英語の引用表現 Be Like
新 井 洋 一
1 .はじめに
2 .英語の引用表現の種類と留意点 3 .既存研究概観
4 .引用表現belikeの特徴と一般英英辞書の記述 5 .他言語におけるbelikeに類似の引用表現 6 .英国におけるbelikeの頻度の通時的変化 7 .おわりに
1 .はじめに
今から10年ほど前,「著名な英国女優EmmaThompsonが,10代の若者のlikeやinnitなどの 使い方に苛立ちを覚え,『ずさんな・だらしない(sloppy)使い方』とみなして批判している」と いう記事が,BBCのニュース雑誌に載ったことがある1).
その記事では,たとえばlikeについて,“That’s,like,sounfair.” のlikeのように,話しのあい だを埋める「つなぎ語」(filler)として,若者の間で使われる傾向があることを紹介した上で,
「つなぎ語がumやahのような意味を持たない語でなく,意味を持つlikeであったために,その アカデミー賞女優はお気に召さなかったのだろう」という主旨の解説がなされている.さらにその 記事では,likeの別の用法として,次の( 1a)のような例もあげられている.
( 1 )a.Shewaslike,‘youaren’tusingthatwordcorrectly’andIwaslike,‘yesIam’.
b.Iwaslike[afacialexpression,soundorgesture(e.gholdtheirhandsup,shrugor rolltheireyes)].
( 1a)の 2 カ所の太字部分のwaslikeは,その後の引用符で囲まれた発話部分を導く引用表現
1 ) Winterman,Denis.(2010)TeenSlang:What’s,like,sowrongwithlike?BBC News Magazine,(28 September2010).(https://www.bbc.com/news/magazine-11426737).なお,表現が異なるものの,同 様の趣旨の記事が,https://www.bbc.com/news/uk-11420737にも掲載されている.
(quotative)のひとつであるが,( 1b)のように,顔の表情,音や音声,または両手をあげたり,
肩をすぼめたり,両目を回したりなどのジェスチャーなどが続くこともある.発話内容を引用する 引用表現は,sayという動詞が基本であるが,これ以外にgoという動詞も使われる(この引用動詞 goの詳細については新井(2010)を参照されたい).Sayやgoが口から発せられた内容の引用に限 定されるのに対し,本論で取りあげるbelikeは,発話内容以外に,思考内容,音声,表情,身振 り手振りなども導くという点で,引用表現としてまったく異なる特徴を持つ.つまり,say以外に
thinkなどの他の引用表現の意味も持つ幅広い表現機能を持つといえる.
本稿では,このbelikeについて,その主要な言語的特徴についてまずまとめた後,1980年から 2000年代までの初期の既存研究を概観し,次にbelikeの特徴と一般英英辞書の記述内容を検証す る.後半では,英語以外の言語におけるbelikeと類似している引用表現の進展例を紹介する.特 に日本語の類似表現については,日本語の会話コーパスを使いながら,年齢性別上の類似点を探る ことにする.最後に,1990年代前半のイギリス英語のデータが収められた旧BNCと,2010年代前 半のイギリス英語の口語データが収められたBNC2014コーパスを用いて,その進展度について分 析を試みることにしたい.
2 .英語の引用表現の種類と留意点
英語においては,発話部分を直接導く引用表現(quotative)としては,動詞のsayがもっとも 基本的なものである.通常,sayの後にはコンマを置き,その後に引用符で囲まれた直接話法の文 が置かれる.具体的には,以下のようなものである.
( 2 )Shesaid,“Youaren’tusingthatwordcorrectly.”andIsaid,“Yes,Iam.”
( 2 )の文は,10代の若者たちの使う( 1 )で示された引用表現を,基本的なsayを使って言い 換えたものである.英語の引用表現としては,このようにsayを使うのが標準的であるが,非標 準的な引用表現として,最初にあげたbelike以外に,以下のようなgoやbeallがある.
( 3 )Shewent,youaren’tusingthatwordcorrectlyandIgo,yesIam.
( 4 )Shewasallyouaren’tusingthatwordcorrectlyandI’mallyesIam.
( 3 )で示された太字体のwent,goは,いずれも「移動」を表す「行く」という意味ではなく,
後続の発話文を引用する「言う」という意味である.また( 4 )で示された太字体のwasall,am allも,いずれも後続の発話文を引用する「言う」という意味である.
( 3 )と( 4 )の例文で留意したい点のひとつは,発話部分が( 2 )のように引用符で囲まれて いなかったり,( 4 )のように,引用表現と発話文のあいだにコンマが入れられずに表記されてい
る点である.これは表記上の問題でもあるが,この引用表現に関係する文献では,基本的な( 2 ) の方式に従わず( 3 )や( 4 )のように簡略化がなされているものがある.たとえばConrad&
Biber(2009)は( 4 )の形式をとり,コンマも引用符もすべて省かれている.
( 5 )a.HegoesIdon’tliketoseegirlsintightjeans.
b.He’slikewellyouknowwealwayshaveahardtimefindingathirdpersontogo withus,I’mallheyI’mwilling. (Conrad&Biber2009:109)
もうひとつの留意点は,引用表現の時制に関するものである.通常は,過去の出来事に対して動 詞は過去形が基本であるが,これらの引用表現は,過去の出来事でも現在形を用いることがしばし ばある.( 3 )( 4 )では,前半の引用表現はどちらも過去形(went,was)であるが,後半の引用 表現はいずれも現在形(go,(a)m)になっている.これは特殊なことではなく,「歴史的現在」
(historicalpresent)と呼ばれる表現形式のひとつで,語ったり考えたりする場面の臨場感を盛り 上げる効果をもたらし,これらの引用表現ではしばしば利用される.
3 .既存研究概観
本節では,引用表現のbelikeに関して,1980年から2000年代までの初期の20年間の研究内容に ついて,Cukor-Avila(2002)の記述も参考にしながら通時的に概観してみることにしたい.
3.1 引用表現の go 3.1.1 Butters(1980)
このbelikeの引用表現の研究の前に,Butters(1980)は,引用表現のgoについて触れ,「1945 年より後に生まれた35歳以下の話者が,直接話法を導く引用表現として,sayの代わりにgoを使 う割合が高いこと」を指摘している.
3.1.2 Schourup(1982)
Schourup(1982)は,さらに引用表現のgoについて取りあげ,「Johnsaid,Iwasresponsible forLauren’sfailureという文のように引用符がない場合,Iの主体がJohnなのか,文全体の話者 自身なのか曖昧であるが,saidの代わりにwentを使うと,直接話法の解釈しかできないので,I の主体はJohnという解釈になり,曖昧さを排除できる」と述べている.
3.2 引用表現の be like
3.2.1 Butters(1982),Tannen(1986)
その後Butters(1982)は,「口で表されない思考内容を導く引用表現として,若い世代がbe
likeを用いている」ことを明らかにし,初めてbelikeの引用用法について指摘した.その後 Tannen(1986)は,会話データを調査して,「goもbelikeも会話データのみに生起する表現であ ること」を明らかにしている.
3.2.2 Blyth,RecktenwaldandWang(1990)
さらにBlyth,RecktenwaldandWang(1990)は,belikeについて,ニューヨークの20人の女 性話者と10人の男性話者の10時間にわたる録音会話から,「①1965年より後に生まれた話者に主に 使われ(1952年以前生まれの話者には使われていない)」,「②女性よりも男性の方が頻度が高く」,
「③ 1 人称単数主語以外で使われるのは希であること」などを明らかにしている.
3.2.3 RomaineandLange(1991),YuleandTerrie(1992)
RomaineandLange(1991)は,belikeについて,Washington,D.C. の大人と10代を調査し て,「belikeは女性の使用頻度が高く, 1 人称単数主語の形式でおもに使われる」点を明らかにし ている.またYuleandTerrie(1992)は,20~27歳の女性の夕食時の60分間の録音会話から,「① どの引用表現を選ぶかや時制の区別が,話題の相対的な重要性の確立に関係すること」,「②say はreportedspeechを導くときに好まれ,belikeを含む他の引用表現は歴史的現在で使われる頻 度が高いこと」などを明らかにしている.
3.2.4 FerraraandBell(1995)
FerraraandBell(1995)は,1990,1992,1994年に 6 歳から86歳(N=284)の,テキサス州の話 者の個人体験の話の中に出てくるbelikeを分析調査し,「1990年のデータからは,女性の方が若 干頻度が高いこと」を指摘している.「1992年のデータからは,①belikeの使用に性別の違いは なく,②おもに,都会で使われる現象で,③ 3 人称単数主語に使われはじめ,単に内的思考だけよ りも会話を導くためにも使われるように広がっていること」を明らかにしている.また「1994年の データからは,1992年の①と②のポイントと, 3 人称単数主語の使用の広がりが半数を超えるよう になっている」点を指摘している.さらに,「belikeが都会のヒスパニック系やアフリカ系アメリ カ人のあいだでも使われていること」を指摘している.
3.2.5 TagliamonteandHudson(1999)
TagliamonteandHudson(1999)は,イギリスとカナダの1968年と1978年のあいだに生まれた 66人の個人体験の録音談話内の引用表現(N=1,277)を調査し,「①sayがもっとも好まれる引用 表現で,belikeは,両国にまたがって頻度が高くより拡散している」,「②goはカナダの男性に,
belikeはイギリス女性により好まれ」,「③belikeは両国とも, 1 人称で好まれ」,「④Ferrara andBell(1995)が指摘している『belikeが 3 人称にも広がっている』点に関する証拠は得られ なかった」とまとめている.
3.2.6 SanchezandCharity(1999)
SanchezandCharity(1999)は,引用表現に関する,都会の「アフリカ系アメリカ人の日常英
語」(AfricanAmericanVernacularEnglish)話者の, 3 世代にわたる初めての大規模調査である.
分析対象データ(N=1,551)は, 9 歳から70歳の14人の話者(10人のアフリカ系アメリカ人, 2 人の 混血系(biracial)アメリカ人, 2 人のアングロ系(Anglo)アメリカ人)の26時間にわたる録音デー タであり,「①belikeがもっとも頻度が高い引用表現であり,次にsay,引用表現なし(zero), 他の引用動詞類,そしてgoの順であること」,「②belikeは,16~22歳のグループで頻度がもっ とも高く,年齢と共に頻度が下がること」,「③男性の方が,女性よりもbelikeの頻度が高いこ と」,「④belikeは 1 人称でも 3 人称でも同程度に現れること」などを明らかにしている.
3.2.7 Dailey-O’Cain(2000)
Dailey-O’Cain(2000)は,焦点を導くlikeと引用表現のbelike(N=95)について,1926年か ら1981年のあいだに生まれた,30人の中流と中上流階級のミシガン州の男女の調査をし,belike が「①より若い話者の頻度が高く」,「②発話内容よりも内的思考内容を導く表現としてより頻度が 高く」,「③使用上の男女差はほとんどないこと」などを明らかにしている.また,40人の高学歴の 中流と中上流階級の話者の追加調査もおこない,「①若い世代がより頻度が高い」,「②女性の方が 男性よりもlike,belikeを使う頻度が高い」,「③like,belikeはどちらも好ましい表現でなく,ど ちらの形式もひんしゅくを買う度合いが高い(bothformsarehighlystigmatized)」という指摘が なされている.
3.2.8 Golato(2000)
Golato(2000)は,独英の比較をおこない,ドイツ語のbelikeに該当する表現であるundich so/underso(‘andI’mlike/andhe’slike’)について調査をおこなっている.対象は,48人の都会 に住む中流と中上流階級の話者で,17時間にわたるビデオ録画の会話と, 9 時間にわたるオーディ オ録音の会話を納めたデータを調査したものである.その結果,「①undichsoのすべての例(N
=22)はビデオ録画の会話データであること」,「②英語のbelikeと同じように,undichsoは会 話内容,感情,そしてジェスチャーなどを引用していること」,「③その頻度は英語より低く,もっ ぱら物語のクライマックスの時点の状況を物語るときに使われること」,そして,「④undichso はおもに,大学生の年代の若者たちに使われ,散発的に(sporadically)1946年から1960年のあい だに生まれた話者に使われること」,また「⑤undichsoのように,おもに 1 人称単数主語で使わ れること」などを明らかにしている.
3.2.9 Singler(2001)
Singler(2001)は, 9 歳から51歳の話者について,belike,go,そしてbeallの調査(N=総数 5,895の引用表現)をおこない,ニューヨーク市の1995年から1999年のあいだに,調査研究者と研究 対象者(field-workersandsubjects)のあいだで交わされた会話データを分析し,「①年齢と引用 表現の形式に強い相関関係(astrongcorrelation)がある(belikeとbeallは,ほとんど若い話者の 頻度が高く,35歳以上の頻度は低い)こと」,「②goは35歳以上に主要な引用表現であり」,「③go
は男性に好まれるがlikeは違うこと」,「④女性同士の会話関係(femaleconversationaldyad)で はlikeが好まれ,男性同士や異性との混合の会話関係(maleandmixed-sexdyad)では,likeは 好まれないこと」,「⑤全体的に,likeはアジア系アメリカ人に好まれ,アフリカ系アメリカ人には 好まれないが, 9 歳から15歳のアフリカ系アメリカ人のlikeの使用頻度は非常に高くなること」
などを明らかにしている.さらに,Singlerは,「引用表現の変数分析(varbrulanalysis)は,引 用表現の使用上の制約と引用表現のあいだの意味の等価性の欠如,という理由から不適切である」
と述べている.
3.2.10 Buchstaller(2001b)
Buchstaller(2001b)は,goとbelikeに対するRomaineandLange(1991)のモデルに対して 代案となる文法化モデルを提案している.彼女の仮説は,UniversityofPennsylvaniaLinguistic
DataConsortiumのデータとtheSantaBarbaraCorpusofSpokenEnglishのデータによって サポートされていて,goやbelikeは,単にかっこよくなるために若い世代に使われている冗長な 形式(pleonasticforms)というだけでなく,明確な言語機能と社会的意義を持っている(distinct
linguisticfunctionsandsocialsignificance)と述べている.
この後さらに,Cukor-Avila(2002),Buchstaller(2008)などの研究が続くことになるが,これ らの研究については,必要に応じて後続部で触れることにしたい.
4 .引用表現
belike
の特徴と一般英英辞書の記述4.1 引用表現 be like の特徴
前節で概観したように,引用表現のbelikeは,Butters(1982)の指摘をきっかけにして,1980年 代以降学問的な注目を集めるようになった.最初はカリフォルニア州のサンフェルナンド盆地
(SanFernandValley)に住む,valleygirlsと呼ばれる中流の若い女性たちのあいだで1970年代か ら使われ始め2),徐々に米国の他の地域,そして国境を越えてカナダ,イギリス,スコットランド
(Nacaulay 2001),ウェールズ,アイルランド,南アフリカ,オーストラリア,ニュージーラン ド,シンガポール,香港,そしてジャマイカ(Mair2009)などの英語が使用されている国々へと 広がっていった.短期間に世界的な広がりを見せた背景のひとつには,1995年にインターネットの
WorldWideWebが急速に広り始めたことと深い関連性があるように思われる.
Blythetal.(1990)は,社会言語学的観点から初めてこの引用表現を取りあげ,この表現がア
メリカで広がり始めた頃,この表現を使う若者たちに「愚か」(vacuous,silly)とか,「アホ」(air-
headed)というような烙印が押され,批判されていたことに触れている.興味深いことに,これ
2 ) Blythetal.(1990:224),Tagliamonte&D’Arcy(2004:212)参照.
と同様の批判が,それから20年以上後の英国で,著名な英国アカデミー賞女優によってなされ,そ の記事が英国のBBCの雑誌に大きく載ったのは,はしがきで触れた通りである.
前節の既存研究の内容も踏まえて,これまでの引用表現であるbelikeの特徴をまとめると,以 下のようになる.
( 6 )a.気さくな関係の(informal)日常会話でおもに使われ,若者世代での頻度が高い.
b.年齢層と性別の点では,若い10代から30歳前後くらいまでの,特に女性に好まれて使 われる傾向がある.
c.引用する内容は,思考内容,発話,そして顔の表情やジェスチャーなどを導くことがで き,引用内容は必ずしも正確である必要はない.(対照的に,sayは発話内容を,thinkは 思考内容を導く引用表現であり,belikeに比べて正確度の高い引用内容となる.)
d.主語はおもに代名詞が使われ, 1 人称単数のIの頻度が高く,次に 3 人称が使われ,
2 人称が使われることは希である.過去の出来事に対して,歴史的現在の現在形を使う 頻度が高い.
4.2 一般英英辞書の記述
この引用表現が知られるようになってから,一般的な英英辞書への記述もおこなわれるように なってきている.一般の英英辞書の中で,引用機能を持つbelikeについて取り上げているおもな 辞書は以下のものである.それぞれの2019年末時点の定義と用例を示すと以下のようになる.
( 7 )Oxford Advanced Learner’s Dictionary
I’m,he’s,she’s,etc.likeusedinveryinformalspeech,tomean‘Isay’,‘he/shesays’,etc.
And then I’m like ‘No Way!’
( 8 )Oxford Dictionary of English
informalusedtoconveyaperson’sreportedattitudeorfeelingsintheformofdirect speech(whetherornotrepresentinganactualquotation)
so she comes into the room and she’s like ‘Where is everybody?’
( 9 )Longman Dictionary of Contemporary English a.usedtotelltheexactwordssomeoneused
I asked Dave if he wanted to go, and he’slike, no way!
b.usedtodescribeanevent,feeling,orperson,whenitisdifficulttodescribeorwhen youuseanoiseinsteadofwords
Shewaslike,huh?
(10)Collins Cobuild Advanced Learner’s Dictionary
Somepeoplesaylikewhentheyarereportingwhattheyoranotherpersonsaid,or whattheythoughtaboutsomething.Somepeopledonotlikethisuse.[informal, spoken]
a.He said ‘I’m attracted to you.’ I’m like ‘You’re kidding!’
b.My dad was there and he’s like: ‘Yeah. Yeah. I want to come.’
(11)Macmillan English Dictionary
spokenusedwhenyouarereportingwhatsomeonehassaidorthought a.And I’m like, give me a chance, Simon.
b.When I first heard about this I was like ‘Give me a break’!
(12)Merriam-Webster Dictionary
usedinterjectionallyininformalspeechoftenwiththeverbbetointroduceaquota- tion,paraphrase,orthoughtexpressedbyorimputedtothesubjectoftheverb,or withit’storeportagenerallyheldopinion
a.so I’m like, “Give me a break.”
b.it’s like, “Who cares what he thinks?”
これらの辞書の記述を精査してみると,いくつか重要な留意点に気づかされるが,それらを以下 にまとめておきたい.
(13) ① belikeは,発話内容のみならず,考えなども導く引用表現であり,その点を盛り込ん でいない( 7 )の辞書は問題である.その他の辞書はすべて盛り込んでいて問題ない.
② belikeに導かれる発話内容は,( 8 )の太字にした定義部分(whetherornotrepre-
sentinganactualquotation)にあるように,必ずしも一語一語正確に引用されるもので
はない.この説明をきちんと盛り込むことは重要であり,( 8 )の辞書はその点で優れて いる.その反面,( 9 )の辞書の定義では,theexactwordsという語句を使って正確性 を強調した説明をしてしまっていて,( 9 )の辞書は修正が必要であろう.
③ はじめに述べた英国女優の露骨な批判にみられるように,一定の年齢以上の英語話者 から悪い烙印を押されている表現である.(10)の意味定義の最後の方ではその説明が加 えられていて親切である.またそのような否定的な説明を加えるのなら,むしろ「若者 に好まれて使われることが多い」というような,肯定的な記述があってもよいであろう.
④ 後にも述べるように,引用表現belikeの主語の代名詞として,itが使われることが少 なくない.(12)の辞書のみが,その点を例文も使って明確に記述している点は好ましい.
⑤ すでに③でも指摘したように,「この用法はおもに若者世代に好まれて使われる頻度が 高い」という説明がすべての辞書に見当たらないが,今後考慮すべき留意点のひとつで あろう.
これらの用例の中で,(12b)のit’slikeの主語には注意が必要である.通常は,I,he,sheなど の人を示す代名詞が主語になりやすいが,この用例のように無生物のitが主語として生起するこ とも少なくない.思考や発話の主体となることを考えれば,引用表現の主語は,思考や発話が可能 な[+ANIMATE]なもののみと考えがちであるが,実際には,主語にitが来る場合が少なくな い.この点についてRanger(2012)は,次のような例を引用して考察している.
(14)Wedon’tseealotofherbecauseourschedulesclashreallybadly.Iseeherforabout tenminutesaweek.It’slike“Hi...bye”inthedoor,outofthedoor. (COCA)
上記の(14)では,太字体の引用表現の主語のItは,その前の文の「自分は彼女に 1 週間に10 分くらいしか会えない」という状況を指し示している.その状況は「ハーイと言ってからすぐ,
バーイって言う」みたいなものであり,このような前の文脈の状況を指し示して,その状況を臨場 感ある発話や思考内容の引用によってまとめて説明する場合に,引用表現の主語としてitが使わ れることになる.
5 .他言語における
belike
に類似の引用表現英語の引用表現belikeに類似した引用表現が,世界の他の言語でも生まれていることがFoolen
(2008)の研究に記述されている.Foolenは,SantaBarbaraCorpusofSpokenAmericanEn- glish(2000)から,belike,go,beallなどの引用表現の具体例を紹介した後,他のゲルマン系言語 のオランダ語,ドイツ語,スウェーデン語,ロマンス系言語のフランス語,ポルトガル語,スペイ ン語,そしてその他のヨーロッパの言語としてロシア語,フィンランド語,ヨーロッパ以外の言語 としてヘブライ語,トルコ語,日本語などで観察される新しい引用表現について説明している.本 節では,この中で主要なものを以下に紹介しながら,英語で観察される新しい引用表現が,世界的 な潮流として他の言語でも新しく生まれていることを確認したい.
5.1 オランダ語,ドイツ語,スウェーデン語
オランダ語では,Verkuyl(1976)が,新しい引用表現のvan(from)について,初めて紹介し た.機能が英語のbelikeに似ているが,belikeよりずっと前に生まれている.具体例は以下のも のである.
(15)Toenhadikzoietsvandaarwilikookaanmeedoen.
(ThenIwaslikeIwouldliketoparticipateinthataswell)
ドイツ語では,undichso(andI’mlike),underso(andhe’slike)の構造におけるsoが,英
語のbelikeと類似した引用表現となる.具体例は以下のものである.
(16)underso:joaundichwilltmalguckenobihrproblemehabt.
(AndhewaslikeyeahandIjustwanttohavealookwhetheryouhaveanyprob- lems.)
スウェーデン語では,ba(only,just)が引用表現として使われ,具体例は以下のものである.
(17)Ochhonbadetskullealdrigjaggöra.
(Andsheislike“I’dneverdothat”)
5.2 フランス語,ポルトガル語
フランス語でも新しい引用表現語が発達していて,そのひとつがgenre(kind)であるという.
ひとつの例が以下のものである.
(18)Quandjeluiaiditquet’étaispassurdevenirelleétaitvraimentpascontente,genre
‘sivousjouezpasjechantepas’.
(WhenItoldheryouweren’tsureyouwerecoming[toherparty]shewasreallyup- set,like‘ifyouwon’tplay[thepiano],Iwon’tsing.’)
ポルトガル語では,assim(so)が,同様の機能を果たしているという.用例は以下のものであ る.
(19)Poiselaassim:“Ail”poisnósrebolávamosarir
(andsheislike:“Ail”,andwerolledlaughing)
5.3 トルコ語,日本語
動詞が文末に来るトルコ語や日本語にも,新しい引用表現が生まれていて,引用表現は引用部の 後に置かれる.トルコ語では,gibi(asif,like,similar)という語が新しい引用表現として機能し ている.
(20)Pişmanol-du-mgibibirşeylersöyledi.
(He/shewaslike“I’msorry”.)
日本語で英語のbelikeと同じ引用表現として機能しているのは,「みたいな」(mitai-na)とい う表現であるという.Foolen(2008)には,以下の例が掲載されている.
(21)a.Watashi“onakasuichatta” mitai-na. 私「お腹すいちゃった」みたいな.
(I’mlike“I’mhungry”.)
b.Kare-gaichiichiurusaku-te“mouhottoite”mitai-na.
(Heisnosyineverything,andI’mlike“leavemealone”.)
5.4 日本語の引用表現「みたいな」の使用性別比
英語のbelikeに該当する日本語の引用表現の「みたいな」について,男性と女性とどちらの使 用比率が高いか,国立国語研究所のオンライン検索ツール「中納言」を利用して調査を試みた.
「中納言」には複数の日本語の話し言葉や会話コーパスが収録されているが,一度にその検索結果 を得ることが可能である.
検索結果の内容を比較した結果,今回は「名大会話コーパス」の検索結果を利用することにし た.コーパスの調査時期が2001年から2002年の,すでに20年近く前のやや古い年代のコーパスであ るが,次節の第 6 節で調査する 2 つの英語コーパスの中間時期が2000年代前半であり,年代的なバ ランスがとれると判断したからである.
「名大会話コーパス」からは「みたい」を含む検索結果2,197件のうち,500件が自動抽出され る.その500件のうち,文末が「みたいな.」「みたいな,」「みたいな?」などで終わる文に絞ると 113件に絞り込まれる.その発話文の主体の男女の性別比は,男性発話文13対女性発話文100であ り,圧倒的に女性の発話率が高いことがわかる.年代も10代から20代の女性による発話文が多い が,以下に30代と40代の発話文も加えて年代順の具体的な発話文を示すことにしたい.
(22)a.こないだで,びびったもん,だって.「あー,はいはい.えー?」みたいな.「 2 回もま
ちがえちゃったよー」とか言って. (10代後半女性)
b.「太く見えたからー,何これ,と思って.なんだそれーなんだビデオ」みたいな.
「えーまじにこんなに太ってるの」とか思って,すっごいショックだった.
(20代前半女性)
c.「えー何々」っていう感じ.「ざけんなって,ざけんなじゃないんですかあ,こらー」み たいな.あんたたち日本語教師に. (20代後半女性)
彼 がいちいちうるさくて
「もうほっといて」みたいな.
d.「うんうんわ,和服の.うん,うんも,すごいよー,何これ」みたいな.「うちのお母
さんも父が亡くなってからさ, (30代前半女性)
e.座って,それで食べちゃった人がいたりして.「えーちょっと待ってよー」みたいな,
大変なときもあったし.難しいなー. (40代前半女性)
以上,簡易な調査ではあるものの,英語のbelikeと極めて類似した引用表現が,日本語を含め た英語圏以外の言語でほぼ同時期に生まれ,その普及が進行していることが理解できる.
6 .英国における
belike
の頻度の通時的変化英国でも引用表現のbelikeの利用は拡大しているが,通時的にどの程度進んでいるのであろう か.本節では,1990年代初頭の英語データが反映されている旧BNCと,それから約20年後の英語 の話し言葉のデータを蓄積したBNC2014の 2 つのコーパスを利用して,その頻度の通時的変化を 調査してみることにする.旧BNCは,BNC2014にあわせるために,分析対象を発話データ(Spo-
kenText)のみに絞って調査した.その結果をまとめると,次ページの表 1 ・表 2 のようになる.
引用表現のリスト内の主語の代名詞は,Iを除いてすべて小文字で示されている.これは,大文字 で始まっている例も小文字に変えてあるからである.
表 1 と表 2 から,英国における引用表現のbelikeの通時的変化と2010年代の特徴について,以 下のようにまとめることができよう.
(23) ① 「1990年代前半では,英国にはまだ引用表現のbelikeが上陸しておらず,BNCにも用 例が見当たらない」とする研究例もあるが,実際は少ないながらも存在し,すでに上陸し ていたことが確認できる.
② 1990年代前半は少なかった引用表現のbelikeは,この20年のあいだに確実に増加し ている.
③ 引用表現のbelikeの代名詞主語は, 1 人称単数のIがもっとも頻度が高く,次に 3 人 称単数のhe,sheの頻度が高いとする研究や辞書記述があるが,Iについては正しいもの の,heやsheよりもitの方が頻度が高い.
④ 時制については,過去の出来事を現在形で伝える歴史的現在の形式も使われるもの の,itが主語の場合を除いて,過去時制が優先される傾向が強いため,be動詞が短縮さ れる現在時制のI’m,he’s,she’sの形式の頻度はそれほど高くなく,一部の辞書の記述は 修正が必要である.
⑤ 2 人称のyouが主語のものは希という研究や辞書記述があるが,実際にはyouが主語 の例も存在する.
表 1 旧BNCとBNC2014内の引用表現belikeの頻度比較 BNCearly1990s BNC2014 quotive counts per/M counts per/M
1 I’mlike 4 0.38 442 38.7
2 Iamlike 0 0 3 0.26
3 Iwaslike 4 0.38 1,699 148.74
4 he’slike 6 0.6 237 20.75
5 heislike 0 0 0 0
6 hewaslike 1 0.1 511 44.74
7 she’slike 0 0 230 20.14
8 sheislike 0 0 2 0.18
9 shewaslike 0 0 476 41.67
10 it’slike 19 1.9 889 77.83
11 itislike 1 0.01 8(13) (1.14)
12 itwaslike 2 0.2 316 27.66
13 they’relike 2 0.02 222 19.44
14 theyarelike 0 0 6 0.53
15 theywerelike 1 0.01 175 15.32
16 we’relike 0 0 40 3.5
17 wearelike 0 0 0 0
18 wewerelike 0 0 104 9.1
19 you’relike 0 0 196 17.16
20 youarelike 0 0 0 0
21 youwerelike 0 0 78 6.83
表 2 引用表現の頻度順位 BNC2014
1 Iwaslike 2 it’slike 3 hewaslike 4 shewaslike 5 I’mlike 6 itwaslike 7 he’slike 8 she’slike 9 they’relike 10 you’relike
7 .おわりに
本稿の研究過程でもっとも驚いたのは,英語の引用表現belikeが米国から他の英語圏の国々に 広がっていくのと時を同じくして,日本語を含めた他の言語においても,同様の引用表現が誕生 し,年代や性別の点でも似通った特性を帯びながら拡散が進んでいるという事実であった.その裏 には,人と情報の移動のグローバル化が一因ではあろうが,特性の異なる多言語でほぼ同時期にほ ぼ同じスピードで,言語の新種が誕生し進化を進めている事態は,ひとつの驚異以外のなにもので もなく,言語の持つ神秘性とパワーを見せつけられる思いがした.今年の 1 月に中国の武漢から始 まり,またたく間に世界中に拡散したコロナウィルスによる大惨禍の中にあって,改めて,その思 いを強くさせられた次第である.
*本稿は2017年度中央大学特定課題研究の成果の一部である.
参 考 文 献
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(中央大学経済学部教授)