ユーロの金融政策が直面する次の10年の課題
著者名(日) 川野 祐司
雑誌名 経済論集
巻 37
号 2
ページ 193‑211
発行年 2012‑03
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00001746/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止
東洋大学「経済論集」 37巻2号 2012年3月
ユーロの金融政策が直面する次の10年の課題
川 野 祐 司
1 はじめに
2 ユーロ導入後の金融政策 3 通常期における金融政策の課題 4 金融危機下における金融政策の課題 5 むすび
参考文献
1.はじめに
1999年にユーロが導入され、ユーロシステム(Eurosystem)1による単・金融政策が行われてきた。
ユーロシステムの最重要目標は物価安定の維持であり、その点から見ると、これまでの政策はうま くいっている方だと評価できる。この間には、ユーロ地域(euro area)の拡大、金融危機、資源価 格の乱高ドなどのイベントをこなしてきた。政策金利の動きで見てみると、1999年の前半に・度利 ドげした後は2001年まで利上げが続き、その後は2003年にかけて利.ドげが行われた。このような、
政策金利のL昇と下落をサイクルと呼ぶならば、ユーロシステムはこれまで2度のサイクルを経験 している。2011年に入って、4月と7月に0.25%利上げした後に11月と12月に0.25%ずつ利下げし て、2011年末では政策金利は1.00%とユーロ導入後最低水準に達している。2011年に人って3つ目 のサイクルが始まったのかどうか議論が分かれるが、本論では2度目のサイクルの最終局面と位置
付ける。
ここで、ユーロシステムによる金融政策の枠組みについて概観しよう。ここでは、本稿の議論に 関係のある部分だけを扱うことにする。
ユーロシステムの金融政策において最も重要な目標は物価安定の維持である。これはEU条約で 明記された目標であり、この目標が達成されているときに限って経済支援を行うことができる。物
l ECBとユーロ参加国中央銀行からなる、ユーロの金融政策主体。 ECB内に設置された政策理事会が金融政 策を決定し、公開市場操作等はユーロ参加国中央銀行が実務を担当する。
価安定の維持についての具体的な定義はユーロシステムが決めることができ、HICP(Harmonised Index ofConsumers Prices:統合消費者物価指数)でみて、年率2%以下、ただし2%近辺(below 2%,
but close 2%)とされている2。ユーロシステムは、将来のインフレリスクを2本柱アプローチで計 測している。1つの柱は広範な経済指標群であり、実体経済の需要面と供給面からインフレリスク を計測している。もう1つの柱はマネー指標であり、特にマネーサプライM3に関しては4.5%以 下という参照値が設定されている。参照値なので必ずしも守らなければならないわけではないが、
この数値の算出には貨幣数量説が使われており、長期的にはマネーの増加がインフレにつながると いう考え方を採用している。この2つの柱によるインフレリスクはクロスチェックにかけられ、将 来のインフレリスクに対する総合的な判断が『ドされる。
インフレリスクは先見的(forward−looking)に評価されるが、一 次効果と二次効果に分けられる。
一一沍 果とは資源価格の高騰などから発生するインフレで、中央銀行は直接コントロールすること ができない要因から発生しているため、インフレの動向に注視しつつも金融政策の発動は控えられ る。ユーロシステムが政策金利を引き上げても、国際的な市場で決まる原油価格に与える影響は小 さいかほとんどないため、この時点での政策発動には効果が期待できない。二次効果とは賃金の上 昇などから発生するインフレで、中央銀行が民間経済主体の期待形成に影響を及ぼすなどの経路で コントロール可能なインフレである。一次効果の後に二次効果が続くケースは多いが、政策の発動 は二次効果が現れたときまたは現れそうになったときになる。
ユーロシステムの金融政策は、主要オペ金利と呼ばれる政策金利であらわされる。主要オペ
(MRO:Main Refinancing Operations)は、毎週定期的に実施されるリファイナンスオペで、ユーロ のオーバーナイト金利(EONIA:Euro Over Night lndex Average)が主要オペ金利の周辺で推移する ことが期待されている。主要オペの期間は通常2週間であるが、2007年以降の金融危機を受けて現 在は変則的に運用されている。主要オペは金融政策にかかわる最も重要なオペと位置付けられてい
る。その他には期間3カ月の長期オペや微調整オペがある。
ユーロシステムは3つの政策金利を持っており、主要オペ金利の上下限を画す形で、限界貸出金 利と預金金利が設定されている。EONIAが限界貸出金利の水準まで上昇すると、金融機関は市場 による調達からユーロシステムの限界貸出ファシリティにアクセスして調達するようになる。一 方、EONIAが預金金利まで低下すると、金融機関は市場での運用からユーロシステムの預金ファ シリティでの運用に切り替える。こうして、ユーロのイールドカーブの起点をなすEON[Aが大幅 に変動しないように工夫されている。この金利の幅をコリダーという。これまで多くの期間で、限
2 消費者物価指数には真のインフレ率よりも高めに計算されるという「計測バイアス」が含まれている。イ ンフレ目標をゼロ%にしてしまうと、実体経済で発生する真のインフレ率はマイナスになってしまう。
ユーロの金融政策が直面する次の10年の課題
界貸出金利が主要オペ金利よりも1%高く、預金金利が主要オペ金利よりも1%低く設定されてお り、コリダーの幅は2%3となっている。
本稿ではこれらの政策をはじめ、ユーロ導入後のユーロシステムがどのような政策を行ってきた のか、また、今後の課題は何か議論を提示する。第2節では、約10年間の軌跡をたどる。これによ り、金融政策は通常期と危機期に分けて運用されるべきであることが分かり、それぞれ第3節と第 4節で詳解する。第5節は結論と金融政策の研究にかかわる課題について述べる。
2.ユーロ導入後の金融政策
本節では、1999年のユーロ導入から2011年末までの金融政策を概観し、ユーロシステムがどの ような基準に基づいて政策判断を行ったのか見て行こう。詳細は川野(2010)に譲り、ここでは重 要な事項だけを取り上げることとする。
図1は、1999年以降のユーロの政策金利を表したものである。ユーロの政策金利は3.00%で始 まったが、1999年4月に0.50%の利ドげが実施されている。その後は、政策金利の引き上げと引き 下げが2回続いており、2011年は小幅な金利変更が行われている。1999年から始まる1つ目の山 を第1期、2005年末から始まる2つ目の山を第2期と呼び、それぞれの期でどのような政策が行わ れたのか見て行こう。
図1 ユーロの政策金利(%)
50
4t)
40 35
30 20
1t)
10 05
00 i −
1999 2◎01 L>OO:] 2⑪0ろ
(注)データはECB。主要政策金利(MRO)の推移。
2007 2009 2011
3 2009年以降は政策金利の引きドげに伴ってコリダー幅が縮小されており、2011年末では1.50%となってい るe
第1期ではユーロの為替レートの大幅な変動がユーロ地域のインフレに影響を及ぼした。第1期 で最も重要なイベントはユー口導入である。ユーロが導入されたことで、ユー口地域の投資家に とって国際投資の持つ意味が変わった。それまでは、ドイツ人がオランダに投資すれば国際投資で あったが、通貨が統・されたことにより、このような投資は国内投資とみなされるようになった。
投資家はポートフォリオのバランスを取るために、ユーロ地域外への投資を行わなければならなく なり、ユーロからドルへの投資が増加し、ユーロ相場は大きく下落することになった。
図2で分かるように、1999年から2001年にかけてインフレ率はじりじりと「:昇していき、目標 値の2%をトニ回った。この背景には、ユーロ下落と一次産品価格のヒ昇による、いわゆる輸入イン フレがある。特に原油価格はイラク情勢などの地政学的リスクにより大幅にヒ昇した。このような インフレは次効果であるが、賃金上昇などの二次効果への波及が見られたため、継続的な利上げ が実施された。
しかし、2000年のITバブルの崩壊と、2001年の同時多発テロにより、ユーロシステムは金融緩 和に追い込まれた。この時の金融緩和は、金融システムを守るために世界各国で同時に行われたも ので、その流れにユーロシステムも参加した。21世紀に入って2度の金融危機が起きているが、Ltl:
界レベルでの金融市場の一体化により、金融1∫場の崩壊は世界レベルで同時に起きるようになっ た。そのため、少なくとも危機の発生時、少なくとも先進国においては、金融当局は・致した行動 を採らざるを得なくなってきている。
このような金融危機による利下げは、短期間に、大幅に、実施されやすい。市場の混乱に直面し
図2 ユーロ地域の経済状況(%)
成長率く左目彬) 一インフレ率(左目盛)
ろ
4 傷
:3 ・
2 1
0綜戦;〜百…
・1 ・
2
・:3 ・
・」
・5
1999 2001
・…… }ネーサプライ(右目盛)
2◎OIS 20⑪5 2007
1:
1°
:
㌧⊇・
.. ..・・ 0
・2
L){)09 2011
(注)データはECBとEUROSTAT。棒グラフはGDP成長率(年率換算、対前年比)、実線はHICP(インフレ率)、
点線はM3(マネーサプライ)。
ユーロの金融政策が直面する次の10年の課題
た各国の政策当局は、短期的な混乱を収めるために、大胆な政策を採ってきている。この是非につ いては、第4節で検討したい。
アメリカの株式市場の下落により、アメリカからユーロ地域へと資金が還流した。このためユー ロ高が進み、3%に迫っていたインフレ率はやや低下したが、このあと2%を大きくド回ることは
なかった。
第2期では、ユーロ地域の成長率が上昇する中で一次産品価格の大幅な騰落が見られ、これが インフレ率を大きくL下させた。2003年ごろから原油をはじめ穀物や貴金属の価格が上昇した。
2007年末には原油価格は1バレル=100ドルを突破し、2008年夏には1バレル=150ドルまでE昇 した。わずか t i年で50%ものヒ昇を見せた後、急激な価格下落が生じ、2008年秋には、一一時1バレ ル=30ドル台まで低]ドした。鉄鋼などの価格も同じ時期に騰落し、資源価格の変動に多くの経済主 体が翻弄された。さらに、2008年秋にはリーマンショックを発端とする金融危機が発生し ;、2001 年と同様に先進各国は協調利ドげに踏み切った。
この時期の次産品価格のト昇は次効果であるが、インフレ期待を伴って二次効果に発展する という見通しが大勢を占めたことから金融引き締めが必要となり、断続的な利上げが実施された。
2003年から2005年まではHICPは2%近辺、2005年から2007年は2%台の中ごろで推移している。
2%台後半はユーロシステムにとっては高すぎるインフレ率であり、放置すればインフレ期待のさ らなる11昇によるインフレのスパイラルが懸念された。2007年にはいったんHICPは2%以下に落 ち着くが、一次産品価格の高騰が付加価値の高い鉄鋼製品などにも波及し、金融引き締めが止めら れることはなかった。後知恵で見れば、2008年に入っての金融引き締めは妥当であったのかどうか 疑問の余地があるだろう。不幸なことに、ユーロシステムが2008年6月に利上げをしたすぐ後に資 源価格の急落が起こった。確かにHICP自体はこれまでの10年の推移からすれば非常に高い水準で あったが、最後の利hげは過剰反応だったようにも見える。当時は、原油価格が1バレル=200ド ルになるのではないかというような観測もあり、インフレが今後も続くのではないかという観測の 妥当性は高いと考えられていた。その中で、インフレファイターを自認するユーロシステムが利ヒ げを続けたのは当然のことであった。
第2期の後期に起こった金融危機とは別に、ヨーロッパでは財政問題がクローズアップされた。
ユーロ参加国のギリシャは安定成長協定のもと単年度財政赤字をGDP比率で3%以内に抑える必 要があった。2009年の政権交代により、これまで財政赤字の公表値を偽っていたことが明らかと なっただけでなく、想像以hに財政赤字が多かったことが明らかとなり、ギリシャ国債に対する信
4 2007年春のチャイナショック後、各国の住宅lif場などに陰りが見え始めていた。 GDPの鈍化も始まってい たが、資源価格の高騰の陰に隠れていた。
認問題が発生した。この火花は、不動産価格下落の影響を強く受け、銀行セクターに公的資本を注 入せざるを得なくなっていたアイルランドに飛び火し、放漫財政のポルトガル、イタリア、スペイ ンにも影響を及ぼした。EUはIMFなどとともにこれらの国への資金援助を行うことで火消しに躍 起になっているが、ギリシャ国債のヘアカットに発展している5。
2011年には、2度の利上げと2度の利下げが実施されている。図2から明らかなように、2009年 にいったんマイナスになったインフレ率が上昇を続け、2011年末には3%を超える水準となった。
このようなインフレ6に対して利上げを行ったが、財政危機による市場の混乱や流動性危機、ユー ロ安7を受けて再び利下げに追い込まれた。
2011年の金融政策は、インフレ抑制か流動性供給かでユーロシステムが揺れていることを示して いる。この点についても本稿で考えていくことにしたい。
3.通常期における金融政策の課題
前節では1999年以降のユーロシステムの金融政策の軌跡についてみてきた。第1期、第2期それ ぞれで、ユーロシステムは様々な原因から起こるインフレの抑制に努める一方、それぞれの期の最 後には金融危機が発生して協調利下げに追い込まれている。協調利下げの期間にはインフレ抑制と いうユーロシステムの最重要目標を一時的に棚上げにしている。この背景には、危機発生時には経 済が縮小して需要の減退が起こっていること、一次産品などの商品市場も下落していることから利 下げが正当化されるが、その是非には議論の余地がある。ともかく、金融政策にはインフレのコン トロールと金融危機への対応の2種類があることが分かる。そこで、本節ではまず、通常期の金融 政策、つまり、インフレのコントロールについて見て行こう。
ユーロシステムは、経済構造の異なる複数の国に単一 の金融政策を実施するため、それに起因す るいくつかの課題に直面している。それに加えて、中央銀行が一般的に直面している課題もある。
第1の課題には集計問題と非対称性問題があり、第2の課題には非線形性問題がある。
ユーロ地域はEUの単一市場の中にあり、 EUの経済統合によって収敏が進んでいると考えられて
5
6
7
この出来事を受けて、2011年12月にはイギリスとチェコを除くEU25力国は財政規律を強化した新条約を創 ることで合意した。また、2011年からは欧州セメスター(European Semester)という加盟国の政策を監視 する仕組みがスタートしている。
2011年のインフレの一部は、付加価値税(日本の消費税に相当)の引きEげによる。財政問題に対応する ため、多くのユーロ参加国で付加価値税が引き」二げられているが、増税によるインフレは1年後に消える。
2012年1月初旬には、一時1ユーロ=1.26ドル台までユーロ安が進んでいるが、1999年から現在まで、ユー ロは1ユーロ=O.8ドルからL6ドルの間で推移しており、対ドルでは大幅なユーロ安とはなっていない。対 円では、ユーロ安とドル安の2重の影響によりユーロは大幅に安くなっている。
ユーロの金融政策が直面する次の10年の課題
いるが、それでも17力国が「あたかも1つの国であるようだ」といえるほどの収敏を見せているの かどうかは疑問の余地がある8。ユーロ参加国の経済構造や統計の推移が完全に一致している必要 はないが、単一金融政策が十分に機能するほどの収敏は必要である。このような問題を集計問題と 非対称性問題の視点から考えてみよう。
◆集計問題と非対称性問題
ユーロ参加国の経済統計の振る舞いとそれを集計して作られているユーロ地域の経済統計の振る 舞いの違いを集計問題という。表1はユーロ参加各国のインフレ率とユーロ地域全体のインフレ率 の振る舞いの違いを表している。2003年から2004年、2005年から2006年はユーロ地域ではインフ レ率が変化していない。しかし、国別にみてみると、大幅にインフレが上昇している国と下落して いる国がある。ユー口地域の数値は加重平均値であるため、平均よりもインフレ率が高い国と低 い国があるのは当然であるが、ここで問題になるのは変化の方向である。この時期は、図1からも 分かるように、ユーロシステムは政策金利を変更していない。HICPは2%をやや上回っているが、
物価安定の定義から大きく外れているわけではないからだ。しかし、インフレ率が大きく上昇して いる国は金融引き締めを望むであろうし、下落している国は金融緩和を望むであろう。
より重要な問題は、ユーロシステムの金融政策、例えば利上げが、ユーロ参加各国に同じ方向の インパクトを与えるかどうかである。この問題を非対称性問題と呼ぶことにする。金融政策が多く のまたはほとんどのユーロ参加国に対して、ほぼ同じ時期に9、ほぼ同じ大きさのインパクトを与 えているのであれば、非対称性問題は存在しないことになる。表2は金融政策の発動がユーロ地域
表1 ユーロ地域の集計問題(%)
2003年→2004年 2005年→2006年 ユーロ地域 2.1→2.1 ユーロ地域 2.2→2.2
ドイツ 1.0→1.8 ポルトガル 2.1→3.0
アイルランド 4.0→2.3 ルクセンブルク 3.8→3.0
(注)表の数値はHICPの推移。03−04年はHICPの上昇5力国、・ド落6力国、変化なし1力国、05−06年は刊CP の1二昇6力国、ド落4力国、変化なし2力国だった。
8 川野(2011)では、1999年以降、EU各国の経済収敏が進んでいるのかどうか、最適通貨圏の視点から検 証している。その結果、ドイツなどユーロ地域の中心国は最適通貨圏といえる一方、南欧諸国や東欧諸国 は最適通貨圏とは言い難いことが分かった。この結果で重要なのは、1999−2004のデータによる検証と、
2005−2009のデータによる検証に人きな違いが見られないことである。つまり、ユーロの導入はEU各国の 経済の収敏を進めていないことが明らかとなっている。
9 金融政策の波及にはラグが伴う。一般的には、金融政策の発動が物価に影響を与えるまでには6四半期か ら8四半期が必要だといわれており、ユーロ地域においても同様の報告がある。
表2 単一金融政策がユーロ地域各国に与える効果
インフレ率に対する影響度 (参考)GDPに対する影響度
国 乖離度 国 乖離度
ハンガリー 30,389 ギ鰯シヤ .、 4,807
/ド
20,949 ハンガリー 3,919
ポーランド 18,764 丁げLプロス, 2,434
チェコ 18,032 ブルガリア 1,865
繋ロペ滋学
15,509 ノl
1,560
リトアニア 9,479
濃撫麟穎.
1,346
ルーマニア 6,642 ・ こ [」 臣
E・
Xぶ
オランダ, .
5,015 」 ぺ [ぺ/ ン▽
ャカレ《琵ド 4,340 チェコ
ラトビア 3,289
占 こ げ ぷ 浪 ,
肖
珍灘壮
@ 三バ ゴィン烹ンド 2,918
麺滅ド幾 ぴ麟講
ブルガリア 2,742
灘ルトガル 2,565 マ語夕 λ こ\ツ [甜∨げ[c灘騒 \ひ
デンマーク 2,094
ス均涛蒸げ
灘ルづ麟 2,079 「 戸 , げ
芽タハ戊ア 1,113 デンマーク 勤舗灘^ 」 げ,二
i楡加鰹
、鱒鞭 樽レギー、 鱗iz [ つ [」 冒,兀L頃
・麗舞 リトアニア
ドイツ o.7臆 ドイツ 一ぴ8㊨1
イギリス隷一ス欝リアイ 鱒墾・ オひストリア A肖
ナ悶蕊懸i
労一ぴ璃. ポーランド 一1.841
濯臓頒
一鰻鑛 ルーマニア 一2.533三 ぶ蒜㍉
rサ
一1.178 ×蜒^セ》グ灘夕 一3392
灘ストニ努 A 一1.463 ラトビア 一3.742
一2.317 イギリス 一3.849
肖げ肖oぺ而
封p撫豹レク
一3.855 〉Gストニア 一7.297(注)10期先までのユーロ地域のインパルス反応と各国のインパルス反応の差をユーロ地域の標準偏差で割った もの。推定に用いたVARモデルは川野(2011)と同じもの。
にどのような影響を与えているのかを表している。
表2の数値は、金融引き締めが実施された時に、ユーロ地域全体におけるインフレ率とGDPの 反応と比較して、ユーロ参加各国の反応がどの程度乖離しているのかを表したものである。網掛け の加盟国はユーロ参加国を、数値が網掛けになっているところは金融政策の効果がユーロエリアと
ユー口の金融政策が直面する次の10年の課題
比べて十分に似通っているloことを表している。乖離度がプラスで大きな国は、金融引き締めが十 分にインフレ率を引き下げていないことを表しており、マイナス幅の大きな国は金融引き締めが効 きすぎていることを表している。この検証により、ユーロシステムの金融政策が意図通りに効いて いる国は少数だということが分かる。このような数値のばらつきの原因は2つ考えられる。第・は、
各国に必要とされる引き締めの幅が異なっていることである。プラスに乖離している国ではより大 幅な引き締めが必要であり、マイナスに乖離している国ではより小幅な引き締めで十分だったこと を示唆している。第二は、金融政策がインフレに影響を与えるまでの期間である。経済構造の違い により、各国の金融政策の波及経路は異なっていることが考えられる11。これらの問題があるため、
度の引き締めでは足りず矢継ぎ早に数度の利ヒげが必要になる国もある一方で、そのような政策 は必要以hの引き締めになるため複数回の利ヒげを望まない国もあるだろう。ここでの分析でわか ることは、ユーロシステムの単金融政策が自国に適していない国が多いことである。通貨統一前 であれば、それぞれの国が最も自国に適したタイミングと大きさで政策を実行すればよかった。し かし、現在ではユーロシステムの単金融政策しかない。経済構造の収敏が十分に進まない限りは
単金融政策による非対称性問題は終わることがない。
金融政策では非対称性問題を解決することはできない。この場合、財政政策またはその他の政策 による調整が必要となる。最も簡単な方法は、好況の地域から得た税収を不況の地域に投下するこ とである。現在、EUのr・算の多くは、持続的成長と資源開発の分野に投下されており、構造基金 と共通農業政策が大部分を占める。共通農業政策は農業国への支援であり、景気の波との関連は薄 い。構造基金の多くは1人当たりGDPで見て75%以下の地域への支援に使われており、こちらも 景気の波との関連は薄い。構造基金の中には失業対策もあるため、景気と全く関係がないわけでは ないが、EUが一十分な調整機能を有しているとは言い難い。また、 EUは巨大な官僚組織を持ってい るけれどもあくまでも国家連合体であり、徴税権など加盟国の専決事項も多く残っている。ドイツ 政府が自国民に対してギリシャ支援の必要性を納得させることができていない事例を見ても分かる ように、EU内で財政移転を用いた調整機能を今まで以トに充実させるのは難しいと言わざるを得
ない。
もうつの方法は、単市場政策をさらに推し進め、資本や労働が不況地域から好況地域へより
10 ここでは、VARモデルのうち、金利の式の誤差項にショックを 」えて各国のインフレ率とGDPにどのよう な影響があるのかを見ている。よって、金融引き締めの影響を見ていることになるが、ユーロ各国とユー ロ地域の差を標準偏差で割っているため、数f直がプラス1とマイナス1の問にあれば、乖離は比較的小さ
いと,1 えるc
11 これまでの研究により、ユーロ地域では、金利チャネルやバランスシートチャネルが大きな説明tJを持っ ているとされる。大陸ヨーロッパの多くでは銀行のプレゼンスが高いことがうかがえる。
容易に移動できるようにすることである。例えば、労働の移動が自由になれば、不況地域から好況 地域へ労働が移動することにより、不況地域の労働市場は引き締まって雇用環境は好転し、多くの 労働者が流入した好況地域では賃金の下落圧力がかかり、インフレ圧力が抑えられることとなる。
EUの単一・市場のもとでは、財・サービス・資本・労働は自由に移動できるようになっているが、
社会保障制度の統一やディプロマや職業資格の統 など依然障壁が残っており、労働の自由移動を 妨げている。さらに、各地域の文化や社会の多様性を尊重するEUの姿勢が異なる言語や習慣を持 つ地域への移動をためらわせる原因にもなる。さらに、労働の移動は長さの不明確なラグを伴って 生じると予想されるため、景気を相殺するような(counter−cyclicaD効果を持つとは限らない。
ユーロ参加国の間でどの程度の収敏が必要なのかという点については、一つの視点が考えられ る。それは、金融政策の波及経路である。たとえ各国で経済構造が異なっていたとしても、ある金 融政策がすべてのユーロ参加国に同じインパクトを与えるのであれば、単t−・金融政策の立場からは 問題がないためである。中央銀行が発動した金融政策はまず短期金融市場に影響を及ぼす。それが 金融市場全体に広がっていき、マクロ経済に影響を及ぼすようになる。為替市場や労働市場にも波 及していき、最終的には物価の推移に影響を与えるようになる。この経路を金融政策の波及経路と いう。波及経路は時とともに変わるため、精力的な研究が続けられている。産業構造の収敏ととも に、波及経路の研究とアップデートも必要となるだろう。
◆ユーロ参加基準は妥当か
ユーロ参加基準は、インフレ率、長期金利、為替レート、財政赤字からなる。これらの指標はす べてインフレ率の収敏を様々な角度から見たものになる。最適通貨圏の理論から見てインフレ率の 収敏は重要な要素であることは間違いない。しかし、これらの基準は最低2年間達成されればよく、
この2年間に大きなショックが生じなければ、達成は比較的容易なのである。その原因の一つに、
市場の思惑がある。
ユーロへの参加が現実的なものになってくると、市場では新参加国への投資が始まる。直接投資 や証券投資が活発になり、経済状況は好転する。ユーロ参加を見通してインフレ期待は下落し、債 券が買われることで長期金利は下落する。中東欧諸国の多くはもともと財政赤字が少ないため、為 替レートの安定に腐心すれば基準は達成できる。資本の流入により自国通貨が対ユー口で上昇して も、自国通貨売り介入は容易である。
図3はユーロ参加の前後の長期金利を表している。ユーロ参加国を南欧諸国、ユー口の中心国、
新規加盟国にグループ分けし、ドイツの長期金利とのスプレッドを取ったものである。Tの時点で ユーロが導入され、T−4Qはユーロ導入の4四半期前、 T+8Qはユーロ導入後8四半期後を表してい る。南欧諸国のグループ1や新規加盟国のグループ3では、ユーロ導入のかなり前から長期金利の
ユーロの金融政策が直面する次の10年の課題 図3 ユー口参加前後の長期金利の推移(%)
4.5
4.0
35
3.0 2.5
2.0
・、・⊂へ
・.・1\・
、、, 一・
、°wi輪、
(注)G1はスペイン、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、 G2はベルギー、フランス、アイルランド、オランダ、
G3はキプロス、マルタ、スロバキア、スロベニアからなっており、グラフはそれぞれのグループの平均値。
T時点でユーロ参加。数値はドイツとの乖離値。
低下が起こっており、ユーロ導入の1年前にはすでにスプレッドはかなり小さくなっている。これ らの国がユーロに参加すればドイツと同じ通貨を使い、財政赤字の削減などの政策へのコミットが 見込めることから、最も信用力の高いドイツ国債との間で裁定取引の機会が生じ、これらの国々の 長期国債の価格1二昇が見込まれることにある。そのため、ユーロ参加直前のかなり前から価格の上 昇、つまり金利の低下がみられた12。
ユーロ参加各国政府に対するリスクプレミアムという形でスプレッドは残るものの、当時は安定 成長協定も機能すると思われていたため、スプレッドは小さくなっていった。このことにより、南 欧諸国の実質金利も下がり、投資が活発になるという効果をもたらしたが、政府部門にとっては資 金調達コストの低下をもたらしたため、財政規律を緩めさせる効果もあった。
2012年現在、EU27力国のうちすでに17力国がユーロを導入しているが、ユーロ地域の拡大はもっ と慎重に行うべきだったといえるだろう。すでにユーロ地域に入っている国をユーロから追放す ることは困難であるが13、これ以上安易にユーロ地域を拡大させないという対策は可能である。EU
12 あくまでも直感的な仮説だが、信用リスクの異なるソブリン債のプレミアムは、通貨が異なる場合よりも 通貨が等しい場合の方が小さくなるかもしれない。為替リスクの削減が心理的に大きく評価されるため、
同一通貨内の最も信用リスクの低いソブリン債に鞘寄せするように価格がL昇するかもしれない。
13 リスボン条約上は加盟国は手続きを経てEUから脱退することができる(EU設立条約第50条)ため、[ /1発的 にEUから脱退すればユーロからの離脱も可能だと考えられる。しかしながら、このオプションは非現実的
には5力国の加盟候補国があり、イギリスとデンマークを除く加盟国はEU条約によりユーロを導 入しなければならないことを考えると、ユーロ参加基準の見直しが急務であろう。1999年にユーロ を導入した11力国の後は、比較的経済規模の小さな国がユーロに参加していった。これらの国々は 小国であるためユー口地域全体に及ぼす影響は小さいと考えられていたが、ギリシャ問題はユーロ 参加国の経済規模は関係ないことを示している。
4.金融危機下における金融政策の課題
前節でも見たが、ユーロシステムの金融政策の目標は物価安定の維持であり、この目標が達成さ れているときに限って経済支援を行うことができる。1999年4月を除いて、ユーロの政策金利のド 落局面では、経済成長率の停滞・低下がみられた。利下げの直接の目的は金融システムを維持する ためであるのだが、景気を下支えする政策という解釈も可能である。経済が急速に冷え込む時期に はインフレ率は落ち着いていることが多いため、ユーロシステムの定款ftも景気支援が可能になる ことが背景にある。ここで、金融緩和は景気を下支えするのか、連続した大幅な金融緩和は中央銀 行の独立性を担保しつつ実施されているのか、という問題が存在するが、今後の研究が不可欠なト ピックスである。
◆金融政策ストラテジー
中央銀行が行わなければならない金融政策にかかわる様々なタスクを、表3のように金融政策ス トラテジーNという形にまとめてみよう。金融政策ストラテジーは、金融政策運営と金融システム 運営に分けることができる。金融政策運営では、物価の安定や雇用の最大化などの金融政策の目標 を達成させるための政策が含まれる。実施面と情報面に分けることができ、実施面には政策金利の 発動からマクロ経済への波及経路、マクロ経済指標からのフィードバックとその評価など狭義の金 融政策が含まれる。実施面はさらに、戦術レベルと戦略レベルに分けられる。戦術レベルでは主に 通常期の流動性供給・吸収の操作が含まれる。ユーロのオーバーナイト金利であるEONIAはユー
ロシステムの公開市場操作、常設ファシリティ、準備預金制度という枠組みの中で安定的に推移す ることが想定されており、さらに情報面の政策によりEONIAのアンカーとなる水準を市場に浸透 させようとしている1「]。情報面の政策と実施面の戦術レベルの政策を組み合わせることによって、
で考慮に値しないと思われる。
14 Borio(1997)などでは、金融政策ストラテジーは表3の一一部分を表している。本稿では、金融政策の広範 囲のタスクを含むものとして金融政策ストラテジーを定義している。
15 よって、政策金利の発動を企図すると、まずは、情報面の政策によって市場の期待形成に働きかける。市 場がユーロシステムの意図をト分に織り込んだところで政策金利の変更を実施すれば、実施の時点ですで
ユーロの金融政策が直面する次の10年の課題 表3 金融政策ストラテジー
金融政策運営 実 テム運営 金融シス施情報面面
戦術レベル
・ 公開市場操作などを用いて、短期金利を政 策金利の水準に誘導させる。
・ 短期金融市場が対象。
戦略レベル 金融政策の目標を定める。
金融政策の効果を検証する。
マクロ経済全体が対象。
・ 説明責任を果たし、金融政策の実効性を高め、ユーロシステムの金融政策の考え方や政策決定 の理由などを広く伝える。
・ 戦術レベルの金融政策を補完するために、
うな環境を整備する。
n開市場操作(open mouth operations)が機能するよ ブルーデンス政策、決済システム運営など金融システムを安全で効率的に運川。
経済危機が発生した際には、短期金融市場に一卜分な資金を供給し、金融システムの安定性を確 保する。
(出所)川野(2010)p.126を修正。
EONIAの安定的な推移とEONIAのスムーズな移動を実現させている。
戦略レベルの金融政策では、金融政策の日標設定やフィードバック・評価などが重要なタスクと なる。この面では、前述のようにユーロシステムは2本柱アプローチという独特のインフレリスク 評価の枠組みを持っている。戦略レベルの金融政策は、中央銀行の金融政策に関する哲学を反映し て決められている。
情報面の金融政策は、金融政策の実効性と民主主義によるガバナンスからの要求によって形成さ れている。民}ゴ義の枠組みにおいて、金融政策の独立性を維持するために、中央銀行家は選挙を 受けないことが多く、ユーロシステムにおいても政策理事会のメンバーは欧州議会選挙のような選 挙からは独立している。つまり、金融政策という重要な政策を担っているにもかかわらず、政策に 民意を直接的に反映させることができない。金融政策は高度な分析能力と判断能力を必要とするた め、専門家集団によって運営されることは好ましいと考えられるが16、市民に対するアカウンタビ
リティの必要性は高い。この点から、議会証言などの情報面の政策は重要性を持っている。
金融政策の実効性を高める観点からは、口開市場操作とアナウンスメント効果が重要である。「|
開市場操作は公開市場操作とともに主に短期金融市場においてEONIAやユーロのターム物金利で あるEURIBOR(EURo lnter Bank Offered Rate)の誘導に用いられる。アナウンスメント効果は主に マクロ経済において、インフレ期待の誘導により、金融政策の実効性を高める役割が期待される。
このような役割はいずれも通常期の政策であるが、危機時にも市場を落ち着けるための情報政策 が重要性を増している。中央銀行が誤ったタイミングで誤った情報を流すと、市場が大きく混乱す ることは容易に想像できる。それだけでなく、中央銀行の内部でも情報政策の統・が必要で、政策
に新しい誘導水準にまでEONIAが動いており、 Il∫場の大きな混乱(=EONIAの大きな変動)を防ぐことが できる。このような情報政策の有効性については川野(2003)を参照のこと。
16 独立性を確保できるだけでなく、景気循環や選挙サイクルによる近視眼的な政策からも解放されるために 必要である。
理事会のメンバーが個々に異なった見解を述べることは市場に混乱を引き起こす原因となる。
◆危機時の流動性供給策
2008年以降の金融危機に直面した世界の中央銀行は、大規模な流動性の供給に努めた。流動性の
表4 ユーロシステムの非伝統的政策
年 月日 内容 詳細(アルファベットは協力中央銀行)
2008 3/28 長期オペの拡充 250億ユーロの6カ月オペを2回、500億ユーロの3カ 祉Iペを2回。
9/26 ドル資金供給 350億ドルの期間1週間のドル供給(四半期越えの資
焉j(FR、 BOE、 SNB)。
9/29 全額落札オペ 期間は約6週間。
9/29 ドルスワップ 2400億ユーロ相当のスワップ(BOC、 BOE、 BOJ、
cN、 FR、 NB、 RBA、 SR、 SNB)。2010年1月31日まで。
10/8 全額落札オペ 全額落札のMROを実施。
10/8 協調利下げ 政策金利を50ベーシス引き下げ(BOC、 BOE、 FR、
rR、 SNB)。
10/15 固定金利オペ 変動金利オペから固定金利オペへと変更。
10/15 適格担保の拡大 外貨建て証券やABSなどを適格担保に。格付けの下限
A一からBBB一へと引き下げ。
10/15 長期オペの拡充 全額落札。2009年3月まで6カ月のオペ。長期オペの
香[ルオーバー。
2009 5/7 長期オペの拡充
3回の期間1年のオペ。固定金利(MRO金利)で全
z落札。
6/4 カバードボンド購入 600億ユーロのカバードボンドの直接購入(2010年6
獅R0日まで)。
12/3 全額落札MROの期間延長 少なくとも2010年3月末まで延長。
2010 5/10 証券市場プログラム(SMP) 3カ月、6カ月の長期オペを全額落札。
5/10 ドルスワップ 7日と84日のドル資金供給(BOC、 BOE、 FR、 BOJ、
rNB)。
7/28 適格担保の要件強化 ヘアカット率、カテゴリーの見直し。
12/17 ポンドスワップ 100億ポンドのスワップ(BOE)。
2011 3/11 緊急オペb 全額落札の四半期オペ。
8/25 ポンドスワツプ延長 2012年9月28日まで。
9/15 新規ドルスワップ 年末越えの3回のドル供給(BOE、 FR、 BOJ、 SNB)。
10/6 カバードボンド購入 400億ユーロ。2012年10月まで。
(出所)ECB, Press・Re〜ease各号。
(注)国際協調に参加している各国の中央銀行は以下の通り。BOC l Bank of Canada、 BOE:Bank of England、
BOJ:Bank of Japan、 DN:Danmarks Nationalbank、 FR:Federal Reserve、 NB:Norges Bank、 RBA:Reserve Bank ofAustralia、 SNB:Swiss National Bank、 SR:Sveriges Riksbank
(a)このドルスワップは2010年12月21日に2011年8月1日まで、2011年6月29日に2012年8月1日まで延長さ れている。
(b)このあと、同年6月9日、8月4日、10月16日と期間四半期のオペ継続が発表されている。
ユーロの金融政策が直面する次の10年の課題
供給方法として、これまでに採られたことのない政策手段が導入された例も多い。表4はユーロシ ステムが2008年から2011年にかけて行った政策であるが、利上げ、利下げといった通常の政策は 割愛してある。ユーロシステムは定期的な公開市場操作を行ってきたが、2008年以降は公開市場操 作のペース、入札、方式など様々な点で通常期とは異なった政策を導入している。それだけでなく、
カバードボンドや国債の買い入れなど非伝統的手段も用いている。
表4からユーロシステムの危機対策は4つに大別できる。第一は、毎週定期的に行われる期間1 週間の主要オペの修正である。変動金利方式から固定金利方式への変更と全額落札方式への移行に より、充分な流動性供給を図っている。第二は、期間3カ月であった長期オペの修正である。長期 オペの期間を拡大したり、全額落札方式を導入したりしている。これらのオペをさらに円滑に進め るために、資金供給と引き換えに差し出す適格担保の要件を緩和している。第三は、外貨の供給で ある。現在はドルとポンドの供給を行っている。第四は、カバードボンドやギリシャなどの国債買 い入れなどこれまで購入してこなかった金融商品の購入である。ここから見ても分かるように、こ れらの政策はすべて流動性の確保に重点が置かれており、景気支援とは言えない。ただし、ギリ シャなどの国債の買い入れは、流動性の確保というよりはむしろ、ギリシャなど加盟国への直接的 支援といえる政策である。なぜなら、流動性の確保はすでに全額落札オペで十分に達成されており、
金融政策の視点からはギリシャ国債の価格支持を行う理由は全くないためである。EU加盟国政府 への直接支援はEU条約に反するだけでなく、事実一ヒの政府貸し付けであるためECB定款にも反す る行為である。現時点では金融危機に関心が集中していてこの点の議論は少ないが17、ユーロシス テムの中央銀行としての信認に大きな問題を残す政策となるだろう。
表4からは、ユーロシステムが例外的な政策をできるだけ早く終わらせようと苦心していること も分かる。主要オペの修正やドルスワップなどは期限を切って実行しており、ドル供給は一度終了 している。しかし、新たな局面に対応するために、期間の延長を迫られており、出口が見えてこな い状況に追い込まれている。
ここで、これらの非伝統的な政策の是非を考えなければならない。表4では省略しているがユー ロシステムはユーロ導入後最低水準の1.00%にまで十分な利下げを行っている。この利下げと流動 性供給の関係はどのようにとらえるべきであろうか。
その前に、通常の金融政策と危機時の金融政策を分けて考えなければならないことに留意する必 要がある19。通常期には、金融政策ストラテジーの中の金融政策運営が前面に出てきている。短期
17 ドイツ出身のシュタルクECB専務理事は、この点を問題視して2011年に専務理事を辞任した。
18 川野(2009)やECB(2010)など、2つの金融政策を分けるべきとの主張がある。その他には、 Goodfriend (2009)は金融政策を金融政策(monetary policy)、貸出政策(credit policy)、金利政策(interest rate policy)
の3つに分けることを提案している。
金融rl∫場を相手にした政策としては実施面、戦術レベルの政策があるが、 EONIAの安定的な推移を 実現させるべく様々な政策手段を組み合わせて運営している。しかし、危機時には、金融システム 運営の面が強くなる。決済システムの崩壊やシステミックリスクを防ぐための十分な流動性の供給 が必要となり、その一環として大幅な利下げが行われる。ごく短い間に連の政策が実施されるが、
これは将来のインフレリスクによって決定されているわけではない19。このように、中央銀行が流 動性を管理するという ・見同じに見える政策でも、その目的は大きく異なっているのである。
金融政策をいくつかの局面に分けて考えるべきだということは、今後、多くの研究者の同意を得 られるだろう。しかし、この点に関してさらに踏み込んだ議論が必要であり、ここでは2つの論点 をあげてみたい。
第一は、十分な流動性を確保するために超低金利状態にする必要はあるのか、ということである。
日本やアメリカでは事実上のゼロ金利政策、イギリスも0.50%、ユーロシステムは1.00%と先進各 国は超低金利状態を続けている。金融機関の資金調達コストを下げて、資金を得やすくする対策は ある程度は必要であろうが、適格担保の範囲を広げる、オペの回数や金額を増やすといったことで も流動性の供給は可能である。
第1は、危機時の政策はどの程度の期間続けるべきか、ということである。現在の危機時の政策 は超低金利と流動性の十分な供給がセットになっている。これにより、金融機関の資金調達は容易 になっている。この状態から通常時の政策に戻す過程で、金融機関だけでなく多くの経済主体が引 き締め政策だと感じるかもしれない。適切な時期に適切なテンポで政策の切り替えをするのは容易 ではない。
この2つの問題からは共通する副作用が生まれている。それは過剰流動性である。金融危機が生 じた後、経済は不況期に突入している。その中で大幅な流動性が供給されると、資金がだぶつくこ とになる。だぶついた資金は収益機会を求めて様々なものに投資されることになるが、設備投資の ような成長率を高める投資が行われる可能性は高くない。不況期には企業の売りEげ見通しが悲観 的になっているため、積極的に投資を行うインセンティブが乏しいためである。よって、資金は金 融投資に向かいやすくなる。21世紀に入ってからは、証券化商品市場や商品市場に資金が入り、こ れらの金融商品の価格が乱高下している。2012年現在でも、日本やアメリカの金融緩和により商品 市場に資金が流れ込み、貴金属や一一部の穀物価格の高騰が危惧されている。
ユーロシステムの発足以降、原油をはじめとする一次産品の価格騰落が激しく、それが 次効果
192011年末に実施された2回の利下げは、インフレ率が目標の2%を大きく上回る中で実施された。ドラギ総 裁は2012年のインフレ率が低下するからだと説明しているが(ECB Press Release,2011−11−3)、農産物価格 などの高騰がユーロ地域のインフレを高めるロ∫能性があり、この説明は得心しがたい。インフレ抑制より も金融システム運営の面が強かったと考えることもできるが、景気支援だと考えることもできる。
ユーロの金融政策が直面する次の10年の課題
だけでなく二次効果も含めた物価の変動に大きな影響を与えている。それぞれの期の後半には金融 危機が発生し、世界同時利下げに追い込まれている。世界同時利下げが過剰流動性を生み、新たな 危機の火種となるというサイクルを2度描いている。特に、低利の先進国通貨を借り入れて商品市 場で運用するいわゆる「キャリー取引」が発生し、これが大幅なインフレにつながって引き締め政 策を必要とさせており、大幅な引き締めと大幅な緩和が繰り返される事態となっている。このよう な金融政策が、景気や市場の振幅の原因の一つになっている可能性もある。適度な利下げと十分で 適切な期間の流動性供給という組み合わせをいかに実現すべきか、今後の研究が必要である。
5.むすび
本稿では、ユーロシステムの金融政策を振り返りながら、ユーロシステムが直面するいくつかの 問題を取りヒげた。複数の国に対して1つの金融政策を行うユーロシステムならではの問題もある が、多くの中央銀行に共通する問題もある。特に、危機時の金融政策の確立がこれからのユーロシ ステムにとって重要な課題となるだろう。
ここでは、金融政策を分析する研究者にとっての課題を一点述べて終わりとしたい。それは金融 政策のルールに関する課題である。
「ルールか裁量か」という命題以降、金融政策ルールに関して多くの議論がなされてきた。裁量 的な政策は動学的非整合性を生むため、ルールに基づく政策よりも長期的なインフレ率を高めてし まうという議論は多くの成果を生んだ。インフレに対してより慎重な姿勢を見せる中央銀行に政策 をゆだねるべきだという主張Z{]は、中央銀行の独立性を高めるのに大いに役立った。また、ルール を公衆にとってよりわかりやすい形にする試みからインフターゲティングの仕組みが整えられた。
インフレターゲティングを最初に導入したのは、1989年のニュージーランド準備銀行であったが、
その後、多くの中央銀行でもインフレターゲティングが採用されている。インフレターゲティング のもう つの貢献は、情報政策の重要性を確立したことである。それまでは、中央銀行はあえて情 報を出さないようにし、いわば神秘性によって信認を獲得していた。インフレターゲティングでは 将来のインフレリスクについての情報公開が重要な要素を占めていたため、情報の適切な公開とい
う新たなタスクが中央銀行に加わった。
金融政策の分析においては、さらに分析が容易なルールに対する需要が高まり、様々な金融政策 ルールが提唱された。その中でも、テイラールールは内容のシンプルさもあって人日に檜灸してい る。テイラールールとは、インフレロ標とGDP成長率目標と実際の1直のギャップから政策金利の 水準が決まるというもので、簡単な推計によって評価することができる。しかし、このようなルー
20 Rogot t (1985)はこのような中央銀行を「保守的な中央銀行」と呼んだ。
ルは金融政策の分析には向いていない21。図4を用いながら考えてみよう。テイラールールでは過 去の統計データを利用して推定を行い、これまでの政策の分析や今後の見通しを得る。図4の太線 が実際の政策金利の推移、細線が推定した政策金利の推移を表している。推定はまずまずうまく いっており、よくフィットしているように見える。
しかし、過去のデータによる推定には2つの問題がある。まずは、これまでの実績が正しい政策 の結果かどうかということである。推定には、(短期金利で代用される)政策金利やインフレ率、
GDPや場合によってはいくつかの外生変数や操作変数などの過去の値が用いられる。この場合、
少なくとも推定期間の大部分で正しい金融政策が行われたという前提が無ければ推定する意味がな い。これまでの実績について妥当性を逐一 議論したうえで推定を行わなければならないが、誤った 政策が含まれていたときに、推定をどうやって行うのか考えなければならない。もう1つの問題は、
本稿で見たように通常期と危機時の金融政策は別々の視点から行われているのに、推定ではそれら が混在していることである。図4の網掛けの部分は金融危機に対応するため、政策金利が短期間に 大幅に下げられている。この期間は将来のインフレやGDPの見通しなどの金融政策運営の面で政 策金利が決められたのではなく、流動性の確保のため、つまり金融システム運営の面で決められて いる。この2つの期間を混在させた推定には意味がない。この問題に対処するために2つの時期を 切り離して別々に推定しようとしても、それぞれの期の初めと終わりのデータの連続性の問題やラ
図4 テイラールールの問題点
21ユーロシステムの金融政策の目標は物価安定の維持であり、それが達成されているときのみ景気支援が可 能であるという明確な順序を持っているため、2つの目標を並立してウエイトの可変性で推定するテイラ ールールはユーロシステムには適用できない。
ユーロの金融政策が直面する次の10年の課題
グの問題がある。2つの異なる政策を1つの式で評価しようとしても、有用な推定結果を得ること ができないのである。
このような問題に直面して、我々は金融政策の評価について単純なモデルから脱して新たな視点 を築かなければならない。これこそが研究者に課せられた最も重要な今後の課題となるだろう。
参考文献
川野祐司(2003)「ユーロエリアにおける金利の期間構造」『日本Eu学会年報』第23号、 pp.162−184。
(2007)『最適通貨圏としてのユーロエリア』三菱経済研究所。
(2009)「ヨーロッパ経済回復への道」拓殖大学海外事情研究所『海外事情』2009年6月号、pp.40−56.
(2010)「ユーロの金融政策」高屋定美編著『EU経済』ミネルヴァ書房、 pp.123−150.
(2011)「ユーロ地域の収敏は進んでいるか」『経済論集』東洋大学、pp.125−141.
白川方明(2009)「金融政策の実践と金融システム1思考様式を巡る変遷」『金融研究』第28巻第3号、日本銀 行金融研究所、pp.21−26。
Borio, C,(1997) The lmplementation of Monetary Policy in Industrial Countries;A Survey. BIS Economic Papers. NO.
47.
ECB(2010) The ECB s Monetary Policy Stance During the Financia|Crisis, ECB Mc)nth!y Bu//etin, January−2010, pp,
63−71.
Goodfriend, M.(2009) Central Banking in the Credit Turmoil:An Assessment of Federal Reserve Practice, 垂≠垂?
presented at the 20091nternationa/Conference on Financial SVstem and Monetar.}・ Policv Implementation held at the lnstitute.for MonetarP・and Econo〃nic Studies、 Bank ofJapan、2009.
Rogoff, K.(1985) The Optimal Degree ot Commitment to an Intermediate Monetary Target, ρuarter!y Journal of Economics、 voL100、 no.4.