医療情報学会・人工知能学会 AIM 合同研究会資料 SIG-AIMED-002-14
バングラデシュ遠隔診療実験のデータを用いた
薬の処方に関連する重要因子の抽出とその解釈
Extracting Important Factors of Prescribing Medicine by Data
Analysis of Tele-Medical Intervention Program in Bangladesh
野原 康伸
∗Min Hu
中島 直樹
Yasunobu Nohara
Min Hu
Naoki Nakashima
九州大学病院
Kyushu University Hospital
Abstract: Clinical decision-making is one of the important jobs for doctors. Doctors need to collect various information to make clinical decision. Only doctors can make clinical decisions; however, other clinical staffs such as nurses can collect information for decisions. If we can collect various information in advance for decision making by doctors, doctors can reduce their time for collecting data. The pre-data collection leads to a reduction of cost of medical care. In this paper, we analysis the prescription data of 4,543-subjects of the health checkup and tele-medical intervention program in Bangladesh. We generate a prediction model whether the each of 51-medicines is prescribed or not using 5,427 explanatory variables using tree based machine learning algorithms and extracts important factors related to the prescribing each medicine. These variables are also important information for doctors to make clinical decisions. We also show how the variable relates to prescribe drugs.
1
はじめに
途上国において医療インフラは多くの問題を抱えて いる。保健医療に関する社会整備が未成熟な上、不足 する医療インフラや人的資源が大都市に集中しており、 農村部では医療を受ける環境が特に乏しい。一方で、携 帯電話網は途上国においても急速に広がっており、携 帯電話網を通じた医療アドバイスを提供するサービス は、バングラデシュを始めとする途上国においても代 替医療サービスとして広く使われるようになってきて いる。我々は Portable Health Clinic (PHC) という、遠隔 診療プログラムをバングラデシュにおいて実施してい る [1]。PHC では、アタッシュケースに各種健診機器や 携帯網に接続可能なタブレット端末を搭載した健診パッ ケージを作成し、パッケージと共にスタッフを田舎な どに派遣する。健診パッケージを用いて、健康診断を 実施し、参加者をリスク別に自動分類する。重症と判 ∗連絡先: 九州大学病院 〒 812-8582 福岡市東区馬出 3-1-1 E-mail: [email protected] 断された者に対しては、携帯電話網を通じた遠隔診療 を実施するとともに、処方箋を発行した。これまでの プログラムにおいて、バングラデシュ全土で 16,741 名 の者が健康診断を受けるとともに、重症と判定された 4,543 名に対して Skype を用いた遠隔診療を提供した。 PHC プログラムは人々の健康を改善する効果があっ たものの [1]、今後さらなる展開を広げるためには、よ りコスト削減を進めていく必要がある。医師は他のス タッフと比べて人件費が高いため、PHC プログラムに おいてコストの多くを占めており、その業務の効率化 が求められている。医師にしかできない重要な仕事の 一つに、診療の意思決定がある。意思決定を行うため には、さまざまな情報(問診や検査結果)を収集する 必要がある。その情報収集は、医師だけではなく、看護 師などであっても行うことができる。医師が必要とす る情報を事前に効率よく収集することができれば、医 師が情報収集にかける手間を減らすことができ、患者 一人に対する医師の診療時間を短縮できる。診療の効 率化により、少ない医師で多くの患者を救えるばかり でなく、医療費の削減にもつながる。
しかしながら、やみくもに情報を収集すればよいわ けではない。例えば、血糖検査であれば 1 回あたり、数 百円のコストがかかり、途上国では全員に対して実施 するのはコスト面で特に負担が大きい。事前に、患者 の生活習慣を問診したり、低コストで測定できる体重 や血圧、検尿などを実施して、リスクが特に高いと考 えられる人に対して実行する必要がある。 本論文では、PHC で得られた 4,543 件の処方箋デー タを用いて、薬の処方に関するルールを抽出すること を考える。説明変数として診療に関連する様々な情報 を、目的変数を診断結果 (ある薬を処方するか否か) と するような予測器を作成し、どのような説明変数が処 方予測に関連するかを解析する。この予測に大きく寄 与する因子が、その診断を行うにあたって重要な情報 だと考えられ、看護師等が事前に収集することで診察 の効率化を図れる可能性がある。また、その因子がな ぜ処方予測に有用なのかを検討するため、重要因子が どのような時にどのような診断がされやすいかを可視 化し、その解釈を試みる。
2
方法
2.1
データ収集方法と目的変数
我々は Portable Health Clinic (PHC) という、遠隔 診療プログラムをバングラデシュにおいて実施した [1]。 看護師を含む 10 名程のチームを編成し、まず健康診査 を実施した。会場へ容易に持ち運べて健診ができるよ うに、アタッシュケース型の健診パッケージを開発し た。パッケージは、6 種の通信機能付き検査機器 (体重 計、血圧計、体温計、血糖計、パルスオキシメータ、電 子メジャー)、2 種の測定器具 (尿検査紙 [糖・蛋白・ウ ロビリノーゲン]、ヘモグロビン測定器)、携帯プリンタ とタブレットから構成した。
通信機能付き検査機器の測定結果は Body Area Net-work (IEEE802.15.6) を通じて、タブレットに自動転送 した。タブレットでは国際的診断基準をもとに我々が 策定した基準 (B-logic) に従って、測定項目ごとに受診 者を自動的に「健康 (緑)」「要注意 (黄)」「要治療 (橙)」 「要緊急治療 (赤)」の 4 階層 (色) に分類した。全測定 項目の中で、一番悪い色をその人の総合判定結果とし た。さらにタブレットは、集約した測定結果・判定結 果を携帯通信網により、首都ダッカのコールセンター に転送した。 コールセンターには、医師が駐在し、「要治療」「要 緊急治療」と判定された受診者に対して、Skype によ る遠隔診療を実施した。医師は健診結果や問診・遠隔診 療に基づき、健康アドバイスや遠隔で処方箋を発行し た。健診結果や処方箋は、携帯プリンタで印刷し、保 健指導パンフレットと共に受診者に手渡した。 2012 年 7 月から 2014 年 3 月の 2 年度に渡って、実験 を行った。16,741 名のユニークユーザが健康診断を受 診し、重症と自動判別された 4,543 名に対して、Skype を用いた遠隔診療を提供し、処方箋の発行を行った。表 1 は、本研究において 50 回以上処方された薬 (一般名) を示している。51 種類の薬があり、各薬が処方された か否かを目的変数 (アウトカム) として解析を行う。
2.2
説明変数
本解析では、5,427 変数を薬処方予測に対する説明変 数として用いる。使用する説明変数は、大きく 4 つの種 類に分けられる。以下、種類ごとにその詳細を述べる。 2.2.1 患者情報および計測結果 [49 変数] 患者情報には、性別や年齢、健診場所 (15ヶ所)、健 診場所のタイプ (Rural, Sub-urban, Urban)、健診時 期が含まれる。計測を実施したもの、ウエスト、ヒッ プ、身長、体重、収縮期血圧、拡張期血圧、血糖、血 糖測定時期 (空腹時 or 食後)、尿たんぱく、尿糖、尿ウ ロビリノーゲン、心拍数、不整脈の有無、血中酸素濃 度 (SpO2) である。これらの測定結果から計算される ウエストヒップ比、BMI も説明変数として用いる。 2.2.2 質問票 [186 変数] 医師が遠隔診療を行うに先立って、現地のスタッフ により、問診が実施される。問診は、あらかじめ定め られた質問票に従って行われる。質問票は、日本の特 定健診の質問票をベースとして作成されており、現在 の症状や病気歴、服用している薬、喫煙の有無、ここ 1 年間の体重の変化、運動習慣、歩行速度などの項目 が含まれている。また、職業や薬のアレルギーの有無、 手術歴に関しても質問しており、全部で 31 個の質問項 目がある。質問項目の中には、複数選択のものも含ま れているので、ダミー変数化した 186 変数を説明変数 として用いる。 2.2.3 主訴テキスト [4,429 変数] 主訴テキスト (Chief complaint) は、患者が述べた 症状がフリーテキストで書かれる。使用言語は英語で ある。 主訴テキストから、N-gram(N = 1,· · · , 5) を抽出し、 その出現頻度を説明変数として用いる。N-gram とは、 連続する N 個の単語のペアあり、例えば、‘chest pain’ (胸痛) は、2-gram の一種である。抽出された N-gram は全部で 4429 個であり、その内訳は、1-gram で 547図 1: バングラデシュにおける医薬品分類の抜粋 (解熱 鎮痛剤)
個、2-gram で 1233 個、3-gram, 4-gram, 5-gram でそ れぞれ 1203、881、565 個であった。 2.2.4 同時処方薬 [763 変数] ある薬が処方される場合に、別の薬と共に同時に処 方される場合があるが、この同時処方された薬も説明 変数として用いる。 薬は、その内容物や、使用目的などに応じて、さま ざまに分類できる。図 1 は、バングラデシュで用いら れている医薬品分類 [2] から、解熱鎮痛剤のカテゴリに 属するものを抽出してきたものである。例えば、商品 名 ACE という薬は、一般名という観点から見ると「パ ラセタモール (日本ではアセトアミノフェンの名前で も知られる)」、薬種の観点からだと「非オピオイド解 熱剤」、使用目的は「解熱鎮痛剤」と様々な見方ができ る。どの観点から解析するべきかをデータのみに基づ いて判断するため、すべての分類における情報を用い る。すなわち、商品名 ACE という薬が同時処方された 場合は、ACE のみだけでなく、パラセタモール、非オ ピオイド解熱剤、解熱鎮痛剤の各変数を真とするよう な説明変数を用いる。 同時処方薬の情報は、医師が下した臨床判断の情報 そのものを含む可能性があるため、事前データ収集に 用いることができない可能性がある。この問題につい ては、4 章で議論する。
2.3
解析方法
医療データには非線形性が存在することと、変数重要 度が解析結果を解釈するのに有用なことから、本論文で は、決定木をベースとした機械学習手法である Gradient Boosting Decision Tree (GBDT) [3] を解析に用いる。 GBDT を用いて、各薬が処方されるか否かを 5,427 個 の説明変数で予測し、各薬の処方に強く関連している のはどの説明変数か、その説明変数がどう処方に影響 を与えているかを解析する。 2.3.1 ブートストラッピング法 予測モデルの性能を測定するため、ブートストラッピ ング法を用いる。大きさ n のデータセット D が与えら れたとき、ここから重複ありでランダムに n 個のデー タをサンプリングし、訓練データセット Dtとする。Dt における n 個のデータ中、63.2%(= 1− e−1) のデータ がユニークであることが期待される。訓練データセッ ト Dtとして一度も選ばれなかったデータ D− Dtを 検証用データセット Dvとして用いる。Dvは、平均し て元のデータセットの 36.8%のデータに当たることに なる。Dtを用いて学習し、Dvを用いて、AUC (area under curve) を評価することで、予測モデルの正確性 を検証する。この際、各説明変数の変数重要度の計算 も併せて行う。 上記手順を 20 回測定し、AUC と各変数の重要度の 平均を計算する。2.3.2 Partial Dependence Plot
決定木をベースとした機械学習手法では、各説明変 数が目的変数の予測にどれだけ寄与しているかを示す 変数重要度を計算することができる。しかし、変数重 要度は説明変数と目的変数の関連性の強さを示すのみ で、説明変数の値が変化したとき、目的変数がどのよ うに変化するかは分からない。
PDP(Partial Dependence Plot; 部分従属グラフ) は、 Friedman [3] が提案した、高次元関数を可視化するた めの手法の一つであり、目的変数と説明変数の関係を 示すのに有用である。f (x1, x2,· · · , xp) を p 個の説明変 数を用いてアウトカムを予測する予測器とし、i∈ [1, p] 番目の説明変数 xiの効果を可視化することを考える。 このとき PDP を表す Fi(x) は、式 (1) で与えられる。 Fi(x) = 1 N N ∑ j=1 f (xj1,· · · , xji−1, x, xji+1,· · · , xjp) (1) ここで、xj iは、ユーザ j∈ [1, N] の i 番目の説明変数の 値を表すものとする。式 (1) は、N 人全てのユーザの、 効果を見たい説明変数 xiを全て x に変化させたと仮定 したときのアウトカムの平均であると見ることができ る。Fi(xa) と Fi(xb) では、i 番目の説明変数をそれぞ れ xaと xbに変えただけで、その他の説明変数は全て 同じものを用いている。したがって、Fi(xb)− Fi(xa) は、他の説明変数の影響を除去した、i 番目の説明変数
図 2: パラセタモール処方予測への影響度の高い説明 変数トップ 20。予測に対する寄与が高いほど変数ほど 高いゲインを持つ を xaから xbに変えた時の純粋な変化を表していると 解釈できる [4, 5]。本論文では、ある説明変数がアウト カムに与える影響を解釈するための手法として、PDP を用いる。
3
結果
5,427 個の説明変数を用いて、51 種類の各薬が処方 されたか否かを予測するような予測器を GBDT を用い て作成し、重要な説明変数の抽出と、その変数がどの ように各薬の処方に関連したかを解析した。本章では、 3 種類の薬の処方に関してその解析結果と解釈を示す。 一つ目は、最も多く処方された薬である。続いて、同 時処方薬の情報なしに予測し最も AUC が高く予測精 度が高かった薬に関してである。最後に、同時処方薬 の情報を用いた場合の AUC が最も高かった薬につい て示す。3.1
最も処方数が多かった薬
パラセタモール (日本ではアセトアミノフェンの名で も知られる) は、PHC において最も処方された薬 (N = 570) である。パラセタモールは、解熱鎮痛剤として用 いられる、非オピオイド系の薬である。パラセタモー ルの処方予測における AUC(同時処方薬の情報あり) は、0.931 であり、高い予測精度であった。図 2 は、パ ラセタモール処方予測への影響度が高い説明変数トッ プ 20 を示した、変数重要図である。 主訴テキストにおける ‘. back’(背), ‘headache’(頭 痛)、そして ‘fever’(発熱) の記述が、パラセタモール の処方に強く関連していることが分かる。また、非ス テロイド性抗炎症薬 (NSAID) の薬の同時処方の有無、 (a) 主訴テキストにおけ る ‘. back’(背) の記述 (b) 主訴テキストにおける ‘headache’(頭痛) の記述 (c) 非ステロイド性抗炎症 薬 (NSAID) の同時処方 (d) 体温 図 3: パラセタモール処方に関する Partial Dependence Plot 体温も関連が強いことわかる。図 3 は、これらの説明 変数とパラセタモールの処方の関連性を示す Partial Dependence Plot である。図において、薄い線は、ブー トストラッピング法の各試行における PDP であり、太 い線は全試行における PDP の平均を示している。 図 3-(a) および (b) の PDP は、主訴テキストにおけ る ‘. back’(背部), ‘headache’(頭痛)の記述が、パラセ タモールが処方されるリスク (可能性) を高めることを 示している。主訴テキストにおいて、‘. back’ は 160 回 出現したが、1 件を除いて ‘. back pain’(背部痛) という 記述であった。パラセタモールは、炎症を抑える効果 があることから、背部の炎症を抑える目的で処方され たと考えられる。back の前にピリオドが存在するのは、 ‘back pain’(背部痛) と ‘low back pain’(腰痛) を区別す るためと考えられる。ピリオドがないと ‘back pain’ と ‘low back pain’ を区別することができないが、‘. back pain’ であれば区別することができるためである。 図 3-(c) の PDP は、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID) の同時処方がパラセタモールの処方リスクを減らすこ とを示ししている。NSAID に属する薬は、パラセタ モールと同様に解熱鎮痛効果を有している。解熱鎮痛 効果を目的に薬を処方しようとした医師は、パラセタ モールもしくは NSAIDs のどちらかを処方することを 考え、NSAIDs が処方された場合は、パラセタモール の処方のリスクが低くなったものと考えられる。 図 3-(d) の PDP は、体温が 37 ℃を超えると、パラセ タモールの処方リスクが高まることを示している。解 熱効果を狙ったものと考えられる。図 4: 3 つの経口血糖降下薬処方に関する血糖の影響を 示す PDP
3.2
同時処方薬の情報なしで処方の予測精
度が高かった薬
同時処方薬の情報を用いずに処方薬を推定した場合に おいて、予測精度を表す AUC が高かったトップ 3 の薬 は、グリクラジド (AUC=0.964, n=84)、メトフォルミ ン (AUC=0.951, n=220)、グリメピリド (AUC=0.944, n=54) であった。3 つの薬は、すべて経口血糖降下薬 で、糖尿病治療を目的としたものであり、血糖や尿糖 が高い患者に処方される。 図 4 は、3 つの経口血糖降下薬の処方に関する血糖 の影響を示した PDP である。薬の種類によって、処 方に対する閾値が異なることが見て取れる。グリクラ ジドは比較的弱い薬であり、比較的血糖が低い糖尿病 患者 (概ね 140mg/dl) から処方され始めている。メト フォルミンは、強い薬であり高い血糖 (概ね 170mg/dl 以上) の者に投与されている。 本解析結果は、実験で得られたデータのみに基づい て行っており、事前の医療知識は用いていないにもか かわらず、糖尿病の専門医 (本論文の共著者) のこれま での臨床経験とよく一致していた。3.3
同時処方薬の情報も用いた処方の予測
精度が高かった薬
同時処方薬の情報も用いて処方薬を推定した場合にお いて、予測精度の高かった薬は、グリクラジド (AUC=0.971, 1 位) 、メトフォルミン (AUC=0.957, 4 位)、グリメ ピリド (AUC=0.950, 6 位) 、ジクロフェナクナトリ ウム (AUC=0.960, n=149 , 2 位)、インドメタシン (AUC=0.957, n=98 , 3 位)、アセクロフェナクであっ た (AUC=0.952, n=125 , 5 位)。前者 3 つは、前節でも 述べた経口血糖降下薬の一種であり、後者 3 つは、非 ステロイド性抗炎症薬(NSAID) の一種である。図 5: Variable importance plot of prescribing di-clofenac sodium 図 5 は、ジクロフェナクナトリウムの処方に関する 変数重要図である。主訴テキストにおける ‘joints .’(関 節)や ‘joints’(関節)に関する記述が処方と関連が強 いことを示しており、PDP で解析するとこれらの記述 がジクロフェナク処方のリスクを高めることが分かっ た。ジクロフェナクには、抗炎症作用があることから、 関節痛を抑える目的で処方されたと考えられる。 図 5 は、商品名 MYOLAX(筋弛緩剤) や、商品名 OS-TOCAL D(カルシウムとビタミン D の混合製剤) の同 時処方が、ジクロフェナクと強く関連していることを 示している。PDP で確認すると、これらの 2 薬が処方 されると、ジクロフェナクが処方されるリスクが高ま ることが分かった。MYOLAX は、筋肉の緊張を抑え、 ‘OSTOCAL D’ は骨を強くする効果があることから、 これらの薬が同時処方された患者は、関節に問題を抱 えていることが強く示唆される。したがって、これら の薬の同時処方されている場合、ジクロフェナクが処 方される可能性が高いことになる。
4
考察
本章では、同時処方薬の情報を解析に用いることの 是非について検討を行う。処方は医師の意思決定に関 する情報を含む可能性があることから、同時処方薬の 情報は、事前の情報収集に用いることができない可能 性がある。同時処方薬の情報が、予測精度を高める場 合としては 2 つの場合が考えられる。1 つ目は、いく つかの薬が同時処方されやすいという場合である。例 えば、ある薬が胃を荒らす副作用がある場合に、その 症状を抑えるために胃薬が同時処方されるという場合 がある。この場合、同時処方薬の情報は、医師の診断 結果を反映しているので、事前のデータ収集には使う ことができない。医師がある薬を処方すると決定した場合に、同時に処方する薬として診断支援システムが 提案すると行く形でのみ使うことができる。 もう一つの場合が、いくつかの薬は同時に処方され ることがない、もしくは少ないという場合である。同 時処方されない一つの例としては、薬 A と薬 B が併 用禁忌の場合があり、この場合は同時処方薬の情報に 医師の診断結果が含まれている。同時処方されない二 つ目の例は、薬 A と薬 B が同じような効果を有してお り、薬 A もしくは薬 B のどちらかを処方すればよく、 両方同時に処方する必要がない場合である。この場合、 同時処方薬の情報にはどちらの薬を処方するかという 情報しか含まれていない。このような類似の効能を有 する同時処方薬の情報は、事前データ収集に使うこと ができる。
5
関連研究
PHC 研究では、本論文と同じデータを用いて様々な 解析を実施している。甲斐ら [6] は、どのようなアドバ イスが医師によってなされたかを線形モデルを用いて 解析している。馬場ら [7] は、高血糖の患者を、安価な 検査や問診情報を用いて予測する方法を提案している。 予測器により高血糖であるリスクが高い患者を抽出す ることで、高額な血糖検査の実施数を削減し、健診コ ストを削減を図るものである。主訴テキストを用いな い処方薬の予測にも取り組んでいるが、予測の精度を 上げることに注力しており、なぜそのような結果が出 たかについては議論していない。 機械学習は、医療分野においても使われ始めている。 Mi ら [8] は、LASSO などの手法を用いて漢方薬の処方 予測に取り組んでいる。Ruiz ら [9] は、SVM(support vector machine) を用いた吻合部漏出に関するリスク要 因を抽出している。Zeevi ら [10] は、GBDT を用いた 食後血糖の予測器を 800 人のコホートから作成してい る。予測器は、食事内容や運動状況、腸内細菌などの 情報を説明変数として用いており、各患者の個人差に 応じたテーラーメードの食事療法メニュー作成に生か されている。6
おわりに
本稿では、バングラデシュで実施された健康診断・遠 隔診療プログラムである PHC で得られた処方箋デー タの解析を行った。実験データから、各薬の処方にど のような要因が関連しているかを抽出した。これらの 要因は、医師の診断結果にとっても重要な情報である と考えられる。これらの重要情報を、医師の診断に先 立ってあらかじめ看護師などによって収集しておくこ とにより、医師は診断に集中することができる。同じ 時間で大勢の患者を診断することが可能となり、医療 コストの削減にもつながることが期待される。謝辞
本研究は、内閣府最先端研究開発支援プログラム (FIRST) 「超巨大データベース時代に向けた最高速データベース エンジンの開発と当該エンジンを核とする戦略的社会 サービスの実証・評価」による支援を受けて行われま した。参考文献
[1] Yasunobu Nohara, Eiko Kai, Partha Pra-tim Ghosh, Rafiqul Islam, Ashir Ahmed, Masahiro Kuroda, Sozo Inoue, Tatsuo Hira-matsu, Michio Kimura, Shuji Shimizu, Kuni-hisa Kobayashi, Yukino Baba, Hisashi Kashima, Koji Tsuda, Masashi Sugiyama, Mathieu Blon-del, Naonori Ueda, Masaru Kitsuregawa and Naoki Nakashima, “A Health Checkup and Tele-Medical Intervention Program for Preventive Medicine in Developing Countries: A Verification Study”, Journal of Medical Internet Research, Vol. 17, No. 1, p. e2, DOI: 10.2196/jmir.3705, Jan. 2015
[2] BDdrug.com, http://www.bddrugs.com/ [3] Friedman JH. Greedy Function Approximation:
A Gradient Boosting Machine. The Annals of Statistics Vol. 29, No. 5, pp. 1189-1232, Oct. 2001 [4] Yasunobu Nohara, Yoshifuru Wakata and Naoki Nakashima, “Interpreting Medical Information Using Machine Learning and Individual Con-ditional Expectation”, Proceedings of the 15th World Congress on Medical and Health Informat-ics (MedInfo2015), p.1073, Aug. 2015
[5] 野原 康伸, 若田 好史, 中島 直樹, “機械学習によ る医療情報の解釈方法の提案”, 第 1 回医用人工知 能研究会, Vol. 001, No.12, 2015 年 9 月
[6] Eiko Kai, Ashir Ahmed, Sozo Inoue, Atsushi Taniguchi, Yasunobu Nohara, Naoki Nakashima and Masaru Kitsuregawa, “Evolving Health Con-sultancy by Predictive Caravan Health Sensing in Developing Countries”, 2014 ACM UbiComp Workshop on Smart Health Systems and Appli-cations, pp. 1225-1232, Sep. 2014
[7] Yukino Baba, Hisashi Kashima, Yasunobu No-hara, Eiko Kai, Partha Pratim Ghosh, Rafiqul Islam, Ashir Ahmed, Masahiro Kuroda, Sozo Inoue, Tatsuo Hiramatsu, Michio Kimura, Shuji Shimizu, Kunihisa Kobayashi, Koji Tsuda, Masashi Sugiyama, Mathieu Blondel, Naonori Ueda, Masaru Kitsuregawa and Naoki Nakashima, “Predictive Approaches for Low-Cost Preventive Medicine Program in Develop-ing Countries”, ProceedDevelop-ings of the 21th ACM SIGKDD International Conference on Knowl-edge Discovery and Data Mining, pp. 1681-1690, Aug. 2015
[8] X. Mi and H. Ikeda and F. Nakazawa and H. Matsuoka and E. Kataoka and S. Hamaya and H. Odaguchi and T. Ishige and Y. Ito and A. Wakasugi and T. Kawanabe and M. Sekine and T. Hanawa and S. Yamaguchi, “Prescription Prediction towards Computer-Assisted Diagnosis for Kampo Medicine”, International Conference on Computer Application Technologies (CCATS) 2015, pp.126–131, Aug. 2015
[9] Cristina Soguero-Ruiz, Inmaculada Mora-Jim’enez, Jose’ Luis Rojo-A’ lvarez, Kristian Hindberg, , Fred Godtliebsen, Kim Mortensen, Arthur Revhaug, Rolv-Ole Lindsetmo, Stein Olav Skrvseth, Knut Magne Augestad and Robert Jenssen, “Feature selection using Kernel Component Analysis For Early Detection Of Anastomosis Leakage ”, Proc. of 2nd Interna-tional Workshop on Pattern Recognition for Healthcare Analytics, Aug. 2014
[10] David Zeevi, Tal Korem, Niv Zmora, David Israeli, Daphna Rothschild, Adina Weinberger, Orly Ben-Yacov, Dar Lador, Tali Avnit-Sagi, Maya Lotan-Pompan, Jotham Suez, Jemal Ali Mahdi, Elad Matot, Gal Malka, Noa Kosower, Michal Rein, Gili Zilberman-Schapira, Lenka Dohnalov, Meirav Pevsner-Fischer, Rony Bikovsky, Zamir Halpern, Eran Elinav and Eran Segal,“Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses”, Cell, Vol. 163, Issue 5, pp.10791094, Nov. 2015
[11] Daisuke Ichikawa, Toki Saito, Waka Ujita and Hi-roshi Oyama,“How can machine-learning meth-ods assist in virtual screening for hyperuricemia? A healthcare machine-learning approach”,
Jour-nal of Biomedical Informatics, Vol. 64, pp. 20-24, Dec. 2016
表 1: PHC プログラムで 50 回以上処方された薬 (一般 名) の一覧 一般名 N= paracetamol 570 esomeprazole 520 bromazepam 493 Ranitidine 478 omeprazole 473 multivitamin/multimineral 458 Ferrous fumerate 374 ca+vit-d 302 vit-b 283 amlodipine 226 domperidone maleate 226 metformin hydrochloride 220 ciprofloxacin 207 Calcium carbonate 191 flupenthixol dihydrochloride +melitracen hydrochloride 189 tiemonium methylsulfate 182 clonazepam 176 metronidazole 161 ca 151 amitriptyline hydrochloride 150 diclofenac sodium 147 losartan potassium 141 baclofen 139 atenolol+amlodipine 125 propranolol hydrochloride 125 aceclofenac 122 rabeprazole sodium 117 atenolol 111
lactulose concentrate oral solution; tsf 102
indomethacin 98
Ramipril 91
Naproxen sodium 90
dried aluminium hydroxide gel
+magnesium hydroxide+simethicone 88
gliclazide 84
elemental iron+folic acid+zinc 82 fexofenadine hydrochloride 82 Glyceryl trinitrate (nitroglycerin) 81
fluconazole 77
Loratadine 71
cetirizine dihydrochloride 69 Glucosamine sulfate+chondroitin sulfate 67 High potency multivitamin 67 pantoprazole sodium sesquihydrate 65
paracetamol+caffeine 64
zinc+vit-b 63
losartan potassium+hydrochlorothiazide 60 tolperisone hydrochloride 60 oral rehydration solution 57
montelukast sodium 56
glimepiride 54