1.本論文の動機とねらい 著者の一人,藤本は在職中(1978 年~ 2000 年)学 内で障害児を中心に相談活動を続け,その成果は本学の 紀要で発表してきた。1990 年ごろより不登校(中 2) 相談(母と本人,担任)があり,本人の 3 回の相談(ロ ジャーズ流のカウンセリング)で,本人が大阪の学習塾 に行き,大検(当時)も合格,東京の大学を卒業し,学 習塾の先生になったケースもあった。1995 年,私の子(三 男)が不登校となり(高校)“専門家の息子が”と悩ん だが大検を合格,大学,外国で一人で働くなどの経験を 得て結婚,二児(中 3,小 4)の父となった。しかし, 次男は 30 代で大手のゲームセンターの所長になったが 退職,この 20 年ひきこもりである。そして京都市の東 山区「不登校・ひきこもりを考える親の会」“シオンの家” (以下「親の会」)に入り,他の親と悩みを共有し学んだ ので,そのことを社会教育実践として記すこととする。 参考に記するが少子化の中で不登校は基本的に 1980 年代から増え続け(13 万人余),中 3 の 1 万人余りの 不登校児がひきこもりとなる場合が多い(約 50%)。ひ き こ も り の 人 口 は 2020 年 100 万 人 と 推 定( 政 府 ), 2050 年には 1000 万人との推定もあり,社会問題化し ているが,私どもの経験がその解決の糸口になるかとも 考えて論文を作成した。 2.「親の会」設立の経緯 今から 23 年前,著者の一人である大槻の三人の息子 たちが次々と不登校になり,どうしたものかと悩み,市 内に「不登校の子を持つ親の会」があるのを知り,そこ で話を聞いたり,「全国のつどい」があれば参加して, 自分だけでなく,同じように悩んでいる親がいることを 知り,「親の会」が心の支えになっていることに気付いた。 そのころ同じ中学校で子どもが不登校であった上坂と知 り合った。またその当時,映画「あかね色の空をみたよ」 の自主上映運動が地域であった。この映画の原作は『あ かね色の空を見たよ‐5 年間の不登校から立ち上がって』 (堂野博之著,高文研 1998)で,著者は自らの経験を 独特の詩と絵で表現し,定時制高校に入り,先生や仲間 に支えられ,人への信頼と人生の希望を見出すまでをつ づっている。映画の上映運動を進める中,同じ地域にも 不登校の子を持つ親が何人かいることがわかったので, 上坂と大槻が話し合ううち,地元で「親の会」を作った ら,もっと気軽に参加かできるのではと考え,2001 年 9 月に「親の会」を始めた。 3.「親の会」の目的 登校拒否・不登校やひきこもりに於いては,その当事 者である本人の生きづらさ・苦悩が最も大きな課題であ ることは間違いない。しかし,突然,学校に行きたくな い,また,部屋から出ない,外出できない等などが家庭 内で起こった場合,周囲の家族,とりわけ親はパニック に陥ってしまう。学校へ行かないことでの勉強の遅れ, 進学できないのでは,また,ひきこもることで,本人の 将来は閉ざされてしますのではないか。そして,ひきこ もりが長期化することで,現在,深刻な問題となってい る 70-40,80-50 問題(ひきここもり期間が長くなるこ とで,親の年齢が 70 歳,80 歳代になり,本人の年齢 も 40 歳,50 歳代と,お互いに高齢化して,親亡き後 の本人の生活が維持できるのかなどが深刻な課題とな る)に繋がっていくのではないかという,出口の見えな い心情に至ってしまうケースが多い。
−京都,東山区「不登校・ひきこもりを考える親の会」 シオンの家 の歴史を通して−
Learning from Each Other at the Meeting of Parents and Experienced people of
Truant and Hikikomori
− Through the History of House of Shion, a Group of Parents Who think about
Truancy and Hikikomori in Higashiyama-ku, Kyoto −
大槻 明美
*Akemi OTSUKI
上坂 秀喜
*Hideki UESAKA
北村 人美
*Hitomi KITAMURA
藤本 文朗
**Bunro FUJIMOTO
*東山区「不登校・ひきこもりを考える親の会」 シオンの家 **滋賀大学名誉教授 < キーワード> ひきこもり 親,当事者のつどい 社会教育実践登校拒否・不登校やひきこもりでは,本人は家庭内に 留まり続けることが多く,最も身近で対応を迫れられる のが親である。言うなれば,家庭内での最大の援助者は 親ということになる。その親がパニックになり,自身の 不安や苦しみに囚われてしまっては,本人への対応は困 難になるであろう。本人の将来性を心配することは,本 人の苦悩や不安とは別の課題であり,本人のそれとの混 同になってしまうことが,より本人を苦しめる状況を 作ってしまう。 「親の会」では,そのような苦しみの渦にある親の苦 しみを軽くすることを最大の目的にしている。そうする ことで,子どもの苦しみへの冷静な対応ができ,少し優 しく寄り添えができるようになったと,参加者の親の 方々から語られる。 本人からすれば,学校へ行けないこと,ひきこもって いることへの申し訳なさ,うしろめたさを感じており, その上,親の苦しんでいる姿を見ると,自分が親を苦し めているのだという二重の苦しみを味わうことになる (全ての不登校・ひきこもりの家族がそうとは限らない が)。彼らは親の言動,何気ないしぐさをとてもよく観 察している。そして,親の不安感などを敏感に感じ取っ てしまう。そこで,少なくとも,親の気持ちが軽くなる ことで,自分で背負う苦しみの一つを下すことが可能と なる。これは,間接的に本人の援助に繋がる「親の会」 の大きな効力ではないかと考える。「親の会」の最大の 目的は親のこころの重荷を軽くすることであるが,より 具体的に次の 5 項目を「親の会」の目的としている。 ① 辛く・苦しい気持ちをゆったり聞いてもらえる中 で,こころの重荷を少しでもおろしてもらう。 ② 話すことで,頭の中,気持ちが整理できることで 自分を冷静に見つめてもらう。 ③ 聞いてもらうだけでなく,他の参加者の話を聞い て受け止めること,そして自分の体験,語ること が,実は他の参加者の役に立っていることにも気 づいてもらう。 ④ 他の援助機関(行政・民間),医療機関等の社会 資源の紹介や情報交換 ⑤ 共に学ぶ学習の場(学習会・講演会) 「親の会」では,前述したように,本人への直接援助 ではなく,間接的な援助である。しかし,その意味はと ても重要と考えられる。家庭は子どもが自立していくた めの土台となる。子どもたちは,その土台は不安定でぐ らつくと,自ずとそこから落ちないように転ばないよう にしがみつく。言うなれば,親の不安感は安心して自分 を見つめ,こころを整理できる環境とは遠い存在となる。 そのためにも,最も身近な援助者である親が元気になる ことが必要であり,「親の会」はその力を取りもどす場 になると考えられる。 4.自助グループとしての「親の会」の運営 各地の「親の会」はその名が示すように親が中心となっ て運営している。中には相談員を有する「親の会」もあ るが,当団体は完全な自助グループである。 自助グループとしての当会の特徴は以下の通りであ る。 ① 参加者が登校拒否・不登校やひきこもりという共 通の悩みを抱えている。 ② その悩みを解決していきたいという共通の目的を 持っている。 ③ 参加は自発的であり,出入りも自由である。 ④ 参加者同士は対等な関係にあり,また相互援助の 関係でもある。 会の運営上,世話人をおいているが,会場と時間の提 供と進行を担うことを主としている。会では長期の参加 者もあるが,できる限り上下関係(よく言われる先輩・ 後輩の関係)を意識しない環境づくりも世話人の注意す べきところを考えており,自由に発言していくことでお 互いの癒し,成長,学びの場になるような運営をこころ がけるよう努めている。 では,次に当「親の会」では具体的にはどのように運 営してきたかを述べることにする。 当会は 2001 年 10 月に発足しているが,当初は月に 1 回,第 2 土曜日を「親の会」の定例会としていた。最 初の名称は東山区「不登校を考える親の会」“シオンの家” であり,ひきこもりの文字は入っていなかった。当時は 登校拒否・不登校を中心の援助活動であった。その後, 復学や進学をしていく子ども達もあったが,義務教育を 修了しても,そのまま,家に留まり続け,社会に繋がる ことができない子ども達の存在もあったことから,3 年 後に現在の名称に変更して,ひきこもりも援助対象にす ることになった。 「親の会」の例会では,次の簡単なルールを守っても らうことにしている。 ① 自由に語ってもらうが,語るのが苦手な方は聞く だけでも良い。 ② 誹謗中傷はしない。 ③ この場で話あったことは外には持ち出さない。 参加者は大体 8 ~ 12 名の参加者があり,自由にその 時の思いを語られる。また,前回の参加から今回の参加 に至る中での,本人の様子などを具体的なエピソードを 交えて語ってもらう。その内容は様々で,TV ばかり見 ている,勉強しない,昼夜逆縁,ゲーム三昧,暴言,時 には自傷行為,暴力など様々なものである。親にとって は友人や自分の親,親戚にも理解してもらえず,時には 『あなたの育て方が悪い』と責められたりとする。そん な苦しい気持ちを吐き出しながらも,自分では気づかな い子ども様子を他の参加者に気づかせてもらう場にも なっている。寝てばっかりいる子が漫画を読みだしたり, ゲームをし出す。親としては勉強したり,社会に繋がる
ことをしてほしいと願う。そんな時にも参加者からは, 何かをできるエネルギーが沸いてきたからこそ,そこに 力を注いでいるのでは。また,今の辛いどうにもならな い気落ちを忘れるためにゲームに没頭しているのかもし れないという意見が出されたりする。このように多角的 な視野での意見が出され,その意見に耳を傾けることで, 柔軟に本人への見方が変わってくる。これは,お互いが そうであり,自助グループのメリットであると考えられ る。 また,初めての参加にはできるだけ多くの時間を持つ ことで,心ゆくまで語ってもらうことをこころがけてい る。特に初めての方は,思いが溢れてくるので多くの時 間が必要である。 『親の会は温泉である』(立命館大学名誉教授・登校拒 否・不登校問題 全国連絡世話人代表の高垣忠一郎氏の 言葉)を常に意識している。「親の会」に参加すると, 自分の辛く・苦しい気持を吐露でき,こころが軽くなる が,帰宅して,ゲームに明け暮れるわが子を見たり,気 力のない状態でぼんやりしている姿や,その逆に悪態を つく子ども接したりすると,「どうして・・」という悲 しみや怒りにも似た感情が沸きあがってくる。 こんなことを話されるお母さんもある「親の会で語る と気持ちは楽になりますが,自宅に帰って 30 分もする と元に戻ってしまいます」 これは,「ここの垢」であると高垣氏は説明する。この, 「こころを垢」を「親の会」という温泉につかってゆっ たりとし,何度も何度もお互いに流し合うことで,少し ずつ「こころの垢」がたまりにくくなる。そうやって親 はだんだん元気になっていく。 尚,多人数の中では話すことがどうしても苦手であっ たり,もっとゆっくり話すことを希望される方や世話人 から見て,より深く話を聞いた方が良いと思われる方に は,個別相談も行う。 「親の会」では親が中心での話あいであるので,専門 的な立場からの視点が抜け落ちていることもあり,その 部分を補完する目的で,毎年,学習会を行なったり,他 の援助機関の講演の参加も促している。以下は,当会が 行ってきた学習会である。 2005 年 7 月「思春期とは・・こころの空洞」 8 月「思春期の親子関係と関わりの視点」 10 月「言葉の持つ意味(子ども発する言葉の裏にあ る意味)」 2006 年 3 月「各家族の悩みと意見交換」 7 月「不登校当事者とその兄弟関係」 11 月「子どもにとって大人の世界はどう映っている のか?決してバラ色でない未来を子どもにどう 伝えるのか」 2007 年 2 月「トラウマについて」 6 月「新学年・新学期など新たな環境でのこともスト レスについて」 10 月「現代の子ども達の友人換気とその在り方」 2008 年 3 月「子どものこころの奥にある本当の気持ちと,表 面での様々な行動」 6 月「子どもにとっての親,親にとっての子どもとは」 10 月「子ども辛い気持ちにどう寄り添うか」 2009 年 2 月「子どもが動き出す時」 ~その時の親の対応と留意点~ 7 月「不登校・ひきこもり当事者とその家族の距離」 10 月「子どもが SOS を発し時」その意味と対応 2010 年 2 月「発達障害について」 6 月「命の大切さと,子育てのあり方」 10 月「親のこころの健康について」メンタルヘルス を保つための日常の留意点 2011 年 7 月「孤独に寄り添う言葉を」 2012 年 6 月「自分に向き合い,生きる力を育てるために」 11 月「ホーム長を囲んでそれぞれの悩みを出し合う」 2013 年 11 月「東樹 20 年を迎えその歩みと軌跡を通じて。 子ども達へ寄り添うこころの意味を問う」 2014 年 11 月「思春期の苦しみと迷いに中で~人間の苦しみ とは何か~」 以上 2005 年から 2014 年 11 月まではセルフサポー トセンター「東樹」での学習会 2014 年度 「思春期の子どものこころに寄り添って」~自分を支 援する~ 春日井敏之氏(立命館大学教授) 2015 年度 「子どものこころと,親のこころを考える」 中川美保子(同支社女子大学特任教授) 2016 年度 「不登校・ひきこもり当事者の体験発表」 ~あの頃見ていた風景・いま見える風景~ 2017 年度 「若者のいきづらさと自己肯定感」 ~心理臨床家 高垣忠一郎氏と若者の対談を通して~ 2018 年度 「家族関係のつむぎ直し」~家族療法から,そのヒン トを考える~ 東 豊氏(龍谷大学教授)
2019 年度 「生きづらさを抱える子ども若者への関わり」 ~児童精神科医の視点から~ 幸田有史氏(京都府立洛南病院 児童精神科医) 5.本人との関わり 2009 年頃より「親の会」での,本人への直接的な援 助はできないかというテーマが話しあわれるようにな る。丁度,この頃,ファーストステップジョブグループ という団体を知り,何度か学習会に参加する。内容は, 本人社会参加していく最初の一歩を家庭内や「親の会」 でその機会を作っていくもの。 具体的には,家庭内での役割を本人に任せる。その対 価として感謝の気持ちと謝金などを渡すこともあり,そ の行動を肯定的に捉えることで,次にステップに進むも の。グループ等では,各家庭で仕事を作り出し,本人は 他の家庭の仕事を受けもつというもの。例えば,車の洗 車,花壇の水やりなど。それを通して社会参加への機会 としていくもの。 「親の会」では家庭内での役割分担を本人に任せるこ とは推奨していたが,他の参加者の家の仕事を請け負う までは考えていなかったので,早速,試してみることに。 PC を扱える子どもさんにチラシを作成してもらい(こ れも仕事の一環として謝金の対象とする),仕事を作っ てもろうとするが,なかなかその仕事をうまく作れず断 念する。 2012 年ころより,一か月に一度の「親の会」で,次 の会まで待てないという参加者からの声が上がってきた ので,「親の会」を月に 2 回にすることにした。ただし, もう一回は,より気持ちを緩めて話あえる機会をして, 手作り(編み物,手芸)をしながら,のんびり話あう時 間にしようと,ネーミングを「手作りおしゃべり会」と して開催することにした。 「手作りおしゃべり会」では 2 つの思わぬ結果が生ま れた。一つは手作り作品が出来上がること。もう一点は, 参加者の何人かは自宅で手作り作品を作るようになり, 本人のしんどさと向き合うことから解放されるように なったということ。母親が手作り作品に夢中になってい る姿は,本人にとってはとてもありがたかったとのこと (後の本人談)。親子間での程よい距離間を生む結果と なった。 また,出来上がた作品はせっかくなので,フリーマー ケット形式で販売することにした。そこで以前失敗に終 わったファーストステップジョブが生きてくることに なった。フリマの於ける仕事を分割。チラシの作成,チ ラシの印刷,チラシのポスティング,当日の設営・販売・ 後片付け。それぞれ, 自分ができるものを, 自 分 の そ の 時 点 の 力 に 合 わ せ て 請 け 負 っ てもらい,当日の収益 を謝金(1000 円)と い う 形 で お 渡 し す る よ う に し た。(2014 年~ 2019 年)これは, 本 人 へ の 関 わ り の 第 一歩となり,このフリ マ の 仕 事 を 通 し て 社 会 参 加 に 繋 が る き っ かけとなった若者も何人かいた。 また,同時期の 2014 年からは,京都市ボランティア センターの「月刊ボランティアーズ」という冊子を京都 市の各行政機関,支援団等に配布する封入作業を京都市 ボランティアセンターから依頼を受けて開始。2 時間程 度の作業とその後の交流会で構成されている。作業に関 しては謝金(1000 円)+ 交通費(上限 1000 円)を支 給する有償ボランティアである。月に一度程度の外出と 簡単な作業ができる方が対象。作業と介在させることで, 多人数の中に居ることへのハードルが下がる。まずは, 月に一度の外出と作業から社会参加の第一歩を目的とす る。 有償ボランティアにしたのは,作業への対価を貰うこ とで,自己効力感をしっかり持ってもらうこが重要と考 えたからであり,それが継続の力に繋がるとの理由から である。交流会では,緊張しながらも雑談ができるよう になることを目指す。不登校・ひきこもり本人にとって はテーマのない雑談はかなりハードルが高く,これが可 能になると,いわゆる居場所や他の支援機関への参加に も繋がっていける。実際には 2 年~ 3 年継続できるこ とで,次のステップに進める当事者も何人もいる。居場 所やアルバイト(単発,週に 2 日程度から)に移行し
た方ある。この事業は今も継続しており,10 名の登録 制で行っている。 最後に 2017 年から居場所事業(京都府の助成金事 業=ひきこもり状態にある者のための社会参加支援事 業)を行っている。 こちらは,雑談は可能であり,比較的元気な当事者対 象である。「親の会」に親や本人が参加していることを 原則としています。内容は以下の通りです。 ① 毎週水曜日(創作活動教室) ② 毎週金曜日(茶話会) ③ 毎月第 3 月曜日(臨床美術) ④ 毎月 1 回(ギター教室) 【創作活動教室】は将来どうしていきたいか,どう働き たいのかを考えいくことがテーマとなっている。若者た ち の 間 で は「 ど う や っ て お 金 を 儲 け るのか」という共通 理解のもと,それぞ れ が 自 分 の こ と と して考え,悩みなど を シ ェ ア し あ っ て いる。アルバイトや 就 労 も そ の 一 つ の 選 択 肢 に 過 ぎ な い と考えている。仕事 づ く り も そ う で あ り,実際に自分たち で,ゲーム,イラス ト,漫画をネットで 販 売 し た り し て い ます。 ここでは,ピアサポーターが講師となり,PC の使い 方やゲーム制作の方法などを教える傍ら,話し合いの ファシリテーターも行い,より突っ込んだ話し合いもて いる。 【茶話会】は原則,どんなことをしても自由である。ゲー ム遊び,おしゃべり,学習などその時間を自由使うこと を目的としている。一方で何をしても良いという居場所 の難しさもある。他者との心理的な距離を鍛える場には なるが,慣れるまでは疲労感も大きいことも特徴である。 自宅に居るだけでは体験できない対人関係を経験するこ とで,それを通しての成長も期待できる。 【臨床美術】はアートセラピーと称されるものである。点・ 線・面や色を使って自分の感情を表現するものである。 こちらは会話が苦手な方へのセラピーとして有効であ る。外出への諸段階としてのハードルは低く,最初は親 子での参加も推奨している。慣れてくれば一人で参加で きるようにもなる方も多い。作品制作を介在しているの で会話をする必要もなく,また,自分の感情を美術とい う形で表現していくので,こころの押しとどめている感 情の賦活に繋がり,それがこころのエネルギーを貯めて いくこと繋がる。現在は場面緘黙の不登校児,同年代の 若者との交流が苦手なひきこもり当事たちが参加してい る。回を重ねるごと に,表情も明るくな り 元 気 を 取 り 戻 し ていかれる。講師の 指 導 の 下, 毎 回 異 な っ た 作 品 の プ ロ グラムを行い,振り 返 り の 時 間 を 持 つ こ と で コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 を つ ける機会にもなる。
【ギター教室】は楽器を触ること,自分のペースで好き な曲を演奏,練習する。講師はその人に合わせて指導。 最近の住宅事情では思いっきり音を出すことが難しい が,音楽スタジオを借りているので,常設のドラムなど を楽しむことができる。音楽に興味のある方が参加。こ ちらも演奏を楽しむ中で,気持ちをリラックスさせてコ ミュニケーション力をつける機会にもなる。 以上,本人との関わりついては,必要に迫られて,「居 場所」を展開していった形になっているが,「親の会」 の基本はあくまで,登校拒否・不登校,ひきこもりの親 への援助であることには違いない。 6.考察―「親の会」の意義と課題 「親の会」の良さは,参加者が同じ立場の悩みを有し ていることである。参加しての語りにおいては,話し手 が参加者に,こころから受け止めもらえたと実感できる ことである。これは,逆に登校拒否・不登校,ひきこも りの子どもを持った経験がない親には,なかなか理解し てもられないと実感することもある。そこには透明の薄 い膜で仕切られているような,同じ世界にいながら決し て交われないような感覚とも言える。 だからこそ,「親の会」語り合いは,こころから安心 して語れ,気もちが楽になっていくのである。また,自 助グループだからこそ,自分達で解決に向かって,自分 達で考え,学び,親として成長いける場としての大きな 意味を持つ。 当会が立ち上がった当初は行政の相談機関はほとんど 存在していなかった。「親の会」は京都市でも各地にあっ たが,行政の相談機関や民間の相談団体が充実してくる と「親の会」の参加者は減り続けて閉会する「親の会」 も増えてきた。不登校やひきこもりで悩む親は行政の相 談機関に個別に結び付くことになる。そこでは,助言を 求めることを主眼にしているために,どうしても親は早 い解決をも求める。そのためにじっくり考えたり,学ん だりすることを飛ばしてしまう可能性もある。不登校・ ひきこもりを親自身もしっかり向き合う課題としての覚 悟を持つことなしに,その状態からの脱却はあり得ない。 助言をしっかり貰える相談の場と「親の会」のように, 語りあい,学びあえる場として,安心と勇気を育む場の 双方を上手く利用してもらいたい。 不登校やひきもりとなって数年後に「親の会」に来ら れる方も珍しくない。相談機関の情報の周知も徹底して いないこともあるが,「親の会」の存在も知られていな いのが現状である。「親の会」や民間支援団体から行政 の紹介は伝えられるが,行政が民間の「親の会」の紹介 はほとんどない。行政として責任が取れないとの理由か ら仕方のないことでもあるが,今後の課題としては行政 と民間団体のしっかりした連携と信頼の上での支援が不 可欠と思われる。 そのための行政(京都市)への要望書(下記に示す) を出しわれわれのような民間の社会資源との提携をして いく予定である。 ◇社会福祉審議会への要望書◇ 令和 2 年 7 月 28 日 京都市社会福祉審議会会長 松井道宣 殿 東山区「不登校・ひきこもりを考える親の会」 “シオンの家” 代表 大槻明美 藤本文朗・北村人美・上坂秀喜 要望書 1. 私たちは,登校拒否・不登校,ひきこもりの子ども を持つ親の家族交流会として,2001 年より家族支 援を中心に自助グループとして活動してきました。 学校へ行くことができない児童・生徒,また社会参 加に困難を有する青年などを抱える家族の相談,交 流を中心に,最も当事者に近い援助者である家族を 支えることで,本人への間接的な援助につながると 考えてまいりました。数年前からは,当事者の居場 所も展開してまいりました。(創作活動教室,茶話会, 臨床美術,ギター教室,封入作業) 2. 私たちは貴委員会のもとに作られた「ひきこもり支 援の在り方検討専門分科会」に,5 回中,初回を除 き 4 回傍聴に参加してきました。10 人の委員の方々 が,20 名以上の市の局長,課長の方々を交えた熱 心な議論を傍聴席から拝見させていただきました。 ただ,その委員会メンバーに,当事者,その家族の 代表が入っていないことは残念でなりませんでし
た。国連の障害者権利条約が 2006 年成立,日本の 批准は 2014 年で,その理念に
「Nothing about us, without us」(当事者抜きで 物事を決めないで) があります。社会福祉審議会を見ても障害者団体が 入っていますが,分科会には入っていないことは, 社会福祉審議会において整合性がとれていのではな いでしょうか。 また,分科会では「ひきこもりの生の声が聞きたい」 という発言も聞きました。そこで,京都市へは,委 員会での当事者や当事者家族の発言機会を求める陳 情書も提出しました。そして,最後の分科会ではゲ ストスピーカーとしての発言を希望しましたが,そ れが叶うことはなく残念でした。 3. 今後,「ひきこもり支援の在り方検討専門分科会」 が新たに発足すると聞いています。 もし,そうであれば以下の 3 点を要望致します。 (1)当事者・当事者家族を構成委員に入れる (2) ひきこもりの臨床経験,研究実績のある学識研究 者を構成委員に入れる (3)公募委員の設置 宜しくお願い申し上げます。 ◇京都市への質問・要望◇ 2020 年 9 月 15 日 京都市 子ども育み局育成推進課 青少年ひきこもり担当 鈴様 東山区「不登校・ひきこもりを考える親の会」 “シオンの家” 上坂 ひきこもり支援では京都市様には助言,助成金等でお 世話になっております。9 月 17 日の懇談において,質 問させていただくこと等を事前にお伝えしたいと存じま すので,宜しくお願い申し上げます。 1. 昨年から今年にかけての社会福祉審議会の「ひきこ もり支援の在り方専門分科会」が開催されていまし たが,ひきこもり支援における効果的な議論,そし て結論などは出ましたでしょうか。また,相談件数 が少ない(ひきこもり人口の 1.7%)ことへの解明 はなされたのでしょうか。 2. 窓口相談員の体制,人数等について。また,業務に ついて。具体的にどのような業務内容なのでしょう か。そして,窓口相談において 16 歳~ 64 歳まで の相談はあまりに幅広いので,相談対応は大丈夫な のでしょうか? 3. 行政区での支援計画(ケースワーカー)。より深い 支援が必要な場合は,よりそい支援員が対応 →この場合,どんな対象者がよりそい支援員につな がるのでしょうか →よりそい支援員はどこまで支援に踏み込まれるの でしょうか 4. よりそい支援員は 10 人ですが,その人数で京都市 全域はカバーできるのでしょうか。 5. 行政区のあんしん支援員(区社協)とのすみわけは どうなるのでしょうか。 6. 民間支援団体との連携においては,区のひきこもり 担当者さんが,支援計画を立てて中心的にひきこも り支援を進めていかれることになるのでしょうか? 7. 京都市社会福祉協議会が 9 月 1 日より,ひきこも り支援を始められてしますが,広報はどのように市 民にされているのでしょうか。特に 8050 問題が取 り上げられていますが,80 歳になると PH などの 広報では,情報を取り込むことは困難かと思われま すが。 【要望】 * 今後も,もし,ひきこもりの専門分科会がありました ら,ひきこもり支援を臨床の場で行ない,かつ専門的 に研究されている研究者の方を委員会メンバーに入っ てもらいたいです。 * ピアサポーター制度は今後どうなっていくのでしょう か。 * 子ども若者支援事業助成金の後継の助成金事業を作っ てほしいと考えています。 * 私たちの活動を紹介させていただきましたが,アドバ イスをお願いします(当日,親の会の活動紹介をさせ ていただきます) 参考文献 1) 青木道忠,藤本文朗他編「ひきこもる人と歩む」(新 日本出版,2015) 2) 漆葉成彦,藤本文朗他編「何度でもやりなおせる― ―ひきこもり支援の実践と研究の今」(クリエイツ かもがわ,2017). 3) 藤本文朗他「ひきこもりは日本特有の現象か――外 国人観光客対象のアンケートを通して考える」(大 阪健康福祉短期大学紀要「創発」2017). 4) 斎藤環「大量衰弱死の前に支援体制を確立すべきだ」 AERA 2019 年 8 月 26 日号.特集 8050 問題 p20 5) 共同通信ひきこもり取材班「扉を開いて――ひきこ も り, そ の 声 が 聞 こ え ま す か 」( か も が わ 出 版, 2019)第 2 章横行する自立支援ビジネス 6) 藤本文朗,森下博編『「あたりまえ」からズレても ――ひきこもり経験者が綴る』(日本機関紙出版セ ンター,2020).
付記 ・「親の会」が申請した助成金 ① 京都府ひきこもり状態にある者のための社会参加支 援事業補助金(2017 年~ 2020 年) ② NPO 等民間団体の子ども・若者支援促進事業 (2018 年~ 2019 年) ③ 赤い羽根共同募金助成金(2019 年~ 2020 年) ④ 京都生協 社会貢献活動助成金(2020 年) 以上は居場所・封入作業に対する助成金 ⑤ キリン財団助成金(2017 年) 東山に訪れる外国人観光客に,ひきもりに対する認 知度を調査した「親の会」の活動に対する助成金