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ツボイ坪 アキオ 井昭夫 共同研究者 高橋弘雄 ( 奈良県立医科大学医学部助教 ) 略歴 1982~1991 年名古屋大学農学部助手 1989~1993 年米国 DNAX 分子細胞生物学研究所博士研究員 1993~1994 年東京大学医科学研究所客員研究員 1993~1996 年岡崎国立共同研究機構

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Academic year: 2021

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(1)

ツ ボ イ

井 昭

ア キ オ

略 歴 1982~1991年 名古屋大学農学部 助手 1989~1993年 米国 DNAX分子細胞生物学研究所 博士研究員 1993~1994年 東京大学医科学研究所  客員研究員 1993~1996年 岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 助手 1996~2006年 東京大学大学院理学系研究科  助手 2000~2003年 科学技術振興財団 さきがけ研究21 (PRESTO)研究員兼任 2006年~ 奈良県立医科大学医学部 教授 共同研究者

高橋 弘雄

(奈良県立医科大学医学部 助教)

嗅覚を用いて油の嗜好性や摂取量をコントロールする基盤研究

A novel molecular mechanism controlling the valence and

uptake of oil by olfaction

About the mechanism that animals feel oil, there are some reports for oil sensors in taste; however, the perception of oil by olfaction remains to be uncovered. One reason includes problems for the conventional behavior experiment. To judge the valence of the smell in mice, there is a method to observe their reactions to let smell a filter paper soaked with odor on the conventional test. However, because mice have taken the oil of the filter paper in the conventional method, we could not distinguish the attractive behavior to oil via either gustation or olfaction. It is possible that the perception of the oily smell by olfaction would be necessary so that animals consume oil effectively in the natural world.

In this study, we focused on olfactory sensory neurons (OSNs) and sensor molecules that respond to unsaturated long chain fatty acids to elucidate the novel molecular mechanism of oil sensing in olfaction. Notably, we analyzed mice by behavior experiments and examined the response to smell in OSNs by the calcium imaging to clarify the difference in responsiveness to smell among several kinds of oils and unsaturated long-chain fatty acids. In addition, we searched for the genes expressing specifically in the oil sensor OSNs, which we have recently found, to reveal the function of oil sensors by ectopic expression of candidate molecules in OSNs.

There are no study on the olfactory oil sensor regardless of inside and outside the country. The characteristics of this study are concentrated on OSNs and sensor molecules responsive to the unsaturated long chain fatty acid, and are to know a mechanism of the oil perception by olfaction.

(2)

It is expected that if we understand a mechanism sensing the oily smell, we can approach a more profound mechanism of the valence to the oil by olfaction through integrating with gustation.

1. 背景と目的

 過剰なカロリー摂取に伴う肥満は、生活習慣病の原因として、大きな社会問題の1つになっている。そ こで、油を感知するメカニズムに関する研究は、油への嗜好性を抑え、その摂取量を調節する方法を開 発する上で極めて重要である。味覚による油のセンシングに関しては、最近、舌の味細胞で、3 種類の 油センサーが同定された(Bellizzi et al, 2005;Cartoni et al, 2010)。しかしながら、サラダ油や菜種油 などの油の匂いを、嗅覚により感じる仕組みは、全く明らかにされていない。  本研究では、不飽和長鎖脂肪酸に応答する嗅細胞とセンサー分子に着目し、嗅覚による新規な油セ ンシングの分子機構の解明を目指している。具体的には、“ マウスの行動実験から、カルシウムイメージン グによる嗅細胞の匂い応答にいたる” 解析を行い、油や不飽和長鎖脂肪酸の種類による嗅覚応答の 相違を明らかにする。また、申請者が見出した油センサー細胞で特異的に発現する遺伝子を網羅的に 探索し、得られた油センサー候補分子に関しては、レンチウイルスによる嗅細胞での遺伝子発現系など を用いて、油の匂いセンサーの機能を明らかにする。 2. 方 法  本研究では、油への嗜好性を生み出す「嗅覚による油センシングの分子機構」を明らかにするため に、以下の解析を行った。 1)油の匂いに対する応答性の解析  油やその構成要素である脂肪酸やグリセロールに対する嗜好性や識別能の有無を、行動実験を用 いて、マウスの個体レベルで解析した。動物が油を感じるメカニズムに関しては、味覚の油センサーの報 告はあるものの(Bellizzi et al, 2005;Cartoni et al, 2010)、嗅覚による油の受容の研究はこれまで全く 行われていなかった。その 1 つの原因として、従来の行動実験の問題点が挙げられる。匂いの嗜好性 を判定する従来のテストでは、濾紙に匂い溶液を浸み込ませて、マウスに提示し、その反応を見る方法 が一般的であった(Kobayakawa et al, 2007)。しかしながら、この方法では、マウスが濾紙の油を、直 接舐めてしまうため、油による誘引作用は主として味覚によるものと考えられ、油の匂いセンサーの存在 は軽視されてきた。申請者は、自然界で動物が効率的に油を摂取するためには、嗅覚を用いた油の匂 いの感知が必要であると推測した。そこで本研究において、小さな穴をあけたチューブに油を入れてマ ウスに提示するという、味覚の影響を排除した新たな匂いの嗜好性実験法を確立した(図1A写真)。 2)油の匂いセンサーの機能解析  カルシウムイメージングによる嗅細胞レベルでの匂い応答の解析を行い、嗅覚による油への反応性を検 討した。また、油センサー分子の本体を明らかにするため、嗅細胞で特異的に発現する嗅覚受容体遺伝 子のライブラリーを作製し、動物細胞で発現させ、油への応答性を調べることにより、スクリーニングした。

(3)

3. 結 果 1)油の匂いに対する応答性の解析  油やその構成要素である脂肪酸やグリセロールに対する嗜好性や識別能の有無を、上述した匂いの 嗜好性実験法を用いて検討した。まず、匂い物質のない空ケージにマウスを入れ、30 分ごとに 4 回ケー ジを交換し、マウスを新規環境に慣れさせた。その後、匂い物質の入ったエッペンチューブ(小さな穴が 空いている)をセットした新規ケージに入れて(図 1A)、3 分間に匂い物質を嗅ぎに行った時間を計測し た。この場合、水をコントロールとし、水より探索時間が長くなれば誘引作用があると判断した。ポジティブ コントロールの尿では、水に対して有意に探索時間が長くなった。興味深いことに、菜種油、ごま油、ピー ナッツ油など、実験に用いた植物油のすべて で有意に探索時間が長くなった(図 1B)。こ の結果から、植物油に含まれる匂いの成分 が、マウスを誘引することが示唆された。  また、植物油はグリセリンと不飽和脂肪酸 から構成されるトリアシルグリセロールが主成 分であるので、どの成分により誘引されるの かを検討した(図 1 B)。興味深いことに、グ リセリン単独では全く誘引作用を示さないの に対して、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸 は顕著な誘引効果を示した。以上の結果か ら、マウスは長鎖不飽和脂肪酸に誘引され ることが分った。  更に、申請者の確立した匂いの嗜好性 実験法が、味覚を排除した嗅覚による行動 を観察しているかどうかを知るために、嗅覚 喪失マウスを用いて検討した。まず、鼻孔 内に ZnSO4を注入することにより、嗅細胞が 著しく消失していることを、OMP(olfactory marker protein:嗅細胞マーカー)に対する抗体染色を用いて確認した(図 2A 写真)。そして、通常 マウスと嗅覚喪失マウスを用いて、絶飲絶食条件下において匂いの嗜好性実験を行い、両者の行動を 比較した。その結果、サラダ油に対する探索時間が、ZnSO4処理群では、非処理群に比べて有意に短 くなった(図 2B)。一方、コントロールの水に対する探索時間は、通常マウスと嗅覚喪失マウスとの間で 有意な差が見られなかった。以上の結果から、本実験系における油による誘引作用は、嗅覚に依存す るものであることが明らかになった。 2)油の匂いセンサーの機能解析  申請者はまた、匂いセンサーである嗅細胞を単離し、カルシウムイメージングにより応答性を検討した (図1C)。その結果、一部の嗅細胞がサラダ油やオレイン酸に顕著に反応することが明らかになった。

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 そこで、油のセンサーとして働く嗅覚受 容体を同定するため、Hana3A 細胞を 用いたスクリーニングを行った。Hana3A は、嗅覚受容体の匂い応答によって cAMPレベルが上昇すると、その下流の シグナル経路を介して、ルシフェラーゼの 発現が誘導されるというレポーター細胞 である(Saito et al, 2004)。96 穴プレー トで培養された Hana3A 細胞の各ウェ ルに、1000 種類のマウス嗅覚受容体の 中から1 種類をそれぞれ遺伝子導入した (Tsuboi and Sakano, 2015)。そのよ うにして異なる嗅覚受容体が発現した細 胞のウェルに、比較的溶解度の高いオレ イン酸ナトリウムを添加後、ルシフェラーゼ の活性を測定した。その結果、新規の嗅 覚受容体がオレイン酸ナトリウムに応答す ることが分かった。そこで現在、この油セ ンサーの候補分子(嗅覚受容体)に関し て、機能解析を進めている。 4. 考 察  中性脂肪やコレステロールが高い脂質異常症の人は、異常症と適正値の境界の人(潜在患者)も入 れると、2,200 万人にも達する。従って、「油の匂いを感知する仕組み」に関する研究は、脂質異常症の 対策の側面から、大きな社会的意義を持つと考えられる。脂質異常症の対策としては、摂取カロリーを 適切にコントロールすることが極めて重要である。しかしながら、マウスの行動実験の結果にも見られるよ うに(図 1)、動物は生得的に、高カロリーの油に嗜好性を有するため、その摂取調節は容易ではない。 また、脂質異常症の一因である油の過剰摂取に関連して、油の匂いを感知する嗅覚センサーについて は、これまで国内外を問わず全く研究されていなかった。  そこで今後、本研究において見出された油センサーの候補分子(嗅覚受容体)を詳細に解析するこ とで、油を感知する嗅覚メカニズムが解明されれば、その受容を特異的に阻害するアンタゴニストの開発 に繋がるのみならず、油への嗜好性や摂取量をコントロールすることも可能になる。しかしながら、アンタ ゴニストにより油の受容体をマスクする場合には、摂食により生じる油の風味を損なう可能性があるので、 QOLを低下させないアプローチも考慮する必要があろう。  また今後、本研究において見出された、油センサーの候補分子(嗅覚受容体)に関しては、レンチウ イルスやエレクトロポレーションを用いた嗅細胞での in vivo 遺伝子発現系を用いて(Takahashi et al,

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予定である。  最後に、本研究において、申請者が見出した不飽和長鎖脂肪酸に応答する嗅細胞とセンサー分子 に着目して、嗅覚による油の感知機構を解明すれば、味覚と統合されることによる、種を超えた油の嗜好 性のメカニズムに迫ることもできると考えられる。 5. 謝 辞  本研究を遂行するにあたり、貴重な研究助成金を賜りましたアサヒグループ学術振興財団に深く感謝 いたします。Hana3A 細胞を用いた油センサーのスクリーニングに関しては、大阪バイオサイエンス研究 所の小早川令子・小早川高博士との共同研究により行ったので、この場を借りて感謝いたします。 6. 参考文献

1. Bellizzi MJ, Lu S-M, Masliah E and Gelbard HA: Synaptic activity becomes excitotoxic in neurons exposed to elevated levels of platelet-activating factor. J Clin Invest, 115: 3177–3184 (2005).

2. Cartoni C, Yasumatsu K, Ohkuri T, Shigemura N, Yoshida R, Godinot N, le Coutre J, Ninomiya Y and Damak S: Taste preference for fatty acids is mediated by GPR40 and GPR120.

J Neusosci, 30: 8376–8382 (2010).

3. Kobayakawa K, Kobayakawa R, Matsumoto H, Oka Y, Imai T, Ikawa M, Okabe M, Ikeda T, Itohara S, Kikusui T, Mori K and Sakano H: Innate versus learned odour processing in the mouse olfactory bulb. Nature, 450: 503–508 (2007).

4. Saito H, Kubota M, Roberts RW, Chi Q and Matsunami H: RTP family members induce functional expression of mammalian odorant receptors. Cell, 119: 679–691 (2004).

5. Takahashi H, Yoshihara S, Asahina R, Tamada Y and Tsuboi A: Characterization of newborn interneurons in the mouse olfactory bulb using postnatal electroporation. In Electroporation

Methods in Neuroscience (editor, Saito T), Springer, pp.93–103 (2015).

6. Tsuboi A and Sakano H: Odorant Receptor Gene Regulation. In Handbook of Olfaction and

Gustation, Third Edition (editor, Doty RL), Wiley-Blackwell, in press (2015).

7. Yoshihara S, Takahashi H, Nishimura N, Kinoshita M, Asahina R, Kitsuki M, Tatsumi K, Furukawa-Hibi Y, Hirai H, Nagai T, Yamada K and Tsuboi A: Npas4 regulates Mdm2 thus Dcx in experience-dependent dendritic spine development of newborn olfactory bulb interneurons.

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