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学生時代と図書館

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Academic year: 2021

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GAIDAI BIBLIOTHECA

大学院生の頃、春と夏の休みはたいていスペイ ンにいた。正確には、スペイン南部アンダルシア 州都セビーリャにあるインディアス総合文書館

(Archivo General de Indias)である。この文書館 は、約400年に及ぶスペインのアメリカ大陸及び 西インド諸島における統治に関する勅令、報告書、

裁判記録、地図など、合計43,000点を所蔵してい る。その総ページは8千万ページにのぼり、収容 棚の長さは直線距離にして8キロに及ぶという。

「いつかこの文書館の史料を使って研究がしたい」

と憧れて、是非訪ねようと心に決めていた場所だ った。

現在文書館として使用されている建物は、16世 紀以降、新大陸との貿易を統括した通商院で、ユ ネスコの世界遺産に登録されている。所蔵資料の ごく一部が公開展示されているが、史料閲覧許可 は明確な目的を持った研究者のみに与えられる。

初めてこの文書館を訪ねたのは、メキシコ独立史 についての修士論文を準備していた時だ。私は独 立の過程がスペイン人の目にいかに映ったかに関 心を抱いていた。ヌエバ・エスパーニャ(現在の メキシコ)を統治していた副王が、本国スペイン の国王に送った報告書や書簡には恐らくまだ世に 知られていないことが書かれているはずであっ た。私は意を決して、インディアス総合文書館の 扉を叩いた。

「はい、あんたのだよ」と言って係員がドスン と文書の束を私の目の前に置いた。貴重な史料を 乱暴に扱うことにまず驚いたが、その束の高さが 30センチを優に越えることに更に驚いた。「え っ?私が読みたいのは副王の書簡1通だけなんで すけど…。」係員は怪訝な顔をしたが、「頑張って 探しなよ」と言い残して行ってしまった。初めて 目にする古文書の束だった。仕方なく、上から順 に1枚、1枚、丹念に読んでいく。手掛りは副王の

名と日付だけだった。1 時 間 ほ ど 過 ぎ た だ ろ う か、向かいに座っている 研究者の顔が丸々見える 高さまでになった頃、探 していた書簡がようやく

見つかった。この時初めて、史料探しは大海原に 沈んだ財宝を捜す作業に似て、周到な準備と時間 そして根気が要ることを知った。

以後、私の史料収集は月単位の長期滞在になっ た。関連文書をあらいざらい読んで、「宝探し」

に没頭するのだ。発見した宝物をちりばめて歴史 を再構築する楽しさに、すっかり取り憑かれてし まった。そして、ある時、「皇太子妃が新大陸に 渡って統治することを了承した」との内容の文書 に行き当たった。この文書の存在によって、新大 陸の統治は副王をはじめ官僚に任されていたが、

王族による新大陸の直接統治が16世紀半ばに検討 されたことが明らかとなった。この点については 未だに研究者からの指摘はない。まさにお宝発見 である。

こうした史料探しには直感力が必要だ。私の指 導教授は「歴史研究者としての自らの直感に従い なさい。そうすればオリジナルな研究ができます」

と励ましてくださる。無論その直感力とは、研究 テーマに関する圧倒的な知識と史料を読みこなす 古文書学の技術に裏打ちされたものだ。そして、

時代を感じ取る感受性豊かな心も大切だろう。

幾世紀をも越えて鳴り響くセビーリャの大聖堂 の鐘の音を聞きながら、毎朝8時にインディアス 総合文書館に吸い込まれるように入る。そして数 百年前に書かれた文書の束をひもとく。閉館する 午後3時まで、ひたすら読む。ただ、読む。騎士 道小説を読みふけって遍歴の旅に出たドン・キホ ーテのように、私も文書を読み込むことで何百年 もの時を越え、研究対象の時代にタイムスリップ していたのかもしれない。膨大な時間をインディ アス総合文書館で費やして、初めて歴史に迫るこ とを学んだように思う。

たていわ れいこ(講師・ラテンアメリカ史)

学生時代と図書館

「宝探し」

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立岩 礼子

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