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1 短期留学の外国語学習モチベーションへの効果 小 林 千 穂 要 旨 本研究は 英語圏への留学が日本人大学生の英語学習に対するモチベーショ ンや態度にどのような影響を及ぼすか また 留学期間はモチベーションや態度の変化 にどのように影響するのかについて検証した 結果として 留学は期間に関わらず 日

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は じ め に 海外留学は外国語を身につけるための最も効果的な方法であり,留学している者は自国内で 学習している者よりも高い能力を獲得するという考え方が学習者,教師,その他の関係者の間 に広く見られる(Freed, 1995)。実際,調査結果もこの一般論を概ねサポートしている。先行 研究は,留学は,第 言語学習に対して,心理的,文化的,言語的に肯定的な影響を及ぼすこ とを示している。言語学的には,リーディング,ライティング,リスニング,スピーキング, 発音,文法などに効果があるが,中でも,特にスピーキングや発音に有効であることが分かっ ている。文化的には,語用論,異文化理解などに影響することが明らかになっている。心理的 には,モチベーション,言語能力への自信,学習ストラテジーなどに効果を及ぼすことが分か っている(Adams, 2006 ; Churchill & DuFon, 2006 ; Irie & Ryan, 2015)。

ただし,この効果には,留学期間,留学前の言語能力,プログラムの内容,滞在国の文化な どの様々な条件が影響している(Churchill & DuFon, 2006)。近年では, 学期間に満たな い短期留学が増えているため(Irie & Ryan, 2015),留学期間がその効果にどう影響するのか を検証することは重要である。上記のように,留学の効果は多岐にわたるが,本研究では,言 語習得の成否を決める主要な要因の一つであるモチベーションに注目し,短期留学においても 学習者の英語学習に対するモチベーションや態度に肯定的な変化が見られるのかを考察したい。 先行研究調査 日本人学習者の英語学習に対するモチベーション モチベーションとは,人間がある行為を選択し,それをやり遂げるためにどの程度努力する か,どの程度時間やエネルギーを費やすかということに関する概念である(Dörnyei, 2001)。 一般的に,ある事柄に対して好意的態度を持っている場合,それを達成しようとする高いモチ

短期留学の外国語学習モチベーションへの効果

〔要 旨〕 本研究は,英語圏への留学が日本人大学生の英語学習に対するモチベーショ ンや態度にどのような影響を及ぼすか,また,留学期間はモチベーションや態度の変化 にどのように影響するのかについて検証した。結果として,留学は期間に関わらず,日 本人学習者のモチベーションや態度の様々な面に肯定的な影響を及ぼすことが分かった。 もともと英語や英語使用への関心の高かった学習者が留学中の異文化接触体験を通して, 英語を使う自己を具体的に描けるようになった結果,英語学習に対して意欲的な態度を 見せるようになったと考えられる。短期研修は,英語力そのものの向上には大きく貢献 しないが,こうした心理面での影響を考えると,長期研修の合理的な代替策だと言える。 〔キーワード〕 第 言語習得,日本人英語学習者,モチベーション,留学,L2 セルフ システム理論

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ベーションを維持していることが予想される。しかし,日本人英語学習者に関しては,この好 意的態度とモチベーションの関係が当てはまらない。日本人英語学習者の多くは,英語学習に 興味を持ち,英語力を高めたいと思っているにもかかわらず,その目標を達成するために時間 やエネルギーを費やさない(Taguchi, 2013)。グローバル化が進む中,英語力を高めること は重要であるという意識はあるが,多くの学習者にとって,それが英語学習に費やす努力には 直接繋がらないようである。 日本人学習者の英語学習に対するモチベーションが低い理由の一つとして考えられるのは, 多くの中学校,高校で,入学試験に生徒を合格させる目的で,英語授業が文法訳読法で教えら れていることである。Kikuchi(2009)は,関東圏の国立大学に通う学生を対象として,高校 の英語の授業で学習意欲が低下した要因について調査した。質的分析の結果,教師の教室内で の言動,文法訳読法が使われたこと,定期試験や大学入試を中心とした学習の特質,語彙や読 解文の暗記に特化した学習,教科書や参考書に関しての不満の つを学習者動機の減退要因と して挙げた。同様に,Kikuchi(2011)では, つの高校に在籍する学習者に選択式の質問紙 を配布し,学習動機減退要因について調査した。結果として,学習者にとって教員の直接的な 行動よりも,難しい語彙や文法事項を含んだ教材の提示が学習意欲減退要因として強く意識さ れていることが分かった。これらの研究結果から,教員が授業中に難しい英単語や文法事項を 扱うことや,文法構文や英単語を大量に暗記させることがモチベーションを低下させる結果に なっていることが伺える。このような文法訳読法の授業は,中学校,高校だけでなく,大学に おいても多かれ少なかれ行われている。 日本人が英語を学習する理由について,Yashima(2000)では,先行研究を基礎に 種類 の学習理由をあげて日本人の大学生を対象に,それぞれの理由がどの程度重要かを判断させた。 因子分析の結果,異文化への興味や外国人との接触動機を示す「異文化友好オリエンテーショ ン」,職業や資格試験を目指す傾向である「道具的オリエンテーション」などの 因子に分か れた。「異文化友好」と「道具的」の つのオリエンテーションの相関は高く(r= . ),日本 人学習者にとってこの つの学習理由は相反するものではないことが分かる。また,「道具的 な目的」や「異文化友好」は,学習意欲および習熟度との相関が高かった。日本人学習者の英 語学習においてこの つのタイプの学習動機が重要な役割を果たしていることが分かる。これ は,日本のような日常的に目標言語が使用されない外国語環境においても,外国語を学習する 理由の根底には,常に異文化との友好や接触への意思,異文化への興味が関わることを示して いる(八島, )。 八島( )は,上記の研究の結果などを基に,日本の学習者は英語の学習に対して,「受 験・学校での成績・テスト・宿題」といった短期的で具体的な目標と「外国の人とのコミュニ ケーション・留学・国際的な仕事,国際人としての自己像」(pp. ― )というやや漠然とし た長期的な目標を併せ持っていると主張する。Yashima(2002)は後者を自己と世界の関わ りを志向するものとして,「国際的志向性」(international posture)と呼んでいる。この つ の目標は,実際には相反するものではないのだが,八島( )によると,日本においては, 英語を日常的に使わない環境であることも影響し,この つ目標が繋がらないと学習者が感じ ている。また,入試を経た後の大学生になると,「受験・学校での成績・テスト・宿題」と 「外国の人とのコミュニケーション・留学・国際的な仕事,国際人としての自己像」の つの 目標の内,「受験・学校での成績・テスト・宿題」の重要度が下がり,その結果,「外国の人と のコミュニケーション・留学・国際的な仕事,国際人としての自己像」を具体化する人とそう

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でない人に分かれると考えられる。 英語と使う自己と国際的志向性 八島( )によると,国際的志向性とは,「国際的な仕事への興味,日本以外の世界との 関わりをもとうとする態度,異文化や外国人への態度などを包括的に捉えようとした概念」 (p. )である。国際的志向性は,異文化友好オリエンテーション(文化的な英語学習理由), 異文化間接近―回避傾向(異文化背景をもった人と関わりをもとうとする傾向),国際的職業 ・活 動 へ の 関 心,海 外 で の 出 来 事 や 国 際 問 題 へ の 関 心 と い う 要 素 か ら 構 成 さ れ る。 Yashima(2002)では,国際的志向性と学習意欲,英語力,英語コミュニケーションへの自 信,および Willingness to Communicate(WTC:ある状況で第 言語を用いて自発的にコミ ュニケーションをしようとする意思)の関係を,共分散構造分析を用いて分析した。その結果, 国際的志向性が学習意欲に結びつくこと,高い英語力に関係していることを示した。また,国 際的志向性をもっているほど,また英語コミュニケーションに自信があるほど WTC が強いこ とを示した。八島( )は,上記の調査の結果を,国際的志向性をもつことは,英語学習の 意味の明確化につながり,英語を使う自己を意識化しやすくなるからだと説明する。 これは,Dörnyei(2005)の提唱する L2 セルフシステムの理論を利用して説明することも できる。L2 セルフシステムは,理想自己(ideal L2 self),義務的自己(out-to L2 self),学 習経験(L2 learning experience)の つの要素からなる。この理論は,人の「こうありた い」と思う第 言語習得に関わる理想自己,「なるべき」だと考えている義務的自己,学習者 の学習環境や体験という学習経験の つの側面が学習者の言語習得に関わるモチベーションに 影響すると考える。Gardner の統合的動機づけに相当する理想自己は,他の つの側面より も強くモチベーションに影響するとされる。この理論によると,英語を使う自己がなりたい自 己を表しているかどうか,そしてそれが実現可能なものであると認知できるかどうかが英語学 習のモチベーションに影響すると考えられる。つまり,英語を使う自己をなりたい自己として 具体的に描けるかどうかが英語学習のモチベーションに関わると考えられる。逆に考えると, 英語が日常的に使用されていない環境で学習している学習者には,この英語を使う自己を具体 的に描くことは難しく,その結果モチベーションを維持することは難しいと言える。L2 セル フシステムの枠組みに基づく研究は多く行われている。 Taguchi et al.(2009)は, 項目からなる質問紙を用いて,英語学習における,理想自己 (ideal self),モチベーション,学習経験(L2 learning experience)の間に見られる関係を, 日本,中国,イランで調査した。共分散構造分析の結果,L2 セルフシステムは 国のデータ すべてにあてはまったが, 国の間には違いも見られた。日本では,目標言語のコミュニティ ーに対する態度(attitudes to L2 community)は理想自己に対して,個人的目標に基づく自 己調整(instrumentality-promotion)の 倍の影響を及ぼしていたのに対し,イランや中国 では目標言語のコミュニティーに対する態度と個人的目標に基づく自己調整の影響は同程度で あった。また,日本とイランにおいては,理想自己のモチベーションに対する直接的な影響よ りも,学習経験を経由した間接的な影響の方が強かったのに対し,中国では両方の影響が同じ ぐらい強かった。こうした違いが生じた原因としては,他の 国とは異なり,日本においては 英語力が社会的な成功に必要不可欠な条件ではないことが考えられる。 Taguchi(2013)では,日本人大学生を対象にして,Taguchi et al.(2009)と同じ質問紙 を用いて,理想自己がモチベーションと学習経験に及ぼす影響を調査した。共分散構造分析の

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結果,理想自己はモチベーションに直接的,および学習経験を経由して間接的に影響を及ぼし ていたが,Taguchi et al.(2009)同様,間接的な影響の方が直接的な影響よりも大きいこと が分かった。学習環境への評価は高く,またモチベーションに大きく貢献していたが,モチベ ーションは低かった。個人的な異文化交流に関心のある自己(personally agreeable self)は もっているが,職業的に成功している自己(professionally successful self)はもっていない ことが,理想自己の貢献度の低さに関係していた。また,学習環境への評価が高いにも関わら ず,モチベーションが低いことには,学習内容に自分の将来に対する関連性を見出せないこと が影響していた。 上記の研究の結果は,英語を使う自己概念に肯定的な意味を見出すことができるかどうかが, 高いモチベーションの維持に大きく関係することを示している。 異文化接触とモチベーション Yashima et al.(2004)では,アメリカに留学した日本人高校生を対象にして,国際的志向 性と学習意欲,英語力,英語コミュニケーションへの自信,WTC,コミュニケーションの頻 度の関係を調査した。留学に出発する前に強い WTC を示した学習者は,留学先のアメリカで ホストファミリーとのコミュニケーションに多くの時間を費やし,アメリカの生活によく順応 することが分かった。また,WTC は英語力よりもむしろ,学習者自身のコミュニケーション 能力についての認識に影響されることが分かった。この調査と Yashima(2002)を基に,八 島( )は,国際的志向性が高いほど,また英語コミュニケーションに自信があるほど,異 文化接触の量が増え,それが肯定的な経験であると,そのような経験の蓄積が不安を緩和し, 学習意欲に結びつき,また国際的志向性も高めると考え,第 言語学習の動機づけ循環モデル を提案した。このような循環を生み出すことにより異文化接触を通して第 言語の習得が進む とされる。 八島( )と Yashima(2010)では,このモデルの検証を目的として,ボランティア活 動を通した異文化接触(intercultural contact)が,日本人学習者の国際的志向性と WTC に 及ぼす影響を質問紙を使用して調査した。異文化接触体験に参加することを選択する学習者は, 参加する前から高い国際的志向性と WTC,低いエスノセントリズム(ethnocentrism)と英 語を使うことに関する不安(L2 anxiety)をもっているが,異文化接触体験に参加した結果, さらに国際的志向性と WTC を高め,エスノセントリズムや不安を減少させることが分かった。 また,その結果,一度異文化接触体験に参加した学習者はその経験を繰り返すため,国際的志 向性の高い学生と低い学生の間の差がますます広がっていくことが分かった。この結果は,上 記の第 言語学習の動機づけ循環モデルを支持している。

Aubrey and Nowlan(2013)は,異文化接触が日本人大学生の国際的志向性とモチベーシ ョンに及ぼす影響を 学期間に渡って調査した。留学生が多く異文化接触の機会が多いA大学 と少ないB大学に通う 年生が参加した。A大学ではB大学に比べて, 倍の異文化接触の機 会があり,異文化接触の機会は国際的志向性を高め,向上した国際的志向性は高いモチベーシ ョンに繋がっていた。ただし,異文化接触の機会が少なかったB大学でも,国際的志向性は, モチベーションに影響していた。これは,国際的志向性が日本人学習者の英語学習において大 きな役割を果たしていることを示している。 Isabelli-Garcia(2006)では,アルゼンチンに半年間留学したアメリカ人学習者を対象に して,目標言語の学習に対するモチベーションや態度の違いが学習者の留学先での社会的交流

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にどのような影響を及ぼすかを調査した。高いモチベーションをもち,留学先の文化に好意的 な学習者は,ネイティブスピーカーとの綿密な社会的ネットワークを構築した。また,モチベ ーションは社会的ネットワークに加わることによって,より強くなった。ネイティブスピーカ ーとの社会的ネットワークを構築し,社会的交流を多く持った学習者は,スピーキングにおけ る正確さや流暢さを向上させた。社会的ネットワークを築けたかどうかには,個人のモチベー ションや態度や留学先での経験などの様々な要因が影響することが分かった。この結果は,留 学は言語能力やモチベーションの向上に繋がるが,すべての学習者に同程度の効果があるわけ ではないことを示している。同様に,Irie and Ryan(2015)では,英語圏に半年から 年間 留学した日本人大学生を対象にして,留学が学習者の言語学習に対するモチベーションや自己 概念の形成に果たしている役割を検証したが,この調査からも,留学がすべての学習者に肯定 的な影響をもたらすわけではないことが分かった。 研究の目的 上記の研究の結果は,留学を含めた異文化接触は,概して,言語学習に対するモチベーショ ンや態度に肯定的に影響することを示している。しかし,その効果には,留学期間,留学前の 言語能力,滞在国の文化などの様々な条件が影響している(Churchill & DuFon, 2006)。本 研究では,この内,留学期間に注目し,以下の 点を具体的な研究目的とする。 . 日本人大学生の留学前の英語学習に対するモチベーションや態度にはどのような傾向が 見られるのか。 . 英語圏への留学は日本人大学生のモチベーションや態度にどのような影響を及ぼすのか。 . 留学期間は日本人大学生のモチベーションや態度の変化にどのように影響するのか。 調査方法 調査協力者 本研究の調査協力者は,ある私立大学で英語を専攻している 名の大学生で,いずれも海外 留学の経験者であった。この 名の学生を,留学期間と形態の点から つのグループに分けた。 グループ は,アメリカまたはオーストラリアの大学付属の語学学校において 週間のプログ ラムに参加した 名の学生から構成された。グループ は, か月以上の留学を経験した 名 の学生から構成された。この 名の学生の内, 名の学生は,アメリカの様々な大学付属の語 学学校において , ヶ月間英語を学んだ。 名の学生は,英語圏の様々な大学で,交換留学 生として , ヶ月間,学部の授業を受講した。 名の学生は,アメリカ,イギリスの様々な 大学付属の語学学校において , ヶ月間英語を学んだ( )。グループ は,男性 名,女性 名から成り,平均年齢は 歳であった。出発前の TOEIC のスコアの平均は . 点(SD= . )であった。これに対して,グループ は,男性が 名,女性が 名で,平均年齢は 歳であった。出発前の TOEIC のスコアの平均は, . 点(SD= . )であった。 グループ の学生が自分の意思で留学を決意したのに対し,グループ の学生は必修科目と して,この 週間の研修に参加した。グループ の学生が参加したプログラムは,彼らのため に特別に用意されたプログラムで,他の学生とは別に英語の授業を受講した。プログラムの内 容は,アメリカのプログラムもオーストラリアのプログラムもほぼ同じで,午前中は 名から 名の少人数のクラスに分かれて,ネイティブの先生から授業を受けた。午後は,語学学校の スタッフと共に,様々な地元の名所旧跡や文化施設などを訪れた。学校が終了した後は,ホー

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ムステイ先に戻り,ホストファミリーと過ごした。

質問紙

先行研究で使用された質問紙(Taguchi, 2013 ; Taguchi et al., 2009)を基に,新たな質問 紙を作成した。この質問紙は, つの部分から構成された。パート は,学習者の英語学習へ の態度やモチベーションを測るための項目を含み,パート は,性別,年齢,TOEIC のスコ アなどの学習者の背景情報についての質問から成っていた。ただし,帰国後に使用されたバー ジョンには,背景情報の代わりに,英語の使用頻度,英語の上達度についての認識などを問う 質問が含まれていた。 パート の学習者の英語学習への態度やモチベーションを測るための項目は,質問タイプの 項目と陳述タイプの項目が含まれていた。陳述タイプの項目については, 段階のリッカード 尺度( :全くそう思わない; :そう思わない; :あまりそう思わない; :ややそう思 う; :そう思う; :非常にそう思う),質問タイプの項目には, 段階の評価尺度( : 全くそうでない; :あまりそうではない; :どちらでもない; :少しそうである; : とてもそうである; :非常にそうである)を用いて評価することを要求した。項目の総数は で,この 項目の内, 項目は先行研究(Taguchi, 2013 ; Taguchi et al., 2009)で使用さ れた質問紙の項目を利用した。この 項目は 個の因子に分類される。この他に,将来の海外 研修への参加意欲を測るための 項目を付け加え,この 項目からなる因子を「留学に対する 態度」とした。これらの の因子の内部均一性信頼度を検証した結果,大きく減少させている 個の項目が見られたため,それらを削除し, 項目, 個の因子を分析に使用することにし た(付録 と付録 参照)。それぞれの因子のクローンバックのアルファについては表 に記 載している。 表 :因子とクローンバックのアルファ 因子名 グループ グループ 留学前 留学後 留学前 留学後 動機づけ . . . . 理想自己 . . . . 義務的自己 . . . . 家族の影響 . . . . 道具的―接近 . . . . 道具的―回避 . . . . 言語学習に対する自信 . . . . 英語学習に対する態度 . . . . 海外旅行への志向性 . . . . 同化への恐れ . . . . 英語に対する興味 . . . . 英語使用への不安 . . . . 統合的志向 . . . . 文化に対する興味 . . . . 目標言語のコミュニティーに対する態度 . . . . 留学に対する態度 . . . .

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実験の手順 留学の前と後で英語学習に対する学生の態度やモチベーションがどう変化したかを調べるた めに,出発の数週間前と帰国の数週間後のオリエンテーション時に上記の質問紙を配布し,記 入させた。この際,回答には正解も不正解もないので,どれだけ自分を正確に述べているかと いう観点から答えるようにという説明がなされた。質問紙の記入に要した時間は 分程度であ った( ) 分析の手順 質問紙の調査協力者の背景情報,英語の使用頻度,英語の上達度についての認識に関する項 目の回答は,平均値,標準偏差,度数分布などの記述統計を用いて分析した。質問紙のモチベ ーション,態度などに関する項目の回答は,記述統計と推測統計を用いて分析した。まず,グ ループ別に, 個の因子のそれぞれについて平均値と標準偏差を算出した。続いて,留学の前 と後で統計的に有意差があるかを調査するために,グループ別に, 個の因子のそれぞれにつ いて対応のあるサンプルの t 検定を実施した( )。分析には,SPSS .を用い,有意水準 (α)は . ( %)に設定した。 調査結果 英語使用の頻度と英語力の向上 留学中にどの程度英語を使用したかについて,記述統計量を基にグループ別に検討した(表 を参照)。グループ の調査協力者の多く( %)は,コミュニケーションの %− %を 英語で行ったと回答したのに対し,グループ では,コミュニケーションの %− %を英 語で行ったという調査協力者が大半( %)を占めた。この結果から,グループ の調査協力 者は,グループ の調査協力者と比較して,英語を使用する頻度が少なかったことが伺える。 次に,留学中にどの程度英語力が向上したかを検証するために,記述統計量をグループ別に 求めた(表 参照)。グループ の調査協力者の大多数( %)は「少し向上した」と回答し たのに対し,グループ の調査協力者の多く( %)は「とても向上した」と回答した。この 結果から,グループ の調査協力者は,概してグループ の調査協力者ほど英語力が向上した とは認識していなかったことが分かる。 表 :留学中の英語の使用頻度 − % − % − % − % 無回答 合計 G ( %) ( %) ( %) ( %) ( %) ( %) G ( %) ( %) ( %) ( %) ( %) ( %)

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留学前のモチベーションと態度 調査協力者の留学前の英語学習に対するモチベーションと態度に見られる傾向を,記述統計 量を基にグループ別に検討した(表 と表 参照)。グループ の調査協力者の間で 段階の 評価尺度において平均値が 以上,あるいは に近い因子は,道具的―接近,言語学習に対す る自信,海外旅行への志向性,英語に対する興味,英語使用への不安,統合的志向,文化に対 する興味,目標言語のコミュニティーに対する態度であった。英語に対する興味,統合的志向, 文化に対する興味,目標言語のコミュニティーに対する態度などの因子の平均値が高かったこ とは,グループ の調査協力者が,英語,英語圏の文化,コミュニティーなどに対して好意的 な態度をもっていたことを示している。また,道具的―接近,海外旅行への志向性などの因子 の平均値が高かったことから,グループ の調査協力者が将来英語を使用して,働いたり,勉 強したり,旅行をしたいと思っていたことが伺える。言語学習に対する自信の平均値が高いに も関わらず,英語使用に対する不安の平均値が高かったことは,彼らが英語学習者としての適 性に自信をもっているものの,英語を使用することには不安を感じていたことを示している。 これに対して,義務的自己,家族の影響,同化への恐れなどの因子の平均値は 未満であっ た。義務的自己,家族の影響などの因子の平均値が低かったことから,家族や親が調査協力者 のモチベーションや態度に及ぼす影響は低かったことが伺える。同化への恐れの平均値も低か ったが,これは,外国語環境で英語を学習している学生は同化への恐れを感じていなかったこ とを示している。これ以外に,理想自己や動機づけの平均値も比較的低く,調査協力者が将来 英語を使用して,働いたり,勉強したり,旅行をしたいと思っていたにもかかわらず,英語を 使う自己を具体的に描くことは難しく,また英語力を高めるための努力もあまりしていなかっ たことが分かる。 グループ の調査協力者の間で平均値が高かった因子は,グループ の調査協力者の間で平 均値が高かった因子とほぼ同じであった。それに加えて,動機づけ,英語学習に対する態度な どの因子の平均値が高かった。このことから,長期留学をすることを選択したグループ の調 査協力者は,留学前から英語学習に対して好意的な態度をもち,英語学習に力を入れていたこ とが分かる。 グループ の調査協力者の間で平均値が低かった つの因子は,グループ の調査協力者の 間でも平均値が低く,いずれも 未満であった。 表 :英語力向上についての認識 全くして いない あまりし ていない どちらで もない 少し向 上した とても向 上した 非常に向 上した 無回答 合計 G ( %) ( %) ( %) ( %) ( %) ( %) ( %) ( %) G ( %) ( %) ( %) ( %) ( %) ( %) ( %) ( %)

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留学後のモチベーションと態度 留学前と留学後の調査協力者の英語学習に対するモチベーションと態度に見られる変化を検 証するために,グループ別に対応のある t 検定を行った(表 と表 参照)。グループ にお 表 :グループ の英語学習に対するモチベーションと態度 因子名 留学前 留学後 増減 M SD M SD M SD 動機づけ . . . . . . 理想自己 . . . . . . 義務的自己 . . . . . . 家族の影響 . . . . . . 道具的―接近 . . . . . . 道具的―回避 . . . . . . 言語学習に対する自信 . . . . . . 英語学習に対する態度 . . . . . . 海外旅行への志向性 . . . . . . 同化への恐れ . . . . . . 英語に対する興味 . . . . . . 英語使用への不安 . . . . − . . 統合的志向 . . . . . . 文化に対する興味 . . . . . . 目標言語のコミュニティーに対する態度 . . . . . . 留学に対する態度 . . . . . . 表 :グループ の英語学習に対するモチベーションと態度 因子名 留学前 留学後 増減 M SD M SD M SD 動機づけ . . . . . . 理想自己 . . . . . . 義務的自己 . . . . . . 家族の影響 . . . . . . 道具的―接近 . . . . . . 道具的―回避 . . . . − . . 言語学習に対する自信 . . . . . . 英語学習に対する態度 . . . . . . 海外旅行への志向性 . . . . . . 同化への恐れ . . . . . . 英語に対する興味 . . . . . . 英語使用への不安 . . . . − . . 統合的志向 . . . . . . 文化に対する興味 . . . . . . 目標言語のコミュニティーに対する態度 . . . . . . 留学に対する態度 . . . . . .

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いては,同化への恐れを除くすべての変数において有意差が確認された。同様に,グループ においても,義務的自己,家族の影響,道具的―回避,海外旅行への志向性の つの因子を除 くすべての因子において有意差が確認された。ただし,義務的自己の p 値は有意水準に近か った(p=. )。この結果は,留学前と留学後の調査協力者の英語学習に対するモチベーショ ンや態度の変化量は両方のグループで,ほとんどの因子において統計的に有意であり,留学期 間に関わらず,留学が調査協力者の英語学習へのモチベーションや態度の様々な面に変化を及 ぼしたことを示している。 これらの変化をより詳細に捉えるために,グループ別に記述統計量を検討した(表 と表 参照)。グループ の調査協力者の間では,道具的―接近,海外旅行への志向性,英語に対す る興味,統合的志向,文化に対する興味,目標言語のコミュニティーに対する態度などの留学 前から平均値が高かった因子は,留学後,さらに平均値が .ポイント以上,または .ポイン ト近く増加した。これは,留学を通して,調査協力者の英語,英語圏の文化,コミュニティー などに対する好意的な態度はさらに強まったことを示している。また,調査協力者が将来英語 を使用して,働いたり,勉強したり,旅行をしたいという欲求をさらに強めたことが分かる。 これ以外に,動機づけ,理想自己,英語学習に対する態度,留学に対する態度などの因子の平 均値も大きく上昇した。このことから,留学を通して,調査協力者の英語学習に対する態度が より好意的になり,英語を使う自己をより具体的に描けるようになったことが分かる。また, 英語学習に対する動機づけも高まったことが分かる。 グループ の調査協力者の間で平均値が増加した因子は,増加量は大きかったが,グループ の場合とほぼ同じであった。ただし,グループ と異なり,海外旅行への志向性の平均値は 大きく増加しなかった。グループ の調査協力者の間では,言語学習に対する自信の平均値が .ポイント以上増加し,英語使用への不安が .ポイント以上減少した。このことから,長期 間の留学によって,調査協力者が英語学習や英語使用に自信を深めたことが伺える。 表 :グループ の対応のあるt 検定の結果 因子名 t df p 動機づけ − . . 理想自己 − . . 義務的自己 − . . 家族の影響 − . . 道具的―接近 − . . 道具的―回避 − . . 言語学習に対する自信 − . . 英語学習に対する態度 − . . 海外旅行への志向性 − . . 同化への恐れ − . . 英語に対する興味 − . . 英語使用への不安 . . 統合的志向 − . . 文化に対する興味 − . . 目標言語のコミュニティーに対する態度 − . . 留学に対する態度 − . .

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考察

日本人大学生の留学前の英語学習へのモチベーションや態度

本研究の調査協力者の留学前の英語学習に対するモチベーションや態度には,留学期間に関 わらず,類似した傾向が見られた。それぞれの因子の平均値を検討した結果,本研究の調査協 力者は,先行研究(Yashima, 2000 ; Taguchi, 2013 ; Taguchi et al., 2009)の参加者と同様, 英語,英語圏の文化,コミュニティーなどに対して好意的な態度をもっていたことが分かった。

これは,八島( )が述べるように,異文化との友好や異文化への興味が,日本人の英語学

習においても大きな役割を果たしていることを示している。本研究の調査協力者は,先行研究 (Taguchi, 2013 ; Taguchi et al., 2009)の参加者とは異なり,将来英語を使用して,働いた り,勉強したり,旅行をすることを志向していた。この理由としては,本研究の調査協力者が すべて英語を専攻していたことが考えられる。 しかし,本研究の調査協力者は,英語学習にあまり意欲的に取り組んでいないようであった。 このような,日本人学習者の英語や英語学習に対して好意的な態度をもっているにも関わらず, 努力をしないという傾向は先行研究(Taguchi, 2013)でも指摘されている。本研究の調査協 力者の動機づけの平均値は, 段階の評価尺度において,グループ が . ,グループ が . で,いずれも に満たなかった。また,理想自己の平均値もグループ が . ,グループ が . と比較的低く,英語を使う自己を具体的に描くことは難しかったことが分かる。これ らの値は,同様の質問紙を使用した先行研究(Taguchi et al., 2009)で明らかになった,日 本人学習者の動機づけや理想自己の 段階の評価尺度における平均値( . と . )とほぼ同 じで,中国や,イランの学習者の動機づけの平均値( . と . )や理想自己の平均値( . と . )と比較して遥かに低かった。本研究や先行研究の結果から動機づけと理想自己の低さ が日本人学習者の特徴だと考えられる。こうした日本人英語学習者の英語学習に関わるモチベ 表 :グループ の対応のあるt 検定の結果 因子名 t df p 動機づけ − . . 理想自己 − . . 義務的自己 − . . 家族の影響 − . . 道具的―接近 − . . 道具的―回避 . . 言語学習に対する自信 − . . 英語学習に対する態度 − . . 海外旅行への志向性 − . . 同化への恐れ − . . 英語に対する興味 − . . 英語使用への不安 . . 統合的志向 − . . 文化に対する興味 − . . 目標言語のコミュニティーに対する態度 − . . 留学に対する態度 − . .

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ーションや態度の特徴は,L2 セルフシステムの理論(Dörnyei, 2005)を利用して説明するこ とができる。つまり,理想自己の比較的低い平均値が示すように,英語を使う自己を具体的に 描くことが難しいため,英語や英語使用への高い関心にも関わらず,それが英語力を高めるた めの努力に繋がっていないと言える。理想自己の低さの背景には,他のアジア諸国と比べても 平均値が低いことから,英語が日常的に使用されていないことに加えて,文法訳読法の授業が 行われていること,社会的成功に英語力が大きく関係しないことなどの日本特有の事情がある と考えられる。 本研究の調査協力者は英語学習者としての適性に自信をもっているものの,英語を使用する ことには不安を感じていた。英語を使用することに不安を感じていたのは,彼らが外国語環境 で英語を学習しているため,第 言語話者との接触の機会があまりないからであろう。 本研究の調査協力者のモチベーションや態度に家族や親などの周りの人々が及ぼす影響は小 さかった。これは,家族や親の影響力が強い他のアジア諸国(Taguchi et al., 2009)と異な り,日本の学習者の場合,親族の生活が彼らの成功にかかっていないためだと考えられる。同 化への恐れも低かったが,これは,外国語環境で英語を学習している学生にとっては,同化は 身近な問題とは認識されないからであろう。 留学によるモチベーションや態度の変化 対応のある t 検定を実施した結果,留学前と留学後の調査協力者の英語学習に対するモチベ ーションや態度の変化量は両方のグループで,ほとんどの因子において統計的に有意であった。 これは,留学期間に関わらず,留学が調査協力者の英語学習へのモチベーションや態度の様々 な面における変化に貢献したことを示している。 これらの結果をより詳細に検証するために記述統計量を検討したところ,本研究の調査協力 者の留学後の英語学習に対するモチベーションや態度は,グループ はグループ と比較して 全般的に増加量が大きかったが,両方のグループに共通した変化が見られた。留学前から平均 値が高かった因子は,留学後,さらに平均値が大きく増加し,留学を通して,調査協力者の英 語,英語圏の文化,コミュニティーなどに対する態度はさらに好意的になったことが明らかに なった。また,調査協力者が将来英語を使用して,働いたり,勉強したり,旅行をしたいとい う欲求をさらに強めたことが分かった。 これ以外に,動機づけ,理想自己,英語学習に対する態度,留学に対する態度など,留学前 に平均値が低かった因子の平均値も大きく上昇した。この結果から,留学を通して,調査協力 者の英語学習に対する態度がより好意的になり,また,英語を使う自己をより具体的に描ける ようになったことが分かる。また,英語学習に対する動機づけも高まったことが分かる。L2 セルフシステムの理論(Dörnyei, 2005)を利用すれば,留学を通して,調査協力者の英語学 習に対する態度がより好意的になり,また英語を使う自己をより具体的に描けるようになった 結果,英語学習により意欲的になったと解釈できる。もともと英語や英語使用への関心が高か った学習者が,留学中の異文化接触体験を通して,英語を使う自己を具体的に描けるようにな ったことは,英語学習への動機づけを高めることに大きく貢献したのであろう( ) 留学期間に関わらす,留学は調査協力者のモチベーションや態度の様々な面に肯定的な影響 を及ぼした。これは先行研究(Aubrey & Nowlan, 2013 ; Isabelli-Garcia, 2006 ; 八島, 2009 ; Yashima, 2010)の結果とも一致している。これらの結果から,八島( )の第 言語学習の動機づけ循環モデルが示すように,異文化接触体験は第 言語習得に大きな役割を

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果たしていると考えられる。さらにこの循環モデルは,異文化接触体験をもった学習者は,国 際的志向性を高め,異文化接触体験を繰り返すとしている。本研究の調査協力者は,どちらの グループも海外研修に対する参加意欲を留学後向上させたが,これは彼らがこの動機づけの正 の循環を開始したことを示唆している。こうした変化が必修科目として半ば強制的に研修に参 加したグループ の調査協力者の間でも見られたことは,研修の大きな成果だと言える。 留学期間のモチベーションや態度の変化に対する影響 上記のように,本研究の調査協力者の留学前の英語学習に対するモチベーションや態度には, 留学期間に関わらず,類似した傾向が見られ,また,留学後の変化にも共通点があった。しか し,留学期間の異なる つのグループの間には相違点もあった。グループ の調査協力者の間 では,留学前の動機づけ,英語学習に対する態度などの因子の平均値が比較的高く,グループ の調査協力者と比較すれば,留学前から,英語学習に対して好意的な態度をもち,英語学習 に意欲的に取り込んでいたことが分かる。これは,グループ の調査協力者が,自ら長期留学 をすることを選択したことを考えれば当然と言える。 グループ の調査協力者の間では,言語学習に対する自信の平均値が ポイント以上増加し, 英語使用への不安が ポイント以上減少した。この増加量は,グループ と比べて遥かに大き かった。この結果は,留学による英語力の向上についての認識の記述統計量と符合する。グル ープ の調査協力者の大多数は「少し向上した」と回答したのに対し,グループ の調査協力 者の多くは「とても向上した」と回答した。また,留学中にどの程度英語を使用したかについ ての記述統計量から,グループ の調査協力者が,グループ の調査協力者と比較して,英語 を使用する頻度が少なかったことが伺える。これには,他の学生とは別に授業を受講したり, 郊外学習に出かけたりするという,研修の形態が影響していると考えられる。これらの結果か ら,期間が短いことに加えて,研修の形態の影響もあって,十分な異文化接触の機会がもてな かったために,グループ の調査協力者は,グループ の調査協力者ほど英語力を向上させる ことができず,そのため,言語使用や言語学習に対する自信の伸びが小さかったと考えられる。 グループ の調査協力者の海外旅行への志向性の平均値は,グループ の調査協力者と比較 して,もともと比較的低く,留学後も大きく増加しなかった。これには,この つのグループ の英語力の違いが影響していると思われる。比較的英語力が高いグループ の調査協力者にと っては,海外旅行は,グループ の調査協力者の場合と異なり,英語を学習する主要な目的で はないからだと解釈することができる。 上記の結果をまとめると,留学は期間に関わらず,日本人学習者の英語学習に対するモチベ ーションや態度に肯定的な影響を及ぼしたと言える。もともと英語や英語使用への関心が高か った学習者が,留学中の異文化接触体験を通して,英語を使う自己を意識化しやすくなった結 果,英語学習に対して意欲的な態度を見せるようになったと考えられる。 週間の短期研修は, 英語力そのものの向上には大きく貢献しないが,研修中の異文化接触体験は日本人学習者の英 語学習に対するモチベーションや態度には影響を及ぼしたと言える。また,この留学がきっか けになり異文化接触体験を繰り返すならば,その効果はさらに大きいと考えられる。 おわりに 本研究は,英語圏への留学が日本人大学生の英語学習に対するモチベーションや態度にどの ような影響を及ぼすか,また,留学期間はモチベーションや態度の変化にどのように影響する

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のかについて検証した。留学は期間に関わらず,日本人学習者の英語学習に対するモチベー ションや態度を好転させることが分かった。短期間の留学プログラムについては,期間の短さ やプログラムの内容から,その有効性を疑われることが多い。しかし,こうした心理面での貢 献を考えると,短期間の留学プログラムは,長期プログラムに参加するお金や時間のない学習 者にとっては,合理的な代替策だと考えられる。 最後に,本研究の限界点と今後の課題として以下の 点を指摘しておく。第 に,本研究の 調査協力者は全員,ある私立大学の同じ専攻の学生であり,人数も限られていた。今後は,幅 広い大学や専攻の学生のデータを集め,分析することによって,結果の一般化可能性を高める 必要がある。第 に,本研究では,留学による学習者のモチベーションや態度の変化の一般的 な傾向については把握することができたが,先行研究(Irie & Ryan, 2015 ; Isabelli-Garcia, 2006)も示しているように,留学がすべての学習者に同程度の効果があるわけではない。何 らかの理由で異文化接触体験があまりもてず,言語能力やモチベーションを向上できずに帰国 してしまう学習者もいる。今後は質的データを収集し,学習者個人が留学中にどのような経験 をし,その結果,モチベーションや態度がどのように変化したのかを詳細に検証することが重 要である。第 に,本研究では,調査研究者の英語力の向上についての認識は検討したが,実 際の英語力の向上については検討しなかった。学習者の自分の英語力についての認識と実際の 実力の間には高い相関関係があることが分かっているが(Adams, 2006),実際の英語力の向 上とモチベーションや態度の変化の関係についても検証すれば,この関係についてのより正確 な理解に繋がる可能性がある。第 に,本研究では因子間の関係について,先行研究や既存の 理論などを基に考察したが,要因間の関係の強さを明示的に示すためには,今後は統計的にこ の関係を検証する必要があろう。 ( ) , ヶ月の留学経験者と , ヶ月の留学経験者は,人数が少なかったため, つのグループ にまとめることにした。 ( ) 本研究は 段階から構成された。第 段階の質問紙調査に続いて,第 段階では,質問紙の 回答を深く理解する目的で,第 段階で参加の意思を示した学生の中から,グループ は 名, グループ は 名を選択し,インタビューを行った。本稿は,第 段階の調査の結果に焦点を あてる。 ( ) データの分布を調べた結果,どちらのグループのデータも正規分布していたため,対応のあ るサンプルの t 検定を分析に使用することにした。 ( ) 第 段階で行われたインタビューにおいて,留学を通して「語学学習の目的が他者に自分の 意見を伝えるためであることを実感し,もっと英語力を高めたいと思った」「自分の実力がコミ ュニケーションを行うには不十分であることを痛感し,もっと勉強しておけば良かったと思っ た」などの意見が多く見られたことはこれを裏付けている。 参考文献

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付録1:因子と項目数 因子名 項目数 因子の詳細 動機づけ 4 学習者の英語に対する意図的努力 理想自己 5 学習者の理想自己の中で英語に対する側面 義務的自己 3 悪い結果を避けるために学習者がもっているべきだと信じている義務感や責任感などの特性 家族の影響 4 親が果たしている能動的,受動的役割 道具的―接近 5 お金を稼ぐ,よりよい仕事をみつけるなどのために英語の高いスキルを達 成しようとするなどの個人的目標に基 づく自己調整 道具的―回避 4 試験に合格するために英語を勉強するなどの義務感に基づく自己調整 言語学習に対する自信 3 学習者の言語学習に対する自信 英語学習に対する態度 4 身の回りの学習環境や経験に関連した状況に応じたモチベーション 海外旅行への志向性 3 学習者の海外旅行についての志向性 同化への恐れ 5 英語話者や英語圏文化への同化に対する恐れ 英語に対する興味 3 学習者の英語に対する興味 英語使用への不安 4 学習者の英語を話すことに対する不安 統合的志向 3 学習者の英語話者への好意的態度,英語圏文化の一員になりたいという気持ち 文化に対する興味 3 テレビや雑誌,音楽,映画などの英語圏文化に関するものへの学習者の興味 目標言語のコミ ュニティーに対す る態度 4 学習者の英語を話すコミュニティーに対する態度 留学に対する態度 2 学習者の海外研修に対する意欲

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付録 :質問紙の項目 動機づけ ! 今後さらに大学やその他の所で英語の授業があれば,受講したい。 ! 英語の勉強に努力を惜しまない。 ! 英語を一生懸命勉強している。 ! 自分は英語の勉強を頑張っていると思う。 理想自己 ! 外国に住み,英語で討論している自分を想像できる。 ! 将来の仕事について考えるときはいつも英語を使っている自分を想像する。 ! 自分が外国人と英語で話をしている状況を想像できる。 ! 英語を話せるようになっている自分を想像する。 ! 将来自分がしたいことをするためには,英語が必要となる。 義務的自己 ! 私が英語を勉強することを周りの人々が期待しているので,英語の勉強は必要だ。 ! 英語を勉強しないと親が残念に思うので,英語を勉強しなければならない。 ! 英語の勉強をして教養のある人間にならなければならないと,親は強く思っている。 家族の影響 ! 親が英語の勉強をすすめている。 ! 時間があるときは英語の勉強をするように,と親はすすめている。 ! 親は私に,あらゆる機会を利用して英語を読んだり話したりするなど,英語を使うように すすめている。 ! 親は私に,授業の後さらに英会話学校などで英語を勉強するようにすすめている。 道具的―接近 ! 英語の勉強をしておくといつか良い仕事を得るために役立つと思うので,英語の勉強は大 切だ。 ! 将来昇進のために英語力は必要となるので英語の勉強は大切だ。 ! 英語ができれば国際的に働くことができるので,英語の勉強は大切だ。 ! 今後さらに自分の専門について勉強していくためには英語が必要になると思うので,英語 の勉強は大切だ。 ! 勉強や仕事等で海外に長期滞在したいと思っているので,英語を勉強しておくのは大切だ。 道具的―回避 ! 英語の単位をとらないと卒業できないので,英語の勉強をしなければならない。 ! 大学の英語で悪い成績を取りたくないので,英語の勉強をしなければならない。 ! 英語の資格試験で低い点数を取ったり不合格になりたくないので英語の勉強は必要だ。 ! 英語ができないと,出来の悪い学生と思われるので英語の勉強は大切だ。

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言語学習に対する自信 ! もっと努力すれば,英語を確実に身につけられると思う。 ! このまま勉強を続ければたいていの英語の文章を読め,理解できるようになると思う。 ! このまま勉強を続けたら,将来楽に英語を書けると思う。 英語学習に対する態度 ! 英語の授業の雰囲気が好きだ。 ! 英語の授業をいつも楽しみにしている。 ! 英語を勉強するのはとても面白い。 ! 英語を学ぶのは本当に楽しい。 海外旅行への志向性 ! 海外旅行をしたいので,英語の勉強は大切である。 ! 英語ができなければ,旅行があまりできなくなるので,英語の勉強は大切だ。 ! 英語ができれば海外旅行が楽しめるので英語の勉強をする。 同化への恐れ ! 国際化によって,日本人が日本文化の重要性を忘れる危険性があると思う。 ! 英語の影響で日本語が乱れていると思う。 ! 英語圏の国々の影響で,日本人のモラルが低下していると思う。 ! 英語の文化的,芸術的価値は日本の価値観をだめにすると思う。 ! 国際化が進むと日本の独自性が失われる危険性があると思う。 英語に対する興味 ! 英語が話されているのを聞くとわくわくする。 ! 会話の中での英語の使い方に興味がある。 ! 日本語と英語の単語の違いは面白いと思う。 英語使用への不安 ! 英語の授業で発言している時,不安になったり戸惑ったりする。 ! 英語でネイティブスピーカーと話をする場合,不安を感じる。 ! 英語のネイティブスピーカーと会うと,不安になる。 ! 外国人に英語で道を聞かれると緊張する。 統合的志向 ! 英語圏の人々の文化や芸術をさらに知るためには,どの程度英語学習は大切だと思います か。 ! どの程度英語圏の人々のようになりたいですか。 ! どの程度英語が好きですか。

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文化に対する興味 ! 英語圏の映画は好きですか。 ! 英語圏の雑誌や,新聞,あるいは本は好きですか。 ! 英語圏で作られたテレビ番組は好きですか。 目標言語のコミュニティーに対する態度 ! 英語圏へ旅行するのは好きですか。 ! 英語圏に住んでいる人々が好きですか。 ! 英語圏の人々と知り合いになりたいですか。 ! 英語圏の人々についてもっと知りたいですか。 留学に対する態度 ! 今後さらに海外研修の機会があれば参加したい。 ! 今後機会があれば英語圏の大学に留学したい。

参照

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