1
.はじめに日本企業の海外 R&D 活動は欧米諸国への R&D 拠点展開から本格化した。だが,2000 年代 に入りその進出先は,中国をはじめとするアジア 地域にシフトする傾向が見られた。実際に,中国 地域で R&D 活動を行っている日本企業の担当者 等に話しを聞くと,現地技術者の能力を高く評価 し,将来の発展に極めて大きな期待を寄せている ケースも確認できた(安田 ,2006)。
一方,1980 年代半ばから本格化した日本企業 の海外 R&D 活動であるが,初期の頃に設置され た海外 R&D 拠点の中には,統合あるいは廃止,
当初目的・機能の変更といったケースも見られる
(安田 ,2003)。Ronstadt(1977)では欧米多国籍 企業,根本(1990)は日本企業の海外研究所を
中国における日本企業の R&D 活動の目的と機能に 関する研究
安田 英土*
要 約
本稿は,日本企業の中国における R&D 活動に関するアンケート調査から得られたデータを基に,中国における日 本企業の R&D 活動の目的と機能の変化を時系列的に分析したものである。
分析結果が示す特徴として,(ⅰ)中国における日本企業の R&D 活動は,現地市場志向性を強めている。すなわち,
日本企業が中国市場開拓のために,中国現地において,中国市場向け製品を本格的に開発・改良している様子が浮か び上がった。(ⅱ)一方,日本企業が中国に設置した R&D 拠点は,基礎研究や応用研究志向性が低い。加えて,現地 大学や研究機関との連携志向も低調である。このため,日本企業による中国での R&D 活動は,現地の研究者・技術 者の雇用を通じた現地技術資源の活用が目的と考えられる。(ⅲ)中国における日本企業の R&D 活動は,拡大・強化 される方向にある。今後は,中国での R&D 活動が中国市場向け製品の開発のみならず,日本企業にとって重要なグ ローバル市場製品の開発にまで結びつく可能性を秘めていると言える。
キーワード:R&D 国際化,中国,海外 R&D 活動
2015 年 11 月 30 日受付
*江戸川大学経営社会学科教授 イノベーション論
設置目的・活動機能,研究所間の関係から類型を 行い,海外研究所が段階的に発展していく様子を 示した。しかしながら,日本企業の例を見るまで も無く,海外研究所が必ずしも段階的に発展・進 化していくわけではない(安田 ,2007)。
海外研究所あるいは海外 R&D 活動の類型を試 みたこれまでの研究は,ある一時点のデータを収 集し,分析したケースが多い(Kuemmerle, 1997;Boutellier,etal.,2008 等)。異なる時点間 のデータを比較して,研究所あるいは R&D 活動 の目的や機能の変化,現地マネジメントの変化と いった現象を分析した研究は,見当たらないと言 って良いであろう。
かかる認識により,本稿では日本企業の海外 R&D 拠点の目的と機能の変化について分析を試 みる。
2
.本稿の目的と関連研究(1)本稿の目的
日本企業による中国への R&D 拠点設置は 2000 年代に入って急激に増加した(安田 ,2006)。こう した R&D 拠点は,本社の研究開発部門に所属す るコーポレート型の R&D 拠点から,事業部に所 属する製品開発あるいは製品改良センターの性格 を持つ R&D 拠点まで,岐に亘っている。当初,
日本企業の海外 R&D 拠点は,欧米の先進的な技 術の獲得・吸収や優秀な技術者の確保,現地大学 との共同研究などを目指して,欧米の有力大学近 郊や産業集積地に設置されてきた(Odagiriand Yasuda,1996)。一方,アジア諸国や中国などに 設置される拠点は,現地生産のサポートや製品改 良など,市場志向型の R&D 拠点が多く設置され てきたと言える(同上)。このような特徴が見ら れたにも関わらず,中国に設置される R&D 拠点 の中には,欧米に設置された R&D 拠点と同等な 活動内容,すなわち現地技術資源の獲得・活用を 目的としていると思われる R&D 拠点が確認でき る。こうした拠点からは,欧米の R&D 拠点と同 等な研究成果が輩出されている事も確認できるの である(安田 ,2011)。中国における日本企業の R&D 拠点は,どのようにして発展・進化してき たのだろうか。本稿では,異なる時点の継続性あ る複数のデータセットによって,その特徴を明ら かにしたいと思う。
(2)海外R&D活動の発展と類型に関する研究 海外 R&D 活動や海外研究所の機能・目的など から,海外 R&D 活動を段階的に分類したり,海 外研究所の機能を類型化する試みは,これまでに 多数の研究取組が行われている。以下では,こう した取組の代表的な研究例を概観し,本稿の分析 フレームの構築に結びつけたい。
R&D 国 際 化 研 究 の 初 期 の 成 果 と 言 え る Ronstadt(1977)は,米国多国籍企業 7 社の海 外 R&D 拠点 42 カ所を分析し,その機能を四つ のタイプに分類した。①技術移転拠点(TTU:
TechnologyTransferUnits),②現地技術拠点
(ITU:IndigenousTechnologyUnits),③グロ ーバル製品開発拠点(GPU:GlobalProduct Units),④企業技術拠点(CTU:Corporate TechnologyUnits) の 四 タ イ プ で あ る。
Ronstadt(1977)は,海外 R&D 拠点が,TTU から ITU へ,ITU から GPU へ,という具合に リニアな進化を遂げるとした。
また,根本(1990)は日本企業 35 社 48 カ所 の海外 R&D 拠点を Ronstadt(1977)に倣いつつ,
独自の基準(拠点の目的と拠点間の関係性)で分 類し,5 つの類型を示した。①現地技術センター
(LocalTechnicalCenter),②製品開発センター
(ProductDevelopmentCenter),③技術開発セ ンター(TechnologyDevelopmentCenter),④ グローバル技術センター(GlobalTechnology ResearchCenter),⑤グローバル R&D ネットワ ーク(GlobalR&DNetwork)の五タイプである。
Ronstadt(1977)のリニアな進化型に対して,
根本(1990)は現地技術センター→製品開発セン ター→グローバル技術センター,あるいは現地技 術センター→技術開発センター→グローバル技術 センターといった複線型の発展パターンを指摘し ている。
さらに,榊原(1995)では日本企業の国際技術 戦略の類型化と発展段階の整理を行っている。榊 原(1995)によれば,日本企業の国際技術戦略は 以下の五つに分類できるという。①技術偵察
(TechnologyScouts,TS), ② 技 術 修 正
(TechnologyModification,TM),③技術移転
(TechnologyTransfer,TT),④新製品開発(New ProductDevelopment,NPD),⑤研究開発
(ResearchandDevelopment,RD)。但し,榊 原(1995)は,この順序が企業における進化や発 展の段階を,そのまま表しているわけではないと している。また,技術戦略の国際化は,この順序 通りに進む場合もあれば,そうでない場合もある と述べている。
加えて,NobelandBirkinshaw(1998)では 従来の研究を整理した上で,海外 R&D 拠点を三 つに類型化した。第一は,現地適応拠点(Local
adapter)と呼ぶタイプの拠点であり,Ronstadt の分類では①技術移転拠点(TTU:Technology TransferUnits)に相当するとした。現地活動の 支援を行う役割を担う拠点ということになる。第 二は,Ronstadt の分類で②現地技術拠点(ITU:
IndigenousTechnologyUnits)に相当する国際 適合拠点(Internationaladaptor)である。現地 市場向けの製品改良や新製品開発を担う役割を持 つという。最後に,Ronstadt の分類で③グロー バ ル 製 品 開 発 拠 点(GPU:GlobalProduct Units),④企業技術拠点(CTU:Corporate TechnologyUnits)に相当する国際創造拠点
(Internationalcreator)を提唱した。この拠点 の特徴は,単なる改良や改善ではなく研究開発志 向であり,現地生産活動よりも本社 R&D や事業 部R&Dと結びつきが強いことにあるとしている。
以上の分類は,R&D 活動や R&D 拠点の役割 を区別せずに,類型化を行った試みと言える。次 に,現地 R&D 活動の役割によって分類を行った 例を眺めてみたい。
Asakawa(2001)では,欧州の日本企業基礎 研究拠点の役割を類型化し,その進化の段階を三 段階に分類した。①スターターの役割(第 I 段階)
-拠点のスタートアップの管理と本社からの使 命・役割を制度化する段階,②イノベーターの役 割(第 II 段階)- R&D 拠点内のアウトプット を最大化する段階,③貢献者の役割(第 III 段階)
-拠点内で開発されたナレッジや技術を社内の他 部門に提供する段階,としている。
一方,Boutellier,etal.(2008)では,海外 R&D 拠点の発展パターンを研究(R)と開発(D)
に分類して示している。研究(R)型拠点は,技 術偵察室→戦略的情報収集拠点→研究所→研究セ ンターへと進化するとしている。一方,開発(D)
拠点は,テクニカル・オフィス→製品現地化→応 用開発→新製品開発へと進化する事を示している。
日本企業に限った話しでは無いが,企業の R&D 組織では研究機能(R)と開発機能(D)の 組織を分けているケースが多く見られる。研究機 能(R)については,全社的な研究・技術開発組 織が担当しているケースが多く,通常,コーポレ
ート R&D あるいは全社的 R&D と呼ばれる。他 方,開発機能(D)については,事業部の製品開 発部門あるいは製品開発センターといった組織が 役割を担う企業が目立つ。こうした活動について は事業部 R&D と呼ばれるケースが多い(明石・
植田 ,1995)。海外 R&D 活動や海外 R&D 拠点も,
本社の研究・技術開発部門あるいは事業部・製品 開発部門の系統に分類され,海外 R&D 活動(拠 点)を一括りに捉える事が困難なケースも存在す る。
また,海外 R&D 活動や海外 R&D 拠点の進化・
発展パターンの分類では無いが,Kuemmerle
(1997)による類型化は,多国籍企業の R&D 国 際化研究を対象とした文献で頻繁に用いられる類 型論と言える。Kuemmerle(1997)は,日米欧 32 社のエレクトロニクス・医薬品企業の在外研 究所を調査し,その研究所の性格・能力から HBE(HomeBaseExploiting:本国活用型)と HBA(HomeBaseAugmenting:本国補強型)
の二種類に分類できるとした。同様な類型論では Gammeltoft(2006)が,技術指向(Technology Driven),市場指向(MarketDriven),政策指 向(PolicyDriven),生産指向(Production Driven),コスト指向(CostDriven),イノベー ション指向(InnovationDriven)といった,よ り細分化した六分類を示している。
以上の先行研究以外にも,海外 R&D 活動・海 外 R&D 拠点の類型化と発展パターンの分類・類 型論は提唱されている。派生系も含め,海外 R&D 活動・海外 R&D 拠点の類型化と発展パタ ーンの分類・類型論が多数提唱されていることは,
こうした分類・類型に対する関心が高い事も意味 していると考えられる。
3
.分析の方針とデータ以上,海外 R&D 活動の発展・目的別に類型化 する試みを概観した。これらの先行研究を参考に しつつ,本稿での分析方針の検討を行いたい。2(1)
本稿の目的でも述べたように,日本企業による中 国への R&D 拠点設置が本格化したのは,2000
年代に入ってからである。したがって,本格的な R&D 活動は長くとも 10 数年程度となる。しか しながら,2000 年以降の世界経済あるいは中国 経済を取り巻く環境は,大きく変化していると言 える。同時に,日本企業の経営環境も大きく変化 してきた,と言って良いであろう。このような状 況において,中国に設置された日本企業の R&D 拠点も,設立当初の目的が変更されたり,大きく 発展している可能性も考えられる。こうした在中 国 R&D 拠点の動態を明らかにする分析枠組みを 考える必要がある。
(1)分析の枠組み
本稿では,時系列的な観点と横断的な観点を取 り入れた分析枠組みを想定した。すなわち,
Ronstadt(1977)や根本(1990),榊原(1995),
Asakawa(2001),Boutellier,etal.(2008)で指 摘されるように,海外研究所や海外 R&D 活動の 機能が段階的に進展するのであれば,中国におけ る日本企業の R&D 拠点の目的や機能にも何らか の変化を観察する事が出来るであろう。さらに,
Kuemmerle(1997)や Gammeltoft(2006)が分 類したように,日本企業の在中国 R&D 拠点の目 的や機能を分類する事によって,異なる時点間の 目的・機能の比較・検討を行うことが可能となる。
こうした分析視点と複数のデータを組み合わせる 事によって,日本企業の中国における R&D 活動 の時間的変化の実状を捉える事ができるであろ う。この分析枠組を図に表すと,図 1 のように示 す事が出来る。
T1 時点の状況 T2 時点の状況
データ1
(文献・資料調査)
データ2
(アンケート調査)
横断 的 視点
時系列の視点
図1 本稿の分析枠組み
(2)分析用のデータについて
本稿の分析に用いるデータの種類は大きく分け て二種類であるが,それぞれ異なる時点のデータ を用意しており,都合,データの種類は四セット となる。第一のデータとしては,各種資料から収 集した在中国日本企業 R&D 拠点のデータであ る。各拠点の活動内容や設置場所,設置年などを 含むデータとなっている。2003 年に調査した結 果と 2014 年に調査した結果を用いて,比較分析 を行うこととする。第二のデータは,アンケート 調査によって得られたデータである。全世界の日 本企業海外 R&D 拠点を対象としたアンケート調 査であるが,在中国拠点の回答結果のみを抽出し て,本稿の分析用データとする。2006 年に実施 したアンケート調査と 2014 年に実施したアンケ ート調査の結果を用いて比較分析を行う。以上が 本稿の分析枠組みと分析用データの説明である。
4
.設置拠点の立地と目的の比較最初に,日本企業が中国に設置した R&D 拠点 の立地と目的について異時点間比較を試みたい。
まず 2003 年に行った調査結果について述べて みたい。調査方法は公開データを検索する方法を 中心として行った。主として東洋経済新報社の発 刊する「海外進出企業総覧」を用いて,日本企業 の在中国 R&D 拠点のカウントを行った。その他,
新聞・雑誌記事,企業 web,一般的なインター ネット検索も用いて調査を行っている。R&D 拠 点の定義は広義に考えた。検索された海外 R&D 拠点については,研究目的を「研究」「開発」「設 計」「テクニカルセンター」「技術情報収集」「そ の他」「不明」に分類し,各拠点がどの目的に該 当するかを分類した。中には,複数の目的を持つ R&D 拠点も存在したが,それぞれにカウントす る事とした。同時に,設立年,所在地についての 調査も行い分析用データベースとした。
日本企業の設置した在中国 R&D 拠点は,大都 市部(上海・北京)ならびに江蘇省への設置が多 く,これら地域に設置された拠点だけで在中国 R&D 拠点の 7 割近くに達する(表 1)。しかしな
がら,その拠点の機能を見ると「研究」「開発」
目的の拠点が約 56%であり,「設計」や「テクニ カルセンター」といった目的を持つ拠点が約 43
%に達する。一方,米国に設置された日本企業の R&D 拠点の目的を見ると,「研究」「開発」を目 的とする拠点が約 71%,「設計」「テクニカルセ ンター」を目的とする拠点が約 17%となってお り,米国と中国に設置された拠点では,明らかに 目的が異なっていたと言える(表 2)。
表1 日本企業の中国国内地域別R&D拠点
(2003年調査結果)
地域 件数 割合
上海市 65 30.7%
北京市 48 22.6%
江蘇省 32 15.1%
香港 24 11.3%
広東省 10 4.7%
遼寧省 9 4.2%
陜西省 5 2.4%
その他 19 9.0%
総数 212 100.0%
出所:安田(2006)。
表2 米国と中国の日本企業R&D拠点活動目的
(2003年調査結果)
目的 国名 米国 中国
研究 63 件 15.7% 18 件 7.1%
開発 222 件 55.2% 123 件 48.8%
設計 43 件 10.7% 75 件 29.8%
テクニカルセンター 25 件 6.2% 32 件 12.7%
技術情報収集 19 件 4.7% 0 件 0.0%
ほか 19 件 4.7% 3 件 1.2%
不明 11 件 2.7% 1 件 0.4%
合計 402 件 100% 252 件 100%
出所:表 1 と同じ
注)複数の活動目的を有する拠点はそれぞれにカウントし ている。
中国に設置された日本企業の R&D 拠点は,年 数を経過することによって発展・進化するのだろ うか?あるいは,最近では「研究」「開発」目的 の拠点が多く設置されているのだろうか?こうし た疑問を明らかにすることも非常に興味深い課題 である。
このため,改めて日本企業の在中国 R&D 拠点 について,2014 年に調査を行った。調査手法,
分類については,先述した 2003 年調査と同一で ある。
まず,設置年の分布について見てみたい。2014 年時点で活動する日本企業の在中国 R&D 拠点設 立年分布は,図 2 の通りとなった。2003 年の調 査結果と比較して,第一に指摘できるポイントと しては総数の増加である。2003 年の調査では,
日本企業の在中国 R&D 拠点の総数は 212 拠点で あった。それに対して,2014 年調査の結果では 350 拠点に増加している。2014 年時点でその存 在が確認できる拠点,ということになるが,設置 年では 2000 年〜 2004 年の 5 年間に設置された 拠点が最も多くなっている。図では分からないが,
2002 年に設置された R&D 拠点が最も多く 38 拠 点。以下,2004 年に設置された拠点が 36 拠点,
2003年が32拠点,2001年が30拠点と続いており,
2000 年代初頭に設置された拠点が極めて多くな っている様子が見て取れる。
0 20 40 60 80 100 120 140 160
1980~19841985~19891990~19941995~19992000~20042005~20092010~2014 件
設置年
図2 日本企業の在中国R&D拠点設置年の推移
(2014年調査)
出所:各種資料から筆者作成。
次に,設置地域別の特徴を見てみたい。2014 年時点で存在が確認できる R&D 拠点の設置地域 は表 3 に示す通りである。上海市に設置された拠 点がもっとも多く 107 拠点であった。次いで,江 蘇省(例えば,蘇州市や無錫市,常州市など)に 設置された R&D 拠点が 57 拠点,北京市に設置 された拠点が 41 拠点,広東省が 38 拠点と続いて いる。2003 年の調査結果と比較すると,上海市 に設置された拠点数は 65 件から 107 件に増加し
ている。また,2003 年の調査では設置件数の第 二位が北京市であったが,2014 年調査では北京 市が第三位となり,江蘇省が第二位になっている。
しかし,上海市の設置割合は 2003 年調査でも 2014 年調査でもほとんど変わらない(2003 年 30.7%→ 2014 年 30.6%)。北京市や香港の設置割 合が低下し,江蘇省,広東省,遼寧省,浙江省の 設置割合が増加したと言える。沿岸大都市部から 沿岸地方都市へ,R&D 拠点が分散化した様子が 見て取れる。また,それぞれの地域に特色なども 見て取れる。例えば,広東省には自動車・自動車 部品関係の拠点が多く設置されている。上海市や 北京市に設置された拠点には,清華大学や復旦大 学,上海交通大学といった大学との産学連携研究 を志した拠点も見られる。
表3 日本企業の中国国内地域別R&D拠点
(2014年調査結果)
地域 件数 割合
上海市 107 30.6%
江蘇省 57 16.3%
北京市 41 11.7%
広東省 38 10.9%
遼寧省 24 6.9%
浙江省 18 5.1%
香港 16 4.6%
その他 49 14.0%
総数 350 100.0%
出所:各種資料から筆者作成。
続いて,拠点の機能について見てみたい。各 R&D 拠点の機能は表 4 に示す通りである。2003 年の調査結果と比較して,「研究」目的の拠点数 が増加し(18 件:7.1%→ 89 件:17.0%),技術 支援や技術サポートを目的とする「テクニカルセ ンター」は減少した(32 件:12.7%→ 26 件:5.0%)。
「開発」「設計」目的の拠点は大幅に増加してい るが,その割合はほとんど変化が無いと言って良 い。このため,本稿 2(2)でサーベイした先行 文献の指摘する段階的な発展傾向は,部分的な確 認に止まると言って良いであろう。ただ,ここの 拠点が段階的に発展したのか,目的・機能を変更 されたのか,といった点については十分な検証が 出来ていない。この点については更なる分析が必
要と言える。
表4 中国の日本企業R&D拠点活動目的
(2014年調査結果)
目的 国名 中国
研究 89 17.0%
開発 225 43.1%
設計 167 32.0%
テクニカルセンター 26 5.0%
技術情報収集 1 0.2%
ほか 14 2.7%
不明 0 0%
合計 522 件 100%
出所:表 3 と同じ
注)複数の活動目的を有する拠点はそれぞれにカウントし ている。
5
.研究拠点機能の比較次に,アンケート調査結果に基づいた分析を試 みたい。アンケート調査は 2006 年 3 月と 2014 年 12 月に発送された。発送数はそれぞれ 1093 通と 1077 通であり,回収率は 69 件(6.31%)と 83 件(7.71%)であった。中国における拠点の回 答数は,2006 年調査が 5 件,2014 年調査が 18 件となっている。設問項目は同一であるが,回答 拠点は異なっており単純な比較には注意を要す る。このため,以下の分析は全般的な傾向を把握 する目的で行うものである。
(1)拠点の設置目的
日本企業の在中国 R&D 拠点の設置目的につい て,研究の性格から見てみたい。R&D 活動の性 格は,一般的に,基礎研究・応用研究・開発研究 の三種類に分類されることが多い(明石・植田 , 1995)。ここでも,基礎・応用研究と開発研究(製 品開発)に分類して,R&D 拠点の設置目的を明 らかにする。
まず,基礎・応用研究を目的とした拠点の特徴 について述べてみたい。表 5 に 2006 年のアンケ ート調査結果と 2014 年のアンケート調査結果を まとめた。2006 年のアンケート回答数が少ない ため,結果の解釈には注意を要する。
設問「競争以前の基礎研究を行う」に対して,
五段階リカートスケールで回答を求めた。2014 年の回答結果では強い肯定の割合が(五段階リカ ートスケールで 5 を選択)22.2%であった。だが,
肯定の割合(5 あるいは 4 を選択)は,2006 年 調査が 30.0%,2014 年調査が 33.3%となっており,
顕著な変化があったと言い難い。設問「基礎研究 の成果に基づく応用研究」の回答結果についても 同様な傾向が見て取れ,2006 年調査における肯 定的回答割合 20.0%から 2014 年調査の肯定的回 答割合 27.8%に増加しているに過ぎない。さらに,
「現地大学との共同研究」を志向する割合につい てもほとんど変化は無い。このように見ると,日 本企業が中国での基礎的あるいは基盤的な R&D 活動を,以前と比べて活性化させているとは考え にくい状況である。
ただし,「現地研究機関との共同研究」および「現 地技術資源の活用」を目的として設置された拠点 の割合は,増加傾向が窺われる。このため,中国 の技術者をはじめとする現地技術資源を活用した R&D 活動を志向する拠点が,増加している可能 性も捨てきれない。この部分は,「4.設置拠点の 立地と目的の比較」で明らかにした「研究」目的 拠点の増加と一致している可能性はある。
次に,開発研究(製品開発)を目的とした拠点 設置の動向について述べてみる。表 6 にアンケー ト調査結果を取り纏めた。上述したように,2006 年調査の回答数が少ないため,断定的な指摘は避 けるべきだが,以前に比べて現地市場志向性が強 まっている様子が窺える。拠点の現地市場志向性 を示す設問は,「現地市場向け輸出製品を改良」,
「既存製品の現地市場向け改良」,「現地市場向け 新製品を開発」の三つであるが,いずれの設問の 回答結果を見ても,肯定的な割合(五段階リカー トスケールで 4 または 5 と回答)が増加している。
他方,「既存製品の世界市場向け改良」と「世界 市場向け新製品を開発」の設問に対する肯定的な 回答の割合は,減少傾向にあると思われる。
回答拠点の相違,回答拠点数の相違が 2006 調 査と 2014 年調査ではあるものの,日本企業の在 中国 R&D 拠点が中国市場志向を強くしている可 能性が示唆される。中国経済の発展・成長を考え ると当然の結果と言えるかもしれない。
(2)将来展開動向
アンケート調査の中では,今後 5 年以内の R&D 展開方向性についても訊ねている。この回
表5 中国の日本企業R&D拠点設置目的(基礎・基盤研究レベル)
2006 年調査 2014 年調査
全く重要でない 非常に重
要である全く重要
でない 非常に重
要である 競争以前の基礎研究を行う 10.0% 0.0% 10.0% 30.0% 0.0% 22.2% 27.8% 11.1% 11.1% 22.2%
基礎研究の成果に基づく応用研究 10.0% 0.0% 20.0% 10.0% 10.0% 16.7% 27.8% 22.2% 27.8% 0.0%
現地大学と共同研究 10% 20% 0% 0.0% 20.0% 38.9% 16.7% 16.7% 22.2% 0.0%
現地研究機関と共同研究 10.0% 20.0% 0.0% 10.0% 10.0% 33.3% 16.7% 11.1% 27.8% 5.6%
現地技術資源を有効活用 0% 10% 10% 10% 20% 6% 6% 22% 44% 16.7%
出所:アンケート調査結果から筆者作成。
表6 中国の日本企業R&D拠点設置目的(開発・製品研究レベル)
2006 年調査 2014 年調査
全く重要でない 非常に重
要である全く重要
でない 非常に重
要である 現地市場向け輸出製品を改良 10% 20% 0% 20% 0% 16.7% 5.6% 27.8% 33.3% 11.1%
既存製品の現地市場向け改良 10% 0% 0% 20% 20% 11% 6% 11% 28% 38.9%
既存製品の日本市場向け改良 20% 20% 0% 10% 0% 39% 39% 11% 6% 0.0%
既存製品の世界市場向け改良 10.0% 0.0% 10.0% 30.0% 0.0% 33.3% 27.8% 22.2% 5.6% 5.6%
日本市場向け新製品を開発 10.0% 10.0% 0.0% 30.0% 0.0% 27.8% 27.8% 22.2% 16.7% 0.0%
現地市場向け新製品を開発 0.0% 0.0% 0.0% 20.0% 30.0% 5.6% 5.6% 11.1% 33.3% 44.4%
世界市場向け新製品を開発 10.0% 0.0% 0.0% 10.0% 30.0% 16.7% 22.2% 27.8% 16.7% 11.1%
出所:表 5 と同じ。
答結果について,2006 年調査と 2014 年調査を比 較してみたい。表 7 に回答結果をまとめた。回答 結果の比較については,これまで同様注意を要す る。
今後の展開方向については,2006 年調査時点 も 2014 年調査でも,現地市場志向,つまり中国 市場志向の傾向が強く出ている。また,世界市場 志向性もほぼ同様な傾向となった。当然のことな がら,日本市場志向性は低調である。従って,中 国に置かれた日本企業の R&D 拠点は,設置時の 目的も,今後の展開も中国市場志向が強いという ことになる。つまり,中国市場に投入すべき製品 の開発・改良を目的として,自社の中国事業を強 化するための存在,という位置づけになるのであ ろう。
逆に,基礎研究や応用研究,現地大学や現地研 究機関との共同研究志向は低調であり,中国での ナレッジ創出や産学連携などには関心が薄い様子 が窺える。この傾向は,2006 年調査と 2014 年調 査で同様であるため,中国における日本企業の R&D 活動の特徴と言っていいのかもしれない。
また,日本の R&D 拠点と連携の強化意向は強 いが,第三国地域にある自社グループの R&D 拠 点との連携意向は弱い。このことは,日本企業の 海外 R&D 活動が,依然として日本中心の活動で あることを示していると考えられ,グローバルな イノベーション創出という体制には至っていない 様子が窺える。だが,現地の R&D 活動水準を拡
大する意向は,2006 年調査でも 2014 年調査でも 強い様子が見て取れる。このため,中国における 日本企業の R&D 活動は,中国市場向け製品の開 発・改良を日本側拠点と協力して行う方向で展開 しつつ,さらなる機能強化を目指していると考え られる。
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.結 論以上,中国における日本企業の R&D 活動につ いて,公開データとアンケートデータを用いた検 討を行ってきた。何れのデータについても,過去 に行った調査と最新の調査結果を用いて比較・分 析を試みた。
二種類のデータを用いた分析では,その結果に 大きな相違を確認することはできなかった。つま り,整合性のある結果を得られたことになる。分 析結果が示していることは,第一に,中国におけ る日本企業の R&D 活動が現地市場志向性を強め ているということである。規模的にも「開発」や
「設計」目的の拠点数が増加しており,市場志向 性が強まっている様子が分かる。加えて,アンケ ート調査の結果は,2006 年調査・2014 年調査ど ちらも中国市場重視の結果を示している。この結 果は,調査時点と将来展開の意向両方で確認でき る。日本企業にとって,中国市場が無視できない 重要な市場となっていることを示す結果,とも言 える。第二に,中国における日本企業の R&D 活
表7 中国の日本企業R&D拠点展開方向性
2006 年調査 2014 年調査
全く重要でない 非常に重
要である全く重要
でない 非常に重
要である 現地市場向け製品の開発機能強化 0% 0% 0% 30% 20% 6% 0% 0% 28% 61%
日本市場向け製品の開発機能強化 0% 20% 0% 10% 20% 22% 28% 22% 11% 11%
進出先地域市場向け製品の開発機能強化 10% 0% 30% 10% 0% 22% 6% 22% 22% 22%
世界市場向け製品の開発機能強化 0% 0% 20% 10% 20% 22% 22% 17% 17% 17%
企業グループレベルの基礎研究機能を強化する 20% 10% 10% 0% 10% 22% 22% 28% 17% 0%
基礎研究成果に基づく応用研究機能を強化する 10% 20% 10% 0% 10% 28% 6% 22% 33% 0%
現地大学との共同研究を強化 30% 0% 0% 10% 10% 33% 22% 17% 11% 6%
現地研究機関との共同研究を強化 30% 0% 10% 0% 10% 39% 22% 11% 11% 6%
日本国内 R&D 拠点と連携強化 0% 0% 20% 10% 20% 6% 0% 6% 28% 50%
第三国にある自社グループ R&D 拠点と連携強化 20% 10% 10% 10% 0% 39% 11% 11% 17% 6%
現地 R&D 機能を拡大する予定 0% 0% 10% 10% 30% 6% 0% 39% 17% 28%
出所:表 5 と同じ。
動は,基礎研究や基盤的研究の重要性が低くなっ ている。本稿のはじめにでも述べたように,日本 企業の海外 R&D 活動は欧米諸国への展開から本 格化した(OdagiriandYasuda,1996)。こうし た拠点は基礎研究や基盤的研究を志した拠点も少 なくなかった。だが,1990 年代終わりから 2000 年代初頭にかけて,欧米に設置された基礎・基盤 研究拠点の中には,廃止・統合されたり,研究機 能の転換が行われる例が見られるようになった
(安田,2003)。欧米諸国への R&D 活動展開に遅 れて,本格的な R&D 活動の展開が行われた中国 では,従来の取組が反省されている可能性も考え られる。だが,このことは中国の技術水準や研究 者・技術者の能力を,日本企業が低く評価してい ることを意味するのでは無い。アンケート調査結 果から分かるように,日本企業の現地技術資源活 用意向は高いものがある。これは,中国の研究者 や技術者を評価している現れでもある。
以上の結果は,先行研究で示されてきた海外 R&D 活動と海外研究所の段階的な進化・発展が,
中国における日本企業の R&D 活動に限れば,必 ずしも当てはまらないということになる。中国に おける日本企業の R&D 活動は,グローバルなネ ットワーク化や基礎研究の強化などを志向してい ない。現地市場向け製品の開発と改良,日本側と の連携強化が彼らの意図する所である。ただ,こ うした特徴は中国における日本企業の R&D 活動 に限った特徴では無く,日本企業が世界中で行っ ている R&D 活動が日本本国・本社を中心とした 展開となっている。Boutellier,etal.(2008)で も指摘されるが,日本企業の海外 R&D 活動は,
日本本国を中心とした HUB 型ネットワークで構 成される。海外 R&D 拠点同士,ヨコの繋がりは ほとんど無い例が多い。こうしたことから,日本 企業の中国での R&D 活動が低調,あるいは未発 達という指摘は当てはまらない。むしろ,これま で提唱されてきた海外 R&D 活動や海外研究所の 類型論や発展論が,現状にそぐわなくなっている とも言える。従来の類型論や発展論については,
有効性について検証が必要であろう。
世界第二位となった中国の経済力は,日本企業
にとっては脅威であると共に,魅力的な巨大市場 とも言えよう。この巨大市場に競争力のある製品 を投入することを考えると,新製品の開発や既存 製品の改良は,マーケットに近接して行うべきで あろう。今後,日本企業の中国 R&D 活動は,中 国市場向け製品の開発を通じて,さらに強化され ていく方向にある。中国市場向けに開発された製 品が,世界市場にも供給され,さらに日本市場に も逆輸出されイノベーションを実現することも考 えられる。このような状況が実現すれば,日本企 業の中国における R&D 活動も,進化・発展した ことになるのかもしれない。
*本稿で使用したデータの収集は,JSPS 科研費 24530472 と 17730245 の助成,並びに平成 27 年度江戸川大学学内共 同研究費(研究代表:董光哲教授)の助成を受けて実施し た。
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