• 検索結果がありません。

「地方都市における大規模核店舗撤退・跡地利用の実態と周辺に及ぼす影響―百貨店の撤退を事例として―」

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「地方都市における大規模核店舗撤退・跡地利用の実態と周辺に及ぼす影響―百貨店の撤退を事例として―」"

Copied!
24
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

地方都市における

大規模核店舗撤退・跡地利用の実態と周辺に及ぼす影響

―百貨店の撤退を事例として―

<要旨> 本研究は、全国地方都市中心市街地の百貨店の撤退と跡地利用の実態及び周辺地価への 影響について、明らかにしたものである。まず、事例調査により百貨店跡地の半数以上が 4 年以上低未利用地化していること、用途転換される場合は半数以上が公共複合施設とな っていることなどを明らかにした。次に、百貨店撤退後の跡地利用を商業用途等に固執す る場合、死荷重が発生する可能性があることを、理論モデルを用いて明らかにした。最後 に、撤退と跡地利用による地価への影響を計量的に分析し、撤退による負の影響が 600m 圏であること、人口 50 万人未満の中小都市においては商業用途や公共複合施設用途で跡 地利用されると、かえって周辺地価が下落傾向にあること等を明らかにした。 調査結果と理論・実証分析の結果を踏まえて、管理不全となった空きビル・更地の負の 外部性の解消、商業用途からの用途転換支援による死荷重の解消、市街地再開発事業の権 利者調整等取引費用の軽減、行き過ぎた施策介入(地方公共団体による床取得等)の是正 を提唱する。 2018 年 2 月 政策研究大学院大学まちづくりプログラム MJU17715 柳澤 拓道

(2)

1

目次

第1 章 はじめに ... 2 1.1 背景と目的 ... 2 1.2 先行研究 ... 2 1.3 本研究の対象と内容 ... 3 第2 章 撤退と跡地利用の実態調査 ... 3 2.1 使用するデータ ... 3 2.2 地方都市百貨店撤退の状況 ... 4 2.3 撤退後の低未利用地期間 ... 4 2.4 跡地利用が進まない理由 ... 5 2.5 跡地利用の現在 ... 6 2.6 用途転換の実態 ... 7 2.7 小括 ... 7 第3 章 跡地低未利用地化の理論分析 ... 8 3.1 理論モデルの設定 ... 8 3.2 都市の縮小と付け値曲線のシフト ... 9 3.3 用途固執による死荷重の発生 ... 9 3.4 百貨店の空きビル・更地化に負の外部性がある場合 ... 10 第4 章 低未利用地化の外部性及び跡地利用の影響の計量分析 ... 11 4.1 検証する仮説 ... 11 4.2 仮説①の検証 ... 11 4.3 仮説②の検証 ... 15 4.4 残差分析 ... 19 第5 章 まとめと提言 ... 20 5.1 まとめ ... 20 5.2 政策提言 ... 20 5.3 おわりに ... 22 謝辞 ... 22 参考文献 ... 23

(3)

2

第1章 はじめに

1.1 背景と目的 まちづくり3 法改正 1 2006 年)後、地方自治体は郊外の大規模店舗の立地規制を行う、 中心市街地における大店立地法の特例を設けるなどの対応を行ってきたが、郊外出店抑制 の明確な効果は上がっていない(田淵 2011)。一方、モータリゼーションと郊外化、ネッ トショッピングの普及などを背景に、地方都市中心市街地で大規模核店舗の撤退が相次い でおり、地方都市中心市街地の象徴であった百貨店についても撤退の動きが目立っている。 また、撤退後跡地の空きビル・更地化が長期化しているケースも多い。 大規模核店舗の撤退は、企業経営の観点から見れば不採算店舗の整理合理化であるが、 地方都市のまちづくり行政の現場では、以下の①~③の問題点が指摘されている。 ①1万平米を超える大規模な床が一度に空き床となり中心市街地の空洞化に拍車をか ける。②後継テナントがいない場合は、空きビル・更地化による景観、雰囲気悪化が起こ る。③中心市街地の核となる店舗の撤退によって、街の賑わい、買い回り人口、市民の憩 いスペース、ランドマーク性、街のブランド力が失われる。 大規模核店舗の撤退に対する地方自治体の対応は様々である。後継商業テナントの誘致、 行政による床取得、賃借などによって政策介入している例も多いが、個別の事例がまちづ くりの現場で一時的にフォーカスされても、全国的な実態は明らかにされてこなかった。 また、地方自治体が撤退店舗の床取得、賃借をするといった施策介入をする場合でも、上 記①~③の印象論に近い問題意識のもとに、場当たり的な政策がすすめられる例も多く見 受けられ、これまでの研究でも百貨店撤退の影響、施策介入の効果が客観的な指標で定量 的に明らかにされることはなかった。 そのような現状を踏まえ、本論文の目的は、印象論で語られがちな大規模核店舗撤退の 影響を客観的指標で把握し、対応を考察することにある。 1.2 先行研究 地方都市における大規模店舗撤退の実態を対象とした先行研究には次のものがある。 浅野(2002)は北陸甲信越自治体へのアンケート調査による分析を行い、1998 年以降に大 規模店舗の撤退が急速に増加したこと、閉店後の対応策としては地元商店街への支援や公 共施設としての活用が行われていることを明らかにした。井上・中山(2002)(2004)は全国 694 自治体へのアンケート調査による分析を行い、大型店撤退による地域への影響は、特 に商店街や駅前などの商業集積地において大きく、業態では百貨店や総合スーパーで近隣 小売業や消費者への負の影響が大きいことを明らかにしている。小林・水口(2003)は、具 体事例の研究として中心市街地から撤退した2 店舗について、撤退前後での購買率、地価、 歩行者交通量などの変化を分析して、周辺地域への負の影響を指摘している。これらの先 行研究はいずれも、大規模な自治体アンケートや個別の事例調査等により実態の一面を把 握したことに大きな意義がある。 1 「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」(平成 10 年 法律第92 号。)、「大規模小売店舗立地法」(平成 10 年法律第 91 号)及び「都市計画法」(昭和 43 年法 律第100 号)の改正をいう。

(4)

3 1.3 本研究の対象と内容 前項でレビューした大規模店舗撤退に関する先行研究には次のような課題がある。①自 治体関係部局へのアンケート調査は、大型店舗撤退の影響について過大評価するバイアス がかかっている可能性がある。②調査対象が浅野(2002)においては店舗面積 3000 ㎡以上、 井上・中山(2002)においては店舗面積 1000 ㎡以上となっており、比較的小規模な店舗撤 退事例も含まれている。③撤退の影響は評価しているが、跡地利用の評価が十分に行われ ていない。④客観的指標に基づく統計学的な分析がされていない。 以上の先行研究の課題を踏まえて、本研究では地方都市の大規模核店舗の代表格とも言 える百貨店撤退事例にフォーカスして全数調査を行うこととし、まず、地方都市における 百貨店撤退の実態を明らかにする(第 2 章)。次に、撤退後の空きビル・更地化の理論分 析を行い(第 3 章)、撤退と跡地利用による地価への影響を計量的に分析する(第 4 章)。 そして、当該分析の結果を基に今後の政策の在り方を考察する(第5 章)。 調査対象は、2000 年以降の地方都市(東京都、神奈川県及び埼玉県内を除く人口 100 万人以下の市町村 2。)における百貨店の撤退事例で、サンプル数は67 件である 3

第2章 撤退と跡地利用の実態調査

2.1 使用するデータ 本章では、地方都市百貨店の撤退状況と跡地利用の実態を明らかにする。用いたデータ の内容及び出典・調査方法は表2-1 のとおりである。 表 2-1 データの内容と出典・調査方法 データの内容 出典・調査方法 撤退百貨店及び撤退年月日 百貨店調査年鑑(株)ストアーズ社 大型小売店データ(株)東洋経済新報社 後継店舗及び出店年月日 後継用途 大型小売店データ(株)東洋経済新報社 日本経済新聞地方版 地方公共団体まちづくり担当部局への電話ヒアリング 空きビル更地期間 上記撤退年月日から出店年月日までを空きビル更地期間 とした(駐車場等の暫定利用の期間、新規ビルの建設期 間が含まれる。) 各都市人口増加(減少)率 2008 年及び 2017 年の住民基本台帳人口により算出 2 100 万人を超える都市については、不動産需要が旺盛で空きビル・更地の問題が起こるケースが少ない こと、周辺の競合商業施設が多く、地価を被説明変数とした分析に適していないことから対象から外し た。 3 巻末付録「分析対象百貨店」参照。日本百貨店協会加盟店舗を対象に調査している。

(5)

4 2.2 地方都市百貨店撤退の状況 図2-1 のとおり、地方都市における百貨店撤退は毎年継続的に発生している。中でも そごうの破綻 4があった2000 年(平成 12 年)が突出して件数が多いが、全体として毎 年1 件から 7 件前後の撤退が起こっており、今後も一定数の撤退が見込まれる。 図 2-1 地方都市(人口 100 万人未満)における百貨店撤退件数 (百貨店調査年鑑等により筆者作成) 2.3 撤退後の低未利用地期間 百貨店撤退後、すぐに跡地利用が決まる場合もあれば、長期間跡地利用が決まらない 場合まで大きなばらつきがある。図2-2 は調査対象の百貨店が撤退した後に、当該跡地 が低未利用地(空きビルとなった場合及び駐車場等として利用されている場合を含む。 以下同じ。)となった期間をグラフで表示したものである。 調査対象では半数以上が 4 年以上低未利用地となっており、10 年以上低未利用地とな るケースも1 割程度あった。 図 2-2 百貨店撤退後の低未利用地期間 4 2000 年(平成 12 年)に株式会社そごうなどグループ 22 法人が民事再生法の適用を申請して事実上倒 産し、半数以上の店舗を閉鎖することとなった。 0 2 4 6 8 10 12 14 1年 22% 2年 16% 3年 7% 4年 12% 5年 0% 6年 3% 7年 18% 8年 2% 9年 3% 10年 5% 10年以上 12% n=67

(6)

5 次に、どのような都市において低未利用地となる期間が長くなるのか、傾向を分析し た。図2-3 は、縦軸に百貨店跡地の低未利用地となった期間(月数)を、横軸に百貨店 が存在する都市の過去 10 年の人口増加(減少)率を取ってプロットしたものである。 過去 10 年で人口が減っている都市ほど、低未利用地となる期間が長くなる傾向にある ことが分かる。これは、人口が縮減している都市ほど、百貨店跡地への出店需要や用途 転換需要がないと解釈できる。 図 2-3 都市人口の縮減率と未活用期間 2.4 跡地利用が進まない理由 なぜ長期間空きビル・更地化してしまうのか、地方公共団体のまちづくり担当部局、 民間事業者 5及び独立行政法人都市再生機構(UR)にヒアリングを実施した結果を表 2-2 にまとめた。行政側からは、再開発の権利調整が困難であること、民間事業者側か らは、地方公共団体の商業用途へのこだわりや実需要に比して指定容積率が高過ぎて地 価が高止まりしていることなどが指摘された 6 5 民有地に関わる情報のため、地方公共団体名及び事業者名は非公表 6 経済学的には、前者は跡地再開発の取引費用が高いこと、後者は政府の失敗が生じていると解釈でき る。 0 50 100 150 200 250 -20 -15 -10 -5 0 5 10 未活用期間 (か月)2017.1.1現在

(7)

6 表 2-2 空きビル・更地化の理由 地方公共団体 ・郊外化、駅前開発により、旧市街地が商業地として最有効でなくなって きている ・再開発は権利者調整が進まないケースが多い(取引費用が高い) 民間事業者等 UR ・商業以外用途へのコンバージョン(改築、除却・再建築)費用が高い ・自治体サイドでの都市計画上の商業用途へのこだわりがあり、住宅等を つくれない ・指定容積率が高く、民間需要に比して評価上の地価が高い(政府の失敗) ・実需要(住宅等)と鑑定評価上の最有効使用(商業等)のミスマッチが ある。市街地再開発事業の権利変換計画策定にも影響がある。 2.5 跡地利用の現在 図2-4 は百貨店撤退後の 2017 年 1 月 1 日現在の跡地利用を調査した結果である。 全体の約半数が既存のストックを活用しているが、この場合は後継の商業施設が入っ ているケースがほとんどである。特殊なケースとしては、百貨店の建物を維持したまま 介護施設に用途転換している事例があった 7 一部用途転換をしている場合は、一部フロア(特に上層フロア)に公共施設が入居し、 下層部を商業施設として維持させる例が多かった 8 建替えをしている場合は、用途転換をする場合が多く、マンション、ホテル、パチン コ店、オフィス、医療施設に用途転換している例があった。 図 2-4 跡地利用の現在 7 長野県諏訪市まるみつ百貨店跡 8 例えば栃木県栃木市の福田屋百貨店跡地では、百貨店建物のコンバージョンにより市役所と東武百貨 店が同一の建物に入居している。 商業, 23 用転(一部), 5 用転, 4 用転, 13 商業, 8 更地化, 11 空きビル, 4 ストック維持, 32 建替え, 21 低未利用, 15

(8)

7 2.6 用途転換の実態 用途転換をした場合(フロアの一部を用途転換した事例を含む。)の新たな用途を示 したのが図2-5 である。半数以上が公共複合施設への用途転換となっていることが明ら かとなった。各自治体へのヒアリングを実施したところ、当初は民間商業施設の入居が 期待していたものの後継テナントが見つからず、地域の賑わいを維持するために、地方 公共団体の施設を入居させている例がほとんどであった(一部フロアに公共施設を入居 させ、縮小した規模で店舗維持を図るケースが多い。)この場合、結果的に民間の実体 的な需要がない建物を維持させている可能性が高く、行政介入の当初の目的である地域 の賑わいも維持できていない可能性がある 9 図 2-5 用途転換の内訳(一部用途転換含む。) 2.7 小括 本章では、事例調査により百貨店跡地の半数以上が4 年以上低未利用地化していること、 人口が縮減している都市ほど低未利用地の期間が長くなる傾向にあること、撤退後に用途 転換された場合は半数以上が公共複合施設となっていることなどを明らかにした。 百貨店の多くは地方都市中心市街地の一等地に立地しているが、跡地が低未利用地化し、 活用に苦戦している厳しい実態が、今回の調査により数字上も明確になった。このような 低未利用地はなぜ生じるのだろうか。次章では低未利用地化のメカニズムを理論分析によ り考察する。 9 商業施設等の維持に固執する場合の弊害については第 3 章で扱い、施策介入効果の実証分析について は第4 章で扱う。 介護施設, 1 医療施設, 1 オフィス, 1 ホテル, 2 パチンコ店, 2 マンション, 3 公共複合, 11

(9)

8

第3章 跡地低未利用地化の理論分析

3.1 理論モデルの設定 本項では地方都市の中心市街地において空きビルや更地が発生している理由を、中川 (2008)の都市構造に関する経済学モデルを参考に考察する(図 3.1)。 このモデルでは、議論を単純化するために、都市が中心市街地(中心業務区域、CBD) を中心とした一定の広がりをもつものとし、用途を商業等と住宅等の2種類であると仮 定する 10。グラフのX 軸に中心市街地からの距離をとり、Y 軸には付け値(X 軸の距離 の土地に事業者が商業施設や住宅等を立地しようとした場合に表明しうる最も高い地 代をいう。)をとる。一般に、中心市街地の核に近いほど高い付け値であり、中心市街 地では住宅に比べて商業等の用途が高額な付け値になると考えられることから、商業等 の付け値曲線Rc、住宅等の付け値曲線 Rh は図 3-1 のような右下がりの曲線となる。Rc と Rh のうち、より高い用途の付値の方が土地利用として実現すると考えられることか ら、図3-1 の X 軸において商業等の最有効エリアは C、住宅等の最有効エリアは H とな る。 図 3-1 付け値曲線のシフト(都市縮小前) 10 現実の経済では、ホテル用途、介護施設用途、娯楽施設用途など無数の付け値曲線が存在すると考え られる。

(10)

9 3.2 都市の縮小と付け値曲線のシフト バブル崩壊後の地価公示価格の下落に表れているように、地方都市中心市街地の都市 経済は概して衰退し続けている。これは、人口減少、企業投資の大都市圏へ集中などに 伴う地方経済の衰退、モータリゼーションや郊外ショッピングセンターの出店による地 方都市内での相対的地位低下などによるものである。これらの要因により、本モデルの 付け値曲線も都市の衰退とともに下にシフトしていると考えられ、図3-2 のように商業 等の付け値曲線はRc から Rc’へのシフト、住宅等の付け値曲線は Rh から Rh’へのシフ トで表される。 この場合、土地の価値を最大限に発揮する最有効の利用を考えると、商業等の最有効 エリアはC から C’へ、住宅等の最有効エリアは H から H’へ移動及び縮小する。 図 3-2 付け値曲線のシフト(都市縮小後) 3.3 用途固執による死荷重の発生 商業等の付け値がマイナスに転じているエリア(Y 軸よりも下の部分)においては、 一度店舗等が撤退した場合、用途転換ができない限り空きビル・更地化することになる。 また、付け値がプラスであっても既に商業が最有効でなくなっているエリアにおいては、 個別店舗の採算が合う限りは店舗を継続している可能性があるが、この場合でも、住宅 等が最有効であるにも関わらず、商業等を継続している場合はRh’と Rc’の差分について 死荷重が発生していると考えられる。 この状況において、例えば中心市街地において大型店舗等が撤退した場合に、行政の 介入(行政による床の取得、賃借料の補助等)によって商業施設を維持しようとする場 合は、死荷重を再現することとなるので、いたずらに商業用途の維持に固執をせず、地 域の実情を踏まえて、用途転換を含めた支援を検討する必要があると言える。

(11)

10 3.4 百貨店の空きビル・更地化に負の外部性がある場合 百貨店が撤退して空きビル・更地化した場合に、買い回り人口や賑わいの喪失(正の 外部性の喪失)、当該空きビルや更地が管理不全による景観悪化(負の外部性)等によ り、当該撤退が周辺の商業地に外部性を持っている場合は、死荷重にどのような影響が あるだろうか。 この場合、図3.3 のとおり、撤退した百貨店周辺の付け値曲線 Rc’が下にシフトし(Rc’’)、 その分だけ死荷重が増加すると考えられる。 図 3-3 付け値曲線のシフト(百貨店撤退後) 一般に百貨店等の大型核店舗の撤退に際して行政が床取得等の介入を行う場合、撤退 によって都市や中心市街地の賑わいが失われることを名目に行われることが多い。これ は本モデルの理論で言えば、Rc’が Rc’’へシフトすることを防ぐ介入であると考えられる。 しかし、当該介入の効果を支持する客観的な検証は、これまでされてこなかった。そ こで次章では、まず図3-3 に表すような付け値曲線のシフトは実際に存在するのか、存 在する場合はどの程度のインパクト、範囲なのかについて、実証分析による検証を行う (仮説①の検証)。次に、政策介入した場合(公共施設の入居、商業施設の維持など) や、住宅等への用途転換が起こった場合の効果についても検証を行う(仮説②の検証)。

(12)

11

第4章 低未利用地化の外部性及び跡地利用の影響の計量分析

4.1 検証する仮説 本章では前章に掲げた問題意識から、以下の2 つの仮説について、資本化仮説に基づく ヘドニックアプローチにより、地価の対数値を被説明変数とした重回帰分析をおこなった。 仮説① 百貨店撤退跡地が低未利用地(空きビル及び更地を含む。以下同じ。)化した 場合は、正の外部性の喪失及び負の外部性が生じ、当該都市及び百貨店跡地周 辺の地価を下げる 仮説② 後継テナントがある場合及び用途転換した場合は、地価の下げはない(改善す る。) 4.2 仮説①の検証 百貨店の空きビル・更地化が周辺の地価に与える影響を計測するために次式の推計モデ ルを用いて、固定効果モデルによるパネルデータ分析を行う。 被説明変数は、調査対象百貨店から半径1km圏内の地価公示価格及び都道府県地価調 査価格の対数値とした。 説明変数は、百貨店撤退後の影響を距離圏別に推計するため、低未利用地となっている 場合をマークする「空きビル更地化ダミー変数」と「200m 圏ごとの距離ダミー」の交差 項のほか、景気変動等全国的な社会経済情勢をコントロールするために「年次ダミー」、各 都市別の地価上昇・下落トレンドをコントロールするために都市別タイムトレンド変数を 用いた。各時点で、空きビル・更地となっているか、後継利用がされているか、という実 態に着目したうえで地価分析をした研究は例がなく、本研究の特徴である。その他用いた 変数、内容及び出典等の詳細は、表4-1 のとおりである。 推計式①-1:人口 50 万人以上 100 万人未満の地方大都市の場合 lnLP(地価)it =β0(定数項) +β1~5(空きビル更地化ダミー×200m圏ごとの距離ダミー) +β6~25(年次ダミー) +β26~45(都市別タイムトレンド変数) +δi + εit

i:地価ポイント t:年次 +δi:固定効果 + εit:誤差項 推計式①-2:人口 10 万人以上 50 万人未満の地方中都市の場合 lnLP(地価)it =β0(定数項) +β1~5(空きビル更地化ダミー×200m圏ごとの距離ダミー) +β6~25(年次ダミー) +β26~62(都市別タイムトレンド変数) +δi + εit

(13)

12 表 4-1 変数の説明① 変数名 内容 出典 lnLP(地価) 調 査対 象百 貨店 から 半径 1k m圏 内の 地価 公示 価格 及び都道府県地価調査価格の対数値 国土交通省国土政策局国土情報課が 公開する国土数値情報ダウンロード サービス ArcGIS を用いて、撤退百貨店から半 径1kmの地価ポイントを抽出し、 地価ポイントまでの距離を計測 空きビル更地化ダミー 百貨店撤退後に当該地が低未利用地(空きビル及び更 地)となっている場合「1」、撤退前及び後継テナン ト等により跡地利用がされている場合「0」 (株)ストアーズ社百貨店調査年鑑 (株)東洋経済新報社の大型小売店デ ータ(2014 年版) 日本経済新聞地方版 200m圏ごとの距離ダミー 低未利用地から地価ポイントまでの距離が 0m から 200m 以下、200m から 400m 以下、400m から 600m 以下、600mから 800m 以下、800mから 1000m 以下 の場合にそれぞれ「1」を取るダミー変数 ArcGIS を用いて、撤退百貨店から半 径1kmの地価ポイントを抽出し、 地価ポイントまでの距離を計測 年次ダミー 1998 年から 2017 年まで、それぞれの年次に該当する 地価データの場合「1」となるダミー変数 都市別タイムトレンド変数 調 査対 象百 貨店 が存 在す る各 都市 別ダ ミー 変数 とタ イムトレンド変数(1998 年から 2017 年まで、順に 1 から20 までの値をとる変数)の交差項

(14)

13 表 4-2 基本統計量①-1 変数 平均 標準偏差 最小値 最大値 lnLP(地価) 378513.4 359053.1 53500 3400000 空きビル更地化ダミー 0.2479632 0.4318755 0 1 200m圏ごとの距離ダミー(0-200m) 0.0988093 0.2984369 0 1 200m圏ごとの距離ダミー(200-400m) 0.2678086 0.4428636 0 1 200m圏ごとの距離ダミー(400-600m) 0.2832672 0.4506321 0 1 200m圏ごとの距離ダミー(600-800m) 0.1832045 0.3868745 0 1 200m圏ごとの距離ダミー(800-1000m) 0.1669104 0.3729348 0 1 年次ダミー 略 都市別タイムトレンド変数 略 表 4-3 基本統計量①-2 変数 平均 標準偏差 最小値 最大値 lnLP(地価) 161707.7 152959.2 26000 1450000 空きビル更地化ダミー 0.312963 0.4637853 0 1 200m圏ごとの距離ダミー(0-200m) 0.2337037 0.4232643 0 1 200m圏ごとの距離ダミー(200-400m) 0.2418519 0.4282843 0 1 200m圏ごとの距離ダミー(400-600m) 0.2211111 0.415072 0 1 200m圏ごとの距離ダミー(600-800m) 0.1814815 0.385488 0 1 200m圏ごとの距離ダミー(800-1000m) 0.1218519 0.3271752 0 1 年次ダミー 略 都市別タイムトレンド変数 略

(15)

14 推計結果は表4-4 のとおりである。 仮説①の推計と結果の説明 空きビル更地化ダミーと距離圏ダミーの交差項の係数は、それぞれの距離圏において、 百貨店が撤退する前及び撤退後に後継用途で利用されているときと比較して、当該百貨店 が空きビル更地化したときに、何%地価が変動しているかを表している。 推計結果によれば、大都市地価及び中小地価ともに概ね 600m圏(徒歩7~8分)に百 貨店が空きビル更地化したことによる負の影響が存在することが実証された 11。また 800m 圏(徒歩 10 分)以上には有意な影響が出ておらず、百貨店の撤退は商店街等一定範 囲の地価に負の影響を及ぼすが、当該都市全体の地価に負の影響を与えることはないこと が実証された。 表 4-4 推計結果① 被説明変数 ln大都市地価 ln中小都市地価 説明変数 係数 標準誤差 係数 標準誤差 空きビル更地×200m圏ダミー -0.0805 *** 0.0138 -0.0403 *** 0.0109 空きビル更地×400m圏ダミー -0.0200 ** 0.0082 0.00711 0.0105 空きビル更地×600m圏ダミー -0.0378 *** 0.0083 -0.0489 *** 0.0111 空きビル更地×800m圏ダミー -0.0108 0.0098 0.0130 0.0121 空きビル更地×1000m圏ダミー 0.00358 0.0112 -0.00389 0.0150 年次ダミー 略 略 都市タイムトレンドダミー 略 略 定数項 13.42 *** 0.0072 12.62 *** 0.0093 自由度調整済決定係数 0.932 0.950 観測数 4,787 2,700 11 中小都市 400m 圏のみ、有意な結果にならなかった。

(16)

15 4.3 仮説②の検証 百貨店の後継用途が周辺の地価に与える影響を計測するために次式の推計モデルを用 いて、固定効果モデルによるパネルデータ分析を行う。 被説明変数は、調査対象百貨店から半径600m圏内 12の地価公示価格及び都道府県地価 調査価格の対数値とした。 説明変数は、百貨店撤退後の跡地用途別の影響を推計するため、「百貨店撤退後ダミー」 と「用途別ダミー変数」の交差項 13のほか、景気変動等全国的な社会経済情勢をコントロ ールするために「年次ダミー」、各都市別の地価上昇・下落トレンドをコントロールするた めに都市別タイムトレンド変数を用いた。各時点で、どのような用途利用がされているか、 という実態に着目したうえで地価分析をした研究は例がなく、本研究の特徴である。その 他用いた変数、内容及び出典等の詳細は、表4-5 のとおりである。 推計式②-1:人口 50 万人以上 100 万人未満の地方大都市の場合 lnLP(地価)it =β0(定数項) +β1(百貨店撤退後ダミー) +β2(百貨店撤退後ダミー×後継商業ダミー) +β3(百貨店撤退後ダミー×住宅ダミー) +β4(百貨店撤退後ダミー×公共複合ダミー) +β5(百貨店撤退後ダミー×その他施設ダミー) +β6~25(年ダミー) +β26~45(都市別タイムトレンド変数) +δi(固定効果) + εit(誤差項)

i:地価ポイント t:年次 +δi:固定効果 + εit:誤差項 推計式②-2:人口 10 万人以上 50 万人未満の地方中都市の場合 lnLP(地価)it =β0(定数項) +β1(百貨店撤退後ダミー) +β2(百貨店撤退後ダミー×後継商業ダミー) +β3(百貨店撤退後ダミー×住宅ダミー) +β4(百貨店撤退後ダミー×公共複合ダミー) +β5(百貨店撤退後ダミー×その他施設ダミー) +β6~25(年ダミー) +β26~62(都市別タイムトレンド変数) +δi(固定効果) + εit(誤差項)

i:地価ポイント t:年次 +δi:固定効果 + εit:誤差項

12 仮説①の検証の結果を受けて、地価への影響が見込まれる百貨店跡地から 600m圏を対象とした。 13 空きビル更地化のときと地価を比較するために、推計式②-1、②-2 では、「百貨店撤退後ダミー×空き ビル更地化ダミー」を除いている。

(17)

16 表 4-5 変数の説明② 変数名 内容 出典 lnLP(地価) 調査対象百貨店から半径600m 圏内の地価公示価格及 び都道府県地価調査価格の対数値 国土交通省国土政策局国土情報課 が公開する国土数値情報ダウンロ ードサービス ArcGIS を用いて、撤退百貨店から 半径 600mの地価ポイントを抽出 し、地価ポイントまでの距離を計 測 百貨店撤退後ダミー 百貨店撤退前は「0」、撤退後は「1」を取るダミー 変数(後継テナントが入った場合も「1」となる。) (株)ストアーズ社百貨店調査年鑑 (株)東洋経済新報社の大型小売店 データ(2014 年版) 日本経済新聞地方版 空きビル更地化ダミー 百貨店撤退後に当該地が低未利用地(空きビル及び更 地)となっている場合「1」、撤退前及び後継テナン ト等により跡地利用がされている場合「0」 (株)ストアーズ社百貨店調査年鑑 (株)東洋経済新報社の大型小売店 データ(2014 年版) 日本経済新聞地方版 後継商業ダミー 百 貨店 撤退 後、 後継 施設 が商 業施 設と なっ た場 合に 「1」となる変数 (株)東洋経済新報社の大型小売店 データ(2014 年版) 日本経済新聞地方版 自治体ヒアリング 後継住宅ダミー 百貨店撤退後、後継施設として住宅施設となった場合 に「1」となる変数 日本経済新聞地方版 自治体ヒアリング 後継公共複合ダミー 百貨店撤退後、後継施設として公共複合施設(主とし て 公共 施設 と商 業施 設等 が一 体と なっ て利 用さ れる 施設)となった場合に「1」となる変数 日本経済新聞地方版 自治体ヒアリング 後継その他施設ダミー 百貨店撤退後、後継施設として商業、住宅、公共複合 施設以外の施設となった場合に「1」となる変数 日本経済新聞地方版 自治体ヒアリング 年次ダミー 1998 年から 2017 年まで、それぞれの年次に該当する 地価データの場合「1」となるダミー変数 都市別タイムトレンド変数 調 査対 象百 貨店 が存 在す る各 都市 別ダ ミー 変数 とタ イムトレンド変数(1998 年から 2017 年まで、順に 1 から20 までの値をとる変数)の交差項

(18)

17 表 4-6 基本統計量②-1 変数 平均 標準偏差 最小値 最大値 lnLP(地価) 419886.6 390197 67000 3400000 百貨店撤退後ダミー 0.5908068 0.491764 0 1 空きビル更地化ダミー 0.2471874 0.431446 0 1 後継商業ダミー 0.2606879 0.4390805 0 1 後継住宅ダミー 0.0257152 0.1583098 0 1 後継公共複合ダミー 0.0016072 0.0400641 0 1 後継その他施設ダミー 0.0607522 0.2389136 0 1 年次ダミー 略 都市別タイムトレンドダミー 略 表 4-7 基本統計量②-2 変数 平均 標準偏差 最小値 最大値 lnLP(地価) 160131.1 145209.6 28000 1450000 百貨店撤退後ダミー 0.5337586 0.4989917 0 1 空きビル更地化ダミー 0.3067517 0.4612681 0 1 後継商業ダミー 0.0855928 0.2798362 0 1 後継住宅ダミー 0.0047847 0.0690241 0 1 後継公共複合ダミー 0.122807 0.3283028 0 1 後継その他施設ダミー 0.0308347 0.1729155 0 1 年次ダミー 略 都市別タイムトレンドダミー 略

(19)

18 仮説②の推計と結果の説明 仮説②の推計は仮説①の結果に基づき、影響があると考えられる 600m圏内の地価に限 って分析している。百貨店撤退後ダミーと跡地利用との交差項の係数は、百貨店撤退後に 低未利用地となっているときと比較して、当該地において各用途の跡地利用がされている とき、何%地価が変動しているかを表している。 推計結果を見ると、大都市においては、跡地に商業施設が入った場合、約 6.2%の地価 上昇効果があった。また住宅施設が入った場合、約 4.1%の地価上昇効果があった。その 他の用途については統計的に有意な結果は出なかったが、跡地利用がされると概ね地価が 改善される傾向にあることが分かった。 一方、中小都市においては、跡地に商業施設が入った場合約 6.3%の地価下落効果があ り、公共施設が入った場合約 4.8%の地価下落効果があった。その他の用途については統 計的に有意な結果は出なかったが、跡地利用がされると概ね地価が下落傾向にあることが 分かった。 これは、中小都市においては、公共団体や第三セクターが床を取得して周囲の地価を上 昇させるような魅力を発揮しない公共床や商業床で埋めていることや、更地のときと比較 して開発期待がなくなることなどが要因として考えられる 14 低未利用地の場合よりもかえって地価を悪化させる傾向にあるのは、跡地利用前の開発 期待に比して、実際の跡地利用が、少なくとも周辺の商業地にとっては地価に反映される ような魅力を有していないことを示している。 公共複合施設が入った場合、大都市では有意にプラスとはならず、中小都市においては 有意にマイナスとなった。公費を投入して床を取得・賃借しても、必ずしも周辺地価の改 善は見込むことはできず、むしろ低未利用地時よりも悪化させる傾向にあることが分かっ た。 表 4-8 推計結果② 被説明変数 ln大都市地価 ln中小都市地価 説明変数 係数 標準誤差 係数 標準誤差 百貨店撤退後ダミー -0.0226 *** 0.0073 -0.0302 *** 0.0083 百貨店撤退後ダミー×跡地商業ダミー 0.0622 *** 0.0094 -0.0629 *** 0.0156 百貨店撤退後ダミー×跡地住宅ダミー 0.0408 ** 0.0196 -0.0536 0.0799 百貨店撤退後ダミー×跡地公共施設ダミー 0.0688 0.0490 -0.0483 *** 0.0176 百貨店撤退後ダミー×跡地その他ダミー -0.0191 0.0185 -0.0200 0.0270 年次ダミー 略 略 各都市タイムトレンドダミー 略 略 定数項 13.57 *** 0.0084 12.67 *** 0.0105 自由度調整済決定係数 0.945 0.958 観測数 3,111 1,881 14 更地の場合、市街地再開発事業の進行を待って、駐車場、イベント広場等として暫定利用しているケ ースも多い。一般的に、市街地再開発事業の機運が高まると開発期待により周辺の地価も上昇するもの と考えられるが、本研究においてはデータの制約上、開発アナウンス効果は独立して計測していない。

(20)

19 4.4 残差分析 前項で地方中小都市においては、跡地利用がされると周辺地価が下落傾向にあることが 実証されたが、百貨店撤退後においても地価が改善傾向にあったのはどのような地区でど のような利用がされた場合か。推計式②の重回帰分析の結果について残差分析を行うと、 以下の事例において+0.5 以上のプラスの残差となった(主要事例を抜粋)。 更地を市民広場として活用している場合(沼津市、三原市)、市街地再開発事業が検討 されている場合(長岡市)、ホテルに用途転換した場合(出雲市)に正の残差が強かった。 表 4-9 正の残差が大きかった事例 撤退後 残差の平均 跡地利用 加古川そごう跡地 (兵庫県加古川市) +0.90 地場百貨店ヤマトヤシキ加古川店。若い 顧 客 層 に 合 わ せ た 地 域 密 着 の 運 営 が 実 り、姫路本店を上回る収益を上げ、現在 では同社の主力店舗となっている 一畑出雲店跡地 (島根県出雲市) +0.75 ホテル「ツインリーブス」を核とする複 合ビルに用途転換。商業施設は大幅縮小。 西武沼津跡地 (静岡県沼津市) +0.73 西側を駅前にぎわい広場として地元飲食 業の「雄大フェスタ」、東側を日産レンタ カー沼津駅前店がそれぞれ営業(暫定利 用)。 大和長岡跡地 (新潟県長岡市) +0.64 地権者による再開発準備組合発足後、建 物は市に無償譲渡、土地は UR 都市機構 が取得。開発期待が高まっている。

(21)

20

第5章 まとめと提言

5.1 まとめ 本論文では、まず地方都市における百貨店撤退の実態を明らかにし、空きビル・更地化 の理論分析を行ったうえで、撤退と跡地利用による地価への影響を計量的に分析した。 第2 章の調査の結果、百貨店撤退後の未利用地期間が 4 年以上となるケースが半数以上 であること、用途転換がされる場合は公共施設が入居するケースが半数以上であることを 明らかにした。 第3 章の理論分析の結果、適正用途が住宅等になっているにも関わらず商業用途等に固 執する場合、死荷重が発生することを明らかにした。また、撤退後に周辺地域に負の外部 性がある場合、当該死荷重が大きくなることを明らかにした。 第4 章の計量分析では、撤退後に周辺地域に外部性があるか、用途転換された場合は外 部性が解消されるかを検証し、概ね 600m圏の地価に撤退の負の影響があることを明らか にした。また、大都市おいては後継用途が決まると更地・空きビルの場合と比べて地価が 改善傾向にあるものの、中小都市においては後継用途が決まると更地・空きビルの場合と 比べて地価が下落する傾向にあることを明らかにした。 5.2 政策提言 第2 章から第 4 章の調査・分析の結果、下記の政策を提言する。 ①負の外部性の解消 地方大都市においては、特に視認性のある範囲(200m)において、空きビル・更地化 の負の影響が強く生じていた。このような空きビル・更地化の負の外部性に対しては、空 きビルや更地の管理保全義務(ピグ―税)を課すとともに、著しく荒廃している場合には ペナルティーを課すことが有効である。 この点、居住用途の空家に関しては、空家等対策の推進に関する特別措置法(平成 26 年法律第127 号)により、同法第 2 条第 2 項の「特定空家等」に指定されると、固定資産 税及び都市計画税に関する住宅用地の軽減特例が受けられなくなるペナルティーがある。 一方、商業ビルは「特定空家等」として指定することはできる 15が、税制上のペナルティ ーはない。よって、商業の空きビルを「特定空家等」として指定をしたにもかかわらず、 修繕等の措置が行われない場合は、負の外部性に対応した課税強化を検討することが考え られる。 また、単に空きビル更地のメンテナンスをするだけでなく、地域に貢献する取り組みの 例として、空きビルの外壁や更地を囲う鋼板塀をアート作品や地域の活動の展示等に活用 し、周辺の賑わいに貢献するよう指導することなども考えられる。 15 同法律第 2 条に定めるの「空家等」及び「特定空家等」は、居住用途に限定されていないため、商業 ビルも同法律の「空家等」及び「特定空家等」に該当しうる。

(22)

21 ②死荷重の解消、取引費用の軽減 百貨店撤退地域で商業用途が最有効でなくなっているにもかかわらず、商業用途に固執 して商業誘致等により復活させた場合、死荷重を再現することになる(第 3 章)。よって 必ずしも商業用途に固執せず、他の需要が見込まれる用途への用途転換支援も積極的に検 討を行うべきである。現在の中心市街地活性化施策は、経済産業省の支援メニューを中心 に商業振興の側面が強く 16、第2 章のヒアリング結果にもあるとおり自治体サイドでも商 業用途での利用にこだわりを持っている例も多くみられる。 この点、民間の需要を見極めて、コンパクトシティ化に資する住居、少子高齢化に対応 する子育て・介護福祉施設、インバウンド消費に関連したホテルなど、幅広い用途の検討 を行う必要があるだろう。商業地として復活させるという中心市街地活性化の政策的コミ ットが、地権者の期待地価の高止まりを生んでいる可能性も高く、用途転換を含めたまち づくりのアナウンスメントを行政が積極的にしていくことも、用途転換政策の実効性を高 めていくうえで有効であると考える。 また、第2章の実態調査では、用途転換に向けた市街地再開発事業の計画が立ち上がっ ているにもかかわらず、権利者調整が進まずに、空きビル・更地が長期化しているケース も見受けられた。よって、取引費用軽減のための市街地再開発事業の権利者調整支援など、 用途転換の取引費用を軽減する方策も有効であると考える。 ③行き過ぎた施策介入の是正 百貨店撤退の地価への影響は600m 圏であり、一定の範囲に影響はあるものの、地方自 治体が策定する中心市街地活性化基本計画に定める中心市街地全体 17や、市域全域を衰退 させるような影響は観測されなかった。また、公共施設が入っても統計的には地価はかえ って下落する傾向にあることから、中心市街地全体や、都市全体が衰退してしまうという イメージ論で、ヴィジョンや需要のない公共施設の取得(ハコモノ介入)をすることは慎 重にならなければならない。暫定利用のときの方がかえって周辺地価が高いという例もあ ることから、地域の実情に応じて広場としての永続利用も検討する余地がある。 16 中心市街地の活性化に資する調査、先導的・実証的な商業施設等の整備及び専門人材の招聘に対して 補助金が交付される「地域・まちなか商業活性化支援事業」、中心市街地活性化基本計画に位置付けられ たイベント等のソフト事業に対して経費の50%を措置する「中心市街地活性化ソフト事業」など。 17 地方都市における、古くからの中心的な商店街は旧城下町などに立地しており、ターミナル駅から離 れた場所に立地していることが多い。よって、中心市街地活性化基本計画に定める「中心市街地」は、 ターミナル駅等も含めて、かなり広範な範囲にわたる傾向がある。

(23)

22 5.3 おわりに 本論文の分析は、地方都市中心市街地の百貨店跡地周辺を対象としたが、GMS や SC の 撤退との比較や、ターミナル駅周辺・郊外ショッピングセンター付近など新たな商業核と 中心市街地の関連については、今後の実証的な研究が待たれるところである。 また、本論文で被説明変数として用いた地価は、まちづくりの指標として一つの有力な 客観的指標となりうると考えるが、まちの活気や賑わいそのものを直接表す指標ではない。 今後、交通量調査や商業売り上げデータなどによる検証も期待されるところであるが、調 査条件が統一化されていない、細かいデータがオープンになっていない、などの制約も多 い。今後、これらのデータのオープン化と現場での活用が求められるところである。 まちづくりの現場では、「百貨店がなくなって寂しくなった」「まちの顔がなくなった」 といった定性的な印象論から、地方公共団体による床取得などの政策介入をする事例も多 い。しかし、本論文の分析結果にも表れているように、多くの施策介入は少なくとも周辺 地価を改善することができていない厳しい現状がある。人口減少社会、超高齢化社会を迎 えた今こそ、印象論によるまちづくりから脱却し、客観的なエビデンスと将来ヴィジョン に基づく都市経営としてのまちづくりが求められている。

謝辞

本稿の執筆に当たっては、プログラムディレクターの福井秀夫教授、主査の中川雅之教 授、副査の家田仁教授、植松丘客員教授、杉浦美奈准教授から懇切丁寧な御指導をいただ きました。また、安藤至大客員准教授、森岡拓郎専任講師、関係教員の皆様から貴重な御 助言をいただきました。ここに記し、感謝の意を表します。 最後に、政策研究大学院大学において一年間の研究機会をいただいた派遣元に感謝を申 し上げるとともに、研究生活で様々な苦楽をともに乗り越えたまちづくりプログラムの同 期の皆様にも深く感謝申し上げます。 ※ 本稿における見解及び内容に関する誤り等についてはすべて筆者に帰属します。本稿 は筆者の個人的な見解を示すものであり、所属機関の見解を示すものではありません。 ※ 本研究は東京大学CSIS 共同研究 No.786 の成果の一部です。 利用データ:大型小売店ポイントデータ2014 年版(全国データ) 提供:東洋経済新聞社

(24)

23

参考文献

・浅野純一郎(2002)「中心市街地における大規模商業施設の閉店や郊外移転の実体とその 後利用・跡地利用の方向性」,『日本建築学会計画系論文集』 ・井上芳恵,中山徹(2002)「大型店撤退に関する研究―撤退大型店の特徴及び行政の対応策 ―」,『日本都市計画学会論文集』 ・田中崇允、中川義英(2011)「大型店撤退に対する現行制度における対応の実体と行政関 与の必要性の検証」,『土木計画学会研究・講演集』 ・田渕俊郎(2011)「郊外大型店舗の立地規制が出店動向に与えた影響に関する研究」,『政 策研究大学院大学 平成22 年度まちづくりプログラム論文集』 ・中川雅之(2008)「公共経済学と都市政策」,『日本評論社』 ・箸本健二(2013)「地方都市中心市街地における大型店撤退の影響と利活用に向けての課 題」,『日本地理学会発表要旨集,2013 年日本地理学会秋季学術大会』 ・東洋経済新報社(2000~2016)「全国大型小売店総覧」 ・東洋経済新報社(2014)「大規模小売店ポイントデータ 2014 年版(全国データ)」 ・(株)ストアーズ社(2000~2016)「百貨店調査年鑑」

参照

関連したドキュメント

ふくしまフェアの開催店舗は確実に増えており、更なる福島ファンの獲得に向けて取り組んで まいります。..

地球温暖化対策報告書制度 における 再エネ利用評価

活断層の評価 中越沖地震の 知見の反映 地質調査.

区部台地部の代表地点として練馬区練馬第1観測井における地盤変動の概 念図を図 3-2-2 に、これまでの地盤と地下水位の推移を図

これまで、実態が把握できていなかった都内市街地における BVOC の放出実態を成分別 に推計し、 人為起源 VOC に対する BVOC

(79) 不当廉売された調査対象貨物の輸入の事実の有無を調査するための調査対象貨物と比較す

ンスをとる。この作業をくりかえす。(ii)事務取扱いの要領は,宅地地価修