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人に言われ嬉しいことを人には言わない: 言語かけ習慣にみられる矛盾 利用統計を見る

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(1)

け習慣にみられる矛盾

著者

片山 美由紀

著者別名

Miyuki KATAYAMA

雑誌名

東洋大学社会学部紀要

56

1

ページ

19-28

発行年

2018-12

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00010371/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

(2)

人に言われ嬉しいことを人には言わない: 言語かけ習慣にみられる矛盾/片山 美由紀

人に言われ嬉しいことを人には言わない:

言語かけ習慣にみられる矛盾

Responsive Verbal Words: The Contradiction between Formulation

of Impressions and Habitual Usage Patterns

片山 美由紀

Miyuki KATAYAMA

【構成】 1 .はじめに 2 .言葉かけがなぜ重要か 3 .調査方法 4 .結果と考察   4 1 .言われて“いい感じ”“いやな感じ”?   4 2 .あなたは言いますか?   4 3 .“いい感じ”かつ“言う”人も多い台詞   4 4 .“いやな感じ”かつ“言う”人が少ない台詞   4 5 .言われれば“いい感じ”けれど“言う”人は少ない台詞      ―「頼りにしてもいい?」   4 6 .“言う”人は多いが言われれば“いやな感じ”の台詞      ―困っていても「大丈夫です」 5 .総合的考察 6 .引用文献 要約(Abstract)

(3)

1 .はじめに

 本研究の目的は、日常場面における知人同士の言葉かけに関して、第 1 に、言葉かけの行動実態/ 慣習を記述すること、第 2 に、慣習の変容をもたらしうるような可能な起点を析出することである。 なおここでいう“言葉かけ”とは、知人の一方の言動に引き続く、他方の次の言葉の内容のことをさ す。  上記の第 1 の目的に沿う研究成果として、人から言われれば心地よい人が多くかつ口にされる頻度 の高い言葉が明らかになった(本論文 4 3 )。人から言われればいやな人が多くかつ口にされる頻度 が低い言葉も明らかになった( 4 4 )。これらは言葉かけの行動実態/慣習の記述である。  とくに第 2 の目的に沿う研究成果として、( 1 )人から言われることは心地よい人が多いにもかか わらず言われる頻度は低い類の言葉が明らかになり、( 2 )逆に、口にされる頻度は高いにも関わら ず人からその言葉を言われればむしろ不快な人が多い言葉も明らかになった。これら( 1 )( 2 ) 2 つのパターンが人々の中に知識として普及すれば、ある種の言葉かけの頻度の増加(前者のパター ン)あるいは、ある種の言葉かけの頻度の減少(後者のパターン)がもたらされる可能性がある。い いかえれば、ある社会内における言葉かけの慣習の変容をもたらしうると予想され/期待されるので ある。

2 .言葉かけがなぜ重要か

 ある人の言動への反応としての他の人の言葉は、その一連の事象を総じて“コミュニケーション” とラベル付けることができる。けれども一方の者の言葉かけはまた、他方にとっての“賞(ごほう び)”としてプラスにも、また逆に“罰”としてマイナスにも機能する。このような賞や罰としての 言葉かけや反応がより強く意識化される典型的な場は、例えば教育の場であり(e. g. Amidon, & Hunter, 1966: Kärner, & Warwas, 2015)、子どもの養育・教育の場であり(e. g. Kochanska, 2017: Brassart, & Schelstraete, 2015: Shire, et al., 2016: Kasari, et al., 2014: Flippin, & Watson, 2015)、あるい は人材育成の場(e. g. Bamberger, et al., 2014)である。これら“育成”や“成長”あるいは“その人 らしさの開花”等が主に目的とされる場では、どのような言葉かけが“賞”の役目を果たし“罰”の 役目を果たすかが関係する人々によって恒常的に注目され、それゆえ共有された理解が人々のあいだ に広まる構造といえよう。より良い結果を生み出す為の言葉かけが知識・スキルとして共有されてい るのである。このような、育成が主眼におかれる良好な人間関係の場においては次のような仮説が導 出される。 (a)好まれる反応的言葉かけは多く使われるであろう (b)より好まれない反応的言葉かけは使われることが少ないであろう

(4)

人に言われ嬉しいことを人には言わない:言語かけ習慣にみられる矛盾 /片山 美由紀  他方“育成”の場を離れ、最初に述べたような“コミュニケーション”と名付けられる場において 対等な人間関係のなかで発せられる言葉は、たとえ良好な人間関係の場であっても、ある言葉かけが “罰”または“消去(行動頻度の減少化)”の機能があると意識化されていない場合や、“賞”機能が あることが意識化されていない場合が多々あると推定される。意識化されないまま言葉が発せられる ことが多々あるということである(片山,2018)。なぜなら、一方が育成役といった非対照的関係性 ではなく双方対等でコミュニケーションを行う場合には、相手の言葉の受け止め方への注意責任は、 人材育成の場合のそれに比べれば、より軽いはずだからである。  コミュニケーションのプロセスを経て、何らかの言動に対するある言葉かけは賞として機能しその 言動を増加させる一方、何らかの言動に対するある言葉かけは罰として機能しその言動を減少させ る。もしもある範囲の社会内において、慣習的になされる言葉かけがあり、けれどもそれが前節 1 で 示した( 1 )や( 2 )のように、それぞれの言葉かけの賞の機能や罰の機能が知識として普及してい なければどうであろうか。  ある言葉かけの賞や罰の機能を意識化することができなければ、無自覚なままに慣習的な言葉かけ を続けるものと予想される。そして何らかの意図があるわけでもない慣習的で一般的な言葉かけスタ イルが、その人々の望まぬ方向の“あたりまえ”を維持し、あるいはさらに強化する帰結となる。  社会心理学の研究対象を、個人、対人相互作用、集団、社会・集合の 4 つに整理する場合、上記の ような言葉かけやコミュニケーションに関わる現象は、対人相互作用の領域として研究されることが 多い。けれども同じ現象を集団形成の領域または社会・集合現象の一部として研究することも可能で ある。社会心理学研究にあっては、古くは社会的ジレンマ状況において他成員とのコミュニケーショ ンが協力を促進することが知られている(e. g. Balliet, 2010)。しかしながら通常の対人相互作用場面 における言葉かけが場合により社会的ジレンマ問題を発生させることは意識されることが少なく、そ れゆえ研究の視点からの知見の提供が必要と判断される。

3 .調査方法

 本論文の冒頭に述べた 2 つの目的のためにアンケート調査を実施した。調査対象者は首都圏の大学 生257名であった。内訳は男性119名、女性136名、性別無回答 2 名。なお調査対象者に外国籍の 7 名 を含み、他の250名が日本国籍であった。年齢平均は19.5歳(このうち18歳から23歳が全体の99%を 占める)。これらの対象者による回答を本研究の分析対象とする。調査は集合形式でアンケート用紙 配布・回収により実施された。  本研究の主要変数である台詞に関する質問の調査票形式を図 1 に示す。  なお言葉かけの台詞については、日本及び他の諸国において知人友人等のあいだで頻繁にかわされ る言葉かけを筆者が長期にわたり収集しその一部を今回選択し使用した。

(5)

4 .結果と考察

 以下の言葉かけの台詞の分析においては男女別のデータを示す。なお後述するが回答には大きな男 女差が見られないことが見てとれる。

4 1 .言われて“いい感じ”“いやな感じ”?

 最初に“もしまわりの人からこのセリフを言われたらどのように感じますか。あてはまる番号に○ をつけてください。”との質問に対する回答を男女別に整理したものを表 1 (男性データ)・表 2 (女 性データ)に示す。  表をみると男女とも「楽しんでね!」「悩みがあるなら話して、聞くから」「何かしてあげられるこ とはある?」「うまくいくといいね」が 1 位から 4 位を占めており全く同じ結果となっている。次の 「頼りにしていい?」「気を楽にして」「遠慮しないで気楽にして」「きっとうまくいくよ」が男性の第 5 位から 8 位を占めており、これらと全く同じ 4 つが女性の 5 位から 8 位を占めている。つまり男女 別の分析を行った結果、男女差が認められなかった。  これら上位 8 位のなかには、依存される/する人間関係を示唆する「悩みがあるなら話して、聞く から」「何かしてあげられることはある?」「頼りにしていい?」の台詞が入っており、これらは男性 より他者への依存が許容されがちな女性で受け入れられ、男性では受け入れられない台詞であるとも 予想される。けれども実際はそうではなかった。すなわち、男性でもこれらの依存される/する人間 関係を示唆する台詞は「いい感じがする」と評定されていたのである。  次に表 1 ・ 2 の最下欄部分をみると、男女とも「私の顔をつぶさないで」「私の言うとおりにしな さい」「よけいなことをしないで」との支配する/される人間関係を示唆する 3 つの台詞が「いやな 図 1  言葉かけの質問形式

問A

問B

あなたはふだん、次のような内容

のことを友人や仕事仲間や家族に

言いますか、言いませんか。

(まったく同じセリフでなくても

内容がほぼ同じであれば「言う」

と答えてください)

番号に○をつけてください。

言われたらどう感じますか よく 言う 時々 言う たま に 言う あまり 言わ ない いい感じ がする 何も 感じない いやな 感じ がする 「頼りにしてもいい?」

4

3

2

1

3

2

1

困っていても「大丈夫です」と言う

4

3

2

1

3

2

1

もしまわりの人から

このセリフを言われ

たら

どのように感じます

か。

あてはまる番号に

○をつけてください。

あなたは言いますか

(6)

人に言われ嬉しいことを人には言わない:言語かけ習慣にみられる矛盾 /片山 美由紀 感じがする」ものとして共通に評定されていた。また「それは本当にうまくいくの?」という精査/ 疑念の台詞も、 4 番目に“いやな感じがする”と男女両方から評定されていた。  以上の結果をみると、少なくとも日本の大学生においてはこれらの台詞が男女に関係なく“いい感 じがする”あるいは“いやな感じがする”と感じられることがわかる。

4 2 .あなたは言いますか?

 次に“あなたはふだん、次のような内容のことを友人や仕事仲間や家族に言いますか、言いません か(まったく同じセリフでなくても内容がほぼ同じであれば「言う」と答えてください)。”との質問 への回答を男女別に整理したものを表 3 (男性データ)・表 4 (女性データ)に示す。  男性本人が言う頻度(表 3 )が高い台詞を順にみると「気にしないで」「楽しんでね!」、困ってい ても「大丈夫です」と言う、「うまくいくといいね」「気をつけて、危ないよ」「きっとうまくいく よ」「悩みがあるなら話して、聞くから」「何かしてあげられることはある?」であった。  一方女性本人が言う頻度(表 4 )が高い台詞を順にみると「楽しんでね!」「気にしないで」、困っ ていても「大丈夫です」と言う、「うまくいくといいね」「悩みがあるなら話して、聞くから」「きっ とうまくいくよ」「何かしてあげられることはある?」「気をつけて、危ないよ」であった。  このように、言う頻度の高い台詞にも男女で大きな差はみられないことがわかる。  逆に言う頻度が低い台詞を表 3 (男性データ)の最下欄でみると「私の顔をつぶさないで」「私の 言う通りにしなさい」「よけいなことをしないで」が言う頻度が低かった。全く同様の順で女性本人 も(表 4 の最下欄)同じセリフが同じ順で、言う頻度が低い台詞として挙げられていた。

4 3 .“いい感じ”かつ“言う”人も多い台詞

 前々節( 4 1 )で“いい感じがする”上位にあげられていた台詞で、実際にも言う頻度が高い台 詞( 4 2 )が多数あった。すなわち男性の場合「楽しんでね!」「うまくいくといいね」「きっとう まくいくよ」「悩みがあるなら話して、聞くから」「何かしてあげられることはある?」である。この 内容は女性でも同様で「楽しんでね!」「うまくいくといいね」「悩みがあるなら話して、聞くから」 「きっとうまくいくよ」「何かしてあげられることはある?」である。  つまり男性、女性にかかわらずこれらの台詞は、人から言われればいい感じが持たれ、実際に言わ れることも多い台詞であった。  この結果は仮説(a)に沿うものであった。人々が自身も心地よさを感じ、かつ人にもその心地よ さを届けようとして発すると思われる言葉である。

4 4 .“いやな感じ”かつ“言う”人が少ない台詞

 前々節( 4 2 )で述べたように、「私の顔をつぶさないで」「私の言う通りにしなさい」「よけいな ことをしないで」は“いやな感じ”と回答する人が多く、かつ、言われる頻度の低い台詞であった。

(7)

この結果は男性・女性ともに同様であった。  この結果は仮説(b)に沿うものであった。

4 5 .言われれば“いい感じ”けれど“言う”人は少ない台詞

―「頼りにしてもいい?」

 先の 4 3 および 4 4 では、好ましい言葉かけは多く使用され、好ましくない言葉かけは使用頻度 が低いことが明らかになった。  しかしながら評価と頻度実態が一貫しない結果も本研究では明らかになった。これについてこの 4 5 および 4 6 で報告し考察を行う。  再び表 3 、表 4 の結果に戻る。「頼りにしてもいい?」「こんな珍しい機会があるけど来る?」をそ れぞれ男性の言う頻度は1.76、1.66、女性の言う頻度は1.84、1.56であった。これらは 4 件法( 4 . よく言う  3 .時々言う  2 .たまに言う  1 .あまり言わない)の 2 (たまに言う)を下回る数値 であった。言い換えればこれらは、ほとんど言われない台詞であった。これらの台詞は“ふだんもっ と言ってもいいかもしれない”と人々がふと気づく台詞、迷いを検出するきっかけとなる台詞である と考えられる。これらの台詞を口にする頻度がより高まることは、人々が潜在的に望んでいるような 社会風土や社会規範を形成するためのきっかけとして機能することが期待できる、具体的な行動選択 表 1  声かけされた場合の印象(男性) 平均値 標準偏差 「楽しんでね!」 2.79 0.43 「悩みがあるなら話して、聞くから」 2.65 0.58 「何かしてあげられることはある?」 2.63 0.56 「うまくいくといいね」 2.61 0.55 「頼りにしてもいい?」 2.59 0.58 「気を楽にして」 2.57 0.54 「遠慮しないで気楽にして」 2.47 0.58 「きっとうまくいくよ」 2.46 0.60 「こんな珍しい機会があるけれど来る?」 2.41 0.58 「気をつけて、危ないよ」 2.39 0.62 「気にしないで」 2.32 0.63 「以前からしてきた通りにすればいいよ」 2.29 0.56 「自分の思う通りにやってみたら」 2.27 0.65 「あなたの意見を言ってみて」 2.07 0.66 困っていても「大丈夫です」と言う 1.96 0.61 「じゃましないようにするね」 1.88 0.64 「規則は規則、守るのが当然」 1.81 0.65 「それは本当にうまくいくの?」 1.62 0.60 「よけいなことをしないで」 1.34 0.61 「私の言う通りにしなさい」 1.22 0.51 「私の顔をつぶさないで」 1.21 0.43 3 :いい感じがする  2 :何も感じない  1 :いやな感じがす る( 3 件法) 表 2  声かけされた場合の印象(女性) 平均値 標準偏差 「楽しんでね!」 2.92 0.27 「悩みがあるなら話して、聞くから」 2.81 0.45 「うまくいくといいね」 2.78 0.50 「何かしてあげられることはある?」 2.74 0.53 「遠慮しないで気楽にして」 2.64 0.58 「頼りにしてもいい?」 2.62 0.64 「気を楽にして」 2.61 0.53 「きっとうまくいくよ」 2.57 0.60 「気をつけて、危ないよ」 2.54 0.62 「こんな珍しい機会があるけれど来る?」 2.51 0.58 「以前からしてきた通りにすればいいよ」 2.38 0.59 「自分の思う通りにやってみたら」 2.35 0.69 「気にしないで」 2.18 0.71 「あなたの意見を言ってみて」 2.04 0.73 「じゃましないようにするね」 1.82 0.67 「規則は規則、守るのが当然」 1.80 0.59 困っていても「大丈夫です」と言う 1.74 0.62 「それは本当にうまくいくの?」 1.43 0.54 「よけいなことをしないで」 1.17 0.45 「私の顔をつぶさないで」 1.11 0.34 「私の言う通りにしなさい」 1.07 0.25 3 :いい感じがする  2 :何も感じない  1 :いやな感じがす る( 3 件法)

(8)

人に言われ嬉しいことを人には言わない:言語かけ習慣にみられる矛盾 /片山 美由紀 肢でありうる。  本研究のアンケート用紙末において回答者に自由記述で報告して頂いた内容からは、アンケート回 答の経験のみによって回答者が、“言われて嬉しい言葉を人に言わない”ことに気づきそれを問題と して言及する事例が複数あることが明らかになっている。回答者自身がアンケート回答を契機にその 理由を自身で考え始めるような事例もみられた。逆にアンケート回答の経験によって、言われていや な感じがする言葉を自身が口にすることを自ら意識化し行動変容する可能性を示唆するような事例も みられた。

4 6 .“言う”人は多いが言われれば“いやな感じ”の台詞

―困っていても「大丈夫です」

 ところで先の「 4 2  あなたは言いますか?」 において自身が言う頻度の上位にあった台詞で、 けれども自身が言われた場合はいい感じがするとはいえない言葉も、本研究によりいくつか明らかに なった。それらは男女とも同様で、困っていても「大丈夫です」と言う、であった。  つまり男性、女性にかかわらずこの台詞は、口にされる頻度は高い一方で、人から言われればいい 感じがしない、矛盾を含む台詞なのである。 表 3  声かけする頻度(男性) 平均値 標準偏差 「気にしないで」 3.05 0.86 「楽しんでね!」 3.04 1.03 困っていても「大丈夫です」と言う 2.92 1.06 「うまくいくといいね」 2.60 1.09 「気をつけて、危ないよ」 2.53 1.03 「きっとうまくいくよ」 2.49 1.11 「悩みがあるなら話して、聞くから」 2.43 1.08 「何かしてあげられることはある?」 2.39 1.03 「自分の思う通りにやってみたら」 2.38 1.10 「気を楽にして」 2.32 1.08 「遠慮しないで気楽にして」 2.30 1.05 「あなたの意見を言ってみて」 2.22 1.16 「以前からしてきた通りにすればいいよ」 2.07 0.99 「それは本当にうまくいくの?」 1.98 0.94 「規則は規則、守るのが当然」 1.84 0.99 「じゃましないようにするね」 1.81 0.97 「頼りにしてもいい?」 1.76 0.98 「こんな珍しい機会があるけれど来る?」 1.66 0.89 「よけいなことをしないで」 1.57 0.87 「私の言う通りにしなさい」 1.33 0.78 「私の顔をつぶさないで」 1.20 0.57 4 :よく言う  3 :時々言う  2 :たまに言う  1 :あまり言 わない( 4 件法) 表 4  声かけする頻度(女性) 平均値 標準偏差 「楽しんでね!」 3.54 0.72 「気にしないで」 3.25 0.94 困っていても「大丈夫です」と言う 3.17 0.98 「うまくいくといいね」 3.01 0.97 「悩みがあるなら話して、聞くから」 2.83 1.06 「きっとうまくいくよ」 2.80 0.93 「何かしてあげられることはある?」 2.64 1.02 「気をつけて、危ないよ」 2.60 1.04 「自分の思う通りにやってみたら」 2.43 1.05 「あなたの意見を言ってみて」 2.24 1.08 「遠慮しないで気楽にして」 2.22 1.10 「気を楽にして」 2.22 1.15 「以前からしてきた通りにすればいいよ」 1.96 0.98 「頼りにしてもいい?」 1.84 1.02 「それは本当にうまくいくの?」 1.70 0.86 「規則は規則、守るのが当然」 1.64 0.86 「じゃましないようにするね」 1.63 0.87 「こんな珍しい機会があるけれど来る?」 1.56 0.88 「よけいなことをしないで」 1.33 0.74 「私の言う通りにしなさい」 1.09 0.37 「私の顔をつぶさないで」 1.07 0.35 4 :よく言う  3 :時々言う  2 :たまに言う  1 :あまり言 わない( 4 件法)

(9)

5 .総合的考察

 本研究はアンケート調査結果に基づき、反応的言葉かけの種類および頻度を対象とする研究を行っ た。調査の結果(a)好まれる反応的言葉かけは日々の知人同士の会話のなかで使われること、(b) より好まれない反応的言葉かけは使われることが少ないことが明らかになった。  しかしながらこれとは異なる結果も得られた。すなわち、ある言葉かけは良い印象を持たれていな がらもあまり使われていなかった。一方、他の言葉かけはより頻繁に使われていたけれどもその言葉 かけへの印象は良くなかった。  このような言葉かけは果たして、発話者により意図的になされているものでろうか。 そのように判断する根拠は乏しいといえよう。むしろある台詞に賞の機能があることや、別の台詞に 罰の機能があることを、人々が意識しておらず、人々が知識として知られていないために生じる、と 考える方が妥当であろう。  では、もし人々が非意識的に、社会のなかで従来どおりの発話を続けるとすれば、何が起こるであ ろうか。「好まれない台詞」が、人々のあいだで今後も高頻度で発生し続けるものと予想される。逆 に「好まれる台詞」が、人々のあいだで発生する頻度は、今後も低いままであると予想される。この ような台詞のやりとりが、人々の悪意も善意もなくただ無自覚に続けられる社会は、そこで暮らす 人々にとり居心地の良い社会として発展していくとは考えがたい。通常の対人相互作用場面における 言葉かけが、予期せぬ社会的ジレンマ問題を発生させる。「言葉かけ」分野の研究の今後さらなる発 展と、知識の集積、そして研究成果の社会的還元が必要とされる。なお本論文で報告したデータは、 社会心理学の複数の理論的観点から探求を進めることが可能であり、この詳細については別の機会に 指摘することとする。本研究で報告した言葉かけのなかには多義的な意味を持つゆえに考察を控えた ものもありそれについても同様である。  具体的な対人場面における日々の言葉かけは、場合によっては、言われた側の人に強い印象とイン パクトをもたらし、あるいはエンパワーメントの源ともなりうる。しかもある範囲の社会において “良さ”が共有され認められているが使用頻度が少ない言葉かけ台詞があるとすれば、その発言頻度 を少し上昇させることは、極めて難しいというよりはむしろ、変化の期待のもてる介入の対象である といえよう。  なお、本研究の調査対象者の99%が18歳から23歳の若年層であり、若年層を母集団と想定すること ができる。果たして、より年齢が上の層、あるいは年齢の下の層では、本研究と同様の結果が得られ るかあるいは異なる結果が得られるであろうか。異なる文化の下ではどうであろうか。これらの疑問 への回答は、残された今後の課題となる。

(10)

人に言われ嬉しいことを人には言わない:言語かけ習慣にみられる矛盾 /片山 美由紀

引用文献

Balliet, D. (2010). Communication and cooperation in social dilemmas: A meta-analytic review. Journal of Conflict

Resolution, 54(1), 39 57.

Bamberger, P. A., Meshoulam, I., & Biron, M. (2014). Human resource strategy: Formulation, implementation, and

impact. Routledge.

Brassart, E., & Schelstraete, M. A. (2015). Simplifying parental language or increasing verbal responsiveness, what is the most efficient way to enhance pre-schoolers verbal interactions?. Journal of Education and Training Studies, 3 (3), 133 145.

Flippin, M., & Watson, L. R. (2015). Fathers and mothers verbal responsiveness and the language skills of young children with autism spectrum disorder. American journal of speech-language pathology, 24(3), 400 410.

Kärner, T., & Warwas, J. (2015). Functional relevance of students prior knowledge and situational uncertainty during verbal interactions in vocational classrooms: evidence from a mixed-methods study. Empirical Research in

Vocational Education and Training, 7(1), 11.

Kasari, C., Kaiser, A., Goods, K., Nietfeld, J., Mathy, P., Landa, R., ... & Almirall, D. (2014). Communication interventions for minimally verbal children with autism: A sequential multiple assignment randomized trial. Journal

of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 53(6), 635 646.

片山美由紀(2018)社会心理学のアプローチで迫る 窮屈な社会環境を変えるための研究 宣伝会議 2018年 9 月号 NO. 923

Kochanska, G. (2017). Mutually responsive orientation between mothers and their young children: Implications for early socialization. In Interpersonal Development (pp. 141 159). Routledge.

Shire, S. Y., Gulsrud, A., & Kasari, C. (2016). Increasing responsive parent-child interactions and joint engagement: Comparing the influence of parent-mediated intervention and parent psychoeducation. Journal of autism and

(11)

【Abstract】

Responsive Verbal Words: The Contradiction between

Formulation of Impressions and Habitual Usage Patterns

Miyuki KATAYAMA

 This study investigated responsive verbal words (RVW) in daily conversation between

acquaintances. The questionnaire was conducted with Japanese undergraduate students.

Types and frequencies of RVW were analyzed and described. It was hypothesized that

(a)

some favorable RVW would be used in daily conversation more,

(b) less favorable RVW

would be used less in conversations with acquaintances. However, some inconsistencies

were detected with the data of actual RVW frequencies and evaluative impression for each

RVW

(feeling good or bad about each RVW). Some RVW were more favorably evaluated but

not used so often, whereas other RVW were used more but less favorably evaluated. The

results were discussed from the viewpoint of unconsciousness of positive/negative effect of

RVW. Further researches on RVW are needed for prospecting possible social dilemmas in

line with habitual and unconscious RVW usage patterns.

参照

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