修士学位論文
膵島移植における高効率膵臓消化技 術の開発に向けた柔軟体の分離特性
の研究
指導教授 小原 弘道 准教授 平成30年 1月 19日 提出 首都大学東京大学院
理工学研究科 機械工学専攻 学修番号 16883306
氏名 伊藤 哲也
目次
一章 緒論
1.1研究背景
1.2膵臓・膵島移植 1.3粉体工学
1.4食物の咀嚼 1.5ゼラチン 1.6本研究の目的
二章 理論
2.1粉体工学 2.2食物の咀嚼 2.3ゼラチン
2.4ゼラチンと膵臓の物性
三章 実験方法
3.1臓器模倣体の製作
3.2手による振動時の容器・球の軌跡 3.3一次元モデル振盪実験
3.4三次元モデル振盪実験
3.5流れによる臓器模倣体分離実験 3.6膵臓振盪実験
四章 結果・考察
4.1一次元モデル振盪実験
4.1.1ゼリー強度が分離特性に与える影響
4.1.2球の有無、および球の密度が分離特性に与える影響
4.2エネルギー法則と一次元モデルにおける臓器模倣体の分離特性
4.2.1球の衝突エネルギーと臓器模倣体の分離特性
4.2.2球の容器内での仕事と臓器模倣体の分離特性
4.3三次元モデル振盪実験
4.3.1一次元モデルと三次元モデルにおける分離特性の比較
4.3.2ゼリー強度が分離特性に与える影響
4.3.3球の有無、および球の密度が分離特性に与える影響
4.4 三次元モデルにおけるエネルギー法則 4.5一次元モデルと三次元モデルの比較
4.5.1粉砕初期における臓器模倣体の拘束の有無
4.5.2 粉砕中期~末期における一次元モデルと三次元モデルの面積
比の違い
4.6流れによる臓器模倣体の分離実験 4.7膵臓振盪実験
4.8臓器模倣体の分離特性と膵島分離法
4.8.1臓器模倣体の分離特性から求めた膵島収量の比較
4.8.2リコルディチャンバー内の膵島分離メカニズムに関する考察
五章 結論 5. 結論 六章 参考文献
6. 参考文献
1.1 緒論
近年,1 型糖尿病が重症化した際の治療法として,ドナーの膵臓から膵島(血中 糖分濃度を調整する細胞)を分離し,患者に移植する膵島移植が注目されている.
膵島移植には,臓器移植である膵臓移植と比べ,低侵襲かつ,合併症や拒絶反 応が少ないという利点がある.しかし,膵臓からの膵島収量が少ないため,患 者に対し数回にわたって膵島を移植しなければならないこと,また移植後の膵 島の長期生着率が低いことが現在の課題である.膵臓からの膵島分離は,ステ ンレスメッシュと7個の中空ステンレス球を含む臨床用医療用容器(リコルディ チャンバー)にタンパク分解酵素であるコラゲナーゼを灌流させながら,手振盪 させることで行われる.しかし,装置の最適化を図る上で重要なリコルディチ ャンバー内の具体的な膵島分離メカニズムについては未だに明らかにされてい ない.臨床用容器による膵島分離は膵臓消化酵素液による化学的消化に加え,
中空ステンレスボールによる機械的消化により行われる.固体に機械的なエネ ルギーを加えて細分化する方法(粉砕法)に関する知識・技術は,鉱山,リサイク ル,化学工業など幅広い産業分野で扱われており,粉体工学という学問の中で 整理されている.また,柔軟体の粉砕に関しては,咀嚼に関する研究など食品 分野において研究が行われている.しかし,球を含む容器の手振盪による膵臓 のような柔軟体の細分化に関する研究や,膵島分離における機械的消化に関す る研究は未だに行われていない.よって,加えられる機械的なエネルギーと柔 軟体の細分化の関係と臨床用容器による膵臓からの膵島分離メカニズムを明ら かにし,臨床用容器の最適化あるいはそれに代わる装置を開発することが,膵 島移植における膵島収量の増加,膵島に低侵襲な分離,長期生着率向上を実現 するために求められる.
1.2膵臓移植・膵島移植 1.2.1膵臓[1]
膵臓は胃の後ろにある細長い,赤味を帯びた黄色の実質器官である.人間の膵 臓は,長さ約15cm,幅3~5cm,厚さ2cmで,重さは約60gである.膵臓は膵 頭,膵体,膵尾の3つの部分に分けられる.膵臓の実質は小葉(1~10mm)の集合 体であり,小葉は腺房と膵島からなる.腺房は外分泌部と呼ばれ,酵素を含む 膵液を十二指腸に分泌することで食物の消化を促進する.膵島は内分泌部と呼 ばれ,インスリンやグルカゴンなどのホルモンを血中に分泌することで,血糖 値を調節する役割を持つ.インスリンには血液中の糖をエネルギーに変換する 役割が,グルカゴンには肝臓に糖を作らせる役割があり,これらのホルモンが 分泌されることで,体内の血糖値が一定に保たれている.
1.2.2膵島
膵島は成人では膵臓の容積の1~2%(新生児では10%)を占め,20万~200万個存 在する.膵尾に多い傾向がある.膵島を構成する細胞は免疫組織化学により,
また電子顕微鏡で見る顆粒の携帯により,次の4種類の細胞が区別できる.
1) α細胞
グルカゴンを分泌する細胞で,島の細胞の15~20%を占める.島の辺縁部に多く 分布し,顆粒は直径200~300nmである.
2) β細胞
インスリンを分泌する細胞で,島の細胞の60~70%を占める.島の中心に多く分 布し,顆粒は直径225~375nmである.
3) γ細胞
ソマトスタチンを分泌する細胞で縞の細胞の5%を占める.幼児ではその比率が
さらに高い.島全体にまばらに分布し,顆粒の直径は170~220nmである.
4) PP細胞
島の細胞の1%を占め,島の辺縁部に存在する.顆粒は直径180~220nmである.
膵島は,容積にして1~2%であるが,10%以上の血流を受ける.このような豊富 な血流によって,ホルモンによる分泌応答が促進される.
1.2.3糖尿病
インスリンの分泌量,あるいは組織のインスリン感受性が低下すると糖尿病に なる.糖尿病は,膵島B細胞のインスリン分泌能から2 つのタイプに分類され る.
(a)1型糖尿病
1 型糖尿病は膵島 B 細胞が破壊されることによる,インスリン生成・分泌能の 絶対的不足が原因である.B 細胞の破壊はウイルス感染や自己免疫性の炎症が 考えられているが,遺伝的要因も大きい.10 歳代に発症することが多く,若年 性糖尿病ともいわれる.
(b)2型糖尿病
2型糖尿病は,B細胞機能には特に異常はなく,インスリン分泌能も温存されて いるが,組織のインスリン感受性が低下しているため,相対的にインスリン不 足となっている.全糖尿病患者の90%以上がこのタイプである.40歳代から発 症し,徐々に進行する.発病初期には食事療法のみで治療できることが多い.
糖尿病が進行すると,重症インスリン依存状態となり,血糖値の急激な変化に よる意識消失や,血管病変による合併症が高まり,そのような患者には膵臓移 植・膵島移植が必要となる
1.2.1 膵臓移植[2]
膵臓移植とは,糖尿病が重症化した患者に対し,心停止あるいは脳死ドナーの 膵臓を移植する治療法である.膵臓移植では 1 型糖尿病で内因性インスリンが 枯 渇 し た 患 者 や 腎 不 全 を 合 併 し た 患 者 を 対 象 に , 膵 臓 単 独 移 植(pancreas transplantation alone : PAK),または膵腎同時移植(simultaneous pancreas kidney transplantation : SPK)が行われる.1966年,米国ミネソタ大学におい て初めて,糖尿病末期で腎不全を合併した患者に,膵臓と腎臓の移植が行われ た.その後,抗拒絶剤(免疫抑制剤)としてシクロスポリンの使用や,続いて
FK506等の免疫抑制剤の開発など,移植医療は発展を続け,1999年9月末まで
に世界150施設で12.930例の膵臓移植が行われ,欧米では確立した治療法とし
て日常的に行われている. 一方,日本では,1984 年に筑波大学において,脳 死ドナー膵を用いた第一例目の膵臓移植が行われ,それ以後は,心停止後のド ナーから提供された膵臓の移植が行われてきた.その後,1997年に,心臓停止 後の腎臓と角膜の移植に加え,脳死からの心臓,肝臓,肺,腎臓,膵臓,小腸 などの移植が法律上可能となる「臓器移植法」が施行され,2011年1月末まで に心停止下膵腎同時移植を含め,63 例のドナーからの膵臓移植が行われている [2].
1.2.2 膵島移植
膵島移植とは ,インスリン依存状態の患者に対し,血糖をコントロールする膵 島のみを取り出して,肝臓内の血管である門脈に注入する細胞移植である.現 状,膵島を純粋に取り出す技術がまだ十分でないため,インスリン注射が必要 ない状態になるには2回以上の移植が必要となる.膵島分離工程は,膵臓摘出,
膵臓保存および運搬,膵臓の消化,膵臓の純化,純化後の保存,最終産物の検
査,出荷からなる.
1.2.3 膵島分離の歴史
Lacy. P.E(1967)らは齧歯類の膵臓に対し,コラゲナーゼを用い,世界で初めて
膵島分離を行った[3].この方法をもとにGray.D.W.R(1975)らはアカゲザルの膵 臓に対し,膵島分離を行い,大量の膵島の単離に成功するとともに,物理的な 力による分離が必要であることを報告した[4].その後,Gray.D.W.R(1984)らは 異なる大きさの針を用いる手法で,人間の膵に対し膵島分離を行ったが,多く の膵島が針により損傷してしまったことを報告している[5].この時の平均収量 は~1000 islets/pancreas (1膵臓当たりの膵島収量)であり,平均純度は10~40%
であった.そして,Gray.D.W.R(1985)らによって,一部消化が進んだ膵組織を 切断あるいはすりつぶした後に,網により分離するという哺乳類に対する汎用 的な膵島分離法を報告した[6].Horaguchiら(1981),Noelら(1982)は膵島分離 前の膵臓に膵管からのコラゲナーゼ灌流を行うことで犬の膵臓からの膵島収量 が増加することを報告し[7,8],その Horaguchi らの手法と似た手法を用いて
Kneteman. N.M.ら(1986)は人膵に対して,膵管からのコラゲナーゼ灌流を行っ
た[9].この方法は,人間の膵臓から,~85000 islets/pancreas の平均収量を得 ることを可能にした.一方で,Kuhn, Eら(1985)は,Lacy, P.E.ら(1982)によっ て考案されたベルクロを用いる方法[10]を人間の膵臓に対して行った.そこでは,
膵管からのコラゲナーゼ灌流後に,一部消化された膵島が含まれる膵組織をベ ルクロによって保持する手法が用いられ,その結果~80000 islets/pancreas の 膵島平均収量を得た[11].Scharpら(1987)は,tissue macerator と呼ばれる分 離装置と,Ficoll と Percoll を用いた遠心分離法により,平均収量~125000 islets/pancreas と純度60~90%を達成した[12].そして,Alejandro(1987)は潅 流による膵島分離法[9]とtissue macerator による分離法[12]を組み合わせた方
法により,~138000 islets/pancreas の平均収量と~50%の純度の膵島分離に成 功した[13].そして,1988年にRicordi(1988)らは,これまでの膵島分離法にお いて,膵島が機械的損傷を受けてしまうこと,分離の進行度合いを評価するサ ンプル観察をしている際にも,消化が進んでしまうことを問題点として上げ,
特殊な分離容器とAutomated systemと呼ばれる膵臓消化システムにより,人 間の膵臓からの膵島収量が増加することを報告した[14].この方法による膵島の 平均収量は164600 islets/pancreas であり,平均収量は 78.5%となった.ここ で用いられた分離容器は後にリコルディチャンバーと称され,多少の仕様の変 化はあるものの(緒言:1.8参照),現在もリコルディチャンバーを用いた膵島分離 法が主流となっている.
1.2.4 膵島分離の手順[15]
膵島分離は,膵臓へのコラゲナーゼ灌流と,リコルディチャンバーによるコラ ゲナーゼ灌流の2工程で行われる.
膵臓へのコラゲナーゼ灌流は Fig.1.2.1 のコラゲナーゼ灌流システムにより行 われる.灌流は室温 22℃,灌流トレイ内温度 4℃にて行われる.灌流トレイに はコラゲナーゼを再灌流するための出口のポートがあり,このポートと膵臓の カニューレをシリコンチューブでつなぐ.途中に灌流圧を測定するための圧力 計が接続されている.コラゲナーゼ灌流の開始5分は灌流圧が60~80mmHgに,
後半5分は灌流圧が160~200mmHgになるように,灌流速度を調整する.
リコルディチャンバーによるコラゲナーゼ灌流はFig.1.2.2の膵臓消化システム により行われる.灌流終了後の膵臓を7つから9つへ外科鋏で切離し,Fig.1.2.2 内のリコルディチャンバーに入れ,コラゲナーゼを灌流させながら,リコルデ ィチャンバーを振動させることで膵島分離が行われる.ここではコラゲナーゼ
が再灌流できるようになっており,チャンバー内の温度が35℃となるように恒 温槽により溶液の温度が調整される.2 分おきに 1ml のサンプルを取り,膵臓 の消化状態を確認する.分離された膵島が1サンプルあたりおよそ50個以上に なれば,回収の段階へと移行する.回収の段階では,コラゲナーゼ溶液は,回 収に用いられる RPMI 培養溶液で希釈される.回収された消化膵組織は次々と
250mlのコニカルチューブへと入れられ,CMRL培養溶液にて洗浄される.洗
浄された消化組織は,純化まで UW 溶液にて保存される.通常,消化には 20 分程度,回収には1時間が費やされる.
Fig.1.2.1 The schematic diagram of pancreas perfusion
1.2.5リコルディチャンバー
リコルディチャンバーは上部と下部の 2 つの容器によって構成され,その間に はステンレスメッシュが存在する.下部は円柱型の容器であり,2つの流入口と 温度測定用の穴を 1 つ持つ.上部は円錐型の容器であり,流出口が 1 つ存在す る.膵島分離の際には,下部の容器に膵島分離を行う膵臓と球を複数個入れ,
上部の容器と 3 本のねじで固定する.その後,コラゲナーゼを容器内に流しな がら,容器に振動を加えることで膵島分離は行われる.リコルディチャンバー の振動方法や球の密度,直径,数の情報に関しては,限られた論文や,特許に しか記載がない上に,それらの条件が最適であるという数値あるいは実証に基 づいた根拠はどの文献にも存在していない.また,リコルディチャンバーは
Biorep 社により膵島分離用容器の振動装置と共に商品化されているが,振動方
法や体積など,条件があいまいな部分も多くあり,条件の最適化が行われてい るかどうかは不明である.容器と球に関する情報をまとめた表をTable.1.2.1に 示す.
Fig.1.2.2 The schematic diagram of Ricordi system.
Table.1.2.1 Operating condition of Ricordi chamber for islet separation [14][15][16][17].
Mate rial Volu me (ml) Stroke (mm) Fre qu e n c y (c pm)
Rotation (de gre e )
Rot Fre qu e n c y
(c pm) Au tomate d me th od (Ric ildi,
1 9 8 8 )
stain le ss
ste e l 3 0 0 1 3 5 3 2 0
U.S. Pate n t (Ric oldi, 2 0 0 1 ) 膵島分離法の進歩 (松本 慎一, 2 0 1 1 ) Ric oldi c h ambe r, Isle t Isolator
(Biore p c orp, 2 0 0 8 , 2 0 0 7 )
stain le ss ste e l, Ulte m
樹脂
5 0 0 , 6 0 0 3 0 - 1 1 0 3 0 - 2 0 0 4 5 - 1 8 0 3 0 - 2 0 0 Dige stion Ch ambe r
Mate rial De n sity
(g/ c m3) Diame te r(mm) Nu mbe r Au tomate d me th od (Ric ildi,
1 9 8 8 ) marble 2 .5 8 1 0 7
U.S. Pate n t (Ric oldi, 2 0 0 1 )
n on - c orrosive me tal (h ollow stain le ss ste e l)
3 ~4 膵島分離法の進歩
(松本 慎一, 2 0 1 1 )
h ollow stain le ss
ste e l 7
Ric oldi c h ambe r, Isle t Isolator (Biore p c orp, 2 0 0 8 , 2 0 0 7 )
Silic on Nitride
marble 3 .4 4 1 5 .8 7 5
Agitation me mbe r
1.3 粉体工学 1.3.1 粉体工学
粉体とは,物体を抽象化して固体粒子の集合体と見なしたもので,通常は比較 的小さい粒子の集まりを指している.粉体は物質の混合,成形,複合化,成分 分離などに適した形態であり,化学工業をはじめ,医薬,セラミックス,電子 部品,機械部品,化粧品,食品,廃棄物処理など,多くの産業分野で利用され ている.粉体工学は,誕生して半世紀あまりの若い学問であり,近年の産業高 度化の要求に応じて目覚ましい発展を遂げつつある[29].
1.3.2単一粒子の破壊
単一粒子の破壊の研究は,集合粉砕(実際の粉砕機内での固体の破壊・粉砕)の基 礎であり,重要である.粒子あるいは粒子群の破壊については 1959 年に
Rumpf.H らによって(a)外力による圧縮,衝撃,せん断(b)粒子地震の慣性力に
よる衝撃,摩擦(c)流体などの媒体を通してのせん断,衝撃の 3 つのモデルが説 明されている[18].粒子あるいは粒子群の破壊はそれらを構成する物質の結合力 に打ち勝つ外力が作用する場合に起こり,そのときの外力と物質の変形の関係 は荷重―変位曲線で表される.この荷重―変位曲線で囲まれる面積を,その物 質の破壊までに蓄えられたひずみエネルギー,破断力を破断面積で割った値を 強度と称する.
(a)単一粒子破壊の種類
単一粒子破壊も固体の破壊と同様に,変形による区別である延性破壊と脆性破 壊,結晶学的区別である粒内破壊と粒界破壊,外的条件からの区別である静的 破壊,衝撃破壊,疲労破壊,クリープ破壊が存在する.
(b)単一粒子破壊の理論と実際
固体の理想強度にはグリフィス理論[19]やエネルギー計算から求める方法[20], ヤング率から経験的に求める方法[21]がある.しかし,実測強度はこれらの方法 で求められた理想強度の1/100~1/1000倍のオーダーで小さいことが知られてい る(Table.1.3.1)[21]
1.3.3 単一粒子強度の試験法
1965年,平松らは粒子が球状試験片あるいは非整形試験片を点載荷で圧縮した ときの応力状態を解析し,粉砕における粒子は外部から加えられた圧縮力が内 部で転換することで生じる引張力により破壊すること,そして,球の圧縮破壊 によって,その引張強度が求められることを示した[22].丸棒などを引張る場合 の引張強度と区別するため,ここでの引張強度は球圧壊強度とされている[23]. ここで求められた球圧壊強度は実際の粉砕操作で取り扱う不規則形状粒子にも 適用できることが神田らによって示された[24].単粒子の破壊は材料の最も弱い クラックにより生じ,その強度はクラック強度に対応するため,試験にて最も 弱いクラックを選択できる方が正確な強度となりうる.よって,材料評価のた め,円板を圧縮する圧裂試験[25]も一部行われているが,より球の圧縮試験の方 が,最も弱いクラックを選択できる確率が高いため,圧裂強度より球圧壊強度 の方が材料の引張強度に近い値といえる.
物質 理想的強度
σth×10-9[Pa]
実測強度 σex×10-6[Pa]
ダイヤモンド 200 ~1800
グラファイト 1.4 ~15
タングステン 86 3000 (引き伸ばしによるによるかたい針金)
鉄 40 2000 (高張力用鋼製針金)
MgO 37 100
NaCl 4.3 ~10 (多結晶状試料)
石英ガラス 16 50 (普通の試料)
Table.1.3.1, Theoretical strength and measure strength of material.
1.3.4雰囲気の影響
固体の強度は雰囲気によって変化する.これには固体表面のクラックが影響し ており,雰囲気により表面エネルギーが変化することによる.八嶋らはセキエ イガラス,ホウケイ酸ガラスなど各種脆性材料の球形試験片を用いて,真空中,
空気中,水中での単粒子破砕実験を行い,水が材料の強度低下に大きな影響を 及ぼすことを報告している(Table.1.3.2)[26].
1.3.5粉砕におけるエネルギー法則[27]
粉砕に使われる仕事量(エネルギー)は,粉砕前後の粒子径あるいは粒子径分布と 関係している.1867年Rittingerは破壊により生じる新しい表面(破断面)に着目 し,粉砕に消費された単位質量当たりの仕事量 E は,この新しく生成した表面 積に比例すると考えた.一方で,Kick(1885 年)は,粉砕に要する仕事量は,粒 子径に関係なく粉砕物の体積に比例すると考えた.これら 2 つの法則は,とも に粉砕を理想的な破壊としてとらえているが,これに対してBond(1952年)は粉 砕を無限に大きい粒子を粒子径がゼロの無限個数の粒子にする途中の減少であ るとしてとらえ,両法則の中間的な考え方を示した.Bondは粉砕の開始段階で は,粒子に加えられたひずみエネルギーは粒子の体積に比例するが,粒子内に き裂が発生した後には生成した破断面積に比例すると考えた[28].このBondの 法則は粉砕仕事量の予測に広く用いられている.
Table.1.3.2, The crushing strength of sphere specimen in vacuum, air and water.
試料
石英ガラス 1.31 1 0.56 ホウケイ酸ガラス 1 1 0.75 石灰石 1.18 1 0.96
強度比 真空中:空気中:水中
1.3.6粉砕速度論
粉砕に要する仕事量は粉砕時間に比例すると見なせるので,粉砕プロセスにお いても他の産業と同様に時間は重要な操作要因である.粉砕機に供給した原料 粒子,着目した中間的な大きさの粒子とさらに小さい微粒子の質量の粉砕時間 に対する変化はFig.のようになる[29].これより粉砕速度は着目する粒子の大き さによって変化する.N. Kotake らは供給粒子径を変化させた石灰石をボール ミルにより粉砕し,供給粒子の質量変化を調査したところ,供給粒子が減少し ていく速度過程は粉砕速度定数𝐾𝐾1[𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚−1] を用いた一次式で表されるとした [30].また,ボール径𝑑𝑑𝐵𝐵(𝑚𝑚𝑚𝑚)と供給粒子径𝑥𝑥𝑓𝑓(𝑚𝑚𝑚𝑚)を変化させた際の,粉砕速度 定数を調べたところ,ボール径に対し,粉砕速度定数が最大となる供給粒子径 が存在することを示した(Fig.1.3.1 )[30].
Fig.1.3.1, Variation of grinding rate constant with feed size (Silica
1.3.7湿式粉砕
水中あるいは液体中で粉砕を行うことを湿式粉砕という.湿式粉砕の利点は乾 式に比べより微粒子の製造が可能であることに加え,騒音が少ない,ダストの 発生が少ないなどがある.一方で欠点は,粉砕媒体,ライナーの摩耗が多い,
砕成物の乾燥に経費がかかる,短時間の操業に適していないなどが上げられる.
小竹(1998)らは石英ガラスを乾式・湿式ボールミルで粉砕したときの砕生物の粒
子 径 分 布 を 調 査 し , 湿 式 の 方 が 微 粒 子 の 生 成 速 度 が 大 き い こ と を 示 し た (Fig.1.3.1 )[31].
Fig.1.3.2, Size distribution of ground products in dry and wet grinding[31].
1.3.8粉砕装置の分類
各種工業における粉体操作で取り扱われる固体の大きさはmオーダーの塊から nmオーダーの超微粒子まで,幅広い大きさのものが扱われる.そんな中,原材 料の大きさ・材質,砕成物に求められる大きさなど,それぞれの用途にあった 粉砕装置が開発されている.粉砕装置を原材料と砕料のおおよそ大きさで分類 した表をTable.1.3.3 に示す.
破砕・粉砕操作の区分 砕料と砕成物のおおよその粒子径 粉砕機 粗砕
1.5m~1m
↓ 10cm
ジョークラッシャー シングル・ロール・クラッ
シャー 中砕
10cm
↓ 1cm>
ジャイレトリクラッシャー ハンマーミル
シュレッダー
微粉砕
2~1cm
↓ 10~1μm
ロッドミル ローラーミル
ボールミル ジェットミル 振動ボールミル
遊星ミル 超微粉砕
10~1μm
↓ 1μm>
媒体攪拌型超微粉砕機
Table.1.3.3, The specification of crusher.
1.4咀嚼理論
食品の経口処理に関わる研究はあらゆる年代の消費者に望まれる食品を提供す る上で非常に重要である.咀嚼は食品の粉砕プロセスでもあり,粒径の減少率 の評価は(a)個々の粒子が粉砕される確率(selection function),あるいは(b)破壊 された粒子の破片の大きさの分布(breakage function)により行われる[32].実際 にはvan der Glas, H(1987, 1992)らによるシリコーンゴムを用いた実験で,咀 嚼した際の粒径減少率が測定されている[33,34].一方で,咀嚼による食品の破 壊理論については,Agrawal ら(1997)は咀嚼による食品の破壊は,歯による食 品の 3 点曲げと歯の先端の押し込みにより起こるとした,咀嚼による破壊理論 を報告している[35].
1.5 ゼラチン 1.5.1ゼラチン
ゼラチンとは動物の皮膚や骨などの結合組織の主成分であるコラーゲンに熱を 加え,抽出したものである.ゼラチンは食用としてだけでなく,医薬品のカプ セルやカメラのフィルムの写真乳剤,接着剤など,医薬品用,写真用,工業用 と幅広い業界で扱われている[36].これらの業界からのゼラチンの品質,性能に 対する要求が厳密になるにつれて,ゼラチンの微細構造や分子的性質[37,38], 物性の評価・改善などの研究がこれまでに数多く行われてきた.ゼラチンは製 造条件の違いや混合物により物性が変化し,それらの評価は主に圧縮試験・ゼ リー強度測定試験・動的粘弾性測定試験により行われる[39~41].
1.5.2ゼリー強度
ゼリー強度は,「定められた条件で調整され熟成したゲルの固さ率を任意の単位 においてあらわした量」と定義される[42].その測定方法はアメリカのゼラチン 工業組合の GMIA 試験法[43],ヨーロッパのゼラチン工業組合の GME 試験法 [44],日本にかわ・ゼラチン工業組合のJISK6503[45]と国毎に異なるが,その 測定方法自体はほぼ同一なものである[46].JISK6503におけるゼリー強度の具 体的な測定方法は,6.67%のゼラチン溶液を10℃で17時間冷却し,調整したゼ リーの表面を12.7mm径のプランジャーで 4mm 押し下げるのに必要な荷重と されている.
1.5.3動的粘弾性測定
柔軟体は弾性体としての変形性と流体としての流動性を持つため,物性を評価 する上で,その物質の動的粘弾性特性を知ることが重要となる.動的粘弾性特
性は,物体に正弦振動ひずみを与えた際の,フックの法則に基づく弾性率(貯蔵 弾性率:G’)と粘性体の性質に基づく散逸されるエネルギー(損失弾性率:G’’)で表 さすことができる.動的粘弾性測定は物性評価だけでなく,物体の温度依存性 を調べることで,その凝固点・融点を調べることが可能である[47].
1.6本研究の目的
膵島分離中の膵臓の物性値は,化学的消化により変化する.よって,膵臓の物 性値によりその分離特性も変化することが予測される.また,固体の粉砕では,
使われる仕事量や球の衝突エネルギーによって,粉砕前後の粒子径が変化する.
よって,膵臓のような柔軟体においても加えるエネルギーによって,分離特性 が変化することが予測される.これらの,膵臓の物性値・及び加えられるエネ ルギーとその分離特性の関係を調査することは,最小限限のエネルギーで低侵 襲な膵島分離を行う上で必要不可欠である.よって,膵島分離中の膵臓の物性 を再現した柔軟体を,臨床用容器の簡易モデル(水・球を含む円柱容器)に入れ,
振盪実験を行い,柔軟体のゼリー強度と簡易モデル中の球の密度を変化させた 際の分離特性から,柔軟体の物性及び,衝突エネルギー・仕事量と分離特性の 関係を調査する.また,高効率膵島消化技術の開発には臨床用容器内の膵島分 離メカニズムの解明が求められる.我々は臨床用容器内の膵島分離は酵素処理 液の化学的消化に加え,球の衝突と流れによるせん断応力による機械的消化に より分離されていると考えている.よって,球の衝突及び流れのせん断応力が 分離特性に与える影響を調査するために,振盪時に球が必ず柔軟体に衝突する 臨床用容器の一次元モデル容器と,実際の臨床用容器に寸法が近い三次元モデ ル容器における柔軟体の分離特性を比較し,臨床用容器内の球の働きとその消 化方法について考察する.
2.1 粉体工学
2.1.1グリフィス理論[19]
グリフィス(Griffith)は理想強度と実測強度の相違は,材料に存在するクラック (き裂)によるものであると考えた.Fig.2.1.1 のように,単位厚さの平板中に大 きさが2cなる極めて小さい扁平楕円形のクラックを持つ場合を考える.この試 験片を応力σで一様に引張るとき,クラックの部分では応力が伝播しないので弾 性ひずみエネルギーはその分減少する.この減少分は,平板中の応力分布を仮 定して計算より次式のように求められている.
U = −𝜋𝜋𝑐𝑐2𝜎𝜎2
𝐸𝐸 (2.1) ここで,Eはヤング率を表す.また,大きさが2cなるクラックの単位厚さ当た りの表面エネルギーは,γを表面エネルギーとすると次式となる.
W =4γc (2.2) ここでクラックがさらにdcだけ進展する場合を考える.クラックの進展より開 放される(減少する)弾性ひずみエネルギーが,クラック進展により増加する表面 エネルギーに等しいか上回ればクラックは進展することができるが,下回れば クラックは進展できない.したがってクラックがさらに進展するのは次の条件 式を満足する場合である.
𝑑𝑑𝑑𝑑 𝑑𝑑𝑐𝑐 +𝑑𝑑𝑑𝑑
𝑑𝑑𝑐𝑐 ≤0 (2.3)
式(2.1), (2.2)を式(2,3)に代入すると,クラックの進展条件は次式となる.
𝜋𝜋𝑐𝑐𝜎𝜎2
𝐸𝐸 ≥2𝛾𝛾 (2.4) 材料中に式(2,4)を満足するクラックが 1 個でもあれば,そこを起点としてクラ ックは進展し破壊に至るので,材料の破壊強度𝜎𝜎𝑚𝑚は材料中の最大クラックサイ
ズ2𝑐𝑐𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚により決定され,次式で表される.
𝜎𝜎𝑚𝑚 = � 2𝛾𝛾𝐸𝐸 𝜋𝜋𝑐𝑐𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚
2.1.2エネルギー法則[27]
粉砕に使われる仕事量(エネルギー)は,粉砕前後の粒子径あるいは粒子径分布の 差,変化に関係づけられる.
(a)リッチンガー(Rittinger)の法則
固体をFig.2.1.2に示すように破壊したとき,砕成物には新しい破断面が生成す
る.1867年,リッチンガーは粉砕に消費された砕料単位質量あたりの仕事量E は,この新しく生成した表面積に比例すると考えた.これは固体の表面エネル ギーに基礎をおく考えで,粉砕仕事量は次式で表される.
E =𝐶𝐶𝑅𝑅�𝑆𝑆𝑝𝑝− 𝑆𝑆𝑓𝑓�
ここで𝐶𝐶𝑅𝑅[J∙ 𝑚𝑚−2]は砕料の種類によって決まる定数,𝑆𝑆𝑓𝑓,𝑆𝑆𝑝𝑝はそれぞれ粉砕前後の
比表面積 [𝑚𝑚2∙ 𝑘𝑘𝑘𝑘−1]である.𝐶𝐶𝑅𝑅の逆数はリッチンガー数といわれ,粉砕効率を
表す一つの基準として使われる.また上式を比表面積[m]で表すと次式となる.
E =𝐶𝐶𝑅𝑅′�1 𝑥𝑥𝑝𝑝− 1
𝑥𝑥𝑓𝑓� Fig.2.1.1, the Griffith crack.
ここで,𝐶𝐶𝑅𝑅′[J∙m∙ 𝑘𝑘𝑘𝑘−1]は𝐶𝐶𝑅𝑅と同様に砕料によって決まる定数,𝑥𝑥𝑓𝑓,𝑥𝑥𝑝𝑝は粉砕前 後の比表面積径である.
(b)キック(Kick)の法則
これに対してキック(1885 年)は,砕料に幾何学的に相似な変形を生じさせるた めに必要な仕事量は砕料の大きさ,すなわち粒子径に関係なく砕料の体積に比 例するとした.Fig.2.1.3に示すように,粒子径𝑥𝑥𝑓𝑓,の粒子の粉砕を3回くり返し,
粒子径𝑥𝑥𝑝𝑝の粒子を得たとすると,このときの粉砕比はR =𝑥𝑥𝑓𝑓⁄𝑥𝑥𝑝𝑝である.また 1 回の粉砕に要する仕事量を𝐸𝐸1とし,粉砕比を𝑅𝑅1とすると,Rと𝑅𝑅1の間には次式が 成立する.
R =𝑅𝑅13, 𝐼𝐼𝐼𝐼𝑅𝑅 𝐼𝐼𝐼𝐼𝑅𝑅1 = 3
3回の粉砕で使われる全仕事量Eは次式となり,粉砕比𝑥𝑥𝑓𝑓⁄𝑥𝑥𝑝𝑝で決まる.
E = 3𝐸𝐸1 = 𝐸𝐸1∙ 𝐼𝐼𝐼𝐼𝑅𝑅
𝐼𝐼𝐼𝐼𝑅𝑅1 =𝐶𝐶𝑘𝑘𝐼𝐼𝐼𝐼𝑅𝑅=𝐶𝐶𝑘𝑘𝐼𝐼𝐼𝐼𝑥𝑥𝑓𝑓
𝑥𝑥𝑝𝑝
ここで,𝐶𝐶𝑘𝑘[𝐽𝐽 ∙ 𝑘𝑘𝑘𝑘−1]は砕料によって決まる定数である.この物理的概念は,固 体内に蓄えられる弾性ひずみエネルギーに基づき,このエネルギーは粉体の粒 子体積が一定なら粒子径により変化がないことを含んでいる.
Fig.2.1.2, the explanation of Rittinger’s law.
(b) Before breaking (a) After breaking
(c)ボンドの法則[28]
前述の 2 つの考え方を比較すると,リッチンガーは粉砕前後の変化に注目して いるのに対して,キックは砕料の破壊直前に注目しているが,ともに粉砕を理 想的な破壊としてとらえていることが分かる.これに対してボンド(1952年)は,
粉砕を無限に大きい粒子を粒子径がゼロの無限個数の粒子にする途中の現象で あるとしてとらえ,リッチンガーおよびキックの中間的な考え方を示した.粉 砕の開始段階では,粒子に加えられたひずみエネルギーは粒子の体積に比例す るが,粒子内にき裂が発生した後には生成した破断面積に比例するとし,砕料 単位質量当たりの粉砕仕事量として次式を提案した.
E =𝐶𝐶𝐵𝐵� 1
�𝑥𝑥𝑝𝑝− 1
�𝑥𝑥𝑓𝑓�
ここで𝐶𝐶𝐵𝐵�𝐽𝐽 ∙ 𝑚𝑚1 2⁄ ∙ 𝑘𝑘𝑘𝑘−1�は砕料によって決まる定数である.ボンドは上式の実用
性を高めて,粉砕に要する仕事量をW[𝑘𝑘𝑘𝑘 ∙ ℎ ∙ 𝑡𝑡−1]で表した次式を提案している.
Fig.2.1.3, the explanation of Kick’s law.
W =𝑑𝑑𝑖𝑖��100
𝑥𝑥𝑝𝑝0.8− �100 𝑥𝑥𝑓𝑓0.8�
ここで,𝑥𝑥𝑓𝑓0.8[𝜇𝜇𝑚𝑚],𝑥𝑥𝑝𝑝0.8[𝜇𝜇𝑚𝑚]は粉砕前後の80%通過粒子径である.ボンドは上式
の𝑑𝑑𝑖𝑖[𝑘𝑘𝑑𝑑 ∙ ℎ ∙ 𝑡𝑡−1]を,1 トンの砕料を無限の大きさから,100[𝜇𝜇𝑚𝑚]まで粉砕する のに必要な仕事と定義し,これをワークインデックス(Work Index),粉砕仕事 指数と定義している.粉砕に要する仕事量の予測に上式が広く使われているの は,この𝑑𝑑𝑖𝑖値を知ることにより粉砕仕事量の予測を可能にしたためである.
2.2咀嚼による食品の破壊理論 [35]
咀嚼による食品の破壊は(i)歯による 3点曲げと,(ii)歯の押し込みによって考え ることができる(Fig.2.2.1).歯による3点曲げについて,食品が梁のようにして 振る舞うとして考えると,その変位は次式によって求められる.
δ= 3𝐹𝐹𝐹𝐹3⁄4𝐸𝐸𝐸𝐸𝑡𝑡3
ここでFは荷重,Eは食品のヤング率,l, b, tはそれぞれ梁の長さ,幅,厚さを 表す.曲げによる応力は食品の歯の先端に対し,反対側の表面で最大となり,
咀嚼による破壊応力は次式で与えられる.
𝜎𝜎𝐹𝐹 = 3𝐹𝐹𝐹𝐹⁄2𝐸𝐸𝑡𝑡2
食品の変位はδ以下であるため,食品の破壊を表す不等式は以下のようになる.
𝜎𝜎𝐹𝐹⁄𝐸𝐸 > 2𝛿𝛿𝑡𝑡 𝐹𝐹⁄ 2
ここで左辺は食品の 2 つの機械的性質を表し,右辺は食品の形状や大きさ,変 形量を表す.式(1)~(3)はき裂が生じる以前の荷重のみを考慮した式となってい るが,実際の破壊
はき裂の進展により生じる.1度梁にき裂が入ると,その時の応力場は臨界応力 拡大係数によって次式で表される.
𝐾𝐾𝐼𝐼𝐼𝐼 = 𝑐𝑐𝜎𝜎𝐹𝐹√𝜋𝜋𝜋𝜋
ここでaはき裂の長さ,cは梁の大きさ,形状により決まる無次元量である.(4) 式をEで割ると,次式が与えられる.
𝐾𝐾𝐼𝐼𝐼𝐼⁄𝐸𝐸 = (𝜎𝜎𝐹𝐹⁄𝐸𝐸)√𝜋𝜋𝜋𝜋
この式より,食品が長さaのき裂を生じた場合,𝐾𝐾𝐼𝐼𝐼𝐼⁄𝐸𝐸は𝜎𝜎𝐹𝐹⁄𝐸𝐸と等しくなること が分かる.しかし,𝐾𝐾𝐼𝐼𝐼𝐼⁄𝐸𝐸は均一な物質の弾性変形のみを考慮していて,き裂ま わりの塑性変形を考慮していない上に,エネルギーに基づいたき裂伝播につい ては計算がなされていない.これらの理由から,この式を食品に適応すること
は困難であるとされている.ここで応力に基づいた式である(5)を以下の近似式 を用いることでエネルギーに基づいた式に変換することができる.
𝐾𝐾𝐼𝐼𝐼𝐼2 ≈ER
ここでRは,𝐺𝐺𝐼𝐼𝐼𝐼, 𝐽𝐽𝐼𝐼𝐼𝐼と呼ばれることもあり,単位面積のき裂の形成に必要なエ ネルギーを表す.この式を変換すると次式が求まる.
√𝑅𝑅 √𝐸𝐸⁄ ≈(𝜎𝜎𝐹𝐹⁄𝐸𝐸)√𝜋𝜋𝜋𝜋
ここで,√𝑅𝑅 √𝐸𝐸⁄ は(i)のような条件下で粉砕される粒子の傾向を表す指標である.
もし,き裂が歯の先端に近い場所に生じた場合,き裂進展が遅いならば,上式 が成り立つ.ほとんどの場合,歯の先端は食物に対し,くさびとして働き,そ のような場合は次式で表される.
√𝑅𝑅 √𝐸𝐸⁄ = 0.866𝑢𝑢𝑢𝑢1.5⁄𝜋𝜋2[1 + 0.64𝑢𝑢 𝜋𝜋⁄ ]2
ここでw=0.5bであり,uはき裂が始まる点における歯の接触幅を表す.
Fig.2.2.1, The two generalized ways in which a food particle may be considered to crack.
(i) (ii)
2.3ゼリー強度
ゼリー強度は寒天・ゼラチンの品質を評価する指標として使われている物性で ある.ゼリー強度の定義は寒天とゼラチンで異なり,寒天の場合は「プランジ ャで押し込み荷重を加えて,試験片にき裂が生じた際の荷重」と定義され,ゼ ラチンの場合は「プランジャで押し込み荷重を加え,試験片が4mm沈み込んだ 際の荷重」と定義されている.本研究では,後者をゼリー強度として扱ってい く.具体的なゼリー強度測定用試験片の製作方法や,ゼリー強度測定方法に関
してはJISK6503:にかわ及びゼラチン[48]に定められており,これらの方法を
簡単に整理したものを以下に示す.
① 試料7.50 ± 0.01gを規定の大きさのゼリーカップ(Fig.2.3.1)で量りとり,約 15℃の水105.0 ± 0.2mlを加えてかき混ぜ,常温で1~3時間置いて十分に膨潤 させる.
② 65℃の温浴中で20 ± 5分間溶解する.溶解後の溶液を温浴から取り出し,約 35℃になるまで室温で放冷する.
③ ゼリーカップを10.0 ± 0.1℃の恒温水槽に入れ,17 ± 1時間冷却する.
④ 規定の大きさのプローブ(Fig.2.3.2)を侵入距離 4mm まで押し込み,物性測 定器が示した数値(g)を読み取り,これをゼリー強度とする.
同一のゼラチンを用いたとしても,そのゼリー強度はゼラチン濃度・冷却温度・
冷却時間によって変化する[49].Fig.2.3.3 は JISK6503 におけるゼリー強度が
50~250g のアルカリ処理ゼラチンのゼラチン濃度とゼリー強度の関係を表した
図である.これよりゼラチン濃度が上がるにつれて,ゼリー強度も大きくなる ことが分かる.Fig.2.3.4はJS=220g(ゼリー強度:JISK6503)の5%ゼラチン溶 液を5~20℃で冷却したときのゼリー強度の経時変化を表したである.この図よ り,冷却温度が低いほど,ゼリー強度は大きくなることが分かる.また,いず れの温度でも,冷却開始後1~5時間でゼリー強度が急激に上昇し,冷却時間17 時間以降はほぼ一定の値をとることが分かる.Fig.2.3.5 は JS=220g(ゼリー強
度:JISK6503)の1~2.5%ゼラチン溶液を10℃で冷却した際のゼリー強度の経時
変化を表した図である.これより,どのゼラチン濃度においても,冷却時間17 時間以降のゼリー強度はほぼ一定あるいは,緩やかに上昇していくことが分か る.
Fig.2.3.1, The definition of probe. Fig.2.3.2, The definition of jelly cup.
Fig.2.3.3, The relationship between jelly strength and concentration of gelatin.
Fig.2.3.4, The relationship between jelly strength and cooling time of gelatin.
Fig.2.3.5, The relationship between jelly strength and cooling time of gelatin.
3.1 ゼラチンと膵臓の物性
本研究において、臓器模倣体として用いるゼラチンと膵臓の物性を比較するた め、(a)ゼリー強度測定試験,(b)圧縮試験,(c)動的粘弾性測定を行った.
3.1.1実験装置・方法 (a)ゼリー強度測定試験
濃度が異なるゼラチン(新田ゼラチン株式会社)と酵素処理前後の豚の膵臓(芝 浦臓器株式会社)にゼリー強度測定試験を行った.ゼラチンは濃度が2%, 2.25%,
2.5%, 3%の 4 種類を製作した.ゼラチンの製作・ゼリー強度測定試験は
JISK6503で定められた手順で行った.ゼリー強度測定試験は自作のゼリー強度
測定機によって行った(Fig.3.1.1).この測定機では,プランジャ―の上部の紙コ ップにシリンジで水を連続して注入することで,試験片に荷重を加える.プラ ンジャ―が4mm押し込まれた時点で水の注入を止め,その時の水の質量とプラ ンジャ―の質量の和からゼリー強度を求めた.酵素処理前の膵臓のゼリー強度 測定は膵右葉,膵体でそれぞれ3地点と,膵左葉で 2地点の計8 地点にて行っ た.測定は実験 1.2 と同様に,自作のゼリー強度測定機によって行った.N=3 を基準として測定を行い,データのばらつきが多い地点には,より多くの測定 を行った.酵素消化処理後の膵臓のゼリー強度測定は長さと幅が 20mm,高さ 15mmの膵片に酵素消化処理を行い,酵素処理時間がt=3, 5, 10, 15, 20, 40(min) の際の膵片に対し,ゼリー強度測定を行った.酵素消化処理は37℃に保たれた CLS4(船越株式会社)とWilliams溶液の0.5mg/mlに膵片を浸ることで行った.