101
ア ル ベ ー ル ・カ ミ ュ 研 究(V)
<L'ETRANGER>(1962‑1964)
『異 邦 人
』研 究 通 史(七)
清 多 英 樹
〔目 次 〕
(1) (2) (3) (4)
〔5〕
(6) C7) Cs)
〔9〕
Cla)
プ ロ ロ ゴ ス 。 ノ
M.‑G.BARRIER:」 乙 ㌔4πdurecitdans"L'Etranger"d'AlbertCarnus.(1962) P.NGUYEN‑VAN‑HUY:LaMetaphysiqueduBonheuYchezAlbertCamus.(1962)
J,A.G.TANSI<LaPoetiquedel'EauetdetoLurniered'apresl'ceuvyed'Albert Camus>.(1962)
C.GADOUREK:LesInnocentset/esCoupables.(1963) M.LE$ESQUE:Carnusparlui‑rneme.(1963) A.MAUROIS:DeProustdCamus.(1963)
B.T.FITCH:LeSentimentd'etrangetechezMalraux,Sartre,CamusetS.de Beauvoir.(1964)
P.GINESTIER:PourconnaitrelapenseedeCarnus.(1964) L.GAGNESIN:AlbertCamusdanssalumiere.(1964) Camus(Hachette,"GeniesetRealites").(1964) (1)A.PARINAUD:<・Lavied'unecrzvaanengage>。
(2)P.‑H.SIMON:<Lecombatcontrelesmandarins>.
(3)R.‑M.ALBERES:<LePrixNobel>。
NotesAppendiceBibliographie.
〔1〕 プ ロ ロ ゴ ス
1960年 代 前 半 の 『異 邦 人 』研 究 は さ らに 間 口 を広 げ て ゆ く。 研 究 者 た ち は作 品 を それ ぞ れ 自分 の 得 意 の 領 域 に拉 致 して解 体 を図 る。 主 題 論 か ら技 術 論,作 中 人 物 考 か らイ マ ー ジ ュ研 究 まで 拡 散 一 途 の 論 者 た ち を分 類 す る旗 印 は 今 の と こ ろ ひ とつ しか な い。 『異 邦 人 』を 『シ ジ フ ォ ス の 神 話 』の 不 条 理 の 思 想 の 下 に と ら え るか,む しろ後 者 を積 極 的 に切 り捨 て て 活 路 を 開 くか, で あ る。 不 条 理 を掲 げ る か,そ れ と も背 を 向 け るか,そ れ は 本 質 的 な 問 題 で は な い 。 時 代 に属 す る もの は 時 代 と と もに消 滅 す るか,あ る い は 岩 に刻 まれ て歴 史 と な るか,そ れ 以 外 の 選 択 肢 は な い 。 む しろ 我 々 は 時 代 に属 す る もの を越 え て 時 代 に属 さ な い もの,そ れ を脱 け 出 した もの を探 した い 。 そ れ に して も時 代 や歴 史 を云 々 す るた め に は,流 れ た 時 間 は充 分 だ と言 う に は い
まだ 程 遠 い。 当面 の 我 々 の 仕 事 は,『 異 邦 人 』の 人 気 の 秘 密 を明 か す 可 能 性 の あ るす べ て の 事 柄 を 丹 念 に広 い 集 め る作 業 に尽 き る。
〔2〕M.‑G.BARRIER(1):L'ArtdurecitdansL、'Etrangerd'AlbertCamus②.(1962A1)
M.‑G.バ リエ の 『ア ル ベ ー ル ・カ ミュ の 「異 邦 人 」にお け る物 語 の 技 法 』は,100頁 に満 た な い軽 装 な が ら,わ れ わ れ の 作 品 の い くつ か の特 色 を具 体 的 に検 証 して ゆ く好 著 で あ る。 バ リエ の 目的 は,タ イ トル が 明 示 して い る よ う に,『 異 邦 人 』に お け る カ ミュ の 物 語 技 術 の 研 究 に あ る。 『物 語 の 技 法 』第 一 部,〈 文 学 言 語 と小 説 言 語 〉 で は,『 異 邦 人 』が 文 学 芸 術 の 伝 統 要 素 と非 伝 統 要 素 の 不 思 議 な混 清 体 で あ る こ と,第 二 部,〈 異 邦 の 世 界 〉 で は,ア メ リカ 行 動 主 義 を土 台 に した カ ミュ 独 自 の 手 法 を,さ ら に第 三 部,〈 古 典 作 品 の 独 創 的 メ ッセ ー ジ 〉 で は,新 し い 試 み が 伝 統 的 小 説 芸 術 に 溢 け る カ ミュ の 力 量 に よ っ て 支 え ら れ て い る こ と を,バ リエ は 順 次 解 明 して ゆ く。 『異 邦 人 』論 者 と して の バ リエ の最 大 の 特 長 は,彼 が 論 考 の 過 程 で 決 して崩 さ な い
ヘ へ
ひ とつ の 姿 勢 に あ る よ う に 思 わ れ る 。 ム ル ソ ー と生 身 の 付 き 合 い を し たR,シ ャ ン ピ ニ や 虫 メ
ヘ ヘ
ガ ネ で 物 語 を読 ん だB.T.フ ィ ッチ ら と は異 な り,普 通 の 読 者 の 印 象 を 最 大 限 に尊 重 す る(し す ぎ る?)姿 勢 で あ る。 実 際 は バ リエ も両 者 に 劣 らず 入 念 な読 書 を,そ れ も時 に は 彼 ら を凌 ぐ 読 み を 行 な う(3)のだ が,彼 は 物 語 の す べ て の 責 任 を 話 者 主 人 公 に よ り も著 者 に 帰 す る方 を 選 ぶ 。 とこ ろで,『 物 語 の 技 法 』の 場 合,論 旨 の 要 約 が そ の ま ま有 効 な 資 料 とな る よ う に 思 わ れ
る。
{1}〈 文 学 言 語 と小 説 言 語 〉 。
ヘ ヘ ヘ へ
(1)文 体(6criture)に お け る 非 文 学 性 。
① 物 語 叙 述 の 口 語 体(stylepazle)の 採 用 。 一 → 伝 統 文 学 で は 文 語 体(styleecrit) 。
② 表 現 性 の 貧 困 を 意 図 し た 語 彙 の 選 択 。
1)"生 彩 に 富 む 表 現 力 の あ る 動 詞"は 稀 で 属 動 詞(verbesgeneriques)が 多 用 さ れ て い る⑥Q
2>半 助 動 詞ALLER,FAIREの ガ リ シ ス ム,AVOIRの 成 句(ILYA,AVOIRENVIE DE̲)な ど"単 調 で 平 板 な"動 詞 の 多 用 。
3)基 本 的 副 詞(ALORS,ENCORE,AUSSI,BEAUCOUP̲)の 多 用(5)。
4>等 位 接 続 詞(ET,MAIS)の 多 用(6)。
一 → 伝 統 文 学 で は 豊 富 で 華 麗 な 語 彙
。
ヘ ヘ ヘ ヘ へ
③ 並 置 構 文 以 外 の"文 学 的 品 格 に 欠 け る'構 文 の 存 在 。
1)"等 位 的 価 値 を も つ 時 間 の 副 詞 句(ACEMOMENT>"(7)の 多 用 。
2)並 置 に 代 わ る予 想 外 の 従 属 節(8)の 使 用 。
103
ヘ ヘ へ
④ 直 接 話 法 の 投 入 句 の 省 略 。
一 → その た め 時 た ま使 用 さ れ る"j'aidit"や"ilarepondu"な どが 格 別 の 効 果 を も た らす
。
⑤ 一 人 称,複 合 過 去 の 使 用 に よ る 非 文 学 的 音(j'ai〔jε 〕,ila〔ila〕,過去 分 詞 の 語 尾 〔e〕)の瀕 出 。
ヘ ヘ ヘ ヘ へ
(2)文 体(ecriture)に お け る伝 統 文 学 性 。
①4ヶ 所 認 め ら れ る"叙 情 的 記 述"。
1)「 マ リ,土 曜 日 の 海 水 浴 」...〔1(4)1〕(9)。
2)「 海 岸 段 丘 の 叙 景 」...〔1(6)5〕(10)。
3)「 護 送 車 」の 中 か ら う か が う 夏 の 夕 暮...〔II(3)21〕(11)。
4)「 ア タ ラ ク シ ア 」の 神 聖 結 婚̲〔II(5)26〕(12)。
②"生 彩 に 富 む 人 物 描 写"。
ペ レ や サ ラ マ ノ な ど 。
③ イ メ ー ジ 豊 か な 隠 喩 。
"Leso
uffreobscurethumide(13)"な ど 。
④ 伝 統 的 叙 述 表 現 。
̀̀laisserpasser〔14)nな ど
。
⑤"文 学 的 媚 態 ま で 思 わ せ る 格 調 高 い 文 体(style)"。
"Quelquesbruitssourdsetlafemmeahurle
,maisdeSZ'67励 ♂6プ御oηqu'imm6diate‑
mentlepaliers'estemplidemonde.(15)"な ど 。
⑥ 美 文 調 の 統 辞 。
"11m'aappritqu'i1
.vvenaitpasserIesamedi...(16)"
"Onestvenucherchermonvoisindedroite
...Puis,estvenurnontour(17)"な ど 。
⑦ 接 続 法 半 過 去,同 大 過 去 の 使 用 。
"llsemblaitquelejugenes'interessatplusamoietqu'ileutclassemoncas
en qUelqUeSOrte.(18)"な ど 。
⑧ 単 純 過 去 が 五 つ 使 用 さ れ て い る 。
(1(1)23),"frappa""donna";(1(2)6),"passerent";(1(2)10),"arriverent";
〔II(2)9〕,̀̀dura".(19)
⑨ 直 接 話 法 に お け る 投 入 句 の 随 時 使 用 。
"〈Non
,ai‑jeditaRaymond.Prends‑led'hommeahomme...〉(20)"な ど 。
⑩ リ ズ ム 感 溢 れ る 記 述 。
"L'ennu
yeux,c'estqu'ilfallaitrendremoinsfougueuxcetelandusangetducorps/
quimepiquaitlesyeuxd'unejoieinsensee.(21)"な ど 。
(3)"非 文 字 記 号 の 中 和 作 用"。
文 体(ecriture)に 勝 け る 伝 統 文 学 性 は,す で に み た よ う に,多 数 を 占 め る 非 文 学 性 の な か に あ っ て は 例 外 に す ぎ な い 。 そ し て さ ら に 『異 邦 人 』の 数 少 な い"文 学 基 底"は,さ ま ざ ま な 非
ヘ へ
文 学 記 号 に よ っ て 中 和 さ れ,解 消 さ れ て し ま うの で あ る。 それ らは 容 易 に 印 象 を と どめ な い 仕 組 み に な っ て い るの だ が,以 下 に具 体 例 をみ よ う。
① 文 学 性 の 低 い,話 言 葉 で 多 用 さ れ る単 語 や 表 現 が,格 調 高 い 文 章 体 の 要 素(た と え ば 接 続 法 半 過 去)と 併 用 さ れ,後 者 に本 来 の機 能 を 発 揮 さ せ ない よ う に して い る。
1)形 容 詞(ENNUYEUX,CONTENT,PETIT,DROLE̲)と の 併 用 。
̀℃'etaitassezdr61equejenem'enfussepasaviseplustot .(22)"な ど 。
2)"紋 切 り型 表 現"(AVOIRL'AIR,DANSLEFOND,JEPEUXDIREQUE...)と の 併 用 。
̀̀Jeカ6z4κdire
,d'ailleurs,qued'une667彪 勿6ノ 色ρoη ブ初ゴeudeZachancependanttoute cetteperiode̲(23)"な ど 。
3)副 詞(UN)PEU(24)の 多 用,ま た 他 の 副 詞(ASSEZLONGTEMPS,TOUTDE
MEME,ALORS̲)の"突 飛 な"位 置 や 用 法 。
"Jenesaispaspo
urquoinousavonsattenduassezlongtempsavantdenousmettre enmarche.(25)"な ど 。
② 近 似 法 に よ る 時 制 の 簡 素 化 。
大 過 去 や 半 過 去 を 複 合 過 去 で 代 用 す る の は 口 語 体 の 特 長 の ひ と つ で あ る 。"J'aitrouve dans1'eauMarieCardona,uneanciennedactylodemonbureaudontj'avaiseuenvie
a1'epoque.Elleaussi,jecrois.Maiselleest1)artie/)euapyesetnousn'avons/)aseu letemps.Je1'aiaideeamontersurunebouee.(26)"な ど 。
③ 文 構 成 法 上 の 仕 掛 け。
ヘ へ
1)"わ ざ と ら し い 等 位 構 文"。 以 下 の 例 で は,"心 理 的 に み て 並 置 が 適 当"で あ る 。"Je n'avaisplusqu'aattendreetnousavonsentenduRaymondfermersaporte.(27)"な
ど 。
2)"一 行 為 や 一 状 態 を 単 純 な 要 素 に 分 解 す る"等 位 法 。"...j'avaisprisunvieuxjournal etjel'ailU.(28)"な ど 。
3)複 文 を 避 け る た め に"時 間 の 副 詞 句"を 多 用 す る 。"L'employedespompesfunebres m'aditalorsquelquechosequejen'aipasentendu.Enmemetemps,its'essuyait
lecraneavecunmouchoir,(29)"な ど 。
④"対 話"の 直 接 話 法 に お け る 投 入 句 の 執 拗 な 反 復 。
"J
eluiaidit:〈Comment?〉.Ilarepeteenmontrantleciel<Gatape>.J'aidit:
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<Oui>.Unpeuapres,ilm'ademande:<C'estvotremerequiestla?>J'aiencoredit:
<Oui>.(30)"な ど 。
(一→ 『異 邦 人 』の 言 語 と統 辞 法 に お け る文 学 要 素 と非 文 学 要 素 の 具 体 例 を満 載 した対 照 表 は こ の分 野 の 研 究 の 基 礎 とな る。)
ヘ ヘ ヘ へ
(4)"語 り の 技 法"『 異 邦 人 』に お け る 非 小 説 性 。
① 複 合 過 去 の機 能 。
1)複 合 過 去 は伝 統 小 説 の"文 学 的 典 礼"を 否 定 す る時 制 で あ る。 それ は読 者 の 培 わ れ た 習 慣 を 揺 さぶ り,そ れ に よ っ て描 か れ た 行 為 は特 別 な 背 景 を獲 得 す る。 単 純 過 去 が 示 す 動 詞 の 行 為 が い わ ば"物 語 に溶 け こ ん で い る"の に 対 し,複 合 過 去 の 場 合 そ れ が"目 に 飛 び こん で くる"の で あ る。 そ して"半 過 去 に よ る叙 述 の さ な か 複 合 過 去 に 出 会 っ た読 者 は い きな り現 実 の 行 為 の 真 中 に 放 り こ ま れ た よ う に感 じ る。"
2)か か る臨 場 感 を と もな うゆ え に複 合 過 去 は"物 語 に 証 言 的 価 値 と真 正 さ の 特 質 を 附 加
ヘ ヘ ヘ へ
す る。"それ は作 家 の 文 章 を証 人 の 文 章 に 転 じせ しめ る。
② 一 人 称 話 者,<je>。
三 人 称 主 人 公 の場 合,一 般 に作 者 は 全 知,語 りの 視 点 は読 者 に未 知 の ど こ か に あ る。 一 方,一 人 称 主 人 公 の 場 合,作 者 は 話 者 以 外 の作 中 人 物 の 内 部 に は位 置 で き な い。 この よ う な常 識 に挑 む か の よ う に,カ ミュ は主 観 的 人 称 を 用 い た 客 観 的 物 語 の創 作 とい う野 心 を抱 い た の で
あ る。(人 称 に 関 して は 別 項 に 考 察 継 続 。)
(表国) 月 火 水
木
金 土日
『
異 邦 人』
ω
第 一 週
1 2 3 4
第二週
5 6 7 8 9 10 11
第三週ヱ2 13 14 15 ヱ6 17 18
③ 物 語 時 点(momentsdenarration)の 粉 飾 。 1)『 異 邦 入 』第 一 部 。
ヘ へ
広 い 意 味 で 語 りの 問 題 を 扱 っ て い る 本 項 に 取 り か か る に あ た っ て,『 物 語 の 技 法 』か ら も 通 史 研 究 か ら も少 し離 れ る こ と に な る が,こ の 機 会 に 『 異 邦 入 』研 究 基 礎 資 料 の 充 実 を 期 す べ き で あ ろ う と考 え る 。 換 言 す れ ば,物 語(事 実)の カ レ ン ダ ー の 作 製 が 是 非 と も必 要 と な っ て い る わ け だ 。C.A.ヴ ィ ヂ ア ニ が 最 初 に 整 理 し た よ う に(31),『 異 邦 人 』〔1〕 の カ レ ン ダ ー は,あ る 夏
の 木 曜 日 の 電 報 に 始 ま り,そ れ か ら 数 え て 三 度 目 の 日曜 の 午 後 の 殺 人 に 終 る。 表 国 に 示 し
た 如 く,〔1〕 の 物 語 期 間 は 十 八 日 だ が,実 際 に 語 りの 対 象 と な る の は 八 日 に す ぎ な い 。 そ の う ち 曜 日 が 特 定 で き る 七 日 を ゴ チ ッ ク 数 字 で,特 定 で き な い 一 日 が 該 当 す る 可 能 性 の あ る 五 日 を イ タ リ ッ ク 数 字 で,そ れ ぞ れ 示 して み た 。
次 に,こ の カ レ ン ダ ー に 『 異 邦 人 』第 一 部 の 章 と 段 落(32)の 関 係 を 組 み 入 れ て み よ う(表
ヘ ヘ ヘ へ
囮)。 最 初 の2章 は そ れ ぞ れ 二 日分 の 記 述 を 含 む が,(1)で は 金 曜,② で は 日曜 に 重 点 が 置 か れ て い る。(3)以降 は一 日1章 で 第五 日 か ら第 八 日 まで 。 最 初 の 五 日間 は 日付 が連 続 して お り,か
つ 一 人 称 話 者 が 複 合 過 去 で 語 る と な れ ば,体 裁 は ま さ し く ロ ジ ェ ・キ ー ヨ が 言 う よ う に ㈹,自
へ
記 が 連 想 さ れ る 。 さ て,こ こ で 本 題 に 戻 ろ う 。
(1)
物語時間章 段落
第 一 日
木曜(1)
1〜2
第 二 日 金曜
3〜27.
第 三 日 土曜
(2)
1〜3
第 四 日 日曜① 4‑一 一11,
第 五 日 月曜 (3)
1〜13.
第 六 日 日曜② (4)
1〜8.
第 七 日 ? (5)
1〜9.
第 八 日 日曜③ (s)
1〜25.
(3) 物語時間
章
段落 物語時点第 一 日
木曜(1}
1〜2
木 曜(午 前)第 二 日 金曜
3〜27.
金 曜(夜)?第三 日 土曜
(2)
1〜3
土 曜(夜)?第 四 日 日曜①
4〜11.
日曜(夜)?第五 日 月曜 (3)
1〜13.
月 曜(夜)第 六 日 日曜② (4)
1〜8.
日曜(夜)?第七 日 ? (5)
1〜9.
?第 八 日 日曜 ③ (s)
1〜25.
?事 実,物 語 第 一 日 に 関 し て は,そ れ が"出 来 事
(表n)と ほ と ん ど 時 を 同 じ く し て"書 か れ て い る の で,こ の
ヘ へ
二 段 落 を 日記 に あ らず とす るの は 難 しい 。 す な わ ち第
ヘ ヘ
ー 日 の 話 者 主 人 公 の 物 語 記 述 想 定 時(物 語 時 点)は 木 曜 以 外 に な い。 しか し第 一 章 第3段 落 〔1103〕(34L
ヘ ヘ
ー で,物 語 時 点 が金 曜 に移 動 して か らは 事 情 が 異 な っ て くる。 今 度 はバ リエ の 推 定 に した が っ て 『異 邦 人 』カ レ ンダ ー に物 語 時 点 を 追 加 して み よ う(表 團)。 物 語 時 点 欄 の疑 問 符 は それ ぞ れ の 物 語 時 点 の 決 定 が 絶 対 で は な い こ とを 示 して い る。 バ リエ の 言 葉 を借 りれ ば,そ
ヘ ヘ ヘ へ
れ ら の 物 語 時 点 は 後 退 す る,の で あ る 。 以 下 に 〔1〕 に お け る 物 語 時 点 の 粉 飾 を 明 ら か に す る バ リ エ の 観 察 を 列 記 す る 。
一 .「 通 夜 」に お け る 物 語 時 点 の 変 異 。
"Mais
,jecroismaintenantquec'etaitune impressionfausse./(...)Ensuite,jene
(表 圖)saisplus.㈹"話 者 が 通 夜 の 老 人 た ち に 抱
い た 印 象 を 訂 正 す る 〔1117〕 最 終 文 の
"
maintenant"は,物 語 時 点 の 遊 離 を 示
ヘ へ
し,か な り 長 い 時 間 の 後 退 を 暗 示 す る 。 次 段 〔1118〕 の 現 在 時 制 も 前 者 と 同 じ 時 点 に 位 置 し て い る 。
二.「 葬 儀 」に お け る 記 憶 の 欠 如 。
"Touts'estpasseensuiteavec
tantdeprecipitation,decertitudeetde naturel,quejenemesouviensplusde
rien.(36)"(1)最 終 段 落 第 一 文 に お け る 忘 却 は,こ こ で 報 告 さ れ る 事 柄 が 物 語 時 点 の 直 前 日 以 上 に 遡 ら な い の だ か ら,い か に も 不 自 然 で あ る 。 こ れ は 私 見 だ が,
〔1127〕 第 一・文 は 後 続 の"J'aiencoregardequelquesimagesdecettejournee̲(37)"と と も に,
ヘ へ
物 語 時 点 の 後 退 を 示 し て い る 。 三.「 映 画 館 」に お け る 定 冠 詞 。
ヘ へ
土 曜 の 最 終 段 落 〔1203〕冒 頭,"Lesoir,Marieavaittoutoublie.(38)"の 文 頭 の 定 冠 詞 が 問 題 で あ る 。"こ の 定 冠 詞 一 一 指 示 形 容 詞 が 予 想 さ れ る と こ ろ だ が は,話 者 の 時 間 を 例 え ば
(第 一 〉日 曜 夜(か あ る い は も っ と後 日)に 後 退 さ せ る 。(39)"
ヘ ヘ ヘ へ
四.第 二 日曜 に お け る 時 点 変 異 。
物 語 第 六 日,主 人 公 が サ ラ マ ノ老 人 を 自 室 に 招 き 入 れ る(4)最 終 段 落 の 末 尾 で も物 語 時 点 が 遊 離 す る。"な ぜ な ら<maisilfautquejemelevet6tdemain>と あ る べ き と こ ろ で<
maisitfallaitquejemelevetotlelendemain>と 読 む か ら だ 。 そ こ で 話 者 の 時 間 は 次 の 週 の
何 曜 日 か に 後 退 さ せ ら れ る こ と に な る,例 え ば 物 語 第 七 日が 書 か れ た 日 に 。 と こ ろ が 第 八 日 が
くLedimanche>で 始 ま る の で 第 六 日最 終 段 落 は 〔1625〕「 殺 人 」の あ とで 書 か れ た の だ と考 え
る こ と が で き る(40)"。
107
五.〔1〕 最 終 文 に お け る 心 理 的 不 可 思 議 。
"C'etaitcommequatrecoupsbrefsquejefrappaissurlaportedumalheur .(41)"殺 人
の 直 後 に 話 者 が こ の よ う に 書 け る は ず が な い,そ れ が バ リ エ の 見 解 で あ る 。 彼 は こ の 一 文 に 物
ヘ ヘ へ
語 時 点 を超 越 した"小 説 家 の 干 渉"を み る。
2)『 異 邦 人 』第 二 部 。
〔II〕の 物 語 時 間 は 〔1〕と違 っ て 日付 指 標 を もた な い。 物 語 時 間 は,時 に 月 単 位 で 流 れ る。 全 五 章 の う ち最 初 の 四 章 は,約 十 一 ヶ 月 に 及 ぶ 主 人 公 の 刑 務 所 暮 し と「予 審 」,「裁 判 」,
「判 決 」な どの 報 告 ,そ して最 終 章 は死刑 判 決 の数 日後 の 出来事 だ と考 え られ る。 時 間 の流 れ方 と と も に,物 語 技 法 も大 巾 に 変 化 す る。
ヘ ヘ
ー .時 間 を 示 す 多 くの 記 号 が 出 来 事 に 対 して 著 し い 後 退 を み せ る 。
二.「 マ リ,面 会 」の よ う に,自 然 の 時 間 の 順 序 が 逆 転 さ れ た 回 想 が み ら れ る(42)。
三.複 合 過 去 に 代 っ て 習 慣 の 半 過 去 が 瀕 出 す る(43)。
四.<je>が 〔1〕 と異 な り,伝 統 的 な 役 割 を 多 く果 す よ う に な る 。 3)話 者 主 人 公 の 物 語 時 点 と作 者 カ ミ ュ 。
ム ル ソ ー の 物 語 時 点 に つ い て,バ リエ は 先 行 す る シ ャ ン ピ ニ や フ ィ ッ チ と 同 意 見 で あ る 。"す べ て の 物 語 は 報 告 さ れ て い る 出 来 事 の あ とで,お そ ら く は ム ル ソ ー の 最 後 の 反 抗 の あ とで 書 か れ た(44)"の で あ る 。 し か し ム ル ソ ー の 物 語 時 点 の 粉 飾 に つ い て は,話 者 が 物 語 時 間 と 物 語 時 点 の 両 方 に 同 時 に 位 置 し よ う と す る か らだ とす る シ ャ ン ピ ニ 説 も,回 想 し て い る 出 来 事
を 再 生 さ せ る 話 者 の 精 神 的 努 力 に 由 来 す る と す る フ ィ ッ チ 説 も,バ リ エ は 退 け る 。"カ ミ ュ は 第 一 行 を 書 く と き,(ム ル ソ ー よ り何 倍 も確 実 に!)彼 の 物 語 の 結 末 を 知 っ て い た 。 も し カ ミ ュ
ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ
が 語 ら れ て い る も の(narre)と 語 り(narration)の 間 の 小 説 的 時 間 的 後 退 を ほ とん ど 無 に す る た め の 記 号 を 物 語 に ち りば め る と し て も,そ れ は 彼 が 主 人 公 の 存 在 と思 考 そ の も の の な か に 読 者 を 投 げ 入 れ た か っ た か らだ(45)"。
バ リ エ は 『 異 邦 人 』が"時 間 的 後 退"を も っ て 作 ら れ て い る事 実 を 認 め た 上 で,普 通 の 一 読 者 の 立 場 を 選 ぶ 。"小 説 の 後 退 を も た らす 記 号 は 虫 眼 鏡 に よ る 読 書 の 結 果 初 め て 認 め ら れ る。
ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ
反 対 に 現 在 時 の 記 号 は 一 読 して 有 効 だ 。 現 在 時 の 記 号 は 物 語 が 日 を 追 っ て為 さ れ る印 象 を生 み だ す 以 外 の 効 果 を もた な い。 物 語 時 点 の と き に 非 論 理 的 な移 動 は,通 常 の 読 書 で は 知 覚 さ れ な
ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ
い 。 カ ミ ュ は 読 者 を 生 き ら れ つ つ あ る 現 在 の な か に 位 置 さ せ る 。 そ の あ とで 彼 は 章 の 書 き 出 し を 忘 れ る こ とが で き た 。 問 題 は 雰 囲 気 が 作 り出 さ れ る こ と な の だ(46)"。
{2}〈 異 邦 の世 界 〉 。
言 語 の 検 討 を終 え たバ リエ はつ いで 物 語 世 界(内 容)の 点 検 に移 る。 主 人 公 が 殺 人 を犯 し 死 刑 判 決 を 受 け る物 語 それ 自体 に"理 解 を絶 す る"よ う な部 分 は な い。 主 人 公 の 極 端 な 消 極 性, 無 気 力,そ れ に超 脱(detachement)が 目立 つ け れ ど,彼 に良 識 や 同 情 心 や 判 断 力 が 皆 無 と い う
わ けで は な い 。 独 房 で は論 理 的 な 思 考 に ふ け りさ えす る。 そ れ で は作 者 は い か に して読 者 を ム ル ソ ー の世 界 に 引 き入 れ る こ とが で きた の か,"存 在 の 取 る に足 りな い様 相 を際 立 た せ,そ の 事 実 や 身 振 りに意 味 の な い機 械 仕 掛 け の 外 見 を 与 え る"こ とが で きた の か 。
① ア メ リカ 行 動 主 義 技 法 とカ ミュ の 選 択 。
話 者 は ア メ リカ 小 説 に な らっ て 事 物 や 出 来 事 を 客 観 的 に無 作 為 に記 録 して い る よ う に思 わ れ る。 しか しバ リエ は そ こ に"カ ミュ の ひ とつ の 選 択 の 行 使"を み る。 話 者 は 具 体 的 事 物 や 無 意 味 な細 部 の魅 惑 を被 っ て い るの だ が,そ れ に気 付 か な い読 者 は知 らず 知 らず"異 邦 の 世 界"に 誘 わ れ る。 しか も先 住 民 た る話 者 は 客 観 性 と超 脱(無 関 心 な 態 度)で,見 え る もの 聞 こ え る もの
は伝 え るが,そ れ らの 意 味 は伝 え な い。 こ の よ うに,"不 条 理 な機 械 仕 掛 けの 世 界"と い うヴ ィ ジ ョ ン は客 観 的 な描 写 に よ っ て わ れ わ れ に伝 え ら れ るの だ が,"本 当 は その 描 写 は 主 観 的 な の
ヘ へ
で は な い だ ろ う か 。 な ぜ な ら,そ れ ら事 実 の す べ て が 意 味 を か ら っ ぽ に さ れ る た め に 選 択 さ れ て い る の だ か ら。 一・ 人 称 の 使 用 が こ こ で 活 き て く る 。 話 者 との 同 一 視 は 読 者 に 部 分 的 で あ れ 距 離 を と る こ と を妨 げ る 。 読 者 に は こ の ヴ ィ ジ ョ ン が 必 要 な の だ(47)"。
(2)話 者 の 特 性 。
ヘ ヘ ヘ へ
① 客 観 的<je>の 仮 面 効 果 。
話 者 が 自分 を 客 観 的 に描 い て い る よ う に 思 わ れ るの で,読 者 は本 来 主 観 的 な<je>が ま るで 客 観 的 な<il>に 等 しい か の よ う な 印 象 を 持 つ 。 の み な らず,話 者 が た び た び 自 由 間 接 話 法 で 自 身 の 言 葉 を伝 え る(48)ので,同 様 の 印 象 が 強 め ら れ る。 と こ ろ が<je=il>が 成 り た つ の は,物 語 の い くつ か の 点 に お い て の み で,特 に 〔II〕で は 話 者 は 伝 統 小 説 の<je>で 語
り,自 分 の 印 象 や 思 考 を ス トレー トに読 者 に伝 えて い る。 しか しバ リエ に よ れ ば,物 語 前 半 の 客 観 的<je>が 与 え る衝 撃 が 大 き い た め に,物 語 後 半 の 主 観 的 くje>が 迷 彩 を施 さ れ て し ま
うの で あ る。
② 主 人 公 の 超 脱(detachement)。
獄 中 ム ル ソ ー が 処 刑 を 告 げ る 明 け 方 の 物 音 に 怯 え る 場 面(49)で も,"超 然 た る 冷 静 な 調 子"で 語 り う る 理 由 を,シ ャ ン ピ ニ や フ ィ ッ チ は 話 者 の 死 刑 囚 と し て の 諦 念 に あ る とす る 。 一
ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ
方 バ リエ は,ム ル ソ ー の超 脱 が 死 刑 囚 諦 観 説 に 由 来 す る とは考 え な い 。 彼 に よ れ ば,話 者 の超
1へ
脱 は"ム ル ソ ー の性 質 の 本 質 的 特 長"で な け れ ば な ら な い。 なぜ な ら,死 刑 囚 諦 観 説 は"主 人 公 と彼 の物 語 か ら個 有 の性 格 を 失 わ せ る か らだ 。 も し主 人 公 が 死 の 間 際 に く な に もの も重 要 で は
ヘ ヘ へ1
な い〉 と理 解 した か らの み 彼 の 生 活 と運 命 を無 関 心 な 客 観 性 に よ っ て 判 断 す る の だ と した ら, 彼 は言 わ れ る よ う な異 邦 人 で は な くな っ て し ま うだ ろ う。 そ して そ れ以 来,サ ル トル の 言 うく 意 味 に は不 透 明 で 事 物 に は 透 明 な 〉 あ の ガ ラ ス の 仕 切 りを挿 入 した の が,(カ ミュ で な ⇔ ムル ソ ー に な っ て し ま うだ ろ う。 わ れ わ れ が 心 理 的 解 釈 よ り文 学 的 解 釈 を好 む の は,著 者 を見 失 な い た くな い か らな の だ(5。)"。
(3)分 析 手 法 。
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バ リエ の 命 名 に な る分 析 手 法 とは,ア メ リカ 行 動 主 義 を極 限 まで 押 し進 め た描 出 法 で あ
ヘ ヘ ヘ へ
る 。 行 動 主 義 が 一 種 の 現 実 主 義 で あ る に 対 し,分 析 手 法 は"よ り 人 為 的 で 予 見 不 能 の 意 図 に の み 奉 仕 す る"。 葬 列 進 行 の 場 面 が 例 示 さ れ る 。 葬 儀 人 夫 が 汗 を 拭 く と き の 描 写 は,"11s'es‑
suyaitlecraneavecsonmouchoir."で 事 足 り る 。 カ ミ ュ は,"lls'essuyaitlecraneavecun
mouchoirqu'iltenaitdanslamaingauche,lamaindroitesoulevantIeborddecasquette .(51)"
と書 く。 重 要 性 を もた な い 構 成 要 素 に 重 要 性 が あ る か の よ う に ひ とつ の 行 為 を 分 断 し て 描 写 し て い る 。 意 味 や 脈 絡 は 限 り な く遠 去 け ら れ る。 こ れ は 事 物 の 無 意 味 な 細 部 の 精 密 な 描 写 が もた
らす 効 果 と相 通 じ る 効 果 を 生 む 。"分 析 手 法 は,ひ とつ の 意 味(暑 い か ら汗 を ふ く)を 消 滅 さ せ
la9 る の み な らず,新 た な 意 味 を 追 加 す る 。 こ こ で 附 加 さ れ る の は,額 の 汗 を ふ くた め に 主 人 公 が 両 手 を 必 要 と し,か つ そ の 両 手 が そ れ ぞ れ 明 確 に 定 め ら れ た 働 き を も っ て い る,と い う こ と
ヘ へ
だ 。 こ の 意 味 は 問 題 の 行 為(汗 を ふ く)と は 無 関 係 で あ る 。 そ れ ゆ え 読 者 は 機 械 が 作 動 し て い る の を 見 る か の よ う な 印 象 を もつ の で あ る(52)"。
ム ル ソ ー は 一 度 も 「こ の 世 は 不 条 理 だ 」 と は 口 に し な か っ た 。 し か し カ ミ ュ は そ れ を 見 事 に 読 者 に 伝 え た 。 以 上 が 『物 語 の 技 法 』第 二 部 に お け る バ リエ の 論 旨 で あ る 。
{3}〈 古 典 作 品 に お け る 独 創 的 メ ッ セ ー ジ 〉 。
『異 邦 人 』の特 異 性 は,非 文 学 記 号 や 非 小 説 記 号 あ る い は分 析 手 法 な どの 手 段 や 技 巧 を使 っ て読 者 を ム ル ソー が超 客 観 的 態 度 で 語 る"異 邦 の 世 界"に 誘 な う点 に こ そあ る,と バ リエ は言 う。"不 条 理 の 感 情 は 物 語 の題 材 に よ る よ り も そ の 語 られ る 方 法 に よ っ て わ れ わ れ に伝 え られ る"。 第 三 部 で,彼 は"よ り伝 統 的 な批 評 の パ ー スペ ク チ ヴ"に お い て 物 語 の 再 検 討 を 試 み る。
読 者 バ リエ の相 手 は 常 に作 者 カ ミュ で あ るが,こ こで の 命 題 は,前 半 が,な ぜ 読 者 は ムル ソ ー に 共 感 し,彼 の 共 犯 者 とな るの か,の 一 点 に絞 られ る。 そ して後 半 は古 典 た る 『異 邦 人 』の 分 析 に あ て られ る。
① ム ル ソ ー 論 。
話 者 は マ リの 愛 情 に は 反 応 しな か っ た が セ レ ス トの 証 言 に は 大 感 激 した 。 彼 は 決 して
"特 別 な論 理 を表 わ す た め に作 り出 さ れ た 怪 物"で は な い
。 彼 は 口 も心 も閉 ざ して い る。"他 人 の 目か らみ て"自 分 が 有 罪 だ と感 じ る こ と もあ る。 肉 体 的 な 印 象 に過 敏 で,世 界 の 外 面 の 具 体
ヘ へ
的様 相 に魅 了 さ れ て い る。 彼 は そ の よ うな性 質 の 人 間 な の だ 。 そ も そ も彼 の 沈 黙 に して か らが
ヘ へ
形 骸 化 した 社 会 の 形 式 主 義 に対 す る"高 等 な る誠 実 さ の 表 現"で は な い の か 。 彼 は心 理 的 視 点 か らす れ ば 首 尾 一 貫 し て い る。 詰 ま る と こ ろ,彼 は み ず か ら予 審 判 事 や 弁 護 士 に述 べ た よ う に
"普 通 人"な の だ
。
さ て,そ れ で は読 者 は どの よ う に して 主 人 公 の 共 犯 者 とな り う る の で あ ろ うか 。
(2)話 者 と読 者 の 共 犯 関 係 。
一 人 称 を 介 した 読 者 の 話 者 との 同 一 視 に つ い て は す で にJ .ク リ ュ イ ッ ク シ ャ ン ク ㈹ が 述 べ て い る が,バ リエ の ア プ ロ ー チ は 物 語 の 上 で 為 さ れ る 。 さ て ム ル ソ ー を 介 し て 社 会 の 仕 組 を 告 発 す る た め に,モ ラ リ ス ト ・カ ミ ュ は 読 者 を 話 者 の 味 方 に 仕 立 て ね ば な ら な い 。 そ の た め, 話 者 は 殺 人 罪 で 告 発 さ れ な が ら"倫 理 的 異 邦 人"で あ る た め に 死 刑 と な る 筋 書 が 考 案 さ れ る 。 裁
ヘ へ
判 や法 曹 家 は少 な か らず 戯 画 化 さ れ,法 廷 場 面 で は 皮 肉 が 多 用 さ れ る。"か くて 公 明 正 大 な 話 者 の超 脱 と客 観 性 の 保 証 の も と に な さ れ る滑 稽 な,も し くは好 意 的 な ら ざ る 人 物 描 写 の せ い で,カ ミュ は読 者 を話 者 の共 犯 者 た ら しめ る。 わ れ わ れ は,い か さ ま を した とカ ミュ を責 め る べ きか 。否 で あ る。 なぜ な らわ れわれ の 目的 は ただ 作 家 が考 えを読 者 に伝 えるた めに どの よ う
ヘ へiへ
に 行 動 す る の か を 調 べ る に あ る の だ か ら。 カ ミ ュ か ら す れ ば,話 者 が 非 難 さ れ て い る倫 理 上 の
罪 で は 無 罪 な の だ か ら,そ の よ う な 罪 で 話 者 を 断 罪 す る 社 会 こ そ 有 罪 だ,と い う こ と に な る 。
カ ミ ュ は あ ら ゆ る 手 段 を 使 っ て 読 者 が 同 じ よ う に 考 え る べ く仕 向 け る の で あ る(54)"。
(3)ム ル ソ ー の 模 範 的 運 命 。
ム ル ソ ー へ の 死 刑 判 決 に 異 議 を 唱 え た の は,お そ ら くJ.‑M.‑A.PARouTAuD(55)が 最 初 だ ろ う 。 や くざ 同 志 の 喧 嘩,殺 さ れ た の は ナ イ フ で 武 装 し て い た ア ラ ブ,し か も被 害 者 は 被 告 の 友 人 を 負 傷 さ せ て い た 。 だ か ら死 刑 は 重 す ぎ る … バ リエ は 逆 に そ こ に こ そ 作 者 の 事 情 を 推
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測 す る 。 カ ミ ュ は 主 人 公 の 死 刑 を 必 要 と し て い た の で は な い か 。 で あ れ ば,ム ル ソ ー は モ ラ リ ス ト ・カ ミ ュ の 代 弁 者 と し て 作 者 の 意 図 を 体 現 し て い る こ と に な る 。 そ の 意 図 は 物 語 最 終 局 面 で 大 き な ふ た つ の う ね り と な っ て 爆 発 す る 。
1)〔2525〕,「 反 抗 」に お け る物 語 の 調 子 の 急 変 。
こ の 段 落 に い た っ て,こ れ まで 自 分 自 身 の 死 刑 判 決 さ え 淡 々 と語 っ て き た 話 者 の 客 観 性
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と超 脱 が 突 然 に崩 れ る。 統 辞 法 か らす れ ば,連 辞 濫 用,頭 語 反 復,各 種 の 重 複 や 反 復,激 越 な
へ
疑 問 文 の 連 用 な ど,ま さ に演 説 口調 の"叙 情 的爆 発"が 出現 す る。 これ は作 者 の物 語 に対 す る公
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然 た る 介 入 で は な い の か 。"ム ル ソ ー が 変 容 し た の だ と も 言 え る 。 し か し カ ミ ュ が 自 分 の 声 を 2倍 に し て 主 人 公 よ り も声 高 に 叫 ん で い る の だ と も 言 え る(56)"。
こ の よ う に し て 「反 抗 」は 最 終 段 落 「ア タ ラ ク シ ア 」の 見 事 な 序 曲 を な す の で あ る。
2)〔2526〕,「 ア タ ラ ク シ ア 」解 釈 。
へ
前 段 落 で な さ れ た 烈 しいL情 吐 露 を読 ん だ あ とで,"星 と田 園 の 物 音 と ま ど ろ む 夏 の香"
に洗 わ れ て,読 者 も心 静 ま る思 い が す る。"さ て,殺 人 者 は ど うな っ た の か,裁 判 官 た ち は?
ヘ ヘ ヘ ヘ へ
も は や こ う した もの は 何 ひ とつ 残 っ て い な い 。 満 た さ れ た 無 垢 な 一 人 の 男 し か 残 ら な い 。 彼 は
ヘ へ
も は や 何 も後 梅 し て い な い 。 彼 は す で に 他 の 人 々 の た め に 死 ん で い る。 こ れ こ そ希 望 に 対 す る 英 雄 的 勝 利 で あ り,当 時 の カ ミ ュ に と っ て 他 の い か な る 終 り方 も こ れ 以 上 の オ プ チ ミ ス ム を 担
う こ とが で き な か っ た と考 え ざ る を え な い 。(57)"。
(4)〈 古 典 的技 術 〉 。
伝 統 へ の 挑 戦 が 独 創 性 の 源 泉 だ と して も,特 異 性 だ けで 作 品 は 長 続 き しな い。 文 学 と し
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て 永 続 す る に は確 か な 価 値 が 不 可 欠 で あ る。 『物 語 の 技 法 』最 終 章 は,"芸 術 作 品 と して の 『異 邦
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人 』が 含 ん で い る正 統 的 な もの"を 発 掘 す る作 業 に あ て られ る。
① 皮 肉(ironie)と 譜 誰(humour)。
皮 肉 は,主 人 公 が"馬 鹿 正 直 な 人 物"で,か つ 読 者 と共 犯 関 係 に あ る の で,い っ そ う効 果 的 で あ る 。 〔II〕の 「法 廷 」の 随 所 に 観 察 さ れ る が 代 表 例 と し て は 〔1206〕〔58),日 曜 の 午 後 の 散 歩
を 楽 し む 家 族 の 肖 像 が あ げ ら れ る 。
一 方 ,譜 誰 は,つ と に サ ル トル が 指 摘 した と こ ろ だ が,四 種 類 の 型 に み ら れ る 。 1)作 中 人 物 に よ る ユ ー モ ア 。
母 を 愛 し て い た か と訊 ね ら れ た ム ル ソ ー が,「 は い,皆 と 同 じ よ う に 」と答 え た と き, 書 記 が ミ ス タ イ プ を す る 場 面,〔2109〕 。
2)記 述 に よ る ユ ー モ ア 。
葬 儀 が"事 実 と身 振 りの 客 観 的 描 写"に よ っ て 非 入 間 化 さ れ る 場 面,〔1123〕 。 3)語 彙 に よ る ユ ー モ ア 。
"決 ま り文 句 を 文 字 通 り に 解 釈 す る"こ とで 地 口 を 使 う場 面 が 瀕 出 す る(59)
。 4)統 辞 法 に よ るユ ー モ ア 。
間 接 話 法 に 直 接 話 法 の 要 素 を 混 入 さ せ る(60)。
111
り
② 精 彩 に富 む 人 物 描 写 。
「異 邦 人 』で 読 者 を引 きつ け る魅 力 の ひ とつ は
,カ ミュ の 肖像 画 家 の 才 能 にあ る。 老 人 ホ ー ム の 看 護 婦 か ら法 廷 の 新 聞 記 者 まで
,作 中 人 物 は"綿 密 で は な い が 正 確 な す ぐ に それ とわ か る特 長"で 素早 く示 さ れ る。 人 物 描 写 の み な らず カ ミュ の 文 章 表 現 力 は"正 当 か つ 十 分 で,こ れ こ れ の 人 物 しか じか の状 況 を鮮 や か に 喚 起 す る"。
③ 〈 物 語 の 構 成 〉 。 1)太 陽 の 小 説 的 機 能 。
バ リ エ に よ れ ば 太 陽 は 象 徴 的 価 値 の 他 に 小 説 的 機 能 も果 し て い る 。 話 者 が"太 陽 の せ い"
で 殺 人 を 犯 し た の で あ れ は,物 語 内 に そ れ を 正 当 化 す る 理 由 が 必 要 と な る。 〔1⑥ 〕の ム ル ソ ー と ア ラ ブ 人 の 三 度 の 遭 遇 の た び に,物 語 は 緊 張 と弛 緩 を く り か え し破 局 に い た る の だ が,光 の 刃 に 目 を傷 つ け ら れ て 主 人 公 が つ い に 引 金 を 引 く と き ま で,そ れ ぞ れ の 場 面 で 太 陽 は 物 語 の 推 進 役 と も不 在 証 明 と も な っ て い る 。
2)〔1〕 と 〔II〕 。
〔1〕,出 来 事 の す べ て が 集 約 さ れ る最 終 文"Etc'etaitcommequatrecoupsbrefsque
jefrappaissurlaportedumalheur."は,同 時 に 〔II〕へ の 絶 妙 の 橋 渡 し役 を つ と め る 。 「 殺 人 」 の 目 撃 者 は 読 者 の み,し た が っ て 話 者 との 共 犯 関 係 は い っ そ う 緊 密 に な る 。 さ ら に 〔1〕 の 小 さ な 出 来 事 が 〔II〕 で は 大 き な 意 味 を もつ こ と も忘 れ て は な ら な い 。
3)伏 線 。
「 通 夜 」の 見 知 ら ぬ 老 人 た ち は
,裁 判 に お け る 陪 審 員 を 予 想 さ せ,「 葬 儀 」の 看 護 婦 の 言 葉
"lln'yavaitpasd'issue
."は そ の ま ま彼 の 運 命 を 暗 示 す る 。 4)各 章 の 繁 ぎ 。
〔1〕 の 各 章 の 関 係 は 自 然 で,物 語 時 間 は 連 続 し て い る。 朝 か ら 夜,前 夜 か ら 翌 日 へ;
"生 活 の 単 調 さ が 強 調 さ れ る"
。 〔II〕の そ れ は 時 間 の 流 れ が 不 自 然 に な り,調 子 の 断 絶 が 目 立
ヘ ヘ ヘ ヘ へ
つ 。"よ く考 え ら れ た 劇 的 で 叙 情 的 な 終 結 か ら い つ も の 超 脱 を 取 り も ど す 次 章 冒 頭 へ と移 行 す る(61)"よ う に し つ ら え ら れ て い る 。 そ れ ら は す べ て 読 者 の 興 味 の 更 新 を ね ら っ た 伝 統 的 小 説 技 術 に 属 す る 。
④ 〈 文 体 の 節 制 〉 。
ヘ ヘ へ
『異 邦 人 』の 四 ヶ所 の 叙 情 的 段 落(62)は,作 者 の不 注 意 で 混 入 した の か,話 者 に それ を語 る能 力 あ りや,な どの 疑 問 を呈 して い る。 バ リエ に よ る叙 情 的 段 落 誕 生 の 経 緯 は以 下 の 通 りで
ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ
あ る。 『異 邦 人 』の 文 学 言 語 は 非 文 学 記 号 に よ っ て 中 和 さ れ独 自 の体 裁 を もつ に至 っ て い るの だ が,時 に 中 和 機 能 を もっ て い る記 号 が"消 滅 す る"と きが あ り,そ の 場 合 に は 文 学 言 語 の み が 表 出 す る ので,叙 情 的 段 落 が 突 出 す る。 そ の叙 情 は"語 彙 も統 辞 も格 別 の 細 工 は な く",調 子 は概
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ね"控 え 目"で,文 体 の 変 化 よ り描 か れ る事 物 の 変 化 か ら生 じて い る。
(一→M.‑G.バ リエ の 『物 語 の 技 法 』は,特 に 第 一 部 の 『異 邦 人 』の 言 語 の 研 究 に お い て 高 く評 価 さ れ るだ ろ う。 『異 邦 人 』が 技 術 的 に新 しい試 み と伝 統 的 文 学 力 量 の 見 事 な 結 合 体 で あ る こ とが 十 分 に示 さ れ た 。 バ リエ の 具 体 例 を あ げ て の 実 証 作 業 は,そ の ま ま わ れ わ れ の 研 究 の有 益 な基 礎 資 料 とな っ て い る。 た だ 彼 は統 辞 関 係 分 野 に は強 い が,文 学 関 係 分 野 で の 力 不 足 が 気 に な らな いで もな い。 ア メ リカ 行 動 主 義 技 法,物 語 時 点 の決 定 な ど,さ らに は部 分 的 に取 り上 げ られ た 主 題 解 釈 な ど に課 題 が 残 され て い る。)
〔3〕P.NGuYEN‑VAN‑HuY(1):五 αMetap勿siquedu」30nheurchez/11ろertCarnus.(2) (1962A2)
P.NGUYEN‑VAN‑HUYの 『ア ル ベ ー ル ・カ ミュ に お け る幸 福 の 形 而 上 学 』は,『 裏 と表 (1937)』か ら『追 放 と王 国(1957)』 まで カ ミ ュ の ほ とん どす べ て の 作 品 を対 象 とす る 主 題 批 評, 作 品 解 釈 の 試 み で あ る。
人 類 永 遠 の 主 題,幸 福 を カ ミュ 作 品 の な か に 追 い か け る著 者 の 論 考 の 骨 子 は ふ た つ あ る。 自然 との 一 種 の秘 教 的 合 一 が カ ミュ作 中 人 物 た ちの 幸 福 の 源 で あ り,反 対 に彼 らの 不 幸 は
..
自然 との 離 別 に起 因 す る。 彼 ら は 離 別(;不 幸)を 克 服 し,合 一(=幸 福)を 得 るた め に 反 抗 す る。 そ して彼 らの 反 抗 は,著 者 独 自の 視 点 を示 す の だ が,母 親 の 愛3)に 支 え られ て い る。 以 上 をNGuYEN‑VAN‑HUYに よ る カ ミュ ・テ ク ス ト解 釈 の 経 系 とす れ ば,そ の 緯 系 は 父 権 世 界 と母 権 世 界 の根 源 的 対 立,両 価 値 問 の 本 能 的 抗 争 で あ る。
そ こで,わ れ わ れ の 基 本 方 針 に した が っ て 『異 邦 人 』関 係 の 部 分 の み を抽 出 す れ ば,わ れ わ れ の 物 語 は,母 権 世 界 の 唯 一 の 代 表 者 た る主 人 公 が 強 大 な父 権 世 界 の 代 表 者 た ち に捨 て 身 で 挑 ん だ 闘 争 の 記 録 とな る。
(一 →N.‑V.‑H.の 着 想 に は い か な る斬 新 さ も な い。 合 一 ・離 別(Union‑Separration)状 態 の 考 察 は 『結 婚 』の 必 要 条 件 で あ り,そ の秘 教 色 を 一 掃 す れ ば 不 条 理 の 母 胎 が 見 えて く る。 母 親 の 重 要 性 は 『裏 と表 』の 自伝 的 頁 に す で に顕 著 で あ る。 それ は カ ミュ 芸 術 の 一 切 の 根 源 で あ る に等 しい 。 ま た父 権 世 界 と母 権 世 界 の 抗 争 は,い わ ゆ る オ イデ ィプ ス の 三 角 形 の 一 変種 にす ぎ な い と考 え られ る。 け れ ど も『異 邦 人 』解 釈 と して こ れ らの視 点 は す べ て正 当で あ り,部 分 的 に は きわ め て 興 味 深 い仮 説 を提 示 して い る。
あ る作 家 の ひ とつ の 主 題 の も と に彼 の 全 作 品 を縦 断 す る考 察 の 試 み は,テ ク ス トを 寸 断 し,自 説 の モ ザ イ ク細 工 の 材 料 と して 利 用 す る傾 向 が あ る。 その た め個 々 の 作 品 は独 立 した生 命 体 の 輝 きを 失 っ て し ま う場 合 が 多 い。 これ は ま た 同 時 に,現 在 の わ れ わ れ の 方 法 の もっ と も
自戒 す べ き問 題 点 で もあ るの だ が...)
(1)『 異 邦 人 』の 構 図 一 ム ル ソ ー と母 親 の 関 係 に つ い て 。
二 人 の 関 係 は も と よ り尋 常 で は な い 。C.ヴ ィヂ ア ニ は つ と に"カ ミ ュ 作 品 に 君 臨 す る 三 位 一 体"の 構 図 を 指 摘 し て い た ㈲。 こ の カ ミ ュ 想 像 世 界 の"基 本 図 式"に よ れ ば,若 い 主 人 公 と 母(そ の 代 替 者)と 父(そ の 代 替 者)は"オ イ デ ィ プ ス 本 能"で 結 ば れ,『 異 邦 人 』で は 息 子 は 母 に よ る 宿 命 的 な 魅 惑 に補 え ら れ 父 に 反 逆 す る の だ が 父 が こ れ を 処 罰 す る 形 を と る 。 こ れ に 対 し て, N.‑V.‑H.は 息 子 を 巻 き 込 ん で 展 開 さ れ る 父 権 世 界 と母 権 世 界 の 伝 統 的 闘 争 を カ ミ ュ 作 品 の 根 幹 に 置 く(5)。息 子 は ど ち ら の 側 に もつ く こ とが で き る が,『 異 邦 人 』で は 母 権 世 界 に 取 り込 ま れ る。"死 亡 し く 埋 葬 さ れ た 〉 ム ル ソ ー 夫 人 は,彼 女 が そ の シ ン ボ ル に す ぎ な い 大 地 の な か で 自 己 の 源 と不 思 議 な 力 を 見 い 出 し,生 前 に は 持 た な か っ た 魔 術 的 権 力 を 息 子 に 行 使 す る。 ム ル ソ ー の 全 物 語
,全 く 英 雄 的 生 涯 〉 に 〔シ ン ボ ル 化 した 〕母 の 姿 が 浸 透 し て い る 。 彼 女 を 思 い 浮 か べ
な が ら彼 は 物 語 と 人 生 を 始 め,終 る 。 困 難 な 時 を 迎 え る た び に,彼 は 母 の 考 え,言 葉,そ し て
教 え を い つ も思 い 出 す(6)。"精 神 的 に か く も強 烈 な 呪 縛 を 受 け て い た の で は,肉 体 的 に す ぎ な
い マ リ の 愛 に 主 人 公 は 無 関 心 で い る しか な い だ ろ う。 彼 に とっ て 母 親 は 死 ん で い な い も同 然 な
の だ と言 わ な け れ ば な ら な い の も 同 様 の 理 由 に よ る 。 か っ てL.ロ ッ シ は,母 と最 後 の お 別 れ
を し な か っ た 息 子 の 不 可 解 な 態 度 を"死 に 直 面 す る 恐 怖"ゆ え と読 み 解 い た(7)の だ が,N.‑V.一
113
H.の 説 明 は ロ ッ シ 説 よ り もさ ら に受 け入 れ や す い。 す な わ ち,"精 神 的 息 子"で あ る ム ル ソ ーに とっ て 母 親 の 肉体 的 な 死 は い か ほ どの 意 味 もな く,シ ン ボ ル 化 した 母 が 彼 と共 に あ る か ぎ り,彼 は死 を 悲 しみ泣 く必 要 も最 後 の お 別 れ を 告 げ る必 要 も感 じ な い,と い う次 第 で あ る。
母 の教 え に 忠 実 な ム ル ソ ー は,母 権 的 価 値(自 然,本 能,官 能 充 足...)の み を 尊 重 し, 父 権 的 価 値(魂,正 義,理 性...)を 無 視 す る。 母 権 世 界 の 唯 一 人 の 戦 士 で あ る単 純 正 直 な 主 人 公 は,抽 象 と隠 喩 に満 ち た 父 権 世 界 に挑 み,そ の 代 表 者 た ち・ 実 業 家(社 長),法 曹 家(予 審 判 事,弁 護 士,検 事,裁 判 長),宗 教 者(司 祭)と 対 峙 す る。 だ が,N.‑V.‑H.の 説 く と こ ろ に よ れ ば,彼 の 使 命 は敗 北 に あ り,彼 の 幸 福 は 死 の な か にあ る。"ム ル ソ ー が真 の英 雄 とな り, 母 権 世 界 に正 当化 と代 償 を見 い 出 す の は,〔 司 祭 との 〕究 極 の 戦 い を経 て,み ず か らの 運 命 を最 後 まで 引 き受 け た の ち に で あ る。 その よ う に して初 め て彼 は 追 放 者 不 幸 な者 か ら転 じ殉 教 者 至 福 者 とな る。 彼 は母 親 と再 会 し同 時 に大 地 の あ らゆ る香 りを再 発 見 し満 足 す る。 だ が 処 刑 され な い か ぎ り,死 とい う至 高 の 犠 牲 を支 払 わ な い か ぎ り,幸 福 や 母 権 世 界 との 合 一 は仮 初 めで 不 完 全 な もの で しか な い。 だ か ら こ そ彼 は処 刑 の 日の 到 来 を 願 い,父 権 世 界 の 憎 悪 の 叫 び が 母 権 世 界 に お け る彼 の 栄 光 を い や 増 して くれ る こ とを願 う(8)"ので あ る。
(一→ 『異 邦 人 』最 終 段 落,わ れ わ れ は この 第 二 部 第5章 第26段 落 を 「ア タ ラ ク シ ア 」と命 名 して い る の だ が,こ の 段 落 の構 成 は決 して 単 純 で は な い 。N‑V.‑Hの 解 釈 は 数 少 な い 合 理 的 な 説 明 の ひ とつ と して 記 憶 さ れ る.一きで あ ろ う。)
(2)ム ル ソ ー の 幸 福 。
N.‑V.‑H.は 『異 邦 人 』主 人 公 の 生 涯 を 母 親 を 手 本 と す る"大 地 へ の 組 織 的 回 帰"と 定 義 す る0ム ル ソ ー の 幸 福 が 自 然 と の 合 一 に あ り,そ の た め に 大 地 に 回 帰 す る な ら,彼 の 幸 福 は 彼 自 身 の 死 を 前 提 とす る 。 彼 は 一 切 の 苦 しみ か ら 逃 れ る た め に"鉱 物 状 態"を 希 求 し た の で あ る。 彼 は 母 が 模 範 を 示 し た"石 化"の 誘 惑 に 抵 抗 で き な い 。 ム ノ レソ ー が 具 現 す る幸 福 は,た と え そ れ が 幸 福 で あ る と し て も,"石 こ ろ の 幸 福"に す ぎ な い 。
(3)NGuYEN‑VAN‑HuYの ム ル ソ ー 論 。
『幸 福 の 形 而 上 学 』に よ れ ば
,『 異 邦 人 』主 人 公 は"人 間 性 と引 き か え に"幸 福 の 実 現 を め ざ す の だ か ら,彼 の 生 活 は み ず か ら を 非 人 間 化 石 化 一 す る修 練 の 場 と も な る 。 ム ル ソ ー の
"石 化 の 苦 行"は 当 然 な が ら彼 の 態 度 や 行 動 に 反 映 す る
。 か つ てR.シ ャ ン ピ ニ は ム ル ソ ー の 性 格 研 究 の な か で,彼 の 二 大 特 質 を"異 教 徒 気 質"と"真 実 愛 好 癖"と 名 付 け た(9)。後 者 は 事 実 に 激 し く こ だ わ る 主 人 公 の 子 供 じ み た 傾 向 を,前 者 は 『 結 婚 』に 顕 著 な 青 年 の 自 然 神 秘 宗 教 的 傾 向 を,そ れ ぞ れ 意 味 し て い る 。 こ れ に 対 し てN.‑V.‑H.は,ム ル ソ ー の"石 化 の 苦 行"の 実 践 を 以 下 の 五 項 目 に ま と め て い る 。
1)睡 眠 。 ム ル ソ ー は い た る 所 で 眠 る...マ ラ ン ゴ の ホ ー ム に 向 か うバ ス の 中 か ら独 房 で の 時 間 潰 し ま で,枚 挙 に い と ま も な い 。 彼 の 眠 りは 肉 体 的 欲 求 で あ る 以 上 に 形 而 上 学 的 欲 求 で あ る 。 覚 醒 に 比 し て 睡 眠 は よ り死 に 近 い か ら だ 。
2)沈 黙 。 ム ル ソ ー は 寡 黙 だ 。 意 味 の な い こ と,必 要 の な い こ と は,口 に し な い 。 自 然 と の 合 一 を 求 め る 者 は,ま ず 人 間 の 特 性 の 第 一 で あ る 言 葉 を 抹 消 し な け れ ば な ら な い か
らだ 。
3)非 知 性 。 周 知 の ご と くム ル ソ ー は 考 え な い 。 母 の 教 訓 以 外 に 記 憶 は 持 た ず,想 像 力 を
使 う こ と も な い 。 そ れ は す ぐ れ て 人 間 的 な 機 能 の 実 現 を 妨 げ る た め で あ る 。
4)無 関 心 。"Celam'estegal."は ム ル ソ ー一の 常 套 句 の ひ とつ だ が,そ れ は 低 位 の"生 の 跳 躍"を 意 味 し,あ ら ゆ る 人 間 的 活 動 に 対 す る バ リ ア ー と な る 。
5)無 垢 。 無 垢 と は 子 供 っ ぽ さ,幼 稚 性 の 同 義 。 ム ル ソ ー は 種 々 の 遊 び を 愛 好 す る の み な ら ず,幼 児 語 を 愛 用 す る 。 彼 は 母 を"Maman"と 呼 ぶ 。 他 人 の 評 価 が 必 要 な ら
"genti1"か"mechant"で 済 ま せ る
。 彼 の 生 活 空 間 は ア ル ジ ェ の 一 角 に,ま た 時 間 は 昨 日 今 日 明 日 の 範 囲 に 限 定 さ れ て い る 。 幼 児 は 人 間 の な か で 最 も 自 然 に 近 い 存 在 で あ る 。
(4)『 異 邦 人 』最 終 段 落 「ア タ ラ ク シ ア 」 を め ぐ っ て 。
司 祭 と争 っ て 一 眠 り し た あ と主 人 公 の 心 に 訪 れ た"潮 の よ う な も の"に つ い て,こ の 場 面 をC.ヴ ィ ジ ェ は,"宇 宙 的 婚 礼"の 現 出 と し"夜 の 神 聖 結 婚"と 名 付 け た(lo)。N.‑V.‑H.は こ れ を ム ル ソ ー の"A.̲̲.の た め に 大 地 と 同 化 す る"行 為 と し,M.エ リ ア ー デ の 用 語 を 借 り て"宇 宙 化 (cosmosation)"と 命 名 す る 。"ム ル ソ ー の く 宇 宙 化 〉 は しだ い に 強 く 内 面 化 す る 動 き に し た が っ て い る。 彼 の す べ て の 肉 体 的 機 能 を 宇 宙 的 尺 度 に 同 調 さ せ,す べ て の 生 活 を 太 陽 と大 地 に 一 致 さ せ う る と き,ム ル ソ ー は 死 を もっ て 肉 体 的 に 宇 宙 に 入 る ま え に,内 面 化 の 至 高 の 行 為 に よ っ て 精 神 的 に 宇 宙 と同 化 し よ う とす る(11)"。
(一 → 『異 邦 人 』最 終 段 落 一 〔II(5)26〕 一 は 十 七 文 か ら成 る 。 前16文 が 母 親 追 想 を 含 む
"神 聖 結 婚"で
,「 ア タ ラ ク シ ア 」に ふ さ わ し い 内 容 だ が,最 終 第17文 は ま っ た く性 質 が 異 な る 。 ま る で 別 の 段 落 の よ う で,最 終 文 は 推 稿 の 最 後 の 最 後 に つ け 加 え ら れ た か の よ う な 印 象 を 受 け る。)
〔4〕J.A.G.TANS(1>=La」Poetiquedel'EauetdelaLumieredapresl'ceuvred'AZbeyt Camus.(2)(1962B3)
J.A.G.タ ン ツ の く ア ル ベ ー ル ・カ ミ ュ 作 品 に よ る水 と光 の 詩 学 〉 は,そ の 題 目 が 想 像 さ せ る よ う に,ガ ス ト ン ・ バ シ ュ ラ ー ル 派 に よ る カ ミ ュ 解 読 の 試 み の 最 初 の ひ とつ で あ る。"水 と
光"を 『異 邦 人Jに 求 め れ ば,す な わ ち海 と太 陽 とな ろ うが,タ ン ッ は まず 自論 を 展 開 す る前 に
イ マ ジ ユ
カ ミュ 作 品 の 心 象 の 研 究 に足 跡 を残 して い る四 人 の論 者 の 紹 介 か ら始 め る。
イ マ ヒ ジ ユ ヘ へ
S.ULLMANN(3)は,カ ミ ュ に お け る 心 象 の 二 大 源 泉 と し て 風 と 海 を 取 り 上 げ,S .
ヘ ヘ へ
JoHN(4)は 怒 れ る 父 な る 太 陽 と優 し い 母 な る 海 を 論 じ た 。C.A.VIGGIANIは く カ ミ ュ の 『 異 邦
イ マ ジ ユ
人 』⑤〉 に お け る シ ン ボ ル の 研 究 で 太 陽 と父,海 と母 の 心 象 を 組 み 合 せ,物 語 は 主 人 公 が 「太 陽 の せ いで 」宿 命 的 殺 人 に 導 か れ る悲 劇 で あ る と述 べ た 。 と こ ろ で バ シ ュ ラ ー ル 派 に は ヴ ィヂ ア ニ 説 が 食 い足 りな い 。"〔ヴ ィヂ ア ニ 〕が カ ミュ の 象 徴 的 イ マ ー ジ ュ を宗 教 神 話 の 伝 統 中 に位
イ マ し ジユ
置 づ け,そ れ らが 彼 の 想 像 力 の 原 型 と結 び つ い て い る"と し た 点 に 異 存 は な い の だ が,"心 象 の 材 質 や 生 成 に は 注 意 を 払 っ て い な い"か らで あ る。 次 にR.BARTHESは 『異 邦 人 』の 太 陽 の 神 話 性 を 最 初 に 指 摘 し た く 太 陽 の 小 説,『 異 邦 人 』⑥ 〉 で,そ の"材 質 的 解 釈"を 示 し て い た 。 「埋
ヘ ヘ へ1ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ
葬 」の 粘 着 性 の あ る 太 陽,「 殺 人 」の 硬 い 金 属 性 の 太 陽,そ し て 「 法 廷 」の 埃 っ ぽ く乾 い た 太 陽 。 こ の 考 察 は バ シ ュ ラ ー ル 派 に とっ て も"興 味 深 い 要 素 が 含 ま れ て い る"の だ が ,バ ル トの 太 陽 は
"あ ま り に も 図 式 化 さ れ
,単 純 化 さ れ す ぎ て い る"よ う に 思 わ れ る 。
イマJユ
タ ン ツ に よ れ ば,ヴ ィ ジ ア ニ の よ う に心 象 を 相 互 に 関 連 づ けバ ル トの よ う に 材 質 的 解