活性化
‑微生物と生体防御系との関わり−
MlF
qb唾PQ団p
│FN−Y
カタラー│之陰2H20+O
2H202
ロ■■0旬.
Q
微生物 の除去
イ ン 産 生 サイトカ
生 体 防 御 系 の 発 達
T
佐 々 木 巧
APC
し 丑 I 今 I
亀
目 次
21
15235556677111111111
22
24
要 旨
第 I 章 緒 言
第Ⅱ章酵母および枯草菌におけるカタラーゼ合成誘導機構の解析
第 Ⅱ 章 − 1 序 論 第 Ⅱ 章 ‑ 2 材 料 と 方 法
Ⅱ−2−1.酵母の培養及び集菌
Ⅱ‑2‑2.酵母の好気的インキュベーション
Ⅱ−2−3.枯草菌の培養及び集菌
Ⅱ−2−4.H2O2の存在下でのインキユベーシヨン
Ⅱ‑2‑5.酵母及び枯草菌の細胞抽出液の調製
Ⅱ−2−6カタラーゼ活性の測定 第 Ⅱ 章 − 3 結 果
Ⅱ−3−1酵母のカタラーゼ合成に及ぼす培地中のグルコース の影響
Ⅱ−3−2好気的インキュペーションによる酵母のカタラーゼ 合 成 誘 導
Ⅱ−3−3酵母のカタラーゼ合成誘導に及ぼすタンパク質合 成阻害剤の影響
Ⅱ−3−4酵母のカタラーゼ合成誘導における酸素の役割
Ⅱ−3−5枯草菌におけるカタラーゼ合成に及ぼすグルコース の影響
Ⅱ−3−6枯草菌における外部からのH2O2添加によるカタラー ゼ合成誘導
Ⅱ−3−7枯草菌におけるカタラーゼ合成誘導に及ぼすタンパ ク質合成阻害剤及びRNA合成阻害剤の影響
第 Ⅲ 章 − 1 序 論
18
及びその生物活性の解析
18
19
20 20
30 31
Ⅱ−4−1酵母におけるカタラーゼ合成誘導機構の解析
Ⅱ−42枯草菌におけるカタラーゼ合成誘導機構の解析
第Ⅲ章モルモットT細胞活性化マクロフアージ因子(TAM)の精製
第 Ⅱ 章 ‑ 4 . 考 察 678222
第 Ⅲ 章 − 3 結 果
Ⅲ−3−1TAMの精製
Ⅲ−3−2TAMの生物活性及びIL戸1との異同 第 Ⅲ 章 − 4 . 考 察
第Ⅲ章−2材料と方法 33
Ⅲ−2−1実験動物
Ⅲ‑2−2試薬及び培地
Ⅲ−2−3MDP刺激マクロファージ培養上清の調製
Ⅲ−2−4培養上清のゲル漁過
Ⅲ−2−5プロキオンレッドアガロースによる分画
Ⅲ−2−6血清成分の免疫吸着
Ⅲ−2−7陰イオン交換クロマトグラフィー
Ⅲ−2−8疎水クロマトグラフィー
Ⅲ−2−9胸腺細胞アッセイ
Ⅲ‑2‑10リンパ節細胞の調製
Ⅲ‑2‑11TAMの生物活性の測定
Ⅲ‑2‑12ポリアクリルアミドケル電気泳動及びEAMの ゲルからの抽出
33
334333
35
35
36
36
36
37
38
9004634444
2233355555
Ⅳ−2−1細菌性スーパー抗原
Ⅳ‑2‑2動物及びコラーゲン誘導関節炎の発症
Ⅳ−2−3SEBの投与
Ⅳ−2−4T細胞増殖応答の測定
49
Ⅲ−4−1TAMの精製及びIし1との異同
Ⅲ−4−2TAMの生体防御機構における意義
46
47
第Ⅳ章スーパー抗原と免疫応答 第 Ⅳ 章 − 1 序 論
第Ⅳ章−2材料と方法
50
79
55665555
57
第 Ⅲ 章 − 3 結 果 60
81 83
Ⅳ−3−1DBA/1マウスにおけるSEBによるトレランス の誘導
Ⅳ−3−2SEB投与後のトレランスの機序の解析
Ⅳ−3−3SEB投与マウスにおけるコラーゲン誘導関節炎の 発症抑制
Ⅳ−3−4SEBの経口投与によるトレランスの誘導
Ⅳ−3−5SEBの経口投与によるコラーゲン誘導関節炎の発症 抑制と症状軽減及びその機序の解析
60 62
65 68
72
第 Ⅲ 章 − 4 考 察
Ⅳ‑4‑1DBA/1マウスにおけるSEBによるトレランスの誘 導及びその機序の解析
Ⅳ−42SEB投与マウスにおけるコラーゲン誘導関節炎の 発症抑制及び機序の解析
Ⅳ−4−3SEBの経口投与によるトレランスの誘導
Ⅳ‑4‑4SEBの経口投与によるコラーゲン誘導関節炎の発症 抑制と症状軽減及びその機序の解析
第 V 章 総 括
Ⅳ−2−5F1owcytometryによる解析
Ⅳ−2−6抗CⅡ‑IgG抗体の測定
Ⅳ−2−7サイトカイン産生の測定
Ⅳ−2−8RNAの抽出
Ⅳ‑2‑9.ポリメラーゼチェーン反応(polymerasechain reaction)によるサイトカインDNAの増幅
98 79
84 89
第 Ⅵ 章 引 用 文 献 第 Ⅶ 章 参 考 図 謝 辞
110
114
要
1
E三コ
目;
要 一日
脊椎動物は自己の恒常性を保つために、微生物の侵入に対してさまざまな生 体防御系を張り巡らせている。一方、微生物も宿主の防御反応に対抗して生き 延びるための生体防御系を有している。本研究では、微生物と宿主の防御反応 の攻防に焦点を当てて、両者の生体防御系がどのように関わっていくかについ て考察を試みた。
[第Ⅱ章]宿主生物はマクロファージによる過酸化水素等の殺菌物質を放 出して、侵入した微生物に対する非特異的な防御反応を行う。これに対抗して 微生物はそれを分解する防御反応を有すると考えられている。そこで、著者は 酵母と枯草菌におけるカタラーゼ合成の誘導に着目し、その役割について解析 した。その結果、酵母においては酸素呼吸の高揚によってカタラーゼ合成が誘 導されること、枯草菌では外部からの5〜500,Mの過酸化水素の添加によりカ タラーゼ合成が誘導されることを明らかにした。この機構が、侵入微生物を貧 食したマクロファージからの過酸化水素などの殺菌物質の放出に対する微生物 の防御機構の一つであると考えられる。
[第Ⅲ章]微生物のこのような防御機構に対抗するために、宿主は特異的 な生体防御系である免疫応答を惹起させる。そのきっかけをつくるのは、マク ロファージ等の抗原提示細胞による抗原の提示である。細胞表面に提示された この抗原は抗原特異的な受容体を持っているT細胞に認識される。これと同時 にこのT細胞の活性化に重要な役割を果たすのがT細胞活性化因子(サイトカイ ン)である。例えば、ヒトやマウスではマクロファージからT細胞活性化に必要
2
なサイトカインとしてインターロイキン−1(interleukin‑1、 し1と略す)が産 生される。本章では、これまでIE1が見い出されていなかったモルモットから T細胞活性化マクロファージ因子(rceuactivatingmonokine,TAMと略す)を 単離精製し、その働きを解析しようと試みた。そして、著者はモルモットの TAMをヒトやマウスのIE1より大きい分子量を持つ分子として単離し、この分 子がT細胞に作用して免疫反応を高めるマクロファージ遊走阻止因子の産生を 刺激することを明らかにした。このことは、モルモットではTAMがヒトやマウ スのIE1の代わりとして初期の免疫応答を誘発する際に重要な役割を果たして
いることを示している。
[第Ⅳ章]ある種の細菌が産生する毒素は、この免疫応答惹起過程とは無関 係にT細胞に認識され、T細胞を活性化したのち免疫学的寛容(トレランス)を誘 導して、特異的免疫応答を抑えることが知られている。これらの毒素は細菌性 スーパー抗原と呼ばれている。細菌性スーパー抗原は、マクロファージ表面の 主要組織適合遺伝子複合体産物クラスⅡ分子と特定のT細胞抗原受容体のβ鎖
に結合することを特徴とする。
この細菌性スーパー抗原と免疫系との関わりについて解析するために、黄色 ブドウ球菌の腸管内毒素B(staphylococcalenterotoxinB、SEBと略す)を使 用して、ヒトの慢性関節リウマチのモデルであるコラーゲン誘導関節炎を発症 するDBA/1マウスにおけるトレランス誘導の機構、疾患との関わりについて検 討を行った。このマウスではSEBを静脈内投与することにより、SEB応答性の
Vl38TCR‑T細胞の部分的なクローンの除去と応答性の低下(アナジー)に起因す
るトレランスが誘導された。トレランスが誘導されたマウスでは、コラーケン 誘導関節炎の発症がSEB非投与マウスに比べて約80%抑制された。これにとも
3
ない、自己抗原であるⅡ型コラーゲンに対するT細胞の増殖応答はSEB投与マ ウスでは約60%低下しており、自己抗体である抗Ⅱ型コラーゲンーIgG抗体の 産生は20〜30%程度低下していることが判明した。
次に、SEBが食中毒を起こすことに着目して、SEBに対する同様の免疫応答 がSEBを経口投与した場合にも認められるかどうか検討した。その結果、SEB を2週間以上連続して経口投与した場合、トレランスが成立すること、トレラ ンスの成立したマウスではコラーゲン誘導関節炎の発症が約70%抑制され、さ らに発症初期にSEBを約90日間連続して経口投与した場合、症状が軽減される ことが判明した。このトレランス誘導には、部分的なSEB応答性のVl38TCR‑
T細胞クローンの除去と応答性の低下に加えて、低域経口トレランスの機序の 一つであるTH1型サイトカイン産生プロフィールからTH2型サイトカイン産生 プロフィールへの移行による積極的抑制も関与していることが示された。また 一方では、同じ系統のマウスでSEBの大量投与によるコラーゲン誘導関節炎の 発症が報告されている。
以上の事実から、宿主である脊椎動物は細菌性スーパー抗原に対して、まず 急激なT細胞の活性化によって病的な状態に陥るという宿主にとってマイナス の免疫応答を示すが、やがてT細胞にトレランスを誘導し、病的状態から回復 するというプラスの免疫応答へと転じるものと考えられる。このことは脊椎動 物が免疫応答を逃れた細菌の産生する毒素に対して、巧妙に免疫応答を調節す
ることによって、生体を維持するシステムを獲得したことを示唆している。
4
一一口
5
第 1 章 緒
一一一口
生体はその恒常性を保つ機構の一つとして生体防御系を有している。脊椎動 物において生体防御系に関わる細胞群は白血球である。白血球は細胞内に多様 な形態の核と穎粒を持ち非特異的な生体防御反応を担う多形核白血球(あるいは 穎粒球)、そして単一の球状の核を持ち、非特異的な防御反応及び特異的な生体 防御反応に関与する単核球から構成されている(1)。
多形核白血球による防御反応は、侵入してきた異種生物の種類に関わりなく 非特異的に作用するので、微生物感染の初期に機能する生体防御機構である。
単核球は非特異的な生体防御反応を行う単球と、特異的な生体防御機構であ る免疫系の主役を果たすリンパ球からなる。まず単球は、血管内を流れている ときは不活性な状態であるが、出血などによって血管外に出るとマクロファー ジとなり大食作用によって生体に侵入した微生物を殺そうとする(2,3)。
リンパ球は骨髄由来で胸腺(thymus)で分化するTリンパ球(T細胞)と鳥類では ファブリキウス嚢(bursaofFabricius)、ほ乳類では骨髄(bonemarrow)由来 で、胎児の肝臓へ移行してそこで分化するBリンパ球(B細胞)に大別される(参 考図l)。
ところで、細菌を取り込み消化したマクロファージ等の抗原提示細胞はその 構成タンパク質を分解し、9〜10数個のアミノ酸からなるペプチドにしてその 細胞表面上の主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocompatibilitycomplex、
MHCと略す)産物のクラスI分子及びⅡ分子に結合した形で、その細胞表面に 抗原特異的な受容体(Tcellantigenreceptor、TCRと略す)を持つT細胞に向 けて提示する(4)。マクロファージ表面上に提示されたペプチドを抗原ペプチド
6
緒
といい、この現象を抗原提示という。MHC分子は移植抗原とも呼ばれ、各個 体間で分子内の特定の領域でアミノ酸配列が微妙に異なり多様性を作り出して いて(4)、自己と非自己を区別する重要な抗原である。MHC分子にはほとんど 全ての細胞に発現されているクラスI抗原(俗に移植抗原という)、マクロファ ージのような抗原を提示する細胞に発現されているクラスⅡ抗原、補体の構成 タンパク質であるクラスⅢ抗原が存在している(参考図2)。
T細胞は多方面に渡って免疫応答を制御している。その表面上のTCRには、
αβ型とγ6型が存在し、それぞれα鎖とβ鎖、γ鎖と6鎖がヘテロダイマー を形成している(5,6)。これらはそれぞれ可変(variable,Vと略す)領域、定常 (constant,Cと略す)領域及びこれらの間にある多様性(diversity、Dと略す)領 域と接合(joint,Jと略す)領域からなるドメイン構造をしている。またV、D、J 領域をコードする遺伝子群にはいくつかのエクソンが存在し、各T細胞クロー ンはその中からただ一つのエクソンのみ選んで使用している(6)。V領域で抗原 を認識するので、V領域に使用されたエクソンが異なるとそのT細胞の抗原に 対する特異性も異なることになる(参考図3)。
ところで、抗原提示を受けた抗原特異的なT細胞は活性化され、特異的免疫 応答が惹起される。その際にマクロファージは可溶性のシグナル伝達物質、イ ンターロイキンーl(IE1)を産生(7)し、抗原提示を受けたT細胞を活性化する。
そして抗原提示とIE1の刺激を受けたT細胞はT細胞増殖因子であるインターロ イキンー2(interleukin‑2、IE2と略す)を産生し、T細胞を活性化し分裂増殖を 促す(8,9)。こうして抗原特異的なT細胞はそのクローンを拡大し、抗原除去 へ向けて準備段階に入る。その準備段階でT細胞はインターロイキンー4(inter‑
leukin‑4、IE4と略す)やインターロイキンー5,6,10,13(interleukin‑5、
7
6,10,13、それぞれ'し5,6,10,13と略す)を産生して抗体産生を促進した り(10,11)、インターロイキンー12,15(interleukin‑12、15、それぞれ11‑戸 12,15と略す)、インターフェロン‑Y(interferon‑Y、IFN‑Yと略す)あるいは腫 傷壊死因子−β(tumornecrosisfactor‑β、TNFβと略す)を産生して、マク ロフアージやナチュラルキラー細胞(naturalkiUer,NKと略す)あるいは細胞 障害性T細胞を活性化し、細胞仲介性免疫応答を惹起したりする(9,11)。
これらの過程の存在は、例えばIE4の受容体をコードする遺伝子が、リンパ 球の細胞接着に関与している細胞質タンパク質lymphocytefunction‑
associatedantigen‑1をコードする遺伝子と連鎖しており、その発現が密接 に関連し合っている事実(12,13)やIE4がリンパ球の容積を拡大し生存率を増 大するという事実(14,15)などからも示唆される。ところでサイトカインに よって活性化された細胞をエフェクター細胞といい、抗体をエフェクター分子 という。エフェクター細胞やエフェクター分子は存在している抗原を除去し、
それ以上免疫応答が拡大し、生体に過剰な炎症を誘発するのを避けている。し たがって、抗原が体内から除去されると免疫応答は終息する。生体には108個 以上にも及ぶT細胞クローンが存在し、それぞれが多種多様な抗原に対応して おり、それぞれの抗原ペプチドに対して上述のような免疫応答が起こるように 免疫ネットワークが準備されている。
しかしながら、このような万全かと思われる免疫ネットワークの網にとらえ られないような抗原が存在する、これらの抗原はスーパー抗原(superantigen)
と呼ばれている(16,17)。スーパー抗原には黄色ブドウ球菌の腸管内毒素の ような細菌性スーパー抗原と、マウス白血病ウイルスのようなレトロウイルス の遺伝子の31末端側に存在しているlongterminalrepeat(ⅢR)領域にコード
8
される遺伝子産物で、B細胞表面に発現されているウイルス性スーパー抗原 (18)がある(参考図4)・
本研究では、今まで述べてきた背景をもとに、生体が微生物の侵入からいか にして自らを防御しようとするか、またその防御反応に対して微生物がいかに 対応して生き延びていくかについて検討した。まず免疫担当細胞の一つである マクロファージと侵入微生物との攻防を侵入微生物側から解析した。続いて宿 主側の次なる生体防御機構、特にマクロファージからのサイトカインの放出と それに対するT細胞の応答及び特異的な免疫応答への移行について明らかにし た。さらに特異的な免疫応答を回避して微生物側が宿主の体内で生き延びてい く機構、それに対する宿主の防御反応との相互作用、最後に自己免疫疾患の発 症と治癒との関わりについて検討した。これらの結果に基づき、微生物と宿主
との攻防に関して得られた知見を総括する。
[第Ⅱ章]では、酵母や枯草菌が細胞内で発生したH2O2や外部から加えら れたH2○2に応答してカタラーゼを合成する機構を明らかにして、酸素毒性に 対する防御機構がそのままマクロファージの攻撃に対する防御反応として機能
していることを論述する(19,20)。
このようにしてマクロファージの攻撃を逃れた微生物に対してT細胞による 特異的な免疫応答が惹起される。その免疫応答はマクロファージから放出され
るサイトカインであるIL‑1によって開始される。その後T細胞は活性化され 次々に反応を拡大し、侵入微生物を除去する遅延型過敏反応を起こしたり、B 細胞と相互作用してB細胞を抗体産生細胞へと分化させ、産生された抗体によ
って侵入微生物は除去される。L'はマウスやヒトでは、分子量が約'7,000で あるが、モルモットでは,し,そのものの存在は確認されていなかった。
9
[第Ⅲ章]では、モルモットにおけるIL1様因子であるT細胞活性化マクロ ファージ因子(Tcell‑activatingmonokine、TAMと略す)に着目し、マウスや ヒトのIL‑1との異同について解析を進めた。まず、これまで確認されていな かったモルモットのTAMを単離精製した。そしてTAMがマウスやヒトのIE1
と異なる分子量を持ち、T細胞が抗原特異的に応答する際に必須のサイトカイ ンであることを示した(21)。さらにT細胞を刺激してマクロファージを活性化 するサイトカインであるマクロファージ遊走阻止因子の産生を促し、エフェク ター細胞の分化に関与することを明らかにして、活性は同様でも分子量が異な るIE1が存在することを論述する。
[第Ⅳ章]では、免疫ネットワークを回避して作用するスーパー抗原と宿主 の免疫応答との関わりについて明らかにするために、我々の周りに古来から存 在してきた黄色ブドウ球菌、Staphyjococcusaul研eusが産生する細菌性スーパ ー抗原、staphylococcalenterotoxinB(SEB)を用いて免疫応答との関係につ いて検討を行った。これまで細菌性スーパー抗原については特定のT細胞を活 性化するだけでなく、抗原に遭遇したT細胞にトレランスを誘導することが知 られており、これは2回目以降の同じ細菌性スーパー抗原の刺激に対して、宿 主が過剰に応答して繰り返し病的状態に陥るのを防ぐ宿主側の防御機構である と考えられていた(17,18)。しかしながら、その詳細についてはあまり明らか にされていなかった。
本章では、細菌性スーパー抗原として黄色ブドウ球菌の腸管内毒素SEBを用 いて、まずマウスにおけるトレランス誘導の機構について明らかにする。次に あらかじめトレランスを誘導しておくことで、コラーゲン誘導関節炎の発症が 抑制されることを示す(22,23)。一方、SEBが腸管を通じて生体に病原性を発
10
現することから、SEBをマウスに経口投与したときの生体の応答について検討 した。その中で、病気を引き起こさない用量を経口投与した場合、SEBに対す るトレランスが誘導されること、そのトレランスにはSEBに対する応答性の低 下が関与していること、さらに静脈内投与の場合と異なり、T細胞の作用を抑 えるようなサイトカインが産生される積極的抑制も関与していることを明らか にする(24,25)。また、SEBに対するトレランスが誘導されたマウスではコラ ーゲン誘導関節炎の発症が抑制されること、一旦疾患を発症したマウスにSEB
を経口投与し続けることにより症状が軽減されることを示す。さらに、S・
aureusが食中毒だけでなく慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患の発症や症状軽 減にも深く関わってきたことを論述し(25,26)、最後に、自己免疫疾患の誘発 の機序(27)、腸管を介した疾患の治癒についてサイトカイン産生のレベルまで 掘り下げ考察する。
11
第Ⅱ章酵母および枯草菌における力 タラーゼ合成誘導機構の解析
12
第Ⅱ章−1.序 論
マクロファージによる微生物や異物の貧食作用は、動物の持つ生体防御機構 の 中 で も 比 較 的 原 始 的 な 機 構 で 、 生 ま れ な が ら に し て 備 わ っ て い る 。 実 際 に は、血管内を流れる単球が出血などによって血管外に出るとマクロファージと なり大食作用によって細菌、真菌等の微生物あるいはその他の異物を食胞内に 取り込み、活性酸素(02̲)、過酸化水素(H202)、酸化窒素化合物(NOXs)あるい は消化酵素などの殺菌物質を放出して細菌を殺そうとする(1,2,3)。この貧 食作用により侵入した微生物の多くはその種類を問わず除去される。しかしな がら、一部の微生物はマクロファージの攻撃から逃れるために殺菌物質を分解 する酵素を合成してこれに対抗している(28,29)。例えば、活性酸素(○2‑)を分 解する反応を触媒するスーパーオキシドジスムターゼや過酸化水素(H2O2)を分 解する反応を触媒するカタラーゼは、自分自身の代謝の結果生じたこれらの過 酸化化合物を分解して生体を守っているだけでなく、微生物がマクロファージ から放出される過酸化化合物の攻撃から身を守るためにも重要な役割を果たし ていると考えられる。しかしながら、微生物において実際にカタラーゼ合成が 誘導される機構についてはあまり明らかになっていない。
[第Ⅱ章]では、宿主の微生物に対する初期の防御反応に対する微生物側の 防御反応ついて検討した。特に微生物として、動物の周辺に常在する真核生物 の酵母と原核生物の枯草菌を取り上げ、生体が遺伝的に持っている機構として のカタラーゼ合成の誘導について検討する。その中で特に酵母における酸素呼 吸の冗進によるカタラーゼ合成の誘導、枯草菌における外部から加えたH2O2 に対するカタラーゼ合成の誘導について明らかにする。また培地中に含まれる
13
炭素源としてのグルコースの役割、タンパク質合成阻害剤の効果について明ら か に し て 、 カ タ ラ ー ゼ 合 成 の 誘 導 機 構 が 、 そ の ま ま マ ク ロ フ ァ ー ジ か ら の H2O2の放出という殺菌作用に対する防御機構の一つとして機能してい る可能 性について考察する。
14
第 Ⅱ 章 − 2 . 材 料 と 方 法
Ⅱ‑2‑1.酵母の培養及び葉菌
酵母、SaccharomyCescerwisjaeは広島大学理学部の日野教授より供与さ れた。培地には1%酵母エキス、1%ポリペプトン、2%グルコースの水溶液 (pH6.0)を使用した。特に示した場合はグルコース濃度を変化させた。この培 地に1%のアガーを加え高圧蒸気滅菌によりアガーを融解し、内径1.2cmの試 験管にその10mlを入れ傾けたまま固めた斜面培地にコロニーを播種したものを 出発材料とした。斜面のコロニーから白金耳で菌体を三角フラスコに入った 10mlの培地に移植し、30℃で一晩往復振握培養したものを前培養とした。前 培養から菌液一滴を500,1用坂口フラスコに入れた100mlの培地に移植し、往 復振鐙器中で30℃、振幅4cm,120回/分で18時間振鐙培養することによって 酵母を培養した。細胞は10,000rpm,4℃で、5分間遠心して集め、20,Mリン 酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄し、2%酵母エキスを含む同じ緩衝液に再浮遊させ た。また、培養上清中のグルコースの濃度はNelson法によって測定した。
Ⅱ‑2‑2.酵母の好気的インキュベーション
酵母の浮遊液は30℃、往復振鐙器中で120回/分で好気的にインキュベート した。必要に応じてインキュベーション液中に窒素ガスを吹き込み嫌気的状態 を作り出した。インキュベーション中の細胞の増殖は無視出来る程度であっ た。またタンパク質合成阻害剤シクロヘキシミド(101』M)及びクロラムフェニコ ール(60鴫/ml)を必要に応じて加えた。
15
Ⅱ‑2‑3.枯草菌の培養及び葉菌
枯草菌はBaciIlussubtiIislFO3025を使用した。まず、1%酵母エキス、1
%ポリペプトンに1%アガーを加えた培地で斜面培養を行い、これを原株とし て全ての枯草菌の培養に使用した。
培養は以下のように行った。斜面よりコロニーの一部を10mlの培地の入った 三角フラスコに移植し、30℃、一晩振握培養したものを前培養とした。前培養 から500,1用坂口フラスコに入れた100mlの培地に菌液一滴を移植し、往復振 糧器中で、30℃、振幅4cm,120回/分で18時間培養した。培地には状況に応 じて100,Mグルコースを加えた。培養後、細胞は酵母の場合と同様に遠心分 離し、20,Mのリン酸緩衝液(pH7.0)に浮遊させた。適当に希釈した浮遊液の 660nmの吸光度を測定して細胞密度の指標とした。なお、○D660nmの1uint は枯草菌浮遊液の2.7xlO8細胞/mlの細胞密度に相当した。
Ⅱ‑2‑4.H202の存在下でのインキユベーシヨン
100mlの三角フラスコに枯草菌細胞を2%の酵母エキスを含む10mlの20,M リン酸緩衝液(pH7.0)に浮遊して、細胞密度が4xlO9細胞/mlになるように調 整し、浮遊液は、往復振鐙器で30℃、振鐙速度120回/分で好気的にインキュ ベー卜した。H2O2の連続的な添加は、インキユベーシヨン中にH202をペリス タポンプ(アトー株式会社製、S、J,1220型)で、0.6ml/hずつ連続的に添加する ことで行った。また、インユベーションの間の細胞増殖は無視出来る程度で あった。
16
Ⅱ‑2‑5.酵母及び粘草菌の綱胞抽出綾の調製
培養後あるいはインキュベート後、菌液を4℃で10,000x9,10分間遠心し て細胞を収穫した。得られた細胞のペレットを20,Mリン酸緩衝液(pH7.0)で 洗浄した後、10mlの同じ緩衝液に再浮遊した。酵素活性を測定するために、超 音波細胞破壊装置(BransonSonifierW200P、米国)を用いて細胞浮遊液を氷中 で2分間超音波処理することで破壊し、4℃で10,000x9,10分間遠心後上清を 回収して細胞抽出液とした。
Ⅱ‑2‑6.カタラーゼ活性の測定
細胞抽出液中のカタラーゼ活性はBergmeyer(30)の方法にしたがって分光学 的にH2O2の分解を240nmの吸光度の減少をみることで測定し、mgタンパク質 あたりの比活性で表した。この場合、カタラーゼの1unitは25℃、1分間で lIAmolのH2○2を分解するのに必要な酵素の量である。酵母の抽出液中のタン パク質濃度は、ウシ血清アルブミンを標準としたBiuret法で行った。また枯草 菌の抽出液中のタンパク質濃度はLowryらの方法(31)により測定した。
17
培 地 中 に 残 存 す る グ ルコース量(%)
Ⅱ‑3‑1.酵母のカタラーゼ合成に及ぼす培地中のグルコースの影響 酵母は培地中にグルコースが存在した場合よく生育する。そこで、まず異な る濃度のグルコースを含む培地で好気的に培養したときの細胞収量とそのとき のカタラーゼ活性について検討した。その結果を表1に示す。
表1.酵母の生育とカタラーゼ合成に及ぼすグルコースの影響
細胞は表に示す濃度のグルコースを加えた1%酵母エキス、1%ポリペプトン を含む培地中で30℃、18時間好気的に培養した。材料と方法で示したようにし て 培 地 に 残 存 す る グ ル コ ー ス の 濃 度 を 測 定 し た 。 カ タ ラ ー ゼ 活 性 、 グ ル コ ー ス 濃 度は平均値±標準誤差で表した。
41.0±1.0 36.7±1.7 15.9±0.6 9.3±1.2
雪鶏蛎グルコ│(u謡脇;雛I) 細 胞 収 量(OD660)
第 Ⅱ 章 − 3 . 結 果
00005000●●●●
0123 3356 申●●● 56183763 +一士十一十一 0000 ●●●● 57211112
0.021±0.009 0.036±0.004 0.107±0.012 0.124±0.010
細胞収量は培地に加えたグルコースの濃度にしたがって増加した。培地中に 加えたグルコースは大部分(95%以上)が消費されたが、残存するグルコースの 量は2%のグルコースが加えられたときに0.1%を示しほぼ最大に達した。一 方、培養後の細胞のカタラーゼ活性は培地中のグルコース濃度とは逆に低下 し、3%グルコースで生育した酵母のカタラーゼ活性は0.5%のグルコースで生 育した酵母の1/4であり、グルコースの濃度と逆の相関を示した。
18
周囲にグルコースの存在しない条件下で好気的呼吸を行うことでカダラ ロ 成が誘導されることを示している。
80
Ⅱ ‑ 3 ‑ 2 . 好 気 的 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン に よ る 酵 母 の カ タ ラ ー ゼ 合 成 誘 導 次に細胞内に蓄積されたグルコースが消費された場合、つまりグルコースが 存在しない条件下で、カタラーゼ合成が誘導されるかどうか検討した。その結 果、2%グルコースを含む培地で生育した酵母を増殖が殆ど起こらない条件下で 好気的にインキュベー卜した場合、カタラーゼの活性は増加し3時間のイン キュベーション後はインキュベーション前の4倍に増加した(図1)。このことは 周囲にグルコースの存在しない条件下で好気的呼吸を行うことでカタラーゼ合
OO0642
︵瓢︑﹄へ八輪冒這壱.︶蓮胆寧l爪硲兵
0 2 4 6
インキュペーション時間(時間)
酵母のカタラーゼ合成の経時的誘導 図1.
グ ル コ ー ス の 存 在 下 で 生 育 し た 酵 母 を 2 % 酵 母 エ キ ス を 含 む 20,Mリン酸緩衝液に浮遊し30℃で好気的にインキュベートし、図 に示した時間で細胞を集めカタラーゼ活性を測定した。それぞれの測 定点は平均値±標準誤差で表した。
19
Ⅱ‑3‑3.酵母のカタラーゼ合成誘導に及ぼすタンパク質合成阻害剤の 影 響
次にこのカタラーゼ合成の誘導に酵素タンパク質合成が関与しているかどう かについて調べるために、培地に真核生物のタンパク質合成阻害剤シクロヘキ シミドを加えカタラーゼの誘導が抑制されるかどうかについて検討した。表2 に示すようにシクロヘキシミドを加えてインキュベー卜した場合、カタラーゼ 活性の増加は殆ど認められなかったが、原核生物のタンパク質合成阻害剤クロ ラムフェニコールを加えた場合には何も加えない場合と同様にカタラーゼ活性 の増加が認められた。この事実は、好気的インキュベーションによりカタラ ゼタンパク質の合成が起こっていることを示している。
ー
表 2 . 酵 母 の カ タ ラ ー ゼ 合 成 誘 導 に 及 ぼ す シ ク ロ ヘ キ シ ミ ド と ク ロ ラ ム フ ェ ニ コ ー ル の 影 響
培養後集めた細胞を2%酵母エキスを含む20,Mリン酸緩衝液(pH7.0)に浮遊さ せ、シクロヘキシミド(101ルM)あるいはクロラムフェニコール(601Ag/ml)を加えて、
30℃で3時間好気的に誘導した。カタラーゼ活性は平均値±標準誤差で表した。
3‑4.酵母のカタラーゼ合成誘導における酸素の役割
さらにこのカタラーゼ合成の誘導が酸素呼吸の結果起こったかどうかについ て検討するために、インキュベーションを酸素の存在しない条件下、即ち窒素
20
ガス(N2)を吹き込みながら行い、カタラーゼ活性の増加を調べた。その結果表 3に示すように、窒素ガスの存在下でインキュベートした場合、インキュベー ション前と比べて殆どカタラーゼ活性は増加しなかった。したがって、このカ タラーゼの誘導には酸素が必要であることが示された。
表3.酵母のカタラーゼ合成誘導に及ぼす窒素ガスの影響
細胞は2%酵母エキスを含む20,Mリン酸緩衝液(pH7.0)に浮遊させ、窒 素ガスを吹き込みながら30℃3時間インキュベートした。カタラーゼ活性 は平均値±標準誤差で測定した。
イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン 条 件
イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン 前
N2ガスでインキユベーシヨン
エ ア レ ー シ ョ ン 下 で の イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン
カ タ ラ ー ゼ 活 性 (unit/mgタンパク質)
15.8±0.4 16.5±0.2 64.5±0.2
Ⅱ‑3‑5.枯草菌におけるカタラーゼ合成に及ぼすグルコースの影響 一方、枯草菌は好気性菌であるためもともと培養後のカタラーゼ活性は酵母 より高い。そこでまず培地にグルコースが存在した場合、カタラーゼ活性がど のように変化するかについて調べた。表4に示したように、培地にグルコース を加えて培養した場合、加えないで培養した場合に比べて培養後のカタラーゼ 活'性は約2.5倍に増加した。
21
表4枯草菌生育状態でのカタラーゼ合成に及ぼすグルコースの影響
細胞をグルコースを含む培地あるいは含まない培地で好気的に30℃、18時間培 養した後、細胞抽出液を作製し、材料と方法で示したようにしてカタラーゼ活性
を測定した。結果は平均値±標準誤差で表した。
無 W 窓 Ⅵ Ⅱ
F1ノヲ
【)7−2
r 1 L
」
細 胞 収 婦
〕l〕66『
4 . 0 ± [
このような高いカタラーゼ活性がある場合、たとえ枯草菌がマクロファージ に取り込まれて食胞内でH2○2放出の攻撃を受けても、自らカタラーゼ合成を 誘導してその攻撃に耐える可能性が考えられた。このことを確かめるために一 定濃度のH202が存在する条件下で枯草菌をインキユベートすることにより、
カタラーゼ合成が誘導されるかどうかについて検討した。
Ⅱ−3−6.枯草菌における外部からのH2O2の添加によるカタラーゼ合成
誘 導
グルコースを含む培地で培養した枯草菌に100mMH202を材料と方法で述べ たようにして、ペリスタポンプで0.6ml/hで連続的に加えながらインキュベー トし、経時的にカタラーゼ活性を測定した。その結果、図2に示したように H2○2を連続的に加えた場合、加えていない場合に比べて、カタラーゼ活性は インキュベーション時間とともに増加し6時間後に、約6倍にまで増加しピーク
に達した。
22
3000
000000 21
︵甑︑シヘハ毎回E毒一厘コ︶鎚胆型lいい侭
0 2 4 6 8 1 0 インキュベーション時間(時間)
図2H202の添加によるカタラーゼ合成の経時的誘導
100,Mグルコースを含む培地で生育した枯草菌を2%酵母エキスを 含む20,Mのリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに浮遊し、100,MのH2O2を 添加しながら30℃で好気的にインキユベートした(+H202)。同じ密度 の枯草菌浮遊液をH202を添加せずに30℃で好気的にインキユベートし たものを対照とした(‑H202)。それぞれのポイントは、カタラーゼ活性 の平均値士標準誤差を表している。
また添加するH2O2の至適濃度を求めるために、インキユベーシヨン時間を6 時間に固定して添加するH2O2の濃度を変化させ、各濃度でインキユベートし た枯草菌のカタラーゼ活性を測定した。その結果、図3に示したようにほぼ 200,MのH2O2を加えたときにカタラーゼ活性はピークに達し、そのレベルは 500,Mまで維持された。500,MのH2O2を加えたときにも高いレベルのカタ ラーゼ合成の誘導が見られたことは、枯草菌はインキュベーションに用いたよ うな細胞密度で存在するときには高濃度のH2O2にも耐えられる可能性を示唆
している。
23
OO OOO0 21
︵甑︑シへ八輪ロE喜一屋.︶超胆寧lいい侭
ハ 境
〆
︻岩LO
Ⅱ−3−7.枯草菌におけるH2O2によるカタラーゼ合成誘導に及ぼすタン パク質合成阻害剤及びRNA合成阻害剤の影響
次にこのカタラーゼ合成の誘導にタンパク質合成が関与しているかどうか、
あるいはRNA合成(転写)が関与しているかどうかについて検討した。インキュ ベーション培地に原核生物のタンパク質合成阻害剤クロラムフェニコールと RNA合成阻害剤リファンピシンを加えて6時間インキュベートし、カタラーゼ 活性を比較した。その結果表5に示すように、カタラーゼ活性の増加はこれら 2つの薬剤の存在下でほぼ完全に抑制され、インキュベートしていない場合と ほぼ同様のカラーゼ活性を示した。したがってH2○2の連続添加によって起こ
H202濃度(mM)
図3.カタラーゼ合成誘導に及ぼすH202の濃度の検討
グルコース100,Mを含む培地で生育した細胞を2%酵母エキスを含む20,M リン酸緩衝液(pH7.0)10mlに浮遊し、30℃で6時間インキュペートした。イン キユベートの際に、図に示す濃度のH202を一定速度(0.6ml/h)で添加した。
それぞれのポイントは、カタラーゼ活性の平均値±標準誤差を表している。
r1 L』
24
るカタラーゼ合成の誘導には新規のタンパク質合成やRNA合成が関与している ことが示された。つまり外部からのH2O2の添加に対して枯草菌はカダラ 合成を誘導することにより、生存する能力を有することが示唆された。
表5.H202によるカタラーゼ合成誘導に及ぼすクロラムフエニコール及 びリファンピシンの影響
100,Mグルコースを含む培地で培養した細胞を、2%酵母エキスを含 む20,Mリン酸緩衝液(PH7.0)に浮遊させ、クロラムフェニコール (60ug/ml)、リファンピシン(1014M)を加えた。さらに浮遊液に一定量 (0.6ml/h)の100mMH202を添加しながら30℃、6時間好気的にイン キュベー卜した。カタラーゼ活性は平均値±標準誤差で表した。
イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン 液 へ の 添 加
無 添 加
ク ロ ラ ム フ ェ ニ コ ー ル リ フ ァ ン ピ シ ン イ ン キ ュ ベ ー ト せ ず
25
カ タ ラ ー ゼ 活 性 (unit/mgタンパク質)
1778.8±20.0 358.0±15.7 339.7±23.0 360.0土13.4
− ゼ
第 Ⅱ 章 ‑ 4 . 考 察
本研究ではまずマクロフアージに取り込まれた微生物がH2O2の攻撃に対し てどのように生き延びるかについて、H202を分解する反応を触媒する酵素カ タラーゼ合成の誘導という観点から実験を行った。
微生物が侵入した際に、生体の免疫機構の中で最初に機能する細胞が貧食作 用を持つ白血球、即ち好中球やマクロファージである。特にマクロファージは 単球由来でリンパ球と同じ単核球に属し、貧食作用のみならず抗原提示や炎症 性のサイトカイン産生のような特異的免疫応答の惹起に関与するという重要な 機能を持っている。末梢の組織に侵入した微生物は、組織に浸潤してきたマク ロフアージに貧食され、食胞に取り込まれる。マクロフアージは食胞内に○2‐
、H202、NOXsやタンパク質分解酵素等を放出し取込んだ微生物を殺そうとす る(2)。一方、マクロファージが放出するこれらの殺菌物質に対して抵抗性を示 す微生物もいる。好気性細菌や通性好気性細菌または一部の真菌がそうで、こ れらの細菌は○2‑を分解する反応を触媒するスーパーオキシドジスムターゼや H2O2を分解する反応を触媒するカタラーゼを産生することで生存する(28, 29)と考えられていた。産生される酵素の量が多ければ生存するであろうし、
不足した場合は死滅するであろう。しかしながらどのような状況でこれらの酵 素が誘導されるかについてはあまり知られていなかった○本研究ではカタラー ゼに着目して、微生物がどのような状況下でカタラーゼ合成を誘導するか検討
した。微生物として真核生物の酵母と細菌の枯草菌を選択した。
26
Ⅱ−4−1.酵母におけるカタラーゼ合成誘導機構の解析
酵母は炭素源としてグルコースを消費しアルコール発酵の過程でこれを取込 み分解し、わずかなエネルギーを産出する。解糖や発酵には酸素を必要としな いためH2O2の発生する過程はないが、次のTCA回路への出発物質であるピル ビン酸が作られる。このピルビン酸を用いて酸素を必要とするTCA回路が動き エネルギーが産出される。TCA回路ではエネルギーはNADHの形で蓄えられ、
これが電子伝達系で酸化される過程でATPの形で産み出される。電子伝達系で の酸化の間にNADHに由来する4Hは02に渡され酸化される。もし2HがO2に 渡され酸化されるとH202となる。このH202の酸化がさらに進んだ場合、02‑
が産生される(32,33)。今回行った実験では、グルコースを含む培地で培養し た酵母は殆どカタラーゼを合成していなかった。これは培養終了時に培地中に グルコースが残存していたことから、たとえ好気的に培養した酵母でも培地に グルコースが存在した場合、グルコースの分解がTCA回路を動かすよりも優先 してしまうためであると考えられる。一方、グルコースのない条件下で好気的 にインキュベートした場合、カタラーゼ活性の増加が認められ、さらにこの酵 素活性の増加はタンパク質合成阻害剤シクロヘキシミドの添加によって阻害さ れることが明らかになった。これは次のように考えられる。酵母が生育する過 程で培地から取り込み細胞内に蓄えたグルコースを解糖系により分解し、蓄積 したピルビン酸を使用してTCA回路を動かし、それに関連してペントースリン 酸経路等が動き細胞内にH2O2が蓄積し、これを分解するためにカタラーゼタ ンパク質が合成された。つまり酵母ではカタラーゼ合成は酸素呼吸が盛んにな るに従って増加し、嫌気的呼吸の条件下では殆ど起こらない。またここに実験 結果は示していないが、酵母の細胞浮遊液に外部からH202を加えた場合には
27
カタラーゼ合成の誘導は起こらなかった。この事実から酵母はその細胞壁の構 造によってH2O2が細胞内に入らないようにすることで、H2O2の毒性から逃れ ている可能性を示唆している。これらの結果から、酵母はマクロファージに取 り込まれ食胞内でH2O2の放出を受けてもH2O2を細胞内に取り込まないように しているか、仮に取り込まれても酸素呼吸の結果合成されたカタラーゼによっ て分解し無毒化しているものと考えられる。
Ⅱ−4−2.枯草菌におけるカタラーゼ合成誘導機構の解析
すでに大腸菌では細胞浮遊液に外部からH202を連続的に添加することによ りカタラーゼ合成が誘導されることが報告されている(28,29,34)。そこで枯 草菌にも同様の機構が存在するかどうかについて検討した。まず枯草菌の生育 時でのカタラーゼ合成についてグルコースの有無の影響を調べた。その結果枯 草菌では大腸菌(34)や酵母(19)と異なり、グルコースの存在下で培養した方が 高いカタラーゼ活性を示した。これは、枯草菌が通常の酸素呼吸のみならず豊 富に存在するグルコースを利用して、グルコースオキシダーゼで直接グルコー スを酸化してエネルギーを得る反応(32)を積極的に利用した結果、H2O2が産生 され、これを分解するためにカタラーゼ合成が誘導されたからであると考えら れる。さらに酵母に比べて総タンパク質あたりのカタラーゼ活性のレベルが高 いことは、枯草菌がより酸素分圧の高いところで生育し、酸素呼吸を盛んに 行っているからであろう。今回の実験で、枯草菌にH2O2を連続的に添加して インキュベー卜した場合、カタラーゼ活性が著しく上昇した。さらに酵素活性 の増加は、原核生物のタンパク質合成阻害剤であるクロラムフェニコール及び RNA合成阻害剤であるリファンピシンの添加によりほぼ完全に阻害されたこと
28
から、酵素活性の上昇にはタンパク質合成及び新たなRNA合成がが関与してい ることが示された(20)。これらの結果は、枯草菌は外部から加えられたH2O2に 対してカタラーゼを合成することで対抗していることを示しており、仮に今回 用いた細胞密度で存在した場合、高濃度{500x0.6mlx6h÷(10ml+0.6ml x6h)}mM=132,MのH2O2を分解し生存する可能性を示唆している。この ような外部から添加されたH202に対するカタラーゼ合成の誘導は、Bacillus cereusやBacilIusmegate血mでも報告されており(35)、幾つかの細菌には共 通の機構であると思われる。このようにある種の細菌は、たとえマクロファー ジに取り込まれても完全に殺されるわけではなく、カタラーゼ合成の誘導のよ うなH2○2の分解機構によって生存し宿主侵入するもの思われる。したがって 宿主にとってはマクロファージによる攻撃から逃れた細菌などの微生物を排除 する別の防御機構が必要になってくる。
29
第 Ⅲ 章Ⅲ章モルモットT細胞活』性化マクロ ファージ因子(TAM)の精製及びそ の生物活性の解析
30
第Ⅱ章−1.序 論
カタラーゼ合成の誘導によってH2○2を無毒化しマクロフアージの攻撃から 逃れた微生物に対してT細胞による特異的な免疫応答が惹起される。微生物を 取り込んだマクロファージは、殺菌物質とともにタンパク質分解酵素のような 消化酵素を分泌し、微生物の構成タンパク質を分解する。この過程でタンパク 質は10数個のアミノ酸からなる短いペプチドに分解されて、主要組織適合遺伝 子複合体(majorhistocompatibiliitycomplex,MHCと略す)産物クラスI分 子あるいはクラスⅡ分子とともに細胞表面に提示(抗原提示)される。一方、T細 胞はその細胞表面上に抗原特異性を有する抗原受容体(Tcellantigen receptor、TCRと略す)を発現し、それによってマクロファージ細胞表面上に MHCとともに提示された抗原を特異的に認識し、活性化される。この認識→
活性化の際にはマクロファージから放出されるサイトカイン(モノカインともい う)であるインターロイキンー1(IL‑1)が必要である(7)。抗原刺激とIL‑1による 刺激を受けたT細胞は活性化され次々に反応を拡大し、侵入微生物を除去する 遅延型過敏反応を起こしたり、B細胞と相互作用してB細胞を抗体産生細胞へ
と分化させ、抗体産生を誘導したりする。
本章では、マクロファージの防御機構を回避した細菌に対するT細胞の抗原 特異的免疫応答の惹起に関わるサイトカイン、11‑戸1の役割について検討する。
まずこれまで確認されていなかったモルモットのマクロファージ由来T細胞活 性化因子(Tcell‑activatingmonokine、TAMと略す)を単離精製した。そして それがマウスやヒトのIE1と異なる分子量を持っているにも関わらず、T細胞 を刺激してマクロファージを活性化するサイトカイン、マクロファージ遊走阻
31
止因子の産生を促すという生物活性を持つ点で共通であること、エフェクター 細胞の分化を誘導するT細胞が、抗原特異的に応答する際に必須のサイトカイ
ンであることを明らかする。つまりモルモットでは、TAMが抗原刺激に対する 特異的な免疫応答を惹起し、抗原の除去に重要な役割を果たしていることを論 述する。
32
第 Ⅲ 章 − 2 . 材 料 と 方 法
Ⅲ‑2‑1.実験動物
モルモット(outbredのHartley、メス)は黒田実験動物(熊本市)より購入し た。inbredのstrainl3、2及びJY‑1は日生研株式会社(東京)より購入し、いず れも体重が400‑500gであった。
Ⅲ‑2‑2.試薬及び培地
muramyldipeptide(N‑acetylmuramyl‑Ealanyl‑D‑isoglutamine,以下 MDPと略す)はタンパク研究所(大阪市)より購入した。Phytohemaggluti‑nin‑
P(タンパク質含有率の高いもの)はDifco研究所(デトロイト、米国)より、
[methy卜3H]一チミジンはアマシヤム株式会社日本支社(東京)より購入した。
プロキオンレッドアガロースゲルはGIBCOBethesdaResearchLabolatories (GIBCO‑BRL,ロツクビル、米国メリーランド州)より購入した。RPMI1640 培地はGIBCO‑BRL社より粉末を購入し、添付のマニュアルに従って滅菌水に 溶解後、CO2ガスを吹き込むことでpHを7.2に調整し、2,MのL一グルタミ ン、501ルMメルカプトエタノール(2−MEと略す)、及び抗生物質として 10units/mlのペニシリン、0.1肌g/mlのストレプトマイシン及20鴫/mlのゲン タマイシンを加え0.451ルmのメンブレンフィルターで無菌滴過したものを使用
した。
Ⅲ‑2‑3.MDP刺激マクロファージ培養上清の調製
腹腔惨出マクロファージは、モルモットに高圧蒸気滅菌した流動パラフィン
33
10mlを腹腔内注射後7〜8日目に集めた(36)。細胞は温めたHank1sbalanced saltsolution(HBSS)で2回洗浄したのち、5%のウシ新生仔血清を含んだ HBSS10mlに2xlO6細胞/mlで浮遊させ、10,1用のペトリ皿中に移して、5%
CO2、37℃で湿度を飽和状態に保ったままインキュベートした。60‑90分後、
HBSSで残った非付着性の細胞を洗浄し除去した。この操作により約50%の細 胞が回収された。残った付着性細胞をマクロファージ特異的なエステラーゼ染 色を行った結果、98%がマクロファージであった。付着性細胞が残ったペトリ 皿に0.51ルg/mlのMDPを含むRPMI1640を8mlを加え、5%CO2、37℃で湿度を 十分に保ったまま培養した。18‑20時間後上清を回収し、1,500rpm、10分間 遠心した。さらにこの上清を4℃、15,000rpm,30分間遠心し、上清を‑20℃
で保存した。
Ⅲ‑2‑4.培養上清のゲル猿過
MDP刺激マクロフアージ培養上清はNaN3(0.1%)を加え、4℃でYM−5膜を
使用した撹祥子付のDIAFLOCeu(Amiconlnc・米国、メリーランド州、レキ シントン)で400〜600倍に濃縮した。その後、0.1%のNaN3、400mMNaClを 含む100,Mリン酸緩衝液(pH7.2)に透析し、遠心後、TSK‑G3000SWカラム (2.5x60cm、TOSOCorp・東京)を装着した高速液体クロマトグラフィー装置 で分画し、溶出液を3mlずつ分取した。溶出した画分に含まれるTAMの活性 は、各画分から50ulを採取し1%牛胎児血清(fetalcalfserum,FCSと略す)を 含むRPMI1640培地で20倍に希釈し、FCSを含まないRPMI1640培地に一晩透 析した後に0.45umのメンブレンフィルターで無菌濃過したものをサンプルと
34
して胸腺細胞アッセイによって測定した。
Ⅲ‑2‑5.プロキオンレッドアガロースによる分画
ゲル漁過後TAM活性を含む画分をプールし、400mMNaClを含む10,Mリン 酸緩衝(pH7.2)で平衡化したプロキオンレッドアガロースゲルを充填したカラ ム(1.0x3.9cm)に加えた。この条件で牛血清アルブミンはカラムを通過した が、活性成分は吸着した。10倍容の同じ緩衝液で洗浄した後、1.0MNaClを含 む10,Mリン酸緩衝液(pH7.2)を加えて溶出し、溶出液を1mlずつ分取した。溶 出した画分に含まれるTAMの活性は、各画分から50ulを採取し1%のFCSを含 むRPMI1640培地で20倍に希釈し、FCSを含まないRPMI1640培地100mlに一 晩透析した後に0.45umのメンブレンフィルターで無菌滴過したものをサンプ ルとして、胸腺細胞アッセイによって測定した。
Ⅲ‑2‑6.血清成分の免疫吸着
活性成分を含む画分をプールし、抗ウサギ抗体カラムで精製した抗牛血清ア ルブミンウサギ抗体及び抗牛血清ウサギ抗体を固相化したSepharose‑CL4Bカ ラム(2.5xlOcm)に加えカラム通過液を全て回収した。得られたカラム通過液 に含まれるTAMの活性は、画分から501ルlを採取し、1%のFCSを含む RPMI1640培地で20倍に希釈し、FCSを含まないRPMI1640培地に一晩透析し た後に0.451凡mのメンブレンフィルターで無菌浦過したものをサンプルとし て、胸腺細胞アッセイによって測定した。
35