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海外投資と経営

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第3章 海外投資企業の経営組織

第1節 はじめに 第3章では、海外投資企業の経営組織について叙述する。この経営組織につ いて、どのような観点から叙述すべきか。 マイケル・E・ポーターは、グローバル企業の行動決定につき、価値連鎖に 分解し、戦略を検討することの必要性を述べている。価値連鎖について図式化 したのが、以下の図3−1である。 図3−1 価値連鎖 企業インフラ (資金調達、計画、投資家対応など) 人的資源管理 人的資源管理人的資源管理 人的資源管理 (採用、研修、給与システムなど)(採用、研修、給与システムなど)(採用、研修、給与システムなど)(採用、研修、給与システムなど) テクノロジー開発 (製品企画、試験、プロセス設計、材料研究、市場調査など) 調達 (部品、機械、宣伝、サービスなど) 社内向け オペレーション 社外向け マーケティング サービス ロジスティクス ロジスティクス ・原材料 ・部品加工 ・注文処理 ・営業員 ・苦情処理 ・データ収集 ・組立 ・倉庫保管 ・宣伝 ・修理 ・顧客対応 ・工場管理 ・報告作成 ・提案文書 (出所)マイケル・E・ポーター(竹内弘高訳)『競争戦略論Ⅱ』ダイヤモンド社、1999 年、246 頁を一部簡素化 した。 上記価値連鎖図の中で、重要であると考えられるのが、企業組織にかかわる 問題である。 海外投資、現地法人の経営に関して、イノベーションをどう構築するかを検 討することは、企業経営の効率化を図り、利益創出に有効であると考える。第 一に、(1)イノベーションの概念を明らかにし、第二に、(2)海外投資企業の実

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際のケースから、如何なるイノベーションが行われているかの現状を分析し、 この現状分析から導き出される学修すべき点、および課題につき検討し、第三 に、(3)イノベーションの理想型はどうあるべきかについて考察することが必 要である。 では、ここでいうイノベーションとは何か。一般に日本では、技術革新とい う狭い意味で用いられることが多い。しかし、イノベーションという概念の重 要性を説いたヨゼフ・シュムペーターによると、イノベーションには、(1)新 しい製品導入、(2)新しい生産手段の導入、(3)新しいマーケットの発見、(4)新 しい原料や半製品の導入、(5)新しい組織の導入という5つの指標があり、こ の5つの組み合わせもイノベーションであるという48。 海外投資企業のイノベーションについて検討するときにも、シュムペーター によるイノベーションの概念で検討するのが適切である。実際に中国進出日本 企業は、上記5指標のそれぞれについて経営課題を抱えていると考えられるか らである(如何なる経営課題があるといえるかについては、後述する。)。しか し、ここでは、シュムペーターによるイノベーションのうち、第一の組織のあ り方について検討し、他の争点は叙述しない(もっとも、新しいマーケットの 発見については、すでに前章で叙述した。他は、この講義の時間的制約、およ びコースの主題から個別具体的な争点と考えられるので、省略する。)。 とりわけ組織のあり方を重要視するのは、次の理由による。すなわち、組織 のあり方を検討するのは、「組織は戦略に従う」という有名な命題があるから である49。事実、組織の存在は企業の骨格を成すものであり、組織のない企業 はないからである。従って、はじめに組織について検討されなければならない。 会社組織が構築されたとき、第二に検討される課題は、人事労務管理を如何 に行うかである。このための管理手法にはどのようなものがあり、どのように 利用されるかが検討される。 そして、第三に日本的経営と異文化コミュニケーションについて検討される 必要がある。第一の経営組織および第二の人事労務管理は、システム上の問題 である。しかし、現実には異なる文化、考え方を持つ人と人の集合体であるか ら、ここには多くのミスコミュニケーションが存在することは想像に難くない。 この場合、会社の目標に向かって組織一体化させるために異文化コミュニケー ションの技術が必要になる。 そこで、この第3章では、第一に、(1)企業内組織の構築について、第二に、 人事労務管理について、第三に、(3)日本的経営と異文化コミュニケーション について叙述する。 48 米倉誠一郎『経営革命の構造』岩波書店、1999 年、7頁。このイノベーションを駆使して、価値創造・知識 創造をする人が起業家である(米倉・7-8 頁)。 49 デュポンの戦略と組織の歴史的発展は、アルフレッド・チャンドラーの研究により後づけられ、「組織は戦略 に従う」という有名な命題が導かれた(前掲米倉・146 頁)。

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第2節 企業内組織の構築 2.1 イノベーションへの取り組み 組織とは何か。組織とは、広辞苑(第5版)によれば、「社会を構成する 各要素が結合して有機的な働きをする統一体」のことである。海外投資企業 における組織は、各国・地域の会社法により規範化される。一般には、株主 総会、監査役会、取締役会、執行役員、従業員、労働組合などから構成され る。 この構成は、基本的には各国・地域の会社法により規範化される。そこで、 代表的な会社組織のあり方について概観しておく。 図3−2 各国の会社組織比較 3−2−1 3−2−1 3−2−1 3−2−1 日本型日本型日本型日本型 代表取締役社長 株 日本は、取締役会が業務執行に関する意思決定と経営監督 選任 の機能をともに行なう。監査役会は、業務の監督を行なう。 取 締 役 主 会社の経営は取締役に委ねられている。 人事権 監査 総 選任 監 査 役 会 3−2−2 3−2−2 3−2−2 3−2−2 米英型米英型米英型米英型 取締役会会長 株 業務執行とその監督を一つの機関(取締役会)が担当する。 社外取締役 選任 監査委員会が設置されることは多い。監査委員会は、経営 社内取締役 主 陣から自由な独立した立場にあることが必要とされる。 取締役会会長と CEO は同一人物が兼ねることが多い。 監督 報告 総 C E O 会 経 営 陣

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3−2−3 3−2−33−2−3 3−2−3 ドイツ型ドイツ型ドイツ型 ドイツ型 監査役会会長 株 ドイツやフランスは、業務執行機関と監督機関を分離して、 選任 それぞれ別個の機関とする二重構造が採用されている。 監 査 役 会 主 (フランスは、単層構造の会社もある。) フランスは、従業員に対して、すべての取締役会に従業員 選任 報告 総 代表が出席し、助言する権利を与えている。 ドイツの会社は、従業員 2000 人以上の大会社については、 取締役会会長 会 監査役の半数を株主が選び、他の半数を従業員が選ぶ。 取 締 役 (出所)深尾光洋・森田泰子『企業ガバナンス構造の国際比較』日本経済新聞社、1997 年 19、20、62、63、 209 頁 3−2−4 3−2−43−2−4 3−2−4 中国型中国型中国型 中国型 中国共産党 全国総工会 董 事 長 株 主 董 事 会 選任 総 会 代表 監 事 会 指導 指導 代表 総 経 理 党支部 労働組合 従業員代表大会 指導 (注) 「中国会社法」に基づき、 筆者が作成。 中国会社法によれば、株式有限会社は監査役会を設け、その構成員は 3 名を下回ってはならな い。監査役会はその構成員の中から 1 名を招集者に選出する。監査役会は株主代表および適正比 率の会社の従業員代表で構成し、具体的な比率は定款で定める。監査役会の中の従業員代表は会 社の従業員の民主的選挙によって決定する。董事、経理および財務責任者は監査役を兼任しては ならない(第 124 条)。

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2.2 企業内のリスク・マネジメント ――コンプライアンス態勢の確立について 海外現地法人においては、日本側がマジョリティを支配しているにもかかわ らず、例えば合弁事業においては外国企業側が独断先行して困るとか、独資企 業であるにもかかわらず現地社員が勝手な企業経営をして困るが、どうしたら ようだろうかという相談を受けることがある。 この原因には様々なものがあるが、基本的には本社サイドで合弁企業をしっ かりと管理しようという意識が希薄であったり、合弁企業のコンプライアンス (服従)態勢が確立されていないことが大きな原因として指摘できる。 そこで、合弁企業(独資企業でも同様)におけるコンプライアンス態勢の確 立について、如何なる方策があるのかを事務管理システム、とりわけ財務・会 計管理の側面を中心として、ごく簡単に紹介する。 (1) 日本本社サイドの事務と経営・管理体制の改善 最も肝要なことは、日本本社サイドの事務と経営・管理体制の改善である。 日本本社は往々にして、海外現地法人(工場)から一定品質を満足した製品が、 納期通りに運送されてくれば満足していることがある。合弁企業を設立したの は、本邦法人とトータルで利益を生み出すということを忘れていたり、このよ うな認識を持たない経営幹部がいたりすることが少なくない。合弁企業で赤字 を計上していては、本社への配当ができないということになり、トータルでは マイナス勘定だ。日本サイドの管理職に対する教育も重要であるようだ。以下 の諸点について再検討する必要がありそうだ。 ① 海外現地法人役員の職責、経営管理体制の変更と経営意識改革 ② 不祥事調査のための態勢――監査制度 ③ 本社による海外工場の経営指導体制の見直し ④ 海外現地法人取締役会規則の策定 ⑤ 海外現地法人社長・副社長との契約内容・職務権限の見直し (2) 合弁企業(工場)サイドの事務と経営・管理体制の改善 本社が感知しないところで勝手な追加投資や財務。会計のごまかしがあると いうことも多くの合弁企業でトラブルの要因となっている。このような問題を 未然に防止するには、どのようなシステムを構築すれば良いのだろうか。現行 の事務管理システム(各人が具体的にどのような業務を行い、処理しているの か。)を分析し、問題の所在を明らかにする過程が必要である。これによって 新しいシステムを構築することができる。 いわば、海外工場の事務システム(特に経理システム)の再設計である。こ の中には、①事務調査の実施組織の設置、②不祥事調査のための態勢、③事務 改善組織(委員会制度、専門部署による運営、2 者併用)というようなことが

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含まれる。 合弁企業の組織は、基本的に以下の図3−3のようなものであろう。それぞ れの業務内容を整理し、作業のモニタリング、チェック機能を作ることが必要 である。 図3−3 会社内部組織 取締役会 社 長 製造部 営業部 総務部 製造課 倉庫課 購買課 計画課 販売課 事務課 経理課 総務課 製品製造 倉庫台帳 購買予算 生産計画 受注交渉 販売事務 資金計画 庶務 組 立 て 受入検査 購買折衝 (生産数量) 代金回収 販売計画 資金調達 人事 仕 上 げ 入 庫 見 積 り (生産工数) 見積り 予算編成 出 庫 契 約 (材料日程) 契約 予算統制 期末棚卸 発 注 工程管理 受注 決算 督 促 (作業票) 出荷 会計事務 (出庫票) 代金回収 機能事務 事務手続 単位事務 単位作業 単位動作 事 務 制 度 購買 製造 販売 原材料購入 一般消耗品購入 事務用品購入 発注 受入 支払 購入依頼受付 業者選択 注文書発行 注文書を取出す 記入する コピーする 事務制度分析 事務工程分析 事務作業分析 さらに、事務組織と職責権限の明確、例えば、①総経理の職責内容、②事務 人事管理などが求められる。 (3) 事務管理組織の考え方 日本においては当たり前と考えられようが、コンプライアンス態勢の確立に は、以下の諸点の見直しも必要である。紙幅の都合上、項目のみを示す。 1)事務組織管理の担当業務と組織編成 ① 事務調査改善に関する業務と組織 ② 事務サービス・事務作業に関する業務と組織

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③ 事務活動の管理に関する業務と組織 ④ 事務員の人事管理に関する業務と組織 2)事務調査改善に関する業務と組織 ① 事務システムの開発と設計 ② 事務機械化計画の立案 ③ 帳票設計および文書管理の改善立案 ④ 経営組織編成の立案 ⑤ 諸規定の立案 ⑥ 事務作業標準ならびに業務標準の設計立案 3)事務サービス・事務作業に関する業務と組織 ① 文書のファイリング関係の作業 ② 起票・文書関係の作業 4)事務活動の管理に関する業務と組織 ① 事務作業の進行管理(事務工程管理) ② 事務の誤りの管理(事務品質管理) ③ 事務コストによる管理(事務原価管理) ④ 事務予算の統制 ⑤ 事務の監査 ⑥ 規程管理 5)事務員の人事管理に関する業務と組織 ① 事務員の雇用管理 ② 教育・訓練 ③ 給与管理(職務評価・人事考課) ④ 福利厚生管理 ⑤ 提案制度管理 以上は、あくまで一般的な組織のあり方を叙述したものである。企業規模、 企業の発展過程などにより、如何なる組織を形成するかは、トップマネジメン トに委ねられるといえる。時には、ラインとスタッフの関係、プロジェクト・ チームの形成、各事業部門とプロジェクト・チームとのマトリックス組織の形 成、ネットワーク組織の形成、さらには戦略事業単位としての社内ベンチャー などということも考えられる。

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第3節 人事労務管理 3.1 人事労務管理とは何か 人事労務管理とは、「経営者による人材の体系的運営である。」という50。 これを図示すると、以下の図3−4のとおりとなる。 図3−4 人事・労務管理の体系 人事配置 非常用者管理 (定年制度) 就 教 人 業 (就業規則) 育 事 賃金・賞与 管 訓 制 労 理 練 度 従 労働協約 働 業 組 人事評価 意 合 識 従業員福祉 (出所) 中村常次郎・高柳暁『経営学(第 3 版)』有斐閣、1987 年、203 頁。 中村常次郎・高柳暁は、上記の図に関して、次の通りの説示をしている。 「上記の図で左側の枠は個人別の人事管理の領域をあらわし、右側の枠は集団労 務管理の領域をあらわしている。人事管理(personnel management)とは従業員 の個々の独立面を扱う領域であり、たとえば適正配置、人事考課などは個々の従 業員に関する事項である。労務管理(labor management)という用語は欧米企業 ではすでに死語になっており、現在では労使関係(industrial relations)とい う用語に変わっている。それゆえに“人事労務管理”(personnel management and industrial relations)という用語が、とくにアメリカの企業でなじんでいる言 葉であろう。だが、日本では労務管理は集団労務管理、すなわち労働組合関係や 福利厚生制度・施設を含めて従業員を集団として扱う事項に当たる用語として使 50 中村常次郎・高柳暁『経営学(第 3 版)』有斐閣、1987 年、199 頁。上記の人事労務管理の定義からは、体系 とは何か、運営とは何かという争点が生じる。この点について、詳しくは中村=高柳、199−201 頁を参照。

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用されている。」51 上記の関係を従業員の採用から労働契約の解除までの流れ(日本のケー ス)で示すと、以下の図のとおりになる。 図3−5 労務管理をめぐるフローチャート 海外現地法人の設立 労働組合の設立 労働者の募集 ・労使協議会 ・団体交渉 労働者の採用 労働協約の締結 労働契約の締結 試用期間 正 社 員 就業規則の遵守 ・ 労働報酬・労働時間 ・ 休日、休暇制度 ・ 労働者の保護 ・ 女子従業員の労働保護 ・ 社会保険 ・ 教育、訓練、海外研修 ・ 労働規律と懲戒、表彰 ・ 企業秘密の保全 労働契約の解除 以上の図からは、企業と従業員の関係を規範化する契約または規則に、(1) 労働契約、(2)労働協約、(3)就業規則があることがわかる。これらの契約、規 則を作成し、企業と従業員との間で取決めを結ばなければならないことは、世 界各国・地域ともに共通のことである。この場合、(1)∼(3)には、以下の図の とおりの関係がある。従業員の行動を最も強く規範化するものは、就業規則で ある。 51 中村常次郎・高柳暁『経営学(第 3 版)』有斐閣、1987 年、203 頁。

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図3−6 労務管理をめぐる契約・規則のウェイト 就業規則 労働協約 労働契約 3.2 人事労務管理モデル 前述の通りの人事労務管理体系があることが人事労務管理といえるか。実 際には、人事労務管理の目指すものは、従業員の働きやすさ、働きがいのあ る場所を如何に確保するかにあるはずである。 このような観点からは、人事労務管理に人間行動科学の成果が反映される 余地がある。この点を考慮しつつつくられたのが、図 3−7に見られるヘネ マンらによる人事労務管理モデルである。 図3−7 人事労務管理モデル 1.法律および各種の規則 2.労 働 組 合 3.労 働 市 場 C. 外 生 作 用 ↓↓↓↓ A.人事管理活動 B.人事活動の産出 個 人 1.個人および職務の分析 (能 力) 1.職務の遂行 2.産出の評価 (モチベーション) 3.人事計画 2.充足(満足) 4.企業外採用 5.昇進・異動 職 務 3.勤続の長さ 6.報酬 (遂行要件) 7.労使関係 (報 酬) 4.出勤率 8.安全衛生,健康,労働時間 5.その他

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(出所) 中村常次郎・高柳暁『経営学(第 3 版)』有斐閣、1987 年、211 頁。

(出典) H.G.Heneman Ⅲ, et al., Personnel : Human Resource Management, 1980, p.9.

以下においては、人事労務管理の実務において検討されるべき問題、人事 労務管理上発現する個別的課題について、各争点ごとにもう少し詳しい検討 を行なう。 3.3 人事労務管理の課題と展望 (1) 人事労務管理の個別的争点の概要 具体的に人事労務管理の問題を検討するのに、何を明らかにすればよいか。 各国・地域の労働法典を調べ、(1)労働契約、(2)労働協約、(3)就業規則の策 定に関して、如何なる判断基準があるかを検討することになりであろう。 一般的には、労働法および関連法規において、以下の諸点が規定される。 (1) 従業員の募集・採用 (2) 労働報酬:賃金の内容と構成、平均賃金 (3) 労働時間:残業、休日出勤 (4) 休日・休暇制度 (5) 労働者の保護、女子従業員の労働保護 (6) 社会保険・福利制度:養老保険、失業保険、医療保険、労災保険、 出産育児保険(生育保険)、その他 (7) 労働者の教育・訓練・海外研修 (8) 労働規律と懲戒、罰金、表彰 (9) 労働契約の解除 (10) 企業秘密の保持 (11) 労働組合 (12) 労使協議会と社内裁判、仲裁、訴訟 以下、人事労務管理における労働法典、労働契約、労働協約、就業規則の 意義、および個別的争点に中で、日本企業が海外進出時に考慮すべき人事労 務管理手法の中で、日本的経営の中にはないが、海外ではしばしば採用され ている労使紛争処理システムとしての社内裁判制度などについて、簡単な叙 述をしておく。 (2) 労働法典 労働法は、労働者と労働力使用者との間の労働関係およびこれに密接にか かわるその他の関係を規範化するものである。 労働法には、2 つの概念がある。広義には労働法典として捉えられるもの であり、憲法、各種の基本法および行政法規、条例などが含まれる。狭義に

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は、各国・地域の「労働法」をいう。 ここで労働法について言及する意味は何か。海外に進出した企業が、労務 管理を行うにはこの労働法を遵守しなければならないからである。労働法を 知らずして、労務管理を行うことはできないという実践上の意味がある。 労働法により規範化される労働者と労働力使用者との間の労働関係およ びこれに密接にかかわるその他の関係とは何か。 主な内容を例示すると、次の通りである。 ① 労働関係の発生、変更、消滅 ② 労働報酬に関する事項 ③ 労働時間と休息時間 ④ 労働規律に関する事項 ⑤ その他 (3) 労働契約 労働契約は、労働者と雇用単位とが労働関係を確立し、双方の権利および 義務を明確にするために、締結するものである。 労働契約は、必ず労働者と雇用単位との間で締結しなければならない。そ して、労働契約は、締結により直ちに法的拘束力を有する。締結の形式は、 書面によらなければならず、一般に以下の条項を設けなければならない。 ①労働契約期間、②業務内容、③労働保護および労働条件、④労働報酬、 ⑤労働規律、⑥労働契約終了の条件、⑦労働契約違反の責任 労働契約については、各国・地域ともに労働行政部門に届出て、管理・監 督を受ける。 (4) 労働協約 労働協約は、労働組合の代表従業員と企業との間で締結される労働条件を 主たる内容とする書面による合意である。なぜ労働協約の締結を規定するの か。それは、労働協約を重視するからである。 労働協約締結の今日的意義(実務上、労働協約が存在するのは、日本、韓 国、東南アジア、中国などである。欧米においては必ずしも多くない。)は、 頻発する労働争議を抑制したいということにある。最近の労働争議は、多く の場合、一部の跳ね返り者によって引き起こされていると考える。この場合、 この一部の跳ね返り者を抑えるには、企業内に労働組合をしっかりと組織す ることが肝要である。個別労働者の問題は、従来のように直ちに労働者個人 が使用者に訴えたり、数人が勝手に争議行為を組織したりすることは規制し たい。まず、労働組合に問題の所在が知らされ、労働組合としてこの問題を 検討し、合理的理由があると判断されれば、労働組合が使用者と適法な交渉 をしようとするものである。

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そこで、労働協約の締結に際しては、以下の諸点を規定することが重要で ある。 1.組合は唯一の交渉団体である。 2.組合活動に関する規定―(1)組合の活動時間、(2)労働時間内の活動、 (3)会社の施設の使用、(4)組合専従職員・幹部およびその待遇、(5) 外 部団体幹部への就任およびそのときの待遇 3.労使協議会――(1)討論内容、(2)召集、(3)手続 4.団体交渉 5.紛争――正当な争議行為 (5) 就業規則 就業規則とは、使用者が賃金・労働時間のほかの労働条件に関する事項、 経営秩序、職場内での規律保持に関する事項などについて規定するものであ る。 就業規則についても労働行政部門において適法性などの検査を受ける必 要がある。労働契約が締結され、さらに労働協約が締結されても、これらの 契約において就業の諸事項をすべて網羅的に具体的に規定することはでき ないのが実情である。これを補足するために就業規則の制定が実務上必要に なる。 高井伸夫は、次のように述べる。 「企業の人事労務実務においては、日本と同様、就業規則が定められているの が実際である。これはいうまでもなく社員・従業員を公平に扱うためには、労 働契約という個別契約だけによって運用することが基本としてはなしえないか らである。就業規則という企業全体に通ずるルールを設定して、これを基本と して労働関係を律していかなければ、公平感の維持、すなわち片手落ち・えこ ひいきがない状態を確保できないからである。」52 この意味で、就業規則は非常に重要なものであり、実質的に労働者の就業 条件を規範化するものであるといえる。 では、就業規則において、何を規定すべきであるか。 一般に、(1)人事(採用、退職および契約解除)、(2)服務、(3)勤務、(4)賃 金、(5)労働契約解除に伴う生活補助費および医療補助費、(6)慶弔慰金、(7) 安全および衛生、(8)教育、(9)社会保険および災害補償、(10)表彰、(11)懲戒、 (12)労働紛争、(13)法律責任、(14)違約経済賠償責任などが規定される。さ らに、就業規則に基づき、(1)給与規程、(2)出張旅費規程、(3)慶弔慰金規定、 (4)安全・衛生規定などが規定されよう。 就業規則は、従業員の同意の有無如何に係わらず、使用者が独自に作成す ることができる。 52 高井伸夫「中国における人事労務基礎講座③」『国際貿易』(日本国際貿易促進協会、1999 年 10 月5日)。

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(6) 労使協議会と団体交渉 ① 労使協議会 労使協議会とは、使用者と従業員が、企業内特有の団体交渉には馴染まな い経営・生産にかかわる問題、あるいは団体交渉以前に通常の協議形態をと る中で、協調的な話し合いをし、協議事項を解決して行こうとする組織であ る。 ② 団体交渉 団体交渉とは、労働組合が使用者と労働条件に関して交渉することである。 日本の労働組合は、企業内組合であるから、団体交渉は企業内交渉であり、 そこで取上げる事項は、主として当該企業特有の事項である。従って、日本 の場合は労使協議会制度を設ける必要は本来ない。それにも係わらず日本の 多くの企業に労使協議会が存在するのは、経営・生産事項を団体交渉の対象 から排除し、協調的な労使協議会制度の対象事項とすることで、合理化にお ける主導権を堅持しようとする資本の政策がもたらした結果である。このよ うな日本の労使協議会の発展の仕方、存在理由には議論もあるところである が、協調的労使関係という観点から評価される。 (7) 労使紛争と社内裁判、仲裁、訴訟 米国で行なわれている人事・労務管理関係の構築にかかわる制度に次のよ うなものがある。 電話・文書による投書方式、マネジメント/従業員協議会、定期会合、オ ープンドア制度、特定テーマの調査のタスク・フォース、苦情処理制度、ア ンケート調査などである53。 苦情処理制度とは、従業員の職場における不満・苦情を一定の社内ルール に従って判定するに当り、企業側だけが事情調査・判定を行なうのではなく、 同僚の従業員を参加させるものである。そのメリットとして、情報収集の正 確性と恣意的な判断の排除があげられる。最も整備されたものとして、一般 社員と管理職で構成するパネルが訴えを審査し、評決を下す「社内裁判所」 のようなものがある。 ニューヨーク州のロングアイランドにある大手ホテルチェーンの1つマ リオットホテルでは、1991 年から社内裁判を導入している。昇級、配属、 解雇などに関して従業員から不当だと申し出があった場合、管理職2人、従 業員3人のパネルが審査し、評決する。 マリオットでは従業員が「勝訴」する確立は約 30%。それでも、従業員 が評決を不服として本物の裁判に訴えるケースは「これまでほとんどない」 53 竹内規浩『国際人事管理入門』(産能大学出版部、1997 年)51 頁。

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という。社内裁判所を設置している企業は、「従業員の信頼を獲得できる効 果も無視できない」(デュポン)、「公正な判断を下す作業に参加することで、 従業員の責任感が増し、士気もあがる」(シグナ)と評価する54。 中国でも類似したシステムが見られはじめている。 上海フォルクスワーゲンがその1つである55。同社では、職場における規 律違反および問題行動につき、各職場長で対処できない場合に、人事部 2 名、従業員代表 2 名、法律部代表 1 名の計 5 名で構成される「規律違反処 理委員会」に問題が持ち込まれる。同社では毎年 10 回程度開催されている という。同委員会は原則として書面で意見を出すとのことで、この意見に不 服の場合には、人事部 1 名、工会 1 名、従業員代表 2 名で構成される企業 内の「労働争議調解委員会」に持ち込まれる。これまでの運用では、紛争は ほとんどこの委員会で解決しており、解決できなかったのは 2 件だけしかな いという。 日系合弁企業などでは、同様のシステムがどのくらいあるのであろうか。 あまり聞いたことがないが、海外における人事労務管理手法の1つとして採 用を考えてよい制度であろう。 54 竹内規浩『国際人事管理入門』(産能大学出版部、1997 年)、52 頁。 55 近藤丸人「中華人民共和国における労働紛争と裁判外紛争解決制度」石川明、三上威彦編著『比較裁判外紛争 解決制度』(慶応義塾大学出版会、1997 年)272 頁。

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第4節 日本的経営と異文化コミュニケーション 4.1 はじめに ただ、以上叙述してきたことは、あくまで構成要素を挙げただけであり、 この組織構成をいかに有機的な統一体とするかは、個々の企業経営者の努力 に委ねられる。 ところが、実際には少なからぬ日本人駐在員が、現地従業員の労働意識や 価値観について「○○人は、まじめに働かない」、「整理・整頓の基本もでき ない」、「無責任である」、「ミスをしても決して謝らない。他人のせいにする」、 「顧客サービスをしない」、「自己本位だ」、「他人の悪口を言う」「愛社精神 がない」などと不満を述べている。このような不満が生じるのは、日本と外 国・地域の異文化、社会体制の違い、この体制に起因する労働意識の差など から生じるミスコミュニケーションであることが多い。双方ともに相手の視 線を知る必要があるだろう56。 では、どうすればコミュニケーション・ギャップがなくなるか。有機的な 統一体となるためには如何なる方法を講じることが必要か。これには、海外 進出で成功を収めている企業が、どのように組織化を図り、人事労務管理を しているのかを検討するのが適切である。 これには、従業員のモチベーションを高める組織の導入、人事労務管理が 最も重要である。具体的にはどうすればよいか。この点を検討することが肝 要である。 以下、第一に、(1)海外進出企業における日本的経営が外国人従業員により どのように評価されているかを述べ、第二に、(2)この評価の中で、日本企 業はどのような組織を形成しようとしているのかについての若干の事例を 検討し、第三に、(3)日中合弁企業における異文化コミュニケーションを一 つのケースとして挙げ、異文化コミュニケーションのあり方を検討をする。 4.2 海外(外国人従業員)における日本的経営の評価 (1) アメリカからの視線 ① 日本的経営について アメリカ人は、「(日系企業は)仕事の範囲と責任が不明確だ」とか、「業 績の評価が正当にされない」などという不満を持つことが多いという。また、 こうした不満の中には、日本的経営手法の適用の結果だけでなく、在米日本 56 日本人駐在員から見た中国ほかアジア現地法人の経営課題やこれら現地法人で働く現地従業員から見た日本 人に対する視線などの問題について研究したものに、例えば、今田高俊・園田茂人『アジアからの視線』(東京大 学出版会、1995 年)、梶田幸雄・園田茂人『中国投資はなぜ失敗するか』(亜紀書房、1996 年)、園田茂人『日本 企業アジアへ』(有斐閣、2001 年)などがある。

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企業の中に日本人スタッフがいることに伴う問題も少なくないという57。 以下のような問題点が指摘されることも多い58。合意による意思決定、上 級管理職は権利により従業員を引っ張ろうとする、日本人はアメリカ人部下 が「素直」に指示に従うことを望んでいる、人材育成方法(遅い昇進、配置 転換)、集団主義(企業家族)、主要ポストはすべて日本人マネージャーが占 めている、会社の長期計画から締め出されている米国人社員、などなどであ る。 ② 日本人について 表3−1 1988 年時点におけるアメリカ人ワーカーの日本的経営認識と問題点 項 目 具 体 例 (1) 意思疎通の問題 (ミスコミュニケーション) a.英語文化 VS.日本語文化 b.「なぜ」(Why?)の問いに対する不十分な対応 c.不明瞭な日本的表現 (2) 勤労倫理の問題 (ワーク・エシック) a.日本人の長時間勤務 b.日本人スタッフとアメリカ人ワーカーの交わり方 c.非能率的な日本人ビジネスマン・マネジメント (会議の運営方法、根回しなど) (3) 経営形態の問題 a.物事の決定方法 (デシジョン・メーキング――稟議制度) b.女性およびマイノリティーの待遇 c.責任の取り方 d.規則や条例の明文化 e.年功序列による昇級制度 f.アメリカ人ワーカーの経営参加 g.アメリカ人管理職に対するアメリカ人ワーカーの認知 (4) 仕事に対する満足度の問題 a.ブルーカラーの場合(比較的高い満足度) (OJT、TQC、ZD) b.ホワイトカラーの場合(不満度が高い)、高離職率。 ホワイトカラーとブルーカラーの同一労働条件。 仕事および待遇における同一性(食堂、駐車場、ユニ フォーム、休暇、病欠、大部屋など)。 (出所)熊谷文枝「アメリカ人従業員の現地日本工場認識」安保哲夫編著『日本的経営・生産システムと アメリカ』ミネルヴァ書房、1994 年 57 『日本経済新聞』1998 年1月5日 58 例えば、デニス・ローリー『ヤンキー・サムライ』(東急エージェンシー、1993 年)、や J・J・サリヴァン(尾 澤和幸訳)『孤立する日本企業』(草思社、1995 年)がある。

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(1) アジアからの視線 ① 日本的経営について 雇用の安定がとりえの日系企業、日本的経営で役立つものは、a)企業内人 材教育、b)OJT、c)労使協調、d)企業主催のレクリエーション、e)社員食堂、 f)退職金制度、j)企業別組合。朝礼や年功上列は好まない59 ② 日本人について 勤勉、几帳面、器用である、細かいことにうるさい、いばっている、怒り っぽい、がめつい、ずるいなどの評価がある。 4.3 日系企業における組織形成の試み (1) 目標の共有化ができる組織の形成 某社のある海外法人社長は、次のように述べていた。 「同社が経営黒字に転換したのは、2000 年であった。このときに 5 ヵ年の中 長期計画を立てた。また、社内報の発行を開始した。このことで、従業員に明 確な目標ができたようである。5 年後の同社の姿、発展程度が明確になったこ とで、技術も高度化し、技術者のジョブ・ホッピングもなくなった。……目標 を持たせて会社一丸となることに関しては、日本以上のものがあるかもしれな い。」 では、このような目標の共有化ができる組織とはどのような組織形態であ るのか。これは、ネットワーク型組織である。ネットワーク型組織とは、「説 得・誘導型の行為がその中での支配的な相互制御行為となっている複合主体 (=組織)」60であり、その特徴は、(1)互酬的な相互行為を通じた職務の遂 行、(2)組織の参加者の自立性による運営、(3)組織のプログラムの柔軟性、 (4)伸縮的分業もしくはネットワーク分業、(5)組織の境界の柔軟性にある61 中沢は、「中小企業の場合は経営者と従業員の関係がダイレクトであるた め、仕事に熱心で、会社の置かれている状況を説明する力や、従業員の働く 意欲を引き出すことが巧みな経営者の場合は、会社と従業員の一体感が作り やすい面がある。」といい、「発展する中小企業は人材を育てる仕組みをもっ ている。」と述べる62。 このような組織が形成されたとき、不断のイノベーションを行う有機的統 59 今田高俊・園田茂人『アジアからの視線』(東京大学出版会、1995 年)、園田茂人『日本企業アジアへ』(有斐 閣、2001 年)などの研究論文がある。 60 公文俊平『情報文明論』NTT 出版、1994 年。 61 小木曽道夫「年功型人材管理の終焉」犬塚先編『新しい産業社会学』有斐閣、1997 年、67 頁。 62 中沢孝夫『中小企業新時代』岩波書店、1998 年、2−3 頁。

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一体が構成される63。 (2) ホンダ英国工場の運営事例64 企業組織、工場運営のあり方について、ホンダ英国工場ではどのような工 夫が行なわれているかを理解し、この節の主題検討の参考とする。 「日本の工場では……、チームリーダーまたはその作業の経験者がその工程作業者 を直接指導することによって、どんな新人作業者でも 2∼3 日で重要なキーポイン トは覚えこみ、後はなんとか指示どおりに作業をしようと努力するであろう。英国 ではどうであろうか?もちろん最初は一生懸命に品質を守ろうとしてやってくれる が、時間が経つにつれて品質への関心が薄れてきて・部品が付いていれば自分の仕 事は終った、というケースが頻発するのである。 この違いをもう少し掘り下げてみると、次のような違いが関係してはいないだろ うか?日本では、「自分は会社に雇われている、従って会社が必要としている条件に 合うように仕事をするのが自分の勤め」と考えるのが普通であろう。もちろん英国 でもその様に考えてくれる人も多いが、そうでない人もたくさん居て、「自分の仕事 は部品を付けること、後のことは品質の人がやれば良い、あるいはリーダーがやれ ば良い」というふうに考えている。この違いである。 会社のために全力を尽くすことよりも、自分が会社に働きに行くのは必要な生計 費を稼ぐためである、という考え方が特に現場の作業者には多いようである。 自分の仕事は組み立てだから部品を取り付けることで賃金をもらっている。品質 を良くするためには品質が良くなるような工程を作り、そのような設備を使うよう に計画すれば良い、それはスタッフやマネージャーの仕事であり自分の仕事ではな い。極端に言えばそのような考え方である。100%そのような人たちばかりとは決し て言えないが、時と場合によりそのような考え方をとる人たちもいることを考慮す ると、かなりの比率の人たちがその部類にはいるのではないかと思われる。 これ以外にも、長い間ローバー社にホンダ・パッシの製品を生産委託し、技術指 導をしてきた経験から見て、英国でホンダ自身の手で車を作るにあたって問題にな ると思われる項目を整理し、新工場建設時にはそれらの問題点を可能な限り排除で きるように計画を練っていった。その問題項目を以下に列挙しておく。 1)工場内の階級意識:作業者とエンジニア、管理職の区別、バリヤ(異なる階級の間 に存在する壁) 63 もっともこの場合とても有機的統一体組織として機能するか否かは、個々の経営者(現地派遣駐在員)の資質 に委ねられよう。このときには、日本国内で派遣人員を選抜・育成する過程が重要となる(この点についての研 究には、園田茂人『日本企業アジアへ』(有斐閣、2001 年)がある。)。ただ、常に個々の派遣人員の資質だけに 委ねられるのであれば、人員の異動により組織は常に不安定である。そこで、システムとして如何なる組織を形 成すれば、有機的統一体となり得るかを検討することが重要であろう。この点については、機会を改めて検討し たい。 64 飯田治編『海外・人づくりハンドブック United Kingdom 英国』海外職業訓練協会、2002 年、161−165 頁。

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2)セクショナリズム=組織を跨ぐ仕事のやりにくさ、組織の壁 3)個人の私生活が優先=残業はなし、が原則 4)共同作業やチームワークがうまくいかない 5)他人のことには無関心:隣の人が不良を出していても知らん顔、なるべく係わり 合わない 6)会社の二一ズと個人の仕事は無関係、という考え方 それではこのような問題項目の影響をできるだけ少なくして、約 3 万点の部品か らなる乗用車を、高品質で 30 秒に 1 台量産するにはどのようにすれぱ良いであろ うか? できることなら全ての工程を徹底的に標準化して、決められたとおりに作業をす れば間違いなく高品質の完成車ができるようなシステムにしたいのであるが、現実 にはそう簡単にはいかない。もしそのようなことができるのであれば、ごく簡単な 基礎訓練だけで高品質の製品が量産できる。ところが実際には、どのような高級な 精密機器を導入しても、やはり最後には人間の感性と品質作りこみに対するやる気 にたよる部分が残ってしまうのである。 そこで、英国人マネージャーと駐在員とでかなりのディスカッションを経て、従 業員をリードしていく上での考え方として、「チームワークによる品質作り」をキー ワードにしていくことに方向付けをした。チームワークを妨げる種々の要因を排除 し、組織を通して、また上下の関係を通しての風通しを良くし、コミュニケーショ ンが良く取れるような仕組み作りを実現していった。すなわち個人に与えられた役 割の上部概念として、所属する組織、大きくいえば会社組織の役割を考えて、その 上部組織の役割とそれを達成するために個人が果たすべき役割とを結びつけ共有し て初めて良いチームワークができて、よい品質の製品が完成する、ということを理 解してもらう。 つまりチームの目標を達成して初めて個人の役割が意味を持つ。個人の役割が果 たせる、というように考えてもらうのである。ここでいうチームとは、所属する組 織、グループ金てを意味し、当然プロジェクトチームのような期間限定の特殊任務 のためのチームも含んでいる。 ……… チームワーク作りといってもどんなチームワークを作るかが問題なのでそう単純 ではない。我々がチームワークと言うとすぐに思い出すのがスポーツチームのチー ムワークである。誰でも知っているように英国でもスポーツが大変盛んである。陸 上、自転車、テニス、ゴルフのような個人競技も多いが、チーム競技もなかなか盛 んだし、しかも世界的レベルの強さを誇るものも多い。例えばサッカーやラグビー、 クリケットなどである。日本でもよく例に出てくるように、野球におけるチームプ レーなどの話しは英国人にもよく判ってもらえる。事実英国ラグビーチームのチー ムプレーには感心させられることもしばしばである。ところが工場の品質の話にな ると、スポーツ・チームプレーとの共通点は話としては十分に理解してくれるが、 スポーツはスポーツ、工場での仕事とは無関係と言われてしまうケースが多い。サ

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ッカーのローカルチニムや会社のクラブに参加している人もいるから、彼らもチー ムの一員として立派にチームワークをとってプレーしているのである。 しかし、これはスポーツチームの話で、会社の中のグループや弧となると話は別 である、と考えられている。ここにくるとどうしても前述の「会社は生計費を得る ところ」という割り切りが彼等の基本的な考え方にあると言わざるを得ない。「自分 は会社のために働いているわけではない、自分の生計を立てるために来ている所が、 たまたま今はホンダである」というのが平均的従業員の考え方である。 最近の日本における若者の考え方は随分と変化してきて、欧米の若者に近づいて きたという見方もあるが、それでもまだ一部の人たちに過ぎないであろうし、考え 方は変りつつあるとはいえ、一旦組織のなかに入ると、なんとかその組織の役に立 ちたいという努力が観察される場合が多いのではないだろうか。 英国の場合に戻るが、チームワークという概念は理解されたとしても単にチーム 構成員が一緒に仕事をすることをチームワークと考えている場合が多い。その場合 でもまだ個人が先にきて、チームの目的や目標、役割が先にこないのであるニチー ムの目的達成のためなら、個人の存在が犠牲になっても良い、とはなかなか考えて くれない。このような状態でいる限り、結局個人が集まって一緒に仕事をするのが チーム、すなわちグノレープができていれば良い、というところから抜け出せない。 ……… ともかく英国で生産活動をはじめる以上は、英国の人たちが持っているカルチャ ーや考え方を前提にして運営していく必要がある。ホンダの英国工場においては、 次のような点を運営の基本方針として展開をすることにした。 1)工場が存続し、従業員のホンダでの職が長期にわたり保証されるためには、市 場のお客様に喜ばれる高品質の製品を出荷しなければならない。 2)高品質の製品を製造するためには、良いチームワークを築かねばならない。 3)良いチームワークを築くには; *階級制度を排除=誰にでも公平なチャンスがある(シングル・ステータス) *セクショナリズムを排除:組織の枠で行動を束縛しない *仕事にフレキシビリティーを持たせる=欠員はよその組織からでも応援する *地域や業界で優位な魅力ある労働条件(給与、労働時間、健康保険制度など) *常に良好なコミュニケーションを保つ *フェアな扱い、処置、評価 を実行できるような仕組み、システムを構築し、必要があれば就業規則に盛り込ん でおく。」

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(出所)飯田治編『海外・人づくりハンドブック United Kingdom 英国』海外職業訓練協会、2002 年、 172 頁。

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4.4 日中企業文化の隔たりを埋めるコミュニケーション ――「集団主義」の適用可否をケース・スタディとして (1) はじめに 中国における外資系企業におけるトラブルが多いことがしばしば指摘さ れる。このトラブルはなぜ生じるのか。コミュニケーションの欠如が最も大 きな原因ではないかと考える。なぜか。トラブルの態様にはいろいろあろう が、中国の社会主義計画経済体制のなごりとしての中国企業の経営メカニズ ムや労働者の意識が、日本企業のものとは大きく異なることを原因とするも のが多い。日中は同文同種といわれるが、異文化であることに議論はないで あろう。日中企業経営は、異文化である経営主体(労働者を含む。)が、あ る目標を共有して事業を行うものである。このとき、経営理念・方針や労務・ 生産管理方法などについて当事者間で理解し、納得できるような話し合いが なされず、いずれか一方が自己の方針を押し付けるとき、すなわちコミュニ ケーションが図られていないときにトラブルが生じている。 そこで、異文化コミュニケーションという視点から、日中合弁企業とは何 かを考え、異文化コミュニケーションはなぜ必要であるかということを指摘 し、異文化コミュニケーションを図るためにはどのような努力が必要である のかについて日本的経営システムの日中合弁企業への適用問題から検討し て見たい。トラブルを未然に防止するための一つの処方である。 (2) 日中合弁会社とは何か カンパニー(会社)の語源は、ラテン語の cum と panis で、これは「共 に」「パン」を食べるという意味である65。この点から、日中合弁企業を定 義すると、日中合弁会社は異なる文化を有する会社・人が、共に設立する会 社であるということができる。 日本と中国は同質ではない。日中の企業文化も異なるし、従業員の労働意 識も異なるからである。日中間には多くの相違が存在する。この点を考える と日中合弁事業の関係は、それぞれのゲゼルシャフト(共同利益)社会から ゲマインシャフト(共同犠牲)的関係に入っていく関係ではないだろうか66。 ゲマインシャフトとゲゼルシャフトとは何か。すべての信頼に満ちた親密 な水入らずの共同生活は、ゲマインシャフトのおける生活と解せられる。ゲ ゼルシャフトは公共生活であり、世間である。人は誕生以来、家族の者と共 にゲマインシャフト的生活を送り、あらゆる幸不幸を共にしながら暮らして いる。人は見知らぬ国に行くような気持ちでゲゼルシャフトの中に入ってい 65 奥島孝康『プレップ会社法』(弘文堂、1987 年)14 頁。 66 日中合弁企業に限らず、会社自体がそもそもゲゼルシャフト(共同利益)社会からゲマインシャフト(共同犠 牲)的関係に入っていく関係であるといわれる。(奥島前掲注 18)14−15 頁。

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く67。この関係がゲマインシャフトとゲゼルシャフトである。 国の文化は、経済構造や産業組織の経営スタイルを決定づけるのに重要な 役割を演じている68。日中合弁企業の成否にも異文化が大きな影響を与える ことは明らかである。異なる経営スタイルを一つに融合することは容易では ない。この限りにおいて、日中合弁企業の基盤は不安定なものである。 (3) 相違から類似への過程 異文化の経営主体によって形成される日中合弁企業において、企業内部の 関係はは確固たるものか。否である。では、どうすれば確固たる関係を構築 できるか。ここに異文化コミュニケーションを図る努力が求められるのであ る。では、異文化コミュニケーションとは何か。どうすれば異文化コミュニ ケーションが図られるようになるのか。異文化コミュニケーションの研究で 中心をなす考え方の 1 つは類似と相違の原理である69。異文化間において何 が類似しており、何が相違しているのかを明らかにすることが、まず肝要で ある。 日中合弁事業を行う上で、日中間の類似と相違とは何であろうか。日中の 類似とは何か、相違とは何かといっても類似、相違というときの判断基準は 何かということが問題になる。 例えば、ヘンリー・メーンがいう「東洋と西洋の村落共同体」比較で見れ ば、日本も中国も同じ文化ということになるだろう。J.J.モーガンは「日本 人の人間関係は大変複雑であるため納豆のように切ろうとすればするほど ねばねばして、とても離れられない」という70。この表現は日本人が中国の 人脈社会をたとえるときの表現と一致しているのではないだろうか。しかし、 この点も欧米人が見ると、日本人と中国人は同質性を有しているということ になるのかも知れない。 日本人は、しばしば中国人には契約意識が乏しいと批判する。では、日本 人の契約意識はどうであろうか。川島武宜は、日本人の契約も拘束力のある ようなないような「合意」を意味し、日本人が「望ましい」と考えるのは、 もし問題が起こったら確定した権利義務を主張しないで、その時に「話合い」 をして解決するということを予定することであるという71。これが日本人の 契約に対する意識である。日本人・企業が、中国人・企業をしばしば批判す るときの発言振りが、日本人の内である法学者から、日本人の特性として述 べられている。このような内からの日本人の契約意識に対する評価を受入れ 67 テンニエス『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト――純粋社会学の基本概念(上)(岩波書店、1977 年)35 頁。 68 デニス・ローリー『ヤンキー・サムライ』(東急エージェンシー、1993 年)310 頁。

69 Michael H. Prosser The Cultural Dialogue―An Introduction to Intercultural Communication (東海大学

出版会、1982 年)

70 飯田史彦『日本的経営の論点』(PHP 研究所、1998 年)209 頁。 71 川島武宜『日本人の法意識』(岩波書店、1989 年)93∼94 頁。

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るとすれば、西欧から見ればなおさら日本も中国も同質といえそうである。 ところが、一般に日本人・企業は、日本人と中国人は互いに相違点もあれば 類似点もあるという認識であろう。このとき、相違を認識し、これを明確に し、この中から双方が認められる類似を新たに形成する必要があるのである。 この双方が認めることのできる新たに形成する類似とは何か。これは、す なわち秩序(互譲)といえる。P.G.ヴィノグラドフは、If social intercourse is a requirement of men’s nature, order of some kind is necessary condition of social intercourse.(もし社会的交渉が、人間の天性の要求する ところであるとすれば、ある種の秩序(order)が、社会的交渉を成立させ るための必要条件である。) と述べる72。また、Laws take their place among the rules of conduct which ensure social order and intercourse.(法 が、社会的秩序および社会的交渉を確保する行為規範(rule of conduct)の 1つとしての地位を占めるものであることは明瞭である。)という73。日中 合弁企業でも、この中で適用する秩序を形成することが求められる。合弁契 約を締結すること、合弁企業設立後の経営理念、方針、事務管理、生産管理 規定や就労規則を定めることが、秩序形成プロセスといえるであろう。 このような秩序を異文化の経営主体が新たに作り出すことは容易なこと ではない。パートナー間、労使間の議論を経ず、日中のいずれか一方の既存 の経営システムをそのまま導入したのではうまくいかない。トラブルとなっ て発現する結果となるであろう。 典型的な日本的経営システムとして認識されているものの一つに集団主 義がある。以下、集団主義の日中合弁企業における適用過程から日中異文化 コミュニケーションのあり方を検討する。 (4) 集団主義の適用 日中合弁企業の中で集団主義は適用できか。なぜ、ここで集団主義を取り 上げるのか。この理由は、集団主義が日本的経営システムとして認識されて おり、一方、中国は個人主義であると認識されているため、両者の相違が顕 著であると考える。この対称にあるものを中国人・企業に理解し、受入れて もらうことは可能か。うまく中国に適合したシステムに転換することができ るか。これは異文化コミュニケーションのあり方を考える上で有用なモデル として検討する価値があるだろう。 集団主義とは何か。日本的経営システムの代表的なものの 1 つとしてしば しば指摘される。日本における集団主義は、具体的には“カイゼン”やQC

72 Paul Vinogradoff Common Sense in Law Oxford University Press 1959 at12-13.

日本語訳は、P.G.ヴィノグラドフ著、末延三次・伊藤正巳訳『法における常識』岩波書店 1998 年(第 29 刷) 17 頁。

73 Paul Vinogradoff Common Sense in Law Oxford University Press 1959 at13.

日本語訳は、P.G.ヴィノグラドフ著、末延三次・伊藤正巳訳『法における常識』岩波書店 1998 年(第 29 刷) 18 頁。

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活動などとして発現されている。日本において集団主義に対する理解の仕方、 または効用はどこにあるのか。QC活動を例にとると、この活動の主な狙い の1つは、職場の人間関係を改善して、協調精神をつちかい、社員の意欲を 高めて業務を改善することであるといえよう74。 以下においては、まず中国人は個人主義といえるか。これを検討する。次 に集団主義が中国の合弁企業の中でどの位適用されているのか。集団主義に 対する評価はどうであるのか。どのように集団主義を導入してきたのか(そ の努力過程)について叙述する。 ① 中国人の自己本位的メンタリティー 中国は個人主義の国柄であるといわれる。 国有オートバイ工場(吉林省長春市)で働く従業員 348 名を対象とした 意識調査の結果によると、「品質管理にあたって、工程上のミスが生じた場 合、『そのミスを犯した個人に罰則を課すべきだ(A)』という意見と、『あ くまでQC(品質管理)活動の対象とすべきで、個人の責任を問うべきでは ない(B)』とする意見がありますが、あなたはどちらの意見に近いですか」 という質問に対しては、圧倒的に(A)に近い回答が得られている。中国人 従業員の自己本位的メンタリティーを示唆している75。 遼寧省瀋陽市で、ある日系の工場が操業を開始した直後、工場から工具類 が盗まれるトラブルが続いた。日本人駐在員は従業員に注意を促したが埒が あかない。そこでこの駐在員は、工具類はなくなったものだと開き直り、あ る管理方法を導入したところ、驚くべきことに、盗難はぱったり止んだ。日 本人駐在員は、どのような手を打ったのだろうか。正解は「盗難が起こらな かったら、この工具を君にあげよう」とインセンティブを与え、ある従業員 に見張りの仕事を与えたのである。このように特定の人間に特定の仕事を割 り当てて、その人間に責任をとらせるという、いわば個人責任制が中国では 有効である76。中国では、社会主義による集団所有が国是とされてきた。こ のことの悪弊が「集団的無責任」となって発現したものであろう。これがゲ マインシャフトであるともいえる。 では、集団主義は中国では適用できないのだろうか。 ② 集団主義の適用可否および評価 中国で集団主義は、適用できるか。 ここで適用とは、労働者のモチベーション向上、労使関係の円滑化、労働 生産性の向上、経営理念の共有化などにおいて有効に機能し、企業利益の向 74 J.J.サリヴァン『孤立する日本企業』(草思社、1995 年)142 頁。 75 園田茂人「日中合弁企業が抱えるコミュニケーションギャップ」『JMAマネジメントレヴュー』(1996 年 4 月号)24 頁。 76 梶田幸雄、園田茂人『中国投資はなぜ失敗するか』(亜紀書房、1996 年)60∼64 頁。

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上に貢献することを意味する。ただ単に集団主義といわれるシステムを導入 しているだけで、これが実際に機能していなければ意味がないからである。 日本の経営システムは、際立って異なる文化基盤を持った中国で、果たし て効果を発揮できるだろうか。これは日中間に限らず、日本企業が欧米でも 東南アジアでも同様に抱える課題である77。 まず、集団主義の採用状況について、数値上の評価を見る。 日本的経営システムといわれる集団主義が、個人主義的社会でも定着して いる。以下の表3−1は、1998 年に笹川平和財団日中友好基金事業室が、 日中企業対話研究会(主査:小島朋之慶応大学教授)を組織し、中国に進出 している日系合弁企業の日本人経営者に「日中合弁企業人材養成、技術移転 に関するアンケート調査」(調査責任者:笠原清志立教大学教授)を実施し た設問の1つに対する回答結果である(約 2500 社に対して調査票が発送さ れ、232 社から回答があった。)78。 このアンケート調査中で、中国でしばしば見受けられる知識やノウハウの 秘匿・私物化をなくすために、どのような施策や制度が重要だと考えるかと いう設問をした。この結果、最も重要であるのが「経営理念などの共有化」 であり、次に「人事考課」、さらに「QC活動」、「集団責任システム」など と続く。すなわちコミュニケーションを図ることの重要性であると換言でき る。そして、これらが労働者の労働モチベーションを高める上で有効である ということが分かる。 table3−2も中国人が集団で活動することに対す る意識調査を行った結果である79。米国の中国工場で働く従業員を対象とし たものであるが、ここでも集団で働くことを望む傾向が顕著に見られる。 データで見ると集団主義は、中国において適用されている。では、実際に 集団主義は労働者の個人レベルでも評価されているといえるだろうか。 「東芝大連」は、世界中の東芝グループの中でも品質・生産効率の高さで 秀でているという。同社の中国人製造課長は、「製造開始当初は、研修に行 った日本の工場のシステムを中国に導入することに一生懸命でした。……日 本のシステムのいい面をたくさん学びました。そして、いい面をもっと伸ば すために少しずつカイゼンを加えていったのです」という80。「カイゼン」 というチームで取り組まなければならない作業を定着させていること、そし て、日本の方式に手を加え、独自の手法を作り出していったことに自負をも っているようである。 77 同様の問題意識をもったものに例えば、デニス・ローリー『ヤンキー・サムライ』東急エージェンシー(1993 年)285 頁、竹内規浩『国際人事管理入門』(産能大学出版部、1997 年)がある。 78 梶田幸雄「日中合弁企業における日本的経営システムの移転」『中国に進出した日系企業の人材育 成と技術移転』(笹川日中友好基金、1999 年)65 頁。

79 Xiangming Chen and Warren Barshes To Team Or Not To Team? The China Business Review

March-April 2000 at30∼34

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