• 検索結果がありません。

企業の視点からみたFTA利用状況 (特集 ASEAN 経済共同体(AEC)創設とその実態)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "企業の視点からみたFTA利用状況 (特集 ASEAN 経済共同体(AEC)創設とその実態)"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

企業の視点からみたFTA利用状況 (特集 ASEAN 経済

共同体(AEC)創設とその実態)

著者

早川 和伸

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

242

ページ

8-11

発行年

2015-11

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003070

(2)

向け関税率は九九%以上の品目で 既 に 無 税 と な っ て い る( 表 1) 。 そして後発国においては、現在、 関税低下が進められているところ である。こうして域内における経 済統合を進めるとともに、AEC ブループリントの四番目の柱であ る、 「 グ ロ ー バ ル 経 済 へ の 統 合 」 を目指し、ASEANは五つのA SEANプラス1のFTAを締結 し、東アジア、南アジア、太平洋 地域における主要貿易国との関税 低下に努めてきた。またASEA N各国は、個別に二国間の自由貿 易協定や経済連携協定(まとめて FTAと呼ぶ)を締結し、さらな るグローバル経済への統合を進め ている。   このようにASEANでは数々 のFTAの締結を通じて、関税低 下が進められてきた。しかしなが ら、こうして導入されたFTA税 使   一九九三年にASEAN自由貿 易地域(AFTA)が発効して以 来、ASEANは段階的に域内関 税を引き下げてきた。その後、こ の協定を見直した、より包括的な ASEAN物品貿易協定(ATI GA)が二〇一〇年に発効した。 その結果、先行六カ国による域内 率、FTAスキームが実際にはそ れほど利用されていないとの指摘 も一部ある。それにはいくつかの 理由が挙げられる。第一に、これ までASEANが締結したFTA のなかには、必ずしも自由化の程 度の高くないFTAが含まれてい る 点 で あ る。 例 え ば、 A S E A N・インドFTAにおいて、ミャ ンマーとベトナムは、全体の二割 弱の品目を除外品目とし、これら の品目では全く関税削減が行われ ない。インドネシアでも、即時撤 廃される品目は全体の半数のみで ある。第二に、原産地証明等、企 業がFTAスキームを利用するた めの手続きを十分に理解できない ためである。第三に、投資インセ ンティブ等、その他の関税還付制 度があることにより、必ずしもF TAスキームを利用する必要がな いためである。第四に、多くのF TAが乱立することによって、ス パゲティ・ボウル現象、もしくは ヌードル・ボウル現象が起こると 言われている。これらの定義には 様々なものがあるが、いずれにせ よ、FTAの増加とともにルール も増加することで、煩雑さが増大 し、FTA数の増加分ほどFTA スキームによる貿易が増加しない ということである。   ASEANでは本当にFTAが ほとんど利用されていないのであ ろうか。ここではタイの輸入を対 象に、実際にどの程度FTAスキ ームを用いた貿易が行われている のかを確認する。図1は、関税ス キーム別の輸入額の推移を示して いる。この図から、確かに二〇〇 〇年代においては、FTAスキー ムはほとんど使われず、また最恵 国待遇(MFN)スキームのみな らず、その他スキームよりも用い られていなかったことが分かる。 しかしながら、徐々にではあるが、 着実にFTAスキームによる輸入 の構成比が伸びている。とくに、 二〇一〇年以降は、その他スキー ムよりもFTAスキームによる輸 入のほうが多い。唯一、FTAス 表1 MFN 税率もしくは ATIGA 税率が ゼロの品目数シェア    対象年 対象品目数 無税シェア(%) ブルネイ 2014 9,916 99.99 カンボジア 2014 9,558 46 インドネシア 2013 8,734 99 ラオス 2014 9,543 79 マレーシア 2010 10,389 99.5 ミャンマー 2011 8,630 61 フィリピン 2013 10,876 99 シンガポール 2013 9,558 100 タイ 2014 9,557 99.9 ベトナム 2014 9,542 74

(出所) World Integrated Trade Solution.

◆特 集◆

ASEAN 経済共同体

(AEC)創設とその実態

 

早川

  和伸

(3)

キームによる輸入額が一貫して増 加している。このように、近年、 着実にFTAスキームを用いた貿 易が相対的に多くなっており、貿 易増加に貢献している。   次に、企業レベルの視点に立っ て、タイにおけるFTA利用状況 を確認しよう。表2は、二〇一三 年における、FTA別の利用輸入 企業数を示している。とくに、A S E A N・ 中 国 F T A ス キ ー ム の 利 用 が 多 く、 次 に A T I G A の 利 用 企 業 数 が 多 い。 A S E A N・ 中 国 F T A ス キ ー ム に い た っ て は、 実 に 一 万 五 〇 〇〇社が利用している。タイにお ける全輸入企業数は八万社程度で あるため、全体の二割程度の輸入 企業が本スキームを利用している ことになる。また、複数のFTA を同時に利用している企業も存在 する。表3は、二〇一三年のタイ において、輸入企業当たりの利用 FTA数を示している。結果とし て、一〇〇〇社程度が同時に四つ 以上のFTAを利用していること が分かる。これらのことから、A SEANにおけるFTA網を活用 している企業が確かに存在してい ることが分かる。   さらに、FTAの高度な利用を している企業も存在する。ASE ANが締結しているFTAでは、 原 産 地 規 則 を 順 守 す る 際 に、 「 累 積」という方法が認められている。 今、A国、B国、C国、D国の四 カ国が存在して、うちA国、B国、 C国の三カ国でFTAが締結され たとする。そして、B国がある商 品をA国に輸出する状況を考えよ う。今、B国がこの商品を、FT Aスキームを用いてA国に輸出す る た め に は、 当 該 商 品 が B 国 で 「 十 分 に 生 産 さ れ た 」 も の で な け れ ば な ら な い。 こ の こ と は、 「 B 国原産である」と呼ばれる。つま り、輸出される商品が、B国で生 産された中間財をもとに、B国で 生産されていなければならない。 もし本商品が、FTAメンバーで ないD国で生産された中間財を投 入 し て 生 産 さ れ て い る な ら ば、 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 FTA MFN その他 252(5%) 727(12%) 334(7%) 397(7%) 497(7%) 613(8%) 602(8%) 575(8%) 14(0%) 239(4%) 290(6%) 534(9%) 677(10%) 906(12%) 913(12%) 922(13%) 4,647(95%) 4,881(83%) 3,884(86%)4,851(84%) 5,549(83%) 6,140(80%) 5,882(80%) 5,657(79%) 図1 タイにおける関税スキーム別輸入額の推移(10億バーツ、構成比) (出所) Nuttawut Laksanapanyakul 氏に対するヒアリングをもとに作成。 表2 FTA 別利用輸入企業数      (タイ、全商品、2013年) FTA 名 利用輸入企業数 ATIGA 5,584 AANZ 137 ASEAN・中国 14,468 ASEAN・インド 800 日 ASEAN 305 ASEAN・韓国 2,014 日タイ EPA 2,004 オーストラリア・タイ FTA 671 タイ・インド FTA 68 タイ・ニュージーランド FTA 321 タイ・ペルーFTA 81 (注)  複数の FTA を同時に利用している場合、それぞれの FTA にカウントしている。 (出所) 図1に同じ。 表3 輸入企業当たり利用 FTA 数    (タイ、全商品、2013年) FTA 数 輸入企業数 1 14,847 2 6,404 3 3,000 4 1,292 5 565 6 210 7 119 8 16 (出所) 図1に同じ。

(4)

( 多 く の 場 合 ) B 国 で「 十 分 に 生 産された」とはみなされず、すな わちB国原産として認められず、 本商品をA国に対してFTAスキ ームを用いて輸出することはでき ず、MFNスキームなど一般スキ ームを用いて輸出することとなる。   一方、本商品が、同一のFTA メンバー国であるC国(およびA 国)で生産された中間財を用いて 生産された場合は、B国で「十分 に生産された」とみなされる。こ れが累積という規定であり、他国 で生産された中間財を用いて生産 された商品でも、それがFTAメ ンバー国であるC国で生産された 中間財なら ば、当該商 品はB国原 産として認 められると いう規定で ある。ただ し、B国が C国から中 間財を輸入 する際には、 当該FTA スキームを 用いて輸入 している必 要がある。当該中間財をC国から MFNスキーム等、当該FTAス キーム以外のスキームで輸入して いる場合は、累積が認められず、 B国で「十分に生産された」とは みなされない。C国からB国に本 中間財をFTAスキームで輸出す るためには、当該中間財がC国で 「 十 分 に 生 産 さ れ た 」 も の で な け ればならない。そのため、B国が、 単純にD国で生産された中間財を、 C国を迂回、経由して輸入しよう としても、C国からの中間財をF TAスキームで輸入できない。そ の結果、当該中間財を使用してB 国 で 生 産 さ れ た 商 品 は、 B 国 で 「 十 分 に 生 産 さ れ た 」 と は み な さ れず、A国に対してFTAスキー ムを用いて輸出されることはでき ない。   このように、累積規定は複雑な ため、FTAの高度なルールとい えよう。しかしながら、このルー ルをうまく活用している企業がA SEANにも存在している。ここ では日・ASEAN・FTA(A JCEP)を例にみる。表4は、 二〇一三年における、タイからA JCEPを用いて輸出された上位 品目(金額ベース)を示している。 ここではとくに、カンボジア、ラ オス、ベトナム向けの輸出を示し ている。この表から、タイからこ れらの国に対して、AJCEPス キームを用いて、綿織物が多く輸 出されていることが分かる。さら に表5は、二〇一四年における、 これらの国からの日本のAJCE Pを用いた輸入の上位品目(金額 ベース)を示している(二〇一三 年 も 同 様 の 傾 向 を 示 す )。 ベ ト ナ ムの川エビを除くと、これらの国 から日本に対するAJCEPを用 いた輸出において、縫製品が圧倒 的に多いことが分かる。   これらのことから、タイで生産 された生地がカンボジア、ラオス、 ベトナムに輸出され、それらの国 がその生地を用いて縫製品を生産 し、日本に輸出する、というAJ CEPスキームの累積規定を活用 した一連の流れが推察できる。と くに、タイからカンボジアに浸染 し た 綿 織 物( HS520939 ) を、 ラ オ ス に 漂 白 し て い な い 綿 織 物 ( HS520819 ) を 輸 出 す る 際 に は、 AJCEPスキームで輸出しても MFN税率と同率の関税を支払う 必要がある(つまり特恵対象では な い )。 ベ ト ナ ム へ の 浸 染 し た 綾 織 物( HS520932 ) の 輸 出 に お い ても、AJCEPスキームのみな らず、ATIGAスキームが最低 特恵税率を提供しており、五%で ある。さらに、本綾織物に関する 原産地規則において、ATIGA はAJCEPで定められているル ールに加え、付加価値基準との併 用を許容しているという点で、A TIGAにおける原産地規則のほ うが満たしやすい。すなわち、縫 製品を日本に輸出する際に、累積 ルールを活用することでAJCE Pスキームを用いること以外に、 これら生地をタイからAJCEP スキームで輸出する積極的な理由 はないのである(ただし、日ベト ナム経済連携協定でも本綾織物の 表4 AJCEP を用いた輸出額の上位品目 (タイ、2013年)      輸入国 HS2桁 品  名 HS6桁例 カンボジア 52 綿および綿織物 520939 ラオス 52 綿および綿織物 520819 54 人造繊維製品 540752 ベトナム 52 綿および綿織物 520932 54 人造繊維製品 540752 39 プラスチックおよびその製品 390210 (出所) 図1に同じ。 表5 AJCEP を用いた輸入額の上位品目 (日本、2014年)      輸入国 HS9桁 品  名 カンボジア 611030022 トレーナー 611012020 カシミヤ毛製上着 ラオス 611596000 合成繊維製靴下(その他) 630790010 その他紡織用繊維製品 ベトナム 030617200 川エビ等 630260000 トイレットリネンおよびキッチンリネン (出所) 財務省貿易統計を用いて計算。

(5)

特集:企業の視点からみたFTA利用状況 原産性においてASEAN累積が 認められているため、日ベトナム 経済連携協定に比べ、AJCEP を積極的に利用する理由は明らか でない) 。   ラオスを例に、さらに詳しく見 てみよう。タイから本綿織物を輸 入する際には、一〇%のMFN税 率がかかる。前述したとおり、こ れはAJCEPスキームで輸入し ても同様である。一方、AJCE Pスキームでなく、ATIGAス キームで輸入すれば無税となるが、 本綿織物をATIGAで輸入し、 縫 製 品( HS611596000 ) を 生 産 し た場合、これを日本向けにAJC EPスキーム(無税)で輸出する 際にはラオス原産とならず、日本 の通関時にMFN税率の六・六% がかかる。すなわち、このタイ、 ラオス、日本という貿易フローの なかで、日本で綿織物を輸入する 過程で六・六%の関税を支払うか (AJCEPの利用) 、ラオスで縫 製品を輸入する過程で一〇%の関 税 を 支 払 う か( A T I G A の 利 用 )、 と い う 問 題 と な る。 一 般 に、 下流ほど商品価格が高くなり、ま た実際、日本のラオスからの本縫 製品の全輸入がAJCEPスキー ムによるため、結果として前者の ほうが関税支払の総額が小さくな るのであろう。このように、多く のFTAが存在し、スパゲティ・ ボウル現象などと呼ばれているが、 そのなかでも関税支払の節約とい う意味で、最適な貿易フローを選 択している企業が確かに存在する のである。   実は、これらラオス、カンボジ アの例は、さらに複雑な問題の最 適フローとなっている。これらの 国から日本に縫製品を輸出する際 には、AJCEPスキームのみな らず、後発開発途上国に対する特 別特恵スキーム(LDCスキーム と呼ぶ)が利用可能である。通常、 FTAにおいては、必ずしもすべ ての品目で関税削減が行われるわ けではなく、また必ずしも無税と なるわけではない。一方で、LD Cスキームはほとんどすべての品 目で無税輸出が可能となる。実際、 AJCEPを用いなくても、ラオ スおよびカンボジアはLDCスキ ームを用いることで、前記縫製品 を無税で日本に輸出することがで きる。しかしながら、LDCスキ ームの場合、タイなどその他AS EAN諸国からの投入品を累積で きない。つまり、タイからの綿織 物を用いて生産された縫製品は、 ラオス原産およびカンボジア原産 とならず、LDCスキームがそも そも利用できない(ただし、原産 地規則の改定により、二〇一五年 より本ケースでもLDCスキーム が利用できるようになった) 。この ように、FTA間の違いのみなら ず、LDCスキームとの違いも考 慮しながら、より有利な戦略を選 択している企業が確かに存在する。   以上、ASEAN諸国によるF TAスキームの利用状況をみてき た。とくに、多くのFTAが存在 し、また国によってはLDCスキ ームなど、その他の特恵スキーム があるなか、自身の生産構造にと って、関税支払の節約という意味 で最適な関税スキームを選択して いる企業の姿が確認された。ただ し、こうした最適解を模索できる のは一部の大企業のみであろう。 ほとんどすべての企業にとって、 各FTA間の違い、そしてそうし た違いが自身の生産活動や貿易と どう関わってくるのかを理解する のも困難であろう。しかしながら、 このような複雑性は、地域一帯を 包 括 し、 「 適 切 に 」 デ ザ イ ン さ れ たFTAが存在すれば回避できる。 地域一帯を包括するFTAとして、 現在交渉が進められている東アジ ア 地 域 包 括 的 経 済 連 携( R C E P)が挙げられる。このRCEP が「適切に」デザインされれば、 より多くの企業が、現在のFTA 網における最適な貿易フローを結 果として達成することができる。 たとえば、地域内に現存するFT Aのなかで、最低の特恵税率とな るように 譲 じょうきょひょう 許表 を作成し、最もビ ジネス・フレンドリーな原産地規 則を設定するだけでも、どのFT Aの特恵税率が低いか、どの原産 地規則を順守可能か、逐一チェッ クする必要がなくなる。しかしな がら、現在のRCEPの交渉はこ のような方向に進んでおらず、残 念ながら、比較検討しなければな らないFTAスキームがひとつ増 えるだけの結果になるであろう。 ( は や か わ   か ず の ぶ / ア ジ ア 経 済 研 究 所   経 済 地 理 研 究 グ ル ー プ ) ※ 本稿を作成するにあたり、椎野 幸 平 氏( 日 本 貿 易 振 興 機 構 )、 Nuttawut Laksanapanyakul 氏 ( タ イ 国 家 開 発 研 究 所 ) か ら 有 益なコメントをいただいた。こ こに記して謝意を示したい。た だし、残る誤謬の責任は筆者に 帰する。

参照

関連したドキュメント

[r]

アフリカ政治の現状と課題 ‑‑ 紛争とガバナンスの 視点から (特集 TICAD VI の機会にアフリカ開発を 考える).

端を示すものである。 これは漸江省杭州市野下人 民公社に関する 1958

[r]

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所/Institute of Developing Economies (IDE‑JETRO) .

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

国際図書館連盟の障害者の情報アクセスに関する取

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.