 。 本 研 究 で 扱 わ れ る 学 力 テ ス ト は 、 単 元 テ ス ト の よ う に 限 ら れ た 範 囲 の 経 験 済 み の 題 材 に 特 化 し た 学 習 内 容 の 定 着 度 を 測 る テ ス ト と は 区 別 さ れ る 。 2. 学 習 指 導 要 領 に お け る 読 み 書 き の 位 置 づ け 就 学 す る と 、 計 画 的 な 文 字 学 習 が 開 始 さ れ る 。 本 邦 で は 、 義 務 教 育 に つ い て 学 年・教 科 ご と に 取 り 扱 う 内 容 が 学 習 指 導 要 領 に 定 め ら れ て い る 。 小 学 校 お よ び 中 学 校 の 学 習 指 導 要 領 (2008) で の 読 み 書 き の 扱 わ れ た か に つ い て ま と め る 。 小 学 校 学 習 指 導 要 領 の う ち 、 国 語 科 で は 文 字 学 習 に 関 係 す る 部 分 と し て 、1〜 2 年 生 で は C 読 む こ と に お い て「 語 の ま と ま り や 言 葉 の 響 き な ど に 気 を 付 け て 音 読 す る こ と 」、伝 統 的 な 言 語 文 化 と 国 語 の 特 質 に 関 す る 事 項 の「 イ 言 葉 の 決 ま り に 関 す る 事 項 」に お い て「( イ )音 節 と 文 字 と の 関 係 や 、ア ク セ ン ト に よ る 語 の 意 味 の 違 い な ど に 気 付 く こ と 」「( エ )長 音 、 拗 音 、促 音 、撥 音 な ど の 表 記 が で き 、助 詞 の「 は 」「 へ 」お よ び「 を 」を 正 し く 使 う こ と 」、「 ウ 文 字 に 関 す る 事 項 」に お い て「( ア )平 仮 名 お よ び 片 仮 名 を 読 み 、 書 く こ と 。 ま た 片 仮 名 で 書 く 語 の 種 類 を 知 り 、 文 や 文 章 の 中 で 使 う こ と 」「( イ ) 第 1 学 年 に お い て は 、 別 表 に 学 年 別 配 当 漢 字 表 の 第 一 学 年 に 配 当 さ れ て い る 漢 字 を 読 み 、 漸 次 書 き 、 文 や 文 章 の 中 で 使 う こ と 」「( ウ )2 学 年 に お い て は 、 学 年 別 漢 字 配 当 表 の 2 年 生 ま で に 配 当 さ れ て い る 漢 字 を 読 む こ と 。 ま た 第 1 学 年 に 配 当 さ れ て い る 漢 字 を 書 き 、 文 や 文 章 の 中 で 使 う と と も に 、 第 2 学 年 配 当 さ れ て い る 漢 字 を 漸 次 書 き 、文 や 文 章 の 中 で 使 う こ と 。」と 記 さ れ て い る 。こ の よ う に 低 学 年 で
8 は 、 文 字 を 正 し く 読 む こ と や 書 く こ と 、 表 記 の ル ー ル を 覚 え る こ と 、 な ど 基 本 的 な 読 む こ と 書 く こ と 自 体 を 学 習 内 容 と し て い る 。 ま た 国 語 の 目 標 の 1 つ が 「 書 か れ て い る 事 柄 の 順 序 や 場 面 の 様 子 な ど に 気 付 い た り 、 想 像 を 広 げ た り し な が ら 読 む 能 力 を 身 に 着 け さ せ る と と も に 、 楽 し ん で 読 書 し よ う と す る 態 度 を 育 て る 。」と さ れ て お り 、文 字 に 慣 れ 親 し み 楽 し む こ と を 重 要 視 し て い る 。 3~ 4 年 生 で は 、目 標 が「 目 的 に 応 じ 、内 容 の 中 心 を と ら え た り 相 互 の 段 落 の 関 係 を 考 え た り し な が ら 読 む 能 力 を 身 に 着 け さ せ る と と も に 、 幅 広 く 読 書 し よ う と す る 態 度 を 育 て る 」 と 、 読 む 行 為 に よ り 内 容 の 読 解 を 求 め る よ う に 変 化 し て い る 。 ま た 文 字 や 表 記 に 関 す る 部 分 で は 「 漢 字 と 仮 名 を 用 い た 表 記 な ど に 関 心 を 持 つ こ と 」 と 文 字 を 覚 え る だ け で は な く 使 い 分 け る 視 点 が 含 ま れ た り 、「 言 葉 に は 、考 え た こ と や 思 っ た こ と を 表 す 働 き が あ る こ と に 気 付 く こ と 」 と 言 葉 を 思 考 に 利 用 し て い く た め の 気 付 き を 促 す 視 点 も 含 ま れ る 。 ま た 漢 字 は 3 年 生 以 上 で は 、 2 年 生 と 同 様 に そ の 学 年 ま で に 配 当 さ れ る 漢 字 を 読 む こ と 、 ひ と つ 前 の 学 年 ま で に 配 当 さ れ て い る 漢 字 を 書 き 文 や 文 章 の 中 で 使 う と と も に 、 そ の 学 年 に 配 当 さ れ て い る 漢 字 を 漸 次 書 き 、 文 や 文 章 の 中 で 使 う こ と 」 と さ れ る 。3~ 4 年 生 で は 表 記 に 関 す る 記 載 も あ る 一 方 、 文 字 を 思 考 に 用 い る た め の 気 付 き を 促 し 始 め て い る 。 5~ 6 年 生 で は 、文 字 の 表 記 に 関 す る 記 述 が 少 な く な り 、目 標 で「 目 的 に 応 じ 、内 容 や 要 旨 を と ら え な が ら 読 む 能 力 を 身 に 着 け さ せ る と と も に 、 読 書 を 通 じ て 考 え を 広 げ た り 深 め た り し よ う と す る 態 度 を 育 て る 」 と さ れ て い る 。3~ 4 年 生 ま で は「 読 書 を し よ う と す る 態 度 」、つ ま り 読 む こ と の 意 欲 を 育 て る こ と が 目 標 で あ っ た の に 対 し 、5〜 6 年 生 で は 読 む こ と を 手 段 と し て 思 考 す る こ と の 態 度 の 形 成 に 目 標 が 大 き く 転 換 さ れ て い る 。 中 学 生 に な る と 、 中 学 校 学 習 指 導 要 領 で は 中 学 1 年 生 の 国 語 の 目 標 の 1 つ が「 進 ん で 文 章 を 書 い て 考 え を ま と め よ う と す る 態 度 を 育 て る 」と な る 。 小 学 校 学 習 指 導 要 領 で は 6 年 間 を 通 じ て 「 文 章 を 書 く 能 力 」 が 目 標 に さ れ て い た が 、 中 学 生 に な る と 書 く こ と が 思 考 の 手 段 と し て 用 い ら れ る こ と が 求 め ら れ る よ う に な る 。 中 学 2 年 生 で は 読 む こ と に つ い て 「 広 い 範 囲 か ら 情 報 を 集 め 効 果 的 に 活 用 す る 」 と も 記 さ れ て お り 、 情 報 を 得 る 手 段 と し て の 側 面 も 強 調 さ れ て い る 。 中 学 3 年 生 の 目 標 で は 「 文 章 を 書 い て 考 え を 深 め よ う と す る 態 度 」「 読 書 を 通 じ て 自 己 を 向 上 さ せ よ う と す る 態 度 」 と ま す ま す 読 み 書 き を 手 段 と し て 活 用 す る こ と に お い て 、 高 い 水 準 が 求 め ら れ る よ う に な っ て い る 。 ま た 漢 字 の 習 得 に つ い て は 、 中
9 学 3 年 生 ま で で「 常 用 漢 字 の 大 体 を 読 む こ と 」「 小 学 校 学 習 指 導 要 領 に 定 め ら れ た 学 年 別 漢 字 配 当 表 に 記 さ れ た 漢 字 に つ い て 文 や 文 章 の 中 で 使 い な れ る こ と 」 と さ れ て お り 、 文 字 の 学 習 は 中 学 生 で ひ と 段 落 と な る 。 高 校 生 以 上 に つ い て 付 け 加 え る な ら ば 、 高 校 以 上 で は 計 画 的 な 文 字 学 習 は な く な り 、 新 た に 文 字 を 習 得 す る こ と は 求 め ら れ な く な る 。 読 み 書 き は 、 学 習 や 情 報 収 集 、 思 考 の た め の 手 段 と し て 用 い ら れ る こ と が 中 心 と な る 。 ま た 大 学 な ど の 高 等 教 育 に 進 学 す れ ば 、 情 報 収 集 は 前 提 と し て 、 レ ポ ー ト 課 題 や 論 文 作 成 な ど 、 思 考 や 表 現 の 手 段 と し て 読 み 書 き が 用 い ら れ る こ と が 前 提 と さ れ る よ う に な る 。 ま た そ の た め に は よ り 効 率 を 求 め 、 直 接 ペ ン で 文 字 を 書 く と い う 行 為 が 減 り 、PC 等 の 機 器 を 使 い 効 率 を 求 め る よ う に も 自 然 と 変 化 し て い く 。 学 習 指 導 要 領 に お い て は 、 読 み 書 き は 高 等 教 育 以 上 に お い て 思 考 の た め の 手 段 と し て 用 い ら れ る こ と を 見 越 し て 、 文 字 そ の も の を 学 習 す る こ と か ら 段 階 的 に 文 字 を 情 報 収 集 や 学 習 の 手 段 と し て 用 い る 側 面 が 強 調 さ れ て い る 。 3. 小 学 生 の 学 力 の 実 態 本 邦 の 学 力 の 発 達 的 様 相 に つ い て 、学 力 の 固 定 化 傾 向( 藤 田 1995)と 「9 歳 の 壁 」が 指 摘 さ れ て き た 。こ れ は い わ ゆ る「 で き る 子 」「 で き な い 子 」は 早 期 に 分 離 さ れ 固 定 化 し て い く こ と 、9~10 歳 を 境 に し て 学 力 の 個 人 差 が 拡 大 す る 現 象 で あ る 。例 え ば 丹 藤(1989)は 2~6 年 生 の 5 年 に 渡 る 学 力 の 追 跡 調 査 を 行 い 、国 語 の 偏 差 値 の 変 動 が 10 以 内 に 留 ま る も の は 40.0%、11~15 以 内 に 留 ま る も の が 32.7%で あ り 、学 力 の 固 定 化 を 示 し て い る 。耳 塚(2008)や 中 島( 2012)は 小 学 3 年 生 、6 年 生 、中 学 3 年 生 、 高 校 3 年 生 を 対 象 に 独 自 の 学 力 テ ス ト を 用 い て コ ホ ー ト 研 究 を 行 っ て い る 。 こ れ ら の 調 査 か ら 、 耳 塚 (2008) は 首 都 圏 で は 小 学 3 年 生 時 点 で 同 一 の 学 力 層 で あ っ て も 小 学 校 6 年 生 で は 学 力 の ば ら つ き が 見 ら れ る こ と 、 中 島(2012)は 小 学 3 年 生 か ら 6 年 生 時 点 に か け て 4 割 前 後 の 児 童 は 学 力 層 に 変 化 が な い こ と を 報 告 し て い る 。 ま た 山 崎 (2013)は 4 年 生 時 点 で の 学 力 調 査 で 最 下 層 に い た も の の う ち 66%は 6 年 生 で も 同 じ 最 下 層 に 位 置 し て お り 、 低 学 力 の 固 定 化 を 示 し て い る 。 宮 本(2018)は 小 学 校 6 年 間 を 通 じ て の 学 力 の 変 化 パ タ ー ン を 探 索 し 、 従 来 の 学 力 の 固 定 化 や 9 歳 の 壁 と も お お む ね 合 致 す る 結 果 を 得 て い る が 、 そ れ 以 外 に も 複 数 の 学 力 変 化 パ タ ー ン が 存 在 す る こ と を 指 摘 し て い る 。 こ の 報 告 に よ れ ば 、代 表 的 な パ タ ー ン と し て 算 数 で は 10 パ タ ー ン 、国 語
10 で は 5 パ タ ー ン を 見 出 す こ と が で き 、多 様 な 変 化 パ タ ー ン を 認 め て い る 。 偏 差 値 の 変 動 幅 が 10 以 内 の 児 童 は 国 語 で は 約 6 割 、 算 数 で は 約 3 割 存 在 し 、 相 当 数 の 児 童 で の 学 力 の 固 定 化 傾 向 を 認 め た 。 固 定 化 し な い 児 童 に つ い て 変 化 パ タ ー ン を み る と 、 低 学 年 で 安 定 し 高 学 年 で 急 上 す る パ タ ー ン 、 低 学 年 で 変 動 し 高 学 年 で 安 定 す る パ タ ー ン 、 低 学 年 で は 上 昇 著 し く 高 学 年 で 安 定 す る パ タ ー ン 、 中 学 年 で 一 時 低 下 す る が 高 学 年 で 回 復 す る パ タ ー ン な ど さ ま ざ ま で あ っ た 。 宮 本 は 学 力 の 変 化 パ タ ー ン を 明 ら か に す る に と ど め 、 各 パ タ ー ン が 生 起 す る 理 由 に つ い て は 分 析 を 行 っ て い な い 。 た だ し 、 複 数 の 状 態 象 を 呈 す る に は 何 ら か の 固 有 の 要 因 が あ る と 考 え 、 今 後 の 課 題 と し て い る 。 4. 読 み 書 き と 学 力 の 関 係 低 学 力 の 要 因 を 探 る 報 告 に は 、 学 習 環 境 を 整 え る 前 提 と し て の 生 活 習 慣 や 家 庭 環 境 に つ い て 調 査 し た も の が 散 見 さ れ 、 学 習 と 学 習 者 自 身 の 個 人 内 要 因 を 検 討 す る 報 告 で は 、 学 習 と 学 習 に 対 す る 意 欲 に 関 す る 報 告 に な る 。 読 み 書 き 能 力 と い う 個 人 の 持 つ 学 習 手 段 と 学 力 に 関 す る 報 告 は 非 常 に 少 な く 、 筆 者 が 知 り う る 限 り で は 安 永 (2008) の み で あ る 。 安 永 は 小 学 4 年 生 を 対 象 に 、 読 み 書 き 計 算 の 集 中 的 な 介 入 前 後 の 学 力 テ ス ト を 比 較 し て い る 。 そ の 結 果 、 低 学 力 層 に つ い て は 読 み 書 き の 介 入 に よ り 学 力 の 向 上 を 認 め て い る 。 学 力 に 類 似 す る 指 標 と し て 、 読 解 力 を 従 属 変 数 に 掲 げ る 報 告 で あ れ ば い く つ か 存 在 す る 。 高 橋 ら (2001) は 低 学 年 で は 音 読 が 読 解 を 説 明 し 、 高 学 年 で は 音 読 の 関 与 は 薄 く な り 書 字 が 読 解 を 説 明 す る と 報 告 し て い る 。 土 方 ら (2010) は 単 語 に 特 化 し て い る が 、 音 読 力 の 違 い か ら 定 型 発 達 児 と 発 達 性 読 み 書 き 障 害 の 読 解 プ ロ セ ス の 違 い を 報 告 し て い る 。 読 み 書 き 能 力 と 学 習 の 関 係 は 暗 黙 で あ り 、 定 量 的 な 検 討 は 極 わ ず か で あ る 。 第 4 節 読 み 書 き 能 力 の 評 価 法 本 節 で は 、 読 み 書 き を 評 価 す る 際 の 視 点 と そ の 評 価 方 法 に つ い て 述 べ る 。 ま た そ れ ら の 概 要 を 表 1-1 に 示 す 。 1. 読 み 書 き の 評 価 の 観 点 日 本 語 の 特 徴 と し て 、 ひ ら が な 、 カ タ カ ナ 、 漢 字 と 複 数 の 種 類 の 文 字
11 が 存 在 す る こ と が 挙 げ ら れ る 。 読 み や 書 き は 、 文 字 種 ( ひ ら が な ・ カ タ カ ナ・漢 字 )と 表 記 の 長 さ( 一 文 字・単 語・文・文 章 )が 異 な れ ば そ れ ぞ れ 必 要 と な る 能 力 が 異 な る 。 例 え ば 、 ひ ら が な や カ タ カ ナ は 表 音 文 字 で あ り 形 態 は あ ま り 複 雑 で は な く 、 音 を 文 字 に 変 え る ・ 音 を 文 字 に 変 え る 力 が 主 に 必 要 と な る 。 漢 字 は 表 意 文 字 で あ る こ と か ら 、 音 を 文 字 に 変 え る ・ 文 字 を 音 に 変 え る こ と も 必 要 で あ る が 、 文 字 や 文 字 が 組 み 合 わ さ れ て 単 語 と な る こ と で 表 さ れ る 意 味 を 理 解 す る こ と も 必 要 に な り 、 ま た 形 態 の 複 雑 さ か ら ひ ら が な や カ タ カ ナ に 比 し て 習 得 の 困 難 度 が 増 す 。 難 易 度 や 必 要 と さ れ る 能 力 の 違 い か ら 、 そ れ ぞ れ を 個 別 に 評 価 す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ て い る 。 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 評 価 や 指 導 に お い て は 、 正 確 性 及 び 流 暢 性 の 2 つ の 視 点 か ら 評 価 す る 必 要 性 が 指 摘 さ れ て い る 。 正 確 性 と は 文 字 か ら 音 へ 正 し く 変 換 し て 読 む こ と 、 音 を 文 字 に 変 換 し て 正 し い 形 態 で 書 く こ と で あ る 。 第 1 章 第 1 節 で 述 べ た よ う に 文 字 の 習 得 率 と は 正 確 性 を 獲 得 し て い る 文 字 数 か ら 算 出 さ れ て お り 、 文 字 を 正 確 に 読 め る こ と 、 書 け る こ と 、 は 文 字 学 習 の 最 初 の 到 達 段 階 で あ る と い え る 。 流 暢 性 と は 、 文 字 と 音 の 変 換 の ス ム ー ス さ を 指 す 。 つ ま り 正 確 性 を 前 提 と し た よ り 習 熟 し た 読 み 書 き を 指 す 。 日 本 語 で の 流 暢 性 は 表 音 文 字 で あ り ま た 文 字 数 も 限 定 さ れ て い る ひ ら が な の 音 読 を 中 心 に 評 価 さ れ る こ と が 主 流 で あ る 。 漢 字 は 文 字 数 が 多 く 常 に 新 た な 文 字 の 習 得 が 求 め ら れ る 状 況 に あ り 、 ま た 文 字 と 音 と の 変 換 以 外 に も 様 々 な 要 素 が 関 連 し て い る こ と か ら 、 現 状 で は 正 確 性 の 評 価 が 中 心 に な さ れ て い る 。 文 章 の 書 き 写 し な ど で 書 字 流 暢 性 を 評 価 し よ う と す る 流 れ も あ る が 、 日 本 語 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア で 最 も 出 現 率 の 高 い 漢 字 書 字 正 確 性 へ の 注 目 が 高 い 。 本 研 究 で は 単 語 の 読 み 書 き に つ い て 検 討 す る た め 、 単 語 で の 正 確 性 及 び 流 暢 性 の 評 価 指 標 に つ い て 次 に ま と め る 。 2. 読 み 書 き 流 暢 性 の 評 価 前 述 の と お り 流 暢 性 の 評 価 は 、 ひ ら が な の 音 読 を 中 心 に 評 価 さ れ て い る 。 音 読 流 暢 性 の 検 査 と し て 最 も 用 い ら れ て い る の は 、 稲 垣 ら (2010) に よ り 作 成 さ れ た 特 異 的 発 達 障 害 診 断・治 療 の た め の 実 践 ガ イ ド ラ イ ン( 音 読 流 暢 性 課 題 ) で あ る 。 限 局 性 学 習 症 の 検 出 に 特 化 し た 評 価 と し て 唯 一 医 科 診 療 報 酬 点 数 が 定 め ら れ て い る 。 課 題 は ひ ら が な 音 読 に 特 化 し て お り 、単 音 連 続 読 み 、単 語( 有 意 味 語・無 意 味 語 )、単 文 に よ り 構 成 さ れ る 。
12 誤 読 数 を 集 計 し た 正 確 性 に 関 す る 基 準 値 も 設 け ら れ て は い る も の の 、 音 読 所 要 時 間 が 主 な 評 価 指 標 で あ る 。 川 崎 ら (2013)に よ る と 、 小 学 1 年 生 に お い て は 成 績 に 学 校 間 差 が 認 め ら れ る た め 基 準 値 の 取 り 扱 い に は 注 意 を 要 す る 。 直 接 音 読 流 暢 性 を 評 価 す る も の で は な い が 、 海 津 ら (2010) に よ り 開 発 さ れ た 多 層 指 導 モ デ ル MIM 読 み の ア セ ス メ ン ト 指 導 パ ッ ケ ー ジ は 教 育 現 場 に お け る 段 階 的 な 介 入 を 前 提 と し た 評 価 方 法 で あ る 。 集 団 実 施 も 可 能 な プ リ ン ト 課 題 で あ り 、 時 間 制 限 を 設 け る こ と で 流 暢 さ に 負 荷 を か け て い る 。 小 学 校 早 期 の 読 み 能 力 、 特 に 特 殊 音 節 を 含 む 語 の 正 確 で 素 早 い 読 み 、 素 早 い 単 語 認 識 力 を も 評 価 す る こ と が で き る 。 本 邦 に お い て 小 中 学 校 に お け る 書 き 流 暢 性 の 側 面 へ の 注 目 は 高 い と は 言 い 難 い が 、 河 野 ら (2013) に よ っ て 開 発 さ れ た 小 中 学 生 の 読 み 書 き の 理 解 URAWSS が 開 発 さ れ て い る 。 小 中 学 生 の 読 み 書 き の 速 さ を 評 価 す る こ と を 目 的 に 開 発 さ れ て お り 、 本 邦 に お い て 小 中 学 生 の 書 字 の 流 暢 性 を 定 量 的 に 評 価 可 能 な 唯 一 の 方 法 で あ る 。 書 字 を 機 能 的 に 用 い て い る こ と が 前 提 と な る 高 等 教 育 機 関 で の 試 験 時 間 の 延 長 等 の 合 理 的 配 慮 の ニ ー ズ 把 握 を 目 的 と し て 、 高 橋 ら (2019) が 大 学 生 を 対 象 と し て 書 き 流 暢 性 を 評 価 す る た め に 視 写 課 題 を 作 成 し て い る 。 3. 読 み 書 き 正 確 性 の 評 価 (1) 教 育 場 面 で の 評 価 学 校 教 育 場 面 で 実 施 さ れ る い わ ゆ る 漢 字 テ ス ト が 挙 げ ら れ る 。 現 行 の 小 学 校 学 習 指 導 要 領(2008 年 版 )が 示 す「 学 年 別 漢 字 配 当 表 」に は 、小 学 校 6 年 間 で 習 得 す べ き 漢 字 1006 字 を 学 年 ご と に 配 当 し て い る( 以 下 、 学 年 別 漢 字 配 当 表 に 配 当 さ れ る 漢 字 を 学 年 配 当 漢 字 と 記 す )。漢 字 学 習 は 専 用 の 教 科 書 が 作 成 さ れ て お ら ず 、 国 語 科 の 教 科 書 の 文 中 に 配 置 さ れ 、 そ の 都 度 単 元 ご と に 新 出 漢 字 と し て 読 み 書 き を 教 授 し て い く 。 そ し て 単 元 ご と に そ の 漢 字 の 読 み 書 き の 習 熟 を 測 る た め の 漢 字 テ ス ト が 実 施 さ れ る こ と は 一 般 的 で あ る 。 漢 字 学 習 の 教 材 や テ ス ト は 、 各 教 員 の 自 作 の も の や 、 各 種 の 市 販 ド リ ル が 用 い ら れ て い る 。 (2) 読 み 書 き 困 難 検 出 の た め の 評 価 発 達 障 害 の 臨 床 場 面 に お い て 広 く 用 い ら れ て い る 評 価 方 法 に 、 小 学 生 の 読 み 書 き ス ク リ ー ニ ン グ 検 査(Screening Test of Reading and Writing For Japanese Primary School Children:STARW)が あ る 。宇 野 ら( 2006)
13 に よ っ て 、 発 達 性 読 み 書 き 障 害 を 検 出 す る た め の ス ク リ ー ニ ン グ 検 査 と し て 活 用 す る こ と を 目 的 と し て 開 発 さ れ た 、 標 準 化 さ れ た 読 み 書 き の 直 接 検 査 で あ る 。学 年 ご と に ひ ら が な 、カ タ カ ナ 、漢 字 そ れ ぞ れ 20 単 語 が 課 題 と し て 採 用 さ れ て お り 、 そ れ ぞ れ の 音 読 お よ び 書 取 課 題 で 構 成 さ れ る 。 通 常 学 級 に 在 籍 す る 児 童 の う ち 、 簡 易 的 な 知 能 検 査 で あ る レ ー ヴ ン 色 彩 マ ト リ ッ ク ス 検 査( 宇 野 ら ,2005)に お い て -1.5SD を 下 回 っ た 児 童 を 除 外 し た 一 般 小 学 生 に 実 施 し た 基 準 デ ー タ を も と に 、-2SD を カ ッ ト オ フ 値 と 設 定 し て い る 。 流 暢 性 の 評 価 が 含 ま れ な い 点 や 、 相 対 的 な 評 価 が で き な い 点 な ど の 批 判 を 鑑 み て 、2017 年 に 改 訂 版 ( STRAW-R) が 出 版 さ れ て い る 。STRAW-R で は 主 に 読 み に 関 し て 改 定 が な さ れ て お り 、文 章 の 音 読 を 用 い た 流 暢 性 の 評 価 や 、 漢 字 音 読 正 確 性 の 相 対 的 評 価 と し て 1 年 生 か ら 高 校 生 ま で 共 通 し て 126 単 語 の 音 読 を 実 施 し 、 漢 字 音 読 年 齢 の 算 出 を 可 能 と し て い る 。 実 施 の 際 は 見 慣 れ な い 漢 字 の 音 読 を 大 量 に 求 め ら れ る 状 況 と な る た め 、 読 み 書 き に 苦 手 意 識 を 持 つ 児 に 実 施 す る 場 合 に は 心 的 負 荷 へ の 配 慮 が 必 要 で あ る 。 吉 田 ら (2013)、 中 ら ( 2014)、 中 村 ら ( 2017)、 大 関 ら ( 2017) の 通 常 学 級 に 在 籍 す る 児 童 を 対 象 と し た 調 査 研 究 で は 、 漢 字 読 み 書 き の 低 成 績 児 を 検 討 対 象 と す る た め に 、 学 年 ご と に 1 学 年 下 の 配 当 漢 字 を 用 い て 独 自 の 漢 字 読 み 及 び 書 き の 正 確 性 課 題 を 作 成 し て い る 。 課 題 と す る 漢 字 単 語 は 単 語 属 性 を 統 制 し 、親 密 度 お よ び 心 像 性 の 高 い 16 単 語 を 採 用 し て い る 。詳 細 は 不 明 で あ る が 各 学 年 の 正 答 率 の 中 央 値 は 87.5~ 96.9 で あ り 非 常 に 高 い 値 で あ り 、 天 井 効 果 を 示 し て い る と い え る 。 (3) 指 導 や 支 援 の た め の 評 価 ス ク リ ー ニ ン グ を 目 的 と し な い 実 態 把 握 の た め の 課 題 は 、 筆 者 の 知 り う る 限 り で は あ ま り 多 い と は 言 い 難 い 。 認 知 処 理 能 力 と 基 礎 的 学 力 を 測 定 す る こ と が で き る 日 本 版 KABC-Ⅱ( Kaufman Assessment Battery for Children Second Edition)の 習 得 度 尺 度 の 下 位 検 査 に 、「 こ と ば の 読 み 」 「 こ と ば の 書 き 」 が あ る 。 い ず れ も ひ ら が な ・ カ タ カ ナ ・ 漢 字 を 正 し く 読 め る か 、 書 け る か を 測 定 す る 課 題 で あ る 。 ひ ら が な 、 カ タ カ ナ 、 漢 字 の 順 に 課 題 が 配 置 さ れ て お り 、 被 験 者 の 学 年 や 能 力 に よ っ て 開 始 問 題 と 終 了 問 題 が 規 定 さ れ る 。 採 用 さ れ て い る 漢 字 課 題 は 教 研 式 全 国 標 準 学 力 検 査 (Norm Referenced Test : NRT ) や 教 研 式 目 標 基 準 準 拠 検 査 (Criterion Referenced Test: CRT) の 標 準 化 に 際 し て 、 正 答 率 が 明 ら か に な っ て い る 漢 字 を 採 用 し て い る 。 ま た 問 題 の 配 列 は 、 学 習 指 導 要 領
14 の 学 年 配 当 漢 字 を も と に 年 齢 が 上 が る に し た が っ て 問 題 も 難 し く な る よ う に 構 成 さ れ て い る 。 標 準 化 さ れ た 検 査 で は あ る も の の 、 あ く ま で 何 ら か の 主 訴 を 抱 え た 児 童 に 対 す る ア セ ス メ ン ト を 目 的 と し た 認 知 処 理 能 力 及 び 基 礎 的 学 力 の 個 別 検 査 の 一 部 で あ り 、部 分 実 施 は 認 め ら れ て い な い 。 高 橋 ら(2009)は 児 童 期 を 対 象 と し た 適 応 型 言 語 能 力 検 査( Adaptive Tests for Language Abilities: ATLAN)を 開 発 し 、そ の 下 位 項 目 に 漢 字 検 査 を 設 け た 。ATLAN は イ ン タ ー ネ ッ ト を 利 用 す る こ と で リ ア ル タ イ ム に 個 々 の 能 力 に 応 じ た 最 適 な 難 易 度 の 課 題 を 提 供 す る こ と を 可 能 と し て い る 。 漢 字 検 査 は 学 年 配 当 漢 字 を 参 考 に 設 定 さ れ て い る 漢 字 単 語 の 読 み と 、 ひ ら が な で 提 示 さ れ た 漢 字 表 記 を 問 う も の の 2 種 類 か ら 構 成 さ れ て お り 、解 答 は 5 つ の 選 択 肢 が 設 定 さ れ た 多 肢 選 択 形 式 で あ る 。そ の た め 、 直 接 読 み や 書 き の 能 力 を 評 価 す る 方 式 よ り も 、 や や 難 易 度 は 低 い も の と 推 測 さ れ る 。 ま た そ の 後 、 高 橋 ら (2015) は タ ブ レ ッ ト PC を 用 い た 書 き 取 り 検 査 も 作 成 し て い る 。 集 団 で 一 斉 実 施 も 可 能 な 形 態 で は あ る も の の 、イ ン タ ー ネ ッ ト 環 境 お よ び タ ブ レ ッ ト PC が 必 要 と な る ATLAN は 、 現 在 の 公 立 小 学 校 で は 物 理 的 に 実 施 す る こ と が 難 し く 、 一 般 的 に 普 及 す る に は 至 っ て い な い 現 状 に あ る 。 児 童 の 漢 字 読 み 書 き の 到 達 度 を 評 価 す る 臨 床 上 の 工 夫 と し て 、 学 年 配 当 漢 字 を 順 に す べ て 読 み 書 き さ せ る と い う 手 法 が と ら れ る 場 合 も あ る 。 奥 谷 ら (2011)は 小 学 4 年 生 の 漢 字 書 字 に 困 難 を 有 す る 児 童 2 名 を 対 象 に 、小 学 1・2 年 生 の 配 当 漢 字 全 て を 書 字 さ せ て そ の 正 答 率 を 算 出 し 、実 態 把 握 の 手 段 と し て い る 。 ま た 荻 布 ら (2018)は 小 学 5 年 生 の 読 み 書 き 困 難 児 に 対 し て 小 学 2・3 年 生 の 配 当 漢 字 全 て の 音 読 を 求 め 、実 態 把 握 と 指 導 目 標 の 設 定 に も 活 用 し て い る 。 学 年 配 当 漢 字 を そ の 学 年 で 100% 読 み 書 き 可 能 に す る こ と は 学 習 指 導 要 領 上 で も 求 め ら れ て は い な い 。 こ の 手 法 を 用 い る 場 合 に は 、 学 年 ご と に 学 年 配 当 漢 字 の 読 み 書 き 正 答 率 を 調 査 し た 、日 本 教 科 書 文 化 研 究 財 団(2000)、国 立 教 育 政 策 研 究 所 教 育 課 程 研 究 セ ン タ ー(2006)、総 合 初 等 教 育 研 究 所( 2014)等 の 報 告 が 実 態 把 握 の 一 つ の 参 考 と な り う る 。 こ の 手 法 は 正 確 な 実 態 把 握 に つ な が り 、 支 援 の 必 要 性 の 有 無 や 課 題 設 定 に 非 常 に 有 益 な 情 報 を も た ら す も の の 、 対 象 児 お よ び 支 援 者 双 方 に 心 理 的 ・ 時 間 的 負 荷 が 重 く の し か か る た め 、 読 み 書 き に 困 難 を 抱 え る 児 童 す べ て に 実 施 す る こ と は 現 実 的 と は 言 い が た い 。
16 第 2 章 読 み 書 き 能 力 と 認 知 機 能 と の 関 連 本 研 究 で は 、 児 童 の 読 み 書 き 能 力 を 中 心 に 据 え 、 読 み 書 き 能 力 の 基 盤 と な る 認 知 機 能 、 読 み 書 き を 活 用 し た 結 果 で あ る 学 習 と の 接 点 に つ い て 論 じ る 。 本 章 で は 読 み 書 き と そ の 基 盤 と な る 認 知 能 力 に つ い て 、 第 1 節 で は 読 み 書 き の 発 達 に 関 わ る 機 能 、 第 2 節 、 第 3 節 で は 読 み 書 き の 障 害 に 関 わ る 機 能 に つ い て 、 順 に ま と め る 。 第 1 節 読 み 書 き の 獲 得 に 必 要 と な る 機 能 1. 読 み 習 得 に 必 要 と さ れ る 能 力 ひ ら が な 読 み の 習 得 に 関 与 す る 能 力 に つ い て 、金 子 ら(2004)は Rapid Automatized Naming( RAN) 検 査 は 6 歳 児 の ひ ら が な 読 み 能 力 の 予 測 に 有 効 で あ る こ と を 示 し て い る 。猪 俣 ら(2013)は 年 長 児 145 名 を 対 象 に 、 ひ ら が な 音 読 に は 、 単 語 逆 唱 、 非 語 複 唱 が 有 意 な 予 測 因 子 と し て 抽 出 さ れ る こ と を 報 告 し た 。ま た 春 原 ら(2011)は 、1~ 6 年 生 を 対 象 と し て 音 読 の 流 暢 性 に RAN 課 題 や 単 語 逆 唱 課 題 が 影 響 を 与 え た と 報 告 し て い る 。 つ ま り 、 読 み に は 音 韻 処 理 能 力 や 呼 称 速 度 が 関 与 し た と す る 報 告 が 中 心 に な る 。 音 韻 処 理 能 力 と は 、 こ と ば を 音 の 単 位 に 分 解 し 、 抽 出 し 、 音 を 頭 の 中 で 操 作 す る 能 力 の こ と で あ る 。 日 本 語 の 場 合 は 音 節 ( モ ー ラ ) が 一 つ の 単 位 で あ る 。 こ と ば を 音 節 に 分 解 し 意 識 す る こ と が 、 文 字 に 音 を 当 て は め 、 一 文 字 一 音 の 対 応 に 気 が 付 き 、 ひ ら が な の 読 み を 習 得 し て い く 基 盤 と な る 。 呼 称 速 度 と は 、 記 号 を 音 に 変 換 す る ス ピ ー ド の こ と を 指 し 、 音 韻 処 理 能 力 と は 区 別 さ れ て い る 。 2. 書 き 習 得 に 必 要 と さ れ る 能 力 三 塚 (1994)は 3 歳 8 ヵ 月 〜 7 歳 11 ヵ 月 の 10 名 の 健 常 児 を 対 象 に 横 断 的 研 究 を 行 い 、 書 字 獲 得 を 促 す の に 重 要 な 要 素 を 検 討 し て い る 。 こ の 報 告 で は 、 読 み 書 き 課 題 と 、 図 形 模 写 課 題 と フ ロ ス テ ィ ッ グ 視 知 覚 発 達 検 査 を 実 施 し 、 三 角 形 お よ び 星 型 の 模 写 能 力 や 、 視 覚 と 運 動 の 協 応 、 図 と 地 の 弁 別 、 空 間 関 係 の 認 知 が 書 字 獲 得 を 促 す の に 大 切 な 要 素 で あ る こ と を 示 し た 。 猪 俣 ら (2013) は 前 述 し た も の と 同 じ 報 告 の 中 で 、 ひ ら が な の 書 き 取 り に は 図 形 の 模 写 、 単 語 逆 唱 、 非 語 複 唱 が 有 意 な 予 測 因 子 と
17 し て 抽 出 さ れ 、 特 に 図 形 模 写 の 貢 献 度 が 高 か っ た こ と か ら 、 書 き 取 り に お い て は 視 覚 認 知 能 力 が よ り 重 要 で あ る と 示 唆 し て い る 。 ま た 郡 司 ら (2015)は 42 ヶ 月 か ら 77 ヶ 月 の 幼 児 を 対 象 に 、ひ ら が な 書 字 に 関 わ る 認 知 的 要 因 を 、 特 に 視 覚 運 動 統 合 能 力 の 観 点 か ら 検 討 し て い る 。 線 引 き や 点 つ な ぎ に よ る 見 本 図 描 画 、 三 角 形 の 模 写 課 題 と の 関 係 を 指 摘 し て い る 。 以 上 の よ う に 、 ひ ら が な の 獲 得 期 に つ い て は 視 覚 情 報 処 理 能 力 と の 関 係 を 示 し た 報 告 が 多 く 存 在 す る 。 後 藤 ら (2010) は 視 覚 情 報 処 理 の 過 程 を 、 視 機 能 、 視 知 覚 、 視 覚 認 知 機 能 、 視 覚 性 記 憶 機 能 の 4 過 程 に 分 類 し 、 操 作 的 に 定 義 を し て い る 。 視 機 能 は「 視 力 、視 野 、コ ン ト ラ ス ト 感 度 、色 覚 、両 眼 視 機 能 お よ び 眼 球 運 動 機 能 な ど の 各 機 能 」、視 知 覚 を「 対 象( 形 態 や 物 体 )を 知 覚 す る た め に 必 要 な 視 覚 情 報 の 処 理 」、視 覚 認 知 機 能 を「 知 識 に 依 存 し た 対 象 の 形 態 に 関 す る 視 覚 情 報 の 処 理 」、 視 覚 性 記 憶 機 能 を 「 視 覚 情 報 の 符 号 化 ・ 保 持 ・ 想 起 」 と し て い る 。 こ れ ら の 一 連 の 処 理 に 求 め ら れ る 能 力 を 、 視 覚 情 報 処 理 能 力 と 呼 ぶ 。 書 き に 必 要 と な る 能 力 で 指 摘 さ れ て い る の は 、 こ の う ち 視 知 覚 ・ 視 覚 認 知 機 能 に 相 応 す る 。 ま た 猪 俣 ら (2016) は 年 長 児 の 読 み 書 き 習 得 に 関 わ る 認 知 機 能 と 家 庭 内 の 読 み 書 き に 関 連 し た 環 境 要 因 に つ い て 検 討 し て い る 。 こ の 報 告 に よ れ ば 、 ひ ら が な 音 読 に 家 庭 で の 読 書 活 動 の 頻 度 や 文 字 指 導 の 頻 度 等 の 環 境 要 因 は 関 与 し な か っ た が 、 ひ ら が な 書 字 の 習 得 に お い て は 、 家 庭 で の 書 字 指 導 頻 度 が 関 与 し た 。 読 み 書 き の う ち 、 特 に 書 字 行 為 に 関 し て は 個 人 の 認 知 能 力 の 要 因 に 加 え て 環 境 的 な 要 因 も そ の 獲 得 期 に は 影 響 を 与 え て い る と い え る 。 第 2 節 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 背 景 要 因 ① 音 韻 処 理 能 力 読 み の 習 得 や そ の 障 害 の 中 心 的 な 認 知 要 因 と し て の 音 韻 処 理 能 力 の 役 割 は 、 ア ル フ ァ ベ ッ ト 圏 を 中 心 に 解 明 さ れ て き て い る 。 国 際 デ ィ ス レ ク シ ア 協 会 の 定 義 に も 明 記 さ れ る よ う に 、 英 語 圏 で は 文 字 記 号 の 音 声 化 、 つ ま り 音 韻 情 報 処 理 過 程 の 障 害 が 背 景 に あ る こ と が 知 ら れ て い る 。 英 語 の 文 字 数 は ア ル フ ァ ベ ッ ト 26 文 字 と 少 な い が 、文 字 と 音 素 の 対 応 関 係 は 極 め て 複 雑 多 岐 に わ た る た め 、 音 韻 処 理 能 力 と そ の 自 動 化 能 力 に 負 荷 が か か る と さ れ て い る 。 日 本 語 デ ィ ス レ ク シ ア に つ い て も 、 ア ル フ ァ ベ ッ ト 圏 で の 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 音 韻 処 理 能 力 に つ い て 検 証 す る 流 れ に の り 、 同 様 に 音 韻 処
18 理 能 力 に つ い て の 研 究 が 盛 ん に 行 わ れ て き た 。 特 に ア ル フ ァ ベ ッ ト と 同 様 に 表 音 文 字 で あ る ひ ら が な や カ タ カ ナ の 読 み 書 き に 困 難 を 示 す 事 例 を 中 心 に し て 、 音 韻 処 理 能 力 の 低 下 を 認 め る 報 告 が 蓄 積 さ れ て い る 。 し か し 、 日 本 語 の ひ ら が な ・ カ タ カ ナ は 文 字 数 は ア ル フ ァ ベ ッ ト に 比 し て 多 く な る も の の 、 文 字 と 音 素 の 関 係 は 比 較 的 平 易 で あ る た め 音 韻 処 理 能 力 に は 英 語 ほ ど の 大 き な 負 荷 が か か ら な い と 考 え ら れ て い る 。 日 本 語 の 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア で は 音 韻 処 理 能 力 の 障 害 単 独 で は な く 、 視 覚 情 報 処 理 能 力 の 障 害 を 併 せ 持 つ こ と が 知 ら れ て い る 。 第 3 節 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 背 景 要 因 ② 視 覚 情 報 処 理 能 力 1 . 日 本 語 圏 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア に お け る 視 覚 情 報 処 理 能 力 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 背 景 要 因 の 解 明 は 音 韻 処 理 能 力 の 障 害 を 中 心 に 進 ん で き た 歴 史 が あ る が 、 本 邦 で は 音 韻 処 理 能 力 の 障 害 に 加 え て 視 覚 情 報 処 理 能 力 の 障 害 を 併 せ 持 つ こ と が 多 い こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 前 述 の 音 韻 処 理 能 力 へ の 負 荷 が 言 語 に よ っ て 異 な る の と 同 様 に 、 視 覚 情 報 処 理 能 力 も 言 語 の 違 い に 由 来 し て 視 覚 情 報 処 理 過 程 の う ち ど の 過 程 が ど の 程 度 関 与 し て い る か は 異 な る こ と が 想 定 さ れ て い る 。 ア ル フ ァ ベ ッ ト は 一 文 字 ご と の 視 覚 情 報 が 少 な く 形 状 も シ ン プ ル で あ る が 、 日 本 語 は 文 字 種 が ひ ら が な ・ カ タ カ ナ ・ 漢 字 の 3 種 類 が 存 在 し 、 特 に 漢 字 は 形 状 自 体 が 複 雑 で あ り 視 覚 情 報 処 理 能 力 に 負 荷 が か か り や す い と 考 え ら れ て い る 。 ま た 音 韻 の 最 小 単 位 が モ ー ラ で あ り 英 語 圏 に 比 し て そ れ ほ ど 詳 細 な 音 韻 特 徴 の 分 析 が 必 要 と な ら な い 日 本 語 の 特 徴 に よ り 、 日 本 語 圏 の 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア で は 視 覚 情 報 処 理 障 害 を 示 す 報 告 が 多 い( 春 原 ら , 2005;橋 本 ら ,2006;藤 吉 ら ,2010;後 藤 ら ,2010;粟 屋 ら ,2012;奥 谷 ら ,2011; 蔦 森 ら , 2012; 宇 野 ら , 2015; 三 盃 ら , 2016)。 音 読 流 暢 性 の 低 下 の 背 景 に 視 機 能 の 問 題 が あ る か ど う か に つ い て は 議 論 が 分 か れ て い る も の の ( 金 子 ら ,2002; 奥 村 ら , 2006; 後 藤 ら , 2010)、 上 記 の よ う に 書 字 正 確 性 の 低 下 背 景 に 視 知 覚 ・ 視 覚 認 知 機 能 や 、 特 に 視 覚 性 記 憶 機 能 を 指 摘 す る 報 告 が 多 い 。 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 背 景 に 視 覚 情 報 処 理 能 力 の 低 下 が 存 在 す る こ と は 確 か で あ ろ う が 、 報 告 に よ り 用 い ら れ て い る 視 覚 情 報 処 理 能 力 の 評 価 指 標 は 多 岐 に わ た っ て お り 、 一 貫 し た 知 見 の 蓄 積 が な さ れ て き て い る と は 言 い 難 い 。 そ の 中 で も 比 較 的 多 く の 研 究 や 臨 床 場 面 で 用 い ら れ て い る 課 題 と し て 、Rey-Osterrieth Complex Figure Test が 挙 げ ら れ る 。
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2. Rey-Osterrieth Complex Figure Test( 以 下 ROCFT)
ROCFT は 、Rey( 1941)に よ っ て 脳 損 傷 患 者 の 視 空 間 知 覚 や 視 覚 構 造 化 、視 覚 記 憶 を 評 価 す る こ と を 目 的 と し て 作 成 さ れ た 。そ の 後 Osterrieth (1944) に よ っ て 健 常 成 人 の 成 績 が 集 め ら れ 標 準 化 さ れ て お り 、 臨 床 場 面 で 頻 繁 に 使 用 さ れ る 伝 統 的 な 神 経 心 理 学 的 検 査 の 一 つ で あ る と い え る 。 ROCFT は 34 の 線 分 と 内 部 に 3 つ の 点 を 持 つ 円 か ら な る 複 雑 な 幾 何 図 形 を 題 材 に 、 模 写 及 び 再 生 を 求 め る 課 題 で あ り 、 短 時 間 で 極 め て 簡 便 に 実 施 す る こ と が で き る 。ROCFT は Rey が 最 初 に 開 発 し た 際 に は 、 模 写 課 題 及 び 3 分 後 再 生 課 題 か ら の み 成 り 立 っ て い た 。 し か し 現 在 一 般 的 に 用 い ら れ て い る の は 、 模 写 課 題 、 直 後 再 生 課 題 、 遅 延 再 生 課 題 を 行 う 方 法 で あ る 。ま た 模 写 時 の 際 に は 、「 図 形 を 模 写 す る こ と 」の み を 教 示 し 、記 憶 の 検 査 で あ る こ と を 被 検 者 に は 知 ら せ な い 、 非 意 図 的 な 偶 発 的 学 習 で あ る こ と が こ の 検 査 の 特 徴 で あ る 。 採 点 は 、 一 般 的 に は Osterrieth に よ っ て 標 準 化 さ れ た 36 点 満 点 で の 方 法( 以 下 Osterrieth 法 )が 用 い ら れ て い る 。Osterrieth 法 で は 、図 形 を 18 の ユ ニ ッ ト に 分 類 し 、そ れ ぞ れ 2 点 で 評 価 す る 。評 価 は 、正 確 な 形 で 正 確 な 位 置 に 描 か れ て い れ ば 2 点 、 不 正 確 な 形 で 正 確 な 位 置 に 描 か れ て い れ ば 1 点 、 正 確 な 形 で 不 正 確 な 形 に 描 か れ て い れ ば 1 点 、 不 正 確 な 形 で 不 正 確 な 位 置 に か か れ て い れ ば ( 目 標 の ユ ニ ッ ト が 判 別 で き る 程 度 で あ れ ば )0.5 点 を 加 算 し て い き 、 満 点 は 36 点 と な る 。 こ の 18 の ユ ニ ッ ト は 採 点 の 上 で は そ れ ぞ れ 2 点 満 点 と 等 価 な も の と し て 扱 わ れ て い る が 、 同 じ 難 易 度 が 保 障 さ れ て は い な い 。 八 杉 ら (2008) は 再 生 課 題 に お け る 18 の ユ ニ ッ ト そ れ ぞ れ の 難 易 度 を 検 討 し て い る が 、そ の 難 易 度 の 差 が 生 じ る 理 由 に ま で は 言 及 し て い な い 。 ま た 短 時 間 で 簡 便 に 実 施 が で き る 検 査 で は あ る が 、 採 点 や 結 果 の 処 理 は や や 煩 雑 で あ る 。 ROCFT が 臨 床 場 面 や 研 究 場 面 で の 適 用 が 広 ま る に つ れ て 、Osterrieth 法 で 評 価 さ れ る 量 的 な 側 面 の 用 法 だ け で は な く 、 構 成 方 略 や プ ラ ン ニ ン グ と い っ た 描 画 の 最 中 に 得 ら れ る 質 的 な 側 面 つ い て も 評 価 方 法 が 考 案 さ れ て き た 。代 表 的 な も の に 、Waber&Holmes( 1985)に よ っ て 考 案 さ れ た 、線 分 や 交 点 の 数 を 正 確 さ の 指 標 と す る 構 成 の 程 度 を 評 価 す る 方 法 や 、 複 数 の 色 鉛 筆 を 用 い て 色 を 変 え な が ら 書 く こ と で 構 成 方 略 を 評 価 し よ う と す る Charvinsky ら ( 1992) に よ る 方 法 、 実 行 機 能 の 測 定 に 有 効 で あ る と も 言 わ れ て い る ボ ス ト ン 質 的 採 点 シ ス テ ム(The Boston Qualitative Scoring System: BQSS, Sami et al.2003) と い っ た 方 法 が あ る 。
20 3. 日 本 語 読 み 書 き と ROCFT 前 述 の 通 り 、児 童 生 徒 の 読 み 書 き の 苦 手 さ の 背 景 要 因 の 精 査 に ROCFT は 頻 回 に 用 い ら れ て い る 。春 原 ら(2005)、粟 屋 ら( 2011)は 、書 字 指 導 の 報 告 例 に お い て Osterriteh 法 で 実 施 し た ROCFT で 模 写 、 直 後 再 生 、 遅 延 再 生 の 3 条 件 全 て で 低 下 を 示 し た 例 と 、 直 後 再 生 お よ び 遅 延 再 生 で 低 下 を 示 し た 例 の 双 方 を 報 告 し て い る 。橋 本 ら(2006)、藤 吉 ら( 2010)、 奥 谷 ら(2011)、蔦 森 ら( 2012)、宇 野 ら( 2015)、三 盃 ら( 2016)、荻 布 ら (2018 ) は 、 書 字 困 難 事 例 や 書 字 指 導 を 実 施 し た 報 告 で 対 象 児 の Osterrieth 法 を 用 い た ROCFT の 直 後 再 生 お よ び 遅 延 再 生 、 あ る い は 遅 延 再 生 の 得 点 の 低 下 を 示 し て い る 。 小 田 部 ら (2015) は 発 達 性 読 み 書 き 障 害 児 に BQSS 法 で ROCFT を 実 施 し 、 3 条 件 い ず れ に お い て も 得 点 低 下 を 認 め な か っ た 事 例 と 、 遅 延 再 生 で 得 点 低 下 を 認 め た 事 例 を 報 告 し て い る 。同 じ く BQSS 法 で 実 施 し た 眞 田 ら( 2014)は 読 み や 書 き な ど 学 習 に 困 難 を 抱 え る 児 童 は 構 成 力 や 描 画 過 程 に 困 難 を 少 な か ら ず 認 め る と 指 摘 し て い る 。 発 達 性 読 み 書 き 障 害 事 例 報 告 で ROCFT を 使 用 し て い る の は 書 字 に 関 す る 報 告 が 中 心 で あ り 、 再 生 条 件 で の 得 点 低 下 を 指 摘 し て い る も の が 多 い 。 ま た 調 査 研 究 で は 、前 述 の 後 藤 ら(2010)は 発 達 性 読 み 書 き 障 害 児 20 名 と 定 型 発 達 児 59 名 で の 認 知 機 能 を 比 較 し 、発 達 性 読 み 書 き 障 害 群 は 定 型 発 達 群 に 比 し て ROCFT3 条 件 全 て で 低 下 す る 傾 向 に あ っ た こ と を 報 告 し て い る 。 こ の 発 達 性 読 み 書 き 障 害 群 は 、 全 例 で 書 字 成 績 が 定 型 発 達 児 の-1SD を 下 回 っ て い た 。 読 字 と ROCFT と の 関 係 を 検 討 し た 報 告 は 、 松 本 ら(2009)と 春 原 ら( 2011)が あ る 。松 本 ら は 発 達 障 害 児 を 中 心 と し た 小 学 生 42 名 に 対 し 、読 み 正 確 性 に つ い て 読 み 困 難 群 と 読 み 困 難 な し 群 に わ け ROCFT 得 点 を 検 討 し た と こ ろ 、 3 条 件 い ず れ に お い て も 有 意 差 を 認 め な か っ た 。 春 原 ら は 定 型 発 達 児 872 名 を 対 象 に 読 み 流 暢 性 と そ の 背 景 に あ る 認 知 機 能 を 重 回 帰 分 析 を 用 い て 検 討 し た と こ ろ 、ROCFT は 音 読 速 度 に 影 響 す る 因 子 と し て 抽 出 さ れ な か っ た 。以 上 の よ う に ROCFT と 読 字 と の 関 係 を 否 定 す る 知 見 は 存 在 し て お り 、現 状 で は 、ROCFT は 書 字 と の 関 連 が 想 定 さ れ た 上 で 臨 床 応 用 が な さ れ て い る 。 本 邦 で ROCFT と 書 字 と の 関 連 を 直 接 的 に 検 討 し た 知 見 は 、 非 常 に 限 定 的 で は あ る が 、 筆 者 の 知 り う る 限 り で は 久 保 田 ら (2007) と 岩 田 ら (2015) の 報 告 が あ る 。 久 保 田 ら は 、 2 年 生 お よ び 4 年 生 の 定 型 発 達 児 を 対 象 に BQSS 法 を ア レ ン ジ し た 独 自 の 採 点 方 法 を 用 い て 模 写 お よ び 直 後 再 生 と 漢 字 成 績 お よ び エ ラ ー 傾 向 に つ い て 相 関 係 数 を 算 出 す る こ と で
21 検 討 し て い る 。 こ の 報 告 に よ る と 模 写 に 比 し て 直 後 再 生 で よ り 漢 字 の 正 答 、 無 回 答 、 誤 字 と 強 い 関 係 を 示 し て お り 、 形 態 構 成 能 力 と 細 部 へ の 注 意 が 書 字 行 為 に 対 し て 重 要 な 要 素 で あ る と し て い る 。 岩 田 ら は 学 習 に 困 難 を 抱 え る 小 学 生 を 対 象 に Osterriteh 法 で の ROCFT 得 点 と 文 章 の 書 き 写 し 速 度 の 関 係 を 、 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 有 無 ( 音 読 流 暢 性 の 低 下 の 有 無 ) に よ り 2 群 に 分 け て 検 討 し て い る 。 そ の 結 果 、 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア 群 で ROCFT 模 写 と 書 き 写 し 速 度 の 間 に 中 程 度 の 相 間 を 、 両 群 で 直 後 再 生 と 書 き 写 し 速 度 そ の 間 に は 有 意 傾 向 を 認 め て い る 。 こ の よ う に ROCFT を 発 達 性 デ ィ ス レ ク シ ア の 評 価 に も ち い る に あ た っ て 、 読 み 書 き 能 力 と の 関 係 に つ い て い く つ か の 側 面 か ら は 検 討 が な さ れ 始 め て い る 。