東洋大学におけるロケット打ち上げプロジェクト
著者名(日)
藤松 信義
雑誌名
工業技術 : 東洋大学工業技術研究所報告
号
34
ページ
19-23
発行年
2012
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00002097/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja藤松 信義* 1.はじめに 近年,大学や高校において,人工衛星や小型ロケット を題材とした宇宙工学教育プロジェクトが進められてい ます11].これらのプロジェクトは,学生が中心となって 行われているものが殆どです.プロジェクトの規模によ り,その目的は様々であり,教育機関が独自に衛星・ロ ケットの製作・打ち上げ能力を持つことで,日本の宇宙 開発全体に大きな貢献・刺激となることを期待したもの や,その活動を通じて,学生が科学や工学により関心を 持つことが狙いとなっているものがあります. 筆者は,本学において同様のプロジェクトを企画して, 学生が主体となり活動できる場を提供することで,大学 の活性化,将来的には企業との共同研究に発展させるこ とで,地域活性化にも繋げていきたいと考えています. 本稿では,各大学における宇宙工学に関するプロジェク ト内容を紹介した後,本学における将来的な取り組みに ついて述べたいと思います. 2.教育機関における取り組みの紹介 宇宙工学に関するプロジェクトは,多くの大学,高校 で行われています.大学間で宇宙工学に興味のある学生 が集まり,インカレとして取り組んでいる団体もありま す.本学の学生が立ち上げた団体CORE(Challenge of Rocket Engineering)もその一つです‘2・. これらの活動内容は,主に,小型ロケットの製作・打 ち上げと,人工衛星を使用したミッションが中心となっ ています.ここでは幾つかの取り組みを例に挙げたいと 思います. 2.1 ハイブリッドロケット 多くの大学で,固体燃料と液体燃料を組み合わせたハ イブリッドロケットを用いた実験が盛んに行われていま す.一度,燃焼を始めると燃え尽きるまで作動し続ける 固体ロケットよりも,燃料と酸化剤を工夫できる点や, 燃焼を制御するという試みが,プロジェクトの目的にな るためです. 北海道大学では,永田晴紀先生が開発された新しいハ
イブリッドロケットであるCAMUI(Cascaded
Multistage Impinging−jet,縦列多段衝突噴流)による 実験が行われています‘3].これは燃料にポリエチレン, 酸化剤にLO 2を使用したハイブリッドロケットです. ハイブリッドロケットには,燃料が燃え尽きるまで安定 して推力を得ることができない欠点がありましたが,図 1のように燃料をカスケードに配置したことで,この欠 点を解消しています.図1ハイブリッドロケットCAMUI
図2 CAMUIによる有翼飛翔体 CAMUIの開発では,システムの小型化と推力向上に も成功しています.その結果,安全に運用可能で,燃費 を大幅に削減できるようになりました.将来的には,機 体を再使用することで,打ち上げコストを同規模の小型 ロケットの10分の1に抑えることが目標とされていま す.開発当初,CAMUIはロケットの打ち上げにのみ利 用されていましたが,現在,有翼飛翔体に取り付けた飛 行実験(図2),無重力試験も視野に開発が行われていま す.産学共同で立ち上げた宇宙開発企業もあり,今後, 商用ロケットによる打ち上げ実験が期待されています. 東海大学では,独自のハイブリッドロケットを開発, 運用しています[4.手作りで低価格のロケット開発を目 指した結果,燃料と酸化剤にワックスと亜酸化窒素を使 用したシステムを開発しました(図3).また,多段式ロ ケットでは無火薬式分離機構を使用した打ち上げも行っ ています. *理工学部機械工学科東洋大学におけるロケット打ち上げプロジェクト
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図3 東海大学で開発されたハイブリッドロケット 2.2液体ロケット 早稲田大学には,早稲田大学宇宙航空研究会(WASA) と呼ばれるサークルがあります.活動内容は多岐にわた りますが,ここでは液体燃料のロケットエンジンを用い た実験を紹介します5.通常,ロケットのノズルは釣鐘 状のベル型をしています.その形は,燃焼器の圧力と大 気の圧力の比率がある値のとき,もっとも効率良く力を 得ることができるように,設計されています.そのため, 飛行高度が変わるロケットでは,大気圧の影響を受けて, 推力が変化します.ノズルの設計条件から外れると,ノ ズルから噴出するガスの流れは図4のように衝撃波を伴 い,性能が低下します. ロケットを高い高度まで打ち上げるには,飛行高度が 変化しても高い性能を保つノズルが有利ですt図5はそ の一つであるプラグノズルによる燃焼試験の様子です. このノズルは,噴射口中央に取り付けられたプラグに沿 ってガスが流れるので,大気との自由境界が生じます. そのため,燃焼ガスを噴射しても衝撃波が発生せず,ほ ぼ理想的な推力を得ることができます. 図4 ベル型ノズルによる燃焼試験 ロケットの製作,実験では爆発の危険性を伴う場合が あります.大阪府立大学では,安全性と環境への影響を 配慮し,低コストでの運用,将来性の観点から,図6の ようなLN2と水を利用した2液式コールドガス・エンジ ンを推進系に用いた小型ロケットの研究に取り組んでい ます,6..コールドガス・エンジンは安全性を最大限に重 視しており,非燃焼の推進系です,機体サイズを大きく することで,実用ロケットに発展する可能性を含んだ推 進系と考えられています. 図6 コールドガスロケットの打ち上げ試験 2.3 有翼ロケット 九州工業大学では,ロケットプロジェクトとして,商 用のハイブリッドロケットを用いた実験を行っています (図7左).これは,ロケット実験に関する技術を習得す るために,よい教材であると考えています.また,図7 右のような有翼ロケットの開発に取り組んでいます.機 体には,5孔ピトー管と姿勢センサによる自律制御シス テムが組み込まれており,機体の飛行速度と向きを検知 しながら,H。。制御によるロバスト制御系を用いて飛行 制御するものです.ロケット打ち上げ後,着陸までのミ ッションを正確に行うには,このような技術が不可欠と なります.これまでに有翼ロケットは最高高度1千メー トルまで達しており、無事に地上へ帰還することができ ています. 図7 ハイブリッドロケット(左)と有翼飛翔体(右)の試験 図5 プラグノズルによる燃焼試験2.4 小型人工衛星プロジェクト CubeSat, CanSat ロケットの打ち上げ試験だけでなく,小型人工衛星の 開発も盛んに行われています.この取り組みには2種類 あり,大型ロケットで宇宙空間の衛星軌道上まで打ち上 げられるCubeSat・8]と,小型ロケットで高高度から衛 星が放出され,着陸までにミッションを行うCanSat 9] に分けられます. CubeSatは,10cm立方の超小型人工衛星(図8)を 地球周回軌道に打ち上げて,運用することが目的です. 2003年,東京大学と東京工業大学が衛星を運用したこ とを切掛けに,他の大学も参加するようになりました. 学生が設計・製作した超小型衛星には,従来の姿勢制御 機構だけでなく,学生が独自に開発した制御機構や,カ メラ,デジトーカなど,個性的な機能が搭載されていま す.学生が創意工夫することで,新しい可能性が生まれ ます.図9のように,自分の手で製作した衛星から見た 地球の姿を画像として受信できるのも,CubeSatの魅力 の一つです.2011年の日経サイエンス9月号で特集記事 が掲載されています. (a)CubeSatのパーッ (b)完成したCubeSat 図8CubeSatの開発「1°〕 図10 CanSatの衛星機器(左)と機体(右) CanSatプロジェクトの目的は,「超小型衛星模型の設 計・製作・運用を学生自身が行うことで衛星開発に必要 な知識と技術を獲得する」ことにあります.専用の回路 モジュールに自作回路を組み合わせるだけで,簡単に独 自の衛星を製作できることから,大学生だけでなく高校 生もCanSatの製作に取り組んでいます. 図10のようにCanSatはOBC(人工衛星の頭脳),通 信機やいろいろなミッション機器を搭載し,アマチュア ロケットや気球によって打ち上げられます.CanSatで はロケットや気球からの放出後,パラシュートによって 降下してくる間に各種ミッションを行います(図11).
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図tl CanSatによる飛行ミッション11・ 図9CubeSatによる衛星軌道上から撮影した地球[1°] もう一つの人工衛星プロジェクトであるCanSatとは, 人工衛星を動かすために必要なデータ通信を実験するた めの超小型の空き缶衛星です.図10のような,350ml 缶に衛星機器を詰め込んだ超小型衛星模型をしていま す. 2.5 学生向けロケット開発支援団体・企画 国内には,ロケット打ち上げや宇宙開発の取り組みを 支援する団体が幾つかあります.その’つがUNISEC (University Space Engineering Consorti−um, http://www.unisec.jp/)です12、主に, CanSatや CubeSatの開発,ハイブリッドロケットの開発を支援し ており,各大学におけるロケット開発に関するシンポジ ウムを定期的に開催しています.東洋大学におけるロケット打ち上げプロジェクト 高校生によるCubeSatの製作,ロケットを開発する ための支援団体として,「理数が楽しくなる教育」実行 委員会があります.高校生を対象とした缶サット甲子園 やロケット甲子園と呼ばれる企画悶を実施しています. 小学生から参加出来る団体として,日本宇宙少年団 ( Young Astronauts Club− Japan, YAC, http://www.yac−j.or.jp/)があります.ホームページで は,身近なものを利用したロケットの製作や映像コンテ ンッを紹介しており,宇宙飛行士による講演会などの催 しも積極的に行っています. 学生から社会人まで参加している国内最大規模の
ロケットイベントとして,能代宇宙イベント
(http://www.noshiro−space−event. org/)があります. 秋田県能代市で毎年8月中頃に行われる国内最大規模の 大会であり,ハイブリットロケット打上や缶サット競技 などが行われます。このイベントには毎年300名以上の 学生と20を越える団体が参加しています. 3s本学におけるプロジェクト構想 はじめに述べたように,筆者は,本学において宇宙工 学のプロジェクトを立ち上げたいと考えています.これ まで私が学生と話してきた限りでは,宇宙科学や宇宙工 学には興味があるけれども,具体的に何をして良いのか 分からない学生が多いように感じています.プロジェク トを通じて,宇宙に関心のある学生が充実した学生生活 を過ごせること,そして,学内の活性化により,多方面 に影響を与える場になることを目指しています. 折角,ロケットを製作するのですから,それを活用し て実験に取り組みたいと思います.図12はプロジェク トの概要を示しています.気球で機体を上昇させた後, 気球を切り離して衛星を落下させます.落下時に推力を 制御することで,衛星内部で微小重力環境を作り,実験 を行います.実験終了後,パラシュートが開き機体を回 収して再利用します.微小重力実験に必要な高度まで, ロケットで衛星を打ち上げるには,相応の技術力と予算 が必要です.そのため,プロジェクトの開始段階では, 気球を使用した打ち上げシステムを想定しています. ⑪気璋はよる上胤 ⑤パラシユー+ ■●9,_
図12 微小重力実験プロジェクトの概要 無重力の宇宙空間では,重力が作用する地上では観察 できない現象を確認できたり,特殊な物質を生成するこ とが出来ます. 学生が取り組める実験テーマとして,微小重力環境で の液体の挙動,液滴内部での気泡発生,シャボン玉の割 れ方などを調べることを考えています.これらは既に行 われている実験ですが,検証実験として行えば,自分た ちの取り組みの確かさを確認できますし,新しい試みに 取り組む自信にも繋がると思います.微小重力環境で卵 焼きを作り,地上で作ったものと焼き上がり方を比較す るといった実験も考えています.応用的テーマとしては, 異分野と連携,協力することで,新規材料創成,高品質 結晶の生成などに関する研究への利用を検討していま す. このようなプロジェクトの学生に対する教育効果は, 講義で学ぶ内容を実際に活かせること,学生自ら考えて, 主体的に行動できるようになることにあります.そのた め,社会人となる前の仕事の模擬訓練になると考えてい ます.短期間で主目的であるロケットや衛星を飛ばすこ とができなくても,段階的に目標設定することで,少し ずつ達成感を得ることができます.具体例として,既存 の製品を使用した基礎技術の学習や,モデルロケット燃 料を用いた燃焼試験などを考えています.ロケット打ち 上げには,測定技術(加速度,圧力,温度,推力など), 通信制御(点火,機体の分離・飛行制御),テレメトリ などが必要となります.小規模試験の積み重ねにより, プロジェクトに必要な技術を身につけ,将来的に微小重 力試験を試みたいと考えています. 4.まとめ 現在盛んに行われている宇宙工学に関するプロジェク トの例を挙げながら,本学におけるプロジェクト構想を述べました.これから活動を始めるため,具体的な成果 を挙げることは出来ていませんが,本学の学生が取り組 めるように,また本学の活性化に繋がるように,取り組 んでいきたいと思います. 参考文献 1)大学の設計製作飛行活動(航空機、衛星、ロケット),日 本航空宇宙学会第36期年開講演会講演集,pp.31−65, (2005). 2)CORE(Challenge of Rocket Engineering)ホームペ ージ(http://corerocket.lolipop.jp/). 3)Harunori Nagata, Mitsunori Ito, Takenori Maeda, Mikio Watanabe, Tsutomu Uematsu, Tsuyoshi Totani and Isao Kudo, Development of CAMUI hybrid rocket to create a market for small rocket experiments, Acta Astronautica, Vbl.59, No.1−5, pp. 253−258, (2006). 4)丸山信也,那賀川一郎,WAX燃料の製造に関する研究,