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Review of the ICT Campus Project in Fukuoka-University

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Academic year: 2021

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4月初めの大学生は大変である. 今年度受講する科目 の履修登録をするために, 分厚いシラバス (講義概要) と時間割表, 学則や履修規程をつきあわせ, 登録可能な 科目を必死で探し出して, 自分の時間割表に書き込み, 教室や科目コード, 教員の名前を別の表で調べて書き込 んで, 大学に出向いて期限までに提出しなければならな い. ほっとして開講日を迎え, 授業を受けていると, ま もなく事務室から掲示板で呼び出され, 「君はこの科目 はとれないから…」 と書き直しを命じられて…. 大学は なんでこんなに面倒くさいんだろう, 高校では時間割は 決まっていたのにと, 高校生活が懐かしくなり, 大学の 職員が鬼に見えてくる…. 大学という新しい厳しい環境 の緊張感を実感するために, 資料を自分で調査して行動 するようにという目的であればそのような面倒な手続き をやらせる意味はあろう. それにしては, 取り返しのつ かないミスを発見できなかったときの代償は大きく, あ まりにも労力の無駄遣いではある.

このような学生の履修登録風景が福岡大学では一変し た. 平成19年の春からは, たった一日, いや数十分で完 璧に終了するようになっていた. これまで自分の時間割 を記入して提出していた紙の時間割表の代わりに, 全学 生がパソコンの前に座って, 表示された科目を次々に選

択するだけで, ものの10分ほどで登録を完了している.

4月開講後の事務室前の登録訂正の列は消え, 事務員の 顔は晴れやかに, 丁寧に学生の質問に応対をしている.

大学の教務事務と履修, 学生生活および膨大な数の手続 きや事務, さらに授業に関するこれまで無かったような 仕掛けをすべてコンピュータで可能にした,FUポータ ル (学生教育・生活支援システム) の本格稼働による効 果である.

この構築作業は, すでに平成13年に始まっていた. 複 雑で間違い訂正作業の多い科目登録を電子作業化でき ないか, FD (大学授業改革運動) の一環として, コン ピュータ・ネットワークを活用して授業効果を上げられ ないか, 複雑な学生の学内手続きを簡素化できないか, などの多角的観点から何が可能かを, 数人の教務委員 (総合情報センター教育委員) と総合情報センター職員 数人とで, 勉強会から始め, ほぼ一年間の調査検討によ り固まった構想は, 教務だけではなく, 人事や会計など の範囲までの徹底的なデータの共有化を図ることにより 操作と保守の簡素化をめざすものとなった.

2. 大学としての教育の質の保証のために 大学における電子情報化の目的

平成の少子化の時代に, 大学入学定員に対する18才人 口の減少により, 大学間の受験生獲得競争は激化の一途 をたどり, すでに定員割れの大学も出始めている. この ような状況下で大学の志願者を確保することは経営上必 至の要件であることは説明を待たないが, そのためには

福岡大学学修支援システムの構築を終えて

Key Words:ICT-Campus, e-Campus, ICT-Project

山 口 住 夫**

Review of the ICT Campus Project in Fukuoka-University

Intention and Acquisitions Sumio YAMAGUCHI

*平成19年11月30日受付

**機械工学科

1. はじめに 何かが変わった

― 構築の意図と, 学び得たこと ― (資 料)

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短期の入試対策よりも, 長期的視野に立って大学の教育 力を向上させ, その評価を確立させることが必須の課題 となる. その際に建物や設備の充実に加えて, 教育のた めの人材を確保しなければならないことはもちろんであ るが, さらに質の高い教育を実現するための, 教育しや すく, 教育を受けやすい環境, 思考しやすく, 学びやす い環境, すなわち 「教育効果が高いキャンパス環境」 を 構築することが不可欠の要件である. この中で教員の教 育エネルギーを最大限に発揮させ, 学生がそれを十二分 に吸収したうえで自己を形成することができれば, 他に 誇ることのできるキャンパス環境となることは疑う余地 もない.

福岡大学の現況は, 9学部31学科と大学院10研究科32 専攻に在籍する学生と, その他に科目等履修生やエクス テンション受講生等, 合計2万2千人の学生と教職員約 4千人を擁する西日本一の規模であることはもちろんで あるが, これらがすべて七隈の1キャンパスに集約され て, 全国的にも珍しい大学組織になっている. 福岡大学 はこの組織構造と総合大学のメリットを最大限に生かし て, 「人らしき人」 を育てる全人教育を標榜している.

いっぽうで福岡大学では, 多数の学生の教育を最小スタッ フ数で行っているという好ましくない教育環境を改善し ようという動きは極めて弱いように思える. 経営陣には 教育の質を上げるために教員の増員が必要であるという 認識は弱く, その結果, 教員にはずっと重い負荷が課せ られたままになっており, 旧態のマンモス大学の劣悪な 教育環境をそのまま保存しているのが現状である.

教職員数が少ないことは経営上では好都合かも知れな いが, 上質な教育を行う環境にはほど遠い. この中で行 う教育改善の試みは, ひとえに教員個々人の工夫と努力 にのみかかるので, 教員が働きやすく能率のよい職場環 境を整備することは緊急の課題である. これに対して教 員を余分の業務から解放して直接的な教育活動に専念さ せるために, 教育に関する周辺業務を事務職員が行って 教育活動をサポートすべきという考えも述べられている が, 現状では事務職員数は教員以上に不足しており, こ れも実現が難しい. その結果, 学内随所で双方に 「これ は本来我々の仕事ではないのに…?」 という仕事分担へ の不満がつねにくすぶっており, 教員と事務職員との間 に潜在的な相互不信の感情をじわじわと助長していると いう事実もある.

教育というものは, 教員が自己の生の知識を, ただ羅 列して説明すれば済むものではない. あたかもそれは, レストランのシェフの作業にたとえられる. いかに栄養 満点の無公害食材を使おうとも, ニンジンを丸ごとテー ブルに載せたのでは, レストランの経営が破綻するのは 子供でも理解できる. 知識は栄養たっぷりのニンジンで

ある. これをおいしく食べていただくためにシェフは, 腕によりをかけて, よく切れる包丁を使い, 煮込み, 他 の食材と組み合わせて味付けをして, 材料とは異なった 料理 としてお客様に提供する. さらに客に気持ちよ く食事をしていただくために白いテーブルクロスを引き, 美しい食器とシャンデリアの工夫も要るだろう. このよ うなアレンジと加工を施して始めて, 知識も興味を持っ て楽しく食され, 消化して身につくのである. 生の食材 そのままのような刺身でも, 味の優劣はただひとえに包 丁の切れ味とスピードによって決まるように, 同じ材料 を用いて同じ順序で喋っても, ある内容を喋るタイミン グや, それに掛ける教員の熱意によっても大いに味が変 わるものである.

授業アンケートに記述された 「先生が黒板の方を向き, ひたすら書き続けながら学生に背を向けて喋っている」

「学生が聞こうと聞くまいとに構わず, 教科書や資料を ひたすら読むだけ」 「先生が何を言っているのかわから ない」 と言った感想を見ると, この感はますます強くな る. 基礎学力の低下が言われる昨今では, 学生の興味レ ベルまで目線を下げて, 学生の知識範囲内にある例を示 して説明するなどの付け合わせを工夫しながら, 学生の 食欲を刺激した上で, 学生が咀嚼できるように調理し, 味付けして, 目的の知識を食させる工夫が必要なのであ る.

このように教育の効果を最大限にしようと工夫したと き, ひとつの授業に掛かる教員の労力は計り知れない.

教え方の技術を向上させても, 楽をして効果の上がる教 育方法はない. 同じ技術を用いても, 教員個人の性格も, 声の調子も動作も違うのであるから, 学生が受ける印象 はまったく異なったものになってしまう. 子供の頃いい 先生に巡り会えることは人生の幸福であるが, その際に いいのはひとえにその教師の熱意である. 教育は教育技 術に依存するのではなく, 教員の熱意により感化するし か方法はなく, 教員には常に最大限に熱意のこもった努 力が求められている.

教育効果を上げるために教員が授業を工夫しようとす れば, いっぽうでその教員の作業量はその分だけ増えて, このすべてが自分に跳ね返ってくる. 授業をおもしろく しようとすれば, 時を得たいろいろな事例を準備し, 話 すタイミングなど授業のシナリオを, 時間をかけて練る 必要がある. 学生に参加意識や達成感を持たせるために レポートや演習を行うと, その課題作成や採点の労力は 避けられない. ましてやそれらに添削やコメントを付し て効果を上げようとすれば, 1コマの授業に要する準備 と後処理の時間はもはや一日の作業量では済まず, 一週 間5コマのノルマだけで, 一週間の作業容量を超えてし まい, 研究の時間をとる余裕は無くなってしまう. さら

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にクラスの人数が多ければその労力は想像を絶するもの になる. 誰しも労働は楽な方がいいに決まっている. 報 酬はおろか, 苦労が報われることの少ない授業の改善に 喜びを見いだすのは, ほとんど犠牲を強いるのに等しい 要求であり, これが授業改善が進まない原因である.

あたかも戦後の高度成長期において, さまざまな家庭 電化製品が普及し, 家庭内においてつぎつぎに湧き出し てくる膨大な量の仕事を, 一昔前の 女中さん に代わっ てこれらの電化製品が無人でこなすことによって家事を 重労働から解放したように, 大学という職場において電 子機器にこれらの 余分な仕事 を代行させることがで きれば, 家事の業務と同じように教職員にかなりの時間 的余裕を生み出すことができる可能性がある. これによっ て親が子供の相手をしてゆったりとした家庭教育が可能 になったように, 大学の教育活動にもゆとりを生みだし, 人間味あふれる温かい教育が実現できる可能性のあるこ とは容易に想像できる. 調査によると現在の社会では, 大半の企業ですでにAO機器の導入が進み, 電子化し て自動化できる業務は十分に自動化されて, 経費節減が 実現されている. また, 小, 中学校および高等学校でも 情報教育は行われており, 若者はパソコンを扱うことに は慣れ親しんでいる. 「社会の中で最もパソコン導入が 遅れているのが大学である」 との報告もある (日本総研・

基本構想報告書). 見方を変えれば, 「最先端の知識の発 信源であるべき大学が, 最先端技術の利用に最も冷淡で あった」 のかも知れない.

3. コンピュータ・ネットワークで何ができるのか では, いったいコンピュータや情報ネットワークを教 育活動にどのように利用できるのであろうか. 何をやら せれば最も教育効果が上がるのかを見極めなければなら ない. 言い古されたことではあるがコンピュータの得意 分野は以下の内容である.

① 同一作業の繰り返し (定型的業務)

② 条件付き検索

③ 条件分岐作業

④ データの変換・組み替え

大学の業務に限らず通常の業務は, 創作的な仕事を除 けば, 決められたとおりの方法で行う定型業務 (ルーティ ンワーク) である. 工場のような製造業務であれば, 定 型化された業務は間違いなく機械を導入して自動化し, 製造コストを下げる工夫を行うのが普通である. 大学の 業務の中の事務的業務 (教員が行う業務も一部含まれる) を類型化すれば, 「情報の定型化」 「情報の集計」 「情報 の保存」 「情報の取り出しと配布」 がほとんどであろう.

これらは基本的にコンピュータの得意分野とぴったり一 致する. 特に大量のデータに対して条件判断を行う等の

細心の注意を要する業務については, 逆にコンピュータ に任せた方が間違いが少ないメリットがある. この際に 人間が担当すべきことは, 判断を迷うような特殊なケー スへの対応, および多分にメンタルな問題への対応のみ となる. また人的作業を行えば, 必ず作業後に結果 (ド キュメント) の確認作業 (突合) が必要であるが, コン ピュータであればプログラムの確認以外にはこの作業は 不要となる.

情報の伝達や転送では, コンピュータに軍配が上がる.

学内では現在一日2回の学内便で書類や文書の伝送を行っ ているが, 発信時刻を逃すと情報伝達に丸一日を要する こともあり, 回答が必要な場合には一週間の時間はすぐ に過ぎ去ってしまうことが多い. これらをコンピュータ・

ネットワークを利用して行うと, 瞬時に机から机へとお 互いに一歩も動かず情報の伝送が可能であり, 回答や修 正等の作業を含めても, たいていの要件は一日の間に終 了する.

大量の情報の中から必要な情報のみを抜き出し, 整理 することもコンピュータの得意分野である. これを人手 で行えば, 本棚の, たとえば数冊のファイルからそれぞ れ1個のデータを取り出し, それを別の表に書き込んで, データ相互の計算や集計をおこない, コピーを取り, 封 筒に詰めて, 発送集積を行う所定の事務室まで運ばねば ならない. 膨大なデータ数の場合にはその作業は気が遠 くなるほどの量となる. 考えてみれば, 事務作業 いうのはこのような仕事を指していたのではなかっただ ろうか? 大学業務の中では, たとえば教員が提出した 成績表から, 学生個人の成績表へ転記し, それを集計し て進級・卒業判定を下すなどの作業はまさにこの類の業 務である.

事務作業ばかりではなく, 教員の授業関係の業務にお いてもコンピュータにより効率化できる業務はたくさん ある. 日々の教育における日常的な集計作業は, いうま でもなく, 出席チェック, 演習問題の作成, 整理, テス トやレポートの採点とそれらの集計業務も含まれる. 教 員の大切な業務はこのような事務的作業をおこなうこと ではなく, その結果を利用しながら行う学生への直接の 指導こそが本業なのである.

4. Webによる履修登録システム システム構築の例 年度初めの学生の科目登録 (履修登録) では, 膨大な 数の科目の中から自分が履修できる科目のみを選別し, その中から必修科目や選択科目および科目区分に応じて 必要な単位数になるように, その年度の登録科目を選ん でいる. その選択基準は, 学則や科目履修規程の文章か ら読み取って科目の選別作業を進めており, さらにその 年度の, その学部の時間割表からその科目の実施コマを

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読み取って, コマの重複がないように科目を選択してい く作業である. 特に本学の場合には, 9学部の教員が相 互に他学部の科目を担当しているので, 分類は相当に複 雑である. これらの数段階にわたる選別の過程で, 表の 見誤りや, 文の読み違い, あるいは確認不足で, 必要な 科目を登録しなかったり, 本来履修できない科目を登録 したり, ペアになった科目を見落としたり, 単に事務処 理上でしか利用されない科目コードの記入を書き誤った り, などのミスがほとんど無限に発生していた. 毎年こ れらのミスは約半数の学生に発生しており, 登録後に事 務職員がすべての学生の提出した表を一枚一枚目で確認 し, ミスのあった学生を掲示板や電話連絡で一人一人呼 び出して指導し修正させており, これらの作業が完了す るのは毎年4月末であった.

Web履修登録システムでは, これらの選別作業をほ とんど自動化した. 学生は 「履修登録システム」 を開く と, 年間の時間割表が空白で表示される. 各コマ (時限) をクリックするとそのコマで自分が受講できる科目のみ が表示されるので, このうちの一つの科目を選択するだ けで登録は完了する. 表示される科目名は, その学生の 属性 (学部学科, 年次, コース等) と科目の属性 (全学 に開講や特定の学部学科, 何年次に開講など) の区分に よりその学生が履修できる科目だけを選別して表示され ており, さらに必修科目や事前登録科目, 制限科目 (人 数制限等のために事前に抽選等を行う科目) などはすで に選択された状態で表示されている. この画面には, す でに合格している履修済み科目はリストに表示されない ので誤って二度選択することもなく, また複数コマで授 業する科目やペアで受講しなければならない他の科目も 自動的に登録されるようになっている. 科目を登録する 手順としてはこのほかに, 科目区分毎に自分が受講でき る科目の一覧を表示し, その中から選択することも可能 で, この科目も自動的に時間割表に記入される.

科目を選択する際に必要な参考資料を見るには, 表示 されている科目名をクリックすればシラバスが表示され, 担当教員名をクリックすれば教員の専門や研究業績など を確認することができる. また, 科目登録の際には, 卒 業や進級条件および年間登録単位数の制限条件を満たす ように科目を選択する必要があるが, これまでに履修済 みの単位数, この登録までを含んで修得可能な単位数と, さらに卒業までに不足している単位数を確認することが 可能であり, 条件に満たない場合には警告が発せられる ので, これによって登録ミスによる留年等の事故は解消 できる.

このようにして登録されたデータは, 教務データベー スを介して, そのまま各科目の受講生一覧 (出席簿) や, 成績評価簿, および授業支援システムと連携し, それら

のリストが自動的に作成されるので, これらのリストを 作成する業務は無くなった. これらは教員, 職員から必 要に応じて利用することができる.

本年度は初年度で, サーバーへのアクセス集中や学生・

職員の不慣れによる事故が心配されたが, 特に大きな混 乱もなく, 期限までに在学生で96%, 新入生で99%が登 録完了し, 登録ミス等の修正は無いに等しかった.

5. FD, SDICT

電子化による省力化と能率化の向上のあり方 今回のプロジェクト (構築作業) を始めるに当たって, 基本方針として, 無駄の排除による業務の簡素化を皆が 考えていた. その方法として 「システムパッケージ (出 来合いのシステムプログラム) に合わせて業務を簡素化 する」 ことを考えていた. 例えば法に基づいた処理を行 う会計や納税のように, どこでも同じ方法で行う業務で, そのプログラムが何千本も利用されているものならば市 販のパッケージもそれなりにシェイクダウンされて洗練 されたものになっているであろう. そのような場合には

「パッケージに業務を合わせて標準化する」 ことが業務 効率を上げることになるであろう. しかしながら大学毎 に異なったルールで業務を行っている教務システムの場 合にはこれはかなり難しい. パッケージ自体が, システ ム会社の思いこみで作成された最大公約数的な意味での 標準的機能を持っているに過ぎず, 必ずしもそれで十分 な業務が行えるとは言えないからである.

大学の業務では, さまざまな業務と手続きに, 本来の ルールをはずれた場合の例外処理が相当数付随している ことが多い. 例えば, 履修登録の期限に間に合わなかっ た学生への対応, 〆切後の成績評価の訂正, 履修手続き のミスと修正, 追試験, 再試験, 緊急の休講や補講の取 消など. これらを 「規則だから受け付けない」 と言えば 業務は簡単になるが, 学生に冷たい 大学となってし まうので, 大学ではこれらにすべて 前向きに 対応し ているのが現状である. これらの多くは教員に見えない ところでの事務職員の学生に温かい配慮で行われている ことが多い. 事務職員も教室外で教育指導を担当してい るのである.

このようなことを考慮して, プロジェクトの方針とし て 「これまで実施してきたサービスは絶対に低下させな い」 方針を新たに掲げた. 事務から教員へ, 学生へ, ま た教員から学生への温かい配慮を切り捨てては, ICT を活用したことにはならず, 単なる悪い意味での 合理 に終わってしまう. ICTにより今以上に 皆に温 かい キャンパスを構築するのでなければ意味がない.

このために事務窓口の担当者を含めて徹底的に 例外処 理 を洗いだし, それらの必要性と, より効果的な方法

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を検討した上で, システムに盛り込むことにつとめた.

どのような仕事であろうと, 業務はすべて他人のため に行うものである. だから報酬がもらえるのである. し たがって業務は, それによって作成された情報を提供す ることによって恩恵を受ける人や部署 (ステークホルダー) が最も喜ぶ (都合がいい) ように配慮するべきである.

ところが長い期間同じ業務を続けていると, 業務を行う こと自体が目的になってしまい, その恩恵を受けるステー クホルダーの存在を忘れ, 作成した情報提供を渋ったり, あるいは恩着せがましい態度になりがちなことは, 往時 の官公庁窓口を思い出すまでもない. 大学の各部署の業 務も, すべて大学という組織全体の業務を分担して行っ ているのであって, はじめから部署間相互の情報提供は 明白な前提であったはずである.

これまで部署間でおこなう情報交換に際しては, 一部 署で作成した情報を他部署に渡す場合には, 依頼書を作 成し, 必要な情報を抜き出して新たな資料を作成し, こ れを当該部署に送って, 受領書を受け取る. さらにそれ ぞれの書類に対して数人の認印を採る必要がある. 事務 の大部分の仕事はこのようなものではなかっただろうか.

一部署で取得し, あるいは作成したデータが, 大学とし て必要なデータであるのなら, 同じ業務を分担して行っ ている他部署は当然これを利用できるはずであり, その 利用を禁止されて新たに同様のデータを独自に作成しな ければならない理由はない. これが 「データ共有」 の考 え方である. ただし, データ管理上の問題として, 誰が 何時, どのような目的に利用したかの記録を残すことは 必要である. すなわち, 金銭処理は会計課で, また物品 購入は用度課で行っているように, ある種のデータを作 成する部署は部署の専門性に応じて一カ所に限定し, 同 種のデータはすべてその部署から提供を受けて大学業務 を遂行する. その部署は, 自部署の担当する部類に属す る情報であれば, たとえその部署自身に必要で無くとも 作成して他部署に提供する義務がある. そうすればデー タ作成も能率的であるし, 混乱も少なく, 前述したデー タ作成の依頼, 作成, 送付, 受領のすべての作業が省略 できることになる.

このために本システムでは, 学生教育・生活支援部門 (すなわち学生のキャンパスライフに関するすべての情 報) を完全に一元化し, いろいろなサブシステムの間で 自動的に連携させた. 例えば, 入学申込みを行った学生 に学籍番号を振り当て, 学籍のデータができあがると, それぞれの学生の属性に応じて自動的に科目登録の表示 が準備され, 学生が科目登録を完了すると, 自動的に科 目ごとの出席簿や成績入力のテーブルが用意される. 教 員がこれに評価を入力し終わると, これが学生個人の成 績簿に自動的に転記され, 学生の進級や卒業判定がなさ

れるといった具合である. また, 学生がプロフィールシー トシステムから入力した住所や保証人名を参照して, 自 動的に保証人宛の成績通知の文書が作成される.

このようなシステムを構築し, またこれを利用して業 務を行う場合には, 「全体最適」 の考え方が不可欠であ る. 情報化, 電子化の目的はあくまでも, 作業の省略や 短縮, 効果的な業務の遂行にあるが, 一部署から見た場 合には必ずしも自部署のその種の作業の削減にはならな いかも知れない. しかしながら, それによって他部署あ るいは全体の作業量が大幅に削減されるのであれば, や や作業量が増えることも容認すべきである. 他の面では 逆のこともあるはずである. すなわち相手の業務の便宜 を図って自己へのサービスを得る器量が必要であり, 部 分的に見て自部署の身勝手な要求ばかりを主張するよう では何の改善も為されないことを意識すべきである. 現 行の業務手順や様式にこだわって, 何の改善も検討せず そのまま電子化するようなシステム化では, やたら肥大 化したシステムが却って業務を複雑にし, 作業量と帳票 の山を築く結果にも十分なり得る. 使いやすいシステム を構築するには, まず一人一人が現行の作業手順を解析 し, その業務の目的に沿って, 最も効率的で有効な作業 手順への改良を徹底的に検討した上で電子化することが 不可欠である. そうでないと, これまでペンで書いてい た既存の書類をただキーボード入力に置き換えるだけで, データの組み替えや条件判断を行わないようなまったく 無意味な電子化となり, それこそ 「電子化によって作業 が増える」 結果になりかねない.

このような考え方で構築した今回のシステムでは, 作 業量の増加と作業日程上の制限からこれまで実施が見送 られてきたセメスター制を, 前期成績発表と後期登録修 正と言う形で実現することができた.

このような電子化による業務連携を行う場合には, 新 しい形の業務上のマナーとルールが確立されなければな らない. すなわち, 一人一人がデータ連携を意識し,

「データは流れて利用されることにより全体の業務が完 遂されるもの」 との意識の下に 「下流に迷惑を及ぼさな いように」 配慮することが必要である. このときおのず から 「全体最適」 を実現するためのルールも生まれよう し, ルール以前のマナーである 「思いやり」 の必要性も 認識されてくる.

6. システム構築の基本的概念

このような考えから, このシステムを構築する指針と して, 前述の 「データの共有化・一元化」 に加えて以下 の方針を明確にした.

○発生源入力の徹底:

事務作業の多くが, 複数の資料からデータを抽出して

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新たな資料データを作成する作業であることを考慮すれ ば, データの入力は最初の1回だけ行い, そのデータが 転用される関連した資料は自動的に生成される仕組みと する. このことはデータの転記という無駄な中間作業を 廃止して作業量を減らし能率化すること以上に, 転記に よる新たなミスの発生をなくすことで, その確認作業も 廃止でき, 大幅な能率化を達成できる. この際重要なの は最初の入力を正確に行うことであり, 入力者にデータ の信頼性に対する全責任が発生することになる. 例えば, 学生は自分の個人データ入力に誤りがあれば, 大学から の重要な連絡が届かず不利益を受けることになり, また 事務でカリキュラムデータの入力に誤りがあれば多数の 学生の科目登録に混乱を来すことになる. 教員の成績入 力は, そのまま自動的に学生の成績簿に反映されるので, 責任は重大である. このように各部署・個人がそれぞれ に責任を負うことで, 大学全体の業務は円滑に進み, 快 適な業務環境が実現されるのである. この中で自分の責 任を放棄して, 代行入力や確認依頼で他人の業務を増や し, 全体の円滑な進行を阻害するような自分本位の要求 が誰に認められるであろうか.

○連絡の迅速化:

データの共有化を行えば, 離れた建物内の他人 (他部 署) が作成したデータを, あたかも自分のノートを開く ように参照できる. すなわち他部署に対するデータ作成 依頼も, 作成作業も, その資料の配達と連絡のために職 員が建物間を移動することも, 受け取りの押印もまった く不要になるのである. 大学ではあまり意識されていな いが, 職員が連絡のために移動している時間の損失は大 きい. データを共有化すれば, 情報の必要な人 (部署) 自身が情報を選別し参照すればいいのであるから, 他部 署に手間を掛けず自部署だけで業務は完結する.

大学内には紙文書の配送, 配達のために, 毎日数人の 職員が軽トラックで学内を走り回っているが, その多く は連絡文書である. これが事務室で分類されて収集され, 他の事務室に配送され, さらに個人宛に分類されて, 個 人が事務室に受け取りに行く手はずになっている. この 間にかかった印刷, 仕分け, 配送, 仕分けの手間と時間 と経費は全体では膨大な量になる. この中の大部分はデー タ共有または, メール配信で済む種類のものである. 70 人の会議を行うのに, レジュメや資料を作成し, 人数分 の枚数印刷して, 全員のメールボックスに投入し, さら に全員がそれを受け取りに事務室まで足を運ぶためにか かった人件費はいかほどであろうか, これがすべて瞬時 にかつ経費なしで実現可能なのである. 情報ネットワー クを利用して, 関係者にのみメールを一括送信するだけ で済むのだから, レジュメや資料の作成に要する時間プ

ラス3分で十分である. しかも情報の発信源から直接個 人へ発信すれば, 中継事務は完全に省略できる.

○操作性の重視:

どんな便利な機械も, 使いやすく造られていなければ, 便利感はなく, 使いたくないばかりか, 事故につながる 虞もある. ブレーキが助手席にある自動車や, ボタンが 足下にあるエレベータなど想像もしないであろう. しか しながら, 車のブレーキペダルやシフトレバーの配置は, 図面の引きやすさや部品の取り付けやすさから決定され ているのではない. 設計段階でただひたすら運転操作の しやすさの観点から, 人間工学に基づきミリメートル単 位で慎重に検討された結果であることには誰も気付こう ともしていない. コンピュータシステムでもこのことは 同じである. 画面の配置やボタンの位置と名称, コメン トや説明の文章表示, 大きさなどには使いやすくするた めの細心の注意が必要である. 人間の自然な感情に反す る配置や表現があれば, それが勘違いを生み, ミスや失 敗を引き起こす原因となる. 画面構成が曖昧なために操 作を誤り, 大量の入力データを一瞬に消してしまうよう なことが度重なると, 利用者はシステムを利用する度に 緊張を強いられ, システムに反感を持ち, 業務に対する 嫌悪感がよけいなミスを誘発する原因となる.

画面配置や表示以外についても, システムの動作や, 入力事項, 出力事項等において, 期待したとおりのこと をやってくれず, 当然できるはずのことを手で入力しな ければならない機能では, 利用者に愛されるシステムに はならない. そのようなシステムで快適な業務環境が構 築できるわけはなく, 業務の能率にも, 意欲にも, 大学 の繁栄にも貢献しない 金食い虫 となるだけである.

システムは利用者に 「お, こんなことまでやってくれる のか」 と言う満足のほほえみをあたえるものでなくては ならない.

このシステムではこのように利用者の立場に立って, あまりコンピュータを好きではない人たちにも好んで利 用してもらえるように, 機能の詳細と画面表示には徹底 的に検討を加えた. 特に各種の動作を命令するためのボ タンの位置や大きさ, 表示は細心の注意を払って, 誤解 や勘違いによるミスを防ぐことを心がけ, 必要な場合に はコメントや注意書きを表示して, ほとんどの機能はマ ニュアルを見なくても操作できるようにした.

○学部の独自性と学内の統一:

福岡大学では 「学部の独自性」 を高めるために, 平成 12年には従来事務室がなかった文系学部にも 「学部事務 室」 を設置した. それと同時に, それまで文系と理系に 分かれて複数の学部の事務をまとめて行っていた教務課

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の事務を, 各学部事務室に分割した. これにより学部の 教員や学生と事務室の物理的距離が近くなり, 双方にとっ て便利になった反面, 教務事務に関する各事務室の統一 性を懸念する声が聞かれた. すなわち, それぞれの学部 事務室ではその学部も実情に合うように業務実施上の工 夫が毎年重ねられて事務の能率化が図られるが, 学部事 務室の人数は少ないので, 人事異動を重ねていく内に, 事務処理内容を正確に継承することが難しくなるのでは ないか, という危惧である. 従来は人数の多い合同事務 室だったので, そのような場合には近くにいる他学部の 担当者に聞くこともできたが, それも難しくなる.

教務業務においては, カリキュラムはもちろん, 学生 の進級・卒業判定基準や, 登録単位数, シラバスの様式 などについて学部毎にさまざまな相違点がある. 実習や 実験に伴う手続きまで行う事務室があり, ある学部では 先生任せになっているゼミ生の配属選考は, ある学部で は事務室が携わっている場合もある. シラバスの様式も 各学部各様である. このため他大学では, 教務システム を学部毎に構築している大学が多い. いっぽう本学では, 総合大学の利点を生かして, 他学部の教員が科目を担当 することが多く, また一般教養科目の多くの科目では学 部混在の受講生で構成することが多いので, カリキュラ ムや時間割は全学で統一して考えなければならない事情 がある. シラバスの様式は異なっても, シラバスを発行 することは全学共通の事項である.

本学のシステムは, このような学部の独自性と, 全学 統一を両立するシステム構築を目指した. そのためにシ ステム構成は相当に複雑なものとなっている. しかし, 細部は異なっても, 業務構成の骨格となる基本構造は同 じであるから, 全体としては一つのシステムの中に, 学 部毎に異なる部品を選択できるようにしておけばいいの である. この方法で, これまで行ってきた学部毎に異な る制度や様式はそのまま保存することができた. このこ とは逆に, 制度や様式が代わっても, その部分だけ作り 替えればいいことになり, システムに柔軟性を持たせる ことができたとも言える.

7. 基本的な方針と主要な機能の概要

○ポータル構成について

今回のプロジェクトで完成したシステムの機能は大機 能分類で65あり, 中機能で158, 小機能では793に及ぶ.

これらの機能は, 学生だけが利用するもの, 職員のみ, 教員のみ, あるいはそれらのいくつかが利用するもの, 教職員の部署により, 学部により, いろいろと利用でき る機能が異なっている. これらをすべてポータルで管理 し, 個人毎に利用できる機能をメニューに設定すること により, 個人ごとに仕様を変えたカスタムメイドシステ

ム的な表示を実現している. また, 学生の科目登録や教 員の成績入力など, 機能によってはその業務を行う期間 に限定して表示し, 利用できる機能もある. このメリッ トは, 個人の立場によって, その期間には利用できない 余分な機能を表示しないことにより, 画面表示を簡素化 し, 機能選択を容易にして, 快適に利用できることであ る. 例えば教員からは, シラバスの参照は随時可能であ るが, シラバスの登録機能は年度末のシラバス入力期間 のみ表示されている. また学生からは, 科目登録の機能 は登録期間だけ表示され, その後は表示されない.

このポータル方式を用いることにより, いろいろな機 能をいちいちパソコンのプログラムファイルから探し出 す必要が無くなり, また学生の場合には, 大学のパソコ ンを立ち上げると自動的にポータルが開き, ここからす べての機能が利用できるので, きわめて利用しやすい利 点がある.

○ポータルを利用した教員−学生−職員間のコミュニ ケーション

「大学にはホームルームはありません. 連絡事項はす べて掲示板に掲示します. 朝大学に来たら必ず, まず掲 示板を確認してください」. 入学式直後のガイダンスで は毎年このような通達が当然のように行われていた. で も, 大学内の掲示板は, 学部別, 内容別に数十枚存在し, 一学部に数枚存在する. 全学的な内容別掲示板と自学部 に関係する掲示板をすべて確認し, その中から自分に関 係する情報を選別して把握しようとすると最低1時間は 必要であろう. 大学内で教職員には情報伝達のルートが あるのに対して, 学生は教室での教員との繋がり以外に は何の連絡経路もなく, 連絡の取りようがないからとい う理由だけで 掲示板 でいいのであろうか. 遠隔地か らはるばる時間を掛けて通学してきて, 大学に着いたら 掲示板に 休講 の張り紙があった, などという悲劇も 昔はあった. 東京の地震が1分後には福岡で放送され, 東京駅の列車の遅れを1時間後には福岡で知ることので きる時代に, 最先端の文化の範たるべき大学の情報伝達 がこれでよいのだろうか. 大学に, その時代において最 も進んでいる文化の状態が実現されていなくて, 学生が 大学を文化の発信源と感じてくれるであろうか.

今回のプロジェクトでは, 「掲示板の電子化」 が大き なテーマであった. 多から多へ, いや個々から個々への 情報伝達はネットの最も得意とするところである. 大学 内の従来の掲示板には, 大学のある部署から学生全体に 呼びかけるもの, 特定の学部など一部の学生への伝達事 項, 教員個人から学生個人への連絡など多種多様な情報 がある. ポスターのような全体への呼びかけはよいとし て, 多くの情報から自分が関係する情報のみを選別する

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のは, 実際は大変な作業であり, 見落としなどにより選 別を誤ると取り返しのつかない大変な事態にもなるよう な重要な連絡もあり, また個人への連絡のなかには, 個 人情報保護の精神にもとるプライバシーに関することも 含まれる場合がある. これらの問題はWeb掲示板によっ てほとんど解消することができる.

今回のシステムでは, 複数の 「お知らせ機能 (掲示板)」

を設けた. 大学内の教職員または部署から, 学生 (教職 員) 全体や, ある学部, ある学科, または任意の学生グ ループ, さらには個人宛にと, それぞれ区別してお知ら せを発信することができる. 受信する側の個人に表示さ れたお知らせは, すべて自分に関係するお知らせである から, お知らせを選別する必要はなく, また個人的なお 知らせは他人には表示されないので, プライバシーの問 題は解消される. もちろんこれらのお知らせは, 学外か らも閲覧することが可能であるし, 必要に応じてメール にも発信することができて, 連絡を確実なものにしてい る. さらに授業内容に関するお知らせ機能を別に用意し, 他の件との混同を防いでいる.

ポータルによる連絡で特徴的なのは, 試験時間割と成 績発表であろう. これまでは試験時間割が決まると, 大 きな掲示板いっぱいに, 小さな字で全科目の時間割と教 室名が表示され, 学生はそれを掲示板にしがみつくよう にして書き写していた. 今後はポータルから, 学生は自 分の履修科目の試験時間割と教室の表を出力することが できるので, 多くの科目の中から自分の履修科目を見つ け出す必要が無くなった. しかも出力した表をいつも携 行できるので, 今年度前期の定期試験では, 試験室や試 験時間を間違える学生の数が激減した.

学期末の成績発表は, 従来は学生個人毎に印刷した成 績表を一カ所で配布していた. 成績表は個人情報そのも のであり, このような配布方法では他人の情報が見られ る状態にあるので個人情報保護の精神に反することにな る. 今後は成績の集計が終了し, 進級判定が確定した後 に, 学生個人が自分のポータルから成績表を出力して受 け取ることになる. これにより他人の情報はもちろん見 えないし, 誤って他人の成績表を持ち去る事故も解消す る.

○face-to-face communicationの重視

大学 とは建物や設備を指すのではない. 大学とは教 員と学生の直接の接触による人格形成過程であることは 言うまでもない. 教育の手段として, 「コンピュータで 教育するなんてけしからぬ」 と言う意見があることも確 かである. しかし, コンピュータを利用することにより, 正確でより十分な情報を学生に与えることができるので あれば, これを否定する理由はない. その上でネット利

用によりコミュニケーションのきっかけをつくり, face to face communication(FFC) へと発展すれば, コミュ ニケーションがとれないままでいるより遥かに優ると考 えることができる. ネットやコンピュータ利用は, あく までFFCを実現するに至るための手段である.

一般に大学の教室はクラス人数が高校より多く, 高校 のように授業中の質問のやり取りなど, 双方向の授業を する教員も少ないので, 学生の気持ちや意志が教員には 伝わりにくい. そのように普段からの学生との交流がな いのに, 「授業内容についての質問が少ない」 と学生を 非難するのは教員の手前勝手である. 学生は, 得体の知 れない先生に近寄りがたい雰囲気を感じているのだから.

いっぽう, 非難されがちなことではあるが, 若者はメー ルによる意思伝達には何の抵抗感も無いようである. な らばこれを利用しない手はあるまい. 「Face to face 原則」 とは言っても, 最初のコンタクトがとれないので あれば次善の策によるしかない. mail communication によりある程度の親密感が醸成されれば, その後にface to face Communicationに移行できる可能性も大きく なる.

授業支援システムのなかには, 授業内容の提示, 課題 提出機能, アンケート・ミニテスト機能のほか, 質問や 討論に用いられる 「意見交換 (BBS)」 や, 学生から教 員へのメール発信があり, 学生とのコミュニケーション の確立を画している. さらにこのほかにコミュニケーショ ンの機会を作るために, 教員個人の 「プロフィール」 紹 介機能があり, 「オフィスアワー」 では教員のスケジュー ルやオフィスアワーの最新情報を提供している.

○休講・補講通知

福岡大学では, 平成16年 (工学部は平成15年) より, 教育の質の確保の必要条件として, 各期において1科目 (2単位) あたり15コマの授業時間を確保している. 講 義は授業料を取って開講しており, 大学設置基準 (第21 条) に一応の時間的基準を明記している以上, 無断休講 はある意味で学生への欺瞞である. 本学では, 授業担当 者がやむを得ない事情で休講する場合には, いち早く学 生に連絡し, さらに必ず補講をすることを義務づけてお り, システムではそのための機能を強化している.

教員に休講せざるを得ない事情がある場合には, Web を通じて学部事務室に申し込むと, 教務課に登録される と同時に, その科目の受講生全員へ休講の連絡が飛ぶ.

補講する場合には同様に教員がWebで申し込むと, 教 務課で教室を手配し, 確定したのち受講生に連絡が飛ぶ ようになっている. この連絡は受講生のメールにも配信 され, また携帯電話サイトからも確認できるようになっ ている. したがって冒頭に述べたような, 早朝から登校

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してみたら休講だった, と言うような時間の無駄をなく すことができる.

○出席管理システム

大学の授業で出席を取るべきか否か, 議論はいまだに 決着を見ない. スポーツ演習や語学では毎時間確実に出 席を確認し, 出席不足者には単位を与えない厳しい措置 を実行している. いっぽうで出席調査否定論は, 「自分 の意志で学ぶ大人である大学生は出席を取る必要はない.

欠席が多く不合格になっても自己責任である. 欠席して も自分で学び理解すればそれでよい」. しかしながら一 部には, 登録数の半数に満たない出席状態で授業が実施 されているにも拘わらず, 通常の出席者数よりも合格者 数が遥かに多い科目も存在する. これらの事実は, 講義 を聴いても聞かなくても同じ, すなわち講義自体に聞く 意味がない, そのような講義を行っていることは教育機 関として恥ずべきことであると考えることもできる.

またいっぽう, 近年の学生の未熟さの故か, 毎日講義 に出席するというしっかりとした意志を持たず, 特に不 満もないけれど, ずるずると欠席を続けるような自己管 理ができない学生も多い. 高校のように担任の監視の目 がなく, 休んでも誰からも叱られないことや, 授業の中 でも先生から質問があるわけでもない. 出席も取られず, 自分がいても居なくても誰も気に留めていない, と言う 疎外感がこの傾向に拍車を掛けているのではないかとも 思われる. それではと200人規模の大クラスで, 口頭で 出席を確認しようとすれば授業時間の大半を費やすこと になり, 出席カードを収集する方法でもやはり後処理に 相当の時間と手間を要することとなる. いっぽうで, 出 席率と成績には, はっきりとした相関があり, 出席を取 ることで出席率が増せば, 確実に成績向上と留年率の低 下に貢献すると期待できる. 本システムの出席管理シス テムはこのような観点から導入された. すなわち, 学生 個人に対し, 誰かが自分の行動を注目している, 誰かが 見てくれている, というささやかな自覚を与えることが, 学生の出席を促し, これが教育効果に結びつくことを期 待したシステムである.

システムの概要は以下の通りである. ICカードの学 生証を, 全教室の入り口付近に設置したカードリーダー にかざすと, リーダーで読み取られたカードIDが, そ の読み取り時刻データとともにサーバーに蓄えられる.

夜間バッチ処理でこのデータを吸い上げ, 時間と教室, 科目を関連づけたデータにより, 科目ごとの情報に分類 したデータは, 教員にはその担当科目に関連するデータ のみが表示され, 学生には自分の受講科目に関連するデー タのみが表示されることになる. これらのデータは 「出 席」 (時間前に入室), 「遅刻時間」 (開始からの時間が5

分刻みで表示される), 「欠席」 (読み取りなし), その他 休学などが表示される. これらのデータは, 学生証忘れ や, 遠征等の欠席届などに対応するため, 教員から修正 が可能である. このシステムは, 管理サーバーを通じて, 臨時の教室変更, 授業時間の変更, 休講や補講, 変則時 間帯で行われる臨時の各種行事にも対応可能になってい る.

これらのデータを教員が成績評価に考慮することに関 しては教員に一任されていて, システムの主目的はそこ にはない. 第一の目的は, 学生の目に, 自分の履修して いる科目の出席状況がいつでも見える状態になっている ことにある. このことにより学生に自分の行動を振り返 る機会を与え, 自己管理意識を芽生えさせる事が目的で ある.

またいっぽうで, この出席情報は, 学生の生活状況の 指標データとしても用いられる. 福岡大学では毎年父母 懇談会において履修状況を父母に報告し説明と指導を行っ ているが, その際に学生の生活状況を把握する資料とし て従来から講義への出席状況の資料を公開してきた. し かし, これまでの資料は, 抽出したいくつかの, 主とし て教養科目について, 学期ごとに数回の調査が行われて いるのみであり, 学生の動向を把握する資料としてはき わめて不十分なものであった. 今年からは, 学生が履修 している全科目について毎回の出席データが揃っている ので, この資料からかなりの情報を読み出すことが可能 になった.

○ワンストップサービスの考え方

七隈の広いキャンパス内を移動するのは大変である.

必要な手続きを行うために学生は関連する事務室をあち こちと廻り, 教職員は会議出席や文書の確認のために建 物間を行き来する. たとえば工学部のある11号館から, 文系センター棟の教務課まで行って用を済ませ, 戻るた めには, 往復だけで30分必要である. 従来学生が一つの 手続きを済ませるために, いくつかの事務室を巡ること は日常茶飯事であった. しかも広いキャンパスの端から 端へと. 時間割が詰まっていて空き時間の少ない理系学 部の学生にとって, このことは極端な不都合である. 昼 休みだけでは用務が終了せず, 空き時間もない. 必然的 に3限目の講義には遅刻とならざるを得ない.

このような不便を解消し, 学生が時間の浪費をするこ となく勉学に集中できるようにワンストップサービスの 思想が取り入れられた. ワンストップサービスの実現に ついては3通りの考え方がある. 一つはすべての事務業 務を1カ所に集中し, どの職員もどの業務にも精通し応 対できる総合的事務室を設置する方法. 第二は, 事務室 は複数に分散したままで, すべての事務室に全業務に対

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応できるよう職員を配置する方法. 第三は, 事務室はこ れまで通り機能別に分散するが, ネットワークの利用に よりどこの事務室でもすべての業務に対応できるように する方法である. 第一の方法は, 新たな施設の建設に膨 大な予算が必要であり, また広いキャンパスでは, 1カ 所で処理することはできても, そこから遠い部署にとっ ては何の解決にもならない不便がある. 第二の方法は, 人材の養成と確保に問題があり, 各事務室で別々に行っ た事務の統合集計作業が発生する. 第3の方法は, ネッ トワークを利用することにより, 定型の事務は無人で対 応する方法である. すなわちキャンパス内の各所に配置 したタッチパネルで操作する自動証明書発行機により, 学生は遠隔地から直接その業務の担当部署にアクセスす ることができる. 1台の発行機には異なる多数の部署の 手続き機能が含まれており, 学生はどこからでもまった く同じ条件でこれを操作できる. この方法を採れば, 第 二の方法では手続き方法が変わる度に必要であった複数 部署の担当者に対する変更された方法に関する研修が不 要になり, 即座に各所の端末での作業を変更できる. ま たこの方法に依れば事務職員の手を煩わせることがない ので, 職員はその時間を相談が必要な学生への対応に充 てることができ, 余裕を持って親身な対応が可能になる 利点がある.

このワンストップ機能 (タッチパネル方式の自動証明 書発行機) は, 今回は大学内の11カ所に設置され, 金銭 収集機能も備えて, 38種類の証明書発行や申込み手続き に対応しており, 試験の際の仮学生証の発行にも対応し ている.

○学生個人カードシステム 学生指導のための個人情報の活用

福岡大学の学務系システムの一大特徴はこの学生個人 カードシステムにある. このシステムは, 大学内各所に 管理されている学生個人に関する情報, すなわち, 学生 の所属や学籍状態, 保証人に関する情報, 履歴に関する 情報, 成績, 課外活動, 就職活動など, 学生個人に関す る情報のすべてを, 1つの表示システムを介して閲覧す ることができる機能である.

このシステムの目的は, 学生が大学内にある自分に関 する情報をすべて閲覧できることにある. 個人情報保護 法は, 自分に関する情報の開示を求めることができるこ とを定めているが, 本システムによってこのことが可能 になる. さらに学生は, 大学内の自分の情報を気が向い たときに確認することができ, それを眺めながらこれま で過ごしたキャンパスライフを振り返り, さらに残りの キャンパスライフの計画を練り直すことによって有意義 な学生生活を送れるようにする機会を与えるためのもの

である.

このシステムはいっぽうで大学にとっても有効に利用 される. 事務室や指導教員には, しばしば学生の動向に 関する父母からの問い合わせがくる. それに回答する際 に, いろんな情報をいろんなファイルから探しながら回 答することはかなり面倒な作業であり, 内容によっては 即時に必要な情報を探し出せず, 即答できない事態も発 生しかねない. このような場合にこの 「学生個人カード」

ですべての情報を閲覧できるので, 父母へのサービスの 面で便利なシステムである. また, 学内外の事故等で, 緊急に連絡を取る必要が生じた場合にもこのシステムが 活用される.

もう一つの利用形態は学生指導である. 大学では年に 一回以上の修学指導を行い, 教員が手分けして, 特に履 修状況の悪い学生の指導に当たっているが, このときに 利用できる資料は, これまでは学生の成績表のみであっ た. 指導に慣れた教員は, 成績表の不合格科目の種類や 学生の表情から生活状況を想像しながら, 質問によって 上手に学生の生活態度を聞き出し, 学生の気持ちを和ま せながら相談を引き出して指導を行っていた. しかしな がらこの方法は一面で危険も孕んでおり, 質問がプライ バシーに触れることも多く, また学生が心を開いて相談 に応じない場合には, 通り一遍の指導になる虞がある.

家が遠いのか, 下宿の一人住まいなのか, なぜアルバイ トが必要なのか, どんなアルバイトをしているのか, な どの条件が生活のリズムを決め, その総合的な結果が成 績に現れている場合が多いのである.

このような場合に, 「学生が拒否しているのであるか らそれ以上は干渉する必要がない」 と言えばそれまでで あるが, 本当に親身な指導が必要なのはこのような学生 なのである. 成績が悪い学生に 「しっかり勉強しなさい」

と言う言葉をかけても何の効果もないことは自明である.

修学指導を担当する教員の間で 「呼び出しに応じる学生 には問題がない. 来ない学生こそが問題だ.」 という意 見がよく言われている. このような場合に手元に何らか の資料があれば, それを糸口にこちらから声を掛けて, 何らかの解決に至る方法が考えられる場合も, 成績表だ けでは何の手がかりもなく声の掛けようがない. 学生個 人カードで学生に関する情報を閲覧し, 担当している学 生の正確な状態を普段からある程度把握しておいて, 機 会を捉えて話を始めればかなりの時間が節約できるし, 学生のほうも自分のことを良く知った上で親身に心配し てくれていると感じれば心を開き, 指導も的を射たもの となることは容易に想像できる.

この方法がいっぽうでは, やはり大きな危険をはらん でいることは十分指摘されている. すなわち 「興味本位 に学生の個人情報を見る者がいる」, 「個人情報が流出す

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