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[研究ノート] モバイル市場における競争環境整備 を巡る議論

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(1)

[研究ノート] モバイル市場における競争環境整備 を巡る議論

著者 佐藤 治正

雑誌名 Hirao School of Management Review

巻 11

ページ 163‑180

発行年 2021‑03‑31

URL http://doi.org/10.14990/00003804

(2)

モ バ イ ル 市 場 に お け る 競 争 環 境 整 備 を 巡る 議 論

佐 藤 治 正

1

【 要 旨 】

本 稿 で は 、 総 務 省 「 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 ( 2018 年 10 月 か ら 2020 年 2 月 ま で 24 回 )」 で 議 論 さ れ た 主 要 論 点 の 中 か ら 、 特 に 事 業 者 間 の 競 争 に 係 わ る 幾 つ か の 論 点 を 取 り 上 げ 、 具 体 的 な 政 策 提 言 、 政 策 評 価 に 繋 が る よ う 、 で き る だ け 経 済 学 的 な 思 考 方 法 に 基 づ き 問 題 を 整 理 し 議 論 を 深 め る こ と を 試 み た 。 上 記 研 究 会 に お け る 議 論 ・ ヒ ア リ ン グ を 通 じ 、 懸 案 事 項 と さ れ て き た 幾 つ か の 政 策 課 題 の 解 決 に 向 け て 大 き く 改 善 が な さ れ た が 、 モ バ イ ル 市 場 で は 技 術 変 化 、 市 場 環 境 変 化 が 加 速 さ れ つ つ あ り 、 今 後 と も さ ら な る 公 正 競 争 環 境 の 整 備 、競 争 を 通 じ た 新 サ ー ビ ス・新 事 業 の 育 成 に 繋 が る 未 来 志 向 の 政 策 が 求 め ら れ て い る 。

【 キ ー ワ ー ド 】

モ バ イ ル ・ 競 争 政 策 ・ 通 信 料 金 ・ デ ー タ 接 続 ・ 音 声 卸 ・ サ ブ ブ ラ ン ド

【 目 次 】 1 . は じ め に

2 . 通 信 料 金 と 端 末 代 金 の 完 全 分 離

3 . 通 信 契 約 を 条 件 と す る 端 末 値 引 き の 上 限 規 制 4 . 期 間 拘 束 と 違 約 金

5 . 設 備 競 争 と サ ー ビ ス 競 争 6 . 音 声 卸 料 金

7 . デ ー タ 接 続 料

8 . グ ル ー プ 内 で の 金 銭 的 補 助 ( ミ ル ク 補 給 ) の 議 論 9 . サ ブ ブ ラ ン ド と MVNO と の イ コ ー ル フ ッ テ ィ ン グ 議 論 10. お わ り に

 甲 南 大 学 マネジメント創 造 学 部 教 授

(3)

1 . は じ め に

総 務 省 「 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 ( 以 下 、「 モ バ イ ル 研 究 会 」」 で は 、 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 主 要 な 論 点 に つ い て 、 2018 年 10 月 か ら 2020 年 2 月 ま で 24 回 に わ た り 、 有 識 者 、 そ の 他 関 係 者 に よ る 議 論 、 ヒ ア リ ン グ を 通 じ て 、 モ バ イ ル 市 場 に お け る 課 題 を 明 確 化 し 、 個 々 の 課 題 解 決 に 向 け た 具 体 的 政 策 提 言 を 行 っ た 。 喫 緊 の 課 題 の 幾 つ か に 関 し て 、2019 年 1 月「 モ バ イ ル 研 究 会 」に て「 緊 急 提 言 」が ま と め ら れ 、そ れ を 受 け て 通 信 料 金 と 端 末 代 金 の 完 全 分 離 、 行 き 過 ぎ た 囲 い 込 み の 禁 止 等 を 内 容 と す る 事 業 法 の 改 正 法 案 を 2019 年 3 月 第 198 回 国 会 に 提 出 し 、 同 年 5 月 17 日 に 交 付 と な っ て い る 。 主 な 改 正 点 と し て は 、 第 一 に 、 通 信 料 金 と 端 末 代 金 の 完 全 分 離 、 端 末 割 引 の 2 万 円 の 上 限 設 定 、 期 間 拘 束 の 制 限 、 期 間 拘 束 で の 中 途 解 約 時 の 違 約 金 を 上 限 1000 円 と す る こ と 等 で あ っ た 。「 モ バ イ ル 研 究 会 」 最 終 報 告 書 ( 2020 年 2 月 ) で は 、 24 回 に 亘 る 議 論 を 整 理 し つ つ ( 図 1 )、 全 て の 課 題 が 解 決 さ れ た わ け で は な い の で 、 残 さ れ た 課 題 に つ い て は 今 後 取 り 組 む べ き 事 項 と し て 整 理 を 行 っ て い る 。

そ の 後 2020 年 4 月 、電 気 通 信 市 場 検 証 会 議 の 下 、 「 競 争 ル ー ル の 検 証 に 関 す る WG」が 設 置 さ れ 、 改 正 法 に よ り 講 じ た 措 置 の 効 果 や モ バ イ ル 市 場 へ の 影 響 と 利 用 者 料 金 そ の 他 の 提 供 条 件 、 事 業 者 間 の 競 争 環 境 等 に つ い て 、 さ ら に モ バ イ ル 研 究 会 の 最 終 報 告 書 で も 継 続 的 に 注 視 す る こ と と さ れ た 改 正 法 施 行 後 の モ バ イ ル 市 場 に お い て 公 正 な 競 争 環 境 を 阻 害 し う る 新 た な 課 題 並 び に 固 定 通 信 サ ー ビ ス 市 場 等 の 隣 接 す る 通 信 市 場 に お け る 課 題 は な い か 等 に つ い て も 検 討 を 行 う こ と と な っ た 。 具 体 的 に は 、 通 信 市 場 の 動 向 、 端 末 市 場 の 動 向 、 新 プ ラ ン へ の 移 行 状 況 及 び 事 業 者 等 の 経 営 状 況 に つ い て 、 SIM ロ ッ ク 解 除 の 動 向 や MNP 件 数 の 推 移 、 そ れ に 伴 う 契 約 数 の 推 移 等 、 市 場 全 体 の 動 き や 競 争 環 境 の 動 向 な ど に 着 目 し 、 評 価 ・ 検 証 を 行 う こ と に な っ た 。特 に 、当 WG で は モ バ イ ル 市 場 に 関 し て は MNP の 在 り 方 に 関 し 、集 中 的 な 議 論 が 行 わ れ た 。 具 体 的 に は 、 過 度 な 引 き 止 め 行 為 の 禁 止 、 ウ ェ ブ に よ る MNP 利 用 の 改 善 、 MNP 手 数 料 の 見 直 し 等 の 課 題 に つ い て 検 討 を 行 っ て い る( 競 争 ル ー ル の 検 証 に 関 す る 報 告 書 2020 年 10 月 )。

( 総 務 省 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 「 最 終 報 告 書 」 各 種 資 料 P.4)

図 1 . モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会

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さ ら に 、音 声 卸 や 接 続 に 関 す る 主 要 課 題 に つ い て は 、 「 接 続 料 の 算 定 に 関 す る 研 究 会 」に 議 論 の 場 を 移 し 、 指 定 電 気 通 信 設 備 を 用 い た 「 卸 役 務 」 へ の 必 要 な 措 置 、 デ ー タ 接 続 料 に 関 す る 予 測 値 の 算 定 方 法 の 適 正 性 向 上 、 デ ー タ 接 続 料 原 価 の 適 正 性 向 上 等 に つ い て 課 題 の 整 理 、 政 策 対 応 に つ い て ま と め 、 「 接 続 料 の 算 定 等 に 関 す る 研 究 会 第 四 次 報 告 書( 2020 年 9 月 )」を 公 開 し て い る 。併 せ て 、 「 接 続 料 の 算 定 に 関 す る 研 究 会 」に お い て 、2020 年 末 か ら 2021 年 初 頭 に お い て 、 着 信 ボ ト ル ネ ッ ク を 有 す る MNO3 社 の 設 定 す る 加 入 電 話 発 - 携 帯 電 話 着 の 通 話 料 高 止 ま り の 問 題 ( 料 金 設 定 権 ) が 指 摘 さ れ 、 2021 年 2 月 現 在 、 MNO 各 社 に 対 し 問 題 解 決 に 向 け て の 速 や か な 対 応 を 粘 り 強 く 求 め て い る と こ ろ で あ る 。

本 稿 で は 、特 に モ バ イ ル 市 場 に お け る 競 争 環 境 整 備 の 中 心 的 な 課 題 の 幾 つ か に 焦 点 を 当 て 、 課 題 解 決 に 向 け た 総 務 省 で の 政 策 対 応 を 紹 介 し つ つ 、各 研 究 会 、WG に お け る 議 論 と 筆 者 の 考 え の 整 理 を 試 み る 。 政 策 に 一 つ の 正 し い 答 え が あ る わ け で は な い 。 だ か ら こ そ 、 立 場 や 意 見 の 異 な る メ ン バ ー で の 議 論 、 利 害 関 係 者 へ の ヒ ア リ ン グ 等 を 踏 ま え て 、 よ り よ い 政 策 が 実 現 さ れ て い く も の で あ る 。 本 稿 に お け る 考 え 方 の 一 部 は 、 筆 者 個 人 の 見 解 で あ り 、 異 な る 意 見 と ぶ つ か り あ い な が ら 、 よ り 正 解 に 近 い 政 策 が 実 現 す る こ と を 期 待 し て い る 。

2 . 通 信 料 金 と 端 末 代 金 の 完 全 分 離

MNO 各 社 は 、 長 年 に わ た り 、 本 来 あ る べ き 通 信 料 金 に よ る 競 争 を 避 け 、 端 末 値 引 き で 利 用 者 を 奪 い 合 っ て き た 。 値 引 き の 原 資 が 通 信 料 の 利 益 で あ る こ と に よ り 、 結 果 的 に 通 信 料 金 の 高 止 ま り が 長 く 続 き 、 端 末 を 長 期 に 保 有 す る ユ ー ザ ー が 割 高 な 通 信 料 金 を 支 払 い 続 け る こ と に な っ て い る 。 そ こ で 、 通 信 と 端 末 の そ れ ぞ れ の 市 場 で 競 争 が 起 き や す い 環 境 整 備 が 必 要 と 考 え 、 通 信 料 金 と 端 末 代 金 の 完 全 分 離 が 議 論 さ れ る こ と に な っ た 。

MNO 各 社 は 、 端 末 代 金 を 割 り 引 く の は 企 業 の 自 由 な 経 営 判 断 で あ る と 主 張 し た 。 競 争 市 場 で あ れ ば 、 確 か に 正 し い 主 張 で あ る 。 通 信 サ ー ビ ス 市 場 で も 端 末 市 場 で も 競 争 が 機 能 し て い れ ば 、 両 市 場 と も 超 過 利 潤 は な く 適 正 利 潤 の み 獲 得 可 能 に な っ て い る 筈 で あ る 。 超 過 利 潤 が な い の で あ れ ば 、 仮 に 端 末 に 補 助 し よ う と す れ ば 、 通 信 サ ー ビ ス ・ 端 末 販 売 の ビ ジ ネ ス に お い て 自 ら の 利 益 を 減 ら す か 、 あ る い は さ ら な る コ ス ト 削 減 を す る 等 経 営 努 力 な く し て 実 現 不 可 能 と い う こ と で あ る 。 し か し な が ら 、 独 占 市 場 あ る い は 寡 占 市 場 で は 、 超 過 利 潤 か ら の 補 填 が 可 能 と な る の で 、 消 費 者 間 の 公 平 性 を 損 な う 内 部 補 助 の 危 険 性 が 生 じ る 。

独 占 企 業 が 2 つ の サ ー ビ ス A( 通 信 サ ー ビ ス ) と サ ー ビ ス B( 端 末 ) を 提 供 し て い る と す

る 。 サ ー ビ ス B の 割 引 が サ ー ビ ス A か ら 補 填 さ れ る と き 、 そ れ は 企 業 内 部 の サ ー ビ ス 間 の 補

填 で あ る と 同 時 に サ ー ビ ス A の 顧 客 か ら サ ー ビ ス B の 顧 客 へ の 、 す な わ ち ユ ー ザ ー 間 の 補 填

と い う こ と に な る 。 サ ー ビ ス A の 顧 客 と サ ー ビ ス B の 顧 客 が 異 な る 場 合 、 サ ー ビ ス A の 顧客

が サ ー ビ ス B の 顧 客 の 価 格 を 引 下 げ る た め の 負 担 を す る こ と に 公 平 上 の 問 題 が 生 じ る 可 能 性

が あ る 。

(5)

規 制 企 業 に お け る 価 格 体 系 と 内 部 補 助 に 関 す る 古 典 的 な 論 文 と し て 、Faulhaber( 1975 年 ) の 論 文 が あ る 。2 人 の 協 力 ゲ ー ム を 用 い て 、内 部 補 助 の 定 義 づ け を 行 っ て い る 。モ デ ル で は 、 公 正 報 酬 率 規 制 の 下 A 地 域 と B 地 域 に 水 を 供 給 す る 独 占 企 業 を 仮 定 し 、 各 地 域 の 顧 客 グ ル ー プ を ゲ ー ム の プ レ ー ヤ ー と み な し 、 両 方 の プ レ ー ヤ ー の 結 託 が 成 り 立 つ 、 す な わ ち ゲ ー ム の コ ア が 成 立 す る ( ベ タ ー ・ オ フ す る ) 条 件 を 求 め た も の で あ る 。 こ の モ デ ル で は 、 需 要 が 相 互 に 独 立 で あ る こ と 、 費 用 関 数 に 劣 加 法 性 が 存 在 す る こ と が 前 提 と な っ て い る 。 こ の 分 析 の 結 論 は 、 純 収 入 テ ス ト ( Net Revenue Test) と 呼 ば れ る 。 す な わ ち 、 通 信 市 場 に お い て 、 サ ー ビ ス A を 提 供 す る 企 業 が 競 争 市 場 に お い て サ ー ビ ス B を 追 加 で 生 産 し た 時 、 追 加 生 産 に よ り 得 ら れ る 追 加 収 入 が 生 産 拡 大 に よ る 追 加 費 用 ( 増 分 費 用 ) を 上 回 っ て い る と き 、 内 部 補 助 が 行 わ れ て い な い と い う こ と に な る 。 ( 通 信 ビ ジ ネ ス に お い て は 、通 信 料 と 端 末 に は 補 完 性 が あ る が 、 こ の 考 え 方 の 本 質 に 大 き く 影 響 を 与 え る も の と は 考 え ら れ な い 。)

か つ て 、 電 電 公 社 時 代 、 NTT の 電 話 網 に は NTT の 電 話 機 し か 接 続 で き な い 時 代 が あ っ た 。 NTT 民 営 化 後 、 端 末 も 自 由 化 さ れ 、 現 在 で は 、 電 話 サ ー ビ ス と 端 末 が 切 り 離 さ れ 、 両 市 場 で 競 争 が 進 展 し 、通 信 サ ー ビ ス 、端 末 そ れ ぞ れ が 競 争 市 場 に よ り 価 格 設 定 さ れ る こ と に な っ た 。 固 定 通 信 市 場 で そ う で あ っ た よ う に 、 モ バ イ ル 通 信 市 場 に お い て も 通 信 サ ー ビ ス と 端 末 が 分 離 さ れ 、 そ れ ぞ れ の 市 場 で 競 争 が 進 展 し 、 競 争 を 通 じ て よ り 良 い 財 ・ サ ー ビ ス が よ り 安 く 提 供 さ れ る こ と が 期 待 さ れ る 。

3 . 通 信 契 約 を 条 件 と す る 端 末 値 引 き の 上 限 規 制

実 際 、 通 信 料 か ら 端 末 へ の 内 部 補 助 が 行 わ れ て い る か を 検 証 す る 一 つ の 方 法 は 、 端 末 が 調 達 価 格 以 下 で 販 売 さ れ て い な い と い う こ と を 確 認 す る こ と 。 す な わ ち 、 端 末 代 金 が コ ス ト と 適 正 利 潤 を ベ ー ス に 値 付 け さ れ て い る か 検 証 す る こ と に な る 。 そ の た め に は 、 各 企 業 が 端 末 の 調 達 価 格 や 端 末 ご と の 販 売 収 入 等 の デ ー タ を 総 務 省 に 開 示 す る 必 要 が あ る 。し か し な が ら 、 そ の よ う な 情 報 開 示 が 期 待 で き な い の で あ れ ば 、 次 善 の 策 と し て 端 末 の 値 引 き に 上 限 を 設 け る こ と に 妥 当 性 は あ る 。 そ こ で 、 値 引 き な し の 端 末 の 平 均 的 な 価 格 が 8 万 円 で あ れ ば 、 2 万 円 程 度 の 値 引 き が 妥 当 で あ る の か 、 あ る い は 3 万 円 が 妥 当 な の か 、 判 断 す る こ と に な る 。 通 信 料 金 か ら の 補 填 で は な く 、 端 末 販 売 ビ ジ ネ ス に お け る 企 業 努 力 で 捻 出 で き る 割 引 額 は 端 末 当 た り 平 均 で い く ら に な る の か を 定 め る こ と に な る 。

総 務 省 は 、「 端 末 代 金 の 値 引 き 等 に よ り 利 用 者 を 誘 引 す る 手 法 を 限 定 的 な も の に す る こ と で 、 通 信 ・ 端 末 の 各 市 場 で の 競 争 を 促 進 し 、 事 業 者 に よ る 端 末 代 金 の 値 引 き を 前 提 と し な い 端 末 市 場 で の 競 争 を 促 す 」と し て お り 、端 末 代 金 の 値 引 き 等 が 、 「 利 用 者 一 人 当 た り の 利 益 見 込 み 額 」 を 上 回 る 場 合 、 利 用 者 に 対 す る 行 き 過 ぎ た 利 益 供 与 に 当 た る と い う 考 え を 示 し た 。

総 務 省 の 考 え 方 に 対 応 し 、ド コ モ は 、 「 割 引 の 恩 恵 を 受 け な い 顧 客 と の 間 で 不 公 平 感 を 生 じ

さ せ な い 」、 す な わ ち 、 他 の 顧 客 か ら 得 ら れ る 利 益 で は な く 、「 割 引 を 受 け る 顧 客 か ら 得 ら れ

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る 利 益 の 範 囲 内 で 端 末 割 引 等 を お こ な う 」 と し 、 上 限 3 万 円 を 提 案 。 そ の 根 拠 と し て は 、 現 在 の 市 場 環 境 を 前 提 と し 、 「 利 用 者 一 人 当 た り の 利 益 見 込 み 額( ARPU×営 業 利 益 率 ×平 均 利 用 期 間 )」相 当 分 が 妥 当 と し 、3 万 円 と し た 。最 終 的 に 、総 務 省 は 、 「 現 在 の 市 場 環 境 を 前 提 と し た 値 引 き を 許 容 す る の で は な く 、 値 引 き の 上 限 を よ り 制 限 す る こ と と し 、 2 万 円 を 設 定 」 す る こ と と し た ( 図 2 )。

「 現 在 の 市 場 環 境 を 前 提 し た 値 引 き を 許 容 す る の で は な く 」 と い う 内 容 に つ い て 、 幾 つ か の 解 釈 が 可 能 と な る 。 一 つ は 、 総 務 省 に お い て モ バ イ ル の 競 争 環 境 整 備 の ル ー ル が 議 論 さ れ お り 、今 後 、競 争 の 進 展 が 期 待 さ れ る の で あ れ ば 、競 争 に よ り 料 金 が 下 が る こ と で 、例 え ば 、 ARPU が 3 割 弱 、営 業 利 益 率 が 3 割 弱 引 下 げ ら れ る と す れ ば 、上 記 の 算 定 方 式 で そ の 計 算 結 果 は 約 2 万 円 と な る と 言 え る か も し れ な い 。

ま た 、 総 務 省 の 示 し た 「 利 用 者 一 人 当 た り の 利 益 見 込 み 額 」 を 上 回 る こ と が な い よ う に と い う 場 合 の 「 利 益 見 込 み 額 」 に つ い て は 、 端 末 に つ い て の 利 益 に 限 定 さ れ た 話 で あ り 、 端 末 販 売 か ら 得 ら れ る 利 益 の 中 か ら 利 益 を 削 っ て 割 引 を す る の で あ れ ば 問 題 な い と い う こ と だ と 考 え ら れ る 。 そ も そ も ARPU か ら 計 算 さ れ た 顧 客 当 た り 3 万 円 の 利 益 は 、 通 信 サ ー ビ ス か ら の 利 益 が 含 ま れ て お り 、 端 末 販 売 に お い て の 利 益 が 3 万 円 と い う こ と で は な い 。 で あ る と す れ ば 、 こ の 3 万 円 の 中 か ら 補 填 す る こ と に 問 題 な い と す る ド コ モ の 論 理 自 体 、 値 引 き 上 限 を 決 め る 正 当 な 理 屈 と し て 受 け 入 れ る こ と が で き な い 。 そ う で あ れ ば 、 値 引 き の 上 限 は 、 3 万 円 以 下 で あ り 、 2 万 円 か 、 あ る い は 1 万 円 と 言 え る の か も し れ な い 。

図 3 ( 顧 客 に 対 す る 通 信 料 、 端 末 代 金 と 利 潤 ) の ケ ー ス 1 で は 、 通 信 料 と 端 末 代 金 ( そ れ ぞ れ コ ス ト ベ ー ス で 設 定 ) が 顧 客 A、 顧 客 B、 顧 客 C の 顧 客 に つ い て 同 等 の 価 格 に な っ て い る 。 ケ ー ス 2 は 、 通 信 サ ー ビ ス か ら 端 末 値 引 き へ の 補 填 が あ る 現 行 ケ ー ス で 、 顧 客 C の 端末 代 金 が 4 で 、 6 が 通 信 料 か ら 顧 客 C の 端 末 値 引 き へ の 補 助 で あ り 、 全 顧 客 の 通 信 料 金 が そ れ ぞ れ 2 だ け 割 高 に な っ て い る こ と が わ か る ( 通 信 料 が 22 で 元 の 通 信 料 20 が コ ス ト ベ ー ス な の で 、通 信 料 金 に 顧 客 当 た り 2 の 利 益 が 上 乗 せ さ れ 、補 助 の 原 資 6 と な っ て い る )。ケ ー ス 1・

図 2 電 気 通 信 事 業 法 第 27 条 の 3 等 の ル ー ル の 概 要

総 務 省 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 「 最 終 報 告 書 」 各 種 資 料 P.38)

(7)

2 共 に 、企 業 の 利 益 は 顧 客 当 た り 3 で 合 計 9 、顧 客 A・B・C の 合 計 支 払 額 は 99 で あ る 。ケ ー ス 3 で は 顧 客 C の 端 末 補 助 を 7 ( 値 引 き 上 限 3 ) と し た 場 合 で 、 通 信 料 金 は 据 え 置 き 。 ケ ー ス 3 で は 、顧 客 A・B の 状 況 は 以 前 の ま ま で 、顧 客 C の 支 払 い は 3 増 加 す る 。す な わ ち 、端 末 代 金 の 値 引 き 上 限 を 設 定 し た こ と で 、 既 存 顧 客 に は 何 の メ リ ッ ト も な く 、 買 い 替 え を 望 む 顧 客 の み 状 況 が 悪 化 す る こ と に な る 。 し か し な が ら 、 こ の 場 合 、 顧 客 A・ B・ C の 合 計 支 払 額 は 102 と な り 、 企 業 は 端 末 代 金 補 助 3 を 減 ら し た 分 、 利 益 が 3 増 加 す る こ と に な る 。 そ こ で 、 こ の 3 を 通 信 料 引 下 げ に 回 せ ば 、 通 信 料 は 22 か ら 21 に 引 下 げ ら れ る ( ケ ー ス 4 )。 さ ら に 、 ド コ モ が 主 張 す る よ う に 、 顧 客 C の 端 末 代 金 補 助 が 当 該 顧 客 か ら の 利 益 3 か ら 捻 出 さ れ る の で あ れ ば 、こ の 3 を 通 信 料 引 下 げ に 回 せ ば 、ケ ー ス 5 で 示 さ れ る よ う に 、通 信 料 は 20 に 下 が り 、ケ ー ス 1 と 比 べ 、顧 客 A・B は 競 争 が 機 能 し た 場 合 の 状 況 を 享 受 で き 、か つ 顧 客 C は ド コ モ が 利 益 を 削 減 し て 端 末 補 助 を 行 っ た こ と に よ り 、 他 の 顧 客 と の 比 較 で 3 の 割 引 を 得 た こ と に な る ( 顧 客 C は ケ ー ス 2 の 現 状 よ り は 悪 く な っ て い る が 、 他 の 顧 客 に つ い て は 競 争 市 場 で 得 ら れ る 結 果 で あ る ケ ー ス 1 が 実 現 で き る )。

図 3 端 末 代 金 値 引 き の 上 限 規 制

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4 . 期 間 拘 束 と 違 約 金

海 外 で は 、 ポ ス ト ペ イ ド に お い て は 端 末 代 金 と 通 信 料 金 が 分 離 さ れ て お ら ず 、 月 額 の 通 信 料 金 で 端 末 代 金 の 割 引 額 の 回 収 を 行 っ て お り 、 2 年 の 期 間 拘 束 契 約 は 存 在 す る が 、 そ の 目 的 は「 端 末 代 金 の 割 引 額 の 回 収 」で あ り 、日 本 と は 事 情 が 異 な る と さ れ る 。日 本 で は 2007 年 に 、 い わ ゆ る 端 末 と 通 信 料 金 の 「 分 離 プ ラ ン 」 が 導 入 さ れ 、 端 末 代 金 は 、( 通 信 料 金 で は な く 、)

端 末 購 入 時 の 一 括 払 い 又 は 24 ヶ 月 の 割 賦 払 い に よ り 支 払 わ れ る 形 態 と な っ て い る 。 ( た だ し 、 携 帯 電 話 事 業 者 は 、 契 約 か ら 2 年 間 、 端 末 の 割 賦 払 い の 金 額 ( も し く は そ の 一 部 ) に 相 当 す る 金 額 を 通 信 料 か ら 割 り 引 く サ ー ビ ス を 導 入 し 、 実 質 的 に 端 末 料 金 の 補 助 を 行 っ て き た 。

総 務 省 の 「 モ バ イ ル 研 究 会 」 に お い て は 、 通 信 料 金 と 端 末 代 金 の 完 全 分 離 と 同 時 に 、 期 間 拘 束 な ど の 行 き 過 ぎ た 囲 い 込 み の 是 正 の た め の 制 度 整 備 に つ い て 議 論 を 行 っ た 。 MNO 各 社 は い わ る ゆ「 2 年 縛 り 」と い う 施 策 を 実 施 し て い る 。2 年 の 継 続 利 用 を 条 件 に 、基 本 料 を 割 引 く が 、更 新 月 以 外 に 解 約 し た 場 合 、9500 円 と い う 高 額 な 違 約 金 が 徴 収 さ れ る 。ま た 、更 新 月 に 契 約 を 解 除 し な け れ ば 、 自 動 的 に 2 年 間 の 契 約 が 更 新 さ れ る と う も の だ 。

一 方 で 、携 帯 電 話 市 場 で の 大 手 3 社 の 期 間 拘 束・自 動 更 新 と い う 取 引 条 件 は 、MVNO に 対 す る 参 入 障 壁 で は あ る が 、 3 社 に よ る 競 争 が 存 在 す る こ と を 考 慮 す れ ば 、 こ れ を も っ て 独 禁 法 上 の 「 公 正 競 争 を 害 す る お そ れ = 競 争 減 殺 」 が あ る と 直 ち に 認 め る こ と は 難 し い と の 意 見 も か つ て あ っ た 。期 間 拘 束 に 関 し て 、総 務 省 の 報 告 書 で は 、 「 た だ し 、競 争 政 策 上 、こ の 取 引 条 件 が 協 調 的 寡 占 と 関 係 し 、 非 競 争 的 な 市 場 構 造 ( 市 場 行 動 ) で あ る と 見 る こ と が で き 、 引 き 続 き 注 視 す る 必 要 が あ る 。」 と 示 さ れ て い る 。

こ の よ う に 、 総 務 省 あ る い は 公 正 取 引 委 員 会 に よ り 、 期 間 拘 束 の 縛 り や 高 い 違 約 金 等 が 顧 客 の ス イ ッ チ ン グ コ ス ト を 高 め 、 顧 客 の 合 理 的 な 選 択 が 制 限 さ れ る こ と で 、 結 果 的 に 競 争 が 阻 害 さ れ て い る こ と の 懸 念 が 幾 度 と な く 示 さ れ て い る 。2020 年 、事 業 法 改 正 と 並 行 し 、総 務 省 で は 、 他 の M N O キ ャ リ ア や M V N O な ど に 乗 り 換 え る 際 の 顧 客 の ス イ ッ チ ン グ コ ス ト を 引 下 げ る こ と で 、 適 正 な 競 争 を 促 す こ と を 目 的 と し た 省 令 改 正 を 行 う こ と と し た 。 今 回 の 、 2 年 縛 り の 抜 本 的 な 見 直 し に よ り 、期 間 拘 束 の あ る 契 約 は 長 く て 2 年 と し 、中 途 解 約 の 違 約 金 の 上 限 額 を 9500 円 か ら 1000 円 に 引 下 げ 、( 少 な く と も ) 初 回 の 拘 束 期 間 が 経 過 し た 後 は 、 期 間 拘 束 が 自 動 更 新 さ れ ず 、 違 約 金 を 支 払 う こ と な く い つ で も 解 約 で き る プ ラ ン を 設 け る こ と が 適 当 で あ る と し た 。 ま た 、 ド コ モ と KDDI は 2 年 契 約 を 結 ば な い 顧 客 の 料 金 に 月 当 た り 1500 円 、 ソ フ ト バ ン ク は 2700 円 を 上 乗 せ し て い る が 、 期 間 拘 束 が な い 場 合 は 割 引 を 受 け ら れ な か っ た り す る 現 状 を 改 善 す る た め 、 縛 り が な い プ ラ ン と の 料 金 差 に つ い て も 上 限 月 170 円 と し た( 図 2 )。以 上 の 様 な 政 策 対 応 に よ り 、実 質 的 に 2 年 契 約 を 結 ぶ メ リ ッ ト が 大 き く 減 少 し 、 顧 客 に 対 す る ス イ ッ チ ン グ コ ス ト が 大 き く 低 減 す る こ と に な っ た 。

こ の 違 約 金 1000 円 に つ い て 、総 務 省 は 実 施 し た ア ン ケ ー ト 調 査 の 結 果 、す な わ ち「 1000 円

で あ れ ば 携 帯 電 話 会 社 を 乗 り 換 え る と し た 回 答 が 8 割 で あ っ た 」こ と を そ の 根 拠 と し て い る 。

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こ の 違 約 金 1000 円 の 根 拠 に つ い て は 説 得 力 が な い と い う こ と で の 批 判 が あ っ た 。次 に 、1000 円 の 妥 当 性 に つ い て 、 論 じ て み た い 。 筆 者 の 結 論 と し て は 、 1000 円 の 根 拠 は 十 分 で な い が 、 9500 円 の 根 拠 は 1000 円 の 根 拠 以 上 に 十 分 で は な く 、 で あ れ ば 9500 円 よ り 1000 円 の 方 が ま だ 望 ま し い と い う こ と で あ る 。 NTT ド コ モ 、 KDDI、 ソ フ ト バ ン ク の 携 帯 電 話 事 業 者 3 社 は 、 拘 束 期 間 中 の 違 約 金 を 9,500 円 と 設 定 し て い る 。 ま た 、 2 年 の 拘 束 期 間 経 過 後 の 違 約 金 も 9,500 円 と な っ て い る 。 違 約 金 に 関 し て は 3 社 横 並 び で 、 10 年 間 に 亘 り 9500 円 が 維 持 さ れ て い る 。 総 務 省 会 議 で は 、 違 約 金 が ど の よ う な 合 理 的 な 根 拠 で 算 定 さ れ て い る の か に つ い て の 質 問 に 対 し 、MNO 各 社 は 、 「 逸 失 利 益 の 平 均 額 を 下 回 る 範 囲 で 設 定 し て い る 、積 み 上 げ で は な く 市 場 で 決 ま る も の 」、 と の 説 明 が あ っ た 。 逸 失 利 益 に よ る の で あ れ ば 、 ARPU や コ ス ト に 依 存 す る の で 、MNO 各 社 の ARPU や コ ス ト が 異 な る の で あ れ ば 違 約 金 の 額 は 各 社 で 異 な る 筈 で あ り 、 ま た ARPU や コ ス ト が 毎 年 変 化 す る に も か か わ ら ず 10 年 間 下 が る こ と な く 同 じ で あ る の は な ぜ か と 質 問 し た が 、MNO 各 社 か ら 合 理 的 な 回 答 は 得 ら れ な か っ た 。違 約 金 に つ い て は 、 MNO 各 社 の 論 理 に 従 え ば 、 今 後 、 競 争 が 進 展 す る こ と で 、 料 金 が 大 幅 に 低 下 す る こ と が 期 待 さ れ る 中 、 例 え ば ARPU が 4 割 下 が り 利 益 率 も 大 幅 に 低 下 す れ ば 、 違 約 金 も 半 減 す る こ と が 期 待 で き る と い う こ と で も あ る 。

次 に 、一 歩 進 ん で 、こ こ で は 、違 約 金 の そ も そ も の 根 拠 に つ い て 経 済 学 的 に 考 え て み た い 。

ガ ス 業 界 や 電 力 業 界 あ る い は NTT 固 定 電 話 の 契 約 に お い て 、 一 定 期 間 内 で 解 約 す る 場 合 、 一

部 で は あ る が 違 約 金 が 発 生 す る ケ ー ス が あ る 。例 え ば 、新 規 顧 客 に サ ー ビ ス を 提 供 す る 場 合 、

加 入 者 宅 へ の 引 き 込 み に か か る 工 事 費 等 個 別 費 用 が 発 生 す る 。 ( 引 っ 越 等 で )個 別 費 用 回 収 前

に 顧 客 が 解 約 す る こ と に な れ ば 、 サ ン ク コ ス ト と と し て 未 改 修 費 用 分 が 企 業 負 担 と な る 。 も

ち ろ ん 、 違 約 金 に よ る 回 収 で は な く 、 個 別 費 用 を 広 く 薄 く 使 用 料 ( 通 信 料 ) に 上 乗 せ し て 全

顧 客 か ら 回 収 す る こ と も 可 能 で あ る 。 ガ ス ( プ ロ パ ン ) や 固 定 通 信 と い っ た 事 業 で 、 違 約 金

と い う 制 度 が 導 入 さ れ る こ と に は 、 こ の よ う な 背 景 が あ る と 考 え ら れ る 。 仮 に こ の 考 え 方 が

妥 当 で あ る と し た 場 合 、 同 じ 論 理 が 携 帯 電 話 ビ ジ ネ ス に 転 用 で き る の か 考 え て み た い 。 携 帯

電 話 で は 、 引 き 込 み 線 等 個 別 費 用 が わ ず か で あ る 。 モ バ イ ル 市 場 で は 、 顧 客 数 、 ト ラ フ ィ ッ

ク は 増 加 傾 向 あ り 、 需 要 増 加 に 対 応 す る た め 企 業 は 毎 年 追 加 投 資 を 行 っ て い る 。 あ る 顧 客 が

契 約 解 除 し て も 、 サ ン ク コ ス ト は な く 、 次 の 顧 客 、 追 加 の 需 要 が 存 在 す る こ と で 投 資 の 未 回

収 が 発 生 し な い と 考 え ら れ る 。 MNO 各 社 の 投 資 が 、 毎 年 の 解 約 数 も 考 慮 に 入 れ た 合 理 的 な 判

断 に 基 づ く 投 資 で あ り 、 設 備 増 強 が 継 続 し て い る の で あ れ ば 、 未 回 収 の サ ン ク コ ス ト が 発 生

す る こ と は 考 え に く い と い う こ と で あ る 。 こ の よ う に 考 え て い く と 、 モ バ イ ル ビ ジ ネ ス に お

け る 解 約 に 伴 う 違 約 金 は 極 め て 低 い 額 で よ い の で は な い だ ろ う か 。 し た が っ て 、 違 約 金 と し

て 9500 円 も 1000 円 も 、そ の 根 拠 は 不 明 確 で あ る が 、10 年 間 変 わ ら ず か つ 各 社 間 で 差 も な い

9500 円 よ り 1000 円 の 方 が ま だ 合 理 的 で あ る し 競 争 上 望 ま し い と い う の が 、 筆 者 の 意 見 で あ

っ た 。

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5 . 設 備 競 争 と サ ー ビ ス 競 争

次 に 、 音 声 卸 料 金 と デ ー タ 接 続 料 に つ い て 分 析 を 進 め て み た い 。 分 析 に 入 る 前 に 、 設 備 競 争 と サ ー ビ ス 競 争 、 接 続 料 金 と 卸 料 金 の 違 い に つ い て 簡 単 に 説 明 し て お く こ と に す る 。 電 気 通 信 事 業 に お い て 、 設 備 競 争 は 設 備 を 自 ら 設 置 ・ 所 有 し 、 サ ー ビ ス を 提 供 す る 事 業 者 同 士 の 競 争 で あ る 。 設 備 を 持 つ 事 業 者 同 士 は 、 お 互 い の 顧 客 と 通 信 を 行 う に あ た り 、 相 互 接 続 が 必 要 に な る 。 他 方 、 サ ー ビ ス 競 争 は 他 社 か ら 基 本 的 な 通 信 設 備 を 借 り て サ ー ビ ス を 提 供 す る 事 業 者 に よ る 競 争 で あ り 、 い わ ゆ る 再 販 サ ー ビ ス で あ る 。 す な わ ち 、 モ バ イ ル 通 信 市 場 ( 楽 天 参 入 前 )で は 、MNO3 社 が 互 い に 設 備 競 争 を 行 っ て お り 、MVNO 各 社 は MNO か ら 設 備・機 能 の 一 部 を 借 り て サ ー ビ ス を 提 供 す る こ と に な る 。モ バ イ ル 市 場( 楽 天 参 入 前 )で は 、MNO3 社 で 設 備 競 争 を し て き た が 、 競 争 が 十 分 で は な く 協 調 的 寡 占 と い う 市 場 構 造 が 継 続 さ れ た こ と で 、 さ ら な る 競 争 圧 力 が 必 要 と 考 え ら れ る よ う に な り 、MVNO に よ る サ ー ビ ス 競 争 促 進 と 新 規 企 業 の 参 入( 楽 天 )を 認 め る こ と に な っ た 。設 備 を 持 た な い MVNO 各 社 は 、MNO か ら 提 供 さ れ る 通 信 サ ー ビ ス を 、卸 と い う 形 態 に よ り サ ー ビ ス ベ ー ス で 借 り る こ と に よ り 自 己 の 顧 客 に 提 供( 再 販 売 ) す る 、 あ る い は 接 続 ( ア ン バ ン ド ル ) と い う 形 態 で MNO の 設 備 ・ 機 能 を 使 用 し て サ ー ビ ス を 提 供 す る こ と に な る 。

接 続 料 金 と 卸 料 金 の 大 き な 違 い は 、 接 続 料 金 が 合 理 的 な コ ス ト に 基 づ く 料 金 ( 原 価 + 適 正 利 潤 ) で あ る の に 対 し 、 卸 料 金 は い わ ゆ る リ テ ー ル マ イ ナ ス で 料 金 が 決 ま る と い う こ と で あ る 。 そ の 意 味 で 、 卸 料 金 は コ ス ト に 基 づ く 料 金 で は な く 、 ユ ー ザ ー 料 金 か ら 営 業 費 等 を 差 し 引 い た 料 金 で あ る 。 さ ら に 、 接 続 料 金 は 、 認 可 料 金 で あ る の に 対 し 、 卸 料 金 は 相 対 交 渉 と い っ た 事 業 者 間 の 交 渉 に よ り 決 定 さ れ る 。

モ バ イ ル 市 場 に お い て は 、MVNO は 音 声 サ ー ビ ス の 提 供 に お い て 、NMO の 音 声 卸 サ ー ビ ス( 役 務 ) を 購 入 し 、 音 声 サ ー ビ ス の 再 販 売 を 行 っ て い る 。 現 実 的 に は 、 不 可 欠 性 や 交 渉 上 の 優 位 性 が 存 在 す る こ と に よ り 、卸 に つ い て は 利 用 条 件 の 適 切 性 、公 平 性 、透 明 性 等 の 問 題 が あ り 、 競 争 上 の イ コ ー ル フ ッ テ ィ ン グ が 確 立 で き て い な い と い う 問 題 が 指 摘 さ れ て い る 。

6 . 音 声 卸 料 金

音 声 卸 料 金 は 、 基 本 料 と 通 話 料 か ら な る 。 NTT ド コ モ は 、 基 本 料 1,486 円 、 通 話 料 20 円 ・ /30 秒 の 従 量 制 の 利 用 者 料 金 を ベ ー ス と し て 、 基 本 料 666 円 、 通 話 料 14 円 /30 秒 の 従 量 制 の 音 声 卸 料 金 を 2011 年 に 設 定 し 、 そ の 後 接 続 料 の 低 廉 化 や 利 用 者 料 金 の 多 様 化 が 進 ん で い る に も か か わ ら ず 、音 声 卸 料 金 の 見 直 し は 行 わ れ て い な い 。2019 年 4 月 の「 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 」で は 音 声 卸 料 金 が 高 止 ま り し て い る こ と に つ い て 、MVNO、MNO へ の ヒ ア リ ン グ を 実 施 し 、 構 成 員 で 議 論 を 行 っ た 。

音 声 卸 料 金 に 関 す る ヒ ア リ ン グ で は 、MVNO か ら「 MVNO が MNO と 卸 契 約 の 下 で 同 等 の サ ー ビ

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ス や 料 金 プ ラ ン を 提 供 で き る か に つ い て 検 証 が 必 要 で 、 必 要 に 応 じ て そ の 料 金 水 準 が 是 正 さ れ る こ と が 望 ま し い 。」、 「 MNO が 定 額 料 金 を 主 体 と し て サ ー ビ ス を 展 開 し て い る 中 で 、事 業 者 間 協 議 を 通 し て MVNO 向 け 定 額 料 金 の 提 供 を 要 望 し て も 、 MNO は 実 質 的 に そ れ を 受 け 入 れ ず 、 競 争 力 の な い 状 態 が 継 続 し て い る 。」 と い っ た 意 見 が 寄 せ ら れ た 。 ま た 、 MNO と し て は 、「 今 後 、MVNO の 要 望 に 基 づ い て 音 声 卸 料 金 の 見 直 し の 実 施 を 検 討 す る 。」、 「 音 声 卸 料 金 に つ い て 、 色 々 な 割 引 を 考 慮 し た 利 用 者 料 金 を ベ ー ス に 考 え て い く こ と も あ り 得 る 。」 等 の コ メ ン ト も あ っ た 。

MNO か ら は 少 し 前 向 き な 対 応 に つ い て の 発 言 が あ っ た が 、 今 回 は 長 き に 亘 り 卸 料 金 が 高 止 ま り し て い る こ と が 問 題 視 さ れ 、研 究 会 と い う 公 の 場 で 議 論 さ れ た こ と に よ り 、し ぶ し ぶ MNO 各 社 は 何 ら か の 形 で 対 応 す る と 言 わ ざ る を え な い 状 況 に な っ た と 考 え ら れ る 。そ も そ も 10 年 間 、 高 止 ま り が 続 い た と い う こ と 自 体 が 問 題 で あ り 、 そ う い っ た 事 実 は 、 MNO に は 通 信 コ ス ト 低 下 に 連 動 し た 形 で 卸 料 金 を 継 続 的 に 低 廉 化 す る イ ン セ ン テ ィ ブ が な い こ と を 示 し て お り 、 継 続 的 な 卸 料 金 の 低 廉 化 が 期 待 で き る よ う な ル ー ル 整 備 が 不 可 欠 で あ る と い う こ と の 証 左 で も あ る 。構 成 員 の 意 見 を 踏 ま え 、同 報 告 書 で は 、MNO と MVNO と の 間 で 公 正 競 争 上 の 問 題 が 懸 念 さ れ る の で 、ま ず は 価 格 圧 搾 の 可 能 性 を 検 証 す る こ と が 適 当 と い う 判 断 が 示 さ れ て い る( モ バ イ ル 研 究 会 中 間 報 告 書 2019 年 4 月 )。

そ の 後 、音 声 卸 料 金 の 見 直 し に つ い て 、2019 年 11 月 15 日 、日 本 通 信 が 総 務 大 臣 裁 定 を 申 請 し た 。 日 本 通 信 は 、 NTT ド コ モ か ら 卸 提 供 を 受 け る 音 声 通 話 サ ー ビ ス に つ い て 、 総 務 省 に

( 1 )音 声 通 話 サ ー ビ ス の 卸 提 供 に か か る 料 金 の 見 直 し 、( 2 )「 か け 放 題 オ プ シ ョ ン 」「 5 分 通 話 無 料 オ プ シ ョ ン 」に 相 当 す る プ ラ ン の 卸 提 供 の 2 つ を 求 め た 。そ し て 、2020 年 6 月 30 日 、電 気 通 信 紛 争 処 理 委 員 会 の 審 査 を 経 て( 1 )に つ い て は「 ド コ モ の MVNO 向 け 音 声 通 話 の 卸 料 金 、 見 直 し が 妥 当 」 と い う 裁 定 が 定 ま る こ と で 、 音 声 卸 料 は 80%減 額 す る 方 向 が 決 ま る こ と に な っ た (「 岐 路 に 立 つ MVNO 下 」 日 刊 工 業 新 聞 2020 年 12 月 28 日 )。

2020 年 、 並 行 し て 「 接 続 料 の 算 定 に 関 す る 研 究 会 」 で 卸 役 務 の 問 題 が 議 論 さ れ 、「 不 可 欠

性 や 交 渉 上 の 優 位 性 を 有 す る と 考 え ら れ る 指 定 設 備 に つ い て 、 接 続 に よ る 代 替 が 実 質 的 に 困

難 な 場 合 、 他 事 業 者 は 、 不 可 欠 性 や 交 渉 の 優 位 性 に 対 す る 手 当 が 不 十 分 な 環 境 で 交 渉 を 行 う

こ と に な る 」 こ と の 問 題 が 指 摘 さ れ た 。 基 本 的 な 考 え 方 と し て 、 交 渉 で 決 ま る 卸 料 金 に 関 し

て そ の サ ー ビ ス に 不 可 欠 性 が あ り 、 交 渉 上 の 優 位 性 が あ っ た と し て も 、 接 続 料 が コ ス ト ベ ー

ス で 設 定 さ れ て い る の で あ れ ば 、 そ の 接 続 料 が ベ ン チ マ ー ク と な り え る こ と に よ り 何 ら 合 理

的 な 卸 料 金 が 実 現 で き る 可 能 性 が あ る と い う こ と で あ る 。 別 の 言 い 方 を す れ ば 、 接 続 と い う

代 替 的 手 段 が 限 ら れ て い る あ る い は 接 続 料 自 体 の 適 切 性 が 十 分 と い え な い 場 合 、 相 対 交 渉 で

決 ま る 卸 の 料 金 に お い て も そ の 適 切 性 に 問 題 が あ り う る と い う こ と で あ る 。 ド コ モ か ら は 、

卸 に よ る 音 声 サ ー ビ ス 提 供 の 代 替 案 と し て 、 中 継 電 話 サ ー ビ ス を 活 用 し て 通 話 料 を 安 く す る

プ レ フ ィ ッ ク ス 番 号 付 与 サ ー ビ ス 実 現 の 提 案 が あ り 、 他 の MNO も 同 様 の 対 応 を 実 現 す る よ う

努 力 す る と の 提 案 が な さ れ た 。 構 成 員 に よ る 議 論 の 結 果 、 総 務 省 と し て は 、 そ の よ う な 新 サ

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ー ビ ス の 実 現 ま で に そ れ な り の 期 間 も 要 し 、 実 現 さ れ た 場 合 で も 、 実 際 の 利 用 料 金 等 が 未 定 で あ る 現 段 階 で 、 高 止 ま り し た 音 声 卸 料 金 を 放 置 し て お く こ と は 合 理 的 で な い と 判 断 す る こ と に な っ た 。

検 証 の 結 果 、モ バ イ ル 音 声 卸 に つ い て 、現 時 点 で は 代 替 性 が あ る と は 評 価 で き な い 。 ( 評 価 基 準 に 照 ら し て 、代 替 性 が 評 価 さ れ な い )と し、 「 モ バ イ ル 音 声 卸 」に つ い て 、MNO か ら 接 続 に よ る 代 替 性 を 高 め る 取 組 に つ い て 提 案 が あ っ た と こ ろ で あ り 、 事 業 者 間 に お い て 実 現 に 向 け た 協 議 を 行 う と と も に 、 総 務 省 に お い て は そ の 協 議 の 状 況 を 適 切 に フ ォ ロ ー し 、 接 続 の 代 替 性 を 高 め て い く こ と が 必 要 」 と さ れ た (「 接 続 料 の 算 定 等 に 関 す る 研 究 会 」 2020 年 6 月 30 日 会 合 資 料 )。

7 . デ ー タ 接 続 料

モ バ イ ル の デ ー タ 接 続 料 は 、実 質 原 価 に 基 づ き 算 定 さ れ て き た(「 実 績 原 価 方 式 」)。従 来 の ル ー ル( 図 4 )で は 、需 要 や 原 価 等 の 実 績 値 は 、2 年 後 に な っ て 確 定 す る 。例 え ば 、2019 年 度 の 実 際 の 接 続 料 は 2020 年 度 末 に 確 定 さ れ る こ と に な る 。 す な わ ち 、 2019 年 度 接 続 料 は 、 2018 年 度 末 に 確 定 さ れ た 2017 年 度 の 実 績 値 に 基 づ き 算 定 さ れ た 接 続 料 を 仮 の 接 続 料 と し て MVNO は MNO に 支 払 い を 行 い 、 2019 年 末 及 び 2020 年 度 末 に 2018 年 度 及 び 2019 年 度 の 実 績 値 に 基 づ き 算 定 さ れ る 接 続 料 に よ り 一 次 ・ 二 次 の 精 算 が 行 わ れ る こ と に な っ て い る 。 ま た 、 接 続 料 の 算 定 根 拠 に つ い て 、一 種 指 定 制 度 で は 認 可 に 係 る 意 見 募 集 の 際 等 に 公 表 さ れ て い る が 、 届 出 制 で あ る 二 種 指 定 制 度 で は 十 分 な 情 報 が 公 表 さ れ て お ら ず 、 MVON か ら は 接 続 料 の 適 正 性 ・ 透 明 性 が 十 分 で な い こ と が 問 題 と し て 指 摘 さ れ て い る 。 さ ら に 、 最 終 的 な 支 払 額 が 翌 年 度 末 に な ら な い と 確 定 し な い こ と か ら 、MVNO に お け る 経 営 上 の 予 見 性 が 損 な わ れ る こ と が 問 題 と な っ て い る 。 特 に 、 接 続 料 は 毎 年 低 減 傾 向 に あ り 、 前 々 年 度 の 原 価 等 の 実 績 値 に 基 づ く 高 い 接 続 料 に よ り 暫 定 的 な 支 払 い が 行 わ れ る こ と に な り 、 MVNO に お い て 、 過 大 な キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 負 担 が 生 じ て い る と の 指 摘 も あ る 。例 え ば 、ド コ モ の 2019 年 度 の 暫 定 接 続 料 は 2017 年 度 の 実 績 値 を 用 い て 52.4 万 円( 万 円 /10Mbps・月 )。2020 年 度 末 に 確 定 し た 2019 年 度 の 実 際 の 接 続 料 は 19%安 の 42.7( 万 円 /10Mbps・月 )で あ っ た 。実 に 、MVNO は 当 初 19%高 い 暫 定 接 続 料 を 支 払 わ さ れ た こ と に な る 。同 様 に 、MVNO 各 社 は 、当 初 、KDDI で は 31%、ソ フ ト バ ン ク で は 35%も 高 い 接 続 料 を 支 払 わ さ れ る こ と に な っ た 。 こ の よ う な 問 題 を 少 し で も 改 善 す べ き と い う こ と で 、2019 年 4 月 の「 モ バ イ ル 研 究 会 中 間 報 告 書 」で 、デ ー タ 接 続 料 の 透 明 性・予 見 可 能 性 を 高 め る た め 、 「 将 来 原 価 方 式( 予 測 値 )」の 導 入 が 示 唆 さ れ る こ と に な っ た( 図 4 )。

そ の 後 、 議 論 の 場 を 「 接 続 料 の 算 定 に 関 す る 研 究 会 」 に 移 し 、 接 続 料 に 関 す る 固 定 通 信 に

お い て 蓄 積 さ れ た 知 見 を 活 用 し つ つ 議 論 を 進 め 、 2020 年 4 月 の 接 続 料 か ら 「 将 来 原 価 方 式 」

導 入 が 実 現 す る こ と と な っ た 。 将 来 原 価 方 式 に お い て デ ー タ 接 続 料 は 、 過 去 の ト レ ン ド や 将

来 の 事 業 計 画 に 基 づ き 将 来 需 要 や 設 備 投 資 の 予 想 を ベ ー ス に 計 算 さ れ る こ と に な る 。 予 測 値

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は 実 際 の 数 値 と 必 ず し も 一 致 す る も の で は な い が 、 2 年 前 の 実 績 値 を 仮 の 接 続 料 と す る 従 来 ル ー ル に 比 べ 、 予 測 値 を 用 い る こ と で 、 2 年 後 に 算 定 さ れ る 実 績 値 と の 乖 離 額 が 大 幅 に 縮 小 さ れ 、 事 後 的 な 精 算 額 が 縮 小 す る こ と が 期 待 さ れ る 。 ま た 、 MNO が デ ー タ 接 続 料 の 3 年 間 の 将 来 予 測 を 公 表 す る こ と で 、 MVNO に と っ て 、 予 見 可 能 性 が 大 き く 改 善 さ れ る こ と に な っ た 。

透 明 性 に つ い て は 、 総 務 省 に お い て 、 2019 年 度 に 適 用 さ れ る 接 続 料 ( 2018 年 度 末 に 届 出 ) か ら 、 提 出 を 受 け た 算 定 根 拠 に つ い て 、 審 議 会 へ の 報 告 を 行 い 、 可 能 な 範 囲 で 公 表 さ れ る よ う に す る こ と に な る 。 ま た 、 接 続 料 の 算 定 方 法 の 検 討 に 際 し て は 、 実 際 に 提 出 さ れ た 算 定 根 拠 を そ の 検 討 の 場 に 示 す こ と が 求 め ら れ た 。 こ の よ う に 、 予 見 可 能 性 、 透 明 性 に 関 し て は 、 改 善 が 期 待 で き る 状 況 に な っ た が 、 接 続 料 の 適 正 性 に つ い て は 、 今 な お 検 討 の 余 地 が あ り 、 こ の こ と が 次 に 取 り 組 む べ き 大 き な 課 題 と し て 残 る こ と に な っ た 。

接 続 料 の 算 定 に 関 す る 研 究 会 「 モ バ イ ル 接 続 料 の 適 正 性 向 上 に つ い て 論 点 P.4」)

図 5 デ ー タ 接 続 料 の 現 状

図 4 デ ー タ 接 続 料 の 将 来 原 価 方 式 へ の 移

総 務 省 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 「 中 間 報 告 書 」 P.50)

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2019 年 度 末 、 MNO 各 社 か ら 将 来 原 価 の 予 測 結 果 が 公 表 さ れ ( 図 5 )、 2020 年 度 か ら 将 来 原 価 と し て 試 算 さ れ た デ ー タ 接 続 料 が 認 可 さ れ る こ と に な っ た 。例 え ば 、試 算 さ れ た 2020 年 度 デ ー タ 接 続 料 は 、ド コ モ 41.4 万 円 、KDDI32.3 万 円 、ソ フ ト バ ン ク 31.1 万 円 で 、2022 年 に は そ れ ぞ れ 27.9 万 円 、25.4 万 円 、24.8 万 円 。予 測 値 で 見 る と、デ ー タ 接 続 料 は 2019 年 度 に 比 べ 、 3 年 で お よ そ 半 額 に な る こ と が 示 さ れ て い る 。

8 . グ ル ー プ 内 で の 金 銭 的 補 助 ( ミ ル ク 補 給 ) の 議 論

MVNO は MNO か ら デ ー タ 接 続 料 を 支 払 い 回 線 容 量 を 借 り る こ と で サ ー ビ ス を 提 供 し て い る 。 デ ー タ 接 続 料 額 は MVNO の コ ス ト の 多 く を 占 め る こ と に な り 、コ ス ト を 抑 え る た め 、契 約 す る 回 線 容 量 に は 限 界 が あ る 。 そ こ で 、 昼 間 の 利 用 集 中 時 に は 速 度 が 落 ち る こ と が あ る 。 他 方 、 MNO の サ ブ ブ ラ ン ド や 子 会 社 ( 2019 年 当 時 ) で あ る UQ は 、 同 じ 価 格 帯 で 、 MVNO と 比 べ よ り 高 い 品 質 の サ ー ビ ス が 提 供 で き る と 言 わ れ る 。そ こ で 、 「 MNO か ら 提 供 さ れ る 資 金( 条 件 )で 競 争 上 の 有 利 性 を 作 り 出 し て い る と い う 批 判 が あ り 、 こ の 金 銭 的 補 助 を 「 ミ ル ク 補 給 」 と 呼 ん で い る 。図 6 の 左 が MNO 内( サ ブ ブ ラ ン ド )へ の 補 助 、中 ほ ど が グ ル ー プ 内 MVNO( 例 え ば UQ)へ の 補 助 を 示 し た も の で あ る 。こ の 見 え な い 補 助 に よ り 、MVNO と の 競 争 に お い て MNO に は 価 格 優 位 性 あ る い は 通 信 品 質( 速 度 )上 の 優 位 性 が 実 現 さ れ 、MVNO に お け る 競 争 上 の イ コ ー ル フ ッ テ ィ ン グ が 阻 害 さ れ て い る の で は な い か と い う こ と で あ る 。

2018年 4月 、「 モ バ イ ル検 討 会 」 最 終 報 告 書 に お い て 、 い わ ゆ る 「 ミ ル ク 補 給 」 に つ い て の 問 題 が 提 起 さ れ て い る 。「 サ ブ ブ ラ ン ド を 含 む NMOサ ー ビ ス の 料 金 等 の 提 供 条 件 が そ の 費 用 等 の 関 係 に お い て 適 正 な 水 準 の あ る の か 、 ま た グ ル ー プ 内 MVNOに よ る ネ ッ ト ワ ー ク 提 供 に 際 し て の 事 実 上 の 金 銭 的 補 助 ( い わ ゆ る 「 ミ ル ク 補 給 」) が あ る が 故 に 上 記 の 多 額 の 支 払 い が 可 能 と な っ て い る の か に つ い て は 、 こ れ ま で 収 入 額 、 費 用 等 の デ ー タ が 十 分 に 得 ら れ て お ら

総 務 省 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 「 中 間 報 告 書 」 P.50)

図 6 検証 の必要 性(イ メージ)

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ず 、 必 要 な 検 証 が 行 わ れ て い な い 。」 と し 、「 MNOグ ル ー プ の サ ー ビ ス 提 供 ( い わ ゆ る サ ブ ブ ラ ン ド や グ ル ー プ の MVNOに よ る も の を 含 む 。 ) に つ い て 、 サ ー ビ ス の 提 供 条 件 や グ ル ー プ 内 取 引 に お い て 、 不 当 な 差 別 的 取 扱 い や 競 争 阻 害 等 の 不 当 な 運 営 に 当 た る も の が な い か 、 MNO 3 社 に つ い て 検 証 を 行 う こ と と し 、 そ の た め の 会 計 の 専 門 家 を 含 む 検 討 体 制 を 設 け る こ と が 必 要 で あ る 。 」 と 示 さ れ て い る 。 ま た 、 「 モ バ イ ル 研 究 会 」 第 7 回 会 合 説 明 資 料 ( 2019年 1 月 22日 ) で は 、 MNOに よ り 、 「 ① 接 続 料 等 に 照 ら し て ユ ー ザ ー 料 金 が 低 す ぎ る あ る い は ② グ ル ー プ 内 の MVNOに 対 し て ネ ッ ト ワ ー ク 提 供 に 際 し て の 事 実 上 の 金 銭 的 補 助 が 行 わ れ て い る と き は 、 同 等 な 競 争 が 行 わ れ な い お そ れ が あ る 。 」 と 指 摘 し 、 以 下 の 様 な 政 策 対 応 を 示 唆 し た 。

① に つ い て は 、 価 格 圧 搾 に よ り 、 他 の MVNOに よ る サ ー ビ ス 提 供 を 事 実 上 阻 害 す る 危 険 性 が あ る こ と に よ り 、 接 続 料 と 利 用 者 料 金 の 関 係 を 吟 味 し 、 価 格 圧 搾 に よ る 競 争 阻 害 行 為 を 確 認 す る と い う こ と で あ っ た 。 さ ら に 、 ② に つ い て は 、 ま ず は 、 MNOの グ ル ー プ 内 の MVNOが 提 供 す る サ ー ビ ス に つ い て 、 上 記 ① と 同 様 の 確 認 を 行 っ た 上 で 、 さ ら に 必 要 な 検 証 を 進 め る と い う 内 容 で あ っ た 。 そ の 後 、 全 国 BWA事 業 者 2 社 ( WCP、 UQ) の 設 置 す る 設 備 に 接 続 さ れ る 端 末 の シ ェ ア が 10% を 超 え た た め 、 2019年 8月 、 当 該 2 社 の 設 備 を 二 種 指 定 制 度 の 適 用 対 象 と し て 指 定 す る こ と と な っ た 。 こ の 指 定 に よ り 、 接 続 料 の 算 定 の 基 礎 と な る 接 続 会 計 の 整 理 ・ 公 表 、 並 び に 接 続 料 等 を 記 載 し た 接 続 約 款 の 策 定 ・ 届 出 義 務 が 課 さ れ る こ と と な っ た 。 二 種 指 定 さ れ た こ と で 、 接 続 料 会 計 を 公 表 す る 等 の プ ロ セ ス を 通 じ て 、 筆 者 と し て は 、 例 え ば UQモ バ イ ル に 関 し て 、 ミ ル ク 補 給 検 証 を 可 能 と す る 経 営 情 報 が あ る 程 度 入 手 可 能 に な る こ と を 期 待 し た と こ ろ で あ る 。 し か し な が ら 、 2020年 5月 、 KDDIは UQモ バ イ ル の 統 合 を 発 表 。 2020年 10月 に 、 UQモ バ イ ル は Yモ バ イ ル 同 様 、 auの 一 ブ ラ ン ド と な り 、 二 種 指 定 事 業 者 で は な く な る こ と と な っ た 。 そ こ で 、 MVNOと の 公 正 競 争 環 境 整 備 の 議 論 は 、 MVNOと サ ブ ブ ラ ン ド 間 の イ コ ー ル フ ッ テ ィ ン グ 議 論 へ と 移 行 す る こ と に な っ た 。

9 . サ ブ ブ ラ ン ド と MVNO と の イ コ ー ル フ ッ テ ィ ン グ 議 論

2020 年 10 月 、ド コ モ が 低 価 格 の 新 料 金 プ ラ ン ahamo( 2021 年 3 月 開 始 )を 公 表 。そ の 後 、 日 本 通 信 が さ ら に 格 安 の 新 サ ー ビ ス プ ラ ン 提 供 で 対 抗 す る こ と に な り 、 さ ら に MNO 各 社 がこ れ に 追 随 し た 。 格 安 の 料 金 プ ラ ン の 追 加 は 、 も ち ろ ん 利 用 者 に と っ て 望 ま し い こ と で あ る 。 し か し な が ら 、 ユ ー ザ ー 間 の 公 平 性 並 び に 公 正 競 争 環 境 整 備 の 観 点 か ら 、 慎 重 な 議 論 が 必 要 と 思 わ れ る 。

図 7 は 縦 軸 が 月 額 料 金 、横 軸 が デ ー タ 容 量 で 、各 社 の 新 料 金 プ ラ ン が 中 央 右 下 の 位 置( 20GB

帯 ) に 示 さ れ て い る 。 格 安 プ ラ ン は 消 費 者 に と っ て 魅 力 的 な サ ー ビ ス で あ る が 、 筆 者 は い く

つ か の 点 で 問 題 が あ る と 考 え て い る 。第 一 に 、ユ ー ザ ー 間 の 公 平 性 で あ る 。例 え ば 、20GB で

2980 円 の 新 料 金 プ ラ ン に 対 し 、30GB の 料 金 プ ラ ン に な る と 一 気 に 料 金 が 2.5 倍 に も な る 。ユ

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ー ザ ー 間 の 公 平 性 、 す な わ ち 20GB 料 金 プ ラ ン の ユ ー ザ ー へ の 大 容 量 料 金 プ ラ ン ユ ー ザ ー か ら の 内 部 補 助 ( 共 通 費 等 の 傾 斜 配 分 等 ) が 懸 念 さ れ る 。 も ち ろ ん 、 新 料 金 プ ラ ン で は Web 受 付 の み 等 の コ ス ト 削 減 策 も あ る し 、 端 末 を 制 限 す る 等 で ユ ー ザ ー を 限 定 す る 可 能 性 も あ る 。 し か し な が ら 、 想 定 さ れ る コ ス ト 差 が 、 市 場 に お け る 料 金 差 を 説 明 で き る も の で あ る か 大 い に 疑 問 で あ る 。 固 定 費 ・ 共 通 費 の 配 布 が サ ー ビ ス 間 で 大 き く 異 な り 、 負 担 の 公 平 性 と い う 点 で 、 問 題 が な い か 、 検 証 す る 必 要 が あ る 。

次 に 、 MNO 各 社 の 新 プ ラ ン に に つ い て 、 MNO と MVNO と の 公 正 競 争 条 件 が 確 保 さ れ て い る か が 問 題 と な っ て い る 。 実 際 、 デ ー タ 接 続 料 並 び に 音 声 卸 料 金 が 高 止 ま り の ま ま ユ ー ザ ー 料 金 が 大 幅 に 引 下 げ ら れ た こ と に よ り 、MVNO も 赤 字 覚 悟 で 値 下 げ に 踏 み 切 ら ざ る を 得 な い 状 況 と な り 、 MNO と MVNO の 競 争 上 の イ コ ー ル フ ッ テ ィ ン グ が 議 論 さ れ る こ と と な っ た 。

す な わ ち 、図 8 で 示 さ れ る よ う に 、MVNO が MNO に 支 払 う 音 声 卸 料 金 と デ ー タ 接 続 料 の 合 計 は 、MVNO の サ ー ビ ス 提 供 費 用 の 太 宗 を 占 め る 。し た が っ て 、音 声 卸 料 金 と デ ー タ 接 続 料 を MNO が ど れ ど け 下 げ る こ と が で き る か で 、MVNO が MNO 各 社 の 新 料 金 プ ラ ン に 対 抗 で き る か が 決 ま っ て し ま う こ と に な る 。

音 声 卸 料 金 に つ い て は 、 先 の 大 臣 裁 定 で そ の 料 金 は コ ス ト ベ ー ス で あ る こ と が 定 ま っ て お り 、7 割 、8 割 の 料 金 引 下 げ が 期 待 さ れ て い る 。デ ー タ 接 続 料 に つ い て は 、将 来 原 価 方 式 導 入 に よ り 事 後 の 精 算 額 が 減 少 し 、 予 見 性 ・ 透 明 性 は 高 め る こ と が 可 能 と な っ た が 、 接 続 料 金 水 準 の 適 正 性 つ い て は 今 後 の 検 証 と な っ て い る 。

図 7 携 帯 電 話 事 業 者 各 社 の 主 な 料 金 プ ラ ン の 比 較

接 続 料 の 算 定 等 に 関 す る 研 究 会 第 (40回 )「 携 帯 電 話 料 金 と 接 続 料 等 の 関 係 に つ い て 」 P.3

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総 務 省 で 行 わ れ た 「 接 続 料 の 算 定 に 関 す る 研 究 会 ( 2020 年 1 月 19 日 )」 で は 、 MNO サ ブ ブ ラ ン ド と MVNO の 競 争 に お け る イ コ ー ル フ ッ テ ィ ン グ に 関 し て 、集 中 的 な 議 論 が な さ れ た 。本 来 、デ ー タ 接 続 料 、音 声 卸 料 金 の 低 廉 化 と 並 行 し て サ ブ ブ ラ ン ド 並 び に MVNO の 価 格 競 争 が 促 進 さ れ る は ず で あ る 。 接 続 料 ・ 卸 料 金 が 一 定 の ま ま で 、 MNO の 新 料 金 プ ラ ン で ユ ー ザ ー 料 金 が 大 幅 に 下 が る の は 不 自 然 で あ り 、 そ う で あ れ ば 他 の サ ー ビ ス ・ 他 の ユ ー ザ ー か ら の 補 填 が 疑 わ れ る こ と に な る 。 さ ら に MNO サ ブ ブ ラ ン ド と MVNO と の イ コ ー ル フ ッ テ ィ ン グ の 検 証 に お い て は 、 ス タ ッ ク テ ス ト と 接 続 料 ・ 卸 料 金 の 適 正 性 検 証 の 2 つ の ア プ ロ ー チ が あ り 、 こ れ ら は 同 時 並 行 し て 検 証 さ れ る べ き も の で あ る 。

ス タ ッ ク テ ス ト は 価 格 圧 搾( Price Squeeze)の 検 証 に 用 い る テ ス ト で あ る 。す な わ ち 、サ ブ ブ ラ ン ド の 価 格 と 接 続 に 係 わ る コ ス ト を 比 較 し 、 そ の 差 が 適 切 な 営 業 費 を 越 え て い る か を 検 証 す る も の で あ る 。適 切 な 営 業 費 も 賄 え な い よ う な 低 い ユ ー ザ ー 料 金 で 競 争 を 挑 ん だ 場 合 、 そ の 接 続 に 関 す る 費 用 を 支 払 っ て 競 争 す る MVNO は 競 争 で き な い と い う こ と に な る 。 ス タ ッ ク テ ス ト が 満 た さ れ な い 場 合 、テ ス ト を 満 た す た め に 、MNO は ユ ー ザ ー 料 金 を 引 き 上 げ る か 、 あ る い は 接 続 に 関 す る 料 金 を 引 下 げ る 必 要 が あ る 。

ス タ ッ ク テ ス ト と 並 行 し 、 接 続 料 が コ ス ト に 基 づ い た 適 正 な も の で あ る か 、 常 に 検 証 し て い く 必 要 が あ る 。 仮 に ス タ ッ ク テ ス ト を 満 た し た と し て も 、 接 続 料 が 合 理 的 な コ ス ト に 比 べ 割 高 で あ る 可 能 性 は 残 る 。 こ の 場 合 、 MNO も MVNO も 同 様 に 高 い 接 続 料 を ( MNO に つ い て は 接 続 料 相 当 分 を コ ス ト と し て ) 支 払 っ て い る こ と に な る 。 こ の よ う に 、 ス タ ッ ク テ ス ト は 、 ユ

図 8 携 帯 料 金 の コ ス ト 構 造 に つ い て ( イ メ ー ジ )

接 続 料 算 定 等 に 関 す る 研 究 会 第 (40回 )「 携 帯 電 話 料 金 と 接 続 料 等 の 関 係 に つ い て 」 P.6

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ー ザ ー 料 金 と の 関 係 で コ ス ト 引 下 げ の 圧 力 を 作 り 出 す も の で あ り 、 他 方 、 接 続 料 の 適 正 性 検 証 は 、 合 理 的 な コ ス ト を 精 査 す る こ と で デ ー タ 接 続 料 引 下 げ の 圧 力 を 作 り 出 す こ と に な る 。

「 接 続 料 の 算 定 に 関 す る 研 究 会 ( 2020 年 2 月 8 日 )」 に お い て は 、 非 公 開 で MNO、 MVNO 各 社 の ス タ ッ ク テ ス ト 試 算 値 に 基 づ く 意 見 交 換 が 行 わ れ た 。 今 後 、 総 務 省 に て 、 ス タ ッ ク テ ス ト の 検 証 が 行 わ れ る 予 定 で あ り 、 そ の 後 、 デ ー タ 接 続 料 、 音 声 卸 料 金 の 適 正 性 検 証 が 進 め ら れ る こ と が 求 め ら れ て い る 。

10. お わ り に

筆 者 は 、モ バ イ ル 市 場 に お け る 競 争 促 進 政 策 が 本 格 的 に 議 論 さ れ た の は 、 「 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 」 2018 年 10 月 か ら で あ る と 認 識 し て い る 。 も ち ろ ん 、 そ れ ま で に い く つ か の 研 究 会 で モ バ イ ル 市 場 の 競 争 促 進 に つ い て の 議 論 が 行 わ れ 、 そ の 都 度 、 消 費 者 に 対 す る 合 理 的 選 択 の 自 由 を 確 保 し 、 事 業 者 間 の 競 争 促 進 に 向 け た 政 策 が 実 現 さ れ て き た こ と は 事 実 で あ る 。 し か し 、 モ バ イ ル 市 場 に お け る 競 争 促 進 政 策 は 、 上 記 の 研 究 会 を 通 じ て 今 ま で に は な か っ た 速 さ で 様 々 な 問 題 が 議 論 さ れ 、 課 題 解 決 に 向 け た 抜 本 的 な 取 り 組 み が な さ れ て き た と い っ て よ い だ ろ う 。 そ れ は 、 携 帯 電 話 料 金 引 下 げ を 指 示 す る 政 治 的 な 圧 力 、 料 金 負 担 の 低 減 や わ か り に く さ と い っ た 問 題 解 決 を 求 め た 世 論 も あ っ た が 、 モ バ イ ル 市 場 の 技 術 革 新 ・ サ ー ビ ス 革 新 が 今 ま で 以 上 に 加 速 さ れ 、 今 後 、 新 サ ー ビ ス ・ 新 事 業 の 成 長 が 期 待 さ れ る こ と 等 、 や は り モ バ イ ル の 社 会 的 イ ン フ ラ と し て の 役 割 が 大 き く 変 わ っ て き た こ と が そ の 背 景 に 存 在 す る と 考 え ら れ る 。 さ ら に 、 コ ロ ナ 禍 の こ の 1 年 で 、 働 き 方 、 学 び 方 、 生 活 の 仕 方 が 大 き く 変 わ り 始 め る こ と に な っ た 。 Online( 固 定 ・ 携 帯 ) で の 会 議 、 授 業 が 一 般 化 し 、 仕 事 や 生 活 の 隅 々 に ま で ネ ッ ト を 使 っ た 新 し い サ ー ビ ス が 広 く 浸 透 し つ つ あ る 。 さ ら に 5 G の 普 及 に よ り 、 あ る い は ネ ッ ト ワ ー ク の 機 能 仮 想 化 が 実 現 さ れ る こ と に よ り 、 こ れ か ら の 3 年 5 年 で 、モ バ イ ル 市 場 は 今 ま で に な い 速 さ で 次 の 時 代 に 向 け 進 化 し て い く こ と が 予 想 さ れ る 。 そ し て 、 新 技 術 、 新 サ ー ビ ス が 生 ま れ 、 市 場 環 境 が 大 き く 変 わ っ て い く 今 日 、 そ の 変 化 に 対 応 す る た め に 、 競 争 ル ー ル の 継 続 的 な 見 直 し が 求 め ら れ て い る 。

最 後 に 、 必 ず し も 競 争 の 結 果 で は な く 、 今 回 、 競 争 ル ー ル が 整 備 さ れ る 前 に MNO 各 社 の新

プ ラ ン が 公 表 さ れ 、 新 た に 低 料 金 の サ ー ビ ス が 実 現 し つ つ あ る こ と に つ い て 、 筆 者 は 、 冷 静

な 議 論 が 必 要 と 考 え て い る 。 独 占 的 あ る い は 寡 占 的 市 場 で 、 既 存 企 業 は 自 ら 料 金 を 引 下 げ る

イ ン セ ン テ ィ ブ を 持 た な い 。 だ か ら こ そ 、 競 争 ル ー ル を 整 備 し 競 争 を 機 能 さ せ る こ と で 、 継

続 的 に 料 金 が 合 理 的 コ ス ト 水 準 ま で 下 が る 圧 力 を 作 り 出 す こ と が 求 め ら れ る こ と に な る 。 ま

た 、 料 金 引 下 げ の す べ て が よ い わ け で は な い 。 短 期 的 に 、 一 部 の ユ ー ザ ー は 便 益 を 得 る か も

し れ な い が 、 そ の こ と に よ っ て 、 合 理 的 な 競 争 事 業 者 が 市 場 か ら 駆 逐 さ れ る 、 将 来 の 競 争 の

芽 が 摘 ま れ る こ と に よ る 社 会 的 損 失 は 、 決 し て 小 さ く は な い こ と を 認 識 す べ き で は な い だ ろ

う か 。

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独 禁 法 の 運 用 に 関 す る 新 た な 視 点 と し て 、 法 学 者 リ ナ ・ カ ー ン 氏 の 論 文 に 関 す る 記 事 が 、 日 経 新 聞 で 紹 介 さ れ た( 日 経 新 聞 2020 年 9 月 23 日 )。 「 消 費 者 の み に 焦 点 を 当 て る 考 え 方 が 、 我 々 を ア マ ゾ ン の 強 大 な 力 に 対 し て 盲 目 に し た 。 ・・・短 期 的 な 消 費 者 の 不 利 益 、つ ま り 価 格 の つ り 上 げ が な け れ ば 違 反 と み な さ れ に く い 。 ・・・そ れ で は 現 代 の オ ン ラ イ ン 経 済 で の 市 場 支 配 力 を 捉 え る こ と が で き な い ・ ・ ・ 物 流 網 の 独 占 や デ ー タ に よ り 、 競 争 相 手 を 押 し つ ぶ す ア マ ゾ ン の 手 法 は 小 規 模 ビ ジ ネ ス や 起 業 家 、 社 会 全 体 に 損 害 を 与 え 、 た と え 低 価 格 を 実 現 し て い て も 規 制 す べ き だ ・ ・ ・ 」

わ れ わ れ は 、 一 部 の 消 費 者 、 短 期 的 な 消 費 者 の 利 益 で は な く 、 長 期 的 な 利 益 を 常 に 意 識 す べ き で あ り 、 そ の た め に は 、 長 期 的 に 競 争 を 機 能 さ せ る 公 正 競 争 ル ー ル が 欠 か せ な い と い う こ と で あ る 。

参 考 文 献

Faulhaber, G.R., ” Cross-Substitution: Pricing in Public Enterprise. Amerian Economic Review, Vol.65, 1975

総 務 省 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 「 モ バ イ ル サ ー ビ ス 等 の 適 正 化 に 向 け た 緊 急 提 言 」 2019 年 1 月

総 務 省 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 「 中 間 報 告 」 2019 年 4 月 総 務 省 接 続 料 の 算 定 等 に 関 す る 研 究 会 「 第 三 次 報 告 書 」 2019 年 9 月 総 務 省 接 続 料 の 算 定 等 に 関 す る 研 究 会 「 第 四 次 報 告 書 」 2020 年 7 月

総 務 省 モ バ イ ル 市 場 の 競 争 環 境 に 関 す る 研 究 会 「 最 終 報 告 書 」 2020 年 2 月

総 務 省 接 続 政 策 委 員 会 ( 第 51 回 ) 資 料 1 論 点 整 理 2020 年 12 月 25 日

総 務 省 接 続 政 策 委 員 会 ( 第 52 回 ) 資 料 1 論 点 整 理 2021 年 1 月 26 日

図 8   携 帯 料 金 の コ ス ト 構 造 に つ い て ( イ メ ー ジ )

参照

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