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エ ウユンキー語 オルグヤ方言 に つ いての覚 え書 き

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17 5

エ ウユンキー語 オルグヤ方言 に つ いての覚 え書 き

曲 敏

1

. は じめ に

エ ウェンキー語 はツングー ス語 の一 つで,エニセイ川以東 の シベ リア に薄 く広 く分布 してい る

.

ロシアで のエ ウェンキー族 の人 口は 3 万人 ( 1 989 年), その うちエ ウェンキー語 を母語 とす る者 は 30. 40 % ( 9, 1 20 人) に過 ぎない。

い っぽ う中国 には郡倫春 ( オ ロチ ョン)族 ( 1 99 0 年 6, 9 65 人 ),郡温克 ( エ ウェ ンク)族 ( 26, 31 5 人 )が いて, その一部 は郡倫春語,郡温克語 と呼 ばれ るエ ウェンキー語 の方言 を話 してい る。話 し手 の数 は郡倫春語 が 2, 240 人 ,郡温 克語 は全体 で 1 7, 00 0 人 と見積 もられてい るが ( Hue ta

l.

1 988) ,後者 の大 半 は実際 には ソロ ン語 とい う別 の ツ ングース語 に分類 され るべ き もので あ る。 中国でい う郡温克語 の うち,本来 のエ ウェンキー語 の方言 と見 なせ るの は, いわ ゆるハ ムニガ ン方言 ( 朝克 1 995 で は 「 邪温克語 メルゲル方言 」) と オル グヤ方言で あ る。それ ぞれの話 し手数 は,ハ ムニガ ン方言が 2, 060 人 ( 戟 克 1 995:4) ない し 1, 00 0 人以下 ( Janhune n 1 990:1 4) ,オルグヤ方言 で は 3 2 4 人 ( 朝克 1 99 5:4 ,オル グヤ以外 での話 し手 も含 む) に過 ぎない。

この両 方言 について は, これ までの ところ,限 られた記述 しかないのが実

状 で あ る( ハムニガ ン方言 の記述 として Ja nhune n 1 991 ,両方言 を含 む郡温

克語語桑 として朝克 1 9 95) 。 筆者 は以前 にハ イ ラルでの この両方言 の語桑調

査 に基づ き,報告 を書 いたが ( Ts umagar i 1 99 2) ,今 回 ( 19 96 年 7‑8 月)

きわ めて短期 間で はあるが,オル グヤ ( 正式 には根河市敦 魯古雅郡温克族郷)

の地 を訪 れて予備 的‑ な調査 を行 う機会が あったので, そ こで得 られた資料 の

一部 を以下 に紹介 したい1 ) 0

(2)

2

. オル グヤ ・エ ウ ェ ンキ ー研 究小 史 と現況

中国で は最近 まで,大興安嶺北西部 で トナカイ飼育 に従事 す る郡温克 の一 派 をヤ クー ト ( 雅庫特) と呼 び慣わ して きた。 この 「ヤ クー ト語」 なる もの が本来 のチ ュ) レク系 の言語 とは異 な り,ツングース語 にはかな らない こ とは, すで に古 く服部 ( 1 9 37

;再録

1 986) が現地調査 によって確認 してい る。 こ の民族集 団 について は,その後 1 9 42 年今西錦司 を隊長 とす る北部大興安嶺探 検 隊 の報告書 に も, トナカイ ・ オ ロチ ョンの名 で登場 し( 今西 1 9 91:3 33 f f リ 357 f f . ) ,「ホロゴイヤ」とい う地名 も言及 されてい る( 同 : 29 8 ,エ ウェンキー 語 での呼称 について は Ts umagar i 1 99 2:8 4 も参照) 。1 9 65 年 オル グヤ‑ の 定住化政策 が とられ,以来 ここが集 団の拠点 となってい る

大塚 ( 1 9 88) は, 今西隊か ら四十数年 の空 白を経 て この地 を訪 問 ・調査 した民族学 的報告で あ

る。 中国か らは,定住三十周年 を記念 して出版 された孔 ( 1 9 94) がオル グヤ ・ エ ウェンキーの歴史 と現状 を統計 的数値 を交 えて報告 してい る 。

敦魯古雅郡温克民族狩猟文化博物館 の展示資料 に よる と,オル グヤ郷 の人 口は ( お そ ら く 1 99 4 年)現在 504 人 で, 内訳 は郡温克族 21 9 ,漢族 23 2 ,慕 古族 33 ,達斡爾 ( ダグール)族 7 ,滴族 9 ,俄羅斯 ( オ ロス)族 4 。主要産 業 は木材生産 ( 1 9 94 年 の総産値 1 30 万元, うち利 潤 36 万元 )と トナカイ飼育 による鹿茸 ( 強壮剤 として珍重 され る) の生産 ・加工 ( 鹿茸産量 35 0 万斤, 産値 20 万 2, 5 00 元 ;葦鞭宝酒産値 1 30 万元) であ る。

おそ ら く, この比較 的 自立 した経済 と,定住化政策 に よる集 団の維持, そ れ に伝統 に依 存 した生活様 式 の保 持 等 の条件 に よ り, この地 で のエ ウェン キー語 の保存状 況 は,絶対 数 の少 な さか ら危倶 され るほ どひ ど くはない, と い う印象 を受 けた。現 に以 下 のエ ウェンキー語 の情報 を提供 して くれた女性

1 )本稿 は平成 8 年度文部省科学研究費補助金 国際学術研 究 「 東 ア ジア に浴 ける情報伝達 と人 間移動 :南北 の比較研究」( 東京外 国語大学 ア ジア・ア フ

リカ言語文化研 究所 中嶋幹起教授代表) に よる成果 の一部 で ある。

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エ ウ ェ ンキー語 オル グヤ方 言 につ いての覚 え書 き

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は ,40 歳 前 の若 さにかかわ らず, しっか りした運 用力 を持 って いた し,歌 を 聞かせ て くれ た の は 30そ こそ この青 年 だ った2 ) 。 さ らに上 の世代 にな るほ ど, 当然 エ ウェ ンキー語 の比 重 は強 まる。特 に村 か ら数十 キ ロ離 れた 山中 に あ る トナカイ放牧 のキ ャンプ地 で は, 中高年者 の間でエ ウェンキー語 の会話 が 日常 的 にな され てい るの を耳 に した。

もち ろん上 の数字 に も見 られ る とお り, 5 百人 は どの人 口の半分以上 を漢 民族 が 占め る中で,行 政,経 済,教育 な どの公 的活動 は も とよ り, 日常生活 の大半 も中国語 で行 われてい るのが現状 で あ る。 エ ウェンキー語 の会話 は邪 温克族 同士 の私 的 なや りと りに限 られ る と言 って よい。特 に,漢族 や他 の民 族 との結婚 に よって家庭 の共通語 が 中国語 にな り, また 中国語 の社会 的優位 が歴然 としてい る中で,現 に子供 た ちが エ ウェンキー語 を習得 しな くなって い る以上, この方言 は今後急速 に衰退 が進 み,遠 か らず消減 に向か う と予測 せ ざ るを得 ない。

3 . オル グヤ 方 言 の 特 徴

オル グヤ方言 は, Vas i l e vi e( 1 95 8) に よるエ ウェンキー語 方言 の三大分類 ( 南,北 ,秦 )の うち,東群 の特徴 を示 す ( Ts umagar i 1 9 92:87) 。 その分 類 の 指 標 と され て い る単 語 の 音 韻 対 応 と文 法 特 徴 の リス ト ( Vas i l evi E 1 95 8:6 48‑ 651 ) にそって, ここで あ らた にその位置 を再確認 してお く

あわ せ て,若干 の音韻 お よび文法上 の特徴 を指摘 した い。以下 において,語 の表 記 を引用 に際 して あ らためた部分 が あ る ( 特 に長母音 は便宜上,長音符 によ

らず母 音字 を重 ねて示 した)0

2 )調査 に ご協力下 さった阿来克 ( Al ai ka) 氏 に感 謝 す る。 同氏 は 1 958 年,

奇乾 ( Qi qi an) 生 まれ。両親 とも郡温克族 で,小学校 へ入 るまで は郡温克

語 しか話 さなか った。現在,漢人 の夫 と子供 とは漢語 で話 す とい う。 また

歌 を聞 かせ て くれ た巴持 古 ( Bat e gu) 氏 に も感謝 す る

さ らに調査 と歌詞

の聞 き取 りには 自身郡温克族 で あ る朝克氏 ( 中国社会 科学 院民族研 究所 )

の助 力 を得 た こ とを記 して,謝意 を表 す る。 もちろん本稿 中の誤 りはすべ

て筆者 の責任 で あ る

(4)

3. 1 Vasi l evi eの分類指標

( 1 ) 音韻対応

Vas i l e vi とは語頭 お よび母音 間 での S の対 応 に注 目 し,両群 の下位 方言 と しての S 諸方言 ( S‑ , ‑S‑) お よび i諸方言 ( ド,一 仁),北群 ( Ⅹ‑ , ‑Ⅹ‑) , そ し て東群 ( S 一 , ‑Ⅹ‑) を分 ける重要 な指標 としてい る。 リス トされてい る単語 に つ い て, オ ル グ ヤ方 言 の形 をあ げ る と, s aa‑ 「 知 る」 ,s i i 「お ま え」 ,s e e n

「 耳 」 ;axi i 「女 」 ,e e xa 「目」で あって,東群 と一致 す る ことがわか る

母音 間 に準 じる対応 を示 す例 として, 「 雲」を表 わす語が リス トにあ り,南北両群 で は t uuks u,t uuk〜 u 等 の形 を とるが,オル グヤで は t uuxu であ り,東群 の う ちで も特 にアル ダ ン,ゼ‑ヤ方言の形 と一致す る

リス トにはさ らに東群形 で s a Ⅹi n " t a bun ( 鹿 な どの群 れ)"の語 が あるが, これ にあた る語 は得 られ な

た 。

次 に母音 間の g の対応 が あ る

これ は南群 !諸 方言 のみ ¢( ゼ ロ)また は

W

が対応 し,他で はすべて g が保 たれてい る。オル グヤで も t ogo 「 火」 , t uga 「 冬 」 で 衣) る。

語頭 の Ⅹ(<* p) について は,両群 S 諸方言 と北群, それ に多 くの東群 は こ れ を保存 してい る ( オル グヤ Ⅹal gan

」, Ⅹa n! 〕 a n 「 膝 」) 。南群 ;諸 方言 と一 部 の東群 で は ¢ ‑の対応 も見 られ る。

語頭 の 1は,北群 で は一貫 して 1だが,南 と東 で は方言 に よ り, また語 に よって ,1 の場合 と n の場合が ある 。 リス トにある 1 ugur 「 夕方」はオル グヤ で は得 られなか ったが ( 「 夕方」は axe l t ana) ,l oko ‑「 掛 ける」で 1の対応 が 確認 された。

語 中子音群 の対応例 として l d/ l l ,nd/ nn が取 り上 げ られてい る

これ も各 群 の中で方言 による差 が あるが,オル グヤで は ol l o 「魚」 ,manna 「 皮」 と, 子音 同化 した形 が現 れ る 。

( 2) 文法特徴

Vas i l e vi Eの リス トには,い くつかの文法特徴 の方言差 もあが ってい る。は

じめ に 2 桁 の数詞 の構造 の例 として 「 十二 」 を どう表 わすかが,方言 に よっ

(5)

エウェンキー語オルグヤ方言 についての覚 え書 き

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てか な り異 な る こ とが示 され てい る o J y aanly uur ( 十一二 ) と単純 に並 べ る言 い方が各群 に共通 して見 られ るい っぽ うで,特 に南群 S 諸 方言 で は J y uur l y aa

( 二 一 十) ,J y uur J y aaki nJ y uur ( 二十 の方へ二 ), ] v uur J aal ak a 〜J y uur J y ax∂1 3k a( 二 一 十 一余 り)の よ うなバ ラエテ ィが見 られ る

.

最後 の J y uur J aal ∂k aは !諸 方言 に も分布 してい る

北群 と東群 には ,] y aanduk] y uur ( 十 か ら二 )が あ り, これ が オル グヤの形 で もあ る

3)

。東群 で この形 が現 れ るの はアル ダ ン,ウチ ュル方 言 とされ てい る ( Ci nci use ta 1

.

1 9 7 5:2 4 8 で はゼ‑ヤ方言 も)

0

次 に 1 人称 単数代名詞 の対格形 「 私 を」が, mi n aとな る方言 ( 両群 S 諸 方 冒,北群 )と m i n∂ w aとな る方言 ( 南群 ;諸 方言)とが あ る

東群 には両 方が あ るが, オル グヤで は m i n aで あ る

また 「 私 自身」を表 わす の に,再帰代 名 詞 の人称 形 ma ∂nmi iに よるか,主格代名 詞 と m∂anaka an の組 合せ に よるか ち ,mi n; ) / mi na w aと同 じような分布 をす る。オル グヤ方言 は m3 3nm iの形 を もつが, 主格代名詞 と並 べ て bi ima anmi の形 で得 られた。 「自分 で」 にあた る ma ∂n] v iも得 られた : bi imaa nj y igan∂

]

y i g∂ W. 「 私 は自分 で行 く」。

「 二人 の人」 と言 う ときに数 詞 の あ との名 詞が複 数 接 尾辞 ‑ 1 を とる方言 と とらない方言 が各群 に見 られ るが,東群 で は一般 に とらない とされ てい る。

オル グヤで も J y uurba j aで あ る

異時副動詞 「 〜 してか ら」 には, 方言 によって い ろい ろな形 が あ るが, オ ル グヤで は ‑ Ⅹa が確認 された : 己ai j aumi ‑ Xas i l uu

]

Y i ga w. 「 私 は茶 を飲 んで か ら ( 飯 を)食 べ る」O これ は Vas i l e vi eの リス トによる と東群 ゼ‑ ヤ方言 の 形 と一致 す る

リス ト最後 の項 目は,形容 詞 と名詞 の一致 ( agr e e me nt ) に関す る方言差 で あ る。 す なわ ち 「 高 い山 ( 複 )に」 の よ うな句 で,数 と格 の標識 の現 れ方 に差 が あって,完全 な一致 を示 す もの ( gugda ‑1 ‑ duuur ∂‑ 1 ‑ duu 高 い一 複 数一 与格 山一 複数 一 与格 :南 S ,北 の それ ぞれ一部 ) か ら,数 のみ一致 す る もの ( 各群

3 )ちなみ に服 部 ( 1 9 8 6:6 2 ) の調査 した 「ヤ クー ト」で は, 「 十一 」 に対 し

て [ d3 aana mkU: り ] とあ る 。

(6)

にあ る),全 く一致 を示 さない もの ( 東群 の一部)まで あ る 。 また格語尾が形 容詞 のほ うにだ け付 く方言 ( 南 S ,〜の各一部 )もあ る 。 オル グヤ方言 は一致 を全 く示 さない点で,や は り東群 の特徴 を共有 す るが, この例 で は名詞 に も 複数接尾辞 の付 かない形 ( gugdaur 3‑du) で しか得 られなか った。

( 3 ) オル グヤ方言 の位置

以上 に検討 した ところか ら, オル グヤ方言 は Vas i l evi Eの分類 に よる東群 に属 す る ことが あ らた めて確認 された。 なかで も,指標 とされた特徴 の多 く でゼ‑ヤ方言 と一致 す る ことが注意 され よう。

3. 2 母 音 音 素 e

さて池上 ( 1 9 7 6:1 6 9 ‑ 1 7 2 ) はエ ウェンキー語東部 方言 の話 し手 ( ゼ‑ヤ出 身) か らの調査資料 に基づ き, この方言で動詞語尾 の母音 が a〜 3‑ 0‑ u の交替 を示 す ものが あ る ことか ら,最後 の uは *o[ 占 ] ( 申開 き中吉 円唇母音) であった可能性 が あ り, u を含 む語尾 を とる語幹 の母 音 u ( の少 な くとも一 那) もエ ウェ ンキー祖語 にお いて は * Oで あった と推 定 して い る。 そ して エ

ウェンキー語 の中に今 もOを保 つ方言が あ りうる ことを示唆 してい る4 ) 。 い っぽ う朝克 ( 1 9 9 5:6 , 1 2 ) はオル グヤ方言 に / i ,e , a , a , 0 ,0, u , t l /の 8 つの短母音 を認 め, この Oが郡温克語 ホイ方言 (エソロン語)の O, 同メルゲル方言 ( ‑エ ウェンキー語ハ ムニガ ン方言)の uまた は ∂に対応 す る場合が あ る として,次 の ような例 をあげてい る :オル グヤ omoxo l lホイ omoeeo Hメル ゲル umugs u

」;オ ル グヤ Xont o Hホ イ ont oI EメJ L , ゲル a nt u 「 別 の」。オル グヤ方言 の この両語 は今 回の調査 で もこの形 で確認

された. その母音 はた とえば ogokt o 「 鼻」の o [ っ]とは明 らか に違 ってい る し ,umukt a 「 卵」 ,umukan 「 ‑」の u

[

U, u] とも異 な るようで ある ( な

4 )池上先生 は,筆者 らの 1 9 8 8 年オル グヤ方言調査 の録音 テープで,以下 に

あげる Ⅹont oの語 を聞かれ,その母音 が /o /に該 当 しうる ことを示唆 され

た。 同先生 の ご教示 に謝意 を表 した い。

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エ ウ ェンキー語 オル グヤ方言 につ いての覚 え書 き

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浴, これ らの uも朝克 の立 て る ような別個 の音素 /u, u/と見 るべ きか どう か はさ らに考 えね ばな らない問題 で あ る)。 この点 について はまだ調査 ・ 分析 が必 要 で あ るが, Oが音 素 としてオル グヤ方言 に存在 す る見通 しは高 い と言 える5 ) 。 なお同 じ く中国 のエ ウェ ンキー語 方言 で あ る郡倫 春語 で も Oが 区別 され てお り,o gt o 「 別 の」の語 も見 える ( 胡 1 9 8 6:1 5 , 「 氷」は t l m t l k5 t l 同 :

1 9 0 ) 0

ち なみ に omoxo,Ⅹont oの語 につ いて,エ ウェンキー語諸 方言 を含 む他 の ツ ングース諸語 の対応 をあげてお く ( Ci nc i use ta 1

.

1 9 7 7:2 6 8 ,3 4 9 ‑ 3 5 0 ):

エ ウ ェンキー umuu , umuuks u,umuuks a等 日ソロ ン omuke i 〜omut

Ei

「 氷」;エ ウ ェン キ ー Ⅹugt u , ugt u,Ⅹunt u

lI

ソ ロ ン ∂nt uu

l

lエ ウェ ン

Ⅹoo nt ∂ ,Ⅹoont o,Ⅹuunt a等

1

1ネギダル Ⅹogt

o

Hオ ロチ Ⅹont o〜Ⅹogt o

H

ウデ‑ Ⅹogt o H満州 a nE u 「 別 の」。この うち ソロ ン,エ ウ ェン,ネ ギダル 語 に は Oの存在 が知 られてお り, この語例 で もソロ ン ∂ nt uu を除 いて ( ただ し上述 ホイ方言 ont oも参 照), Oが対 応 してい る。 この ほか ウイル タ語, さ らにオルチ ャ語 に も Oが あ る とされ て い るが ( 池上 1 9 7 6:1 7 2 ) この語例 に 対応 す る語形 はない ようで\ ある。

3. 3 所有構 造

文法上 の特徴 として,名詞 お よび代名詞 の所有構造 を と りあ げてお く。 中 国の ツ ングース話語 は一般 に属格 を発達 させ て い るい っぽ う,名 詞 の所属人 称 語尾 が随意化 し,譲渡 可能接尾辞 が見 当た らない, とい う共通 特徴 が あ る

( 津 曲 1 9 9 6 ) 。 この点 で, さ らに精査 を要 す るが, オル グヤのエ ウェ ンキー 語 も例 外 で はない と言 えそ うで あ る 。

5 )ちなみ に服部 ( 1 9 8 6:6 4 ) には, [ okomnI : ] 「 乳 ( mi l k)

の語 が見 える が,つと区別 された この母 音 は ( 少 な くとも音 声 的 には ) Oを表 わす ものか

も しれ な い :

cf.

エ ウ ェン oka n "ネ ギ ダ ) I , oxon

H

ウ イ ル タ koo

「 乳」 ( 前二者 は Ci nci use ta 1

.

1 9 7 7:2 5 5 ,ウィル ク語 は池上 1 9 8 0 ) 。 た

だ し朝 克 ( 1 9 9 5:7 0 ) に よるオル グヤ方言形 t l k t l gも参照。

(8)

代名詞 の属格 の例 : mi n‑ gi i gaal a‑ W [ 私一属格 手 ‑1 単]「 私 の手」。 こ の場合人称語尾 ‑W はあるのが普通 だが,省 略 も可 との こ と 。

名詞属格 の例 : or on‑ gi iul l a 「トナカイの肉」, bi ra一 gi iol l o‑ n 「 川の魚」, bi r aol l o‑ n 「同」。名詞 に も属格 が あ るが,属格 あ るい は人称 語尾 ( ‑ n 3 人 称 単数) の どち らかのみで所有 関係 を表 わす こともで きるようで あ る

また, mi n‑ gi i ol l o( ‑ W) 「 私 の魚」の ような例 か らうかが えるように,他 の エ ウェンキー語方言 ( お よびロシア領 のツ ングー ス諸語) には見 られ る譲渡 可能性 を表 わす接 尾辞 ( 次例 で は

gi )は見 出せ ない :

cf.

エ ウェンキー 01 1 0

‑ gi ‑ W 「 私 の 魚 」 ( Suni k 1 9 47:439) ,J y i l i ‑ gi ‑ W 「 私 の ( 獣 な ど の)頭」

( Kons t ant i nova 1 96 8:7 4)

後者 は,譲渡可能性 の区別 を もつ言語 で は, J y i l i ‑ W 「 私 の ( 自分 の身体 の)頭」と対比 され るが,オル グヤ方言の場合, もっ ぱ ら自分 の身体 の頭 を意味 して mi n‑ gi idi l i ‑ W と言 うだ けで あ る 。 もし動物 ( た とえば トナカイ) の頭 で あれ ば, mi nⅧi ior on‑ midi l トn トmi は n のあ とでの 1単]「 私 の トナカイの頭 」 と言 うしかない との ことであ る 。

4

.歌テキス ト1

最後 にオル グヤ ・エ ウェンキーの歌 1 例 を紹介 してお く。通 して 1 分足 らずの短 い歌 で, 1 番 がエ ウェ ンキー語 ( オル グヤ方言), 2 番が 中国語 で歌 われ る。 内容 は両言語 ともほぼ同 じで,人民解放軍 へ の賛歌 であ るが,朝克 氏 に よる とメロデ ィ ( 楽譜参照) は伝統 的な ものだ ろ うとい う。表記 の うち 特 に母音 の長 さについては,語 としての発音 をさ らに確認 す る必要が ある こ

とを付 言す る

∂W∂pki i [ 訳] ェ ウェンキー族

gugdaur ai agdanni i nd∂umuka n 高 い山の松 の根 は一 つ

s al daadi lmi nJ l unumuka nmee wan 軍人 たちは私 と一 つの心

bi s t ar i i kanmuuni nbi dam goni m 激流河 の水 はきわ めて長 い

s al daadi laj aJ al i na j a 軍人 た ちは優 し く気 だてが いい

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エ ウェンキー語 オル グヤ方言 についての覚 え書 き

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∂wa gki i∂ t a ∂r a omgor o エ ウェンキー族 は忘れ ない

∂W∂gki ia t ∂ar aomgor oomgoro エ ウェンキー族 は忘 れ ない,忘 れ ない

高 山上 的青松 嚇根 連根 解放 軍和 口 自イ

心連心

激流河水流水嚇長文長 解 放軍 的愛民 志気 高 都温克猟民永不忘

郡温克猟民永不忘 永不忘

[訳注]

ni i nd ∂:朝 克 ( 1 995:3 7) に よ るオ ル グ ヤ 方 言 形 ni i nt a 「 根

。c f . gi i gt 3

‑ni i gt a ( Ci nci use ta l . 1 97 5:66 2)

.

s al daad i l:<ロシア語 s ol dat に複数接 尾辞 ‑ 10 m

i nJ l un・ '‑ J l un は共 同格語尾 ( Bul at ova 1 98 7:25) 0

bi s t a r i i ka n :オル グヤ を流 れ る激流 河 の ロシア名 bys t r a j a か ら 。‑ ka n は 指小辞 。

muuni n:muu 「 水」 は実際 の演唱で は moo の ように聞 こえるが,後 ろの goni m ( 第一音節 は長 く歌 われ る) との一種 の押韻 的現象か.

J y al i n:c f . J y al" um,mys l ' ,xar akt e r " ( Ci nci use ta l. 1 97 5:244)

.

∂t ∂∂ r ∂:否定動詞 ∂ ‑の意志未来 3 人称 複数形 ( Vas i l ev i6 19 5 8. '7 30) o 参 考 文 献

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エ ウ ェ ンキ ー語 オ ル グ ヤ方 言 につ い て の覚 え書 き

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