非平衡非定常状態における非対称単純排他過程の時間相関 Temporal Correlations of Asymmetric Simple
Exclusion Processes in Non-Steady State
物理学専攻 深澤 朋広
Department of physics Fukazawa Tomohiro
各サイトは粒子が“ある”か“ない”かの2状態をとり,サイト上の各粒子が微小時間dtの間に 右隣りもしくは左隣りのサイトに確率dtでホップしていくモデルを考える.
ただし1つのサイトには1個の粒子しか占有することができないので,粒子がホップしようと した先のサイトが既に別の粒子に占有されている場合にはホップできないという排他相互作 用の下, 時間発展していく. このモデルは,一次元非対称単純排他過程(Asymmetric Simple Exclusion Process,以下ASEP)と呼ばれている.特にホップする方向が1方向の場合はTotally Asymmetric Simple Exclusion Process,以下TASEP)と呼ばれている.
図 1: 排他相互作用のため,サイト5の粒子はその右隣りのサイト6にホップできない. 同様にサ イト6の粒子はその左隣りのサイト5にホップできない.
ASEPは上述のように定義される非常に単純なモデルではあるが,粒子の流れがある非平衡系 を表すモデルになっており,交通流や界面の成長模型等に応用がある.
また, ランダム行列理論やq変形された直行多項式,組み合わせ論,対称関数などと関係があり, 数理的にも興味深い構造を持つことなどからASEPは様々な観点から研究が行われている.
粒子の流入がない場合のTASEPにおける時間発展は,次のようなマスター方程式と排他相互 作用を表す境界条件によって定式化される.
すなわち,粒子が時刻tでサイトx1, x2,· · · , xN にいる確率をP(x1, x2,· · · , xN;t)とすると,マ スター方程式は
d
dtP(x1, x2,· · · , xN;t) =
∑N i=1
{
P(x1,· · · , xi−1,· · · , xN;t)−P(x1, x2,· · ·, xN;t) }
(1)
1
で与えられる.これに境界条件
P(x1,· · · , xi, xi,· · · , xN;t) =P(x1,· · · , xi, xi+ 1,· · · , xN;t) (2) を課すことによって, TASEPの時間発展は定式化される.
初期配置をµ= (y1, y2,· · · , yN) ,y1 < y2 <· · ·< yN ,時刻tでの配置をλ= (x1, x2,· · ·, xN) , x1 < x2 <· · ·< xNとすると初期条件はδλ,µ で与えられる.この初期条件の下,排他相互作用を 表す境界条件を課したマスター方程式を解くと,その解は初期配置µから時刻tでの配置λへ 推移する推移確率P(t;λ|µ)になる.
この推移確率P(t;λ|µ)はSch¨utz行列式と呼ばれる行列式で与えられることが知られている.
Sch¨utz行列式G(t, λ|µ)は次のように定義される.
G(t, λ|µ) = det
1≤i,j≤N[Fi−j(xi−yj;t)]. (3)
ただし,行列式の中身の関数は Fp(n;t) =e−t
∑∞ k=0
Γ(k+p) Γ(p)Γ(k+ 1)
tk+n
(k+n)! , n, p ∈Z≡ {· · · ,−2,−1,0,1,2,· · · } で定義される関数である.
本修士論文では,粒子の流入がない場合のTASEPにおける推移確率がSch¨utz行列式で与えら れることを利用して,粒子の流入がある場合のTASEPにおける推移確率を求める公式を作る ことに成功したのでそれを示す.
流入率1でサイト1に粒子が流入してくる状況を,図2のようにサイト1の左隣りにサイト0を 考え,サイト0には常に粒子が存在していると考えることで,粒子が流入してくる状況を対応さ せることができる.
図2: 流入がある場合のTASEPの考え方.
サイト1より右側にある粒子の数をNとし,粒子のいるサイトのサイト番号の和を|λ|,すなわ
2
ち, |λ|=
∑N i=1
xi.
1≤x1 < x2 <· · ·< xNを満たす配置全体の集合をCN
2≤x1 < x2 <· · ·< xNを満たす配置全体の集合をC˜N また,N ≥N0として,λ ∈CN , µ∈CN0を満たすとき, λ⊃µはxN−i ≥yN0−i , 0≤i≤N0−1, かつ|λ|>|µ| λ⊇µはxN−i ≥yN0−i , 0≤i≤N0−1
指示関数1(A)を
1(A) = {
1 (条件Aが成立) 0 (条件Aが不成立) と表記する.
この表記を使うと,流入がない場合のTASEPを定式化させた,境界条件(2)式の下でのマスター 方程(1)式は,時刻tでの配置をλ∈CNとすると, 次のように書き直せる:
d
dtP(λ;t) = ∑
ν∈CN
1(λ ⊃ν,|ν|=|λ| −1)P(ν;t)−P(λ;t){ ∑
ν∈CN
1(λ ⊃ν,|ν|=|λ| −1) }
.
サイト1に粒子が流入率1で流入してくる場合も,流入がない場合の式にサイト0からの流入 を考えて, (i)サイト1に粒子がない場合 , (ii)サイト1に粒子がある場合とで場合分けして記 述できる.
(i) サイト1に粒子がない場合 d
dtP(λ;t) = ∑
ν∈CN
1(λ⊃ν,|ν|=|λ| −1)P(ν;t)
−P(λ;t) {
1 + ∑
ν∈CN
1(λ⊃ν,|ν|=|λ| −1) }
.
(4) (ii) サイト1に粒子がある場合
d
dtP(λ;t) = ∑
ν∈CN
1(λ ⊃ν,|ν|=|λ| −1)P(ν;t) + ∑
ρ∈CN−1
1(λ⊃ρ,|ρ|=|λ| −1)P(ρ;t)
−P(λ;t) {
1 + ∑
ν∈CN
1(λ⊃ν,|ν|=|λ| −1) }
. (5)
流入がある場合のTASEPにおいて,N > N0として, 初期配置µ(N0) ∈ CN0, 時刻tでの配置を λ(N)∈CNとしたとき, (4)式及び(5)式の解は,推移確率P(t, λ(N)|µ(N0))になり,次の定理によ り与えられる.この定理が本修士論文の主定理である.
3
定理 . N > N0として,初期配置をµ(N0) ∈CN0,時刻t≥0での配置をλ(N) ∈CN とすると, 推 移確率P(t, λ(N)|µ(N0))は,次で与えられる.
P(t, λ(N)|µ(N0)) =
N−∏N0−2 k=0
[ ∑
λ˜(N−k)∈C˜N−k
∑
λ(N−k−1)∈CN−k−1
1(˜λ(N−k) ⊃λ(N−k−1),|λ(N−k−1)|=|λ˜(N−k)| −1)
×
∫ tk+3
0
dtk+2G(tˆ k+3−tk+2, λ(N−k)|˜λ(N−k)) ]
×
{ ∑
˜λ(N0+1)∈C˜N0+1
∑
λ(N0)∈CN0
1(˜λ(N0+1) ⊃λ(N0),|λ(N0)|=|λ˜(N0+1)| −1)
×
∫ t2
0
dt1G(tˆ 2 −t1, λ(N0+1)|λ˜(N0+1)) ˆG(t1, λ(N0)|µ(N0)) }
(6)
ただし, tN−N0+1 =t,またλ, µ∈CNのとき,関数G(t, λˆ |µ)はサイト0にある粒子も含めた次の (N + 1)行(N + 1)列のSch¨utz行列式を表す.
G(t, λˆ |µ) = det
1≤i,j≤N+1[Fi−j(xi−1−yj−1;t)]
=
F0(0;t) F−1(−y1;t) F−2(−y2;t) · · · F−N(−yN;t) F1(x1;t) F0(x1−y1;t) F−1(x1 −y2;t) · · · F1−N(x1−yN;t) F2(x2;t) F1(x2−y1;t) F0(x2−y2;t) · · · F2−N(x2−yN;t)
... ... ... ... ...
FN(xN;t) FN−1(xN −y1;t) FN−2(xN −y2;t) · · · F0(xN −yN;t)
参考文献
1. G.M Sch¨utz, Exact Solution of The Master Equation for the Asymmetric Exclusion Pro- cess, J.Stat.Phys 88 (1997) 427-445.
2. 笹本智弘, 1次元非対称単純排他過程の厳密解, 物性研究 79 (2003) 881-925.
3. 笹本智弘, 1次元界面成長模型の数理, 数理科学(別冊・現代数理物理の展開) 2003年10月号, 217-222.
4. 笹本智弘, 1次元非対称排他過程とランダム行列理論, the Japan Society for Industrial and applied Mathematics 15(1), (2005) 32-40.
5. 西成活裕,「渋滞学」,新潮社, (2006).
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