有明海 北部沿 岸の干潟堆積物に含 まれ る有機物
近 藤 寛
長崎 大学 教育 学部 地学教 室 (昭和60年10月31日 受 理)
Organic Matter in the Tidal Flat Sediments the Northern Coast of Ariake Bay
along
Hiroshi KONDO
Department of Geology, Faculty of Education Nagasaki University, Nagasaki, Japan
(Received Oct. 31, 1985)
Abstract
Sediment samples from 15 stations of the tidal flat along the northern coast of Ariake Bay were analyzed for mud content, water content and organic matter. Loss of organic matter upon ignition was also analyzed. Elementary composition and absorption spectra of humic acids from 8 samples were determined.
The sediments in the tidal flat off Kashima have more mud content, water content and loss on ignition (550°C, lh.) than is found in the sediments from the tidal flat of the Chikugo delta. The contents of mud and water are 95.37-99.88% and 61.8-79.9%
respectively.
The loss on ignition at 550°C for 1 hour ranges from 7.47% to 13.50% and the mean value is 11.67%. The average ratio of loss on ignition/organic carbon is 5.29.
The average content of organic carbon, total hydrogen and total nitrogen in the samples is 2.21, 0.90, 0.255% respectively. The C/N ratio varies between 7.31 and 10.
18. Samples from the tidal flat off Kashima have a slightly higher nitrogen content, lower organic carbon and therefore a lower C/N ratio.
The humic acids vary between 0.64% and 0.99% in the 8 samples, and average 0.75%. There is a good correlation between humic acid content and organic carbon content. Determination of elementary composition in the humic acids showed the following averages : carbon, 53.82% ; hydrogen, 6.07% ; and nitrogen, 5.69%. The nitrogen content of humic acids in the tidal flat sediments of Ariake Bay are higher than in other lake and marine sediments. The humic acid has a weak absorption band near 405mp.
1.はじめに
九州北西部に位置する大きな内湾である有明海は,本邦最大の潮差を示し,沿岸部に広 大な干潟が発達することで知られている。湾奥部の干潟は,六角川河口付近を境にして,
東側の筑後川デルタと西側の鹿島沖泥質平担地にわけられる(鎌田他,1980)。筑後川デル タ地域の干潟堆積物は,河口域セ砂質であるが,早津江川河口域より西でシルト質である。
一方,鹿島沖泥質平担地の干潟堆積物は,中央粒径値(Mdφ)が7φを越える極細シルト.
であり,所々で8φを越える粘土となっ.ている(西海区水産研究所,1981)。これらの干潟 堆積物に含まれる有機物量は,堆積物の粒度組成に関連し,細粒な泥質堆積物で高いこと が知られている(鎌田他,1980;鎌田,1985)。
沿岸部における干潟堆積物の性状と有機物量は,鎌田他(1979)により報告されている。
それによると,有明海北部沿岸の泥質な干潟堆積物に含まれる有機炭素と全窒素量は,六 角川河口付近を境として,東側の川副町,柳川市沿岸部の泥質堆積物で高くなっている。
また,炭素率(C/N比)も,この地域の試料で高いことが明らかにされている。本論は,
有明海北部沿岸の泥質な干潟堆積物に含まれる有機物の特徴と地域的な分布について,さ らに検討を行ったものである。
この研究は,長崎大学水産学部道津喜衛教授を研究代表者とする「有明海の有用干潟生 物の分布と増殖に関する研究」(昭和58・59年度科学研究費一般B,課題番号58480065)の 一環として行われた。種々のご指導をいただきました道津喜衛教授,また,干潟堆積物の 研究の意義や方法などについて多くのご指導,ご鞭健をいただきました教育学部地学教室 鎌田泰彦教授に厚くお礼申し上げます。
2,試料の採取と分析方法
2.1 試料の採取
第1表 有明海北部沿岸の干潟堆積物採取地点 1984年3月12〜14日の干潮時に,有明海北 (干拓地名は西海区水研(1981)による。)
部沿岸肝潟において・・一3㎞の間隔で設Table1・ 1鯉thetidalflatsldiment けた15地点で,表層部約5cmの深さまでの干
潟堆積物を採取した(第1表,第1図)。その 内の8地点では,長さ1m,内径40㎜の塩化 ビニール製パイプを差し込み,コアーの採取 と観察を行った。採取した堆積物試料は,一 20℃の冷凍庫内で冷凍して保存した。
2.2 分析方法
含水量:解凍後,秤量した試料を105。Cで24 時問乾燥させたあと,デシケーター内で冷却 し,秤量して水分の減量の割合(%)を求め
た。
地 点 地 名
1 佐賀県鹿島市七浦町七浦干拓
2,3.4 〃 杵島郡白石町有明干拓
5 〃 〃 福富町福富干拓
6 〃 佐賀郡久保田町久保田干拓
7.8 〃 〃 東与賀町東与賀干拓
9 西川副干拓
10.11 〃 〃 川副町国造干拓
12.13 〃 〃 〃 南川副干拓
14 大詫間干拓
15 福岡県柳川市昭南町昭代干拓
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第1図 干潟堆積物試料の採取地点,干潟の分布(西海区水研,1981)および堆積物の区分 (鎌田他,1980)
Fig.1.Location of the tidal flat sediment samples along the northern coast of Ariake Bay.
含泥量:試料の懸濁水を250meshの飾で水節する。節を通過した懸濁水に10%硫酸アル ミニウム溶液を加え,泥分を凝集させる。1日放置した後,上澄液を除去し,沈澱した泥 分は遠心分離によって回収する。回収した泥および節に残った砂は乾燥後,それぞれ秤量
し,含泥量(%)を算出した。
強熱減量:DEAN(1974)の方法を用いた。測定される有機物量は,乾燥試料を電気マッ フル炉内で550。C,1時間加熱した後の減量の割合(%)である。その後,炭酸塩類の分解 によるCO2量を示す8500C,1時間加熱による強熱減量も測定した。
CHN組成:次の前処理を行った試料について測定を行った。試料に含まれる炭素C,水 素H,窒素Nの測定は,柳本製作所製のCHNコーダー(MT−500S型)を用いる乾式燃 焼法によりなされた(鎌田他,1979)。なお,CHNコーダーによる測定値は,試料の前処 理による減量により,もとの全乾燥試料に含まれる炭素,水素,窒素量に換算している。
① 5%HCl液を加え,貝殼などの炭酸塩類に由来する無機の炭素を除去した試料 測定値は,有機炭素Org.C,全水素H,全窒素Nとして示した(付表1)。
② 30%H202を加え,有機物を分解した試料
5%HCl液により炭酸塩類を分解して除去した試料に,30%H202を加えて1週問処 理した(近藤,1985)。.実体顕微鏡で未処理の砂粒子を観察すると,石炭,植物繊維などが 認められた。そこで,H202を加えても石炭,木炭,コークスなどは分解しない(RoBINsON,
1927;GRIFFIN and GoLDBELG,1975)ことを利用して,これらの無機的な炭素,水素,
窒素量を測定した後に、①で測定した有機炭素,全水素,全窒素量よりこれらを差し引 き,有機態炭素,有機態水素,有機態窒素の量を求めた(小山,1982〉(付表2)。
③HF溶液(46%HFとH20の容量比1:0,1:1)とINH2SO4液を加え,粘土
分の珪酸塩鉱物を破壊した試料
試料の含泥量は95%を越えるので,有明海の海底堆積物に多いモンモリロナイトやイ ライトなどの粘土鉱物(青峰他,1954)に吸着や結合した炭素,水素,窒素の量は多い と考えられる。そこで,粘土鉱物など,粘土分の珪酸塩鉱物の破壊による炭素,水素,
窒素の減少量を知るため,堆積岩中の珪酸塩鉱物のfixedNH4−N測定に用いられるHF 処理(市原,1983)を施した試料についてC,H,N量の測定を行った。
フミン酸:フミン酸の抽出は,熊田(1981)の方法を用いた。試料に0.1N NaOH+0.1 M Na、P207(1:1)を加え,沸騰湯浴中で30分間加熱する。濾液にHCl(1:3)を加
え,pHを約1.5として沈澱を生じさせ,濾別と遠心分離によりフミン酸を集めた。
フミン酸1〜1.5㎎を0.1%NaOH液20mlに溶かした液を,島津製作所製の分光光度計
(UV−200型)を使用して,可視吸収スペクトルを測定した。測定値は,フミン酸濃度1
㎎/10ml溶液の値に換算した。フミン酸のC,H,N量は,フミン酸約20㎎を石英ガラス製 ボートにのせ,CHNアナライザーで測定した。
3.干潟堆積物の性状
有明海湾奥部の干潟は,干拓事業により耕地化されている。そのため,沿岸部のほとん どの所に堤防が築かれ,海側の堤防下は,捨て石が敷き積まれていたり,コンクリートで 固められている。軟弱な泥質堆積物は,これらの上に堆積しているが,岸から離れると厚 く堆積している。現地では,岸から約1mほどの所で,45〜95cm長のコアーが採取できた。
採取した7本のコアーを縦に切り,断面を観察した結果について述べる。
コアーの表層部の約1cmは,極めて軟らかい淡黄土色の泥であるが,淡灰色を呈するコ アーもある。その下位には,13ないし27cmの深さまで淡灰色の軟らかい泥がある。その下 には,灰黒色の泥があり,H2S臭が感じられる。この黒色泥がやや硬くなったコアーもあ る。コアーの泥の中には,所々に巻貝,カキ殼,植物破片がみられた。7本のコアーにお いて測定した泥温は,表層部で9.5〜24.7。Cであり,約95cm深度の所では,st.4で10.6。C,
st。12で10.4。Cであった。
. ● o . 100 ㎜ 表層堆積物15試料の含水量は61.8〜79.9%
98 の範囲にあり,平均値69.6%である。含水量誉 』』95 は,調査地西部の鹿島沖泥質平担地のst.1
〜5の試料で高い。
含泥量は,14試料では98.26〜99.88%であ るが,st.15の試料の含泥量は95.37%であり やや低くなっている。これら15試料の含泥量 の平均値は99.18%である。地域的には,筑後 川デルタ地域の試料の含泥量はやや低く,st.
8,12〜15では平均値を下まわっている(第
卜z o94リ ロ=⊃92 Σ
90
圖UO CONTEN了
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 ℃ 11 !2 13 1る 15
LOCA了10N OF SAMPIE
第2図 干潟堆積物試料の含泥量と含水量 Fig.2.Mud content and water content in the tidal flat sediment samples.
2図)。なお,鎌田他(1979)の調査によるst.19〜26の8試料では,含泥量の地域差は明瞭 でなく,含泥量の平均値99,32%(N=8)は,今回の測定値より高くなっている。きた,
粒度組成では東部の筑後川デルタの堆積物(st.23〜26)は中央粒径値が小さくなっている
(第3図)。
第3図 有明海北部沿岸における干潟堆積物のCH N組成,C/N比および含水量 (Oは鎌田他(1979)の調査による中央粒径値)
Fig.3.Areal distribution of organic carbon,total hydrogen,total nitrogen,
C/N ratio an(l water contents in the tidal flat sediments.
双眼実体顕微鏡で観察される干潟堆積物の砂の粒子は,雲母,石英などの鉱物粒子や植 物繊維,石炭粒子,ケイ藻,貝殼片などである。植物繊維が比較的多い試料は,st.8,
10,12,13,14,15である。石炭粒子は全ての試料にみられるが,やや多い試料は,st.
2,7,8,9,10,12,13,14であった。全体として,筑後川デルタ地域の試料の砂粒 子は,石炭粒子や植物繊維に富む傾向があると思われる。この点については,今後,砂粒 分析を行う必要があると思われる。なお,これらの石炭微粒子は,佐賀県杵島地区で以前 に操業されていた炭鉱の洗炭汚水が六角川に流れ込み,有明海に運ばれたものと考えられ る。なお,有明海や諌早湾の海底堆積物に石炭粒子が含まれることは,すでに明らかにさ れている(九州農政局,1979)。
4.結果と考察
4.1 強熱減量
底質試料に含まれるおおよその有機物量を示す強熱減量は,7.47〜13.50%の範囲にあ り,平均値で11.67%である(第2表)。この値は,鎌田他(1979)の調査による湾奥部の 8試料(st.19〜26)の平均値12.04%とほぼ同じ値である。しかし,諌早湾沿岸の干潟堆積 物26試料の平均値7.89%(鎌田他,1978)より高くなっている。一般に強熱減塩は含泥量
第2表有明海北部沿岸の干潟堆積 物の含泥量と強熱減量
Table2.Mudcontentand
Ign蓋tionloSs
(550℃,1hr.,850℃,1hr。)
Mud Ign ition Ioss g{
s t. content
% 550℃,1h850℃,1h
1 99.84 12.16 1.82
2 99.40 12.45 1.81 3 99.79 13.50 1.96 4 99.77 13.20 2.03
5 99.88 12.77 0.68 6 99.81 13.43 1.31 7 99.66 11.87 1.96 8 98.92 11.38 1.48
9 99.76 12.16 1.74 10 99.50 11.53 2.16 11 99.78 13.04 2.22 12 98.97 10.08 2.82 13 98.26 9.62 3.37 14 99.01 7.47 4.84 15 95.37 10.37 1.26
●●
15
のの10
0
一』
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←
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0
550℃ 1hL
r=0.50 y30.73x−60。29
N=15
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0
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響c尉 8.
1も12
●14
o
o ロ 8500C 。鴫 O olhr o 94 96 98
MUD CONTENT
100● ・
第4図 強熱減量と含泥量との関係
(●:550℃,1hr.,○:850℃,1hr.)
Fi& 4.The relationship between ignition l oss and organi c carbon.
と正の相関を持っているので,諌早湾沿岸の干潟堆積物より高い含泥量をもつ有明海湾奥 部の干潟堆積物において,強熱減量が高いものと考えられる(第4図)。含泥量が高い鹿島 沖泥質平坦地のst.1〜5の試料の強熱減量は平均値より高く,12.16〜13.50%である。一 方,筑後川デルタ地域内では,東部のst.12〜15で低く,7.47〜10.37%となっている。
CO2量に相当する850℃,1時間の強熱減量は0.68〜4.84%の範囲にあり,平均値は 2.10%である。これは,CaCO3量に換算すると,それぞれ1.55〜11.00%,平均値は4.77%
となる。この値は,5500C,1時間の強熱減量とは逆に,筑後川デルタ地域の含泥量が低い st・10〜14の試料において高く,5.05〜11.oo%である(第2表)。
550℃,1h。の強熱減量(Y)と有機炭素(X)はY二4。56X+1.61(r=0.46)の関係が ある。また,有機炭素量に対する強熱減量の比率は,3.61〜6.23の範囲にあり,平均値は 5.29である。強熱減量と有機炭素量の関係は,DEAN(1974)によると,50個の湖底堆積物 では,有機炭素:強熱減量=1:2.13±0.4であり,また,TRASK(1939)によると,5%
以下のCaCO3を含む海底堆積物では,有機物量(有機炭素×1.8)=強熱減量×(強熱減量+
10)÷40である。今回の試料においては,有機炭素に対する強熱減量の比率が高いが,これ は,試料は粘土分に富むため,粘土に吸着した水分の影響により,強熱減量が高くなって いるためと考えられる。
4.2 CHN組成
塩酸,フツ酸,過酸化水素水による処理の減量,および処理後の試料のC,H,N量,
C/N比は第3表に平均値として示した。C量とN量の関係は第5図に示した。図中のOr・
ganic C,Nは有機態炭素,有機態窒素である。
5%HCl液で処理した試料の
測定により有機炭素Org.C,全水 素H,全窒素Nが得られる(付表 1)。Org.C量はL92〜2.53%の 範囲で平均値は2.21%,H量は 0.83〜0.97%で平均値は0.90%,
N量は0.216〜0.310%で平均値は 0。255%である。次に,炭素率(Org.
C/N)は7.31〜10』18で,平均値は 8.70である。
以上の平均値は,鎌田他(1979)
による湾奥部の沿岸の8試料(st.
19〜26)の平均値,C:2.03%,
H:0.90%,N:0.255%,C/N 比:9.78と比較すると,Org.C,
N量は高く,C/N比は小さくなっ ている。平均値におけるこれらの 差は,試料の前処理方法の違いや
第3表 塩酸,フッ酸,過酸化水素水処理後の試料のC,H,
N量(%),C/Nおよび可溶量(15個の平均値)
Table3,The average carbon,hydrogen an(i nitrogen contents of the sediment samples by pretreatment with the5%HC1,
HF(1:1),HF(conc.)and H202(conc,).
処 理 液 C H N CIN 可溶量%
5%H C l
F(1:1)
F(conc.)
202(conc.)
2.21
.73
.52
.29
0.90
.31
.25
.61
O,255
,119
,097
,024
8.70 4.70 5.82 1.75
12.20
3.72 9.83 8.82
y・
2
試料の採取時期が異なること(鎌ぎ の田他(1979)では,8,11,12月 瑳 りに採取)などにより生じたものと 1 考えられる。
Org。C,H,N量の地域的な差 は明瞭でないが,鹿島沖泥質平坦 地の5試料は,筑後川デルタ地域 の試料と比較して,Org.C量は低
く,H,N量は高い傾向を示して いる。C/N比は鹿島沖泥質平坦地 のst。1〜4の試料,筑後川デルタ 地域内のst.11,13〜15の試料では 低くなっている。(第3図)。
0
o
ロ 0 8\
の けドてセめ
ロパ
晦婁重
チH2。2(3。嚇
∫
HCl(5噸o)
● 、●
● ρ
●ロ
・呂 ロ押ロo
&9α課Cc,N
0 0.1 0.2
NITROGEN
03 噸.
第5図 塩酸,フッ酸,過酸化水素水処理後の試料のCとN Nの関係および有機態炭素と有機態窒素との関係
Fig,5,The relatioaship between carbon and nitrogen.
鎌田他(1979)は有機物組成の面からみて,湾奥部の干潟堆積物は地点Nα21とNQ22の間 を境にして,1:多良岳山麓地域,II l筑後川デルタ地域に区分できるとしている。今回 の調査では,Org.C量,N量,C/N比による地域区分は鎌田他(1979)と同じくst.4と st.5の間を境にして設定したが,C,N量は鎌田他(1979)による含有量とは逆に,鹿島 沖泥質平坦地の試料において高くなっている(第4表)。なお,筑後川デルタ地域の試料に おいては,Org。C,C/N比は東部の試料でやや低くなっている。
次に・5%HC1液処理試料の有機炭素,全水素,全窒素量より,H,0、処理試料のC,
H,N量をそれぞれ差し引いて求めた有機態炭素,有機態水素,有機態窒素について述べ る(付表2)。有機態炭素量は,1.74〜2.28%の範囲にあり,平均値1.92%,有機態水素量
第4表 有明海北部沿岸の干潟堆積物のCHN組成(平均値と範囲)
Table4.The mean and range values of the organic carbon,total hy(irogen,total nitrogen contents and C/N ratio,
地 域 試 料 数)
Elementary composition %
Total Org.C
N
H N
筑後川デルタ
(11)
2.24
.92−2.53
0.89
.83−0.97
O.250
,216−0,310
9.01
.06−10.18
鹿島沖泥質平担地
(4)
2.11
.04−2.20
0.92
.86−0.97
0.269
,255−0,286
7.85
.31−8.31
全地域(15) 2.21 0.90 O,255 8.70
は0.19〜0.39%で平均値0.29%,有機態窒素量は0.190〜0.286%で平均値0.231%である。
有機態のC/N比は7.15〜9.85で平均値8.37である。有機態C/N比は,鹿島沖泥質平坦地 のst.1〜4の試料で低くなっている。なお,H202処理後の試料に残る炭素は,有機炭素 Org.Cの約13%(平均値)である。この炭素の一部は,試料に含まれる石炭粒子に由来す
るものと考えられる。
第3表に示されるように,HF(conc∂液による処理は,HF(1:1)液による処理よ りも,試料の可溶量は高く,C,H,Nの残存量は低くなっている。ここでは,珪酸塩鉱 物のfixedNH4−Nの測定で使われる濃度のHF(1:1)液(市原,1983)で処理した 試料のC,H,N量について述べる(付表3)。測定された試料のC量は,平均値L73%で ある。これは有機炭素Org.Cの含有量2.21%(平均値)の78.3%に相当する。従って,有 機炭素Org.Cの約22%はHF(1:1)液により溶出されたことになる。C量の溶出する 割合が22%を越える試料は,st.1,3,11,14である。全般に,筑後川デルタ地域の試料 は,溶出するC量の割合が低い。窒素については,HF(1:1)での処理により溶出する N量は,全窒素量の約53%である。N量が溶出する割合が53%を越える試料は,鹿島沖泥 質平坦地のst.1〜5および筑後川デルタ東部のst.13〜15にある。以上のように,有明海沿 岸の干潟堆積物において,HF(1:1)液で溶出するC,N量は,試料により地域的な相 違を示し,また炭素よりも窒素が溶出する割合が高い。この原因は,H F(1:1)にょり 粘土鉱物などの珪酸鉱物の破壊によるが,一部の有機物が分解して生じたことも考えられ るので,今後検討していく必要がある。
4.3 フミン酸
抽出されたフミン酸の量は,乾燥試料の0.64〜0.99%で,平均値が0.75%である。含泥 量が低いst。13,15の試料では低く,ともに0.64%である(付表4)。海底堆積物のフミン酸 量は,べ一リング海のSilt−claymudで0.78%,clay mudで0.48%である(BoRDovsKIY,
1965)。有明海の干潟堆積物のフミン酸量は,これらの値とおおよそ一致している。フミン
り
oZ
くo o匡
ぎ・
2
0
●5 3●●7 ●9
13●
●,
15●
●11
r=0.82 y=1.31x◆1.22 N=8
1。0。ノ。
Table 第5表 フミン酸のC H N組成
5.Elementaty composition of humic acids from tidal flat sediments of Ariake Bay.
Ash* Elementary composition % Atomic ratio
st.
(%) C H N 0 H/C N/C
1 3.42 53.84 6.21 5.89 30.64 1.37 0,094 3 3.49 54.34 6.53 6.27 29.37 1.43 0,099
5 3.85 53.16 5.62 5.43 31.94 1.26 0,088 7 1.99 54.17 6.08 5.38 32.38 1.34 0,085 9 2.92 54.77 6.34 5.91 30.06 1.38 0,093 11 3.00 53.83 5.79 5.84 31.54 1.28 0,093 13 2.66 53.14 5.82 5.26 33.12 1.31 0,085 15 2.84 53.32 6.18 5.53 32.13 1.38 0,089
O.4 0.6 0.8
HUMl C ACl D
*灰分量とC,H,N,0量の合計で100%になる。
第6図 有機炭素とフミン酸との関係 Fig.6.The relationship between the organic carbon and humic aci(ls.
酸量は,有機炭素量と一般によい正の相関関係がある(BORDovsKIY,1965)が,有明海の 干潟堆積物においても,よい正の相関(r二〇.82)が認められた(第6図)。
フミン酸のC,H,N量は,第5表に示す。酸素量0としたものは,フミン酸試料の初 量より,C,H,N量と灰分量を引いた残りの量である。なお,付表4は,フミン酸の含 有量(%)より,全乾燥試料に含まれるフミン酸のC,H,N量に換算したものである。
フミン酸のC,H,N量の平均値は,C:53.82%,H::6.07%,N:5。69%である。湖 や海底の堆積物より抽出したフミン酸の元素組成は,本州の中部に位置する11か所の湖の 堆積物では,平均値で(N=11)C:50.64%,H:5.57%,N:5.13%(石渡,1967),
網走湖の堆積物では,平均値で(N=7)C:53.03%,H:5.03%,N:4.14%(渡辺,
1972),べ一リング海の堆積物では,C:54.11%,H:6.48%,N:3.00%(BoRDovsKIY,
1965)である。これらの海底堆積物のフミン酸の元素量と比べて,有明海沿岸の干潟堆積 物のフミン酸は,N量がやや高いことで特徴づけられる。
次に,波長200〜700血μにおける可視吸収スペクトルを測定し,フミン酸1㎎/0.1%
NaOH10mlに換算した吸光度logk一λ曲線を第7図に示した。これらの吸光曲線は,いずれ も405mμ付近に弱い吸収帯をもっている。
フミン酸の可視吸収スペクトルにみられる405mμ付近の吸収帯は,桑野(1962)によっ て,海底堆積物のフミン酸に特徴的に見られ,腐植化が進行するにつれピークが明瞭にな ると報告されている。また,この吸収帯は,海棲プランクトン,特に植物プランクトンに 由来するフミン酸の特徴であると推定されている(桑野・桑野,1963)。このフミン酸の吸
収スペクトルによって,フミン酸の分類がな された例として,北海道のサロマ湖・厚岸湖・
厚岸湾の底質中のフミン酸についてヴ吸収ス ペクトルを測定した渡辺(1969)は,405mμ 付近の吸収帯に注目し,1型=短波長より長 波長に向かってほぼ直線的に上昇するもの,
II型:波長405mμ付近に肩状の吸収帯をも つもの,HI型:405mμ付近の吸収帯がII型よ りさらに顕著なもの,の3型を区別した。そ して1型は,河川により運び込まれた陸源有 機物の供給と密接に関係し,II・m型にみら れる405mμの吸収帯は海棲プランクトンに 由来するフミン酸の特徴であり,II型は1型 とm型の中間的性質のものと考えられる(渡 辺,1969)。有明海沿岸の干潟堆積物試料に含
まれるフミン酸の吸収スペクトルは,405mμ 付近の吸収帯は弱いが,渡辺(1969)のII型 に相当するであろう。従って,有明海沿岸の 干潟堆積物のフミン酸は,陸源と海成の有機 物に関連したフミン酸であると考えられる。
0 0
2盆
蕊
2働α5
一1
一1.5
300 の0 500 600 700mp λ
第7図 フミン酸の可視吸収スペクトル Fig.7.Visible spectra of humic acids.
5.ま と め
有明海北部沿岸の干潟において,15個の堆積物試料を採取し,含泥量,含水量,強熱減 量,CHN組成の測定を行った。また,8個の試料については,フミン酸を抽出し,そのCHN 組成と可視吸収スペクトルの測定を行った。
(1)含泥量は95.37〜99.88%であり,筑後川デルタ地域の試料でやや低い。含水量は,
61.8〜79.9%であり,鹿島沖泥質平坦地の試料で高い。
(2)550℃,1時問加熱による強熱減量は7.47〜13.50%,平均値は1L67%である。含泥 量が高い鹿島沖泥質平坦地の試料は,強熱減量が大きい。有機炭素量に対する強熱減量の 比率は,3.61〜6.23の範囲にあり,平均値は5.29である。
(3)有機炭素量の平均値は2.21%,全水素量の平均値は0.90%,全窒素量の平均値は 0.255%である。C/N比は7.31〜10.18であり,平均値は8.70である。有機炭素Org.C,全 窒素Nの量,C/N比より有明海北部の干潟堆積物は,st.4とst.5の問を境にして,鹿島沖 泥質平坦地と筑後川デルタ地域に区分できる。
(4)有機態炭素,有機態水素,有機態窒素量は,5%HC1液で処理した試料の有機炭 素,全水素,全窒素量より,H202処理試料のC,H,N量をそれぞれ差し引いて求めた。
有機態C/N比は,鹿島沖泥質平坦地のst。1〜4の試料で低い。なお,H202処理試料の炭 素の一部は,石炭粒子に由来する炭素であると考えられる。
(5)HF(1:1)液で試料を処理した場合,有機炭素Org.Cの約22%の炭素が溶出す
る。また,全窒素Nの約53%の窒素が溶出する。鹿島沖泥質平坦地のst.1〜5および筑後 川デルタのst.13〜15試料は,窒素が溶出する割合が高い。
(6)抽出されたフミン酸の量は0.64〜0.99%である。フミン酸の量は有機炭素量と正の 相関(r二〇.82)を示す。有明海干潟のフミン酸は,他の地域の海底堆積物のフミン酸よ りもやや窒素に富んでいる。フミン酸の可視吸収スペクトルの測定の結果,いずれも405 mμ付近に弱い吸収帯が認められる。
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付表1 5%H C l処理試料のC H N組成およぴ
可溶量 付表2 有機態C H N量および有機態C/N比
Organic Total Org.C 5%HCl
oluble 有機態 有機態 有機態
st. st. C H N C/N
C% H% N% TatalN % % % %
1 2.04 0.94 0,279 ,7.31 13.38 1 1.83 0.35 0,256 7.15
2 2.08 0.86 0,257 8.09 14.41 2 1.76 0.ZO 0,235 7.49
3 2.20 0.97 0,286 7.69 11.02 3 1.93 0.31 0,261 7.39 4 2.12 0.91 0,255 8.31 14.56 4 1.83 0.25 0,230 7.96
5 2.32 0.95 0,252 9.21 12.02 5 1.92 0.28 0,224 8.57
6 2.53 0.96 0,289 8.75 14.78 6 2.13 0.32 0,259 8.22
7 2.25 0.92 0,229 9.83 12.27 7 1.87 0.39 0,203 9.21
8 2.23 0.83 0,257 8.68 11.22 8 1.86 0.28 0,233 7.98 9 2.23 0.89 0,224 9.96 12.48 9 1.94 0.31 0,201 9.65
10 2.15 0.88 0,216 9.95 11.93 10 1.87 0.29 0,190 9.84 11 2.53 0.97 0,310 8.16 13.00 11 2.28 0.37 0,286 7.97 12 2.30 0.87 0,226 10.18 10.69 12 1.99 0.32 0,202 9.85 13 2.12 0.86 0,263 8.06 11.83 13 1.92 0.28 0,241 7.97 14 2.07 0.86 0,255 8.12 10.32 14 1.90 0.28 0,234 8.12 15 1.92 0.83 0,234 8.21 9.03 15 1.74 0.19 0,213 8.17
付表3 H F(111)処理試料のCHN組成 および可溶量
付表4 フミン酸量およびフミン酸のCH N組成
(全乾燥試料に含まれるフミン酸のC H N量に換算している)
C H N HF(1=1) Humic C H N
st.
% % % C/N Soluble
%
st. aci(i
% % % % C/N
1 1.52 0.31 O,104 14.62 74.15 1 0.71 0.38 0.04 0,042 9.05
2 1.64 0.29 0,094 17.26 72.01 3 0.71 0.39 0.05 O,045 8.67
3 1.59 0.31 O,094 16.91 70.69 5 0.72 0.38 0.04 0,039 9.74 4 1.69 O.38 0,115 14.70 68.92 7 O.73 0.40 0.04 0,039 10.26
5 1.84 0.33 0,108 17.04 73.77 9 0.84 0.46 Q O5 O,050 9.20
6 1.99 O.35 0,144 13.82 71.47 11 0.99 0.53 0.06 0,058 9.14
7 1.88 0.34 0,120 15.67 73.92 13 0.64 0.34 0.04 O,034 10.00 8 1.77 0.32 0,131 13.51 73.48 15 0.64 0.34 0.04 0,035 9.71 9 1.82 0.31 0,133 13.63 74.04
10 1.74 0.30 O,115 15.13 73.68 11 1.89 0.30 0,147 12.86 73.75 12 1.84 0.30 0,134 13.73 75.33 13 1.70 0.29 O,124 13.71 75.63 14 1.57 O.29 O,113 13.89 76.94 15 1.52 0.26 O,108 14.07 77.96