オーストラリアの弁護士法人について
―ニューサウスウェールズ州の ILP を中心として―( )
武士俣 敦
*
目次
Ⅰ はじめに−オーストラリアの弁護士法人研究の意義
Ⅱ オーストラリア・ニューサウスウェールズ州弁護士制度の概観
.オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の弁護士法制
.オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の弁護士(ソリシター)の概要
(以上本号)
Ⅲ オーストラリア・ニューサウスウェールズ州における弁護士法人とその規制
.ニューサウスウェールズ州における ILP の成立
.ILP の法的規制
.ILP と弁護士倫理
.ILP 規制の特徴と弁護士倫理の担保
Ⅳ ニューサウスウェールズ州における ILP の現況と評価
.ILP の現況
.ILP の評価
Ⅴ 結び
*福岡大学法学部教授
Ⅰ はじめに―オーストラリアの弁護士法人研究の意義
法サービスという専門職サービスの担い手である弁護士は歴史的に形成さ れた特有の性質をもつ職業として、各国において何らかの法的な制度化がな されている。弁護士制度には種々の側面があるが、その一つに法律業務を行 うための組織形態(以下では「経営形態」(business structure)と呼ぶ)の 法的規制のあり方がある。 年代以降、弁護士の経営形態の法的規制に新 し い 変 化 が み ら れ る よ う に な っ た。ま ず、異 業 種 共 同 事 務 所(Multi- disciplinary Partnership,あるいは、Multi-disciplinary Practice,以下では MDP と呼ぶ)の登場である。これは、弁護士と弁護士以外の職種との収入 共同型(profit-sharing)事務所である。実際上、他の職業としては、専門 職サービスである会計士との共同経営がとりわけ議論の中心であった。とこ ろが、 年代に入って、さらに新たな形態が現れた。これは、弁護士に会 社法上の営利法人としての経営形態をみとめるものである。法制上では、
年、オーストラリアのニューサウスウェールズ州で世界で最初に登場した。
これを Incorporated Legal Practice という(以下では ILP と略称する)。そ の後、オーストラリアに続いて 年に英国でも同種の経営形態が可能と なった(英国では Alternative Business Structure(ABS)という)。
このような展開が意味することを簡単にいえば、弁護士業務の経営への非 弁護士の関与とその拡大である。ILP はその最先端に位置する。弁護士とい う職業像の大きな転換をもたらす MDP ないし ILP という現象は、弁護士の 法社会学的な研究にとって次のような問題点を提起する。
・MDP から ILP へとつづく流れは必然性をもつのか?だとしたらその根 拠は何か?
本稿は ABS を取り上げるものではない。ABS についてふれる邦語文献として、例えば、吉
川精一『英国の弁護士制度』 ‐ 頁(日本評論社 年)
・今なお、MDP は多くの国で容認されていないが、それはなぜか?
・容認されている国では、なぜ容認されたのか?
・容認と拒絶という帰結を分けている社会的条件は何か?
・容認している国ではいかなる便益がもたらされているか、逆に弊害は生 じていないのか?
本稿は以下においてオーストラリアの ILP について紹介し、考察するも のであるが、その理由は、オーストラリアが世界で ILP を最初に導入した 国であり、その導入のプロセスや運用の経験を理解することは、こうした問 題にアプローチするにあたっての前提作業となると考えたからである。
Ⅱ オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の弁護士制度の概観
オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の弁護士法制
‐ .ニューサウスウェールズ州現行弁護士法の法源
オーストラリアは つの州(state)、および の特別地域(territory)か らなる連邦制国家であるが、弁護士制度は連邦ではなく、各州、および自治 権を も つ つ の 特 別 地 域(「オ ー ス ト ラ リ ア 首 都 特 別 地 域」(Australian Capilal Territory)と「北部特別地域」(Northern Territory))のそれぞれ の管轄に属している。個別の弁護士制度の骨格に共通性はあるが、具体的な 点では州により違いがみられる。弁護士による法サービスの市場が州を超え て全国的な広がりをもつようになるにつれて、州ごとの法制のちがいが桎梏 として認識されるようになり、この 年間にわたって弁護士法の統一化の動 きが進行している。もっとも、統一化のために策定されたモデル立法(Legal Profession Uniform Law)は、 年現在、ニューサウスウェールズ州とビ クトリア州の 州が採択しただけである。現状では、オーストラリア全体を 包括する単一の弁護士法は存在していないといえる。そこで、本稿では、ILP
を最初に制度化し、その他の制度革新についても先導的な動きを見せてきた ニューサウスウェールズ州を対象として叙述することにする。
弁護士を対象とした現行制定法の基本的なものは、 年に制定され、
年 月 日から施行された Legal Profession Uniform Law と Legal Pro- fession Uniform Law Application Act である。前者は弁護士法の全国統 一化のために策定されたモデル立法をそのまま内容とした法律であり、後者 は、モデル立法をニューサウスウェールズ州の現行法として妥当させるとと もに、細部について同州独自の内容を付加した法律という関係にある。以下 では、この つの法律をあわせてニューサウスウェールズ州の「弁護士法」
と呼ぶことになるが、叙述の便宜上、前者のみを指して「 年法」と呼ぶ ことにする。この下位に位置する制定法として、Legal Profession Uniform Regulations と Legal Profession Uniform Law Application Regulation がある。両者の関係は Legal Profession Uniform Law と Legal Profession Uniform Law Application Act の関係と同様である。一般に Regulation とは 法律の下位にある法令の制定形式であって、法律の執行に必要な事項を定め るものである(以下では「弁護士法施行令」という)。「 年法」において は、この制定権は議会ではなく、法制上、全国レベルの弁護士規制機関の最 上位に位置する Standing Committee と呼ばれる機関に与えられている 。加 えて、下位の法令として、Legal Profession Uniform Rules がある。これも 法律の執行のために必要な事項を定めるためのものといえるが、「施行令」
よりも個別具体的な内容をもつ(以下では「弁護士法施行規程」という)。「 年法」の下でのこの「規程」には次の 種類のルールかが含まれている。
「 年法」 条、 条。なお、この Standing Committee は、現在、弁護士法の全国 統一化のスキームに参加しているニューサウスウェールズ州とビクトリア州の 州の司法長官 によって構成されているようである(Intergovernmental Agreement, at http://
www.legalservicescouncil.org.au/Documents/Intergovernmental̲Agreement.pdf,最 終 閲 覧 年 月 日)。
①「一般規程」(General Rules)
②「資格付与規程」(Admission Rules)
③「ソリシター行為規程」(Solicitorʼs Conduct Rules)
④「ソリシター実務規程」(Legal Practice (Solicitor) Rules)
⑤「ソリシター継続教育規程」(Continuing Professional Development (So- licitor) Rules)
このうち、「一般規程」は、上の②から⑤までの 種類の規程がカバーす る「 年法」の条項以外の条項に関するものである。「ソリシター行為規 程」と「ソリシター実務規程」は、後述するように、内容的にみれば弁護士 倫理を実定規範として定めたものに相当する。したがって、以下では、とく にこの つを合わせて「弁護士職務規程」と呼ぶことにする。
これらの各個別規程からなる「弁護士法施行規程」の制定権者は Legal Services Council と呼ばれる機関で、上記の Standing Committee の下 位に位置する全国レベルの規制機関である 。そして、「行為規程」、「実務規 程」、および「継続教育規程」の原案策定にはソリシターとバリスターを含 む弁護士の全国団体である Law Council of Australia (以下では LCA と 呼ぶ)があたることができるようになっている 。
‐ .現行弁護士法(「 年法」)の成立までの経緯
現行弁護士法の法源は以上にみたとおりであるが、「 年法」の成立に 至る経緯と背景についても簡単にみておこう。「 年法」に至るまで、ニュー
「 年法」 ‐ 条、 条。なお、 Legal Services Council の所在地は参加 州の協定 により、ニューサウスウェールズ州のシドニー市となっている。
「 年法」 条。なお、LCA は、 年創立の任意団体であり、現在、州レベルで存在 する のソリシター団体及びバリスター団体、それに つの大規模法律事務所からなるグルー プを 団体とする計 団体で構成されている(Hughes, G.,
(Halstead Press, 2013) p.34)。
サウスウェールズ州の「弁護士法」は、 年代以降、 度の全面改正と幾 度かの部分改正を経ている。全面改正とは 年制定の Legal Profession Act (以下では「 年法」という)と、 年制定の Legal Profes- sion Act (以下では「 年法」という)である。
「 年法」は、それまでの弁護士制度の改革を目指す動きの中で生じた。
その政治的な契機はニューサウスウェールズ州の「法改革委員会」(NSW Law Reform Commission)により 年に公表された報告書である。それが 示した改革の重要な側面の一つは弁護士自治にかかわるものであった。それ までよりも外部の関与の強化が目指されたのである。制定時におけるその現 われは、次の点にみられた。
・弁護士法に関する司法長官の諮問機関(Legal Profession Advisory Coun- cil)の新設とそこへの外部委員の参加
・弁護士会(ロー・ソサイアティ)の各種委員会、とりわけ懲戒委員会へ の外部委員の参加
しかし、規制改革の波に襲われるその後の 年代以降の法の展開から省み れば、制度改革としては微温的であり、このような規定は弁護士にとって弁 護士自治への脅威をそれほどまでに現しているものではなかったとされる 。
「 年法」の下で 年代に入ってから一部改正の形で加えられた変更 は MDP や ILP を含め多岐にわたるが、主要な改正立法として、とくに 年に成立した Legal Profession Reform Act が重要である。本稿の対 象である ILP に通ずる MDP はこれにより導入された。該当条項は「 年 法」の G 条として追加された。法律の構成から見ると、無資格者(Unquali-
ニューサウスウェールズ州司法省に置かれている常置委員会で現在も存続している
(http://www.lawreform.justice.nsw.gov.au/Pages/lrc/lrc̲aboutus/lrc̲aboutus.aspx)。
「 年法」 条。
「 年法」 条。
Weisbrot, D., (Longman House, 1990) p.185,
fied Practitioners)の規制に関する節(Part 3A)の中の一連の条項の一つ として位置づけられている 。
この 年の法改正は競争原理の導入という理念にもとづいて行われたも ので、MDP 以外に、広告の自由化、報酬規程の撤廃、成功報酬制の導入な どの規制緩和が実現し、伝統的なプロフェッショナリズムにもとづく弁護士 制度に大きな変化をもたらしたものであった 。当時は、規制改革の波が政 治的な力となって法曹界に押し寄せていた時期であった。連邦政府が 年 に設置した経済政策に関する諮問委員会、いわゆる「ヒムラー委員会」(Him- ler Committee)の報告書にもとづき、全国レベルで競争政策の促進(National Competition Policy Review)が図られることになる 。時を同じくして連邦 政府の競争政策所管官庁である「取引実務委員会」(Trade Practice Commis- sion)は、 年、弁護士業界をターゲットとして、そこにおける反競争的 な実務慣行を審査することを宣言し、 年に最終報告書を発表し、多面に わたる弁護士制度の改革を提言した 。ニューサウスウェールズ州の 年
ちなみに、MDP の条項以外の無資格者関連条項には、以下の条項がある。
・弁護士として活動する無資格の自然人( B 条、罰則付き)
・弁護士であると標榜する無資格の自然人( C 条、罰則付き)
・法人またはその役員による非弁活動の禁止( D 条、罰則付き)
・弁護士以外の者が取扱いを禁じられる特定の業務( E 条、罰則付き)
・弁護士以外の者との収入共同( F 条)
・コミュニティ・リーガル・センター( H 条)
・特定の無資格者を弁護士の事務職員として雇用することの禁止( I 条)
・特定の無資格者とパートナーシップとなることの禁止( J 条)
・不適格者または有罪歴ある者をアソシエイトとすることの禁止( K 条、罰則付き)
Shinnick, E., F. Bruinsma, & C. Parker, Aspects of regulatory reform in the legal profession:
Australia, Ireland and the Netherlands, 10 International Journal of the Legal Profession, 242-244, 2003.
年代のオーストラリアの経済政策については、石垣健一「 年代のオーストラリア経済 の動向とマクロ・ミクロ経済政策の展開」国民経済雑誌 巻 号 ‐ 頁( 年).
Parker, C., Justifying the New South Wales Legal Profession Reform 1976 to 1997, 2 Newcas- tle Law Review 9-10, 1997; Farmer, J., The Application of Competition Principles to the Organi- zation of the Legal Profession, 17 University of New South Wales Law Journal 285-297, 1994.
の弁護士法改正はこのような時期になされたものであり、「取引実務委員会」
最終報告書の内容の多くをいわば先取りする形での立法であった 。 ILP は 年の弁護士法改正で新しく導入され、「 年法」の B 条か ら T 条として組み込まれる形となっている。法律の全体構成からみると、
次のように第 章「法律事務取扱い」の中の一節として配置されている。
第 章 法律事務取扱い(Part Legal Practice)
第 節 実務許可証( ― F 条)
(Division Practicing certificates (ss. ‐ F))
第 AA 節 実務許可証に関する特別の権限( FA― FJ 条)
(Division AA Special powers in relation to practicing certifi- cates (ss FA− FJ))
第 A 節 バリスターまたはソリシターとしての実務( G― Q 条)
(Division A Practice as a barrister or solicitor (ss. G‐ Q))
第 B 節 バリスターの弁護過誤賠償保険( R 条)
(Division B Barristersʼ indemnity insurance (s. R))
第 節 ソリシターの弁護過誤賠償基金( ― A 条)
(Division Solicitorsʼ mutual indemnity fund (ss. ‐ A))
第 A 節 弁護士法人(ILP)( B― T 条)
(Division A Incorporated legal practice (ss. B‐ T))
第 節 クラウン・ソリシター( A 条)
(Division Crown solicitor (s. A))
一見して、ILP に関してだけでなく、「法律事務取扱い」の中の他の事項に 関しても、 年代の改正立法がもたらした多くの追加条項があることがみ てとれる。
Clifton-Steele, R., Peak law bodies tell TPC the legal profession is already most competitive:
developing a national competition policy, 32 Law Society Journal 66 (March 1994)
「 年法」を全面改正した「 年法」は 年代の制度改革を取り込 んで成立した。法律の条文構成から見ると、個別の法改正がもたらしたつぎ はぎ的な状態を脱して、体系的な整備が施されている。大きく、第 章「法 律事務取扱いの一般的要件」(General requirements for engaging in legal practice)、第 章「法律事務取扱いの実行」(Conduct of legal practice)、第 章「懲戒」(Complaints and discipline)、第 章「外部監督」(External inter- vention)、第 章「調査」(Provisions relating to investigations)、それに第 章「規制機関」(Regulatory authorities)の各章を含む全体で つの章か らなっている。その中で、第 章第 部において ILP と MDP について、そ れぞれ節を分けて規定されている。「 年法」の規定と比べてみると、ILP については「 年法」の規定がほとんどそのまま移行され(条文数では か条から か条へ)、MDP については、より細かく精緻な規定がなされて いる(条文数では か条から か条へ)。ILP と MDP に関して、「 年 法」から「 年法」への変更点を挙げるならば 点あって、 つは ILP がその事業を終了する際に、終了の通知義務が明定されたこと、もう一つは、
ILP の弁護士取締役に義務として要求されている「適切な管理システム」
(appropriate management system)の導入と維持が、MDP のパートナー 弁護士にも義務付けられるようになったことである 。
「 年法」の成立をもたらした主な契機は、「全国統一弁護士法プロジェ クト」(National Legal Profession Model Law Project)と名づけられた一つ の運動である。これは、全国的な法サービスの市場を確立することを目指し、
「 年法」 ‐ 条
「 年法」 ‐ 条
「適切な管理システム」(appropriate management system)については、後述するが、「
年法」の 条にこの文言が置かれている。
Cawley, C., The new Act: What the Legal Profession Act 2004 means for practitioners in NSW and around Australia, 43 Law Society Journal 24 (February 2005)
それに対応しうる全国統一的な弁護士法制を実現するためのプロジェクトで あり、 年から 年にわたって「全国司法長官会議」(Standing Commit- tee of Attorneys-General)と LCA が協働して取り組んだものである 。こ の活動の中から「全国統一弁護士法試案」(National Legal Profession Model Bill)が策定され、 年に公表された。これは各州が統一的な内容をもつ 弁護士法を制定するためのテンプレートとして役立つように企図されたもの である。このプロジェクトを先頭にたって唱導したニューサウスウェールズ 州は、いち早く、この「全国統一弁護士法試案」の枠組みに「 年法」の 内容を取り込んで、レイアウトを一新した弁護士法を「 年法」として制 定したのである 。 年以降 年にかけて、他の諸州においても次々に、
「全国統一弁護士法試案」に準拠した弁護士法の全面改正が行われていった 。
「 年法」の 年後、施行後まだ日の浅い現行の「 年法」をもたら したのは、先の「全国統一弁護士法プロジェクト」に引き続く更なる弁護士 法統一化の動きであった。 年 月に「オーストラリア政府間協議会」
(Council of Australian Governments)は弁護士法の全国統一化の必要性に ついて合意し、その要請を受けて、連邦司法長官は法律の試案を作成するた めの作業部会を設置した 。そして、 Legal Profession National Law と名 づけられた弁護士法の試案が 年 月にはじめて公表され、翌年 月には 改訂版が公表された 。
Gotterson, B., Framework for a National Legal Services Market: National Legal Profession Model Bill, 42 Law Society Journal 58 (June 2004)
Cawley(前出注 )p.
Hughes(前出注 )p. .
Wilkins, R., Agenda for Reform: National Regulation of the Legal Profession, 47 Law Society Journal 50-52 (August 2009).また、各州の弁護士法の不統一性を指摘し、さらなる統一化を主 張するものとして、McAllister, G., Regulation of the Legal Profession: Why Further Reform is Required, 47 Law Society Journal 70-73 (June 2009)
Hughes(前出注 )pp. ‐ .
「オーストラリア政府間協議会」を構成する諸州がこぞって参加を期待さ れた弁護士制度の全国統一スキームであったが、すでに述べたように、策定 当初から現在に至るまで、参加を表明したのはニューサウスウェールズ州と ビクトリア州の 州だけである。 年 月、両州は共同参加のための政府 間協定を締結し、それぞれの州で立法作業に入った。ニューサウスウェール ズ州では、 年 月に法案が議会に提出され、 月に成立、 年 月 日から施行となった 。
「 年法」の内容を目次に沿って瞥見すると、第 章(Chapter )は、
非弁行為と法曹資格付与についての規定であり、第 章(Chapter )は、
「法律事務取扱い」に関する事項を規定するもので、法律事務を行うにあたっ ての義務、責任、権利について一般的に定める他、弁護士実務許可証の得喪 変更等、外国弁護士、コミュニティ・リーガル・サービスなどについて定め られている。ILP はこの中の独立した節(第 章第 部第 節)に規定され ている。第 章(Chapter )の内容は主に弁護士業務の金銭的側面に関す るもので、預かり金の管理、弁護士費用、弁護士賠償責任保険などについて の定めが置かれている。第 章(Chapter )は紛議と懲戒に関する事項で ある。第 章(Chapter )は弁護士の業務経営にたいしてなされる外部か らの監督介入について、第 章(Chapter )は、外部監督の中でもとくに 立ち入りや捜索等の調査権について定めている。第 章(Chapter )は、
規制機関を法定している。すでに述べたように、全国レベルでの統一規制機 関として、最高位にあるのが Standing Committee で、その下に Legal
ニューサウスウェールズ州における「 年法」の成立時の直近の動きに関しては、同州 ロー・ソサイアティのウェブ・ページ(https:www.lawsociety.com.au/ForSolicitors/advocacy /nationallegalreform/index.htm,最終閲覧2016年11月14日)を参照。
Commissioner とは、とくに紛議と懲戒に関する事項を全国レベルで所掌する機関であり、
Legal Services Council の執行責任者(Chief Executive Officer)でもある(http://www.
legalservicescouncil.org.au/Pages/about-us/commissioner.aspx,最終閲覧 年 月 日)。
章 年法 年法
Preliminary Introduction
Threshold requirements for legal practice General requirements for engaging in legal practice
Legal practice Conduct of legal practice
Business practice and professional conduct Complaints and discipline Dispute resolution and professional discipline External intervention
External intervention Provisions relating to investigations Investigatory powers Regulatory authorities
Regulatory authorities General provisions
Miscellaneous
[表 ]:「 年法」と「 年法」の章タイトル
Services Council と Commissioner 、それに資格付与の規制を受け持つ Admissions Committee が置かれている。さらにその下に各州レベルで
「地方規制機関」(Local regulatory authorities)が存在する。
「 年法」から「 年法」へと、法律の体系的構成がどう変わったか を目次を対比することによって確認しておこう。
[表 ]からわかるように、規定内容に照らして構成上の大きな違いをみる と、「 年法」の第 章の内容が「 年法」では第 章と第 章の つ の章に分けられる形となっている。そしてその結果、「 年法」の第 章 から第 章がその順序で「 年法」の第 章から第 章に対応する形となっ ている。「 年法」から「 年法」への変化と比べればレイアウトの変 化はわずかである。
現行法では、法律事務を取扱う担い手が、「オーストラリア弁護士」(第 章 部)、「外国弁護士」(第 章 部)、「弁護士法人(ILP)と非法人事務 所(unincorporated legal practices)」(第 章 部)、そして「コミュニティ・
リーガルサービス」(第 章 部)という つの項目の下に整理されること になり、「 年法」の第 章第 部第 節に ILP と並んで独立に規定され
ていた MDP の文言は、今では法律上は存在しない。ただ、ILP の導入 以降、これまでそれを最も長期にわたって規制してきたのは「 年法」で あることからすれば、今の ILP の現実と法との関係を考察するにあたって は「 年法」を必要に応じて参照しなければならない。
以上が現行弁護士法制とその成立の経過のあらましである。
オーストラリアの弁護士(ソリシター)の概要
‐ .オーストラリアの弁護士(ソリシター)の現況
ニューサウスウェールズ州のソリシターの現況の前に、オーストラリア全 体のソリシターの現況にふれておく 。基礎的データは、これまでニューサ ウスウェールズ州のソリシター団体であるロー・ソサイアティによって 年と 年の 回収集されている。以下に、それにもとづいて 年現在の 概況を示す 。
年 月現在のオーストラリア全体のソリシター人口(現役)は、 , 人である。州別ではニューサウスウェールズ州が .%でもっとも多く、次 いでビクトリア州の .%、そしてクイーンズランド州が .%となってい る。この 州で 割を占める。職場の種類別では、民間開業に .%、民間 企業に .%、そして政府機関に .%が属している。地域分布では、「大都
やや遡るが、 年公表のオーストラリア政府統計局が実施した法サービス産業調査にもと づく全国レベルでの法曹人口の状況を参考までに挙げておこう。
バリスター
ソリシターその他の事業所数
内)法人事業所(incorporated) ( .%)
非法人事業所(unincorporated) ( .%)
その他 ( .%)
(http://www.abs.gov.au/AUSSTATS/abs@nsf/ Lookup / 8667.0Main + Features52007-08 # AnchorEmp,最終閲覧 年 月 日)
Urbis, 2014 Law Society National Profile: Final Report, April 2015, at https://www.lawsociety.
com.au/cs/groups/public/documents/internetcontent/1005660.pdf,最終閲覧 年 月 日.
市地域(City)」に .%、「郊外地域(Suburban)」に .%、「地方(Rural)」
に .%、「州外(Interstate)」 .%、そして「海外(Overseas)」に .%
となっている 。
民間開業に限ってみると、全オーストラリアで , の事務所が存在する。
パートナー数を指標とした事務所の規模別分布をみてみよう。集計区分は パートナー 人の単独経営者事務所、パートナーが から 人の事務所、
から 人の事務所、 から 人の事務所、 から 人の事務所、そして 人 以上の事務所となっている。それぞれの構成比は、 .%、 .%、 .%、
.%、 .%、そして .%となっている。仮にパートナー 人以上の事務 所を大規模事務所とすれば、わずか全体の .%を占めるにすぎないが、そ こで働くソリシターの割合は多い。全ソリシターの事務所規模別の割合をみ ると、単独経営者事務所から大規模事務所の 区分に応じて、それぞれ、
.%、 %、 .%、 .%、 %、そして .%となっている。すなわち、
事務所のわずか .%がソリシター人口の .%をかかえていることになる。
では、ニューサウスウェールズ州ソリシターの現況に目を転じよう。州の 総人口は、 年 月時点での推定で 万人。オーストラリア総人口の % を占め、州の中で最大である。州の総人口の %(約 万人)は首都であ るシドニー都市圏に居住している 。
同州のソリシターに関する基礎的データはロー・ソサイアティによって継 続的に収集されているので、以下に、それにもとづいて最近の概況を示す 。
ソリシターの総数は、 年 月現在で , 人であり、性別では男性が 地域区分の「大都市地域(City)」は各州の首都を意味するが、その他の各区分をどう定義 するかはデータを提供した各州に任されている。
オーストラリア政府統計局 年 月 日発表資料(Catalog No.3235.0-Population by Age, Sex and Region)
Urbis, 2014 Profile of the Solicitors of NSW: Final Report, March 2015, at
https://www.lawsociety.com.au/cs/groups/public/documents/internetcontent/942948.pdf ,
最終閲覧 年 月 日.
, 人( .%)、女性が , 人( .%)で、ほぼ半々である。
年には男性が約 分の 、女性が約 分の であったから、この間女性弁護 士の増加が顕著である。
全体の平均年齢は .歳である。年代別にみると、 歳代までは女性の割 合が男性の割合より多く、 歳代では男女の割合はほぼ等しくなり、 歳代 以上になると男性の割合が多くなっている。この 数年間にわたる女性の参 入の増大の結果を反映している。
個人単位でみた州の全ソリシターの地域分布は、「都市部(City)」に .%、
「郊外地域(Suburban)」に .%、「地方(Rural)」に .%、「州外(Inter- state)」に .%、そして「海外(Overseas)」に .%となっている 。
職場の種類を民間開業、政府機関、民間企業の つのセクターに分けたと き、民間開業に全体の .%と、もっとも多くのソリシターが属し、政府機 関に .%、そして企業内弁護士は .%となっている。
ここで、もっとも典型的な職場である民間開業に限って現況をみよう。民 間開業部門ではソリシター総数の 割に当たる , 人が働いている。性別 割合では、男性が , 人( .%)で、女性が , 人( .%)である。
ソリシター全体の分布と比べると少し女性の割合が小さい。地域分布では、
「都市部」に .%、「郊外地域」に .%、「地方」に .%、「州外」に
.%、そして「海外」に .%となっており、この分布はオーストラリア全 体のソリシターの地域分布と大きな違いはないようである。
民間開業の経営単位である事務所についてみてみよう。ニューサウス ここでの地域区分で「都市部(City)」とはシドニー市の Central Business District(CBD)
を指している。「郊外地域(Suburban)」とはシドニー市郊外を指すが、さらに外側が「地方
(Rural)」である。正確にいえば、シドニー市にある最高裁判所から半径 km 以内の地域が
「都市部」、 km から km までの範囲の地域が「郊外」、 km 以上の地域が「地方」である
(The Law Society of New South Wales, Memorandum and Articles of Association, 12.2, at https://www.lawsociety.com.au/cs/groups/public/documents/internetcontent/018262.pdf,
最終閲覧 年 月 日)
ウェールズ州におけるソリシターの事務所の総数は , である。このうち、
どれくらいの規模の事務所がどれだけあるのだろうか。パートナーの数で区 分した集計では、単独経営者事務所が .%と圧倒的な割合を占め、パート ナー から 人の事務所が .%、 から 人の事務所が .%、そして 人以上の事務所は .%である。
次に民間開業のソリシターのうち、パートナーと雇用ソリシターの人数分 布がそれぞれ事務所の規模別にどのように分布しているかをみてみよう。
パートナーの総数は , 人である。このうち .%が単独経営者事務所に 属し、 .%がパートナー から 人の事務所に属し、 .%が から 人 の事務所に属している。そしてパートナー 人以上の規模の事務所にはパー トナーの地位にあるソリシターの .%が属している。雇用ソリシターの総 数は , 人である。このうち %が単独経営者事務所に属し、 %がパー トナー から 人の事務所に属し、 .%が から 人の事務所に属してい る。そしてパートナー 人以上の規模の事務所には雇用ソリシターの .%
が属している。ソリシター全体の事務所規模別人数分布で見れば、 , 人 のうち、単独経営者事務所には .%、パートナー から 人の事務所に
.%、 から 人の事務所に .%、そして 人以上の事務所には .%
が属している。
特徴的な事実を指摘すれば、単独経営者事務所は事務所数の 割近くを占 めるが、パートナー数では約 割を占めるにとどまる。また、雇用ソリシター のうち、約 割を雇用しているにすぎない。他方で、パートナー数 人以上 の大規模事務所は数にして 、わずか .%にすぎないが、パートナー総数 に占める割合では .%であり、雇用ソリシター全体の .%を雇用してい る。ソリシター全体で見れば、単独経営者事務所で約 割強のソリシターを カバーしているのにたいして、最大規模の事務所がほぼ 割のソリシターを カバーしている。
‐ .オーストラリアの弁護士団体―ソリシター
プロフェッションとしての弁護士は団体を形成し、それが主体となって倫 理規則を制定し、メンバーの補給・訓練・監督・懲戒を通して自治を行うの が理念的な姿である。オーストラリアの弁護士はどうであろうか。その状況 を概観しよう。
ニューサウスウェールズ州のソリシターにとっての弁護士会はロー・ソサ イアティである。歴史をさかのぼると、 年に結成されたソリシターのグ ループが、 年に The Incorporated Law Institute of New South Wales という名称で民間法人となったのが出発点であり、 年に The Law Soci- ety of New South Wales という名称に変更して現在に至っている。弁護士 自治は、 年に立法による承認を得て、メンバーに対する懲戒権や実務許 可証(Practice Certificate)の発行権などを獲得したことで実現した 。実 務許可証を発行する権限を得たことは、その権限行使、とくに発行手数料の 徴収を通じて、実際上、弁護士会への強制加入制を実現したことを意味する 。
以下、強制加入制、弁護士倫理の制定、および懲戒について、弁護士会が どのように関わっているかを法制と実情の両面からみてみよう。
⑴ 強制加入制から任意加入制へ
まず、弁護士会への強制加入制についてである。上述のように、 年か ら長く強制加入が続いてきたが、現在は任意加入制である。この変更は、
年に成立した弁護士法の一部改正による 。弁護士が実際に開業するために は、法曹資格の取得、すなわち最高裁判所の名簿に登載された後、さらに ロー・ソサイアティが発行権限をもつソリシター実務許可証を手数料を払っ て取得しなければならないが、改正法はこの手数料がロー・ソサイアティの
Hughes(前出注 )pp. ‐ Weisbrot(前出注 )p. .
Legal Profession Amendment (National Competition Policy Review) Act 2002, No. 25.
メンバーとなることの対価を含んではならず、またメンバーに提供される サービスや利益の費用にあてるために必要な金額を含んではならないと定め た(改正後「 年法」 B 条 項)。それとともに、直裁に「ロー・ソサ イアティは会員に対して会費を徴収してよい」が、「ソリシターはロー・ソ サイアティの会員となることを強制されない」と定めた(改正後「 年法」
MA 条)。これらの規定は 年 月から施行され、以後任意加入となった。
この制度変更は何か実際の変化をもたらしたのであろうか。現役のソリシ ターとして活動しながらロー・ソサイアティの会員になっていないソリシ ターの実態は不明である。ただ、ロー・ソサイアティの広報( 年版)に よれば、「 , 人以上」が会員であるとされている 。 年 月時点の ニューサウスウェールズ州の実務許可証を保持するソリシター数は , 人 であるから 、会員でないのはほぼ 人前後となり、ほとんどを捕捉して いるといえるだろう。
B 条 項の原文は以下のようになっている。
29B Fee for practising certificate-solicitors
(6) The practising certificate fee is not to include any charge for membership of the Law Soci- ety and is not to include any amount that is required for the purpose of recovering any costs of or associated with providing services or benefits to which solicitors become entitled as mem- bers of the Law Society.
Note. Section 57MA provides for membership of the Law Society. It is not compulsory for solici- tors to be members of the Law Society.
MA 条の原文は以下のようになっている。
57MA Membership of Law Society
(1) The Law Society Council may charge a fee for membership of the Law Society.
(2) Membership of the Law Society is not compulsory for solicitors.
The Law Society of NSW, Be Part of Something Bigger Member Services Guide 2016-2017, p.3.(https://www.lawsociety.com.au/ForSolictors/membership/MemberServicesguide/index.
htm,最終閲覧 年 月 日).
Urbis, 2015 Law Society National Profile: Final Report, April 2016, at
https://www.lawsociety.com.au/cs/groups/public/documents/internetcontent/1149382.pdf,
最終閲覧 年 月 日.
⑵ 弁護士倫理の制定
一般的には多くの国で、弁護士倫理を内容とする実定規範の制定に、弁護 士会は一定の責任と権限を有している。そこで、この面におけるロー・ソサ イアティのあり方がどうなっているかをみてみよう。ソリシターに関する現 行の倫理綱領、すなわち日本の弁護士にとっての「弁護士職務基本規程」に 相当するものは、前述したように「 年法」の下位法令である「弁護士法 施行規程」(Legal Profession Uniform Rules)の一部をなす「ソリシター行 為規程」(Solicitorʼs Conduct Rules)と「ソリシター実務規程」(Legal Prac- tice (Solicitor) Rules)である。全国統一弁護士法スキームである「 年法」
の下では、この制定権は州を超えた規制機関である Legal Services Council が有していて、原案策定の権限をロー・ソサイアティの全国組織で任意団体 である LCA に与えている。ニューサウスウェールズ州のロー・ソサイア ティは「地方規制機関」(Local regulatory authorities)の一角を占めるもの として法的位置づけを与えられているが、当該「弁護士職務規程」を制定す る権限との直接的なつながりを示すような規定は何ら存在しない。したがっ て、形式面からは弁護士団体自ら制定する 自治規範 という性質は日本の 弁護士のそれと比べて弱いといえる。もっとも、ニューサウスウェールズ州 のロー・ソサイアティは LCA を構成する諸団体の中核であり、「弁護士職 務規程」の形成に実質的な影響力をもったことは疑いないであろう。
「 年法」の下での現行の「弁護士職務規程」を便宜上「 年規程」
と呼ぼう。この内容を瞥見すると、「守秘義務」、「利益相反」など伝統的に 普遍的な弁護士倫理と考えられてきた事項がルールとして規定されており、
懲戒事由の存否の判断基準となることが明定されている。
現行の「 年規程」に至るまでの経過を簡単に振り返っておこう。「
年規程」は「 年法」の成立に対応して、 年 月に制定され、 年 月から施行されている。これ以前には、ニューサウスウェールズ州のみで
効力をもつ「 年法」にもとづいて、 年 月から 年 月までのき わめて短期間効力を有した「 年規程」(NSW Professional Conduct and Practice Rules )があった。「 年法」の下では、ロー・ソサイアティ に「弁護士職務規程」の制定権があることが明示されていた 。それに先立 つのは 年 月から 年 月まで長きにわたって施行された「 年規 程」(The Revised Professional Conduct and Practice Rules )である。
これは、その前年に制定された「 年規程」(Professional Conduct and Practice Rules)の改訂版として制定された。「 年規程」は、 年 月 から 年 月までの短期間施行されたものである。これは、MDP の解禁 などを含んだ弁護士制度の大きな改革をもたらした 年の弁護士法改正
(Legal Profession Reform Act )を受けて、それに対応するためのもの であった。「 年規程」と「 年規程」の制定は、「 年法」がロー・
ソサイアティに付与していた権限にもとづいて行われた 。このように、
年代以降、四度の制定もしくは改訂を経て現行の「弁護士職務規程」至って いる。
それでは、現行の「弁護士職務規程」(「 年規程」)はいかなる内容を 含んでいるかをみよう。「ソリシター行為規程」の実体的なルールは以下の
つの標題でカテゴリー区分されている。
.「性質と目的」(Nature and purpose)
.「基本的義務」(Fundamental duties)
.「依頼者との関係」(Relations to clients)
.「弁護と訴訟」(Advocacy and litigation)
.「他者との関係」(Relations with others)
「 年法」 条。
「 年法」 B 条。なお、「 年法」の D 条 項は、ロー・ソサイアティの会員でない ソリシターに対しても「弁護士職務規程」の拘束力が及ぶことを明記している。
.「法律業務の経営」(Law practice management)
具体的な規律項目をいくつかピックアップしてみよう。「基本的義務」に おいては、裁判所と司法への忠実義務、依頼者利益の擁護、弁護士の独立性 の保持、品位の保持などの基本的事項が一般的な表現で規定されている。「依 頼者との関係」に含まれるのは、守秘義務や利益相反などである。「弁護と 訴訟」には裁判所での業務を行うに際してのルールが定められている。「他 者との関係」で規定されているのは、他のソリシター、その依頼者、相手方、
その他の第三者などと接したり、取引したりする際のルールである。「法律 業務の経営」に関するルールには、広告、収入共同、施設の共有などの事項 がある。また、「弁護士職務規程」には「ソリシター行為規程」に加えて、「 年規程」までは一体であったが今は形式上独立した規程になっている「ソリ シター実務規程」があるが、ここには、兼業、ソリシター業務の承継、債権 回収業などとの関係のあり方などについてのルールが含まれている。
個別的な規律事項には現在に至るまで一定の変化がある。ここでは、本稿 の関心に関係する主な事項に限って「 年規程」から現行「 年規程」
までの間の変化を見ておこう。ここで変化というのは、特定の規律事項自体 の削除や付加という意味での変化とともに、規律事項自体は継続的に存在す るものの、「弁護士職務規程」の中の各標題で示される体系上の位置づけの 変更という意味での変化をも意味する。[表 ]は、弁護士倫理のカテゴリー 区分が時間的にどう変わってきたかを「弁護士職務規程」上の標題に即して 整理したものである。
まず、本稿の関心である ILP と MDP の「弁護士職務規程」との関わり方 をみておこう。時代的には MDP が早く、 年の弁護士法改正によって導 入された。そして、この動きに即応して「 年規程」に MDP に関する規 定が盛り込まれた。その位置づけは標題の Solicitorʼs Practice の中に置 かれた 。しかし、翌年に全面改訂された「 年規程」では、当初 MDP
に関する規定は継承されていたが、その後しばらくして削除された 。それ 以降、「弁護士職務規程」上、MDP に関するルールは存在しない。ILP は 年の弁護士法改正によって導入された。導入当時は「 年法」の下にあり、
ロー・ソサイアティは「弁護士職務規程」の制定権を有していたが、ILP に 関してルールは何も定められていなかった。法律が「 年法」から「
年法」に代わった際、ロー・ソサイアティに「弁護士職務規程」の制定権を 与える条項に変化はなく、その上、ILP と MDP を格別に取り上げ、それに ついてもルールを定める権限があることをとくに明示した条項が新たに盛り 込まれた 。しかし、その後もこの条項にもとづいて ILP に関するルールが 定められたことはなく、「弁護士職務規程」には、その誕生から現在に至る
「 年規程」ルール
「 年規程」ルール 。この理由については後述する。
「 年法」 条
分類 年規程 年規程
Solicitors Practices Relations with Clients
Solicitors and Client Duties to Court
Duties to Court Relations with Other Lawyers
Solicitors and Other Lawyers Relation with Third Parties Solicitors and Third Persons Legal Practices
分類 年規程 年規程
Fundamental Duties Fundamental Duties
Relation with Clients Relation with Clients
Advocacy and Litigation Advocacy
Relation with Other Solicitors Relation with Other Persons Relation with Other Persons Law Practice Management Law Practice Management Practice Rules
Practice Rules
[表 ]:「弁護士職務規程」の標題の変遷
まで ILP に関するものは一貫して存在していない。なお、ILP や MDP と密 接に関連する事項に弁護士と非弁護士との収入共同(Sharing receipts)が ある。これに関するルールは「 年規程」から現在の「 年規程」に至 るまで何ら変化することなく存在し続けている。一定の条件付で許容すると いう規定の内容もまた変わっていない 。
その他に業務規制に関するものとして、紹介料(referral fee)と広告に関 するルールについてもふれておきたい。依頼者紹介にまつわる金銭等の授受、
つまり紹介料は、「 年規程」では Relation with Clients の標題の下で、
利益相反に関連する事項として位置づけられ、条件付で許容する規定がなさ れている 。同様の規定は以前からずっと存在しているのであるが、「 年 規程」および「 年規程」では、それぞれ、 Solicitorʼs Practice , Legal Practice という標題の下に位置づけられており、「依頼者との関係」の側 面に関するものではなく、業務経営もしくは業務遂行の側面(「 年規程」
の標題では Law Practice Management に対応)の一事項として扱われて いたが 、「 年規程」から現状のように当該ルールの位置づけは変更され た。
弁護士広告に関するルールは、現在、 Law Practice Management の標 題の下に置かれているが 、これは「 年規程」から「弁護士職務規程」
に新たに付加されたものである 。法律では 年の弁護士法改正によりは じめて広告が解禁されたわけであるが、「 年規程」と「 年規程」に
「 年規程」ルール ;「 年規程」ルール ;「 年規程」ルール ;「 年規
程」ルール 。そして、体系上の位置づけも変わっていない。「 年規程」では Solicitorʼs Practice ,「 年規程」では Legal Practice 、そして「 年規程」および「 年規程」
では Law Practice Management の標題の下に配置されている。
「 年規程」ルール ..、およびルール ...
「 年規程」ルール ;「 年規程」ルール .
「 年規程」ルール .
「 年規程」ルール .
はこの動きは反映されなかった 。
⑶ 弁護士懲戒の制度と実情
弁護士自治の側面の最後として、ロー・ソサイアティと弁護士懲戒とのか かわりのあり方を主に制度面からみてみよう。まず、現行の「 年法」の 制度下でのあり方を述べ、次いで必要に応じて過去からの主たる変化につい ても言及する。
何人もソリシターの行為について「懲戒申立」(complaint)ができる。「懲 戒申立」は、内容から見て「消費者事案」(consumer matters)と「懲戒事 案」(disciplinary matters)の つの側面が区別される。前者の内容は、対 象ソリシターとその依頼者の間の紛議に近いもので、それについては調停な どの手続によるインフォーマルで実際的な解決を目指す仕組みが定められて いる。本来的な意味で懲戒にあたるのは「懲戒事案」である。こちらは懲戒 事由として法定されている つの概念、すなわち、「不十分な職務行為」(un- satisfactory professional conduct)、または「職務上の非行」(professional mis- conduct)、若しくは両方の該当性が問題となるケースである。この つを 区別しているのは非行の重大性の程度であり、前者より後者が重い 。いか なる行為がこの懲戒事由に該当するかについては、その解釈のための例示規 定が定められており、当然ながら、「弁護士職務規程」の違反行為はその一 つとして含まれている。
「懲戒申立」の提出後の手続の流れは、予備審査、調査、そして処分決定 という段階に区分される。これらの懲戒制度を運営する主体は「指定地方規 制機関」(designated local regulatory authorities)、すなわち、各州が定める
法律のレベルでみると、広告の自由化は、「 年法」の J 条に反映され、当該条文は「
年法」の 条に引き継がれたが、「 年法」には広告に関する条文は盛り込まれていない。
前者は、「適格な(competent)弁護士に期待される能力と勤勉さの水準に欠ける行為」と 定義され( 条)、後者は、これに加えて「 しかるべき人物 (a fit and proper person)で はないという認定をなしうる行為」と定義される( 条)。
規制機関ということになる。ただし、処分決定において「指定地方規制機関」
の権限の対象となるのは懲戒事由の つのカテゴリーのうち、「不十分な職 務行為」に該当するものに限定されている。もし、処分がより重大な懲戒事 由である「職務上の非行」にあたるものとして決定されるケースは、準司法 機関である「指定審判所」(designated tribunal)に付託され、そこで決定 されることになる。ニューサウスウェールズ州の場合、「指定地方規制機関」
として「リーガル・サービス・コミッショナー」(Legal Services Commis- sioner)という機関(以下では簡単のため、「NSW コミッショナー」と呼ぶ)
が、「指定審判所」として「民事行政審判所」(Civil and Administrative Tribu- nal)が指定されている 。
懲戒処分の種類は、 種類しかない日本の制度と比べて多様である。「指 定地方規制機関」が「不十分な職務行為」に対して行うものと、「指定審判 所」が「職務上の非行」に対して行うものとが分けて法定されている。おそ らくもっとも軽い「注意」(caution)から、「戒告」(reprimand)、日本にお ける「業務停止」処分に相当するであろう実務許可証の「停止」(suspend)
や「取消し」(cancel)、さらには金銭賠償(compensation)や金銭的制裁(fine)
も定められている 。
現在、ニューサウスウェールズ州で懲戒制度の運用の権限保持者は NSW コミッショナーであり、ロー・ソサイアティではない。現行法上、ロー・ソ
Legal Profession Uniform Law Application Act 2015, s.11.
「指定規制機関」がなしうる懲戒処分の種類は「 年法」の 条に、「指定審判所」がな しうる処分の種類は同法の 条に規定されている。
「 年法」の 条は、「指定地方規制機関」が各州の法律で定める弁護士団体に懲戒に関 する権限を委任できると定めている。それを受けて、NSW コミッショナーはロー・ソサイア ティに懲戒権の行使を部分的に委任している(Legal Profession Uniform Law Application Act 2015, SS. 28, 31)。委任事項については、The Office of the Legal Services Commissioner, Instru- ment of Delegation(http://www.olsc.nsw.gov.au/Documents/Instrument%20Delegation%
20180615̲AC.pdf,最終閲覧 年 月 日)を参照。
サイアティは NSW コミッショナーから委任された権限を行使する地位にあ る 。かつては、ロー・ソサイアティは法律上も実際上もより大きな位置を 占めていた。転換点は 年の弁護士法改正によって、 年に NSW コミッ ショナーの制度が導入された時である。
それ以前はロー・ソサイアティの自治という面がより強く現れていた 。 すなわち、「懲戒申立」の提出の窓口はロー・ソサイアティであり、調査担 当者はロー・ソサイアティが任命し、「懲戒申立」の却下や「戒告」(repri- mand)の処分を行う権限がロー・ソサイアティに与えられていた。懲戒処 分が必要と考えられるケースは処分決定権をもつ機関に付託された。その場 合、「不十分な職務行為」に該当するケースは「職務規範委員会」(Professional Standard Board)、より重大な「職務上の非行」に該当するケースは「懲戒 審判所」(Disciplinary Tribunal)がそれぞれ処分を決定した。「懲戒審判所」
は弁護士会の外の司法機関の一つという性格のものであるが、「職務規範委 員会」は、ソリシターの場合、ロー・ソサイアティが指名した少なくとも 人のソリシターと州司法長官によって任命された少なくとも 人の非弁護士 委員によって構成されるもので、外部委員が参加する弁護士会の内部機関と いえる。
NSW コミッショナーの導入は、懲戒制度運営の基本的な責任を弁護士会 から切り離すものであり、それは現行法において紛れもないものとして表現 されているが、「 年法」ではまだ弁護士会の権限が法律上に明記されて いた。具体的には、「懲戒申立」案件に対してなされるべき調査、その調査 をふまえてなされるべき一定の決定をなす主体として、条文上、ロー・ソサ イアティが NSW コミッショナーと併置して記されていたからである 。そ
Weisbrot(前出注 )pp. ‐ .
「 年法」の 条、 条、および 条を参照。もっとも、ロー・ソサイアティの決定に
対しては NSW コミッショナーが審査権を有していた。