九州工業大学研究報告(工学)No.57 1988年9月 17
光散乱及び干渉法を利用した電圧・電流センサの基礎研究
(昭和63年4.月21日 原稿受付)
電気工学科甲斐昌一
今 崎 正 秀 井 上 清 二 藤 本 利喜雄
九州電力西谷正利
Electric current and voltage sensors Using light scattering and interferometer by Shoichi KAI
Masahide IMASAKI Seiji INOUE
Tokio FUJIMOTO Masatoshi NISHITANI
Abstract
We have reviewed various types of optical sensing techniques for the electric current and vol.
tage, such as laser light scattering, laser doppler velocimetry(LDV)and optical fiber interferometer.
The unique method in these, which is developed by some of the present authors, is an electric cur.
rent(magnetic field)sensor by the correlation time of the scattered light. In this method, we mea.
sure the 90−degree light scattering intensity due to the Brownian motion of magnetic micro.particles in an aqueous solution in the presence of the magnetic field and calculate the correlation function of the scattered light. The result has shown the quite good linear relation between the magnetic field intensity and the correlation time.
(3)マッハツェンダー型光ファイバー干渉計による磁 §1.はじめに
界検出
現在,光を利用した電界及び磁界センサには,ポッケ (4)マッハツェンダー型光ファイバー干渉計による温 ルス効果を用いたものやファラデー効果を用いたものな 度測定
どが挙げられ,数々の欠点をかかえながら実用化に至っ (5)光散乱法による磁界検出
ている例も多くある1−5)。本研究においては,以下に 通常レーザードップラー速度計は流体の速度を光の干 示すような3タイプ5種類の方法を試み,各種センサと 渉から計測するものであるが,本研究では流体あるいは しての基礎研究を行ったので報告する。 粒子が外場に応答して移動して動く速度を計測し,それ から逆に外場を知ろうとするものである。一方マッハ (1)レーザートップラー速度計を利用した磁界検出 ツェンダー型やマイケルソン型の干渉計による計測は,
(2)レーザートップラー速度計を利用した電界検出 外場によって生じた歪みから光の透過速度が変わり,そ
れと元の光との干渉により,外場の強さを知ろうという v(m,。)
ものである。後者の計測法では既にセンサーとして多く
1.5 の報告があるが,ここではこのような従来の方法を含め
て,本研究室で行なわれた研究を紹介する。ところで,
10 レーザードップラー速度計を利用したものと光散乱法に
よるものは,共に検出量が周波数シフト量なので,振幅 α5 強度変化を検出する従来の方法と比べて,外部雑音に強
いと言う利点が挙げられる。また光散乱法の場合は普通 o ノイズとして嫌われるブラウン運動を逆に利用している
点で従来には無いユニークな方法と言える。特にここで はこの光散乱法による磁界検出に重点を置いて話を進め
360 720 H(0¢)
亀警H・}
20
10
一 図一2 磁界と速度及びドップラー周波数の関係
る。 この問題点は,1.5Hz以下のゆっくりとした磁界変 動にしか粒子が追従できず,かつ今回試料として磁性流 §2.レーザードップラー速度計を利用した 、
体の希薄溶液を使用しているが,この粒子の形状,サイ
磁界検出 ズが均一でなく,これが測定値に,、ラツキを生じさせて
この方法は,磁界中の磁性粒子の移動速度をレーザー いる。従って今後の課題としては,粒子径及び形状が均 ドップラー速度計で測定し,その時の磁界強度を周波数 一な磁性粒子を用いることによって測定バラッキを減少 シフト量として検出するもので,その光学系の概略図を させるとともに,低粘性あるいはより小さな粒子の使用 示すと図1のようになる。ここで光源には,He−Ne によって周波数帯域の拡大を試みる必要があろう。
レーザー(λ=°・6328μm・出力5mW)を使用し・試 @§3.レーザードップラー願計を禾U用した 料としては水溶媒の磁性流体(FERROFLUIDICS社
製)の希薄瀦を用いている.図,はその実験結果でこ 電界検出
のように磁界強度の増加にともない,ドップラー周波数 この方法は,電界強度に応じた圧電素子の振動速度を fdは線形に対応しているのが分かる。ただし図中の点 レーザードップラー速度計で測定する事により,その時 線は次式で与えられる理論値を示している。 の電界強度を周波数シフト量として検出するものである。
図3に,その光学系及び信号処理系を示す。光源には
艦)』 \(・) 一レーザ(H6328μ 力・mW)を用いて
おり,圧電素子の側面(振動方向と平行な面)にビーム ここで,ηは粒子の移動速度,σ斑は磁性粒子の磁束 を照射し,その散乱光をフォトディテクターで検出した 密度,αは粒子径,ηは水の粘性,μは磁性粒子の透磁 後,スペクトルアナライザーで処理している。今回使用 率,B。xtは外部の磁束密度勾配である。 した圧電素子は東北金属社(材質はジルコンチタン酸
イル2
レンズ1 ピンホール1 LENS
lレンズ2にホール2 −_
ぽ
;㍑。,
図一1 レーザードップラー速度系による磁界測 図一3 レーザードップラー速度系による電界測 定 定
光散乱及び干渉法を利用した電圧・電流センサの基礎研究 19
鉛)のもので,また圧電素子からの散乱光の質を良くす (つまり光強度変化量)として観測される。ここでは,
るために,素子のビーム照射面に粒子サイズの揃った その応力を与えるものとして磁歪材を使用し,磁界強度
(粒子サイズ:0.16μm)テープを貼り付けている。 を干渉量として観測することを試みた。図5にその光学 図4にその実験結果を示す。図から分かるように, 系及びセンサ部を示す。光源にはHe−Neレーザ(λ=0・
ドップラー周波数ゐは電界強度の増加に対し,線形に 6328μm,出力5mW)を,分岐器としてはファイバー・
対応している。ただし,図中の実線は最小自乗法により カップラを使用し,光ファイバーにはコア径5μmのシ フィッティングしたものである。ここで,測定値の上限 ングルモードファイバーを用いている。
は圧電素子の耐電圧によって制限され,また下限はドッ 図6に,磁歪材に磁界を印加した場合に測定された位 プラー周波数五が電源周波数等のノイズ領域に入り識 相変化を示す。このように約20[Oe]以上の磁界に対し 別困難となるためである。この様な測定範囲の制限に対 て位相変化は,緩やかになってくる。これは磁歪材の飽
しては,圧電素子の耐電圧が高いものを使用したり振動 和特性によるもので,この特性がこの装置の測定範囲及 変位の大きな材料を使用することにより解決できる。 び分解能に影響してくる。よって測定範囲の拡大や分解 能の向上を計るには,磁歪材により磁歪効果の大きなも のを使用したり飽和磁界の大きなものを使用したりする
4
3言 斐
這2
1
ことによって改善できる。
また光ファイバーと磁歪材との接合方法にも問題があ り,速い変動ではスリップが生じる。その影響によって 測定周波数帯域は9.5Hz以下と応答の悪いセンサーと なっている。
0 10 20 30(x103)
E(V!m) λ=06328μm
ハーフミラー
一 ヒンホール ソングルモロトぬファイバ おぬ
図一4電界とドップラー周波数の関係 @ (ジ≒≡く ク還.
(変位方向) 出射光 センサ部
§4.マツハツェンダー形光ファイバー干渉計 図一5 マッハツエンダー光学系 による磁界検出
これは・光ファイバーに応力が加わることによって伝 6∞
搬光に位相変化が生じることを利用したもので,この位 相差を干渉光より求めるものである。例えば,応力に
よって光ファイバーが軸方向に△Zだけ変位した場合に, _400 ひ 生じる位相変化量△φは,次式で表される。 {8 ζ200
△φ一・{・+芸[μ(ρ・+ρ・2)一ρ12]}△2 (・)
ここで・一・・/・,λは光源の波長,・はフ・イバコ ゜。 1。、。、。、。艶、。
アの屈折率で,μはボアソン比,ρ11,ヵ12は光弾性定 H(Oe)
数である。このような位相変化量は,干渉縞の移動量 図一6 磁界と位相変化
§5.マッハツェンダー形光ファイバー干渉計 §6.光散乱法による磁界検出 による温度測定
この方法は,はじめにも述べたように磁性粒子のブラ これは,§4で述べた光ファイバー干渉計と同じもの ウン運動における移動速度を光散乱法を用いて検出する であるが,ここでは光ファイバーの温度変化によって伝 ことにより,その磁性粒子に作用している磁界強度を知 搬光に位相変化を生じさせる性質を利用している。この ろうというものでユニークである。したがって,まずこ
光学系を図7に示す。 の原理について少し詳しく説明する。
図8にその実験結果を示す。ここで△Tは,参照用 粘性流体中における球形粒子のブラウン運動は次式で 光ファイバーの外気温石と信号光用光ファイバーの外 記述される。
気温万との差(△T=乃一乃ヒ)を意味する。この図
において,△T−・9℃付近で傾きカ・変わっているのは, 曙L・噺畑 (・)
温度変化により光ファイバーのコーティング材の性質が
変化したためではないかと思われる。この点を除けば温 (τ:粒子の速度,∫(D:ランダムカ,γ:1/τ,
度変化に対し位相変化量が大きいので,かなりの分解能 τ:相関時間)
が得られることが分かる。例えば,△Tが19℃以下で ここでこの右辺第一項は速度に比例する抵抗力を示し,
は,1℃の温度変化に対し干渉縞6本が移動しているの 第二項はランダムカを示す。この方程式から速度相関関 で,干渉縞の移動本数をカウントするだけでも0.17℃の 数を導くと次のようになる。
分解能を持つことになる。実際には干渉縞の1本の間も
〈△oα)△〃(0)〉=〈△o(0)2>exp(一γτ) (4)
10〜20等分程度の精度で計測することも可能で,これだ
と約0.008℃程度の分解能が可能となる。 また,ブラウン粒子からの散乱光強度1、( )の自己相 関関数〈∫。(ε)∫。(0)〉は,次式で示されるように,速度相関 「一二三三:;;一]「三二元]「 一一一 i 関数と比例関係にある。
i 〈∫。(1)∫8(0)〉〜〈∠1zフ(ε)∠12ノ(0)〉 (5)
よって,散乱光の自己相関関数を求めることによりブラ
ハーフミラー
ウン運動の速度相関関数を知ることができ,その時の相 一ピ・ホヲ・ 関時間τを得ることができる。
ところで磁界中における磁1生粒子のブラウン運動を考 鯖魍系へ えるとまず磁界が存在しない場合には粒子のブラウン運 図一7 光学系及びセンサー部の概略図 動には並進ブラウン運動と回転ブラウン運動があり熱揺 動(エネルギー〜K6T)によって運動している。その
(.1。・) 時の相関関数・は次式で表される6)・
400 12
留8
3
息 4
0
・−P6。瓦3器(,/、) (・)
2°o ここで,K、:ボルツマン定数, T:絶対温嵐。:粒 子の半径,η:水の粘性,λ:入射レーザ光の波長,η :水の屈折率,θ:散乱角度である。
。 1。 2。 3。° 磁界が存在すると磁1生粒子の回転ブラウン運動が磁界
△T(℃) (magnetic energy〜卿耳勿:磁性粒子の磁気モーメン ト,H:磁界強度)によって抑制され,相関時間τは長 図一8 温度と位相差の関係 くなる。この場合には相関時間τは上式におけるKろT
光散乱及び干渉法を利用した電圧・電流センサの基礎研究 21
を(K6T)/(〃2H)で置き換えることにより表せる。
ロ カ
レンズ ぴタカ
従って・磁界中における離粒子のブラウン働の棚 Arレ ザ ②セル_光旦。.
時間τは,磁界強度に比例して大きくなるものと考えら ・…51・…
カ む れる。 レンズ ビンホール ー 以上,述べた原理を用いて磁界測定を行った結果を示 レンズ のロ
す前に・光学系及び信号処理系を図9に示しておく・光1・・幻一 uピP∵。一
源にはアルゴンイオン・レーザ(λ=0.5145μm,出力 13・4mm
_ 散乱光
センサ部
600mW)を使用し,レンズによってセル内の探測領域 (《㌃, T Pc8・・1
団」 ,,一
2 100A
にビームを集光している。このセルの中には磁性粒子の C°肝R°」
水溶液が封入されていて,その磁性粒子からの90°散乱 Fltt1[ pc98°1 光をレンズ及びピンホールを通したのち,光電子倍増管 図一9 光散乱光学系
(フォトマル)で受光している。フォトマルからの出力
はアンプを通した後,シグナルアナライザーで処理され, t6 そのアナライザーによって求められた自己相関関数をマ
イコンに転送した後,相関時間τを求めている。 るt2 の ここで,セルに印加した磁界の向きは図9右上に示す 毛 ように,入射光と散乱光との向きに対し垂直に取ってい Nα8 る。また,セルの形状は12×12×13.4mmで,透明なプ
α4
ラスチック製のセルを使用している。 0 400 800 H(Oe)
また,今回使用した磁性粒子は酸化鉄(Fe304)をポ
リスチレンでコートした球形のもので粒子サイズの均一 図一10磁界Hと相関時間τの関係(試料濃度 0.01%の時)
性が良く,粒子径は1μm,中に含まれる酸化鉄の直径
は0.55μmである。またこの粒子の比重ρは約1.6であ 2
る。
図1°は磁1生粒子の灘を゜・°1%とした時の磁界搬H @91・・
と相関時間τとの関係を示したものである。この図から ∈ 分かるように,τは約300[Oe]までは線形に増加してい P 1 るが,約440[Oe]で最大値を示した後は減少している。
この減少の理由としては・磁界が強くなるにつれて磁性 α5
/
ジシ1・▲
彰已二:一:一:。.
粒子間の磁気的相互作用が大きくなり,それが見かけ上 0 500 10∞ 1500 2000 H(Oe)
大きな粒子として互いにより大きなスケールのブラウン
運動を生じさせたためではないかと考えられる。ここで 図一11磁界Hと相関時間τの関係 τが最大値を示すときの磁界強度をH抗とする。図11
は試料の濃度を変えた結果を示しており,濃度が濃くな 5 るにつれてその傾きKは大きくなり,またH功は小さ 4 宕
くなっていくのが分かる。ここで図中の実線は最小自乗 Q3 り法によって線形フィッティングしたものである。 §2
この濃度変化に対する傾きKの変化を図12に示す。 ヱ1 このように傾きは,濃度変化に対し,線形に大きくなって
O
いる。これは濃度が増すと,溶液全体の見かけ上の磁気モ O OO2 004 C(°/.)
一メントが濃度に比例して線形に大きくなり,これが感
受率を線形増加させるものと考えられる(C㏄K㏄m)。 図一12濃度Cと傾きκの関係
図13は濃度とH斑の関係を示したもので,ここでは 界検出に関しては,圧電素子の振動幅よりも十分に小さ H仇は濃度の増加に対して,系統的な減少を示してい い探索領域を測定すればより高分解となり,かつ振動振 る。これは磁性粒子の飽和磁束が一定値(480G)であ 幅ではなく速度検出として電界を精度よく知れることに るためである。ここで,この曲線は次式でフィッティン なる。また振幅は必ずしも電界強度に線形ではないが,
グしたものでA−3.6×10−20e,ぽ=800eである。た 零振幅点における初期速度を検出することによって,線 だしGは実濃度比で百分率(ωz%)ではない。 形かつより信頼性の高い計測が可能となる。しかしこれ も圧電素子の材質に大きく依存することが分かり,その
H・−A(1 −1Cl)橘 (・) 選択が轍の問題である・
さて従来型のマッハツェンダー,マイケルソン干渉型 光ファイバーセンサーの場合には既に文献等で報告され
は見い出されなかった。実用性に関する問題点としては,
1500
光ファイバー伝送路自身の外乱による応答が雑音となる
81。。。 カSこれらを避けSN比を向上するためには光IC化が
壬 必要であろう。
500 最後に光散乱法による磁界検出であるが,これは相関 時間という動的量より磁界を検出するために伝送途中や 0
0 002 QO4 材質の経年変化などによる外乱条件に強い。また雷や強 C(%) 大電流パルスによる破壊や,あるいは,絶縁性のよい材 図一13濃度CとHmの関係 料で,かつ耐薬品性の強い容器を使用しているために長 時間安定して使用できる。さらに容器の腐食やその他の 以上の結果より,線形関係を示す領域のみに限れば, 経年劣化による光散乱強度の変化は磁界検出には基本的 光散乱法により直接磁界を測定できるということが分か に何の支障も生じさせず,最も理想的な検出方法と考え る。今後の課題としては,溶液の純水度を上げて相関時 られ,他の古典的手法と比べると明らかに有利な点が多 間τの測定バラツキを減少させ,分解能の向上を計るこ く有望である。ただ現在のところ粒子径が大きく,理論 とや,またサイズのより小さな磁性粒子を使用すること 沈澱時定数が3.25時間と短いが,これも実際には約30倍 により応答速度の向上及び沈降防止を行う必要がある。 程度の実用沈澱時定数を持ち,温度にもよるが,4日〜
ちなみに,今回使用した磁性粒子(粒子径1μm)にお 1週間は全く異常なく検出可能である。もしサイズが ける沈降時間は次の理論式より求めると3.25時間と得ら 1/4程度(2500A)の粒子が実現されれば,10〜20年の れるが,もし粒子径が半分(0.5μm)のものを使用し 実用使用時間を持つことになり,事実上沈降は問題にな たとすると103.85時間となる7)。 らなくなる。最後に相関時間一磁界直読変換器の製作も 現在試みており,コンパクト化かつ一体化すればこの方
沈降時臨一C。漂晶 (・) 式の実用性はさらに高まるものと辮される・
ここで,各記号は9:重力加速度,ρ:粒子の密度, 参 考 文 献
ρ。:水の密度,R:粒子径,η:粘性である。 1)大越孝敬「光ファイバーセンサ」・オーム社(1986)
2)三品博達・朝倉利光,応用物理 42,560(1973)
§7.まとめ 3)三品博達 朝倉利光・電子通信学会資料量子エレクトロ ニクスQE−72−87,1(1973)
以上をまとめると次のようにいえる。レーザードップ 4)今井政明 大塚喜弘光学13・153(1984)
5)鳥羽栄治,機械の研究 38,184(1986)
ラー速度計による磁界検出は同期回路の同期の設定や粒 6)大林康二・鹿児島誠一・生島明,応用物理41,410 子の融合・合体のために計測データーの信頼性にかなり (1972)
の劣化をもたらし,あまり実用的とは、、えない.一嬬 7)SChand ek坑R M°d Phys 1・15(1943)