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合併と競争政策 : 近年の合併活動が提起する課題

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(1)

合併と競争政策 : 近年の合併活動が提起する課題

その他のタイトル Mergers and Competition Policy: Problems from the Recent Mergers

著者 土井 教之

雑誌名 關西大學商學論集

46

1‑2

ページ 1‑21

発行年 2001‑06‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00018992

(2)

関西大学商学論集 第46巻第 1•

2

号合併号

( 2 0 0 1

6

( 1 )   1 

合併と競争政策

ー近年の合併活動が提起する課題一

土 井 教 之 *

はじめに

近年,企業,特に大企業間の合併・買収

(M&A

。以下,合併),提携が 内外で積極的に行われている。例えば,グラクソ・ウエルカムとスミスク ラインビーチャム(製薬),

AOL

とタイムワーナー(情報),ダウケミカル とユニオンカーバイド(化学),

BHP

B i l l i t o n

(鉱業),などであり,そ してまたわが国でも,銀行,保険,鉄鋼,化学,製紙,造船など,多くの 分野で大型合併,持ち株会社方式による「企業統合」,あるいは事業統合な どが見られる。そうした動きは,技術革新,グローバル化,規制緩和など,

様々な要因と密接に関連し,そしてそのことと結びついて,新たな競争政 策上の問題を提起している可能性がある。その結果,競争政策当局は新た な課題・困難に直面しているかもしれない。事実,米国の競争政策当局(司 法省反トラスト局)は,「現在の経済の製品・サービスがより複雑になり,

そして新製品の開発ペースが上昇しているために,提案されている合併の 分析が徐々に困難になっている」

(DOJ[ 2 0 0 1 ] ,   p . 9 )

と指摘している。

また,それ故に,合併に対する評価も大きく異なることも予想される。

例えば,今

H

の合併を,従来の批判的ないし消極的な見方に従って評価し

*筆者は,故田中茂和教授とは,大学院時代から,専攻分野は異なるけれど互いに重 なる問題について研究・議論し合った仲である。教授のご冥福をお祈りします。

(3)

2 (2) 

4 6

1・2

号合併号

ないで,「合併,アライアンス,企業間の協力の結果は動態的な文脈のなか で再評価を必要とする」

( A u d r e t s c he t  a l .   [ 2 0 0 1 ] ,   p . 6 2 6 ) ,  

という意見が ある。反対に,「合併は寡占化,競争制限を誘引し,消費者利益を阻害して いる」

( S a m l i[ 2 0 0 1 ] ,   C h a p t . 1 )

と,今日の合併活動に批判的な評価も見

られる。

そこで,本稿は進行中の合併活動を概観し,それが提起する競争政策上 の課題を整理・考察することを目的とする。その際,競争政策の経済学,

合併の経済学の発展を若干展望する。

近年の合併活動の全体的動向と主要な特徴

( 1 )  

合併活動の動向一過去

1 0

年間一

まず,欧米の合併活動を概観してみよう。言うまでもなく,

1 9 9 0

年代後 半からの合併活動は記録的水準にあり,米国の競争政策当局者も「狂気の 合併熱」

( " af r e n z y  o f  merger m a d n e s s " .  Parker & B a l t o   [ 2 0 0 0 ] )

とさ えよんでいる!)。この状況を示したのが表

l

である。それは欧米の推移を示 しているが,米国については「クレイトン法」第

7A

( 1 9 7 6

年「ハート・

スコット・ロディノ法」)に基づいて事前に届出された合併

( p r e m e r g e r n o t i f i c a t i o n s / f i l i n g s .  

合併案がある条件を満たす場合に,届出が義務付けら れている)の件数と取引金額を示している丸具体的に,

2 0 0 0

年では届出件

1 )

米国では,通常,

1 9 9 0

年代後半からの合併運動を第

5

次の運動として捉えられて いる。ちなみに,過去の合併運動として,

1 8 9 0

年代後半

‑1900

年代前半(第

1

1 9 1 0

年代後半

‑1920

年代(第

2

1 9 6 0

年代後半(第

3

1 9 8 0

年代後半(第

4

次)があげられる。なお,

1 9 9 0

年代の合併運動を,

1 9 8 0

年代以降の合併活動を継続

しているものとして捉える見解もある。

2 )

年間売上高または総資産

1

億ドル以上の企業と同

1 , 0 0 0

万ドル以上の企業とが結 合するとき,結合後の企業の株式あるいは資産の

15%

以上または

1 , 5 0 0

万ドル超の株 式もしくは資産を所有することになる場合に,届出が義務付けられている。しかし,

2 0 0 0

1 2

月に「ハート・スコット・ロディノ法」が修正され,

1 , 5 0 0

万ドルではなく

5 , 0 0 0

万ドルを超える合併が届出対象となり,そして

15%

条件が削除された。

(4)

合併と競争政策(土井) (3)  3  数は

4 , 9 0 0

件以上となり,

1 9 9 9

年に比べても大きく増加し,

1 9 9 1

年に比べる

3

倍以上となっており,そして取引金額ベースでは,

1 9 9 9

年度よりも大 幅に増加し,おおよそ

3 0

兆ドルに達している。こうした事実は,過去

1 0

間に合併活動が急増したことを示している。

こうした傾向は欧州でも確認することができる。欧州委員会

( E C )

でも,

同様な合併活動の急増を裏付けるように,

EC

への届出件数(米国の場合と 同様に,ある企業規模の条件を超える企業の合併は事前に届出をしなけれ ばならない)が上昇している。また,わが国を含めて,アジアでもかつて ない合併運動が展開されている

( F i n a n c i a lT i m e s ,  J a n .  1 7 ,   2 0 0 1 )

。した がって,今日,経済の発展段階に関係なく,合併運動が見られると言える であろう

3)

なお,

2 0 0 1

年に入ると,米国の合併ペースは低下した。その理由は,株

1

米国,

EC

の合併活動ー「事前届出」ペースー

米 国

EC 

件 数 取 引 額 件数

1 9 9 0   1 3 8 8   1 2  

9 1   1 3 2 8   0 . 1 7   6 3   9 2   1 3 8 2   0 . 1 7   6 0   9 3   1 6 7 3   0 . 2 2   5 8   9 4   2 1 4 5   0 . 3 7   9 5   9 5   2 6 1 7   0 . 5 1   1 1 0   9 6   2 8 7 0   0 . 6 8   1 3 1   9 7   3 4 2 5   0 . 7 7   1 7 2   9 8   4 4 8 2   1 . 4 4   2 3 5   9 9   4 3 3 2   1 . 8 3   2 9 2   2 0 0 0   4 9 3 8   2 . 9 9   3 4 5  

出 所 米 国 : 件 数 は

DOJ [ 2 0 0 0 ,   p . 1 0 ] ,  

取 引 額

(単位

1 0

兆ドル)は

FTC[ 2 0 0 1 ,   p . 1 8 ]

EC: E u r o p e a n  Merger C o n t r o l ‑ C o u n d l  

R e g u l a t i o n 4 0 6 4   I  8 9 ‑ S t a t i s t i c s ( 2 0 0 1 ) .  

3 )

また,欧米の合併統計について,

K a p l a n [ 2 0 0 0 ] ,F i n a n c i a l  T i m e s ,  Aug. 1 0 ,  1 9 9 9 ,  

May 1 1 ,  2 0 0 1   ( F T 5 0 0 :  The w o r l d ' s  L a r g e s t  Companies)

などを参照。合併の事 例分析として,例えば

Kaplan( e d . )   [ 2 0 0 0 ] ,  

箭内

[ 2 0 0 1 ]

などを参照。

(5)

4 (4) 

4 6

1・2

号合併号

価の下落と経済の鈍化であろう

( F i n a n c i a lT i m e s ,  May 1 1 ,   2 0 0 1 )

(2)  合併活動の主要な特徴:合併タイプと公共政策

こうした世界的な合併運動にはいくつかの興味深い特徴が見られる。合 併のタイプと競争政策に分けて,主要な特徴を確認しておこう。

まず,合併のタイプに見られる特徴を概観すると,第一に,初めに指摘 したように,大型合併

( m e g a m e r g e r s )

が国内外で見られることであろう。

多くの有名な巨大企業が合併に関わっている。

第二に,冒頭の事例にも含まれているように,国際合併(また国際的な アライアンス・提携も)が多いことも,重要な特徴の

1

つであろう。した がって,国際寡占,惟界集中度・シェアなどが注目されるであろう。

第三に,合併する企業間の関係を事業分野から見ると,通常水乎合併,

垂直合併,多角化合併の

3

分類(図

1

参照)があるが,そのうち水平合併 が多い。これは市場ポジション強化型であり,また近年「経営資源の選択 と集中」が企業戦略として強調されるが,水平合併の増加はそれを反映し ている。このとき,併せて,退出も行われていることに留意する必要があ

したがって退出の厳密な分析も求められている。

この水平合併の増加について,水平的な合併ゲーム(合併競争・合併連 鎖)が発生していることに注意する必要がある。例えば,米国の航空業で

U n i t e d

による

USAirways

買収が,他の企業の対抗的な買収計画を誘 引している。具体的には,

American

による

TWA

買収案浮上

( 2 0 0 1

3

1 6

日,司法省は,提訴せずと決定)である。これらの合併が実現されると,

上位

2

社集中度

( U n i t e d ,A m e r i c a n )

46% ( 2 0 0 0

年)になり,規制緩和 後,最高の集中度水準となるであろう(『日経産業新聞』

2 0 0 0

7

7

2 0 0 1

1

2 9

日)。米国航空産業では,寡占化の進行に伴い運賃の上昇が続

いていることも留意する必要がある。また,わが国でも,例えば製紙業で 合併競争が展開されている。

また,ガスと電力(エネルギー),あるいは銀行と保険(金融)のように

(6)

「融合する市場

( c o n v e r g i n gm a r k e t s )

」における,あるいは「業態間競争」

を展開する企業間の合併もある意味では水平合併であり,この型の合併も 増加している。以下,市場が融合し競争関係が成立する企業間の合併を「市 場融合

( c o n v e r g e n c e .

収敏)型合併」(図

1

参照。なお,植草

[ 2 0 0 0 ]

は「関連統合」,

Habecke t  a l .  

(A. 

T .  K e a r n e y )   [ 2 0 0 0 ]

では「同心円型 合併」)とよぶ。

◇ 

l

◇ 

r

: 副 係

D

ピ [ 互

0

c l

産業・製品C 産業・製品

D

産業・製品

E

Al, A2, B l ,  C l ,  D l ,  El

は各産業の企業。

第四に,従来は上記の

3

分類のパターンが指摘されてきたが,今日では,

第四の合併形態として独立させてもよいと考えられる,「補完合併」

( c o m ‑ p l e m e n t a r y  m e r g e r )

ないし「同属合併」

( c o n g e n e r i cm e r g e r .  

また,「ア

ライド合併」

( a l l i e dm e r g e r )

ともよばれる)とよばれるタイプがネットワ ーク型産業において増加している。それは,図

1

が示すように,同じ製品 の生産者間でもなく,またプロデューサーーサプライヤー関係にある企業 間でもなく,「関連している企業」間の合併である。それは,複数の製品・

サービスを生産するという意味で,垂直合併,多角化合併と類似しており,

あらためて「多数製品独占」

( m u l t i ‑ p r o d u c tm o n o p o l y )

の経済分析を提 起している。

(7)

6 (6) 

4 6

1・2

号合併号

第五に,ュティリティ (公益企業)合併が多く,特に複数の公益事業分 野で事業を行う「マルテイユティリティ」

( m u l t i ‑ u t i l i t y )

型が注目される。

例えば,水道企業とエネルギー(電力,ガスなど)企業との合併である。

これは,上記の分類を援用すれば,市場融合型合併の

1

つと見なすことが できる。公益事業分野における合併およぴそれに対する政策については,

従来あまり分析が試みられていない。

第六に,不振企業を巻き込んだ合併(不振企業型合併)が多い。この合 併は,成熟産業でしばしば見られるように過剰能力の削減を目的としてい る。そうしたタイプは特に日本で多く,またこのタイプは従来から見られ たものである。

第七に,消費財部門で,ブランドを獲得するための合併・買収が増大し ている(例えば,

F i n a n c i a lT i m e s ,  J u l y  2 3 ,  1 9 9 8 ,  May 8 ,   2 0 0 0 ,  

『日経産 業新聞』

2 0 0 0

7

7

日など)。それは特に食品・飲料分野で見られ,巨大 化する流通企業に対抗する狙いがあると指摘されている。こうした動きは,

産業組織論で活発な議論の的になってきた「製品差別化」,「プランド」の 意味の再考察を示唆している。

第八に,今回の合併プームでは,合併の論拠として,規模の経済性,範 囲の経済性に加えて「スピードの経済性」

( t i m ee c o n o m i e s  o f  s p e e d )

追加・強調されている。それは,合併によって,企業は製品・サービスを 市場投入するのに成功し易いことを意味する。

第九に,技術革新の重要性が大きい分野では,土井

[ 2 0 0 1 ]

が指摘する ように,技術インフラあるいは標準インフラの獲得を狙った合併が増加し ている。例えば,「ネットワークの外部性」の作用する分野では,企業は「デ ファクト標準」を獲得して競争優位を確立・維持するために,合併を行っ ている。「

M&A

は,ニューエコノミーにおいて重要な成長戦略である」と 言われる背景には,こうした認識がある。

最後に,わが国で注目される特徴の

1

つとして,企業集団・系列を越え た合併が多く見られるようになった。例えば,三井住友銀行,住友金属と

(8)

合併と競争政策(土井)

三菱マテリアルのシリコンウエハー事業の統合などである。

以上のような特徴は,産業組織論から見ると,市場構造,行動,成果に どのような影響をもち,そしてさらに競争政策にどのような含意をもつか,

という問題を示唆している。これこそが今日求められている重要な考察課 題であろう。

次に,合併に関連した公共政策上の特徴に目を転じよう。主要なものを あげると,第一に, ドイツで,米国型買収が企業と投資家(株主)との長 期安定的な「ドイツ的関係」に大きなショックを与えている

( F i n a n c i a l

T i m e s ,  J u n e   1 4 ,  2 0 0 0 )

。その結果,

EU

では,対象企業を強引に買収する

「敵対的合併」 (hostile~erger) を制限する動きがある (Financial

T i m e s ,   D e c .   1 4 ,  2 0 0 0 )

。また, ドイツでは,同国独特の従業員組織「経営委員会」

の拡充を目指した「経営組織法」改正の動き

( 2 0 0 1

年)にも一部繋がって いる(『日経産業新聞』

2 0 0 1

2 月 27B)

第二に,上記の航空業に見られるように,

M&A

に対する反トラスト政策 上の関心が高まっている。合併の競争制限効果への懸念が広がっている。

例えば,米国では「潜在的競争」排除型の合併がエネルギー,通信,グロ ーサリーなどで見られると言われる。その結果,具体的に,米国と欧州の 競争政策当局による合併規制の強化方向が見られる。例えば,米国石油業 における

BPAmoco

のアトランチックリッチフィールド買収,工業用ガ ス業における米国・エアプロダクツと仏・エアリクッドによる

BOC

グルー プの買収が承認されていない。また,上でも指摘したように,

EU

で「敵対 的合併」を制限する動きがある。

第三に,合併に対する公共政策についての国際的な違いが顕在化してい る。具体的には,米国と

EC

とには違いが指摘されている。その事例の

1

GE

によるハネウェルの買収に対する対応である。それは言うまでもな く競争政策全体のスタンスの違いを反映している。従来でも不一致が見ら れたが,特に

2 0 0 1

年に米国に誕生した共和党プッシュ政権の下では,不一 致が大きくなる可能性が指摘されている

( F i n a n c i a l T i m e s ,   A p r i l   1 7 ,  

(9)

8 (8) 

4 6

第 1•

2

号合併号

2 0 0 1 )

。こうした不一致の背後にある政策理論の違いが注目され,また政策 の国際的調整が重要な課題であろう。

最後に,わが国において,合併,事業再構築を促進するために,企業再 編・事業再編に関わる法制の改正が行われている。具体的には,

1 9 9 7

年度 の独占禁止法改正による持ち株会社の解禁,

2 0 0 1

年の商法改正による会社 分割の法制化などである。近年の合併・統合がこうした改正と関連してい

ることは否定できない。

かくして,拡大する合併は,現行の競争政策の効果と課題,そしてある べき政策についての議論を提起している。

I I  

合併の決定要因ー1

9 9 0

年代ー

一般に,企業は,競争構造,需要条件,競争政策,企業内経営資源,企 業カルチャーなどを考慮しながら,合併計画の可否,あるいはそのスコー プ,タイミング,方法などについて決定する。

1 9 9 0

年以降の合併活動に影 響を与えたと考えられる要因についての議論を整理しておこう。

第一に,経済のグローバル化に対して,企業は合併による規模拡大で対 応している。その結果が多数の大型合併である。

また,経済のグローバル化に対応して,国際寡占の進行が示唆されてい る。これに関連して,グローバルな集中上昇が国際合併の増加を誘引して いるという仮説が提出されている。この仮説を検証した

Ghemawate t  a l .  

[ 2 0 0 0 ]

は,その仮説は実証されないことから,世界寡占化が原因ではな いと結論している。その研究によれば,グローバルレベルの集中はむしろ 低下している。この結果が事実であるとすると,国際合併の増大を誘引し ている他の要因を明らかにしなければならない。

第二に,好況時に

M&A

は多いことが,過去の米国の合併活動から確認 されている。この仮説は今日の合併活動にも妥当し,株式市場との関連を 示唆している。反対に,わが国では,不況期あるいは業績の悪い産業など・

(10)

合併と競争政策(土井)

で,合併が展開される傾向がある。

( 9 )   9 

第三に,

Kaplan[ 2 0 0 0 ]

M&A

が技術的,規制上の産業別ショック と関連していることを指摘している。換言すれば,情報技術のような技術 革新と規制緩和が合併を剌激している。また,規制緩和に競争政策の変更,

具体的には,合併認可にあたり,合併による技術的効率の改善を重要な判 断要因にする「効率性考慮」の重視も含めることも考えられる。効率性考 慮の重視は,合併を促進したかもしれない。

第四に,

S a m i i[ 2 0 0 1 ]

は,寡占化・競争制限を図るために,合併が選好 されていると強調している。この議論は伝統的なものであり,また具体的 にはインターネット部門の近年の合併に対して,ライバルを排除するタイ プとして指摘されている

( F i n a n c i a lT i m e s ,  A p r i l  3 ,   2 0 0 1 )

第五に,企業支配権市場が拡充し,

M&A

仲介企業の影響が大きくなり,

そしてその仲介ビジネスの拡大が合併を促進した。

第六に,わが国では,株式の相互持合が崩れ,株式の移動が流動的にな り,またかつての持合のパートナーに縛られることがなくなったことも無 視できない要因である。また,上で言及したように,持ち株会社の解禁な

どの法制の整備も

1

つの要因である。

最後に, もう

1

つの制度的要因として,国際会計基準の変更も合併活動 に影響を与えているかもしれない。

かくして,近年の合併活動を促進している要因について,まだ包括的な 研究がない。今後,その詳細な分析が必要であろう。

なお,合併の一種とも,あるいは合併に代わる戦略とも捉えられる行動 にも注目する必要がある。以下の議論でわかるように,合併は失敗するこ とが多く,特に組織上の問題,カルチャーの相違などによる失敗が多いこ とが指摘されている。すると,企業は,失敗の可能性を考慮するならば,

合併を計画するとき,それに代わる,ベターな戦略も併せて検討する必要 がある。最近の巨大企業による「アライアンス」

( a l l i a n c e )

(ないし提携)

志向はこのことを反映している

( F r e i d h e i m [ 1 9 9 8 ] )

。ただし,企業によっ

(11)

10 (10) 

4 6

第 1•

2

号合併号

て戦略が異なる。例えば,同じ自動車産業でも,フォードは合併志向,

G M

はアライアンス志向である

( F i n a n c i a lT i m e s ,  J u l y  1 1 ,  2 0 0 0 )

。他方で,

GM, 

フォード,ダイムラークライスラーなどは,アライアンスとして,

部品・資材のオンライン購買コンソーシアム

( C o v i s i n t )

を立ち上げている。

今後,こうした

e

ビジネス・アライアンスが増加することが予想される。

いずれにしろ,合併政策と併せて,アライアンス・提携と競争政策との関 連が問われなければならない。

I I I  

合併の効果ーミクロ効果一

近年の合併の効果が注目される。しかし,その効果ついては,合併後の 経過時間の問題もあってまだ十分な分析はない。今利用可能な分析の結果

を展望してみよう。

理論的には,合併の効果は,その可能な動機に対応して,大きく競争制 限,技術的 (X)効率改善,技術開発力の強化などを含む。したがって,そ の効果,特に合併企業の成果(以下, ミクロ成果)は価格変化(上昇,低 下),費用低下,研究開発の促進などの形をとり,最終的には利潤上昇,新 技術の開発として発現するであろう。従来,特に競争制限効果,技術的効 率改善効果,そしてそれらの結果としての利潤上昇が合併効果に関連して 議論されてきた。

しかし,合併の効果は理論的には必ずしも明確ではない。そのことは,

例えば「合併のパラドックス」とよばれる関係を想起すれば判るであろう

(例えば

Z i s s[ 2 0 0 1 ]

参照)。そのパラドックスとは,「合併は合併企業に は利益を与えず,むしろ非合併企業を合併の受益者とする」という可能性 である。なぜなら,寡占産業では,競争制限を意図した合併企業は,合併 後,価格を引き上げ,産出量を削減するために,価格引き上げによる利益 が産出量削減による不利益によって相殺され,最終的に利潤減少を結果し,

他方非合併企業は産出量をそれほど削減しないために価格上昇のメリット

(12)

合併と競争政策(土井)

を享受し,利潤増大を受けることが考えられるからである。こうした理論 的結果は,合併によって市場支配力が強化されたにもかかわらず,合併企 業の利潤成果が改善されず, したがって市場支配力と利潤悪化が並存する 可能性があることを示唆している。

このように,合併の効果は理論的には不確実である。すると.効果を実 証的に明らかにする必要がある。しかし,

1 9 9 0

年代以前の合併を対象にし た従来の実証分析を展望・整理すると,理論分析と同様に.合併のミクロ 成果に関する研究は合意の成立しそうな結果を示し,特に.合併が技術的 効率の改善につながっていないと結論する研究が多い

4 )

。なお,従来のミク ロ成果分析では.成功・失敗の決定要因の分析が十分に行われていない。

最近の分析では,その要因分析に力点が置かれている。

いま,まだ数少ない研究しか見られないが,

1980‑90

年代の合併成果の 分析を簡単に展望してみよう。

(1)  近年の合併でも,過去の合併と同様.業績へのプラス効果が見られる ケースは多くない。

Habecke t  a l .   ( A .  T. Kearney)  [ 2 0 0 0 ]

によれば.

1 1 5

ケースのうち,

58%

が株主価値の低下を示している。また,特に国際 合併を対象とした

KPMG

の調査

( F i n a n c i a l T i m e s ,  Nov.  2 9 ,   1 9 9 9

よる)によれば,分析対象の

1 0 7

ケースのうち,

53%

で株主価値が低下し,

30%

で明確な効果がない

5 )

。その他,インターネット部門でも,一握りの 例外を除いて成功した合併事例は少ないと指摘されている

( F i n a n c i a l

T i m e s ,  A p r i l   3 ,   2 0 0 1 )

( 2 )   PA  [ 2 0 0 0 ]

は,合併成果を分析した結果を次のように結論している。

1)

M & A

の皮肉」とよばれる結果が見られる。すなわち,①「被買収 企業の株主は意外の利益を享受し.他方その従業員は解雁など不利益

4 )

以前の合併成果分析の展望については,池田・土井

[ 1 9 8 0 ] ,I k e d a  a n d D o i [ 1 9 8 3 ] ,   M u e l l e r  [ 1 9 9 6 ,   1 9 9 7 ] ,   O d a g i r i  a n d  Hase [ 1 9 8 9 ]

などを参照。

5)

最近の具体例に,ダイムラークライスラーのクライスラ一部門の業績悪化,フォ ードが経営権をもつマツダの業績不振などをあげることができる。

(13)

1 2  ( 1 2 )  

4 6

1・2

号合併号

を受けている」,②「買収を行った企業の株価は買収後しばしば悪化す る」。後者は上記の結果と整合的である。

2)

新市場獲得,売上高拡大,新技術獲得が目的の合併は成功すること が多く,他方費用節約型合併は所期の目的を実現できないことが多い。

3)大きな組織統合の合併はより緩やかな組織統合の合併よりも悪い成 果をもつ。

4)

企業カルチャーの違いを認識した合併は成功していることが多い。

(3)  合併前に被買収企業について十分な情報をもたないときは失敗し,ま た企業カルチャーの違いに十分な配慮をしていないときも失敗すること が多い

( K a p l a n[ 2 0 0 0 ] )

(4)  合併によって成立したマルテイユティリティは必ずしも優れた業績を 挙げていない。例えば,「市場が競争にさらされるにつれて,マルテイユ ティリティは単ーサービス企業と競争することが徐々に困難となりつつ ある」

(Owen[ 2 0 0 1 ] ,   p . 3 1 )

という指摘がある。その結果,特定のサー ピスに回帰する企業も現れている。上で指摘したように,広く公益事業 分野での合併の成果について十分な実証分析が求められるであろう。

かくして.合併は,利潤上昇あるいは技術的効率の改善という基準から 見れば, しばしば望ましい成果を結果していない。この事実は過去の合併 運動で見られた結果と一致している。こうした事実は,企業戦略的にも公 共政策的にも示唆に富むものであろう。

IV 

合併と公共政策

(1)  最近の合併活動が提起する競争政策上の主な問題

今日,合併政策は多少流動的であると言えるかもしれない。例えば,米 国では,

1 9 9 6

年の連邦取引委員会

(FTC)

による競争政策の見直し・検討

(FTC  [ 1 9 9 6 ] ) ,  

1 9 9 7

年改正水平合併ガイドライン」,「非水平合併ガイド ライン」の設定などが行われている

6)

。また英国でも,合併政策の改革案

(14)

( 1 9 9 9

以降)が議論されている

(DTI[ 1 9 9 9 ,   2 0 0 0 ] )

。こうした合併政策の 見直しと近年の合併活動の特徴との関係が注目される。

上記の合併の特徴と成果を考慮して,現行の合併政策にも言及しながら 最近の合併活動が提起する競争政策上の主な問題を整理しよう。

第一に,競争ポジション強化型の水平合併(市場融合型合併も含めて)

が増加する傾向にあるために,新たな環境下での合併に対する競争政策を 検討し,整備・強化し, しかも国際レベルで行う必要がある。上で言及し た米国の「改正水平合併ガイドライン」,英国の合併政策の改正案はこうし た背景をもつと言える。

第二に,合併を承認するとき,競争政策上問題のある事業が含まれると き,その事業を他社に譲渡することを条件としていることがある。意外に も,こうした企業の「譲歩」

( c o n c e s s i o n )

を求める「条件付き承認」が多 い(最近の例では,

AOL

とタイムワーナーの合併)。米国の

d i v e s t i t u r e s

( 割)の効果について分析した結果

(FTC[ 1 9 9 9 ] )

によると,概して有効な 効果が見られるが, しかし社会的に望ましい成果を結果していないケース

もある。このような事実が合併規制のあり方に影響を与えている。

なお,この

FTC

の分析は自己の政策の事後的な評価であり,競争政策に は不可欠な作業であろう。わが国においても,合併規制の事後的な評価・

議論が必要である。

第三に,合併の背後にある要因として技術と情報がしばしば重要である ために,これらを考慮した競争政策が必要である。例えば,上で示唆した ように,同属合併,情報技術対応型合併などが増加している。政策当局は,

技術,情報のメカニズムなどに熟知する必要がある。したがって,政策当 局の調査研究能力が重要であり,そしてそのための政策当局の執行システ ムおよぴ組織・機構についての分析が必要であろう。

6)ガイドラインに照らして検討すると.「合併の大部分は競争促進的,あるいは競争 中立的であり」,「詳細な審査が行われたのは全体の

3%

未満である」と指摘されて いる

(FTC

0 0 1

(15)

14 (14) 

4 6

1・2

号合併号

また,政策当局の調査能力を補う制度も工夫されなければならない。例 えば,

M u e l l e r[ 1 9 9 6 ,   p . 4 3 6 ]

が示唆するように,合併を計画する企業が,

効率.革新効果を強調するとき,その効果が競争制限効果を上回り,合併 が社会的に利益になることを証明する責任を合併計画当事者に求める「合 併企業挙証責任制度」があげられる。この制度は,一般に,情報が当局の 方により多く開示され,それだけ政策コストを削減し,特に,技術進歩,

グローバル化などの進展が著しい今

B ,

企業と政策当局との間で情報の非 対称性が大きくなり,政策当局が十分な情報に基づいて政策判断を行うこ とが困難となる恐れがあるが,その困難を解決する

1

つの有効な方法であ ろう。

第四に,上で指摘したように,公益事業分野で合併が増加しているが,

そうした合併は固有の問題を含んでいるかもしれない。例えば,マルティ ユティリティになるような合併は,複数事業の経営統合の結果,規制当局 が規制に必要な産業固有の情報,あるいはヤードスティック競争による規 制で使用される情報を得ることを困難にするかもしれない(「情報ロス」

( i n f o r m a t i o n  l o s s )

とよばれる)。いずれにしろ,公益事業分野における 合併の成果,合併に対する公共政策のあり方などを議論する必要があろう。

最後に,国際合併は,当事者が互いに異なる

2

カ国以上にまたがる合併 のみならず,

1

国内での親企業の合併が他国の子会社間の合併を誘引する 場合も含まれる。上で指摘したように,政策の不一致は競争的産業の創出

を妨げる恐れがあるために,合併政策の国際的調和が求められる。

(2)  合併政策の経済分析の問題

合併は公共政策上いろいろな問題を提起しているが,ここでは特に3つ の問題について,それぞれ

1

つの代表的な議論を簡単に取り上げ,合併・

合併政策の経済分析の重要性を指摘しよう。その問題は,効率改善の価格 転嫁,合併政策と研究開発,同属合併である。

(16)

合併と競争政策(土井)、

1)合併とパススルー効果ー「厚生トレードオフ」モデルー

まず,合併政策に対する接近を要約しておこう。大きく

3

つの接近があ ろう(土井

[ 1 9 8 6 ]

参照)。一方に,かつて適用された厳格な規制があり,

主にハーバード学派の産業組織論に依拠しながら,一定の構造的条件を満 たさない合併を容認しない立場をとる。この対極に緩やか規制があり,例 えば,ハーバード学派に批判的であり,多元的,動態的競争の頑健さを強 調するシカゴ学派に依拠しながら,原則として大型水平合併のみを禁止し,

大幅な規制緩和を容認する。その論拠は,動態的競争を重視し,合併が技 術的効率改善効果と動態的効率効果

(R&D

の促進)を招来させる可能性が 大きいことである。

これら

2

つの間の中間的ないし折衷的な接近がある。それはポストシカ ゴ学派とよばれ,良い合併と悪い合併を唆別し,後者に対して規制を行う ものである。確かに,合併には,①合併→市場支配力発生・強化→価格上 昇,技術的効率性低下,技術開発力低下(ハーバード学派),②合併→技術 的効率上昇→企業の競争力強化→競争促進(価格低下),技術開発力強化(動 態的効率上昇)(シカゴ学派),という相反する効果をもつ可能性がある。

最近のゲーム論産業組織論もこうした相反する関係を明らかにしている。

合併規制は,社会的に負のネットの効果をもつときに適用される。

以上の関係を分析したのが

Williamson[ 1 9 6 8 ]

の展開した「合併の厚生 トレードオフ」モデルである。それによると,合併の競争制限効果(共謀,

ライバル閉め出し,参入阻止など)と技術的効率改善効果(規模の経済性,

垂直統合の経済性,範囲の経済性など)を比較考量し,競争制限効果>技 術的効率改善効果のとき合併禁止・規制が,他方反対に競争制限効果く技 術的効率改善効果のとき合併容認が,それぞれ採用される 。こうした接近 は通常,条理の原則とよばれ,現実の政策に,例えば米国の「改正水平合 併ガイドライン」に反映されている。

7)また.このモデルを詳細に考察した土井

[ 1 9 6 8 ]

を参照。

(17)

16 (16) 

4 6

1・2

号合併号

しかしながら,このモデルでは,効率改善と価格上昇が所与という条件 で静態的な議論が展開されている。合併を競争過程ないし動態的競争のフ レームワークで考えると,効率改善が企業レベルであるいは産業レベルで 価格に転嫁されることもあり,そのメカニズムや程度などを議論する必要 がある。

Baker[ 1 9 9 9 ]

が指摘するように,効率改善が価格変化に転嫁され る「パススルー率」

( p a s s ‑ t h r o u g hr a t e )

が注目される。

2)

技術進歩と合併政策ー「イノベーション・マーケットの理論」一 上で示唆したように,合併が技術進歩,すなわち研究開発,革新と関連 しあっている可能性があるにもかかわらず,従来この問題は必ずしも十分 に議論されてこなかった。すなわち,従来の合併分析は資源配分効率と技 術的効率 (X効率)を対象とし,動態的効率(技術進歩効率)を軽視して いる。今日の技術進歩の激しい世界では,動態的効率を考慮して合併政策 を議論する必要がある。

この問題に論及したのが例えば「イノベーション・マーケットの理論」

である。この理論は,ある一定の範囲の

R&D(

研究開発)を一種の市場,

すなわち「イノベーション・マーケット」

( i n n o v a t i o nm a r k e t )

と定義し,

「合併が

R&D

競争を減殺するかどうか」を検討する

(FTC[ 1 9 9 6 ]

参照)。

しかし,この理論には問題点が含まれる。例えば,①

R&D

と競争との 間には明確な因果関係が,経済分析では確認されていない,②

R&D

と革 新は異なる,③ 「イノベーション・マーケット」は,イノベーションの売 り手と買い手をもっという意味の市場ではなく,その定義をするのは困難 である,④合併企業が

R&D

を独占することは極めて困難である,⑤

R &  

D

は潜在的参入につながるので,この理論ではなく従来から展開されてい る「潜在的競争」の理論を適用して議論することができる,などの批判が 出されている。

したがって,合併と

R&D

との関連は明確ではなく,それ故にこの理論は 合併政策の指針として必ずしも十分ではない。今後,合併と

R&D

との関連

(18)

合併と競争政策(土井)

について,一層の理論的,実証的な分析が不可欠である。

3)同属合併と競争政策ーネットワーク型産業一

今日,ネットワーク型産業が産業構造上重要な位置を占め, しかもそう した産業で合併が増加している。その産業の特性は,技術進歩・革新,知 的財産権の重要性,補完財・ サービスの重要性,ネットワーク外部性,製 品・サーピスのバージョン性,標準(特にデファクト標準)の重要性,な どである。こうした特性が合併活動に影響し,また合併成果にも影響を与 えるかもしれない。

こうした産業で特に注目されるのが先に指摘した同属合併である。この 合併は相互に補完的な

2

つの製品・サービス市場に関連し,具体的に例え ばゲーム機メーカーとそのソフトメーカーの合併に該当する。それは理論 的には以下のような効果をもつと考えられる。すなわち,①ネットワーク 外部性(需要曲線のシフト),②生産規模の経済性,複数製品生産の経済性

(範囲の経済性),スピードの経済性(費用曲線のシフト),③競争(制限/

促進)効果(市場支配力効果,パススルー効果),④技術開発力上昇(研究 開発の促進)。一般的に,これらの効果を総合的に勘案して,合併政策が適 用される。なお,同属合併はネットワーク型産業に固有の問題を反映する のみならず,上で論及した合併と技術的効率性あるいは

R&D

との関連の 問題も含むであろう。

同属合併に対する競争政策を考察するためには,同属合併の競争に与え る影響を解明する必要がある。このタイプは従来の形態とは異なることを 指摘したが,また他の既存の行動と類似点ももつ。例えば,同属合併は,

合併企業が異なる製品を生産するという意味で,垂直合併,多角化合併に 類似している。また,

1

つのパッケージで固定的な比率の関係にある

2

の製品を販売する「コモデイティ・バンドリング」

(commodityb u n d l i n g ) ,  

あるいは「抱き合わせ販売」にも類似している。さらに,「アフターマーケ ット

( a f t e r m a r k e t )

の理論」が適用される状況にも類似している。出発点と

(19)

1 8  ( 1 8 )  

4 6

1・2

号合併号

して,こうした類似性を考慮しながら合併効果を考察することが可能であ ろう。

米国では,現実には,同属合併は,市場融合型合併とともに,ほとんど 競争促進的あるいは競争中立的と考えられている。しかし,ネットワーク 型産業でも,その他の産業と同様に,協調的競争制限あるいは一方的(単 独)競争制限が可能であろう。その効果は,例えば

Katz and  S h a p i r o  

[ 1 9 9 9 ] ,   P e p a l l  e t  a l .   [ 1 9 9 9 ]

などで議論されている。

その

1

つが「

2

段階参入理論」

( t w o ‑ l e v e le n t r y  t h e o r y )

である。相互 補完関係にある

2

つの市場で市場支配力と参入障壁が存在するとき,

2

の市場での製品開発の必要性が新規参入を困難にし,また

2

つの製品を同 時に生産する合併企業は,競合するライバルの製品・サービスからの互換 性を拒否することができるために,合併に伴い競争制限・市場支配力が発 生する。例えば,合併企業がライバル製品と非互換的な補完財を生産・増 大するとき,ライバル製品と互換性のある補完財の数が相対的に減少し,

ネットワーク外部性が作用するためにライバル製品の買い手の効用が低下 する結果,ライバルはシェアの低下を受け,他方合併企業はシェア上昇,

規模の経済性による技術的効率上昇,そして寡占化・参入阻止効果による 市場支配力強化というメリットを享受する(この過程が「標準」化メカニ ズム)ことが考えられる。その他,多角化合併の場合と同じように,同じ 企業が複数の市場で共に活動し対峙する(「多数市場でのコンタクト」

( m u l t i m a r k e t  c o n t a c t )

とよばれる)結果,企業は利害の一致,情報の共 有などのために容易に共謀を図ることができる。

同属合併の競争に与える影響について厳密な分析を必要としているが,

上記のように競争制限効果も予想することができる。したがって,効率,

技術開発など,その他の効果も考慮に入れながら同属合併と競争政策につ いて考察しなければならない。なお,同属合併と同じ効果をもつ形態,す なわち,長期契約・アライアンスも考慮する必要がある。しかし,前述し たように,アライアンスと競争政策との関係も従来十分に考察されていな

(20)

合併と競争政策(土井)

( 1 9 )   1 9  

結ぴに代えて一合併・合併政策の経済学の重要性一

以上,最近の合併が投げかける理論上,政策上の主要な課題を概観した。

まず何よりも注目される点として,合併・合併政策分析は,産業組織の多 くの側面を含むために,産業組織の包括的な分析を必要とする。特に今日 の産業組織は動態的で複雑であり,冒頭で示したように,政策の対応を難

しくしている。しかも,既存の研究では,実証分析においてもまた理論分 析でも合併の明確な効果を示していない。

こうした経済分析の困難さ・曖昧さが現実の合併政策の曖昧さにつなが るのではないかという懸念がある。今後,合併のより緻密な経済分析が求 められるであろう。特に,合併パターンが複雑,多様になっているために,

合併の詳細な事例研究が不可欠であろう。

【参考文献】

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(日本プ

(21)

2 0  ( 2 0 )  

4 6

1・2

号合併号

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7

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ngt h e  Ame

c a nC o n s u m e r :  Co

o r a t eR e s p o n s i v e n e s s  

(22)

合併と競争政策(土井)

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参照

関連したドキュメント

Hinton, P.J.,J.D.Zona.,R.L.Schmalensee and W.E.Taylor(1 9 8 8) , " An Analysis of the Welfare Effects of Long-Distance Market Entry by an Intergated Access and

供給制限を伴った特別の高価格政策はとらず,むしろ市場占拠率をめぐる競

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

取引 プラットホーム 構成要素  ハードウエア  ソフトウエア  サービス ルール  標準  プロトコル  契約 ユーザーA

この用語に対応する日本語が当時は存在しなかっ

Takahashi, R., 2010, “Simultaneous Determination of Optimal Competition Policy and Optimal Tariff Policy,” mimeo.

討してきた.そこで,合併に関する残された実証分析の課題について考えていきたい.

[r]