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IT 投資は日本経済を活性化させるか-JIP データベースを利用した国際比較と実証分析-.PDF

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ESRI Discussion Paper Series No.41

IT 投資は日本経済を活性化させるか

−JIP データベースを利用した国際比較と実証分析− by 宮川 努・浜潟 純大・中田 一良・奥村 直紀

June 2003

内閣府経済社会総合研究所

Economic and Social Research Institute

Cabinet Office

Tokyo, Japan

(2)

ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研 究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究 機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し て発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見 解を示すものではありません。

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IT 投資は日本経済を活性化させるか

JIP データベースを利用した国際比較と実証分析−

宮川 努(内閣府経済社会総合研究所客員研究員・学習院大学) 浜潟純大(筑波大学大学院社会工学研究科) 中田一良(内閣府経済社会総合研究所) 奥村直紀(前内閣府経済社会総合研究所) 2003 年 6 月 *本稿を作成するにあたり、深尾京司一橋大学教授を主査とする内閣府経済社会総合研究所の「日本の成長 力の研究」プロジェクトのメンバーに大変お世話になった。また「景気循環の日付検討研究会」のミニ・ コンファレンス、内閣府経済社会総合研究所におけるセミナー、東京大学のマクロワークショップにおけ る発表での参加者からいただいた貴重なコメントに謝意を表したい。特に内閣府経済社会総合研究所の香 西泰所長、原田泰総括政策研究官、田丸征克情報研究交流部長からは、ディスカッション・ペーパーをま とめるにあたり貴重な助言をいただいた。加えて細野薫学習院大学助教授や櫻川昌哉慶應義塾大学教授か らも有益なコメントをいただいた。なお、本論文で示された見解は、筆者たちが所属する組織の見解を示 すものではない。残された誤りは、筆者達の責任である。

(4)

(要旨) 1. 趣旨及び背景 日本が経済の IT 化に着目するようになってから久しいが、アカデミックな分野での IT 投資に関する分析は極めて少ない。また、2003 年度から IT 投資に関しては大幅な投資減税 が実施されることなどを考えると、IT 投資が今後も増加していくかどうかについて、その 要因にまで遡った冷静な検証が必要であるため、Jorgenson の投資理論に基づいた定量的な 分析を行った。 2. 手法 本稿では、最近内閣府経済社会総合研究所の潜在成長力プロジェクトチーム(主査:深 尾京司一橋大学教授)で作成された、JIP(Japan Industry Productivity)データベース から導出される IT 投資の動向を国際比較も含めて検証し、ハードの産業別 IT 投資データ を利用し、パネル分析、操作変数法による実証分析を行った。 3. 分析結果の主なポイント 日本の IT 投資は、ハード面、ソフト面においても、量的に見ると、米国または他の OECD 諸国と比較してもそれほど遜色のない規模にある。ただし、通信業関係の IT 化は米国に比 べて相当低い。ソフトウエアについては、90 年代以降ダウンサイジングやアウトソーシン グが進み、自社開発投資が頭打ちになり、代わって受注ソフトウエアが増加している。 また、投資関数による実証分析の結果からは、資本コストの係数がマイナスに有意とな り、本年度から実施される投資減税を実施するための根拠が得られた。スピルオーヴァー 効果にかかる係数もプラスで有意となり、ある産業で IT 投資が活性化すれば、他産業にも IT 投資を増加させる方向で波及することも確かめられた。さらに、2003 年度の IT 投資に 関する優遇税制の効果を試算すると、約 1 兆円から 2 兆円程度の新規 IT 投資が促進される 事が示された。 4. おわりに 本稿の分析結果から、投資減税は資本コストの低下を通じ IT 投資を増加させるといった 効果を持つ事が示され、我々の分析はこの需要刺激政策を支持している。しかし長期的な 効果を考えれば、そうした IT 資本の蓄積が本当に生産性を上昇させ経済成長に寄与するか どうかが重要となるため、供給面からの分析と合わせて検証することにより、本当の意味 での IT 投資の意義が明らかにされると考えられる。

(5)

(Abstract)

Though the Japanese government has established several economic policies concerning the promotion of IT investment (including investment tax credit (ITC) from 2003 FY), there are few academic papers on IT investment in Japan. It is thus important to analyze empirically which factors affect IT investment and how ITC increases IT investment.

Using the JIP (Japan Industry Productivity) database made by the project team on potential growth at ESRI (Economic and Social Research Institute), our paper investigates several phases of IT investment in Japan. Trends on IT investment in Japan and other OECD countries are examined and IT investment functions are estimated by using panel data model and the instrumental variable method.

The amount of IT investment in Japan is not so low when we compare it with that in the United States and other OECD countries. However, especially in the communications industry, the amount of IT investment in Japan is much less than that in the U.S. As for software investment in Japan, in-house software has stagnated since the first half of 1990 due to downsizing and outsourcing.

The estimation results on investment function show that:

1) Coefficient on cost of capital is significantly negative, which means ITC is effective.

2) Coefficient on spillover effect is significantly positive, which means that an increase in IT investment in a specific industry stimulates IT investment in other industries.

3) Estimated increment on IT investment via ITC in 2003 is about 1 to 2 trillion yen.

The results show that tax reduction, a demand-stimulating policy, increases IT investment via the decline of the cost of capital. However, in the long run, it is also important to determine whether IT investment contributes to increased productivity and growth of the economy. Both a demand-side and a supply-side analysis should be carried out to clarify the full significance of IT investment.

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目 次 1 はじめに −IT 化の経済分析−···1 2 IT 投資の動向と国際比較···3 2−1 JIP データベースと IT 投資の概念···3 2−2 マクロベースの IT 投資動向···4 2−3 産業別の投資動向···5 2−4 ソフトウェア投資の特徴 ···6 3 IT 投資関数の推計···7 3−1 推計データの構築···7 3−2 基本的な推計結果···9 3−3 業種別の推計結果···10 3−4 利潤率を説明変数に含めた推計···11 3−5 IT 投資促進税制に関するシミュレーション···12 4 結論と今後の課題···13 補論:IT 投資系列及び資本ストック系列の作成方法 ···16 補論1−1 産業別 IT 投資及び資本ストック系列の作成(ハードウェア) ···16 補論1−2 ソフトウェア投資の推計 ···16 1−2−1 ソフトウェア投資の範囲 ···16 1−2−2 受注ソフトウェアにおけるベンチマークの作成 ···17 1−2−3 受注ソフトウェア投資フローの把握と固定資本マトリックスとの対応につ いて···17 1−2−4 その他のソフトウェア投資の推計 ···18 1−2−5 ソフトウェア資本ストックの推計 ···19 参考文献···21

(7)

1 はじめに −IT 化の経済分析− 日本が経済のIT 化に着目するようになってから久しい1。最初に、「IT 化」という言葉を 日本で使用した報告書は、日本経済研究センター(1998)であるが、その報告からすでに 5 年が経過している。この間IT 化を基軸にした米国経済が長期の経済繁栄を達成したことに 刺激され、2000 年には政府内に IT 戦略会議が設置され、「高度情報通信ネットワーク社会 形成基本法(通称IT 基本法)」が成立した(2000 年 11 月)。これをもとに、2001 年には、 我が国が5 年以内に世界最先端の IT 国家になることを目指した e-Japan 戦略が策定された。 さらに、2003 年度の税制改正では、IT 投資に対する投資減税も実施されることが決まって いる。このように、現実の経済政策の場で IT 投資の促進や経済全体の IT 化の推進が頻繁 に語られているにもかかわらず、アカデミックな分野でのIT 投資に関する分析は極めて少 ない。 経済学において、IT 投資や IT 資本の蓄積が注目されるのは、それが他の資産と異なる特 徴を有するからである。通常の資本蓄積は、その産業の供給能力の増加を通してのみ、経 済全体の成長に寄与するが、IT 資本の蓄積は、その蓄積が単に自産業にとどまらず、他産 業のIT 投資を刺激したり、ビジネスの改善を促す可能性がある。Mun and Nadiri (2002) は、IT 投資が通常のネットワーク外部性(IT 資本ユーザーが増加するほど、生産やサービ スの効率性が増加する)の他に、IT 資本の活用によって、スピルオーヴァー効果を通して 社会全体の知識が増進していく利点があると述べている。こうしたIT 資本の蓄積に伴う外 部効果は、通常の資本蓄積以上に経済を活性化する可能性を持っている。こうした点から 現実の経済成長や設備投資の動向を分析する際に、IT 投資や IT 資本の動向を無視すること ができなくなっているのである。 IT 化が他国に先駆けて進展した米国では、すでに 1980 年代後半から、Solow(1987)ら によって、IT 化と生産性の向上が歩調を合わせていない、所謂「生産性パラドックス」の 問題が指摘されていた。しかし、90 年代後半に入って、米国の経済成長率が上昇するとと もに、IT 化に伴う資本深化の効果を評価する研究が報告されている(Jorgenson (2001), Jorgenson and Stiroh (2000))。今世紀に入って米国が景気後退を経験した後も、2002 年、 2003 年の『大統領経済報告』(Economic Report of the President)では、依然 IT 化に伴 う生産性の上昇は底固いと評価している2。また他の先進国については、2000 年代に入って

から OECD のエコノミストを中心に、先進国の IT 化を比較する分析が現れている

1 OECD では、IT(Information Technology)化ではなく、ICT(Information and Communication

Technology)化と呼んでいるが、ここでは日本国内の通称にしたがって、IT 化と呼ぶことにする。 2 もっとも、2001 年に入ってからの景気後退やエンロン社、ワールドコム社などのスキャンダルによって、 楽観色はかなり薄れている。例えば、Nordhaus(2002)は、実体経済の底堅さを認めながらも、企業収益率 は過去最低となり、株価は依然過大評価されている可能性があると指摘し、必ずしも米国の先行きがバラ 色ではないと警告している。日本でも、宮本(2003)は、米国の IT 革命に関し、「強気説」、「否定説」、「慎 重な肯定説」という三つの立場を紹介し、IT バブルが崩壊した後の評価としては、最後の「慎重な肯定説」 が妥当なものであると述べている。

(8)

(Schreyer(2000),Pilat and Lee (2001), Colecchia and Schreyer (2002))。

米国を中心とした IT 化の経済分析の蓄積に比して、日本の IT 分析については、二つの

問題がある。一つはIT 化を経済分析の対象としうるだけのデータが整備されてこなかった

ことである3。日本でも、篠崎(1999)や熊坂・峰滝(2001)などの先駆的な業績はあるが、

それらは、マクロ分析や米国のIT 化を研究したものにとどまっており、Jorgenson(2001) やLichtenberg (1995)、Brynjolfson and Hitt (1996)などのように、産業別や企業別デー タを利用した分析ではない。最近になって独自の企業調査や産業別データベースの作成に よって、松平(1998)、Matsudaira(2000)、西村他(2002)、Miyagawa et al.(2002)など の企業別、産業別のIT 分析が現れているが、いまだ少数なのは、IT 分析が可能で一般に広 く利用され、かつ国際比較も可能なデータの整備が遅れているからである。 第二の問題点は、これまでの日本の実証分析が、主に生産関数の推計を通じたIT 資本の 生産性効果に偏っている点である。IT 資本の生産性効果の検証も重要な問題であるが、日 本のIT ブームが極めて短期で終わったことや、2003 年度から IT 投資に関しては大幅な投 資減税が実施されることを考えると、IT 投資が今後も増加していくかどうかについて、そ の要因にまで遡った冷静な検証が必要である。しかしながらIT 投資の誘因に関する実証分 析は、宮川他(2002)を除きほとんど見られない。 本稿では、こうした日本のIT 投資をめぐる二つの問題点を可能な限り克服しながら、今 後のIT 投資の動向を見通す分析を行う。まず次節では、最近内閣府経済社会総合研究所の 潜在成長力プロジェクトチーム(主査:深尾京司一橋大学教授)で作成されたJIP(Japan Industry Productivity)データベースを紹介し、このデータベースから導出される IT 投資 の動向を解説する。JIP データベースは、SNA 産業連関表(平成 2 年基準)の産業分類に基 づき、84 産業について、生産、労働力、資本等のデータを整備したものである。資本につ いては37 資産に分類されており、ここから IT 資産を産業別に取り出すことができる。JIP データベースでは、減価償却なども米国のBEA(Bureau of Economic Analysis)が定めた 値に準じており、その意味でより直接的な国際比較が可能となっている。またソフトウェ ア投資についても、『国民経済計算』ベースの受注ソフトウェアだけでなく、自社開発ソフ トウェアや、パッケージソフトウェアの投資についても推計を行っており、この面でも国 際比較が可能となっている。我々は、このデータベースを利用してIT 投資をハード、ソフ ト両面から調べ、その動向を検証するとともに国際的な比較を行う。 第3 節では、ハードの産業別 IT 投資データを利用して、パネルによる実証分析を行う。 投資関数の説明変数としては、標準的な投資理論に基づいた資本コストの他、利潤率、通 信費用、他産業の IT 化の動向、R&D ストックも加えて投資関数の推計を行う。推計結果 を見ると、資本コストについては、おおむね理論通りの結果を得ており、投資減税が、IT 投資を促進する効果を持っていることが確認できる。また他産業のIT 化の係数についても 正で有意な結果を得ており、他産業の IT 化の進展が自産業の IT 投資を促進するというス 3 同様の指摘は、松本(2001)、西村他(2002)、内閣府経済社会総合研究所(2002)に見られる。

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ピルオーヴァー効果が確認できる。これに対して、利潤率や通信費用、R&D ストックの係 数については、確定的なことは言えない。さらにこの推計結果を利用して、2003 年度の IT 投資に関する優遇税制の効果を試算した。ここでは、優遇税制によって約 1 兆円から 2 兆 円程度の新規IT 投資が促進されると試算されている。 そして最終節では、これらの結果をまとめるとともに、今後の分析課題についても述べ ることにする。 2 IT 投資の動向と国際比較 2−1 JIP データベースと IT 投資の概念 本節では、日本のIT 投資の動向をできる限り、国際比較可能な形で整備し、その結果通 常認識されているIT 投資の考え方が必ずしも適切ではないということを明らかにする。

我々は、IT 投資及び IT 資本ストックの動向を主に JIP データベースから構築する。JIP データベースは、SNA 産業連関表の産業分類に基づき、84 の産業について生産、労働投入、 資本ストックのデータを、1970 年から 98 年について整備したものである。このデータの 詳細については、深尾他(2003)がまとめた報告書に収録されているが、我々は IT 投資や IT 資本ストックに関するデータをこの JIP データベースから構築することができる。すな わち、JIP データベースでは、37 の資産別投資系列があり、この系列から IT 資産に関する データを取り出すことにより、IT 投資及び IT 資産の系列を作成することができる。 一口に IT 資産と言ってもその定義が様々である。例えば日本経済研究センターは、JIP データベースより分類の粗い民間22 産業の分類で、IT 投資と IT 資本ストックの系列を整 備しているが、そこでは、事務用機器、コンピュータ及びその関連設備、通信機器を対象 としている。これに対して我々が取り上げたIT 資産の範囲としては、具体的には、JIP 資 産分類の14 番(複写機)、15 番(その他の事務用機器)、18 番(コンピュータ関連機器)、 19 番のうち電気通信機器、20 番(ビデオ・電子応用装置)、21 番のうち電気計測器、31 番のうちカメラ、その他の光学機器、理化学機械器具、分析器・試験機・計量器・測定器・ 医療用機械器具である。詳細は補論で述べているが、このIT 資産の定義は、米国商務省の

Bureau of Economic Analysis の定義に対応している4。従来の IT 投資の分類と我々の分類

との対比については表1 を参照されたい。 IT 関連資本財は、ハードウェアだけでは不十分である。各国の統計をみても、IT 投資を 考える際は、ハードウェアだけでなくソフトウェアを含めている。JIP データベースの基本 部分は、68SNA を基本体系としているため、無形固定資産を含んでいないが、新たな SNA 体系である93SNA に基づいた『国民経済計算』でも無形固定資産を計上する一環としてソ 4 なお、我々の資本ストックは、民間企業だけでなく公的企業や民間非営利団体、その他の政府サービス 提供者が所有している資産も含んでいる。

(10)

フトウェア資産が推計されている。もっとも、日本の場合ソフトウェア投資推計は受注ソフ トウェアに限られ、米国や英国が推計している自己使用目的(自社開発)のソフトウェア やパッケージソフトウェアの推計はなされていない。そこで、我々は、マクロベースの系 列に限っているが、既存の統計をできる限り使用して、自己使用目的のソフトウェアやパ ッケージソフトウェアも含めたソフトウェア投資の推計を行った。その推計の詳細につい ては、補論を参照されたい。 2−2 マクロベースの IT 投資動向 それではまず、ハードとソフトを合わせた全体のIT 投資動向をみてみよう。図 1 からわ かるように、1970 年から 98 年までの実質 IT 投資額の増加率は、年率 12.4%と同時期の設 備投資全体(ソフトウェアを含む)の増加率(3.2%)をはるかに上回っている。このため、 全体の設備投資に占めるIT 投資の比率は、1970 年の 2.8%から 98 年には 31.4%にまで上 昇している。 IT 投資の内訳をみると、コンピュータ及びその関連機器の伸びが最も高く、28 年間に年 率19.6%で増加している。次いでソフトウェア投資の伸びが最も高く年率 15.8%で伸びて いる。次いでそしてコンピュータ及びその関連機器以外のハードウェア投資が8.7%で増加 している。それぞれの98 年における構成比は、44%、23%、33%である。 ただし、日本の IT 投資は、単調に増加してきたわけではなく、1990 年代前半に一時的 に停滞している。これは、(1)バブルの崩壊によって設備投資全般が大きく落ち込む中で、 コンピュータ及びその関連機器以外のハードウェア投資が落ち込んだこと、(2)リストラ やアウトソーシングが進んだ結果、自社開発ソフトが伸び悩んだことによる。このためソ フトウェア投資は、90 年代に入ってから伸びが鈍化し、80 年代までは年率 19.1%の伸びに 対し、90 年代はわずかに 7.8%の伸びへと鈍化している。ソフトウェア投資全体は 91 年か ら3 年間はほぼ横ばいであり、再び伸び始めたのはようやく 95 年になってからである。こ うした背景として、西村他(2002)または宮川(2003)のように、90 年代に入ってからの 資金市場や労働市場での流動性の欠如が、IT 産業のような新しい産業の成長を妨げている ために、90 年代における IT 投資の伸びを抑制しているという見方がある5 Jorgenson(2001)は、IT 投資増加の要因が急激な価格低下にあるとしているが、わが国 の場合も、IT 機器について急速な価格低下がみられる6。図2 をみると、コンピュータ及び その関連機器の価格低下がもっとも急速で、年率7%の低下(90 年代は実に 9.5%の低下) となっている。もっともこのコンピュータ価格の低下は、米国ほど急激ではない。こうし 5 すぐ後に述べるように、1990 年代に入ってコンピュータ価格の低下は急激なため、名目ベースでみると、 90 年代前半の IT 投資の落ち込みはより明瞭になる。このため、名目ベースでみた 90 年代におけるコンピ ュータ及びその関連機器の伸びは年率2.9%に過ぎない。 6 ただし、IT 機器の価格の低下については、価格指数の計測方法の違いもあって、先進国間でばらつきが

(11)

た要因として、卸売物価指数の段階で、価格低下の激しいパーソナル・コンピュータと汎 用コンピュータの区分がなされていなかったことがあげられる7。これに対して通信機器の 低下はそれほど急激ではなく、年率 1.5%程度の低下にとどまっている。ソフトウェアは、 非常に労働集約的な財であるため、人件費の動向に依存し、70 年から 98 年までの変化率を みると、4.3%の上昇である。しかし、90 年代に入ってからは価格の上昇は止まっている8 2−3 産業別の投資動向 ハードのIT 投資については、JIP 産業分類に沿った投資系列が作成されているので、そ の特徴をみておこう。図 3 は、JIP 産業分類別の IT 投資の増加率を 1970 年から 98 年まで と、90 年代についてみたものである。製造業では、おおむね、90 年代よりそれ以前の投資 の伸びが大きく、90 年代に入って IT 投資が増加している産業は、たばこ製造業と化学、製 鉄業、自動車製造業くらいである。 非製造業でも、製造業とほぼ同様の傾向を示しており、90 年代に入ってほとんどの産業 で IT 投資の伸びが鈍化している。ただし、非製造業は製造業に比べて IT 投資の増加率自 体が非常に高い。製造業で年率20%を超える産業がないのに対し、非製造業では、獣医業・ 農業サービス、廃棄物処理業、不動産業、広告業、その他の事業所サービス業、放送業、 旅館業、その他の個人サービス業で、28 年間を通して 20%を超える伸びを示している。 次に図 4 で、全体の資本ストックに占める IT 資本ストックの比率(1998 年)をみてみ よう。これをみると、製造業では、民生用電気機械器具、その他電気機械、船舶、精密機 械器具といった加工組立型産業でIT 資本ストックの比率が高い。ただし、1 人当たりの IT 資本ストック額をみると上記の産業の他に、全体的に資本集約度の高いたばこ製造業、基 礎化学製品製造業、石油製品製造業の比率が高くなる(図5 参照)。 一方、非製造業は、製造業に比べて全体的に IT 資本集約的であるといえる。すなわち、 製造業でIT 資本ストック比率が 30%を超える業種がないのに対し、非製造業では、6 業種 (金融、保険業、医療・保健衛生業(民間、公的、非営利とも)、業務用物品賃貸業)で、 30%を超えている。非製造業で 1 人当たりの IT 資本ストック額を調べると、リース業の影 響が大きい業務用物品賃貸業を別として、電気業や電信・電話業、放送業などの比率が圧 倒的に大きい。しかし全体的には労働集約的な産業が多いため、非製造業全体(業務用物 品賃貸業を除く)の1 人当たり資本ストック額は 119 万円と、製造業の 166 万円を下回っ ている。 7 2001 年からは、汎用コンピュータとパーソナル・コンピュータの価格指数は分けて表示するようになっ ている。

8 Colecchia and Schreyer(2002)でも、OECD 諸国の IT 価格を IT 設備、通信設備、ソフトウェアに分け

て表示している。それを見ると、IT 設備とソフトウェアの価格変動は、ほぼ我々の推計と同じだが、通信 機器の低下率は、我々の推計よりも大きい。また米国での価格低下に合わせて調整した価格指数

(Harmonized price index)でみると、IT 設備の価格は米国並に大幅に低下し、ソフトウェア価格も 90

(12)

この産業別IT 資本ストック比率は、米国商務省でも同様のデータが公表されており、比 較が可能である。図6 は、我々のデータを、22 産業に集約して、米国と比較したものであ る。これをみると、多くの産業ではIT 先進国である米国が日本を上回っているものの、中 には、金融・保険、サービス業のように、日本の比率が米国を上回っているものもある9 その意味でハードの IT 化について、巷間言われているように、米国の IT 化が圧倒的に日 本を凌駕しているわけではない。 2−4 ソフトウェア投資の特徴 すでに説明したように、我々は JIP データベースに加えて、ソフトウェア投資を推計し た。しかも93SNA では、受注ソフトウェアのみの推計であるのに対し、我々は、英米と同 様、自社開発やパッケージソフトについても推計を行った10 補論で詳述している推計方法を要約すると、受注ソフトウェアについては、SNA におけ る推計と同様、経済産業省『特定サービス産業実態調査・情報サービス編』のデータを利 用している。一方自社開発及びパッケージソフトウェアについては、経済産業省『情報処 理実態調査』を利用する。特に、自社開発ソフトウェアの推計にあたっては、アプリケー ション・プログラムの開発本数や情報処理システム部門等の社内要因人件費などのデータ を利用している。 このように推計された各種ソフトウェアを企業向けサービス価格指数をベースにしたデ フレータで実質化した系列が図7 である。図 7 をみると、1970 年当初は、自社開発ソフト が圧倒的な割合(74.1%)を占めていたのに対し、その後受注ソフトウェアが急激に伸び始 め、98 年には自社開発ソフトを上回るようになっている。実際、90 年以降自社開発ソフト は伸びが5.7%に対し、受注ソフトウェアについては、この期間年率 9.7%で増加しており、 バブル崩壊後企業がソフトウェア購入のアウトソーシングを進めてきたことがわかる。確 かに、ハードのコンピュータ周辺機器の投資額に対するソフトウェア投資額の比率をとる と、その比率は徐々に低下しており、特に 1990 年代以降に低下が加速している(図 8)。 これはダウンサイジングに伴ってソフトウェアの共用化や節減が進んでいることを示して 9 ここでは、IT 資産を、事務用機器、コンピュータ及びその周辺機器、通信機器に限って比較を行った。 この結果は、日本のIT 資本ストック蓄積が、米国を大きく下回っているとした Miyagawa et al.(2002)の 結果と異なっている。このうち、本論文で日本のIT 資本ストック比率が大きく異なる要因は、2 点ある。 一つはベンチマークの差である。Miyagawa et al.(2002)では、ベンチマークを IT 投資の平均的な伸び率 と減価償却率から推定しているが、我々のデータベースでは、1970 年の『国富調査』を利用して、ベンチ マークを作成している。このため80 年時点での IT ストック(産業計)は、前者では、3 兆円であるのに 対し、後者は、11 兆円となっている。いま一つは、資本の所有主体の差である。Miyagawa et al.(2002) では、民間企業が保有しているIT 資本ストックを推計しているが、JIP データベースでは、民間企業だけ でなく、公的企業、政府サービス生産者、民間非営利団体も含んだIT 資本ストックを推計している点が異 なっている。また米国のIT 資本ストックも、2002 年 10 月から 11 月の再推計を機に、数値が変更されて いる。その原因の一つに、事務用機器の範囲が変更になっていることがあげられる。 10 我々と同じように、日本の自社開発及びパッケージソフトウェアを推計した分析として、元橋(2002) があげられる。

(13)

いるとみられる。 これまで、日本のIT 投資額は欧米に比べて遅れをとっていると言われてきた。特にハー ドよりもソフトの分野でその傾向が強いと言われてきた。確かに図9 で IT 投資の GDP 比 をみると、受注ソフトウェアだけを考慮した場合、日本のソフトウェア投資は米国に及ば ない。しかし、自社開発ソフトウェアやパッケージソフトを考慮すると、1980 年代後半に 入ってからは、日本の方が上回っており、90 年代に入って米国が再び日本に追いついてき た構図になっている。 同様の事は他の先進諸国と比較した場合についても言える。表2 は、IT 設備全般につい

てColecchia and Schreyer(2002)が OECD 諸国を比較している表に、JIP ベースのデータ

を加えたものである。元の日本のデータについては93SNA ベースで受注ソフトウェアしか 考慮していないために、ソフトウェア投資の民間設備投資比率は英国に次いで低い。しか し、自社開発のソフトウェアを考慮した途端に、米国に次ぐ高い比率となる。この結果、 ハードのIT 設備を加えたトータルな設備投資の比率でみても、日本は米国と遜色のない実 績となっている。こうした点から、従来日本では、日本のIT 化が遅れているという見方が 支配的であったが、我々のデータはそうした見方が一面的であることを示している。 3 IT 投資関数の推計 3−1 推計データの構築 本節ではJIP データベースの産業別データを用いて、ハードウェアに関する IT 投資関数 を推計する。投資関数は、以下のように定式化を考える。 it it it it it it

it

const

a

CC

a

Y

a

RCOM

a

ITSP

a

RD

I

=

.

+

1

+

2

+

3

+

4

+

5

+

ε

(1)

まず、被説明変数(I)として IT 投資額の自然対数を取ったもの(LNIT)を作成した。 次に説明変数としては、最初の2 つの変数については、Jorgenson(1963)や Hall and Jorgenson(1967)で示されたように、設備投資が最適な資本ストック量(K*)に依存し、その 最適資本ストック量が、新古典派的な生産関数と生産要素市場を前提として

CC

Y

K

*

=

γ

( 2 ) と表されることから導出した(γは生産の資本弾力性)。すなわち、(2)式から最適な資本ス トックは、実質資本コストと実質生産量に依存するため、それらが設備投資に影響を与え ると考えた。

(14)

実質資本コストは、税制を考慮して、JIP データベースにおける資本コストの作成方法を 踏襲した。

)}

(

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1

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p

p

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P

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u

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CC

+

+

=

λ

λ

δ

(3) (3)式において、z は減価償却額の割引現在価値、u は法人税率、pITはIT 投資財の価格、py は各産業の産出額の価格、λは自己資本比率、r が長期市場金利(利付国債の金利)、i が長 期の貸出金利、δがIT 資産の減価償却率である。資本コストについては、それをそのまま 説明変数として使用したケースと対数化したケースの双方を使用した。 Y は、実質生産額を表す変数である。これは JIP データベースの実質生産額の対数値を とっている。RCOM は、JIP データベースの中間投入額に関するデータから、各産業の通 信費を取り出し、中間投入の合計額で割って作成した。 冒頭で述べたように、IT 投資の特徴は、その投資が企業や産業内の成長に寄与するだけ でなく、様々な外部効果を通じて他企業または他産業のIT 投資を誘発する点にある。こう したスピルオーヴァーに関する変数(ITSP)は、以下のように構成される。

≠ ≠

=

=

i j ji ji ji j i j ji i

D

D

OW

KIT

OW

ITSP

(3) (3)式において、Djiは、j 産業からの i 産業に対する需要である。したがって(3)式は、自 産業以外の他産業がIT 化を進めた場合、自産業との取引をウエイトとして、その影響を集 約化した変数といえる11。具体的なイメージとしては、取引先が新規のコンピュータ投資を 行った場合、自らが古い機種を使用していては、取引先とのコミュニケーションや取引に 支障をきたし、ビジネス・チャンスを失うこと可能性があるため、自らもIT 投資を行うと いった行為を想定している。KIT は各産業の IT 化を示す変数だが、IT 資本ストックに対 するIT 投資額を用いた場合を ITSPF、全資本ストックに対する IT ストックの比率を使用 した場合をITSPS と定義した。 最後にR&D ストック(RD)は JIP データベースに従い、以下の通り作成した。 1

)

1

(

+

=

t s t t

R

RD

RD

θ

(4)

11 (3)式のような形でスピルオーヴァー効果を表現することは、R&D 投資に関して、Wolff and Nadiri

(15)

(4)式において、RD は R&D ストック、Rt-sはt-s 期の研究開発費、θは技術知識ストックの 減価償却率を表す。また、s はラグを表し、本稿では s=0 としている。研究開発費は、総務 省の『科学技術調査報告』の値を、産業連関表の研究部門の情報を用いて、JIP 分類へと按 分して作成された。詳しくは深尾他(2003)を参照されたい。実際の推計では、(4)式から 作成されたR&D ストックの自然対数を取ったもの(LNRD)を利用している。なお、R&D ストックについては、非製造業では存在しない産業が多数あるため、製造業での推計にの み説明変数として利用した12 (1)式を推計した場合、予想される符号条件は、資本コスト、実質生産額については、 Jorgenson の設備投資理論にしたがい、それぞれ負及び正であると想定される。通信費につ いては、高い通信費がIT 化のインセンティヴを妨げると考え、係数が負になると予想する。 他産業のIT 化に関しては、ネットワーク効果が働くと考え、正の係数を想定する。R&D についても、技術知識ストックの増加が、より技術の進んだIT 投資を促すと考え、符号は 正であると考える。以上の各変数の記述統計量は表3 に示している。 推計期間は1976 年から 1998 年とし、産業分類は JIP データベースの全産業から分類不 明を除いた83 産業である。ただし、たばこ製造業と住宅(帰属家賃に対応)についてはデー タが不足しているため、以下の推計では除かれている。さらに利潤率を説明変数として含 めているため、教育、医療などにおける政府部門など公的な産業を除いている。このため、 産業の数は全産業での推計では76、製造業では 34、非製造業は 42 となる。さらに、同時 性を考慮し、各説明変数はそれぞれ1 期ラグを取るか、操作変数法による推計を行ってい る。 3−2 基本的な推計結果 まず(1)式にしたがって(ただし R&D ストックは除く)、全産業ベースの推計を行った。 この推計結果は、表 4 にまとめた。我々は Fixed Effect Model と Random Effect Model を 推計したが、Hausman 検定の結果、ほとんどのケースが Fixed Effect Model を支持したた め、Fixed Effect Model を表示している。またすべての推計についてタイムダミーを入れて いる。 まず、全産業の推計結果を見ると、資本コストを表すCC(または LNCC)、通信費を表 すRCOM、IT スピルオーヴァーを表す ITSPF、ITSPS については、正しい符号条件でし かも有意となっている。このため(3)式の資本コストには、税制に関するパラメータが含ま れているため、IT 投資に関する投資減税を行えば、IT 投資を促進するということは確認で きる。また他産業でIT 化が進むと自産業の IT 投資も進展するというスピルオーヴァー効 12 当初、JIP データベースで作成した労働の質に関する変数も推計に含めたが、予想されていた符号条件 (正)を満たす推計がまったくなかったために、本稿には含めなかった。

(16)

果が存在することも確認できる13。以上の結果は、推計方法を操作変数法に変えても基本的 に変化はない。 しかし、実質生産額に関しては、係数の符号が正となっている場合が多いものの、有意 な結果は得られていない。この原因の一つとして、産業の特性もあって、自産業の需要が 増加したからといって必ずしもIT 投資を増加させるとは限らないということがあげられる。 この点を確認するためにIT 資本ストックの比重が高い産業とそうでない産業とで、自産業 への需要に対する投資行動に変化があるかどうかを調べた。具体的には、IT 資本ストック 比率が15%以上の産業を1とするダミー変数を作成し、これと実質生産額との交差項を作 成しこれを新たに説明変数として加えた推計を行った14。この推計結果は表5 にまとめられ ている。 表5 をみると、予想通り IT 資本集約度が高い産業では、実質生産額の係数が正でかつ有 意となっている。ダミー変数を付さない係数が負の場合もあるが、どの推計についても両 者を加えて有意に正になることが確認できる。したがって、IT 集約度が高い産業について は、Jorgenson 流の投資理論が妥当し、かつ通信費が嵩むことによる負の効果やスピルオー ヴァー効果が確認できる。 3−3 業種別の推計結果 次に、サンプルを製造業と非製造業に分割して推計を行った。推計の結果は、表 6 にま とめられている。表5 にしたがい、実質生産額についてはダミーを付した変数を加えてい る。 製造業の推計結果を見ると、資本コスト、IT スピルオーヴァーに関する係数はそれぞれ 全産業での推計結果と同じように有意な結果となっており、しかも値が幾分高くなってい る。実質生産額の係数もダミーを付けた変数について正で有意になっている。しかし通信 費に関する係数は、有意ではないものの正となっている。また製造業ではR&D ストックに 関する変数を含めた。この係数は、当初予想通り正となっているが、いずれの推計におい ても有意ではない。 一方、非製造業の推計結果を見ると、資本コスト、実質生産額、通信費については、係 数の符号は当初の予想通りでありしかも有意となっている。IT スピルオーヴァーも係数に ついては、すべての推計について正だが、ストックベースのスピルオーヴァー変数(ITSPS) のみ有意となっている。 13 生産関数を推計した場合、生産性の上昇に対して、他産業のIT 化が影響を及ぼすかどうかについては 確定的な結論が出ていない。詳しくは、西村他(2002)、Miyagawa et al.(2002)、深尾他(2003)の推計 を参照されたい。 14 図 4 から明らかなように、IT 資本ストック比率が 1998 年時点で 15%以上の産業は、出版・印刷業、民 生用電気機械器具製造業、その他の電気機械器具製造業、精密機械器具製造業、ガス・熱供給業、金融業、 保険業、電信・電話業、郵便業、医療・保健衛生(民間)、業務用物品賃貸業、その他の事業所サービス業、 放送業である。

(17)

このような結果から、資本コスト産業別の推計においても、もっともな結果を得ている ことが確認された。また実質生産額については、やはりIT 集約度の高い産業では影響を受 けることが確認された。製造業と非製造業の違いは通信費とIT スピルオーヴァーに関する 結果の違いにある。このうち通信費については、製造業の場合、IT 関連製品を製造する業 種が多く含まれているため、通信費はあまり投資決定に影響を与えないが、非製造業の場 合は、逆にIT 製品を利用する立場の業種が多く含まれているため、通信費の増加が投資を 抑制する方向に働くと考えられる。一方IT スピルオーヴァーに関する係数の有意性につい ては、製造業がストック変数だけでなく、フロー変数によるスピルオーヴァー効果も有意 であるのに対し、非製造業やIT ユーザーにおける推計では、ストック変数におけるスピル オーヴァー効果のみが有意となっている。これは他産業でのフローのIT 投資が、自産業の IT 投資を左右するのに対し、非製造業では他産業での IT 化がかなり進展しなければ、スピ ルオーヴァー効果が働かないことを示しているといえる。 3−4 利潤率を説明変数に含めた推計 設備投資関数を考える場合、より標準的な議論としては、実質生産額を説明変数とする よりも利潤率を説明変数として用いるケースが多い。ここでは資本コストの影響やIT スピ ルオーヴァー効果が他のケースでも確認できるかどうかということを確かめるために、 (1)式の実質生産額の代わりに利潤率(PROFIT)を説明変数として加えて推計を試みる。 利潤率は、JIP データベースから、各産業の営業余剰を利潤とみなし、これを資本ストック で割った率を利用している。 この利潤率を含めた推計結果は表 7 にまとめられている。表 7 をみると、資本コスト、 通信費、IT スピルオーヴァー効果の係数は符号条件を満たしており、そのうち多くの推計 において係数は有意である。このことから資本コストの効果やスピルオーヴァー効果は、 推計式の特定化を変えても成立することが確認できた。しかし、利潤率にかかる係数は、 ダミーを付さない変数の係数は負で有意となり、理論的に予想される符号とは逆である。IT 資本集約度が高い産業に付けられるダミー変数との交差項の係数は正になるが、それでも 両者の係数を合わせると正にはならない。こうした結果の背景としては、我々が変数とし て利用している利潤率がその産業の過去の資本蓄積全体の成果であるため、必ずしも、IT 資本の期待利潤率を代表する変数となっていないことが考えられる。 以上の結果を要約すると、資本コストやIT 投資のスピルオーヴァー効果を示す変数に関 しては、投資関数の特定化や産業にかかわらず、IT 投資に影響を与える。すなわち、資本 コストの低下は、IT 投資を増加させることから、投資減税による資本コストの低下は IT 投 資を促進させる。そしていったんある産業で IT 投資が起きると、それは他産業の IT 投資 も促進することになる。もっともこのスピルオーヴァー効果は、製造業と非製造業によっ て異なっている。製造業ではフローの IT 投資がスピルオーヴァー効果を有するのに対し、

(18)

非製造業ではIT 資本の蓄積、すなわち IT ストックがスピルオーヴァー効果をもたらすこ とになる。通信費にかかる係数もおおむね負で有意で、規制緩和や通信業での競争促進が、 IT 投資を促進することがわかるが、製造業については必ずしも有効ではない。最後に各産 業の実質生産額については、IT 資本集約的な産業については、正で有意であることから、 自産業に対する需要が増加した場合、IT 投資を行うかどうかは、その産業での IT 資本の構 成比に依存することがわかった。利潤率に関しては、投資理論が予想する結果は得られて いない。 3−5 IT 投資促進税制に関するシミュレーション 2003 年度からの税制改正の中で、2003 年から 2006 年までの間に、IT 機器(ソフトウ ェアも含む)を購入した場合、税制上の恩典が受けられることになった。具体的には、IT 機器を購入した企業は、取得価額の半分相当を初年度償却するか、取得価額の 10%の税額 控除を受けるかのどちらかを選択することができる。 我々の推計結果では、多くの推計において、資本コストにかかる係数は負でかつ有意で あった。資本コストは、税制上のパラメータを含むため、税制変更は、IT 投資の動向に影 響を与えることになる。ここでは上記の2003 年度税制改正のうち、投資税額控除に焦点を あて、もしすべての企業が税額控除を利用して IT 投資を行った場合、どれだけ IT 投資が 促進されるかをシミュレーションする。 具体的には、表 5 の推計式を基本とし、その中で、全産業ベースの推計で、かつ資本コ ストを対数化して推計したケースを使ってシミュレーションを行った。この場合、資本コ ストにかかる係数は、IT 投資額の資本コストに対する弾力性となる。我々がシミュレーシ ョンに使用した推計における弾力性は、標準的なパネル分析のケースで-0.3、操作変数法を 使ったケースで-0.39 である。10%の投資税額控除が行われた場合の、産業別の資本コスト の変化率を求め、それと先ほどの弾力性の値を利用して、産業別にIT 投資の促進額を求め ている。ただし、我々のIT データは、1998 年までしかないので、投資額が 1998 年水準の ときに税制変更が行われたケースをシミュレーションしていることになる。 シミュレーションの結果は、表 8 及び図 10 に示されている。表 8 は、先ほど示した弾力 性を利用して、各産業でどれだけ投資が誘発されるかを増加率で示したものである。これ をみると、最も高い増加率を示すのが、小売業で、標準的なパネル分析のケースでは6.8%、 操作変数法のケースでは9.1%となっている。この他、業務用物品賃貸業や広告業、道路運 送業、航空運輸業などで、前者が7%近く、後者が 8%後半の伸びを示している。全体的に 高い伸び率を示しているのは非製造業が多く、製造業では、印刷・出版業、身廻品製造業、 製材・木製品製造業などで、比較的高い伸びを示している。投資誘発による全体の投資増 加率は、標準的なパネル分析のケースで、6.4%、操作変数法のケースで 8.5%である。我々 が推計したIT 投資系列では、ハードの IT 投資は、全体の投資額の約 24%を占める。そう

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するとこの税制改正だけで、全体の設備投資は、1.5%から2%増加すると見込まれる。 図10 は、通常のパネル分析の弾力性を利用した場合、各産業でどの程度の IT 投資が誘 発されるかを図示したものである。操作変数法で推計したパラメータを用いても順位に変 化はない。やはり、リース業が含まれている業務用物品賃貸業で最も多く6000 億円の設備 投資が誘発されている。次いで、電信・電話業で2000 億円の設備投資が誘発される。上位 5 位までは非製造業の業種で占められ、6 位以降から電気機械や一般機械といった IT メー カーの業種が入ってくる。これらの設備投資誘発額を合計した額は、この標準的なパネル 分析のパラメータを利用した場合で1.7 兆円、操作変数法を利用した場合は 2.3 兆円となる。 それでは、こうした減税措置でIT 投資が増加した結果、税収は増加するのだろうか。い ま非常に簡単な試算をしてみよう。減税によるIT 投資の増加額は 1.7 兆円(操作変数法の 場合、2.3 兆円、以下同じ)であるから、減税率が 10%とすると、減税額は 1700 億円(2300 億円)となる。これに対応する国内総支出の増加は、投資額の増加とみなしてよい。『平成 12 年版 国民経済計算』によると、1998 年における政府部門の直接税、間接税合わせた税 収の名目国内総支出に対する比率は 17.7%であるから、この投資額の増加に見合う税収額 の増加は 3000 億円(4000 億円)となる。この試算では、投資額の増加に伴う乗数効果や スピルオーヴァー効果を考慮に入れていないので、それを含めれば税収の増加額ははるか に大きくなる。しかし、一方で既存のIT 投資分について実施された減税分は、こうした増 収分では賄いきれない。 ただ上記のシミュレーションは、1998 年の IT 投資額を基準としているため、その後の IT 投資の伸びを考慮すると、金額ベースでは過小な推計となっている可能性がある。すで にみたように我々の推計では、他産業のIT 化の進展が自産業の IT 投資を増加させるとい うスピルオーヴァー効果も確認されている。このスピルオーヴァー効果は、IT 産業に特有 のネットワーク外部性によって生ずると考えられ、一度誘発されたIT 投資はさらに他産業 のIT 投資を誘発することになる。このようなネットワーク外部性やここでは考慮されてい ないソフトウェア投資も含めれば、税制変更に伴うIT 投資の誘発額は、さらに大きくなる 可能性がある。 4 結論と今後の課題 我々は、JIP データベースから導出される IT 投資の動向を国際比較も含めて検証し、こ のデータベースからハードの産業別IT 投資データを利用して、パネルによる実証分析を行 った。以下ではこれまでの分析から得られた結果をまとめた上で、残された課題について 述べる。 そもそもIT 投資については、通常のマクロベースの設備投資に比べて実証分析の基礎と なるデータが極端に少ない。我々はこうした問題意識から出発して、JIP データベースとい うより包括的で国際比較が可能なデータベースを作成する作業の一環として、IT 関連のデ

(20)

ータを整備した。このデータを利用して、日本のIT 投資の動向を調べると、ハード面、ソ フト面においても、量的に見ると、米国または他のOECD 諸国と比較してもそれほど遜色 のない規模にあることが示された。 次にIT 投資関数の推計では、標準的なパネル分析、操作変数法を使った推計いずれにつ いても、資本コストの係数がマイナスに有意になった。これは設備投資関数の特定化や産 業別の推計に依存しない結果である。このことは、2003 年度から実施される IT 投資減税 ついて、政策実施の妥当性の根拠を提供している。通信費に関する係数も、予想通り負に なるケースもあるが、製造業での推計に関しては逆のケースも見られた。またスピルオー ヴァー効果にかかる係数もプラスで有意な推計が多かったことから、ある産業でIT 投資が 活性化すれば、それは他の産業にもIT 投資を増加させる方向で波及することも確かめられ た。産業別の実質生産額を説明変数とした場合、IT 資本集約度の高い産業については、こ の係数が正で有意となった。このことは産業全体の業況がよくなった場合、それがIT 投資 の増加につながるかどうかは、その産業の資本構成に依存していることを示している。た だし実質生産額に代えて利潤率を説明変数とした場合は、こうした仮説は支持されなかっ た。 全産業では、いろいろな業種の特徴を定数ダミーで十分取り除くことができないと考え られるため、業種別の推計を行った。ここで資本コストにかかる係数は、製造業では全産 業より高い値が得られた。スピルオーヴァー効果に関しては、非製造業では、IT 化がスト ックベースで進展しなくては、スピルオーヴァー効果が有効ではないことが確認された。 なお、製造業やIT メーカーの推計では、R&D ストックを説明変数として加えたが、IT 投 資に影響を与えているという決定的な結果は得られなかった。 こうした結果を踏まえて、2003 年度から実施される IT 投資減税の効果について、定量 的なシミュレーションを行った。それによると、IT 投資を行った企業が、すべて 10%の投 資税額控除を活用すると考えると、6.4%から 8.5%の幅で IT 投資を増加させると考えられ る。これは全体の投資を1.5%から 2%押し上げる効果を持つ。これを金額ベースに置き換 えると、2 兆円前後のオーダーになるが、計算の基準が 98 年の設備投資であり、その後こ の基準額が増加していることや、スピルオーヴァー効果、ソフトウェア投資などを考慮す れば、税制改革の効果はより大きくなると思われる。このシミュレーションを税収の立場 からみると、増加投資分からもたらされる税収の増加は、減税分を十分カバーしているが、 それは既存のIT 投資に関する減税分を賄えるほどではない。 最後に今後の分析課題をまとめておこう。まずデータ分析から生じる課題としては、デ フレータの問題がある。Colecchia and Schreyer(2002)でも示されているように、米国で

のIT 関連財の価格は大きく低下しているが、それは他国の動向と随分異なっている。この

デフレータの選択によって、IT 投資の量的な評価は大きく変わってくるため、今後とも適 切なデフレータを探る努力が必要とされよう。

(21)

た変数を今後どう考慮してくかという課題が残されている。例えば、市場構造とIT 投資と の関係は、中小企業が多ければIT 投資が活性するかどうかを確かめるためにも必要な変数 である。これらについては、基礎統計である『事業所・企業統計』で各年のデータがとれ ないことから、別途データを作成した上で推計に挑戦する必要がある。また、労働者の質 についても、今回は適切な結果が全く得られなかったため、見送った。しかし、IT 化がど のようなタイプの労働者と補完的で、また代替的かということを考察するためには、必要 な変数であり、今後検討していきたい。さらにスピルオーヴァー効果についても需要側か らの波及効果だけでなく、投入側からの波及効果を捉えるような変数の作成が望まれる。 需要面だけに着目すれば、IT 投資は増加すればするほど望ましい。我々の分析も政策的 にそうした需要刺激効果を支持する結果を導出している。しかし長期的な効果を考えれば、 そうしたIT 資本の蓄積が本当に生産性を上昇させ経済成長に寄与するかどうかが重要とな る。もし生産性を上昇させないIT 資本が蓄積されるだけであれば、それは従来の資本と変 わりのない過剰資本が生み出されるだけである。したがって供給面からの分析と合わせて 検証することにより、本当の意味でのIT 投資の意義が明らかにされると考えられる。

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補論:IT 投資系列及び資本ストック系列の作成方法 本補論では、本文中で使用したIT 投資と資本ストック系列の作成方法について説明する。 JIP データベース全体の推計方法や、より詳しい IT 投資系列の作成方法については、深尾 他(2003)を参照されたい。 補論1−1 産業別 IT 投資及び資本ストック系列の作成(ハードウェア) まずハードウェアの投資額については、JIP 資産分類の 14 番、15 番、18 番、そして 20 番については JIP データベースで作成された資産投資額をそのまま利用するが、それ以外 の部分(JIP 資産番号の 7 番、19 番、21 番、31 番)については資産投資額から、IT 資産に 関わる部分を抜き出す必要がある。このため、この部分についてはコモディティ・フロー データを利用し、IT 部分の投資額を推計している。 資本ストックの作成にあたっては、既存の資産別資本ストックの系列から、IT 資産の部 分を抜き出したわけではない。すでにみたように、IT 資産を特定化する際、ある資産の一 部をIT 資産と認定し、あらためて投資系列を推計しているため、JIP データベースの資産 分類に対応したストック系列を取り出しそれを合計してIT 資本ストックとみなすことがで きないのである。このため、JIP 資産番号の 7 番、19 番、21 番、31 番については、それ ぞれの資産分類においてIT 資産に属する部分のベンチマークを求め、それを使ってベンチ マーク・イヤー法であらためてIT 資本ストックを作成している。 さらに固定資本マトリックスを利用して、投資系列を各産業別に分類し、RAS 法を使って、 1970 年から 98 年までの産業別・資産別 IT 投資系列を作成した。そして、コモディティ・ フローデータから得られるデフレータを使って、この投資系列を90 年基準に実質化してい る。こうして推計された投資系列とベンチマークをもとに、産業別IT 資本ストック系列を 作成した。 補論1−2 ソフトウェア投資の推計 1−2−1 ソフトウェア投資の範囲 JIP 投資系列には、ソフトウェア投資は含まれていないが、IT 投資を考えるにあたって、 ソフトウェア投資の推計は不可欠である。93SNA ベースに基づいた『国民経済計算』でも、 無形固定資産の計上の一環として、ソフトウェア投資が推計されている。 しかし補表1 にみられるように、日本の場合ソフトウェア投資推計は受注ソフトウェア に限られ、米国や英国が推計している自己使用目的(自社開発)のソフトウェアやパッケ ージソフトウェアの推計はなされていない。そこで、ここでは既存の統計をできる限り使 用して、自己使用目的のソフトウェアやパッケージソフトウェアも含めたソフトウェア投

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資の推計を試みる。 1−2−2 受注ソフトウェアにおけるベンチマークの作成 最初に、既存の一次統計が多い受注ソフトウェアから考えていこう。ソフトウェア業の 設備投資系列の作成にあたっては『固定資本マトリックス』の値をベンチマークとする。 但し、ソフトウェア業は 93SNA に対応すべく、1995 年の『固定資本マトリックス』から 資本財として計上され15『1985-90-95 年接続産業連関表』で 85 年、90 年についても遡及 推計されている。1980 年以前については中間投入に含まれていたものと思われるが、基本 分類が「情報処理サービス業」となっておりソフトウェア業単独の中間投入は分からない。 そのため他産業で中間投入された「情報処理サービス業」産出物に、『特定サービス業実態 調査報告書・情報サービス業編』から得ることの出来る業態種類別売上高のうち「ソフト ウェア開発・プログラム作成(受注ソフトウェア)」の割合をかけたものを仮のベンチマー クとする。 ・93SNA におけるソフトウェアの扱いについて 93SNA 68SNA 生産者が 1年を超えて生産に使用する ソフトウェアのうち、受注開発分につい ては、総固定資本形成に含め、無形固定 資産として扱う。 受注型ソフトウェアについては、中間 消費に含まれており、固定資産には含 まれない。 ・対応する『固定資本マトリックス』の資本財名と資本財コード 1995:ソフトウェア業(8512-011) ・対応する総務庁『接続産業連関表』の業種名と業種番号(行コード) 1985、1990、1995:ソフトウェア業(8512-011) ・対応する総務庁『産業連関表』の業種名と業種番号(行コード) 1970:調査データ処理計算サービス(8300-910) 1975、1980:調査・データ処理・計算サービス(8300-200) 1985、1990:情報サービス(8512-011) 1995:ソフトウェア業(8512-011) 1−2−3 受注ソフトウェア投資フローの把握と固定資本マトリックスとの対応について 15 ソフトウェアの取得形態としては受注ソフトウェア、パッケージソフト購入、自社開発がある。総務庁 産業連関表で今回推計されたのは受注ソフトウェアである。

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(1)投資フローの把握 『固定資本マトリックス』等のベンチマークが存在しない年の補間としては、『特定サー ビス業実態調査報告書・情報サービス業編』を使用する。この調査では1973 年以降の業態 種類別年間売上高を取ることができ、「ソフトウェア開発・プログラム作成(受注ソフトウ ェア)」の売上高を暦年変換したものをソフトウェア投資とする。 1970−72 年の数字は『情報処理実態調査』で産業別の「ソフトウェア開発及びプログラ ム作成」の売上高が取れるため、ソフトウェア業と情報処理サービス業の値を暦年変換し たものを使用して、『特定サービス業実態調査報告書』の売上高を遡及推計する。遡及の方 法としては1973−82 年のカバー率の平均を 1970−72 年のカバー率として使用する。 また、「ソフトウェア開発・プログラム作成」のうち受注ソフトウェアとソフトウェアプ ロダクトの内訳については1983 年以降しかわからないため 1982 年以前は 1983 年の割合 を使用して遡及推計する。 (2)固定資本マトリックスとの対応 『国民経済計算年報 平成13 年版』の「93SNA 移行に伴う新たな表章事項等」における「コ ンピュータソフトウェア名目額の推移(1990−98 年)」は、ほぼ『特定サービス業実態調 査報告・情報サービス業編』の「ソフトウェア開発・プログラム作成(受託ソフトウェア +ソフトウェアプロダクト)」売上高と一致するが、ここでは 1-2-2 で推計したベンチマー ク値に対応させる形で推計を行った。 ・コンピュータソフトウェア名目額の推移(国民経済計算年報) (単位:兆円) H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 144.5 151.4 148.9 143.9 140.5 140.3 148.8 149.8 138.7 内、コンピュー タソフトウェア 3.4 4.1 4.3 3.7 3.4 3.6 4.1 4.6 6.0 2.3 2.7 2.9 2.6 2.4 2.5 2.8 3.1 4.4 参考:特定サービス業実態調査報告(ソフトウェア開発・プログラム作成) H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 売上高 3.46 4.16 4.30 3.81 3.49 3.70 4.26 4.67 6.03 暦年 総固定資本形成 コンピュータソフト ウェアの比率(%) 暦年 1−2−4 その他のソフトウェア投資の推計 すでに指摘したように、ソフトウェア投資の全体像を把握するためには、パッケージソ フト及び自社開発ソフトウェアについて考慮する必要がある。 (1)パッケージソフトの推計 パッケージソフトのベンチマークとしては『1985-90-95 年接続産業連関表』「ソフトウェ ア業」の内生部門計(列コード9099-00)を使用する。但し、内生部門計にはパッケージソ フトウェア以外に情報処理やデータベースサービス、各種調査等も含まれる可能性がある

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ため『特定サービス業実態調査報告書』の「業務種類別売上高」「契約先産業別年間売上高」 を使用して企業向けパッケージソフトウェアの割合を計算し、ベンチマークとした。(また、 電子計算機本体、電子計算機付属装置で中間需要されている金額はパソコンにプレインス トールされたものと考え、ここでは除いている) ベンチマークが存在しない年の補間としては、受託ソフトウェアと同様に『特定サービ ス業実態調査報告書』で把握可能である。この調査では1973 年以降の業態種類別年間売上 高を取ることができ、「ソフトウェア開発・プログラム作成(ソフトウェアプロダクト16 の売上高を投資額とし、ベンチマークに対応させる形で推計を行った。本来、パッケージ ソフトウェアのうち一括購入10 万円以上を投資として計上すべきであるが、把握できる統 計が存在しないため、ここでは調整を行っていない。 (2)自社開発のソフトウェアについて 自社開発のソフトウェア額を直接把握できる統計はないが、『情報処理実態調査』等を使 用して推計することを試みる。 『国勢調査』の「情報処理技術者数」と『情報処理実態調査』の「情報処理要員の状況」 (情報システム部門の専従者+外部要員の派遣要員のうちSEとプログラマー数)を比較 して、情報処理実態調査のカバー率を求める。但し、『国勢調査』は5 年おきに実施されて いるため、間の年については、『事業所・企業統計調査』の企業数と『情報処理実態調査』 の集計企業数等を比較してカバー率を推計した。このカバー率を使用して、自社開発ソフ トウェア投資額(『情報処理実態調査』の「外部要員人件費」「情報システム部門等の社内 要員(人件費)」にSE、プログラマー17の割合を掛けたもの。但し、ここではソフトウェア 業、情報サービス業、調査広告業を除く)を膨らませ、全体の投資額を推計する。 以上の方法によって推計された3 種類のソフトウェア投資の系列は、補表 2 にまとめられ ている。 1−2−5 ソフトウェア資本ストックの推計 ソフトウェア資本ストックの推計についてもベンチマーク・イヤー法を用いるが、ソフ トウェアに関しては適切なベンチマークデータがない。そこで、ここでは1970 年以前のソ フトウェア投資が、その後 28 年間の平均的な投資増加率(g)で伸びてきたと仮定して、 1970 年のベンチマークストック(KS1970)を次の式で算出する。 16 ソフトウェアプロダクト:不特定多数のユーザーを対象とし開発・作成するイージーオーダー又は、レ ディメイドのソフトウェアをいう。一般にソフトウェアプロダクト、汎用プログラム、ソフトウェア・パ ッケージ、パッケージ・プログラムなどと呼ばれているもの。輸入ソフトウェアなど外部で開発され、メ ンテナンスを行って販売するソフトウェアはここに含める。 17 日本銀行の企業向けサービス価格指数では、ソフトウェア開発の調査価格方法として、契約ごとの個別 性が大きいため人月単価を調査価格として採用している。具体的には職種ランク別単価として SE、プログ ラマーを調べていることから、ネットワーク管理者・管理職・庶務・オペレータ・データ入力者等は対象 外とした。

(26)

δ

+

=

g

IS

KS

1970 1971 ここで、IS は、ソフトウェア投資額、δは、ソフトウェア資産の減価償却率である。 我々はこの減価償却率に関し、日本の『国民経済計算』で推計されている償却率(35%) と米国で採用されている償却率(44%)の双方を使って、ソフトウェア資本ストックを作 成した。推計されたソフトウェア資本ストックの系列は、補表3にまとめられている。

参照

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