アメリカにおける任意後見と法定後見の競合に関す る一つの判例 : ライス対フロイド事件(RICE v.
FLOYD,Ky.,76 S.W.2d 57)
著者 志村 武
雑誌名 静岡大学法政研究
巻 4
号 1
ページ 155‑167
発行年 1999‑08‑30
出版者 静岡大学人文学部
URL http://doi.org/10.14945/00008815
法 政 研究 四巻 一号
︵一 九 九 九 年
︶
翻
﹁ 訳 ア メ リ カ に お け る 任 意 後 見 と 法 定 後 見 の競 合 に 関 す る 一つ の 判 例
ラ イ ス 対 フ ロ イ ド 事 鷹 H
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本 稿 は︑ ア メリ カ に お け る任 意 後 見 と法 定 後 見 の競 合 に関 す る 一つ の先 例 であ る イラ ス 対 フ イロ 事ド 件
﹂
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︶ ソパ
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︒い0 日
︺ の全 訳 であ る︒ 現 在 ︑ 一九 九 九 年 の第 一四 五 回 通 常 国 会 に提 出 され 審 議 され て いる 日本 の新 し い成 年 後 見 法 は︑ 自 己 決 定 尊 重 と 本 人 保 護 の 必 要 性 の調 和 と いう 見 地 か ら
︑ 任 意 後 見 契 約 が登 記 さ れ て いる と き に は
﹁本 人 の利 益 たの め 特 に必 要 が あ る と 認 め る と き に限 り
﹂法 定 後 見 開 始 の審 判 等 を 家 庭 裁 判 所 は す る こと が でき ると 規定 し
︑ 原 則 と し て任 意 後 見 制 度 が 法定 後 見 度制 に優 先 す ると し て い る
︵補 充 性 の原 則︶ も の の︑ い たっ ん 法 定 後 見 制 度 が 発 動 さ れ ると 任 意
後 見 制 度 は消 滅 す ると いう 構 成 を と てっ い る
︵﹁ 任 意 後 見 契 約 に 関 す る法 律 案
﹂ 第 十 条
︶︒ さ ら に︑ 法 定 後 見 を 継 続 す る こ と が
﹁本 人 の利 益 のた め特 に必 要 であ ると 認 め ると き
﹂ に は 任 意 後 見 は発 効 せず
︵同 法 律 案 第 四条 第 一項 第 二号
︶︑
任 意 後 見 が 発 効 す る場 合 には 法 定 後 見 は 取 り消 さ な け れ ば な ら な い︑ と 規定 し て い る
︵同法 立 案 第
︲ 四条 第 二項
︶︒要 す るに
︑ 新 し い 日 本 の成 年 後 見 法 任は 意 後 見 と 法 定 後 見 は いか な る場 合 にも 併 存
・競 合
・協 働 す る こと な く
︑ いず れ か 一方 が 行 わ れ てい ると き 他は 方 は行 わな い と いう 構 成 を と てっ いる ので あ る︒ し か し︑ ァ メリ カ各 州 制の 定 法 では
︑ 自 己 決 定 の尊 重 の貫 徹 と 一五 五
訳
本人の福祉を図るために︑任意後見制度と法定後見制度の競合を 認め︑二つの制度を協働させる方向にある︵この点に簡単に触れ たものとして︑拙稿﹁アメリカにおける任意後見制度︱︱日本法 への示唆を求めて﹂ジュリスト一一四一号︵一九九八年九月一五 日︶六二頁とその註を参照
︶ ︒ この任意後見と法定後見の競合の 問題は︑日本において新しい成年後見法が制定された後も成年後 見制度における解釈論上の残された難題の一つとなるといえよう︒ この難題の解決のために︑私は︑日本法への示唆を求めて比較 法的見地から今後もアメリカ各州の制定法︑判例を研究していく 予定である︒ 本判決︱ライス対フロイド事件︱の翻訳もこの基礎的な作業 に位置づけられる︒ 本判決は︑すでに継続的委任状に基いて任意後見人が選任され ている母親フロイドの法定後見人に自分自身を選任するように求 めた娘ライスの申立てを却下した地方裁判所の判断を破棄し︑差 し戻しにしたケンタッキ州最高裁判所判決である︒ この判決は︑①統一継続的委任状法とは異なリケンタッキ州改 正法においては︑本人が無能力宣告を受けた時点で任意後見は終 了すると明文で規定されていること︑②法定後見人の権限は広汎
ァメリカにおける任意後見と法定後見の競合に関する一
一五 六 に及 び
︑ 権 限 濫 用 防 止 の見 地 か ら 法 定 後 見 人 に対 し て裁 判 所 の監 督 が 及 ぶ よう にな てっ い る等
︑ 法 定 後 見 は任 意 後 見 と は根 本 的 に 異 な る制 度 であ り︑ 継 続 的 委 任 状 は法 定 後 見 人 を 選 任 す る こと の 代 り と な るも の で なは い とこ
︑ を 理 由 と し てい る
︵な お
︑
① に つ き 拙 稿
﹁本 人 無 能 力 時 にお け る 任 意 代 理 権 存 続 に関 す る 一考 察
︵上
︶
﹂ 早 稲 田 法 学 第 七 一巻 第 二 号 一頁 以 下 2 九 九 六 年
︶ を 参 照
︶︒ し か し
︑ 四人 の裁 判 官 が こ の多 数 意 見 を 支 持 す る 一方 で︑ 二人 の裁 判 官 が
︑ 本 人 の自 己 決 定 を 可 及 的 に尊 重 す る見 地 か ら個 別 意 見 を 表 明 し てお り︑ 多 数 意 見 と 個 別 意 見 の違 い わは ず か 人一 の裁 判 官 と うい 僅 差 であ る︒ 本 判 決 任は 意 後 見 と 法 定 後 見 の競 合 と いう 日本 の新 し い成 年 後 見 制 度 の下 でも 解 釈 論 上 頻 繁 に生 じ う る重 要 な 問 題 点 に関 す るも の であ り
︑ 多 数 意 見 みの な ら ず 個 別 意 見 も 本日 法 を 考 え る う え で 示 唆 的 な 理 論 的 に み て大 変 重 要 な 考 え方 を 提 示 し て いる と 思 われ る︒ し た が てっ
︑ 本 翻 訳 は︑ 比 較 法 的 な 意 味 で資 料 とし て存 在 意 義 を 有 す る と考 え る︒ 以 上 の問 題 点 を 申 心 と す る本 判 決 のさ らな る検 討 と 分 析 は私 の今 後 研の 究 課 題 と し た い︒ な お︑ 日本 法 への 示 唆 を 得 る ため の本 判 決 の更 な る分 析 な ら び つの 判 例
法 政 研 究 四巻 一号
︵一 九 九 九 年
︶ に任 意 後 見 と 法定 後 見 の競 合 に関 す る本 判 決 以 外 の でき るだ け多 く の メア リ カ の判 決 及 び 制 定 法 の検 討 に つい ては
︑ 引 き続 き今 後 の私 の研 究 課 題 と し た い︒ 原
文 に斜 字 体 で強 調 が な され て い る部 分 は ゴ シ クッ 体 で表 記 し た︒ ま た︑ ケ タン キッ 州 改 正 法 三 八 六
︱〇 九 二 条
︵パ
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・ ω器
・08
︶ の全 訳 を 訳 註 と* し て付 し た︒ ペギ
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・ラ イ ス
︵上告 人︶ 対 メイ ム
・ビ ー
・フ ロイ ド︑ ウ イ リ ア ム
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・フ イロ ド︑ メイ ム
・ビ ー
・フ イロ ド の任 意 後 人見 ガ イ
・ド アュ ソ ン
・ジ ュ ニア
︵被 上 告 人
︶ 事 件 9Z
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∪〇 ケ タン キツ 州 最 高 裁 判 所 一九 八 九 年 月四 六 日 上 告 人 側 訴 訟 代 理人 グ レ ン イ・ ー
・ア ク リ ー
︵マ クッ イベ ヤ ー︑ マ クッ ジ ニス
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スリ ー ア ンド キ ル ク ラ ンド 法 律 事 務 所 軍位 キレ シ ング ト ン∪ チ
ャ ー ルズ
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︵コ イ︑ コイ ア ンド ジ ル バ ー 法ト 律 事 務 所
﹇在 リ チッ モ ンド
∪ 被 上 告人 側 訴 訟代 理人 ジ イェ ムズ
・デ ーィ ン
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︵リ ープ マ ン ア ンド リ ー プ マ ン法 律 事 務 所
﹇在 フラ クン フ ーオ ト∪ ガ イ
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︵ド アュ ソ ン ア ンド ド アュ ソ ン法 律 事 務 所
﹇在 ベ リ ー ア∪ ロバ ー ト
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﹇在 リ チッ モ ン
﹈ド ウ ィ ンタ ー シ イャ マー 裁 判 官 ︒
´ 本 件 上 訴 は︑ 当 該 申 立 て によ てっ 法 定 後 見人
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︶ が 求 め ら れ た す べ て の目 的 を任 意 後 見 人
︵聾ざ 日
①∵
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・F oし が 満 た し て い ると いう 理由 で地 方 裁 判所 によ てっ 却 下さ れ た︑ ケ タン ッ キ 州 改 正法 三 八 七 五卜
〇
〇条
・︵パ あ
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・ 8一 3 によ る申 立 て に 関 す るも の であ る︒ 巡 回 裁 判 所 は こ の地 方 裁 判 所 の行 為を 是 認し
︑ 控 訴 裁 判 所 も 裁 量 的 審 査 を 拒 否 し た
︒ 当 裁 判 所 は審 査を 許可 した
︒ 当 裁 判 所 に提 示 され てい る問 題 は︑ 法 定 後 見 を 求 め る申 立 て に 一五 七
よ てっ 継 続 的 委 任 状 電︵ヽ 巨 も① o■ R o﹄ ヨ一ざ oし の効 力 が 争 わ れ てい ると き に︑ 事 実 審 裁 判 所 の裁 判 官 は ケ ンタ キッ 州改 正 法 三八 七
︲五 八
〇条
︵パ
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・ 認 e に よ る 審 理 を 行 う 必 要 が あ るか ど う か と うい も の あで る︒ イメ
ム
・フ イロ ド は ペギ ー
・ラ イ ス の母 親 であ る︒ フ イロ 氏ド は精 神 的 に無 能 力 で あ る
︵日
①ニ ユ ぞ o一●
o日 づ①一
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︶ と ぃ ぅ 宣 告 を 受 け てい な いが
︑ ま たっ く 自 分 自 身 の世 話 を す る こと が でき な い︒ 障 害 が発 生 す る以 前 の 一九 八 三年 月四 二八 日 に︑ フ ロイ ド 氏 は弁 護 士 あで るガ イ
・ケ イ
・ド アュ ソ をン 自 分 の任 意 後 見 人 に 選 任 す る委 任 状 o︵り lR o﹄ 一ざ> 日
①じ を 作 成 し た︒ こ の 選 任 は︑ 契 約 締 結
︑ 不 動 産 賃 貸 借
︑ 動 産 不 動 産 を 問 わず フ イロ 氏ド の あ ら ゆ る財 産 の売 却
・譲 渡
︑ フ ロイ 氏ド 支に 払 わ れ る べき 金 銭 の 受 領
︑ あ ら ゆ る小 切 手
・不 動 産 賃 貸 借 契 約 書
・不 動 産 譲 渡 証書 の 作 成
︑ 資 産 投 資
︑ 等 を す る権 限 を ド アュ ソ はン 有 す る 定と め る包 括 的 な も の であ たっ
︒ 任 意 代 理 権 o︵o lR o﹄ 聾 ざ 日
①Ч︶ を 付 与 す る この 文 書 は︑ 代 理 権 は障 害 に よ てっ 影 響 を 受 けず
︑ こ 文の 書 に よ てっ 与 え られ る権 限 は障 害 に か か わ らず 行 使 さ れ るも のと す る︑ と 文 末 で述 べ て いる 一︒ 九 八 六 年 五 月 に フ イロ 氏ド に障 害 が 発 生 し た の で︑ ド アュ ソ ンは
︑ 今 亡は き 彼 女 の夫 の同 意 を 得 て ァ メリ カ にお け る任 意 後 見 と法 定 後 見 の競 合 関に す る 一
一五 八 フ イロ 氏ド を ベ リ ー ア病 院 へ入 院 さ せ た
︒ そ の後
︑ イラ ス氏 は︑ ケ タン キッ 州 改 正 法 三 七 八 章
︵バ
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︶ の規 定 よに てっ 自 分自 身 を 母 親 の法 定 後 見 人 に選 任 す る よ う求 め る二 つの 申 立 てを 起提 し た
︒ 最 初 の申 立 ては 却 下 さ れ
︑ そ れ 対に す る上 訴 は な さ れ な か たっ
︒ さ ら に 二番 目 の申 立 ても
︑ 母 親 が 身上 監 護
・財 産 管 理 に つい て必 要 と す る事 は 一九 八 三年 月四 二八 日 に ケ タン キッ 州 改 正 法 三 八 六
︱
〇 九 二 条
・︵パ
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* によ てっ 作成 さ れ た 委 任 状 に定 め ら れ て い る と 地 方 裁 判 所 の裁 判 官 が述 べ て︑ 却 下 さ れ た
︒ 本 件 おに け る争 い のも と にな てっ るい のは
︑ こ 地の 方裁 判 所 裁 判 官 の決 定 であ る︒ 第 一審 の訴 訟 手 続 にお い て申 立 てが な さ れ た 時
︑ フ イロ 氏ド を 検 査 す る 旨 の命 令 が出 さ れ
︑ 学際 的 な 評 価 チ ー ム の報 告 書 は︑ フ イロ 氏ド は無 能 力
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︶ でぁ り 自 分 自 身 の 世 話 を す る こと が でき な いと 決 定 し て い る︒ フ イロ 氏ド の生 存 期 間 中 わに た てっ
︑ 完全 な法 定後 見 な ら び に財 産 管 理
︵ど 目 的﹄
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■ o口 り︶ が 行 わ れ る こと が 勧 め ら れ た
︒ 学 際 的 な 評 価 チ ー ムは 法 定 後 見 代に わ る適 切 な 代 替 策
︵性 い一q 聾 いぶ じ は 何 存ら 在 し な とい 信 じ て いた
︒ フ イロ 氏ド の障 害 に つい て決 定 す る た め に審 理 が 予定 さ れ た が
︑ 陪審 が 選 任 さ れ ず
︑ 結 局
︑ 彼 女 つの 判 例