* はるはら よしお 教育構造論講座
キーワード:教職志望動機/教師効力感/教員養成/新入生 問 題
近年,教育をめぐる環境は混迷し,いじめ,学級崩壊,
不登校,さらに学習意欲・学力の低下など,子どもたち が当事者となる問題が山積している。こうした問題に対 処するため,いま教員の資質能力の向上が叫ばれている。
教員養成機関に対しては,基本的な資質能力の育成はも ちろんのこと,学校現場での様々な問題に適切に対応で きる実践的指導力を持った教員の養成が強く求められて いる(中央教育審議会,2006)。
教員の資質能力に関係する要因として,教師効力感
(teacher efficacy)という概念が注目されている。教師効 力感は,Bandura(1977)の自己効力感(self efficacy)理 論を教師教育の分野に応用・発展させたもので,「子ども の学習や発達に対して肯定的な効果をもたらす教育的行 為をとることができるという教師の信念」と定義されて いる(Ashton,1985)。教師効力感の高い教師は,授業に 熱心であり(Guskey,1984),指導困難な生徒に粘り強く 指導する(Woolfolk & Hoy,1990)。また,内発的動機づ けへの志向性が高く,PM型リーダーシップ行動をとり,
教職への満足感・適応感が高い(丹藤,2001)などの特 徴がある。このように教師効力感は積極的な教師行動と 深く関わる概念であり,教員養成課程において学生の教 師効力感を向上させる具体的な指導の在り方を考えるこ とは,有能な教員の育成を目指すうえで不可欠であろう。
教員養成課程の学生を対象とした研究では,教師効力 感に対する教育実習の効果を検討するものが多い。例え ば,持留・有馬(1999)は,教育実習の前後で学生の教
師効力感の変化を検討し,実習後に教師効力感が高まる という結果を得ている。また,実習前後の変化には性差 がみられ,女性にくらべて男性のほうが実習後に効力感 が高まることが報告されている(西松,2008)。さらに,
春原(2008)は,「授業での成功と被賞賛体験」「実習生 参考体験」「教員参考体験」「子どもとの親和体験」「不 満感情」の 5 因子からなる教育実習体験尺度を作成し,
実習中のいかなる体験が教師効力感に影響を及ぼすかを 検討した。その結果,「授業での成功と被賞賛体験」「子 どもとの親和体験」「不満感情」といった実習体験が教 師効力感と関連することを明らかにしている。これらの 知見が示すように,教育実習は学生の教師効力感を高め る契機となっている。
しかし,従来の研究では教師効力感に対する教育実習 の効果に焦点を当てていたため,研究対象が実習に参加 する 3・4 年生に限定されていた。そのため,実習と直接 関わりのない 1・2 年生の教師効力感について触れられる ことはほとんどなかった。近年では教育実習以外に,教 育委員会主導による教師塾,インターンシップやスクー ルボランティアなど,従来にくらべて早い時期から現場 体験を重視する取り組みがおこなわれている。こうした 状況に鑑みると,学生の教師効力感をなるべく早い時期 から捉えておく必要がある。特に,教員の養成を専門と する教員養成大学でありながらも,将来教職に就くこと をあまり意識せずに入学してくる学生が少なからずいる ことを考えると,入学直後の新入生の教師効力感とその 規定因について検討することは,その後の養成指導を効 果的におこなううえで欠くことができない。そこで本研
―― 教員養成課程の新入生を対象として ――
春 原 淑 雄*
究では,教員養成課程の新入生を対象として,彼らの教 師効力感とその規定因に着目する。
ところで,新入生の教師効力感には,入学直後の時点 で既に違いがあるのだろうか。あるとすれば,それはい かなる要因によって規定されるのであろうか。新入生の 教師効力感とその規定因について検討した研究はほとん どないが,その中でも,桜井(1992)の研究は非常に示 唆的である。彼は,教育学部生を対象として,教師効力 感と教育学部で学ぶ理由との関連について検討し,職業
(教員)志向が強い学生ほど教師効力感が高いことを明ら かにしている。この研究結果は,教員になりたいという 動機(教職志望動機)が教師効力感を規定する可能性を 示すものである。
教職志望動機に関しては,これまでに多くの研究が積 み重ねられてきた(藤原・仙崎,1984;藤原,2004;伊 田,2005;鹿毛,1997;木村・中澤・佐久間,2006)。従 来の研究を概観すると,教職志望動機として,過去に おける素晴らしい教師との出会い,教師への性格的な 適合感,子どもとの交わり,教えることへの強い関心な ど,肯定的な動機が共通して見出されている。その一方 で,親,教師,友人からの勧めがあったから,資格がほ しいから,といった類の消極的な動機を持つ学生がいる ことも報告されている。これらの研究で指摘されてきた ように,本研究で対象となる教員養成課程の新入生も,
肯定的な動機から消極的な動機まで様々な教職志望動機 を持って進学してくると考えられる。したがって,桜井
(1992)の知見もあわせて考えるならば,こうした教職志 望動機の違いが入学直後の教師効力感に影響を及ぼすこ とが想定されるのである。
さらに,教職志望動機として親の要因を検討した研究
(小川・田中,1979,1980)がある。彼らによれば,親が 教員の場合には,それが父親か母親かにかかわらず,そ の子ども自身も教職を志望する割合が高いことが明らか にされている。鹿内(2007)も同様の検討をし,教職志 望の学生は企業や大学院進学希望の学生にくらべて,「親 からのアドバイス」「親の期待や希望」「親の職業」を自 分の職業選択に際して重視することを報告している。こ れらのことから,親の職業や職業態度といった親の要因 が,学生の教職志望動機に影響を及ぼすことが示唆され ているのである。
以上の議論を踏まえて,本研究では,教員養成課程の 新入生を対象として,親の要因,教職志望動機および教 師効力感の 3 者の関連について,構造的に検討すること を目的とする。
方 法
調査時期と調査対象
2008 年 4 月,関東地方のA大学教育学部 1 年生159 名
(男性 81名,女性 78 名)を対象とした。対象者は教員免 許状の取得が卒業条件となっている教員養成課程に在籍 している。
調査内容
教師効力感 春原(2007)が作成した教育学部生用教 師効力感尺度を用いた。この尺度は,「学級管理・運営 効力感」(「まとまりのあるクラスをつくる自信がある」
「児童・生徒を管理・指導することができる」など11項 目),「教授・指導効力感」(「わかりやすい教え方ができ る」「能力のある子どもに適切な課題を与えることができ る」など 9 項目),「子ども理解・関係形成効力感」(「子 どもの心をつかむのが上手である」「子どもの気持ちや考 えをよく理解できる」など 6 項目)の 3 領域の教師効力 感を測定するもので,高い信頼性と妥当性が確認されて いる。なお,尺度作成時の信頼性係数は,「学級管理・
運営効力感」がα= .90,「教授・指導効力感」および「子 ども理解・関係形成効力感」がα= .79であった。教員
(あるいは実習生)として教壇に立った場面を想定させ,
「非常にあてはまる」( 5 点)から「全くあてはまらない」
(1 点)までの 5 件法で回答を求めた。各下位尺度の項 目得点の総和を項目数で除し,「学級管理・運営効力感」
得点,「教授・指導効力感」得点,「子ども理解・関係形 成効力感」得点とした。
教職志望動機尺度 教職を志望した動機を測定するた め,伊田(2005)を参考にしながら,本研究で新たに18 項目を作成した。先行研究で共通して見出された肯定的 な動機のほかに,「人から教師に向いていると言われたか ら」「なんとなく,なりゆきで」「自分の成績に見合って いたから」など消極的な動機を尋ねる項目も用意し,教 職志望動機を包括的に捉えられるよう配慮した。
親の要因に関する質問 ①親が教職をどのように評価
しているか(以下「親の教職評価」と略記する)を,「非 常に高く評価している」( 5 点)から「非常に低く評価し ている」( 1 点)までの 5 件法で回答を求めた。②親が教 員であるか否か(以下「親が教員」と略記する)を,「は い」か「いいえ」の 2 件法で回答を求めた。本質問は質 的変数であるため,「はい」を 1 ,「いいえ」を 0 とする ダミー変数に変換し,以降の結果の処理においては,量 的変数に準じて扱うこととした。
調査手続き
必修科目の 1 つである心理学関連の授業の一部を利用 して,無記名・自記入形式の質問紙を一斉に実施した。
実施に際しては,調査内容は研究にのみ用いること,提 出の有無によって成績には影響しないことを説明し,対 象者の同意を得たうえで調査に協力してもらった。
結 果
教職志望動機尺度の因子分析
教職志望動機を問う18 項目に対して因子分析をおこ なった。因子の抽出には主因子法を用いた。因子数は,
固有値 1 以上の基準を設け,さらに解釈可能性も考慮し て,最終的に 5 因子とした。バリマックス回転後の因子 負荷行列をTable 1 に示す。なお,累積寄与率は49.15%
であった。
第 1 因子は,「人に何かを教えることが好きだから」な ど,教えるという行為に重点を置いた内容の項目が高い 正の負荷量を示していた。また,「学校という場所に魅力 を感じるから」など,学校という場に対する肯定的な内 容の項目が高い正の負荷量を示した。そこで,「学校教授
Table 1 教職志望動機尺度の因子分析結果
因子/質問項目 F1 F2 F3 F4 F5
F1:学校教授志向 (α=.75)
人に教える立場に魅力を感じたから .77 .04 .05 .04 .10
人に何かを教えることが好きだから .75 .10 .05 .06 .07
学校に関わる職場で仕事をしたいから .64 .12 .05 .11 .01
学校という場所に魅力を感じるから .58 .16 .16 .16 .02
教師に向いていると人から言われたから .34 .28 .17 .11 .18
F2:目的無自覚・同調 (α=.65)
家族,先生,先輩などのアドバイスによって .12 .87 .10 .04 .02
自分の成績に見合っていたから .10 .60 .19 .01 .01
資格(教員免許など)が取れるから .05 .51 .00 .06 .04
なんとなく,なりゆきで .27 .45 .21 .05 .02
身近に(家族や親戚など)に教師をしている人がいたから .00 .30 .11 .10 .10
F3:子ども志向 (α=.83)
子どもと接する仕事に就きたいから .07 .00 .89 .13 .07
いろんな子どもと出会う機会のある仕事が好きだから .22 .04 .84 .01 .08
F4:恩師志向 (α=.85)
大好きだった先生のようになりたいと思ったから .18 .02 .07 .91 .14
恩師のようになりたいと思ったから .10 .01 .09 .74 .24
F5:経験活用志向 (α=.65)
自分が生徒だった時のつらい経験を役立てたいと思ったから .01 .05 .04 .15 .81
不登校やいじめなどの経験を役立てたいから .05 .13 .03 .04 .62
現状の学校教育を変えていきたいと思ったから .05 .02 .02 .22 .44
教育問題に興味・関心があったから .20 .05 .21 .14 .32
因子寄与 2.25 1.82 1.72 1.56 1.49
因子寄与率(%) 12.51 10.11 9.57 8.66 8.29
累積寄与率(%) 12.51 22.62 32.19 40.85 49.15
志向」因子と命名した。第 2 因子は,「家族,先生,先輩 などのアドバイスによって」「自分の成績に見合っていた から」「なんとなく,なりゆきで」など,自らの積極的志 望ではなく受身的消極的な内容の項目が高い正の負荷量 を示した。そこで,「目的無自覚・同調」因子と命名した。
第 3 因子は,「子どもと接する仕事に就きたいから」「いろ んな子どもに出会う機会のある仕事が好きだから」といっ た,子どもに関わる仕事内容をあらわす項目が高い正の 負荷量を示した。そこで,「子ども志向」因子と命名した。
第 4 因子は,「大好きだった先生のようになりたいと思っ たから」「恩師のようになりたいと思ったから」といった,
自分自身がこれまでに出会った教師のようになりたいと いう内容の項目が高い正の負荷量を示した。そこで,「恩 師志向」因子と命名した。第 5 因子は,「自分が生徒だっ た時のつらい経験を役立てたいと思ったから」「現状の学 校教育を変えていきたいと思ったから」など,自分自身の 経験を教育に活かしたいという内容の項目が高い正の負 荷量を示した。そこで,「経験活用志向」因子と命名した。
因子分析の結果にもとづき,各因子に.30 以上の負荷量 を示す項目(Table 1 の枠で囲まれた項目)の総和を項目 数で除し,下位尺度得点とした。尺度の信頼性を検討す るために,Cronbachのα係数を算出した。その結果,「学 校教授志向」はα=.75,「目的無自覚・同調」はα=.65,
「子ども志向」はα=.83,「恩師志向」はα=.85,「経験活 用志向」はα=.65であった。「目的無自覚・同調」と「経 験活用志向」はα係数の値がやや低かったため,項目が
削除された場合のα係数についても検討を加えた。「目 的無自覚・同調」では,項目(「身近に教師をしている人 がいたから」)が削除された場合のα係数の上昇は0.02 と小さかった。「経験活用志向」では,項目が削除された 場合,α係数の上昇は認められなかった。本研究での尺 度の使用目的は,尺度値による個人の処遇の決定ではな く,尺度間の相関分析であることから,α=.65という値 は許容できる範囲であると考えられる。そのため,「目的 無自覚・同調」と「経験活用志向」因子に含まれる全項 目をそのまま使用することにした。ただし,α係数の値 はまだ十分とは言えないため,今後項目の洗練を図って いく必要があるだろう。以上より,「目的無自覚・同調」
と「経験活用志向」がα=.65とやや低いものの,それ以 外の下位尺度ではα=.70 以上の値を示したことから,一 応の信頼性が確証された。
各変数間の相関関係
構造的な検討をおこなう前段階として,各変数間の相 関関係を算出した(Table 2 )。親の要因と教職志望動機 の下位尺度の関係では,「親が教員」は「目的無自覚・同 調」との間にのみ弱い正の相関(r=.20, p<.01)がみられ た。一方,「親の教職評価」は教職志望動機のいずれの 下位尺度とも有意な相関はみられなかった。教職志望動 機の下位尺度と教師効力感の下位尺度の関係では,「学 校教授志向」は「学級管理・運営効力感」との間に弱 い正の相関(r=.23, p<.01)が,「教授・指導効力感」と の間には中程度の正の相関(r=.43, p<.01)がみられた。
Table 2 各変数間の相関係数
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
1 学級管理・運営 − .61** .68** .23** .14 .29** .06 .18* .02 .08 2 教授・指導 − .46** .43** .09 .14 .05 .19* .12 .06
3 子ども理解・関係形成 − .07 .13 .30** .12 .17* .09 .07
4 学校教授志向 − .11 .29** .28** .19* .11 .00
5 目的無自覚・同調 − .08 .00 .04 .07 .20**
6 子ども志向 − .17* .07 .04 .05
7 恩師志向 − .32** .16 .01
8 経験活用志向 − .06 .06
9 親の教職評価 − .09
10 親が教員 −
*p<.05 **p <.01
「子ども志向」は「学級管理・運営効力感」と「子ども 理解・関係形成効力感」の両方と弱い正の相関(r=.29, p<.01 ; r=.30, p<.01)がみられた。「経験活用志向」は教 師効力感のすべての下位尺度との間に,弱いながらも正 の相関がみられた(r=.17〜.19, p<.05)。しかし,「目的 無自覚・同調」と「恩師志向」は,教師効力感のいずれ の下位尺度とも有意な相関を示さなかった。なお,親の 要因と教師効力感の下位尺度の関係では,有意な相関は みられなかった。
親の要因,教職志望動機,および教師効力感の関連 各変数間の関連を構造的に検討するため,親の要因が 教職志望動機を介して教師効力感に影響を及ぼすという モデルを想定し,共分散構造分析によるパス解析をおこ なった。先の相関分析(Table 2 )および春原(2007)にお いて,教師効力感の 3 下位尺度間に中程度の相関がみられ たことから,教師効力感の各下位尺度の誤差間に共分散を 設定した。以上のモデルに対し,SPSS社のAmos17.0を用 いて,最尤法による自由母数の推定をおこなった。その結 果,適合度の指標は,GFI=.931,AGFI=.764,CFI=.861,
RMSEA =.122となり,モデルの適合はあまりよくなかっ た。
そこで,修正指数(Amos17.0)を参考にして,モデル に対して次に示す修正を加えた。教職志望動機の下位尺 度である「学校教授志向」と「子ども志向」の誤差間,
および「恩師志向」と「経験活用志向」の誤差間にそれ ぞれ共分散を加えた。「学校教授志向」と「子ども志向」
は,教員の仕事内容に関連した動機内容であるという共 通要素を持っている。一方,「恩師志向」と「経験活用 志向」は,自分の過去経験に基づいた動機内容であると いう共通要素を持っている。先の相関分析(Table 2 )に おいて,弱い相関がみられたことも考慮すれば,「学校教 授志向」と「子ども志向」の誤差間,および「恩師志向」
と「経験活用志向」の誤差間に共分散を想定することは 妥当であると考えられる。上記の修正したモデルに対し て,先程と同様の分析をおこなったところ,適合度の指 標 は,GFI =.968,AGFI =.884,CFI =.961,RMSEA =.067 となり,モデルはおおむね適合していると判断された。
Figure 1 に最終的なモデルを示す。
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Figure 1 親の要因,教職志望動機,教師効力感の関連(パス解析結果)
親の要因から教職志望動機の下位尺度へのパスをみる と,「親が教員」からは「目的無自覚・同調」に対しての み有意な正のパス(β=.20, p<.05)がみられた。「親の教 職評価」からは「恩師志向」に対してのみ有意傾向の正 のパス(β=.16, p<.10)がみられた。教職志望動機の下 位尺度から教師効力感の下位尺度へのパスをみると,「学 校教授志向」からは「学級管理・運営効力感」および
「教授・指導効力感」に対して有意な正のパス(β=.16, p<.05 ; β=.42, p<.05)がみられた。「目的無自覚・同調」
からは,「学級管理・運営効力感」にのみ有意傾向の負 のパス(β= .14, p<.10)がみられた。「子ども志向」か らは「学級管理・運営効力感」および「子ども理解・関 係形成効力感」に対して有意な正のパス(β=.23, p<.05 ; β=.29, p<.05)がみられた。「経験活用志向」からは「学 級管理・運営効力感」に対して有意な正のパス(β=.16,
p<.05)が,「教授・指導効力感」ならびに「子ども理解・
関係形成効力感」に対しては有意傾向の正のパス(β
=.14, p<.10 ; β=.15, p<.10)がみられた。なお,「恩師志 向」からは教師効力感のいずれの下位尺度に対しても有 意なパスはみられなかった。
考 察
本研究では,教員養成課程の新入生を対象として,親 の要因,教職志望動機および教師効力感の 3 者の関連に ついて,共分散構造分析により構造的に検討した。その 結果,「親が教員」が「目的無自覚・同調」に影響を及ぼ し,さらに「目的無自覚・同調」が「学級管理・運営効 力感」に影響を及ぼすという過程が明らかになった。ま た,教職志望動機の 3 下位尺度(「学校教授志向」「子ど も志向」「経験活用志向」)から教師効力感への直接的な 影響過程が明らかになった。
まず,「親が教員」から「目的無自覚・同調」を介して
「学級管理・運営効力感」に至る影響過程についてみる と,「親が教員」は「目的無自覚・同調」と正の関連を示 し,さらに「目的無自覚・同調」は「学級管理・運営効 力感」と負の関連を示した。このことから,親が教員で ある学生ほど受身的消極的な理由から教職を志望する傾 向が強く,「学級管理・運営効力感」が低いという過程を 想定することができる。この結果は,小川・田中(1979,
1980)の研究結果と類似の傾向を示す。彼らの研究も,
親が教員の場合には,その子ども自身も教職を志望する 割合が高いことを示している。ただし,本研究では多様 な教職志望動機の内容を扱ったことにより,小川・田中 の研究結果についての新たな解釈を可能にしている。例 えば,親が教員である学生は自ら積極的に教職を志望す るのではなく,周囲からの勧めやなりゆきから受身的消 極的に教職を志望すると考えられるのである。さらに,
「目的無自覚・同調」から「学級管理・運営効力感」への 負の影響は,受身的消極的な教職志望動機を持つことと 教師効力感の低さが結びつく可能性を示唆している。こ の点は非常に重要である。教員養成課程の学生は教職と いう職業を念頭において進学してきた者が多いと思われ る。しかし,その中には「目的無自覚・同調」のような 消極的な教職志望動機を持つ学生も少なからず存在する からである。こうした現状を勘案すると,入学後の養成 カリキュラムを通して,教員の仕事や教育に対する学生 の関心を啓発し,教師効力感を向上させる養成指導のあ り方を検討する必要性があろう。
次に,教職志望動機から教師効力感への直接的な影響 過程については,「学校教授志向」「子ども志向」「経験 活用志向」が教師効力感と正の関連を示した。これらの ことから,「学校教授志向」「子ども志向」「経験活用志 向」が高い学生ほど,教師効力感が高い傾向があること が示唆される。下位尺度ごとにみていくと,「学校教授志 向」と「子ども志向」は,「学級管理・運営効力感」に影 響を及ぼすという点では共通していたが,「学校教授志 向」は「教授・指導効力感」に,「子ども志向」は「子ど も理解・関係形成効力感」に影響を及ぼすという点で違 いがみられた。「学校教授志向」と「子ども志向」は,ど ちらも教員の仕事内容に関連した動機内容であるが,前 者は教えることを重視し,後者は子どもとの関わりを重 視する。両者は,教員の仕事内容の異なる側面に焦点を 当てている。そのため,「学校教授志向」は「教授・指導 効力感」に,「子ども志向」は「子ども理解・関係形成効 力感」という異なる領域の教師効力感に影響を及ぼすと 考えられる。また,「経験活用志向」は,教師効力感のす べての下位尺度に影響を及ぼしていた。「経験活用志向」
は,いじめや不登校など,学校で苦しかった経験を活か して教師になろう,あるいはその経験を教育に役立てよ
うとする動機である。そこには,伊田(2005)が指摘す るように,苦しい経験をしているからこそよい教員にな れるという発想の転換が認められる。これまでの学校生 活でどのような経験をしているかによって,大学入学直 後の教師効力感に違いがみられるかもしれない。学校生 活における経験と教師効力感の関連について検討するこ とは今後の課題である。
以上の結果をあわせて考えると,親の要因,教職志望 動機および教師効力感の関連は,親の要因が教職志望動 機を介して教師効力感に影響を及ぼす以上に,教職志望 動機が直接教師効力感に影響する可能性が高いといえ る。したがって,学生の教師効力感を高める養成教育を おこなうためには,入学早期から教職を目指す動機を明 確で強固なものにしていくことが重要である。そのため には,教職の素晴らしさや意義,教員の役割,職務内容 について理解を促す取り組みなど教職キャリア教育の充 実を図ることが必要である。それは漠然とした思いで入 学してきた学生たちにとって,教職への志望を決意させ たり,進路を再考させたりする機会にもなる。
最後に,本研究の問題点と今後の課題について触れて おく。本研究で示された親の要因,教職志望動機および 教師効力感の関連は,全般的にそれほど強いものではな かった。そのため,結果の解釈には十分な注意が必要で ある。今後,教師効力感を規定する要因について更なる 検討をおこなう際には,これまでの学校生活における経 験や教育観など大学入学直後の教師効力感に関連しそう な他の要因を加味し,さらに説明力の高いモデルを構築 することが必要である。また,本研究では,親の要因と して,親が教員であるか否か,親の教職に対する評価と いう 2 つの要因のみを取り上げた。しかし,これらの要 因以外にも親の要因は様々なものがあるはずである。例 えば,親が教師の場合であれば,その校種や経験年数な ども親の要因として考えられる。したがって,親の要因 についても,より丁寧に検討していくことが必要であろ う。さらに,本研究で着目した入学直後の新入生の教師 効力感が,様々な養成カリキュラムを経験することによっ て,その後どのような変容過程を示すのか検討すること も興味深い課題である。特に,近年盛んにおこなわれて いる学校インターンシップなどの実践的な取り組みと教 師効力感の関連について検討していくことは重要である。
引用文献
Ashton, P. T. 1985 Motivation and the teacher sense of efficacy.
In C. Ames & R. Ames (Eds.), Research on Motivation in Education Vol. 2. Academic Press, 141 171.
Bandura, A. 1977 Self-efficacy : Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84, 191 251.
中央教育審議会 2006 今後の教員養成・免許制度の在 り方について(答申)
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─教育学部大学生の教職志望動機と教職観─ 進路指 導研究,5,1 5.
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謝 辞
本論文の作成にあたり,ご指導・ご助言をいただきま した埼玉大学教育学部の坂西友秀先生に深く感謝申し上 げます。また,本研究の調査に快くご協力くださいまし た馬場久志先生(埼玉大学教育学部),ならびに新入生 の皆様に心よりお礼申し上げます。
The relations among parental factors, motivation to be teachers, and efficacy as future teachers:
A survey about freshmen in a teacher education course.
Yoshio HARUHARA*
The purpose of the present study was to structurally investigate the relations among parental factors, motivation to be teachers, and teacher efficacy. Participants were 159 freshmen in a teacher education course. Participants completed a questionnaire on parental factors (parental jobs, evaluation for the teaching profession), motivation to be teachers (orientation to teaching at school, purposeless conformity, orientation to interact with children, orientation to become like former teacher, orientation to make use of school experiences), and teacher efficacy. The main results were as follows: (1) students whose parents were teachers tended to have high
“purposeless conformity” and low teacher efficacy; (2) students who reported high level of “orientation to teaching at
school”, “orientation to interact with children” and “orientation to make use of school experiences” tended to have high teacher efficacy. These results showed that motivation to be teachers was closely related to teacher efficacy, rather than parental factors.
Key words
motivation to be teachers, teacher efficacy, pre-service teacher education, freshmen
*Division of Study on Structure of Education
本研究の目的は,親の要因,教職志望動機および教師 効力感の 3 者の関連について,構造的に検討することで あった。教員養成課程の新入生 159 名を対象に,親の要 因(親が教員であるか,親の教職に対する評価),教職 志望動機(学校教授志向,目的無自覚・同調,子ども志 向,恩師志向,経験活用志向),教師効力感を測定した。
分析の結果から,1)親が教員であるの学生は「目的無 自覚・同調」が高く,教師効力感が低い傾向がみられ た。2)「学校教授志向」「子ども志向」「経験活用志向」
が高い学生ほど教師効力感が高い傾向がみられた。以上 の結果から,親の要因よりも教職志望動機が教師効力感 と関連することが示唆された。
Key words
教職志望動機,教師効力感,教員養成,新入生
*教育構造論講座
親の要因,教職志望動機および教師効力感の関連
―― 教員養成課程の新入生を対象として ――
春 原 淑 雄*