工作教室用題材としての綱渡り模型の教材化
著者 松永 泰弘, 杉山 雄也
雑誌名 技を媒介とした学びに熱中する子どもの育成プログ
ラム ; 2012
ページ 11‑18
発行年 2012‑03‑31
出版者 静岡大学教育学部
URL http://hdl.handle.net/10297/7200
工作教室用題材 と しての綱渡 り模型の教材化
技 術 教 育 講 座
松 永 泰 弘
杉 山 雄 也
1.は
じめ に新学習指導要領 1}では知識や技能の習得 、思考力・判断力・表現力 の育成 について、「生 きる力」 を重視 してい る。「生 きる力」 とは、変化 の激 しい社会 を生 きるための知・徳・体 のバ ランスの取れ た力で あ り、 自ら課題 を見つ け、考 え、問題 を解決す る能力 を養 うこ と を 目的 としてい る。小学校 図画工作 のでは、表現及び鑑賞の活動 を通 して、つ く りだす喜び を味わ うとともに
,造
形的な創造活動 の基礎 的な能力 を培 い,豊
かな情操 を養 うことを 目 的 としてお り、その中で材料や用具 に関 して各学年 に応 じた指導内容 を定 めてい る。また、小学校理科 のでは、自然 の事物・現象 についての実感 を伴 った理解 を図 り
,科
学的な見方や 考 え方 を養 うことを 目的 としてい る。一方、科学技術基本計画 のでは,日本 の科学技術 の維持・強化 のため、人材 の質 と量 を確 保す るこ とを 目的 としてい る。次世代 の科学技術 を担 う子 どもた ちに対 して、理科や数学 が好 きな子 どもの裾 野 を広 げ、知的好奇心 に溢れ る子 どもの育成 のために、学ぶ環境 の形 成 、研 究者 と触れ合 う機 会 の拡大、学校 内の設備 の充実、な どが挙 げ られ てお り、技術 を 重視す る姿勢が うかがえる。
本研 究では、慣性 の法則 を動作原理 とす る綱渡 り模型 を開発 し、工作教室 にお ける題材 とす ることで理科 と図画工作 の合科的 な学習教材 の提案 をす る。製作前後 でア ンケー ト調 査 を行 い、動作原理 に関す る理解 の変化 を調査 した。 ア ンケー ト結果や実践風景か ら考察
を行 い、本学習教材 の教育的価値 を検討 した。
2.綱
渡 り模 型綱渡 り模型 (図
1)は
慣性 の法則 を動作原理 としてい る。 図2、 3において、糸 を矢印方 向へ 引 くこ とで糸 を引いた分模型 が移動す る。 糸 を放す とゴムの弾性力 で糸が素早 く引か れ る。 その際模型 には慣性力が生 じ、模型 がその場 に留ま る。 この動作 を素早 く繰 り返すことで模型 が前進 してい るよ うに見 える。
図
1
綱渡 り模型全様︲︲︲一︲
一
(b)静止状態
輪ゴム
(c)糸を引いた状態 図
2
綱渡 り模型の動作原理一﹇
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図
3
綱渡 り模型模式図本研究で使用 した綱渡 り模型を図4に、また、その材料を図5、 表1に示す。木材は主に ひのき材 を使用 してお り、顔パーツには色の異なる木片を使用す る。
製作方法を以下に示す。
①ボール盤で本体に5nlmの穴をあけ、腕 ×2、 取つ手、丸棒に3mmの穴をあける (片腕 には竹 ぐし、ひ ものそれぞれを通すため 2ヶ 所に)
②本体をのこぎ りで加工す る
③き りで顔に 2ヶ 所穴をあける
④やす りがけ作業を行 う
⑤本体 と顔、足の接着をす る
⑥腕 と胴体を竹 ぐしで繋 ぐ
⑦ひ もを通 し、丸棒側 を結び、腕側 とゴムを結び、完成
b
」
図4 綱渡 り模型 図
5
模型パー ツ 表1
材料名 称 寸 法「nlm 固数
本 体パ ー ン13× 55×80
腕 パ ー ツ 13×13×55 つ″ 脚 パ ー ツ 13× 13×25 2 顔 パ ー ツ 20×30×5
取 つ手 13×30×150 丸 棒 013×25 竹 ぐ し 03×70 た こ糸 700程 度 輪 ゴム
3.工
作 教 室 で の 実 践各実践での内容の概要を以下に示す。
3‑1
由比 ものづ くり教室での実践20H年
10月 8日 に静岡県静岡市由比生涯学習交流会館においてものづ くり教室を実施 し た。月一回開かれている講座の1つ
として、子 どもを中心に保護者やボランティアが参加し、授業形式のものづ くり教室を行つた (図 6)。 以下に授業の流れを示す。
①導入 (綱渡 り模型の説明)
②動作原理の予想 と発表
③製作 と実験
④動作原理の振 り返 り
⑤アンケー ト記入
この実践では、本体パーツの加工をあらか じめ行 つてある状態で工作教室に臨んだ。
また、導入部分では動作原理を身近な現象 と関連づけることができるよ うに、テーブル クロスを引く動画を見せた。
アンケー トにおいて、動作原理に関する質問では、図7のように動作原理を正確にでは ないが感覚的に理解 している子 どもが数名み られた。また感想では、図8のように模型本
来の遊び方 に加 え木材 同士がぶつか る ときの音 に興味 を示す子 どもがいた。音が鳴 るこ と によって面 白い と感 じる子 どももいた よ うだつた。子 どもと一緒 に参加 していた保護者 に もア ンケー トを とった ところ、「今 日初 めて参加 させ て頂 きま したが、子 どもたちに とって は とて も良い体験 になった と思います」とい う意見があつた。保護者 自身 も興味 を示 してお
り、保護者 が楽 しむ ことで家族 での ものづ く りへの関心が うかがえた。
完成 した模型 に色 を塗 り、絵 を描 く子 どもや 、好 きなキャラクター にす る子 どももみ ら れた (図 9)。 シンプル なデザイ ンが子 どもの創作意欲 を掻 き立て と思われ る。最後 に、慣 性 の法則 とい うことばを用 いてま とめを行 つたが、模型 に 「慣性 の法貝J」 と書いて 自慢 げ
に見せ に来 る子 どもが見 られた。
図
6
授業風景出
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図
7
動作原理に関する回答料 〃″ 4 老 うじ `
│二 た 。
図
8
感想図
9
子どもの作品3‑2
五感学校 での実践2011年 10月 9日 に静岡市葵区小布杉分校 (旧藁科小学校
)で
行われたイベ ン ト「五感学 校」において実践 した。廃校 になった場所 を使用 し、育児 をしている方々を対象に、幼児ム J
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11 ー
を 自由に遊 ばせ る催 しや食事 がで きる出店 を集 め、一 日楽 しめる環境 を作 り出 したイベ ン トである。 この実践では訪 問者 に個別指導 を行 う形式 を取 つた。 また この実践で も本体パ ー ツの加 工はあ らか じめ行 つてある状態 で実践 に挑み、製作 が終わった後 にア ンケー ト調 査 を行 つた。
動作原理 に関す る質問では図 10の よ うに 自分 な りの考 えを書 ける子 どもが数名み られ た。
また感想 では、図 11の よ うに1人では難 しい作業 も一緒 に行 う (図 12)こ とで楽 しく出来 ることが うかが えた。 また、「ゆ らご りくん を作れて とて も楽 しかつたです。今度 もまた作 りたいです。」といつた意見 もあ り、作 りたい と感 じることで ものづ く りへの関心が高まる ことがみ られた。
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図11 感想
図
12
指導者が一緒に製作する風景3‑3 WAZAフ
ェス タでの実践20H年
10月 29日 、30日 に静 岡市駿河 区 ツイ ンメ ッセ静 岡で行 われた WAZAフ ェスタ2011 とい う静岡市の町お こ しの一環 として行 われてい るイベ ン トにおいて実践 した。この実践で も図 13の よ うに訪 問者 に個別指導 を行 う形式 を取つた。この実践では製作前 に動作原理 に関す るア ンケー ト調査 を行 い、製作・実験後の調査 との比較 を図つた。製作 の途 中で動作原理 について簡 単に説 明 し、ア ンケー ト時にその説 明を覚 えてい るか、 自分 の言葉 で説 明ができるかを調査 した。
動作原理 に関す る質 問では、製作前 (図 14)と製作後 (図 15上
)で
異なる回答 をす る 子 どもが多数み られ、製作・実験 を通 して動作原理 に対す る見方や考 え方が変化 してい ることが うかがえた。また、動作原理 の説 明で図 15下 の よ うに慣性 の法則 とい う言葉 を用い 図
10
動作原理 に関す る回答たデす‐
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た子 どももみ られた。身近 の現象 と関連づ ける質問では、慣性 の法則 が用い られてい る現 象 を挙 げることができる子 どもが多数み られ た。感想 では、図 16上 の よ うにいろいろな道 具 を使 うことに楽 しみ を見 出す子 どもがみ られ 、ものづ くりへの関心が うかがえた。また、
図 16下 のよ うに動作原理 を言葉 で説 明す るのは難 しいが、頭 では理解 で きる、とい う子 ど ももみ られた。図 17の よ うに模型 の形 を見本 と異 なるものにす る子 どもがお り、切断作業 か ら行 うことで よ り創造意欲 を掻 き立て られ ていた。
(b)糸通 しの指導 図
13
指導者 による指導グ′っ
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図
14
動作原理 に関す る回答(製作前)う Zζ 千 丁ら
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図
15
動作原理 に関す る回答(製作後)図
16
感想 (a)鋸びきの指導雄 ダ
つ つハ︶
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ら だ毛 り 諄ハい た ら だんτ
̀Hるよ ツヽ 見え ろ
(a)新たなパー ツを 付 け足 した作品
(b)脚 の位置 を かえた作品 図
17
子 どもの作品3‑4
富士サ イ エ ンス プ ロジ エク トでの実践20H年
11月 6日 に富士市富士第一小学校 で行 われた富士サイエ ンスプ ロジェク トにおい て実践 した。サイエ ンスプ ロジェク トは、小学生 を対象 に科学 を楽 しむ とい うコンセ プ ト を持つ催 しを集 めたイベ ン トである。この実践 で も訪 問者 に個別指導 を行 う形式 を取 つた。イベ ン トの関係 上アンケー ト調査 は行 わず、また、本体パー ツも加 工 してあるものを用いて実践 を行 つた。 図 18は 実践風景 である。
ア ンケー ト調査 を行 わなかった関係 で動作原理や身近で関連 ある現象 の理解 については 口頭 での質問によるものになって しまったが、製作後 に質 問 した ところ多 くの子 どもが 自 分の言葉で説 明で きていた。 また、保護者 と一緒 に製作 に挑む子 どもも多 くみ られ 、大人 も夢 中になって作業 していた ことか ら、家族 での ものづ く りへの関心 に繋が る と考 える。
なぜ動 くのか不思議 そ うに観察す る大人た ちの姿 も見 られ た。動作原理 を導 くよ うに助言 す る と、 自分で原理 がわかつた ときの納得す る姿が印象的であった。子 どもに説 明す る保 護者 の姿 も見 られた。
図
18
実践風 景5。 おわ りに
本研究では、慣性の法則 を動作原理 とす る綱渡 り模型 を開発 し、工作教室における題材 とす ることで理科 と図画工作の合科的な学習教材の提案を し、製作前後でアンケー ト行い、
(c)新 しい形の作 品
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製作 と実験を行 う前 と後における動作原理 に関す る理解の変化 を調査 した。アンケー ト結 果や実践風景か ら考察 を行い、本学習教材の教育的価値 を検討 した。慣性の法則 を動作原 理 とす る綱渡 り模型 を開発 し、工作教室における題材 になるよう改良 し、理科 と図画工作 の合科的な学習教材を提案 した。
工作教室を体験す ることで、子 どもが課題 について考えるとい う、新学習指導要領の生 きる力について感 じ取ることができた。また、小学校図画工作の、「表現及び鑑賞の活動を 通 して造形的な創造活動の基礎的な能力を培い豊かな情操 を養 う、身の回 りの作品などか
ら面白さや楽 しさを感 じ取るようにす る」 とい う項 目、「材料や用具に関 して各学年に応 じ た基本的な指導内容を定める」 とい う内容を本教材で補佐することができた。 さらに、小 学校理科の自然の事物・現象についての実感 を伴った理解 を図 り、科学的な見方や考え方 を養 うこととい う項 目を補佐することができた。
工作教室 とい う環境を作 り、工作教室を通 じて指導者 と直接触れ合 うことにより、次世 代を担 う子 どもの学習意欲や技術力を高めることができた と思われ る。
本研究は平成23年度科学研究費補助金 (課題番号 :21500869)の 援助による。
参 考 文 献
1)
文部科学省 :新 学習指導要領・生きる力2) 文部科学省 :小 学校学習指導要領
図画工作
3) 文部科学省 :小 学校学習指導要領
理科
4) 文部科学省 :第 四期科学技術基本計画