• 検索結果がありません。

落 の り 漁 業 規 制 の 法 理

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "落 の り 漁 業 規 制 の 法 理"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

落 の り 漁 業 規 制 の 法 理

(漁場紛争の法律的研究Ⅲ) 青 塚 繁 志

Juristical Theory concerned the Prohibition of the Fallen Laver (Legal Studies on the Trouble of the Fishing Ground III)

Shigeshi AOTSUKA

(2)

ユ78

をえず,したがって落のり採取の禁止やそれの前提となる各種漁業を漁場から閉め出すの強行策となって現 われてくるのである。

 したがって,まずこれら侵害行為の内容をなす漁業における無主物理論の検討をしてみよう。

第3漁業法における無主物先占理論

 漁業法上,漁業権の内容は,「水産動植物の採捕又は養殖」を営む権利であるとされている(漁業法2条工 項)。したがって漁業法23条によって「物権とみなし,土地に関する規定」が準用される漁業権iの物権的性 格は,漁場および漁場に棲息する水産動植物にたいする支配権ではなく,漁場および水産動植物について排        *

他花韮力を有するものではない。

 したがって,漁業権者は漁業権にもとづいて漁場を占有し,かつ一切の区域内水族にたいして占有または 所有権を有するものではない。漁業権は特定の漁場において特定の水族を特定の漁法によって一定期間採捕 し養殖しうる権利である。この場合漁業権の客体が「物」でなく,むしろ「行為」の内容であることから,

       うを  特別法における物権の変態的なものとする解釈がある。

 漁業権は財産権であって用益物権たることは勿論である。 その用益権能の目的は水産動植物の採鴇養殖 にあり,これら採捕,養殖の対象である物の経済的効用によって利益を享受するのが終局の目的である。然 し漁業権iの内容は,直接には漁業権i者に水産動植物の所有権を取得せしめることにあるのではなく,漁業権 の目的である一定内容の漁業行為を排他的になしうるという利益享受を直接に実現しうることにある。

 以上の論拠からすれば,採捕した水産動植物の上に発生する所有権と漁業権とは相異なる法律関係に基く ものであるといえる。 しばしば漁業権は無主物としての水産植物の先占を伴うけれども,つねに無主物とは 限らない。とくに区画漁業権の多くは,その経済的対象たる水産動植物は,すでに漁業権者の占有又は所有

に帰属し,漁業権の権能はその所有物を養殖するのが一般的である。

 すなわち漁業権行使の結果である無主物たる永産動植物の所有は,民法239条の無主物の先占による効果で一 あって漁業権の権能外の問題である。

 ここに無主物とは,現に所有者がないものであり,かつて何人にも所有されなかった物,何人かに所有さ       ボみ や れたとしても現在相続人の所有とは考えられないもの,および所有者が放棄したものをふくんでいる。

 漁業権行使の結果である水産動植物の所有が,一般的には無主物の先占によるものであることは明らかで ある。この無主物先占理論が漁業権行使にたいする侵害の法意識となっていることは否定できない。俗語に

Cの中のものは誰のものでもない とする観念は,すでに漁業者の所有に帰属したものについてまでおよぼ され,侵害そのものを罪悪罵しない非近代法意識を形成しているものである。

 さて本論の落のり採取の場合,問題となるのは,その対象たる落のりが無主物であるか占有物であるかで ある。それは従来の一般的な水産動植物の無主物先占理論をもっては律しえない問題をふくんでいる。

第4落のり所有権取得とその限界

落のり採取の対象であるのりは,一般にすでに養殖業者の所有に帰属せしめられたものであることはいう までもない。,入工法苗であるのり種苗購i入による養殖の場合は,購入によって所有権が帰属しているもので あり,地種養殖の場合も, のりひびえの附着によって漁業権者の占有が開始されているのである。現在のの り生産の状況からは,無主物のままに成育した場合は論外としてよい。

 この場合,潮流,風によって,養殖業者の意思によらないでその所持を離れたものがいわゆる落のりどし て採取されるのである。落のり拾得者がのりについて所有権を獲得するのは,(1)その落のりが漁業権者の占 有を完全に離脱し,客観的に無主物先占とみるか,②民法にいう遺失物拾得とみるかの二点のみである。第 一の場合は,所有者からの占有離脱の状態をもって放棄と推定する根拠が必要であり,第二の場合は,採取

 * 例えば大11.11.3大凶判決大巾集i巻628頁,li国元12.25大照判決大藩集5巻603頁:,昭9.4.7三民判    決:

ee*末川博〃物権法ク8頁なお同博士は漁業権の内容を水族の所有権を取得しうる物権取得権として    いるが,漁業権は採捕した物について所有権を取得せしめる権能はないからこの解釈には疑義が

*鞭 ある。我妻栄/・民法講義11ク198頁)

(3)

Z79

のみによっては,所有権をうるものではなく,遺失物法の定ある手続ののちか,縁たは水難救護法にいう漂 流物としての手続終了ののちである。 落のり採取の実態からは第2の推定は成立しえないところである。

 とすれば,落のり採取者がそののりについて所有権を取得するの合法性は,拾得したのりが所有者の放棄 によるものであると擬制する以外にない。 実態は不可抗力的に所有者の意思によらずしてその占有を離脱し たことは明らかであるから, この推定は社会通念によりまたは漁業権者の意思を推定してなす擬制でしかな

い。

 本来占有は物を事実上実力によって支配する関係であり,社会的法意識の発展につれて物を支配しうる法 律上のカまたは支配の可能性として認識され,法律上の観念的な支配が今日の占有権,所有権の内容となっ ている。このように所有権から思惟上の支配やその可能性を内容とし,いわゆる心素が重要な要素となるも のであるから,落のりをもって養i殖業者の占有を離れ,放棄されたものと推定するのは疑義があるかもしれ ない。さらに,近時のように漁家経済ののり生産にたいする依存度がたかまり,また漁場紛争がはげしくな ってくる場合は,漁業権者は凡ゆる方法によって,ひびのりの離脱を防止するであろうし,また落のりを養 殖業者が拾得するの方法は可能であり,現実の要求ともなっていると考えられる。とすればこのような社会 通念の変化は,落のりをもって直ちに所有者の放棄と推定することはむしろ法的安定を妨げるものかもしれ

ない。

 要するに民法上の問題として,落のり採取の合法性を考える場合,漁業権者による占有の意思が無主物か 否かを決定するのであり,落のり拾得者が現実に支配管理している事実のみによってその占有が生ずるもの ではない。

 この点について,一般的には単純に前項の無主物先占と同一視し,当然拾得者が占膚権を行使しうるもの とするのは批判の余地があり,個別の場合について異質的に法的判断を行う必要がある。

第5占有離脱物としての落のり

 さて以上の民法規範とは異なる立場から考えられるのが刑法上の落のり拾得である。周知のように,刑法 上の占有は,民法占有における心素を必要とせず,現に財物を支配管理している事実を以て足りる。 すなわ ち所持が刑法上の占有の内容である。その所持の観念は,一般的にはいわゆる握持の物理的現実支配のみで なく,対世的に社会経験則からみて支配に属しているかどうかを判断しなければならない。この意味では落       

のりのごときは一般的には刑法上の漁業権者の占有に属さないと考えるのが正当であろう。

 然しながら, さらに漁業権者某と当該落のりの関係があきらかに拾得者によっても占有ありと判断される 場合は,なお落のりについて漁業権者の所持があるものと判断せざるをえない。すなわち漁業権漁場の周辺 であってのり養殖業者が拾得の意思を有すると考えられ, そのことがその地方での一般経験則になりている 場合は所持の状態にあるのである。したがって,従来一般的にはすでに漁業権者の所持をはなれていたと通 念されていた状態であっても,所有者またはその包括的占有者としての漁業権者が何等かの意思表示によっ て支配管理を標示しえた場合は,なお養殖業者の所持があるのりと判断せざるをえない。その具体例として は,漁業権i利者たる漁協が一般に落のり拾得制隈を禁止したり,委員会指示によって制限する場合である。

勿論この場合であっても現実に支配管理が不能な場所における落のりはすでにその所持を離れたものと解す べきである。

 刑法は窃盗および強盗の罪と横領罪をもって,正当な所有権を保護している。 歯入による一般漁業権i区域       **

内の水族採取が窃盗に該当しないことは明らかであるが,落のり採取の場合は上記の基準によって判断せざ るをえない。

 すなわち,のり養殖者の所持が対人的に明確であり,採取者もそれを知りうる状態にあるときは落のり拾 得の行為は窃盗罪が適用される。 またその所持が認められず, かつ漁業権者の放棄によるものでない場合 は・占有離脱物横領に該当すると考えられる。放棄と認められない場合はなお馨)り養殖業者に所有権があ り,勿論無主物ではないからである。したがって,その地方においていわゆる落のりとされる場合と錐も三

四末川博〃所持の概念ク(民商 法雑誌38巻3号148頁)

** その採取が漁1嚢権の内容である漁場価値を畏損するに聚つた場合は漁業権侵害(漁業法143条)とし

  て行政罰の対象となりかつ:不法行為を構成するのは勿論である。

(4)

IBO

棄とみなしえない場合であり,かつ取得者が横領の要件に該当するときは占有離脱物横領を構成し,刑法適 用の対象となるものである6一

 以上の現行刑法上の純理的解釈は・落ぞ)ρ採取の実態にそわないものであるかもしれなレ}。然し・一般に 善意無過失の占有者は,その動産上の権利を取得しうるのであるから(民192条),通念的に無主物的態様に ある落のりを採取するのは,善意取得であって横領ではない。ただ民法上,漁業権者の返還請求にたいする 返還義務があり,すでに消費した場合は損害賠償義務を負うのみである。然し実際問題として,このような 無主物的態様を呈する場合は落のりの所有者は確定しえないのが通常であるから,遺失物法適用の実益はな く,また賠償義務も生じない。さらにかりに所有主が確定しうる場合であっても,漁業権者による遺失物横領 の告訴は考えられないから,従来の通念的落のりの場合は刑法上の占有離脱物横領罪が構成されることはな いと:考えられる。

 刑法上の落のり採取の性格を法理的に確定する実益は,最近にみられるような漁業権侵害に類似の行為で ありながら,ふっそれに該当しない場合の違法性を明確にすることにある。

 一般に漁業権侵害は漁業法上の行政罰に該当するとともに, そのひびに附着したのりの採取は窃盗罪を構 成することは問題のないところである。また,ひびをはなれて海中に漂流するのりを拾得する場合も,それ が漁業権漁場内である場合は,完全に漁業権者の占有に属するものであり,刑法上も所持に該当するから同 上の罪を構成する。最近の故意にひびから離脱せしめ,無主物先占であるとするような場合も,その行為が 確認されないとしても落のりの支配の状態によって上掲の判断は可能である。

 問題となるのは,漁業権漁場を離れた場所で,従来の通念からも占有と認められないような場合の犯罪防止 である。最近の後述の各種の漁業権保護手段は,夜間等の間隙をぬって漁業権漁場に侵入するが,監視の場 合は漁業権漁場外水域で落のり採取を行っている者にたいする防止である。 この場合は窃盗現行犯としては 確認できないが,占有離脱物横領をもって対抗できると考える。 例えば漁業権漁場周辺50メe一一・一ト〃以内で は,放棄による落のりの推定はできない。 かつ拾得者が拾得の事実が確認されなお返還の要求に応じないと きは,占:有離脱物横領罪またはその未遂罪をもって防止するのである。従来この種の巧妙な犯罪は」一般的 な水産動植物の無主物論によってその違法性を阻却してきた感があるが,その誤りを正し,正当な法意識の 育成によって漁業権の保護をはかることが必要であろう。

第6 落のりの性格に関する行政解釈

 当初水産庁は,「ひびより離脱して海中浮游しているのりは,観念的にはそれが附着していたひびの占有 者の所有に属するものと:考えられるが,現実にひびから離脱することにより,占有者の直接支配管理下を離 れた以上,何人の占有に属していたかを判定することはほとんど不可能であり,実際問題として無主物とし

      *        隔

て取扱わざるを得ない」という態度をとっていた。

 行政方針が無主物たる基準を求めているのは,占有者の直接支配管理下を離れているかどうかにあるが,

それはいわゆる物理的支配による直接管理の状態であるかどうかの意義に解してよい。然し,民法上の所有 の概念が,法律骨力によって観念的にも所有者の支配管理にあるとするのは近代法的所有の性格であり,ひび        つ      げ から離脱し、たことおよび占有者の判断が困難であることの理由を以てのみ,支配管理を離れたとし無主物と

することは疑義があるといわねばならない。,通達は上記の二つの基準が観念的支配であるかどうかとするよ うであるが,観念的支配であるにもせよ,法律的力によづご支配管理が認められる以上は無主物とはいえな い。その支配管理の態容はすでにのべたように,当該地方の法意識,個別の事例における占有者と一般入の 落のりに関する法律関係によって決する以外にない。とくに無主物か否かかつ漁業権侵害,刑法上の財物罪 の構成を主として左右する概念である以上,専ら法的安定を目指して解釈が行われる必要がある。それは単 に漁業権i者の不必要な保護に過ぎてはならないが,刑事上の違法性を阻却せしめる安易な概念,決定であっ てもならない。いわゆる離脱とは,物理的支配からの離脱にとどまらない社会的正当性があるからである。

 最近では,落のりと同一のケースである落がきの実態からみた概念決定が行われ, 「養殖業者の養殖がき に対する管理の態容および養殖業者の落がきに対する所有の意思等から客観的に決定さるべきであるが,例

ee昭28−.5.6・28水3629号水産庁漁政部長通達(漁業制度関係例規集(一)49頁)

(5)

ユ8コ.

えば,養殖業者が従来からその落がきをそのまま放置し,他の者の採取にまかせたり,又離脱したかきの個

      ロ ロ      コ ロぜ

々について何人の所有に属するか判定することが困難なときは無主物として取扱うことが適当であろう」と してやや詳細にわたっている。然しこの場合にも放置の状態における所有者の管理意思が客観的に判断され る必要があろう。

 一般に無主物決定における所有者の推定の不能が重要な基準となっているが,現実の占有者である養殖業 者はともかく,包括的な占有関係を認めうる所属組合の判断はしかし困難なことではない。とくに刑法上の 所持の場合, 拾得者が悪意による占有であるかどうかはむしろこの点から決定されるべきであるまいか。

第7 漁業法上の落のり採取禁止手段の拡大とその性格

 漁業権の用益権能を実現し,採捕養殖した水産動植物に強力な所有権を行使することは相まって漁業生産 の不可欠の法的保障となっている。

 その直接的保障が刑法規範によって実現しうることはいうまでもない。然し漁業警察取締の現実的技術的 困難とその社会経済的背景の複雑さは,刑法的保障にすべてを托することの不能不適であることをしめしてい る。とくに後者の理由は,相当悪質な常習的窃盗罪に該当する以外は,かりに財物罪を構成したとしてもほ とんど告訴の不適となっている事例がこれを物語ってbる。

 積極的な悪質犯罪は厳格な処断によって漁業権の財産的価値を保護しなければならない。海上犯罪である ことは,しばしば取締不能の事由となっているが,捜査機能の充実によりその万全を期することは,すべて の漁業調整の不可欠の前提の一つとなっているといえる。

 漁業調整の目的とする漁場支配の調和は, その前提として調整し互譲した結果が法的保障の完全な実施の もとにおかれない限り,ほとんど実質的効果を期待しえないことは周知のことである。このような法秩序の 確定がない限り,権利の本体をこえて漁業権の排他性が自衛的手段として過大に主張され,自己の漁場確保 のための実力的保障が漁場紛争を増加せしめ,その報復として相手方の密漁犯罪が横行し,漁場の無秩序状 態をもたらしているのである。

 真の意味の漁民保護を目的とし,漁業法目的の貫徹をはかるための漁業取締が今日ほど望まれることはな い。警察行政の民主的運営が漁場秩序の安定に寄与しうる重要な条件であることは,実態を知悉した者にと って緊急のこととなっているQ

 つぎに漁業取締が困難な事由は,漁業犯罪の多くが,漁場所有の不合理と構造的な貧困のもたらすもので あることによる。まず沿岸漁業における小漁家層の密漁の大半はこれに該当するものであろう。、勿論貧困は 刑法上の違法性を阻却するものではない。然し刑法秩序の最終目的の一つが犯罪の社会的予防にあるとすれ ば,貧困にたいする政策の欠如がその違法性を弱める結果となり,水産動植:物の無主物的通念と相まって一 般漁民の法意識の低下となっていることは争えない事実である。漁民はこれをときに漁場道徳といい当然の 慣行的規範歯している。

 さらにいわゆる密漁の多くは,漁場法秩序の不合理にあることも事実である。その意味で密漁は相対的な 犯罪であり・ほとんどが不起訴とならざるをえない実情にある。 この場合犯罪意識の低調は,必ずしも法意 識の低下にあるのではなく,不合理な生産関係が正当な法意識を育成せしめえないとみるのが正しい。した がって,密漁の実態は,貧困と結合して抵抗権的行為をなすことさえある。,それはときに漁業法秩序の不合 理にたいする批判の表現でもある。

 以上の社会経済的な背景は,勿論漁業犯罪の違法性を阻却するとはいえない。然しその本質において構成 要件に該当しえない多くの事例があることも否定できない。

 第二の漁業生産の法的保障は,漁業権の物権的権能である。 これはすでにのべたところによって明らかで あろう。然し漁業権内容の法律的解釈は,また漁業犯罪取締の困難を助長せしめるものである。 漁業権はそ の権利内容である特定の漁業についてのみの排他性を有するのであり,いわんや当該水域にある水族の所有 や,漁場の占有を主張しうるものではない。

 とすれば・漁業権内における犯罪の予備すらも特別の場合を除きその予測は困難であろう。いわゆる未遂

ee昭32.4.1・32水1271号刀く産庁漁政部長通達(前掲例規集(二)38頁)

(6)

182

の確認はほとんど困難であり,現行犯罪以外に漁業犯罪を確定する途はないといえる。

 かつ戦後の制度改革は漁業権の財産権的性格を弱め,その結果として誤った漁業権軽視の風潮を助長せし めている。一層漁業権i権能にもとつく所有権侵害の防止は困難となっているといえる。

 こうした刑法秩序維持の困難さと漁業権による所有権保護の技術的困難さは,漁業権者をして別途の水産 動植物占有の強化をはかる方向をとらしめる。かつそれは占有者による実力的防護を除けば,習業法秩序に おけるあらゆる排除方法の動員の途しかありえない。漁業権者の決定指示,委員会指示,県規則の動員がそ れである。そしてそれは結局漁業権保護の方法であるから,侵害的な漁業行為の禁止となり,不必要な排他 的規制をあえてする結果を招来する。 その主要目的である漁場周辺の落のり採取禁止から関係漁場全域に拡 大され,かつ全漁業の禁止にさえ発展する。

 この占有物確保の問題は決して戦後の特殊問題ではなく,漁業権の性格,海上犯罪の実態からみて戦前以 来の問題である。 戦前における漁業権iの漁場主義理論も,このような現実的必要をも一つの背景としてそれ を理論構成するものとして発生した。勿論その内容は,地元部落民の優先思想にもとつくものであることは 否定しえないが,純琿的には地元漁民の生活に無関係な水族をも支配しうる権利は漁業権の不可欠の要素で はない。他部落の不法入漁,資本家による漁場収奪を表面的理由とする漁場主義の意図は,旧法における漁 業権理論によっても充分達成されるものであって,漁場の無条件支配を地元部落に容認する根拠にはならな い。結局は上述の現行法における占有確保の方向に漁業権を整備することがその主要な意図であったといえ る。 したがって漁場主義のもつ共同体的前期性は否定しえない所であり,いわば網主階層に主導された部落 対立の強化がその歴史的本質である。

 ところで,同様の現実的必要にもとつく現在の漁場支配の強化も, 結局は漁場主義的方向をとらざるをえ ない。それは刑法秩序をも代行せしめるものである限り,現行漁業法秩序の枠内で可及的漁場占有主義理論 に近づけるものである。それは漁業犯罪を誘発せしめる落のり漁業の禁止であり,それに類似する他種漁業

       コ コ

の禁止となって現われざるをえない。

第8 保護区域または委員会指示,県規則による強権的弓のり採取禁止  (1)保護区域の指示

 漁業権の経済価値を保護する戦前からの方法は,その必要な漁業権周辺漁場を,漁業法上の保護区域とし,

その区域内の漁業権侵害のおそれある漁業を禁止し,本権たる漁業権を保護する方法である6例えば定置漁 業権に通ずる魚道上で他門漁業かつ漁業権内容と同種の水産動植物を採捕することはその漁獲i量によっては 本権の価値を甚だしく損殿するおそれもあり, このような場合周辺魚道上に保護区域を設定するのは一般的 な事例であった。

 戦後の制度改革では,保護区域の設定が漁業権の不必要な拡大と同一視され,定置漁業権者による一般漁 場の独占を甚だしくするとの見地から,漁業法上保護区域の設定はのぞかれたて,県規則の定めるところに より委員会指示によって難定するものとされた。またそれが臨時的なものであり,自主的調整を適当とする 場合は委員会独自の判断により実質的な保護区域の役割をなす調整指示(漁業法67条1項)によるべきもの とされている。

 落のり採取禁止の場合,保護区域の設定が最も安易な方法であるが, これに関し行政例規は早早28年3629 号通達に説示して,「のりひび建養殖業の保護区域は,その権利者が落のりを弓取するのを保護することを 目的とするものではなく,のりひび建養殖業そのものを保護すること炉目的である」との見地から,「漁場 の周囲50メートル以内の範囲で漁業調整委員会が保護区域を指示し,その区域内で養殖漁業に支障を及ぼす 漁業は勿論,落のりの採取も禁止する」という愛知県の考え方を妥当ではないとしている。

 落のりに対する漁業権漁場外の漁業権者の排他的拾取は,所有権にもとつくものであり,かつそれによっ て充分であり,とくに保護区域による保護を必要としないし,また保護区域内の落のり採取は,直接には漁

* 本質的には個人所有にたいする侵害を共同体秩序の破かい者として村八分的制裁を加える事例は 多いのではないかと考えられる。それは村民にたいしては漁業法の到底及ばない強力さを有してい

ることが推定される。然し最近の漁場侵害はむしろ大規模な他部落からのものであり・村八分的自

治制裁(組合統制はその変形である)から発展して,漁業権の国家的保障の一層の独化を求めてい

る点にこの歴史.的意義がある。

(7)

183

業権と関係のない,漁業権者および他人の行為であるから,のりひび建養殖業そのものを対象とする裸護区 域とはいいえない。したがってこの見解は純理的には正当である。

 然し,すでにのべた落のり採取と漁業権侵害の実態は,保護区域が直接的な漁業権の保護に役立つ性格で あることをあきらかにしている。またいわば当然認められるべき漁業権漁場周辺の落のりの所有権が水産動 植物の無主物性と混同される結果,さらに保護区域による所有権の実質的保全を求める傾向となる。 ζのよ うな実態的な保護区域の必要は, その後これに代るべき委員会指示による禁止区域の設定および県規則によ る採取制限となって一般化している。

 (2)県規則による落のり採取制限

 まず県規則の事例は,福岡県の例では,「漁業権に基くのりひび建養殖のひびの周囲ユ0メートル以内の区 域においては,おちのりを採取してはならな小。但し,当該漁業権に基いて当該漁業を営むもの又はその従

       ロ    ロ      

事者が当該区域内においておちのりを採取するときはこの限りでない」としている。

 熊本県はすでに31年工2月の改正において,同旨の規定を追加している。佐賀,長崎両県でこの規制が存在 しないのは,のり生産の発展がややおくれたことと,とくに佐賀県では当面強力な委員会指示によって規制 しているからである。

 この県規則による採取制限は,保護区域の設定ではなく,またその区域もほぼ漁業権漁場を大部分とし,

その周囲IOメートルの部分だけが実質的な保護区域となっているのである。然し10メートルというのりひび の周囲区域は,まず漁業権漁場と同区域とみてよいであろう。とすれば,この規則の前提は,漁業権漁場内 の落のりを無主物とする見解であり,法理的には批判の余地がある。もしも漁業者の占有物であるとすれば,

当然大規模な他人による採取は漁業権侵害の実態を備えるものであり,かつ刑法上は明らかに窃盗もしくは 占有離脱物横領に該当するものである。 落のり採取による被害を単に県規則違反として処罰するだけではな く,その前に漁場秩序の正当なあり方としての法意識の育成に努めるべきではあるまいか。

 (5)委員会指示による落のり採取制限

 つぎに最も一般的でありかつ検討を要するのは委員会指示による採取禁止である。

 例えば熊本県ではすでに30年の委員会指示第8号によって落のり採取が制限をうけている。 同指示は当初 のことであり,落のり採取禁止区域も荒尾地先の距岸100メーートル沖合を除いては,のり漁場区域の外側20メ ートル以内となっている。落のり採取禁止と不可分の関係にある同区域内の採貝漁業も同様の規制をうけて いるが,・一般漁業は同区域の夜間操業についてのみ組合の承認を必要としている。

 この指示内容は翌年31年の13号指示においては,前述県規則の規制と相まって禁止内容を強化している。

以下典型的な13号指示について検討してみよう。

 3工年ユ3号指示は関係漁協に斌して特定人を対象とした図示であり,指示区域内の落のり採取(同委員会指 示は拾のりという)および採貝漁業について,時期,区域,使用器具,操業者の資格について定めている。

制限区域はのりひびの外側30メートル以内・の禁止であり,さらに採集についてはIOOメー}ル以内の区域の規 制を加えている。禁止漁具は船を使用しユメートル以上の熊手によるものが該当している。すなわち機動性 漁法の禁止である。さらに操業資格は落のり採取は漁協組合員であって組合の承認をえた者であり,採貝と

くに夜間操業は溝貝専業者資格証の所持を要求している。

 この落のり採取制限で注目すべきことは,禁止区域が県規則よりも拡大されている点である。県規則の規 制を上廻る指示は適法ではないと考える。本来・ 県規則で定めるひび外側IOメートル以遠の漁場での落の9 採取は,第ユ種共同漁業権による組合員の権利であるからである。 指示の期間はのり漁期全期にわたるもの であり,かつ周年同様の指示が出されているから,共同漁業権を部分的に変更せしめる措置である。

 さらに同水域における採貝漁業が本質的な制限を余儀なくされている点が重要である。 落のり採取禁止の 要因の一つが,採貝漁民による漁業権侵害にあったことは否定できない。それにしても区画漁場の外側ユ00メ ートル以内の禁止は,同区画漁場と免許区域を同一にする共同漁業権の行使を恒久的に不能ならしめるもの であろう。この傾向は,さらに一般漁業にも及び,採貝禁止漁場と同一の禁止が指示されている。このよう な禁止指示が無効であることは勿論であるが,免許の条件制限によってもこの変更的制限は不能である。妥

ee福岡県漁業調ヨ豊規則36条の3(34年1月追加)参照

(8)

184

当な方法は切替時に共同漁業権内容を権利行使の可能な形に免許することである。 漁業存続期間中は漁業法 39条による変更以外に方法はないのであり,損失補償を避けるため委員会指示に代行せしめるの便法で.あれ ば,厳に枇判されなければならない。

 熊本県有明海委員会の3Z年13号指示は,のり生産先進県における,のり生産者と採桑漁民の関係をしめす ものである。この方向は福岡,佐賀両県においても同一の方向をとりつつある。.

 熊本県はじめ各県の委員会指示は漁期について毎年更新されている。熊本では,32年Z4号指示で不特定人 を対象とした同一内容の指示に切替え,さらに33年!9号指示では,落のり採取漁業の禁止漁具に網の使用を 追加している。源式綱島による大規模な採取が現われたためである。

 福岡県では,30年1月に指示8号によって落のり (流のりという)採取制限がはじまっているが,禁止区 域は20メt一一…トル,禁止漁具はバッタリ建込を指示している。 ついで32年ユ0号指示で同一内容のものを制限し ているが,禁止漁具は,密雲刺網その他の固定する網と,素手拾い以外の漁具である。

 福岡県では,3ユ年以降貝類区画漁業権設定をとりやめ,虚貝漁業は共同漁業権によるのみとなった。この 点,他県以上にのり生産に重点をおいているといえる。

 この傾向は,34年に至って後述の落のり採取漁業を許可制化するとともに,一方指示によらず,共同漁業 権共有者である各組合を代表して福岡有明漁連の自主的取締の形をとってあらわれた。 すなわち形式的には 自主調整ではあるが,委員会指示を代行するものであり,強権的制約と解釈せざるをえない。同漁連は,組 合長会議による決議をもって,つぎの落のり採取についての指示(要旨)を組合員にしめしている。

1234

 以上の漁連決議は,

は,組合定款の定めるところによるのであり ているとしても,

漁業権者(全県組合共有の共同漁業権)

て各組合総会に行使方法の決議権iがあるものであり,また組合員の各自行使権を尊重する方法でもある。し たがって,組合長会議はそのような手続をとっていないことは自明であり,決議は組合員の権利行使を制約 しうるものではないと:考える。

 実態的にみても,貝類区画漁業権が廃止された現在,共同漁業権によるのり採取の禁止区域の設定は,風 水害により貝類生産が衰退している同県採貝漁民にとって死活の問題であろう。本来漁場は立体的に利用し うるものであり,その意味で技術的には貝類についての共同,区画漁業権は区域を重複しうるし,のり区画 漁業権については一層このことがいえる。現実に重複区域は全国的な通例である。したがって,貝類区画漁 業権設定の中止は,貝類漁業の衰退をいいながらも,むしろ本体はのり生産の確保にあるとみるのが実情で あろう。また貝類区画漁業権の設定はなくとも従来の区画漁業と同内容の貝類漁業は行われているはずであ り,痴りとすれば漁業法9条違反である。それが技術的に共同漁業権に該当するとの見解であるならば従来 の免許方針は蝦心あるものとなり,極めて便宜的な解釈といわざるをえない。

 以上の福岡県における虚貝漁業にたいする強度の高歯は,地元四仏漁民の生活を困窮化し,度々の陳情が 行われている。問題は本質的に漁業調整方針の問題であるが,このような漁場計画の設定は漁業法1条の目 的からして批判の余地があると考える。

 また佐賀県においては,31年12月に委員会指示5号が出され,熊本県と同様に指示内容においてつぎの要 旨にみるように共同漁業権漁業を禁止した。 「共同漁業権有共第1号(全県共有)ののり養殖漁場内採貝は,

のり区画漁業に損害を与える事例が多いから,のり漁期中,のり漁場内での共同漁業権の行使を停止する」。

 この指示は33年漁期においては,9号指示によってつぎのように表現されている。 「工.第!種区画漁業 権に基くのり区画養殖のひび建の周辺20メートル以内の区域には,漁業権i者あるいは入漁権者以外の者は立 入ることができない。 2.同区域内における採介漁業は昭和34年5月15日まで禁止する」。第2項にいう採

採取者は漁連が発行した証明書を所持し,標識をかかげぐこと。

禁止区域はのり養殖場の周囲50メートル以内と各河川のミョ筋とする。

許可される漁法は固定網および素手拾い。

以上の禁止事項にたいする違反は,漁具押収とともに違約金として夜間違反操業は1万円,昼聞は5 千円とする。かっこの違反者は県規則による許可の際の不適格者として許可しない。

       禁止区域が県規則以上に拡大している点で疑義がある。さらに漁業権行使について

      (漁業法8条),かりに定款が規約,規程に行使基準を委任し

     組合長会議決議がそれに該当するか否か疑義がある。勿論それは形式論ではあるが,共同

       は,共有権利者である各組合なのであるから,その持分行使につい

(9)

ユ85

介漁業とは区画漁業をふくむか否か不明であるが, 第1項の趣旨からみて実態的には貝類区画も規制をうけ るのではないかと思われる。

 この福岡および佐賀県の指示で注目される最後の点は,他県入漁者の容認である。従来各県漁協で自主的 に規制を加える場合は,組合員に限る場合と非組合員を認める場合の両者があるが,いずれの場合も他県入 漁者は容認されている。今後の調整上の一課題であろう。

 長崎県においては後進県のためこの制約はあらわれていない。

 以上委員会指示または福岡における漁業権者の自主的規制の根本を流れるものは,一般漁業者にたいする のり区画漁業権i者の優位であり,のり区画漁場の保護のために,他種漁業を制圧するの余儀なしとする方針 である。これはのり区画漁業権における旧漁場主義理論の戦後的再現である。このような措置が漁業調整上 いかにすべきかは立法政策上の課題であるのみならず,法解釈としても重要な研究課題である。 ここではそ れが入漁権や組合管理漁業権の総:有理論の実質的崩かい=資本主義化と同様に,漁場の集団的支配の法機構 のなかで単一階層による支配が実現されていく過程であることを附記しておこう。

第9落のり漁業の許可漁業化

 九州有明海において,現在落のり漁業を許可漁業としているのは福岡県のみである。同県は,34年1月の 規則改正において許可漁業に固定網具を使用する落のり漁業を追加し,かっ共同漁業権の行使による場合で

あっても知事の許可を必要とするものとした。 一方その対象であるあまのりは同時にi種共同漁業権に追加 された。

 固定網具による落のり漁業は実学的には第2種共同漁業に該当するかと思われるが,同県共有共同漁業権 には該当免許がないから,固定網具による落のり漁業は専ら許可によらなければ営みえない。一面,i種共 同漁業権は漁獲物を指示するのみで漁法を問わないから,あまのりが追加された以上,落のり漁業は1種共 同漁業に該当するとも考えられるが,県規則の趣旨はこの場合であっても許可による規制を加えるものであ る。いずれにしても,現実にはすでにのべたように漁連による共同漁業権行使上の制限があるから,一般堅 甲漁民は強力な落のり許可漁業経営の経済的圧力と法的制約の二重の束縛をうけることとなる。

 聯帯点として残るのは,落のり漁業もユ種共同漁業権の具体的内容であるとする場合,許可をうけた当該 漁業が前掲漁連による制約をうけるかどうかである。解釈論としては,同字連決議が有効であるとすれば,

当然その適用をうけるものと考えられる。とすれば落のり漁業の許可制化は,専ら漁場取締のためのもので あるといえる。然しこの場合としても許可による一部採介漁家の階層分解は進むであろう。他面,落のり漁 業は共同漁業権には該当せずとするならば,一般採介漁民のうける制約もなく,一層許可受有者と一般採介 漁民の分解は進行すると思われる。

第10結  語

 落のり漁業にたいする強権的制約は,のり区画漁業権保護に役立つとともに,漁民分解を促進する契機と なるであろう。その経済的実態はいずれ改めて検討しなければならないが,それと併行して,その法理的究 明は全体的漁業調整の視点から研究されなければならない。沿岸漁民における構造的貧困がこのような矛盾 する法現象を呈するとすれば,漁業法秩序の確立は危機にあるといわなければならない。社会経済的条件に 立脚した各漁民階層の権利の並存,調和が今後の漁業法学の一課題であると考えられる。

       (昭和34.9.30記)

参照

関連したドキュメント

自己防禦の立場に追いこまれている。死はもう自己の内的問題ではなく外から

現実感のもてる問題場面からスタートし,問題 場面を自らの考えや表現を用いて表し,教師の

 しかし,李らは,「高業績をつくる優秀な従業員の離職問題が『職能給』制

明治以前の北海道では、函館港のみが貿易港と して

は,医師による生命に対する犯罪が問題である。医師の職責から派生する このような関係は,それ自体としては

である水産動植物の種類の特定によってなされる︒但し︑第五種共同漁業を内容とする共同漁業権については水産動

  BT 1982) 。年ず占~は、

右の実方説では︑相互拘束と共同認識がカルテルの実態上の問題として区別されているのであるが︑相互拘束によ