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まえがき(pdf)

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Academic year: 2021

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改訂増補版のまえがき

本書の初版が出てからほぼ 17 年が経過した.幸いにも,この間に,本書は 持続的に増刷を重ね,現在に至った.著者は,本書の初版の刊行以来,大学で の講義やセミナーで本書を使用してきた.その経験から,書き換えたり,補足 した方がよいと思われる箇所が浮かびあがってきた.また,初版にない内容を 追加し,関数解析学および量子数理物理学—量子現象に関する数理物理学—の 入門的教科書として,よりいっそうの充実をはかりたいという思いも強くなっ てきた.このような背景のもとにできあがったのがこの改訂増補版である. 改訂増補に際して変更した主な点は以下の通りである: (1) 初版における誤植は,可能な限り訂正した. (2) 初版の内容で別の表現をとった方がよい思われる箇所を書き直した(証 明方法の変更も含む).特に,第 3 章と第 4 章には大幅に書き換えた部分 がある. (3) ヒルベルト空間の “上位"に位置する空間範疇の一つであるバナッハ空間 への導入的叙述(第 1 章,1.7 節)とヒルベルト空間上のコンパクト作用素 の理論(第 2 章,2.12 節)を新たに書き加えた(コンパクト作用素は有界 線形作用素の中で最も基礎的で重要な部類の一つをなす). (4) 初版では,ヒルベルト空間上の線形作用素のスペクトルの概念は閉作用 素に対してのみ定義された.改訂増補版では,閉作用素とは限らない,一 般の線形作用素に対しても,スペクトルの概念は定義されること—しかも 自然な仕方で—およびそれは閉作用素のスペクトルの概念の拡張を与える

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ことを補足的事項として付け加えた(第 2 章,2.13 節). (5) 量子力学の現実的有効性を示す重要な例の一つとして,水素原子のハミ ルトニアンのスペクトル解析の一部を新しい一つの章(第 8 章)として組 み入れた. (6) 初版の「あとがき」を全面的に書き改めた. 上記の (3),(4) は,本書を関数解析学の入門的教科書として,一定の水準に おいて完結させる意図に基づいてなされたものである.他方,(5) は,量子数 理物理学への入門書としての側面を補充するためのものである. 今回の改訂増補にあたっては,初版の出版以来,この 17 年間に出版された 本で本書の内容と密接に関連するものに「あとがき」において言及する必要が 生じた.これは,結局,(6) の作業へと結実した.だが,本書の「あとがき」の 趣旨,すなわち,本書を読み終えたあとに,より高次の数学的・数理物理学的 領域へと精神的探索の歩みを進めるための道を示唆することは,初版でも改訂 増補版でも本質的に変わるところはない. 2014年初夏 札幌にて 新 井 朝 雄

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初版のまえがき

本書はヒルベルト空間論と量子力学の数学的理論への入門書である.なぜ, ヒルベルト空間と量子力学なのか? これをまず,簡単に説明しておこう* ヒルベルト空間の概念は,今世紀の初頭,ドイツの偉大な数学者ヒルベルト (D. Hilbert) による線形積分方程式の研究に端を発している.彼は,第二種の フレドホルム (E. I. Fredholm) 積分方程式を考察する中で,この方程式の未知 関数のフーリエ (J. B. J. Fourier) 係数(可算無限個)がある無限連立一次方程 式をみたすことに注目し,積分方程式の解を求める問題を後者の方程式を解く 問題に帰着させた(本書の第 2 章,練習問題 6 を参照).ここで現れる無限連 立一次方程式を解くためには,通常の線形代数の無限次元版を考えることが自 然であり,ユークリッド (Euclid) 空間の無限次元版とでもいうべき空間,す なわち,2 乗総和可能な数列の全体からなる空間が導入された.これがヒルベ ルト空間の最初のものである.その後,(ルベーグ積分の意味で)2 乗可積分 な関数からつくられる空間がヒルベルト空間と類似の幾何学をもつことがフ レッシェ (M. Fréchet) とリース (F. Riesz) によって示された.さらに,それ は完備であってヒルベルト空間に同型であることがリースとフィッシャー (E. Fischer) によって証明された.こうして,ヒルベルト空間論の基本的・本質的 * この「まえがき」は,本書の主題に関して,ある概観をあたえることが目的なので,数学用語がわ からなくても気にしないで,話の大筋をつかんでいただければよい.数学用語は,本文できちんと定 義される.

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な部分ができあがってくる.これらの具体的なヒルベルト空間の研究に続い て,現在,標準化されている公理論的なヒルベルト空間論(抽象ヒルベルト空 間の理論)が線形作用素の一般論とともにできあがってくるのは 1930 年前後 にかけてであり,その仕事は,おもに,フォン ノイマン (J. von Neumann) と ストーン (M. Stone) によってなされた. ヒルベルトは古典的な数理物理の問題に由来する線形積分方程式の研究から ヒルベルト空間の概念に到達した.ところで,1925 年から 1926 年にかけて, 物理学の世界を根本的に変革する新しい物理学の理論が誕生した.これが量子 力学である.この理論は,分子や原子のような微視的な系をも含めた形で自然 現象の基本的物理法則を記述するものであり,現代物理学を支える根源的な理 論のひとつである(量子力学についてのさらに詳しい,歴史的・物理的背景に ついては,第 6 章の 6.1 節を参照).量子力学は,2 人の偉大な物理学者,ハイ ゼンベルク (W. Heisenberg) とシュレーディンガー (E. Schrödinger) によって 創始された.だが,ハイゼンベルクが提示した理論とシュレーディンガーのそ れとは理論形式が異なっていた.前者は “行列力学” とよばれる代数的な形式で あり,後者は,今日シュレーディンガーの名でよばれる偏微分方程式を用い る解析的な形式であった.この外見上の相違にもかかわらず,両者があたえ る物理的結果は奇妙にも一致した.この神秘的な一致は,その後,ボルン (M. Born) による確率解釈を取り入れたヨルダン (P. Jordan) (1927) とディラック (P. A. M. Dirac) (1926/27) による変換理論によって説明され,量子力学の体系 は一応の完結をみる.だが,この体系は数学的に厳密な観点からはさまざまな 問題をはらんでいた.実際,変換理論にしても形式的な理論であって,数学的 に厳密なものではなかった.量子力学の数学的に厳密な基礎づけを最初に行っ たのは,フォン ノイマンである(1927∼31 年頃).彼は,これらの仕事の過程 で,公理論的な形でヒルベルト空間の理論を展開し,これを用いて,量子力学 の数学的基礎づけを行ったのであった**.こうして,ヒルベルト空間と量子力

** J. von Neumann, Die mathematische Grundlagen der Quantenmechanik, Springer-Verlag, Berlin, 1932. 日本語訳:『量子力学の数学的基礎』(井上 健ほか訳,みすず書房,1957).

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初版のまえがき v 学が出合うことになる.ヒルベルト空間論はまた 20 世紀の新しい解析学の流 れである位相線形空間論とも合流し,壮大な関数解析学の展開へとつながって いく.量子力学の数学的基礎づけに関するフォン ノイマンの記念碑的な仕事 以来,量子力学の数理に関わる研究は,関数解析学を数学的道具立ての中心に 据える新しい数理物理学の潮流をひき起こし,今日に至っている. 本書は,この新しい数理物理学への入門書となることを目的として書かれ た.そのため,本書は,第 1 章で論述するヒルベルト空間の構造論を除けば, 量子力学の数学的理論へ直結するような形で構成されている.この理論におい ては,ヒルベルト空間上の線形作用素が重要な役割を果たす.そこで,まず, 第 2 章で,ヒルベルト空間上の線形作用素の一般論の基礎を述べる.論述に際 しては,量子力学においてごく普通に現れる非有界線形作用素の取り扱いに慣 れることに留意した.特に,量子系の物理量を記述する役割を担うことになる 自己共役作用素については,第 2 章だけでなく,第 3 章,第 4 章を通じて,か なり詳しく論じた.第 3 章で詳述する作用素解析とスペクトル定理は純理論的 に重要であるだけでなく,量子力学の厳密な公理論的定式化にとって本質的な 要素である.第 5 章では,最も単純な部類に属する偏微分作用素を扱うが,こ れは量子力学における種々のモデルを数学的に解析するための出発点となる. 以上の準備のもとで,第 6 章において,量子力学の数学的理論の基礎を論述す る.第 7 章では,第 6 章における量子力学の数理の一般論を受けて,量子調和 振動子とよばれる,量子力学の基本的なモデルのひとつを詳しく解析する.各 章の練習問題は,本文を補い,理解を深める意味でも重要であるので,読者は これにもぜひ取り組んでいただきたい. 本書を読むためには,線形代数,微積分,複素関数論,ルベーグ積分の基本 的知識があれば十分である.量子力学についての知識はあったほうがよいが, なくても本書を理解するにはほとんど支障はないはずである.読者の便宜のた めに,頻繁に使われる,ルベーグ積分論に関するいくつかの定理を付録 A に採 録した.これらの諸定理については,正しく活用できるようになることが重要 である.また,第 6 章における量子力学の確率解釈に関連する事実を理解する 上で必要とされる確率論の基本事項を付録 B に叙述しておいた.これは,ル ベーグ積分論に関する経験と知識があれば難なく理解されるはずである.

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「あとがき」において,本書を読み終えたあとの学習や研究の方向性につい て述べておいた.参考にしていただければ有り難い.紙数の都合上,本来なら ば,ヒルベルト空間論で当然扱うべき事項をいくつか割愛せざるをえなかっ た.そうした事項については,本書の「あとがき」であげる参考書などを通し て随意に補っていただきたい. 現代物理学,特に量子物理学との生き生きとした連関を失うことなく,ヒル ベルト空間論や関数解析学をこれから学びたいと思っている人,量子力学を数 学的に厳密な形で統一的に理解したいと考えている人,また,上に述べた意味 での新しい数理物理学に興味をもつ人たちに対して,本書がいささかでもお役 に立てれば幸いである. 1996年秋 札幌にて 新 井 朝 雄

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