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論文の内容の要旨 氏名:市川智史

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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨

氏名:市川智史

博士の専攻分野の名称:博士(総合社会文化)

論文題名:日本における環境教育の史的展開に関する研究

1.研究の目的と課題

私たち人間が他の生物とともに地球上で生活していく上で、新たな環境問題の発生を防ぐとともに現在 の問題を解決し、より良い環境を創ることが必要であり、一人ひとりの生活や社会全体を持続可能なもの へと変えていくことが求められている。今日、そのための教育、すなわち環境教育が必要不可欠なもので あることは論を待たない。環境教育は1972年のストックホルム会議において必要性が唱えられ、国際的に 推進されてきたものである。日本の環境教育は、1970年に“Environmental Education”の訳語として「環 境教育」が用いられて以降、国際的動向と呼応しつつ40数年間を歩み、進展してきた。

ところが近年、筆者は、学校教育における環境教育の普及・浸透に対し疑問を持たざるを得ない状況に 直面している。疑問を持つ根拠としては、「総合的な学習の時間」の環境教育について、筆者が行った全国 調査の分析から、学校間格差や内容の偏り、中学校における低調さなどの問題点が明白となったことであ る。また、未だに現職教員から「環境教育は何をすればよいのですか」と尋ねられることもある。約40 が経過した現在も、このような質問が発せられることは、環境教育が十分に学校現場には浸透していない と受け止めざるをえない。

では、これまでの環境教育の進展、学校教育現場への普及・浸透が不十分であった原因や問題点はどこ にあったのか。この問いに対し筆者は、私的な主張を唱えるのではなく、現状の背景と要因を史的展開の 中に見出すことが重要であると考えた。ところが、先行研究を分析すると、環境教育の史的展開は概略的 な記述にとどまっているだけでなく、約40年間を正面から扱った研究も存在せず、未着手の分野であると 言える。加えて、環境教育の客観的状況を把握し得る全国調査結果を踏まえた研究も皆無に等しい。

そこで本研究では、環境教育が登場する1970年から2010年頃までの約40年間を対象とし、小・中学校 における全国調査結果を踏まえ、国内外の史的展開を解明することを主たる研究目的とした。その際の具 体的な課題として3点が挙げられる。すなわち、①環境教育登場以前の日本の環境問題・環境保全の概略 史、および源流とされる公害教育、自然保護教育の成立を解明すること、②約40年間の環境教育の史的展 開について、時代を区分して解明すること、③全国調査結果や実践事例に基づく、各時代の小・中学校の 実践状況・特徴を解明することである。時代区分としては、創成時代、普及時代、拡大時代の3つの時代 を設定し、分析・検討した。

2.論文の構成

本論文は、本文全体を7章で構成し、「引用文献」も加えた全231頁(43字×33行)となっている。本 論文では、設定した3つの研究課題と、3つの時代区分に沿って、次のように各章を構成した。

第Ⅰ部 環境教育の国際的展開 第1章 国際的な環境教育の創成

用語“Environmental Education”の登場、ストックホルム会議の成果、国際環境教育プログラム(IEEP:

the International Environmental Education Programme)の発足、ベオグラード会議(1975年)、トビ リシ会議(1977年)の成果、日本との関係。

第2章 国際的な環境教育の普及

1980年代のIEEPの活動、モスクワ会議(1987年)の成果、日本との関係、「持続可能な開発」概念、「ア ジェンダ21」(1992年)の内容。

第3章 国際的な環境教育の拡大

「アジェンダ21」へのIEEPの対応、テサロニキ会議(1997年)の成果、日本との関係。国連「持続可 能な開発のための教育の10年(DESD:Decade for Education for Sustainable Development)(2005~

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14年)へ至る展開。

第Ⅱ部 日本における環境教育の展開 第4章 環境教育の登場以前

1970年以前の日本の環境問題・環境保全の概略史、公害教育、自然保護教育の成立過程。

第5章 環境教育の創成

用語「環境教育」の登場、環境保全の動向、公害教育、自然保護教育の状況、1970年代中盤・後半の展開、

学習指導要領一部改正(1971年)・改訂(1977年)、全国調査結果・実践状況に基づく小・中学校の環境 教育の展開・特徴。

第6章 環境教育の普及

1980年代の低迷とその背景、低迷から普及への節目と展開、1990年代の環境保全の動向、国・研究者レ ベルの展開、学習指導要領改訂(1989年)、全国調査結果・実践状況に基づく小・中学校の環境教育の展 開・特徴。

第7章 環境教育の拡大

2000年代の環境保全の動向、国・研究者レベルの展開と理念の変化、環境保全活動・環境教育推進法(2003 年)、改正・教育基本法(2006 年)の内容、学習指導要領改訂(1998 年)、全国調査結果・実践状況に 基づく小・中学校の環境教育の展開、「総合的な学習の時間」における実践の変化・現状・問題点。

3.研究の独自性

本研究の独自性の第1は、日本の環境教育の約40年間の史的展開を3つの時代に区分し、各時代の節目 となる事象を明確に位置づけ、その史的展開を解明したことである。第2は、全国調査結果を用い、実践 事例に触れつつ、各時代の小・中学校における環境教育の特徴と変化、現状を解明したことである。第3 は、環境教育が学校教育現場に十分に浸透していないことの背景・要因を史的展開から解明したことであ る。以上のような独自性を持つ先行研究は存在せず、本研究の学術的価値は高いと言える。

4.研究成果の概要と総括

第1章では、“Environmental Education”の登場について、一般に定着している「1948年トマス・プリ チャード使用説」に対し、「1947年グッドマン兄弟使用説」の方が早期であることを指摘した。また、人間 環境の質、人間の環境への影響、人間と環境のかかわりに関する教育という今日的意味での“Environmental

Education”が、1960年代後半に登場したことも解明した。さらには、ベオグラード会議、トビリシ会議に

日本は政府代表を派遣せず、トビリシ会議の成果は報告されなかったことも解明した。

第2章では、1980年代のIEEPの活動、モスクワ会議の全容を解明した。また、日本はこれらに関与して おらず、国際的動向から取り残されたことを解明した。

第3章では、テサロニキ会議により、環境教育は「環境と持続可能性のための教育」と位置づけられ、

2002年のヨハネスブルク・サミットを経てDESDが決定され、国際的にESDの時代を迎えたことを解明した。

第4章では、足尾銅山鉱害問題から、1970年の公害国会までの環境問題・環境保全の歴史を概括し、公 害教育、自然保護教育の成立過程を解明した。

第5章では、「環境教育」の登場が1970年であり、初期には理科(科学)教育関係者によって、理科にお ける公害教育との趣旨で用いられ、ストックホルム会議以降、人間環境の質、人間の環境への影響、人間 と環境のかかわりに関する教育との意味で用いられたことを解明した。1974~75年は研究プロジェクトが 開始されたこと、「環境教育」を冠した団体が活動を開始したことなどから、環境教育普及の節目であるこ とを解明した。創成時代の小・中学校の環境教育は、公害・環境問題を扱った実践、身近な環境の状態や 環境問題の調査、人間の環境への影響を扱った実践に特徴が見られたことを解明した。

第6章では、数多くの証言、全国調査結果から1980年代の環境教育の低迷を明確化し、環境庁・文部省 の施策、日本環境教育学会の設立、自然体験型環境教育の広まりが普及への節目であることを解明した。

一方、1990年代前半の環境教育の理念は、世界の趨勢から10年程度遅れていたことを解明した。当時の小・

中学校の環境教育は、地球環境問題、環境に配慮した生活という社会情勢を象徴する実践に加え、地域の 自然・社会環境に直接接し、環境や環境問題の状態をとらえ、人間と環境のかかわりを認識するという実 践、自然とのふれあい活動、飼育栽培活動、環境美化・清掃活動等の「活動」を取り入れた実践に特徴が

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見られたことを解明した。

第7章では、環境教育は「持続可能な社会の実現」をめざすことが明確に位置づけられ、ESDに向かい始 めたこと、地球温暖化、廃棄物・リサイクルが主要課題とされるようになり、省エネルギー行動、環境美 化・清掃活動、リサイクル活動が、学校教育に位置づけられてきたことを解明した。一方、「総合的な学習 の時間」では学校間に格差があり、環境教育に熱心ではない学校では、小学校は「飼育栽培・生産体験」 中学校は「美化清掃・回収体験」に偏っており、横断的・総合的な環境教育は低調であること、中学校の 実践の低調さが目立つこととの問題点を解明した。

現状の背景・要因として、1980年代の低迷が環境教育の進展にマイナスに影響したこと、近年の「体験」

「行動」の過度の強調がマイナスに影響していること、文部科学省の消極的姿勢などを指摘した。

本研究を総括すると、日本の環境教育の約40年間の史的展開を国際的動向にも注目しながら解明すると いう当初の目的は達成したが、教育政策との関係という点では課題も残った。今後の研究課題としたい。

参照

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