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写真共有サイト投稿データを利用した新たな観光マップの構築 Creation of Innovative Tourist Maps based on the User-Posted Data

of a Photo-Sharing Site

倉 田 陽 平 ・相 尚 寿 ・真 田 風

Yohei Kurata Hisatoshi Ai Fu Sanada

,.はじめに

旅行者に対し適切な情報・サービス提供を行ってい くためには,彼らの間で顕在化しつつある行動やニー ズを前もって知ることが肝要である。しかし,アンケ ートやインタビューのような従来的調査手法は,その コストゆえに継続実施が難しい。一方,今日,多くの 人々が,スマートフォンなどを利用し,旅行の記録や 感想を自らインターネット上に投稿している。このよ うな投稿データは,その膨大さ・即地性・即時性ゆえ に,旅行者の行動やニーズを知るための貴重な情報源 として期待を集めている(相 2014。たとえばFlickr

Panoramio,フォト蔵といった写真共有サイトには,

人々が旅行時に撮影した位置情報付きの写真が多数投 稿されている。そこで,このようなデータを活用し,

観光資源を自動検出し観光マップを自動作成する研究

Chen, et al. 2009,主要観光対象に対する撮影スポッ トを抽出する研究(Shirai et al. 2012,旅行者の移動軌 跡を推定する研究(Giradin, et al. 2008; Kisilevich, et al.

2010; Lu, et al. 2010,そしてそれを参考に旅程推薦を 行うツールの開発(De Choudhury, et al. 2010; 奥山・柳 2011)など幾多の研究が行われている。筆者らも写 真共有サイトのデータをもとに観光地内各所の見所度 合い(観光ポテンシャル)を推定し,地図上に可視化 する研究を行ってきた(倉田・杉本・矢部2010; Kurata

2012; 倉田 2013a。この結果作られる「観光ポテンシ

ャルマップ」は,これから現地を訪れる旅行者にとっ て有用な情報源となるとともに,地域側にとっては観 光空間の改善や情報発信を議論する上で貴重な資料と なることが期待される。

本報告では,観光ポテンシャルマップの概要とこれ を応用した様々な研究を紹介し,今後の課題について 述べる。

Ⅱ.観光ポテンシャルマップの作成方法 観光ポテンシャルマップは,写真共有サイトに投稿 された位置情報付き写真を抽出・選別し,それらの撮 影点密度をヒートマップとして可視化することによっ て作成される。写真共有サイトにはFlickrhttp://www.

flickr.com)を採用し,対象領域・期間・キーワード(省

略可)を指定すると,Flickr のサーバから投稿写真デ ータを自動抽出するツールを作成した(図1

この自動抽出ツールによって得られた結果(csv ータ)をそのまま観光ポテンシャルマップ表示ツール

(Ⅲ章)に読み込ませることもできるが,通常は信頼 性向上のため,写真の選別を行う。従来の写真共有サ イトデータを使った研究では,一ヶ月以上同じ地域で 撮影している者を居住者とみなす(Giradin et al. 2008 あるいは動き回っていれば旅行中とみなす(Kislevich

et al. 2010,奥山 2011)といった方法により,旅行中

に撮影されたと推定される投稿写真を選別していた。

一方,本研究では地元在住者によるリクリエーション 活動中の写真であっても観光地を知る上で参考になる 摘 要

人々がインターネットに投稿した旅行の記録や感想は,旅行者の行動やニーズを知るための貴重な情報源と して期待が高い。筆者らは写真共有サイトの一つ「)OLFNU」に投稿された写真データをもとに,観光地内各 所の見所度合い(観光ポテンシャル)を推定し,地図上に可視化する研究を行ってきた。本報告では観光ポ テンシャルマップの作成法と可視化ツールについて紹介するとともに,同技術の応用として,テーマ別観光 ポテンシャルマップ,マス/ニッチ資源の描き分けた観光ポテンシャルマップ,魅力的な街路を浮かび上が らせる散策路ポテンシャルマップ,ならびに観光ポテンシャルマップからの「観光軸」の算出について紹介 する。そして最後に,実用化に向けた検証と時空間精度の信頼性向上を今後の課題として指摘する。

*首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域

192-0397東京都八王子市南大沢1-19号館)

e-mail {ykurata, hisaai}@tmu.ac.jp / [email protected]

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という考えに立ち,除外対象は私的空間(自宅,職場,

ホテル室内等)で撮影した写真と,テレビ・PC等の画 面を撮影した写真に限った。そしてこの選別を人力で はなく計算機上で実現するため,各写真が除外対象か 否かをその属性データから推定するルール(決定木)

を,約2万枚のサンプル写真を用いた機械学習により 構築した(倉田 2013a

また,Flickr 投稿者の中には,特定地点での定点観

測写真や趣味的写真を大量投稿するものが散見された。

そこで彼らの投稿による影響を低減させるため,投稿 枚数の平方根に反比例する値(すなわち大量投稿者に よる写真ほど小さくなる値)をヒートマップ作成時の ウェイトとして各撮影地点に与えることとした。

なお,以上の写真選別とウェイト計算を自動で行う ツール(マクロ付きExcelテンプレート)を用意した。

1 Flickrからの写真データ自動抽出ツール

Ⅲ.観光ポテンシャルマップの表示ツール 観光ポテンシャルマップ表示ツールはweb上で一般 公開されており,20149月末現在,10地区のマップ を閲覧できる(http://www.comp.tmu.ac.jp/kurata/tpm/)。

2は横浜中心部のマップを表示したものである。地 図上には各地の観光ポテンシャルがヒートマップとし て描かれ,その上に高ポテンシャル地点でのサンプル 写真が表示されている。背景地図の作成には Google

Maps APIを使用しており,地図の縮尺変更,スクロー

ル,衛星写真や地形図への切り替えが可能である。ヒ ートマップの作成には,同 API に実装されている Heatmap Layerを用いた。

画面左側に表示されているのは各種条件欄である。

ここでは以下の設定が可能である。

・サンプル写真の表示・非表示

・投稿枚数に応じた写真の重み付けの有無(Ⅱ章)

・カーネル半径(大きな値ほど「にじんだ」印象と

なり,マクロな傾向がつかみやすくなる)

・上限(どれくらいのポテンシャルをもって赤色に するかを示す値。値が大きいほど赤の領域が減る)

・年度・季節・時間帯

・降水量

・旅行者対象(どれくらい遠方の旅行者による投稿 に基づきマップを描くか)

これらの条件の変更にともない,画面は随時変更され る。例として図3に「降水量10mm以上」と条件設定 した横浜中心部の「雨の日観光ポテンシャルマップ」

を示す。雨の多い日本の観光地にとって,このような 地図は雨天対応を考えていく上で有用な参考資料とな るだろう。なお,降水量データには気象庁の公開デー タ(http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/)を使用した。

また,画面の左下には「マイデータ」欄がある。こ こにcsvデータをコピーし「可視化」ボタンを押すこ とで,データをサーバにアップロードする手間無く,

ポテンシャルマップを試作することができる。マップ 作成に必要なデータは各写真撮影点の緯度・経度であ り,加えて各写真の撮影日・撮影時刻・画像URL,投 稿者ID・投稿者居住地までの距離・当日の降水量・ウ ェイトをオプション値として付加できる。

2観光ポテンシャルマップ(横浜中心部)

3雨の日観光ポテンシャルマップ(横浜中心部)

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Ⅳ.観光ポテンシャルマップの応用

本章では観光ポテンシャルマップを応用した様々な 研究事例を紹介する。

.テーマ別観光ポテンシャルマップ

Ⅲ章では,観光ポテンシャルマップ描画時に,その もととなる写真に条件を追加することで,時期別や天 候別など,様々なマップが作成できることを紹介した。

これに加え,マップ作成の元となる写真の「テーマ」

を限定することで,さらにユニークな観光ポテンシャ ルマップを作成できる。たとえば図4は,屋外で猫が 撮影された写真のデータをもとに作成された,東京都 心部の「猫観光ポテンシャルマップ」である。このよ うにニッチなテーマであっても,ソーシャルビッグデ ータを活用することで観光マップを半自動的に作成で きるのが,本技術の強みの一つである。

テーマ別観光ポテンシャルマップを作成する際には,

まず検索キーワードを指定して写真の抽出を行ったあ と,通常はさらなる写真の精選が必要となる。ここで もし人力では対処しきれない量の写真を捌かねばなら ないのであれば, Ⅱ章で述べたのと同様に,機械学習 によって写真の選別ルールを構築し,適用していく必 要が生じる。

なお,テーマ別観光ポテンシャルマップは,そのテ ーマにそった人々の撮影活動の多寡を描いたものであ り,そのテーマの事物の分布を示したものではない。

たとえば,猫ポテンシャルマップは,どこで猫写真が 盛んに撮られているかを示した地図であって,猫の分 布を示すものでは決してないことに注意されたい。

4猫観光ポテンシャルマップ(東京都心北部)

.散策路ポテンシャルマップ

街歩き観光の大半は街路空間(もしくは街路沿い)

にて行われる。そこで,観光ポテンシャルマップを応 用し,「魅力的な街路」を見出せるか否か検討を行った。

5は,横浜中心部を例に,街路ごとに観光ポテンシ

ャルの平均値を求め,それを線の太さによって可視化 したものである。この結果,観光客に魅力的だと思わ れる通り(海岸沿いや赤レンガ倉庫周辺,中華街大通 り,山手本通り等)がはっきり浮かび上がる結果とな った。このような「散策路ポテンシャルマップ」は,

土地勘の乏しい観光客が「どこを歩くべきか」を検討 する上で分かりやすい判断材料となると期待される。

一方で,対象が街路に限られているため,広場や航路 上の見所がうまく得られないという欠点もある。

5散策路ポテンシャルマップ(横浜中心部)

.観光軸の自動抽出

観光ポテンシャルマップを仮想的な「地形図」とみ なしたとき,もしそこに「山脈」のようなものが現れ れば,それは観光的魅力が線状に連なる箇所,すなわ ち「観光軸」と考えられる。観光軸は観光地における 主要な観光動線としての機能が期待される。

筆者らは, 通常,地形データに適用される尾根線抽 出アルゴリズムを観光ポテンシャルマップに適用し,

観光軸の自動抽出ができるか検討を行った(倉田

2013b。その結果,従来の尾根線抽出法は,観光ポテ

6 観光ポテンシャルマップを利用して試験的に抽出した 観光軸(倉田 2013b

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ンシャルが織りなす仮想地形には馴染まないことがわ かった。また新提案の尾根線抽出法は,それなりに観 光軸を抽出できるものの,しばしば軸が並走する問題 が見られた(図6。これをふまえ,現在は,街路デー タを前提条件に組み込むことで,より現実味のある観 光軸の自動抽出を行えないか検討を進めている。

Ⅴ.今後の課題

一連の研究により,様々な条件下において「観光ポ テンシャル」なるものの分布が地図上に可視化できる ことが分かってきた。しかし,これが旅行者あるいは 観光地の意思決定者にどれほど役に立つのか,また役 に立たせるためにはどのような提示を行えば良いのか については,まだ検証が行われていない。たとえば土 地勘の無い旅行者向けには,基本的なPOIや交通施設 の情報も重ねて見せた方が良いかも知れない。そこで 今後は様々な利用シーンを想定しながら,観光ポテン シャルマップの見せ方と付加すべき情報について検討 し,その実用化に取り組んでいきたい。

二つ目の課題は,たとえば昼夜別,あるいは季節別 といった,複数の観光ポテンシャルを一枚の地図上で 表現する手法の開発である。単純に色相の異なるヒー トマップを重ねただけでは,見やすさは得られない。

すでに長尾(2012)は「多数の人々が写真撮影した箇 所」と「少数の人々が大量に写真撮影している箇所」

を一枚の地図上に描こうと試みたが,アイコン表現を 用いたため,撮影枚数の多寡が分かりづらい結果とな った。いかに一枚の図で観光ポテンシャルの変動や差 をわかりやすく表現するかは,今後の課題であろう。

三つ目の課題は,元となる写真データの信頼性の向 上である。たとえば本ツールで夜間の時間帯を条件に 設定しても,日中の写真が少なからず含まれてしまう。

これは,Flickr 上の写真のタイムスタンプは実際の撮

影時刻とは限らず,画像加工ソフトでの保存時刻,サ ーバへのアップロード時刻などが混入しており,さら に撮影時刻自体もカメラ内蔵時計の狂いや時差の影響 も受けているためである。また,同様に位置情報の方 も,残念ながら精度の劣る写真が混在している。そこ で現在,筆者らは個々の写真の時空間精度を属性デー タから推定し,必要に応じて補正あるいは補正不可能 なものについては除去する技術の開発に取り組んでい る。このような技術は,観光ポテンシャルマップに限 らず,写真共有サイトデータを用いた様々な研究の信 頼性を向上させるためにも望まれるものであろう。

謝辞

本研究には首都大学東京傾斜的研究費「ビッグデータから の価値ある観光情報の創出」を使用した。研究遂行にあたっ てはシステムデザイン学部 石川博教授から幾多の有益な助 言と励ましをいただいた。ここに御礼申し上げる。

参考文献

Chen, W. C., Battestini, A., Gelfand, N., & Setlur, V. 2009. Visual summaries of popular landmarks from community photo collections. ACM Multimedia Conference: 789-792.

De Choudhury, M., Feldman, M., Amer-Yahia, S., Golbandi, N., Lempel, R., & Yu, C. 2010. Automatic construction of travel itineraries using social breadcrumbs. ACM Conference on Hypertext and Hypermedia: 35-44.

Girardin, F., Calabrese, F., Dal Fiorre, F., Biderman, A., Ratti, C., &

Blat, J. 2008. Digital footprinting: uncovering the presence and movements of tourists from user-generated content. IEEE Pervasive Computing Magazine 7(4): 36-43.

Kisilevich, S., Keim, D., & Rokach, L. 2010. A novel approach to mining travel sequences using collections of geotagged photos.

Geospatial Thinking: 163-182.

Kurata, Y. 2012. Potential-of-Interest Maps for Mobile Tourist Information Services. ENTER2012: 239-248.

Lu, X., Wang, C., Yang, J., Pang, Y., and Zhang, L. 2010.

Photo2Trip: Generating Travel Routes from Geo-Tagged Photos for Trip Planning. Intl. Conf. on Multimedia, 143-152.

Shirai, M., Hirota, M., Yokoyama, S., Fukuta, N., and Ishikawa, H.

2012. Discovering Multiple Hot Spots using Geo-tagged Photographs. ACM SIGSPATIAL GIS: 490-493.

相尚寿 2014. 観光研究への位置情報ビッグデータ展開の可

能性. 観光科学研究7: 11-19

奥山幸也・柳井啓司2011. 写真撮影の位置軌跡を利用した旅 行支援システム. DEIM Forum.

倉田 陽平・杉本 興運・矢部 直人 2010. あえて案内しない 着地型観光案内-観光関心点データの抽出と活用. 地理情 報システム学会講演論文集19: CD-ROM.

倉田陽平 2013a. 観光ポテンシャルマップの信頼性向上に向

けて-ソースとなる投稿写真データの自動選別ルールの構 築-. 地理情報システム学会講演論文集22: CD-ROM.

倉田陽平 2013b. 大量写真データをもとにした観光地内の主

要観光ルート網の自動抽出に向けて. 観光情報学会第8 研究発表会: 49-52.

長尾 光悦 2012. CGMをベースとした観光情報提供方法に 関する考察. 観光情報学会第 9 回全国大会発表概要集: 26-27.

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