『学習院大学 経済論集』第
42
巻 第 1号( 2 0 0 5
年4月)GAI T反ダンピング規定前史 : 1 9 0 3 年から 1 9 3 8 年まで
柴 山 千里*
1 .はじめに
今 日,世界各国の関税 ・非関税障壁が引 き下げられ,自由貿易が進展 している中で,反 ダン ピング法は一部の国々の保護貿易措置 として濫用傾向にあることが問題 となっている
10現在の世界の反 ダンピング法の法源は ,wTO 協定の うち GATT1 994 の中に組み込 まれてい る GATT 第 6 条の反 ダンピング規定 と反 ダンピング協定である 。GAT T第 6 条の反 ダンピング 規定は,正常価格 ( nom alval ue) より低い価格で他国に導入するようなダンピングは,輸入 国である締約国に確立 された産業 に対 して実質的な損害 を与えた り,与える恐れがあった り, 国内産業の確立 を実質的に遅延 させるときには,非難 されるべ きもの とされるとある。正常価 額は, 輸出国において消費に向けられる同種の産品の通常の商取引における比較可能な価格か, それがない時には,第三国に輸出される同種の産品の通常の商取引における比較可能な最高価 樵, もしくは原産国におけるその産品の生産費に販売経費 と利潤 を加えた もの とされる。正常 価額か ら輸出価格 を引いたものはダンピング ・マージンと呼ばれ,それが正であるときには, 輸入国はダンピング ・マージン以下をその産品に課税することがで きると規定 されている。
反 ダンピング規定は,自由,無差別,互恵を原則 とする GAT Tの条文の中で も特殊な位置 を 占めている。ダンピングを条件 とした課税 を輸入国に許す ことは自由原則の例外であ り,ダン ピングをした企業か らの輸入に対 してのみ課税するのは無差別原則の例外であ り,輸入国が一 方的に課税 をすることに対 して輸出国側か ら何 らかの措置 を取 ることを条文内で規定 していな いのは互恵原則の例外である。 このような規定がなぜ GA Trの中に組み込 まれているのだろう
か?
その理由は,他国の産業に損害 を与えるようなダンピングが責め られるべ きものと示 されて いるように,このようなダンピングは望 ましくない経済行為 と考えられているということであ る。このため,反 ダンピング税は,輸入国国内産業 を保護する目的のみにとどまらない。反 ダ ンピング税 という制裁措置を違反企業に課すことで,ダンピングを行 うことが費用のかかる行 為であることを知 らしめ,その発生 を抑 えることが企図されるのである。罰則であるなら,セ ーフガー ドのように貿易相手国に互恵 もしくは相互主義的な規定 を設ける配慮 は不必要である し,違反行為者だけを罰するのであれば,国同士の無差別原則である最恵国待遇には抵触 しな
* 小 樽商科大学 商学部経 済学科
〒0 47‑ 8 501
小 樽市緑31 5‑ 21 e ‑ ma il : c h i s a t o@r e s . o t a
ru ‑uc. a c. j pp
1 Ni e l s[ 2000]
に よる と,伝 統 的 に アメ リカ, カナ ダ,E
U, オース トラ リアが最 も反 ダ ンピング防止 法 を行 使 して い る国で あ るが,1 9 9 0
年代 半 ば以 降 は, メキ シ コ, アルゼ ンチ ン, ブ ラジル,南 ア フ リカが頻繁 に 行使 してい る。3
い。
それで は, なぜ ダンピングは制裁 を受 けるべ き望 ま しくない経済行為 なのだろ うか ? 経済 理論 の観点か らは, ダ ンピングは合理 的 な経済行為 として説 明 され うる。問題 は, ダンピング を成立 させ る条件 が,ある観 点か ら 「 望 ま しくない」 と判 断 され るこ とである。その ような観 点 は,社会の趨勢 に よって醸成 され,法律 と して規定 され る。歴史的観点 か ら反 ダンピングを 分析 す る視点が必 要 なのであ る。
歴 史 的観 点 か らGATTの反 ダ ン ピ ング規 定 の成 立 を分析 した のが Ba r c e1 6[ 1 991 ] で あ るo B
arc e 1 6[ 1 991 ] に よる と,1 946 年 か ら1 9 47 年 にか けての GAT Tに対 す る公式 コ ンフ ァレンスで 提 案 され合意 に達 していた反 ダ ンピング条項 は,米 国の 1 921 年緊急 関税法 ( Eme r ge nc yAc tof
1 921 ) に酷似 していた。 しか し, もともと米 国の 1 921 年 緊急 関税 法 は,不公正貿易行為 す な わち略奪 的 ダ ンピング
2と戦 うため に作 られた ものであ るに もかかわ らず,議 会 にお ける議論 の末 ,実 質上非略奪 的意 図の ダ ンピング も範 噂 に入 る もの となってい た。Ba r c e 1 6[ 1 991 ] は,
「 望 ま しくない」行為 は略奪 的 ダンピングだけであ るに もかか わ らず ,反 ダ ンピング法が条文 と整合的で な くなって しまったため に,全 ての ダンピングが適用対 象 になって しまった こ とを 問題視 してい る。
J a c ks onl 1 96 9] や Ba r c e 1 6[ 1 991 ] によれば,当時の GAT Tコンフ ァレンスでの関心 は,反 ダン ピング規定 の濫用 を抑止す ることであ った。 このため適用 ルール を厳格 かつ明確化す る ことに 議論が集 中 した 3 0 これは,GAT T設立 当時の人 々の間では,Ba r c e 1 6[ 1 991 ] が指摘す る ような 反 ダ ンピング規定 の条文が は らむ欠陥 を見抜 けなか った ことを意味 してい るのだろ うか ?
確 か に, グローバ ル化 が進展 し,反 ダ ンピング法 と競争法 の整合性 が議論 され る ようになっ た今 日に圭 一 り,GAT T第 6 条 の含 んでいた問題 は鮮 明 になった とい うこ とがで きよう。 しか し, 成立 当時の時代 的文脈 の 中で は どうか ? 当時の議論 の流 れか ら見 て, 国際貿易 ルールの 中に ア メ リカの 1 921 年 緊急 関税法 タイプの反 ダ ンピング法 を組 み込 む こ とに関 して は,国際 的 に 認知 されていた こ とが明 らかであ る。 なぜ この ような反 ダ ンピング規定が,GAT Tの 中にす ん な り組 み込 まれたのか とい う疑 問 に解答 を得 るため には,GAT T成立以前 の ダ ンピングに対 す る考 え方,反 ダンピング法の制定 な どに関 して検討す るこ とが必 要であ ろ う。
ダ ンピングは,20 世紀 に入 り貿易 政策論議 の 中で認 知 され た概念 であ り,反 ダ ンピング法 法制化 に当た って定義 され る とともに,国際的 にダ ンピングに対 す る政策 に関 して議論が な さ れて きた。一方,学 問の分野 において もその存在 のあ りようとダ ンピングに対 す る措置 のあ り 方が検討 されて きた。
本論文 で は, ダ ン ピングが ア カデ ミズ ム に取 り上 げ られ た 1 903 年 か らこの時期 の ダ ンピン グに関す る論議 が ほぼ完成 を見 た 1 930 年代 の議論 を追 うこ とに よ り,今 日の反 ダ ンピング法 の法源 であ るGATT第6 条 の反 ダ ンピング規 定 を背後 か ら支 えた言論状 況 を検討 す る。 また, この時期 ,今 日の匡l 際経 済学の教科書 に もあげ られ る ような典型 的 なダ ンピング ・モデルが確 立 した時期 で もあ る。 その成立過程 を も明 らか に してゆ く。
2 略奪的ダンピングとは,ある企業がダンピングによって極めて安い輸出価格で輸出先の企業を退出させ市場 を占有 した後,その市場で独占価格をつけて損失分を埋め合わせる行為を言う
。3 具体的には,ダンピングを価格ダンピングに限ること,価格差別の定義,反ダンピング税をダンピング ・マ ージンまでに限定する,ダンピングされた輸入が 「 実質的損害」を引き起こしたことを証明する規定を設け るなどである。
4
GA
TT反 ダンピング規定前史:1 9 0 3
年か ら1 9 3 8
年 まで (柴山)当時の反ダンピングの立場は,ダンピングの 「 不公正性」 よりもむしろ 「 有害性」 に注 目が 集 まっていたように見受けられる。主な主張は,本来の比較優位 にもとづ く安値輸入によるも のでない以上,断続的なダンピングによる安値輸入が もたらす国内産業の損害 と混乱が消費者 の利益 を上回るものであるというものである。
1 903 年に英国で関税改革同盟 ( Ta r if fRe f om Le a gue) によるダンピングに対する選択的関税 の導入への提言か ら,ダンピングとそれに対する政策の是非,また多様 に定義 されたダンピン グに対する反 ダンピング法の制定 とそれに関する議論 など,第二次世界大戦前 には, さまざま な試み と議論がなされて来た。本論文では,第 2 節で , 1 903 年の関税改革同盟によるダンピン グへの選択的関税の導入 に関する意見 とそれに対するアカデ ミズムの対応お よび 1 904 年のカ ナダにおける反ダンピング法の制定,第 3 節で,第一次世界大戦前後の議論 と各国反 ダンピン グ法の成立への過程 ,第 4 節 で 1927 年 ジュネーブ国際経済会議 の ダンピングを巡 る議論 と 1 930 年代のダンピングを巡 る議論の深化 と ,3 つの時期 に分けて議論 を進めてゆ く。第 5 節で は,結語が述べ られる。 この論文では,第二次世界大戦勃発前の 1 938 年 までを視野 に入れて いる。それ以降の動 きについては,稿 を改めて論 じたい。
2. ダンピングに対するアカデ ミズムの認知
2‑ 1. 関税改革 同盟 とその影響
ダンピングとい う言葉が,アカデ ミズムにおいて認知 されたのは 20 世紀 に入ってか らであ る 。Vi ne r[ 1 923] において指摘 されているように,英国の J os e phCha mbe r l a i n や Ba l f o urと関税 改革同盟による保護貿易指向の議論の中で,ダンピングはアカデ ミズムにおいて取 り上げられ た。
関税改革同盟は,穀物,小麦粉,食肉,酪農製品お よび外国の工業製品に適度の課税 をする ことを提唱 している 。Cha mbe r l a i n は , 1 903 年 1 0月 27 日の リバプールの講演 において,次のよ うに述べている。「ダンピングは,本来的な正常な費用 ( or i gi na la ndnom a lcos t ) によること なしに,外国において本国の製品の余剰 を売 りさば くことである。ダンピングが発生するのは, それを採用 した国が 自国の需要 よりも多 く生産をしたときである。 自国で余剰 を処理すること がで きない時に,その国はどこか別の場所でそれをダンピング販売する」。そ して,他の諸国 はダンピングに対 して課税 をすることにより保護することがで きるが,英国はそのシステムが ないためにダンピングが効果的に行われて しまい,英国の貿易 を荒廃 させるか も知れないと主 張 している
4。
Aga c y[ 1 903] は ,cha mbe r l a i n の意見 を支持 している。彼 は , 「 不公正貿易 」 ( unf a i rt r a di ng) は,外国人が余剰生産物 を本国や実際の製造 コス トより低い価格で英国に販売することとし, これが鉄鋼および鉄製品,繊維分野で行われていることを指摘 している。具体的には, ドイツ の鉄鋼棒 について取 り上げ,1 0 0 万 トンを トンあた り 6 ポン ドで国内販売 しているのに対 して, イングラン ドでは50 万 トンを トンあた り 4 ポン ド 1 0シリングで販売 してお り, しか もそれが 生産 コス トよりトンあた り1 0シリング低いことを指摘 している。 さらに,これが発生するの は,自然な優位 にもとづいたものではな く,価格が人為的に操作 されたことによるものである
4 Ch a mb e r l a inl 1 91
0]" T hep o l i c yr e ‑ s t a t e d .Ho wi t a f f e c ( st r a d eu n i o n i s ma n ds h i p p i n g Hp. 1 2 7 ‑ 1 2 8
参照。5
としている。そ して,そのような現象 を 「ダンピング」 と呼び,このまま続けさせて良いもの か と問いかけ,保護貿易 よ りは不公正貿易 に対 して相殺関税で対抗すれば良い と主張 してい る。
これに対 して , 1 904 年のEc ono血 cJ o uma lにおいて,Ni c hol s on [ 1 904] は,Aga c y [ 1 903] を書 評で取 り上げた。 この中で,Ni c hol s on [ 1 904] は, 自由貿易 に違反することな しに,政策を部 分修正することがで きるか も知れない というアイディアを評価 している。特に,ダンピングの 効果は重要であ り,相殺関税 によって産業保護 して も差 し支えがない としている。
また,Hobs on [ 1 904] は,国際貿易の教科書 において,第5 章 「ダンピングの謎Themys t e r y of" dumpi ng" 」でダンピング発生メカニズムについて分析 をしている。Ho bs on のダンピングの 定義は,製造価格割れ もしくは販売で きる価格 ならい くらであろうと商品を販売することであ る。そ して,彼は,まず,商人が,在庫 を処分するために原価 を切 って販売する場合があるが, 全体 として純利益 を発生 させるように行動 していることや,異なる顧客 に異なる備付 けを行 う 行為 を行 っているなどの商行為について述べている。一 次 に,製造業は,低い価格 に直面 した場 合で も,生産を継続する方が生産を停止 した り工場 を閉鎖 した りするより損失が小 さい場合に は,過剰生産を行い,ダンピングが発生 しうることを述べ,大規模生産が行われる場合 には起 こりやすい現象であると述べている。また,保護関税 と製造業の緊密な協調 は,高い価格の国 内販売 と安い価格での海外‑の輸出を行 うダンピングを大規模 に行 うことがで きる必要条件 と している。これ らの好例 として,ドイツのカルテルとアメリカの トラス トをあげている。また, カナダの鉄鋼製品の英国でのダンピングを例 にあげて,輸入関税 に加えて,輸出補助金のシス テムのある場合,ダンピングが起 こりうるとしている。 また,略奪的ダンピングの起 こりうる 可能性 も述べている。
ダンピングに対 してとるべ き態度は,禁止的 もしくは保護的輸入関税でそれを避けることが 可能ならば,その行使 は健全な自由貿易の原則 を損なうものではないと述べている 5 。ただ し,
この関税は,広 く知れ渡ることによって略奪的ダンピング防止には効果があるだろうが,偶発 的に起 こるダンピングに関 しては,課税の行使が遅いことや効果が暖味なことか ら,実質的な 効果はないであろうとしている6。
2‑ 2.当時の論調 と世界初の反ダンピング法の成立
関税改革同盟 によって問題提起 され,Aga c y [ 1 903] によって提案 されたダンピングに対する 選択的関税の導入は,当時の英国政府や議会によって最終的に採用はされなかったが,英国の アカデ ミズムにおいて,ある程度受容 されたもの と見受けられる。津村 [ 1 911 ] の分類によれ ば,Aga c y [ 1 903] に書評 をよせたNi c hol s on やHo bs on が英国の近代の自由貿易論者 に列せ られ ていることを鑑みると
7,保護貿易主義者によってのみ反 ダンピング税が支持 されたものとも 言えないようであるD
しか し,すべての自由貿易主義者がダンピングに対する保護措置に肯定的であったわけでは ない。たとえば,pi gou l 1 906] は,ダンピングにふれた節で,英国のような自由貿易市場で略 奪的ダンピングをある国の企業が行 って英国企業を排除 しても,第三国の企業が参入 して くる
5 Ho b s o n 【 1 9 0 4 1p. 1 3 9
6 Ho b s o n [ 1 9 0 4 ]p . 1 4 4
7
津村[ 1 91 1 ]p. 2 7 0
参照。GA
TT反ダンピング規定前史 :1 9 0 3
年から19 3 8
年 まで (柴山)だけなので,略奪的ダンピングをする価値がないため,保護措置 を適用するのは英国に最終的 に利があるか も知れないが,する理由は当面ない としている8。
この時期のダンピングの定義は,原価割れ販売 を指 した り単に安値販売であった り,あるい は今 日のような価格差別であった りとさまざまである。また,Aga c y に見 るように,不公正貿 易 とダンピングが結びついて指摘 されている。
この ような中で,1 904 年 にカナダで世界初の行政法 としての反 ダンピング法が成立 した。
vi ne r[ 1 923] によれば,この成立は, 自由貿易 を標梼する当時の 自由党政府が,ダンピングか らカナダの産業 を高率関税で守るべ きであるという国内製造業者か らの請願キャンペーンを鎮 めることを目的に導入された。農民などからの関税引 き下げ要求に応えることに失敗 し,一方 で製造業者か らの関税引 き上げ要求に直面 して,政府は,特別なタイプの保護である反ダンピ ング法を法制化 した。これは,ダンピングであれば,通常関税 に関税率 を上乗せするというも のであったO
法律の概要は,カナダの輸入業者への輸出もしくは実際の販売価格が同 じ産品の公正市場価 秦 ( f a i rma r ke tva lue)すなわち本国消費 に通常販売 された価格 よりも低 ければ,一般 に1 5%
を超 えない範囲でその差額 を特別関税 として課税するというものである。
当時の財務大臣Fi e l di ng の見解は,特殊で一時的なダンピング事件 に対 して,一般的で永続 的な関税障壁の引 き上げで対抗するのは非科学的であるか ら,ダンピングされた財 に対 しての み特別な関税 を課すのが適切であるというものであった。 これによって,普通関税の引 き上げ をすることな しに,関税引 き上げを執勘 に要求 していた製造業者が必要 としている特定の輸入 競合商品に保護 を与え,自由貿易 を標梼する政府の面子 も保たれたことになる 9 。
カナダの反ダンピング税は , shor t t [ 1 906] によって肯定的に評価 されている。すなわち,ダ ンピングによる例外的に安い製品が一時的で不規則であ り正常 な国内産業 を現実に破壊 した り 少な くとも深刻な損害 を与えるのであるなら,輸入国は例外的に高い財 を購入する期間が訪れ るか も知れない。結局は,輸入の方が緩やかな関税保護の もとで国内製品を購入するより高 く ついて しまうか も知れない 1 0 。 したがって,正常な貿易 に介入することな くダンピングのよう な状況に効果的に対処する反 ダンピング税のような財政手段 は, 自由貿易の国である英国にお いて も一考の価値がある
日。このように,カナダにおいて作 られた世界初の反 ダンピング法は,英国で起 こったダンピン グ‑の特別関税 という形での関税の導入を肯定する意見 と極めてよく似た形で作 られ,アカデ
ミズムにおいて肯定的に受け入れ られる論調が見受けられた。
3 .第一次世界大戦前後
3‑ 1. 国際情勢
第一次世界大戦下の 1 91 6 年6 月, ドイツその他同盟国の経済封鎖 を強化 し,戦時戦後の経済 関係 を一層密接 にす ることを目的に,パ リ連合国経済会議が開かれた。その決議前文 には,
8 Pi goul 1 906 ]p. 1 9‑ 22
参照09 Vi n e r [ 1 923]p. 1 92‑ 1 93
参照。1 0 Sho
rt tl 1 906]p. 252
参照。 ただ し,Sho
rt t
の言 う有害 なダンピングは,原価割 れ価格 であ る.ll Shor t tl 1 906]p. 258
参照。7
「 敵国の企てたる協商は全世界の生産物及市場 に暫 し其の優越的地位 を確立 し且忍 び難 き服従 を他国に強ひむとすることを其の目的 と為す ものなること明白 」 1 2 とあ り,戦時に対する措置 の第 4 条には , 「ダンピングその他一切の不公正競争 ( u n f a i rc o mp e t i t io n) に基づ く経済的侵略 に対 し,連合国の商業,工業,農業 を保護するために一定の期間を協定 し,その間,敵国の商 業 を特別の規定に服 させ」,輸入禁止等の措置 を取るべ きとしている 1 3 。
1 91 9 年,第一次大戦後の講和条約の中の経済条項 に関する方針の 「( 乙)恒久的措置に関す るもの」の 2 においては,公安,衛生,国家専売品,ダンピングその他類似する場合以外 には, 連合国側の締結国に対 してどのような輸出入の制限や禁止 をしてはならない という規定が設け
られている 1 4 。すなわち,ダンピングに関 して,何 らかの貿易制限的措置 を講 じて も良い とい うことが条約の中に盛 り込 まれた。 これを受けて , 1922 年 までに英国,米国, 日本 などが包 括的な反ダンピング法 を法制化 した り,既存の反ダンピング法 を修正 ・拡大 した。
3 ‑ 2. カル テル, トラス トと戦争
第 1節で も述べたように,20 世紀の最初の時期 において,既 に ドイツのカルテルによるダン ピングは問題視 されていた。 ドイツの カルテル とは どの ような ものであったのだろ うか。
Ma r s ha l l[ 1923] 第 3 篇第 9 章の 「トラス トとカルテル。 ドイツの経験」 において,その形成 と 構造が詳述 されている 1 5 。 ドイツは 19 世紀後半以降,産業界 において重層的なカルテルを形 成 していた。最 も強力 なのは石炭カルテルである。石炭 に対する輸入関税 は高 くなかったが,
カルテルによって国内に高価格で供給する一方で,輸出価格 を安 く設定 していた。石炭 を利用 する鉄鋼の製造業者 もカルテルを組んでいた。高輸入関税 によって保護 された鉄鋼業者は,国 内用の高い値段の石炭 を購入 していたが,やがて輸出に振 り向けられる鉄鋼の分は石炭カルテ ルから払い戻 し金 を受け取るようになった。
鉄鋼 カルテルも国内供給価格 を高 く,輸出価格 を低 く設定 していた。鉄鋼 カルテルでは,メ ンバーのシェア拡大 に対 してペナルティを課 していたが,好況期の需要拡大の際には,ペナル ティを払ってもシェア拡大 をする方にメリッ トがあったために過剰生産になることが多 く,シ ンジケー ト化への要求が高 まった。一方,銀行は,安定的に成長する鉄鋼 カルテルに対 して大 量の貸 し付けを行い,役員 を送 り込み,また銀行同士が代表者 を送 り,カルテルの調整 を促 し た。このように ドイツにおいては,継続的なダンピングが可能な条件が整 っていたのである。
さらに ,Pe s l [ 1 921 ] は,鉄鋼品の大部分に関する国際シンジケー トが欧州市場 を分割 してい たことを報告 している 。 1 91 4 年 2 月の 「 LaMe t a l l u r g ial t a l i a n a 」紙か らの記事 として,デュッ セル ドルフに事務所がある国際シンジケー トは, ドイツ,フランス,ベルギーでイタリア市場
を分割する協定を結んでいたと述べている。第一次世界大戦以前から,イタリアは ドイツの鉄 鋼製品ダンピングを受けてお り,その間題 を巡って議論がなされていた。
このような時代背景の もとに ,S c h u mp e t e r [ 1 91 9 】は,カルテルや トラス トによるダンピング から戦争 に至った道筋 を説明 している。英国以外の国では,大銀行 とカルテル ・トラス トが緊 密 に連携 していた。ダンピングは,カルテルや トラス トによる独 占が,費用最小化 を実現する
1 2
外務省【 1 9 56 ]p. 2 491 . 7 ‑ 8 参照D 1
3 外務省[ 1 9 5 6 ]p. 2 51 参照。
1 4
外務省[ 1 9 5 6 ]p. 3 0 4参照。
1 5 Ma r s h a l l[ 1 9 2 3 ]
永揮訳第3
分冊p. 1 9 6 ‑ 2 2 4 参照。
GA
TT反ダンピング規定前史:1 9 0 3
年か ら1 9 3 8
年 まで (柴山)生産量 を実現 した後,関税で保護 された国内市場 には高い価格で,残 りを国内より安い価格で 販売することによって起 こるとされている 。sc humpe t e r[ 1 91 9] は,このようなダンピングが国 際間で行われると,カルテルや トラス トを行 っている国同士の激 しいダンピング競争 を引 き起 こす と述べている。彼は,各国の独 占同士のダンピング競争が囚人のジレンマの状況であると 考えている。そ して,当時の時代状況の中では,各国はダンピングをやめるような協調がで き ないと主張する。そ して,ダンピング競争は,高価格 を強いられる国内消費者や安値の脅威 を 受けた外国の生産者か らは激 しい批判 を受ける。これに対 して,これらの産業は,外国の関税 障壁 を打破 し,ダンピング競争の悪循環から逃れ,市場 を独占的に支配するために,政治力 を 行使 して武力政策に訴えることになるというのである
16。3 ‑ 3. 第一次世界 大戦 前 の イ タ リアでの議論 1 7
pes l[ 1 921 1 は,当時ダンピング理論 を仕上げたのはイタリアの経済学者だけだとして,第一 次世界大戦前 に行われていたイタリア市場での ドイツの鉄鋼 ダンピング問題か ら,イタリアで 起 こったダンピング論争 について論 じている。取 り上げ られている学者 は ,Ca bi a t i[ 1 91 41 , Lor i a[ 1 91 4 】 ,J a nna c one【 1 91 4] などである 。Ca bi a t i[ 1 91 4 】の議論 は,次のようなものである。
規模の経済が存在する場合 に限 り,企業の利潤最大化行動 によってダンピングが発生する。 こ のダンピングは消費者 にむしろ利益 を与えるものである。ダンピング発生要件 として産業が関 税で保護 された り,カルテルが締結 されることは不要である。 これに対 して ,Lor i a[ 1 91 4] は, 各国市場間で裁定取引が行われるため,開放経済でのダンピングは不可能であるとして批判 し た。
J a nna c one[ 1 91 4] は,価格差別の観点か らより精微なダンピング理論 を形成 している。価格 差別は,1 . 購買者の分類に基づ く価格差別,2. 国内の商業地域に基づ く価格差別,3. 異なる国 への販売における価格差別 と分類 している.理論の前提 として,同一の品質,輸送 コス トがな い,取引 コス トがかか らない,販売者や購入者 に制約がないなどの条件 を羅列 している。これ により,裁定取引が行われ,価格均等化が起 こる。 しか し,販売者や購入者に制約がかかる場 令,例 えば購入者 に再販売の禁止などを課 した場合には,価格差別が起 こりうる。すなわち, 安価 に購入 した購入者は,価格の高い地域に再販売をすることが出来ないために,価格差別 を 行 うことができるか らである。
J a nna c one[ 1 91 4] は,匡l 際的な価格差別は,輸送 コス トに関わるもので,国別 というより地 域別で見る方が より現実的であるとしている。 これは,大陸欧州が陸続 きで輸送手段が国際的 であ り,言語 ・文化が各国で混在 している地域であるため,国ごとに市場が分断されていると いうより,地域 ごとで分断されているケースが散見 されるか らである。この輸送 コス トを勘案 することで , Ca bi a t i の関税障壁がない場合 にダンピングが可能であるという議論 を肯定できる。
ただし,国と国の間で価格差別が発生する原因は,政治的国境があ り,保護関税など政府 によ る貿易障壁が課 されていなければならない としている。
このように,イタリアのダンピング論争は ,pi gou[ 1 920] に先立ち,独 占における差別価格 が成立する条件 を明示 したのであった
18。1 6 Sc h u mp e t e r[ 1 91 9
】都留訳p . 1 3 4 ‑ 1 4 0.
1 7
本節 はPe s l【 1 9 21 ]
第5
章 の イ タ リア経 済学者 の ダ ンピング理論 に関す るサ ーベ イに よる。1 8 Pi g o u[ 1 9 2 0 ]
気賀他訳[ 1 9 51 日】p. 1 81
「第 17章 差別独 占」参照。9
3 ‑ 4. ダンピング理論の進展
この時期,pe s l[ 1 92 1 】 ,Vi ne r[ 1 923 】による包括 的なダンピングの著書が上梓 され,多 くの著 作 に引用 されている。以下では, ダンピングの理論 に関 しての両者の議論 と,vi ne r[ 1 923 】に 対す るYnt e ma[ 1 928 】の批判論文 を取 り上 げる。
pe s l[ 1 921 ] は,ダンピングをa . 輸 出国市場 におけるよ り安い価格で外 国市場 に販売す ること, b. 生産費以下の価格で外 国市場 に販売す ること ,C . 競争 を排 除す る 目的で生産費以下の価格で 外 国市場 に販売す ること, と定義 し,輸入 関税や奨励金 によるダンピングの例 を示 し, ダンピ
ング理論の分析 と各 国の反 ダンピング法 を紹介 している。
今 日に至 るまで多 くの論文 に示唆 を与 えているのはvi ne r の著作 である。Vi ne r[ 1 923 1は,英 語で書かれたダンピングに関す る最初の包括 的著作である。その内容 は, ダンピングの定義 と 分類が述べ られ,歴史,理論, ダンピングに対す る政策 に関 して論 じられている。
彼 は, ダンピングの定義 を各 国市場 間における価格差別 とす るのが正当であるとし,為替 ダ ンピング,運賃 ダンピングな どはその範噂 に含 まれない としている 1 9 。 また, ダンピングを動 機 と継続性 によ り分類 している。す なわち,一時的 に行 うもの として ,A. 内国市場 の滞貨 を 処分す るため ,B. 意 図 に反 して故意 で ない場合 ,短期 的 もしくは間敬 的 に行 うもの として,
C. 現在 の価格では受 け入れ られない市場で顧客 を維持す るため ,D. 新規市場で販路 を開拓す るため ,E. ダンピングされている市場で競争 を排 除す るため ,F. ダンピング市場 において競 争の進展 の機先 を制す るため ,G. ダンピングに報復 す るため,長期 的 もしくは継続 的な もの として ,H. 国内価格 を引 き下 げることな しに既存 の生産設備の フル稼働 を維持す るため , Ⅰ.
国内価格 を引 き下げることな しに生産の規模 の経済性 を得 るため ,∫. 純粋 に商業政策上の理 由 としている。
この ダンピングは,一時的理 由に基づ くものを除 き,独 占的生産者の結合 によって行 われる のが典型的である。 ダンピングは,固定費が総生産費の重要 な部分 を占める場合 に最 も利益が 上が るように見 える。内国市場 において一度独 占的支配が獲得で きる と,国内の注文が生産能 力 を満たす に至 らない場合,他市場 の注文 に対 して内国市場価格 よ りも低廉 な価格 を設定す る のが有利である。
また,欧州, 日本, カナ ダにおいては,企業の独 占的結合 を禁止す る法律が ないため, カル テル を公然 と採用 している。米国では,隠れた独 占的結合が なされている。現代 の製造工業お よび鉱業の大部分 は完全競争 と 1 00% の独 占の中間にあるため,アメ リカの輸 出においてダン ピングが盛 んに行 われているのは,暗黙の カルテルが存在 している証左 である。 また, ダンピ ングを抑制す るために,国内,匡l 際間のカルテルが形成 されることもある。
ダンピングが輸入 国の生産者 に与 える影響 に関 して,Vi ne r【 1 923 ]は人為 的 に安 く販売 され た ことによって,消費者 の一時的な利益 よ りも生産者 に対す る損害の方が大 きい としてい る。
ダンピングが永続 的 に続 くのであれば,比較優位 によって生 じた生産 コス トと違 いはないが, それが永続 的に続 くか不確実である ところが ダンピングの害悪である としている。
この点 に関 しては,vi ne rl 1 923] も引用 しているTa us s i gl 1 920 1が詳 しく述べ ているOなぜ ダ ンピングが非難 されるのか とい う回答 は,相当な期 間ダンピングが続 き,早晩やめることが確
1 9 為替ダンピングは,輸出品の価格を安くするために為替レートを故意に引き下げることを言う。
1 0
GA
TT反 ダンピング規定前史:1 9 0 3
年か ら1 9 3 8
年 まで (柴山)かであるとすれば,ダンピングされた国では資本 と労働 に対 して必然的な困難 を伴 う産業転換 が起 こり,後 にこの異常 な条件が終わったときには,再び産業転換の全ての困難を伴 って前の 資本 と労働の状態に戻 らなければならないか らである
20。また,vi n e r[ 1 923 ] の分析のなかで問題 とされた主張がある。彼 は,第 6 章 「ダンピング国 におけるダンピングの価格 に対する影響 ( Thei nf l ue nc eofdumpi ngo npr i c e si nt hed umpi ng c o u n t r y) 」 において,独 占企業 による長期的なダンピングの場合,ダンピング企業は,国内市 場で既 に利潤最大化 した価格 を設定 しているため,ダンピングにより国内価格 になんらの影響 もない と述べ た。 これに対 し,最初 に疑問を提示 したのが Gr a ha m [ 1 924] であ り ,Ynt e ma [ 1 9 28 ] は,費用条件 と需要条件が異なることで,国内価格は変化するか どうか決まると主張 し, 最終的な解決を与えた。
国内需要関数,外国需要関数,長期費用関数が与えられているとする。国内,外国 とも利潤 最大化 を目的 とした独 占企業によって需要が満たされているとする。国内生産数量 をx ,外国 への輸出数量 をy ,国内価格 を p( x) ,外国価格 を q b) とすると,独占企業は , ∂(p( x) x)/ a x=
a ( q b , ) y ) / a y ‑MC ,すなわち両市場での限界収入 と限界費用が一致するように生産数量 を汰 定する。この とき,限界費用曲線が一定の場合は,vi n e rl 1 923 ] の言 うようにダンピングを行 わない場合 と行 う場合で国内価格 に影響はないが,そうでない場合 には上がる場合 もあるし下 がる場合 もある。 自国需要曲線 と外国需要曲線 を合計 した需要曲線 にもとづ く限界収入曲線が 限界費用曲線 と交わる点 において限界費用曲線が右下が りである場合はダンピングを行わない 場合に比べて国内価格が下落 し,右上が りである場合は上昇する。
図 1 を参照 されたい。この独 占企業の直面する国内限界収入曲線 をMR‥ 合計 した国内と外 国の需要曲線か ら導 き出 された限界収入曲線 を MR
x.,とし,右下が りの限界費用 曲線はMC
図
1
価格2 0 Ta u s s i g [ 1 9 2 0 】p.
11参照。ll
のケースを検討する。 この企業が国内市場のみに供給する場合は MR ,と MC の交点か ら導 き 出される供給数量 x 'で国内供給が決定 され,価格が決め られる。 もし外 国‑ も供給するとす れば,限界収入曲線 MR
H,と MC との交点で全体の供給量 x‥+y ' ' が決定 され,国内供給量 は M Cl が MR .に当たる所 x ' 'である
。 xHは , x 'より数量が多いため,外国輸出を行わない 時 より国内価格は下落する。 も L lよりも大 きい国内需要の価格弾力性が外国需要の価格弾力 性 より小 さいなら,ダンピングが行われ, ダンピングにより国内価格 は下落することになる。
右上が りの限界費用 曲線の場合 には, ダンピングにより国内価格 は上昇することになる。
Ynt e mal 1 928] の議論 は,ダンピングが国内消費者 にメリッ トを及ぼす とい うca bi a t il 1 91 4]
の主張や,なんらの影響 もない としたvi ne r[ 1 923 1の主張に対 し,包括的な解答 を与 えること になった。
3‑ 6. 典型的 ダン ピング ・モデル とさまざまな反 ダ ン ピング税 の成立
この時期,今 日ではほとんどの国で独占禁止法が完備 されているため禁止 されているカルテ ル, トラス トや生産者の国際シンジケー トによるダンピングが頻繁 に行われていたことが見て 取れる。そ して, ドイツの トラス ト,アメリカのカルテルによるダンピングが問題視 され,そ れを中心にダンピング理論の進展 を見た。第一に,技術的規模の経済が重要なポイン トである ことがいずれの論文で も指摘 されている。これにより,独 占の形成がダンピングが起 こること の前提であるという認識がなされたと言えよう。第二に,ダンピングには国家間で裁定取引が 不可能ななんらかの条件,例 えば輸入関税や国際的な独 占による貿易制限といった事実上の市 場分断が必要であることも指摘 された。このような議論の深まりの中で,今 日のダンピング ・ モデルの典型 となったYnt e ma[ 1 928 ] の著作が成 されたと言って良いであろう。
この時期,第一次世界大戦中より国際的に ドイツのダンピングが指弾 され,反 ダンピング法 の制定 を許す風潮が出て きたことを受け,各国で反ダンピング法が作 られた。学問分野におい ても反ダンピング税 を賦課することに対 して肯定的な議論が見受けられたO反ダンピング税 を 賦課する根拠 として,輸入国産業が本来の比較優位 に基づかないダンピングによる低価格に対 処 して産業調整を行 った後,ダンピングが行われな くなったために再び産業調整 を行わなけれ ばならないという損害を回避するため というのが,Ta us s i g[ 1 920] やVi ne r[ 1 923 ] の意見である0 このような一時的に低価格戦略を用いた後に価格を引 き上げるという行為には,略奪的ダンピ ングも含まれる。 したがって,反ダンピング税 は,略奪的ダンピングを含めた輸入国に混乱 を 与えるダンピングに対する産業防衛的な税 と言 うことがで きよう。反 ダンピング税が不公正貿 易に対する関税であるか という点は,1 91 6 年のアメリカの歳入法 ( Re ve nueAc tof1 91 6)以外 には見受けられない。
しか し,銘記すべ きは,当時のダンピングの定義はまちまちであった。今 日の反ダンピング 法の基礎 になっているアメリカの 1 921 年緊急関税法は,輸出業者が同種産品を外国本国で販 売 した価格 よりアメリカで販売 した価格のほうが低いことをダンピングとしている。一方,英 国の 1 921 年産業調整法 ( sa f e gua rdi ngofl nd us t r ie sAc t )は,ダンピングを生産 コス ト未満 とと らえ,輸出国国内の卸売価格か ら輸出国の国内消費税 を控除 した残 りの95%を下回る価格で 英国で販売 されてお り,それによって英国の国内の産業が打撃を被 るかその恐れがあると認め られる場合にその輸入に対 し従価税33.1 / 3 を課す としている。 また,pe s l[ 1 921 ] によりソーシ ャル ・ダンピングが,vi ne r[ 1 923] により為替 ダンピング,運賃 ダンピングが,本来のダンピ
1 2
G
A
TT反 ダンピング規定前史 :1903年から1938年 まで (柴山)ングではないと指摘 された。この時期, さまざまなダンピングの概念が発生するとともに,そ れが問題視 されたのである。
4. 大恐慌前夜 か ら第二次世界大戦前夜 まで
4‑ 1. ジュネー ブ国際経済会議
1 927 年に開催 された国際連盟 ジュネーブ国際経済会議 にダンピングに関する2 つの報告書が 提 出 された。 ひ とつが vi ner [ 1 926]による 「ダンピングに関す る覚書 ( Memor andum on dumpi ng)
」 21, もうひとつが
Tr e nde l e nbu r g [ 1 926 】による 「 特 に為替 ダンピングに関連するダン
ピング除去の為の各国の法制に関する覚書 ( Me mor a ndum ont hel e g is l a t i onofdi f f e r e nts t a t esf or t hepr e ve nt i onofdumpi ng,wi t hs pe c i a lr e f e r e nc et oe xc ha ngedumpi ng)
」 22であるo
vi ne r [ 1 926] は,ダンピングの定義,起 こりうる前提条件,ダンピングを行 う動機,反 ダン ピング税に対する保護主義者 と自由貿易主義者の意見,あるべ き反 ダンピング法の条件,為替 ダンピング,輸出奨励金 とそれに対する措置などについて言及 し,当時のダンピングに関わる 問題 を包括的かつ簡略にまとめている。
注 目すべ き議論は,反ダンピング税に関する保護主義者 と自由貿易主義者の主張に関する読 論である。それについて以下に述べておこう。
保護貿易主義者は,安価 な製品の輸入は,少な くとも奨励 したい国内生産の商品にとって不 利 と考える。 自由貿易主義者は,輸入品の安 さは,ひとつの優位であ り,求め育成 してゆ くべ きものである。 しか し,安 さが一時的であ り変則的である場合 には,保護貿易主義者 と自由貿 易主義者は同 じ政策 を取る。保護貿易主義者は,普通輸入関税 によって外国の優位 を相殺 させ るべ きと考えるが,変則的な安 さに対 しては,変則的な安 さが優勢である時だけ普通関税 に加 えて特別セーフガー ドを課 して対抗すれば良いと考える。 自由貿易主義看は,輸入製品の安 さ が輸入国にとって有利 と考えるが,それは長期の仮定に基づいている。変則的一時的な外国財 の安 さから得 られる消費者の利益 は,類似製品の国内生産者の存立にとっての損害,すなわち 投資 された資本の深刻な損失や労働の深刻な失業 を伴 う国内産業の混乱,倒産 を上回ることは ないと考え,セーフガー ドを容認する。ただ し,永続的に行われるダンピングは,議論の範囲 には含 まれていない。
vi ne r [ 1 926] は,反 ダンピング法 において,略奪 ダンピングに対する刑事罰 も存在するが, ダンピングの危害は,略奪的意図の存在 を問わず,逆 に,略奪的意図があって もダンピングの 危害 を受けない場合 もあ りえ,また,略奪的動機の発見が困難であるという問題 も存在すると して,最 も論理的な反ダンピング法は,輸出価格 を超 える外国の国内超過価格に等 しい分だけ ダンピング製品輸入 に特定の税 を課す ことであると主張 し,アメリカの 1 921 年緊急関税法型 の反ダンピング税のあ り方 を肯定 している。
Tr ende l enbur g [ 1 926] は,当時運用 されていた反 ダンピング法 に関 して概括 している。為替 ダンピングに対 して何 らかの措置 をとっている国は,英国を含めて7 ヶ国に上ることが報告 さ れている。また,他のダンピングに対する措置では,輸出奨励金 を基礎 としたダンピングに対
21
Le a g u eo rNa t i o n sC. E. C
.P.
36
(1)2 2 Le a g u eo fNa t i o n sC. Eエ7 .
1 3
して法律 を制定 している国は8 ヶ国,一般的ダンピングに加えて奨励金 ダンピングに対する条 項 を持 っている国は, 日本,アメリカを含め4 ヶ国,ソーシャル ・ダンピングに対する条文が ある国は2 ヶ国,運賃 ダンピングに対 して条項 を持 っている国は3 ヶ国存在することが報告 さ れている。このように,当時,さまざまなダンピングが法的に定義 され,それに対する措置が 適用 されていた。
1 927 年,参加国が50 ヶ国にお よぶジュネーブ国際経済会議が開かれた。 ここでの決議内容 は,自由貿易主義 を標傍 していたが,拘束力はな く,勧告 に留 まった。その中の 「 5 . 自由貿易 お よび自国公海保護の間接手段」の 「 2 . 「ダンピング」及反 「ダンピング立法 」 」で,ダンピ
ングに言及 している。
その内容 をまとめると,次のようになる。 ダンピング問題が 自由貿易政策を採用する国にと って重要である。ダンピングは消費者にとって一時的な利益 をもたらすけれ ども,生産や商業 界に不安定な事態 を発生 させて,結果的に利益 よりも有害な影響 を及ぼす。また,一国のみな らず多数の国における有力な商会や商業上の団体が他国の類似の産業 を破壊 して,その後価格 を引 き上げるダンピングも問題である。ダンピングはそれを行 う国が高率の輸入関税 を課すこ とで容易 にな り,また輸入国において高率の防止税の制定 を招 くことは確実である。 したがっ て,ダンピングを少な くするためには,輸出国が関税率 を引 き下げなければならない。ただ し, ダンピングに対 して防御手段 をとらざるを得ない輸入国が,過度の間接的 もしくは煩わ しい手 段 に訴えることがないよう勧告する
230このように,ダンピングが輸入国にとって結果的に有害であることが国際的に認知 された。
この考え方は,sho r t tl 1 906 ] ,Ta us s i gl 1 920] ,Vi n e rl 1 923] ,Vi ne rl 1 926]を受けた流れである.
また,ダンピングの背景 には高率の輸入関税が存在することが指摘 されている一方,対抗措置 としての高率の反 ダンピング税の賦課 も問題視 されている。これは,当時,欧州諸国やアメリ カ,オース トラリア,イン ド,日本 などで関税が急激 に引 き上げられていたことが背景 として ある
24。4‑ 2.1 930 年代 の ダ ン ピングに関 す る議論
1 930 年代 は,ダンピング概念がアカデ ミズムで取 り上げ られて3 0 年 を経,また反 ダンピン グ法が各国でいっせいに作 られた時期か ら1 0年 を経て,理論形成 において一応の完成 を成 し た時期であったように見受けられる。 ここでは,
Ha ∫ be r l e r[ 1 933]とダンピングの 「 不公正性」
を赤字販売 としてその価格基準 を追求 したst e nz[ 1 935 ] , 日本 において網羅的なダンピング論 を著 した抽本 【 1 938 ] を紹介する。
Ha r be r l e r[ 1 933] は,国際貿易論の教科書の第 1 9 章 「ダンピング ・カルテル ・独 占 ・輸出プ レミアム」 において,ダンピングの定義,経済学的な理論づけ,法的な手続 きの問題,反ダン ピング税 を正当化する議論 を述べ,ダンピングに関する議論の30 年の蓄積 をそつな くまとめ ている。
彼は,国内や外国に独 占組織や準独占組織が存在 している場合,関税や関税引 き上げが及ぼ す影響について,重要な現象がダンピングであるとして,分析 を展開 している。
2 3
外務省[ 1 9 51
】p . 3 8 4 ‑ 5
参照。2 4 Le a g u eo r Na t i o n s[ 1 9 4 2 ] p . 3 7 ‑ 3 8 .
1 4
GATT反 ダンピング規定前史:1903年か ら1938年 まで (柴山)
まず,ダンピングを輸送費用の差異 も考慮 に入れて,同時期等 しい他の諸事情 ( つまり等 し い支払い条件)の もとで,同一商品の国内における販売価格 よりも低い価格でのある商品の外 国販売 とし,経済理論の立場か らは,2 市場間の価格差別の定義が良い としている。何 らの価 格差別 も存在 しない,為替 ダンピングやソーシャル ・ダンピングは純粋なダンピングではない
としている。
ダンピングの分類 は,vi ne H 1 9 23 ] を踏襲 している。ダンピングを可能 とする前提は,商品 の逆流 を防 ぐ関税障壁等が存在すること,国内市場 における自由競争が制限されていることが あげられている。
ダンピング価格の理論 に関 しては次の通 りである。需要の価格弾力性が国内におけるより外 国において大 きければ,ダンピングは発生する。内国市場の価格 に関 しては,ダンピングによ
り vi n e r【 1 9 23 ] のダンピングが国内価格 に影響 を及ぼさないという見解 と ,Yn t e ma[ 1 9 28 ] の逓 減的限界費用であれば国内価格 を引 き下げ,逓増的限界費用であれば引 き上げるという見解 を 紹介 している。ただ し,逓減費用,逓増費用,不変費用 と言 うとき,それは費用曲線の該当範 閲に関することで,短期的には現在の経営の最適な能力の量が達成 されるところで決 まり,長 期的には経営の拡張 には限界があるか ら,逓減費用 はやがて逓増 しなければならない。 また、
製造原価以下での外国販売は,外国市場 において需要曲線がほとんど水平であれば,限界収入 曲線 と需要曲線の距離が小 さくな り,価格は限界費用 に接近するため,限界費用が逓減 してい るときには,価格は平均費用 より安 くなることか ら発生する。
ダンピングの国民経済的判断に関 して,注 目すべ き議論は,輸入国にとっての議論である。
輸入国にとって,輸入品が永続的に安価であるなら,ダンピングは有害ではない。ダンピング は,それが断続的に行われ,コス トのかかる高額な生産転換が行われたあと,ダンピングが中 止 し,その生産転換が再び後退 させ られなければならない場合には有害である。潜在的産業の 存立基盤が失われるという危険があるため,一時的なダンピングは競争的国内産業が全 く存在 しない場合 も有害である。これは,sho r t t[ 1 9 0 6 ] ,Ta us s i g[ 1 92 0 ] ,Vi ne r[ 1 9 2 3 ] ,Vi ne r[ 1 9 26 ] , ジュネーブ国際経済会議決議 を引 き継いだ見解 となっている。
一方,ダンピングの不公正性 に着 目したのが,st e nz[ 1 93 5 ] である。『 経営問題 としてのダン ピング ! ( Du mpi nga lsBe t r ie bs p r o b l e m! ) 』第 4 章 「ダンピングの不公正性」の議論 をみてみよ う 。st e nz[ 1 93 5] は,不公正性の概念 は,ダンピングの本質的かつ決定的な特性であるか ら, 廉価な海外販売 とダンピングを厳密に区別 しなければならないと主張する。 しか し,ほとんど 全ての反 ダンピング立法や若干の論者は不公正性の契機 を廉売の意図や目的に兄いだ している が,それは極めて多様で企業 ごとに異な り,証明するのは困難であるという理由で受け入れら れない としている。そ して,ダンピングの不公正性の決定的特徴 は , 「 赤字価格での販売」 ま たは 「 実質的な赤字価格での廉価販売」であるとしている。赤字輸出は,外部か らの輸出奨励 措置によって,人為的に行われるがゆえに不公正だと言 うのである。
この観点か ら,st e n z[ 1 93 5] は,価格下限すなわちそれ以下では赤字 となる価格の算定の仕 方 を厳密に検討 している。それは,その価格下で操業 をした損失が操業停止 によって生ずる損 失 と等 しい価格である。具体的には,総費用か ら一時的な操業停止 をして再開するまでの費用 を控除 した差額 を生産量 によって割った値 としている。価格がこの値未満であれば,操業 を停 止 した方が利があるため, もしその価格未満で販売 しているとすれば,何 らかの奨励金 を受け ている証左 となる。
1 5
日本 においては,油本 [ 1 938] が,内外 の文献 を渉猟 し検討 した包括 的なダンピング論 を著 した。抽本 は,当時の ダンピングの概念が現実 において も立法上 も拡張 して用い られ,その科 学的解明が困難 になっているとしている。 ダンピングが反 ダンピング法の対象 になるのは,商 品を異常 に廉価で販売することによって,輸入国の産業 に損害 を与 えることだが,その概念規 定は客観性 を持たせ るべ きであ り, ダンピングの判断基準 になる価格 を何 に求めるのが正 しい かを規定するのが重要だ としている。それは,輸出国の市場価格か生産費以外 にはない として いる。彼 は,生産費 を基準 に したダンピングの妥当な下限価格 として,St e nz[ 1 935]を紹介 し ているが,輸出価格 を事実上決定する因子 は,世界市場価格 と国内独 占価格であるとして,最 終的に生産費説 に対 しては批判的である。 また,為替 ダンピング, ソーシャル ・ダンピング, 社会主義的 またはロシア ・ダンピングは本来のダンピングと切 り離 して 「 贋のダンピング」 と 述べている。
4‑ 3. ダ ン ピングの定 義 の統 一 と反 ダ ン ピング法 の是 認
この時期,商品ダンピング以外 に為替 ダンピング, ソーシャル ・ダンピング,運賃 ダンピン グなどについての反 ダンピング法が成立する中, ダンピング認定の客観的妥当性 を求めるアカ デ ミズムでの動 きがあった。 ダンピングは 「 国内価格 よ りも低 い価格での輸出」 もしくは 「 生 産費 を下回る価格での販売」の定義 に収赦 し,それ以外 の為替 ダンピングやソーシャル ・ダン ピングな どに対 して否定 的な見解が見 られた。 また,差別価格 によるダンピングの説明 は, Ynt e mal 1 928 ] を受けた形でHa rbe r l e rl 1 933]によって示 され,典型的なダンピングのモデルが 確立 し,今 日において も用い られているOた とえば,m gma n& obs t f e l dl 2000 】の国際経済学 の教科書 も同様 のアプローチを用いている
25。このようなダンピングが発生する条件 は,裁定取引 を不可能 にす る貿易障壁 による内外市場 の分断 と独 占の存在である。 このため,ダンピングを発生 させ ないために,ジュネーブ国際会 議の決議やHa r be r l e r[ 1 933] は,輸出国の関税引 き下げを訴 えた。
また,原価割れダンピングに関する議論 もなされた。ひとつは,Ha r b e r l e r【 1 933] によるもの で,輸出先の需要関数が極端 に弾力的である場合 に成立する価格が平均費用未満である可能性 である。 もうひとつは,私的,公的問わず輸出補助金が与えられている場合,原価割れが可能 になるとい うst e nz【 1 93 5] の指摘である。
一方で,反 ダンピング法 を是認する議論がなされた.すなわち,断続的なダンピングによる 廉売 は,通常の比較優位 に基づ く安価 な製品の輸入 とは異なるため,課税 によって輸入国の生 産や産業 に与 える悪い影響 を減殺 させ るべ きだ とい う主張である。 この主張は,sh o r t tl 1 906 ] , Ta us s i g[ 1 920] ,Vi ne r[ 1 923 1 ,Vi ne r[ 1 926 ] ,ジュネーブ国際経済会議決議 とい う形で引 き継が れて きた考 え方である。 この議論の流れでは, ダンピングを 「 不公正」 と見 るより 「 有害」 と 見 る視点が強い。他方,st e nz[ 1 935 1の ように,ダンピングの 「 不公正」性の根拠 を兄いだそ
うとするアプローチ も見 られた。
25 Kr ugm
an&Ob s t f e l d 【 2 000]p. 1 42‑ 1
44参照。1 6
GATT反 ダンピング規定前史:1903年か ら1938年 まで (柴山)
5 .結語
1 903 年 にダンピングが アカデ ミズムで認知 され,反 ダ ンピング税 の導入が提 唱 されてか ら 約 30 年 あ ま りで,今 日において典型 的であ るダンピング ・モデル と反 ダンピング税 を是認す る根拠 となる議論が確立 した。
今 日において典型的であるダンピング ・モデルは,高率 の関税や国際 シンジケー トによる市 場分 断な どの貿易制 限措置 によって裁定取引が不可能であ り,国内ではカルテルや トラス ト,
シンジケー トな どによって独 占が生み出 されている当時の状況が時代背景 として存在 している もとで作 られた。 また,理論 的には,pi gou【 1 920 】や Robi ns on[ 1 933 ] らによる不完全競争の理 論が上梓 された時期 とも重 なっていることは銘記すべ きだろ う。
ダンピングが望 ま しい状況であるかについては,輸 出国の立場 と輸入 国の立場か ら論ぜ られ た。
輸 出国の立場では, ダンピングす る企業の本国市場 に与 える影響 は,企業の限界費用 に依存 す ることがYnt e mal 1 928] によって初めて総体 的に明 らか にされ,その後,He r be r l e rl 1 933 ] や Ro bi ns on[ 1 933 ] によって踏襲 される。す なわち,限界費用が右下が りであれば, ダンピングを 行 わない場合 と比較 して本 国市場 における価格 は下落 し, ダンピングは輸 出国消費者 にとって 利益 になる。限界費用が一定であれば,価格 も消費者 に与 える影響 も変化せず,限界費用が右 上が りであれば,価格 は上昇 し消費者 は損失 を被 る。輸 出国全体 としては, ダンピング企業の 生産量の増大 と消費者 に与 える影響 を加味 して評価 しなければな らない。限界費用が右下が り や一定の場合 は輸 出国に利益 があるか も知れないが,右上が りの場合 はいちがいには言 えない ことになる。
輸入 国の立場 で は,shor t[ 1 906]によって最初 に主張 された見解が,Ta us s i g[ 1 920 ] ,Vi ne r [ 1 923] ,Vi ne r[ 1 926] , ジュネーブ国際経済会議決議, Ha r be r l e r[ 1 933]と引 き継がれた。その 内容 は, ダンピングが断続 的に行 われ,輸入国においてコス トのかかる高額 な生産転換が行 わ れたあ と, ダンピングが 中止 し,その生産転換が再 び後退 させ られなければな らない場合 には 有害であるとい うものである。また,潜在 的産業の存立基盤が失 われる とい う危険があるため, 輸入国に国内産業が全 く存在 しない場合 も有害であることも指摘 された。
ダンピングが アカデ ミズムに認知 された当初お よび第一次世界大戦 中は, ダンピングは 「 不 公正性」 と併せ て指弾 されたが,1 930 年代 まで に至 る論調 の中で は, ダンピングが略奪 的で あるか否か にかかわ らず , 「 有害性」が強調 され るようになった。そ して, この ようなダンピ ングに対す る対処法 として,1 927 年 の国際連盟 ジュネーブ匡l 際経済会議 に対す るVi ne r[ 1 926]
の報告書 においては,アメ リカの 1 921 年緊急 関税法型の反 ダンピング税 のあ り方が肯定 され、
その考 え方が引 き継がれていったのである。
1 947 年の GAT T第 6 条の反 ダシビング規定 は, この ような第二次世界大戦前 の言論状況 を受 け継いだため,問題 な く受 け入れ られた ように見受 け られる。そ して,当時本来の ダンピング ではない として問題 とされていた,為替 ダンピング, ソーシャル ・ダンピング,運賃 ダンピン グな どは ,GAT T規定 の ダンピングの範晴 には含 まれない こととなった。一方,輸 出補助金の 存在 はダンピングを発生 させ る もの と認識 されていたため,輸出補助金 に対す る相殺 関税規定 が GAT T第 6 条 に反 ダンピング規定 とともに入 ってい るの も当時の論調 か ら自然 な ものであっ
1 7
た と言 うこ とが で きよ う。
参考文献 邦 文文献
外務省 監修 [ 1 95 6] 『 通商確 約 と通商政策 の愛遷j l世界経 済調査曾 津村秀松 [ 1 91 】 ] 『 商業 政策 上巻』誓 文館
池本豊吉 [ 1 938 ] 『ダ ンピング論 』南 郊社 欧文文献
Aga c y, He nyA.[ 1 90 3] Fr e et r ade , pr ot e c t i on ,du mpi n g,b ou nt i e sandpr e f e r e nt i alt ar l H s , Long ma n S , Gr e e n,a ndCo.
B
arc e 1 6 I H,J o l m J .[ 1 991 ]" A h i s t o r yofGATTun f a i rt r a der e me dyl a w?c onf us i onofpur pos e s H , Wor L dEc onomy1 4' . 311 ‑ 333.
Bl oni ge n,Br uc e A ・ , Tho ma sJ ・Pr us al 2003 ]" An t i d umpi ng" ,E・Kwa nChoi ,J a me sHa m iga n( e d s ) Handbooko fl nt e mat i onalTr ade , Bl a c kwe l lpubl i s hi ng.
Ca bi a t i , At t i l i o[ 1 91 4]H Pr imel i ne epe runat e o r iade l" d umpi ng M " , Rl f om2 aSoc i al e , No. 20 1 A Cha mbe r l a i n,J os e phl 1 91 0 】I mpe r i aluni or landt ar l H r e f or mMr .Chamber l ai n' Ss pe e c he s1 903
5 e c onde di t i on , A le xa nd e rMo r n l ngLt d.
Gr a ha m,Fr a nk[ 1 92 4] ," Re vi e w ofVi ne r ,dumpi ng:apr obl e m i ni nt e ma t i ona lt r a de"Ame r i c a n Ec onomi c sRe vi e w 1 4: 321 ‑ 32 4.
Ha be r l e r ,Go t t f r ie d[ 1 933 ] De rI nt e mat i onal eHande l( 松 井清 ・岡倉伯 士訳 [ 1 93 7] 『 ハ ‑バ ラ‑
国際貿易論 』有斐 閣)
Ho bs on, J oh n A.[ 1 90 4] I nt e mat i o nalt r ade :ana ppl i c at i ono fe c o no mi ct he o r y, Me t hue n &Co.
J a c ks on, J o hnH.[ 1 969] Wor l dt r adeandt hel awo fGA T
T,n eMi c heCompa ny.
J a n na c one , Pa s c a l e , " l lDumpi ng"el adi s c r im ina z i onede lpr e z z i " Re f oT 7 n aSoc i al e , No. 2 75.
Kr ugma n,Pa ul R・ 皮 Ma ur i c eObs t f e l dt 2000] I nt e r nat i onale c onomi c s lt he or yandpol i c yfl f t h e di t i on, Addi s on‑ we s l e y.
Le a gueofNa t i onsl 1 9 42] Co mme r c i alpol i c yi nt hei nt e T WarPe r i odII nt e mat i onalpr o pos al sand nat i on al pol i c i e s , Le a g ueofNa t i ons .
Lo r ia , Ac h i l l el 1 91 4]H Sulde pr e z z a m e nt ode l l ee s po r t a z i o n i M , R l f oT maSoc i al e , No・ 22 7.
Ma r s ha l 1 , A lf re dl 1 923 ] I ndu s t r yandTr ade( 永 揮越 郎訳 [ 1 98 6] 『 産業 と商業』岩波 ブ ックセ ン ター信 山社) .
Ni c hol s on,J ・S ・ [ 1 904]… Fr e et r a d e,pr ot e c t ion,d umpi ng,bo unt i e s ,a ndpr e f e r e nt ia lt a r if fs .ByHe n r y A. Aga c y" Ec ono mi cJ oumal1 4: 61 ‑ 63.
Ni e l s ,Gunna rl 2000]" Wha ti sa nt i dumpi ngpol i c yr e a ll ya bout ? " ,Jour nalo fEc onomi cSur v e ys Vol . 1 4: 46 71 492.
Pe s l , Vo nLudwi gD a n [ 1 921 ] DasDu mpi n gIPr e i s u nt e r bi e t u nge ni mWe l t hande l ,Sc hwe i t z e r . Pi go u , A. C.[ 1 906] Pr ot e c t i v eandpr e f e r e nt i ali mpor tdu t i e s , Ma c m il l a n a ndc o " Lt d.
pi gou , A. C.[ 1 920 】Thee c ono mi c so fwe l f ar e( 気 賀健 三 ・千種 義 人 .鈴木諒 一 ・福 岡正夫 ・大熊 一郎訳 [ 1 951 ] 『 厚 生経 済学』東洋経 済新 報社) .
1 8
GATT反 ダンピング規定前史:1903年から1938年 まで (柴山)
Robi ns on,J oa nVi ol e t[ 1 933]Thet he or yo fi m pe qe c tc ompe t i t i on( 加藤泰男訳 [ 1 956] 『 不完全競 争の経済学』文雅堂銀行研究社) .
Shor t t ,Ada m l 1 9 0 6 ]" Thea nt i ‑ dumpi n gf ea t u r eoft heCa na di a nt a r i f f " ,Qua r t e r l y Jou r nalo f
Ec onomi c s ,Vol . 20 :2501 258.
St e nz , W. J .[ 1 93 5]Du mpi ngal sBe t r i e bs pr oml e m! , Ve r l a gKona ra dTr il i t s c h.
sc hump et e r ,J os e phA.[ 1 91 9]ZurSoz i ol ogi ede rI mpe r i al i s me n( 都留真人訳 [ 1 956] 『 帝 国主義 と 社会階級』岩波書店) .
Ta us s i g , F・ W.[ 1 920】Fr e et r ade ,t het ar l Handr e c i pr oc i t y , TheMa c m il l a n c ompa ny.
Vi ne r , J a c obl 1 923]Du mpi n glaPr obl e mi ni nt e mat i onalt r ade , TheUn i ve r s i t yofChi c a goPr e s s . Ynt e ma ,The odor e , 0 .[ 1 9 2 8 ] " Thei nf lue nc eo fdumpi ng o n mono pol ypr ic e " ,J ouT . nalo fPol i t i c al
Ec o no my 36: 68 61 698.
19