感情描写動詞の語彙 と文法的特徴
感情描 写動詞 の語 彙 と文 法 的特徴
山 岡 政 紀
1a感 情 描 写 動 詞 と は何 か
本 稿 の テ ー マ で あ る感 情 描 写 動 詞 の 定 義 を確 認 す る前 に,感 情 動 詞 分 類*1に つ い て確 認 す る。 まず,感 情 動 詞*2と は,人 の 心 理 的 現 象 に言 及 す る こ とを語 彙 的 意 味 と し,経 験 者 格*3を 必 須 項 と して取 る動 詞 の 総 称 で あ る 。筆 者 は こ れ
を 〈感 情 表 出 〉 とい う文 機 能*4を 基 準 と して三 つ に分 類 す る。
こ こで,〈感 情 表 出〉とは,話 者 が 発 話 時 の 自 らの感 情 を表 出す る文 機 能 で あ り, 典 型 的 に は(1>aの よ うな感 情 形 容 詞 文 にお い て発 動 す るが,(1)b,cと も,経 験 者 格 が 第1人 称 に指 定 され,文 の 時 制 意 味 が 現 在 で あ り,〈 感 情 表 出 〉 文 と な る 動 詞 文 の例 で あ る。
(1)aあ あ,苦 しい 。+[1]Ex*5 bあ あ,む かつ く。+[1]E・
Cあ あ,腹 が 減 った 。+[1]E・
bの よ う に,文 の述 語 が ル形 終 止 の 時 に 〈感 情 表 出 〉 とな る動 詞 語 彙 がA)「 感 情 表 出動 詞 」 で あ る。 他 に 「痛 む,腹 が立 つ,ド キ ドキす る,虫 酸 が走 る」 な ど が あ る。
cの よ う に,タ 形 終 止 の 時 に 〈感 情 表 出〉 とな る動 詞 語 彙 が(B)「感 情 変 化 動 詞 」 で あ る。 タ形 を用 い て は い るが,変 化 後 に維 持 され てい る感 情 状 態 を表 現 し,そ の た め時 制 意 味 が現 在 とな る特 殊 な動 詞 で あ る。他 に 「あ きれ た,困 った,足 が
しび れ た,肩 が凝 っ た」 な どが あ る 。
そ して,(2)の よ うに,語 彙 的意 味 が 人 の感 情 に言 及 して い る点 で は(A),(B)と 共 通 して い る が,ル 形 終 止 で も タ形 終 止 で も 〈感 情 表 出 〉 とな らな い動 詞 語 彙 が あ る。
(2)??あ あ,苦 しむ/??あ あ,苦 しん だ。
この種 の動 詞 は,他 人 の感 情 を客 観 的 に描 写 す る こ とが主 た る用 法 なの で(C)「感 情 描 写 動 詞 」 と呼 ぶ 。他 に 「怒 る,苦 しむ,喜 ぶ,楽 しむ,ガ ッカ リす る」 な ど
が あ る。
感 情 とい う語 彙 的 意 味 そ れ 自体 をそ の 意 味特 徴 か ら分 類 す る こ とが で きる。1 思 考 ・2情 意 ・3感 覚 ・4知 覚 の4分 類 で あ る。 これ は上 述 の文 機 能 論 的 な3分 類 に対 して横 断 的 な交 差 分 類 とな る。
この4分 類 を区 別 す る 文 法 上 の テ ス トと して,山 岡(2000b)4.1.2で は三 つ の 文 法 的特 徴 を提 案 した。 第 一・に程 度 副 詞 の修 飾 が 可 能 で あ る か,第 二 に補 文 を承 け る こ とが で きるか,第 三 に経 験 者 格 の部 分 ガ格*率6を取 る か,で あ る。
[表]は 両 者 の 交 差 分 類 を一 覧 に し,意 味 特 徴 の4分 類 をテ ス トす る三 項 目 を 加 えた もの で あ る。これ に よ って,感 情 描 写 動 詞 は思 考描 写 動 詞 ・情 意 描 写動 詞 ・ 感 覚 描 写 動 詞 ・知 覚描 写 動 詞 に4分 類 され る。
[表]感情動詞 の文機瀧 論的3分 類 と意味特徴 による4分 類 の交差分類
感情動詞 1思 考 2情 意 3感 覚 4知 覚
A感 情 表 出 動 詞 [1]+V‑ru
A‑1思 考 表 出
〜 と(〜 く)思 う
A‑2情 意 表 出 困 る
A‑3感 覚 表 出 胃が痛 む
A‑4知 覚表 出 見 える
B感 情 変 化 動 詞 [1]+V‑ta
s思 考 変化 ひ らめ く
B‑2情 意 変 化 あ きれ る
B‑3感 覚 変化 肩 が凝 る C感 情描写動詞 C‑1思 考 描 写
〜 を 思 う
C‑2情 意 描 写 怒 る
C‑‑3覚 描 写 顔 が ほ て る
C‑4知 覚 描 写 見 る
程度副詞修飾 x 0 0 X
補文 を承 ける 0 X X X
部分 ガ格 x X 0 X
※左 端 の欄 に記載 され てい る文型 表示 は,〈 感 情 表 出〉 とな る際 の構 文 の型 。[1]は 省略 可 能 な第1人 称経 験 者格 。V(動 詞 部)の 後 は,時 制 辞(異 形態 あ り)を 表 してい る。
この分 類 に よ る感 情 描 写動 詞 の 文 法 的 定 義 は,「 語 彙 的 意 味 と して 人 の 感 情 を 表 現 す るが,ル 形 終 止 で もタ形 終 止 で も 〈感 情 表 出〉 とな らない 動 詞 語 彙 」 とい
う こ とに な る。 次 節 以 降 で,そ の意 味 的 ・文 法 的特 徴 につ い て考 察 した い 。
感情描写動詞の語彙と文法的特徴 2.感 情 描 写 動 詞 の テ イル 形 は 〈感 情 表 出〉 と な る か
2.1問 題 提起
ル形 で もタ形 で も 〈感 情 表 出〉 と な ら ない語 彙 を感 情 描 写 動 詞 とす る こ とは1 節 で述 べ た が,す る と,感 情 描 写 動 詞 を用 い て 〈感 情 表 出〉 文 は全 く作 れ ない の
か,別 の形 式 に よっ て可 能 な の か,と い う こ とが 問 題 とな る。 これ こそ,こ の語 彙 をめ ぐる最 大 の 問題 で あ る。
〈感 情表 出 〉 の定 義 を改 め て確 認 す る と,「 話 者 が発 話 時 の 自 らの感 晴 を直接 的 に言 語 化 す る文 機 能 」 とな る。 これ を発 動 す る た め の 命 題 内 容 条 件 の 第1は,
「述 語 が感 情 性 述 語 で あ る こ と」 で あ る。 感 情描 写 動 詞 は感 情 動 詞 の 下位 分 類 で あ る以 上,こ れ を満 た してい る。 命 題 内容 条 件 の 第2と 第3は,そ れ ぞ れ 「主語 が 第1人 称 経 験 者格 で あ る こ と」 と 「時制 意 味 が 現 在 で あ る こ と」 で あ る。 と こ
ろが,こ れ ら を満 た す文 を作 ろ う と して も,現 在 とな る はず の ル形 で は 〈感 情 表 出〉 とな ら ない ばか りか,不 適 格 な文 とな って し まっ た わ けで あ る。
(1)??私 は苦 しむ。
そ こで,主 語 は 第1人 称 の ま まで,述 語 をテ イル形 とす る と ど うな る か 。 この場 合,(2)の よ うに 文法 的 な文 とな る。
(2)私 は苦 しん で い る。
この文 の 時制 意 味 も現 在 で あ るか ら,ま さ に 「話 者 が発 話 時 の 自 らの感 情 を直 接 的 に言 語 化 す る文 機 能」 との 定 義 に合 致 した 〈感 情 表 出 〉 の よ うに も見 え る。
同 じ こ とは感 情 描 写 動 詞 の テ イ ル形 を述 語 とす る文 に はす べ て共 通 して言 え る こ とで あ る。
(3)私 は今,旅 行 を楽 しんで い ます 。
(4)私 は試 験 の不 合 格 に ガ ッカ リ して い ます 。
この 問 題 を検 討 す るの に先 立 って,感 情 表 出動 詞 の ル形 とテ イ ル形 の対 立 につ い て見 てお きた い 。
2.2瞬 間 的現 在 と持 続 的現 在
以 下 は,山 岡(2000b)4.2.1か らの 引用 で あ る。
(5)あ あ,腹 が 立 つ 。+[IBEX
(5)は形 式 上 は主 語 が 省 略 され て い るが,(5)が 発 話 され れ ば 自動 的 に第1人 称 主 語 が含 意 され る。 そ の理 由 は,感 情 表 出 動 詞 の ル形 は主 語 が 第1人 称 の 場 合 に し か 文 法 的 に な らな い とい う制 約 が あ るか らで あ る。 これ はモ ダ リテ ィの人 称 制 限
と呼 ば れ た現 象 と連 続 して い る。
(6)私
*あ な た は騒 音 に腹 が 立 つ 。
*次 郎
この こ とは,感 情 表 出動 詞 の ル形 が 〈感 情 表 出〉 専 用 の形 式 で あ る こ とを示 し て い る。 と ころが,こ れ をテ イル形 にす る と,そ の よ う な人称 制 限 が な く,い ず れ も文 法 的 で あ る。
(7)私
あ な た は騒 音 に腹 が 立 って い る。
次 郎
この た め,(2)〜(4)の 例 文 はい ず れ も第1人 称 主 語 を省 略 す る こ とが で きな い 。 この よ うな両 者 の 違 い が 生 じる原 因 は,〈 感 情 表 出〉,〈感 情 描 写 〉 とい う文 機 能 そ れ 自体 の質 に 由来 す る時 間 的 制 約 の 問 題 と考 え られ る。
〈感 情 表 出 〉 は外 部 か らは見 え な い 内 面 の心 理 を一 時 的 に表 出 す る もの で あ る。
この 〈感 情表 出〉 を動 詞 とい う時 間 的 制 約 の強 い 品詞 に よって行 う場 合,表 出 と 発 話 との 同時 性 が必 然 的 に生 じる。 つ ま り,発 話 され て い る時 だ け そ の感 情 は表 出 され て い る こ と に な る。 実 際 の感 情 が 継 続 して い た と して も,言 語 的 には 〈感 情 表 出〉 と当該 発 話 との 同 時性 が 保 証 され な け れ ば な らな い。 感 情 表 出動 詞 の ル 形 は この 同時 性 を表 現 す る形 式 で あ る。
一 方,〈 感 惰描 写 〉 は,表 情 や態 度 と して持 続 的 に表 出 され て い る感 情 を,二 次 的 ・間接 的 に描 写 す る もの で あ る か ら,描 写 と発 話 との 間 に 同時 性 が 求 め られ る こ とは な い。 発 話 時 は持 続 す る感 情 状 態 の一 時 点 と して,包 含 され れ ば よい 。 これ を表 現 す るの に適 した形 式 が テ イ ル形 で あ る。 テ イ ル形 は,そ の発 話 時 が, 発 話 時 以 前 か ら以 後 へ と継 続 す る状 態 の一 時 点 で あ る こ と を表 して い る。
この よ う なル形 とテ イル 形 の違 い を示 す の は,感 情状 態 の持 続 を意 味 す る副 詞 との共 起 が可 能 か どうか で あ る。
(8)*私 は きの うか らず っ と腹 が 立 つ 。
(9)私 は きの うか らず っ と腹 が 立 っ てい る。
上 に見 た二 つ の 「現 在 」 を 区別 す る考 え方 は既 に存在 して い る。 中右(1994)で は,発 話 時 と同時 性 の あ る現 在 を 「瞬 間 的現 在 」(instantaneouspresent)と 呼 び, 後 者 の発 話 時 を包 含 す る現 在 を 「持 続 的 現 在 」(durationalpresent)と 呼 ん で 区 別 して い る。 そ して,こ の両 者 を区別 す る根 拠 と して,や は り,持 続 性 を表 す 副 詞 との 共起 の有 無 を挙 げ て い る 。
⑩a*わ た しは つ ねつ ね/い つ も トム が スパ イ だ と 思 う。
感情描写動詞の語彙 と文法的特徴 bわ た しは つ ねつ ね/い つ も トムが ス パ イだ と 思 って い る。
中右(1994)は この両 者 の 区別 をモ ダ リテ ィの定 義 の 中 に盛 り込 ん で い るが,本 稿 にお け る文機 能 は,従 来 の モ ダ リテ ィを純 粋 に意 味 範 疇 と して捉 え直 した もの で あ るか ら,そ の意 味 的特 徴 にお い て 共 通 す る こ とは 自然 な こ とで あ る。
非 過 去 形 の時 制 意 味 が 「瞬 間 的現 在 」 とな る述 語 語 彙 と して は,感 情 表 出動 詞 の他 に,遂 行 動 詞 が あ る 。例 え ば,「 この子 を正 太 と名 づ け る」 と宣 言 す る場 合, そ う発 話 す る こ と 自体 が 命 名 の遂 行 に当 た る。 したが っ て,行 為 と発 話 との 同時 性 が 論 理 的 に保 証 され る 。
さて,感 情 形 容 詞 文 で は 人称 制 限 は あ るが,持 続 性 を表 す副 詞 との 共起 が 可 能 で あ る。
⑪ きの うか らず っ と腹 立 た しい 。+[1]Ex
そ の 一 方 で,(12)の よ うに,「 瞬 間 的現 在 」 と言 うべ き用 例 もあ る。
⑫(電 車 内 で足 を踏 まれ て)痛 い っ!
この こ とか ら,感 情 形 容 詞 文 の非 過 去 形 は 「持 続 的現 在 」 に も 「瞬 間 的 現 在 」 に もな り得 る と考 え る。 形 容 詞 とい う品 詞 は本 来 的 に状 態 性 を有 して お り,動 詞 と違 って,い わ ゆ る ア スペ ク ト的 要素 が も と も とな い こ とか ら,持 続 的 か 瞬 間的 か を規 定 す る要 素 は形 容 詞 そ の もの に は含 まれ て お らず,文 中 に共 起 す る副 詞 や 文 脈 な どに よ って 決 定 され る こ とに な る。 そ の他 の形 容 詞,名 詞 述 語,狭 義 の状 態 動 詞 の 非過 去 形 につ い て もこれ と同様 の こ とが 言 え る。
以 上 の こ とか ら,感 情 表 出動 詞 の テ イ ル形 は,二 次 的 な 〈感 情 描 写 〉 に適 して い るが,直 接 的 な 〈感情 表 出〉 には適 さ ない,と い う こ とに な る。
2.3感 情 描 写 動 詞 を排 除 す る 〈感情 表 出〉 の命 題 内容 条 件
2.2で は感 情 表 出動 詞 を例 に と っ て述 べ て きた が,感 情 描 写 動 詞 の テ イ ル 形 に つ い て も全 く同様 の こ とが 言 え る。
(9)私 は きの うか らず っ と腹 が立 って い る。[持 続 的 現在]〔感 情 表 出動 詞 〕 (].3}私 は きの うか らず っ と怒 って い る。[持 続 的 現在]〔感 情 描 写 動 詞 〕 (9)と(13}がそ の テ ンス ・ア スペ ク ト上 の特 質 にお い て全 く一 致 して い る点 を見 て も,感 情 描 写動 詞 の テ イ ル形 が 持 続 的現 在 で あ る こ とが 見 て取 れ る。 そ して,テ イ ル形 にお い て は,個 に見 られ る よ う に,人 称 制 限 が 一 切 な い た め,主 語 の省 略 は で きな い(文 脈 や場 面 な どか らの省 略 は あ り得 る)。 つ ま り,⑬ は他 人 の感 情 状 態 を描 写 す るの と同 じ よ う に,話 者 自身 の感 情 状 態 を,い くらか客 観 的 に描 写
して い るの で あ る。
αの 私
あ な た は騒 音 に怒 って い る。
次 郎
感 情 描 写動 詞 と感 情 表 出動 詞 が 異 な る の は,ル 形 の 時 制 意 味 にお い て で あ る 。 感 情 表 出動 詞 の ル形 は現 在(た だ し,瞬 間的 現 在)と な るの に対 し,感 情 描 写 動 詞 の ル 形 は現 在 とは な らず,未 来 か超 時 とな る。
⑯ 私 は,騒 音 に腹 が立 つ 。[瞬 間 的現 在]〔 感 情 表 出動 詞〕
(16}そ ろ そ ろ返 して くれ ない と,私,怒 る よ。[未 来]〔 感 情 描 写 動 詞〕
(17}父 は,気 に入 ら ない こ とが あ る とす ぐ怒 る。[超 時]〔感 情 描 写 動 詞〕
この こ とは,感 情描 写 動 詞 文 が 〈感情 表 出〉 文 を作 る こ とが で きな い こ と と表 裏 一 体 で あ る。
以 上 に よ り,〈 感 情 表 出〉 の命 題 内 容 条件 の初 期 条 件 にお い て,テ イル 形 を排 除 す る⑤ の 項 目 が 入 っ て い た こ とが 更 に傍 証 を得 た こ と に な る(山 岡(2000b) 2.4.2.1)o
〈感 情 表 出〉 の命 題 内容 条件(初 期)
① 述 語 が 感 情 性 述 語 で あ る こ と
② 主 語 が 第1人 称 経 験 者格 で あ る こ と([1]Ex)
③ 非過 去 時 制 辞 を接 続 す る こ と
(た だ し,述 語 が 感 情 変化 動 詞 の場 合 は,過 去 時 制 辞 を接 続 す る こ と)
④ モ ダ リテ ィ付 加 辞*7を 接 続 しな い こ と
⑤ アス ペ ク ト接 辞 一tei一を接 続 しな い こ と
つ ま り,〈 感 情 表 出 〉 は持 続 的 現 在 を排 除 す る もの で は な い が(感 情 形 容 詞 の 場 合 な ど),動 詞 を用 い て 〈感 情 表 出〉を行 う場 合 に は,持 続 的現 在 は排 除 され る。
そ れ が,動 詞 に持 続 性 を与 え るテ イ ル形 の排 除 へ とつ なが るわ けで あ る。
この2節 で 問 題 提 起 した 「感 情 描 写動 詞 の テ イ ル形 は 〈感 情 表 出 〉 とな る か」
との 問 い に対 す る結 論 と して は,「 〈感 情 表 出〉 とは な り得 ない」 とい う こ と にな る◎
3.感 情 描写 動 詞 の 文 法 的諸 特 徴
本 節 で は,感 情 描 写 動 詞 の 文法 的特 徴 につ い て,2節 で考 察 した 点 以 外 に,ア ス ペ ク ト,ボ イ ス,意 味 格,テ ンス,文 機 能 の五 つ 範 疇 の観 点 か ら考 察 す る。 各
感情描写動詞の語彙と文法的特徴 範 疇 は相 互 に連 関 して い るが,便 宜 上,こ れ らの 範 疇 ご と に小 節 を立 て て 論 述 す
る こ とにす る。
3.1感 情 描 写 動 詞 の ア ス ペ ク ト上 の 特 徴
感 情 表 出 動 詞 の ア ス ペ ク ト的 特 徴 に つ い て は,山 岡(1999)に お い て,ア ス ペ ク ト形 式 が 付 加 し得 る と い う文 法 現 象 を も と に,金 田 一(1950)の4分 類 に お け る 「継 続 動 詞 」 に類 す る もの で あ る こ と を論 証 し た 。
同 時 に,(1)が 非 文 で あ る こ と に つ い て も,分 類 と は 無 関 係 な が ら 言 及 し た 。 (1)*正 夫 は 腹 が 立 ち お わ っ た 。
こ れ に つ い て は,〜 オ ワ ル を つ け る こ とが で き る の は,動 きの 全 体 量 が 決 ま っ て い る もの に 限 られ る と指 摘 した 森 山(1983)に 言 及 す る に と ど め た 。
こ の こ と を よ り正 確 に 記 述 した の が 三 原(2000)で あ る と言 え る 。 す な わ ち,三 原(2000)で は,金 田0の4分 類 で は な く,Vendler(1967)の4分 類 に依 拠 して い る 。 両 者 の 決 定 的 違 い は,金 田0の 「継 続 動 詞 」 に 当 た る も の が,Vendlerで は 完 了
的(telic)か 未 完 了 的(atelic)か に よ っ て,「 達 成 動 詞(accomplishment)」,「 活 動 動 詞(activity)」 の 二 つ に 区 分 さ れ て い る こ とで あ る 。 そ して,上 述 の 「動 き
の 全 体 量 が 決 ま っ て い な い 」 と い う の は,未 完 了 的(atelic)で あ る と い う こ と に 相 当 す る の で,結 局,感 情 表 出 動 詞 は 活 動 動 詞 に 限 定 さ れ る こ と に な る 。 つ ま り,感 情 表 出 動 詞 が 未 完 了 的 で あ る とい う ア ス ペ ク ト上 の 特 徴 は,Vendler分 類 に 依 拠 す る方 が,よ り厳 密 に 規 定 で き る こ と に な る 。 こ の 点 に お い て 三 原(2000) は,山 岡(1999)を よ り厳 密 に 規 定 し直 した もの と位 置 づ け る こ とが で き る 。
こ れ と 同 じ く,感 情 描 写 動 詞 も ま た,次 の 「悲 し む 」 に 見 ら れ る よ う に,活 動 動 詞 で あ る 。
(2)彼 は心 か ら悲 しん で い る 。[継 続 状 態 相]
(3)*彼 は悲 しみ お わ っ た 。
ま た,感 情 変 化 動 詞 に つ い て は,山 岡(2000a)で 述 べ た 通 り,基 本 的 に 変 化 動 詞(到 達 動 詞)で あ る と筆 者 は 考 え,分 類 の 名 称 に 「変 化 」 の 語 を用 い て い る 。 (4)は 典 型 的 な 変 化 動 詞 だ が,(5)も ま た 主 観 的 な感 覚 に お い て(4)と 同 様 の 結 果 状 態 相*8と 見 るべ きで あ る 。
(4)洗 濯 物 が 乾 い て い る 。[結 果 状 態 相]
(5)の ど が 渇 い て い る 。[結 果 状 態 相]
感 情 変 化 動 詞 の 場 合,通 常 の 変 化 動 詞 と異 な る の は,(6)の タ 形 も,テ イ ル 形 と 同様 の 結 果 状 態 相 の 解 釈 が 可 能 で,時 制 意 味 が 現 在 と な る こ と で あ る。
(6)の ど が 渇 い た 。
詳 細 は 山 岡(2000a)で 一 度 述 べ て い る の で 略 す る 。
3.2感 情 描 写 動 詞 の ボ イ ス上 の特 徴
山 岡(1999)に お い て,(7)に 見 られ る よ うに,感 情 表 出動 詞 と感 情描 写 動 詞 との 間 で 同語 根 の対 応 が見 られ る場 合,必 ず,感 情 表 出動 詞 は 自動 詞,感 情 描 写 動 詞 は他 動 詞 とい う関係 性 が 見 て取 れ た。
(7>感 情 表 出動 詞(句)感 情 描 写 動 詞(句)
[補 文]よ う な予感 が す る[Ex]が[Ob]を 予 感 す る(思 考) [Ob]が 気 に な る[Ex]が[Ob]を 気 にす る(情 意) [Ex]に[Ob]が 見 える[Ex]が[Ob]を 見 る(知 覚) こ こで 「他 動 詞 」 と して い たの は,対 象 格 の ヲ格 を取 る動 詞 の こ とで あ っ た 。 つ ま り,「 横 断 歩 道 を渡 る」 の よ う な場 所 格(経 路)の ヲ格 な どは考 慮 しな い と い う こ とで あ る。
しか し,同 語 根 の対 応 関係 を もた な い感 情描 写 動 詞 を見 る と,対 象 格 の ヲ格 を 取 らな い もの は数 多 くあ る。例 え ば,「 憤 る,苛 立 つ,怒 る,落 ち着 く,お のの く, 怯 え る,苦 しむ,じ れ る,た じろ ぐ,戸 惑 う,悩 む,迷 う」 な どで あ る。
一 方,感 情 表 出動 詞 の 方 は,構 文 と して ヲ格 を取 る こ とが な い。例 外 と して 「(怒 り,嫌 悪 感,快 感,不 快 感,な ど)を 覚 える」 が あ るが,ヲ 格 名 詞句 が 直 接 受 動 文 の主 語 とな らな い 点(*怒 りが 覚 え られ る)や,副 詞 が ヲ格 名 詞 句 と動 詞 と を 分 断 して挿 入 で きない結 合 度 の 強 さ(*怒 りを非 常 に覚 え る)な どか ら,こ れ ら
は一種 の成 句 と して全 体 で 一 つ の 自動 詞 相 当 で あ る と考 え る。
したが って,感 情 動 詞 分 類 と 自他 動 詞 の対 立 との相 関 の うえで 言 え る こ と は,
「感 情 表 出動 詞 はす べ て 自動 詞 で あ る」 とい う こ とだ け で あ る 。感 情 描 写 動 詞 に お い て は,自 動 詞 と他 動 詞 とが 混在 して い る こ と に な るの で,相 関 が あ る と言 え
ない 。
そ れ よ りもむ しろ重 要 な こ とは,感 情 表 出動 詞 の場 合,経 験 者 格 が しば しば語 彙 的 意 味 の 中 に取 り込 ん で背 景 化 し,無 格 の主 題 専 用 項 とな る こ とで あ る。(7>の 感 情 表 出動 詞(句)の 表 示 の うち,経 験 者 項 が 示 され て い ない もの は,経 験 者 が 主 題 専 用 項 で あ る こ とを意 味 して い る。 そ して,そ の経 験 者 主 題 は,通 常,第1 人称(=話 者 自身)で あ るの が 自然 で あ る。 本 稿 で は以 下,背 景 化 して い る経 験 者 格 の表 示([Ex]は)は 省 略 す る。
そ れ に対 して,感 情 描 写 動 詞(句)で は経 験 者 格 が ガ格 の形 で 項構造 の0部 を
感情描写動詞の語彙と文法的特徴 成 す 。 この両 者 の 関係 は 自他 動 詞 の 関係 とい う よ り,(8)の よ うな,一 部 の感 情 形 容 詞 と感 情 描 写 動 詞 との対 応 関係 と似 て い る。
(8)感 情 形 容 詞 感 情 描 写 動 詞 [Ob]が 憎 い 一[Ex]が[Ob]を 憎 む [Ob]が 措 しい[Ex]が[Ob]を 惜 しむ
この対 応 関係 も0種 の ボ イス 対 立 で あ る こ とは確 か だ が,自 他 動 詞 の対 立 の よ うに純 粋 に構 文 論 的 な ボ イス対 立 と違 っ て,主 題 と述部 との 情 報構 造 上 の違 い で あ り,さ ら にそ れ が文 全 体 の 文 機 能 の違 い に密 接 に関連 して い る。 この例 で は, 経 験 者 格 を背 景 化 した感 情 形容 詞 は 〈感 情 表 出〉 に適 し,経 験 者 格 名 詞 句 を必 須 項 とす る感 情 描 写 動 詞 は 〈感 情 描 写 〉 に適 して い る。 この 両 者 の対 立 を仮 に 「文 機 能 論 的 ボ イ ス対 立 」 と呼 ぶ こ とにす る。 これ に つ い て は,4節 で 各 語 彙 ご との 具 体 的 記 述 を行 う際 に,個 々 に その都 度 言 及 す る こ と にす る。
3.3感 情 描 写 動詞 の 意 味格 上 の 特 徴
3.2で は他 動 詞 の定 義 を 「対 象 格 の ヲ格 を取 る動 詞 」 と した。 場 所 格 の ヲ格 を 取 って も他 動 詞 とは しな い の は,そ れ が 直接 受 動 文 の主 語 とな らない な どの特 徴
に よる。 そ の よ うな観 点 で見 る と,感 情 描 写 動 詞 の 中 に は,ヲ 格 名 詞句 を取 る も の の,そ れ が 直接 受 動 文 の主 語 とは な らない もの あ る。⑨ を直接 受 動 化 した のが
⑪ だが,こ れ に よ る と 「憎 む」 の ヲ格 は対 象 格 と言 え るが,「 嘆 く」 の ヲ格 は対 象 格 とは言 え な い。
(9)a和 夫 は凶悪 な犯 人 を憎 ん だ。(10}a凶 悪 な犯 人 は和 夫 に憎 まれ た。
‑‑‑コ
b和 夫 は不 運 な事 故 を嘆 い た。b*不 運 な事 故 は和 夫 に嘆 か れ た 。 (9)bの ヲ格 は原 因格 と考 え る。そ の根 拠 は,山 岡(2000b)1.3.3に 記 した よ う に, 格 助 詞 句 ノセ イ デ と交 替 し得 る もの を原 因格 と考 え るか らで あ る。 こ こで 「ノセ イ デ」 に置 き換 え られ る の は,「 嘆 く」 の方 だ け で あ る。
⑳a*和 夫 は 凶悪 な犯 人 のせ い で憎 ん だ。
b和 夫 は不 運 な事 故 のせ い で嘆 い た 。
原 因 格 の読 み しか ない ノ セ イ デ格 に置 き換 え る こ とに よ って,「 憎 む」 に とっ て対 象 格 の ヲ格 が 必須 項 で あ る こ とが浮 き彫 りに な る。
さ ら に,ヲ 格 とノセ イ デ格 との共 起 は可 能 だ ろ うか 。
⑫a和 夫 は 凶悪 な犯 人 の せ い で 社 会 全 体 を憎 ん だ 。 b??和 夫 は不 運 な事 故 の せ いで社 会全 体 を嘆 い た。
す る と今 度 は 「憎 む」 の方 が 文 法 的 と な り,逆 に 「嘆 く」 の方 は不 適 格 な文 と
な る。 この不 適 格 さは 「嘆 く」 の ヲ格 が 原 因 格 の読 み を要 求 す る ため,一 文 に 同 じ意 味 格 が 二 度 表 れ て しま う こ とに よる不 適 格 さ と考 え られ る。 以 上 か ら,同 じ ヲ格 を取 る動 詞 で も,「 憎 む」 を対 象 型,「 嘆 く」 を原 因型 とす る こ とが で きる。
Rio}に意 味 格 表 示 を添 えて(13)として再掲 す る。
⑬a和 夫 は凶悪 な犯 人 を憎 ん だ。
十Ex十 〇b十V→[対 象 型]
b和 夫 は不 運 な事 故 を嘆 い た。
+Ex+Ca+V→[原 因型]
この二 者 を峻 別 す る限 りにお い て は,先 に述 べ た 直接 受動 化 に よっ て対 象 格 と 認 め る テ ス トと,ノ セ イデ へ の 言 い 換 え に よ って原 因格 と認 め る テ ス トとは,結 果 が 一 致 す る こ とに な る はず で あ る。
た だ し,直 接 受 動 化 の テス トは文 法 判 断 に迷 う よ うな周 辺 的 な用 例 が多 く作 ら れ る こ とに注 意 を払 わ な け れ ば な らな い 。 一 般 の動 作 動 詞 の例 で も,「 指 名 を受 け る」 「能 力 を持 つ 」 の よ う に対 象 格 以外 の解 釈 が 難 しい ヲ格 名 詞 句 を取 っ て い て も,そ の直 接 受 動 文 「*指 名 が 受 け られ る」 「*能 力 が 持 た れ る」 が 意 味 的 に 非 文 とな る例 もあ る。 直接 受動 化 に よ って直 接 受 動 文 の 主 語 とな るべ き対 象 格 名 詞 句 に は視 点 が 移動 され な け れ ば な らな いが,当 該 名 詞句 が 意 味 的 に視 点 を置 き
に くい名 詞 句 の場 合 に起 きる現 象 と考 え られ る。
さて,こ こで対 象 型 の 動 詞 を他 動 詞,原 因 型 の動 詞 を 自動 詞 と して しま って も よい の だが,こ こで の対 象 型 と原 因型 との対 立 は,二 格 名 詞 句 を取 る情 意 描 写動 詞 にお い て も全 く同様 に見 られ る こ と に注 目す る必 要 が あ る。
(14}aと し子 は父 親 の過 保 護 に(/*の せ い で)甘 え て い る。
十Ex十 〇b十V→[対 象 型]
bと し子 は父 親 の過 保 護 に(/の せ い で)悩 ん で い る。
+Ex+Ca+V→[原 因型]
㈲aの 「甘 え る」 の よ うに,二 格 を取 る 「対 象 型 」 を他 動 詞 と認 め るの か ど う か につ い て は,も う一段 の議 論 が必 要 か と思 われ る。 本 稿 で は,こ れ 以 上,自 他 動 詞 の 別 に拘 泥 せ ず,対 象 型,原 因型 の 対 立 に と どめ て お く。 特 に4節 の4.2で
は この 区別 に よ り記 述 を行 う こ と とす る。
3.4感 情 描 写 動 詞 の テ ンス 上 の 特 徴
感 情動 詞 の テ ンス上 の特 徴 につ い て は,本 稿 で は2節 まで で 十 分 論 じて は い る が,ボ イス の 問題 と関 連 させ て論 じた 三原(2000)に 対 して,こ こで改 め て検 証 ・
感情描写動詞の語彙 と文法的特徴 批 判 を行 う こ とに す る。
三 原(2000)で は,本 稿 の感 情 表 出動 詞 と感 情 描 写 動 詞 の対 立 を述語 の時 制 意 味 の 対 立 と して論 じ,そ れ を 自他 動 詞 の対 立 と関連 す る もの と して い る。す なわ ち, ル 形 の時 制 意 味 が 未 来 とな る㈲ の よ うな感 情動 詞(本 稿 の感 情 描 写動 詞)は 他 動 詞 で あ り,同 じ くル形 の 時 制意 味 が 現在 とな る㈲ とな る よ うな感 情動 詞(本 稿 の 感 情 表 出動 詞)は 自動 詞 だ とい うので あ る。 用 例 は 同論 考 か らの 再 掲 で あ る 。
(15}b親 が 悲 しむ ぞ 。
cそ ん な こ とをす る と,子 供 が 怖 が る で し ょ!
(16)aそ ん な こ と,困 る よ。
bあ いつ の喋 り方 は イ ラ イ ラす る。
三 原 氏 の 主 張 に よる と,㈲ の他 動 詞 に はそ れ ぞ れ,「 悲 しい,怖 い」 とい う同 語 根 の 形 容 詞 が 存 在 す るの に対 し,㈲ の 自動 詞 に は,そ の よ う な対 応 す る状 態 表 現 が な いか ら,動 詞 ル形 で そ れ を代 用 して い るの だ とい う。 つ ま り,対 応 す る 同 語 根 の 形 容 詞 が 存 在 せ ず,そ れ に代 わ る状 態 表 現 と して動 詞 の ル形 が 用 い られ て
い る とい う論 法 が と られ て い た 。
この 主 張 の問 題 点 は,感 情 表 出動 詞 「腹 が 立 つ,痛 む」 に,そ れ ぞれ 「腹 立 た しい,痛 い 」 とい う感 情 形 容 詞 が対 応 して い る事 実 が反 例 と して指 摘 され る こ と で あ る。 この 二例 に は,同 語 根 の感 情 描 写 動 詞 語 彙 も存 在 して お り,そ の対 応 関 係 は㈲ の よ うに な る。
(17}感 晴形 容 詞 一 感 情 表 出動 詞(句)一 感 情 描 写 動 詞(句)
[Ca]が 腹 立 た しい 一[Ca]に 腹 が 立 つ 一[Ex]が[Ca]に 腹 を立てる [Ex=肉 体部分]が 痛い 一[Ex=肉 体部分]が痛む 一[Ex]が[Ob・ 肉体部分]を痛める さ ら に,三 原 氏 が 主 張 す る他 動 詞 と自動 詞 の 区 別 は,本 稿 の感 情 描 写動 詞 と感 情 表 出動 詞 の 区 別 と一 致 して い るわ け で は な く,彼 の言 う 「自動 詞 」 に は感 情 描 写 動 詞 で あ る 「苦 しむ」 も入 って い る。 そ うな る と,こ れ に は 「苦 しい」 とい う 形 容 詞 が対 応 して い るの で,も う一 つ の反 例 と して付 け加 わ る こ と に な る。
筆 者 は三 原(2000)の 草 稿 の段 階 で この件 につ い て指 摘 した が,そ の こ とは完 成 稿 の注13で 言 及 され てお り,自 他 動 詞 の別 と,対 応 す る形 容 詞 の有 無 との 間 に完 全 なパ ラ ダ イム が 形 成 され て い るわ け で は ない,と の 譲 歩 に至 っ て い る。つ ま り, 対 応 す る形 容 詞 が存 在 す る の は 自動 詞 よ り他 動 詞 の 方 が 多 い,と い った,い わば 一 つ の 「傾 向 」 くらい の もの で あ る と認 め た こ とに な る。
単 な る傾 向 に過 ぎない と した場 合 に,最 大 の 問題 とな る の は,感 清動 詞 の 時 制 意 味 の対 立(ル 形 が 現在 とな る か,未 来 と な るか)が,ア ス ペ ク トや ボ イ ス な ど
の他 の文 法 範 躊 と関連 づ け る こ とが で きな い とい う こ とで あ る。結 局 この 問題 は, 感 情表 出動 詞 と感 情 描 写動 詞 との語 彙 範 躊 の 区別 と して他 の文 法 範 疇 と関 わ りな
く偶 然 的 に発 生 す る文 法 現 象 と見 る以 外 に な い と考 え る。
三 原(2000)の も う一 つ の 問題 は,感 情 表 出動 詞 が感 情 形 容 詞 の代 わ りを して い る と した の で はT両 者 の 時制 意 味 上 の違 い を見 過 ご して しま うの で は な い か,と い う こ とで あ る 。2節 で 述べ た よ うに,感 情 表 出動 詞 文 の 現 在 時 制 意 味 は 「瞬 間 的 現在 」 に 限定 され て い るの に対 し,感 情 形 容 詞 文 の現 在 時 制 意 味 に は 「瞬 間 的 現在 」 と 「持 続 的現 在 」 の 区 別 が な く,文 中 に共 起 す る副 詞 や 文 脈 に よ って,意 味 的 に制 限 され る こ とが あ り得 る とい うに過 ぎな い。 つ ま り,「 腹 が 立 つ 」 は 瞬
間 的現 在 に 限 定 され るが,「 腹 立 た しい 」 は瞬 間 的現 在 な の か,持 続 的現 在 な の か は 限定 され て い ない と考 え る。
3.5感 情 描 写 動 詞 の文 機 能 上 の特 徴
感 情 描 写 動 詞 の機 能 は,人 の感 情 現 象 を客 観 的 に描 写 す る こ とで あ る。 そ の場 合,人 とい うの は圧 倒 的 に話 者 か ら見 て他 人 の場 合 が 多 い で あ ろ うが,話 者 自 身
の場 合 も当然 考 え られ る。
現 象 を描 写 す る文 機 能 は,〈 演 述 〉 の下 位 分 類 と して の 〈描 写 〉 で あ る。 現 象 に 「状 態 」 と 「事 象 」 の2種 が あ る の で,〈 描 写 〉 に も,〈 状 態 描 写 〉 と 〈事 象描 写 〉 の2種 類 が あ る こ とに な る。 さて,「 感 情 」 とい う現 象 は 「状 態 」 と 「事 象 」
の いず れ に当 た るの で あ ろ うか。
感 情 形 容 詞 につ い て は,例 外 な く 「状 態 」 と考 え るべ きだが,感 情動 詞 の場 合 は,通 常,ル 形 ・タ形 で は 「事 象 」,テ イ ル形 ・テ イ タ形 で は 「状 態」 と考 え る べ きで あ る。 要 す る に,ア ス ペ ク ト接 辞 一tei一を付 加 しな い もの 場 合 は 「事 象 」, 付 加 して い る場 合 は 「状 態 」 とい う こ とで あ る。
こ こで は,典 型 的 な感 情 描 写 動 詞 の 一 つ で あ る 「恐 れ る」 を例 に,実 例 を通 し て,各 用 例 の 文 機 能 につ い て考 え た い 。述 語 「恐 れ る」 の下 線 は 引用 者 に よる。
最 初 に,(ls}と⑲ は ル形 の例 で あ る。
(1s)こ れ を き くと野 島 は あ る刺 戟 を う け た。 しか し杉 子 とあ そ ぶ 時 は大 宮 の こ と も,脚 本 をか くこ と も忘 れ た。 た だ杉 子 の帰 る時 が せ まっ て くる の を恐 れ るだ けだ った 。杉 子 は も う野 島 には す っか り親 し くな っ た。(友 情)
⑲ 己 は復 讐 を恐 れ る と云 っ た。 そ れ も決 して嘘 で は ない 。(袈 裟)
感情描写動詞の語彙と文法的特徴 そ れ ぞ れ の 主 語 は,⑱ が 第3人 称 の 「野 島」,⑲ は 第1人 称 の 「己」 で あ る。
いず れ も,ル 形 で はあ るが,内 容 的 に は過 去 の そ れ ぞ れ の 人物 の感 情 を事 象 と し て描 写 した もの で あ る。描 写 に はそ れ ぞ れ根 拠 が あ る はず だ が,(1&は 小 説 に特 有 の登 場 人 物 に対 す る感 情 移 入 に よ り,過 去 の あ る 時 点 に 「野 島」 に生 起 した感 情 を描 写 して い る 。⑲ は 自 らが 「恐 れ る」 と発 話 した こ とを事 象 を と して描 写 して い る。
次 に タ形 の例 を挙 げ る。
㈲ あ き らか に彼 はそ の よ うな 断定 的 な言 い か た に馴 れ て い な か っ た の だ 。 で は,そ の絵 の下 手 糞 な頼 央 の こ とを なぜ 調 べ て い る の か,と い う彼 の反 論 を きっか け に,美 術 に 関 した知 的 な会 話 が 始 まる こ と を彼 は恐 れ た。(エ デ ィ)
⑳ 私 は た だKが 急 に生 活 の方 向 を転 換 して,私 の 利 害 と衝 突 す る の を 恐 れ た の で す 。(こ ころ)
主 語 は,⑳ が 第3人 称 の 「彼 」,⑳ が 第1人 称 の 「私 」 で あ る。 い ず れ も,過 去 の あ る時 点 に生 起 した感 情 を描 写 した もの で あ る。⑳ にお い て も,自 身 の感 情
の生 起 を客 観 的 に述 べ よ う とす る もの で あ る。
次 に テ イ ル形 の例 を挙 げ る。
吻 エ デ ィは金 を借 りる とい う立 場 にな る の を極 端 に恐 れ て い る よ うだ った 。(一 瞬)
(23}こ の 己 を,こ の臆 病 な己 を追 い や って 罪 もない 男 を殺 させ る,そ の 大 き な力 は何 だ?己 に は わ か ら な い 。 わ か ら な い が,事 に よ る と い や そ ん な事 は ない 。 己 は あ の女 を蔑 んで い る。 恐 れ て い る。 憎 ん で い る。 しか しそ れ で も猶,そ れ で も猶,己 は あ の女 を愛 して い る せ い か も知 れ な い。(袈 裟)
主 語 は,{22)が 第3人 称 の 「エ デ ィ」,㈱ が 第1人 称 の 「己 」 で あ る。(22}は文 末 に過 去 時 制 辞 が あ るの で,過 去 の 時 点 で の持 続 的 な感 情 状 態 を描 写 した もの とい う こ とに な る。㈱ は登 場 人物 のせ りふ の一 部 だ が,自 分 自身 の 感 晴 を,発 話 時 を 含 む持 続 的 な感 情 と して 客観 的 に描 写 しよ う と して い る。 これ は,主 語 が 第1人 称 で,時 制 が 現 在 で あ っ て も 〈感 情 表 出〉 で は な く,〈 感 情 描 写 〉 で あ る とす る
2節 の(2)〜(4)に類 す る用 例 で あ る。
最 後 に テ イ タ形 の例 を挙 げ る。
図 先 生 はそ れ で な くて も,冷 た い眼 で研 究 され るの を絶 えず 恐 れ て い た の で あ る。(こ こ ろ)
㈲ 私 は帰 っ た 当 日か ら,或 は こ ん な事 に な る だ ろ う と思 って,心 の う ちで 暗 にそ れ を恐 れ て い た 。(こ ころ)
主 語 は,⑳ が 第3人 称 の 「先 生 」,㈱ が 第1人 称 の 「私 」 で あ る 。 い ず れ も過 去 の あ る時 点 に お け る持 続 的 な感 情 状 態 を客 観 的 に描 写 し よ う とす る もの で あ
る。
以 上 を総 括 す る と,⑯ 〜⑳ は 〈事 象 描 写 〉,吻 〜㈲ は 〈状 態 描 写 〉 に類 す る こ とに な る。 つ ま り,「 感 情 」 とい う現 象 の範 疇 は,〈 感 情 表 出〉 とい う文 機 能 にお い て は,一 一つ の独 立 した現 象 と して の 特 殊 な地位 が 与 え られ るが,〈 感 情 描 写 〉 にお い て は,「 事 象」 と 「状 態Jの い ず れ か に類 す る横 断 的 な範 疇 で あ る こ とに な る。 そ こで,次 節 にお け る語 彙 ・用 例 の記 述 的 考 察 にお い て は,よ り厳 密 さを 追 求 す る た め に,〈 感 情 事 象 描 写〉,〈感 情 状 態 描 写 〉 とい う よ う に,区 別 して 記 述 す る こ とにす る。
4.感 情 描 写 動 詞 文 の 構 文 ・述 語 語 彙 ・用 例
前 節 まで で,感 情 動 詞 の分 類,感 情 描 写 動 詞 の文 法 的特 徴 な どにつ い て は詳 し く考 察 した。 本節 で は,感 情 描 写 動 詞 文 の用 例 を示 しつ つ,構 文 の命 題 構 造,文 機 能 な どを記 述 す る。 そ の 際,語 彙 を な るべ く多 く挙 げ る。1節 で の 分 類 に従 っ
て,記 号Cを 用 い る。
4.1思 考 描 写 動 詞
感 情 描 写 動 詞 の う ち,補 文 を承 け る こ との で きる語 彙 が 思考 描 写 動 詞 で あ る。
最初 に,思 考 表 出動 詞 と重 複 して属 す る 「思 う」,「考 え る」 につ い て 述 べ る。
この両 語 は,そ の 取 る補 語(補 文)を も とに,述 語 の構 文 に主 に三種 あ る こ とが 知 られ て い る。
①[補 文]ト/ヨ ウニ/ナ ンテ+思 う(考 え る)
②([名 詞 句]ヲ+)[形 容 詞]ク/二+思 う
③[名 詞 句]ヲ+思 う(考 え る)
この う ち,①,② の構 文 は,〈 感 情 表 出 〉 の一 種 で あ る 〈思 考 表 出〉 に用 い る こ とが で きる の で,思 考 表 出動 詞 と した。(1)は② の例 。 これ も形 容 詞 文 を補 文 と す る一種 の補 文 構 造 と言 え る。 しか し,③ は 〈思 考 表 出〉 に用 い る こ とが で きず, (2)は非 文 とな る。
(1)母 を恋 し く思 う。+[1]E・ ・
(2)*私 は故 郷 を思 う。
感情描写動詞の語彙 と文法的特徴 したが っ て,「 思 う」,「考 え る」 は,③ の構 文 で 用 い られ る場 合 の み,思 考 描 写 動 詞 とい うこ とに な る*9。
「思 う」 に別 の動 詞 を下接 す る複 合 動 詞 の 中 に は,単 独 の 「思 う」 と違 っ て, 構 文 の如 何 に よ らず 〈思 考 表 出〉 と な り得 ない 語 彙 が あ る。 「思 い起 こす,思 い 知 る,思 い 立 つ,思 いつ め る,思 い 直 す」 な どで あ る。 これ らの語 彙 に② の構 文 は な く,上 述 の ①,③ の 構 文 にお い て 思 考 描 写動 詞 とな る。 ま た,「 思 い込 む」
には補 文 を トで承 け る① の構 文 しか ない が,思 考描 写 動 詞 に分 類 され る 語彙 で あ る。
次 に,文 機 能 ご とに用 例 を挙 げ る 。引 用 者 に よ り,述 語 とな っ て い る思考 描 写 動 詞 に下線,経 験 者 格 名 詞句(文 脈 上,効 力 の あ る もの を含 む)に 二 重 下線,対 象 格 名 詞 句 また は補 文 に波 下 線 を引 く。
〈思 考事 象 描 写 〉
(3)ネ オ ンの 点 滅 に よっ て暗 い紅 色 や黄 土 色 に変 化 す る空 を見 上 げ なが らr私 は五 年 前 を思 った。 まだ二 十 代 の なか ば だ っ た私 と内藤 との 奇 妙 な旅 を思 っ た。 朝 鮮 半 島 の入 口 釜 山 で の や は り暑 か った夏 を思 っ
た 。(一 瞬)
(4)栄 二 は少 し待 っ て も らい た い と頼 み,仮 牢 へ 戻 っ て一 日考 え てみ た。
芳 古 堂 の こ と を思 い,綿 文 の こ と を思 い,目 明 しの こ と を思 っ た 。 (さ ぶ)
(5)"プ ロ フ ェ ッサ ー ・フ ジ ワ ラ"が,コ ロ ラ ドの 乾 燥 した 空 気 に心 地 良 く響 い た 。私 は,こ こで は う ま く行 きそ うだ,と 予 感 した。(若 き) (6)悲 しい事 に私 は片 眼 で した。 私 は た だKが 御 嬢 さ ん に対 して進 ん で 行 くとい う意 味 にそ の 言葉 を解 釈 しま した。果 断 に富 ん だ彼 の性 格 が, 恋 の方 面 に発 揮 され るの が即 ち彼 の覚 悟 だ ろ う と一 図 に思 い込 ん で し
ま った の で す 。(こ こ ろ)
(7>そ う して,自 分 が,彼 に まつ わ りつ い てい る 問 に,自 分 の お道 化 は, 所 謂 「ワザ 」 で は無 くて,ほ ん もので あ っ た とい う よ う思 い込 ませ る
よ う にあ らゆ る努 力 を払 い,あ わ よ くば 彼 と無 二 の 親友 に な っ て し まい た い もの だ も し そ の事 が 皆 不 可 能 な ら もはや 彼 の 死 を
一 さえ思いつめました。+[1]E・(人 間)
こ の う ち,(3)と(4>は 述 語 が 「思 う」 で は あ る が,ヲ 格 を取 っ て い る の で,非 過 去 時 制 で あ っ て も,〈 思 考 表 出 〉 に は な り得 な い 。
一 方 ,(5)〜(7)は 引 用 節 を トで 承 け て い る が,た と え ル 形 で も 〈思 考 表 出 〉 に は
用 い られ ない 思 考描 写 動 詞 で あ る。
〈思 考 状 態 描 写 〉
(8)洗 い ざ らい をい う とね,ぼ くは三 年前,成 長 したふ じ子 さ ん に会 っ た時,ひ と 目ぼ れ を した よ う な んだ 。 それ で ふ じ子 さん の婚 約 の話 を 聞 い た時 は,と て も淋 しか っ た。 しか しふ じ子 さんが 病 気 に な り,そ
の 問 い く度 か手 紙 をや り と りしなが ら,ぼ くは ず い ぶ ん ふ じ子 さ ん の こ とを思 って い た つ も りだ 。(塩 狩 峠)
(9)父 は 自分 の達 者 な保 証 を 自分 で 与 え なが ら,今 に も己 れ に落 ちか か っ て来 そ うな 巳険 を予 感 して い る ら しか っ た。(こ ころ)
⑩ 鮎 太 は何 を勉 強 して も 自分 で他 の 生 徒 よ り出来 る もの と思 い 込 ん で い た。(あ す なろ)
⑪ 「だ っ て,太 郎 は,明 倫 へ は,あ ん ま り行 きた くな い ん で し ょ う。
北 川 だ け しか 自分 の 入 る大 学 は な い,と 思 い つ め て るん で し ょう」
(太郎)
こ こ に挙 げ た4例 は,〈 思 考事 象 描 写 〉 の用 例 に挙 げ た,「 思 う,予 感 す る,思 い 込 む,思 いつ め る」 の そ れ ぞ れ テ イル 形 ・テ イ タ形 の用 例 で あ る。 い ず れ もあ る時 点 にお け る持 続 的 な思 考 状 態 を描 写 した もの で あ る。(8),(9)で は対 象 格 の ヲ 格 を取 り,⑩,(11}で は引用 節 を トで承 け て い る。
以 上 を整 理 して一 般 化 した記 述 は以 下 の よ うに な る。
C‑1思 考 描 写 動 詞 文
【命 題 】[経 験 者(Ex)]ガ+ [対 象(Ob)]ヲ 十V [補 文]ト/ヨ ウ ニ/ナ ン テ
【述 語 語 彙 】案 じ る,思 う,思 い 起 こ す,思 い 浮 か べ る,思 い 込 む, 思 い 知 る,思 い 立 つ,思 い つ め る,思 い 直 す,思 い め ぐ らす,思 い や る,回 想 す る,考 え る,勘 ぐる,感 じる,心 に 浮 か べ る,心 に描
く,推 量 す る,想 像 す る,予 感 す る,… …
【文 機 能 】V‑T〈 思 考 事 象 描 写>
V‑tei‑T〈 思 考 状 態 描 写 〉
こ の 中 で,【 文 機 能 】 に 関 し て は,述 語 動 詞(v)と 時 制 辞(T)と が 直 接 接 続 す る 場 合 に は 〈思 考 事 象 描 写 〉,両 者 の 問 に ア ス ペ ク ト接 辞 一tei一を 挿 入 す る も の(い
感情描写動詞の語彙 と文法的特徴 わ ゆ る テ イ ル形,テ イ タ形)は 〈思 考状 態 描 写 〉,と い う意 味 で あ る 。
と ころ で,「 思 う」 が補 文 を承 け る か,対 象 格 名 詞 句 を取 る か で 思 考 表 出 動 詞 と思考 描 写 動 詞 の対 立 を成 したの と同様 に,両 者 の対 立 を成 す例 が2例 あ る。 そ の対 応 関係 を示 す と⑫ の よう に な る。
(12)思 考 表 出動 詞(句)思 考 描 写 動 詞 [補 文]と 思 う[Ex]が[Ob]を 思 う [補文]よ うな予 感 が す る[Ex]が[Ob]を 予 感 す る [補文]よ うな感 じが す る[Ex]が[Ob]を 感 じる
た だ し,思 考 表 出動 詞 の場 合 は必 ず助 詞 ガ を挿 入 しな けれ ば な らず,こ の ガ格 と思考 描 写 動 詞 に お け る対 象 格 の ヲ格 とは,3.2で 述 べ た 「文 機 能 論 的 ボ イ ス対 立」
の 関係 に あ る。
4.2情 意 描 写 動 詞 文
感 情 描 写 動 詞 の うち,程 度 副 詞 の修 飾 を うけ る こ とが で き,か つ部 分 ガ格 を取 らな い語 彙 が 情 意 描 写 動 詞 で あ る。 これ は,「 喜 ぶ,怒 る,悲 しむ,楽 しむ」 と い っ た,喜 怒 哀 楽 の情 緒 的 な意 味 を表 す 典 型 的 な感 情 動 詞 群 で あ り,語 彙 の量, 用 例 の量 と も に,最 も豊 富 で あ る。 そ こで 本 節 で は,3.3で の論 述 を も と に,情 意描 写 動 詞 を対 象 型 と原 因型 とに分 け,各 型 ご とに用 例 を検 討 し,記 述 の0般 化
を行 う こ とにす る。
4.2.1単 独 ・対 象 型
対 象 型,す な わ ち 対 象 格 名 詞 句 を 必 須 項 と し て 取 る 情 意 描 写 動 詞 に つ い て,
「た め ら う,恨 む,憧 れ る,こ だ わ る 」 の4語 を述 語 とす る 実 例 を,〈 情 意 事 象 描 写 〉 と 〈情 意 状 態 描 写 〉 に 分 け て 以 下 に挙 げ る 。 下 線 に つ い て は,以 下,す べ て 4.1と 同 様 で あ る 。
〈情 意 事 象 描 写 〉
(13)信 夫 は,キ リ ス ト信 者 か と尋 ね る こ と を た め ら っ た 。(塩 狩 峠) 働 八 時 五 分 ぐ ら い 前 に 目 を さ ま し た 。 雨 が 降 っ て い た 。 屋 根 が し っ と
り とぬ れ て い る 。 残 念 だ な あ と雨 を恨 ん だ 。+[1]E・(二 十 歳)
㈲ 太 郎 は海 の世 界 に憧 れ た 。(太 郎)
⑯ 「あ な た は わ りあい,お か ね の事 に こだ わ るの ね 」(青 春)
〈情 意 状 態 描 写 〉
(17}一 審 で は有 罪 に した もの の,星 は控 訴 中で 確 定 した判 決 は まだ だ 。
こ の段 階 で 他 社 に移 して は,問 題 に な る。 〔総 督 府 は〕 態 度 の 決 定 を ため らっ て い た。(人 民)
⑯ 「主 よ。 あ な たが い つ も沈 黙 して い られ るの を恨 ん で い ま した」
+[1]E・(沈 黙)
⑲ な に しろ一 風 毛 色 の変 った こ とが彼 女 の好 み で あ った し,ア グ ネ ス の 青 い 瞳,下 手 糞 な 日本 字 はそ うい う藍 子 の気 性 に ぴ っ た りした。 そ れ に彼 女 は この と こ ろ外 国 に憧 れ て もい た。(楡 家)
㈲ そ して,そ れ とな く目顔 で あ い ず を したが,大 石 先 生 はそ しらぬ 顔 で,ま だ後 藤 先 生 に こだ わ って い た。(二 十 四)
「た め ら う,恨 む」 は対 象 格 を ヲ格 で取 り,「 憧 れ る,こ だ わ る」 は対 象 格 を二 格 で取 っ てい る。 これ に類 す る語 彙 をか き集 め てみ る と,語 彙 数 と して は ヲ格 を 取 る もの の方 が 多 い よ うで あ る 。
また,こ の うち の(18}は経 験 者 格 が 第1人 称 だが,自 身 の情 意 を振 り返 りなが ら 客 観 的 に述 べ てい る例 で あ り,〈 情 意 表 出〉 で は ない こ とが用 例 か ら見 て取 れ る。
以上 を整 理 して0般 化 した記 述 は以 下 の よ うに な る。
C‑2‑a情 意 描 写 動 詞 文 〔単 独 ・対 象 型 〕
【命 題 】 ①[経 験 者(Ex)]ガ ÷[対 象(Ob)]ヲ+V
②[経 験 者(Ex)]ガ+[対 象(Ob)]二+V
【述 語 語 彙 】 ① 愛 す る,崇 め る,侮 る,憐 れ む,悼 む,厭 う,愛 お し む,訂 し む,訴 る,忌 む,忌 み 嫌 う,い や しむ,う た ぐ る,疎 む, 敬 う,恨 む,う ら や む,憂 う,怠 る,惜 しむ,思 い や る,思 い 煩 う, 嫌 う,毛 嫌 い す る,こ ら え る,蔑 む,慕 う,偲 ぶ,心 配 す る,好 く, そ ね む,尊 ぶ,た め ら う,躊 躇 す る,懐 か し む,憎 む,妬 む,は ば か る,ひ が む,見 下 す,見 くび る,… …
② 憧 れ る,甘 え る,か ぶ れ る,興 じ る,傾 倒 す る,恋 す る,こ だ わ る,根 負 け す る,心 酔 す る,心 服 す る,耐 え る,惚 れ る,… …
【文 機 能 】V‑T〈 情 意 事 象 描 写>
V‑tei‑T〈 情 意 状 態 描 写 〉
と こ ろで,こ の 種 の語 彙 に は,共 通 の語 根 を持 つ 情 意 形 容 詞 が 対 応 してい る も の が少 な くない 。
⑳ 情 意 形 容 詞 情 意描 写動 詞
[Ob]が 訂 しい[Ex]が[Ob]を 謁 しむ,訂 る