落 の り 漁 業 規 制 の 法 理
(漁場紛争の法律的研究Ⅲ) 青 塚 繁 志
Juristical Theory concerned the Prohibition of the Fallen Laver (Legal Studies on the Trouble of the Fishing Ground III)
Shigeshi AOTSUKA
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をえず,したがって落のり採取の禁止やそれの前提となる各種漁業を漁場から閉め出すの強行策となって現 われてくるのである。
したがって,まずこれら侵害行為の内容をなす漁業における無主物理論の検討をしてみよう。
第3漁業法における無主物先占理論
漁業法上,漁業権の内容は,「水産動植物の採捕又は養殖」を営む権利であるとされている(漁業法2条工 項)。したがって漁業法23条によって「物権とみなし,土地に関する規定」が準用される漁業権iの物権的性 格は,漁場および漁場に棲息する水産動植物にたいする支配権ではなく,漁場および水産動植物について排 *
他花韮力を有するものではない。
したがって,漁業権者は漁業権にもとづいて漁場を占有し,かつ一切の区域内水族にたいして占有または 所有権を有するものではない。漁業権は特定の漁場において特定の水族を特定の漁法によって一定期間採捕 し養殖しうる権利である。この場合漁業権の客体が「物」でなく,むしろ「行為」の内容であることから,
うを 特別法における物権の変態的なものとする解釈がある。
漁業権は財産権であって用益物権たることは勿論である。 その用益権能の目的は水産動植物の採鴇養殖 にあり,これら採捕,養殖の対象である物の経済的効用によって利益を享受するのが終局の目的である。然 し漁業権iの内容は,直接には漁業権i者に水産動植物の所有権を取得せしめることにあるのではなく,漁業権 の目的である一定内容の漁業行為を排他的になしうるという利益享受を直接に実現しうることにある。
以上の論拠からすれば,採捕した水産動植物の上に発生する所有権と漁業権とは相異なる法律関係に基く ものであるといえる。 しばしば漁業権は無主物としての水産植物の先占を伴うけれども,つねに無主物とは 限らない。とくに区画漁業権の多くは,その経済的対象たる水産動植物は,すでに漁業権者の占有又は所有
に帰属し,漁業権の権能はその所有物を養殖するのが一般的である。
すなわち漁業権行使の結果である無主物たる永産動植物の所有は,民法239条の無主物の先占による効果で一 あって漁業権の権能外の問題である。
ここに無主物とは,現に所有者がないものであり,かつて何人にも所有されなかった物,何人かに所有さ ボみ や れたとしても現在相続人の所有とは考えられないもの,および所有者が放棄したものをふくんでいる。
漁業権行使の結果である水産動植物の所有が,一般的には無主物の先占によるものであることは明らかで ある。この無主物先占理論が漁業権行使にたいする侵害の法意識となっていることは否定できない。俗語に
Cの中のものは誰のものでもない とする観念は,すでに漁業者の所有に帰属したものについてまでおよぼ され,侵害そのものを罪悪罵しない非近代法意識を形成しているものである。
さて本論の落のり採取の場合,問題となるのは,その対象たる落のりが無主物であるか占有物であるかで ある。それは従来の一般的な水産動植物の無主物先占理論をもっては律しえない問題をふくんでいる。
第4落のり所有権取得とその限界
落のり採取の対象であるのりは,一般にすでに養殖業者の所有に帰属せしめられたものであることはいう までもない。,入工法苗であるのり種苗購i入による養殖の場合は,購入によって所有権が帰属しているもので あり,地種養殖の場合も, のりひびえの附着によって漁業権者の占有が開始されているのである。現在のの り生産の状況からは,無主物のままに成育した場合は論外としてよい。
この場合,潮流,風によって,養殖業者の意思によらないでその所持を離れたものがいわゆる落のりどし て採取されるのである。落のり拾得者がのりについて所有権を獲得するのは,(1)その落のりが漁業権者の占 有を完全に離脱し,客観的に無主物先占とみるか,②民法にいう遺失物拾得とみるかの二点のみである。第 一の場合は,所有者からの占有離脱の状態をもって放棄と推定する根拠が必要であり,第二の場合は,採取
* 例えば大11.11.3大凶判決大巾集i巻628頁,li国元12.25大照判決大藩集5巻603頁:,昭9.4.7三民判 決:
ee*末川博〃物権法ク8頁なお同博士は漁業権の内容を水族の所有権を取得しうる物権取得権として いるが,漁業権は採捕した物について所有権を取得せしめる権能はないからこの解釈には疑義が
*鞭 ある。我妻栄/・民法講義11ク198頁)
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のみによっては,所有権をうるものではなく,遺失物法の定ある手続ののちか,縁たは水難救護法にいう漂 流物としての手続終了ののちである。 落のり採取の実態からは第2の推定は成立しえないところである。
とすれば,落のり採取者がそののりについて所有権を取得するの合法性は,拾得したのりが所有者の放棄 によるものであると擬制する以外にない。 実態は不可抗力的に所有者の意思によらずしてその占有を離脱し たことは明らかであるから, この推定は社会通念によりまたは漁業権者の意思を推定してなす擬制でしかな
い。
本来占有は物を事実上実力によって支配する関係であり,社会的法意識の発展につれて物を支配しうる法 律上のカまたは支配の可能性として認識され,法律上の観念的な支配が今日の占有権,所有権の内容となっ ている。このように所有権から思惟上の支配やその可能性を内容とし,いわゆる心素が重要な要素となるも のであるから,落のりをもって養i殖業者の占有を離れ,放棄されたものと推定するのは疑義があるかもしれ ない。さらに,近時のように漁家経済ののり生産にたいする依存度がたかまり,また漁場紛争がはげしくな ってくる場合は,漁業権者は凡ゆる方法によって,ひびのりの離脱を防止するであろうし,また落のりを養 殖業者が拾得するの方法は可能であり,現実の要求ともなっていると考えられる。とすればこのような社会 通念の変化は,落のりをもって直ちに所有者の放棄と推定することはむしろ法的安定を妨げるものかもしれ
ない。
要するに民法上の問題として,落のり採取の合法性を考える場合,漁業権者による占有の意思が無主物か 否かを決定するのであり,落のり拾得者が現実に支配管理している事実のみによってその占有が生ずるもの ではない。
この点について,一般的には単純に前項の無主物先占と同一視し,当然拾得者が占膚権を行使しうるもの とするのは批判の余地があり,個別の場合について異質的に法的判断を行う必要がある。
第5占有離脱物としての落のり
さて以上の民法規範とは異なる立場から考えられるのが刑法上の落のり拾得である。周知のように,刑法 上の占有は,民法占有における心素を必要とせず,現に財物を支配管理している事実を以て足りる。 すなわ ち所持が刑法上の占有の内容である。その所持の観念は,一般的にはいわゆる握持の物理的現実支配のみで なく,対世的に社会経験則からみて支配に属しているかどうかを判断しなければならない。この意味では落
のりのごときは一般的には刑法上の漁業権者の占有に属さないと考えるのが正当であろう。
然しながら, さらに漁業権者某と当該落のりの関係があきらかに拾得者によっても占有ありと判断される 場合は,なお落のりについて漁業権者の所持があるものと判断せざるをえない。すなわち漁業権漁場の周辺 であってのり養殖業者が拾得の意思を有すると考えられ, そのことがその地方での一般経験則になりている 場合は所持の状態にあるのである。したがって,従来一般的にはすでに漁業権者の所持をはなれていたと通 念されていた状態であっても,所有者またはその包括的占有者としての漁業権者が何等かの意思表示によっ て支配管理を標示しえた場合は,なお養殖業者の所持があるのりと判断せざるをえない。その具体例として は,漁業権i利者たる漁協が一般に落のり拾得制隈を禁止したり,委員会指示によって制限する場合である。
勿論この場合であっても現実に支配管理が不能な場所における落のりはすでにその所持を離れたものと解す べきである。
刑法は窃盗および強盗の罪と横領罪をもって,正当な所有権を保護している。 歯入による一般漁業権i区域 **
内の水族採取が窃盗に該当しないことは明らかであるが,落のり採取の場合は上記の基準によって判断せざ るをえない。
すなわち,のり養殖者の所持が対人的に明確であり,採取者もそれを知りうる状態にあるときは落のり拾 得の行為は窃盗罪が適用される。 またその所持が認められず, かつ漁業権者の放棄によるものでない場合 は・占有離脱物横領に該当すると考えられる。放棄と認められない場合はなお馨)り養殖業者に所有権があ り,勿論無主物ではないからである。したがって,その地方においていわゆる落のりとされる場合と錐も三
四末川博〃所持の概念ク(民商 法雑誌38巻3号148頁)
** その採取が漁1嚢権の内容である漁場価値を畏損するに聚つた場合は漁業権侵害(漁業法143条)とし
て行政罰の対象となりかつ:不法行為を構成するのは勿論である。
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棄とみなしえない場合であり,かつ取得者が横領の要件に該当するときは占有離脱物横領を構成し,刑法適 用の対象となるものである6一
以上の現行刑法上の純理的解釈は・落ぞ)ρ採取の実態にそわないものであるかもしれなレ}。然し・一般に 善意無過失の占有者は,その動産上の権利を取得しうるのであるから(民192条),通念的に無主物的態様に ある落のりを採取するのは,善意取得であって横領ではない。ただ民法上,漁業権者の返還請求にたいする 返還義務があり,すでに消費した場合は損害賠償義務を負うのみである。然し実際問題として,このような 無主物的態様を呈する場合は落のりの所有者は確定しえないのが通常であるから,遺失物法適用の実益はな く,また賠償義務も生じない。さらにかりに所有主が確定しうる場合であっても,漁業権者による遺失物横領 の告訴は考えられないから,従来の通念的落のりの場合は刑法上の占有離脱物横領罪が構成されることはな いと:考えられる。
刑法上の落のり採取の性格を法理的に確定する実益は,最近にみられるような漁業権侵害に類似の行為で ありながら,ふっそれに該当しない場合の違法性を明確にすることにある。
一般に漁業権侵害は漁業法上の行政罰に該当するとともに, そのひびに附着したのりの採取は窃盗罪を構 成することは問題のないところである。また,ひびをはなれて海中に漂流するのりを拾得する場合も,それ が漁業権漁場内である場合は,完全に漁業権者の占有に属するものであり,刑法上も所持に該当するから同 上の罪を構成する。最近の故意にひびから離脱せしめ,無主物先占であるとするような場合も,その行為が 確認されないとしても落のりの支配の状態によって上掲の判断は可能である。
問題となるのは,漁業権漁場を離れた場所で,従来の通念からも占有と認められないような場合の犯罪防止 である。最近の後述の各種の漁業権保護手段は,夜間等の間隙をぬって漁業権漁場に侵入するが,監視の場 合は漁業権漁場外水域で落のり採取を行っている者にたいする防止である。 この場合は窃盗現行犯としては 確認できないが,占有離脱物横領をもって対抗できると考える。 例えば漁業権漁場周辺50メe一一・一ト〃以内で は,放棄による落のりの推定はできない。 かつ拾得者が拾得の事実が確認されなお返還の要求に応じないと きは,占:有離脱物横領罪またはその未遂罪をもって防止するのである。従来この種の巧妙な犯罪は」一般的 な水産動植物の無主物論によってその違法性を阻却してきた感があるが,その誤りを正し,正当な法意識の 育成によって漁業権の保護をはかることが必要であろう。
第6 落のりの性格に関する行政解釈
当初水産庁は,「ひびより離脱して海中浮游しているのりは,観念的にはそれが附着していたひびの占有 者の所有に属するものと:考えられるが,現実にひびから離脱することにより,占有者の直接支配管理下を離 れた以上,何人の占有に属していたかを判定することはほとんど不可能であり,実際問題として無主物とし
* 隔
て取扱わざるを得ない」という態度をとっていた。
行政方針が無主物たる基準を求めているのは,占有者の直接支配管理下を離れているかどうかにあるが,
それはいわゆる物理的支配による直接管理の状態であるかどうかの意義に解してよい。然し,民法上の所有 の概念が,法律骨力によって観念的にも所有者の支配管理にあるとするのは近代法的所有の性格であり,ひび つ げ から離脱し、たことおよび占有者の判断が困難であることの理由を以てのみ,支配管理を離れたとし無主物と
することは疑義があるといわねばならない。,通達は上記の二つの基準が観念的支配であるかどうかとするよ うであるが,観念的支配であるにもせよ,法律的力によづご支配管理が認められる以上は無主物とはいえな い。その支配管理の態容はすでにのべたように,当該地方の法意識,個別の事例における占有者と一般入の 落のりに関する法律関係によって決する以外にない。とくに無主物か否かかつ漁業権侵害,刑法上の財物罪 の構成を主として左右する概念である以上,専ら法的安定を目指して解釈が行われる必要がある。それは単 に漁業権i者の不必要な保護に過ぎてはならないが,刑事上の違法性を阻却せしめる安易な概念,決定であっ てもならない。いわゆる離脱とは,物理的支配からの離脱にとどまらない社会的正当性があるからである。
最近では,落のりと同一のケースである落がきの実態からみた概念決定が行われ, 「養殖業者の養殖がき に対する管理の態容および養殖業者の落がきに対する所有の意思等から客観的に決定さるべきであるが,例
ee昭28−.5.6・28水3629号水産庁漁政部長通達(漁業制度関係例規集(一)49頁)
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