30 (東京女医大忌 第24巻 第5号頁196−198昭和29年10月)
〔臨 床 実 験〕
遊走重.雨量の一例
東京女子医科大学内科教室 (主任 三神美和教授) 内 ナイ 福 フク 藤 }ウ 島 シマ アこ 雅 マサ (受付昭和29年7月30日)
み 子 コ 近来Pyelographieの普及により画意型が屡 々発見される様になったと云われて居ります。私 共も腹部及腰部の反覆せせる疹痛発作から腎石を 疑って腎孟撮影を行いました所,偶然に右側不完 全重複腎の一例を発見致しましたのでここに報告 致します。 症 例 患者:大○保0 42才 女 教師 既往症:として①昭和21年ApPendektomie ②昭和27年9月頃,腰痛,嘔吐は:げし.く「モヒ剤」の 注射を受けて治癒した事が3回あります。 家年歴:には特記すべき事はありません。 露顕:28年12月!2目何等の原因なく突然に上腹部か ら背部及腰部にかけて刺し込む様な落痛あり,安静に より一時軽快しましたが其後,過労した為か12月22日 越同様の疹痛はげしく悪心嘔吐があり「モルヒネ剤2 本注射し疹痛はおさまり’ましたが,翌日夜再び同様の 落痛発作を繰返したので本院に入院致しました。 入院時所見 体格中等度,栄養やや佳良,皮膚湿潤で発疹,皮 下出一血等はありません。顔色やや貧.血性でありま すが,浮腫は認められません。体温38.5CC,脈榑 90で整調,口腔粘膜正常,白色舌苔あり,各部淋 巴腺に病的腫脹は認められませんQ心界正常,心 悸充進なし,心音純,呼吸音正常であります。上 腹部全般やや膨隆し,此の部に抵抗圧痛顕著,右 回下端を触れ該部附近に軽度の圧痛があります。 肝,脾触れす,膀胱部の圧痛無く,排尿障碍もなく. 其他各部の反射及神経系には異常を認めません。 入院後の経過: 上腹部全般の自発痛並びに抵抗圧痛は次第に軽 快し,一時間半後に胆汁様のものを嘔吐し,すっ かり良好となりました。其後は単蹄其他の自覚症 全くなく経過致しましたが,ユ月5日即ち入院後 25日目排便時に再び前回同様の準準発作を起しま した。此の疹痛は第11後突起の高さから腰部には げしく,特に右側に最も強く,叉腹部全般にかけ ても著明で,との際,あくび,発汗を伴いました が, 糸勺1時間後嘔吐あり,食物残査吐出により疹 痛は全く消失致しました。此の疹痛発作は特に食 餌との関係はなく,又他の部位にに放散する事は ありません。2月20日歩行の後腰聞及右側腹痛を 訴へ,右肋骨弓下4横指の所で腹腔内に遊走せる 腎を触知し,此れに圧痛を認めましたが,2日後 に下膳軽快すると共に右腎の触れ方が少くなり圧 痛も減少しました。 諸検査成績 血圧最大圧115最:少圧εO,尿黄色透明,中性で 蛋白及糖(一),ウロビリノ』ゲン正常,鏡検上も 異常ありません。糞便中寄生虫卵(一)潜血反応 (一),血液検査赤1血球485万,白血球13400, H.b 95%,白血球像には変化はありません。血沈 中闇値4,肝機能検査BSP30分5%以下,高田 反応正常範囲。胃液検査でぱ空腹時遊離塩酸36, 最高111,排泄時間1時間50分,血色素(一),ペ プシン及ラーブ酵素(十),沈澄には白血球及上皮 細胞を認めます。胃腸レントゲン所見では,十二 指腸上部にNischeを認め,胃はhypotonischで ありました。膵臓機能検査としてジアスターゼ測 一一P96一
31 定を疹痛発竹:時に行い,尿中64ジアスターゼ単位 で正常範囲。腎臓機能検査では,稀釈濃縮試験正 常,腎繊単純1距彫上所見なく,スギウ・ン静注に よる腎孟撮ilじを行い,右側距複腎を見駅づ一。
総括及考察
以上の所見から総括並びにジラ察致しますと本症 例は ①12月23日上腹部の自発痛及抵抗圧痛顕著で発 熱3855C白蛇1球数13000,ヘルド氏圧痛帯陰性で ありましたが,一応肺臓炎を疑いジアスターゼ測 定を行った所正常範囲にあり,且つ氷嚢貼布によ り疹痛が次第に軽快し,更に嘔吐によりすっかり 疹痛が消退した事から,陣臓炎よりむしろ胃部に 何か病変がある事を疑わせまし旋。 ②胃液検査並に胃腸レントゲン透視下撮影上, 朗かに胃粘膜萎縮しPeristartik tr5g,叉十二指 腸にNischeが認められ,胃酸過多の傾向にあり ます。然し糞便中潜血反応は前後8回の反覆検査 にもかかわらす常に陰性であった事から,かつて 胃炎があり猶潰瘍があった事が証明されると思い ます。然し共後弓々遭遇した上腹部の疹痛が始め 必ず警部より腰部にかけての疹痛から始まり,且 つ石季肋部に軽い圧痛があP時として肝腎下端が 触れる事より肝臓か腎臓かに変化があるのでぱな いかと一応疑問が持たれました。 ③次で肝機能検査を行った所正常範囲で,か つて黄疸等の既往歴は全然なく肝臓ぱ触れす圧痛 も認めません。又発熱も共後全くなく尿巾ウロビ リノーゲン(一) ビリルビン(一) 一血清中モイレ ングラハト6,.血沈4。 ④上腹部の全般的疹痛1よ笹野次第に回数が少な くなりましたが,石町三部の圧痛は常にあり時に 腰痛のある享から堅石を疑い疹痛弓剖・時の検尿を 精密に行いましたが変化なく,叉排尿困難無く膀 胱剖の圧痛及不快感等も見られませんでした。腎 の臓部の単純撮影を行っても腎石と思わせる影はな く更に此を確めるべく腎孟撮影を行った所偶然に もレントゲン写真に見る様な11一側亜複腎を認めま した,) 即ち本鮪に於ては二つの独立した腎孟が見ら れ,此れより夫・々輸尿管が出て途中で一本の輸尿 管となっている。即ち一側不完全出品輸尿管であ ります。単なる重複腎のみで症状を現わすか否か と云う事でありますが,交献を見ますと臨床的に は多くは結核,結石,膿腫,出血,乳睡尿,水腫 等の疾患で,Pyelographieにより偶々発見され ると云われております。然し少数例でぱ前例の如 く腰痛,側腹痛によつて発見され九と云う2,3の 報告も見られました。然し本例に継ても疹痛発作 を起した場合ぱ,何れも過労や叉ぱ入院中に於V・ ても明かに動いた後であります。入院時よく触れ ていた腎が症状の軽快と共に触れる程度が少くな り,叉入院経過中発作を起した時ぱ再び腎が下降 していました。又Pyelographieの所見で左側に 比し腎孟が拡大しています。 かかる所見から本例に於ては腎の遊走ぱ高度で なV・にもがかわらす,重複腎がある為にかかる症 状が現れたものと考えました。 次に斯様な:重複腎の場合の罹患率に就いてぱど うかと調べて見ました所,正常腎と共の罹患率に 弟異を認めないと云うものと,又反対に差異があ ると云うもので,何れも決定した事は云えませ ん。更に:重複腎が罹患し允場合,上下何れに多い かば不明で,古くぱ上位腎より大きい下位腎に多 いと云われておりましたが,反対に上位腎のみ罹 患した報告も,最:近少くありません,最:後に然ら ば重複腎はどの位の割合に存在するのであるかと 申しますと,諸家によると死体解剖例及新馬撮影 により,大体3%前後と云われ共の中94%は1側 vントゲン写真;スギウロン20cc静注5分二一197一
32 性で,約25%は不完全重複輸尿管であると云われ ております。 本稿の大要は東京女子医科大学々会第65会例会で発 表した。 稿を終るに臨み,懇切なる御指導と衝駿閲を賜りブこ る三神教授に感謝致します。 女 献 ① 赤坂:臨床皮泌 4巻 (昭25) ② 田林,軍馬,大井:臨床皮泌 3巻 (昭24) ③ 太田,稲罵:日本泌尿器学会誌 43巻 1号(昭 27)