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Academic year: 2021

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小特集=ジャン=リュック・ナンシーにおける芸術の問い

はじめに

西 山 雄 二

(東京都立大学)

 本小特集では、フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシーの芸術論関連のテ クストを二編収録している。

 まず、「さまざまな形への欲望」は、カナダの文学研究者ジネット・ミショーと の対談で、「ヨーロッパ」誌の第960号(2009年4月)に掲載されたものである。ナ ンシーが企画したリヨン美術館での展覧会「素描への快楽」をめぐる質問から、当 時刊行されたばかりの著作『民主主義の実相』をめぐって、芸術と政治に関する議 論が展開される。ナンシーの思想においては、フランス語の名詞sensの多義性が活 かされ、「意味」「感覚」「方向」といった含意で用いられる。sensは狭義の感性に 収まらず、理念的な領域をも射程に入れているため、ミショーはナンシーにおける

「アイステーシス的経験の重要性」を唱える。ナンシー自身はこの呼称に同意する ものの、政治と芸術の領域を峻別する点でミショーに反論する。「すべては政治的 である」といった表現のもとで拡散したかにみえる政治の領域を、ナンシーは「集 団、団体の管理運営を担う領域」として明確化する。他方で、諸芸術の領域は意味 一般の本質的な多様性が生み出される場として、政治から分離され、政治によって その可能性が守られなければならないのだ。対談では、芸術だけでなく愛や思考な ども例示され、意味を生み出すさまざまな形への欲望の重要性が説かれる。

 つぎに、「陰翳の戯れ」は「ポエジー」誌の第111号(2005年1月)に掲載された 小論である。光と闇の二元論は、ユダヤ-キリスト教的な神の創造の源泉として、

プラトンの洞窟と太陽の比喩における真理論の骨子として、西欧の伝統的思考にお いて幅をきかせてきた。ナンシーは光/闇の対とは異なる「陰翳」に着目すること で、伝統的な真理論のシルエットを浮き彫りにし、その輪郭を自在に変奏させる。

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光と対立するのではなく、光を前提とする陰翳は、諸事物の表面で異なる明暗や色 彩を放つ光の戯れである。光が絶対的なもの、無条件なものに関わるとすれば、陰 翳はむしろ相対的なものを表現する。ただこうした対比は絶対的な光に対する陰翳 の劣位を示すわけではない。陰翳は絶対的な速度たる光が不動の諸事物の表面に接 触することで生じるが、その点で、相対的なものこそがある関係のうちで絶対的に 存在しているのである。このように、陰翳をめぐるナンシーの叙述は光/闇をめぐ る真理論の幽かな薄明を照らし出すのである。

 テクストの翻訳と収録にあたっては、伊藤潤一郎氏に仲介の労をとっていただい た。また、ジャン=リュック・ナンシー氏とジネット・ミショー氏には翻訳を快く 許可していただいた。各氏の御協力に深く感謝申し上げる次第である。

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