中国における食料品・飲料の産業内貿易
―東アジア・東南アジア諸国との貿易に焦点を当てて―樋口 倫生
1)*・森 路未央
2)・井上荘太朗
1)China’s Agri-Food Intra-Industry Trade: Focusing on Trade with East and Southeast
Asia
Tomoo Higuchi1)*, Romio Mori2) & Sotaro Inoue1)
This study analyzes China’s agri-food intra-industry trade using the Grubel–Lloyd (GL) indices for 2000–2016. The GL indices of China are lower than the average values for East Asian countries during this period. This reflects the fact that Broad
Economic Categories (BEC) 112 and BEC 121 have a larger trade share and lower GL indices. The BEC 122 trade between China and Korea, Thailand, and Malaysia has a large share and higher intra-industry trade rate. キーワード:中国,国際貿易,産業内貿易,食料品・飲料,Grubel–Lloyd(GL)指数 1.はじめに 中国は,2001 年の WTO 加盟,さらに ASEAN, チリ,ニュージーランド,韓国など多くの国・地域 とのFTA 締結で,貿易の自由化が進展し,大幅に関 税が低下した.食料品・飲料についても,この過程 で関税障壁が小さくなり,油糧種子,畜産物の輸入 が一方的に増加する(産業間貿易)と同時に,ビー ルや食料調製品などで産業内における双方向的な貿 易の比率が高まっている. このような食料品・飲料(BEC(Broad Economic Categories)の 1 類)の貿易について,東アジア・ 東南アジア(以下,東・東南アジアと呼ぶ)を対象 にした産業内貿易に関連する既存研究をみると,金 田(2009,2013),樋口他(2017)を挙げることが できる1.金田(2009,2013)は BEC 集計データを もとに産業内貿易の様態を数値で明らかにした.樋 口他(2017)は,分析対象は同じく BEC1 である が,HS6 桁データを利用することで,小部門の産業 内貿易が全体に反映されるように計算している2. ただし樋口他(2017)は,BEC 集計データと HS6 桁分類のデータの違いによる分析結果の相違に関心 をおいており,個別の国に対する観察は不十分とい える. そこで本稿では,中国の食料品・飲料の産業内貿 易に注目し,東・東南アジア諸国との貿易の状況と その変動要因を分析する. なおここでの東・東南アジア諸国とは,本稿の分 析期間で中国との貿易データが入手可能な,日本, 韓国,台湾(UN の Comtrade では,「Other Asia, nes」と表記される),香港,シンガポール,マレー シア,タイ,インドネシア,フィリピン,ベトナム の10 カ国・地域とした. 2.分析方法とデータ (1)データ 本研究の分析対象である食料品・飲料は,BEC1 に 該 当 す る .BEC1 を さ ら に 3 桁 分 類 す る と , BEC111:素材・原料,産業用,BEC112:素材・原
1) 農林水産政策研究所; Policy Research Institute, Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries 2) 大東文化大学外国語学部; Faculty of Foreign Language, Daito Bunka University
* E-mail: [email protected] 受理日:2019 年 8 月 19 日
料 , 家 計 消 費 用 ,BEC121 : 加 工 品 , 産 業 用 , BEC122:加工品,家計消費用,の 4 つに分かれる. 具体的に述べると,BEC111 には,大豆や小麦な ど,産業部門(植物油脂製造業,製粉業)が買い手 となる原料,BEC112 には,野菜,果実,魚介類(生 鮮,冷蔵)など中間に加工業が介入せず直接消費者 が購入する原料,BEC121 には,パーム油などのさ らなる加工が必要な加工品,BEC122 には,精米, ビールなど消費者が直接消費する加工品が含まれる. 利用するデータは,UN の Comtrade から得た HS (1996 年版)6 桁品目コードのドルベースの輸入額 (2000~16 年)である3.このHS データを対照表に したがってBEC3 桁分類に対応させて以下で示す指 数を計算した. (2)産業内貿易指数 ある貿易関係における産業内貿易の比率を示す値 としてGrubel-Lloyd(以下,GL)指数を利用する. i 国に関し(以下,添え字 i は省略),b 品目におけ るj 国との GL 指数(GLjb)は,j 国への輸出(Ejb) とj 国からの輸入(Mjb)を利用して, GLjb= 1 − Ejb− Mjb / Ejb+ Mjb *100 (1) となる.b 品目が B 部門に属する(b∈B)とする と,B 部門の GL 指数は,GLjbを用いて GLjB=
∑
b Ejb+ Mjb/∑
bEjb+ Mjb *GLjb =∑
bwjbGLjb (2) で計算できる. ここでwjbはb 品目の B 部門における貿易ウェイ トである.(2)式から分かるように,B 部門の GL 指数は,b 品目の GL 指数を,b 品目の貿易額(輸入 +輸出)をウェイトとして集計したものとなる.し たがって全体のGL 指数計算には,各品目の GL 指 数のみではなく,貿易ウェイト×GL 指数が大きな 影響を与えていることが分かる. またi 国の GL 指数(GLB)を求めるには,全ての 貿易相手国j との GL 指数を加重平均すればよく, GLB=∑
j EjB+ MjB/∑
j EjB+ MjB *GLjB =∑
jφBjGLjB (3) となる.ここで φBj は i 国の B 部門の貿易における j 国の貿易ウェイトである. 本稿では,(1)式を用いて,HS6 桁品目コードの 各品目に対するGL 指数を計算し,その後,(2)式 によって,BEC3 桁分類の GL 指数を求める.さら にBEC1 の GL 指 数 は ,( 2 ) 式 で b={BEC111,BEC112, BEC121, BEC122},B={BEC1}とみなして 得た. (3)IIT ダイアグラム (2)式において,例えば BEC122 の GL 指数を計 算する場合,b は HS6 桁品目コードで 244 品目にな る.このように多数の品目の加重平均である部門全 体のGL 指数の構造を可視的な形で表現するために, IIT(Intra-Industry Trade,産業内貿易)ダイアグラ ムを利用する. IIT ダイアグラム(図 1)は,(2)式で,b が n 品 目あるとし,点Akに関して,第1 品目から第 k 品 目(1≤k≤n)に対する累積貿易ウェイト( ∑b = 1k wb ) を横軸の座標,累積GL 指数( ∑b = 1k w bGLb )を縦軸 の座標とし,原点から順にこれらの点を結んでいっ たものである(以下,煩雑になるので,j 国を示す添 え字は省略する). 最初に,B 部門に属する n 品目の各々の GL 指数 を求め,それを大きい順に並べ,第1 品目,…第 k 品目,…,第n 品目とする.図 1 にあるように,第 1 品目について,高さが w1*GL1,底辺がw1,C1が 直 角 と な る∆A1A0C1を 描 く と ( た だ しA0≡0 ), A1=(w1, w1GL1)となり,∠A1A0C1はarctan(GL1)を満 たす. 同様にして第2 品目から順に三角形を作図し,第 k 品目まで積み上げていくと,∆AkAk-1CkにおいてAk IIT ダイアグラムの例 図1.
の座標は( ∑b = 1k wb , ∑b = 1k wb*GLb )となる.最終的 に,第n 品目に対する Anの座標は,横軸が1(=∑b wb),縦軸がこの部門の GL 指数(GLB=ΣbwbGLb)と なる. なお図1 は,1 つの例として,第 2 品目の GL 指 数が10%以上で,第 3 品目が 10%未満と想定して 描かれている(GL2≥10>GL3).この時,A2を起点, G10 を終点とする破線矢印は,GL 指数が 10%以上 の品目の累積貿易ウェイト(W)を指し,その長さ は累積GL 指数(S)を示す.図 1 では,W=w1+w2, S=w1GL1+w2GL2となっている. 10%を基準として,G10 の左側は産業内貿易指数 が10%以上と比較的高い品目群,G10 の右側は産業 間貿易が支配的な品目群となる.G10 の左右で 2 つ の部門とみなすと,G10 より左側の GL 指数は S/W で計算できる. 3.分析結果 (1)食料品・飲料の産業内貿易 まず,中国における食料品・飲料(BEC1)の貿易 の概況を,顕示貿易統合比較優位指数を用いて確認 し よ う . 表1 にあるように,2000 年ですでに, BEC111 と BEC121 の指数はマイナスで比較劣位部 門となっている.これは小麦,大豆,パーム油など の加工用・飼料用原料に対する国内需要の大きさが 反映されている. BEC112 や BEC122 の指数は,プラスで比較優位 性をもつが,低下傾向にある.BEC122 に関しては, 低下が急速で,近年では比較優位性を失いつつある. この理由は,所得の増加とともに畜産品やワインな どの需要が増大し,WTO 加盟や FTA の締結などで, 中国の顕示貿易統合比較優位指数(%) BEC 2000 年 04 年 08 年 12 年 16 年 111 −1.1 −1.6 −1.4 −1.7 −1.7 112 0.72 0.54 0.37 0.29 0.29 121 −0.52 −0.97 −0.85 −0.78 −0.40 122 0.68 0.41 0.27 0.19 0.04 1)顕示貿易統合比較優位指数は,以下で定義する XR と MR を利用して XR―MR であり,0 より大きいと比較優位 であると判断する.ここでXR={[i 国の B 部門の輸出/i 国 の総輸出]/[世界の B 部門の輸出/世界の総輸出]}とし,同様 の式を輸入についても定義し,MR とする.計算では,全 世界向け輸出,輸入データを用いた. 表1. 輸入の増加としてそれが顕在化したためと思われる. BEC112 は,2016 年においても 0.29 で依然として 輸出競争力を維持している.これについては,輸出 が好調な野菜や水産物が含まれていること,国内に 生産基盤があり輸入がそれほど増加していないこと などを挙げることできる. では以上の特徴をもつ中国のBEC1 類(食料品・ 飲料)貿易のGL 指数を東・東南アジア貿易の視点 から観察していこう(表2).2000~16 年における 中国のGL 指数は東・東南アジア諸国の平均値(以 下,東・東南アジア平均とする)と比べ相対的に小 さく,中国は東・東南アジアの中で産業内貿易の比 率が低い国といえる.しかし,指数自体は増加傾向 にあり,産業内貿易が徐々に活発になっていること が見て取れる. 次にBEC1 を 3 桁分類に細分して,GL 指数が東・ 東南アジア平均より小さくなる要因を考えていこう. ただしBEC111 は,全期間で貿易ウェイトが非常に 小さく(表2),全体へ与える影響はほとんどないた め,以下の議論では除外する.まず2000 年は,貿 易ウェイトが5 割を超える BEC122 の GL 指数が, 東・東南アジア平均より小さかったことに起因する. 2004 年以降は,貿易ウェイトが大きい BEC112 と BEC121 の GL 指数が,東・東南アジア平均より小 さく,BEC1 の GL 指数が低くなっていた4. BEC122 に関しては,2000 年代前半に値は小さい が,その後,2012 年に 9.1,2016 年には 10 を超え 中国のGL 指数(%) BEC 2000 年 04 年 08 年 12 年 16 年 1 3.5 3.1 4.3 4.8 7.0 4.8 5.8 6.1 6.9 8.5 111 2.1 0.52 0.80 1.3 2.1 (0.07) (0.05) (0.05) (0.04) (0.04) 112 4.9 3.0 4.0 2.6 2.7 (0.31) (0.29) (0.24) (0.30) (0.34) 121 1.1 0.86 0.62 0.68 1.7 (0.07) (0.15) (0.29) (0.25) (0.14) 122 3.1 4.1 7.5 9.1 12 (0.55) (0.50) (0.41) (0.42) (0.48) 1)BEC1 で下線付きの値は,東・東南アジア 11 カ国・地 域の平均値. 2)( )内は貿易ウェイト.四捨五入の関係で,4 部門の 合計が1 にならない場合がある. 表2.
て12 となる.産業内貿易の理論的な背景には規模の 経済による差別化された製品の生産が仮定されてい る.BEC122 は,加工産業でかつ家計消費用の財を 生産する部門でこの仮定に最も近い.このため,産 業内貿易の比率が他の部門よりも相対的に高くなっ ている.また上昇傾向をもつのは,それまで生産で きなかった財の製造が技術移転などを通じて可能に なったためと思われる. このようなBEC122 の産業内貿易比率を 2004 年 と16 年の二時点で比較すると,貿易ウェイトがほぼ 一定(0.50 と 0.48)となっており,BEC122 の産業 内貿易比率の増加はこの期間におけるBEC1 の GL 指数の上昇に寄与している. 最後に比較優位性と産業内貿易指数の関係を確認 しておこう.先ほどみた比較優位指数とGL 指数の 相 関 係 数 を 求 め る と ,0.08 ( BEC111 ), 0.64 (BEC112),0.62(BEC121),−0.95(BEC122)と なった5. ここで興味深いのは,BEC112 と BEC122 の相関 係数の符号が異なっている点である.どちらの財も 家計消費用であるが,世界貿易での比較優位性が低 下する中,東・東南アジアでは,BEC112(素材・ 原料)の産業内貿易比率は低下する一方,BEC122 (加工品)のそれは上昇している. これは,素材・原料の製造は差別化が困難で,比 較優位性低下が産業間貿易の増加となるが,加工品 では世界貿易での比較優位性が低下しても,東・東 南アジア諸国を対象にした場合,財の差別化を通じ て一部の財を輸出することが可能なためであろう6. (2)BEC112,121 の産業内貿易 前節では,2004 年以降,中国における BEC1 の低 いGL 指数の要因が,BEC112,BEC121 の GL 指数 の低さにあることを明らかにした.そこで本節では この2 つの部門を詳察する. 表3 には,BEC112 について貿易ウェイトが大き い4 カ国の GL 指数が記されている.2004 年以降, これら主要な相手国とのGL 指数は東・東南アジア 平均と比べて小さく,BEC112 全体の GL 指数を引 き下げていた. ただし個々の貿易パターンは異なっている.表3 の集計値によるGL 指数(斜字体)をみると,日本, 韓国,そして香港はほぼ20 以下で,中国の輸出特化 が起こっているのが分かる7.一方タイは全ての年 で30 より大きく,2008 年と 16 年には 50 を超えて おり,集計値では産業内貿易の比率が非常に高い. 以上のことは,中国と4 カ国との貿易は,HS6 桁 レベルで産業間貿易が支配的であるが,日本,韓国, 香港との貿易は,中国の輸出特化になっていること を示している8.一方タイとの貿易は,中国がにん じんや温帯果実(りんご,みかん,ぶどうなど)を 輸出する中で,タイからキャッサバチップや熱帯果 実(マンゴー,マンゴスチン)を輸入する相互貿易 を反映して9,集計値の産業内貿易指数が高くなっ ているといえる. なお2012~16 年に日本の集計値の GL 指数が大 きく上昇する一方,HS6 桁データでは低下している が,その理由は以下のようである.この期間に,日 本の冷凍ホタテの輸出が著増し10,日本の輸出集計 値(BEC112)が中国のそれに近づいたため,集計 値のGL 指数は増加した.一方 HS6 桁レベルでは, 冷凍ホタテ(GL 指数は 0)の貿易ウェイトが高ま り,BEC112 の GL 指数は低下した. 次にBEC121 を観察する.表 4 には,2004 年以 降,中国のBEC121 に占める貿易ウェイトを合計す るとほぼ8 割を超えるインドネシアとマレーシアに 対するGL 指数を示している.GL 指数は,2016 年 中国のGL 指数(BEC112)(%) 国名1) 2004 年 08 年 12 年 16 年 日本 2.8 4.1 3.8 2.2 3.1 4.7 7.4 19 (0.42) (0.29) (0.21) (0.18) タイ 2.8 5.2 1.6 2.0 34 56 36 54 (0.12) (0.14) (0.26) (0.25) 韓国 2.0 4.2 5.8 8.5 14 22 16 17 (0.16) (0.15) (0.10) (0.10) 香港 0.5 0.3 0.2 1.0 0.5 0.3 0.2 1.0 (0.10) (0.09) (0.10) (0.11) 1)2004 年以降の 2 年以上でウェイトが 0.1 を超える国. 2)斜字体は,BEC112 の集計値で算出した GL 指数.全て の年で,日本,韓国,香港の輸入超過,タイの輸出超過. 3)( )内は,貿易ウェイト. 表3.
のマレーシアで1.45,それ以外の全ての年で 1 未満 となっている. この要因を,BEC121 を構成する個々の品目にさ かのぼって調べると,パーム油に関連する4 品目(以 下,パーム油とする)に起因することが分かる11. パーム油は,この2 国から中国への輸出特化状態で あり,産業内貿易指数がほぼゼロである(表4).ま たパーム油のウェイトから,2 国の BEC121 の大部 分がパーム油の貿易であり,中国のBEC121 に対する GL 指数の低さはパーム油に由来しているといえる. (3)BEC122 の産業内貿易 本節では,IIT ダイアグラムを利用して BEC122 の産業内貿易の変動要因を観察する. BEC122 における各国の GL 指数を表 5 に示した. 中国のBEC122 の GL 指数が東・東南アジア平均よ り大きくなる2008 年以後(表 2),GL 指数が高い国 は,マレーシア,台湾,韓国,タイ,シンガポール である.ただし台湾やシンガポールは,貿易ウェイ トが小さく,全体(BEC122)への寄与は微々たる ものである.そこで以下では,マレーシア,韓国, タイの3 カ国に注目し,IIT ダイアグラムを通して, 中国との関係を観察する12. まずマレーシアのIIT ダイアグラムをみてみよう (図2).2004 年に,GL 指数は 20.5 で,10%以上の GL 指数を示す品目群に関して,図 1 で定義した G10 の座標(W, S)は(0.27, 20)となっている.この年 のGL 指数は,他の国と比較すると(表 5),台湾と 中国のGL 指数(BEC121)(%) 分類 2004 年 08 年 12 年 16 年 インドネシア BEC121 0.04 0.10 0.02 0.03 (0.28)(0.33)(0.40)(0.49) パーム油1) 0.00 0.00 0.00 0.00 (0.89)(0.83)(0.89)(0.82) マレーシア BEC121 0.25 0.27 0.28 1.45 (0.56)(0.54)(0.43)(0.29) パーム油1) 0.00 0.00 0.00 0.01 (0.96)(0.94)(0.92)(0.85) 1)パーム油は本文の注 11 を参照. 2)( )内は貿易ウェイト.BEC121 は東・東南アジア 10 カ国・地域でのウェイト.パーム油はBEC121 でのウェイト. 表4. 共に突出して高い値である.これは,G10 の左側に ある品目群の寄与である.具体的な品目名を把握す るため,各品目の(GL 指数×貿易ウェイト)を基 準にして調べると,その他の冷凍魚(HS030379)や 調製品食料品(HS210690)の影響が強くあらわれて いるといえる13. 2004 年以降,曲線は,08 年に一時的に下方に移 動するが,12 年に大きく上昇し,16 年にはその水 準を維持している.2004 年と 16 年の(GL 指数×貿 易ウェイト)を求め,その差の大きい品目を並べる と 表 6 の よ う に な る . こ こ か ら , 砂 糖 菓 子 (HS170490)やベーカリー製品(HS190590)などの 製菓類,その他の調製食料品(HS210690),ソース (HS210390)の GL 指数あるいは貿易ウェイトが大 きくなり,曲線の上昇に寄与したことが分かる.さ らにこれらの部門は,12 年や 16 年の高い曲線の位 置に強い影響を与えている. 次に韓国をみると(図3),2004 年の GL 指数は 6.8 で,その後,曲線は徐々に上方にシフトし,16 中国のGL 指数(BEC122)(%) 国名1) 00 年 04 年 08 年 12 年 16 年 マレーシア 7.6 20 17 31 31 (0.03) (0.02)(0.04)(0.04)(0.05) シンガポール 7.7 6.7 2.7 11 21 (0.02) (0.03)(0.04)(0.04)(0.03) 韓国 6.0 6.8 14 18 20 (0.09) (0.11)(0.13)(0.11)(0.12) タイ 3.2 4.5 9.6 19 18 (0.03) (0.05)(0.06)(0.06)(0.08) 台湾 8.7 24 24 21 15 (0.005)(0.01)(0.02)(0.03)(0.04) 香港 2.7 2.3 6.0 7.4 9.1 (0.18) (0.17)(0.19)(0.19)(0.24) フィリピン 3.5 12 7.9 6.9 8.2 (0.01) (0.01)(0.01)(0.02)(0.02) インドネシア 2.1 8.6 8.4 6.8 7.6 (0.03) (0.01)(0.03)(0.04)(0.05) 日本 2.4 2.8 4.8 4.3 7.5 (0.62) (0.60)(0.47)(0.43)(0.28) ベトナム 4.6 6.3 9.9 3.1 5.1 (0.002)(0.01)(0.01)(0.05)(0.09) 1)2016 年の GL 指数が高い順に並べた. 2)( )内は,貿易ウェイト. 表5.
年には13.5 ポイント増加した 20.3 であった.これ は,G10 より左の品目群の貿易ウェイトが 0.2 から 0.49 に 増 加 し , ま た そ の 品 目 群 の 平 均 GL 指 数 (S/W)も 26 から 39 に増加したことが貢献してい る.この現象を個別品目で確認すると(表6),その 他の冷凍魚(HS030379),調製食料品(HS210690), ビール(HS220300),果実,ナット(HS200899) IIT ダイアグラム(マレーシアの BEC122) 1)S/W は,75(2004 年),75(08 年),64(12 年),60(16 年). 図2. HS6 桁レベルの GL 指数(%) HS 2004 年 2016 年 GL w GL w マレーシア 170490 8.7 0.029 90 0.045 210690 98 0.078 96 0.102 210390 76 0.017 75 0.045 190590 43 0.013 49 0.041 韓国 030379 3.5 0.302 21 0.155 200899 18 0.017 60 0.039 220300 45 0.005 97 0.022 210690 38 0.020 51 0.053 タイ 210690 46 0.018 53 0.097 170490 99 0.005 84 0.027 030379 5.5 0.052 55 0.035 190410 43 0.002 83 0.015 1)GL は GL 指数,w は貿易ウェイトである.2004 年と 16 年の(GL×w)を求め,各国においてその差が大きい順に HS コードを記した. 表6. で,GL 指数と貿易ウェイトが同時に高まり,曲線 が上昇している. タイに関しては(図4),2004~12 年に曲線が上 方にシフトし,その後やや低下する.2004 年と 16 年のS/W は 51 であるので,曲線が上昇したのは, 産業内貿易の割合が比較的高い品目群のGL 指数が 高まったのではなく,その貿易ウェイトが0.08 から 0.35 となったことによる.このような変化には,タ イから中国へ一方的に輸出(GL 指数が 0)する精米 (HS100630)が影響している.2004~16 年に,その 貿易ウェイトが0.64 から 0.22 へと低下しており, それに伴ってG10 が右に移動した. またこれと並行してG10 の左側では,その他の調 IIT ダイアグラム(韓国の BEC122) 1)S/W は,26(2004 年),28(08 年),36(12 年),39(16 年). 図3. IIT ダイアグラム(タイの BEC122) 1)S/W は,51(2004 年),32(08 年),50(12 年),51(16 年). 図4.
製食料品(HS210690),砂糖菓子(HS170490),そ の 他 の 冷 凍 魚 (HS030379 ), 穀 物 の 調 製 食 料 品 (HS190410)で,GL 指数あるいは貿易ウェイトが高 まり(表6),全体の GL 指数の上昇に寄与した.な お上記の品目群は,2012 年(19)や 16 年(18)の 高いGL 指数自体にも貢献している. 4.おわりに 本稿ではWTO 加盟後の中国に関し,東・東南ア ジア諸国との食料品・飲料(BEC1)貿易の構造変化 を解明した.GL 指数を用いて中国の産業内貿易の 割合を計測すると,2000~16 年で常に東・東南アジ ア平均値より小さく,東・東南アジア地域内では産 業内貿易比率が小さい国であることが示された.た だし2004 年から GL 指数は上昇傾向にあり,産業内 貿易が徐々に活発になっていることが分かった. 次にBEC3 桁分類によって,BEC1 の GL 指数の 変動要因を探ると,2004 年以降,GL 指数が小さい のは,貿易ウェイトが相対的に大きいBEC112 や BEC121 で産業内貿易の比率が低いことが 1 つの理 由となっていた.またBEC1 の GL 指数上昇には BEC122 が寄与していた. 中国のBEC112 の GL 指数が東・東南アジア平均 (BEC12)より低いことに関しては,この部門での 日本,韓国,香港,タイとの貿易の影響が大きい. BEC121 については,インドネシアとマレーシアか らパーム油を輸入(産業間貿易)していることに起 因してGL 指数が小さくなっていた. 最後にIIT ダイアグラムによって,マレーシア, 韓国,タイの貿易構造を分析した.その結果,同じ BEC122 に属する品目でも,産業内貿易が活発なも のと産業間貿易が優勢なものに分かれており,品目 ごとにGL 指数は大きく異なっていた. そして全体のGL 指数の変動に対しては,多数の 品目の中で,GL 指数と貿易ウェイトの積が大きく 上昇する少数の品目が強く影響していることが明ら かになった. 注 既存研究の中には,加賀爪(2009)のように,生産工程間で の垂直的な分業に伴う貿易を産業内貿易とするものもある. しかし本稿では,産業内貿易を差別化された商品による双方 向の貿易と定義しており,工程間分業による貿易は産業間貿 1 易となる.工程間分業を産業内貿易と捉えた分析は今後の課 題としたい.
Bojnec and Fertőb(2016)は,HS6 桁データを用いてヨーロッ パ諸国の農産物の産業内貿易を分析している. 以下で説明するGL 指数の計算では,i 国から j 国への輸出額 は,j 国の i 国からの輸入額を利用する. 2004 年は,2000 年と同様,BEC122 の影響もある.2000 年 と04 年における BEC122 の低い GL 指数と高いウェイトは, 脚注12 にあるように,日本との貿易に由来する. 2000~16 年の全てのデータを利用して計算. 東・東南アジアでは,比較優位性低下要因の畜産品やワイン の交易が少ないということもある. 韓国のGL 指数が相対的に高いのは,魚介類(冷凍のいか 030749,その他のもの 030799)やくり(080240)の輸出に よる. 樋口他(2017)は,BEC1 について集計値による GL 指数と HS6 桁データによる GL 指数との相違を議論している. HS コードを示すと,071410(キャッサバ芋),070610(にん じんおよびかぶ),080450(グアバ,マンゴスチン,マン ゴー),080610(生鮮ぶどう),081090(その他の生鮮果実 (ランブータン,パッションフルーツ,レイシなどを含む), 080520(温州みかんなど),080810(りんご)となる. HS030729(スキャロップ(その他のもの;冷凍))の増加. パーム油4 品目は,パーム油およびその分別物(HS151110, 151190),パーム核油およびババス油ならびにこれらの分別 物(HS151321, 151329)を指す. なお2000 年と 04 年に高い貿易ウェイトを記録した日本の 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 HS コードの名称 HS 名称 030379 魚(冷凍したものに限る),その他のもの(さん ま,かじき,たいなど) 030749 いか(冷凍,乾燥) 160414 まぐろ,かつお,はがつお(調製しまたは保存に 適する処理をしたものに限る)で気密容器入りの もの 170490 砂糖菓子(チューインガムを除く) 190410 穀物または穀物産品を膨張させてまたはいって得 た調製食料品 190530 スイートビスケット,ワッフル,ウエハー 190590 その他のベーカリー製品(あられ,せんべいなど を含む) 200899 果実,ナットその他植物の食用の部分(その他の 調製をしまたは保存に適する処理をしたものに限 る)で,その他のもの. 210390 その他のソース,ソース用調製品など 210690 調製食料品(他に該当しないその他のもの) 資料:日本関税協会(1999)を参考にした. 付表1.
GL 指数は非常に低い.このように日本は,2000 年代前半 に,BEC122 部門を通じて中国の GL 指数を引き下げる効果 をもった. HS030379 の GL 指数(貿易ウェイト)は 72(0.11)である. HS210690 は表 6 参照.なお本文中で,HS6 桁品目コードの 名称を全て表記すると煩雑になるので,省略して記した.正 確な名称は,付表1 を参照. 引用文献 加賀爪優(2009)「東アジア共同体構想における農業・環境問 題と産業内貿易の意義」『京都大学生物資源経済研究』14: 43–63. 金田憲和(2009)「東・東南アジア域内の食料品産業内貿易の 13 変化―加工度・用途別の分析―」『2009 年度日本農業経済 学会論文集』,303–309. 金田憲和(2013)「東アジアにおける食品貿易の構造―産業内 貿易の視点から―」『フードシステム研究』20(2):96–107. 日本関税協会(1999)『輸出統計品目表 2000 年版』. 樋口倫生・井上荘太朗・伊藤紀子(2017)「東アジアにおける 産業内貿易の再考―HS6 桁データを利用して―」『フード システム研究』24(3):293–298.
Bojnec, S. and I. Fertőb (2016) Patterns and Drivers of the Agri-Food Intra-Industry Trade of European Union Countries,
International Food and Agribusiness Management Review