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貧困の子どもを有する学習集団への教師の指導

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Academic year: 2021

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45 人間発達学研究 第 11 号

45―46 2020 年3月

■学位論文内容要旨

貧困の子どもを有する学習集団への教師の指導

神田 篤志(2019 年度修了)

1.研究目的

 昨今,子どもの貧困は広く社会に認知され,大きな問 題となっている。そうした状況に鑑みて,政府は,2013 年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を策定し,

その翌年の 2014 年には「子供の貧困対策に関する大綱」

(以下,大綱)を定めた。その大綱において学校は,子 どもの貧困対策の「プラットフォーム」と位置付けられ ており,子どもの貧困対策において重要な役割を果たす 機関として期待されている。

 そして,実際に,学校において子どもの貧困は様々な 形で表出している。その中でも,子ども同士の関係性に 着目すると,貧困の子どもは,仲間はずれにされたり,

他の子どもに暴力的に接したりと,他の子どもとの関係 性を構築することに困難を抱えている。

 そうした現状に対して,教師には何ができるのだろう か。実践を概観すると,文化祭や運動会などの特別活動 を通じて子ども同士の関係性にアプローチしている実践 は散見されるが,授業を通じたアプローチはあまり報告 されていない。しかし,子どもの関係性づくりは授業に おいても可能だろう。授業は学校生活において最も多く の時間を占めており,その中で子ども同士の対等・平等 なつながりを体感し,学びとる重要な場だと考えられ る。したがって,本研究の目的は,貧困の子どもを有す る学級において,授業を通じて子ども同士の関係性にア プローチするための教師の指導を明らかにすることであ る。

2.研究方法

 そこで,本研究では,その点を明らかにするうえで示 唆的であると思われる,折出健二の学習集団論とアザー リング論に着目した。折出は,授業における学習に集団 で取り組む中で子ども同士の関係性が構築されていくと いう議論を展開している。また,子ども同士の関係性に 関して,アザーリングという議論に着目しながら論じて おり,その議論も,学習集団内の子ども同士の関係性の あり方を具体化するうえで重要だと考えられる。

 以上より,本研究では,以下のように論を展開した。

第 1 章では,貧困の子どもが,社会において,どのよう に不利を経験しているのかを,岩川直樹(2009)の議論 を中心に整理した。そして,それを踏まえたうえで,学 校に焦点を絞り,貧困の子どもが学校の中でどのような 不利を被っているのかを論じた。第 2 章では,そうした 学校内の貧困の子どもの実態を踏まえて,貧困の子ども を有する学級で,授業を通じて子ども同士の関係性にア プローチするための教師の指導を明らかにする際の拠り 所として,折出健二の学習集団論とアザーリング論を検 討した。その作業を通じて,貧困の子どもを有する学習 集団への教師の指導の特徴を抽出した。第 3 章では,折 出の学習集団論とアザーリング論の視点から,貧困の子 どもを有する学級で授業を展開している丹下実践と大津 実践を分析した。それによって,第 2 章で抽出した貧困 の子どもを有する学習集団への教師の指導が実践内でど のように具体化されうるかを明らかにした。

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3.結果

 上記の作業を通じて,本研究では,貧困の子どもを有 する学習集団への教師の指導について,①日頃から失敗 を肯定する雰囲気をつくる,②子どもの多様な発言を引 き出す発問,③自己責任という貧困の認識を捉えなおし,

貧困の子どもへの見方を変容させるような教材の提示,

④生活とつながり,共同して学ぶ価値のある教材の提示,

⑤親と子どもの共同学習を展開する学習集団の構想,の 5 点が明らかになった。以下,それらについて詳細に論 じていく。なお,③と④は教材に関する内容なので,統 一して論じていく。

 ①日頃から失敗を肯定する雰囲気をつくることは,自 由で多様な意見が出るような討論を可能にするために必 要である。また,そうした雰囲気は,低学力が原因で授 業に参加しづらいと感じている貧困の子どもの積極的な 発言を引き出すことにもなる。

 ②子どもの多様な発言を引き出す発問は,活発な討論 を展開させるには不可欠である。そうした討論を通じて,

子どもたちの中に相互承認的な関係が構築され,貧困の 子どもも,そうではない子どもも他者認識が変容してい く。そして,「能力的な枠組みで他者を捉えていること の捉えなおしに迫ったり,競争相手ではない他者の発見 につながる」(折出・今井 2007:252)のである。さらに,

そうした関係のなかで討論が行われれば,貧困の子ども の発言も周りの子どもたちが受け止めて,貧困の子ど もの中に「内なる支援的他者の像を形成」(折出 2003:

95)することができる。

 ③と④は教材に関する内容である。貧困の認識を問い なおすことができる教材を学ぶ中で,貧困の子どもは,

生活が苦しい原因は社会の仕組みにあると考えることが でき,貧困は自己責任だという意識を捉えなおすことが できる。他方,学級の子どもたちは,貧困の背景を知る ことで,貧困の子どもへの見方を変えていき,それが関 係性を再構築していく契機になる。また,そうした教材 を子どもたちが共同して学ぶためには,子ども全員に共 通している問題を内包する教材を提示する必要がある。

 ⑤親と子どもの共同学習を展開する学習集団の構想

は,以下の点で重要だと考えられる。1 つ目は,親の意 識が変わることである。貧困によって強いられている苦 しい生活状況を打開するためには,子どもの貧困の直接 の原因である親が貧困について学び,意識を変えていく 必要がある。さらに,学ぶ教材が貧困を問いなおす要素 を内包していれば,貧困の親もそうでない親も,子ども との共同の学びを通じて,貧困の認識を捉えなおすこと ができる。そこには,教科学習と生活のむすびつきがみ られる。そうしたプロセスを経て,子どもの学びの深化 とともに親の意識も変わっていくと考えられる。2 つ目 は,親子のコミュニケーションの契機となることである。

それは,大津実践で I 親子の関係が良くなったことから も可能だと推察される。そこで育まれた安心感が子ども 同士の関係性にも影響してくる可能性もある。3 つ目は,

親同士のつながりが生まれることである。貧困の親は社 会的に孤立しやすい傾向にあるため,授業を通じて他の 親とつながることで,孤立状態を脱する契機になると考 えられる。このような親の参加は折出の学習集団論では 想定されていないが,大津実践において,親子の学びの 深化,親子の関係性の構築,親同士のつながり,といっ た点が引き出されたことに鑑みても,本研究では,親子 の共同学習を展開する学習集団の指導の重要性が提起さ れた。

4.課題

 本研究の課題としては以下の 2 点が挙げられる。1 つ 目は,学習集団論は多くの論者が唱えている中で,折出 論に依拠したが,生活指導論と授業論についての検討は 不十分な点である。2 つ目は,親の授業参加をどのよう に実行するかである。大津実践では,親の授業参加の形 態として,討論会のような直接的な参加や「鉛筆対談」

のような間接的な参加が行われていた。そうした指導を 参考にしつつ,それぞれの学級にあった多様な親の授業 参加の形態をさらに検討する必要がある。今後は教師と して,これらの課題の解明に資することができるよう,

研究に励みつつ実践を展開していきたい。

神田 篤志

参照

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