修 士 学 位 論 文
加 熱 壁 面 へ の 液 滴 衝 突 に 及 ぼ す 表 面 構 造 及 び 濡 れ 性 の 影 響
指 導 教 員 小 方 聡 准 教 授
平 成 3 1年 1月 1 0日 提 出
首都大学東京大学院
理 工 学 研 究 科 機 械 工 学 専 攻 学修番号 17883329 氏 名 中 西 諒
1 目次
1章 緒論 ··· 3
1.1. 研究背景 ··· 4
1.2. 従来研究 ··· 6
1.2.1. 固体表面上での濡れ ··· 6
1.2.2. マイクロ構造とLFP ··· 11
1.2.3. ナノ構造とLFP ··· 19
1.2.4. マイクロ・ナノ構造とLFP ··· 23
1.2.5. 微細構造の作製コスト ··· 23
1.3. 本論文の目的及び概要 ··· 26
1.4. 記号 ··· 27
参考文献 ··· 28
2章 実験装置及び方法 ··· 31
2.1. 実験装置 ··· 32
2.1.1. 撮影系 ··· 32
2.1.2. 滴下系 ··· 32
2.1.3. 加熱系 ··· 32
2.2. 供試壁 ··· 34
2.2.1. 冶具 ··· 34
2.2.2. 洗浄 ··· 34
2.2.3. 親水化処理 ··· 34
2.2.4. 接触角測定 ··· 34
2.2.5. レーザ顕微鏡による観察 ··· 35
2.2.6. 走査型電子顕微鏡による観察 ··· 35
2.3. 実験方法 ··· 47
2.3.1. 蒸発時間の測定 ··· 47
2.3.2. 衝突挙動の可視化 ··· 47
参考文献 ··· 51
3章 実験結果及び考察 ··· 52
3.1. 液滴蒸発時間とLFP ··· 53
3.1.1. ステンレス壁面/ナノ粒子塗布ステンレス壁面 ··· 53
3.1.2. メッシュ壁面 ··· 53
3.1.3. ナノ粒子塗布メッシュ壁面 ··· 53
3.2. 液滴衝突挙動 ··· 56
3.2.1. ステンレス壁面/ナノ粒子塗布ステンレス壁面 ··· 56
3.2.2. メッシュ壁面 ··· 56
3.2.3. ナノ粒子塗布メッシュ壁面 ··· 57
3.3. 考察 ··· 73
3.3.1. メッシュ壁面がLFPに及ぼす影響 ··· 73
3.3.2. ナノ粒子塗布メッシュ壁面がLFPに及ぼす影響 ··· 73
3.3.3. 作製コスト比較 ··· 74
参考文献 ··· 77
4章 結論 ··· 78
2
付録 ··· 80 謝辞 ··· 86
1
章 緒論4
1.1. 研究背景
冷媒液滴の衝突による冷却は,液滴が相変化することで効率的な冷却ができ[1],原子炉の
緊急冷却[2,3],金属の熱処理 [4,5],電子機器の冷却[1,6]で活用されている.液滴衝突による冷却
では,液滴の蒸発形態によって冷却効率が大きく異なる.Fig. 1. 1に固体温度と熱流束の関 係,及び固体温度と液滴蒸発時間の関係を示す[7].
固体温度が液体の沸点を超えると,液滴は蒸気泡を発生させながら沸騰する(核沸騰,
Nucleate boiling).徐々に温度を上昇させると,限界熱流束点(Critical Heat Flux point, CHF)に 到達し,液滴の蒸発時間は最小になる.この際,冷却効率は最大となる.更に加熱すると,
遷移沸騰(Transiton boiling)を経てライデンフロスト温度 (Leidenfrost point, LFP)に到達し,膜 沸騰(Film boiling)に遷移する.この状態では,液滴下部に蒸気膜が形成されて固液接触が絶 たれるため,液滴は瞬時に蒸発せず,冷却効率が大きく低下する.そのため,LFPは伝熱機 器の運転限界を決める重要な指標であり,より高いLFPを得る事は重要な課題である.
一般に,伝熱面の表面構造は LFP に大きく影響することが知られている[7,8].従来研究に よれば,マイクロスケールの表面構造は蒸気膜を貫通して固液接触を保ち[9,10],ナノスケー ルの表面構造は濡れ性の向上や気泡の生成によって蒸気膜の形成を阻害する[9,11]ことでLFP が上昇する.更に,マイクロ,ナノスケールの表面構造を組み合わせることで,より大きな LFP向上効果を得られることが報告されている [9,10,12].特にFarokhniaら[12]は,マイクロピ ラー構造とナノ多孔質膜を複合した伝熱面により,極めて高いLFP(>570 °C)を得た.なお,
マイクロピラー単体でのLFPは270 °C,ナノ多孔質膜単体でのLFPは290 °Cであった.
しかし,こうした表面構造の作製には高価な微細加工装置が必要である.また,ナノ多孔 質は極めて高価であり[13],実用性に乏しい.こうした背景を踏まえ,Talariら[8]は複雑な微 細加工をせずにLFP向上できる手段が必要であると主張している.安価なLFP向上手段と してワイヤメッシュを用いた例 [14]があり,LFPが130 °C向上したことが報告されている.
しかし,マイクロ・ナノ構造[12]に比べると,その向上割合は5割にも満たない.
本研究では,安価かつ容易に作製できるマイクロ・ナノ構造により,LFPを効果的に向上 させることを目的とする.更に,加熱壁面での液滴衝突挙動を観察することで,LFP向上メ カニズムを解明することを目指す.
5
Fig. 1. 1 Droplet lifetime curve and heat transfer regime at different surface temperature, adapted from Bernardin et al.[15].
6
1.2. 従来研究
LFPに影響する主な因子をTable 1. 1に示す.固体の表面性状や熱物性,液滴の衝突速度 や直径,周囲圧力が影響することが知られている[16].その中でも,表面性状(表面粗さ,濡 れ性)はLFPに大きな影響を与える.多くの先行研究がこの点に着目し,表面性状を意図的 に変更することでLFPの向上を試みた.最も単純な方法として,サンドブラスト[7,16]や多孔
体[17–19]によって表面粗さを付加した例がある.更に,近年の研究では,表面形状,濡れ性の
影響を個々に知る試みがなされている.具体的には,リソグラフィ技術を用いてピラー構造 やリブ構造もつ伝熱面を作製し,表面粗さがLFPにもたらす影響を調べた研究[9,10,20],伝熱 面に酸化チタンや酸化ケイ素をコーティングし,伝熱面の濡れ性が LFP にもたらす影響を 調べた研究[9,21]がある.
本項では,表面形状,濡れ性がLFPにもたらす影響について,従来研究の知見を概説する.
まず,固体表面の濡れについて基本的な理論を記述する.次に,マイクロ構造,ナノ構造,
マイクロ・ナノ構造がそれぞれLFP にもたらす影響を述べる.最後に,従来研究のマイク ロ/ナノ構造について,おおよその作製コストを比較する.
1.2.1. 固体表面上での濡れ
濡れ性は LFP に大きな影響を与えることが知られている[21].濡れ性を評価する一般的な 指標は接触角𝜃である.接触角は固体表面上の液滴における気相,液相,固相が成す角(Fig.
1. 2)であり,Young[22]の式(1.1)で定義される.
γSG= 𝛾SL+ 𝛾LGcos𝜃 (1.1)
なお,γSV及び𝛾SLは固体と液体の表面張力,𝛾LVは固液界面の表面張力である.一般に,𝜃 >
90°の状態を撥水性,𝜃 < 90°の状態を親水性,更に,接触角がゼロに近い状態は超親水と呼
ぶ.なお,式(1.1)は固体表面に表面粗さが無く,濡れ性が均一であることを前提にしている.
しかし,これは現実的な条件とは言えないことから,Wenzel[23]は表面粗さを考慮に入れて
Youngの式を修正した.みかけの接触角𝜃∗をFig. 1. 3のように定義すると,𝜃∗はWenzelの
式(1.2)で定義される.
cos𝜃∗= 𝑟cos𝜃E (1.2)
なお,𝑟は表面の粗さ(i.e. 見かけの表面積と実際の表面積の割合)を表し,定義により𝑟 ≥ 1 である.この式では𝜃E< 90°(親水性壁面)の場合,𝑟の増大によって𝜃∗ < 𝜃Eになる.つまり,
7
表面粗さは元来の濡れの性質を強化する性質があることが分かる.
また,Cassieら[24]は固体表面が2種類の複合壁面における𝜃∗を求める,Cassie-Baxterの式 (1.3)を導出した.
cos𝜃∗ = 𝑓1cos𝜃1+ 𝑓2cos𝜃2 (1.3)
なお,𝑓1は第1成分の面積割合,𝜃1は第1成分における接触角,𝑓2は第2成分の面積割 合,𝜃2は第2成分における接触角である.ここで,Cassie-Baxterの式をFig. 1. 3のような 親水性壁面に適用すると,𝜃∗は式(1.4)で表せる.この場合,固体表面は液相と固相をもつ 複合表面とみなせる.
cos𝜃∗= 1 − 𝜙S+ 𝜙Scos𝜃 (1.3)
ここで,固体表面の面積割合を𝜙S,表面粗さ内部に浸透した液体の面積割合を1 − 𝜙Sと する.Wenzelの式と異なり,式(1.3)では表面粗さを変更するだけでは𝜃∗= 0にならないこ とが分かる.
ここで,液膜が表面粗さ内部に浸透する条件を考える.液膜が𝑑𝑥だけ前進したと仮定す ると,単位長さ当たりのエネルギー変化は式(1.4)になる.
𝑑𝐸 = (𝑟 − 𝜙𝑆)(𝛾𝑆𝐿− 𝛾SG)𝑑𝑥 + (1 − 𝜙S)𝛾LV𝑑𝑥 (1.4) 式(1.1)と式(1.4)から,以下の不等式を満たすとき,
cos 𝜃E>1 − 𝜙S 𝑟 − 𝜙S
(1.5)
つまり,𝜃 < 𝜃c= (1 − 𝜙S)/(𝑟 − 𝜙S)のとき液膜が内部に浸透することが分かる.
8
Table 1. 1 Influential factors in LFP.
Parameter Notes
Impact velocity LFP increases with impact velocity[25–27]. Droplet size LFP increases with drop size[25,28].
Thickness of vapor layer increases with droplet size[29]. Pressure LFP increased with pressure[30–32].
Solid thermal properties
LFP increases as solid thermal capacitance decreases[25].
Vapor cool substrates during spreading of droplet, which cause LFP increase, if thermal time scale (ksρsCp,sh-2) is greater than impact time scale (D0/U0)[33].
Surface condition Surface roughness beyond that on the polished level appears to be a dominant parameter of LFP[7].
Wetting limit temperature decreases with contact angle increase[34].
LFP increases with surface porosity[17].
9
Fig. 1. 2 Balance of surface tension (Young’s model[22]).
10
Fig. 1. 3 Wenzel’s model adapted from Quéré[35].
11
1.2.2. マイクロ構造とLFP
ここ10年,規則的なマイクロ構造1を持つ伝熱面を用いて,表面粗さがLFPにもたらす影 響を明らかにする試みがなされている[9,10,20,36–38].
Kimら[9]は高さ15 μmのマイクロピラー(Fig. 1. 4)を加工した伝熱面を用いた.マイクロ
ピラーを持つ壁面ではLFPが向上し,Au基板では264°Cから274°C ,SiO2基板では290°C
から325°Cに向上した(Fig. 1. 5).また,マイクロピラーを持つ壁面では,部分的な固液接触
(Fig. 1. 6)が生じている.Kimら[9]は,ピラーが蒸気膜を貫通して固液接触が生じたものと考
え,蒸気膜の厚さ𝑒とピラーの高さと比較した.蒸気膜の厚さは式(1.6)で算出できる.
𝑒 = (𝑘Δ𝑇𝜇𝜌𝑔 ℎ𝑓𝑔𝜌𝑣𝜎2)
1/3
𝑅4/3 (1.6)
なお, 𝜎: 表面張力 [N/m],𝑘: 基板の熱伝導率 [W/mK],Δ𝑇: 過熱度 [°C],𝜇: 液相の粘 度 [Pa∙s],𝜌: 液相の密度 [kg/m3],𝜌𝑣: 気相の密度 [kg/m3],ℎ𝑓𝑔: 潜熱 [J/kg],R: 液滴半径
[m]である.式(1.6)から,蒸気膜の厚さとピラー高さは同一のオーダであったことから,Kim
ら[9]はピラーが蒸気膜を貫通して固液接触を回復させ,LFPが向上したと主張している.
Kwon ら[10]は,マイクロピラー(幅𝑎 = 10 μm)を Si 基板上に加工した伝熱面を作製し,ピ ラー間距離とLFPの影響を明らかにした.具体的には,ピラー間距離bを3.3 μ.から100 μ0に変化させた.Fig. 1. 7(A), (B)から,bが増加するにつれ,LFPが270 °Cから370 °Cに 向上したことが分かる.しかし,Young-Laplace の式[39](∆𝑃cap= 4𝛾cos𝜃/𝑏)から考えると,b が大きいほど毛管力∆𝑃capが小さくなり,それにつれてLFPが低下するはずである.
この矛盾を説明するため,Kwon ら[10]は固液界面で毛管力∆𝑃capと蒸気圧∆𝑃vapが作用する モデルを提案した(Fig. 1. 7(C)).∆𝑃vapはナビエストークス方程式を潤滑近似することで,
∆𝑃vap= 𝜇v𝑉/(𝑏2+ ℎ2)を得られる.なお,V: 蒸気の流速 [m3/s],h: ピラー高さ [m]である.
更に,液滴の蒸発に伴って生成される蒸気量とピラー間から流出する蒸気量が等しいこと か ら,V を求 める ことが でき る. 固液 接触 面積 を𝜆2 [m2]と す る と ,∆𝑃vap= (𝜇v𝑞𝜆2)/
{𝜌𝑣ℎ𝑓𝑔ℎ(𝑏2+ ℎ2)} [Pa]を得られる.この式から,b の減少につれて∆𝑃vapも増加し,∆𝑃capを 上回るとしている.
Fengら[20]も同様の実験結果を報告しており,面積割合𝑓 = 𝑎2/{𝑎2+ (𝑎 + 𝑏)2}の減少,つま りピラー間距離の減少に伴いLFPが低下した (Fig. 1. 8).Geraldiら[14]はワイヤメッシュ(Fig.
1 ここでは,数μmから数百μm程度のサイズを持つ表面構造と指す.
12
1. 9 (A))を伝熱面に設置してLFPを向上させた.
しかし,単純に表面形状を大きくするだけではLFPは向上せず,むしろ低下する場合があ る.Parkら[37]の研究では,ピラー間距離の減少,そしてピラー幅の増加につれてLFPが低 下した(Fig. 1. 10 (A)).また,Tranら[40]はピラーが高くなるにつれてLFPが低下することを 報告した(Fig. 1. 10 (B)).
最後に,Table 1. 2に従来研究で得られた知見を総括した.
13
Table 1. 2 Previous researches on the effect of micro-pillars on LFP.
Author Pillar size [μm] Notes
Height Diameter /Width
Pitch
Kim et al.[9] 15 5 500 LFP increases on surfaces with pillars.
Kwon et al.[10] 10 10 3.3–100 LFP increases with pitch.
Feng et al. [20] 5 2.5–50 2.5–50 LFP increases with 𝑓 = 𝑎2/{𝑎2+ (𝑎 + 𝑏)2}.
Geraldi et al. [14] 40–193 65–317 LFP increases with pitch.
Park et al. [37] 10 20 20–80 LFP increases with width, pitch-width ratio.
LFP decreases with width.
Tran et al. [26] 1.8–8.1 8.8–9.1 3.8–19.6 LFP decreases with height.
14
Fig. 1. 4 (a) smooth Au layer; (b) 15 μm posts on smooth Au layer; (c) 15 μm posts on smooth SiO2
layer; (d) LBL SiO2 layer. adapted from Kim et al.[19].
Fig. 1. 5 Droplet evaporation time in function of surface temperature adapted from Kim et al.[19].
Fig. 1. 6 Evaporating water droplet. (a) smooth Au layer; (b) 15 μm posts on smooth Au layer; (c) 15 μm posts on smooth SiO2 layer; (d) LBL SiO2 layer. adapted from Kim et al.[19]
15
(A) Impact dynamics on different surfaces.
(B) LFP in function of difrrent spacing b. (C) Schematic illustration of liquid interface.
Fig. 1. 7 Effect of micro-pillar on impact dynamics, LFP adapted from Kwon et al.[10].
16 (A)
(B)
Fig. 1. 8 (A) Images of the textured surface. (B) Dependence of LFP temperature on 𝑓 = 𝑎2/{𝑎2+ (𝑎 + 𝑏)2} adapted from Feng et al.[20]
17 (A)
(B)
Fig. 1. 9 (A) Wire-mesh, (B) LFP in function of s2 (relative contact area).
18 (A)
(B)
Fig. 1. 10 LFP on the surfaces (A) with different pillar width, pitch-to-width ratio, height-to-width ratio adapted from Park et al.[37]; (B) with different pillar height adapted from Tran et al.[26]
19 1.2.3. ナノ構造とLFP
マイクロ構造に加え,ナノ構造2がLFPにもたらす影響も注目されている.
Takataら[34]はSiO2ナノ粒子とTiO2ナノ粒子を伝熱面にスパッタリングし,紫外線を照射
することで伝熱面を超親水化した(光誘起反応[41]).その結果,接触角が小さくなるにつれ,
濡れ限界温度(i.e. CHF)が向上することを報告した.
Nairら[42]は,高さ3.4μmから7.5μm,平均127nmの細孔を持つカーボンナノファイバ(CNF)
を伝熱面に加工し,そのLFPを測定した(Fig. 1. 11(A)).その結果,CNFの高さが増加する につれてLFPが向上することを報告した(Fig. 1. 11(B)).
Kimら[11]はジルコニウムを陽極酸化して,ナノチューブを持つ伝熱面を作製した.ナノチ ューブは高さ 2.5μm,直径 20nm の細孔を持つ(Fig. 1. 12(A)).LFP は 300°C (平滑面)から
370°Cに向上した.これは濡れ性の向上,または毛細管現象によって固液接触が強化された
ことによると主張している.また,Kimら[11]は液滴下部が爆発して跳ね上がる挙動(爆発的 挙動)を報告している(Fig. 1. 12(B)).Kimら[11]は,伝熱面上に存在する無数の細孔がnucleation
cavity として機能し,気泡が多数生成されることで爆発的挙動が発生したと主張している.
Tong ら[43]は爆発的挙動の We 数依存性を明らかにするため,Kim ら[11]と類似した高さ
1.62μm,平均 63nmの細孔を持つTiO2ナノチューブを作製した.衝突挙動から,前述の挙
動が広いWe数で発生し(Fig. 1. 13 (A)),1st contact, 1st lift-off, 2nd contact, 2nd lift-offの4つ の段階に分類できることを報告している(Fig. 1. 13 (B)).
ナノチューブ以外の壁面でも同様の挙動が観察されている.Auliano ら[44]は,エッチング によって高アスペクト比のSiナノワイヤを作製し,LFPの上昇と爆発的挙動の発生を報告 している.
以上から,ナノ構造は濡れ性の向上,あるいは毛細管現象によって固液接触を強化ことで,
LFPを向上させる効果があると推察できる.更に,発生条件は明確でないものの,液滴が衝 突する際に爆発的挙動が生じることがある.
2 ここでは,数nmから数百nmの表面構造を指す.
20 (A)
(B)
Fig. 1. 11 (A) Carbon nanofiber (CNF) surfaces; (B) Dynamic Leidenfrost temperature on smooth silicon, CNF with 3.5μm height, CNF with 3.5μm height adapted from Nair et al.[42]
21 (A)
(B)
Fig. 1. 12 (A) SEM images of zirconium nanotubes; (B) Explosion-like dynamics on nanotube surface at 350°C.
22 (A)
(B)
Fig. 1. 13 (A)We-Ts diagram on TiO2 nanotube surface and Ti surface. (B)Lift-off distance heff in function of residence time t on TiO2 nanotube surface adapted from Tong et al.[43]
23
1.2.4. マイクロ・ナノ構造と LFP
1.2.2項及び1.2.3項から,マイクロ構造は蒸気膜を貫通して固液接触を保ちつつ,蒸気を
外部に逃がす効果がある.ナノ構造は濡れ性を変化させて固液接触を強化させる効果があ ることが分かる.更に,近年ではマイクロ構造とナノ構造を複合することで更なる LFP 向 上を達成した例がある.
Kimら[9]は,マイクロピラーにSiO2ナノ粒子(直径23 nm,膜厚600 nm)をコーティングし,
LFPを264°Cから453°Cまで向上させた.Kwonら[10]も同様の方法でLFPを400 °C以上に
向上させた.
Farokhina ら[12]はアルマイト皮膜とマイクロピラーを組み合わせた表面構造を提案した
(Fig. 1. 14(A)).この構造は,アルマイト皮膜が持つ半径80nmの細孔による強力な毛細管現
象で固液接触を保ちつつ,マイクロピラーで蒸気を外部に逃がすことを企図したものであ る.Kwonら[10]と同様のモデルを適用すると,実用的な温度では ∆𝑃cap> ∆𝑃vapとなり,膜沸 騰に遷移しない(Fig. 1. 14(B)).また,Ts=570°Cで膜沸騰に遷移しないことを実験的に示して いる(Fig. 1. 14(C)).以上から,LFP向上にはマイクロ・ナノ構造が最も効果的であると考え られる.
1.2.5. 微細構造の作製コスト
Table 1. 3に従来研究で用いられたマイクロ/ナノ構造の作製コスト,及び加工難度を示す.
マイクロ構造は標準的なリソグラフィ技術を用いて作製することができる.Lawes ら[45]に よ れ ば ,DRIE (Deep Reactive Ion Etching)で マ イ ク ロ ピ ラ ー を 作 製 す る と 単 価 は3 × 10−4 $/mm2程度であり,比較的安価である.また,Farokhniaら[12]のようにナノ多孔質膜 (300
$程度[13])を用いると,単価は2× 10−1 $/mm2程度となり,実用性に乏しい.
一方,ワイヤメッシュの単価は5 × 10−5$/mm2 程度であり,マイクロピラーより安価であ る.しかし,マイクロ・ナノ構造[9]ではLFPが190 °Cほど向上したのに対し,ワイヤメ ッシュでのLFP向上は130 °C程度に留まる.従って,安価かつ簡便に,そして効果的に LFPを向上できる手法が必要である.
24 (A)
(B) (C)
Fig. 1. 14 (A) Schimatic illustration of decoupled hierarchical structure composed of nano-pore membrane and deep micro-pillars; (B) Ratio of ∆𝑃vap to ∆𝑃cap in function of surface temperature;
(C) Droplet life-time curve, adapted from Farokhina et al.[12]
25
Table 1. 3 Fabrication cost and difficulty of micro/nano structure used by previous studies.
Fabrication method
Fabrication cost
Fabrication
difficulty LFP [°C]
H. Kwon et al. Nano SiO2 on
Si posts DRIE3 Mediocre Mediocre Ts>400
N. Farokhnia et al.
Nano AAO membrane on
Si posts
DRIE, Anodic oxidation
High High Ts>570
H. Kim et al. Nano SiO2 on
Si posts DRIE Mediocre Mediocre 453
T. Tran et al. Si posts DIRE Mediocre Mediocre 360
S. H. Kim et al. Zirconium nanotubes
Anodic
oxidation Mediocre Mediocre 400 N. R. Geraldi et al. Wire-mesh Wire-mesh Excellent Excellent 315
3深掘り反応性イオンエッチング(Deep Reactive Ion Etching, DRIE).
26
1.3. 本研究の目的及び概要
前述の通り,LFP の向上にはマイクロ・ナノ構造を伝熱面に加工することが最適である.
しかし,その加工は,高コスト・高難度であることが本手法の実用を妨げていると考えられ る.そこで,本研究では安価かつ簡便にマイクロ・ナノ構造を作製し,LFPを向上させるこ とを目的とする.
本論文は4章からなる.以下に概要を述べる.
第 1 章 緒論では,本研究の背景と従来の研究状況をまとめ,本論文の位置づけ及び目的 を述べた.従来の研究状況では,固体壁面上での濡れ,マイクロ・ナノ構造が LFP にもた らす影響,マイクロ/ナノ構造の作製コストに関する報告をまとめた.
第 2 章 実験装置及び方法では,本研究で使用した実験装置,供試壁,そして実験方法に 関して述べた.実験装置に関する項では,撮影系,滴下系,及び,加熱系に分類して述べた.
供試壁に関する項では,接触角の測定方法,親水化処理の方法,レーザ顕微鏡による観察結 果,及び,走査型電子顕微鏡による観察結果を示した.実験方法に関する項では,蒸発時間 の測定,衝突挙動の可視化について述べた.
第 3章 実験結果及び考察では,本研究で得られた液滴蒸発時間と LFP,液滴衝突挙動を まとめ,それらから得られる考察を述べた.ステンレス壁面でのLFPは312°Cである一方,
メッシュ壁面では419–452°C,ナノ粒子塗布メッシュ壁面では490°C以上に向上した.ま た,ナノ粒子塗布メッシュ壁面では液滴下部が爆発して跳ね上がる挙動が観察された.
第4章 結論では,本研究で得られた結果,及び知見を総括した.
27 1.4. 記号
D0: 衝突直前での液滴直径 [mm]
U0: 衝突直前での液滴落下速度 [m/s]
γ: 表面張力 [N/m]
ρ: 密度 [kg/m3] g: 重力加速度 [m/s2] We: ウェーバ数 lc: 毛管長 [mm]
θ: 接触角 [deg]
Ts: 供試壁の表面温度 [°C]
Tsat: 供試流体の飽和温度 [°C]
ΔTsat: 過熱度 [°C]
τ: 液滴蒸発時間 [s]
Ra: 算術平均粗さ[μm]
d: ワイヤ径 [μm]
s: ワイヤ間距離 [μm]
Cp: 比熱 [J/K]
h: 熱伝達率 [W/(Km2)]
δ: 蒸気膜厚さ [μm]
添字 L: 液相 G: 気相 S: 固相 (Solid) s: 表面 (surface) c: 臨界 (critical)
28 参考文献
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767, 2007.
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2
章実験装置及び方法
32 2. 実験装置及び方法
本研究では, LFPと液滴衝突挙動を明らかにするため,液滴蒸発時間の測定,及び高速 度カメラによる衝突挙動の可視化を行った.以下に実験装置,供試壁,実験方法について 述べる.
2.1. 実験装置
実験装置の概略図,及び画像をFig. 2. 1,Fig. 2. 2に示す.シリンジポンプにより蒸留水 を注射針に供給して液滴を生成し,セラミックヒータで加熱した供試壁へ液滴を落下さ せ,その衝突挙動をHDカメラ,または高速度カメラで撮影することが出来る.実験装置 は撮影系,滴下系,加熱系から構成される.それぞれの詳細を以下で述べる.
2.1.1. 撮影系
撮影系はHDカメラ(FDR-AX30,120fps,Sony),高速度カメラ(VW-9000,4000–
23000fps,キーエンス),ズームレンズ(VH-Z35,キーエンス),光源(LA-HDF6010WD,
Hayashi)から構成される.HDカメラは三脚で固定され,撮影した画像から液滴蒸発時間
の測定することができる.また,高速度カメラは液滴衝突挙動の可視化に用いた.また,
顕微鏡画像は,高速度カメラ(VW-9000,キーエンス)にズームレンズ(VH-Z35,キーエン ス)を装着して倍率450倍で撮影した.
2.1.2. 滴下系
滴下系はシリンジポンプ(PHD-2000,Harvard apparatus),注射針(34G,リアクトシステ ム),Z軸ステージ(TSD-401C,シグマ光機),データロガー(NR-1000,キーエンス)から構 成される.シリンジポンプにより,蒸留水を一定流量(Q=0.1mL/min)で注射針に供給し,直
径D0=1.88mmの液滴を生成した.更に,Z軸ステージで注射針の高さを調節し,液滴の衝
突速度をU0=0.23m/s (We=1.4)に調節した.D0とU0は高速度カメラで撮影した画像から,
VW-9000 Motion Analyzerを用いて測定した.U0は,液滴が衝突する直前から遡って10 フレーム間で移動した距離から算出した.
なお,水温Twは K型熱電対で測定し,Tw=25±2°Cだった.測定箇所は,注射針上部に 設置したT型ジョイント(TP-2,アズワン)である.
2.1.3. 加熱系
加熱系はセラミックヒータ(CHP-170DF,アズワン),供試壁,表面温度センサ(WE- 44K-GW1-ASP,安立計器),データロガーで構成される.供試壁はセラミックヒータで任 意の温度に加熱される.供試壁温度Tsは冶具上に設置した表面温度計で測定した.表面温 度計はデータロガーに接続されており,表面温度を記録することができる.なお,水温の
33
上昇を防ぐため,リニアガイド(SV2RLJ24L-520,ミスミ)によってセラミックヒータを随 時移動させた.実験装置の図面は付録に記載した.
Fig. 2. 1 Schematic illustration of the experimental apparatus.
Fig. 2. 2 Photo of the experimental apparatus.
34 2.2. 供試壁
供試壁はステンレス壁面,またはメッシュ壁面(PMY60X-K,PMY120X-K,PMT200X- K,ミスミ)を用いた.供試壁の材質,寸法をTable 2. 1,顕微鏡画像をFig. 2. 3に示す.顕 微鏡画像はVW-9000で撮影した.供試壁に用いる冶具,洗浄方法,親水化処理,レーザ 顕微鏡及び電子顕微鏡による観察について,以下に詳細を述べる.
2.2.1. 冶具
メッシュ壁面は熱膨張によって「ゆるみ」が発生することがある.そこで,Fig. 2. 4の冶 具を用いて,メッシュ壁面をステンレス壁面に密着させた.冶具はUpper plateとBase
plateで構成され,冶具の自重によって供試壁を挟み込むように固定した.冶具は2種類
あり,衝突挙動を可視化に用いる冶具(Fig. 2. 4(a)),液滴蒸発時間の測定に用いる冶具(Fig.
2. 4(b))がある.
2.2.2. 洗浄
切削油を除去するため,脱脂剤(強力アルカリ万能タイプクリーナー,モノタロウ)を用い て,供試壁を超音波洗浄(30分間,50°C)した.更に,各実験前には供試壁をエタノールと 蒸留水で洗浄し,エアダスタで乾燥させた.
2.2.3. 親水化処理
供試壁表面を親水化するため,SiO2ナノ粒子を含有する市販のコーティング剤(AD-tech coat,トレードサービス製)を用いた.ステンレス壁面は,コーティング剤を取ったブラシ で壁面に刷り込んでコーティングした.その後,ウエスで余剰なコーティング剤を拭き取 り,エタノール及び蒸留水で10分間超音波洗浄した.
メッシュ壁面のコーティング方法をFig. 2. 5に示す.まず,①メッシュをアルミホイル と共に冶具で固定し,②コーティンング剤を3μL滴下した後,③そのままセラミックヒー タで80°Cに加熱する.最後に④アルミホイルを交換して①に戻る.この工程を10回繰 り返すことでメッシュをコーティングした.なお,コーティング回数と接触角の変化は付 録に記載した.
2.2.4. 接触角測定
接触角は,液滴の直径2rと高さHを測定し,(2.1)式で求めることが出来る.ステンレス壁
面は Fig. 2. 6 (a)のように固定した.一方,メッシュ壁面では冶具と密着させて固定した場
合,接触角が極めて小さくなるため,比較が困難である.そこで,Fig. 2. 6 (b)のように固定 して接触角を測定した.
𝜃 = 2arctan(𝐻/𝑟) (2.1)
35
ステンレス壁面,及びナノ粒子を塗布したステンレス壁面の接触角をFig. 2. 7に示す.接触 角の減少から,親水化処理によって濡れ性が大きく向上したことが分かる.なお,メッシュ 壁面では接触角が時間変化するため (Fig. 2. 8),経過時間に対する接触角を測定した.その 結果,ナノ粒子を塗布したメッシュ壁面では,経過時間に対して接触角の減少幅が大きく,
濡れ性が向上したことが分かる (Fig. 2. 9).
2.2.5. レーザ顕微鏡による観察
メッシュの三次元形状を観察するため,レーザ顕微鏡 (VHX-6000, キーエンス,Fig. 2.
10(a))による測定を行った.測定結果をFig. 2. 10(b)に示す.三次元形状の生成には成功し
たものの,ワイヤ湾曲部の形状を正確に捉えることは出来なかった.
2.2.6. 走査型電子顕微鏡による観察
上記のレーザ顕微鏡ではナノオーダの構造を測定することは出来ない.そこで,Fig. 2. 11 のキーエンス製VE-9800走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM)による観察 を行った.供試壁のSEM画像をFig. 2. 13,Fig. 2. 14に示す.
更に,シリコンウェハにnano-flatと同様の親水化処理を行い,SEM観察を行った (Fig.
2. 15).なお,シリコンウェハは非導電体であるため,Fig. 2. 12のスパッタ装置 (SC-701,
サンユー電子)で表面にAuを成膜して導電処理を行った.SEM画像から,ナノ粒子を塗布 したウェハには,101–102nm程度の粒子が存在していることが分かる.
36
(a) Flat (e) nano-flat
(b) #60 (b) nano-#60
(c) #120 (e) nano-#120
(d) #200 mesh (g) nano-#200
Fig. 2. 3 Microscopic images of test walls(450x). The scale bars are 300 μm.
37
Table 2. 1 Properties of the flat surface and wire meshes.
Material wire diameter d [μm]
wire spacing s [μm]
Flat SUS304
#60 SUS304 122.8 ± 0.8 295.6 ± 0.8
#120 SUS304 76.5 ± 2.1 134.1 ± 2.8
#200 SUS316 45.6 ± 1.2 80.2 ± 6.2
Nano-flat SUS304
Nano-#60 SUS304 129.4 ± 2.8 293.8 ± 10.5 Nano-#120 SUS304 71.1 ± 0.7 132.5 ± 2.2 Nano-#200 SUS316 37.5 ± 2.5 87.2 ± 2.5
38
(a) Jig for capturing side-view image
(b) Jig for measuring evaporation time Fig. 2. 4 Schematic illustration of test walls and jigs.
20mm
Base plate
Wire-mesh
Upper plate (t=4mm, 30.2g)
Temperature sensor
3mm 20mm
35mm
Stainless plate (t=1mm)
20mm Base plate
Wire-mesh Stainless plate
(t=1mm)
Upper plate (t=3mm, 35.2g)
Temperature sensor
3mm 35mm
20mm φ7.5
39
Fig. 2. 5 Coating method on mesh surfaces.
Aluminum foil Wire-mesh Upper plate
Base plate
Step1 Set wire-mesh on foil and sandwich them with jigs
AD-tech coat (3μL)
Syringe
Step2 Drop coating agent onto wire-mesh
80℃
Step3 Heat at 80℃, 5 min.
Aluminum foil
Step4 Replace foil and back to Step1, repeat 10 times.
40 (a) Flat surface
(b) wire-mesh
Fig. 2. 6 Schematic illustration of contact angle measurement.
𝐻 2𝑟
𝜃 𝜃
Wire-mesh Droplet Jig
1mm 2𝑟
𝐻
41
(a) Flat (θ=18.5±0.1 °). (b) nano-flat (θ=5.5±0.2 °).
Fig. 2. 7 Contact angle on flat and nano-flat surfaces.
Fig. 2. 8 Sequential images of spreading on nano-#120 surfaces.
Fig. 2. 9 Contact angle on mesh surfaces in fuction of elapsed time.
0 10 20 30 40 50 60
30 60 90 120 150
Contact angle [deg]
Elapsed time [s]
#60
#120
#200 nano-#60 nano-#120 nano-♯200
42
(a) Laser scanning microscope (VHX-6000, Keyence)
(b) 3D image of #120 mesh Fig. 2. 10 Laser scanning on mesh surface.
43
Fig. 2. 11 Scanning electronic microscope (VE-9800, Keyence)
Fig. 2. 12 Sputtering equipment (SC-701, SANYU ELECTRON).
44 (a) Flat
250x 450x 1000x 10000x
(b) #60
250x 450x 1000x 10000x
(c) #120
250x 450x 1000x 10000x
(d) #200 mesh
250x 450x 1000x 10000x
Fig. 2. 13 SEM images of flat, the mesh surfaces.