類義語のコロケーション比較一例
~「永遠」と「永久」~
川崎加奈子
キーワード:類義語、コロケーション 1.はじめに
これまで多くの日本語の指導及び学習の場面において、語そのものの意味 の習得に多くの時間が割かれてきた。もちろん、その目的は外国語話者が日 本語を使って意味を伝えることができるようになるためである。しかし、語 の意味を学習した結果として発せられた言葉が、“言いたいことはわかるが、
どこかちぐはぐな表現”になってしまっていることは珍しくない。同義語あ るいは類義語であっても、入れ替えが不可能な表現が厳として存在する。前 後の語との結びつきや文脈の習得を無視しては、その語を"使いこなす"ことは できないのである。
また、語の意味そのものの説明にも確たるものがない例は日本語教育にお いても枚挙にいとまがなく、これまでも数多くの指摘がなされている。改め て述べるまでもないが、一例を挙げてみたい。『学研国語大辞典』に記載され た「永遠」と「永久」という2語の項目である。
「永遠」 いつまでも限りなく続くこと。永久。
「永久」 いつまでも限りなく続くこと。永遠。
このように全く同じ説明になっており、他の辞書においてもこの2語は明 確に区別できない記述がなされている。ここから判断する限りにおいて、こ の2語は全くの同義語と考えられるが、文中ではこの2語を入れ替えること ができない場合がある。「永遠」「永久」に限らず、同義語が項目としてほと んど同じ記述になっている国語辞書は珍しくない。日本人にはこの記述で十 分だからであろう。では、日本語を学ぶ外国語話者がどうやって2語を使い
分けるか。そこにコロケーション検討の必要性が生まれてくるのである。
本稿は、従来の意味分析やその成果たる国語辞典等の批判をするものでは ない。また、意味分析に新しい課題を提起するものでもない。むしろ、これ までに出された数々の優れた国語辞典の意味分析に則って類義語のコロケー ション自体を比較するものである。そしてそのことによって、“意味を説明・
理解する”という国語辞典の役割とは別の、“使い方を知る”“実際に使うた めの”分析を行いたい。それが外国語話者にとっての理解語彙から使用語彙 へ移行する手助けとなる一例になり得れば幸いである。
2.「永遠」「永久」
以下、「永遠」「永久」の2語を、形の違いによって前後に付く語例及び文 例を挙げる。
尚、前後の語例は巻末の参考文献・コーパス、及び筆者の日常からの収集 によるものであり、文例は筆者の創作である。
2.1 「永遠の~~」「永久の~~」の例
「永遠の」に続く語として、「愛」「命」「真理」「友情」「絆」「誓い」「願望」
「夢」「憧れ」「謎」「課題」「テーマ」「少年」「子供」「青年」「敵」「宝物」「シ ンボル」「スター」「ヒーロー」「ライバル」「アイドル」「名作」「繁栄」「沈黙」
「眠り」「輝き」「美」「安らぎ」「苦しみ」「別れ」などがあり、「永久の」に 続く語と「繁栄」「沈黙」「眠り」「輝き」「美」「安らぎ」「苦しみ」「別れ」「権 利」「平和」などがある。
これらの語彙を、【精神探求】の語彙(①)、【物質の精神的レベル】(②)、
【精神状態】(③)、【その他抽象語彙】(④)に分類することはできないだろ うか。
語と語の結びつきの強さを検証するために、さらに例文を挙げよう。
「永遠の」
・新郎新婦は友人たちの前で永遠の愛を誓った。①
・古今東西、支配者は永遠の命を求め続けてきた。①
・なぜ人類だけが進化したかは永遠の謎である。①
・社長のアイディアは永遠の子どもである彼の発想から生まれるらしい。②
・永遠のライバルである二人が表彰台で固い握手を交わした。②
・最後の言葉を残し、彼は永遠の眠りについた。③
一方、「永久の」は、辞書に語の形としては存在するものの、続く言葉はわ ずかである。
「永久の」
・基本的人権は永久の権利である。④
・永久の平和のために尽力したい。④
①及び②に分類した文では、「永遠の」を「永久の」に入れ替えるのは難が ある。③は「永久の」を使う場合もありうるが、「永遠の」との方が落ち着き がいいようだ。④は「永久の」が使われる場合の方が多いようである。すな わち、①→④に従って、「永遠の」よりも「永久の」が適切度が高くなると整 理できる。その関係を【表1】に示す。
【表1】「永遠の」「永久の」に続く語彙と結びつきの強さ
※は、続く語との結びつきやすさを記号で表したもの
「永遠の」に続く語 ※ 「永久の」に続く語
【精神探求】①
愛、命、真理、友情、絆、誓い、
願望、夢、憧れ、謎、課題、テーマ
【物質の精神レベル】② 少年、子供、青年、敵、宝物、シ ンボル、スター、ヒーロー、ライ バル、アイドル、名作
【精神状態】③
繁栄、沈黙、眠り、輝き、美、安 らぎ、苦しみ、別れ、記憶
【その他抽象語彙】④ 権利、平和、世界
>
>
≧
≦
【精神状態】③
繁栄、沈黙、眠り、輝き、美、安 らぎ、苦しみ、別れ
【その他抽象語彙】④ 権利、平和
2.2 「永遠/永久に~する」「永遠/永久に~だ」の例
次に、「永遠/永久に」に続く動詞を【表2】に挙げる。動詞の分類は筆者 によるものである。
【表2】
これらの動詞は、語と語の結びつきという点から鑑みるに、「永遠に」と「永 久に」に優先性はほとんど感じられない。わずかに「美しい」が「永遠に」が 優先されそうな程度である。
文例の中で考察してみよう。
「永遠に~する」
・永遠に続くかと思われたいじめが、卒業を機にようやく終わった。⑤ 状態の継続を表す動詞⑤ 「残る」「続く」「とどまる」「存在する」「保持
する」「有する」「栄える」「生き続ける」「輝き 続ける」など
動作の継続を表す動詞⑥ 「進化する」「繰り返す」「循環する」「流れ続 ける」など
「永遠・永久に」と結びつく ことで結果的に継続状態を表 す動詞⑦
「放棄する」「停止する」「除去する」「奪う」
など
「永遠・永久に」と結びつく ことで結果的に継続状態を表 す否定の形⑧
「会えない」「変わらない」「忘れない」「消え ない」「口を開かない」「完成しない」「起きな い」「終わらない」「見られない」「答えを出せ ない」「尽きない」「実らない」「交わらない」
「帰ってこない」「わからない」「許さない」な ど
「永遠・永久に」と結びつく こと状態の継続を表す動詞の 受身形⑨
「取り残される」「失われる」
状態を表す形容詞や名詞⑩ 「不滅だ」「不変だ」「美しい」「スターだ」「ヒー ローだ」
・彼の雄姿は私たちの心に永遠に記憶されるだろう。⑤
・戦争の記憶は永遠に消え去ることはない。⑦
・その事故は子どもから母親を永遠に奪い去った。⑦
・母の閉じた目はその後永遠に開くことはなかった。⑧
・待っているだけではチャンスは永遠に来ませんよ。⑧
・巨人軍は永遠に不滅だよ。⑩
上のどの例文も「永遠」を「永久」を入れ替えても正しい文として成立し うる。但し、「永久」に替えると、少々堅さが生じると感じる人もいる可能性 はあるだろう。また、
・彼は私にとっては永遠にスターなのです。⑩
この文は、「永久」にすると、突然、憧れのイメージから現実的な物になるよ うである。
どちらかと言うと「永久」が優先される文は以下である。
「永久に~する」
・この町は永久に美しいままで保存したい。⑤
・市はこの建物を永久に残したいと考えている。⑤
・戦争の記憶を永久に語り継いでいかなければならない。⑥
・私たちは伝統芸能を永久に受け継いでいく責任がある。⑥
・宇宙は永久に膨張し続ける。⑥
・戦争と武力による威嚇又は武力の行使は永久に放棄する。⑦
・不正行為をした選手は球界から永久に追放された。⑦
・火事によって人類の宝が永久に消滅してしまった。⑦
・永久に細胞分裂を繰り返す。⑦
・このチャンスを逃すと永久に出世できないだろう。⑧
・拉致問題が永久に葬られてしまうことを恐れる。⑨
・事故によって彼の手足の機能は永久に失われた。⑨
2.3 「ドラえもんは永遠だ」
・ドラえもんは永遠だ。
・この国において戦争の傷は永遠である。
しばしばある種の感慨を持って発話される上の2文に言葉を補うとすれば、
下のようになるだろう。
・ドラえもんは(世界の子供たちにとって)永遠(に夢として続く/生 き続けるの)だ
・この国において戦争の傷は永遠(に消えさることはないの)である。
これらが憧れや心の傷といった精神的レベルもしくは精神状態が続くこと を意味していることは言うまでもない。この文は、以下のようには置き換え がたいのではなかろうか。
× ドラえもんは永久です。
× この国において戦争の傷は永久である。
2.4 複合語
「永遠」「永久」が他の語と結びついて一語として意味を成す場合がある。
参考文献には以下の例が見られた。「永久」を使った複合語の方が、「永遠」
を使ったものよりも圧倒的に数が多い。
≪「永遠」の複合語例≫
永遠回帰、永遠公債、永遠性、永遠不変
≪「永久」の複合語例≫
永久化/永久運動/永久磁石、永久不変/永久不滅/永久不可侵/永久保存/
永久保証/永久性/永久凍土/永久機関/永久会員/永久シード権/永久歯/
永久就職/永久欠番/永久失格処分/永久停止/永久追放
「永久」の複合語を用いて文を作ると、
・この書類は半永久的に保存される予定だ。
・基地の強化及び永久化には断固反対する。
・憲法は基本的人権は永久不可侵であると規定している。
・結婚を永久就職であると考える女性が減ってきている。
・子どもにやっと永久歯が生えてきた。
・証拠品は裁判所で永久保存される。
・巨人軍の「背番号3」は永久欠番になっている。
・賭博により数人の選手たちが野球界から永久追放された。
である。「半永久」はあるが、「半永遠」は無いなど単語レベルにおいても、
文レベルにおいても、複合語の場合、「永久」が「永遠」とは置き換えられな いことが明らかである。
2.5 「永遠」と「永久」
2.1~2.4で挙げた例文やこの二つの言葉の入れ替えの可否を考察す ると、この二つの語彙の持つ意味の違いが漠然とではあるが見えてくる。ど ちらも、“果てしなく続く”“終わることはない”という意味ではあるが、「永 遠」ははるか遠くを見ていつか終わるかも知れないはかなさをどこかで感じ ている語のようである。それ故に、精神的な「愛」「ヒーロー」などの言葉と 結びつきやすいのではないか。一方で、「永久」は同じ状態がそのまま維持さ れる語感があり、「追放」「消滅」や科学的な用語と結びつきやすいと考えら れないだろうか。
例えば、「永久」を使った文、
平和が永久に続く
これは一見、所謂“正しい日本語”とされそうな例文だが、このまま実際に 使用するかというと、疑問符が付く。本当に使用されるのは、
・この平和は永久に続くのだろうか
・私たち被爆者が希求するものは永久の平和です
のように、「永久」と「平和」は、続くかどうかわからない不安定な状態や、
希求するものである場合に使われることの方が多い。そのイメージを図で表 すと【図1】になる。
【図1】「永遠」と「永久」のイメージ
≪永遠≫
・・・(続く)
≪永久≫
・・・(続く)
( 時間の流れ → )
5.終わりに
本稿は、『日本語表現活用辞典』(2004)の手法に習い、新たに、一般に形 容動詞と呼ばれる語のいくつかについて比較考察を行ったうちの一例である。
形容動詞は語彙によって稿末に示す~のようにさまざまな形があり、ま たそれぞれの語が~の複数の形を、あるものは持ち、あるものは持たな い。いずれの語がいずれの形を持ちうるかは、パターン化できる規則性は無 いといえるほどである。その上、前後に置かれる語と語順を変えても意味が 同じ形容動詞もあれば、語順を変えることで意味が変容してしまう、もしく は日本語として不自然な文になるものもある。
それら一語一語と向き合う時、外国語話者が使用に迷った時に手にとるべ きコロケーション例を網羅した教材あるいは辞書を作り上げるということの 深淵さに足がすくむ思いさえする。
また、一連の考察中、参考文献からの引用やコーパスが誤用ではないかと 筆者が思う場面や、あるいは筆者自身の例文に他から疑問を投げかけられる
場面も少なからずあった。言葉の意味分析には、使う人それぞれの歴史・環 境による主観が入ることは否めない。しかしその考察が日本語学習者の一つ 一つのヒントになりうるなら、主観による違いを乗り越えて存在する“何か”
を追及するこのような分析を積み重ねる必要性も、やはり存在するのではな いだろうか。多くの知力を合わせ、そのようなものの完成の礎を築く一助と なりたいと願うものである。
【形容動詞の形態】
○○+な(名詞) ex.「簡単な」
○○+の(名詞) ex.「極度の」
○○+なる(名詞) ex.「厳正なる」
○○+に(動詞)(形容詞)
(名詞)は○○だ
参考文献
姫野昌子監修、柏崎雅世・藤村知子・鈴木智美・花薗悟・横井雅子・種田美 由紀執筆(2004)『日本語表現活用辞典』研究社
飛田良文・浅田秀子(1991)『現代形容詞用法辞典』東京堂出版 北原保雄編(2002)『明鏡国語辞典』大修館
柴田武・山田明雄・山田忠雄編(1989)『新明解国語辞典』第4版 三省堂 森田良行(1993)『基礎日本語辞典』角川書店
新村出『広辞苑』第6版(2008)岩波書店
金田一春彦・池田弥三郎編(1980)『学研国語大辞典』学習研究社
西尾実・岩淵悦太郎・水谷静夫編『岩波国語辞典』第4版(1991)岩波書店 研究社オンラインディクショナリー 新和英大辞典、新和英中辞典(2004)
日本語コーパスKOTONOHA「現代日本語書き言葉均衡コーパス」検索デモン ストレーションhttp://www.kotonoha.gr.jp/demo/
(留学生センター 非常勤講師)